特集:地方分権のゆくえ
■論文
「第二次地方分権改革に何が問われているのか」
新藤宗幸(千葉大学法経学部教授)
■議員に聞く
逢坂誠二(衆議院議員)
■解説
地方交付税改革
■咢堂政経懇話会
「日本の課題と展望」
片山虎之助(参議院自由民主党幹事長)
■IPS特約
市場取引は森林破壊を防げるか?

日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。
■論文
「第二次地方分権改革に何が問われているのか」
新藤宗幸(千葉大学法経学部教授)
■議員に聞く
逢坂誠二(衆議院議員)
■解説
地方交付税改革
■咢堂政経懇話会
「日本の課題と展望」
片山虎之助(参議院自由民主党幹事長)
■IPS特約
市場取引は森林破壊を防げるか?

【サンティアゴIPS=グスタヴォ・ゴンザレス】
20世紀のチリの独裁者ピノチェトは10日午後、裁きを受けることなく心不全のため陸軍病院で死去した。人々には人権侵害と汚職にまみれた政治家という記憶だけが残ることとなった。
91歳で亡くなったピノチェトは人権侵害で4件、汚職裁判で2件の被告となっていた。選挙で選出された社会主義のアジェンデ政権を崩壊させた1973年9月11日のクーデターにおいて、ピノチェトは追従しながら、狡猾に立ち回った。
その後17年間にわたり鉄拳で国を支配し、死亡・行方不明者は3,000人、拷問を受けたのは少なくとも3万5,000人、亡命者は80万人に上る。
ピノチェトは決して罪を認めようとはしなかった。秘密警察最高幹部としてコンドル作戦を実行したマヌエル・コントレラスは、ピノチェトは人権侵害の罪をかぶった側近に不実であると非難している。
権力掌握以来、ネオリベラルな自由主義経済を取り入れ、社会保障、医療、教育を民営化し、軍に保護された独裁政権を守る憲法体制を作り上げた。このメカニズムと健康の理由で訴追を免れ続けたピノチェトも、ようやく法廷に向き合わなければならないところであった。
10日になくなったアウグスト・ピノチェト前大統領が国民に残した傷について報告する。
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩
関連記事:
|アルゼンチン|司法がコンドルを捕らえる
【ワシントンIPS=ジム・ローブ】
米ブッシュ政権が、内戦の進行するソマリアに「平和支援」軍を投入し、1992年以来実行されているソマリアへの武器禁輸措置をこの軍隊に対してのみ緩和するという内容の国連安保理決議案を成立させようとしている。
しかし、ソマリア暫定連邦政府(TFG)を実質的に支援することを目的としたこの軍隊派遣には、同国をほぼ実効支配しているイスラム法廷連合(ICU)が強く反対している。
この決議案は、もともと2年前にアフリカ連合(AU)等が提案していたものであったが、昨夏にICUが諸軍閥を破って支配的な勢力になるにつれ、米国がこれに関心を示したものである。
だが、米議会調査局(CRS)の東アフリカ問題専門家Ted Dagne氏は、軍隊が派遣されれば戦闘はむしろ激化すると指摘する。また、TFGが暫定首都のバイドア以外を支配できていない状況の下では、ICUを巻き込んだ和平交渉をやらない限り意味がないと語る。
TFGはソマリア国民に反感を持たれている。なぜなら、TFGが、イスラム勢力を敵視する隣国エチオピアの代理人だと見られているからだ。一説には、エチオピアはすでに自国軍2,000~8,000人をソマリアに投入している。
これに対抗して、エリトリアもICU支援のための軍隊を投入しており、ソマリア内戦は、エチオピア・エリトリアの代理戦争の様相も呈している。国連が11月頭に出したレポートによれば、92年に始まったソマリアへの武器禁輸のルールを、エチオピア・エリトリア両国を含む10カ国が破っているという。
昨夏にICUが勝利を収めて以来、ICUとTFGとの間で何度か和平交渉が持たれているが、ほとんど進展はない。次は12月15日に交渉が予定されている。
交渉がうまくいかないひとつの理由は、米国の強硬な姿勢である。とくに、国務省のアフリカ担当、ジェンデイ・フレイザー次官補が対ICU強硬論を主張している。ICUはアルカイダとつながりを持っている、というのが強硬派の主張のひとつだ。
