ホーム ブログ ページ 2

デジタル時代におけるZ世代の抗議行動の再定義

【国連ATN=アハメド・ファティ】

私はこれまで、タハリール広場からタイムズスクエアに至るまで、数々の抗議運動を至近距離から見てきた。そこにはある種の“振付け”が存在する。労働者がストに入り、学生が集結し、政党が流入する。指導者が台頭し、逮捕され、あるいは妥協する。その後に訪れるのは疲弊と沈黙、そして次なる周回である。

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN

しかし、何かが変わった。リズムが狂っている。
新世代―Z世代は抗議の教本そのものを書き換えた。
彼らの運動は、より速く噴出し、より広く拡散し、国家が息を整える前に霧散する。

彼らが構築しているのは革命ではない。
彼らは社会のバグを修正しようとしているのだ。

無視できないパターン

各地の単発事象に見えた動きは、いまや地球規模の反響装置となった。

  • ネパールでは、若者が政府のソーシャルメディア禁止令に抗い、首相を退陣へ追い込んだ。
  • モロッコでは、《GenZ 212》が医療崩壊と格差是正を掲げオンライン運動を展開。
  • マダガスカルの若者は停電抗議のメッセージをアニメ表現に包み込んだ。
  • ケニアではTikTok発の反課税デモが政府を撤退へ追い込んだ。

国は違えど、怒りは共通し、テンポも一致する。
私はこれらを長く追跡し、ひとつの反復法則に気づく。
それは、あまりにも正確すぎる「定型」だ。

デジタル着火 → 怒りの爆発 → 分散型動員 → 世論圧力 → 政府の動揺

自発的にも見える。だが同時に、設計されているようにも見える。

シグナルに潜む疑念

長年取材してきて学んだのは、「あまりに滑らかに拡散する現象を疑う」ことだ。
ここで気がかりなのは、真の声と並走するもうひとつの存在である。

匿名アカウント、瞬時に統一されるハッシュタグ、プロ仕様の動画編集――
草の根もあれば、出自不明の波もある。

政府は「操作」と呼び、
活動家は「デジタル戦略」と呼ぶ。
真実は、例によってその緊張の中間にある。

これは怒りの正統性を否定するものではない。むしろ示しているのは、情報戦と市民動員が融合した現代性だ。
Z世代の抗議は政治であると同時にアルゴリズムでもある。

本物の怒りと演出されたノイズの境界は曖昧になり、
その不確実性を権力側はいま確かに感じ取っている。

抵抗のOS(オペレーティングシステム)

Z世代の運動を特徴づけるのは次の3点である。

  1. 分散性:指導者も階層構造も持たず、逮捕・拘束による鎮圧モデルが成立しないネットワーク型の動員。統合拠点が存在しないため、国家権力は「交渉相手」や「責任主体」を特定できない。
  2. ミーム化:かつて抗議運動が掲げたのは政策綱領だったが、Z世代の言語は皮肉・ユーモア・視覚引用である。短尺動画やTikTokリミックスは、演説よりも共感生成と拡散速度で優位に立つ。
  3. 速度:深夜のDiscord上のチャットが、翌朝には全国規模の集会へと転化する。承認階層と手続に依存する官僚制国家は、瞬発的な動員サイクルに対応できず、結果として速度競争を強いられる。

その背後には、失望がある。
経済停滞、腐敗、そして「生まれた場所が違うだけで未来が変わる」という冷徹な比較認識だ。

Explainer created Notebook LM

弱点:持続性

彼らの強みは俊敏性であり、弱点は持続性である。
組織なき動員は、瞬間的な可視化と世論圧力を生み出すが、その熱量は持続的交渉や制度転換に転化しにくい。制度的器(代表組織・政策要求・交渉窓口)を欠く限り、勝利は法制度や政策に定着せず、勢いは時間とともに拡散・希薄化する。

同時に、AI監視とデジタル浸透技術は急速な高度化を遂げ、国家の対応能力も進化しつつある。
それでも抗議は反復し、大陸規模で同一の動員プロトコル(デジタル着火→ミーム拡散→非中央集権動員→圧力形成)が再生される。各国政府はその都度「突発」と認識するが、実際にはすでに定型化されたサイクルが稼働している。

より大きな視座

Z世代を「未熟」と片付けるのは誤りだ。
彼らは理想主義の担い手というより、機能しない統治システムを前に苛立つ実務者である。
既存制度を継承する意思はなく、リアルタイムで社会OSをデバッグしようとしている。

しかし同時に警戒も必要だ。
拡散する抗議がすべて真正とは限らず、匿名アカウント、急増する運動系サイト、影響力を帯びた“インフルエンサー的指令塔”の背後に、情報工作・PR演算・外部利害が潜む可能性がある。

インターネットは誰にでも拡声器を与えた。
しかしその音声は、ノイズ化し、増幅され、意図的に操作される。

それでも――
火種の一部が設計されたとしても、燃焼している社会的不満は本物であり、延焼は止まらない。

権力への警告

国家は依然として、アプリ禁止やプラットフォーム遮断、個人拘束といった強制措置を行使し得る。
しかし接続性を基盤に育った世代から、結びつきの回路そのものを剥奪することは不可能だ。

Z世代は許可を待たない。
彼らはすでに、いわゆる「安定」の外装を揺さぶることで主導権を握っている。

彼らは未来の担い手ではなく、現在の危機の出資者=株主である。
緊急会議はすでに街頭で開かれている。

これは混沌ではない。
未来がリアルタイムでβテストを実行している過程である。

もしこれらの抗議を単なる騒音と見なすなら――
次の「更新通知」を待つことだ。(原文へ

アハメド・ファティは国連記者、国際情勢アナリスト、American Television News(ATN)編集長。

INPS Japan/ATN

Original URL:https://www.amerinews.tv/posts/gen-z-and-the-new-operating-system-of-protest

関連記事:

Z世代抗議の余波で問われる「誰がネパール人なのか」

南アジアにおける若者主導の革命は懸念すべきか?

バングラデシュは「アラブの春」と同じ運命をたどるのか?

乱立する『国際デー』に歯止め:国連総会、新規記念日制定を一時凍結

【国連IPS/Nepali TImes=タリフ・ディーン】

国連の最高意思決定機関である193か国加盟の国連総会は、日常的に「〇〇の国際デー」を制定してきた。その対象は崇高なテーマから滑稽さすら帯びたものまで幅広く、切迫した国際課題が時に軽薄で奇妙な記念日に変質してしまうことすらある。

記念日には、広く知られる「国際女性デー」や「イスラモフォビアと闘う国際デー」から、「国際月(ムーン)デー」「世界自転車デー」までが含まれる。「世界マグロデー」「世界ミツバチデー」「国際ポテトデー」「世界馬デー」「世界マメ類デー」「アラビアヒョウの国際デー」などもある。

Photo: The UN General Assembly Hall. Credit: Manuel Elias/UN.
Photo: The UN General Assembly Hall. Credit: Manuel Elias/UN.

