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軍事政権が支援を妨害、地震被災地に空爆命令

【ロンドン/マンダレーIPS=ガイ・ディンモア】

僅かな希望をつなぐように、ミャンマーとトルコの救助隊は4月2日の早朝、首都ネピドーのホテルのがれきの下から一人の男性を生存状態で救出した。地震発生から5日目のことだった。しかし、3月28日に壊滅的な地震が発生した後のミャンマー中央部では、生存者の発見はほとんど望めないとされている。現在、人道支援にあたる関係者たちは、内戦下という困難な状況の中で、遺体袋、医薬品、食料や飲料水の供給に苦しんでいる。

気温が40度近くに達する中、かつては集合住宅、病院、政府施設、仏教寺院、モスク、市場、学校、保育所だった瓦礫の山からは、死臭が漂っている。多くの犠牲者は、日中に発生した地震の最中に建物内にいた子どもたち、金曜礼拝中のイスラム教徒、公務員や試験を受けていた僧侶たちだった。

これまでに確認された死者数は3,000人を超え、その中には幼稚園が崩壊したことで命を落とした50人の子どもと2人の教師も含まれると、国連の緊急援助調整官は報告している。国連はまた、首都ネピドー周辺の1万棟の建物が「崩壊または深刻な損傷を受けた」としている。

「遺体袋、消石灰、消毒用水、飲料水、乾燥食品」—これが、タイ国境付近に拠点を置く市民社会組織が設立した「ミャンマー緊急対応調整ユニット」から最も緊急に必要とされている支援物資のリストである。

The Great Wall Hotel in Mandalay on March 31, three days after the 7.7 magnitude quake hit central Myanmar. Credit: IPS Reporter
The Great Wall Hotel in Mandalay on March 31, three days after the 7.7 magnitude quake hit central Myanmar. Credit: IPS Reporter

2021年に民選政府を武力で追放した軍事政権は、意外にも素早く国際支援を要請したが、少なくとも戦闘の一時停止への期待はすぐに打ち砕かれた。軍は今もなお、反体制勢力と民間人への空爆を続けている。

追放された民選政府を代表する「国民統一政府(NUG)」の部隊は、一方的に2週間の攻撃停止を宣言したが、これに対する軍事政権の反応はない。

支援要員としてミャンマーへの入国が許されているのは、中国やロシア(軍事政権に対する主要な武器供給国)をはじめ、タイ、インドなど「友好国」とされる国々に限られている。地震の経験が豊富なイタリアの災害専門家チームも待機していたが、ビザ(査証)が発給されることはなかった。

ミャンマー担当国連特使で元オーストラリア首相のジュリー・ビショップ氏は、「すべての当事者に対し、直ちに敵対行為を停止し、民間人(支援要員を含む)の保護と命を守る支援の提供に尽力するよう」求めた。彼女はまた、国連機関とそのパートナーが、すべての被災者に支援を届けられるよう、軍事政権に対し安全で妨げのないアクセスの許可を強く要求した。

マンダレーの地元記者は、「燃料と水の不足が深刻です。電力もありません。道路や橋が壊れているため、燃料が地震被災地に届かない」と語る。「現地の人々は国際支援を受けていません。多くの地元住民が、食料や水、その他基本的な物資を自発的に提供しています」とも述べた。

マンダレー(地震の震源に近い、同国第2の都市で軍の支配下)や抵抗勢力が支配する農村部への支援を、市民団体やボランティアが苦労して届けようとしている。

「マンダレーに向かう若者グループがカローやインレー湖を通過する際に拘束されたという報告が複数あります。数十人にのぼります。友人たちが彼らの解放を求めて助けを求めてきました。中には徴兵される可能性のある男性も含まれていました。」と、ある活動家は他の人々に警告するメッセージを送った。

死者数は日々増加しており、4月1日には軍事政権トップのミン・アウン・フライン将軍が、テレビ演説で「2,719体の遺体が収容された」と発表。一方、民主的報道機関DVB(Democratic Voice of Burma)は3,195人の死亡を確認したと報告している。負傷者は数千人にのぼる。

A building reduced to rubble in Thapyaygone market in the capital Naypyitaw following the March 28 earthquake that has killed over 3,000 people. Credit: IPS Reporter
A building reduced to rubble in Thapyaygone market in the capital Naypyitaw following the March 28 earthquake that has killed over 3,000 people. Credit: IPS Reporter

地震発生から4日が経っても、通信手段が遮断されているミャンマー中央部の広範囲からの情報はほとんど入ってこない。軍事政権は反体制派や各地の少数民族武装勢力、「人民防衛隊(PDF)」が拠点とする地域を隔離しようと、通信インフラを遮断している。

地震は道路や橋、送電線を破壊。大都市ヤンゴンは被害が少なかったものの、停電と水不足に見舞われている。

国連ミャンマー担当特別報告者のトム・アンドリュース氏は、「支援の妨害、救助隊員の入国拒否、継続的な空爆」について一貫した報告があると述べた。NUGによると、4月1日未明には全国7カ所への空爆が報告された。

Map of Myammar
Map of Myammar

現在、軍事政権の統治が及ぶのは国土の3分の1程度とされているが、人口の多い都市部(ヤンゴン、マンダレー、新首都ネピドー)は依然として支配下にある。一方、NUGは、連邦民主制の樹立を目指す並立政府として、国際社会に支援の動員を訴えている。

ミャンマー内外の265の市民団体が出した別の声明では、「支援は軍政ではなく、NUGや少数民族抵抗勢力、市民社会団体を通じて届けるべき」と求めている。

「この災害支援が、軍政の政治的・軍事的利益のために利用されたり、操作されたり、武器化されたりしてはならない。」と公開書簡は強調している。

2008年のサイクロン・ナルギスの際、前軍事政権が国際支援を拒否し、憲法改正の国民投票前に支援を操作したことで、約10万人が犠牲となったという過去の教訓を引き合いに出している。

声明は、ミャンマーにすでに駐在している国連機関に対しても、「過去4年間、軍事政権が支援提供を妨害してきた事実を踏まえ、今後もそのようなことが起こらないよう注意を払うべき。」と警告した。

仮に軍事政権が空爆を停止し、支援機関に完全なアクセスを許可したとしても、長年の紛争と弾圧によって荒廃したミャンマーには、今後膨大な支援が必要とされるだろうが、その見通しは立っていない。

地震発生前の3月時点で、国連はすでに「約2,000万人(国民の3分の1以上)が人道支援を必要としており、350万人が国内避難民」と警告していた。国境を越えて避難した人も数百万人にのぼり、バングラデシュの世界最大の難民キャンプには90万人以上が暮らしている。

わずか数週間前、軍事政権はマンダレーで私立病院やクリニックを閉鎖していた。そこでは、反軍政の「市民不服従運動(CDM)」に参加した元公立病院の医療従事者が働いていた。

ミャンマーをインド洋に通じる戦略的回廊と見なす中国は、支援とともにレスキューチーム「藍天救援隊(ブルースカイ)」を迅速に派遣。マンダレーでは軍政と密接に連携して活動している。

地震前には、トランプ政権が国境地域のCSOや難民支援などに充てられていた米国の援助を大幅に削減しており、それが中国の影響力拡大に拍車をかけていた。

アンドリュース特別報告者は、地震の約2週間前、ジュネーブの国連人権理事会で演説し、「軍事政権が病院、学校、喫茶店、宗教施設、祭り、国内避難民キャンプを戦闘機やヘリコプターで攻撃している。」と非難。さらに、「米国の突然で混乱した援助削減は、家族、難民キャンプ、人権活動家に壊滅的な影響を与えている。」と訴えた。世界食糧計画(WFP)も、米国など主要ドナーの予算削減により、100万人への食料支援が打ち切られると発表していた。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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「生存の種」:紛争下のスーダン、農業の未来を守るための闘い

【ブラワヨIPS=ブサニ・バファナ】

スーダンの多様な作物と農業の遺産が失われる危機に瀕している。続く紛争は人命を奪い、生計と食糧安全保障を脅かしている。

この混乱の中、アリ・バビカー氏のような科学者たちは武器ではなく「種子」でスーダンの未来の食糧安全保障を守るために闘っている。

Map of Sudan
Map of Sudan

スーダンは農業の未来を守るため、スヴァールバル世界種子貯蔵庫(Svalbard Global Seed Vault)に重要な種子を預けるという重要な決断を下した。氷に覆われた北極の奥深くに位置するこの施設は、世界の重要な作物を保護するために設立された。この預け入れはスーダンにとって6回目の種子預託となり、スーダンの農業資源を未来に残す鍵となる。

