『America First, The World Divided: Trump 2.0 Influence』より分析抜粋
【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】
数週間前、イーロン・マスクがドナルド・トランプ大統領とともに湾岸諸国を巡るハイレベル訪問団に加わった際、そのメッセージは明確だった。米国は技術と革新の競争において再び主導権を握り、湾岸諸国はただの観客ではなく、共同投資者でもあるということだ。

サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦の政府では、マスクはまるで王族のように歓迎された。テスラのヒューマノイドロボット「オプティマス」が披露され、スターリンクの中東展開も示唆された。会場ではAI(人工知能)、インフラ、火星移住といった未来構想が、金色に装飾された会議室で自由に語られていた。
しかし今、トランプがマスクとの関係を公然と断絶し、連邦契約の打ち切りや「数十億ドル規模の支援」の撤回を宣言する中、湾岸諸国は厄介な立場に置かれている。つまり、「テック界の先駆者」と「政治の覇者」の狭間に挟まれているのだ。
湾岸の戦略的ジレンマ
拙著『America First, The World Divided』の第10章「アメリカ・ファーストの世界進出」ではこう書いた。
「ポスト・グローバル化時代の湾岸諸国は、資本と忠誠の両方の言語を話す術を身につけた。彼らの影響力は、どちらの側につくかではなく、“あえて決めない”ことで生まれる。」(p.209)
しかし今回に限っては、中立では済まされないかもしれない。 サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、カタールはいずれも、AI都市、宇宙開発、自動運転、デジタルインフラなど未来経済に深く関与しており、その中核にマスクの存在がある。一方で、政権に返り咲いたトランプは依然として米国の武器供与、外交的後ろ盾、政治的恩恵の“門番”であり続けている。
第7章「忠誠というレバレッジ」で私はこう警告した:
「トランプ2.0政権下では、外交関係は条約ではなく忠誠心によって試される。大統領との“私的な一致”こそが入場料だ。」(p.157)
湾岸諸国とマスクの関係
サウジアラビア:
2025年4月、テスラはリヤドに旗艦店をオープンし、サウジでの事業展開を公式に開始。トランプとの中東訪問中、マスクはサウジ政府がスペースXのスターリンクを航空・海運用途で承認したと発表。関係の修復を象徴した。
カタール:
マスクはカタールの政府系ファンドの会長と会談し、投資協議を行った。2025年のカタール経済フォーラムにも登壇し、同国のテック・グリーンエネルギー分野での台頭を印象づけた。
UAE(アラブ首長国連邦):
「Stargate UAE」プロジェクトが2025年5月に発表された。エミラティ企業G42と、Nvidia、OpenAI、Cisco、Oracle、日本のソフトバンクなど米系企業との協業により、世界最大規模のAIデータキャンパス構築を目指す。これはUAEの国家AI戦略の一環であり、米ハイテク企業との連携を強化する動きだ。
今後の戦略的選択肢
湾岸諸国にとって:
- バランス外交の維持:トランプ政権ともマスクとも関係を保ち、国家利益の最大化を図る。
- パートナーの多様化:特定企業に依存せず、テック分野での協力相手を分散させ、リスク管理を強化。
イーロン・マスクにとって:
- 外交的対話:米政権との溝を埋め、国家利益への貢献を示すことで不安を和らげる。
- 国際的な提携強化:米国以外の市場との連携を強め、地政学的リスクへの耐性を高める。
結論:複雑な同盟関係をどう乗り越えるか
今回のトランプとマスクの対立は、単なる個人的な衝突ではなく、地政学的なストレステストだ。湾岸諸国にとっての焦点は、どちらが正しいかではなく、「どちらが影響力を持つか」である。

「トランプの世界では、彼に背いても生き残れるかもしれないが、決して繁栄はできない。」(第9章「忠誠の代償」、p.193)
マスクには、技術、知性、資金があるかもしれない。だが、ホワイトハウスの“政治的認可”がなければ、彼の中東戦略は始まる前に静かに幕を閉じるかもしれない。(原文へ)
アハメド・ファティは、American Television Network (ATN)の国連特派員で国際問題アナリスト。著書『America First, The World Divided: Trump 2.0 Influence』では、外交、多国間主義、権力と認識、そしてグローバル政治の本質を論じている。
Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/trump-musk-and-the-gulf-states
INPS Japan/ATN
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