国連は、365日しかない暦のうち、毎年218もの国際デーを(しかも増加傾向のまま)運用している。

最初期の制定例の一つは、1947年に国連総会が10月24日を「国連デー」と宣言したことだった。この日は国連憲章採択の記念日であり、国連創設を祝う日と定められた。

その後、加盟国は200を超える記念日を提案し、草案決議の形で総会に提出。193か国全体の採決を経て制定が積み重ねられてきた。

しかし、総会の活性化を目的とする新たな決議は、「国際デー、国際週間、国際月間、国際年、国際10年を宣言する提案が著しく増加していることに懸念を表明する」と指摘した。

決議は、第81会期および第82会期の期間中、新規提案の検討を一時停止すると決定した。

さらに決議は、第81会期(2026年)から、総会議長に対し、国際的な記念制定に関する全提案を、議題ごとに1本の決議にまとめるよう要請した。各提案は、制定に特化した独立のオペラティブ・パラグラフ(実施項)として盛り込む形をとる。

international days
international days

原文へ

INPS Japan/Nepai Times/IPS UN Bureau Report

関連記事:

国連80周年:成功と失敗が交錯する混合の遺産

貧困撲滅のための国際デー

|国際女性デー 2025|「ルール・ブレイカーズ」— 学ぶために全てを懸けたアフガニスタンの少女たちの衝撃の実話

中東におけるジェンダー平等とSDG5:前進、政策、そして文化的障壁

【カラチINPS Japan/London Post=ナビル・タヒル】

国連持続可能な開発目標(SDGs)のうち、目標5「ジェンダー平等の達成とすべての女性・少女のエンパワメント」は、最も変革的である一方で、最も実現が難しい目標として広く認識されている。なかでもMENA(中東・北アフリカ)地域ほど、そのパラドックスが鮮明な場所はない。世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ報告書2024」、UNDP「ジェンダー不平等指数2025」、世界銀行「Women, Business and the Law」指標によれば、同地域は依然として経済参加、政治的エンパワメント、法的権利の面で世界最大のジェンダー格差を抱える。だが同時に、過去10年で最も急速な女子教育の進展、大胆な法改正、そして公共圏の言説を刷新するデジタル世代のフェミニスト運動が台頭している地域でもある。|ヒンドゥー語

2015年のSDGs採択以降、MENA地域の女性就業率は世界最低の19%から約24%(2025年、ILO)へ上昇し、とくに湾岸諸国の伸びが著しい。サウジアラビアの「ビジョン2030」は女性就業率を2016年の18%から現在ほぼ36%へと押し上げ、カタールとUAEでは女性が公務員の40%超を占める。法改正も画期的で、サウジアラビアでは2018年の女性運転解禁と2019〜23年の後見制度の段階的撤廃、UAEとバーレーンでの育児・介護法整備とセクハラ防止法、チュニジアの2017年女性暴力防止法、レバノンの2024年国籍継承権改革など、女性の自律を縛っていた可視的障壁が除去されつつある。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

教育は最も顕著な成功領域である。初等・中等教育の男女就学率は0.97を超え、高等教育ではバーレーン、クウェート、カタール、チュニジア、アルジェリア、ヨルダン、レバノン、UAEで女子が男子を上回る。多くの国で30歳未満女性の識字率は事実上「普遍的」である。これらはSDGs目標5.4(無償ケア労働の承認)・5.5(意思決定参画)達成を直接支えるものだが、経済・政治権力への反映は依然として比例しない。

一方で、重要な法的欠陥はなお残る。10カ国が依然として結婚に後見人同意を要求し、7カ国はイスラーム法解釈に基づく不平等な相続規定を維持する。配偶者間性暴力(marital rape)は全面的に犯罪化されていない国もあり、湾岸諸国の個人身分法は離婚、親権、移動の自由における男性優位を制度化したままである。

ただし、最も強固な制約は法制より文化規範である。家族名誉(sharaf)と貞節(‘ird)は法令以上に行動規制力を持ち、多くの社会で「女性は主要な介護者であるべき」とする規範が支配的である。産休制度が整備されても、男性育休は極めて限定的で、ケア労働=女性の役割が再生産されている。アラブ・バロメーター2024によれば、依然として62%が「女性の最重要役割は家庭」と回答(2011年比9ポイント減に留まる)。

進歩的改革は保守反発を誘発し、ジェンダー平等は「西洋由来でイスラームと相容れない」との主張も根強い。しかし、Musawahなどのイスラーム・フェミニズム潮流、アズハル(2023)やアルジェリア高等イスラーム評議会(2024)の進歩的ファトワは、相続、複婚、後見制度、DV禁止をイスラーム法目的(maqasid al-sharia)に沿う正統改革として位置づけ、宗教的正統性を更新している。

今後を左右する決定因は若年人口の規模とデジタル・ネイティブ性である。30歳未満女性は、全てのアラブ国家でInstagram、TikTok、Xを最も利用する層であり、#LanSaktut(レバノン) #Undress522(チュニジア) #IAmMyOwnGuardian(サウジ)はフェミニズムをNGO領域から大衆文化へ押し上げた。激しいオンライン攻撃にもかかわらず、この可視化は逆に影響力を増幅させている。

また、経済要請は理念以上の推進力となっている。湾岸諸国は、人口の半分を労働市場から排除することが競争上の不利であると認識し、McKinseyはジェンダー格差解消が2030年までに2.7兆ドルのGDP押上げ効果をもたらすと試算する。ヨルダン、モロッコ、エジプトはジェンダー予算編成と取締役会クオータ(モロッコ30%、UAE20%)を導入し、ジェンダー平等を社会正義の問題ではなく経済競争力の課題として位置づけている。

SDG5加速には、以下の6つの戦略的行動が不可欠である。

  1. 後見制度撤廃と相続・国籍法の平等化
  2. 配偶者間性暴力の全面刑事化
  3. 手頃な保育・介護・共同育休投資
  4. 初等教育段階からのジェンダー固定観念解体
  5. 農村女性向けデジタル・金融リテラシー拡充
  6. 宗教改革派の正統言説の制度的支援
    アラブ連盟は拘束力ある地域ベンチマークの設定と年次報告を検討すべきだ。

中東は、ステレオタイプ的な「不変の父権体制」でも、北欧型の平等達成に近づいた地域でもない。むしろ急速かつ不均衡な転換期にある。世界最下位のジェンダー格差指標を示す国々が、同時に最速の女子教育進展と最大級の法改革を進めている事実こそが、SDG5の核心である。つまり、文化変容の速度が、法改革や女性自身の期待値に追いついていないのである。