ソマリア内戦への国際社会の対応について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan
関連記事:
ソマリアから脱出するジャーナリスト
【バンコクIPS=マルワン・マカン・マルカール】
長年にわたり軍事政権下で苦しむビルマの国民に、命にかかわる3大感染症対策のための新たな援助基金が供給されることとなった。この基金により、国際社会と秘密主義の軍事政府との関与が深まるとの期待が寄せられている。
なによりもまず、エイズ、結核およびマラ3リア対策のための1億ドルのこの基金「3疾病基金」により、「ビルマへの人道援助は問題の多いこの東南アジアの国の政治とは切り離すべき」との一部西側諸国政府間で広がっている考えが試されることになる。
国連の監督の下、来年初頭から実施に移される基金には、欧州連合、オーストラリア、英国、オランダ、ノルウェーおよびスウェーデンが支援を寄せている。基金は、ビルマ政府が規制を課したことから2005年8月に9,840万ドル相当の活動が停止に追い込まれた世界エイズ・マラリア・結核対策基金(世界基金)の撤退後の空白を埋めることとなる。
「人道上の理由から、国際社会はビルマ人民の窮状を無視できない」と欧州委員会のビルマ外交代表のフリードリッヒ・ハンブルガー氏はIPSの取材に応え電子メールで伝えてきた。「十分に計画を練れば人道支援も貧困者や恵まれない立場にある人々のもとに必ず届くと確信している」と述べた。
欧州は、3疾病基金に対しては規制や妨害を受けないとの確約をビルマ(軍事政権はミャンマーと称する)から得ている、とハンブルガー氏は次のように言い添えた。「私たちは、政府の関連当局から、重要な資源がそれらをもっとも必要としている人々のもとに届くよう、また効率的に届けられるよう条件を整備するとの約束を取り付けている」
3疾病基金は、また、先週ビルマのKyaw Myint保健相と国連プロジェクトサービス機関高官の間で交わされた覚書に盛り込まれた特別条項によって、世界基金よりも前進を図ることができると期待されている。
「作業を進めるための全般的な政治的枠組みを整えた。大きな相違点のひとつとして、今回の取り組みでは『3疾病基金』を通じてプログラムを実施する事業者に対し郡区レベルでの医療制度との連携が義務付けられている」と国連のビルマ担当調整官のチャールズ・ペトリー氏はラングーンから電話で取材に応えて述べた。「実際に地元の医療当局と協力して活動しなければならない」
報道によれば、覚書は、民族紛争下にある国境付近の地域も含め、基金の監視に当たる担当官にはビルマ全土へのアクセスも保証している。ジュネーブに本拠を置く世界基金の場合はこれほど恵まれた状況にはなかった。ビルマ政府は農村地域で世界基金の一部プログラムに取り組むNGOに対して厳しい移動制限を課していた。他の人道救援組織にも同様の規制が課せられ、フランスに本拠を置く国境なき医師団(MSF)など一部組織は今年初め撤退を余儀なくされた。
エイズ、結核およびマラリアの感染率が地域の中でももっとも高い国のひとつであるビルマへの新たな基金供与に対しては、世界基金の撤退に大きな打撃を受けた地元コミュニティと協力する国際人道援助組織からも期待が寄せられている。
ワールドビジョン・ビルマ事務所のHIVプログラム顧問キー・ミン博士はIPSの取材に応えて、「(3疾病基金)は抗HIV療法や必須医薬品で結核、マラリアの治療を受けている人々のニーズを満たすだろう。こうした病気に苦しむ人々にも生きる希望が出てきた」と述べた。
実際、キリスト教精神に基づく国際救援機関であるワールド・ビジョンは、世界基金が抗議して撤退してから、HIVプログラムの財源削減に苦しんでいるNGOのひとつである。なかでも、ビルマ西部のエーヤワディ管区とチン州のHIV陽性者を対象とした在宅ケア・プログラムおよびカウンセリング・サービスが財政難にある。
キー・ミン博士は、「ちょうどプログラムを開始したばかりのところで、資金の拠出が停止されてしまった。プログラムは潜在的移民と一般住民を対象とし、受益者は15万人にのぼるだろうと推定していた」と説明した。