今回の貯蔵には、ソルガム、パールミレット、トウモロコシ、ササゲ、キマメ、ソラマメなどの主要作物の種子が含まれている。また、トマト、ピーマン、オクラ、ナス、メロンといった野菜の種子も預けられた。

スーダンは、戦争の影響で2シーズン続けて農業ができず、国連は「衝撃的な規模と残虐さを伴う大惨事」として、持続的かつ緊急の対応が求められていると警告している。

スーダンの食糧未来を守る闘い

Ali Babiker, Director of Sudan’s Agricultural Plant Genetic Resources Conservation and Research Centre. Credit: BOLD

スーダンの農業植物遺伝資源保存研究センター(APGRC)の所長であるアリ・バビカー氏は、ワド・メダニ市(東部スーダン)にある国立遺伝資源バンクで重要な種子の収集と保存に取り組んできた第一人者である。

このセンターは40年以上にわたり、食料と農業のための植物遺伝資源、作物や植物の野生種や栽培種を収集してきた。しかし、戦争はそのすべてを破壊した。

「戦争によって遺伝的多様性の一部を失う可能性があり、これはスーダンだけでなく、地域全体の食糧安全保障にも影響を与える」とバビカー氏はIPSの取材に対して語った。彼は、スーダンが東アフリカと西アフリカにまたがる多くの作物(ソルガムやパールミレット)の主要多様性地域の一部であることを強調した。

幸い、スーダン国内外で遺伝資源(ゲノムプラズム)の複製を行っていたおかげで、スーダンは農業遺産を失わずに済んでいる。

「スヴァールバル世界種子貯蔵庫にスーダンのゲノムプラズムの複製を預けることで、私たちは今でも遺伝資源を守ることができている。こうした施設を無償で提供してくれた多くのパートナーに感謝している」とバビカー氏は語る。しかし、彼は嘆きながら、「農民の保存種子や穀物はすべて略奪され、市場で安値で売られてしまった。また、灌漑システムが遮断されたため、農業シーズンは完全に失敗した」と述べた。

「この2年間、作付けは一切行われなかった」とバビカー氏はIPSに語った。さらに、国家遺伝資源バンクの種子を守ろうとする試みも「即応支援部隊(RSF)」によって阻止され、バンクへの立ち入りは許可されなかった。

長年、スーダンの遺伝資源バンクは17,000以上の種子アクセス(品種)をアルミホイルパケットに詰め、35台の大型冷凍庫に保管してきた。

「私たちのコレクションはスーダンの遺伝的多様性を代表しており、戦争がワド・メダニに及んだ際には、バンクの施設も略奪され、冷凍庫までもが持ち去られた」とバビカー氏は振り返る。

スーダンの農業多様性の豊かさ

「スーダンには多様な食用作物がある」とバビカー氏は語る。彼は大学で植物多様性に関心を持ち、国立遺伝資源バンクで働く機会を得た。

「中部、東部、南部のスーダンの人々は主にソルガムを食べ、西部の人々はパールミレットに依存し、北部の人々は小麦を主食にしている。」

国連と人道支援パートナーは、スーダンで2600万人に支援を提供するため、60億ドルの対応計画を立ち上げている。22カ月に及ぶ紛争により、スーダン全土で3000万人以上が援助と保護を必要としており、国連によると、国民の半数近くが「深刻な飢餓」に苦しんでいる。

スーダンの農業遺産を守る闘いは、紛争下でも人々と植物の持つレジリエンス(回復力)を示している。

世界の種子バンクが直面する危機

Gene banks are strategic depositories for preserving seed diversity for agricultural security. Credit: Busani Bafana/IPS

世界中の種子バンクは、未来のために種子を保存するという使命を果たす上で、多くの課題に直面している。

スヴァールバル世界種子貯蔵庫は、キャリー・ファウラー氏とジェフリー・ハウト氏によって構想された施設で、大きな役割を果たしている。

ファウラー氏(元米国グローバル食糧安全保障特使、世界食糧賞受賞者)はIPSの取材に対して語った。

「私はずっと、スヴァールバル世界種子貯蔵庫が不要になる世界を望んでいた。世界中の種子コレクションが完全に安全で、将来にわたってその安全が保証される世界を。しかし、残念ながら、私たちはそのような世界には住んでいない。」

ファウラー氏は、スヴァールバル世界種子貯蔵庫の重要性を強調する。例えば、内戦の戦火に見舞われたシリア・アレッポでかつて保管されていた主要なコレクションは、この貯蔵庫のおかげで救出・復元された。

「種子貯蔵庫が一度も使われない保険のようなものであれば、それでも設立にかかった努力と資金は正当化される。しかし、私はこれが最後になるとは思えない。その間、種子貯蔵庫は作物の多様性の保護の重要性を人々に啓発し、行動を促し続けるだろう」とファウラー氏は述べた。

スヴァールバル貯蔵庫:世界の遺伝資源の保険

Entrance to the Seed Vault during Polar Night, highlighting its illuminated artwork / By Subiet - Own work, CC BY-SA 4.0
Entrance to the Seed Vault during Polar Night, highlighting its illuminated artwork / By Subiet – Own work, CC BY-SA 4.0

現在、貯蔵庫には85カ国の123の遺伝資源バンクからの種子コレクションが保管されている。2023年には51,591品種の種子が保管されていたが、昨年は64,331品種に増えた。クロップ・トラスト(Crop Trust)のプロジェクト・スペシャリストであるベリ・ボングリム氏は、紛争や気候変動の危機が各国にスヴァールバルへの種子預託の必要性を高めていると指摘する。

「スーダンの紛争はその良い例だ」とボングリム氏は述べる。

スーダンでは、BOLD(生物多様性・機会・生活・発展)プロジェクトの支援を受けて、APGRCの職員が数百点の種子サンプル(ソルガムやパールミレットなど)を準備し、武装警護の下で市外に運び出した。そして、ノルディック遺伝資源センター(NordGen)の協力により、これらの種子はスヴァールバル世界種子貯蔵庫へ安全に輸送された。

「遺伝資源バンクは、洪水、台風、地震、経済的困難、政治的不安定など、自然災害や人為的要因によるリスクにさらされており、貴重な遺伝資源が永久に失われる危険がある」とボングリム氏は警告する。

持続的な資金不足:発展途上国の種子バンクの課題

ボングリム氏によれば、発展途上国の遺伝資源バンクにとって、最も深刻な課題は資金不足と不安定な資金調達だという。

「多くの遺伝資源バンクは限られた財政資源で運営されており、短期的なプロジェクト資金に大きく依存している。しかし、その資金の確保は難しい。財政的不確実性は、種子の再生産、インフラの維持、スタッフの給与など、重要な活動に影響を与え、最終的には世界の作物多様性の保全という役割を脅かしている。」

ノルウェー政府の資金で、BOLDプロジェクトは30カ国の42のパートナーを支援し、スヴァールバルへの種子の複製と保護を促進している。

この10年間のプロジェクトは、作物の多様性の保存と利用を通じて、世界の食料と栄養の安全保障を強化することを目的としている。クロップ・トラストが主導し、ノルウェー生命科学大学と国際植物遺伝資源条約が協力している。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU

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米国の暴走で国連も標的となるのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

トランプ政権は、上級顧問であるイーロン・マスク氏の主導で暴走を続けている。政府職員の大量解雇、連邦機関の解体、教育省とUSAID(米国国際開発庁)の廃止、連邦判事への挑戦、大学への助成金・契約の大幅削減の脅し—これらの決定は、新設された「政府効率化省(Department of Government Efficiency, DOGE)」によって主導されている。

Elon Musk is a technology entrepreneur, investor, and engineer./ By Debbie Rowe - Own work, CC BY-SA 4.0
Elon Musk is a technology entrepreneur, investor, and engineer./ By Debbie Rowe – Own work, CC BY-SA 4.0