2030年までに完全な平等が達成される可能性は低い。だが、現在の軌道はこれまでで最も明確で、希望を抱かせるものとなっている。もはや問われているのは「変化は起こるのか」ではなく、「若い女性たちのエネルギーを国家、宗教指導者、社会が十分な速度で受け止め、活用できるか」である。(原文へ

Note:This article is produced to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan

関連記事:

世界の女性の10人に1人が極貧状態にある

イランにおける女性の生活と自由: 1年後の成果、損失、教訓

国連の2030年期限までに児童婚がなくなる可能性は低い

世界人権デー 2025年

 ― 混迷と不確実性の時代にあっても、ひとつの約束は揺るがない。

1948年、各国は世界人権宣言を採択した。
そこには、尊厳、自由、平等が、あらゆる人に、あらゆる場所で保障される権利であると明記された。

しかし現実には、権力、利益、偏見が、あまりにも頻繁にその権利を押しのけている。
2024年、紛争における民間人の死者数は再び急増した。
戦争では12分に1人の民間人が命を落としている。
14時間に1人、人権擁護者、ジャーナリスト、あるいは労働組合活動家が殺害されるか、行方不明になっている。
5人に1人が、わずか1年のうちに差別を経験したと答えている。
2024年末までに、1億2000万人を超える人々が故郷を追われた。
いまや人類の約4分の3が、市民的自由が厳しく制限された環境で暮らしている。

ガザからハイチ、スーダンからミャンマーまで、最も大きな代償を払っているのは民間人である。
7億3600万人の女性―ほぼ3人に1人―が、身体的または性的暴力を経験してきた。
毎年、「女性に対する暴力撤廃のための16日間キャンペーン」は、世界人権デーへとつながっている。

若者たちは、依存症、気候危機、憎悪のない未来を求めて声を上げている。
彼らの行進、公開書簡、ストライキは、人権の約束を生かし続けている。

このような状況の中で、人権はもはや抽象的な理念ではない。
それは、私たちの日常を支える不可欠な基盤である。

それは、食べる食料、吸う空気、身を守る住まいの中にある。
公正な労働と同一賃金、安全な学校、自由で独立したメディアの中にある。

人権は、前向きで、不可欠で、そして達成可能である――
私たちが共に行動するときにこそ。

2025年12月10日、世界人権デーを迎える。
「人権:私たちの日常に欠かせないもの」(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

関連記事:

「世界共通の人権文化として定着させることが重要」(創価学会インタナショナル池田大作会長インタビュー)

人権教育の力に焦点をあてた展示会

国連人権理事会構成国選出:ロシアは落選、中国は辛勝

軍事衝突と内戦の続発で、武器売上と死者数が急増

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が公表した最新データによると、世界の主要な武器製造企業100社による2024年の武器・軍事サービス収入は前年比5.9%増の6790億ドルに達し、過去最高を記録した。

SIPRI

SIPRIによれば、武器収入の急増は、ウクライナとガザで続く戦争をはじめ、地域的・世界的な地政学的緊張の高まり、各国の軍事費増大が背景にある。

2018年以来初めて、世界の大手武器企業トップ5のすべてが武器収入を増やした。

一方で現在、ウクライナ、ガザ、ミャンマー、スーダン、イラク、リビア、モロッコ、シリア、イエメン、ハイチ、コンゴ民主共和国(DRC)、ソマリア、西サハラなど、世界各地で武力紛争や内戦が続き、政府軍と反政府勢力の双方が武器需要を押し上げている。

地域別では、欧米企業が全体の増加を主導したが、世界のほぼすべての地域で前年比増となった。唯一の例外はアジア・オセアニアで、中国の軍需産業の不振が地域全体の数字を押し下げた。

武器需要の高騰を受け、多くの企業が生産ラインの拡張、施設増設、新子会社の設立や企業買収を進めた。

SIPRI軍事支出・兵器生産プログラムの研究員ロレンツォ・スカラッツァート氏は、「昨年、世界の武器収入はSIPRIの記録開始以来の最高値となり、企業は高い需要を最大限に利用した。」と指摘する。その一方で、「生産能力の拡大が進む一方、多くの課題がコストや納期に影響を与える可能性がある。」と語った。

欧州(ロシア除く)に拠点を置くトップ100企業26社のうち23社が収入を伸ばし、総額は13%増の1510億ドルとなった。これはウクライナ戦争とロシア脅威の高まりによる需要増が背景にある。

武器売上と軍事支出の増大は、民間人の犠牲者数にも深刻な影響を及ぼしている。

2025年11月中旬時点で、ガザ保健省は、2023年10月7日以降の戦争で7万人以上のパレスチナ人(大半が民間人)が死亡したと発表した。

Photo: The spectre of war between Europe and Russia looms large. Source: The Hague Centre for Strategic Studies.
Photo: The spectre of war between Europe and Russia looms large. Source: The Hague Centre for Strategic Studies.

一方、ロシア・ウクライナ戦争の死者数は両国が軍事損失を国家機密扱いにしているため正確な把握は難しいが、英国防省や戦略国際問題研究所(CSIS)などの推計では、ロシア側の死傷者は100万人超、ウクライナ側は約40万人に上るとみられている。

「戦争ビジネスとは、利益を生む“死のビジネス”であり、2025年ほどそれが露骨な年はなかった」。
こう語るのは、米国公共正確性研究所(IPA)事務局長で『War Made Invisible』の著者、ノーマン・ソロモン氏である。

ソロモン氏は、次のように指摘する。

  • 武器の買い手と売り手は“死を生む密接な関係”にある
  • その結果は戦場や民間人の苦しみに表れ、資源の枯渇としても現れる
  • 子どもが飢える一方で、軍需産業は莫大な利益を得ている

また米国は世界最大の武器輸出国として他国を大きく引き離しており、近年ではロシアによるウクライナ戦争、イスラエルによるガザ戦争を背景に、米国の軍需企業が莫大な利益を上げていると指摘した。

「複数の国が武器を輸出しており、その行為を非難すべきだが、中でも米国は突出した“殺りく商売”のリーダーだ」と述べ、「キング牧師が言った“軍事主義という狂気”を終わらせるためには、非暴力の市民運動が必須だ。」と訴えた。

国際人権専門家で拷問被害者センター(CVT)会長兼CEOのサイモン・アダムズ博士は、
「不処罰が横行し、紛争が拡大し、権威主義が強まる現在、世界の武器取引は胸をえぐるほど増加している」と述べた。

