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2025年を振り返って

「エベレストの国」として知られるネパールは、2025年、若者主導の政権転覆と結び付けて語られるようになった。

【カトマンズNepali Times=ソニア・アワレ】

年初は大きな出来事もなく始まったが、年末は騒乱と先行きの不確実性の中で幕を閉じた。ただし緊張は、年初から水面下でくすぶっていた。

Nepali Times
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2月、ネパールはマネーロンダリング対策の不備を理由に、金融活動作業部会(FATF)の「グレーリスト」に入った。米国国際開発庁(USAID)の停止で、保健、気候、栄養分野の多くの事業が止まった。混乱のさなか、5月にはインドとパキスタンが戦争に突入した。全面的な核戦争には至らなかったものの、この衝突を経てドナルド・トランプ大統領とナレンドラ・モディ首相の関係は決定的に悪化した。

3月28日、カトマンズでは、債務不履行で知られるドゥルガ・プラサイが率いた親王政集会が開かれ、機動隊によって解散させられた。支持者が放火と略奪に走り、テレビ記者を含む2人が死亡した。年後半の混乱を予告する出来事だった。

モンスーンは例年通りの被害をもたらした。今回はボテ・コシ川で国境を越える氷河湖決壊洪水が発生し、中国との主要貿易ルートが押し流された。気候リスクを改めて突きつける出来事となった。

8月、カトマンズの政界・メディア関係者の間では、K・P・オリ首相がインド政府から公式招待を得られるかどうかが取り沙汰されていた。招待が実現しないと、オリは9月3日、北京で開かれた戦勝記念パレードに出席するという物議を醸す訪中を強行した。第二次世界大戦における日本の敗戦80周年を掲げる式典である。

会場にはウラジーミル・プーチン大統領、習近平主席、金正恩第総書記が居並んだ。だがオリは帰国から6日後、首相の座を追われた。抗議者が首相公邸に火を放つ直前、オリはネパール軍のヘリコプターで救出された。

Representative image. Photo: Bill Kerr/Flickr, CC BY-SA 2.
Representative image. Photo: Bill Kerr/Flickr, CC BY-SA 2.

この年を通じ、UML(ネパール共産党・統一マルクス・レーニン主義)とNC(ネパール会議派)の連立は、言論の自由を狭める法案を相次いで準備していた。印刷・出版法の改正、ソーシャルメディア法案、対諜報法案、さらに社会福祉評議会(Social Welfare Council)の改組である。導火線に火をつけたのは、9月5日に26のソーシャルメディア・プラットフォームを禁止した措置だった。

インドネシアで起きた若者主導の反汚職抗議に触発され、ネパールのGenZ(Z世代)が動いた。社会政治の空気は乾き切っており、殺害事件への怒りが抗議の拡大を促した。

GenZが9月8日、汚職と悪政に抗議する集会を呼びかけたとき、事態が制御不能に陥るとは(若い抗議者自身も含め)誰も想像していなかった。8日、武装警察部隊(APF)の発砲により、デモ参加者19人が死亡した。

流血はソーシャルメディアで無検閲のまま拡散された。翌日、衝撃が癒えぬ若者たちのさなかで、さまざまな不満を抱えた人々が放火と略奪に走り、標的は住宅、官公庁、学校、事業所に及んだ。9日午後10時にネパール軍が外出禁止令を出すころには、多くが焼け落ちていた。

Kathmandu’s Singha Durbar in flames
Kathmandu’s Singha Durbar in flames

その後、GenZはスシラ・カルキを首相に選出したが、彼女に不満を抱く強硬な一派もいる。混乱に拍車をかけているのが、打倒されたUMLとNCの指導者たちである。彼らは失脚を受け入れられず、下院(代議院)の復活を狙う。オリはUMLの党首に再選され、退く気配はない。かつての連立相手であるシェール・バハドゥル・デウバにも踏みとどまるよう働きかけている。

People take part in an anti-corruption protest in Kathmandu, Nepal on 8 September 2025. Credit: Navesh Chitrakar/Reuters via Gallo Images
People take part in an anti-corruption protest in Kathmandu, Nepal on 8 September 2025. Credit: Navesh Chitrakar/Reuters via Gallo Images

ただ、両党には選挙に踏み切る以外の選択肢がない。にもかかわらず、長年の失政に対する民衆の怒りに向き合うための党改革は十分に進んでいない。

3月の選挙実施は不透明とみられていたが、ラーム・チャンドラ・パウデル大統領が今週、UML、NC、NCPの各党を招集し、カルキとの初会合を開いたことで情勢が動いた。RSPもカトマンズ市長バレン・シャーとの協議に乗り出し、総選挙はにわかに現実味を帯びてきた。結果がどうであれ、2026年は既成政党の優位が新たな勢力に挑まれ、ネパール政治の進路を変える年となるだろう。

それが透明性、民主主義、説明責任という新たな政治文化につながるのか。あるいは大衆迎合と権威主義へ傾斜するのか。その兆しが見え始めるのが2026年である。(原文へ

ソニア・アワレ(ネパリ・タイムズ編集者/保健・科学・環境担当):気候危機、防災、開発、公衆衛生を長年取材し、それらの政治・経済的な相互連関を追ってきた。公衆衛生を学び、香港大学でジャーナリズムの修士号を取得。

INPS Japan

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国連再編で事務局職員2600人超削減、予算15%削減の可能性

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連職員組合は、最善を願いつつ最悪の事態も想定し、緊張を強めている。総会が12月31日までに、2026年の計画予算(通常予算)案を採決する見通しだからだ。国連職員組合(UNSU)のナルダ・キューピドール会長は、職員に影響を及ぼす提案として、次の点を挙げた。
・2026年の通常予算を15・1%削減する案
・事務局全体で2681ポスト(約18・8%)を廃止する案(このうち半数超は既に空席)
・来年、ニューヨークとバンコクで開始する新たな「共通行政プラットフォーム(Common Administrative Platforms=CAP)」を通じ、行政機能を集約する案
・ナイロビ、ボン、バレンシア、チュニス、ウィーンなど、よりコストの低い勤務地へ約173ポストを移転する案

総会がこれらの変更を承認した場合、次の措置が実施される見込みだ。
・影響緩和策:人員削減は、欠員の整理、早期離職プログラム、各組織内での配置転換を進めたうえで、全体の配置(グローバル・プレースメント)で調整する。
・縮小(ダウンサイジング)方針:それでも追加の人員削減が必要となる場合は、ST/AI/2023/1 に定められた規則に従い、任用形態、勤務評定、勤続年数などを考慮して縮小方針を適用する。

