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関税と混乱――トランプ貿易戦争がもたらした持続的な世界的影響

【メルボルンLondon Post=マジッド・カーン】

2025年4月、ドナルド・トランプ米大統領は、代表的な保護主義的貿易政策を再燃させ、第一次政権時に始まった貿易戦争をさらに激化させた。中国、欧州連合(EU)、カナダやメキシコなどの主要経済圏からの輸入品に対し、広範な関税を課すことで、米国の経済的利益を優先した国際貿易の再構築を目指している。政権はこの政策を米国の製造業再生、貿易不均衡の是正、知的財産の窃取や技術移転の強要といった「不公正な慣行」への対抗と位置づけたが、経済的影響はより複雑かつ広範に及んでいる。

トランプの関税政策は、2017年~21年の第一次政権時に施行された貿易戦争政策の延長線上にある。2018年には国家安全保障を名目に鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課す「セクション232」関税が導入された。また、貿易法301条に基づき、中国からの約3700億ドル相当の輸入品に懲罰的関税が課され、米中間の貿易緊張はかつてないほどに高まった。これらに加え、北米自由貿易協定(NAFTA)は再交渉され、より厳格な労働・自動車生産ルールを盛り込んだ「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」が締結された。

こうした政策は米国の産業保護を掲げたが、経済データはより複雑な現実を示している。ペン・ウォートン予算モデルによれば、これらの関税は米GDPを長期的に6%、賃金を5%減少させるとされており、中所得層の世帯では生涯収入で最大22000ドルの損失となる可能性がある。また、ワシントン D.C. に拠点を置く国際的な研究シンクタンクタックス・ファウンデーションの報告では、これらの関税は「隠れた税」として機能し、2025年には米世帯あたり平均1300ドルの追加支出を強いることになると予測している。

このコストはサプライチェーン全体に影響を与え、消費者物価を押し上げている。電子機器や車両、食料品に至るまで、物価上昇により米世帯は年平均3800ドルの支出増が見込まれている。関税実施前の駆け込み需要によって一時的に小売売上高が伸びたが、持続的なインフレ圧力の前には影響は限定的と見なされている。

米国の金融市場への影響も深刻である。S&P500はピークから10%以上下落し調整局面に入り、ナスダックも2022年以来最も弱いパフォーマンスを記録した。企業収益の低下、サプライチェーンの混乱、景気後退への懸念が投資家心理を冷え込ませている。『タイム』誌は、こうした市場の動揺が米国の経済リーダーシップへの信頼低下を映し出していると指摘している。

国際的な反発も激しく、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコ、日本などは米国の一方的な措置を批判し、報復関税を実施または検討している。EUは米国産バイクやバーボンなどに32億ドル相当の関税を課し、カナダやメキシコも農業・工業製品を標的に対抗措置を取った。世界貿易機関(WTO)は、こうした報復の連鎖が世界貿易量を2025年に0.2%減少させると予測しており、自由貿易が維持されていれば見込まれた3%成長との差は明らかである。

とりわけ中国は今回の貿易戦争の中心にある。電子機器や鉄鋼、消費財に最大145%の関税が課されており、中国政府は対抗措置を宣言するとともに、EUやASEAN諸国との貿易関係強化に動いている。さらに、半導体やAI、再生可能エネルギーといった戦略分野で自立を目指す「双循環戦略」を推進中である。米中対立の激化により、アップルやサムスンなど多国籍企業が製造拠点をベトナムやインドに移転するなど、サプライチェーンの再編が加速している。

欧州もこの余波に巻き込まれ、米国との間で続くボーイング・エアバスの補助金問題など、長年の貿易紛争が再燃している。アジアの同盟国である日本と韓国も戦略の見直しを迫られており、日本の自動車メーカーは関税回避のため米国内での生産を拡大し、韓国は貿易協定の再交渉を進めた。

一方で、新興国の中には恩恵を受ける国もある。ベトナムは米国向け輸出を30%増加させ、2023年にはメキシコが中国を抜いてアメリカ最大の貿易相手国となった。これは製造業の回帰と、USMCAによる北米供給網の深化によるものである。

米国の農業分野への打撃も深刻である。中国による報復関税により特に大豆農家が大きな打撃を受けた。2018年には中国向け大豆輸出が75%減少し、77億ドルの損失が発生。これにより米政府は280億ドルの補助金を支給したが、その規模は政策の影響の大きさを物語っている。

バイデン政権下でもトランプ時代の関税の多くは継続されており、特に3000億ドル以上の中国製品への関税は維持されている。ただし、バイデン政権は「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」などを通じて多国間協調に軸足を移し、CHIPS法などの国内産業育成策を進め、半導体などの戦略産業での自立を図っている。

今後を見据えると、こうした保護主義政策の長期的影響はますます明らかになりつつある。一部産業への一時的な保護効果はあるものの、消費者、企業、国際関係への負担は大きく、インフレ圧力や同盟関係の損傷、グローバル機関の弱体化といった深刻な副作用を伴っている。その一方で、中国やベトナム、メキシコなどの国々は変化に柔軟に対応し、新たな機会を捉えている。

政権を超えて続くこれらの政策は、経済ナショナリズムと戦略的競争がもはや党派を超えた米国の通商政策の柱であることを示している。今後の国際経済秩序の中で、米国が安定性を取り戻し、成長を促進し、世界貿易におけるリーダーシップを回復するには、国家利益と国際協調のバランスを取る巧みな外交が不可欠である。(原文へ

INPS Japan/London Times

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小規模農家は「受益者」ではなくより良い未来を創るパートナーだ

【ナイロビIPS=ナウリーン・ホセイン】

エリウド・ルグットさんは何世代にもわたる農家の家系に生まれたが、家族は彼が家を出て別の職業に就くことを期待していた。彼は経済学を学び、ビジネスやマーケティングの仕事に就いたが、COVID-19パンデミックで職を失い、実家に戻ることになった。そして彼は、家族の農場の生産性を立て直したいと考えた。

粟、ソルガム、トウモロコシなどを育てていた農場は、長年で生産量が60%も減少していた。これは家族にとって深刻な打撃であり、その原因の一部は気候変動による土壌劣化や害虫被害にあった。また、両親が同じ種と農法を何年も変えずに使い続けていたことも一因だった。

「母は新しいアイデアに前向きでした」とルグットさんは語る。母の後押しで、父から1エーカーの土地を借りることができた。父は当初、収入源が減ることを理由に強く反対したが、最終的には認めた。ケニアのルグットさんの地域のように、男性が土地の所有や使用において大きな権限を持つ社会では異例のことだった。

この1エーカーの土地で、ルグットさんは温室を建て、自身の農法や技術、新しい種を導入した。ピーマン、在来野菜、果物など、家族が育てていた穀物とは異なる季節に育つ作物を栽培したところ、大きな成果を上げ、収益も大幅に増加した。父は最初その結果が信じられず、夜中に何度も温室の周りを歩いて確認したという。