そして、さらなる動きも予想されている。

この一連の削減は、「無駄な支出」にメスを入れるためにマスク氏が巨大なチェーンソーを振り回すイメージとして象徴されている。

しかし、解雇とその後の撤回、方針の二転三転により、首都ワシントンは混乱に陥っている。
さらに、政治的な怒りが日常化しつつある。

テック界の億万長者であり、事実上トランプ大統領の「首相」のように振る舞うマスク氏は、アメリカが北大西洋条約機構(NATO)と国連(UN)を脱退すべきだと訴えている。彼は右派政治評論家の投稿に対し「その通りだ。もうアメリカがNATOと国連に留まる時代は終わった」と同意するコメントを寄せた。

国連脱退の脅威は、共和党議員らが米国の国連脱退法案を提出したことでさらに強まっている。彼らは、国連がトランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策に合致していないと主張している。

1947年に締結されたこの協定は、ニューヨークのタートルベイ地区(かつての屠殺場跡地)に国連本部を設立するための国際条約である。国際法上、条約は通常、締約国に対して拘束力を持つ。しかし、米国には条約から脱退するための憲法上の手続きが存在する。

ウォール・ストリート・ジャーナルの2025年3月14日付記事「国連はニューヨークでアメリカを搾取している。」で、ヘリテージ財団の上級研究員でジョージ・メイソン大学法学部教授のユージーン・コントロビッチ氏は、次のように述べている。

「第二次世界大戦後、国連の戦争防止能力への楽観論の波の中で、米国は新設された国連本部のホスト国となることを申し出た。ジョン・D・ロックフェラー・ジュニア氏は土地を寄付し、ワシントンは今の価値で数十億ドルに相当する無利子融資を提供した。」

協定では、「国連本部地区がその目的に使用されなくなるまで移転はできない」と明記されているが、一部の国連関係者はこれを「国連が追放されることはない」と解釈している。

しかし、コントロビッチ氏はこう指摘する。

「この協定は条約であり、国際法の原則では条約は明示的な規定がない限り、締約国の意思次第で終了させることができる。仮に不可逆的な協定が意図されていたならば、議会が批准する際にその点を明示していたはずだ。」

彼はさらに、「トランプ大統領は1947年の協定を見直すべきだ。これはひどい不動産取引だった。」と主張している。

サンフランシスコ大学の政治・国際研究学教授であるスティーブン・ズネス博士はIPSの取材に対して、「国連本部を米国から移転するという考えは長年、極右勢力によって主張されてきたが、ほとんどの場合、真剣に受け止められていなかった。」と語った。しかし、ズネス博士は、「トランプ政権はこれまで、最も過激なイデオロギー主導の提案さえも政策として実行に移してきた。」と指摘する。

1988年、レーガン政権がPLO議長のヤーセル・アラファト氏の国連での演説を認めず、総会がジュネーブに移動して演説を聞いた出来事も、米国が条約義務を履行しなかった例だ。

「国連本部の移転は、第二次世界大戦後の米国の国際的リーダーシップの象徴の終焉を意味するだろう。」

USAID
USAID

ズネス博士は、USAID(米国国際開発庁)、フルブライト・プログラム、その他の国際協力の象徴を解体するというトランプ政権の決定と相まって、米国が国際協調の主導的地位を放棄することになると警告している。

「一方で、民主党政権下でも、バイデン政権のイスラエルのガザ戦争、パレスチナ国家承認、国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)、その他の国連機関に関する方針を見ると、米国は国際社会の主導者というよりも、むしろ逸脱者になりつつある。」

ズネス博士は、国連本部が「より中立的な場所」に移転されることは、結果的には良い方向に進む可能性があるとも述べている。

これまでに米国は、国連人権理事会(UNHRC)と世界保健機関(WHO)から脱退し、さらに国連教育科学文化機関(UNESCO)および国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)にも「再評価が必要だ」と警告している。これは、これらの機関からの米国撤退の脅しとも受け取れる。

さらに、国連人口基金(UNFPA)への3億7,700万ドルの資金提供も削減された。

国連機関がすでに一部の機能を米国外に移転する動きも始まっている。

Antonio Guterres/ DFID - UK Department for International Development - CC BY-SA 2.0
Antonio Guterres/ DFID – UK Department for International Development – CC BY-SA 2.0

アントニオ・グテーレス国連事務総長は先月の記者会見で、「ナイロビにサービス拠点を設置するための投資を進めており、UNICEF(国連児童基金)とUNFPA(国連人口基金)は近く主要業務をナイロビに移転する予定だ」と述べた。

セットンホール大学外交・国際関係学部のアカデミック・学生担当副学部長であるマーティン・S・エドワーズ教授はIPSの取材に対し、「米国の国連脱退の意図が何であるかは不明だ」としながらも、こう述べた。

「明らかなのは、これは巨大な過ちになるということだ。トランプ政権は支持基盤の一部に媚びるためだけに、中国に巨大な外交的勝利を与えることになるだろう。中国は国連本部を引き受けるチャンスに飛びつくに違いない。」

彼は、「仮にホワイトハウスが国連を重要視していなければ、エリース・ステファニック氏を国連大使に指名することはなかったはずだ」と強調した。

ワシントン・エグザミナーの2025年1月の記事によると、下院共和党のナンバー4であり、次期国連大使であるエリース・ステファニック氏は、国連への資金提供を精査し、必要であれば予算削減を進めると誓っている。

「私は議員として、米国の納税者の資金を慎重に管理する必要性を深く理解している。米国は国連への最大の資金提供国である。私たちの税金が、米国の利益に反し、反ユダヤ主義、汚職、テロに関与する組織を支えることは許されない。」

現在、米国は国連の通常予算の22%、平和維持活動の27%を負担しているが、通常予算への拠出金の未払い額は15億ドルに上っている。さらに、通常予算、平和維持活動、国際法廷への拠出金を合わせると、米国の未払い額は28億ドルに達している。(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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【モンテビデオIPS=イネス・M・ポウサデラ

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は壊滅的な財政危機に直面しており、5,000~6,000人の職員が解雇される可能性があります。戦争、弾圧、飢餓、気候災害から逃れてきた何百万人もの人々にとって、これは壊滅的な結果をもたらしかねません。第二次世界大戦で欧州からの避難民を支援するために設立されたこの75年の歴史を持つ機関は、現在、前例のない財政危機に直面しています。その主な原因は、米国の対外援助の凍結であり、そしてその影響が現れるタイミングは最悪です。

Ines M . Pousadela
Universidad ORT Uruguay, International Affairs, Faculty Member
Ines M . Pousadela
Universidad ORT Uruguay, International Affairs, Faculty Member

危機の連鎖が生む悲劇

CIVICUS(シビカス)の第14回年次「市民社会の現状報告書」によると、紛争、経済的苦境、気候変動といった一連の危機が重なり合い、移民や難民を脅かす「完全な嵐」が生み出されています。各国政府が国際連帯と人権の原則を放棄しつつある中、移民たちはより敵対的な政策や危険な旅路に直面しています。

2024年には、世界中の移動ルートで8,938人が死亡し、史上最悪の年となりました。多くの死亡事故は、地中海や米大陸を横断するルート、カリブ海、コロンビアとパナマを結ぶダリエン地峡、メキシコと米国の広大な国境で発生しました。先週だけでも、地中海で船が転覆し、6人が死亡、40人が行方不明になっています。

こうした悲劇は、2024年を通じて繰り返されました。3月には、セネガル人の母親と赤ちゃんを含む60人が、地中海でゴムボートが漂流し、脱水症状で死亡しました。6月には、米国の国境警備隊がアリゾナ州とニューメキシコ州の砂漠で7人の移民の遺体を発見しました。9月には、イタリアのランペドゥーザ島沖で転覆した船の側面にしがみついていた7人が発見されましたが、彼らは家族を含む21人が目の前で溺死するのを目撃していました。

これらの悲劇は、事故でも政策の失敗でもありません。これは、倫理的に擁護できない政治的選択の予測可能な結果です。

現実はレトリックとは異なる

移民が裕福な国々を圧倒しているというポピュリストの言説は、事実と矛盾しています。世界の難民の少なくとも71%は依然としてグローバルサウス(南半球の国々)に留まっており、バングラデシュ、コロンビア、エチオピア、ウガンダなどの国々は、ほとんどの欧州諸国よりもはるかに多くの避難民を受け入れています。それでも、グローバルノース(北半球の先進国)の政府は国境管理を強化し、移民の到着を防ぐために移民管理を外部委託しています。

