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「混迷する世界」で民主主義を守るために

【バンコクIPS=ゾフィーン・エブラヒム】

いま、世界は暗い時代を迎えている。市民社会の活動家たちは、暗殺、投獄、でっち上げの罪状、そして資金削減と闘いながら、格差、気候の混乱、権威主義の台頭に覆われた世界の中で民主主義を守ろうとしている。
しかし、バンコクのタマサート大学に満ちた空気は決して絶望的ではなかった。

1976年、民主化を求める学生たちが残虐に弾圧されたあの事件の舞台となったこの大学は、市民社会にとって「聖地」とも言える場所である。そこに再び、「混乱した世界(topsy-turvy world)」で民主主義を守ろうと呼びかける声が響いた。市民社会組織CIVICUSのマンディープ・ティワナ事務総長は、「権威主義が台頭するこの世界においても、市民空間を守る闘いは続いている」と語った。

アジア民主主義ネットワークのイチャル・スプリアディ事務総長は「この声を響かせよう。民主主義は共に守らねばならない」と訴え、「権威主義に立ち向かうのは、私たちの『連帯の力』だ」と強調した。

希望に満ちた会場の雰囲気の中でも、対話の多くは厳しい現実を見据えていた。アジア文化発展フォーラムおよび平和文化財団のゴトム・アリア博士は、「世界各地で市民の自由が制限されている」と警鐘を鳴らした。
彼は軍事費の膨張を引き合いに出し、世界の優先順位がいかに歪んでいるかを指摘した。「米国の国防総省は、むしろ『戦争省』と呼ぶべきだ」と述べ、米国の軍事予算が9680億ドルに上る一方、中国は300億ドルにすぎないと比較した。さらに「ウクライナ戦争への支出はわずか3年で10倍に増えた」と指摘し、「平和と戦争の現状はこの数字が物語っている」と沈痛な面持ちで語った。

Ichal Supriadi, Secretary General, Asian Democracy Network. Credit: Civicus

別のセッションでは、世界の権力構造への批判が展開された。フィリピンの元上院議員で平和活動家のウォルデン・ベロー氏は、トランプ政権下の米国が「自由市場」の仮面を完全に捨て、「あからさまな独占的覇権」に転じたと断じた。「アメリカの帝国主義は、もはや偽装をやめ、世界に自国の意のままに従うよう公然と要求している」と彼は述べた。

Dr. Gothom Arya of the Asian Cultural Forum on Development and the Peace and Culture Foundation. Credit: Civicus

パキスタンの物理学者で作家のペルヴェズ・フッドボーイ博士も、自国政府への怒りを隠さなかった。パキスタンが「精神異常者で、虚言癖があり、好戦的な人物」をノーベル平和賞に推薦したことを痛烈に批判し、「国民の同意もなく、米国の独裁者に鉱物資源を売り渡す権利など政府にはない」と糾弾した。

また彼は、核保有国であるインドとパキスタンが再び衝突の縁に立たされているとして、国際社会に和平交渉の再開を呼びかけた。

アリア博士は議論を人道危機に戻した。ガザでの民間人の犠牲、スーダンでの戦闘による飢餓の拡大、そして気候行動の遅れがもたらす格差の悪化—。「10年前に大国がパリ協定の履行を拒んだために、いま世界はその代償を払っている」と彼は警告した。

その現実をさらに痛切に訴えたのが、パレスチナの医師で政治家のムスタファ・バルグーティ博士だった。彼は、米国製の兵器を使ったイスラエルの攻撃により、ガザの人口の推定12%が殺され、すべての病院と大学が破壊され、約1万人の遺体が瓦礫の下に埋もれていると語った。

それでも、会議が示したのは市民社会の底力だった。
渡航禁止やビザの壁を越え、75以上の団体から約1000人がタマサート大学に集い、120以上のセッションで戦略と希望を共有した。その中には、アフガニスタンから唯一参加したとみられる団体「ハムラー」の代表もいた。

「世界がアフガニスタンから目を背けている今こそ、私たちが存在し続けていることを示すことが重要だ」と、ハムラー・イニシアチブ共同設立者でプログラム・ディレクターのティモール・シャラン氏はIPSの取材に対して語った。「アフガンの市民社会は消えていない。闘い続け、最前線を守っているのだ。」

彼によれば、同団体は秘密またはオンラインで学校を運営し、虐待を記録し、タリバン支配下で声を奪われた人々の発信を続けているという。「私たちの参加は、レジリエンス(回復力)の証であり、連帯への呼びかけでもある」と語った。

インドネシア出身でLGBTQ+の権利擁護者、リスカ・カロリナ氏(ASEAN SOGIE コーカス所属)はこう指摘した。「『見えること』が大切。でも、もっと強いのは『共に見えること』です。」「この会議は、ダリット(被差別民)、先住民族、フェミニスト、障害者、クィアといった、普段は交わることの少ない運動を一堂に集め、交差的な民主主義(intersectional democracy)の形をつくる特別な場でした」と語った。

彼女の活動は、東南アジアの政治・人権枠組み、とりわけ性的多様性の承認に慎重なASEAN制度内で、LGBTQIA+の権利を推進することに焦点を当てている。

「SOGIESC(性的指向、性自認・表現、身体的性の特徴)を“特殊な問題”ではなく、民主主義、統治、人権の中核として位置づけることが重要です。そのために政府、市民社会、地域機構のすべてと関わり、クィアの人々の参加、安全、尊厳を民主主義の尺度に含める必要があるのです。」

彼女はさらに、「ICSW(国際市民社会ウィーク)は、市民空間、民主主義、クィア解放が不可分であることを可視化する場となった」と述べ、「民主主義とは選挙のことだけではなく、誰が自由に生き、誰が法や偏見によって沈黙させられているか、ということでもある」と強調した。

一方、会場の外では、市民社会のリーダーたちが率直な対話の場を設け、縮小する行動空間の中で自らの役割を省みた。「対話の中では、厳しくも必要な問いが投げかけられた」とある参加者は言う。

「私たちは直面する課題の深刻さを本当に理解しているか? 対応は十分か? 反権利勢力が私たちの価値観を尊重することを期待していないか? 受け身になっていないか? 正義のために命を懸ける人々の“同盟者”なのか、“共犯者”なのか?」

しかし、一つだけ全員が共有した確信があった。―それは、市民社会は分断されず、団結して民主主義を守らなければならない、ということである。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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世界の核保有国による核実験の後遺症は、膨大な数に及ぶ被害者に壊滅的な影響を与え続けている。

【国連IPS=タリフ・ディーン】

U.S. nuclear weapon test Ivy Mike, 31 Oct 1952, on Enewetak Atoll in the Pacific, the first test of a thermonuclear weapon (hydrogen bomb). Source: Wikipedia.
U.S. nuclear weapon test Ivy Mike, 31 Oct 1952, on Enewetak Atoll in the Pacific, the first test of a thermonuclear weapon (hydrogen bomb). Source: Wikipedia.