また、ルグットさんは父のためにYouTubeの農業動画を見せ、他の農家の事例を共有することで父の意識も徐々に変わっていった。

ルグットさんはこうした経験を活かし、現在は小規模農家向けにスマート技術を搭載したサイロを製造・販売する「Silo Africa」の共同創業者として活躍している。これは家族の農場で害虫やコクゾウムシによる被害を防ぐための工夫が原点となっている。現在はケニア国内だけでなく、アフリカ全土への展開を目指している。

2022年、ルグットさんは潘基文世界市民センター(BKMC)の「ユース・アグリ・チャンピオンズ・プログラム」に参加し、それが人生の転機となったという。食と農業に関する気候対策やインパクトの拡大について学ぶ中で、仲間たちと土地所有の問題や農業実践について共通の課題を共有し、ベストプラクティスを分かち合った。

最も重要だったのは、BKMCが「自分たちの声を届ける場を与えてくれたこと」だとルグットさんは語る。「私たち若者には、声を上げる機会がこれまでなかったのです」と。

彼はCOP28などの国際会議にも参加し、世界の指導者や学者、政策立案者たちと同じ舞台で意見を述べることができた。初めは緊張したが、若い農業者も「自分たちの課題を伝えることができる」と知った。そして、その視点には重みがあると確信した。

小規模農家についての誤解を払拭できたことも嬉しかったという。農家は「学ぶ意欲がある」。気候変動の影響を受けながらも、既に適応の努力を重ねている。ただし、必要なのは「情報へのアクセス」であり、研究者たちにはその情報を現場に届く形で「翻訳」してほしいと訴える。

毎年、ユース・アグリ・チャンピオンズは国連気候変動会議で「要求文書(デマンドペーパー)」を提出し、気候資金の増加、能力開発、気候スマート技術へのアクセス拡大を求めている。「この文書が、そして私たちの代弁者が、私たちの声となってくれている。」とルグットさんは語った。

ただし、国連気候変動会議や国際農業研究機関(CGIAR)の科学週間などの場でも、農業の研究や支援を行う団体の関与はあるものの、当事者である農家──「受益者」と呼ばれる人々の参加はまだ少ない。発表される研究や解決策は、技術的な専門用語で語られ、一般の農家には届きにくいとルグットさんは指摘する。

「研究者、科学者、ドナーにしかわからない言葉で語られている。」と彼は言う。「だが、技術を必要とする当事者──“受益者”と呼ばれている人々──は、その場にいない。十分とは言えないが、これが私たちの出発点だ。」

「若者として、小規模農家として、私たちは『受益者』として見られがちです。しかし、私たちは単なる受益者ではなく、『より良い未来を創るパートナー(共に変革を担うパートナー)』です。私たちは非常に革新的であり、この業界のさまざまな関係者と対等な立場で協力し、農業をより良くしたいと考えています。」

農家を「解決策を待つ存在」と見なすのは危険だ。なぜなら、実際には現場の農家こそが日々革新し、貢献しているからだ。厳しい環境下で食料不安と向き合う彼らは、課題に最前線で取り組んでいる。

ルグットさんは、若い農家たちは食料安全保障をめぐる進歩と革新の担い手だと強調する。そのためには、政府、金融機関、農業関連のNGOなどのさらなる支援が必要だと語る。「大きなオフィスで働いている人たちは、毎日3食食べている。その3食を保証しているのは私たちだ。―それでも私たちは“受益者”なのだろうか? それとも変革の“担い手”なのか?」(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU REPORT

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外交官としてのフランシスコ教皇──その個人的な出会いは世界へと広がった

【ワシントンDC/RNS=ヴィクトル・ガエタン】

歴代教皇の中でも最多の外遊を重ねた一人となったフランシスコ教皇は、かつては旅行を避け、週末にスラム街を訪れる程度だったことで知られていた。しかし彼は、常に予想を覆す存在だった。

2013年3月にアルゼンチン出身のホルヘ・マリオ・ベルゴリオがフランシスコ教皇として即位したとき、世界的な外交手腕を発揮するとは多くの人が予想していなかった。ブエノスアイレス大司教として、彼は外国への渡航を避けていた。なぜなら教区(スペイン語で「mi esposa(私の妻)」と呼んでいた)を離れることを好まなかったからだ。公共交通機関を利用し、週末には地元のスラム街に足を運ぶことを選んだ彼は、やがて世界を巡る教皇となった。

彼は「周縁(ペリフェリーア)」──ローマや欧米の権力の中心地から遠く離れた地域──を優先し、欧州にありながら普遍的な視点を持つ独立した存在としてバチカンの姿を回復させた。あまりに独立した彼の姿勢に、西側の諜報機関は警戒し、教皇選出前から監視し、中傷キャンペーンを展開したほどだった。

フランシスコの外交は、しばしば言語の壁を超えた象徴的なジェスチャーによって伝えられ、信仰を越えた国境をまたぐ新たな関係を築いた。

彼は外交的孤立政策に従うことも拒んだ。東西冷戦の緊張が再燃する中でも、フランシスコはロシア正教会のキリル総主教に「どこでも会いましょう」と申し出た。この願いは2016年、ハバナの空港で2人が歴史的な初会談を果たすことで実現した。会談は中東とアフリカにおけるキリスト教徒の虐殺に立ち向かう共通の努力によって実現された。

ロシアのウクライナ侵攻後も、フランシスコはキリルやロシアへの直接的批判を避け、「キリスト者同士の兄弟殺しの暴力」と表現した。NATOの「ロシアの扉を叩くような行動」が侵攻の一因になったとの発言により批判も受けた。

外交の土台は、前任のベネディクト16世とは異なり、彼のアルゼンチン時代の経験にある。36歳という若さでイエズス会アルゼンチン管区の責任者に任命され、1974~83年の「汚い戦争」時代には、反体制派の人々をかくまい、国外へ逃がした経験を持つ。

Pope Francis, left, and Russian Orthodox Patriarch Kirill exchange a joint declaration on religious unity in Havana on Feb. 12, 2016. (AP Photo/Gregorio Borgia, Pool)

この経験により、彼は人間の尊厳を重視し、イデオロギーへの不信感を持つようになった。そして、政治家ではなく牧者として人々に寄り添う姿勢を貫いた。

2007年、ブラジル・アパレシーダで開催された中南米司教会議では、ベルゴリオ枢機卿が最終文書を編集。「福音の宣教者としての弟子たれ」と呼びかけたこの文書は、彼の教皇職の設計図とされる。

イエズス会士として初の教皇となったベルゴリオは、教会を「快適圏」から連れ出す運命にあった。教皇最初の使徒的勧告『福音の喜び(Evangelii Gaudium)』では「周縁に出向くように」と信徒に呼びかけた。

教皇名「フランシスコ」の由来となったアッシジの聖フランシスコもまた外交官だった。1219年、聖地でイスラムのスルタン、マレク・アル・カミルと会談した逸話は有名である。