米国では、トランプ大統領の2期目が始まり、南部国境で「国家非常事態」を宣言し、軍隊の派遣と大量強制送還を約束しています。移民を「侵略者」と見なすこのレトリックは、歴史的に見ても致命的な結果につながる可能性があります。

欧州でも状況は悪化しています。イタリアは亡命希望者をアルバニアの収容施設に移送しようとしており、オランダは却下された亡命希望者をウガンダへ送還する計画を提案しています。ウガンダではLGBTQI+の人々に対する人権侵害が続いており、この提案は明らかに人権を無視したものです。欧州連合(EU)は、エジプトやチュニジアの権威主義政権と論争の多い協定を拡大し、移民の欧州への到達を阻止するための資金提供を続けています。

さらに、反移民のレトリックは効果的な選挙戦略となりつつあります。多くの国で極右政党は反移民キャンペーンで大きな支持を得てきました。ドナルド・トランプ再選にも、この排他的な言説が重要な役割を果たしました。反ハイチ感情が広がるドミニカ共和国や、インドでの反バングラデシュ人キャンペーンに至るまで、排外主義の動員は欧米だけでなく、世界中で広がっています。

攻撃される市民社会

移民への人道支援を提供する市民社会組織は、ますます犯罪者扱いされています。イタリアでは、救助団体に1回の航海で複数の救助を行うことを禁止し、違反すると巨額の罰金が科せられます。また、救助船を遠方の港に誘導することで、意図的に稼働する救助船の数を減らす政策が進められています。その結果、2024年だけでも地中海で記録された移民の溺死者は2、400人を超えました。

チュニジアの大統領は、アフリカ系移民の権利を擁護する人々を「裏切り者」とし、傭兵扱いして、刑事告発や投獄を進めています。

それでも、市民社会は移民と難民の人権を守るための活動を続けています。市民団体は、ダリエン地峡からバングラデシュのコックスバザールまで、避難民キャンプで命を救う活動を維持しています。法的支援団体は、複雑化する亡命制度を乗り越え、保護を受けられるよう移民を支援しています。地域団体は、言語教育、職業紹介、社会的つながりを通じて統合を促進しています。人権団体は、国家当局が移民の人権を侵害した場合に説明責任を追求しています。

しかし、彼らは今、資源の大幅な減少と、ますます敵対的な環境の中で活動しています。かつて重要だった保護メカニズムは、前例のないニーズがあるにもかかわらず、解体されつつあります。国境がさらに硬直化し、安全な移動経路が消滅すれば、より多くの人々が危険な旅に身を投じ、死に至るリスクが高まります。連帯への犯罪化は、最も弱い立場の人々にとっての生命線を断つ危険があり、非人間的なレトリックは差別を正常化し、無関心と残虐さを制度化しています。

別の道は可能だ

恐怖に基づく反応的な政策ではなく、人間の尊厳を守りながら移動の複雑な要因に対処する包括的なアプローチが求められています。紛争防止、気候変動対策、持続可能な開発を通じて、強制移動の根本原因に対処することが不可欠です。同時に、より多くの合法的な移民経路の確保、人道支援の犯罪化の停止、統合支援への投資も必要です。

移民を「存在的脅威」と見なす基本的な前提に挑戦し、移民を「管理すべき現実」かつ「受け入れ社会の資産」として扱う必要があります。歴史的に見ても、新たな住民を受け入れた社会は、経済的、文化的、社会的に大きく恩恵を受けてきました。

前例のない規模の移動が続く世界では、問題は「移民が続くかどうか」ではなく、「その過程が残虐さで管理されるのか、思いやりで管理されるのか」です。CIVICUSの「市民社会の現状報告書」は明確に示しています。移民と難民への対応は、社会の価値観を試すリトマス試験紙です。各国の対応は、「すべての人間が、生まれた場所や持っている書類に関係なく、尊厳を持つに値する」という共通の人間性へのコミットメントが本物かどうかを示すでしょう。(原文へ

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INPS Japan

イネス・M・ポウサデラはCIVICUSの上級研究員であり、CIVICUS Lensの共同ディレクターおよび「市民社会の現状報告書」の共同執筆者です。

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【ウィーンINPS Japan=オーロラ・ワイス】

過去80年近くにわたり、世界は核時代の危険と向き合いながら歩んできた。冷戦時代の緊張や国際テロの台頭にもかかわらず、核兵器は1945年の広島・長崎への原爆投下以来、戦争で使用されていない。戦略的抑止、軍備管理・不拡散協定、さらには国際的なテロ対策といった取り組みにより、核関連の事件は防がれてきた。しかし、これまでの成功が未来を保証するものではなく、他の課題が注意や資源を奪い、核テロの脅威が存在しなくなったかのような認識を生む危険性がある。放射能を利用したテロにはさまざまな手段があり、核兵器の爆発、即席核兵器(IND)の使用、放射性物質拡散装置(いわゆる「汚い爆弾」)、あるいは放射性物質の放出などが考えられる。

この1カ月間、世界各地で核安全保障に関するさまざまな動きがあった。ドナルド・トランプ政権が米国の核政策にどのように取り組むのか、不確実性が残っている。新政権は発足直後、多くの国際機関への資金提供を打ち切ったが、非公式の安全保障協議によると、核軍縮や核実験禁止に関する国際機関への資金供給は停止されていなかった。新たな米国政府は、大量破壊兵器(WMD)のテロ利用防止に取り組む国際機関への支援を継続した。

この分野をリードしているのが、オーストリア・ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)である。同事務所は約20年にわたり、核テロ防止に関する国際的な法的枠組みの普及と実施を推進しており、「核テロリズム防止国際条約(ICSANT)」を含む国際的な法制度の整備を進めている。核物質やその他の放射性物質が不正に流出し、テロや犯罪に利用されるリスクは、現代社会における最大の懸念の一つである。こうした脅威に対応するため、国際社会は共通の立法基盤を確立しようとしている。2022年の国連安全保障理事会決議1540(UNSCR 1540)の包括的レビュー最終報告によれば、加盟国によって同決議の措置のうち約半数が実施されたとされている。

マリア・ロレンソ・ソブラド氏は、国連薬物犯罪事務所(UNODC)における国連安全保障理事会決議1540の担当官であり、UNODCテロ対策部のCBRN(化学・生物・放射線・核)テロ対策プログラムの責任者を務めている。このプログラムは、CBRNテロ防止に関する国際的な法的枠組みの普遍化を推進し、各国によるその効果的な実施を支援している。

Maria Lorenzo Sobrado CBRN Terrorism Prevention Programme at UNODC. Credit: Ecuadorian Foreign Ministry

法学の専門家であるソブラド氏は、大量破壊兵器の不拡散に関する修士号および核法に関するディプロマを取得している。UNODCが加盟国への支援を通じてCBRNテロ防止に果たす重要な役割は、前述の国連総会決議やその他の国際的な場において認められている。

UNODCは、国連グローバル対テロ調整コンパクトの「新興脅威および重要インフラ保護ワーキンググループ」のメンバーであり、また「大量破壊兵器およびその関連物質の拡散防止に関するグローバル・パートナーシップ」のオブザーバー、「放射線・核緊急事態に関する国際機関連携委員会」の協力機関などを務めている。

この分野において、UNODCは国内・地域・国際レベルでのワークショップ、立法支援、刑事司法関係者向けの能力構築支援など、幅広い活動を展開してきた。これまでの経験から、UNODCは次のような重要な教訓を得ている。すなわち、各国や地域の特性に応じた個別対応の必要性、他の支援機関との協力・連携の重要性、法的アプローチと技術的アプローチを組み合わせる有効性、そして刑事司法関係者向けの研修の決定的な役割である。

これらの活動を支援するために、UNODCは模擬裁判、eラーニングコース、ウェビナー、ICSANT(核テロ防止条約)に関連する架空事例のマニュアルなど、さまざまなツールを開発している。