国連によれば、核実験の歴史は1945年7月16日、米国がニューメキシコ州アラモゴード砂漠の試験場で初の原子爆弾を爆発させたことに始まる。

その後、1945年から包括的核実験禁止条約(CTBT)が署名開放された1996年までの半世紀の間に、世界各地で2000回以上の核実験が行われた。

  • 米国:1945~1992年に1032回
  • ソ連:1949~1990年に715回
  • 英国:1952~1991年に45回
  • フランス:1960~1996年に210回
  • 中国:1964~1996年に45回
  • インド:1974年に1回

1996年9月のCTBT署名開放以降にも10回の核実験が実施された。

  • インド:1998年に2回
  • パキスタン:1998年に2回
  • 北朝鮮:2006年、2009年、2013年、2016年、2017年に各1回(ただし2006年は2回)
Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

そして10月30日、ドナルド・トランプ大統領は中国の習近平国家主席との会談を前に、ソーシャルメディア上で「30年以上ぶりに核兵器実験を再開する」と表明した。しかも今回は「ロシアと中国と対等な立場で」と語った。

米国の核実験場とその被害

主な米国の核実験場は、ネバダ核実験場(現ネバダ国家安全保障サイト)、マーシャル諸島およびキリスィマスィ島(クリスマス島)周辺の太平洋実験場であった。そのほか、ニューメキシコ、コロラド、アラスカ、ミシシッピ各州でも実験が行われた。中でもネバダ核実験場は最も活発で、1951年から1992年までに1000回以上の実験が実施された。

9月26日の「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」における会合で、アントニオ・グテーレス国連事務総長は次のように警告した。「核実験の脅威が再び現れ、核の威嚇は過去数十年で最も激しくなっている。」

中国・ロプノール実験場とウイグル人の被害

10月29日付のニューヨーク・タイムズ紙は「中国、原子力開発で世界の先頭に立とうと競争」と題した記事を掲載し、1964~1996年にかけて中国が実施した45回の核実験を振り返った。

On October 16, 1964, the People’s Republic of China conducted its first nuclear test, making it the fifth nuclear-armed state after the USA, the USSR, Britain and France. It was a uranium-235 implosion fission device, yield of 22 kilotons. Project 596 1964 – Lop Nur, China. Credit: Atomic archive.com.

報告によれば、中国の核実験被害者、特に新疆ウイグル自治区のウイグル人は、放射線被曝による健康被害をほとんど認知されず、政府によって声を封じられている。「中国政府は、核実験計画が地元住民にもたらした壊滅的影響に関する情報を意図的に抑圧している。」と報告は指摘している。

人工知能による分析結果によれば、中国の核実験には大気圏内と地下の両方が含まれ、そのうち22回が大気圏内で行われ、地域住民は深刻な放射能汚染にさらされた。政府は「不毛で無人の地域」と説明したが、実際にはウイグル人の遊牧民や農民が何世紀にもわたって暮らしていた。独立研究者や証言によると、新疆では中国全土と比べ、がん、白血病、奇形、退行性疾患の発生率が異常に高いことが確認されている。

「被曝者」の連帯と国際的責任

Alice Slater
Alice Slater

NGO「World BEYOND War」および「Global Network Against Weapons and Nuclear Power in Space」の理事で、核時代平和財団の国連NGO代表も務めるアリス・スレーター氏はIPSの取材に対して、
「中国がロプノールで風下の住民を不当に扱ってきたことは確かだが、それはネバダ核実験場、カザフスタンのセミパラチンスク核実験場マーシャル諸島での被曝者への扱いと比べて、より悪質と言えるだろうか。」と問いかけた。

「この破滅的な時代に、中国から学べることは何か。中国とロシアは、宇宙空間での兵器配備禁止と宇宙戦争防止のための条約交渉を共同提案し、宇宙に兵器を最初に配備しない、また使用しないと誓約している。一方、米露は依然として核弾頭を発射即応態勢のミサイルに搭載しているが、中国は弾頭をミサイルから分離して保管している。」と語った。

スレーター氏はさらに、「核兵器禁止条約(TPNW)は、50か国が批准した時点で発効した。現在ではさらに多くの国が署名・批准しているが、核保有国も、米国の核の傘の下にいる同盟国も、いずれも署名していない。」と指摘した。

CTBTの限界と課題

Tariq Rauf
Tariq Rauf

国際原子力機関(IAEA)元検証・安全保障政策部長のタリク・ラウフ氏は、IPSの取材に対して、「包括的核実験禁止条約(CTBT)は不完全な条約なのではないか?」と語った。

ラウフ氏によれば、当初の目標は核拡散防止と核軍縮を真に包括的に実現することだったが、条約には実質的な軍縮への連関が欠けている。

「交渉過程で、核実験禁止の目的は核兵器の全面廃絶という最終目標から切り離されていった。最終文書では、前文での軍縮への期待と実際の条文との関連を非核兵器国は辛うじて維持したにすぎない。」

さらに、CTBTは非爆発的な実験を容認しており、今日の技術進歩により、それが新たな核兵器の設計・改良に利用される可能性がある。

中国、ロシア、米国(北朝鮮、インド、パキスタンも?)では、核実験場が依然として稼働可能な状態にある。一方、フランスのみが自国の実験場を閉鎖した。

また、ラウフ氏は、「中国、エジプト、イラン、ロシア、米国はいまだ批准しておらず、NPT会合でも圧力はかけられていない。非署名国の北朝鮮、インド、イスラエル、パキスタンも同様である。CTBTが発効する見通しはほとんどないが、核実験モラトリアムが続くことを願うばかりだ。」と語った。

また、「カザフスタンとマーシャル諸島は、核実験被害者支援のための国際信託基金の設立をTPNW第6条に基づき主導しているが、CTBTには被害者支援の条項が存在しない。」と指摘した。

CTBTの意義とトランプ発言への反応

国連によれば、包括的核実験禁止条約は地表、大気圏、水中、地下を問わず、あらゆる場所での核実験を禁止している。この条約は核兵器の開発と高度化を阻止する意義を持ち、既存の核兵器保有国による新型兵器の開発を困難にし、非核保有国が新たに核兵器を開発することをほぼ不可能にしている。さらに、人間と環境への被害防止にもつながる。

一方、トランプ氏の発言を受け、米上院軍事委員会筆頭民主党議員のジャック・リード上院議員(ロードアイランド州)は強く批判した。

The western front of the United States Capitol. The Neoclassical style building is located in Washington, D.C., on top of Capitol Hill at the east end of the National Mall. The Capitol was designated a National Historic Landmark in 1960.
The western front of the United States Capitol. The Neoclassical style building is located in Washington, D.C., on top of Capitol Hill at the east end of the National Mall. The Capitol was designated a National Historic Landmark in 1960.