2014年、イタリア国外で最初に訪問した欧州の国はアルバニア。最大宗教がイスラム教のこの国を選んだのは、宗教間の調和を示すためだった。

Pope Francis greets Sheikh Ahmed el-Tayeb, the grand imam of Egypt’s Al-Azhar, after an interreligious meeting at the Founder’s Memorial in Abu Dhabi, United Arab Emirates, on Feb. 4, 2019. (AP Photo/Andrew Medichini)

イスラム世界への働きかけは、単なる対話以上の意味を持っていた。宗教を通じて平和を築こうとする意志だった。ベネディクト16世の発言が原因で2011年に断絶していたアズハル大学のアフマド・タイーブ総長との関係も、2015年の謝罪特使派遣、16年のバチカン招待、17年のカイロ訪問を経て修復された。

そして2019年、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビにおいて「人類の友愛に関する文書」に共同署名。宗教の名を利用した暴力と過激主義に対抗する協力を宣言した。

その流れの中で、2020年の回勅『フラテッリ・トゥッティ(すべての兄弟たち)』が生まれ、教皇はバーレーン、バングラデシュ、イラク、ヨルダン、モロッコ、オマーン、UAEなどのイスラム諸国とも関係を深めた。

2021年、教皇はイラクの聖地ナジャフでシーア派の最高権威アリー・シスターニ師と会談。細い路地を歩いて訪問し、米国による「占領者」としての面会を拒んできた同師と誠実な対話を実現した。

Grand Ayatollah Ali al-Sistani, left, meets with Pope Francis in Najaf, Iraq, on March 6, 2021. (Photo courtesy of Office of the Grand Ayatollah Ali al-Sistani)

2019年には南スーダンのキリスト教徒である大統領と副大統領3人をバチカンに招き、内戦後の和解を促す黙想会を開いた。そして会議後、彼らの足元にひざまずき、一人ひとりの足に口づけするという驚くべき謙遜の行動をとった。

2014年のベツレヘム訪問では、イスラエルの分離壁の前でポープモービルを降り、赤い「フリーパレスチナ」の落書きの上に手を当て祈りを捧げるという、全世界に中継された象徴的な行為もあった。イスラエル・ハマス戦争後には、ガザ唯一のカトリック教会へ毎晩電話をかけ続け、最後の電話は4月19日、彼の死の2日前だった。

外交は通常、秘密裏に行われるが、フランシスコはその実践を広く開かれたものとした。経済的・軍事的利害から自由なバチカンは、万人の共通善を追求できる存在として、政争に巻き込まれることなく行動した。教皇フランシスコは『福音の喜び(Evangelii Gaudium)』の中で、外交団や信徒に向けて、世界との関わりにおいて指針となる4つの原則を示している。各原則がどのように実践されたかを簡単に見ることで、それらの意味がより具体的になる。

第一に、「時は空間に勝る」。
教会は、神の働きは歴史の中に現れると信じているため、キリスト者の務めは結果を操作しようとするのではなく、善いプロセスを始めることにある。やがて時が経つにつれて、前向きな結果が現れるのだ。

A priest holds a sacrament bowl showing a photograph of Pope Francis at a Holy Mass at the John Garang Mausoleum in Juba, South Sudan, Feb. 5, 2023. (AP Photo/Ben Curtis)

その精神に基づき、フランシスコ教皇の外交チームは、1980年代から交渉が続いていた「司教任命に関する中国との合意」にこぎつけた。米国のマイク・ポンペオ国務長官などから批判を受けたものの、この合意は、使徒たちにまでさかのぼる司教職の継承を維持するという、カトリックの秘跡の一貫性にとって極めて重要な要素を守った。また、中国国内で並立していた「公認教会」と「地下教会」という2つの教会構造の分断を癒す第一歩にもなった。この合意により、これまでに11人の司教が共同任命されている。

次に、「現実は観念に勝る」という原則がある。
この考えは、2014年にバチカンが仲介した米国とキューバの国交正常化において明確に示された。両国間には深い不信感があったが、ローマは保証人として介入した。フランシスコにとって、過去のイデオロギー論争は、キューバとアメリカ双方の人々の最善の利益には関係のないものだった。

第三に、「一致は対立に勝る」という原則がある。
2016年、コロンビアの和平交渉が決裂寸前となった際、当時の現職大統領と前大統領の対立が一因だった。フランシスコ教皇は両者をローマに招き、2人のカトリック信徒の助けも得て、霊的権威による説得を試みた。その6か月後、コロンビア政府と主要な反政府組織FARCは和平協定に署名。教皇は約束通り、その3か月後に現地を訪問した。こうして「一致」が確認された。

最後に、「全体は部分の総和よりも大きい」という原則がある。
ウクライナにおける教皇の外交努力は、主に西側諸国が対話を放棄したことで挫折を重ねた。教皇は、キリスト教全体が神聖なものであることを伝えようとし、争う派閥間でも平和が見出されるべきだと訴え続けたが、その在位中、情勢は対立へと向かっていた。それでも教皇は、すべての人々への人道支援を継続した。

そして、モスクワとワシントンという主要な当事国が外交によって戦争の終結に再び乗り出したとき、フランシスコ教皇の姿勢は正しかったことが証明された。(原文へ

(ヴィクター・ガエタン氏は『ナショナル・カトリック・レジスター』の上級特派員であり、2021年刊行の著書『God’s Diplomats: Pope Francis, Vatican Diplomacy, and America’s Armageddon(神の外交官たち─フランシスコ教皇、バチカン外交、そしてアメリカのハルマゲドン)』の著者である。本稿に示された見解は、必ずしもRNS(Religion News Service)の公式見解を反映するものではない。)

INPS Japan/RNS

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フランス、英国・米国と一線を画し、パレスチナ国家承認へ

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連の中でも最も強力な政治機関である安全保障理事会の常任理事国(拒否権保有国)の一つであるフランスは、他の西側常任理事国である米国・英国と立場を分かち、パレスチナを国家として承認する方針を示している。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、今後数か月以内にパレスチナ国家を承認する意向を示し、6月にニューヨークで開催予定の国連会議に合わせてそれを実現する可能性に言及したと報じられている。

Photo: France to form a commission for reconciling with Algeria. Credit: Anadolu Agency
Photo: France to form a commission for reconciling with Algeria. Credit: Anadolu Agency

現在、国連加盟193か国のうち、147か国がパレスチナを主権国家として承認しており、その多くはアフリカ、アジア、中南米、中東諸国である。一方、米国、英国、フランス、ドイツ、日本などの主要西側諸国は依然として承認していない。

パレスチナは2012年11月以来、国連総会における「オブザーバー国家」の地位を有しているが、正式な国連加盟は米国による拒否権により阻まれてきた。

米国は長年、パレスチナの一方的な国家承認に反対しており、フランスの動きがあったとしても、その立場を変える可能性は極めて低い。

4月10日、米国務省のタミー・ブルース報道官は記者団に対し、「フランス政府の発言については承知しており、詳細はフランスに問い合わせてほしい」と述べた上で、「米国はイスラエルと共に、人質全員の解放とハマスの打倒を目指している。」と強調した。