  • ウクライナ、ガザ、スーダンなどで命を奪われているのは、武器を生産する国々の国民ではなく現地の民間人である
  • 世界の紛争により、1億2300万人が避難民となり、第二次大戦後で最多

アダムズ博士は、「世界は人道的解決にもっと資金を投じるべきであり、殺傷能力の高い兵器の開発・販売に何十億ドルも費やすべきではない。」と訴えた。

さらに、武器商人が“奴隷商人”“人身売買業者”“麻薬ディーラー”と同様に、国際社会から忌避される日が来るべきだと語った。

U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo
U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo

国連報道官ステファン・デュジャリック氏は12月1日の記者会見で、「武器販売に流れる金額と、国連が毎日苦闘している人道支援資金の不足を比較すると“異常”と言わざるを得ない」と強く批判した。

「加盟国が自国防衛のために軍事力を必要としていることは理解する。しかし、軍事部門に流れ込む資金と、逆に吸い上げられている人道・開発分野の資金とを比べれば、深刻な問題であることは明白だ」と語った。

2024年、トップ100に入った米国企業の武器収入は3.8%増の3340億ドルとなり、39社中30社が収入を伸ばした。ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、ジェネラル・ダイナミクスなど大手が含まれる。

しかし、米国主導の主要兵器プログラムでは、

  • F-35戦闘機
  • コロンビア級原潜
  • センチネルICBM(大陸間弾道ミサイル)

などで大幅な遅延と予算超過が続いており、新型兵器の配備時期に不透明さが増している。

SIPRI研究員シャオ・リャン氏は、「遅延とコスト増は、米軍の計画や軍事費に必ず影響を与える。これは軍事費削減や予算効率化の取り組みに波及する可能性がある。」と述べた。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

関連記事:

世界の軍事紛争で「真の勝者」とは誰か?

核兵器不拡散条約再検討会議に向けた軍縮対話の促進

岐路に立つ 自律型兵器システム:国際的な規制へ緊急の呼びかけ

米国の核実験再開は他の核保有国にも連鎖的脅威を誘発しかねない

【国連IPS=タリフ・ディーン

ドナルド・トランプ米大統領が核実験の再開を表明したことは、軍人と民間人が甚大な放射能被曝に晒された過去の悪夢を呼び起こすものである。1945年から包括的核実験禁止条約(CTBT)が署名開放された1996年までの約半世紀に、世界では計2,000回以上の核実験が実施された。米国は1945年から1992年の間に1,032回の核実験を行った。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

公開資料と調査によれば、米国の核実験には主として軍人が動員された。当初、米政府は放射線の影響に関する情報を秘匿し、多くの退役軍人が深刻な健康被害に苦しむ結果となった。

核放射線機密協定法が撤廃されたのは1996年であり、それにより退役軍人は国家反逆罪を恐れずに被曝体験を語ることが可能となった。1998年に補償法案は否決されたものの、その後、米政府は生存者と遺族に謝罪している。

また、トリニティ実験(ニューメキシコ州)を含む初期の核実験では民間人も放射能に曝され、退役軍人同様、長期的健康被害に苦しんだことが報告されている。

Ground zero after the "Trinity" test, the first atomic test, which took place on July 16, 1945/ Public Domain
Ground zero after the “Trinity” test, the first atomic test, which took place on July 16, 1945/ Public Domain

英コロンビア大学シモンズ平和・人間安全保障講座教授のM・V・ラマナ博士はIPSの取材に対して、米国がどのような核実験を想定しているかは明らかではないと指摘した。

米国はCTBTを未批准である一方、1963年には「大気圏、宇宙空間、水中における核実験禁止条約(部分的核実験禁止条約)」に署名・批准している。これ以降の核実験はすべて地下で実施されてきた。

しかし地下核実験には二重の環境リスクが存在する。

1)爆発時または実験後の管理作業により放射性物質が大気中へ漏出
2)地下に残された放射能が長期にわたり地下水や地表に到達

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

「ネバダ実験場で行われた核実験の半数以上が放射性物質を大気中に放出した。」とラマナ博士は語った。1999年には、1968年の核実験地点から1.3キロ離れた場所でプルトニウムが検出された。

さらに重大なのは、米国が核実験を再開した場合、他国も追随する可能性だという。

「すでにインドの強硬派から『実験再開に備えよ』との声が上がっている。」とラマナ博士は警告する。

そして、米国がビキニ環礁で核実験を計画した際、国際女性平和自由連盟(WILPF)が発した言葉を引用した。

爆破されるべきは旧式戦艦ではなく、原爆製造というプロセスそのものである」

「この言葉は今も変わらず示唆的である。核兵器の能力を高めるのではなく、その存在と使用の前提を終わらせるべきだ」とラマナ博士は述べた。

核実験回数(1945〜1996)

国名実験回数
米国1,032回
ソ連715回
英国45回
フランス210回
中国45回
インド1回(1974年)

アクロニム研究所国連代表ナタリー・ゴールドリング氏はIPSの取材に対して、次のように厳しく批判した。

「トランプ大統領の核実験再開方針は、彼の衝動的で無謀な行動の中でも際立って短絡的で危険だ。」

大統領は自らの発言に他国が反応し、連鎖的核実験競争を引き起こす可能性を軽視していると同氏は指摘する。

米国の核兵器信頼性確保プログラムはすでに強固であるにもかかわらず、核実験再開は「武力誇示」ではなく他国の実験再開の口実になるという。

「米国が再開すれば、他国も追随する口実を与えることになりかねない。」

ゴールドリング氏は、核実験には軍事的側面だけでなく、人間、経済、環境への甚大な負荷が伴うと強調した。

兵士や民間人の被曝被害は深刻であるにもかかわらず、補償や除染は極めて不十分なままである。

「再開に費やす資金は、むしろ過去の汚染地域の回復や被害者支援に充てられるべきだ」

また、米露間で最後の核軍縮枠組みである新START条約は来年初めに失効予定だが、両国はなお上限遵守を宣言できるはずだと語った。

Albert Einstein during a lecture in Vienna in 1921/ Public Domain
Albert Einstein during a lecture in Vienna in 1921/ Public Domain

さらに、真に平和仲介者を名乗るのであれば、米国は核兵器禁止条約(TPNW)に加盟すべきだと提言した。

ゴールドリング氏は、核兵器全廃に向けて前進する道はすでに提示されていると述べ、次の言葉で締めくくった。

「原子力が解き放たれた力はすべてを変えたが、人間の思考様式だけは変わっていない」(アルバート・アインシュタイン、1946年)

TPNWはその出口となりうる。核実験は人間、環境、経済などあらゆるコストを増幅させるだけである。(原文へ

This article is brought to you by IPS NORAM in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan

関連記事:

抑止から軍縮へ:グローバルな提唱者たちが正義と平和を訴える

21世紀の核凍結は現実となるか?