「トランプ大統領は再び核政策を誤解している。今回は国防総省に核実験再開を命じたようだが、核兵器複合体と試験活動を管理するのは国防総省ではなくエネルギー省である。」

リード議員はさらに、「1990年代以来維持されてきた核爆発実験モラトリアムを破れば、ロシアや中国も実験再開に踏み切るだろう。それは戦略的に無謀である。さらに、米国の実験再開はパキスタン、インド、北朝鮮に自国の実験拡大を正当化させ、すでに脆弱な核不拡散体制を一層不安定化させる。米国が得る利益は極めて小さく、数十年かけて築いてきた不拡散の成果を失うことになる。」と警告した。(原文へ

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INPS Japan

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ローマのコロッセオで宗教指導者が平和を訴える―戦争に引き裂かれた世界に向けた連帯の祈り

Colosseo Credit: Katsuhiro Asagiri, INPS Japan
Colosseo Credit: Kevin Lin, INPS Japan

ローマ/東京IPS=浅霧勝浩】

かつて帝国の暴力の象徴であった古代ローマのコロッセオ。その荘厳な遺跡の下で、世界各地の宗教指導者が一堂に会し、戦争と分断が続く現代に「平和を取り戻す」ための共同の祈りを捧げた。

「平和への果敢な挑戦(Dare Peace)」と題されたこの国際会議は、聖エジディオ共同体が主催する年次フォーラム「平和のための宗教と文化の対話」。3日間にわたり、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンドゥー教など多様な信仰の代表が、対話と祈りを通して平和の道を探った。|英語中国語スペイン語

10月28日の閉会式で演説した教皇レオ十四世は、古代の石壁に響く声でこう訴えた。

「戦争は決して聖なるものではありません。聖なるのは平和です。それは神が望まれる道なのです。」

道徳的勇気への呼びかけ

コンスタンティヌスの凱旋門の下で、教皇レオ十四世は「権力の傲慢」と呼んだものに立ち向かうよう、各国政府と信徒の双方に呼びかけた。

「世界は平和を渇望しています。人々が戦争を人類史の“常態”とみなすようになってはなりません。もう十分です―これは貧しい人々と大地の叫びなのです。」

Hirotsugu Terasaki, vice president of Soka Gakkai with Pope Leo XIV. Credit: Vatican News
Hirotsugu Terasaki, vice president of Soka Gakkai with Pope Leo XIV. Credit: Vatican News

数千人規模の群衆の中には、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教の代表者が含まれていた。その中には、長年にわたり平和運動を続けてきた仏教団体、創価学会の寺崎広嗣副会長の姿もあった。

古代の円形闘技場の周囲に蝋燭の火が灯される中、彼らは静かに並んで立ち尽くした。石壁に揺れる小さな光は、和解への共通の祈りを象徴していた。

信仰と責任

教皇の演説は、信仰と政治的責任の間に明確な一線を引くものだった。

「平和はあらゆる政治において最優先でなければなりません。平和を求めず、緊張や紛争をあおった者たちは、その日々と年月を神の前で問われるでしょう。」

その言葉は、ウクライナとガザで戦闘が続く中で発せられ、意図的な緊張感を帯びていた。教皇レオ十四世のもとでのバチカンは、世界的な危機における政治的停滞に対する道徳的な対抗軸としての立場を一層明確にしており、平和を抽象的な理想ではなく人類の義務として語っている。

Pope John Paul II Credit: Gregorini Demetrio, CC BY-SA 3.0
Pope John Paul II Credit: Gregorini Demetrio, CC BY-SA 3.0

「アッシジの精神」を継ぐ対話

今年の会議は、教皇ヨハネ・パウロ二世が1986年にアッシジで初めて宗教間の平和集会を開いてから、ほぼ40年という節目を迎えた。それ以来、聖エジディオ共同体は「信仰間の対話こそ、政治的分断を和らげる力となり得る」との信念を持ち続けてきた。

同共同体のマルコ・インパリアッツォ代表は

「戦争の言葉が支配する世界で、私たちはあえて平和を語る勇気を持ちました」と、語った。「対話の道を閉ざすことは狂気です。教皇フランシスコも言われたように、世界は対話なしでは窒息してしまうのです。」

閉会式では、宗教指導者たちが「平和の燭台」に火をともした後、イタリアのトランペット奏者パオロ・フレズが静寂の中に哀切な旋律を響かせた。

生命の尊厳を問う分科会

同日午前、創価学会はローマ市内のオーストリア文化フォーラムで、分科会22「正義は人を殺さない―死刑制度の廃止に向けて」に参加した。

ピサ大学のエンツァ・ペッレッキア教授は、創価学会を代表して登壇し、この運動による死刑廃止への取り組みについて、創立者である池田大作会長が英国の歴史家アーノルド・トインビー博士との対談で語った言葉を通して、次のように語った。

生命の尊さは罪や功績によって評価されるものではなく、平等である。故に、正義の名のもとであっても生命を奪う権利は誰にもない。死刑を容認するのは、生命の価値に差をつける制度化された暴力の一形態であり、池田会長がそれを「現代における生命軽視の風潮」の現れであると述べている―と。

Professor Enza Pellecchia of the University of Pisa, representing Soka Gakkai, delivering her speech during the Forum titled “Justice Does Not Kill: Abolishing the Death Penalty,” held at the Austrian Cultural Forum. Credit: Seikyo Shimbun
Professor Enza Pellecchia of the University of Pisa, representing Soka Gakkai, delivering her speech during the Forum titled “Justice Does Not Kill: Abolishing the Death Penalty,” held at the Austrian Cultural Forum. Credit: Seikyo Shimbun

池田会長の人間主義的思想は、教皇レオ十四世の「死刑や暴力を容認しながら“プロライフ”を名乗ることはできない。」という最近の発言と深く通じ合うものであり、両者はいずれも「一部の命は犠牲にしてもよい」とする同じ道徳的誤りに立ち向かっているのだと語った。

沈黙を拒む宗教

何十年にもわたり、コロッセオは平和を象徴する集いの場として使われてきた。しかし、参加者たちは今年の式典にはこれまでになく切迫した緊張感があったと語る。欧州と中東で続く戦争、数百万人に及ぶ人々の避難、そして高まる権威主義―そうした現実が、「道徳」という言葉に新たな重みを与えていた。

