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生死の決定を機械に委ねることは、道徳的に正当化できない(「ストップ・キラーロボット」エグゼクティブ・ディレクター、ニコール・ファン・ローヤン氏インタビュー)

【CIVICUS/IPS】

自律型兵器システムに関する国際条約の制定を求める270以上の団体によるグローバル市民社会連合「ストップ・キラーロボット(Stop Killer Robots)」のエグゼクティブ・ディレクター、ニコール・ファン・ローヤン(Nicole van Rooijen)氏が、CIVICUSのインタビューに応じた。

2025年5月、国連加盟国はニューヨークで初めて、自律型兵器システムの規制という課題に正面から取り組む会合を開催した。この兵器は、人間の介入なしに標的を選定・攻撃することが可能であり、「キラー・ロボット」とも呼ばれている。これらは倫理的・人道的・法的に前例のないリスクをもたらし、市民社会は、これらが国際法を根本から損ない、世界的な軍拡競争を引き起こす恐れがあると警告している。ガザやウクライナなどの紛争地では、すでにある程度の自律性を備えた兵器が配備されており、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2026年までに法的拘束力のある条約を採択するよう呼びかけている。

Q: 自律型兵器システムとは何か?なぜそれが前例のない課題をもたらすのか?

自律型兵器システム、または「キラーロボット」とは、人間が起動した後、追加の人間の介入なしに標的を選定し、攻撃することができる兵器です。これらのシステムは、センサーからのデータを処理し、あらかじめ設定された「標的プロファイル」に従って、いつ、どのように、どこで、誰に対して武力を行使するかを自律的に判断します。

私たちのキャンペーンでは、「致死的自律型兵器システム(lethal autonomous weapons systems)」という用語よりも、「自律型兵器システム」という表現を用いています。それは、致死的であるかどうかにかかわらず、こうしたシステムが深刻な危害を及ぼす可能性があるからです。

これらの兵器は、空、陸、海、宇宙といったあらゆる領域において、武力紛争のみならず、法執行や国境警備などの文脈でも使用され得ます。そのため、倫理的・人道的・法的・安全保障上の多くの懸念が浮上しています。

特に深刻なのは、周囲に人がいるか、あるいはプログラムされた標的プロファイルに合致する人物や集団を認識して作動する対人型システムです。これらの兵器は、人間をアルゴリズムによって数値化し、データポイントとして扱うもので、人間性を剥奪する行為です。

どのような機械、コンピュータ、アルゴリズムであっても、人間を人間として認識することも、尊厳ある権利の主体として尊重することもできません。自律型兵器は「戦争状態にある」という意味すら理解できず、ましてや「人間の命を奪うとはどういうことか」など理解できるはずがありません。機械に生死の判断を委ねることは、道徳的に正当化できません。

赤十字国際委員会(ICRC)は、自律型兵器が民間人や非戦闘員の存在が避けられない戦闘状況において、国際人道法を著しく侵害するリスクがあるとし、「そのような状況を想定すること自体が困難である」と述べています。

現在のところ、こうした兵器の開発や使用を規制する国際法は存在していません。技術が急速に進化する一方で、法的な空白が残されていることは極めて危険です。自律型兵器が、既存の国際法に反する形で配備され、紛争を激化させ、責任の所在が不明な暴力を可能にし、市民を危険にさらす事態が現実となり得るのです。

このような懸念から、国連事務総長と赤十字国際委員会の総裁は、2026年までに自律型兵器システムに関する法的拘束力のある国際文書を交渉・採択するよう緊急に呼びかけています。

最近の協議は規制の進展につながったか?

国連総会決議79/62に基づき、2025年5月にニューヨークで非公式協議が開催されました。この協議では、2024年の国連事務総長報告書で提起された課題を中心に、外交界における理解の拡大が図られました。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)における技術的な議論を補完する形で、人道法を超えた広範なリスクが強調されました。

国連総会のプロセスには重要な利点があります。それは、すべての国が参加できる「普遍的な参加」の原則です。これは、特に多くのグローバル・サウス諸国がCCWの締約国でないことを考えると、極めて重要です。

協議の2日間で、各国代表と市民社会は、人権上の影響、人道的結果、倫理的ジレンマ、技術的リスク、安全保障上の脅威について幅広く意見を交わしました。地域ごとの事情や、警察活動・国境管理・非国家主体や犯罪集団による使用の可能性といった実際のシナリオも議論されました。時間の制約はあったものの、参加の幅と議論の深さはかつてないものでした。

私たち「ストップ・キラーロボット」キャンペーンにとって、これらの協議は非常に力強く、有意義なものでした。ジュネーブとニューヨークという2つの国連プロセスは、相互補完的に機能することができます。前者は条約文案などの技術的基盤を築き、後者は政治的なリーダーシップと推進力を醸成する場です。この2つを連携させることで、国際的な法的拘束力を持つ文書の採択に向けた努力は最大化されるのです。

なぜ世界では規制をめぐって意見が分かれるのか?

大多数の国は、自律型兵器システムに関して法的拘束力のある条約を支持しています。そして、多くの国が、「禁止」と「積極的義務」を組み合わせた2層構造のアプローチを提唱しています。

しかし、約10数カ国がいかなる規制にも反対しています。これらの国々は、世界で最も軍事力を有する国々であり、自律型兵器の主要な開発国・生産国・使用国でもあります。

彼らの反対の背景には、軍事的優位性の維持や経済的利益の確保、そしてビッグテック企業や軍需産業によって喧伝される兵器の「利点」への過信があると考えられます。あるいは単に、外交よりも力による解決を重視しているとも言えるでしょう。

いずれにしても、このような姿勢は、いま私たちが最も必要としている多国間協調、対話、ルールに基づく国際秩序の再強化を阻害するものであり、国際社会全体でこれに対抗する必要があります。

地政学的緊張と企業の影響力は規制をどう困難にしているのか?

地政学的な緊張の高まりと企業の影響力の増大は、新興技術の規制策定を困難にしています。

ごく一部の強国が、狭い軍事的・経済的利益を優先し、長年にわたって武器管理を支えてきた多国間協調を損なっています。同時に、テック企業を中心とする民間部門が、説明責任の枠組みの外で政治的意思決定に強い影響を及ぼしています。

こうした二重の圧力のもとでは、規制枠組みが確立されないまま、自律型兵器の開発が加速し、世界の安全保障と人権に甚大な影響を及ぼす恐れがあります。

市民社会はこの議論にどう関わり、規制を求めているのか?