カザフスタンの核実験に関するドキュメンタリーが核廃絶の必要性を訴える

|ブルキナファソ|3年の破られた約束


【モンテビデオ/ウルグアイIPS=イネス・M・ポウサデラ】

3年前、イブラヒム・トラオレ大尉は二つの約束を掲げて権力を掌握した。深刻化する治安危機への対応と、民政復帰である。しかし、この二つはいずれも空約束に終わった。トラオレ政権は選挙を2029年まで延期し、独立選挙管理委員会を解散、さらには西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)国際刑事裁判所(ICC)からの離脱を決めた。ブルキナファソは今や完全な軍事独裁国家となった。

その道のりは2022年1月に始まった。文民政府がジハード主義者の暴力に対処できないことへの抗議が高まり、ポール=アンリ・サンダオゴ・ダミバ中佐によるクーデターの口実となった。移行政権はECOWASと合意した2年以内の民政移管を約束したが、8カ月後にはトラオレが2度目のクーデターを主導し、ダミバが反乱勢力の鎮圧に失敗したと非難した。

Burkina Faso
Burkina Faso

そして、トラオレが約束した2024年6月の選挙期限が近づくと、軍事政権は「国民対話」を開催したが、多くの政党はこれをボイコットした。結果として採択された憲章は、トラオレの任期を2029年まで延長し、次期選挙への出馬も認めた。移行期間だったはずの体制は、個人的権力の恒久化へと姿を変えた。さらに、2024年12月にはアポリネール・ジョアシャン・キレム・デ・タンベラ首相を解任し内閣を総辞職させ、民間人参加の体裁も完全に放棄した。

軍が権力を固定化する中で、市民的自由は急速に失われた。CIVICUSモニターは2024年12月、ブルキナファソの市民空間を「抑圧」と格下げし、恣意的拘束やとりわけ恐るべき手法――批判者の強制徴兵――による沈黙化を指摘した。2024年6〜7月に拉致された4人のジャーナリストは、軍の中に「消え」、当局は彼らを「入隊させた」と発表した。2025年3月には、言論弾圧に抗議していた3人の著名ジャーナリストが10日間にわたり強制失踪し、再び姿を見せたときには軍服を着せられていた。職業的独立性は銃口の前で消し去られた。

市民社会活動家も同様の運命を辿った。Sensという政治運動の5人のメンバーは、民間人殺害を非難する声明を発表した直後に拉致された。同団体のコーディネーターである人権派弁護士ガイ・エルヴェ・カムは、軍批判を理由に繰り返し拘束されている。2024年8月には、政権支持者を捜査していた7人の判事・検察官が徴兵された。6人は軍基地に連行され、それ以降消息不明のままである。徴兵を武器化することで、市民の意思表示が「国家防衛」の名の下に犯罪化されている。

一方、クーデターの大義名分とされた治安情勢は、むしろ劇的に悪化した。イスラム主義過激派による暴力の死者数はトラオレ政権下で3倍に増え、軍に対する最悪の攻撃10件のうち8件が彼の統治中に起きている。軍が実効支配し自由に行動できる地域は、国土の約3割にまで縮小した。

軍と同盟民兵組織は大規模な残虐行為を犯しており、2024年前半だけで民間人の犠牲者は1,000人を超えた。2024年2月には、イスラミストによる攻撃への報復として、少なくとも223人――そのうち56人は子ども――が軍により銃殺されたとされる。

紛争により数百万人が国内避難民となり、独立推計ではその数は300万〜500万人に達し、政府が2023年3月に公表した約200万人という公式数字を大きく上回る。国境を越えて逃れる人もいる。2025年4月から9月の間だけで、約51,000人の難民がマリのコロ・セルク地区に流入し、脆弱な公的サービスに頼る現地コミュニティを圧倒している。さらに、肝炎E、麻疹、ポリオ、黄熱など複数の疫病が同時に発生し、ブルキナファソの人道危機に拍車をかけている。

こうした失敗への説明責任を回避するため、軍政は国際的監視から撤退しつつある。ECOWASの「外国の影響」を批判し、テロ対策への支援が不足したと主張しながら、2024年1月にマリ、ニジェールと共にECOWASを脱退。9月にはICCからの脱退を表明し、人権侵害者を裁く国際機関を「新植民地主義の道具」と歪曲した。これにより、超法規的殺害、拷問、戦争犯罪の被害者が正義を求める現実的な道は閉ざされた。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

その一方で、政権のオンライン・プロパガンダは驚くほど効果的である。トラオレは「西洋帝国主義と闘う若き汎アフリカの英雄」というイメージを巧みに築いてきた。一部のアフリカの若者やディアスポラにとって、彼は腐敗した政治や旧宗主国との関係を断ち切るために必要なカリスマ的指導者として映る。しかし、この名声は、成果を誇張し、人権侵害を過小評価し、国際機関からの離脱を“抵抗”として演出する広範な偽情報の上に成り立っている。

軍政の反帝国主義的レトリックは、単純な現実を覆い隠している。フランス軍を追放した後、ブルキナファソは代わりにロシアへと傾いた。ロシアの民間軍事会社は国軍と広範に行動を共にしているが、人権尊重を促すことはなく、ウクライナ戦争で批判されるウラジーミル・プーチンへの盾として機能している。最近では、ロシア政府系企業とされる団体に金採掘の権益も付与した。

それでも民主主義の理想は生き残っている。市民社会の指導者は声を上げ続け、ジャーナリストは報道を続け、野党勢力は組織化を進めている。大きな危険を承知のうえでの行動である。その勇気には、単なる懸念表明以上の支援が必要だ。

トランプ政権がUSAIDプログラムを突然打ち切った今、他の国際ドナーは一歩踏み出し、強い制約下でも活動を続ける市民社会団体や独立メディアを支える緊急資金メカニズムを構築しなければならない。地域機関は人権侵害に責任を負う当局者への標的制裁を科し、民政復帰への圧力を維持すべきだ。国際社会がブルキナファソの民主勢力と連帯し続けなければ、この国は「軍事統治がいかに不可逆的か」を示すもう一つの警鐘となりかねない。(原文へ

イネス・M・ポウサデラ:CIVICUSリサーチ・分析部門責任者、『CIVICUS Lens』共同ディレクター・ライター、『市民社会の現状報告書』共著者、ウルグアイORT大学 比較政治学教授。