「平和は人間の心の変革から始まります。」と寺崎副会長は語った。「宗教間の協力は象徴ではなく、歴史を動かす方法なのです。」

次世代へ託された平和のアピール

夜の帳が下りるころ、トランペット奏者のパオロ・フレズが哀切な独奏を奏でた。そのあと、子どもたちが壇上に進み出て、外交官や政府関係者に「平和のアピール」を手渡した。―それは、次の世代が、いま大人たちが下す選択を受け継ぐことになるという事実を静かに思い起こさせる場面だった。

教皇の最後の言葉は短く、低く穏やかだった。

「神は戦争のない世界を望んでおられます。神はこの悪から私たちを解き放ってくださるでしょう。」

群衆が去った後も、蝋燭の光はローマ帝国の遺跡を照らし続けた。古代の石壁を背景に揺れる小さな灯が、なお戦争を続ける世界への静かな抵抗と希望の象徴となった。(原文へ

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

INPS Japan

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Z世代抗議の余波で問われる「誰がネパール人なのか」

【カトマンズINPS Japan/ Nepali TImes=シュリスティ・カルキ】

先月のZ世代による抗議デモの後、新首相スシラ・カルキが最初の閣僚を選出した際、若者団体は女性、若者、そして多様な民族・社会文化的背景を持つ人々を含め、国の多様性を反映するよう求めた。

カルキが次の閣僚候補を指名するまでにはさらに数週間を要した。そこで保健相として選ばれたのが官僚であり公衆衛生の専門家でもあるサンギータ・ミシュラだった。だが発表直後、ミシュラが自身を「ネパール人だがインド出身」と語った過去の映像が拡散された。

彼女の言葉は事実を述べたものだった。ミシュラは帰化ネパール市民である。しかし、超国家主義的なネット空間では激しい非難が巻き起こった。政府は汚職防止委員会(CIAA)による調査を理由に、彼女の閣僚名簿からの削除を発表した。

就任から1か月が経っても内閣が完成しない中、カルキ首相は若者世代の登用を検討していた。メディアのリークによって候補者の名前が浮上したが、その中の一人がフムラ県リミ渓谷出身の気候活動家で映画監督のタシ・ラゾムだった。

するとたちまち、彼女に対して差別的で排外主義的、さらには女性蔑視的な投稿がソーシャルメディア上に溢れた。「分離主義運動を支持している」「外国勢力のエージェントだ」「市民権が疑わしい」「ネパール人らしく見えない、話し方が違う」——そんな根拠のない中傷が飛び交った。

ヒンドゥー王政の復活を主張する政治家ギャネンドラ・シャヒも、彼女の出自に関して偏見に満ちた発言を行い、炎上に拍車をかけた。

一方、国家人権委員会の元委員モフナ・アンサリはSNSで次のように訴えた。
「タシ・ラゾムさんは私たちと同じネパール人だ。自国民のアイデンティティを疑うことこそが、私たち社会の最も醜い側面であり最大の欠点だ。真の愛国心とは多様性を受け入れること。偽りのナショナリズムは終わらなければならない。」

イスラム教徒の人権活動家でもあるアンサリ自身も、ネット上でイスラモフォビア的な誹謗中傷を繰り返し受けてきた人物だ。

これに対し、「先住民Z世代コレクティブ」はラゾムのネパール市民権証明書を公開し、SNSや一部メディアで拡散された虚偽情報を打ち消した。

「ネパール人」とは誰か

ネパール人とは何を意味するのか。どのように見え、どのように話す人を「ネパール人」と呼ぶのか。

ラゾムは『カンティプル』紙のインタビューでこう語った。
「私の名前がタシ・パウデルやタシ・タパ、バッタライ、ギミレだったら、こんなことは起きなかったでしょう。彼らは私を“ネパール人らしく見えない”“カースのように話さない”と言いました。なぜならネパール語は私の母語ではないからです。」

これは、ネパール社会が抱える根深い差別意識の象徴である。先住民族であるネパール人たちが、見た目や言葉、出身地や信仰が「標準的なネパール像」と違うというだけで、市民である証明を求められる現実があるのだ。

私たちは、アメリカなどで公職に就いているネパール生まれの帰化市民の成功を誇らしげに称賛する一方で、ネパールに帰化した外国出身者や、国内の少数・被排除集団出身者に対しては、同じ敬意を示そうとしない。彼らが国家のために働くことを当然と考えず、特に女性に対しては二重の偏見が向けられる。

デマと排外主義の連鎖

さらに、黒いTシャツに「TOB」と印字されたバイク集団の映像が拡散し、それが「Tibetan Original Blood(チベット純血)」を意味し、フリーチベット運動と関係しているとする憶測が飛び交った。

その後、こうした噂はデマと憎悪を伴って拡大し、チベット系ネパール人やチベット共同体への排外主義的発言や暴力の呼びかけにまで発展した。

多文化国家の岐路に立つネパール

9月の抗議デモ後、多くの国民は政治と官僚機構から旧来型の政治家が一掃されることを期待していた。だが、その前に私たちはまず、自らの社会に根づく偏見と差別を直視しなければならない。

The Nepali Times
The Nepali Times

さもなければ、ネパールの多文化主義は憲法上の理念にすぎず、政治的なポーズにとどまってしまう。

現政権も将来の政権も、完全に「中立」であることなどありえない。誰もが主観や信念、何らかの運動・思想への関与を持っている。だが、その批判が特定の社会的マイノリティや活動家に偏って向けられることは不当である。

政治に関わるには「無色」でなければならないという考えは幻想だ。これからのネパール社会を再構築するためには、民族的・文化的多様性だけでなく、思想や信条の多様性も受け入れ、祝福する必要がある。

同胞に対して陰謀論や差別的な言葉を用い、民族中心主義や排外主義に走ることは、ネパールという国家そのものへの裏切りである。

ネパールの強さは、その多様性にこそある。(原文へ

INPS Japan/ Nepali Times

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外国エージェント法―市民社会を抑圧する新たな権威主義の武器

【ウルグアイIPS=イネス・M・ポウサデラ】

2023年、ジョージア(グルジア)の首都トビリシの街頭を数千人の市民が埋め尽くした。政府が提案した「外国エージェント法」に抗議するためだった。市民たちは、その法案の本質を理解していた。これは透明性や説明責任のための措置ではなく、異論を封じるためのものだったのだ。政府は一度は撤回を余儀なくされたものの、2024年に名称を変えて再提出し、より大規模な抗議にもかかわらず可決にこぎつけた。この法律によって、ジョージアの欧州連合(EU)加盟への希望は事実上凍結されている。