さらに、米国の特使ウィトコフ氏の言葉として、「現在進行中の議論を見てほしい。」「私たちは今、ガザにとって何が最善か、人々の生活をどう改善できるかについて、実りある対話を行っている。この政権は、ガザに平和をもたらし、人質全員(その中にはエダン・アレクサンダーを含む5人の米国人も含まれる)の解放を確保するため、地域のパートナーと引き続き真剣に協力していくつもりだ。」と語った。

一方、サンフランシスコ大学の政治学教授スティーブン・ズネス氏は、「パレスチナ国家承認に関する質問に対して、ハマスの名前を持ち出すのは奇妙だ」と指摘。ハマスはパレスチナ自治政府(PA)とは異なる武装勢力であり、10月7日の攻撃とも無関係であるとした。また、アブラハム合意を強調することは、イスラエルの占領終結やパレスチナ国家樹立と引き換えにイスラエルを承認してきたアラブ諸国の従来の立場と対立するものだと批判した。

ズネス氏はさらに、トランプ政権とバイデン政権の間にこの問題に関する本質的な違いはないと述べ、2024年には米国がパレスチナの国連加盟を支持する安保理決議を拒否権で阻止したことを挙げた。米国はまた、「パレスチナは国家ではない」として、国際刑事裁判所(ICC)がガザやパレスチナにおける戦争犯罪を裁く権限を持たないと主張した。

ジャダリーヤ誌共同編集者ムーイン・ラバニ氏は、フランスがサウジアラビアと共催する6月の国連会議でパレスチナを承認する可能性があるが、実際に実行するかは不透明だと述べた。マクロン大統領の発言は一貫性に欠け、イスラエルの中東諸国による承認やパレスチナ政治からのハマス排除など、非現実的な条件を付けていると指摘した。

The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.
The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.

ラバニ氏は、「パレスチナ国家承認を掲げながら、実際にはイスラエル国家のみを認め、50年以上続くイスラエルの占領政策に何の制裁も課してこなかったフランスの姿勢は、説得力に欠ける。」と述べた。

さらに、マクロン大統領が戦争犯罪で起訴されているイスラエルのネタニヤフ首相の米国渡航のためにフランス領空を開放したことに触れつつ、そのネタニヤフ首相と息子ヤイル氏がマクロン氏をヴィシー政権のペタン元帥に例え、「くたばれ」と罵倒したことについて、「パリでは依然としてイスラエルが無条件に免責されている。」と批判した。

また、『パレスチナ・クロニクル』編集長のラマジー・バロウド博士は、フランスによる国家承認は興味深い動きである一方で、現在の状況ではその意義は限定的だと語った。「ガザでの壊滅的な戦争犯罪が17か月以上続き、西側諸国がそれを支持した今となっては、このような承認は象徴的、あるいは機会主義的とすら見える可能性がある。」と述べた。

バロウド氏は、2024年にノルウェー、スペイン、アイルランドがパレスチナを承認したことはパレスチナ人にとって精神的な励ましにはなったが、実際の状況改善や米・イスラエルの政策転換にはつながらなかったと指摘した。

さらに、フランス政府が本気で「パレスチナ支持」に転じるのであれば、フランス国内でパレスチナ連帯運動に取り組む市民活動家が自由に活動できる環境を保障すべきだと述べた。「現在の承認の動きは、過去と現在の対パレスチナ政策から目を逸らすための政治的操作と受け取られかねない。」と警鐘を鳴らしている。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU REPORT

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「プラスチック・マン」──ごみを宝に変える男

【ダカールIPS=フランク・クウォヌ】

セネガル・ダカール郊外のメディナ・グナスの静かな一角で、一人の男性が多くの人に見捨てられた場所に新たな命を吹き込んでいる。

かつてプラスチックごみの山が広がっていたその場所に、今では緑豊かなオアシスが生まれた。それは彼のたゆまぬ情熱の賜物だ。

「プラスチック・マン」の愛称で知られるモドゥ・ファルさんは、単なるリサイクル活動を超えた闘いに身を捧げている。彼は活動家であり、教育者であり、そしてよりクリーンで持続可能な未来を目指すキャンペーンの担い手だ。

ごみの山から緑の聖域へ

世界がCOVID-19のパンデミックに揺れていた2020年、ファルさんは別の使命に取り組んでいた。かつては活気にあふれていた彼の地元メディナは、洪水の被害と住民の流出によって荒廃し、やがてごみ捨て場と化してしまった。

「最初は、がれきと壊れかけた壁しかありませんでした」と彼は振り返る。「でも、私は何かできると信じていました。」

多くの人が見捨てた空間に、ファルさんは大きな可能性を見出した。彼はボランティアの仲間たちとともに、木を植え、教育展示を設置し、捨てられたものを再利用して空間を生まれ変わらせていった。

「ここにある一つひとつのものが物語を持っています。私たちはそれらを救い、新しい命を与えたのです」と、ダカールでの『アフリカ・リニューアル』の取材に語った。

ごみの清掃は始まりにすぎない。ファルさんは意識改革こそが必要だと強調する。「問題は、私たちが捨てるごみだけではなく、プラスチックとの関係そのものなんです。」

子どもたちの未来を変える教育

ファルさんは、教育プログラムやワークショップを通じて、子どもたちにリサイクルや再利用を教えている。彼は、廃棄物を「ごみ」ではなく、「創造と持続可能性のための資源」として見る目を育てたいと考えている。

たとえば、古いタイヤは椅子に、プラスチックボトルは装飾品に生まれ変わる。

「子どもたちに、廃棄物が新たな命を持つことを示す必要があります。今日それを学べば、明日には行動が変わるのです。」

しかし、教育だけでは十分ではない。ファルさんは、廃棄物管理の制度改革と環境規制の強化が不可欠だと訴える。「今すぐ行動しなければ、プラスチック汚染は手がつけられなくなるでしょう。」

揺るがぬ決意

幸いにも、ファルさんの活動は当局からも認められ、環境保護への功績で表彰を受けた。しかし、道のりは平坦ではなく、彼は業界からの反発にも直面してきた。

それでもファルさんは立ち止まらない。有害物質を水路に排出する企業を告発し続けている。

「数年前までは、ここにもカエルがいたんです。でも今では、一匹も見かけなくなりました。」

セネガルでは使い捨てプラスチックの使用が禁止されているにもかかわらず、街にはいまだにビニール袋があふれている現状に警鐘を鳴らす。

未来を担う世代への投資

ファルさんの夢は、地域にとどまらず広がっている。彼の次なる目標は、若者が持続可能な社会の構築方法を学べるエコロジートレーニングセンターの設立だ。

「ごみを拾うだけではなく、なぜこの状況になったのかを理解し、根本的な解決策を探さなければなりません。」

彼はまた、学生が環境に関するドキュメンタリーを鑑賞できる場所を設けたいと話す。「地球を守るのは、将来の彼らです。今のうちに何が起きているのかを知ってもらわなければ。」