INPS Japan/IPS UN Nureau Report

関連記事:

|米国|国際援助庁(USAID)の閉鎖は世界の貧困国を危険にさらす恐れ

|ブルキナファソ|クーデターのリーダーが憲法秩序への回帰を約束

|ロシアと中国|アフリカにおいては地政学的ライバル

宗教的・倫理的論争:核兵器開発はイスラームにおいてハラール(許容)か

【ロンドンLondon Postラザ・サイード、ロリサナム・ウルゴヴァ】

核兵器の開発・保有・使用がイスラーム法に照らしてハラール(許容)なのか、あるいはハラーム(禁忌)なのか――この問いは、古来の教義が究極的破壊力をもつ現代技術と交差する倫理的試金石である。それは単なる法解釈の問題ではなく、ムスリム多数国の政策判断、さらには世界のウンマ(共同体)の良心に向けられた根源的な問いでもある。

ここに横たわるのは明白な緊張である。慈悲、節度、生命の不可侵を中核とするイスラーム倫理は、核抑止という破局的な安全保障論理を受容し得るのか。法学的見解は二層に分かれつつも、結論はほぼ収斂している。すなわち、抑止を目的とした限定的保有に一定の余地を認める議論は存在するものの、核兵器の使用はいかなる状況でも許されないという点で、学説的合意は圧倒的である。

聖典が示す枠組:越境の禁止と生命保護

この難題に対し、学者たちはコーランとスンナ(預言者ムハンマドの言行)という基本法源に立ち返る。これらは、戦闘に関する区別・比例・必要性の三原則を明確に定め、武力行使を厳しく限定し、苦痛の最小化を求めている。

prayer
prayer

コーランはこう命じている。
「あなたがたを攻撃する者と戦え。ただし越境してはならない。神は越境する者を愛さない」(2章190節)

ここでいう越境(ラ・タʾタドゥ)とは、侵略の開始、非戦闘員の殺害、過剰あるいは無差別な武力行使を禁じる包括的な規範を指す。預言者ムハンマドも軍勢に対し、「老人や幼児、子ども、女性を殺してはならない」と明確に禁じた。

さらに「ひとりの無辜の生命を奪うことは、全人類を殺したも同然である」(5章32節)と記されるように、生命の不可侵は普遍的原理として確立されている。

初代カリフのアブー・バクルも兵士に命じた。女性、子ども、老人、聖職者、家畜や果樹に害を加えてはならない。戦闘はあくまで軍事的必要性に限定され、破壊そのものが目的となってはならない。

この倫理的基盤は、核兵器の性質――熱、爆風、放射線、そして世代的な環境汚染(ファサード・フィル・アルド)――が区別原則に反し、無差別殺傷と環境破壊を避け得ないという点で、イスラーム倫理と核兵器のあいだに本質的な緊張関係をもたらす。

抑止論:限定的保有の論理

核戦力の保有を擁護する論者が拠り所とするのが、次の一節である。
「あなたがたは力の限りを尽くして備えよ…敵を畏怖させるために」(8章60節)

ここから導かれるのが、抑止(ラドʿ)の概念である。すなわち、十分な軍備を保持することで攻撃を抑え、共同体を保護するという論理である。これは、公共善(マスラハ)および緊急必要(ダルーラ)の原理に基づく防衛権として解釈される。

しかし、この許容範囲はきわめて狭い。学者の大半は、抑止の枠を超えて核兵器を現実に使用することは、いかなる状況においても容認されないと結論づけている。

「核兵器の使用は絶対的にハラームであり、いかなる抑止論もその境界を越え得ない」

すなわち、許容の余地は保有に限られ、核兵器の使用はイスラーム法上、絶対的禁忌(ハラーム)とされる。

禁止論:倫理的障壁

支配的な立場は、核兵器を意図ではなく、その兵器特性そのものにおいて非合法・非倫理的なものとみなす。すなわち、核兵器は区別原則に反し、比例性を欠き、放射線被害と環境破壊(ファサード)を世代にわたって残す。

主要な宗教機関――OIC傘下の国際イスラーム法学アカデミーやアル=アズハル――は、大量破壊兵器を「それ自体が悪」「人類に対する罪」と明確に断じている。これは、シャリーアの究極目的(マカースィド)である生命・信仰・知性の保全と根本的に矛盾する。

矛盾の事例:ファトワと「イスラーム核」

イラン:禁忌ファトワと戦略的曖昧性

最高指導者ハーメネイー師は、核兵器をハラーム(禁忌)とするファトワを繰り返し表明してきた。ただしその文言は、核使用を罪とする一方で、製造や保有能力に関する閾値を明確にせず、解釈上の余地を残している。
2021年、アラヴィー情報相が「追い詰められた猫は違う振る舞いをすることもある」と発言したのは、この曖昧性を暗に認めたものと受け止められた。こうした禁忌は倫理原則であると同時に、国家的抑止の柔軟性を支える政治的装置としても機能している。

Image Credit: debatepolitics
Image Credit: debatepolitics
パキスタン:「イスラーム抑止」

唯一のムスリム核保有国であるパキスタンは、核抑止をイスラームに基づく防衛の正当性として位置づけてきた。8章60節とダルーラ(緊急必要)の原理に依拠し、核戦力を一貫して「防衛的抑止」として正当化する立場である。しかし、その破壊力と無差別性は、国内外のイスラーム法学者に重大な神学的・倫理的懸念を生じさせている。

結論:倫理的指導性と核軍縮の要請

核兵器をめぐるイスラーム論争は、単純な二分法には収まらない。それは、抑止を目的とした限定的保有の可能性と、核兵器の使用を絶対的に禁ずる立場とのあいだにある緊張関係に根ざしている。

倫理的潮流は明確に禁忌化と軍縮へと傾いており、国際宗教対話や国連枠組みを通じて発せられる多宗教声明は、核抑止論が未来世代の保護という理念と両立し得ないという現実を浮き彫りにしている。

真の安全保障は核の均衡ではなく、勇気、信仰、平和と完全軍縮への共同努力に存する。

原文へ

This article is produced to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan

関連記事:

|核兵器なき世界| 仏教徒とカトリック教徒の自然な同盟(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

ローマのコロッセオで宗教指導者が平和を訴える―戦争に引き裂かれた世界に向けた連帯の祈り

|視点|イランと核不拡散体制の未来(ラザ・サイード、フェレイドン)

ロシアと核軍備管理の未来―抑止と軍縮のはざまで

【バイユーLondon Post=シュチタ・ジャー】

冷戦終結以来、世界の核秩序はかつてないほど脆弱な局面にある。新戦略兵器削減条約(新START)は2026年2月に失効を迎えるが、代替枠組みに向けた本格交渉は進展していない。こうした空白の中で、ロシアの核態勢は今後の戦略的安定を左右する決定的な要因となっている。ロシアは世界最大の核弾頭保有国であり、2024年9月時点で約5,580発を保有し、このうち1,588発が新STARTの計算方式に基づく戦略配備戦力に分類される。

ロシアは核三本柱(陸・海・空)を維持し、RS-28「サルマト」ICBM、ボレイA級潜水艦と「ブラヴァ」SLBM、Tu-160M2戦略爆撃機、さらに極超音速滑空体「アバンガルド」や原子力駆動無人魚雷「ポセイドン」など全階層の近代化を推し進めている。これには核戦力の生存性確保に加え、米国・NATOの技術的優位性を相殺する意図が含まれている。|トルコ語

Image: A short-range Iskander missile system test flight test. Russian intermediate-range missiles, like the controversial 9M729, are launched from similar platforms. Credit: Russian Defense Ministry.
Image: A short-range Iskander missile system test flight test. Russian intermediate-range missiles, like the controversial 9M729, are launched from similar platforms. Credit: Russian Defense Ministry.