ジョージアの抑圧的な法律は、CIVICUSの新たな報告書『市民社会の生命線を断つ:外国エージェント法の世界的拡散』が明らかにした、憂慮すべき世界的潮流の一例にすぎない。中米から中央アジア、アフリカからバルカン半島に至るまで、各国政府が市民社会団体や独立メディアを「外国勢力の手先」として扱う立法を相次いで採択している。外国エージェント法は驚異的な速度で拡散しており、市民社会への脅威が高まっている。2020年以降、エルサルバドル、ジョージア、キルギス、ニカラグア、ジンバブエがこの種の法律を制定し、他にも多くの国で同様の法案が検討されている。

ロシアが築いた弾圧モデル
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

この抑圧の設計図を初めて確立したのはロシアである。2012年、ウラジーミル・プーチン政権は、外国から資金援助を受け、広義の「政治活動」に関与する市民団体に対し、「外国エージェント」として登録することを義務づける法律を導入した。これは「外国スパイ」という烙印を受け入れるか、活動を停止するかという二者択一を突きつけるものだった。ロシア政府はその後も弾圧を拡大し、2016年までに少なくとも30団体が登録を拒否して解散を選んだ。欧州人権裁判所はこの法律を市民的自由の重大な侵害として断罪したが、それでも他国はこれを模倣することをやめなかった。

「透明性」という偽りの名目

これらの法律が「透明性」を促進するという主張は、根本的に欺瞞的である。国際的支援を受ける市民団体は、すでに厳格な説明責任を課されている。一方で、政府自体が外国資金を多額に受け取っても、同等の開示義務を負うことはない。この二重基準こそ、これらの法律の真の目的が透明性ではなく「統制」にあることを示している。実際には、人権擁護、選挙監視、民主主義の強化など、あらゆる公益活動が「政治的」とみなされ得るよう恣意的に定義されている。政府は意図的に定義を曖昧かつ広範にしておくことで、気に入らない組織を狙い撃ちできるようにしているのだ。

市民社会壊滅の現実―ニカラグアの例

その影響は壊滅的である。ニカラグアは、外国エージェント法を市民社会解体の道具として用いた最も極端な事例である。ダニエル・オルテガ大統領は、この法律を含む包括的な弾圧政策によって、約5,600の団体―かつて国内で活動していた組織の約8割―を閉鎖した。治安部隊は停止処分を受けた団体を急襲し、事務所や資産を押収。学者、活動家、ジャーナリストら数千人が国外に追放された。結果、国家が統制する団体だけが残り、独立した声は消え、市民空間は完全に閉ざされた。

キルギスでは、2024年3月に成立した外国エージェント法が即座に萎縮効果をもたらした。多くの団体が活動を縮小し、一部は商業団体として再登録し、また一部は罰則を避けるため自発的に解散した。オープン・ソサエティ財団は長年続けてきた助成業務を停止した。エルサルバドルでは、ナジブ・ブケレ政権が外国助成金に30%の課税を課し、レッテル貼りと登録義務を課すことで、市民団体を閉鎖に追い込んだ。

恐怖と沈黙の制度化

これらの法律は、煩雑な登録制度や過剰な報告義務、頻繁な監査を課すことで、特に小規模団体を閉鎖に追い込む。非遵守には重い罰金、免許剥奪、刑事罰が科されるため、恐怖と自己検閲の空気が蔓延し、多くの団体が自ら解散を選ぶ。さらに、外国資金を制限しながら国内資金源の拡大策を取らないため、団体は国家承認に依存せざるを得なくなり、自立性を失う。加えて「外国の手先」という烙印が押されることで市民の信頼を失い、さらなる弾圧への抵抗力を奪われる。

抵抗と希望の光

それでも希望はある。市民社会は驚異的な回復力を示してきた。街頭行動や司法闘争が法案を阻止したり、撤回に追い込んだりする例もある。2014年にウクライナが同法を撤回したのは、まさに大規模な抗議行動が政治の流れを変えた結果だった。エチオピアは2009年の制限法を2019年に改正し、ハンガリーは2017年の法律を欧州司法裁判所の2020年判決を受け撤廃した。さらに、2025年5月にはボスニア・ヘルツェゴビナ憲法裁判所が、外国エージェント法を結社の自由の侵害として停止した。

国際法上の圧力も重要な役割を果たしている。欧州人権裁判所によるロシア法への断罪は、他国の法的闘争に先例を与えた。しかし、権威主義政権は戦略を変え、新たな制限法を次々と導入している。ハンガリーの2023年「主権保護法」はその典型である。

UN Photo
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危機の加速と求められる連帯

2020年以降、この傾向の加速は、世界的な民主主義の後退と軌を一にしている。権威主義的指導者たちは、「外国干渉への懸念」という正当な問題意識を利用し、自らの抑圧を正当化する法的道具へと転化させている。危険は現在の導入国にとどまらない。ブルガリア議会は外国エージェント法案を5度否決したが、極右政党が再提出を続けている。トルコの専制的政府も、2024年に反発を受けて法案を棚上げしたものの、数か月後に修正版を再提出した。

外国エージェント法が「常態化」する前に、国際的な連帯と協調的抵抗が不可欠である。国際裁判所は、緊急性の高い市民社会への脅威に迅速に対応できる仕組みを整える必要がある。民主主義国家は、同様のスティグマ的立法の採用を避け、外国エージェント法を制定した当局者に標的制裁を科し、亡命を余儀なくされた活動家に安全な避難先を提供しなければならない。資金提供者は緊急支援の迅速な仕組みを整え、市民社会は国際的な連帯ネットワークを強化し、抵抗戦略と法の真意を共有する必要がある。

さもなければ、私たちは独立した声が体系的に消されていくのを、ただ傍観することになるだろう。市民社会が自由に存在し、活動する権利は、守られなければならない。(原文へ

イネス・M・ポウサデラ
CIVICUSリサーチ・分析部長、同団体「CIVICUSレンズ」共同ディレクター兼ライター、『市民社会の現状報告書』共同執筆者。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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グリーン・マイニングの危険性

【マルメIPS=ステファニー・ダウレン】

現在の米国政権による逆行的な抵抗にもかかわらず、世界はグリーンエネルギーの未来へと確実に歩みを進めている。各国政府は化石燃料の段階的廃止を誓い、企業は電気自動車を推進し、金融機関は太陽光や風力、蓄電池分野に数十億ドルを投じている。ついに、化石燃料からクリーンエネルギーへの不可避な転換が現実のものとなりつつある。

しかし、華々しい見出しの裏には、より暗く、不都合な現実が潜んでいる。クリーンエネルギー技術に不可欠とされる「移行期鉱物(トランジション・ミネラル)」の採掘競争が、新たな破壊の波を引き起こしているのだ。

