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新たな戦いの拡大:核兵器と通常兵器

【国連(IPS)=タリフ・ディーン】

国連や反核活動家たちからの警告は、ますます無視できないものになっている。意図的であれ、偶発的であれ、世界はかつてないほど核戦争に近づいている。核保有国と非核保有国との間で起きている現在の争いや言葉のぶつかり合いがなされているロシア対ウクライナ、イスラエル対パレスチナ、北朝鮮対韓国においては、危機をさらに深刻化させている。

また、9月27日のニューヨーク・タイムズの報道によれば、ロシアのプーチン大統領は、核兵器の使用基準を引き下げる計画であり、ウクライナによる通常兵器での攻撃が「わが国の主権に対する重大な脅威」をもたらす場合、核兵器を使用する用意があると述べたという。

この新たな脅威は、先月ワシントンD.C.を訪れたウクライナのゼレンスキー大統領が、長距離ミサイルや、戦闘機および無人機の追加供与を要請したことを受けたものだ。

米国務省の政治軍事局によると、米国は2022年2月24日に「ロシアが計画的で、無差別で残忍なウクライナへの全面侵攻を開始して以来」613億ドル以上、2015年にロシアが最初にウクライナに侵攻して以来約641億ドルの軍事援助を提供してきた。

米国はまた、2021年8月以来53回にわたり、緊急の大統領権限(PDA)を行使し、自国の備蓄から総額約312億ドルの軍事援助をウクライナに提供しており、これらすべてがプーチンからの核の脅威を引き起こしている。

Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN
Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN

2017年にノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のメリッサ・パーク事務局長は、現在進行中の戦争に忍び寄る核の脅威は現実のものなのか、それとも純粋なレトリックなのかと問われ、IPSにこう答えた。「現在、冷戦以来最も核戦争のリスクが高まっています。ウクライナと中東の核保有国が関与する2つの大きな戦争があり、ロシアとイスラエルの政治家が核兵器の使用を公然と脅している。」

パーク事務局長は、核保有国間の地政学的緊張が高まっていると述べた。「それは、ウクライナに対する西側の軍事支援をめぐるロシアと米国の間だけでなく、米国が中国を包囲する同盟ネットワークを構築を試みていることや、台湾への支援をめぐる米国と中国の間でも緊張が高まっている。ただし、幸いにも、米国と中国からは、核による明白な脅威は聞こえてこない。」と語った。

「しかし、西側諸国では、評論家や政治家たちの間で、ロシアがまだ核兵器を使用していないからといって、ロシアが核兵使用について本気ではないと主張する危険な傾向がある。恐ろしい現実として、プーチン大統領や、あるいは核保有国のいかなる指導者であっても、いつ核兵器を使用するかどうか、私たちには確かなことはわからないということだ。」とパーク事務局長は語った。

すべての核保有国が支持する抑止ドクトリンは、このような不確実性を生み出だしてしまう。パーク事務局長は、「我々は、何が事態をエスカレートさせ、制御不能に陥らせるかはわからない。」と指摘したうえで、「しかし、そうなった場合に何が起こり得るかはわかっている。核兵器が使用された場合、生存者を助ける能力を持つ国家は存在しません。」と、語った。パーク事務局長は、かつて国連でガザ、コソボ、ニューヨーク、レバノンに勤務し、オーストラリアの国際開発大臣を務め、戦争や兵器で罪のない人々に与える影響を直接目の当たりにしてきた。

UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe
UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、核兵器の全面的廃絶のための国際デーを記念し推進するハイレベル会合で演説し、核兵器は 「二重の狂気 」であると述べた。

最初の狂気とは、一度の攻撃で住民全体、地域社会、都市を一掃できる兵器の存在である。「核兵器が使用されれば、人道的な大惨事、すなわち悪夢が国境を越えて広がり、私たち全員に影響を及ぼすことを私たちは知っている。核兵器がもたらすのは、真の安全や安定ではなく、私たちの存在そのものに対する差し迫った危険と絶え間ない脅威だけなのだ。」二つ目の狂気とは、これらの兵器が人類にもたらす巨大で存亡に関わるリスクにもかかわらず、「10年前と比べ、廃絶することに近づいていない。」とグテーレス国連事務総長は指摘した。

「実際、私たちは完全に間違った方向に向かっている。冷戦の最悪の時代以来、核兵器の恐怖がこれほど暗い影を落としていることはない。」「核による威嚇は最高潮に達している。核兵器使用の脅威さえ聞かれる。新たな軍拡競争の恐れがある。」とグテーレス事務局長は警告した。

一方、通信社の報道によると、ロシアは米国の核態勢の変化と、西側諸国がウクライナの戦争に何十億ドルも投入している動きに反応し、自国の核の「レッドライン」を引き直そうとしている。

先週、ロシアの安全保障理事会でプーチン大統領は、「核保有国によって支援された非核保有国によるロシアへの攻撃は、共同攻撃として扱われるべきである。」と発表した。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

国際原子力機関(IAEA)のタリク・ラウフ前検証・安全保障政策部長はIPSの取材に対し、ロシアは事実上、NPT締約国や非核兵器地帯(NWFZ)に対して、従来から定めてきた安全保障の条件を再提示している、と述べた。

これは米国の政策と本質的に類似しており、ロシアは、非核保有国が他の核保有国と共同してロシアを攻撃しない限り、ロシアはNPTまたはNWFZ条約に加盟している非核保有国を核兵器で攻撃したり、攻撃すると脅したりすることはない、という内容である。

「現在、核兵器保有国である、米国、英国、フランスが、ウクライナが国際的に承認されたロシアの領土境界線内を攻撃するのを実質的に支援する代理戦争に突入しているのだから、ロシアがウクライナとそのNATO支援国に対して、ロシアの戦略的軍事基地を標的にしたロシアに対する長距離砲撃がロシアの核攻撃の引き金になり得ると警告したのは驚くべきことではない。」

さらなる質問に対し、パーク事務局長は、核保有国の9カ国(米国、英国、フランス、中国、ロシア、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮)すべてが核兵器を近代化し、場合によっては拡大しているとIPSに語った。ICANの調査によれば、これら9か国による昨年の核兵器関連支出が推計914億ドル(約14兆4千億円)に上っており、米国は他のすべての国を合わせたよりも多く費やしている。

これらの国はすべて、抑止ドクトリンを支持しているが、それは核兵器を使用する用意と意思があることを前提としているため、全世界にとって脅威となっている。

つまり、南アジアで核戦争が起きれば、25億人が死亡する世界的な飢饉につながるという調査結果もある。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

良いニュースは、大多数の国が核兵器を否定し、核兵器禁止条約(TPNW)を支持していることだ。TPNWは、紛争に覆われた世界において、唯一の光明である。TPNWは2021年に発効し、国際法となった。ほぼ半数の国がこの条約に署名、批准、あるいは加入しており、今後さらに多くの国が批准する予定だ。

「近い将来、世界の半数以上の国がこの条約に署名または批准すると確信している。世界中の市民社会や活動家からの圧力や呼びかけが、TPNWの実現と、より多くの国々の参加を確保する上で重要な役割を果たしてきた。」とパーク事務局長は述べた。

核軍縮において国連が果たした役割について、また国連がさらに何かできることはないかとの質問に対して、パーク事務局長は次のように答えた。

第1回の国連総会で、核兵器の廃絶を呼びかけた。それ以来、核兵器禁止条約やTPNWだけでなく、核拡散防止条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)など、核兵器に関する主要な多国間条約を各国が交渉する場となっている。

グテーレス事務総長は、核兵器の容認できない危険性と、その廃絶の緊急性を強く訴え、道徳的、政治的に強力なリーダーシップを発揮し続けている。

国連軍縮部(UNODA)も重要な役割を果たしており、国連加盟国によるTPNWへの参加を支援し、促進している。今週の総会ハイレベル会合では、TPNWを正式に批准する国が増えるだろう。

「国連が核兵器廃絶のために力強い声を上げ続けることは不可欠であり、条約を支持するより多くの国が参加できるよう支援し、また、核兵器の使用を支持する核保有国とその同盟国に対して、その義務を果たし、核兵器とそれを支えるインフラを廃絶する必要性を喚起することが必要です。」とパーク事務局長は訴えた。

This article is brought to you by IPS NORAM, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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日本被団協が2024年ノーベル平和賞を受賞  被爆者の核廃絶への呼びかけを拡大する

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

ノルウェー・ノーベル委員会は、広島と長崎の被爆者を代表する日本の草の根団体「日本被団協」に2024年のノーベル平和賞を授与した。これは、依然として核問題に苦しむ社会への強いメッセージとなっている。金曜日に発表されたこの賞は、核兵器の非合法化を求める数十年にわたるキャンペーンと、1945年に投下された2発の原子爆弾がもたらした悲惨な被害についての感動的な記述を称えるものである。