核テロに関する最新の動向

この1か月の間に、世界の核セキュリティ分野ではさまざまな動きがあった。

U.S. Army Soldiers from the 218th Mobility Enhancement Brigade, South Carolina Army National Guard, respond to a simulated nuclear terrorist attack as part of Exercise Palmetto Response at the Clarks Hill Training Site in McCormick, S.C., June 13, 2011. Exercise Palmetto Response is a training exercise that centers around aid and relief efforts after a simulated nuclear terrorist attack. (U.S. Air Force Photo Staff Sgt. Eric Harris)

まず、国際原子力機関(IAEA)がアジア太平洋地域における放射線安全と核セキュリティを強化するための新たな「規制インフラ開発プロジェクト」を立ち上げた。

一方、日本の犯罪組織のリーダーが、ミャンマーから調達した核物質の密売に関与した罪を認める有罪答弁を行ったことも報じられた。

また、ミネソタ州とルイジアナ州の原子力発電所上空を飛行するドローンの存在が、地元の指導者や法執行機関の懸念を高めている。

さらに、米国の国家核安全保障局(NNSA)の元長官が、高濃縮低濃縮ウラン(HALEU)燃料の拡散リスクに関する研究を開始した。これは現在開発中の先進型原子炉で使用される予定の燃料である。ただし、この研究が新政権の下でどのような展開を見せるかは不透明だ。トランプ政権は新興技術への強い関心を示しており、米国の国立研究所とOpenAIが、科学研究や核兵器の安全保障、核物質の保全に関するパートナーシップを発表した。

しかし、こうした動きの中で、ドナルド・トランプ元米大統領が、イスラエルに対してイランの核施設を爆撃するよう公に呼びかけたことは極めて憂慮すべき事態である。

また、ロシア軍による2022年のザポリージャ原子力発電所への攻撃を忘れてはならない。この時、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長の迅速な対応と介入によって、大惨事は回避された。

核物質が犯罪組織の手に渡るのを阻止した米国麻薬取締局(DEA)の捜査官たちの功績は大いに称賛されるべきである

国連薬物犯罪事務所(UNODC)が提供する法執行機関および検察官向けの訓練への効果的な投資は、核テロの防止と安全保障において極めて重要であることが、海老沢武の事件からも明らかになった。

2025年1月8日、海老沢武(60歳、日本国籍)は、ニューヨーク州マンハッタンの連邦裁判所で、ミャンマー(ビルマ)から核物質(ウランおよび兵器級プルトニウム)を密輸しようとした共謀罪、国際的な麻薬密売、および武器取引の罪について有罪を認めた。彼は、ミャンマーから兵器級プルトニウムを含む核物質を大胆にも密輸しようとし、同時に、米国に向けて大量のヘロインとメタンフェタミンを密輸し、その見返りとして、地対空ミサイルなどの重火器を入手しようとしたことが判明した。さらに、彼はニューヨークから東京へ麻薬取引による収益のマネーロンダリングを行っていた。

しかし、米国麻薬取締局(DEA)の特殊作戦部門、米国司法省の国家安全保障担当検察官、そしてインドネシア、日本、タイの法執行機関の協力により、この陰謀は発覚し、阻止された。

裁判所で提出された証拠や裁判記録によると、DEAは2019年以降、海老沢を大規模な麻薬および武器密売に関与している人物として捜査していた。捜査の過程で、海老沢はDEAの潜入捜査官(麻薬および武器取引業者を装ったエージェント)を自身の国際的な犯罪ネットワークに紹介。

このネットワークは、日本、タイ、ミャンマー、スリランカ、そして米国に広がっており、海老沢とその共謀者らは複数回にわたり、麻薬や武器の取引交渉を行っていた。

2020年初頭、海老沢は潜入捜査官に「大量の核物質」を売却可能だと伝え、放射線測定器(ガイガーカウンター)を横に置いた「岩のような物質」の写真を送信した。

この捜査官は、「イランの政府関係者が買い手に興味を示している」と海老沢に伝え、「イラン政府はエネルギー目的ではなく、核兵器のためにこの核物質を必要としている」と述べた。これに対し海老沢は「そう思うし、そう願っている」と答えたと起訴状には記録されている。

イランは長年にわたり核兵器開発に取り組んでおり、2015年と16年にはオバマ政権の外交交渉により一時的に中断された。しかし、18年にドナルド・トランプ大統領(当時)が国際合意から離脱したことで、イランの核兵器開発は再び進展した。

Takeshi Ebisawa sent an undercover agent photos of the nuclear material next to a Geiger counter. Credit: Department of justice

海老沢はさらに、ミャンマー国内の武装勢力が使用できる地対空ミサイルなどの軍事レベルの武器を購入したいという意向を示しながら、潜入捜査官と接触を続けた。

その結果、ある種の「取引」が成立し、海老沢を支援する共謀者とされる者たちは潜入捜査官に対し、「2,000キログラム以上のトリウム-232と、100キログラム以上のウラン(U308の形態)を入手可能である」と述べた。さらに、共謀者らは「これにより、ミャンマーで最大5トンの核物質を製造できる。」と主張した。

U3O8は「イエローケーキ」として広く知られており、2003年のイラク戦争開戦前の議論を思い起こさせる物質である。

海老沢が手配した東南アジアでの会合において、彼の共謀者の一人がホテルの一室に潜入捜査官を案内し、核物質のサンプルが入った2つのプラスチック容器を見せたとされています。

その後、タイ当局の協力のもと、核物質は押収され、米国の法執行機関に引き渡された。

押収された物質を分析した結果、ウラン、トリウム、プルトニウムが含まれていることが確認された。

「本件の被告らは、麻薬、武器、そして核物質の密売に関与し、ウランや兵器級プルトニウムを提供することで、イランが核兵器のために使用することを期待していた」と、米国麻薬取締局(DEA)のアン・ミルグラム長官は述べた。

「これは、人命を完全に無視して犯罪を行う麻薬密売人の非道さを示す、極めて異常な例です。」と、ミルグラム長官は続けた。(原文へ

This article is brought to you by INPS Japan in collabolation with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

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オーストラリアの豊かな多文化社会とディアスポラ(移民コミュニティー)の役割

【メルボルンLondon Post=マジッド・カーン】

オーストラリアは、しばしば「多文化主義の成功例」と称され、多様な移民コミュニティがその社会・経済・文化の基盤を大きく形作っている。中でも、パキスタン系、インド系、中国系などのディアスポラは、それぞれ独自の伝統、価値観、専門性を持ち込み、オーストラリアの多文化的アイデンティティを豊かにすると同時に、統合や社会的代表の課題にも取り組んできた。本稿では、それぞれのコミュニティの貢献と、オーストラリアの発展にどのような影響を与えてきたかを探る。

2024年6月30日時点で、オーストラリアの推定居住人口は約2,720万人。そのうち約30.7%(約820万人)が海外生まれであり、これはオーストラリアがいかに多様性に富んだ社会であるかを示している。

主要な出身国としては、イングランド(96.2万人、人口の3.5%)、インド(84.6万人、3.1%)、中国(65.6万人、2.4%)が上位に続き、ニュージーランド(59.8万人)、フィリピン(36.2万人)、ベトナム(29.9万人)、南アフリカ(21.5万人)、マレーシア(18万人)、ネパール(17.9万人)、イタリア(15.9万人)、パキスタン(12万人)なども重要な移民集団を形成している。

これらの数字は、移民政策と国際的な移動によって形成された人口動態の変化を物語っています。

パキスタン系ディアスポラ:文化交流と二国間関係の架け橋

他の南アジア系コミュニティと比べると規模は小さいものの、オーストラリアにおけるパキスタン系移民は、文化的交流やパキスタンとオーストラリアの二国間関係の強化において重要な役割を果たしてきた。

医療、工学、IT分野で活躍する専門職の多くがパキスタン系出身であり、高学歴・専門性の高さがオーストラリアのスキル重視の労働市場とマッチしている。

文化的には、パキスタン独立記念日やイード(イスラム教の祭り)などのイベントが、今やオーストラリア全体のカレンダーにも組み込まれ、異文化理解の機会となっている。また、パキスタン系オーストラリア人は宗教間対話にも積極的で、多様な宗教が共存する社会で調和を築く努力を続けている。