私たちは、2012年にこの脅威にいち早く対応するため、「ストップ・キラーロボット」キャンペーンを開始しました。人権団体や人道的軍縮の専門家が連携し、現在では70カ国以上・270以上の団体が参加する国際的な連合体となっています。

私たちは、武器技術の進化や各国の政策動向についての研究を通じて、自律型兵器のもたらすリスクを明らかにし、国際的な議論を先導してきました。

私たちの戦略は、国、地域、国際のあらゆるレベルの意思決定者に働きかけ、条約の必要性を訴えるものです。政治リーダーが、自律型兵器が戦場や市民生活の中でどのように使われ得るかを理解することが、効果的な働きかけにつながります。

また、世論の圧力も極めて重要です。近年、ガザやウクライナでの紛争における兵器の自律化の進行、そして顔認証技術など民間技術の軍事利用が拡大する中で、こうした技術の非人間性と規制の欠如に対する懸念が高まっています。

私たちは、「自動化された害」の全体像の中で自律型兵器をその極致として位置づけ、この技術と規制との間に存在する危険なギャップを明らかにしています。

さらに、軍事、兵器、テクノロジーの専門家と連携し、現場からの知見をキャンペーンに取り入れています。こうした兵器を実際に開発・運用している人々の声を伝えることで、現状の深刻さと規制の必要性をより強く訴えることができます。

私たちは、人々に対し、署名、議会誓約への参加要請、SNSでの情報拡散など、具体的な行動を呼びかけています。こうした草の根の圧力が、外交官や政策決定者に対して、必要不可欠な法的セーフガードの前進を促す力になるのです。(原文へ

INPS Japan/IPS/CIVICUS

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『保護する責任』20年──理念と現実の乖離

【国連IPS=ジェニファー・シンツー・リン・レヴィン】

国連加盟国は今週、ジェノサイド(集団虐殺)、戦争犯罪、民族浄化、人道に対する罪の防止に対するコミットメントを改めて表明した。だがこの誓いがなされる一方で、世界の大国はこれらの義務を果たせていない現実が突きつけられている。

「保護する責任(Responsibility to Protect=R2P)」原則の採択から20年を迎えた今週、国連では本原則に関する記念の本会議が開催された。多くの代表がR2Pの予防能力に一定の成果を認めた一方で、各国の一貫性の欠如と二重基準が厳しく批判された。

スロベニア代表は、ジェノサイドや人権侵害に関する議題での安全保障理事会常任理事国の拒否権行使を批判し、「人々の尊厳が脅かされているとき、迅速な対応が必要であるにもかかわらず、拒否権がそれを妨げている」と述べた。さらに、R2Pが関与する事案においては常任理事国による拒否権行使を認めるべきではないと提案した。

A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.
A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.

この発言は名指しこそ避けたものの、アメリカ合衆国とロシア連邦という、過去1年以内に拒否権を行使した2カ国を暗に批判するものである。米国は中東問題、とりわけパレスチナに関連して、ロシアはスーダンおよび南スーダンをめぐって拒否権を行使している。

こうした批判は今回が初めてではない。「説明責任・一貫性・透明性(ACT)」連合に属する中小規模国グループは、すでに「ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪への対応に関する安全保障理事会の行動規範(Code of Conduct)」を提案しており、R2P公式サイトによれば、この規範は「大量虐殺の防止・阻止を目的とする信頼性ある決議案に対し、安全保障理事会のすべてのメンバー(常任・非常任を問わず)が反対票を投じることを控えるよう求めている」。2022年時点で、121カ国と2つのオブザーバーがこれに署名している。

R2Pは、ルワンダ旧ユーゴスラビアでのジェノサイドに国際社会が適切な対応を取れなかった反省を踏まえ、市民を大量虐殺などから保護することを国家の義務として再定義するために設けられた。

Remains of some of the over 800,000 victims of Rwanda’s genocide. Credit: Edwin Musoni/IPS
Remains of some of the over 800,000 victims of Rwanda’s genocide. Credit: Edwin Musoni/IPS

ガンビアやケニアといった地域では、R2Pが調停に成果を挙げた実例もあるが、グテーレス国連事務総長が「保護する責任:原則的かつ集団的な行動への20年の誓約」と題した報告書で指摘したように、シリアやミャンマーのように拒否権の行使によって国連が行動できなかった地域もある。

The International Criminal Court (ICC) in The Hague, Netherlands
The International Criminal Court (ICC) in The Hague, Netherlands

R2Pの効果を妨げているもう一つの要因は、スロベニアおよびオーストラリアの代表が指摘したように、「国家の責任回避と説明責任の欠如」である。

国際刑事裁判所(ICC)国際司法裁判所(ICJ)の判決が軽視され、制裁が科される状況も問題視されている。この批判は、ICCが米国およびイスラエルの軍事行動に関する捜査を開始したことに対し、米国が4人のICC判事に制裁を科したことに対するものとみられる。

米国およびイスラエルはいずれもICCの管轄権を認めておらず、その判決には従わない立場を取っている。

ATN
ATN

ホワイトハウスの声明でドナルド・トランプ大統領は次のように述べた:「米国はICCの違法行為に関与した者に対して、資産の差し押さえや米国への入国禁止など、具体的かつ重大な結果を科す。我々の国家の利益を損なう恐れがあるため、ICCの職員や家族の入国は許可されない。」

国連総会では、多くの代表が国際裁判所や国際法廷の公正な判断を支持する立場を改めて強調した。影響力の大きい加盟国から言葉による非難や経済的な圧力があっても、その姿勢を貫くべきだと訴えた。

現在、R2Pの原則と実行の間に最も深刻な乖離が見られるのがガザでの紛争である。インドネシア代表は、パレスチナに対するジェノサイドを「R2Pにとって最も緊急の試金石」と呼び、国際法の尊厳を再生し、国連の信頼を回復するよう各国に強く促した。

国連への信頼が揺らぐ中、加盟国の多くは、人道犯罪への対応を通じて国連の正統性を再確立すべきだとの圧力を感じている。

ある代表はこう述べた―「歴史は私たち全員を裁くことになる。」(原文へ

United Nations Headquarters in New York City, view from Roosevelt Island. Credit: Neptuul | Wikimedia Commons.
United Nations Headquarters in New York City, view from Roosevelt Island. Credit: Neptuul | Wikimedia Commons.

INPS Japan/ IPS UN BUREAU

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スーダン各地で飢饉のリスクが高まる


【国連IPS=オリトロ・カリム】

2025年に入り、スーダンにおける食料安全保障の状況は著しく悪化している。スーダン内戦が長期化する中、数百万人の市民が深刻な食料不安に直面しており、飢饉に陥る危険性が高まっている。人道支援の専門家は、スーダンの状況を「現在世界最悪の飢餓危機」と評している。

2年以上にわたる武力衝突により、スーダンでは重要なインフラや無数の生計手段が破壊され、基本的なサービスにアクセスできない人々が急増している。国連世界食糧計画(WFP)は、スーダン人口の約半数にあたるおよそ2,460万人が急性の食料不安に陥っていると推定している。また、約63万8,000人が最も深刻な飢餓レベルにあるとされ、これは世界で最も高い数値だ。

6月12日、WFP、国連児童基金(UNICEF)、国連食糧農業機関(FAO)は、上ナイル州における食料安全保障の現状に関する共同声明を発表した。この地域では武力衝突が激化しており、人道支援の供給が困難になり、食料供給源も壊滅的な打撃を受けている。統合食料安全保障段階分類(IPC)の最新調査によると、上ナイル州の13郡のうち11郡で緊急レベルの飢餓が発生しているという。