■今後の見通し
・2025年12月:総会決議を待つ
・2026年1〜3月:影響緩和策を実施
・2026年4月以降:必要に応じ縮小方針を適用

■早期離職プログラム(影響緩和策の一つ)
国連人事局(Office of Human Resources)は、次のように周知している。
・第1回および第2回は引き続き受け付けており、最終決定は2026年1月まで確定しない。
・第3回は現在実施中で、本ラウンドで示された特定の基準に基づく対象者に絞って行われている。
・参加の意向を示した職員には、全ラウンド終了後に承認の可否を個別に通知する。

■職員への支援
近く利用可能となる見込みの「Staff Support Framework 2・0」は、今後の変化への対応を支援し、離職よりも再配置を優先するための体系的な指針を示すとともに、非自発的な離職の最小化を図るという。

第5委員会が今後数日、決議採択と予算承認に向けた審議を続ける中、国連職員組合(UNSU)は交渉の行方を注視していると、キューピドール会長は職員向けメモで述べた。会長は「同時に、これらの決定がもたらし得る影響、権利や労働条件への含意について評価を進めている」とした。

一方、米国務省は、国内の132以上の部局を廃止し、約700人の連邦職員を解雇し、海外の在外公館を縮小する手続きを進めている。

提案されている変更には、国連および一部の国連機関への資金拠出の打ち切り、32加盟国から成る軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)への予算削減、さらに特定されていない20の国際機関への予算削減も含まれるという。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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アジア太平洋地域、新たな災害リスク時代への備え

【バンコクIPS=UNESCAP】

サイクロン「ディトワ」と「セニヤール」は、例外的な事象ではなく、災害リスクの地形(リスクスケープ)が変化しつつあることを示している。両者はいずれも、これまでの歴史的なパターンを破った。ディトワは、スリランカ沿岸を異例なほど南下した後、ベンガル湾へとループし、24時間で375ミリを超える豪雨をもたらして地滑りを引き起こした。

一方、セニヤールは、マラッカ海峡で観測された史上2例目のサイクロンで、赤道付近で発達した後にスマトラ島上空に停滞し、アチェ州および北スマトラ州の洪水被害を深刻化させた。

拡大する人的・経済的被害

国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の報告書『アジア太平洋災害報告書2025:上昇する熱、拡大するリスク』によると、アジア太平洋地域は、海洋熱波や海面水温の上昇により極端気象が激化し、連鎖的なリスクが拡大する時代に突入している。

ESCAP

これまで比較的低リスクとされてきたスリランカ中部丘陵地帯やタイ南部沿岸も、いまや気候リスクのホットスポットとなった。

同報告書は、南アジアおよび南西アジア地域だけでも、洪水による年間平均損失額が、歴史的な470億ドルから570億ドルに増加する可能性があると予測している。

インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナムでは、2025年11月下旬の一連の暴風雨により、1,600人以上が死亡、数百人が行方不明となり、1,000万人を超える人々が影響を受けた。

広範な洪水と地滑りは120万人を避難に追い込み、基幹サービスを寸断し、多くの地域社会を孤立させた。必要とされる対応規模の大きさと、今後見込まれる深刻な経済的影響を浮き彫りにしている。

備えの価値

早期警報の改善により、過去数十年と比べて犠牲者数は減少している。しかし、今回の災害は、被害そのものがより破壊的になっている現実を示した。

影響ベースの予測によって大規模な避難が促され、地域訓練により多くの家族が安全を確保できたのは事実である。それでもなお、数千人が取り残された。

警報は発せられたが、現場での実施が不明確で、避難路がすでに冠水している例もあった。公式システムが機能しない場面では、ソーシャルメディアが命綱となった。

傾向は明らかである。信頼と訓練を伴わなければ、技術だけでは命は救えない。警報は、人々が「何をすべきか」を理解し、行動に移せるときに初めて機能する。

ESCAPの「津波・災害・気候レジリエンス多国間信託基金」は、備えへの投資が何倍もの成果をもたらすことを示している。2025~26年の提案募集は、次の暴風期が到来する前に、沿岸レジリエンスの強化、科学技術の統合、地域主導の行動を制度に組み込む機会を各国に提供している。

学ぶべき教訓

・信頼される地域ネットワークと、十分に整備された地域主導の備えが、警報を意味あるものにする

早期警報には限界がある。多くの地域で警報が発出され、ホットラインも開設されたが、急激な増水により家族は取り残され、救助隊やボランティアに頼らざるを得なかった。これらの事例は、情報があっても、移動制約や家庭ごとの備えの格差が行動を妨げることを示している。

2004年のインド洋大津波後に推進された地域主導の取り組みは、地域知と定期的な訓練が意思決定を改善することを実証してきた。20年を経たいま、社会的結束はレジリエンスの指標となっている。

例えば、7万6,000人のボランティアを擁するバングラデシュのサイクロン備えプログラムは、戸別訪問による警報伝達と避難誘導によって、サイクロンによる死者数を大幅に減少させてきた。

・リスクを考慮しない都市成長は、災害被害を増幅させる

ディトワとセニヤールは、リスクを織り込まない急速な都市化が被害を拡大させる現実を露呈した。コロンボでは湿地の40%が消失し、ハートヤイでは排水能力が限界を超えた。

スマトラ島で大きな被害を受けた町の多くは、既知の地滑り危険区域に位置しており、病院や交通網、地域経済に深刻な混乱をもたらした。

自然の緩衝帯が失われると、かつてはゆっくり排水されていた雨水が、数時間で都市を水没させる。都市のレジリエンスは、湿地の保全、ゾーニングの徹底、排水・治水インフラへの投資など、開発計画にリスクを組み込めるかどうかにかかっている。

インフラは量だけでなく、極端事象に耐えうる設計が不可欠である。自然システムを守り、レジリエンスを計画に組み込む都市こそが、将来の暴風に耐え、経済活動を守ることができる。

・地域連帯と共有解決策は命を救う

アジア太平洋地域は、暴風がモンスーン災害を増幅させ、地滑りへと連鎖し、脆弱なインフラによって被害が拡大する複合リスクに直面している。地域協力はもはや選択肢ではなく、世界で最も災害の影響を受ける地域におけるレジリエンスの基盤である。

2025年11月には、インドネシア、スリランカ、タイなど8か国が「国際災害チャーター(宇宙・大規模災害)」を発動し、緊急対応計画のための迅速な衛星画像提供が行われた。共有システムの有効性が実証された。