地元草の根の取り組みを強化するため無償資金協力の対象としている120カ国以上の開発途上国のひとつに世界基金がビルマを選んだことは、命に関わる3大感染症の蔓延を考えると時宜を得たものだった。世界基金が撤退という前例のない措置をとってから1年、ビルマの医療情勢に改善は見られていないとさまざまな報告は伝えている。
国連エイズ合同計画(UNAIDS)その他保健機関によれば、人口5,000万のビルマのHIV感染率は東南アジアで一番高く、成人感染率は1.3~2.2%、HIV陽性者は36~61万人にのぼる。
加えて、ニューヨークに本拠を置くシンクタンク、外交問題評議会は、2005年の調査報告書で、ビルマは、西はカザフスタンから東はベトナム南部までの広域におけるあらゆる変種のHIVの蔓延源になっていると明らかにしている。
結核についても状況は同様に厳しい。ビルマの年間新規感染者数は9万7,000人にのぼり、世界保健機関(WHO)の統計では、結核罹患率がもっとも高い22カ国の中に入っている。ジュネーブに本拠を置くWHOが現在直面している厄介な問題は、多剤耐性結核(MDRTB)の流行である。ビルマでは、新規感染率が4%と、5.3%の中国に次ぐ東アジア第2位の深刻な状況となっている。
マラリアも感染が広がっており、昨年WHOが実施した調査によれば、2003年に71万6,000症例と、アジアでもっとも深刻な国のひとつとなっている。2001年には66万1,463症例であった。
しかしこうした深刻な状況にあっても軍事政権は強硬な姿勢を崩しておらず、ビルマの少数民族が暮らす地域の感染症の影響を受けやすいコミュニティに対する保健プログラムの提供を認めていない、と野党グループは述べている。彼らは、感染症に苦しむ人々に希望と救いを提供する保健活動の取り組みをビルマ政府がいかに阻害しているかを示すものとして、依然実施されている移動制限を指摘する。
1991年に軍事政権によって禁止された政党「新社会のための民主党」の外交担当広報官ゾー・ミン氏は、「NGOや人道援助機関の国境地帯への移動を阻止するための移動制限が依然として実施されている」と語っている。
ミン氏は、「『3疾病基金』が自由に活動するには地元パートナーが必要だ。しかし軍事政権は、コミュニティに基盤を置く地域社会組織(CBO)は住民の政治意識を高めることになる懸念があるとして、CBOをおそれている」と取材に応えて説明した。「最近、(野党)NLD(国民民主連盟)との政治的提携関係を理由に、HVI/AIDS活動家が逮捕された」(原文へ)
翻訳=IPS Japan
■論文
「人生百年を支える政策と社会」
樋口恵子(東京家政大学名誉教授)
■論文「少子化する高齢社会の政治課題」
金子勇(北海道大学院教授)
■論文
「これからの子育て支援策と求められる政治の決断」
橘秀徳(衆議院議員政策秘書)
■議員に聞く
野田聖子(衆議院議員)
■IPS特約
汚い水で毎日4000人の子どもが死亡

【北京IPS=アントアネタ・ベツロヴァ】
アフリカの腐敗した政権を支援していると非難されながらも、豊富な資源を持つアフリカ大陸からの石油や原材料の輸入を推進している中国が、アフリカとの取引を正当化する大規模な外交フォーラムを主催している。
今週開催される2日間の北京首脳会議には、アフリカの48カ国から指導者や政府関係者が出席する予定で、この会議はアフリカの後援者としての中国の役割を強調する意味合いを持つ。中国政府は外交上の得点を稼ぎ、貿易の機会を得ながら、中国の開発モデルと対外政策信条を広めようとしている。
「今回の会議は中国とアフリカの歴史における画期的な出来事だ」と、中国外交部のXu Jinghuアフリカ局長はマスコミに対して11月3~5日の会議について述べた。
このフォーラムは正式には中国とアフリカの通商50周年を祝ったものだが、2国間貿易の急成長と協力関係の強化は過去6年ほどのものであり、それが会議の背景となっている。
増え続ける原材料の需要に後押しされ、中国はアフリカに重要な存在感を築き上げ、昨年末までに67億2,000万ドルの投資を行い、港、鉄道、道路、ダムを建設してきた。長期低利貸付と多額の援助金によって、急成長する中国経済のために、アフリカの石油や貴金属などの天然資源を確保してきた。
中国は昨年3,800万トンの石油をアフリカから輸入したが、これは中国の石油の総輸入量の30%に達している。2国間貿易は2000年の100億ドルから昨年には400億ドルへと急激に増大している。