とりわけ脆弱な地域はナシール郡とウラン郡で、3月以降、武力衝突と空爆が続いている。これらの地域では住民の避難が急増しており、専門家らは「飢饉が差し迫っている」と警告している。現在、およそ3万2,000人が最も深刻な飢餓(IPCフェーズ5=壊滅的状況)にあり、これは以前の予測の3倍に達している。

WFP南スーダン事務所代表のメアリー=エレン・マクグローティ氏は、「今回も、紛争が食料安全保障に壊滅的な影響を与える様子が浮き彫りになりました」と述べた。「紛争は家や生計を破壊するだけでなく、地域社会を分断し、市場へのアクセスを断ち、食料価格を急騰させます。長期的な平和が不可欠ですが、今は何よりも、上ナイル州の紛争下にある家庭へ、安全に食料を届け、飢饉を防ぐことが急務です」と語った。

上ナイル州だけでなく、戦闘の中心地となってきたハルツーム州周辺地域でも、食料安全保障は著しく悪化している。WFPスーダン事務所代表のローラン・ブケラ氏は、ハルツームおよびその周辺地域について「広範な破壊が進んでおり、複数の地域で飢饉のリスクが極めて高い」と述べた。

「ニーズは極めて大きい」とブケラ氏は言う。コレラの深刻な流行、水・医療・電力の欠如が加わり、状況は悪化しているという。ハルツームの南約40キロに位置するジャバル・アウリヤでは、「飢餓、困窮、絶望の極みにある」と報告している。

またブケラ氏は、ハルツームのような深刻に破壊された危険な地域に、避難民が戻ってくる可能性にも懸念を示している。これは支援活動のさらなる困難につながる恐れがあるという。「我々は急速に支援体制を拡大し、増大するニーズに対応しています。毎月700万人に支援を届けることを目標とし、飢饉に直面している地域や極度の危険下にある地域を優先しています」と語った。

資金不足も事態の悪化を加速させている。命を救うための栄養補給物資は数百万人にとって手の届かないものとなっており、その中には多くの子どもや妊産婦も含まれる。南スーダンで急性栄養不良の危機に直面している子どもの数は、ここ数カ月で230万人に増加し、20万人以上の増加となった。

「最も被害の深刻な地域ではアクセスが困難であり、保健・栄養施設の閉鎖が、早期介入や治療の機会を減らしています。また、コレラの流行がすでに厳しい状況にさらに追い打ちをかけており、多くの子どもたちが生死の境に置かれています」とUNICEF南スーダン代表のノアラ・スキナー氏は述べた。マクグローティ氏も「今こそ、栄養不良の予防と治療のためのサービスを継続・拡充する必要があります」と訴えた。

敵対行為によりスーダン全土でアクセスが制限されているものの、国連は現在、月間400万人以上に支援を届けており、これは2024年初頭の4倍に相当する。以前は支援が届かなかったハルツームのような地域でも、制限が緩和され、人道支援の提供が可能となりつつある。WFPは、制限のさらなる緩和により、700万人への支援を目指している。

とはいえ、この支援体制は非常に不安定である。ブケラ氏によれば、WFPは今後6カ月間の「緊急食糧および現金支援」に向けて、5億ドルの資金を緊急に必要としている。また、間近に迫った雨季は、洪水による感染症の拡大やインフラ被害のリスクを高め、支援物資の供給にもさらなる負担を強いると見られている。

さらに、人道支援従事者に対する攻撃の増加が支援活動に深刻な脅威をもたらしている。「人道支援関係者および物資に対する無差別で容認しがたい攻撃がエスカレートしています。先週も、WFPとUNICEFの合同車列が、包囲下の北ダルフール州エル・ファシールに到着する数時間前に攻撃を受けました」とブケラ氏は述べた。「4月には、ザムザム難民キャンプ近郊で戦闘が激化し、複数の支援従事者が命を落としています」

この危機に持続的な終止符を打つには、恒久的な敵対行為の停止が不可欠である。WFP、FAO、UNICEFの共同報告では、暴力の程度が低い地域では食料安全保障が改善されていると指摘されている。そうした地域では農作物の生産が安定し、人道支援も円滑に行われているためであり、平和が確立されれば状況が好転する可能性を示している。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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希望を届ける放送―アフガンの10代少女、女性の声ラジオで未来を取り戻す

著者は、タリバンによる政権奪還前にフィンランドの支援を受けて訓練を受けた、アフガニスタン在住の女性ジャーナリストです。安全上の理由により、名前は伏せられています。

【カブールIPS=匿名記者】

メーラギズは、アフガニスタン北東部バダフシャーン州出身の16歳の少女です。ルビーなどの宝石で知られるこの地は、「愛と美の地」としても親しまれています。

2021年にタリバンが政権を奪還して以降、女性たちの自由は厳しく制限され、将来への希望を断たれた生活を強いられるようになりました。その影響で、女性の間では精神的な危機や自殺が急増しています。

そんな中、メーラギズは「女性の声ラジオ」との出会いによって、人生を取り戻すことができたと語ります。以下は、彼女自身の言葉による体験談です。


Map of Afghanistan
Map of Afghanistan

かつて10年生の私は夢と希望に満ちていました。毎日、昨日よりも努力して、将来達成したい目標のために勉強を重ねていました。私の村には電気がなかったため、灯油ランプのそばで夜遅くまで勉強していたのです。いつか夢が叶うと信じて。

ある日、庭で日記を書いていると、クラスメートの叫び声が聞こえました。「もう学校に通えない、勉強できない」と。私は呆然とし、声も出せませんでした。

日が経つにつれ、「この状況は一時的なものだ」と信じ、勉強を続けました。世界の他の地域の少女たちのように成功したい、その一心で。

しかし、ついに私の中の何かが折れました。少女たちはいつ学校に戻れるのか?その問いに、答えは永遠にないかのようでした。私は戦う意欲を失い、不眠と食欲不振に陥り、夢見た世界は真っ黒に染まっていきました。

日々はどんどん苦しくなり、もう耐えられないと思いました。怒りと絶望のあまり、ある日、私はすべての教科書を燃やしてしまったのです。

その後は、未来のことを考えないように、家事や身体を動かすことに没頭しました。もう勉強しようとは思いませんでした。

ある日、母と買い物に出かけた帰りに、人生を変える出会いが訪れました。女性専用レストラン「ケドバヌ」で昼食を取っていたとき、バダフシャーンで最も人気のあるラジオ局「サディー・バノワーン」で医師がうつ病について語っていたのです。

その語り口に私はすっかり引き込まれ、食事の手を止めて耳を傾けました。母に目配せをして伝えると、彼女も真剣に耳を澄ませました。医師の言葉、そしてまるでアフガンの少女たちの苦しみを理解しているかのような司会者の質問に、私たちは釘付けになりました。