このまま進めば、貧困、不平等、搾取、暴力、環境破壊を固定化し、私たちをさらなる崩壊へと導くだろう。今日の地球危機を生み出した「コスト無視の採掘」モデルに、問題解決を託すこと自体が誤りなのである。

フォレスト&ファイナンス連合の新しい報告書によると、銀行や投資家は環境汚染や人権侵害を繰り返す企業を資金提供で報いている。

2016~2024年に提供された4930億ドルの融資・引受金のうち半分以上、そして保有されている2890億ドルの債券・株式の80%以上が、わずか10社のトランジション・ミネラル採掘企業に集中していた。恩恵を受けた企業には、グレンコア、ヴァーレ、リオ・ティントなどが名を連ねる。

擁護派は「再生可能エネルギーにはトランジション・ミネラルが欠かせない」と主張する。だが、需要削減やリサイクル、再利用よりも採掘拡大を優先した結果、新たな鉱山開発が急速に進んでいる。「グリーン」や「クリーン」と称されるエネルギーの物語は、現実の代償を覆い隠し、化石燃料時代の搾取的モデルを再び正当化しているのだ。

鉱山開発がもたらす被害は深刻だ。ブラジルではヴァーレ社による2度のダム崩壊で数百人が犠牲となり、有害廃棄物が流出して環境を破壊した。にもかかわらず、2019年の2度目の事故後も銀行は同社への融資を拡大した。

インドネシアではハリタ・グループのニッケル精錬施設が石炭火力で稼働し、温室効果ガス排出の増加と公衆衛生の悪化を招いている。オビ島の地域住民は、発がん性廃棄物による飲料水汚染に苦しんでいる。
最近の調査では、ハリタ社の幹部がこの汚染を10年以上にわたり把握しながら隠蔽していたことが判明した。金融機関はその間も同社の事業拡張と2023年の株式上場を支援していた。

これらは単なる不祥事ではなく、企業が責任を免れ、金融機関が何度も利益を命より優先する仕組みの表れである。実際、トランジション・ミネラル鉱山の約70%が先住民または地域共同体の土地と重なり、70%超がすでに気候ストレスにさらされた生物多様性の高い地域に位置している。

一方、裕福な国々は高級市場向け電気自動車の生産のためにより多くの鉱物を求めているが、アフリカでは6億人、アジアでは1億5000万人がいまだに電力を利用できないままである。

これが「公正なエネルギー移行」の設計図とは言えない。むしろそれは、新たな搾取のフロンティアであり、富裕層のテスラを走らせる一方で、労働者は搾取され、河川は汚染され、地域社会は追われている。気候危機への対処どころか、破壊を容認する現状を改めるために、いまこそ抜本的な改革が求められている。

私たちは、鉱物の調達、資金の流れ、統治のあり方そのものを変えなければならない。
銀行や投資家は、先住民の自由で事前かつ十分な合意(FPIC)を尊重し、人権擁護者を保護し、被害を受けた地域社会への救済を確保すべきである。

また、森林破壊ゼロの拘束力ある基準、有害廃棄物の厳格な管理、深海採掘など高リスク行為の禁止を通じて自然を守らなければならない。さらに、資金提供の透明性を高め、企業グループ全体に環境・社会・ガバナンス(ESG)方針を徹底させ、苦情処理メカニズムの実効性を確保すべきである。

気候目標に沿った金融を実現するためには、石炭火力精錬所への依存を終わらせ、有害な慣行を段階的に廃止し、鉱山企業に実行可能な移行計画を求めなければならない。

政府もまた、鉱物需要の公平な削減、富裕国での過剰消費の抑制、そしていまだ電力から取り残された何十億人へのアクセス確保を可能にする強力な規制を打ち出すべきである。国連が策定中の「重要鉱物に関する原則」など国際的枠組みも、より強化され、実施されなければならない。

私たちはまだ「公正なエネルギー移行」を選ぶことができる。人々と生態系への敬意に基づき、公平なクリーン電力へのアクセスを実現する移行である。公正な移行には、公正な金融が不可欠だ。資本は搾取ではなく、公平性、説明責任、持続可能性へと流れなければならない。そのような転換こそが、排出量の削減にとどまらず、今日の危機を生み出した搾取的モデルからの決別を意味する。

これが「公正なエネルギー移行」の設計図とは言えない。むしろそれは、新たな搾取のフロンティアであり、富裕層のテスラを走らせるために、労働者は搾取され、河川は汚染され、地域社会は追われている。気候危機への対処どころか、破壊を容認する現状を正すために、いまこそ抜本的な改革が求められている。(原文へ)

ステファニー・ダウレン氏は、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(フォレスト&ファイナンス連合の一員)の森林キャンペーナー。

INPS Japan

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ウズベキスタンにおける貧困削減と新たな社会保護モデルの形成

【INPS Japan/ ロンドンポスト】

2017年以降、シャフカト・ミルジヨーエフ大統領のもとで、ウズベキスタンは経済の自由化と社会福祉の強化を両立させる大胆な改革に踏み出した。これらの改革は2023年の新憲法に盛り込まれ、同国を「社会国家」と明確に位置づけたうえで、雇用の確保と貧困削減を国家の責務として定めている。さらに、国家戦略「ウズベキスタン–2030」では、2026年までに貧困率を半減させるという目標が掲げられた。こうした政策転換によって、経済成長と包摂的社会保護を両輪とする新たな国家モデルが形づくられつつある。

社会保護機構の整備と成果

2023年までに新設された国家社会保護庁(NASP)と地域コミュニティの「インソン(Inson)」サービスセンターは、約230万世帯の困窮家庭を支援しており、2017年比で約4倍に増加した。年金や障害者給付などの基礎的支援も拡充され、実質的に約1.5倍へと引き上げられている。

地域ごとのインソンセンターは「ワンストップ型」窓口として機能し、住民が社会給付や行政サービスを申請する際の支援を提供している。個々のケースに応じた支援と情報提供を行うことで、従来の縦割り型行政から、利用者中心の統合的支援体制へと転換した。また、障害者や高齢者を対象にした「支援を必要とする人々の全国登録簿」が創設され、2023年時点で約1万7,800件のケースが登録されている。各ケースは四半期ごとに見直され、必要に応じて支援内容が調整される。こうしたデジタルツールと組織改革により、ウズベキスタンは従来の断片的な福祉制度から脱却し、近代的かつ統合的な社会保護システムを構築した。

国際支援と制度拡充

世界銀行はこの改革を積極的に支援しており、2018〜2021年に約21億ドルの政策支援融資を実施した。2024年半ばには、脆弱層の社会ケアを改善するための「INSONプロジェクト」に1億ドルの追加融資を承認し、50以上の地域社会型福祉センターを新設、約5万人(高齢者、障害者、児童)へのサービス提供を目指している。

