【ワシントンDC INPS Japan/ National Catholic Register=ヴィクトル・ガエタン】
中東で戦火が広がる中、米軍を管轄する世界唯一の教区を率いる大司教は、バチカン外交と、戦地に立つ兵士たちが直面する重い倫理的現実との間で難しい舵取りを担っている。
イランとの戦争は、ティモシー・ブログリオ大司教にとって決して遠い世界の出来事ではない。
ブログリオ大司教は、米国軍事大司教区(Archdiocese for the Military Services=AMS)のトップとして、世界中に展開する米軍将兵とその家族を司牧する、米国唯一の「国境を持たない教区」を率いている。
昨年のクリスマスにブログリオ大司教が訪問したバーレーン、クウェート、カタールの3つの米軍基地は、その後、2月28日に米国とイスラエルが開始した対イラン戦争の中で、イランによる攻撃を受けた。
一方、教皇レオ14世の下でバチカンは、対話を尽くす前に国際法を軽視して軍事力に訴える動きへの懸念を強めている。そのような中、戦争と平和、人間の尊厳の優先という教会の教えを、極めて繊細な問題について公に示す役割を担うことが多いのがブログリオ大司教である。

世界80か国に広がる「国境なき教区」
ブログリオ大司教が率いる教区の規模は途方もない。
米国軍事大司教区には、世界80か国、750か所に及ぶ米軍基地で勤務する約180万人のカトリック信徒が所属しており、これは世界中の米軍関係者全体の約20~25%に相当する。
大司教はナショナル・カトリック・レジスター紙の取材に対し、次のように語った。
「現役の従軍司祭が500人いれば、必要な牧会活動を十分に行うことができます。」
しかし実際には、陸・海・空軍などを合わせても従軍司祭は約200人しかおらず、そのうち昨年10月時点で陸軍の現役および予備役として活動していたのは137人にとどまっていた。
バチカン外交を知り尽くした司教
ブログリオ大司教は、この困難な任務に極めてふさわしい経歴を持つ。
国際法にも精通した熟練の外交官であり、1990年から2001年まで11年間、ローマでヨハネ・パウロ2世教皇の国務長官アンジェロ・ソダーノ枢機卿の主席秘書を務めた。
その後はドミニカ共和国教皇大使およびプエルトリコ使徒代表(2001~2007年)を歴任し、さらにパラグアイやコートジボワールでも教皇庁を代表する外交任務に携わった。
また、教皇レオ14世と同様に語学に堪能で、英語のほか、フランス語、スペイン語、イタリア語を自在に操る。
実際に会って話すと、その決断力と物事を的確に見極める姿勢が印象的である。質素な黒いスーツと司祭服のカラーを身に着けていなければ、四つ星提督と見間違えてしまうほどの威厳を備えている。

五つの政権の下で米軍を支える
ブログリオ大司教は、2007年末にベネディクト16世教皇によって米国軍事大司教に任命された。
以来、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、ジョー・バイデン、そしてドナルド・トランプ大統領の2期にわたる政権という、性格の異なる5つの政権の下でこの教区を率いてきた。
世界各地の米軍基地を頻繁に訪問し、ミサを司式し、秘跡を授け、兵士たちの霊的支えとなり、また現地の宗教指導者との交流も行っている。
軍務がもたらす「道徳的傷つき」
戦地での任務が兵士たちに与える影響について尋ねられると、ブログリオ大司教は次のように語った。
「兵士たちは非常に大きな影響を受けます。統計的に見ても、誰もが何らかの心の傷を負って帰還すると言ってよいでしょう。もちろん、すべてが精神疾患として診断されるほど深刻というわけではありません。しかし、何らかのトラウマを抱えて帰ってくるのです。」
とりわけ軍人が直面する倫理的葛藤について、大司教は**『モラル・インジャリー(Moral Injury=道徳的傷つき)』**という問題に向き合う重要性を強調した。
「戦時には、平時であれば決してしないような行為をせざるを得ないことがあります。そのため、心の癒やしが必要になるのです。」
こうした倫理的葛藤には、「道徳的に問題がある」と感じる命令に従わなければならない場合や、信仰生活を維持することが難しくなる任務も含まれる。
大司教は次のような実例を紹介した。
「今朝、イラク戦争に従軍した海兵隊員と話しました。彼は任務から戻って初めて、その日が復活祭の日曜日だったことに気づいたのです。熱心なカトリック信者でしたから、とても心を痛めていました。」
近年では、昨年9月に米国防総省がカリブ海および太平洋で麻薬密輸組織が使用していたとされる船舶を爆撃したことも、こうした倫理的問題を提起した。