日本被団協のメンバーたちは、その破壊を自らの身をもって表現してきた。家、家族、都市が灰と化すのを目の当たりにした精神的な重みに加え、多くの被爆者は体を引き裂かれた放射線の痕を背負っている。このような大量破壊兵器が二度と使われてはならないことを強調する被爆者の体験談は、核軍縮に関する世界的な議論を形成する一助となっている。

「被爆者は、筆舌に尽くしがたいものを描写し、考えられないことを考え、核兵器によって引き起こされた理解しがたい苦痛を何とかして把握する手助けをしてくれました。」とノーベル委員会からの引用文は述べている。この組織の絶え間ないキャンペーンは、核兵器が引き起こす恐ろしい人的犠牲を生々しく思い起こさせるものであり、さらなる紛争へと向かう社会における道徳的な羅針盤として機能する。

 日本被団協の三牧敏之共同代表は、広島から取材に応じた。頬をつねりながら信じられない様子で、「本当に信じられないです。」と語った。自らも被爆した経験を持つ三牧代表は、この受賞が非核社会に向けた団体メッセージとイニシアチブをより際立たせる一助になることを期待した。永続的な平和は手の届くところにあるというグループの信念を強調し、「核兵器は絶対に廃絶されるべきです。」と述べた。 

この意識は、今まさに必要とされている。ノーベル委員会の選出は、ロシアや北朝鮮のような国々が自由に核兵器を近代化・増強し、地政学的緊張が高まる中で、人類が直面している危険を鋭く思い起こさせるものである。ヨルゲン・ワトネ・フライドネス委員長は、このようなリスクと向き合うことをためらわなかった。「紛争が絶えない世界において、核兵器の使用に対する国際的な規範を強化する必要性を強調したかったのです。」とヨルゲン委員長は語った。

「被爆者は核戦争による悲惨な経験をしてきた。彼らの戦いは、自分たちの生存だけでなく、次世代の尊厳のためでもあります。もともと戦後の日本で疎まれ、虐待されてきた被爆者たちは、核兵器反対の声として発展してきた。今日でも10万人以上の被爆者が存在し、平均年齢は85.6歳だが、彼らの声はいまでも重要だ。」

日本人のノーベル平和賞受賞は、123年の歴史の中で2度目である。最初の受賞者は1974年の佐藤栄作元首相で、核拡散防止条約(NPT)の締結と環太平洋の安定に尽力したことが評価された。日本被団協の受賞は、広島と長崎の原爆投下からほぼ80年後の出来事であり、歴史の教訓についての重要な考察となっている。 

和田征子日本原水爆被害者団体協議会事務次長による被爆証言(2017年バチカン会議)撮影・編集:浅霧勝浩

日本被団協は、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)やエリー・ウィーゼル氏など、大量破壊兵器に反対し、未来を守るために過去を思い起こす必要性を訴えてきた過去の受賞者の仲間入りを果たした。核による大惨事を防ぎ、平和を基調とする未来を創造するためには、国際社会は被爆者に注意を払わなければならない。なぜなら、被爆者は、人類が壊滅的な被害をもたらすという最悪の事態を目の当たりにしてきた人たちだからだ。

 日本被団協は、ノーベル平和賞を定めたアルフレッド・ノーベルの命日である12月10日に、オスロで正式にノーベル平和賞を受賞する。今年のメッセージは明確だ。世界は核兵器の完全廃絶に向けて歩み始めなければ、歴史上最も暗い出来事を繰り返す危険性がある。 

広島と長崎の被爆者たちは、その揺るぎない精神と回復力によって、人々が瓦礫の中から立ち上がることができるということを私たちに教えてくれる。彼らの語りによって、正しいことのために戦う信念、言いようのない残虐行為に立ち向かう勇気、そしてこのような苦しみが二度と繰り返されないことを保証する他者への慈悲が、世界中に伝えられる。(原文へ

INPS Japan/American Television Network

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隔離を禁止するだけでは不十分

 アチャム郡=ダヌ・ビシュワカルマ

2016年12月20日、ネパールの西部に位置するアチャム郡のティミルサイン村に住む45歳のダマラ・ウパディヤが、生理中という理由で窓のない小屋に隔離され、寒さをしのぐために焚いた火の煙で窒息死した。

同じ日、同郡のガジャラ村の15歳のロシュニ・ティルワさんが「チャウ」と呼ばれる「生理小屋」の中で窒息死した。

2018年1月11日、アチャム郡のトゥルマカドのガウリ・ブダさんがチャウ小屋で窒息死した。

2018年6月10日、22歳のパルバティ・ブダが生理小屋でヘビに咬まれて死亡した。

2018年6月18日、バージュラ郡のアガウパニ村で、35歳のアンバ・ボハラさんと幼い息子のスレシュくん、ラミットくんが、生理小屋の火災で死亡した。

2019年12月1日、22歳のパルバティ・ブダ・ラウトさんが生理小屋の中で窒息死した。警察は彼女を小屋に強制的に追いやった義理の兄を逮捕し、裁判所は彼に45日の禁固刑を言い渡した。

そのパルバティ・ブダ・ラウトの悲劇的な死の後、カトマンズの内務省は、全国的な怒りを受けて、カルナリ州とスドゥルパシム州全域で生理小屋の撤去運動を開始した。

同省は2つの州の19の郡に対し、すべての生理小屋を捜索し、破壊するよう指示した。1万棟以上の小屋が壊され、そのほとんどがアチャム郡にあったと報告され、100の地方自治体が「チャウ・フリー」を宣言した。

地元政府によって取り壊された生理小屋

しかし、パンデミックの後、多くの小屋が再建された。地元の人々は、月経中の女性は不浄であり、家にいることは、収穫の失敗や病気、家畜の死といった神の怒りを招くと信じているからである。

アチャム郡のセルパカ村に住む40歳のトゥリ・サウドさんは、何十年も生理中は生理小屋で過ごしてきた。現在、彼女には2人の娘と2人の義理の娘がいるが、全員が毎月、生理中の5日間、裏庭にある同じ小屋で過ごす。

その小さな小屋には窓がない。土の床はモンスーンの間ずっと湿っており、藁で覆われている。同時に月経になることが多く、トゥリさんと家族の他の女性たちは狭くて暗い空間を共有しなければならない。

アチャム郡の生理小屋取り壊しキャンペーン中に、トゥリさんの月経小屋も取り壊された。彼女は村の他の小屋の破壊にも協力した。

しかし、チャウパディの習慣や月経にまつわる汚名を改めることは、生理小屋を破壊よろも遥かに難しかった。トゥリさんが生理になったとき、彼女は以前生理小屋があった場所にテントを張って5日間過ごした。

結局、テントは居心地が悪いので、一家は別の泥と藁葺きの小屋を建てた。トゥリさんが恐れているのは、生理小屋に自分を隔離しないと、家族の誰も家に入ってこなくなり、自分が作った料理も食べられなくなるのではないかと心配している。

実際、同調圧力は社会全体からだけでなく、生理の不浄ついての迷信を信じている村の年配の女性たちからきている。

「村の他の女性たちが生理小屋に行くのをやめるなら、私もそうするつもりよ。」とトゥリさんは言う。「閉経が待ち遠しい。」

トゥリさんの隣人である40歳のデウサリ・アウジさんも小屋を再建し、そこで生理期間を過ごしている。彼女は5人の子供を出産した後、それぞれ数週間、その小屋で過ごした。出産直後の母親もこれらの小屋に隔離される。

「これは私たちの習慣であり、もしそれをやめれば近くのお寺にいるカーリー女神を怒らせることになる。」とアウジさんは確信を持って言う。

アウジさんは、母親と義理の姉が同じ時期に生理になると、狭い小屋を共有している。「息をするのも眠るのも大変です。でも、私たちはその苦難に耐えなければならないのです。」

女性たちの多くの死は、山間部の厳寒の冬の中、窓のない閉ざされた空間で火を焚くため、窒息が原因で起こっている。

生理小屋の中

ラム・バハドウール・サウドさんの妻と娘は、4年前に家族の生理小屋が取り壊された後、家の中で生理期間を過ごすようになった。しかし、彼の家族は村人から村八分にされたため、彼は取り壊された小屋を再建せざるを得なかった。

カマルバザール郊外に住む14歳のニシャ・ネパリは、学校でリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)について学び、生理を小屋で過ごすことのリスクを学んだ。しかし、彼女は毎月生理期間の5日間、家族によって小屋に隔離され、学校に通うことができないでいる。 