さらに、地域のアーティストと協力して、廃材からアート作品を創出する試みも進行中だ。

「廃棄物が芸術作品に変わるのを見ると、その価値が一目でわかります。」

彼は毎月の清掃活動を地域ぐるみで行う計画も立てている。「これを習慣にすれば、環境そのものを変えることができるはずです。」

行動が変革を生む

「プラスチック・マン」は、口先だけの活動家ではない。彼は言葉ではなく、行動で示している。

「よく、『私たちがしていることなんて、海の一滴にすぎない』と言われます。でも、海とは無数の一滴が集まったものじゃありませんか?」

彼の取り組みは、一人の決意が社会に変革をもたらすことを証明している。リサイクルされたボトル、植えられた一本の木、教育された子ども──その一つひとつが未来への希望だ。

インタビューの最後に、彼はこんなメッセージを残した。

「私たちはこの地球の守り手です。誰にでも役割があります。出身や財産は関係ありません。大事なのは、何をするかです。」(原文へ

INPS Japan /IPS UN BUREAU REPORT

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【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アヤラ・アラニス】

メキシコ市北部に位置するアナワク大学の展示ホールが、若者たちに核兵器の脅威と、それを防ぐために市民社会が行っている取り組みを伝える中心地となった。創価学会メキシコ、アルフォンソ・ガルシア・ロブレス外交財団、OPANAL(ラテンアメリカ・カリブ核兵器禁止条約機構)などの取り組みが紹介された。

Treaty of Tlatelolco Credit: OPANAL
Treaty of Tlatelolco Credit: OPANAL

創価学会メキシコによって企画されたこの「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展には、国際関係、コミュニケーション、デザイン、工学など多様な学部の学生たちが展示を訪れた。

「ティフアナからティエラ・デル・フエゴまで、ラテンアメリカ地域を核兵器の危機から守っているトラテロルコ条約。その推進者こそがアルフォンソ・ガルシア・ロブレスなのです。」と、創価学会メキシコのネレオ・オルダス理事長はINPS Japanの取材に対して語った。

Young people visiting the expo Everything You Treasure-For a World Free From Nuclear Weapons at Universidad Anáhuac. Credit: Guillermo Ayala, INPS New

展示は、創価学会インタナショナル(SGI)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の協力により制作された42枚の情報パネルで構成されており、核兵器が地球の生命に与える脅威や、それに抗う市民社会の闘いについて来場者に深く考えさせる内容となっている。

「若者には社会を変革する原動力があります。若者は国の最大の宝です。彼らには創造性、力、純粋さ、そして情熱があるのです。」と、オルダス理事長は続けた。

アナワク大学の国際化担当ディレクター、パトリシア・エウヘニア・ルイス氏も、「自分がどんな専攻であれ、現実を知ることは重要です。そして、どのような世界を創りたいかを考え、影響を与える存在になってほしい。」と語った。

過去3年間で、この展示会はメキシコ国内の複数の大学で開催され、生徒・教師・職員・市民など10万人近くが訪れた。展示では、核兵器の研究・生産に関わる資金の流れについても紹介しており、24カ国の329の銀行、年金基金、金融機関が関与していることが強調されている。また、核兵器の健康・環境への影響、そして広島・長崎への原爆投下がもたらした被害についても学ぶことができる。

アナワク大学のデザイン学部生フリエタ・アリアスさんは「核兵器なんて必要ありません。あれほどのことをしておいて、まだ存在するのは馬鹿げている。私たち若者こそ、きちんと知るべきです。」と語り、工学部のアレックスさんも「核戦争が起これば一瞬で全てが終わり、取り返しのつかない結果をなるでしょう。」と語った。

Young people visiting the expo Everything You Treasure-For a World Free From Nuclear Weapons at Universidad Anáhuac. Credit: Guillermo Ayala, INPS News.
Young people visiting the expo Everything You Treasure-For a World Free From Nuclear Weapons at Universidad Anáhuac. Credit: Guillermo Ayala, INPS News.

創価学会メキシコは、メリダ、プラヤ・デル・カルメン、サン・ミゲル・デ・アジェンデ、ティフアナ、ベラクルスなど、国内68都市で活動している。

今年1月26日には、創価学会インタナショナル創立50周年を迎えた。同団体が掲げる平和の価値観は、今後ますます若者の間で重要視されていくべきである。この文脈の中で、グアナフアト州サン・ミゲル・デ・アジェンデ市では、SGIがアルフォンソ・ガルシア・ロブレス外交財団から「平和と核廃絶への貢献に対する功労メダル」を授与された。

同財団会長のラファエル・メディナ氏はINPS Japanのインタビューに対して、「新世代が平和と核廃絶の種をまくことが極めて重要」と強調。「メキシコが世界初の非核兵器地帯(NWFZ)を生み出したことに誇りを持ってほしい。そして、今後さらに深く広く取り組むべきだ。」と語った。また、現在、ノーベル平和賞受賞者アルフォンソ・ガルシア・ロブレスの業績を紹介するドキュメンタリー映画の制作も進んでいることを明かにした。

Award ceremony for Soka Gakkai by the Alfonso García Robles Diplomatic Foundation. Rafael Medina Martínez (right), president of the Diplomatic Foundation Alfonso García Robles, presents the Medal of Merit for Peace and Nuclear Abolition to Julio Kosaka (left) Credit: Soka Gakkai México: Soka Gakkai México.
Yumi Sato, OPANAL. Credit: Guillermo Ayala, INPS News.

OPANAL事務局長のフラヴィオ・ロベルト・ボンザニーニ大使もイベントに出席し、「若者こそが安全で平和な世界を築くことができる」と述べ、核兵器の脅威についての理解を深め、声をあげるよう呼びかけた。

また、OPANAL代表団の一員として広島出身の日本人インターン、佐藤ユミさんも参加していた。彼女は広島の原爆生存者を祖母に持ち、現在カリフォルニアのミドルベリー国際大学院で「不拡散とテロ対策研究」の修士課程を学んでいる。彼女は「日本とラテンアメリカの若者の多くが、核兵器の廃絶を望んでいる」と述べ、「同じ時代を生きるメキシコの若者と日々を共にできてうれしい。」と語った。

この「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展は今後も大学や公共施設で巡回展示される予定であり、創価学会メキシコのオルダス理事長は、持続可能性や環境をテーマにした展示も近くメキシコ国内の教育機関で展開していくと発表した。(原文へ

INPS Japan

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トランプ氏の関税攻勢、癇癪、そして貿易戦争──そして世界の戦略的健忘症

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

ドナルド・トランプ大統領が米国への全輸入品に「相互主義」に基づく関税を課すと発表したことで、世界は戦略的な対応ではなく、衝撃で応じた。中国製品への関税は驚異の145%に引き上げられ、ベトナムも46%の関税引き上げの対象に。さらに、従来は米国の同盟国だった欧州諸国も、この経済的な十字砲火に巻き込まれた。

世界貿易機関(WTO)のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は、この動きを受けて、2025年の世界貿易成長率見通しを3.0%から0.2%に大幅下方修正。米国の関税強化とその経済波及効果が主要因であるとし、世界のGDP、金融市場、特に途上国経済への影響に懸念を示した。

しかし、こうした展開に「なぜ驚いているのか?」という疑問も浮かぶ。

トランプ氏の経済戦略は、当初から一貫して明示されてきた。初めて大統領に就任した当初から、彼の貿易哲学は多国間主義ではなく「相互主義」を中核に据えていた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱、WTOへの敵対姿勢、そして友好国・敵対国を問わず鉄鋼・アルミへの関税を課した一連の動き──今回の措置は、こうした路線の延長線上にすぎない。

では、なぜ世界は今になって慌てているのか?