とはいえ、文化や宗教に対する誤解や偏見といった課題もあり、メディアや公共の場での代表性向上に向けた活動も行われている。

インド系ディアスポラ:経済と文化の原動力

インド系コミュニティは、70万人を超える大規模かつ影響力のある集団で、ビジネス、教育、医療、ITなど幅広い分野で貢献している。起業家精神が旺盛で、オーストラリア経済に大きく貢献する企業を多数立ち上げている。

教育に対する意識も高く、医師、技術者、大学教員など、専門職に就く人が多く見られる。

文化面では、ディワリやホーリーといったインドの祭りが地域全体で祝われ、インド料理はもはやオーストラリアの食文化の一部となっている。

また、政治や地域社会でリーダーシップを取るインド系オーストラリア人も増えており、偏見への対抗や文化理解の深化に貢献している。とはいえ、若者の間では文化的アイデンティティの葛藤もあり、「自分らしさ」と「伝統」の間でバランスを取る課題に直面しています。

中国系ディアスポラ:経済と文化統合の柱

19世紀のゴールドラッシュ時代から歴史を持つ中国系コミュニティは、今やオーストラリア社会に深く根付いた存在だ。中国本土、香港、台湾、東南アジアからの移民を含むこのコミュニティは、貿易、不動産、教育など多くの分野で経済的に大きな影響を与えている。

文化的には、春節(旧正月)のイベントがシドニーやメルボルンなどで大規模に開催され、誰もが楽しめる文化交流の場となっている。また、中華料理や太極拳、鍼灸といった伝統文化も広く受け入れられ、オーストラリアの生活に溶け込んでいる。

教育や家族を大切にする価値観もオーストラリア社会と共鳴し、相互理解の促進に貢献している。ただし、最近では地政学的な緊張や反中感情の高まりによって、中国系オーストラリア人が差別や偏見に直面する場面もある。

それでも、中国系コミュニティは文化交流や多文化共生を重視し、アジアとオーストラリアを結ぶ架け橋としての役割を果たし続けている。

その他の移民コミュニティ:多文化モザイクを彩る存在

パキスタン、インド、中国以外にも、オーストラリアには多くの移民コミュニティが存在し、それぞれが個性的な貢献をしている。

ベトナム系は飲食業や中小企業での成功が目立ち、レバノン系はホスピタリティやスポーツ、芸術分野で存在感を示している。ギリシャ系・イタリア系は、建築・食文化・地域祭りなどに長年影響を与えてきた。

アフリカ、中東、欧州からの移民も多様性を高める一翼を担い、難民支援や社会正義の推進、多文化政策の確立に貢献している。

共通する課題と希望

各コミュニティには独自の特徴と貢献があるが、「統合」「代表性」「文化継承」といった共通の課題もある。特に新しい移民層は、差別や偏見に直面しやすく、若者は自身の文化的ルーツとオーストラリアでの生活の間でアイデンティティの葛藤を経験することが少なくない。

それでも、ディアスポラコミュニティには共通の希望がある。それは、自身の文化を大切にしつつ、オーストラリア社会に前向きに貢献していくことである。

地域団体、文化イベント、社会的アドボカシーを通じて、彼らは多文化主義と社会の調和を推進し、オーストラリアをより豊かで包括的な国にしようと努力を続けている。

結論

パキスタン系、インド系、中国系をはじめとするディアスポラコミュニティは、オーストラリア社会の形成において極めて重要な役割を果たしてきた。彼らの経済・文化・社会への貢献は計り知れず、オーストラリアの多文化的なアイデンティティを深めている。

それぞれのコミュニティが直面する課題は異なるが、統合と文化交流への共通の志が、オーストラリアの多文化モデルの力強さを証明している。今後も、移民コミュニティはオーストラリアの未来を築くうえで不可欠な存在であり、多様性と包摂の力を象徴する存在であり続けるだろう。(原文へ

INPS Japan/London Post

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オーストラリアの留学生枠削減:志ある学生と企業への打撃

超富裕層に課税せよ──私たちには変革すべき世界がある

【ナイロビ/バンコクIPS=アティヤ・ワリス、ベン・フィリップス】

なぜ、すべての子どもたちに教育を受けさせることができないのか?
なぜ、必要とするすべての人に医療を提供できないのか?
なぜ、誰もが飢餓や貧困から解放されることができないのか?

これらは本来、すべての人に「権利」として約束されているはずなのに、私たちは何度も「お金がない」と言われる。

しかし、ここで朗報だ。お金は存在する。お金がどこに行ってしまっているのかも、どうやってそれを取り戻すかも、私たちは知っている。そして今年は、進展のための重要な新たな機会が訪れている。

世界中で毎年4,920億ドルが、富裕層や権力者による税逃れによって失われている。
このうち3分の2、すなわち3,476億ドルは、多国籍企業が利益をオフショアに移して課税を逃れていることによるもの。残りの3分の1、1,448億ドルは、富裕個人が資産を隠して課税を回避していることが原因だ。

これは、「世界税正義レポート」の最新報告によって明らかにされた衝撃的かつ憤りを感じる事実である。しかし、同時に希望の兆しでもある──私たちは、変えられる世界を持っているのだ。

税制は技術的で複雑であるため、その複雑さを利用して「富裕層から税を取る政策は機能しない」とする主張がなされがちである。

しかし、G20の委託した専門的な経済分析は、富裕税が貧困解消や持続可能な開発目標(SDGs)の達成に必要な資金を引き出す有効な手段であることを示している。

実際、すでにこのような取り組みを始めている国もある。スペインは、最富裕層0.5%に対する富裕税を導入することに成功した。Tax Justice Networkの試算によれば、スペインの制度を他国も導入すれば、2.1兆ドルの税収を得ることが可能である。

また、多国籍企業による利益移転を防ぐための政策的枠組みも既に明らかになっている。

  • 誰が企業を所有しているかの登録義務
  • 各国での納税状況の国別報告
  • 利益を上げた国で課税するルール

技術的な課題よりも、むしろ最大の課題は「政治的」なものだ。しかし、ここにも希望がある。

今年、ついに国連国際税協力枠組条約の交渉が始まり、「多国籍企業の公正な課税」や「高額所得者による脱税・租税回避への対処」、「実効的な課税の実現」などが盛り込まれる予定でだ。

さらに、6月30日~7月3日にスペインで開催される開発資金国際会議では、次のような内容が盛り込まれた成果文書案が議論される:

  • 多国籍企業が「価値が創出され、経済活動が行われた国で課税される」ための仕組み
  • 高額所得者への課税強化」へのコミットメント

富裕層への課税は、多くの国々で非常に高い支持を得ている。そして、市民社会によるキャンペーンも加速中だ。現在、世界各地の40以上の団体が「超富裕層に課税せよ」という共通のキャンペーンで連帯している。

この連帯のもと、彼らは次のような共通プラットフォームを掲げている。

「人権は憲法や国際法によって約束されているのに、それを実現するための財源が否定され続けている。これはもう『普通のこと』であってはならない。」

例えば、子どもが「教育を受ける権利」を約束されたとしても、

  • 近くに学校がなかったり、
  • 学費が高くて通えなかったり、
  • 教師が足りなかったり、
  • 学習環境が劣悪だったりするなら、

それは「名ばかりの権利」でしかない。

健康の権利も同様だ。
十分な医療スタッフも薬もない医療センターで、誰が本当のケアを受けられるでだろうか?