「小屋には明かりがないので、宿題もできません。」と、家族でネパールに戻る前はインドで育ったニシャさんは言う。

地元の教師であるスリジャン・ダカル・クンワルさんは、女性たちが近くの寺院の神々を怒らせることができないと固く信じているため、生理小屋に自らを隔離し続けていると説明する。

アチャム郡に住むカドガKCは、政府によって古い生理小屋が取り壊された後、怒りを感じ、2人の義理の娘のために新しい小屋を作った。 

KCはシャーマンであり、生理中の女性に触れると健康を害すると信じており、一度生理中の女性に触れられたことが自分の慢性的な病気の原因だと考えている。

「誰が何を言おうと気にしない。私の家の生理小屋はここにある。」と彼は言う。「なぜ自分の神の言うことを聞かずに、他人の言うことを聞かなければならないのか。」

チャウルパティ村のバサンティ・サウドさんのような地元選出の役人でさえ、月経期間を家族の生理小屋で過ごし、実際には以前よりも状況が良くなったと信じている。

サウドさんはその理由をこう語る。「私たちの小屋が取り壊される前は、小屋は遠くにあったのですが、今はそうではありません。今はどの家族も自分の小屋を持っています。」

アチャム郡のチーフ・ディストリクト・オフィサーのシバ・プラサド・ラムサル氏は、法律や取り壊しキャンペーンだけでは、深く根付いた信仰を変えることはできないと認めている。そのため、彼の事務所は迷信に対する意識を高めることに集中している。

アチャム警察署長のイシュワリ・プラサド・バンダリ氏は、小屋の取り壊しを再開し、再建されないようにするためには、コミュニティの支援が必要であることに同意している。

活動家たちは、生理小屋に隔離されなくても、ネパール全土の多くの女性が教育を受けた家族でさえ、何らかの形で差別や汚名に苦しんでいると指摘する。生理に対する差別は犯罪であるだけでなく、女性の深刻な健康リスクでもある。

栄養士のアルナ・ウプレティさんは、産後や生理中の少女や女性に牛舎での生活を強いることは、事故や感染症を引き起こしやすく、バランスの取れた食事が必要な時期に栄養不足になりがちだと言う。

根深い文化的信念は根絶するのは難しく、州政府や地方政府も社会的な反発を恐れて抜本的な改革を推進することに消極的である。抑圧的な月経差別が最も蔓延している地域は、ネパールの首相を5度務めたシェル・バハドゥル・デウバ氏のような有力な政治家の選挙区でもある。

尊厳ある活動家であるラダ・パウデル氏は、この慣習を終わらせるためには地方政府が動員されなければならないことに同意している。

小屋でのレイプ

過去17年間でスドゥルパシム州で生理小屋で死亡した16人の女性のうち、14人がアチャム郡で死亡している。窒息やヘビ咬傷による死亡の他に、月経中の女性がレイプや性的暴行の被害者になったケースもある。

6月、アチャム郡で若い少女が生理小屋で寝ているときに親戚にレイプされた。近隣の人々が彼女を意識不明の状態で発見し、マンガルセンの地区病院に搬送した。

警察に告訴されたが、それは暴行から19日後のことだった。小学生の少女は、母親が亡くなり、父親が再婚した後、母方の祖母に弟と一緒に育てられていた。 

「彼は6か月前から私をつけまわし、一度私が一人で家にいるときに入ってきて、私に無理やり迫った」と少女は最近のインタビューで語った。警察はレイプ現場となった小屋を取り壊し、事件は裁判中である。

法律

チャウパディは2005年にネパールの最高裁判所によって禁止され、その3年後には女性・児童・社会福祉省がこの慣習を禁止するガイドラインを策定した。

2017年の国家刑法第168条3項では、「月経中または出産時に女性を生理小屋隔離すること、または同様の差別、不可触、非人道的な扱いなどを女性に強いること、または強いられることを禁止する」と規定している。このような犯罪を犯した者は、3か月の禁固刑、3,000ルピーの罰金、またはその両方が科される。(原文へ

This article is brought to you by Nepali Times, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.


中国とカザフスタン、永続する友情と独自のパートナーシップを強化

【アスタナLondon post/Xinhua】

中国の習近平国家主席は7月2日、中央アジアのカザフスタンへの国賓訪問中、中国とカザフスタンの間に確立された独特の恒久的な包括的戦略的パートナーシップと、両国の長年にわたる友情を称賛した。

習主席は同日早くカザフスタンに到着し、上海協力機構(SCO)首脳理事会の第24回会合にも出席する。

カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領は空港で盛大な歓迎式典を行った。火曜日の夕方、両首脳は和やかで温かい雰囲気の中で夕食を共にし、二国間関係や共通の関心事について親切で友好的な意見交換を行いました。

独特のパートナーシップ

これは習主席のカザフスタンへの5回目の訪問であり、2022年9月の前回の国賓訪問に続く2年以内で2回目の訪問となる。

「32年前、中国はカザフスタンの独立を最初に認めた国の一つでした。それ以来、中国とカザフスタンの関係は新たな旅を始めました。」と、習主席は訪問に先立ち火曜日にカザフスタンのメディアに掲載された署名記事で述べた。

一方、アスタナ到着時の書面声明で、習主席は両国が外交関係を樹立してからの32年間、その関係は時の試練と国際情勢の変遷に耐え、独特の恒久的な包括的戦略的パートナーシップへと進化したと述べた。

習主席は11年前、カザフスタンでシルクロード経済ベルトの共同建設というイニシアチブを初めて提唱したことを振り返り、現在、中国とカザフスタンの間の一帯一路の協力が豊かな成果を上げていると語った。

双方向の経済・貿易協力は新たな高みに達し、人文交流は多くのハイライトがあり、両国の国際協力は緊密かつ効率的であり、これは両国民の福祉を改善するだけでなく、国際・地域情勢にさらなる安定と正のエネルギーを注入していると習主席は付け加えた。

2023年、中国はカザフスタンの最大の貿易相手国であり、双方向の貿易は前年同期比32%増の410億米ドルに達した。カザフスタンから中国への主要な輸出品は原油、金属、農産物であり、中国はカザフスタンに機械、電子製品、消費財を供給している。

過去1年だけでも、相互のビザ免除政策の実施、3番目の鉄道検問所の建設、文化センターの設立、2024年を中国における「カザフスタン観光年」とする発表など、多くの重要な合意が締結された。

「カザフスタンと中国の関係は、強固な友情と善隣関係の強い絆の上に築かれています。」と、トカエフ大統領は習主席の訪問に先立つ新華社通信とのインタビューで述べ、2022年の習主席の前回の訪問で両国の協力が新たな「黄金の30年」に乗り出したと指摘した。この年は両国の外交関係樹立30周年を迎えた。

カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領が、22024年7月2日、カザフスタンのアスタナ空港で中国の習近平国家主席を歓迎する盛大な式典を開催した。(新華社/尹博古)

今回の習主席の訪問は、二国間関係と協力の多面的な側面に新たな焦点をもたらすことが期待されている。

トカエフ大統領との一連の会談で、習主席は両国間の協力をさらに強化するための詳細な議論を行う予定だ。習主席の言葉を借りれば、彼とトカエフ大統領は「中国とカザフスタンの関係のさらなる発展のための道筋を計画し、中国とカザフスタンの恒久的な包括的戦略的パートナーシップを新たな高みに引き上げる方法について議論する」予定である。

「カザフスタンと中国は親しい隣国であり、真の友人であり、パートナーです。今日、両国はともに発展と復興の重要な段階にあります。」と、カザフスタン中国研究センターのグルナール・シャイメルゲノワ所長は語った。

両国の指導者は二国間協力の新たな「黄金の30年」を開いたと彼女は述べ、二国間関係が高いレベルで成長している中、今回の習主席の訪問が二国間協力の新たな展望を開くことになると信じられていると付け加えた。

中国の習近平国家主席が2024年7月2日、カザフスタンのアスタナに到着した。上海協力機構国家元首理事会の第24回会合に出席し、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領の招待により国賓訪問を行う。(新華社/鞠鵬)

中国の習近平国家主席が2024年7月2日、カザフスタンのアスタナに到着した。上海協力機構国家元首理事会の第24回会合に出席し、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領の招待により国賓訪問を行う。(新華社/鞠鵬)

永遠の友情

習主席はアスタナ到着時に、両国の永遠の友情は時を経てますます強くなり、隣国間の団結、相互利益、相互成功の模範を示していると語った。

「中国とカザフスタンの友好的な交流の歴史は、我々の二国間関係の発展が歴史と我々の時代の潮流に合致しているという強力な証です」と、習主席は「共通のコミットメントを堅持し、中国とカザフスタンの関係の新たな章を開く」というタイトルの署名記事の中で語った。