地域全体で洪水が拡大するなか、ESCAP防災委員会の参加国は、国境を越える災害に対応するため、地域早期警報システムと予測行動へのコミットメントを再確認した。

アジア太平洋地域のレジリエンスは、人と備えの文化への投資、地域連帯、極端事象を前提とした都市計画、自然緩衝帯の保全、そして最終段階の行動指針をすべての世帯に届けることにかかっている。

高まり続けるリスクを管理できる世代と社会を築くことこそ、安全な未来への最も賢明な投資である。(原文へ

INPS Japan/IPS/ESCAP

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NFUは維持、核戦力は拡大―中国の核ドクトリンが軍縮と戦略的安定に与える影響

【シンガポールLondon Post=アダム・ハンコック】

中国の核姿勢は、長らく「抑制」によって特徴づけられてきた。核戦力は比較的小規模に抑えられ、宣言政策としても防御的抑止を強調してきた。1964年の初の核実験以来、中国は「先制不使用(NFU)」を掲げ、いかなる状況下でも核攻撃を先に開始しないと約束している。さらに、非核兵器国および非核兵器地帯に対しては、核兵器を使用せず、また使用を威嚇しないという無条件の保証も示してきた。|トルコ語版英語

Adam Hancock
Adam Hancock

これは核拡散防止条約(NPT)上の5核兵器国(=P5)の中でも中国の特徴の一つであり、中国は自らを「最小限抑止」の担い手として位置づけてきた。すなわち、確実な報復を可能にする必要最小限の戦力にとどめ、米国やロシアといった超大国との軍拡競争を避けるという立場である。

こうした基本姿勢は、2025年後半に入っても維持されている。中国は核兵器のNFU(先制不使用)を明確に再確認しており、2025年11月の軍備管理・軍縮・不拡散に関する白書でも、NFUを自衛的核戦略の中核に据え、国家安全保障における核兵器の役割を抑制するための基盤と位置づけた。外務省声明や安保理常任理事国(P5)の対話の場でも同趣旨が繰り返され、中国は核保有国間の相互NFU合意を、リスク低減に向けた実務的措置として提案している。

その一方で、欧米では危機時の「例外」をめぐる憶測が根強い。核関連施設・資産に対する通常攻撃や、台湾をめぐる緊張が高まる局面で、NFUが実質的に曖昧化するのではないか、という見方である。もっとも、中国が公式に政策転換を示した事実はない。中国はNFUを、ドクトリンであると同時に外交的シグナルとして位置づけ、自らを「責任ある行為者」として演出しつつ、他国のより攻勢的な核姿勢を批判する論拠としている。

SIPRI

しかし、こうした宣言上の継続性は、中国の核戦力が急速に近代化され、規模も拡大している現実と鋭く対照をなす。規模と速度の両面で、これは中国の核戦力史上、最も顕著な拡充だ。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)や『Bulletin of the Atomic Scientists』、米国防総省などの推計はおおむね一致しており、2025年半ば時点の運用可能な核弾頭数は約600発と見積もられている。これは前年の約500発から増加し、2020年の水準の2倍超に当たる。今後は2030年までに1,000発超、2035年までに1,500発に達する可能性も指摘され、近年は年間約100発のペースで核弾頭数が増えているとされる。

こうした拡大は、陸・海・空にまたがる「核の三本柱(核トライアド)」の整備を伴っている。主な動きとしては、複数弾頭(MIRV)搭載能力を持つDF-41大陸間弾道ミサイル(ICBM)、射程が5,400海里を超えるとされるJL-3潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、空中発射弾道ミサイルを運用できるH-6N爆撃機の整備などが挙げられる。中国は複数のサイロ群で、新たなICBMサイロを数百基規模で建設しており、2025年初頭までに約350基が完成、または完成間近とされる。地点によっては、100発を超えるミサイルが装填されたとの報道もある。DF-17やDF-27に搭載されるとされる極超音速滑空体(HGV)は、ミサイル防衛の突破能力を高める。さらに、早期警戒システムへの投資は、警報即応発射(launch-on-warning)を含む、より高い警戒態勢への移行を示唆している。

中国は、こうした能力整備を防御的措置として正当化している。とりわけ、米国の弾道ミサイル防衛、精密通常攻撃能力、そして中国の第二撃能力(報復能力)を損ない得る地域同盟の強化を、主要な外部脅威として挙げる。中国側は、核戦力は安全保障に必要な「最小限の水準」にとどまり、米国・ロシアの備蓄と比べればはるかに小さいと主張する。狙いは同等性の追求や核戦争遂行ではなく、抑止の生存性(サバイバビリティ)の確保にある、という説明である。

ただし、拡大の規模と近代化の進展は、NFUへの厳格な依拠が将来どこまで維持されるのか、という新たな問いも生む。長期化する紛争の局面で、より柔軟な選択肢を可能にしているのではないか、という指摘が出るゆえである。

この二面性は、国際的な核不拡散・軍縮の枠組みへの関与にも表れている。中国は1992年のNPT加盟以降、不拡散・軍縮・平和利用という条約の三本柱を支持しつつ、「段階的(step-by-step)」な軍縮を主張してきた。中国の立場は、世界の核弾頭の9割超を保有する米国とロシアが、まず深い削減に主たる責任を負うべきだ、という点にある。中国はNPT運用検討会議や安保理常任理事国(P5)の協議には参加する一方、戦力規模の格差が縮小しない限り、米国・ロシア・中国の三国間軍備管理交渉には応じない姿勢を維持している。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

核兵器禁止条約(TPNW)についても、中国は他の核保有国と同様に参加していない。TPNWは2017年に採択され、2021年に発効した。中国は、人道的目的や長期的な核廃絶のビジョンには理解を示す一方、同条約は安全保障の現実から乖離し、核兵器国の関与を欠いたまま進められてきたうえ、NPT体制を損なうおそれがあると主張している。中国は交渉に加わらず、関連する国連決議にも反対し、安定を損なわない漸進的かつ包摂的な措置を優先している。

こうした動向は、戦略的安定に重大な影響を及ぼす。とりわけ競争が激化する東アジアでは、その影響が大きい。中国の能力増強は、米中対立、インドの近代化、北朝鮮の挑発、日本・韓国の同盟強化と重なり合う。台湾や南シナ海をめぐる危機では、高度な通常戦力と核戦力の統合が進むほど、エスカレーションの閾値が曖昧になり、誤算のリスクが高まる。米国や同盟国側のミサイル防衛の進展は、中国にさらなる戦力の多様化と拡充を促し、安全保障のジレンマを増幅させる可能性がある。