だからこそ、財政政策(課税と歳出)こそが、人権の約束を現実のものとする手段なのだ。

どれだけの資源が使えるのか、それをどう確保するのか──それは技術の問題ではなく、政治的な選択なのだ。

もちろん、リソースを確保するのは簡単ではない。富の集中は、同時に権力の集中をも意味するからだ。しかし、それでも「超富裕層への課税」が重要なのは、単に必要な公共サービスの資金を集め、最も脆弱な人々を救うためだけではない。

それは、民主主義を取り戻すことでもあるのだ。原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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地球上で最も寒い場所に迫る地球温暖化

【南極IPS=ラジャ・ヴェンカタパシ・マニ】

午前7時半。私は急いで準備を整え、アドレナリンが湧き上がり、好奇心と興奮が最高潮に達していた。キャビンを飛び出し、大きなドアを開けると、目の前に広がっていたのは壮大な白銀の大陸──南極だった。

気候危機を考えるとき、南極は最初に思い浮かぶ場所ではないかもしれない。しかし、この凍てついた生態系は、地球温暖化による最も劇的な影響を受けている場所の一つである。

国連は2025年を「国際氷河保全年」と定め、氷河・雪・氷が気候システムにおいて果たす重要な役割と、急速な氷河融解がもたらす影響に注目を集めようとしている。

南極は地球上で最も寒く、乾燥し、風が強い場所である。厚さ4キロメートルにも及ぶ氷床の上に立ち、極地高原から吹き下ろす風を感じると、そこはまるで別世界のようだ。地球の表面淡水の約90%がここにあり、南極はまさに“凍った生命線”と言える存在である。

研究拠点で暮らす科学者を除き、南極に恒常的な居住する人はいない。冬の平均気温はマイナス50~60℃で、過酷な環境下での生活は極めて困難である。

1週間の滞在を通して、私は地球最後の大自然から多くのことを学んだ。

希少な野生動物の重要な生息地

目を奪われる風景だけではない。南極には、過酷な環境にも関わらず、多種多様な野生動物が生息している。

氷の上をよちよちと歩くペンギンたち、氷岸でくつろぐアザラシ、氷の海を泳ぐクジラ。彼らはすべて、栄養豊富な海に生息する小さな生物「オキアミ」を求めて南極にやってくる。

ペンギンなどの動物は、繁殖のために氷の存在を必要とし、氷は体温調節や羽の生え変わりの場、休息の場として重要な役割を果たしている。

また、南極は地球最大の“自然の研究室”でもある。気候変動、地質、生態系、生物多様性に関する最先端の研究が進められており、過去の地球の姿を解明し、現在の変化を分析し、未来の予測に役立てている。

南極は“カーボン・ネガティブ”、つまり排出する以上の二酸化炭素を吸収しているが、世界中の排出量がそのバランスを脅かしている。

天候は非常に不安定で、ある日、あまりに暖かくて何枚も重ね着していた服を脱がざるを得なかった。極寒の地というイメージが強かった私にとって、これは想像もしていなかったことだ。

しかし、地球上で最も人の手が届きにくいこの場所こそ、気候変動の最大の被害を受けている。2023年の「世界気候の現状」報告書では、南極の海氷の減少が危険なスピードで加速しており、2023年は過去最大の氷の損失が記録されたと報告されている。これは、地球上のすべての人々に影響を与える重大な問題である。

「南極の変化」は世界の問題

南極の巨大な氷床は太陽光を宇宙へと反射し、地球の気温を保つ重要な役割を担っている。しかし、いまや地球上で最も急速に温暖化が進む地域の一つとなっている。

わずかな気温上昇でも、氷床・氷河・生態系に重大な影響を及ぼす。過去25年間で、南極の氷棚の40%以上が縮小した。氷棚の融解が進めば、海面上昇が加速し、島国や沿岸部の地域に大きな影響を及ぼす。

また、南極の冷たい海は、世界の海を循環させる重要な役割も果たしている。例えば「南極周極流」は南極を時計回りに巡り、世界の主要な海をつなぐ力強い海流である。

しかし海水温の上昇はこれらの海流に影響を与え、世界中の気象パターン、漁業、農業、生態系にまで連鎖的な影響を与える。

氷の減少は野生動物の生息地の喪失を意味し、繁殖や生存を脅かす。これは食物連鎖にも影響し、魚の供給や雇用、食糧安全保障にもつながる。ペンギンは炭素を蓄える役割も持っており、その減少は気候変動をさらに悪化させ、極端な気象現象を増加させる可能性があつ。

要するに、「南極で起きること」は南極だけの問題ではないのだ。

多国間協力の模範

南極は、地理的にも地質的にも生物学的にも、そして政治的にも非常にユニークな場所である。

南極はどの国の領土でもない。「南極条約」によって57カ国が平和と科学を目的に協力して管理しており、国際協調の最良のモデルとも言える存在である。

かつて、南極上空にオゾンホールが発見されたことで、世界中が一斉に関心を持ち、行動を起こした。オゾン層は、有害な紫外線から地球を守る「フィルター」のような存在で、皮膚がんや白内障、農業や海洋生態系に甚大な被害をもたらすおそれがあった。

この問題に対し、各国が一致団結して採択したのが「モントリオール議定書」である。冷蔵庫やエアコン、スプレーなどに使われていたオゾン層破壊物質の段階的廃止を定めたこの合意により、国連環境計画(UNEP)はオゾン層が2066年までに回復する見通しであると発表しています。

この成功は、国際社会が一致団結すれば、地球規模の問題にも対応できるという希望を示している。

南極の物語は、私たちが今直面している気候危機という試練に対して、もう一度力を合わせるべきだという強いメッセージだ。

人類にとって、これはまさに“決定的な課題”。私たちが「何をするか」そして「何をしないか」が未来を決定づけるのだ。

いまこそ、化石燃料への依存を終わらせ、排出量を削減し、気温上昇を1.5℃以内に抑えるために一つになって行動するときだ。

数百万年前の氷の上に立ち、その歴史に触れながら、私は強く感じた。人類の存在は地球の歴史の中ではほんの一瞬。でも、地球は生き続けている。

私たちには、受け継いだ地球を「そのまま」あるいは「もっとよくして」次世代に手渡す責任がある。原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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|視点|緊急に必要な気候アクション(ジョン・スケールズ・アベリー理論物理学者・平和活動家)

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国連事務総長のラマダン連帯訪問、ロヒンギャ難民に希望を取り戻す

【コックスバザールIPS=ラフィクル・イスラム】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、イスラム教徒の伝統衣装である白いパンジャビ姿でロヒンギャ難民のイフタール(断食明けの食事会)に出席するため、ウキヤ難民キャンプに現れたとき、集まった何千人ものロヒンギャ難民が手を振って歓迎した。

ラマダンという神聖な月に断食をしていた多くのロヒンギャの人々は、長年にわたる苦しみに対するグテーレス事務総長の連帯に胸を打たれ、涙を流す姿も見られた。

グテーレス事務総長は、バングラデシュのムハンマド・ユヌス首席顧問とともに、同国コックスバザールの難民キャンプでロヒンギャの人々との連帯を示すため、何千人もの難民とともにイフタールに参加した。

Location of Bangladesh
Location of Bangladesh

「私たち全員が、国連事務総長から『ミャンマーへの帰還』という良い知らせを聞くためにイフタールに来ました。誰もがふるさとに帰りたいと願っています」と、ロヒンギャの若者、ロ・アルファット・カーンさんはIPSの取材に対して語った。

イフタールに先立ち、グテーレス事務総長はウキヤキャンプ内の学習センターを訪れ、ロヒンギャの子どもたちと意見交換をった行った。子どもたちは「ミャンマーに戻りたい」と訴え、安全で尊厳ある帰還を実現してほしいと要望した。

グテーレス氏はまた、ロヒンギャ女性や宗教指導者、文化センターも訪れ、追放された人々の声に耳を傾けた。

今回のラマダン訪問で、ロヒンギャから寄せられた二つの明確なメッセージを受け取ったとグテーレス氏は語った。それは、「ミャンマーへの帰還」と「キャンプの生活環境の改善」だ。

彼は国際社会に対し、ミャンマーにおける平和の回復、そしてロヒンギャに対する差別と迫害を終わらせるために全力を尽くすよう求めた。

国連世界食糧計画(WFP)は、緊急支援への深刻な資金不足のため、4月1日からロヒンギャ難民一人当たりの月額食糧配給額を12.50ドルから6ドルに半減すると発表した。

「残念ながら、米国や欧州諸国など複数の国が人道支援を大幅に削減すると発表した。そのため、このキャンプでも食糧配給の削減というリスクに直面している。」とグテーレス氏は語った。

彼は、ロヒンギャの人々がさらに苦しむ状況、あるいは命の危機にさらされる事態を防ぐため、国連として資金の動員に努め続けると約束した。

「率直に言えば、私たちは深刻な人道危機の瀬戸際にあります。複数国による資金援助の削減により、ロヒンギャ難民の食糧配給量は2025年には40%にまで削減される恐れがあるのです。」と語った。