放送終了後、私はラジオ局に電話をかけ、個別に相談ができるか尋ねました。すると、喜ばしいことに、医師に直接相談できると教えてもらいました。

翌日、私はラジオ局の門の前に立っていました。期待と不安が入り混じった気持ちで。

アフガニスタンでは皆が自分の問題に追われており、私のような少女の悩みに耳を傾けてくれる人などいないのでは…そう思っていました。

けれど、あの放送で心を動かされた同じ医師に直接会い、相談できたことで、私は生きる力を取り戻すことができました。

「魂を傷つけたり、家族を苦しめたりするのではなく、別の生き方を探しましょう。神を信じましょう」と彼女は私に語ってくれました。

彼女の助言は、私の人生への姿勢を変えてくれました。困難に立ち向かう力をくれたのです。

友人に会いに出かけること、オレンジや赤、黄色のような明るい色の服を着ること、楽しいことを見つけること。そういった前向きな行動を促されました。

これまでに4回の無料心理療法を受け、精神状態は約30%改善しました。以前とは違い、今の私は、人生に鮮やかな色彩を見出せるようになったのです。

女性の声ラジオ:制限の中の灯火

「女性の声ラジオ」は2010年から放送を開始し、バダフシャーンの女性たちの間で特に愛されてきた人気番組です。現在は24時間体制で放送され、男女問わず多くの聴取者に向けて情報を発信しています。

しかし、2021年以降のタリバン政権下で、この女性専用ラジオ局にも厳しい制限が課されました。政権発足当初、広告に数秒の音楽が含まれていたという理由で23日間の閉鎖措置を受けたこともあります。

それでも放送再開後は、「マクタブ(学校)」という新番組を立ち上げました。これは、7年生から12年生までの少女たちのために、教師や専門家がカリキュラム教材をラジオで提供するものです。

また、心理療法番組「サイコセラピー」では、家に閉じ込められた多くの女性たちの心の支えとなるよう、専門医がうつ病やストレスへの対処法を紹介しています。将来的には、こうしたニーズに応えるために、大規模な心理療法センターの設立も計画されています。

さらに「女性の懐に抱かれた芸術」は、創造性と勇気にあふれた女性たちの取り組み―ビジネスや投資など―を紹介する番組で、他の女性たちにとってのロールモデルとしても機能しています。

新たな章の始まり

そして今、私は幸運にも「女性の声ラジオ」で働く機会を得ました。ここでの勤務は3カ月目に入りました。

初日に迎えてくれた仲間たちの笑顔と温かいハグは、今でも忘れられません。

私はここで「困難を乗り越えること」「他者を支えること」という、人生で最も大切なことを学んでいます。

UN Photo
UN Photo

世間にとって「女性の声ラジオ」はただの放送局かもしれません。でも、私にとっては“人生の大学”―幸せに生きる術を学ぶ場所なのです。

私は今、小さくても力強い家族の一員なのです。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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安全保障理事会に亀裂、地域は緊張状態:イスラエルとイランの衝突で外交力が試される

「イスラエルがイランを攻撃、国連安全保障理事会は危機的な事態の激化に直面―各国首脳は自制と外交を呼びかけ」

【ニューヨーク国連本部ATN=アハメド・ファティ】

イスラエルによるイランの軍事および核関連施設への空爆が行われた数時間後、国連安全保障理事会は緊急会合を招集し、中東地域での戦争拡大の危機に直面する中、冷静さと自制を求める切迫した訴えが相次いだ。

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

空爆は現地時間午前3時15分頃に開始されたとされ、標的となったのはイランのナタンズ濃縮施設、イスラム革命防衛隊の本部、レーダー施設など、核関連インフラの要所だった。イスラエル政府はこれを「差し迫った実存的脅威」への「精密かつ先制的な措置」と位置づけた。

イランは直ちに報復を開始し、100機以上の無人機をイスラエルに向けて発射、会合開催時点でもミサイルを発射しているとの報告がなされた。周辺諸国は空域を閉鎖し、軍の警戒態勢を強化。イエメンのフーシ派もこの衝突に加わり、イスラエルへのミサイル攻撃を行ったとされ、地域全体に戦争の火種が広がる恐れが高まっている。

世界的懸念と核の恐怖

Rosemary DiCarlo, Under-Secretary-General for Political and Peacebuilding-(UN Photo/Loey Felipe)

国連の政治問題担当トップであるローズマリー・ディカルロ氏は冒頭の報告で、今回の危機が地域にとどまらず世界的な安全保障をも脅かすと警告。「この火種が拡大する事態は、なんとしても避けなければなりません」と強調した。

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシー事務局長は、ナタンズの地上施設が破壊され、ウラン濃縮が停止したことを明らかにした。地下の遠心分離機施設は無傷とみられるが、停電による内部機器への損傷が懸念されている。外部への放射線漏れは確認されていないが、施設内部の汚染は「管理可能だが憂慮すべき」と述べた。

「はっきり申し上げます。核施設が攻撃されてはなりません」とグロッシー氏は強調。IAEAは24時間体制の緊急監視チームを稼働させ、追加の査察官を派遣する用意があると述べた。

理事会の反応:一致と分裂の両面

理事会では全体として事態の沈静化を求める声が上がったが、責任の所在をめぐって意見が割れた。

ロシアのワシリー・ネベンジャ大使は、イスラエルの行動を「軍事的冒険主義」と非難し、2015年のイラン核合意を崩壊させたとして米国を、また英国がキプロスの基地を通じて関与したと指摘。これに対し、英国代表は「ナンセンスで無責任な偽情報」と強く否定した。

パナマは今回の攻撃を「予見されていた死」と表現し、連鎖的な不安定化の一環と警告。中国、アルジェリア、シエラレオネ、パキスタンも、国連憲章違反となる一方的な武力行使を非難。「倫理的にも戦略的にも許されない」とし、オマーンでの米・イラン間の核協議再開が予定されていた中での攻撃を問題視した。

アルジェリアとイランの代表は、未申告の核保有国であるイスラエルが、核拡散防止条約(NPT)に加盟する非核保有国イランを攻撃するという「皮肉」を指摘。「先制攻撃が防いだものがあるとすれば、それは平和だ」とアルジェリア代表は皮肉を込めた。

イスラエルは正当防衛を主張、イランは「戦争」だと非難

Amir Saeid Iravani, Permanent Representative of the Islamic Republic of Iran- (UN Photo/Loey Felipe)

イスラエルの代表は、「イランが核兵器級のウラン濃縮を進め、我が国の滅亡を公言している以上、脅威は現実であり、昨夜は行動を起こす時だった」と述べ、自衛権の行使であると主張。IAEA査察の妨害や外交の停滞を挙げて正当性を訴えた。

一方、イランの代表は激しく反発し、「戦争犯罪」だと非難。「核施設への無謀な攻撃で数百万の命を危険にさらした」と述べ、イスラエルを「世界で最も危険でテロ的な体制」と呼んだ。

米国の微妙な立場

米国はイランの核開発に強い懸念を表明しつつも、「イランが核兵器を持つことは決して許されない」としながら、今回の空爆には関与していないと説明。ただし事前に情報は得ていたと述べた。