視野を世界に広げれば、中国の動きは、長らく米露中心の二極構造を前提としてきた軍備管理の枠組みを揺さぶっている。核戦力の拡大は、多極的な軍拡競争を誘発する可能性があるほか、NPTにおける軍縮義務への信頼を弱め、交渉を一層複雑にしかねない。中国は核戦力の詳細をほとんど公表していないため、透明性の不足は誤認や過剰反応を招きやすい。

他方で、機会もある。NFUが維持されるなら、リスク低減のモデルとなり得る。また、中国が多国間枠組みを重視する立場は、相互主義的な措置と組み合わされるなら、核保有国と非核兵器国の溝を埋める足がかりとなり得る。

People's Republic of China  credit: Wikimedia Commons
People’s Republic of China  credit: Wikimedia Commons

結論として、中国の核ドクトリンは、歴史的な抑制と、緊張が高まる安全保障環境への適応との間で均衡を取ろうとしている。NFUと最小限抑止は、2025年の再確認を含め、宣言上は維持されている。しかし同時に、前例のない近代化と核戦力の拡大は、「核は先に使わない」と言いながらも、万一攻撃を受けた場合に確実に報復できる体制をより強固にしようとする動きである。中国は、米国のミサイル防衛や精密通常攻撃によって自国の第二撃能力(報復能力)が損なわれることを脆弱性として意識し、核弾頭数の増加、配備の分散・地下化、陸海空への多様化、突破力の向上、早期警戒の整備などを通じて「やり返せる力」を厚くしていると説明してきた。世界の軍縮にとって、これは逆説的な構図だ。拡充は軍縮の勢いを削ぐ一方で、中国の立場は、依然として米国とロシアが主たる責任を負うべきだという論点をかえって際立たせるためである。

安定を維持するには、包摂的な対話と実務的措置が不可欠である。P5の枠組み強化、危機管理のホットライン整備、透明性と予測可能性を高める信頼醸成、そして将来的な多国間軍備管理への道筋づくりが求められる。こうした努力が欠ければ、軍事力の高度化が協力よりも対立を強め、すでに不安定な世界で核の危険が高まるおそれがある。2025年の終わりにあたり、国際社会は、対話の場と危機管理の仕組みを整え、透明性を高める信頼醸成を優先することで、中国の台頭が世界の不安定化ではなく、安定と平和につながるよう導く必要がある。(原文へ

This article is produced to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC. 

INPS Japan

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中央アジア・日本首脳会合、トランス・カスピ回廊を後押し トカエフ大統領は核リスク再上昇に警鐘

|中東|核の火種となり得る地域:戦略力学と核リスク

【エルサレムINPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】

中東は、世界で最も不安定な地域の一つとしばしば形容される。長期化する紛争、根深いイデオロギー対立、脆弱な地域安全保障枠組み、そして大国の関与が重なり、核リスクが高まりやすい構造を抱えている。

この地域で核兵器を保有していると広く信じられている国は一国に限られるが、核能力の獲得を目指した、あるいは目指していると疑われる国は複数ある。こうした力学が地域の対立と結びつくことで、中東は核の火種(flashpoint)となり得る。|ENGLISHRUSSIAN

中東で核兵器を保有しているのはどこか

イスラエル

イスラエルは中東で唯一、核兵器を保有していると広く見られている。ただし政府は、保有の有無を公式に肯定も否定もしていない。この「核の不透明性(nuclear opacity)」政策は数十年にわたり維持されてきた。

専門家の推計では、核弾頭数はおおむね80~200発とされる。運搬手段としては、航空機、地上配備ミサイル、潜水艦発射能力を組み合わせた「核の三本柱(トライアド)」を備えるとみられている。

イスラエルにとって核兵器は、敵対的な地域環境における究極の抑止力であり、国家の存立を脅かす事態を防ぐための最終手段と位置づけられている。現時点で、イスラエル以外の中東諸国が運用可能な核兵器を保有しているとの評価は、一般的ではない。

中東で核兵器保有を目指す(と見られる)国々

イラン

中東の核拡散をめぐる議論の最大の焦点はイランである。イランは核兵器開発の意図を否定し、計画は民生目的だと主張している。しかし実際には、先進的なウラン濃縮能力を発展させる一方、時期によっては国際原子力機関(IAEA)による査察・監視への協力を制限してきた。

同時にイランは、長距離弾道ミサイル計画の高度化も進めている。これらのミサイルは、理論上は核弾頭を搭載し得る。

多くの分析者は、イランが核の閾値(threshold)――政治的な意思決定さえ下されれば、比較的短期間で核兵器を製造し得る段階――に近づいているとみる。イランの核武装の可能性は、地域の軍拡競争を誘発する主要因とされ、周辺国の政策判断にも連鎖的な影響を及ぼし得る。

サウジアラビア

サウジアラビアは近年、原子力計画の推進姿勢をいっそう鮮明にしている。公式には民生用のエネルギー需要を軸に説明されるが、地域の安全保障上の懸念と強く結びついており、軍事・抑止上の含意も帯びる。

サウジ側は、原子力発電がエネルギー構成の多様化、石油依存の低減、そして「ビジョン2030」の下で増大する国内電力需要への対応に不可欠だと主張する。

一方でサウジ指導部は繰り返し、イランが核兵器を獲得すればリヤドも同等の能力を求めると警告してきた。この点が、同国の原子力計画を安全保障上きわめて敏感な案件にしている。

サウジは原子炉建設を視野に入れつつ、国内のウラン資源開発や燃料サイクル関連研究の拡大を進め、米国、中国、韓国、ロシアなどとの原子力協力の枠組みも模索してきた。

ワシントンとの最大の争点は、ウラン濃縮と再処理に厳格な制限を受け入れることに対するサウジの消極姿勢である。濃縮と再処理は国際的に、核兵器能力へ至り得る潜在的な「経路」と見なされやすい。

トルコ

トルコはNATO加盟国であり、NATOの核共有(nuclear sharing)をめぐる枠組みの下で、米国の核兵器が自国内に配備されていると指摘されている。トルコの指導者は機会あるごとに、「ある国は核兵器を持てるのに、なぜ他国は持てないのか」との趣旨で疑問を呈してきた。