それは、米国経済の決意と影響力を過小評価するという「世界的な健忘症」が働いているからかもしれない。米国の経済規模は27兆ドルを超え、世界最大かつ最も回復力のある経済であり、世界最大の消費市場を有している。この巨大市場へのアクセスが武器化された時、その影響は迅速かつ深刻である。

今回の混乱が示しているのは、そうした驚きそのものよりも、世界が長年抱いてきた前提──「米国市場は常に開かれている」という幻想が崩れたことにある。

ここでいくつかの不都合な問いが浮かび上がる:

  • 世界経済は、米国市場への依存度が危険なほど高まっているのではないか?
  • 今回のパニックは過剰反応なのか、それとも貿易戦略を見直すための必要な目覚ましなのか?
  • グローバル・サウスの国々は、なぜ「米国後」の貿易体制に備えてこなかったのか?

経済的側面だけでなく、心理的な要因もあると言われている。脅威は単なる財政的打撃ではなく、「象徴的」な意味合いも持つ。トランプ氏の関税政策は、世界最大の経済大国における「予測可能性の崩壊」を意味する。国際的なルールが一夜にして変わるような状況では、「不確実性」が新たな通貨となり、不確実性こそがグローバル貿易にとって最大の毒である。

米国の最も近いパートナーである欧州諸国でさえ、裏切られたと感じている。長年優遇措置に慣れていた彼らも、今では戦略的ライバルと同列に扱われ、自動車や農産物などの輸出品が二桁の関税を課される事態に。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「かつての“西側”は死んだ」と発言。米国の予測不能な政策に対し、EUの安定性と民主主義、そして自由貿易への姿勢との対比を強調した。

そして中国との関係は、すでに緊張していたところにさらなる悪化を招いている。145%の関税は、もはや「税金」というより「壁」だ。中国のテクノロジーや製造業企業は、事実上米国市場から締め出されることになる。その影響は甚大で、サプライチェーンの混乱、投資の停滞、そして世界の2大経済圏のさらなる分断が避けられない。

European Commission President Ursula von der Leyen
European Commission President Ursula von der Leyen

中国も報復関税として最大125%の関税を米国製品に課すと発表し、中国商務省は「関税をいくら上げても経済的合理性は失われ、米国の政策は世界経済の笑い話になる」と痛烈に批判した。

一方、あまり注目されていないが重要なのは、米国の消費者側の影響である。ウォルマートの棚やフォードやGMのショールームで、これらの関税の影響は確実に現れる。価格は上昇し、商品の供給は減るだろう。「アメリカ・ファースト」の掛け声に歓声を上げていた支持層も、いずれその代償を痛感することになる。

だが、この混乱の中にはあまり語られていない「チャンス」もある。

今回の関税措置が先進工業国に打撃を与える一方で、ラテンアメリカ、サブサハラ・アフリカ、東南アジア、中東の一部など、一部の新興国は比較的軽い10%程度の関税で済んでおり、逆に米国市場での輸出拡大のチャンスを得ている。政治的な必要から再編されつつあるサプライチェーンの中で、これらの国々が存在感を高めるチャンスが到来しているのだ。道のりは容易ではないが、脱・大国依存の可能性が開かれている。

では、こうした政策は持続可能なのか?

トランプ氏は「短期的な痛みが長期的な利益につながる」と信じ、有権者に訴えている。国内製造業の復活、サプライチェーンの再構築、そして米国経済の主導権回復──それが彼の賭けである。ただし、その過程では財政的なコストだけでなく、米国の外交的孤立、国際機関の弱体化、さらには米国を迂回する新たな貿易体制の誕生という代償も伴うだろう。

そして世界はどうするのか?

いまこそ「世界の再設計」が求められている。米国市場に過度に依存してきた国々は、自国市場の強化や多角的な貿易戦略の再構築を真剣に検討する時を迎えているのかもしれない。(原文へ

INPS Japan/ATN

Original Link: https://www.amerinews.tv/posts/trump-s-tariff-blitz-tantrums-and-trade-wars-and-the-world-s-strategic-amnesia

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初の女性国連事務総長をどう選出するか:国連が直面する困難な課題

【国連IPS=アンワルル・K・チョウドリ】

2025年3月21日、国連の女性の地位委員会(CSW69)の第69回会合が閉幕した。3月10日から2週間にわたり開催されたこの年次会合は、国連の枠組みの中で開催される最大規模の女性活動家たちの集まりとされており、主に市民社会組織を代表する世界各地の女性たちが参加している。今年は、NGO CSW69フォーラムのプラットフォーム上で、実に11,000人を超える参加登録があった。

今年の会合は「北京+30」として宣伝され、1995年に開催された第4回世界女性会議で採択された「北京宣言および行動綱領」の実施状況の確認に焦点が当てられた。また、一部の市民社会活動家たちは、2025年が、2000年に採択された画期的な国連安全保障理事会決議1325(女性の平和と安全保障における貢献の重要性を強調)の25周年でもあると指摘した。

今回初めて、CSW69と並行して開催された市民社会のイベントでは、国連設立から80年間一度も女性が就任していない国連事務総長(UNSG)の選出に女性を選ぶべきだというテーマが取り上げられた。中でも2つのイベントは、次期事務総長に女性を選ぶ緊急性に完全に焦点を当てたものであった。

最初のイベントは、CSW69のプレイベントとして3月5日に開催され、「歴史的な初の女性?フェミニスト女性の国連事務総長に対する各国の反応を追う」と題され、グローバル女性平和構築者ネットワーク(GNWP)、NYU国際問題学部、「1 for 8 Billion」キャンペーンによって主催された。

2つ目のイベントは、CSW69の最終日に開催された「最高レベルのジェンダー平等:女性の事務総長を選出する」と題されたもので、WomanSGキャンペーンと国連制度に関する学術評議会(ACUNS)により主催され、筆者も両方のイベントで登壇した。

現職のアントニオ・グテーレス事務総長(元ポルトガル首相)は、2026年12月31日に2期・10年の任期を終える予定だ。次期事務総長の選出は、同年10月以降になると予想されている。国連憲章第97条は「事務総長は、安全保障理事会の勧告に基づき、総会によって任命される。」と定めている。