さらに、イランに対し米国人や米国関連施設への報復攻撃を行わないよう警告し、外交交渉への復帰を求めた。

Danny Danon, Permanent Representative of Israel to the United Nations-(UN Photo/Loey Felipe)

地域全面戦争のリスク

イラクとクウェートは主権侵害を非難。イラクはイスラエルによる自国空域の侵害を主張。クウェートは湾岸協力会議(GCC)を代表して発言し、「これ以上のエスカレーションは過激勢力の台頭を招く」と警告した。

韓国とフランスも外交の重要性を強調。ギリシャは「自衛権」を認めつつも、「持続可能な安全保障は外交と交渉によってのみ達成される」とバランスを取った発言を行った。

議長国ガイアナの訴え

安保理の議長国であるガイアナは、閉会にあたり強い調子で訴えた。「今は瀬戸際外交や責任の押し付けをしている場合ではありません。今こそ責任を果たす時です」

分析:決定的な分岐点に立つ中東

今回の空爆は、長年にわたるイスラエルとイランの対立が新たな段階に入ったことを意味する。外交の水面下の再開が報じられる中での攻撃は、かすかな信頼を打ち砕いた。

安保理が異例の一致で「緊張緩和」を訴えた背景には、単なる核不拡散だけでなく、地域戦争への拡大、ひいては大国や代理勢力を巻き込む国際紛争への発展を警戒する思惑がある。

IAEAが放射能漏れの監視を続けるなか、外交の糸は今にも切れそうな状態にある。事態が破局へと向かうか、踏みとどまれるかを左右するのは、“数日”ではなく“数時間”なのだ。(原文へ

INPS Japan/ ATN

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/security-council-divided-region-on-edge-diplomacy-tested-amid-israel-iran-clash

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トランプ政権のイラン核合意から離脱が裏目に出る

核の瀬戸際にある世界:拡散する現代戦とその代償

【カトマンズNepali Times=クンダ・ディクシット】

進行中の紛争は、戦争のあり方が変化しており、もはや人間の制御下には収まらないことを示している。ウクライナ、スーダン、ガザ、イラン—いずれも世界大戦とは見なされないかもしれないが、私たちは危険なまでにその瀬戸際に近づいている。

Kunda Dixit
Kunda Dixit

ここネパールでは、そうした出来事から遠く離れているように思えるかもしれない。しかし、イスラエルや湾岸諸国で働くネパール人は約200万人に上り、戦争の激化は私たちの送金依存経済に壊滅的な打撃を与えかねない。

イスラエルによるイランの要衝バンダル・アッバース空爆と、イランがホルムズ海峡の封鎖を示唆したことで、今週カトマンズではガソリンスタンドに買いだめの列ができた。石油関連はネパールの輸入額の4分の1を占めている。

2023年10月7日のハマスによる攻撃では10人のネパール人が命を落とし、いまも1人がガザで拘束されている。ウクライナ戦線ではロシア軍に加わったネパール人兵士が戦い、命を落としている。

また、米軍に志願したネパール出身のグリーンカード保有者もおり、6月14日にワシントンD.C.で行われた「平壌スタイルの軍事パレード」に参加した者もいる。北朝鮮が武力によって敵を威嚇するのと同様に、米国のパレードは自国民に「言うことを聞け」と警告する意図があった。

その背後では、グローバルな超大国(=米国)の指導者が、自らのSNS「トゥルース・ソーシャル」で、イスラエルと共にイランを爆撃することを仄めかす好戦的な投稿を繰り返している。

一方でもう一つの超大国(=ロシア)は、誘導ミサイルでウクライナの首都キーウのアパートを攻撃している。モスクワのテレビ討論番組では、ロンドンへの核攻撃を軽々しく語るゲストが登場している。

ウクライナによるロシアの戦略爆撃機基地への大胆なドローン攻撃は、戦争の性質と規模がすでに様変わりしていることを改めて証明した。

2025年5月には、インドとパキスタンも無人機やミサイルを使って交戦したという。さらにパキスタンのJ-10戦闘機がインドの航空機2機(うち1機はフランス製ラファール)を撃墜したとも報じられた。

仮にこれらの報道が事実でなくても、各国空軍が中国製兵器の性能を見直し始めているのは確かだ。

インド・パキスタン間の空中戦、そして現在進行中のイスラエルによるイラン空爆においては、核関連施設が標的となったケースもある。ドナルド・トランプ大統領がテヘランからの避難を警告したことが実行に移されるかは不明だが、米国が地下核施設に対しバンカーバスター爆弾を使う可能性を専門家は指摘している。

イラン指導部は報復を警告しており、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)にある米軍基地が標的になりうる。もしそうなれば、まさに「地獄の釜の蓋が開く」ことになるだろう。

冷静な声に望みを託しつつも、世界は以下の3つの核戦争の火種に備えねばならない。すなわち、ロシア・ウクライナ、イスラエル・イラン、そして私たちのすぐ近く、インド・パキスタンである。

核抑止によってニューデリーとイスラマバードは互いの都市を焼き払うには至らなかったかもしれないが、それは小さな計算違い一つで破綻しかねない不安定な均衡である。

両国はプロパガンダと大衆メディアによって国民の好戦的感情を煽り、SNSでは市民たちが互いに憎悪をぶつけ合い、指導者に「核ボタンを押せ」と叫んでいた。

この3つの紛争全てに共通する危険性はそこにある。つまり、ソーシャルメディアによって増幅された憎しみに国民が飲み込まれ、核抑止の意味が失われてしまっているということだ。

ウクライナによるロシア本土深部へのドローン攻撃、インドによる徘徊型兵器(ロイタリング・ミュニション)の使用などによって、従来の戦争の概念は崩壊した。高価なステルス爆撃機、主力戦車、防空ミサイル基地といった「旧来の兵器」は、今やアマゾンで購入できるドローンによって無力化されうるのだ。

この3つの紛争に共通して見られる戦争の新たな様相は、米国の核の傘の信頼低下と相まって、世界を再び軍拡の時代へと導きつつある。開発資金や気候変動対策の予算は軍拡に回され、皮肉なことに戦争が原因で飢饉まで引き起こされている。

ネパールでは、インドとパキスタンの間で起こりうる限定的あるいは全面的な核戦争による放射能汚染を懸念している。だが同時に、傷を負ったイランと核兵器を保有するイスラエルとの対決、あるいはロシアがウクライナで戦術核を使う可能性も視野に入れなければならない。そして常に潜在するのが、非国家主体による核テロの脅威である。

それだけではない。さらに深刻なのが、人工知能(AI)によって標的を選ぶ数百万台のドローンが世界中に拡散するという危険だ。

カリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ラッセル教授が短編映画『Slaughterbots(殺戮ロボット)』で警鐘を鳴らしているように、人類は人間の制御を離れた兵器を制限するための新たな軍縮条約を必要としているのかもしれない。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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カザフスタン、国連軍縮フェローに核軍縮の経験を共有