NATO加盟と国際的コミットメントは現時点でトルコの選択肢を制約しているが、こうした発言は長期的な不確実性を示唆している。

エジプト

エジプトは過去に核研究を進めた経緯があり、中東を大量破壊兵器のない地域にする構想(WMDフリー・ゾーン)を長年提唱してきた。だが現在は、公式には不拡散体制を支持する立場をとっている。

またエジプトは、イスラエルの核能力とイランの核計画を、地域の安全保障上の不均衡要因として注視している。

核の「能力」を持つ(ただし兵器化を公言していない)国々

中東には、現時点で核兵器開発の意思を公言せず、国際的な監視・検証の枠組みの下で、エネルギー、研究、医療、産業などの民生目的に焦点を当てる国もある。

最も明確な例がアラブ首長国連邦(UAE)である。UAEは、濃縮・再処理を行わないという厳格な不拡散コミットメントの下で、バラカ原子力発電所を運用している。

ヨルダンは、訓練、医療用同位体、科学研究に用いる小型研究炉を運転している。エジプトは、長期的なエネルギー戦略の一環としてロシア支援の下でエル・ダバア原発を建設中であり、核不拡散条約(NPT)体制内にとどまる立場を示している。トルコは、エネルギー構成の多様化を目的にアックユ原発を開発しているが、燃料サイクルに関わる機微技術の追求は掲げていない。

北アフリカでは、モロッコとアルジェリアが、科学研究や医療用途など民生目的の研究炉をIAEA保障措置の下で運用している。これらの計画は技術的知見と基盤を提供し得る一方、公式には平和利用と透明性が強調され、核兵器化への意図は示されていない。

中東における主要な核リスク

1)地域的な軍拡競争
イランが核の閾値を越えれば、サウジアラビアを中心とする地域大国が追随する可能性がある。不安定な地域で核保有国(あるいは核能力を持つ国)が増えれば、核兵器を求める動きが他国にも波及しかねない。

2)低い信頼と脆弱な意思疎通
冷戦期の米ソ対立と異なり、中東の対立関係には、危機管理の仕組みやホットライン、軍備管理合意といった安全弁が十分に整っていない。誤算や偶発的衝突のリスクは高い。

3)先制攻撃の誘惑
競合国が核能力の獲得に近づいているとの認識は、核関連施設への先制攻撃を促し得る。攻撃は短期間でエスカレートし、地域諸国に加え域外大国を巻き込む広域戦争へ発展する恐れがある。

4)非国家主体の存在
中東では、強力な非国家武装組織の存在感が際立つ。核兵器が国家の管理下にとどまるとしても、核施設への攻撃や核物質の奪取を狙う試みが生じるリスクは、より安定した地域より高い。

5)通常戦からのエスカレーション
中東の多くの紛争は、全面戦争の一歩手前で継続している。核が絡む環境では、通常戦の衝突が、指導者が国家の存立に関わる危機を恐れる局面で、より急速に拡大し得る。

6)国際不拡散体制の弱体化
中東で核拡散が進めば、国際的な不拡散体制は弱体化し、他地域でも同様の動きを誘発しかねない。(原文へ

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

INPS Japan

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援助予算が歴史的低水準に、2026年に数百万人が危機に

【ニューヨークIPS=オリトロ・カリム】

2025年は、人道支援活動にとって特に混迷を極めた年となった。世界の援助予算が記録的な規模で減少し、紛争、環境災害、経済危機が激化するなかで、最も脆弱な人々が不均衡に深刻な影響を受けている。一方で、緊急対応に充てられる国際的な資金は、急増するニーズに遠く及ばない状況にある。

人道機関は、資金不足が拡大し続ければ、2026年にはさらに多くの人々が命を守るために不可欠な支援を受けられなくなると警告している。これを受け、国連(UN)とパートナー機関は、12月12日に開催される中央緊急対応基金(CERF)設立20周年記念の年次誓約会合に向け、国際社会に対し、支援拡大を強く呼びかけている。

United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「人道システムの燃料タンクは空になりかけており、数百万人の命が危機にさらされている。」と述べた。「より多くを求められながら、使える資源はますます少なくなっている。これは明らかに持続不可能である」。

国連人道問題調整事務所(OCHA)の数値によると、国連は来年、8,700万人の命を救うことを目標としており、そのためには約230億ドルの資金が必要とされる。さらに、50か国で実施される23の国別人道支援事業に加え、難民や移民に特化した6つの追加事業を通じて、1億3,500万人を支援するため、約330億ドルの資金調達を目指している。

しかし、支援拡大の必要性がかつてなく高まる一方で、人道支援アピールへの資金拠出は過去数十年で最も急激に落ち込んでいる。2025年に1,200億ドルを求めた支援要請では、前年より約2,500万人少ない人々しか支援できなかった。

OCHAは、この資金不足がもたらした即時的な影響として、世界的な飢餓危機の悪化、崩壊寸前まで追い込まれた保健医療体制、重要な教育プログラムの衰退、長期化する武力紛争から逃れた脆弱な避難民に対する保護サービスの大幅な後退を挙げている。一部の地域では援助関係者の安全も著しく悪化し、今年だけで320人以上が殺害された。国連当局者は、これを「戦時国際法に対する完全な無視」と表現している。

Tom Fletcher

国連人道問題担当事務次長兼緊急救援調整官のトム・フレッチャー氏は、「最も力を必要とされているときに、警告灯が点滅している。」と述べた。「これは単なる資金ギャップではなく、運営上の緊急事態である。CERFが揺らげば、世界の緊急対応サービスそのものが揺らぐ。そうなれば、私たちに頼る人々が苦しむことになる。」

資源が極端に不足するなか、国連とパートナー機関は、ある命を救う支援を優先するため、別の支援を縮小せざるを得なくなっている。その結果、差し迫った人道危機の多くが深刻な資金不足に陥っている。こうした戦略的配分により、国連は「人類の苦しみの震源地」とも形容されるスーダン・ダルフール地方から逃れる多くの避難民を、十分に支援できていない。

フレッチャー氏は、「ご存じの通り、私たちが直面している苛烈な削減は、苛烈な選択を強いている。人間の生存をめぐる冷酷なトリアージである」と語った。「これは、連帯や思いやりよりも力を優先したときに起きる現実である」。

国連当局者はまた、CERFの極めて重要な役割を強調した。同基金は2006年以降、110か国以上で総額100億ドルを超える支援を提供し、数十年にわたり脆弱な人々の命綱となってきた。CERFは「迅速かつ戦略的」な資金源として、他の支援が届く前に危機下の市民に到達し、数え切れない命を救ってきた。