だがこのとどまるところを知らない貿易拡大は、スーダンのような国の人権侵害を見逃しているとして非難され、「新植民地主義」の勢力だと表現して批判するものもいる。
中国はスーダン最大の投資国として、さらに重要な石油の取引先として、戦火で疲弊した国の暴力的な政権に制裁を加えようとする国連の努力を妨げようとしてきた。
8月には、9月30日に委託任務が終了するアフリカ連合からダルフールにおける平和維持の任務を国連が継承するのを認める国連決議の投票を、中国政府は棄権した。
中国のスーダンへの関与が、過去3年間に20万人の命を奪った虐殺をやめさせようとする国際的な取り組みを妨害しているという非難を、中国は退けている。それに反論して、中国政府は内政不干渉の外交方針を守り、自決権を尊重していると主張する。
中国商務省の魏建国次官は「中国の投資がアフリカの経済成長と雇用拡大、生活水準の向上に貢献している」と先週記者団に語った。「中国からの投資は地方の人々に恩恵をもたらし、歓迎されている」。
アフリカ大陸における中国の関与を評価する際に、中国を新植民地主義と非難することは、「冷戦時の思考方法」だと、中国社会科学院の国際問題専門家Shen Jiruは主張し、中国が最近100億元の元建て外債を減免したことを指摘して、「これが植民地主義といえるだろうか」という。
だが世界銀行や国際通貨基金などの多国間機関は、最近債務免除を受けた貧困国への中国からの債務が、再びこうした国を苦しめることになるのを懸念している。
この点に関して正当性を主張するよりも、中国政府は中国・アフリカ首脳会議が、アフリカの指導者に中国政府への支持をじかに表明する公的なフォーラムの場となることを期待している。
「われわれは何も失うものはない。帝国主義者の鎖から解き放たれたいだけだ」とジンバブエのロバート・ムガベ大統領が語ったと、新華社通信は伝えている。
これだけ多くのアフリカの指導者が一堂に会する機会は、中国が開催した初めての大規模なイベントであり、外交的な成功だと中国は見なしている。アフリカ連合の53カ国のうち5カ国は中国と外交関係を持たずに台湾との関係を維持しているが、オブザーバーを派遣するように招待された。
北京にある中国メディア大学のXu Tiebing教授によると、この会議は、中国とアフリカの48カ国との国連で互いを支持するという「暗黙の了解」を確固たるものにするだろう。
「国際的な舞台におけるアフリカ諸国の支援は、特に国連において、中国にとって重要である」と同教授はいう。
中国は、2,300万人が住む台湾は中国の領土であり、台湾が正式に独立を宣言すれば武力によって併合すると明言している。過去5年間に中国は金銭的誘引と外交的手段でアフリカの台湾同盟国に対して同盟関係を中国政府に切り替えるように説得してきた。
2000年に第1回の中国・アフリカ協力フォーラムの首脳会議を北京で主催して以来、アフリカの台湾との外交同盟国の数は8カ国から5カ国に減った。その5カ国とは、ブルキナファソ、スワジランド、マラウィ、ガンビア、サントメ・プリンシペである。
「国際的な影響力が増大していることから、中国はこの利害の戦いの勝利者になりつつある」と中国社会科学院のアフリカ専門家He Wenpingはいう。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
関連記事:
アフリカ、中国への称賛と警戒
【ドゥシャンベIPS=ロクサナ・サベリ】
6日に行われるタジキスタンの大統領選では、1992年以来政権を維持しているエモマリ・ラフモノフ大統領の圧倒的勝利が予想される。
反対派は、同大統領が独立系メディアに圧力を加え、反対派リーダーを投獄したと批判している。また、2大野党は、不正選挙を理由に投票不参加を表明している。しかし、これらの批判にも拘らず、多くの市民はラフモノフ氏以外にタジキスタンの安定を維持できる者はいないとして、同氏を支持している。
タジキスタンは、91年にソ連から独立。その後始まった内戦は、ラフモノフ氏が、中央アジアで唯一の合法イスラム政党でありタジキスタンの最大野党であるIslamic Revival Party(イスラム復活党:IRP)を含む「統一タジク反対軍」(United Tajik Opposition)に政治勢力の30%を認める和平協定を結んだことで1997年に終結した。