【アスタナThe Astana Times=アイバルシン・アフメトカリ】

カザフスタン外務省は6月19日、2025年度国連軍縮フェローシップ・プログラムの参加者をアスタナに迎え、同国がリーダーシップを発揮してきた核軍縮の取り組みと、世界平和の推進に向けた努力について紹介した。

世界各国から集まった19人のフェローたちは今後、アバイ州クルチャトフ市にあるカザフスタン国立原子力センターや、旧ソ連時代に468回の核実験が行われた旧セミパラチンスク核実験場を訪れる予定だ。クルチャトフはかつて、ソ連の核兵器開発の拠点として一般立ち入りが禁止されていた都市である。

外交政策研究所のボラート・ヌルガリエフ所長(元駐日大使)は、カザフスタンが核兵器を放棄するという歴史的な決断を下した当時の状況を振り返り、フェローたちに自身の経験を語った。

「カザフスタンにとって、この問題は非常に痛ましく、かつ慎重な対応が求められる問題でした」とヌルガリエフ氏は語る。「核兵器が存在しない状況で、将来の安全と国民の福祉をどう確保するかについて、政府や各方面で多くの議論が交わされました。」

「私たちが選んだ道は、外国からの投資を呼び込み、主要国との間で政治的にも経済的にも建設的な関係を築いていくことでした。そのためには、核兵器という要素を何らかの形で解決する必要があったのです。」

プログラム参加者のひとり、ナイジェリア・バイエロ大学の再生可能エネルギー・持続可能性転換センターで核研究官を務めるアブバカル・サディク・アリユ氏は、核物理学者として核軍縮に強い関心を持っている。

「私は核物理学者として、カザフスタンの核実験場について以前から関心を持っていました。実際に核実験場がどのような場所なのかをこの目で見てみたいと長年思ってきました。カザフスタンが豊富なウラン資源を持ち、さらにIAEA(国際原子力機関)の低濃縮ウラン(LEU)バンクを保有していることもよく知っています」とアリユ氏は語った。

このIAEA低濃縮ウランバンクは、軽水炉の燃料として使用可能な90トンの六フッ化ウランを保管する現物備蓄施設であり、カザフスタン東部のウスケメン市にあるウルバ冶金工場に設置されている。同施設の安全性、保安、保障措置は、カザフスタンの関係当局が責任を持って管理している。

「カザフスタンが核兵器プログラムを放棄したという事実は非常に興味深く、私にとっても軍縮をさらに推進する上での励みになります。加えて、同国が核燃料供給国であるという点も、大きなインスピレーションになります。」

アリユ氏は、今回の訪問とフェローシップ・プログラムで得た知見を、ナイジェリアにおける軍縮推進や教育活動に活かしていく考えだ。

「ナイジェリアは核エネルギーの平和利用に関心を持っており、NPT(核不拡散条約)の締約国でもあります。現在は研究と教育目的の原子炉を保有しており、将来的には原子力発電の導入を目指しています」と語った。

「ナイジェリアは、核を含むあらゆる形の軍縮を強く支持しています」とアリユ氏は付け加えた。(原文へ

INPS Japan/ The Astana Times

Original URL: https://astanatimes.com/2025/06/kazakhstan-shares-nuclear-disarmament-experience-with-un-fellows/

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抑止から軍縮へ:グローバルな提唱者たちが正義と平和を訴える

【サンタバーバラ/東京INPSJ=浅霧 勝浩

核時代の幕開けから80年を迎えた2025年3月12日・13日、世界各地の平和活動家、外交官、教育者、被爆者が「希望の選択」シンポジウムに出席し、核兵器廃絶への新たな決意を共有した。シンポジウムは、核時代平和財団(NAPF)と創価学会インタナショナル(SGI)の共催により、サンタバーバラ市のウエスト音楽アカデミーで開催された。

Tomohiko Aishima of SGI opens the symposium with reflections on the dialogue between Daisaku Ikeda and David Krieger, which he witnessed during his time as a reporter at Seikyo Shimbun Credit: SGI
Tomohiko Aishima of SGI opens the symposium with reflections on the dialogue between Daisaku Ikeda and David Krieger, which he witnessed during his time as a reporter at Seikyo Shimbun Credit: SGI

2001年に刊行された、NAPF創設者デイビッド・クリーガー氏とSGI会長・池田大作氏による対談集『希望の選択』をテーマに、核廃絶の倫理的・戦略的緊急性があらためて提起された。

「これは単なる遺産ではありません」とNAPF会長のイヴァナ・ニコリッチ・ヒューズ博士は語った。「私たちは彼らの歩みを継承し、核の脅威のない世界を築くためにここに集まっています。」

SGI平和運動局長の相島智彦氏は、両者の対談を目の当たりにした経験に触れ、「彼らの対話は、単なる理念の共有ではなく、現実的な解決策に根ざした行動への呼びかけだったことが最も印象的でした」と語った。

核抑止への警鐘

Annie Jacobsen, Pulitzer Prize finalist and author of Nuclear War: A Scenario delivers the 20th Frank K. Kelly Lecture on Humanity’s Future at the start of the symposium. Credit:Nuclear Age Peace Foundation

基調講演では、ピュリッツァー賞最終候補の記者で『核戦争:一つのシナリオ』を出版した作家のアニー・ジェイコブセン氏が、「核抑止が破綻したらどうなるのか?」という問いを投げかけた。米国政府関係者から得た機密情報に基づく洞察をもとに、「核戦争はどのように始まっても、最終的には完全な破壊で終わる」と警告した。

続くパネルディスカッションでは、プリンストン大学のリチャード・フォーク名誉教授、社会的責任を果たすための医師団ロサンゼルス支部(RSR-LA)のジミー・ハラ博士、アメリカン大学のピーター・クズニック教授、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメリッサ・パーク事務局長が登壇。ヒューズ博士の進行のもと、核政策の転換を訴えた。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

翌日には、「抑止から軍縮へ:未来への道」と題するセッションが行われ、SGI軍縮・人権担当ディレクターの砂田智映氏が司会を務めた。砂田氏は、核兵器が国家の安全保障政策に組み込まれている現状に警鐘を鳴らし、「核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会議では、核抑止そのものが生存への脅威であると確認された」と報告した。

2017年のTPNW国連交渉会議で議長を務めたエレイン・ホワイト元コスタリカ国連大使は、「意見の異なる者とも誠実に対話を続けることの重要性」を強調した。

証言に耳を傾ける

Nagasaki, Japan, before and after the atomic bombing of August 9, 1945./ Public Domain
Nagasaki, Japan, before and after the atomic bombing of August 9, 1945./ Public Domain

長崎の被爆者である和田征子さん(日本被団協)はビデオメッセージで登壇し、「被爆の現実を語り継いでほしい」と訴えた。

米国の「ダウンウィンダー(風下住民)」で甲状腺がんを患ったメアリー・ディクソンさんは、「私たちは意図的に被曝させられました。マーシャル諸島、カザフスタン、ポリネシアなどの犠牲者にも正義が必要です」と語った。