2024年11月1日に開始された「貧困から繁栄へ(From Poverty to Prosperity)」プログラムの下で、家庭は以下7分野の支援を受けている。

Map of Uzbekistan

1.安定した雇用と収入増加の確保
2.教育および職業訓練へのアクセス
3.国家保証による医療サービスへのアクセス
4.社会サービスへのアクセス
5.住宅環境の改善
6.国家によるマハッラ(地域共同体)インフラ整備
7.行政担当者との直接対話と関与

これまでに60万世帯以上が130万件の雇用・収入支援型サービスを受け、さらに220万件以上の医療サービスを享受しており、労働市場への持続的な参加を促している。

社会ケアサービスの拡充と民間活用

継続的な介護が必要な個人を対象に、民間事業者による新たなサービス提供モデルが導入された。これには家事支援、訪問介護、医療・社会リハビリテーション、個別介助などが含まれる。現在、全介護対象者の約76%にあたる1万3,800人が民間セクターのサービスを利用している。

大統領令は、2030年までに年間300万人以上が社会サービスを受ける体制を整備し、非政府セクターの提供比率を30%にまで高めることを目指している。これは、社会的連帯経済の理念に沿った取り組みである。

国家社会保護庁による改革の三原則
1.アクセシビリティ(Accessibility)

「貧困から繁栄へ」プログラムの一環として「全国貧困家庭登録簿」が設立され、家庭の識別と登録はマハッラ(地域共同体)レベルで行われている。現在、約66万7,000世帯(約280万人)が登録されており、各家庭の生活実態と貧困削減の可能性を包括的に把握できるようになった。

2.効果性(Effectiveness)

本年度最初の9か月間で、登録世帯の1人当たり平均月収は17万4,000スム(約14米ドル)から33万8,000スム(約27米ドル)へとほぼ倍増した。また、これまで収入のなかった7万3,000世帯が正式な賃金所得を得るようになった。同期間に15万世帯が貧困を脱し、そのうち約7割(10万5,000世帯)は主に雇用所得の増加によるものである。

3.持続可能性(Sustainability)

支援の的確化を図るため、家庭は以下の3カテゴリーに分類されている。

赤(Red):障害者を抱える世帯、稼ぎ手を失った家庭、ひとり親家庭
黄(Yellow):就労可能だが安定収入や職業スキルを欠く家庭
緑(Green):貧困を脱したが再転落のリスクがある家庭

この分類に基づき、「赤」家庭には優先的な福祉支援を、「黄」家庭には職業訓練と雇用促進を、「緑」家庭には再貧困防止策を適用している。

ケア経済と人材活性化

国家社会保護庁は「ケア経済(care economy)」の発展を重点課題とし、障害児向けのデイケアサービスや高齢者のための「アクティブライフへの一歩」プログラムを導入した。これにより、介護に従事していた家族が労働市場へ復帰できるよう支援している。

人的資本への投資

低所得家庭の子どもに対しては、教育・育成にかかる費用の最大90%を国家が補助している。2025年には12万5,000人の貧困家庭の子どもが優先的に就学前教育を受けることができた。これは社会保護制度が間接的に貧困削減へ貢献している好例である。

住民の声

タシュケント州ブカ地区「エズグリク」マハッラの住民オリマ・アルマトワ・コラベコヴナさんは、次のように語った。「夫は鉱山コンビナートで40年働きましたが、病気で続けられなくなりました。私は家族を支えるためにどんな仕事でもしました。医者が夫の心臓にステントを入れるよう勧めたとき、私は『私のことより家族を助けてください。私はもう67歳です。自分の人生に悔いはありません。どうか家族を助けてください。』と頼みました。
それから間もなく、大統領の決定に基づく支援が届いたのです。その時の喜びは言葉にできませんでした。『本当に、私の扉を開けてくれる人がいたのだ』と感じました。支援を受けて、私たちはキュウリやトマトを植えました。すぐに収入が入り、これまでに三度も利益を得ました。大統領には心から感謝しています。たった一家庭を養うことさえ難しいのに、彼は何百万もの家庭を支えているのです。困っている人々にとって、この支援は力を与え、喜びをもたらし、前進する勇気をくれます。その影響の大きさは計り知れません。」

結論

国家社会保護庁によるプログラムは、単なる物質的支援を超え、収入創出、雇用促進、人的資本育成のための環境を整えるものである。これにより、ウズベキスタンの持続的な経済成長と社会的安定に直接的な貢献を果たしている。(原文へ

INPS Japan/London Post:

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広範耐性結核(DR-TB)薬物治験参加者、成功を祝福し続ける

【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】

ツォロフェロ・ムシマンゴさんが10年前、新しい結核(TB)治療薬の治験に参加したとき、彼女はその薬が本当に効くかどうかを知る由もなかった。

しかし、当時すでに最も致死性の高い広範耐性結核(DR-TB)を発症し、6か月の入院治療を経ても回復の兆しが見えなかった彼女にとって、もはや失うものはなかった。当時、DR-TB患者の4分の3は診断を受ける前に死亡し、治療を受けた患者でも3人に1人しか生き延びられないと考えられていた。

「正直言って、効果があるかどうか半信半疑でした。」「でも、あのとき私が考えていたのは、これで良くなるかもしれない、退院して家に帰れるかもしれないということだけでした。挑戦する価値があると思いました。今では本当にあの治験が命を救ってくれたと確信しています。」と、ムシマンゴさんはIPSの取材に対して語った。

当時21歳だった南アフリカ・ブラクパン出身のムシマンゴさんは、2015~2017年に国内3カ所で実施された新薬治療B-Pal療法(プレトマニド、ベダキリン、リネゾリドの3剤併用)の治験「Nix-TB試験」の109人の参加者の一人であった。

それ以前の重度耐性結核治療では、患者は時に数十錠に及ぶ強力な薬剤を毎日服用し、2年間にもわたって注射を受けることもあった。副作用は耳の聴力喪失、腎不全、精神障害など深刻で、途中離脱率も高く、それが病状悪化や感染拡大を招いていた。

Nix-TB試験では、すべて経口薬による6か月治療が試された。その結果、治癒率は90%に達し、世界最悪の感染症との闘いにおける画期的成果として専門家に歓迎された。

ムシマンゴさんは試験に参加するまで「大量の錠剤と注射」を受けていたが、それらはもはや効かなくなっていたという。治験に入って間もなく、彼女は体重が増え始めた。「体重が増え始めたとき、治療が効いていると感じました。毎週の検診で体重が増えるのを見て、治っていると確信しました。」