これを受けてブログリオ大司教は昨年12月、次のような声明を発表した。
「麻薬との闘いにおいても、目的が手段を正当化することは決してありません。手段そのものが道徳的であり、常に一人ひとりの人間の尊厳を尊重するものでなければなりません。」
このメッセージは、2025年のカトリック・メディア協会賞において、「教区司牧メッセージ部門」最優秀賞を受賞した。
さらに復活祭の日曜日には、CBSテレビの報道番組『Face the Nation』に出演し、イランとの戦争について、「カトリックの教えに照らして正当化できる戦争ではない」と述べた。
司会者から、「そのような状況で従軍するカトリック信者にどのような助言を与えるか」と問われると、大司教は簡潔にこう答えた。
「できる限り危害を少なくし、罪のない人々の命を守るよう努めなさい。」
1999年のセルビア空爆―バチカン外交の最前線で
今年の対イラン空爆は、ブログリオ大司教が米国主導の軍事行動に直面した最初の経験ではない。
1999年、ヨハネ・パウロ2世教皇の国務省(国務院)に勤務していた当時、ブログリオ大司教は、米国とNATOに対し、カトリックと正教会双方の復活祭期間中だけでもユーゴスラビアへの空爆を停止するよう求める教皇庁の外交努力の一翼を担っていた。
教皇庁は、一時停戦が実現すれば交渉や人道支援の道が開かれると期待していた。しかし、ユーゴスラビア側が停戦に応じたにもかかわらず、NATOは正教会の復活祭の週末に空爆をさらに激化させた。
当時、米国とNATOは、コソボで行われているとされた「民族浄化」を阻止することを軍事介入の目的として掲げていた。
当時を振り返り、ブログリオ大司教はこう語る。
「宗教ごとの大切な祝祭日は、当然尊重されるべきだと私は考えています。その意味で、あの出来事は非常に残念でした。」
さらに、
「あのような外交的働きかけを行うときには、何らかの前向きな成果が得られることを期待します。ですから、空爆が止まらなかったことへの最初の感情は失望でした。」
と述べた一方で、現実も冷静に見据えていた。
「もっとも、そうした働きかけは常に現実を踏まえて行われます。中世の『パクス・ロマーナ(ローマによる平和)』の時代ではありません。教皇には、もはや自らの意思を各国に強制できるような権力はないのです。」
「好機を逃さない」という米国の伝統
記者はさらに、米国がイスラム教のラマダン(断食月)やイランの新年「ノウルーズ(Nowruz)」など、宗教的に重要な時期にも軍事行動を行うことは最近の傾向なのかと尋ねた。
ブログリオ大司教は、こう答えた。
「実は、アメリカ建国の父ジョージ・ワシントンも、クリスマスの日にイギリス軍への攻撃を指揮しています。ですから、アメリカには建国当初から『カルペ・ディエム(Carpe Diem)』、つまり『好機を逃さず行動する』という伝統が多少なりともあるのです。」
差別なのか、それとも無理解なのか
米国の外交・安全保障政策への懸念が高まる一方で、米国軍事大司教区は今年、大きな成果も勝ち取った。
EWTNニュースが昨年10月に報じたように、ブログリオ大司教は、米陸軍で働く信徒職員(カテキスト〈信仰教育担当者〉、カトリック共同体コーディネーター、典礼音楽担当者など)の突然の解雇に強く抗議した。
ブログリオ大司教は本紙の取材に対し、こう振り返る。
現在の従軍司祭だけでは、解雇された信徒職員が担っていた業務を到底補うことはできず、結果として礼拝活動そのものが大きく損なわれることになる。
そこでまず陸軍長官と陸軍従軍司祭総監に直接申し入れを行った。

しかし、状況は改善されなかった。
「話し合いで成果が得られなかったため、私は公開書簡を発表しました。そして、それが状況を動かしたのです。」
その結果、
「以前存在していたポストは、現在すべて復活しています。本当にうれしく思います。」
実際、『Military Times』によれば、米陸軍は今年1月から宗教支援スタッフの採用を再開している。
問題は予算ではなく「姿勢」
記者から「問題は予算不足だったのか、それとも宗教に対する姿勢だったのか」と問われると、ブログリオ大司教は即座に答えた。
「姿勢です。」
そして続けた。
「表向きは予算の問題だと言われました。しかし、本当はそうではありませんでした。」
さらに、大司教は軍の宗教環境について率直に語った。
「従軍司祭団はプロテスタント、とりわけ福音派の牧師が多数を占めています。そのため、多少の偏りがあることは否定できません。」
ただし、それは組織全体というよりも、重要な立場に就いている個人によるところが大きいという。