市民の最大要求は、経済の発展である。世界銀行によると、タジキスタン市民の64%が1日2.15ドル以下で生活しているという。また、エコノミストの情報では、約650万人がロシアを始めとする国外に出稼ぎに行き、母国の家族に送金しているという。同国の経済は、主要輸出品であるアルミ、綿花の価格値上がりにより幾分向上しているが、匿名希望のあるアナリストは「政府は、腐敗取締り、税収、海外投資誘致のための環境作りに努力する必要がある」と語っている。
海外専門家によれば、ラフモノフ大統領はまた国際舞台でも重要な役割を担うようになっているという。同政府は、米国に対しアフガニスタンへのアクセスのため領空通過権を認めた。また、米国務省によれば、両国は麻薬密売取締りおよびイスラム過激派の域内侵入阻止で協力していると発表している。
しかし、反対派は「ラフモノフ大統領は、国内批判を抑えるためテロおよびイスラム過激派の脅威を強調し過ぎる。行き過ぎると、貧しいタジキスタンの若者を過激化させることになりかねない」と批判している。現在、ラフモノフ氏は、2020年までの政権居残りを目指し憲法改正を画策している。現役大統領の再選が確実視されるタジキスタンの大統領選挙について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan
【ブルックリン、カナダIPS=ステファン・リーヒー】
熱帯林が二酸化炭素を蓄積し、地球温暖化を抑制する能力は、牧草地や材木としての価値より大きい。熱帯に位置する国々の森林保護のために、豊かな国々は資金を提供すべきだと世界銀行は論じる。
しかし、森林破壊の抑制も大切だが、いわゆる炭素取引制度は誤った取り組みであり、実施方法も複雑すぎると警鐘を鳴らす環境活動家もいる。
世界の熱帯林は1950年代より10年ごとに5%の割合で縮小している。過去5年間でフランスの面積に匹敵する5,000万ヘクタール以上の熱帯林が消滅した。森林破壊は生物多様性やエコシステムの破壊という悪影響を生むだけでなく、気候変動をもたらす温室効果ガス(GHGs)の人為的排出の主要因ともなる。
事実、森林破壊に由来するGHGs排出量は、世界中の陸上運輸に起因するGHGs排出量の2倍相当になっている。
10月23日に発表された世銀報告書の主執筆者ケネス・ショーミッツ(Kenneth Chomitz)氏はIPSの取材に応じ、「木を焼き払って生産性の低い畑に変えるよりも、そのまま残して炭素を蓄積させるほうが役に立つ」と語った。
「ブラジルの農場主が、大切なアマゾンの森林を1ヘクタール伐採して獲得する牧草地の価値は300ドル。木の焼却、腐敗の過程で大気中に排出される二酸化炭素は500トンに達する」
一方、ヨーロッパの炭素取引市場では炭素1トンに15ドルの値が付くので、この森林1ヘクタールは伐採せずに残せば7,500ドルの資産となる。
すなわち、二酸化炭素排出量の割り当てを守るために、ヨーロッパの産業界は二酸化炭素を1トン排出するたびに15ドルを支払って相殺する仕組みである。風力発電所は排出がゼロなので、炭素クレジットを販売することができる。
「件の農場主は300ドルの資産を手に入れるために、森林を伐採して7,500ドル相当の資産を破壊していることになる。地主や政府が炭素蓄積のある森林を保護すると補償を受けることができるような、賢明な策を講じなければならない」とショーミッツ氏は言う。
京都議定書による「クリーン開発メカニズム(CDM)」は、加盟国が削減割り当てを達成するにあたり、他地域で排出削減事業に資金を提供し、途上国の排出削減を支援することで排出量を相殺することを許可している。しかし、植林はCDMで認定されるが、森林破壊の防止は認められていない。
「植林の隣で熱帯林が切り倒されている。議定書がもたらす大きなゆがみだ」とショーミッツ氏。途上国は森林破壊を防ぐことで収入を得ることができれば、その資金で森林を保護し、やせた土地でより生産性の高い農業を奨励することができる。
世銀の報告書“At Loggerheads?”(『対立?』)によると、すでにコスタリカとパプアニューギニアが森林破壊抑制のために森林炭素クレジットのような奨励金の検討を国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change:UNFCCC)に要請している。
