【ハラレIDN=ジェフリー・モヨ】
色落ちしたズボンにシャツを着て、当て布や穴の目立つ古い靴を履いたジェミティウス・シマンゴ(38)さんは、ジンバブエの首都の第一通りをとぼとぼ歩いていた。空のペットボトルを入れた大きな袋を背負い、カネになりそうなものを求めてはゴミ箱をあさっている。
シマンゴさんは、ジンバブエのハラレ工業大学でマーケティングの学士号を取得している。一見すると奇人に見られがちであるが、経済状況が悪化し続けるジンバブエでなんとか生計を立てていこうと「働いている」普通の人物なのである。シマンゴさんのように、多くの人々が、職にありつけず、生活のために様々な単純労働の仕事に就くようになっている。
ジンバブエは雇用創出に逆行する経済政策をとりつづけており、シマンゴさんは、まともな仕事に就くことができず、貧困のスパイラルに耐え続けている。こうした状況は、全ての人にとっての包摂的で持続可能な経済と、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を促進するという、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第8目標に反している。
ジンバブエの失業率は90%近くに高止まりしており、企業倒産が相次ぎ多くの人々が正規雇用から外される中、持続可能な経済成長はこの国にとってあまりに困難な課題であるかに思える。
ジンバブエの国家社会保障局(NSSA)雇用者倒産・登録報告書(2011年7月~13年7月に関するもの)によると、同国の首都ハラレで711の企業が倒産し、8000人以上が仕事を失ったという。
シマンゴさんのように経済的に打撃をうけた多くのジンバブエ人にとっては、まともな雇用は過去のものとなってしまった。シマンゴ氏はIDNの取材に対して、「この国では、政府が全ての人々にとってのまともな仕事を創出しているどころか、むしろあらゆることが、持続可能な経済成長を促進するという国連の目標に反しているように思えます。」と語った。
「持続可能な社会・経済転換のためのジンバブエのアジェンダ」(略称「ジムアセット」)という、同国経済復活のために大いに宣伝されている戦略が打ち出されてはいても、持続可能な経済成長促進のための戦いにおいて、歩みを止めている猶予はなさそうだ。
ジムアセットは、2013年、与党「ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線」によって策定された。同国に豊富な人的資源・天然資源の利用を通じて持続可能な開発を達成しようともくろむものだが、戦略に沿った実際の行動が伴わないために、持続可能な経済成長を促進する効果を示していない。
ジンバブエの野党「民主変革運動」の影の財務大臣であるタピワ・マシャカダ氏は、「ジムアセットには財源が不足しており、しかも、国際金融機関からの支援もありません。」と語った。
その結果、シマンゴさんのように多くの人々が、昏睡状態にあるジンバブエ経済の中で必死に生きていく術を模索せざるを得なくなっている。「リサイクルのために空のペットボトルを集める他に、生活のためにあらゆる単純労働に従事しています。妻は、首都で露天商をしていますが、学校に通っている子どもたちも放課後になると母親を手伝っています」とシマンゴ氏はIDNの取材に対して語った。
しかし、ジンバブエは、アフリカ南部地域で持続可能な経済成長促進に関して困難に直面している唯一の国ではない。例えば、南アフリカ統計局によると、同国の人口5200万人のうち、失業率が約27%で高止まりしている。ザンビアでは、人口1500万人のうち14%が失業しており、この対応に追われている。
実際、南部アフリカ地域全体が、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に関して岐路に立っている。アフリカ大陸でもっとも失業率が高いのは南部アフリカ地域であり、青年女性の51%、青年男性の43%が失業している。
今年5月、ジンバブエのパトリック・チナマサ財務経済開発相が記者らに対して、2年計画の貧困削減戦略を策定中であると語った。これは、「短期から中期的に実行可能な、対象を絞り込んだ実践的な措置に焦点を当て、市民の生活向上を保証する長期的な影響を持つもの」であるという。
前年にエルニーニョによって引き起こされた干ばつにより悪化した貧困問題に対処するうえで、農業がカギを握る分野だとされている。
しかし、それ以前にも、16年前にロバート・ムガベ政権が行なった、大混乱を招いた農地改革(政府が白人所有の大農場を強制収容し農業知識が乏しい黒人支持者に再分配した)のために、既に国内の貧困率は急速に高まっていた。
この農地改革の結果、大部分の土地で生産性が低下した。「暫定貧困削減戦略ペーパー」(IPRSP)の全国コーディネーターであるジェシメン・チピカ博士は、悪化する貧困レベルの原因は、農業部門の低生産性にあるとみている。
「貧困層の数は国内で増え続けており、農業の生産性が低いために多くの人々が食料不足を経験しています。」とチピカ博士はIDNの取材に対して語った。
ジンバブエ労働社会福祉省によれば、約700万人の農村住民が貧困に喘いでいるが、チナマサ経済開発相は、その農業こそが経済的突破の基盤になるものと目している。
「農業の変革は、その他の経済部門に対しても良い影響をもたらします。人口の75%が農業に依存している中、まさに農業こそが人々の生活を成り立たせているのです。」とチナマサ氏はIDNの取材に対して語った。
ジンバブエの人口はおよそ1300万人であり、そのうち67%が農村地帯に暮らしている。
ジンバブエの貧困の原因は政府内部の腐敗にあると長らく指摘されてきた。市民社会の活動家らは、国連の持続可能な経済成長の目標を達成するとのジンバブエ政府による公約の成功いかんは、政府のトップレベルにおける腐敗根絶の決意にかかっている、と指摘した。
「コーポレートガバナンスの欠如は、人心を離れさせ、国際資本の呼び込みを緊急に必要とするジンバブエ経済にとっても破滅的と言わざるを得ません。」と、青年ロビー団体である「青年対話アクションネットワーク」のプログラムオフィサーであるオーウェン・ドゥリワヨ氏は語った。
一方で、ジンバブエの民間エコノミストによれば、ムガベ大統領が問題の多い経済政策にこだわっていることも、低調な経済の原因であると考えられるという。
これらのことが原因となって、全ての人にとっての包摂的で持続可能な経済と、まともな労働を促進するという、国連SDGsの達成に関して同国が遅れを取ることになっていると彼らは述べている。
「(ムガベ)政権が追求している自立化政策がきわめて破壊的であることを理解しつつも、ムガベ大統領は地元の黒人ジンバブエ国民が外国人所有の企業を収用するよう一貫して呼びかけており、投資家の逃避という結果を招いています。」と民間エコノミストのキングストン・ニャクルクワ氏はIDNの取材に対して語った。
ジンバブエの「現地化・経済エンパワーメント法」は、外国企業の51%は黒人ジンバブエ国民に移譲されなくてはならないと定めており、シマンゴさんのような多くの人々は、この政策のために自分たちの失業状態が長引いていると考えている。
「自立化政策によって海外投資家がジンバブエから遠ざかり、私たちにとっては失業が続くことになるのです。」とシマンゴさんは語った。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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