「全体として見れば、多くの人は協力的です。」
一方で、根本的な問題は「無理解」にあると指摘する。
「問題は、カトリック教会がどのようなことを必要としているのか、多くの人が知らないことです。私たちにとって何が重要なのかを理解していない人が少なくありません。」神の国を築く――若い兵士たちへの宣教
ブログリオ大司教は、2007年に軍事大司教への就任を受け入れた際、一つだけ予想していなかったことがあったという。
それは、教区の財政状況だった。
「ワシントンに着いて初めて、『この任命は断るべきだった』と思いました。」
と大司教は笑いながら振り返る。
「教区はほとんど破産状態で、私は資金集めの経験など全くありませんでした。しかし、それも学んでいくものです。」
現在では、資金調達だけでなく、軍に勤務する若いカトリック信徒のための新しい宣教モデルづくりにも力を注いでいる。
その代表例が**「チーム・セント・ポール(Team St. Paul)」**である。
これは、18歳から29歳までの軍人を対象に、米軍基地でフルタイムの宣教活動を行う新しい使徒職(アポストレート)である。
また、聖職者への召命(しょうめい)を育む取り組みも着実に成果を上げている。
例えば今年4月には、西海岸で開催された軍事大司教区の召命識別リトリートに、過去最多となる38人の男性が参加した。
軍のカトリック信徒にとって最も協力的だった政権
これまで仕えた5つの政権について尋ねられると、ブログリオ大司教は、ジョージ・W・ブッシュ政権とトランプ政権との関係が最も円滑だったと語った。
「私にとっては、その二つの政権の時代が最も仕事をしやすかったのです。」
一方、
「オバマ政権とバイデン政権では、軍を一種の『社会実験の場』として利用しようとする傾向がありました。」
と指摘した。
そして、
「ある時点では、『はい、承知しました』と言って命令に従うしかありませんでした。」
と振り返る。
具体例として、大司教はトランプ第1・第2政権が、ジェンダー・イデオロギーに基づく政策を終了させたことを挙げた。
「そうした社会実験の多くは大統領令によって導入されました。そして同じように、大統領令によって廃止されたのです。」
さらに、
「軍という組織は比較的保守的ですから、多くの人がこうした変化を歓迎したと思います。」
と述べた。
「正戦論」は「いかなる犠牲を払っても平和を守る」という意味ではない
最後にブログリオ大司教は、カトリック教会の**正戦論(Just War Theory)**について見解を語った。
まず、大司教はカトリックの社会教説に対する誤解を戒めた。
「危険なのは、カトリック社会教説を、何らかの社会民主主義的イデオロギーと同一視してしまうことです。」
同時に、正戦論についても別の誤解があると指摘する。
「もう一つの危険は、正戦論を『どんな犠牲を払ってでも平和を守ること』と同じ意味だと考えてしまうことです。」
そして、
「そのように描こうとする人もいます。しかし今日、アメリカが第二次世界大戦に参戦した必要性そのものを否定する人はほとんどいないでしょう。」
と語り、カトリック教会の正戦論は無条件の平和主義とは異なるとの認識を示した。

ビクトル・ガエタンは、国際問題を専門とするナショナル・カトリック・レジスターの上級特派員であり、バチカン通信、フォーリン・アフェアーズ誌、アメリカン・スペクテーター誌、ワシントン・エグザミナー誌にも執筆している。北米カトリック・プレス協会は、過去5年間で彼の記事に個人優秀賞を含む4つの最優秀賞を授与している。ガエタン氏はパリのソルボンヌ大学でオスマントルコ帝国とビザンチン帝国研究の学士号を取得し、フレッチャー・スクール・オブ・ロー・アンド・ディプロマシーで修士号を取得、タフツ大学で文学におけるイデオロギーの博士号を取得している。彼の著書『神の外交官:教皇フランシスコ、バチカン外交、そしてアメリカのハルマゲドン』は2021年7月にロウマン&リトルフィールド社から出版された。2024年4月、本記事の研究のためガエタン氏が初来日した際にINPS Japanの浅霧理事長が東京、長崎、京都に同行。INPS Japanではナショナル・カトリック・レジスター紙の許可を得て日本語版の配信を担当した(With permission from the National Catholic Register)」。英文の原文は同誌に掲載。
*ナショナル・カトリック・レジスター紙は、米国で最も歴史があるカトリック系週刊誌(1927年創立)
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