グテーレス事務総長は、「多くの地域で、CERFは命を救う支援があるか、全くないかの分かれ目となってきた。」と述べている。今年初め、ガザ地区で人道活動が再開された際には、CERFが病院への重要な燃料供給、水・衛生システムの復旧、その他の不可欠な救命サービスの強化を支えた。

2025年には、CERFが資金不足の危機下にある支援活動を維持するため、約2億1,200万ドルを拠出した。国連はまた、ブルキナファソ、コンゴ民主共和国、マリ、ハイチ、ミャンマー、モザンビーク、シリアなどで、女性や少女のニーズを含む緊急課題に対応するため、追加で1億ドルを割り当てたと発表した。

これまでにCERFは、総額4億3,500万ドルの拠出を通じ、30の国と地域で数百万人を支援してきた。これらの資金は、停戦後のガザにおける人道支援の拡大を可能にし、ダルフールでの武力紛争から逃れる人々への重要な支援も提供している。

こうしたCERFの取り組みは、国連が2026年に向けて構想する「人道リセット」の中核を成すものである。フレッチャー氏は、「だからこそ人道リセットが重要なのだ。単なるスローガンではなく、私たち全員への挑戦である。」と述べた。「それは使命であると同時に、私たちの活動と、支援を必要とする多くの人々にとっての生存戦略でもある。より賢く、より速く、地域社会により近づき、直面する厳しい選択についてより正直になること。支援を受ける人々のために、1ドル1ドルの価値を最大化することが求められている。」

国連にとって2026年最大の単独人道対応計画は、占領下パレスチナ地域に焦点を当てたもので、壊滅的な暴力と破壊を経験した約300万人を支援するため、約41億ドルが必要とされる。これに続き、世界最大の避難民危機を抱えるスーダンでは2,000万人を支援するため29億ドル、シリアでは860万人を支援するため28億ドルが必要とされている。

Displaced families shelter at a gathering site in El Fasher in northern Darfur in August 2025 | Photo/UNICEF
Displaced families shelter at a gathering site in El Fasher in northern Darfur in August 2025 | Photo/UNICEF

CERFへの拠出額は、過去10年以上で最も低い水準に落ち込むと予測されており、国連は10億ドルを目標に、加盟国への資金要請を開始する。各国にはまた、民間人や人道支援従事者の保護強化、武力行使の加害者に対する説明責任メカニズムの強化に向け、自国の影響力を行使するよう求められている。

フレッチャー氏は、「人道資金が厳しいこの瞬間にこそ、十分に資金が確保されたCERFがもたらし得る次の20年を想像しなければならない。」と語った。「国連をより速く、より賢く、より費用対効果が高く、より環境に配慮し、より先取り型で、より包摂的にする基金である。地域社会の声を増幅し、連帯が今も機能することを証明する基金だ。その連帯を信じる市民の運動に支えられて。」(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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|視点|新国連事務総長を待ち受ける困難な課題(クル・C・ガウタム元国連事務次長、元ユニセフ副事務局長)

【カトマンズIPS=クル・C・ガウタム】

次期国連事務総長の選出は、国連が各国から迂回され、多国間主義――その中核にある国連そのもの――が、世界の最も強大な国家や指導者の一部から強い挑戦を受ける中で、2026年という極めて不利なタイミングで行われる。

2027年に就任する新事務総長は、前例のない財政危機と、国連を存続させるためだけでも大規模な制度改革を迫られるという重い遺産を引き継ぐことになる。一見すると、これは新事務総長が大胆な構想を打ち出すには最悪の状況に映る。とりわけ、真の多国間主義の強化には消極的で、むしろ自らの勢力圏を守るための多極的秩序を好む強国の指導者たちの支持を得ることは容易ではない。

しかし歴史を振り返れば、最も大胆な理念は、戦争や革命、世界的危機といった激動の時代にこそ生まれてきた。先見性ある新たな国連指導者が、これまでにない発想を打ち出し、規範に基づく国際秩序を再生するための種をまく可能性は、決して否定できない。

今日の最も強大な指導者たちの多くが多国間主義に対して消極的である一方、世界の一般市民――とりわけデジタルに精通した若い世代――は、グローバルな相互依存を強く実感している。

彼らは自らを「地球市民」と捉え、国境のない世界で生きることを望み、21世紀の現実に即した国連改革という先進的な提案を受け入れる素地を備えている。

有望な出発点の一つは、国連初の女性事務総長の選出であろう。さらに不可欠なのは、国連の財政制度を改革し、少数の富裕で強大な国家の意向に過度に左右されない、より広範で持続可能な資金基盤を築くことである。

資金不足に陥っている国連の巨大で分散した組織構造については、現事務総長が進める「UN80イニシアティブ」の下で、すでに一定の統合が始まっている。新事務総長はこの流れを加速させ、批判者や懐疑論者からの支持をも取り付けることができるかもしれない。

とはいえ、いかに活力と構想力に富んだ事務総長であっても、加盟国の後押しなしに改革を進めることはできない。現状では、拒否権を持つ常任理事国(P5)をはじめとする強国の指導者たちは、国連のトップ外交官を真のグローバル・リーダーとして十分に力づけることに消極的であるように見える。

Kul Gautam
Kul Gautam

多くの啓発された世界市民――特にZ世代――が、大胆で人々を鼓舞する指導者を国連のトップに期待しているのに対し、主要国は、戦略的で強い「ジェネラル(総長)」よりも、従順な「セクレタリー(事務官)」を望んでいるのかもしれない。

グローバル・サウスの台頭や、BRICS+、G20といった枠組みの拡大により、特にソフトパワーの面で、国連創設から80年を経た現在、主導的立場にあった国々から力の重心は移りつつある。この変化する国際環境が、国連の強化と多国間主義の再活性化につながることが期待される。

気候変動、戦争と平和、パンデミック、拡大する不平等、そしてAI革命がもたらす深遠な機会とリスク――こうした地球規模の課題に対処する唯一の現実的な手段は、今なお多国間主義である。

いかなる国であれ、どれほど富み、どれほど強大であっても、これらの問題を単独で解決することはできない。世界はいま、より効果的な国連を切実に必要としている。
各国指導者が自国民の願いに耳を傾け、新たな事務総長を選び、その人物に十分な権限を与えて、現在そして未来の世代のために、より平和で繁栄した世界を築くことを期待したい。(原文へ)