彼は、支援の削減により「未然に防げる災害」が起こりうると警告し、国際社会に対してロヒンギャ難民支援に投資する義務があると訴えた。

「国際社会がロヒンギャ難民への支援を削減するのは容認できないことです。コックスバザールは、予算削減が命を左右する“最前線”であり、私たちはそれを防がなければならない。」とグテーレス氏は強調した。

グテーレス氏によれば、2017年に暴力を逃れてバングラデシュに避難してきた100万人以上のロヒンギャは、極めて困難な状況の中でもたくましく生きている。

ロヒンギャ難民は、ラカイン州での虐殺や差別、人権侵害から逃れ、「保護」「尊厳」「家族の安全」を求めてこの地にたどり着いた。

Thousands of Rohingya refugees turned up to the solidarity iftar, where UN secretary-general António Guterres and Bangladesh Chief Adviser Professor Muhammad Yunus pledged to continue to find a solution to their plight. Credit: Gazi Sarwar Hossain/PID

グテーレス氏は、ロヒンギャの勇気と決意に感銘を受けたと語り、彼らの壮絶な体験に耳を傾けた。

「彼らが求めているのは、安全で自発的かつ尊厳ある帰還です。それがこの危機の根本的な解決策です。」と強調した。

彼はミャンマー当局に対して、国際人道法に基づいた措置を講じ、宗教間の緊張や暴力を防ぎ、ロヒンギャの安全で尊厳ある帰還を可能にする環境づくりを求めた。

「しかし、ミャンマー、特にラカイン州の状況はいまだに深刻です。紛争と迫害が終わるまで、私たちはバングラデシュで保護を必要とする人々を支え続けなければなりません。」と語った。

「解決策はミャンマーの中にあります。国連は今後も、ロヒンギャ難民の自発的で安全かつ持続可能な帰還に向けた努力を続けます。その時が来るまで、国際社会に支援を減らさないよう強く訴えます。」と語った。

イフタールの後、バングラデシュのユヌス首席顧問は現地の方言でスピーチを行い、ロヒンギャ難民に強い連帯のメッセージを届けました。

「国連事務総長はロヒンギャの苦しみを終わらせるために来てくださいました。今年のイードではなくても、来年こそは祖国で祝えることを願っています。」と語った。

「必要であれば、世界を相手にしてでも、ロヒンギャを故郷へ戻すために戦うつもりです。」とも語った。

2017年にコックスバザールのキャンプに逃れてきたアブドゥル・ラフマンさんは、「金曜日のイフタールには10万人が参加する予定でしたが、実際には30万人以上が集まりました。それだけ皆が“帰還”という良い知らせを求めていたのです。」と語った。

ロ・アルファットさんは、「私たちロヒンギャには国もなく、帰る場所もないため、時に絶望を感じることがあります」と語った。

「でも、国連事務総長とバングラデシュの首席顧問という二人の要人が訪れてくれたことで、“帰還できる”という希望が私たちの心に再び芽生えました。」と締めくくった。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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トランプ、民主主義、そして米国合衆国憲法

【ストックホルムIPS=ヤン・ルンディウス】

この混乱と悲しみに満ちた時代において、世界各地で行われている人権侵害や違反について沈黙することは難しい。コンゴ民主共和国東部、南スーダン、ウクライナ、ガザ地区―これらの地で起こる暴力は目を背けることのできないものだ。その中でも、トランプ政権が示してきた態度、とりわけウクライナの正当に選出された大統領に対するトランプ氏の言動は、理解しがたいものの一つである。ウクライナの国民が独裁政権と戦い、祖国を守ろうとしているにもかかわらず、トランプ氏はその正当性に疑問を投げかけてきた。

これは、米国が自らを「世界で最も偉大な民主主義国家」と称する姿勢と無関係ではない。この信念は多くの米国国民の間に深く根付いており、憲法こそがこの民主主義を不変のものにしていると考えられている。しかし、元大統領のジョー・バイデン氏ですら、最近ではその確信に揺らぎを見せている。

「私たちは依然として民主主義国家である。しかし、歴史が示すように、一人の指導者への盲目的な忠誠や政治的暴力への加担は、民主主義にとって致命的だ。長い間、米国の民主主義は保証されていると信じてきたが、そうではない。私たち一人一人が、民主主義を守り、擁護し、立ち上がらなければならない。」

しかし、米国の民主主義を守るために現大統領の独裁的な行動に対抗しようとする中で、果たして合衆国憲法は本当に民主主義と人権を守る力を持っているのか、という疑問が生じる。

合衆国憲法の起源とその限界

米国の建国の父たちが1787年の夏にフィラデルフィアで起草し、1789年に批准された合衆国憲法は、当初から米国が完全な民主主義国家になることを想定していなかった。実際、当時から「米国をどれほど民主的にするべきか」は非常に議論の分かれる問題であり、それは現在でも変わらない。

当時、大統領、上院、司法は国民ではなく代表者によって選ばれていた。国民が直接選出できるのは下院議員のみであり、その投票権を持つのは「財産を持つ成人の白人男性」に限られていた。しかし、憲法には「修正」できるという重要な特徴があり、年月を経て民主的な要素が追加されてきた。

憲法が批准されて以来、修正は27回行われた。その中でも特に重要なのが次のようなものだ。

1868年(修正第14条):「米国で生まれた、あるいは帰化した全ての人々に市民権を付与し、法の下での平等な保護を保証」

1870年(修正第15条):「人種による投票権の否定を禁止」

1913年(修正第17条):「州議会ではなく国民が上院議員を直接選出する制度に変更」

1920年(修正第19条):「女性に参政権を付与」

唯一廃止された修正条項は修正第18条(禁酒法)のみであり、これも後に撤回されている。

憲法修正には厳格な手続きがある。議会の 3分の2 の賛成を得た上で、全州の4分の4 の承認が必要だ。しかし、法的な抜け道を利用すれば、修正条項の適用を回避することも可能である。例えば、1883年に最高裁は「修正第14条と第15条は、州による差別のみを対象とし、個人による差別には適用されない」と判断し、南部諸州に人種差別的な法律を制定する余地を与えた。この判決が覆されたのは、1964年の公民権法と1965年の投票権法の適用によってである。

トランプ政権と憲法の危機

ドナルド・トランプ氏は大統領に就任して以来、その権限を過去の大統領よりも拡大しようとしてきた。個人的な訴訟を阻止する試み、出生地主義の市民権の制限、議会が承認した予算の執行拒否、独立機関のトップの解任など、その行動は枚挙にいとまがない。こうした動きの背景には、トランプ氏が自ら任命した最高裁判事による支持を期待している可能性がある。

The New Yorkers.
The New Yorkers.

言論の自由の抑圧

憲法修正第1条は、宗教の自由、言論の自由、報道の自由、平和的な集会の権利を保障している。しかし、トランプ政権下では、これらの権利が脅かされている。

トランプ氏は自身に批判的な報道機関を「国民の敵」と呼び、CNN、ABC、CBS、Simon & Schusterなどを名誉毀損で訴えてきた。

ホワイトハウスは報道機関の出席を制限し、APやロイターなど主要メディアを記者会見から締め出した。

2024年3月4日、トランプ氏は「違法な抗議活動を許可した大学への連邦資金を全て停止する。」と発言し、外国人の学生を追放または逮捕する方針を示した。

歴史が繰り返されるのか?

こうした動きは、1950年代にジョセフ・マッカーシー上院議員が共産主義者の「魔女狩り」を行った時代を想起させる。マッカーシー氏は証拠もなく国務省内の共産主義者リストを持っていると主張し、多くの公務員や学者、ジャーナリストのキャリアを破壊した。

トランプ氏が崇拝する弁護士ロイ・コーン氏は、マッカーシー氏の右腕として活躍した人物であり、後にトランプ氏の法律顧問となった。コーン氏の影響は、トランプ氏の「勝つためなら何をしてもいい。」という姿勢に色濃く残っている。

米国の未来はどうなるのか?

トランプ氏の憲法無視が、共和党内でどれほどの反発を招くのか。そして、民主党や米国国民が憲法を守るためにどのように立ち上がるのか。これは、米国の未来だけでなく、世界全体の行方を左右する問題である。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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