世銀は、2005年の炭素取引額を100億ドル、さらに南における継続可能な開発のためにこれ以上の新規金融をもたらす可能性があると見ている。
これは11月中旬にナイロビで開催される国連気候変動会議の大きな話題となるだろうとショーミッツ氏は言う。
議論は白熱することだろう。
サンフランシスコと東京に事務所を構える環境団体「熱帯林行動ネットワーク」で各国への資金提供を担当する活動家ビル・バークレー氏はIPSの取材に応じ「環境活動家が早くから工場での石炭利用に伴う『ブラウンカーボン(汚い炭素)』を森林の『グリーンカーボン(きれいな炭素)』と取引することには異議を唱えていたと指摘する。
「このような取引はすべきでない。全く別のものだから」とバークレー氏は言う。
化石燃料から排出される二酸化炭素には永続性があり、大気中に何百年も残留する。森林由来の炭素は原因もさまざま。森林火災、洪水、樹木の病気などで木が枯れることで炭素を大気中に排出する。
炭素取引市場を通じて森林保護の資金を提供するという考え方には魅力があるが、何十年にもわたって様々な熱帯林に蓄積される炭素を測定し、監視するシステムを構築することはとても困難な作業となろう。産業部門の排出を削減するほうが簡単で効果的だとバークレー氏は言う。
ショーミッツ氏もこのような問題があることは認めるが、GPSや衛星による観測で監視と実行は可能と確信している。
バークレー氏の主張は、安価な『グリーンカーボン』を購入して産業による排出量を相殺するのは、北の先進工業国にとって何も対策を講じなくて済む安易な方法だというもの。その資金は排出量を削減する新技術の開発に投資すべきである。森林は気候変動の脅威にさらされており、アマゾンの3分の1が消滅するという予測も複数ある。
「化石燃料による排出を抑えつつ、森林破壊を抑えていかなければならない。それなのに、どちらもうまくいっていない」とバークレー氏は指摘する。
世銀報告書は、森林保護のための炭素取引では貧困削減も考慮しなければならないとしている。
世銀の継続的開発担当のキャサリン・シエラ副総裁は「今こそ熱帯林がさらされるプレッシャーを緩和することが必要。そのためには総合的な枠組みを通じて継続可能な森林管理を気候変動の緩和と生物多様性の保護を目指す世界戦略に組み込むこと」と語っている。
バークレー氏は、森林破壊をもたらす大きな要因に世銀報告書が目をつぶっていると指摘する。その1つは、北の豊かな国々による安価な牛肉、大豆、木材などの生産物の消費。もう1つは、1990年代に世銀が行った融資。ヨーロッパの大豆市場の需要に応えるために大豆農家がアマゾンの熱帯雨林やサバンナに進出することを可能にした。
森林破壊で少数の人が大金を手にしているが、森林保護のための炭素取引の機構と技術が整えばこれに対抗できるとショーミッツ氏は反論する。先進国政府が基金に資金を拠出し、全体的な森林破壊率を削減できた政府に補償をあたえるなど、よりよい方法が考えられると言う。
「森林破壊の抑制は、生物多様性の保護、二酸化炭素排出量の削減など多くの利益をもたらす。」とするショーミッツ氏は、森林破壊の原因に対処することも問題解決には大切と付け加えた。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
【ブリュッセルIPS=アン・デ・ロン】
「国境無き医師団」(MSF)を始めとする16団体は、スイスの大手製薬企業Novartisが、インドのパテント法違反を理由に起こした裁判の行方に注目している。
発展途上国に対する低価格医薬品のアクセス拡大に努めるMFS基本薬剤アクセス・キャンペーン(Campaign for Access to Essential Medicines)のEllen‘t Hoen政策部長は、「Novartisが勝訴すれば、インドの低価格医薬品に頼っている世界の患者が犠牲になる。我々が40カ国以上で使用しているエイズ薬剤の84%はインドの製品で、安価故に現在6万人の治療が可能となっているのだが、パテント薬剤の使用が義務化されれば、その数は大幅に減るだろう」と語っている。