数十年をかけ構築された軍備管理の安定構造は、現在崩壊の瀬戸際にある。第一次戦略兵器制限交渉(SALTⅠ)から新STARTに至る条約群は半世紀以上にわたり戦略核戦力を制限・削減し、透明性と予測可能性を提供してきたが、その時代は終焉に向かっている。ロシアが2023年に新START履行を停止したことで検証機能は麻痺し、双方は不確実性の高い状況下で運用せざるを得なくなった。さらに2023年11月の包括的核実験禁止条約(CTBT)批准撤回は、ロシアが制約なき核開発環境を受容する姿勢を明確に示した。新STARTの上限が消失すれば、ロシアは既存システムへの弾頭追加によって戦略配備戦力を最大60%増強することが理論上可能となる。

ロシアは期限延長案を示しているものの、それは暫定措置に過ぎず、実質的解決策ではない。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)など専門家は、米露間の核軍備管理は「ほぼ終焉段階」にあると指摘し、この空白は新たな複合型軍拡競争を誘発する恐れがある。

ロシアは、2022年のウクライナ侵攻以降、核戦力の運用や威嚇的な核言説を通じて、軍備管理体制と国際規範の双方を著しく損なってきた。

戦術核兵器のベラルーシ配備、欧州での限定的核使用を想定した演習、そして継続的な核威嚇は、抑止と強制外交の境界を曖昧にし、核タブーの弱体化を招いている。さらに、2020年および2024年のドクトリン改訂により、核使用の閾値は実質的に引き下げられ、ベラルーシへの攻撃、大規模な航空宇宙攻撃、主権の重大な侵害が核使用を正当化しうる事態として明記された。こうした核シグナリングは、NATOの関与抑制と政治的譲歩の強要を狙った意図的手段として位置づけられている。

NATO.INT
NATO.INT

こうした行動をめぐっては、専門家の見解が大きく分かれる。クライシス・グループのオルガ・オリカー博士は、ロシアはもはや米露二国間の法的拘束力ある軍備管理を志向しておらず、抑止安定の基盤を「数的均衡」ではなく二次報復能力に置いていると分析する。この見方によれば、条約停止は感情的反応ではなく、「制約なき核環境への適応」を示す政治的シグナルであり、ロシアは「軍備管理」から「リスク管理」へ軸足を移しつつある。2026年以降の後継枠組みをめぐっても、ロシアは欧州配備の中距離ミサイル、中国の核戦力、宇宙領域を交渉範囲に含めるよう主張しているが、米国はこれを受け入れていない。

これに対し、元カーネギー・モスクワセンターのドミトリー・トレーニン教授は、ロシアは相互確証破壊(MAD)に依拠した抑止構造から、限定核使用を含むエスカレーション優位への意図的転換を進めていると指摘する。戦術核の域外配備や繰り返される演習は、単なる威嚇的抑止ではなく、強制外交(戦争を開始することなく相手の行動を変えさせるため、軍事力の示威や限定的圧力を用いて意思決定を強いる手法)の実効的手段として位置づけられつつある。その観点から、軍備管理体制はもはや有効な安全保障枠組みではなく、冷戦期の制度的遺産にすぎないと論じている。

Nuclear weapons sent by Russia to Belarus will target Europe. Source: YouTube Kanal 13 Global
Nuclear weapons sent by Russia to Belarus will target Europe. Source: YouTube Kanal 13 Global

その他の専門家も、この議論の分岐を補完している。イワノフ博士は、軍備管理を制約ではなく交渉レバレッジと捉え、違反行為を戦術的圧力として読み解く。一方、ペトロワ博士は、ドクトリンの曖昧化が誤算の誘発につながり、ポセイドンのような新型戦略兵器が安定性を損なうと警告する。モロゾフ博士がロシアを「多極秩序における規則更新の主体」と位置づけるのに対し、グラント教授は、ロシアを「核の脅しを交渉カードとして用い、相手に譲歩を迫る国家」と評価する。これらの分析は、抑止、条約、そして信頼という、核軍備管理が直面する三重の課題を浮き彫りにしている。

Image: President Xi Jinping of China, 10 March 2023. Credit: Xinhua News
Image: President Xi Jinping of China, 10 March 2023. Credit: Xinhua News

状況をさらに複雑化させているのが、多極化しつつある核秩序である。中国は2035年までに弾頭数を1,500発規模へ拡大する可能性があり、インド、パキスタン、北朝鮮も核戦力の増強を続けている。AI、サイバー、極超音速兵器、宇宙といった新興領域は、従来の兵器数管理型条約が抱える構造的限界を明らかにしている。世論調査では、抑止と軍縮は両立し得るとの認識が広がる一方、最も緊急の課題はリスク削減であることが示されている。

この岐路を脱するには、実務的な措置が不可欠である。条約が不在の状況でも、米露はデータ交換や軍事間通信を維持し、誤算の回避を確保する必要がある。発射即応態勢の解除(二次警戒化)、二重用途システムの明確化、核指揮統制系統へのサイバー干渉に関する規範策定といったリスク削減措置は、偶発的核使用の可能性を確実に低減する。将来的には、米露中の三者による凍結から着手し、他の核保有国を含む枠組へ拡張する道が開かれよう。検証制度も新技術へ適応し、国際機関は条約が停止している状況でも監視が可能な次世代検証ツールを整備する必要がある。

結論は厳しい。米露間で法的拘束力と検証性を備えた核軍備管理は、当面は停止し、場合によっては恒久的に失われる恐れすらある。ロシアの最終目的については、管理されたエスカレーションに備えるための措置とみる立場と、条約外に新たな安定化モデルを構築しようとする転換とみる立場とに分かれている。ウクライナ戦争および米露関係の構造的転換が生じない限り、新たな軍備管理枠組みが成立する展望も、デタントへの回帰も現実味を帯びない。世界はいま、弾頭数の上限管理ではなく、核の生残性(報復能力)、指導部の意思決定、そして越えるべきではない境界線(レッドライン)の運用によって抑止が維持される段階へと移行している。

ガードレールの再構築に失敗すれば、核瀬戸際政策は常態化し、核拡散は加速し、「核使用」という制御不能な局面が一層現実味を帯びてくる。選択肢はひとつである。協調的安全保障とリスク削減への再コミットメントによってのみ、破局への道筋から退避することができる。核兵器が存在する限り、歴史が示すとおり、それは誤算、事故、さらには意図によって使用され得る。抑止管理と破局的衝突との岐路は、まさに今この瞬間の判断に委ねられている。(原文へ

This article is brought to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan

関連記事:

プーチンの新START “中断 “の決断は危険

核軍縮の議論を止めてはならない

もしロシアがウクライナに小型核を使ったら?