クル・ガウタムは、元国連事務次長、ユニセフ副事務局長であり、著書に『Global Citizen from Gulmi: My Journey from the Hills of Nepal to the Halls of the United Nations』がある。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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【ウルグアイ・モンテビデオIPS=イネス・M・ポウサデラ】

良心を持たない機械が、人間の生死を分ける判断を一瞬で下している。これはディストピア小説ではない。現実である。ガザでは、アルゴリズムによって最大3万7000人に及ぶ「殺害対象リスト」が生成されてきた。

自律型兵器はウクライナでも使用されており、最近では中国の軍事パレードでも披露された。各国は、なお制御可能であると信じ、こうした兵器を自国の軍備に組み込む競争を加速させている。しかし、その前提が誤りであれば、結果は破滅的になりかねない。

人間が引き金を引く遠隔操作ドローンとは異なり、自律型兵器は自ら致死的判断を下す。一度起動されると、顔認識、熱探知、行動パターンなどのセンサーデータを処理し、事前に設定された標的プロファイルと一致すると自動的に発砲する。そこにためらいはなく、道徳的省察もなく、人命の価値を理解することもない存在である。

高速性と躊躇の欠如は、紛争を急速にエスカレートさせる危険性をはらんでいる。さらに、これらのシステムはパターン認識と統計的確率に基づいて作動するため、致命的な誤認を引き起こす可能性が極めて高い。

イスラエルによるガザ攻撃は、AIが大量殺戮に組み込まれた最初の兆候を示す事例となった。イスラエル軍は複数のアルゴリズム標的選定システムを投入している。ラベンダーや「ゴスペル」と呼ばれるシステムは、ハマス構成員と疑われる人物を特定し、人間の標的リストや爆撃対象のインフラを生成する。また「ウェアズ・ダディ(Where’s Daddy)」は、標的が家族と共に自宅にいる時間帯を追跡し、その瞬間を狙って殺害を実行するためのシステムである。

イスラエルの情報当局者は、約10%の誤認率が存在することを認めながらも、それを「織り込み済み」とし、アルゴリズムが特定した下級戦闘員1人につき民間人15〜20人、司令官の場合は100人以上の民間人死者を容認している。

暴力の非人格化は、責任の空白も生み出す。アルゴリズムが誤って人を殺した場合、誰が責任を負うのか。プログラマーか、指揮官か、使用を承認した政治家か。法的な曖昧さは、加害者を責任追及から守る構造として組み込まれている。生死の判断が機械に委ねられるとき、「責任」という概念そのものが、制度の中で溶解していく。

こうした懸念は、AIが市民空間や人権に与える影響をめぐる、より広範な警戒の流れの中に位置づけられる。技術が安価になるにつれ、AIは戦場にとどまらず、国境管理や警察活動にも用いられるようになっている。AI搭載の顔認識技術は監視能力を飛躍的に強化し、プライバシー権を侵食する。アルゴリズムに埋め込まれた偏見は、性別や人種などに基づく排除を再生産する。

技術が急速に発展する一方で、国際社会は10年以上にわたり自律型兵器を議論してきたにもかかわらず、拘束力ある規制を生み出せていない。2013年、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)を採択する国々が議論開始に合意して以来、進展は極めて遅い。2017年以降、致死的自律型兵器システムに関する政府専門家会合(GGE)が定期的に開催されているが、インド、イスラエル、ロシア、米国といった主要軍事大国が、全会一致を要する仕組みを利用して規制案を体系的に阻止してきた。

2025年9月には、42カ国が規制前進への用意を示す共同声明を発出し、長年の膠着状態を破る一歩となった。しかし、主要な反対国は依然として立場を崩していない。

United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

この行き詰まりを打破すべく、国連総会が主導権を握った。2023年12月、総会は自律型兵器に関する初の決議である決議78/241を採択し、152カ国が賛成した。続く2024年12月には、決議79/62により加盟国間協議が義務付けられ、2025年5月にニューヨークで開催された。協議では、倫理的ジレンマ、人権への影響、安全保障上の脅威、技術的リスクが検討された。国連事務総長、赤十字国際委員会、そして多数の市民社会組織は、軍事AIの急速な進展を踏まえ、2026年までに交渉を妥結させるよう求めている。

2012年以来、70カ国以上、270以上の市民社会団体からなる「キラーロボット反対キャンペーン(Campaign to Stop Killer Robots)」が、自律型兵器規制を求めるこの取り組みを主導してきた。継続的な提言と調査を通じて、同キャンペーンは現在120カ国以上が支持する「二層アプローチ」を打ち出している。これは、人間を直接標的とするシステム、有意義な人間の制御を欠くシステム、影響を十分に予測できないシステムといった最も危険な兵器を禁止すると同時に、それ以外の兵器に対しても厳格な規制を課すものである。

禁止されないシステムについても、人間の監督、予測可能性、明確な責任の所在を条件とし、標的の種類、使用時間や場所の制限、義務的な試験、人間が介入可能な監視体制など、厳しい制約の下でのみ使用が認められる。

期限を守るために残された時間は1年しかない。10年に及ぶ議論が生み出せなかった条約を、国際社会は今後1年で取りまとめなければならない。月日が過ぎるごとに、自律型兵器はより高度化し、より広く配備され、軍事ドクトリンに深く組み込まれていく。

ひとたび、機械が人の生死を決めるという発想が常態化すれば、規制を導入することははるかに困難になる。各国は、人間を直接標的とする、あるいは有意義な人間の制御を欠く自律型兵器システムを禁止し、違反に対する明確な責任追及の仕組みを定める条約を、早急に交渉を開始すべきである。技術を「発明しなかったこと」にすることはできない。しかし、制御することは、まだ可能である。(原文へ

イネス・M・ポウサデラは、CIVICUSの調査・分析部門責任者であり、「CIVICUS・レンズ」の共同ディレクター兼執筆者、「市民社会の現状報告書」の共著者である。また、ウルグアイのORT大学における比較政治学教授も務める。

INPS Japan/IPS

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「ホワイト・クリスマス」は気候変動対策を促す警鐘となるのか

【ワシントンDC IPS=フィリップ・ブノワ】

White Christmas (1947 Version)

ククリスマスが近づくたびに、米国をはじめ世界各地の電波を席巻する一曲がある。「ホワイト・クリスマス」だ。ギネス世界記録によれば、この曲は累計販売枚数が5,000万枚を超え、史上最も売れたシングル盤である。