この条文の最後の一文が文字通りに解釈されてきたためか、過去に選ばれた事務総長はすべて男性だった。しかし、1945年に署名された国連憲章は、国際的な文書として初めて男女平等の原則を明記したものでもある。

エレノア・ルーズベルトがかつて述べた「重要な決定は、男性のみ、または男性によって支配された集団でなされ、女性が持つ特有の価値が表に出ることはほとんどない」という言葉が、今も現実を突いている。

安全保障を含め、政治の世界はいまだに「男社会」であり、ジェンダー平等を強く掲げる国連ですら、女性のリーダーシップに対して芳しい実績を持っていない。

事務総長に女性を選ぶための3つの提案

私はこれまで繰り返し、女性の事務総長選出を求めてきた。2012年には「文化平和運動(GMCoP)」創設者として、世界のリーダーたちに「次期事務総長に女性を」というアクションを呼びかけた声明を共同で発表した。2016年にも繰り返し強調したが、8つの選挙で女性が選ばれなかったという事実は異常であり、国連に対する信頼を損ねている。

では、次こそ女性の事務総長を実現するにはどうすればよいか。私は次の3つの提案をする:

提案①:「自然な選択肢」=現在の副事務総長アミナ・モハメッド氏(ナイジェリア)

副事務総長は国連の内部を熟知しており、SDGsの策定にも中心的役割を果たした有能で尊敬されるリーダー。彼女を推薦することは最も現実的かつ自然な流れである。

提案②:GRULAC(ラテンアメリカ・カリブ海グループ)から女性のみを候補に出す

地域の持ち回り原則からも、次はこのグループの順番とされている。もし安保理がそれを認め、かつGRULAC加盟国が女性候補のみに絞って提名すれば、必然的に女性から選ばれることになる。

提案③:「非常手段」=総会が安保理の男性候補を拒否する
アンワルル・K・チョウドリ

安保理が男性候補を推す場合、総会がこれを拒否し、再考を促す。2度にわたり拒否すれば、安保理も女性候補を推薦せざるを得なくなる。これは、1997年の地雷禁止条約(オタワ条約)で市民社会が政府の不作為に対抗した「草の根外交」の成功例に倣うものである。

市民社会の力で、国連総会を動かし、80年にわたる「男性専任」の歴史を変えることは可能だ。国連憲章に明記された「任命の最終責任」は193加盟国にある。この原則を活かすことこそが、国連の信頼を回復し、真の意味でのジェンダー平等を実現する第一歩となるだろう。(原文へ)

アンワルル・K・チョウドリー大使は、2000年に安全保障理事会決議1325を主導した国連元大使であり、UNICEF執行理事会の元議長、国連制度の専門家として広く知られる人物。

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米国によるマーシャル諸島での核実験の遺産―正義と責任を求めて

【メルボルンLondon Times=マジド・カーン / ウザイル・アフマド・タヒール】

物理学者オッペンハイマーを描いたハリウッド映画『オッペンハイマー』は、米国による核実験の遺産、特に米国本土およびその海外領土に暮らす先住民コミュニティに与えた壊滅的な影響について、世界的な議論を巻き起こしている。多くの人々にとって、この映画は長らく忘れられていた歴史を再び照らし出し、マーシャル諸島の人々にとっては、彼らの土地、身体、未来を長年にわたって傷つけてきた核実験の痛ましい記憶を呼び起こす契機となった。

Oppenheimer poster/The Nepali Times
Oppenheimer poster/The Nepali Times

マーシャル諸島は、小さな環礁と島々から成る太平洋の国であり、1946年から58年にかけて、米国が23回の核および熱核実験を行った地である。これらの実験の中には、米国がこれまでに行った中で最も強力なものも含まれており、マーシャル諸島の人々に消えることのない傷跡を残した。特に1954年の「キャッスル・ブラボー」水爆実験は、この痛ましい歴史を象徴する出来事である。3月1日に行われたこの実験は、予想を大きく上回る巨大な爆発を引き起こし、キノコ雲は上空40キロメートルまで達した。近隣のロンゲラップ環礁に暮らしていた人々にとって、これは放射線障害による長年の苦しみの始まりであった。

マーシャル諸島の人々の苦難は、1946年に米国が同地で核実験を始めた時点に遡る。ビキニ環礁の住民たちは、実験のために強制移住させられた。米国政府は「たとえ砂州に取り残されたとしても、米国本土の子どものように大切にする」と約束したが、この約束は守られなかった。ビキニ環礁の人々は故郷に戻ることは許されず、他の島に移された人々もまた、想定されていなかった放射線にさらされた。

なかでも悪名高いキャッスル・ブラボー実験は、米国の核兵器開発において飛躍的な進展を目指して行われたものであった。しかしその規模は想定を大きく超え、放射性降下物は危険と見なされていなかった島々にも及んだ。爆心地から160キロ以上離れたロンゲラップ環礁の住民たちも深刻な影響を受け、多くの人が火傷、吐き気、嘔吐などの放射線障害の症状を訴えた。これらの症状は、マーシャル諸島における長期的な健康被害の始まりに過ぎなかった。

放射線被曝は「静かな殺し屋」である。甲状腺がんや白血病といった病気は、放射線との直接的な因果関係が指摘されている。健康被害に加えて、環境への影響も深刻だった。爆発による直接的な被害のみならず、放射性降下物は長年にわたり土地や海、食料供給を汚染し続けている。かつては豊かな植生と動物に恵まれていた地域も、今では荒廃し、人が住むには安全ではなくなった。土地と海と深く結びついて生きてきた人々にとって、この環境破壊は特に痛ましいものである。

Image: The United States conducted the first in a series of high-yield thermonuclear weapon design tests, the Castle Bravo test, at Bikini Atoll, Marshall Islands, as part of Operation Castle on 1 March 1954. Credit: U.S. Department of Energy. Credit: U.S. Department of Energy
Image: The United States conducted the first in a series of high-yield thermonuclear weapon design tests, the Castle Bravo test, at Bikini Atoll, Marshall Islands, as part of Operation Castle on 1 March 1954. Credit: U.S. Department of Energy. Credit: U.S. Department of Energy

米国政府は、健康と環境への被害だけではなく、非倫理的な科学実験によってもマーシャル諸島の人々を傷つけた。1950年代から始まった「プロジェクト4.1」と呼ばれる秘密の医療プログラムでは、被曝した人々を対象に放射線の影響を研究した。長年にわたり、マーシャル諸島の人々には研究の真実は明かされず、必要な保護や医療支援も提供されなかった。1994年にこのプログラムの詳細が機密解除されたことで、マーシャル諸島の人々が「実験台」として扱われていたことが明らかとなり、米国政府への不信はさらに深まった。

米国政府の対応は極めて不十分である。明らかな被害があったにもかかわらず、政府は正式な謝罪を一度も行っていない。1994年、米国とマーシャル諸島は「自由連合盟約(COFA)」を結び、一定の補償はなされたが、これは概ね不十分と見なされている。健康や環境に関する支援も約束通りには行われておらず、米国の誠意を欠いた対応に、マーシャル諸島の人々は見捨てられ、裏切られたと感じている。