時間は両国間の深い友情を象徴する多くの心温まる物語を提供してきた。

2000年以上前、中国の皇帝の使節である張騫は西域への外交使節団を率い、中国と中央アジア間の友情と交流への扉を開いた。張騫が先駆者であった古代シルクロードは、中国とカザフスタン間の友好的な交流と相互学習に貢献した。

そして新しい時代は、眼科医のサウレベク・カビベコフ、珍しい血液型を持ち中国で自主的に献血した「パンダマン」ことルスラン・トゥレノフ、人気歌手のディマシュ・クダイベルゲンなど、より多くの親善使者を歓迎しました。

永遠の友情はまた、習主席の到着時にアスタナ空港での心温まる雰囲気を通じて十分に示された。

「広大で美しい大地に我々の愛する祖国が立つ。我々は平和を愛し、故郷を愛する。団結と相互愛が我々を鋼のように強くする。」と、一群のカザフスタンの少年少女たちが白い衣装で、習主席を中国語の歌詞「祖国賛歌」で迎え、習主席への尊敬とカザフスタン国民からの温かい歓迎を示した。

空港では、トカエフ大統領が政府高官のチームと共に習主席を迎えた。習主席は時折、中国語を流暢に話すトカエフ大統領と会話を交わした。トカエフ大統領は大学時代に中国語を学び始めたと述べ、最近の新華社通信とのインタビューで、彼は現在も定期的に中国語の本を読み、中国の政治と社会経済の発展について情報を得ていると語った。

文化センターの相互設立に関する二国間協定が署名された。中国とカザフスタンの映画製作者は、初の共同制作である「作曲家」という映画を共同制作した。中国の大学キャンパスのカザフスタンへの設置、魯班工坊、中医学センターなど、文化協力の二国間プログラムが実施されている。

2024年7月2日、カシムジョマルト・トカエフ大統領と握手を交わす中国の習近平国家主席。(新華社/謝環馳)

相互のビザ免除措置のおかげで、2023年には合計60万人の越境旅行が記録された。今年の第1四半期には、双方向の訪問者数は20万人に達し、新たな高みに達することが期待されていると、双方の公式データが示している。

「文化・人的協力は、二国間関係を強化し、我々の国民間の友情を育む上で重要な役割を果たします。」と、トカエフ大統領は語った。

「我々の二国は、中国とカザフスタンの永遠の友情のための公共の支持を強化する必要があります。より深く強い中国とカザフスタンの友情は、我々両国民が望むところです。そのため、我々はこの友情を継承し、多様な文化・人的交流プログラムを通じて我々の国民間の相互理解と親近感を高めることが重要です。」と、習主席は署名記事のなかで語った。(原文へ

INPS Japann

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2024年7月3日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

移転に関する国民的議論が、今こそ必要である。

【Global Outlook=ロズリン・プリンスレイ、ナオミ・ヘイ 

多くのオーストラリア人は、洪水、火災、海岸浸食、サイクロン、猛暑など、気候変動とそれに伴う異常気象にますますさらされる地域に住んでいる。災害が起こるのをただ待っていたら、何十万人もの人が避難を余儀なくされるだろう。

2022年にニューサウスウェールズ州北部で発生した破壊的な洪水は、被害が起こりやすい場所からコミュニティーを移転させないことの危険を示すものだ。被災から2年以上経ってもなお、リズモー市は復興の途上にある。多くの人がまだ仮設住宅に残っており、自宅に戻ることも、事業を再開することも、よそに移る資金にアクセスすることもできずにいる。(

しかし、ほかの選択肢もある。前もって計画を立て、最もリスクの高い地域を特定し、災害に見舞われる前にコミュニティーを恒久的に移転することができる。筆者らの最近の論文では、そのような戦略が緊急に必要であることを説明し、それをどのように実行するかについて助言を提供している。

重要な点として、筆者らは、この戦略の陣頭指揮を執る連邦移転局の設立を提唱している。移転の見通しは、住民に不安やトラウマを与えるかもしれないが、一方でそれは新しい機会と長期的な利益をもたらす。しかし、行動は今起こさなければならない。

増大する気候関連リスク

 気候変動がオーストラリア全土の住宅や不動産に損害をもたらすという証拠が、次々に示されている。

例えば、メルボルン市街地は、メルボルン・ウォーターによる最新版浸水リスクモデリングで浸水想定区域に指定されたのを受けて、保険料の引き上げや不動産価値の低下に見舞われるだろう。マリバーノン川の東に位置するケンジントンバンクス・エステートは、かつては賞を受賞したこともある都市再生プロジェクトだった。今では当局が大急ぎでハイリスクの住宅を守り、将来の浸水被害を防ごうとしている。

シドニーにある気候リスク分析会社クライメット・バリュエーション(Climate Valuation)は近頃、オーストラリア全土について川の増水による住宅浸水リスクを評価した。それにより明らかになったハイリスク物件は、2030年までに保険に加入できなくなるか、加入できなくなる可能性がある。

分析対象となった住宅の約25戸に1戸は、2030年までに保険に加入できなくなる見込みが高い。具体的には、14,739,901戸の住宅のうち588,857戸である。最も想定被害の大きい地域では、10戸のうち1戸以上が保険加入不可能になると見込まれる。

これらの住宅は、浸水により損害を受ける見込みが極めて高く、所有者には、住むこともできず、修繕する余裕もなく、売ることもできない住宅が残される。

すでに、海岸から150メートル以内に立地する住宅の10戸に1戸は、海岸浸食の被害を受けやすい状態にある。海面上昇によりオーストラリアの一部が居住不可能になる日は、そう遠くないだろう。

海面が1.1メートル上昇すると、最大で25万棟の居住用建築物が海岸浸水と海岸浸食の被害を受けると見込まれる。これは、高排出シナリオにおいて2100年までに現実のものになると予想される。ただし、氷床の溶解については不確実性が高いため、2100年までに2メートル近く海面が上昇する可能性も排除できないことに注目するべきである。

その一方で、オーストラリアの一部は、あまりにも暑くなっているか、ますます森林火災のリスクが高くなっている。

浸水想定区域モデリングの改訂により、一部の住宅は「保険不可能」になる可能性がある(ABC News,7.30)。

警鐘を鳴らす保険会社

気候変動は保険料を押し上げており、そのため保険業界はコミュニティー移転を話題にしつつある。

昨年、オーストラリアとニュージーランドで最大の保険会社であるIAGが、計画的移転における促進要因や阻害要因を調査する報告書を委託作成した。報告書は、意思決定にコミュニティーの参加を得ることについて検討し、政府が計画移転プログラムをどのように実施し、管理することができるかについて提案を行っている。

その後、Suncorp GroupとNatural Hazards Research Australiaは、「助成を受けたコミュニティー移転に関する国民的議論を促進する」ためにディスカッションペーパー を発表した。ペーパーは、当局に対し、自然災害リスクをマッピングし、優先度の高い自然災害リスク想定区域に関する国民的議論のために情報を提供するよう促している。これには、保険会社からのデータも盛り込まれると考えられる。

上院のある調査では、気候リスクが保険料とその利用可能性にどのような影響を及ぼすかが調査されている。

リスクにさらされる病院、サービス、道路

ニューサウスウェールズ州(NSW)は、州災害軽減計画に計画移転を明記した最初の州である。「危険への曝露を軽減する手段」の一つとして、管理された移転が挙げられている。ただし、同計画は次の点を認めている。

ハイリスク地域の住宅からの管理された移転(バイバックまたは任意買い取りと呼ばれる)は、家、場所、コミュニティー、国との長期的な結び付きゆえに、混乱やトラウマをもたらす恐れがある。

コミュニティーへの災害リスクを評価する際は、重要インフラも考慮に入れる必要がある。NSWの計画では、100年に1度の洪水による被害のリスクがある64の警察署、54の州緊急サービス施設、19の総合病院が特定されている。また、海面が1メートル上昇すると、州内の800キロメートルを超える地方道路が影響を受け、深刻な混乱を引き起こすとも記されている。

NSW復興局は、州の計画・住宅・インフラ省とともに、管理された移転に関する州の政策を2025年半ばまでに策定することになっている。

移転はすでに起こっている ― 災害後

ノーザンリバーズ地域の洪水により、3,500戸を超える住宅が居住不可能になった。約1,100戸は、州のResilient Homes基金による買い上げの申し出を受けると予想された。復興局は現在、1,090件の買い上げ申請の処理に当たっている。