多くの人が、あの象徴的な冒頭の歌詞を知っている。

「白いクリスマスを夢見ている

昔よく知っていた、あの頃のような」

Bing Crosby, Public Domain 
Bing Crosby, Public Domain 

この米国のホリデー・クラシックは、作曲家アーヴィング・バーリンが第二次世界大戦のさなか、1942年に書き、ビング・クロスビーが録音した。そこには、より素朴な過去への郷愁と、より良い未来への希望が込められていた。

しかし、時代背景が変われば、意味合いも変化する。今日、私たちは新たな、そして異なる種類の地球規模の脅威―深刻な気候変動―に直面している。世界経済フォーラムの最近の報告書によれば、気候変動は2050年までに、追加で1,450万人の死亡と12兆5,000億ドルの経済損失をもたらす可能性がある。

近い将来、「ホワイト・クリスマス」の歌詞で最も際立つのは、かつて12月下旬には当たり前だった「雪のある風景」への郷愁かもしれない。気候変動の影響により、多くの地域でその体験は今後ますます希少になると予測されている。

もちろん、2025年12月の米国は極渦による厳しい寒波に見舞われている。しかし、世界の他地域では数十年で最も暖かい12月が観測されており、温室効果ガス排出に起因する大気中二酸化炭素濃度の上昇を背景に、今年は観測史上2番目に暑い年となる見通しだ。こうした傾向は、気候そのものを変えつつある。

2026年、2027年、あるいは2028年に雪の積もるクリスマスが訪れることはあるかもしれない。しかし、現在の気候予測が示すように、中長期的にはそれはますます稀な出来事となる。深刻な気候変動を回避できなければ、雪のあるクリスマスは多くの地域で「記憶の中の出来事」へと後退していく可能性が高い。

SDGs No. 13
SDGs No. 13

こうした状況のもと、「ホワイト・クリスマス」は新たな意味を帯び始めている。本来は郷愁と希望を喚起するために書かれた歌詞は、いまや文字どおりに読まれるべきだ。「白いクリスマスを夢見ている。昔よく知っていた、あの頃のような」という一節は、深刻な気候変動がもたらす異常と破壊を防ぐため、温室効果ガス排出を削減する必要性を私たちに警告している。

過去のホリデー・クラシックである「ホワイト・クリスマス」は、今日、気候変動対策を求める警鐘として聴かれるべきである。(原文へ

フィリップ・ブノワは、気候変動を専門とする「グローバル・インフラストラクチャー・アドバイザリー・サービス2050」のマネージング・ディレクターである。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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ネパール内戦を「人びと」の目線で描く

モニカ・ラナ『The Paths We Choose』が照らす、戦争と日常の断絶

【カトマンズNepaki Times=サンギャ・ラムサル】

マオイスト戦争(ネパール内戦、1996年から2006年)の時代、現在の若い世代の多くは、その恐怖を体験として記憶していない。抗議行動、暴力、外出禁止令、政治的駆け引きが交錯した国家的危機の只中で、人びとはどのように暮らし、何を恐れ、何に希望を託していたのか。モニカ・ラナのデビュー小説『The Paths We Choose』は、20年前に終結した内戦を、指導者や武装勢力ではなく、名もなき市民の視点から描き出す。

本作は、歴史的事件の再構成や暴力の描写を主眼としない。焦点を当てるのは、戦争に巻き込まれた「普通の人びと」の人生である。紛争は、彼らの選択肢を狭め、ときに強制し、人生の進路そのものを変えていく。本作は、マオイスト側が「人民戦争」と呼んだ内戦を、人びと自身の目線で捉え直す試みと言える。

Map of Nepal
Map of Nepal

物語の中心に置かれるのは、姉妹のスムニマとリタだ。勇敢で機転の利く姉と、内気で従順な妹。二人は丘陵地帯の村で、笑いと冒険に満ちた幼少期を共有する。ディレ・ダイのマンゴーの木から実を盗み、ラト・マトへと駆け下りる日々。作家の言葉は軽やかで、穏やかな日常を丁寧にすくい取る。

しかし、その静けさは長くは続かない。村の生活は牧歌的に理想化されることなく、貧困や自給自足の厳しさ、都市との格差が現実として描かれる。その一方で、幸福が物質的な豊かさではなく、ささやかな日常の中にあったという事実が、対照的に浮かび上がる。

物語が進むにつれ、題名が意味を帯び始める。同じ家に育ち、同じ夢を抱いていた姉妹は、戦争によって異なる道へと引き裂かれる。一人は自らの選択によって、もう一人は生き延びるための必然に迫られて。

時代は2001年。内戦が激化する中で、二人の人生は決定的に分岐する。スムニマは「平等と自由」を掲げ、反政府勢力に加わる。一方、リタは、村が暴力的な襲撃によって「ゴーストタウン」と化した後、家族の切実な判断により、遠く離れた都市セト・バンガラへ送られ、上流階級の家で使用人として暮らすことになる。

物語には、王宮と農村、権力と貧困、イデオロギーと生存が交錯する。銀の皿で食事をする王族と、略奪を恐れて最後の穀物を隠す村人。その間に横たわる階級格差は、抽象論ではなく、日常のディテールとして描かれる。カースト、肌の色、ジェンダーによる差別もまた、人びとの人生を左右する現実として提示される。

激動の中にあっても、変わらぬものが一つある。離れ離れになった姉妹は、常に互いを思い、再会を願い続ける。いつか村でゲストハウスを開くという、かつて共有した夢。恐れずに生き、自由で、幸せで、共にあるという、ごく控えめな願いである。

Monica Rana's book
Monica Rana’s book

やがて姉妹は再会する。しかし、その先に待つ未来は、どちらにとっても想像していたものとは異なる。ラナは、運命として物語を美化することを拒み、戦争が最も重い代償を強いるのは常に無辜の市民であるという現実を静かに示す。人びとは敵対する双方の狭間に置かれ、飢え、強制移動、暴力に、何の責任もなく耐え続ける。

世界ではいまも戦争が続いている。本作は、戦争犯罪の凄惨さを直接告発するものではない。しかし、戦争が人びとの日常と人生をいかに深く損なうのかを静かに伝える点で、強い普遍性を持つ。そこには、パレスチナの詩人マフムード・ダルウィーシュの言葉が重なる。

「戦争は終わり、指導者たちは握手を交わす。老女は殉教した息子を待ち続け、子どもたちは英雄だった父を待ち続ける。誰が祖国を売ったのか、私は知らない。だが、誰が代償を支払ってきたのかは、この目で見てきた。」(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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