「核使用と核実験の遺産:正義への呼びかけ」と題されたセッションでは、SGI国連事務所軍縮プログラム・コーディネーターのアナ・イケダ氏が、被爆者や核実験被害者の健康・差別・心理的影響に関する証言を紹介。「核の正義とは、核の使用・実験・威嚇がいかなる状況でも正当化されないという意識を社会に根づかせること」と語った。

カザフスタンのセミパラチンスク旧核実験場での世代を超えた健康影響については、トグジャン・カッセノヴァ博士が研究成果を報告した。

キリバス代表およびYouth for TPNW代表として参加したクリスチャン・シオバヌ氏は、被害者支援と環境回復のための国際基金設立を提案。赤十字国際委員会(ICRC)のヴェロニク・クリストリー氏は、人道の視点から軍縮の必要性を訴えた。

Anna Ikeda of SGI (center) speaks as a panelist on the second panel discussion, “Legacy of Nuclear Use and Testing: A Call for Justice” Credit: SGI
Anna Ikeda of SGI (center) speaks as a panelist on the second panel discussion, “Legacy of Nuclear Use and Testing: A Call for Justice” Credit: SGI

気候正義との交差点

「気候と核の正義の交差点:若者の力で変革を」と題された最終パネルでは、SGI軍縮プログラム・コーディネーターの堀口美幸氏が司会を務めた。

NuclearBan.USのアンドゥイン・デヴォス氏は、気候危機への不安から核軍縮運動に参加した経緯を語り、「核兵器に費やされる資源を気候対策に回すべきだ」と訴えた。

若手活動家のケヴィン・チウ氏とヴィクトリア・ロク氏は、核政策に若者の声を反映させる重要性を共有。堀口氏は「地球は祖先から受け継いだものではなく、子どもたちから借りている」というアメリカ先住民の言葉と、「希望とは若さの別名である」との『希望の選択』の一節を引用し、若者が理想を掲げて時代を切り開く力を象徴するものとして紹介した。

Miyuki Horiguchi of SGI (left) moderates the final panel discussion, “The Intersection of Climate and Nuclear Justice: Empowering Youth for Change” Credit: SGI
Miyuki Horiguchi of SGI (left) moderates the final panel discussion, “The Intersection of Climate and Nuclear Justice: Empowering Youth for Change” Credit: SGI

文化がもたらす変革

映画監督アンドリュー・デイヴィス氏とアーティストのステラ・ローズ氏は、芸術が意識を変え行動を促す力について語った。「芸術は単に真実を映すだけでなく、それを感じさせ、行動へと導くものです」とデイヴィス氏。

シンポジウムの宣言文でも、連帯と創造性を通じた平和の促進と、文化的関与の役割が強調された。

閉会宣言:「希望」を選ぶ

シンポジウム後に発表された「希望の選択」宣言は、終末時計が「午前0時まで残り89秒」と迫る中、「核兵器のない世界は、意識的で集団的な選択によってこそ実現する」と強調。「私たちは絶望ではなく、希望を選ぶ。」と述べている。(英文へ

「希望の選択」宣言の要約
「希望の選択」宣言では、核兵器廃絶への緊急性が改めて強調された。宣言は、核抑止の論理が安全保障ではなく破滅をもたらすリスクであると断じ、核の使用・威嚇・実験がいかなる状況でも正当化されないとの倫理的立場を明示している。
さらに、核のない世界は「選択」の問題であり、連帯、創造性、市民社会の力を通じて築くべきものであると呼びかけた。文化や芸術の力にも言及し、想像力と共感を育む表現活動が、核兵器のない未来を築く鍵であると認識された。
宣言は、「希望を選ぶことは、責任ある行動を選ぶことであり、未来を信じることである」との言葉で結ばれている。(宣言の全文はこちらへ

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出生登録の進展回復は子どもの保護に不可欠

【シドニーIPS=キャサリン・ウィルソン】

多くの国では当たり前とされている新生児の出生登録だが、これは子どもの健康、保護、そして生涯にわたる福祉に深く関わる極めて重要な行為である。今世紀初頭には世界的に出生登録率が上昇したものの、過去10年間で再び低下傾向に転じている。特に太平洋諸国やサブサハラ・アフリカの一部では深刻な課題に直面しており、技術革新の導入、政治的意思の強化、そして親たちの意識向上が、こうした傾向を逆転させる鍵となる。

国連児童基金(UNICEF)の報告によると、現在5歳未満の子どものうち約75%が出生登録を受けており、2000年の60%から改善している。

しかし、ニューヨークのUNICEF本部で子どもの保護を担当するバスカル・ミシュラ氏は、近年の進展が鈍化していると警鐘を鳴らす。

「特にサブサハラ・アフリカでは急速な人口増加が登録システムの能力を上回っており、インフラの脆弱さや資金不足、政治的な優先順位の低さも要因となっています。さらに、登録には高額な手数料や煩雑な手続き、アクセスの困難さといった障壁もあります。」とミシュラ氏はIPSの取材に対して語った。

こうした障害は、出生登録率が41%にとどまる東アフリカや、26%の太平洋諸国にも見られる。国別では、タンザニアが29%、パプアニューギニアが13%、ソマリアとエチオピアはわずか3%にすぎない。世界で推定6億5400万人の5歳未満の子どもたちのうち、約1億6600万人が未登録であり、2億3700万人が出生証明書を持っていない。

「システムと社会的な障害、さらに新型コロナウィルスの余波によって過去の成果が後退しました。2030年までにすべての子どもの出生登録を達成するという持続可能な開発目標(SDGs)を実現するには、現在の進捗スピードを5倍に加速させる必要があります。」とミシュラ氏は強調する。

In Papua New Guinea, the birth registration rate is being raised with the aid of mobile registration, an important means to reach rural and remote communities and help protect children living in vulnerable circumstances. Mangem IDP Camp, Madang Province, PNG. Credit: Catherine Wilson/IPS

この課題に取り組んでいる国の一つが、太平洋諸国で最も人口の多いパプアニューギニア(PNG)だ。約1100万人が暮らすこの国は、山脈が連なる本島と点在する島々から成り、多くの人々が山道や未舗装の道路を何時間もかけて移動しなければならない環境にある。

人口の80%以上が農村部に住んでおり、北東部のマダン州では、カントリー・ウィメンズ・アソシエーションが妊産婦への保健啓発に取り組んでいる。

「一部の女性は非常に遠隔地に暮らしており、医療施設に行くには何時間もかかります。そのため、出産は村で行うのが一般的です。医療施設が老朽化している上、医療従事者もいない地域もあります。これが最大の課題です」と同団体マダン支部のタビサ・ワカ氏は語る。

母親が子どもの出生を登録するには、バスを乗り継ぎながら悪路を進み、登録所まで長距離を移動しなければならず、交通費の負担も重い。

「情報不足も大きな障害です。農村の母親たちは出生登録の重要性を知らされていませんし、地域の伝統や慣習によって、出産は村でしかできないとされているところもあります。」とワカ氏は続ける。政府の統計によれば、PNGでは出生の半数以上が医療機関ではなく自宅で行われている。