さらにクイーンズランド州南東部の800戸の住宅が、クイーンズランド州復興局を通して買い上げられると見込まれる。

しかし、災害の後に買い上げを行うことは、混乱をもたらし、管理が難しい。前もって計画するほうが良いだろう。

先を見越した移転に投資し、災害復興の費用を節約

コミュニティーが元の場所に留まり、災害が起こった場合、オーストラリアの納税者は復興の費用を分担することになる。異常気象が増えれば、この費用はだんだん負担しきれなくなるだろう。

 移転の取り組みについて、州、準州、自治体、コミュニティー、個人と調整する連邦移転局が必要である。

連邦は、移転に関する州と準州の取り組みを調整し、指導するという特殊な立場にある。努力が重複しないようにし、一貫して最善の施策が採用されるようにし、移転のための国の資源が最大限の効果をあげるよう活用することができる。

エビデンスに基づくダイナミックなリスクマッピングによって、優先度の高い場所、特に複数の気候関連リスクにさらされている場所を特定することができるだろう。例えば、沿岸部で海面上昇と川の洪水リスクが同時に発生する、あるいは森林火災で土壌がむき出しになり、地勢の吸水力が低下した結果、洪水リスクが上昇するといったことだ。

移転局は、インフラ、移転可能な土地、機械設備、サプライチェーン、専門知識など、公共および民間部門のリソースを記録する。

帰属意識と場所への愛着が強いコミュニティーは、多くの場合、移転に抵抗を示す。場所を失う可能性は、大きな心理社会的影響を及ぼすため、コミュニティーとの慎重な関与が不可欠である。

気候関連災害が激化するにつれ、自分の家が居住不可能または保険不可能になる人が増えるだろう。オーストラリアは、最もリスクの高いコミュニティーの移転計画を、手遅れになる前に、今すぐ始める必要がある。その長期的な利益は計り知れない。

筆者らは、本記事の元となったイシューペーパーを共同執筆した、オーストラリア国立大学、タスマニア大学、キャンベラ大学、シドニー大学、Mather Architectureの専門家の方々に、心より感謝する。

ロズリン・プリンスレイは、オーストラリア国立大学の災害ソリューション学責任者である。

ナオミ・ヘイは、オーストラリア国立大学アート・デザイン学部のコンビーナー兼講師である。

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世界で進行中の紛争は核戦争の危険にさらされているのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ロシア、イスラエルの右派政治家、そして北朝鮮から発せられる核の脅威は、終わることのない一定の鼓動のように続いている。これらの脅威はまた、一つの疑問を提起している。つまり「核兵器を使わずに第三次世界大戦は起こり得るのか。」という疑問だ。

ロイター通信は8月27日の報道で、ウクライナに西側諸国のミサイルでロシア深部を攻撃する許可を検討するのは、欧米諸国が火遊びをしているようなものだとロシアの高官が語ったと報じた。また、米国に対して、第三次世界大戦は欧州に限定されていないだろうと警告した。

ロシアの長年の外相であり、元国連大使でもあるセルゲイ・ラブロフ氏は、欧米諸国はウクライナでの戦争をエスカレートさせようとしており、外国から供給された兵器の使用制限を緩和するよう求めるウクライナの要請を検討していることは「自らトラブルを招いているようなものだ。」と述べた。

ワシントンに本部を置く軍備管理協会(ACA)は先週、この状況を正しく捉えて、「世界の核安全保障環境はこれ以上ないほど不安定になっている。」と指摘した。

ACAの主要刊行物である『Arms Control Today』誌の編集長であるキャロル・ジャコモ氏は、「米国で次期大統領が選出される数週間前、世界の核安全保障環境はこれ以上ないほど不安定になっている。」と述べた。

「ロシアは、ウクライナに対する戦争を核兵器使用にエスカレートさせるという脅威を依然として高めています。イランと北朝鮮は核開発計画を推し進め、中国は着々と核兵器の拡張を進め、米国とロシアは費用のかかる近代化計画を進めており、ガザ地区での戦争は、イランや核保有国イスラエルをはじめとする他の国々を巻き込み、

地域全体に広がる大惨事へと発展する恐れがあります。」とジャコモ氏は指摘した。

一方、ロシアと中国は米国との軍備管理協議への参加を拒否しており、新たな国々が核兵器保有の可能性を模索し、数十年にわたって続いてきた軍備管理条約が崩壊しつつある。

こうした状況を受け、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、8月26日付の英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、世界的な核拡散防止体制は冷戦終結以来、かつてないほど大きな圧力にさらされていると警告した。

「米国の大統領選挙キャンペーンでは、いずれの候補が勝利しても、就任後ただちに米国の核兵器を発射する唯一の権限を継承することになるにもかかわらず、これらの問題のほとんどについて、真剣に公の場で議論されていません。」と、ニューヨーク・タイムズ紙の元論説委員(2007年~2020年)であるジャコモ氏は記している。

ブリティッシュ・コロンビア大学公共政策・グローバル・アフェアーズ学部教授で、軍縮・グローバル・ヒューマンセキュリティシモンズ講座の教授である、同大学MPPGA大学院プログラムディレクターのM.V.ラマナ博士はIPSの取材に対して、「核兵器がもたらす危険性と、この大量破壊兵器を保有する非常に強力な機関や政府が、かつてないほどに強大になっている」と語った。

「この16ヶ月間、ロシア前大統領メドベージェフ安全保障会議副議長とイスラエルのネタ二ヤフ首相が、それぞれウクライナとガザ地区に対して核兵器の使用をほのめかしたり、使用を呼びかけたりしている。」とラマナ氏は指摘した。

これらの国の指導者たちはすでに、何万人もの民間人を殺す意思を示している。ラマナ氏は、「さらに遡れば、ドナルド・トランプ米大統領が北朝鮮を「完全に破壊する」と威嚇したことも思い出される。トランプ氏のような人物や、戦争で核兵器を使用した唯一の国である米国から発せられたこの脅威を、最大限に深刻に受け止めるべき十分な理由がある。」と語った。

さらにラマナ氏は、「このような大きな危険は、偉大なビジョンによってのみ緩和できると主張した。それは、人々が自分たちの名の下で、核兵器の使用に限らないがとりわけ核兵器を使って誰もの命を奪うべきではないと要求することである。」と主張した。

そのためには、世界中の人々と共通の目的を持ち、アルバート・アインシュタインが1947年に「時代遅れの概念」と指摘していた「狭いナショナリズム」によって分断されることを拒否する必要がある。

Institute for Public Accuracyのエグゼクティブ・ディレクターであり、RootsAction.orgの全米ディレクターであるノーマン・ソロモン氏はIPSの取材に対し、「核軍拡競争の勢いはほぼ完全に間違った方向に向かっている。」と語った。世界全体および人類全体がますます悲惨な状況に陥っており、地球上のほぼすべての住民が熱核による消滅の危険に晒されていることを、核保有国の指導者たちが認めようとしないことが、事態をさらに深刻にしている。

「核超大国として、米国とロシアは核兵器の開発を推進してきました。それを正当化してきたものの、その結果は核兵器の拡散です。」

「核兵器の保有数が少ない国々や核兵器保有を望む国々は、最も強力な核保有国が何をしようとしているかを敏感に察知しています。核拡散を推進しながら核不拡散を説いても、より多くの国への核兵器の拡散を食い止めるための説得力のあるお手本にはならないです。」とソロモン氏は指摘した。

「特に、イスラエルに関する膨大な量のメディア報道や外交的言説の中で、イスラエルが中東で唯一核兵器を保有しているという事実について言及されているのを読んだり聞いたりすることはほとんどありません。イスラエルが周辺諸国を攻撃しても罰せられない現状を考えると、軍事問題に関してイスラエルが自制するだろうと信頼するのは間違いでしょう。」

ソロモン氏は、米露間の冷戦の再来が、極めて危険なレベルにまで核軍拡競争を加速させていると指摘した。今世紀に入ってから次々と米国政府によって破棄された条約により、軍備管理は過去のものとなった。オープンスカイ条約中距離核戦力全廃条約(INF)は、トランプ大統領によって破棄された。

それ以前には、ジョージ・W・ブッシュ大統領が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)条約を破棄している。こうした条約が存在しないことで、ロシアとの核戦争の可能性が高まっている。しかし、バイデン大統領は、前政権の共和党によって破棄されたこれらの協定を復活させようとはしていない、とソロモン氏は語った。

「正気を取り戻すには、態度と政策の抜本的な転換が必要だ。現在の方向性は、人類にとって計り知れない大惨事に向かっている。」と、著書『War Made Invisible アメリカが軍事力の犠牲を隠蔽する方法』の著者であるソロモン氏は語った。