2005年現在、インドはWTOのTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)に拘束されることになったが、依然ジェネリック医薬品の最大メーカーの地位を維持している。(2005年まで、パテントは製造方法のみに認められ、製品自体には適用されなかったため、インド製薬会社は独自の製造方法を開発してジェネリック医薬品の製造を開始した。)
Novartisは、「インドはTRIPSに違反しており、我々は開発投資から利益を得る権利がある」と主張。同社スポークスマンは、「基本薬剤へのアクセスが問題となるのは承知しているが、NovartisはMSFに協力し、多額の医薬品を無料で提供している」と語っている。
今回の裁判は、インドの特許庁がNovartisの癌治療薬Gleevecの特許申請を「トリビアル改良」であるとして拒否したことから始まった。トリビアル改良とは、例えば灰のような味を取り除くなどの瑣末な改良のことで、ベルギー・ゲント大学のパテント専門家Sigrid Sterckx教授は、この様な改良は新たなパテント取得には値しないとしている。
Novatisは、これを不服としてGleevecだけでなく、インド政府、インドのジェネリック医薬品メーカー、癌患者グループを相手どりパテント法そのものに異議を唱える裁判を起こしたのである。MSFを始めとする16団体は、Novartisに訴訟の取り消しを求める公開状を発出した。それには、スイスのルース・ドレフュス元大統領も署名している。
Sterckx教授は、1998年に大手製薬会社が南アフリカのマンデラ政権を相手取り起こした訴訟に言及し、「彼らは過去の失敗から何も学んでいない」と語っている。(対南アフリカ訴訟は、結局2001年に撤回された。)大手製薬会社Novartisがインド政府を相手取って起こしたパテント訴訟について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan
関連記事:
世界保健機構がインド製のHIV治療薬を承認する
【マナグアIPS=ホセ・アダン・シルヴァ】
ニカラグアの議会は、10月23日、治療的流産を合法とする1893年の刑法第165条を廃止する法案を可決した。法案が大統領によって法制化されれば、治療的流産の手術を受ける者も施す者も4~8年の懲役刑を受けることになる。11月5日の大統領選を控え激化する選挙キャンペーンの最中に執り行われたこの決定に、医師、男女同権論者、活動家、外交官および保健相をも含む政府高官が一様に驚愕している。
治療的流産の非犯罪化運動を展開する「女性自立運動」のコーディネーター、フアナ・ヒメネス氏は、「女性の権利が中世の時代に逆戻りした」と述べている。
刑法は、治療的流産について、少なくとも医師3名の証明をもって母親の健康が危険な状態にあるまたはレイプによる妊娠であるために精神的苦痛を負う危険にある場合に妊娠の終了を手助けするものと定義していた。MAMによれば、ニカラグアでは年間800~1,000件の治療的流産が行われている。
ヒメネス氏は、10月初頭にカトリック教会および福音派教会の代表によって議会に提出された第165条の廃止を求める20万人の署名に言及し、「彼らは300万人以上のニカラグアの女性の命と引き換えに20万票を買った」と述べている。
ニカラグア産婦人科協会のアナ・マリア・ピサロ医師は、法律は「もっとも貧しい女性に対する犯罪であり、普遍的人権の侵害であり、憲法違反にほかならない」と述べている。
この法律により、ミレニアム開発目標のうちの2つの目標に掲げられている妊産婦と乳幼児の死亡率が増大することが懸念される。
国連のグリンスパン事務次長補をはじめ多くが、中絶はデリケートな問題であり、選挙戦の最中に議論すべきものではないとして、議会での議論の延期を求めていた。
ラテンアメリカ諸国医師会、国連諸機関、欧州連合、世界保健機構、全米保健機構、セーブ・ザ・チルドレン、国際女性保険連合、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどからも抗議の声が上がっている治療的流産禁止の決定について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