キャッスル・ブラボー実験から70周年を迎える今、私たちはこれらの行為の継続的な影響について考え直すべきである。米国政府は対応してきたと主張するかもしれないが、マーシャル諸島の人々にとって、がん、避難、環境破壊といった核実験の影響はいまだに現在進行形である。米国はその加害の責任を果たし、正当な補償を行うべきである。

マーシャル諸島は地政学的に重要な拠点であり、米国軍は太平洋地域での作戦のために同国に基地を置いている。しかし、この戦略的関係には、長年にわたる搾取と裏切りの歴史が横たわっている。マーシャル諸島の人々は、地政学の駒ではない。彼らは正義と承認、そして放射能の影から抜け出して生き直す機会を与えられるべき存在である。

Flag of Marshall Islands
Flag of Marshall Islands

マーシャル諸島が米国に求めることは明確だ―さらなる核補償、そして何よりも正式な謝罪である。これは決して過剰な要求ではなく、一国の超大国が他国の国民に与えた甚大な被害に対する当然の対処である。これらの問題が解決されない限り、米国による核実験の遺産は、マーシャル諸島に米国自身にも深い傷跡として残り続けるだろう。

結論として、マーシャル諸島における核実験の遺産とは、搾取、苦しみ、そして破られた約束の歴史である。マーシャル諸島の人々は、米国の核開発という無謀な追求の犠牲となり、長年にわたり健康被害、環境破壊、避難生活を強いられてきた。米国はこの加害の責任を認め、謝罪し、マーシャル諸島の人々が生活を再建するために必要な補償を提供すべきである。核の正義は、マーシャル諸島のためだけでなく、米国が果たすべき道義的責務として実現されなければならない。(原文へ

INPS Japan/London Post

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開発援助が縮小する時代のフィランソロピー

効果が実証された出産前の栄養投資に集中すべきであり、即効性のない華やかな多部門型プランではない

【カトマンズNepali Times=ウィリアム・ムーア】

公的援助に代わってフィランソロピー(慈善活動)がすべてを担うことはできない。しかし、正しく活用すれば、きわめて力強い原動力となる。

現在、世界的な開発資金は逼迫しており、欧州各国では援助予算が防衛や再軍備に振り向けられ、米国は対外援助の在り方を根本から見直している。こうした中で、援助関係者は苦境に立たされている。

これに対する反応は、主に2つのタイプに分かれる。一つは、フィランソロピーがその穴を埋めるべきだという声。もう一つは、援助から後退する政府を倫理的に非難する立場だ。だが、残念ながら前者は非現実的であり、後者は効果が薄い。

民間の寄付だけで世界規模の課題を解決することはできず、政治家に「あなたたちは道徳的に破綻している」と言っても、味方を増やすことにはつながらない。むしろ、政策決定者の立場に寄り添い、議論の焦点を明確にし、実際に効果のあることに集中する必要がある。

厳しい現実を言えば、多くの政府開発援助(ODA)は、成果よりも手続き重視で設計されており、その多くは「効果」ではなく「体裁」を優先している。フィランソロピーも例外ではない。

私たちエリノア・クルック財団の初期段階では、すべての栄養不良の原因に同時に取り組むという包括的で多部門型のアプローチに資金を提供していた。しかし、その結果は期待外れだった。理論的には魅力的に見えても、栄養不良の改善にはほとんどつながらなかった。

その失敗から学び、私たちは方針を転換した。現在は科学的根拠が確立されており、短期間で効果が見込める領域に絞って資金提供している。

科学的に証明されたシンプルな介入:妊婦向けマルチビタミン

先日パリで開催された「Nutrition for Growth(N4G)」サミットで、私たちは5000万ドルの資金提供を発表した。他のドナーからの2億ドルとともに、妊婦向けマルチビタミン(MMS)の拡充に充てられる。これは10億ドル規模の世界的ロードマップの一環であり、世界中どこに住んでいても妊婦がこのサプリメントにアクセスできるようにすることを目的としている。

この分野における科学的知見は明確である。MMSは、現在も多くの低所得国で使用されている鉄分・葉酸(IFA)タブレットの改良版であり、15種類の栄養素を1錠にまとめて摂取できる。これにより、妊婦の貧血、死産、低出生体重が劇的に減少する。

経済的リターンも高く、1ドルの投資に対して37ドルの効果が見込まれ、乳児死亡率は最大3分の1減少するとされる。

解決策はある、必要なのは意志だけ

母体の健康格差は深刻である。ロンドンでは、妊婦は日常的に包括的なビタミンを受け取るが、ラゴスでは鉄・葉酸すらもらえないことがある。この差は知識の有無ではなく、投資する意志の違いに過ぎない。解決には科学的なブレークスルーは不要で、すでに証明された手法への投資が求められている。

20年以上にわたる研究、ランセット誌の3本の論文、世界銀行の複数の投資報告書は、効果が立証されながらも慢性的に資金が不足している約10の栄養介入策を指摘してきた。それらは、派手な理念的構想ではなく、今すぐ導入できるシンプルで実証的な取り組みである。

例えば、

  • 母乳育児支援
  • ビタミンAの補給
  • 妊婦へのMMS提供
  • 重度栄養不良の子ども向けの特別食(RUTF)

などが含まれる。これらの対策を、栄養不良率の高い9カ国で拡大すれば、5年間で少なくとも200万人の命を救えると試算されている。
必要な資金は年間わずか8億8700万ドルに過ぎない。

小さな投資で、大きな命を救う

2023年だけでも、栄養不良は世界の子どもの死因としてトップとなり、約300万人が命を落とした。これらの死は「避けられない悲劇」ではない。予測可能で、しかも防止にかかる費用はわずかである。

宇宙旅行に何百万ドルも費やす世界で、2ドルのビタミンを妊婦に提供できない理由はない。

今回のN4Gサミットは、五輪と連動して開催されてきたサミット・シリーズの最後となるかもしれない。次回の開催国となる米国は、この伝統を引き継がない可能性を示唆しており、今回パリで表明されたコミットメントは一層の緊急性を帯びている。今や、あいまいな誓約や政治的ポーズでは済まされない。

私たちは、各国政府に過去のような予算規模で援助せよと求めているのではない。残されたODA予算を、効果が証明された対策に的確に使ってほしいと訴えているのだ。

たとえば、MMSへの控えめな投資でさえ、G7各国が防衛費に費やす1週間分の支出未満で、60万人の命を救うことができる。

予算が限られていても、私たちには何百万もの命を救う可能性がある。だがそれは、「あれもこれもやろう」とするのではなく、「正しいことをやる」ことに集中したときに初めて実現する。(原文へ

ウィリアム・ムーア氏は、エリノア・クルック財団CEO、栄養強化基金「Stronger Foundations for Nutrition」議長を務めている。

INPS Japan/Nepali Times

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