ジャクリーン・カバッソ西部諸州法律財団事務局長はIPSの取材に対して、「今日の世界を見渡すと、核武装したロシア、イスラエル、インド、中国、北朝鮮、そして米国などますますナショナリスト的な権威主義的政府と指導者が増えていることが分かる。彼らは皆、平和の名の下に戦争の準備に忙しいのです。」と語った。

しかし、そうである必要はない。この事態の緊急性を踏まえて、米国市長会議(USCM)は、人口3万人以上の全米1,400以上の都市が加盟する超党派の公式団体として、6月に「核の危機が差し迫る時代にこそ対話を」と題する決議を採択した。

この決議は、「ロシアによるウクライナに対する違法な侵略戦争と度重なる核の脅威を非難し、ウクライナから全軍を撤退させるようロシア政府に要求する」とともに、米国大統領と議会に対して「ウクライナでの戦争をできるだけ早く終結させるために最大限の外交努力を行う」よう求めている。

カバッソ事務局長は、この決議は「米国政府に対し、ロシアとの信頼関係を再構築し、2026年に期限切れとなる唯一の二国間核兵器管理条約である新戦略兵器削減条約(新START)に代わるものを目指し、米ロ間の核リスク低減と軍備管理のためのハイレベル協議の再開への尽力を努めるよう求めている。」と語った。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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核兵器廃絶を訴える活動家たち、世界に「平和を想像すること」を呼びかける

【パリ=AD マッケンジー】

世界平和と人類の未来について議論をする上で、核兵器の問題は避けて通れない。そして、その問題は今、対処されるべきである。

これは、9月22日から24日にかけてフランスの首都パリで開催された「イマジン・ピース(平和を想像する)」会議において、多くの代表者たちが発信したメッセージである。この会議は、1968年にローマで設立され、現在は70カ国に広がっているカトリックの信徒団体「聖エジディオ共同体」によって主催された。

「祈り、貧者への奉仕、平和への取り組み」を基本理念とする同共同体は、これまでに38回にわたって国際的な多宗教間の平和会議を開催しており、世界中の活動家を一堂に集めてきた。今回の会議は初めてパリで開催され、核兵器保有国であるフランスに数百人が集まった。

世界各地で続く残虐な紛争や、一部の国による核兵器の「強化」を競い合っているという状況を背景に、この会議は緊迫感に包まれていた。戦争指導者たちによって核兵器が使用されるのではないかという懸念が強まっているのだ。参加者たちは、現在および過去における残虐行為を強調し、世界の指導者たちに過去の教訓から学ぶよう呼びかけた。

「広島と長崎の後、私たちは多くの『ノー』という声に恵まれてきました。何百万回もの『ノー』が、運動や条約、そして意識を生み出してきました。 核兵器の開発と使用から学ぶ唯一の合理的な教訓は、『ノー』ということです。」と、米国のニューヨークを拠点とする「平和と対話のための聖エジディオ財団」のアンドレア・バルトリ会長は述べた。

23日に開催された「ヒロシマとナガサキを忘れない ー 核兵器のなき世界を想像する」と題したフォーラムに参加したバルトリ会長や他の講演者たちは、核兵器のある世界で生きるとはどういうことかを分かりやすく説明し、第二次世界大戦後の核兵器に関する歴史の発展について詳しく話した。

「広島と長崎に2発の爆弾が投下された後、人類は7万発以上の核兵器を製造し、2千回以上の核実験を行いました。現在でも12,500発以上の核兵器が存在しており、その一つ一つの威力は1945年8月に使用された2発の原爆をはるかに上回っている。」とバルトリ会長は述べた。

これらの兵器の壊滅的な可能性が広く認識されているにもかかわらず、また、国連の条約がその使用を禁止しているにもかかわらず、一部の政府は核兵器の保有が抑止力であると主張している。しかし、この主張は欺瞞的であるとフォーラムのスピーカーたちは強調した。

「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のディレクターであり、2000年代初頭にオーストラリアで発足し、2017年にノーベル平和賞を受賞した運動の指導者であるジャン=マリー・コラン氏は、抑止力を主張する指導者たちは国際人権を「侵害する可能性を認めている」と述べた。

「核兵器は都市を破壊し、人口全体を殺傷することを目的として設計されています。したがって、核抑止力に基づく防衛政策を実施し、その命令を下す責任を負う全ての大統領や政府首脳は、これを認識しているのです。」とコラン氏はフォーラムで語った。

ICANは2017年に国連で採択され、2021年に発効した核兵器禁止条約のキャンペーンを展開してきた。この採択は、1970年に発効した核兵器不拡散条約(NPT)から約50年後に実現したものである。

Opening Ceremony. Credit: Kevin Lin, Multimedia Asssistant director, INPS Japan.
Opening Ceremony. Credit: Kevin Lin, Multimedia Asssistant director, INPS Japan.

6月に発表したICANの報告書によると、これら9カ国による2023年の核兵器関連支出が推計で914億ドル(約14兆4千億円)であった。不道徳かつ容認できないとICANは批判している。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、会議の開会式で、平和について一般論を述べていたが、フランスの支出は約61億ドルに上ったと推計されている。

「抑止力の維持」と「相互性の確保」という政策は、本質的には「相手が武器を廃棄すれば我々も廃棄する」というものであり、ICANや他の軍縮活動家たちから強い批判を受けている。

「絶え間なく流れる情報によって、私たちはしばしば数字の現実を見失いがちです。」とコラン氏は平和会議で述べた。「この数字には注目してほしい。広島と長崎への原爆投下で、8万8千人以上の子どもたちが命を落としたと推定されています。子供たちです!」

1945年末までに推定21万人が死亡したとされるが、そのすべてが恐ろしい方法で命を落とした。生存者やその他の人々が証言している。代表団は、この事実こそが真の「抑止力」であるべきだと述べた。

Anna Ikeda, program coordinator for disarmament at the UN Office of Soka Gakkai International. Credit: AD McKenzie/IPS

フォーラムで、創価学会インタナショナル(SGI)国連事務所軍縮プログラム・コーディネーターであるアナ・イケダ氏は、広島の原爆生存者である山田玲子氏の証言を紹介し、それが忘れられないものであると述べた。

「山田さんはこう語りました。『近所に住んでいた仲良しの友人が、4人の兄弟姉妹と一緒に母親が帰宅するのを待っていました。後で聞いた話では、原爆投下の2日後に、動く黒い塊が家に入ってきて、最初は黒い犬だと思いましたが、すぐにそれが母親であることに気づきました。母親は子供たちのところへたどり着いたときにはすでに気を失っており、そのまま息を引き取りました。子供たちは母親の遺体を庭で火葬にしました。』」と、イケダ氏は感情を込めて聴衆に語った。

「誰がそのような死を迎えるにふさわしいのでしょうか?誰もいない!」とイケダ氏は続けた。「それでも私たちの世界は、核兵器の維持に何十億ドルも費やし、時にはそれを使用する準備があることをほのめかす発言をします。これは全く容認できません。」

「生存者、すなわち日本では「被爆者」として知られる人々が、なぜ核兵器を廃絶しなければならないのかという根本的な答えを持っている。それは、『私たちが経験したような苦しみを、他の誰にも味わせたくない』ということです。」とイケダ氏は語った。(原文へ)

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国連の未来サミット:核兵器廃絶と気候危機に取り組むために必要な若者主導の行動

【国連=ナウリーン・ホセイン】

国際的な連帯と果断な行動という「国連の未来サミット」の核となるメッセージを推進するのは、今日世界が直面する複合的な危機に取り組むことを決意した若者たちである。

そして彼らは、2024年9月20から21日にかけて開催された同サミットのアクション・デイズでは、国連本部内外で、意味のある参加を増やし、定義づけるための対話を主導した。

また、9月22日(日)に国連で採択された「未来のための協定」においても、若者と未来世代は世界の指導者たちの関心の最前線にある。史上初の「未来世代に関する宣言」において、彼らの役割が明確に定義され、意思決定において未来世代を考慮するための具体的な手段が提示された。その中には、未来世代のための特使を任命する可能性も含まれている。
これに、「特に世界レベルにおいて、若者たちが自分たちの人生を形作る決定に参加する有意義な機会」を増やすことへのコミットメントも含まれる。

未来をつくる:創価学会インタナショナル(SGI)と未来アクションフェス実行委員会が共催し、国連大学(UNU)と国連広報センター(UNIC)の支援を受けたサイドイベント「未来を築く:核危機と気候危機に関する相乗的なコラボレーション」では、若手活動家が一堂に会し、2つの異なる危機が交わる局面について、また若者の意味のある参加を定義するものは何かを議論した。