国連総会、山積する重複決議の負担増で“刷新”へ―効率化に向けた改革案が始動

【国連IPS=タリフ・ディーン

193加盟国から成る国連総会(GA)は、国連の最高意思決定機関として、長年にわたり数十年分の「冗長で時代遅れの決議」を蓄積し、その多くが“保管庫入り”のまま放置されてきた。

深刻な資金難に直面する国連の再構築案の一環として、いま総会の業務を整理・活性化する動きが本格化している。総会は長年、事務処理の滞留と非効率性に悩まされてきたからである。

総会議長(PGA)のアンナレーナ・ベアボック氏は、各主要委員会に対し、作業方法を見直し、効率性を高める具体策を提示するよう求めた。提案内容には以下が含まれる。

  • 類似する議題項目を統合し、重複を回避すること
  • 決議案の頻度・長さ・件数を削減すること
  • 必要に応じて隔年・3年周期の審議に移行すること
  • 投票説明(EOV)を5分以内に制限すること
  • 採択手続きを簡素化し、「ハンマー1回で1決定、すべての文書」を実現すること

これらは最近採択された決議でも明記されており、総会がより機敏かつ一貫性をもって国際課題に対応するための再設計につながるとされる。しかし、実行されなければ“紙の上の理想論”にすぎない。

ベアボック議長は警鐘を鳴らす。

「これまで通りでは通用しない。重複する決議を減らし、議論を短縮し、より賢明な日程管理が必要です。“決議のための決議”はもう終わりにすべきです。」

さらに、こうした非効率は現実に続いていると指摘する。

「日曜日に『決議を減らすべきだ』と説きながら、月曜日には新たな決議案を提出する――残念ながら、これが実際に起きているのです。」

「80年分の重荷を下ろすべき」――元国連条約局長コホナ氏

元国連条約局長でスリランカ国連大使を務めたパリタ・コホナ氏は、IPSに対し次のように語った。

「国連は80年分の決議という重い荷物を背負っている。既に不要となったもの、冗長なもの、重複するものがあまりに多い。」

同氏は、各部局・事務所が所管する決議を精査し、廃止可能なものを特定すべきだと提案する。その際は**包括的な“オムニバス決議”**で処理することもできるという。

もっとも、かつて主導した加盟国が“所有権”を主張するケースもあり、敏感な交渉が必要になる。しかし適切に進めれば、大幅な財政・人員面のメリットが得られると指摘する。

また新規決議案については、冗長性を避けるため慎重な審査が不可欠だと強調した。

「既存予算の範囲内で実施可能であっても、必ず一定のコストがかかる。資源的に実施が難しい決議案は、最初から退けるべきです。」

さらに、実施担当官は最も効果的な場所に配置すべきだとし、例としてUNDP関連の決議はナイロビ事務所に集約すべきだと提案。PKO(平和維持活動)も、活動の多くがアフリカで行われている現状からナイロビ移転を主張した。

「議題を増やし続ける総会」――ベアボック議長の苦言

ベアボック議長は、現状が改革の理念に逆行していると指摘した。

  • 資金危機が議論されている同じ場で、予算が伴わない3日間の会議を提案する委員会がある
  • ハイレベルウィーク期間には160超のサイドイベントが開催され、削減要請が無視されている
  • 来年の第81会期に向けてすでに3〜4件のハイレベル会合が提案され、翌年以降も4件ずつ提出されている
    (総会は最大3件までと決定しているにもかかわらず)

「私たちは皆、自分が大切にするものを守りたい。しかし、改革期には誰もが譲歩しなければなりません。」

「根本原因は優先順位の欠如」――元UNFPA ASGマネ氏

UNFPA元事務局次長で元ASGのプルニマ・マネ氏は、委員会の作業方法見直しは歓迎すべき“絶好の機会”だと評価する一方、現行の提案は「周辺的」だと指摘する。

「委員会が抱える最も深刻な問題は、優先順位設定が曖昧なまま広範な議題を引き受けていること、そして重要でありながら置き去りにされている課題に十分焦点を当てていないことです。」

また、加盟国の意欲が伴わなければどれほど制度を改善しても実行段階で進まないと警告した。

「議題の削減、重複回避、無限に続く議論の終結――いずれも有意義だが、決議を実施する意思がなければ何の意味もない。」

「総会改革そのものが儀式化している」――民主主義専門家ブンメル氏

国際NGO「Democracy Without Borders」の共同創設者アンドレアス・ブンメル氏は、GA改革の議論が“形骸化”してきたと指摘する。

「毎年同じ決議を繰り返すのを止めるのは当然の話で、本来ならとっくに実行されているべきだ。しかし根本改革が必要だ。」

同氏は以下を提案する。

  • 総会議長の任期を1年から2年に延長し、十分な予算を確保
  • 国連議会会議(Parliamentary Assembly)の創設
  • 市民イニシアティブ制度、シチズンズ・アセンブリーの導入

これにより、総会は国連全体の“革新と包摂”の中心になりうると述べた。

総会議長室(OPGA)も刷新へ

United Nations Headquarters  Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

ベアボック議長によれば、第80会期は第79会期からの引き継ぎが円滑に行われたことで、当初から迅速な立ち上がりが実現した。しかし、業務量は依然として膨大である。

  • ハイレベルウィークでは数日で7つ以上の主要会合を開催
  • 残り会期も、約20の政府間プロセスと複数のハイレベル会合を予定
  • 決議数はほぼ横ばいで、内容も過去会期とほぼ同一

ベアボック氏は「この状況は持続可能ではない」とし、小規模ミッションが「同時に3会合に出席できない」と悲鳴を上げている現実を強調した。

「移行は重要です。準備も重要です。総会議長が成功できるよう、制度として環境を整えなければなりません。」

(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

関連記事:

国連改革に「痛みを伴う人員削減」―帰国強制の恐れも

国連80周年:成功と失敗が交錯する混合の遺産

危機に直面する国連、ニューヨークとジュネーブを離れて低コストの拠点を模索