それでもPNGでは近年、大きな進展が見られる。2023年から2024年にかけて、出生証明書の発行数は2万6000件から7万8000件へと3倍に増加。昨年7月にはUNICEFの支援で、手持ち型の出生登録デバイス44台が政府に提供され、地域への訪問登録が開始された。

Births are registered and birth certificates issued to mothers at Nijereng Primary Health Centre, Adamawa State, Nigeria. Photo credit: UNICEF/Esiebo

さらに昨年12月、同国議会は国民身分登録制度を整備する法案を可決。ジェームズ・マラぺ首相は11月に「私たちの政府は全国にわたる包摂的な政策を推進しており、正確かつ信頼できる身元情報は、公共サービスの提供や国民の福祉に極めて重要です」と述べている。

UNICEFパプアニューギニア事務所の子どもの保護担当責任者ポーラ・バルガス氏は、「目標は年間50万人の出生登録です。その実現には、技術の拡充とキットの全国展開、そして証明書発行の分権化が必要です。」と指摘する。「現時点では、手作業で出生証明書に署名する権限がある職員が国内に1人しかおらず、これが大きなボトルネックになっています。」

一方、世界の未登録児の半数以上が暮らすサブサハラ・アフリカでは、エチオピアも同様の課題に直面している。

アフリカ東部の角(ホーン)に位置するエチオピアは、PNGの2倍以上の面積を持ち、出生率は人口1000人あたり32人で、世界平均の16人の2倍となっている。1億1900万人を超える人口の大半が広大な遠隔地に住んでいる。

政府は出生登録を無料としており、医療拡充員への研修も進めているが、都市部と農村部との格差は依然として大きい。登録完了のために複数回役所に行かなければならず、距離と交通費が農村の親たちにとっては大きな負担となっている。南部諸民族州(SNNP)では出生登録率がわずか3%で、首都アディスアベバの24%と比べても大きな差がある。

エチオピア・ゴンダール大学の公衆衛生学助教授タリク・ニガツ氏は、次のような改善策を提案する。「出生登録サービスを保健システムに統合し、リソースを確保して介入を支援し、リアルタイムでの出生報告が可能なインフラを整備すべきです。」

UNICEFもまた、エチオピアの不安定な地域や人道危機下にある遠隔地の医療従事者にモバイル登録キットを提供している。ミシュラ氏は「これにより、緊急時や避難中に生まれた子どもたちも法的な身元と保護から取り残されることがないようにしています」と述べた。エチオピアでは2020年から2022年の内戦後、北部ティグレ地域で人道危機が続いている。

一部の地域社会には出生登録に対する誤解や迷信も残っていると、ニガツ氏は指摘する。

「生後すぐに人間として“数える”と不運を招くという迷信が一部にあります。新生児が生き延びるか分からない段階では、人間として認めるべきではないと考えられているのです。」この背景には、エチオピアの新生児死亡率が1000件中30件と高く、そのうち半数が出生24時間以内に亡くなるという現実もある。

Birth registration is the first step to reducing the risk of children being exploited, abused, trafficked and coerced into child marriage. A young mother in Mozambique ensures her newborn is protected with a birth certificate and legal identity. Photo credit: UNICEF/Fauvrelle

出生登録が一生の重要性を持つことを、社会全体で理解しなければならない。公式な存在を持たない無数の子どもたちは、貧困からの脱出、性的搾取や虐待、児童労働や人身売買のリスクから身を守ることが難しくなる。法的保護や投票権、正規雇用、財産権の取得にも障害が生じる。

しかし出生登録は、子どもたちの保護と福祉に向けた第一歩にすぎない。

「登録が効果を持つのは、それがワクチン接種、病院での出産、学校入学などのサービスと連携している場合に限ります。」とミシュラ氏は語った。

そしてより広い視点で見ると、出生および人口データの正確な把握は、政府が公共サービスや国家開発を計画する上で不可欠であり、SDGsの進捗を評価するためにも極めて重要である。(原文へ

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米国が世界の舞台から後退する中、軍事衝突が歴史的水準に

オスロ、ノルウェーIPS=ピース・リサーチ・インスティチュート・オスロ(PRIO)】

世界は第二次世界大戦後で最も暴力的な時代に突入している。PRIOが発表した報告書『Conflict Trends: A Global Overview(紛争動向:世界概観)』によると、2024年には過去70年以上で最多となる36か国で61件の国家ベースの武力衝突が記録された。

「これは単なる一時的な急増ではありません。構造的な変化です。現在の世界は10年前と比べ、はるかに暴力的で分断が進んでいます」と、PRIOの研究ディレクターで報告書の筆頭著者であるシリ・オース・ルスタッド氏は警告する。

「米国をはじめとする大国が、国際的関与から後退する時ではありません。世界的な暴力の増加を前に孤立主義に転じるのは、長期的にみて甚大な人的被害をもたらす大きな過ちです。」

この報告書は、スウェーデンのウプサラ紛争データプログラム(UCDP)のデータに基づいている。
それによれば、2024年の戦闘による死者数はおよそ129,000人で、2023年と同水準にとどまったものの、この数値は過去30年間の平均を大きく上回っている。2024年は冷戦終結以降で4番目に致命的な年となった。

戦場で特に注目を集めたのは、ロシアのウクライナ侵攻(推定死者76,000人)とガザ戦争(同26,000人)の2大戦争だ。しかし、これらの大規模戦争は氷山の一角にすぎない。

特に懸念されるのは、単一国家内で複数の武力衝突が発生しているケースが急増していることだ。現在、紛争に巻き込まれている国の半数以上が2件以上の国家ベースの紛争を抱えており、そのうち9か国では3件以上の武力衝突が同時進行している。

「いまや紛争は孤立したものではなく、重層的で国境を超え、終結が困難になっています。」とルスタッド氏は述べる。「どの政権の下であろうと、米国が国際的連帯を放棄することは、第二次世界大戦後に同国が築いてきた安定そのものを手放すことになるのです。」

報告書では、武装勢力の活動拡大が新たな暴力の主因となっていることも明らかにされている。イスラム国(IS)は依然として12か国で活動を継続しており、西アフリカの5か国ではJNIM(イスラムとムスリムの支援のための集団)が勢力を拡大している。

最も多くの紛争が記録されたのはアフリカ地域で28件。これは10年前のほぼ倍に相当する。次いでアジアが17件、中東が10件、欧州が3件、アメリカ大陸が2件だった。

ルスタッド氏は次のように警鐘を鳴らしている。

「我々の分析は、世界の安全保障状況が改善していないどころか、深刻に断片化していることを示しています。国際社会の継続的な関与がなければ、市民の安全、地域の安定、そして国際秩序そのものがさらに深刻なリスクにさらされるでしょう。」(原文へ

👉 こちらからPRIO報告書『Conflict Trends: A Global Overview, 1946-2024』全文をダウンロードできます。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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