国連広報センターの根本かおる所長は、サミットのアクション・デーの議題が若者の参加者によって主導・組織されたことは「画期的」であり、総会議場の大半の席が若い活動家たちによって埋め尽くされたと述べた。

また、「若者たちには、この世界をより良い場所にする力があるという共通のメッセージがある。気候変動、核軍縮、不平等との戦い、どの議題に取り組んでいても、若者に関する問題は、あらゆる分野にまたがる非常に重要な問題である。」と根本所長は言う。

さらに根本所長は、国連は若者の意味のある参加を促すために、さらに努力する必要があると付け加えた。これは、青少年が意思決定において協議し、指導的立場に立つことを認めることを意味する。若者の存在を形だけのものにしてはならない。

気候変動と核危機は、深く結びついた存亡の危機である、と国際連合大学学長のツシリッツィ・マルワラ博士は言う。気候の不安定さは、紛争や避難民の発生を引き起こす要因を助長する。スーダン、イスラエル、パレスチナ、ウクライナで起きているような紛争は、核のエスカレーションのリスクを高める。現代のリーダーたちがこれらの問題に取り組む中で、マルワラ博士は若者たちに、声を上げ続け、権力者たちに責任を問うよう呼びかけた。

マルワラ博士は、国連大学は「若者の意味のある参加」を全ての関係者で実現することにコミットしていると述べた。若者たちは意欲的で、より深い社会問題への関心を示す一方で、自分たちの声を聞いてもらったり、行動を起こすための活力を感じたりすることに課題を抱えている。マルワラ博士は、政治活動に関与していない、あるいは参加することを躊躇している若者たちに手を差し伸べることが重要だと指摘した。

未来サミットの主要な議題の一つは、意思決定プロセスへの若者の参加を増やすことである。若い活動家や市民社会の関係者が、より大きな社会的変化を推進し、複雑な問題に対して意欲的に行動をしてきたことは、以前から認められてきた。しかし、彼らは自国の政策決定に参加する際にしばしば課題に直面している。

これらの課題の中には、政治システムにおける構造的な問題が潜んでいる。日本の政治においては、若者層は国政および地方政治で、十分な存在感を発揮できていない。日本では若い有権者の間で、自分たちの声が国や地方公共団体に届かないという考えが広まっていると、日本若者協議会で活動するセリガノ・ルナ氏は述べた。

これは投票率に示されており、20代の有権者はわずか37%、自分の一票が重要だと考えている有権者は54%しかいない。対照的に、70代の人々の71%が選挙で投票している。30代以下の人々は、政府の委員会やフォーラムで働く専門家のわずか1%に過ぎない。日本若者協議会は現在、来年の新しいエネルギープランに取り組む委員会メンバーとして若者が直接参加するよう呼びかけ、国の気候変動政策への積極的な若者の参加を提唱している。

ジェンダーの視点から核兵器の廃絶を目指すNGO団体「GeNuine」の共同創設者である徳田悠希氏は、若者たちが意思決定の場から遠ざかっていると語った。若者の声は届くかもしれないが、それだけでは十分ではない。彼女がIPSに語ったように、気候変動と核の危機は日本の若者の関心事である。そして、何ができるのかというアイデアはあっても、どのように行動すればいいのかは知らされていない。

参加を増やすための希望はある。徳田氏は、原子力問題に関する政策立案者たち(そのうち30%が女性)は、こうした議論に若者たちを参加させる取り組みを始めていることを共有した。

「若者がこれらのプロセスに意味のある参加ができるようにシステムを再構築する時です。核兵器禁止や気候危機の解決に取り組むためには、世代を超えた参加が必要なのです。」と徳田氏は言う。

このイベントでは、若者の意味のある参加とはどのようなものかが話し合われた。若者の視点に配慮した取り組みがなされていることは認められた。若者を議論に含めることは重要な一歩である。しかし、それだけでは不十分であり、今後は、複雑に絡み合う問題を解決するために必要な行動を起こす権限を持てるようにすることが求められると提案された。そうでなければ、若者たちが参加する意味がない。

「平和の構築と維持という課題に取り組むためには、未来志向の若者がこれまで以上に必要とされている。」とSGIユース共同代表の西方光雄氏は述べた。

「未来アクションフェスのように、若者の連帯は問題を解決し乗り越えるための出発点となり得る。」と同氏は語った。

来年の2025年は第二次世界大戦の終結と広島・長崎の原爆投下から80年目を迎える。西方氏は、核兵器禁止条約第3回締約国会議と国連気候変動会議(COP30)を前に、核軍縮と気候変動対策の議論を進める重要な機会となると指摘した。

さらに、同氏は、「私たちは平和への願いで一致団結し、次世代への責任を分かち合い、草の根レベルの行動を日本、そして世界に広げていきます。」と語った。

未来のための協定では、核軍縮に向けた多国間のコミットメントを10年以上ぶりに再確認した。これは、核兵器の完全廃絶という目標に向けた明確なコミットメントも伴う。

また、1960年代以来の国連安全保障理事会の改革を約束し、優先事項としてアフリカの歴史的な代表不足の是正を含め、理事会の実効性と代表性の向上を計画している。

この協定では、持続可能な開発目標(SDGs)の実施を「加速」させるコミットメントがあり、開発途上国の代表性を高め、これらの国により資するものになることを目指す国際金融アーキテクチャーを改革することが含まれている。

「私たちは、祖父母世代のために構築されたシステムで、私たちの孫にふさわしい未来を築くことはできない」とアントニオ・グテーレス国連事務総長は述べた。(原文へ)

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オーストラリアの留学生枠削減:志ある学生と企業への打撃

【ベルボルンLondon Post=マジェド・カーン】

オーストラリア政府は、住宅問題の緩和と移民流入の抑制を目的とした取り組みの一環として、留学生の受け入れ制限を実施する計画を発表した。政府はオーストラリアへの留学生を惹きつける国際教育プログラムが、移民やビザ詐欺に対して脆弱であることを懸念している。

2023年の公式データによると、オーストラリアには78万7000人の留学生が滞在しており、これはパンデミック前の水準を上回る。政府は、賃貸住宅の負担を軽減し、移民流入を規制するために、留学生の数を制限することを目指している。

2024年7月2日、政府はさらに一歩踏み込み、留学生ビザ申請料を2倍以上の1,600ドルに引き上げた。この動きについて、オーストラリア国際教育協会は、「千の傷の死(小さな不利益が積み重なることで、最終的にその業界が衰退する)」と表現した。

オーストラリアのこの決定は、世界中の大学、企業、そして留学希望者にとってどのような影響をもたらすのか、議論と懸念を巻き起こしている。留学生の急増によって深刻化した住宅不足の緩和を目的としていることは明らかだが、この政策転換は、オーストラリアの経済戦略、教育の競争力、そして国際協力への取り組みに対する、より幅広い疑問を投げかけている。

オーストラリアは長きにわたり、質の高い教育と多文化的な環境で知られ、留学生に人気の留学先となっていた。留学生の流入は学問の分野を豊かにするだけでなく、経済にも大きく貢献してきた。

留学生が支払う学費は、国内学生よりも高い場合が多く、大学やカレッジにとって重要な収入源となっている。これらの資金は、研究、インフラ、奨学金など、さまざまな側面での受け入れ機関の発展に寄与し、同国の教育の地位を世界的に高めてきた。

一方、入学金や授業料はオーストラリア政府の国庫に納められ、多くの場合、ビザは遅延または取り消しとなっていた。学生たちは、支払った金額が数ヶ月から1年間にわたって返還されていないと考えている。

留学生の定員を半減するという政府の決定は、高等教育界に衝撃を与えた。すでに、海外からの移動や学生の入学を混乱させた新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの影響で苦境に立たされていた大学やカレッジは、今、深刻な財政的打撃に直面している。留学生の数が急激に減少したことで、留学生の学費に大きく依存して運営と成長を維持している教育機関の財政的安定性が脅かされている。

その影響は教育機関にとどまらず、キャンパス周辺で留学生のニーズや好みに応える形で発展してきた小規模なビジネスにも及んでいる。これらのビジネスは、多くの場合移民によって所有・運営されているが、留学生の安定した流入と彼らの購買力に支えられて成長してきた。

レンタカー会社のオーナー、アハメド・ハンジャラ氏は、ロンドン・ポスト紙の取材に対し、留学生の減少により、留学生を主な顧客としている我々のビジネスに悪影響が出ていると語った。 リード・エデュケーション・コンサルタントのディレクター、ムハンマド・イムティナン・アリ・ヴィルク氏は、「政府の決定は世界中の何十万もの学生にとって逆風であり、失望でしかありません。 教育コンサルタントとして、我々のビジネスにも悪影響が出ています。」と語った。

宿泊施設やカフェ、書店、専門サービスなど、これらの企業は学生数の減少により先行きが不透明になり、地元の雇用や経済活力が脅かされることになる。

政策立案者たちは、留学生の数を減らすことで住宅供給の圧力がいくらか緩和され、賃貸市場が安定し、オーストラリア国民にとって住宅がより手頃な価格になる可能性があると主張している。

しかし、反対派は、留学生の定員削減は住宅問題への短絡的なアプローチであると主張している。彼らは、オーストラリアの教育分野は経済面だけでなく、文化面や学術面でも留学生の存在から恩恵を受けていると強調している。留学生は、経済的な貢献だけでなく、多様な視点をもたらし、すべての学生の教育経験を豊かにし、相互に結びついた世界においてますます重要性を増しているグローバルなつながりを育んでいる。

さらに、この決定は、オーストラリアへの留学を希望していた世界中の何千人もの学生に多大な影響を与えた。多くの学生は、教育を受けるという夢をかなえるために綿密な計画を立て、多大な投資を行ってきたが、突然の方針転換により、その計画が台無しになってしまった。この不確実性により、学生たちは落胆し、将来の教育やキャリアの道筋に不安を抱くようになり、中には選択肢を完全に再考する人も出てきた。

教育機関、企業、支援団体など、さまざまな利害関係者からの圧力の高まりを受け、政府は決定の見直しと修正を迫られている。反対派は、オーストラリアが留学生にとって魅力的で競争力のある留学先としての評判を損なうことなく、住宅問題に対処できる代替案を主張しています。

その提案には、手頃な価格の住宅への投資を増やすこと、学生の宿泊施設を管理するための的を絞った政策を実施すること、住宅問題の影響を緩和するために大学と地域社会の間のパートナーシップを促進することなどが含まれている。

留学生の定員に関する議論は、オーストラリアがグローバルな教育ハブとしての役割や、国際協力や交流への取り組みについて、より幅広い問題を浮き彫りにしている。

オーストラリアが留学生に対して冷たく、予測不可能な政策をとっていると見なされれば、オーストラリアは競争力を失うリスクにさらされることになり、世界中の才能ある人材を惹きつける国としての魅力に影響が出る可能性もある。

利害関係者は、政府の政策のさらなる展開と修正の可能性を待ち望んでいるが、その結果はオーストラリアの教育業界の行方や、さらには経済全体の構造に大きな影響を与えることになるだろう。

世界は、グローバルな人材の流動性、教育機会、相互に結びついたグローバル経済におけるオーストラリアの位置づけに与える影響を懸念しながら、事態の推移を見守っている。今後数か月の間に下される決定は、オーストラリアの国際教育の当面の未来を形作るだけでなく、さまざまな分野や社会に影響を及ぼし、オーストラリアの開放性や国際的な関与への姿勢に対する認識を形作ることになるだろう。

INPS Japan/ London Post

This article is brought to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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韓中の協力まで、道のりはまだ遠い

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は2024年6月17日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載されたものです。

現実的な視点から韓中関係を根本的に見直すことが緊急に必要である。

【Global Outlook=文正仁(ムン・ジョンイン) 

中国は、5月26日に4年半の空白を経て再開された日中韓サミットに多くを期待していたようだ。北京は、会談を機に3カ国の協力を強化し、国家間の関係改善を図ることを期待すると同時に、北京は、米国による中国封じ込めに対する韓国と日本の協力を鈍らせるチャンスができると踏んでいた。

実際、会談前後の中国メディアには、中国と韓国の関係改善に関する楽観的な論評もいくつか見られた。中国のコメンテーターが揃って取り上げたのは、(1) 韓国の趙兌烈(チョ・テヨル)外交部長官が中国訪問中に見せた柔軟な態度、(2) サミット期間中に韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と中国の李強首相が自由貿易協定の第2段階交渉を加速することで合意したこと、(3) 13年間機能していなかった韓中投資協力委員会の再開、(4) 両国間のサプライチェーン問題に関する検討・調整を行う機関の設立、(5) 韓中の外務および国防の次官クラスによる定期的な「2プラス2」会合を設置する取り決めである。ひと言で言えば、中国メディアでは滅多に見られないような賛辞である。(

しかし、筆者が先週北京で中国高官や朝鮮半島専門家と話をしたとき、これとは随分異なる印象を感じた。彼らの見解をまとめると、「まだ道のりは遠い」ということになる。彼らは、そのような見方の裏付けとして、次の四つの論点を示した。

何よりもまず、中国の核心的利益を侵害し続ける限り、ソウルは中国との意味ある協力を期待するべきではないと、中国の友人たちは言った。

韓中日サミットの直後、韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官がシンガポールで開催されたシャングリラ会合に出席し、米国の国防長官および日本の防衛相と会談した。3人の国防閣僚は共同声明を発表し、その中で「インド太平洋海域におけるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対することを再確認し」、中国の「南シナ海における[……]不法な海洋権益に関する主張」を批判した。3人の閣僚はまた、「両岸問題の平和的な解決を促した」。

さらに、韓国、米国、日本は2024年夏に開始される合同軍事演習を実施することで合意した。

中国政府は、苛立った反応を見せた。中国高官は、台湾に関するコメントを「『一つの中国』の原則に対する侵害であり、中国の内政への見境ない干渉であり、悪意に満ちた攻撃である」として批判した。高官はまた、「韓国、米国、日本は、南シナ海の当事国ではなく、地域内の国家間の海上問題に首を突っ込むべきではない」とも述べた。

中国の反応は、韓国が中国の主権と領土保全という核心的利益を損なうなら、他の分野での協力は不可能になり、両国の関係全体が破綻するということを強く示唆している。これは、韓国にとって紛れもなく厄介な見通しである。

中国高官らは皆、韓国と米国の同盟は韓国の主権事項であり、中国が指図をする立場にはないということには同意した。しかし、中国に対する軍事的抑制または封鎖を正当化する口実として北朝鮮の脅威を利用しようとするいかなる試みも、中国は容認しないと付け加えることを忘れなかった。

また、韓国が、米国によるTHAADミサイル防衛砲台の追加配備や朝鮮半島における中距離弾道ミサイルの前方配備を認めたり、台湾海峡や南シナ海で中国に対する軍事行動に参加したりするなら、北京はそれを敵対行動と見なし、相応の措置を取るという遠回しな警告もあった。「相応の措置」が何かは具体的に語られなかったものの、THAAD騒動後の経済報復よりも実体的なものとなるかもしれないと、接触相手らはほのめかした。

中国人らはまた、韓国が米国との同盟を強化して米国政府からいっそうの支援を確保すれば、中国との交渉における力を得ることができるという韓国の一部の保守派の主張についても、非常に批判的だった。中国人の反応は、米国への過度な依存は韓国にとって資産ではなく負債となるというものだった。

また、韓国は現在の中国と1990年代の中国を混同するべきではないとも言った。米国でさえ中国を思い通りにできないことを考えれば、韓国が米国の威を借りて中国に間接的圧力を加えることができると思うなど、時代錯誤だというのだ。

中国は昔から、朝鮮半島における平和と安定、そして非核化を提唱しており、対話と外交による問題解決を訴えてきた。しかし、最近の朝鮮半島における軍事的緊張の高まりに対しては、傍観者的な姿勢を取っている。

筆者が中国の消極的な姿勢を批判したところ、北京の接触相手らは以前と同様の返事をした。中国政府はすでに、韓国、北朝鮮、米国にとって受け入れ可能なはずの解決策を提示していると、彼らは言う。具体的には、韓米合同軍事演習と北朝鮮の核兵器・ミサイル実験を同時に中止すること、そして、朝鮮半島の非核化と半島における平和体制樹立に向けて同時に動くことである。しかし、韓国と米国がその提案を拒絶し、北朝鮮に対する強硬姿勢を押し通したのだから、中国はこれ以上どうしようもないというのだ。

中国と韓日との3カ国サミット、韓国との対話再開の後だったにもかかわらず、接触相手の中国人らの姿勢は、恐らく韓国や他の国々の観測筋を失望させるようなものだった。こうしたことから、ソウルと北京の関係の未来は寒々として見えるのだ。

原則を強調し、韓米同盟を強化し、米国および日本との3カ国協力を拡大することも必要だろうが、それらは韓国が抱える中国との懸案事項を解決してくれそうにない。現実的、かつ国益の観点から韓国と中国の関係を根本的に見直すことが緊急に必要である。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。文在寅前大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

INPS Japan

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