半年後、検査結果は陰性となり、結核は消失していた。

「薬をやめられること、そして健康を取り戻し、普通の生活に戻れることが本当にうれしかった。でも何よりうれしかったのは、1年ぶりに退院できることでした。治験前にすでに7か月入院していたので、家族から離れて暮らすのがつらかった。病院は自宅から遠く、母もなかなか来られませんでした」と語る。

JTsholofelo Msimango and her son at her home in Brakpan, near Johannesburg. Credit: TB Alliance/Jonathan Torgovnik

現在、ムシマンゴは健康を取り戻したものの、結核は彼女の人生に今も影響を与えている。彼女はTB患者支援活動に携わり、治験参加者の募集などに協力している。
「もし治験に参加できる機会があるなら、ぜひ挑戦してみてほしい」と彼女は言う。

今では幼い息子の母でもあるムシマンゴは、自身の経験を息子に話している。
「息子には、なぜ私が入院していたのか、なぜ今TBの仕事をしているのかを話します。息子やその友達には、せきをするときは口を覆うなど、感染を防ぐ方法も教えています。自分の話をするのは、誰かの助けになればと思うからです」。

同じく治験に参加したボンギスワ・ムダカも語る。
「私は結核の経験についてオープンに話します。2週間以上せき込んでいる人を見かけたら、すぐに検査と治療を勧めます」と彼女はIPSに語った。

ムダカは当時27歳で、南アフリカ・ハウテン州ヴェレニヒン在住だった。
「治験は命の恩人でした。私の人生を変えただけでなく、救ってくれました。あれがなければ今は生きていなかったでしょう。10年前、XDR-TB患者の見通しは最悪でした。最初は多剤耐性(MDR)TBと診断されましたが、症状が悪化して入院したところ、XDR-TBだと告げられました。まるで死刑宣告のようでした。だから治験の話を聞いたとき、神様の恵みのように思えました。今は健康で家族もいて、普通の生活を送っています。本当に幸せです」。

Nix-TB試験に関わった専門家らに話を聞くと、この試験が後のTB治療を根本的に変える第一歩になるとは当初誰も予想していなかったことがわかる。

ジョハネスブルクのシズウェ熱帯病院で患者を担当したポーリーン・ハウエル医師はこう語る。
「Nix試験以前の治療は長すぎて毒性が強く、半数以上の患者に効果がありませんでした。XDR-TB患者の5年生存率は20%にすぎませんでした。2015年当時、私はまだ臨床試験の経験が浅く、注射薬を含む延長治療を3剤のみに置き換えることに不安もありました」。

Tsholofelo Msimango’s late mother, Zeldah Nkosi. She says her mother was a “pillar of support” during her time when she had TB. Credit: TB Alliance

しかし、患者の変化はすぐに現れたという。
「入院中の患者たちが、新規患者を連れて『この治験を受けた方がいい』と言い出したとき、その効果の確かさを実感しました。2年以上も治療して効果のなかった人が回復し始めたのです。東ケープからわざわざ移住してまで治験を受けに来る患者もいました。そのとき、私たちは『自分や家族にもこの治療を受けさせたい』と思いました」。

「この治療がなければ助からなかった患者もいますが、大多数はより早く社会復帰でき、感染拡大を抑え、孤独や経済的打撃も軽減できました」とハウエルは続けた。

治験結果はただちに影響を及ぼしただけでなく、その後のTB治療を一変させた。
「この試験が世界の薬剤耐性TB治療を変える第一歩になるとは、当時想像もしていませんでした」と彼女は言う。

「結核は致死的ですが、治せる病気です。BPaL/M療法の副作用はある程度予測でき、管理も可能です。10年前、患者たちは家の賃貸契約を解約し、仕事を辞め、家族に別れを告げ、葬儀保険に入るしかありませんでした。いまでは、患者が『もう2週間も入院しています、早く帰りたい』と言う時代です。この変化の大部分はNix試験のおかげです」と語った。

世界保健機関(WHO)は2022年にBPaL療法、またはモキシフロキサシンを加えたBPaL(M)療法を正式承認し、現在では耐性結核治療の第一選択となっている。

開発主体である非営利団体TBアライアンスのデータによれば、これらの療法は現在、世界の薬剤耐性TB治療の約75%を占めており、まもなく90%に達する見込みだ。すでに1万1000人以上の命を救い、医療費約1億ドルを節約したとされ、2034年までにさらに19万2000人の命と13億ドル近い医療費を救うと予測されている。

特に高負担国では状況を一変させている。
「南アフリカでは、2023年9月にBPaL/Mガイドラインを採用して以来、治療離脱率が初めて1桁台にまで下がりました」とハウエルは語る。

ただし、この成果は脆弱でもある。富裕国による援助削減が進み、貧困国の医療プログラム資金を圧迫しているためだ。
「結核は常に貧困やアクセス不足と結びついています。政治的意思や資金が欠ければ、結核は社会の影に生き続けます」とハウエルは警鐘を鳴らす。

ムシマンゴさんも、「資金削減のせいで、薬を手にできない人がいます。それは人の命を奪っています。」と訴えた。(原文へ

This article is brought to you by IPS Noram in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International in consultative status with ECOSOC.

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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サウジアラビアとUAEが一線を画す―ハマスが武装解除するまでガザ再建はなし(アハメド・ファティATN国連特派員・編集長)

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN

率直に言えば、私はサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が、ハマスの武装解除と完全な民政回復が実現するまで、ガザ再建への資金拠出を凍結するという決定を全面的に支持する。これは残酷な行為ではない。むしろ、この二十年以上にわたって繰り返されてきた破壊と再建の終わりなき循環を断ち切るための、現実的で必要な措置である。犠牲を払ってきたのは、いつの時代もパレスチナの人々だ。

ハマスはもはや純粋な「地元の運動」ではない。いまやイランが資金提供者、訓練者、武器供給者として関与する複雑な地域ネットワークの一部となっている。その現実のもとでは、「抵抗」を名乗るいかなる武装組織も、真の進歩と発展への脅威である。なぜなら、戦争と和平の決定がパレスチナ人の福祉ではなく、外国の思惑に従って行われるようになるからだ。この構図のなかでガザは、自らの国民のための国家的事業ではなく、代理戦争の戦場と化している。

同じことはレバノンのヒズボラにも当てはまる。いまなお「抵抗」と呼ばれているが、すでに国家的な目的を失い、イランの手先となって久しい。彼らは終わりなき紛争の論理を維持し、人々の苦しみの上に成り立つ存在となっている。悲劇を影響力に変える術を心得た彼らは、資金と政治的な後ろ盾がある限り、誰の戦争でも請け負う傭兵のように振る舞う。そして、パレスチナ人、レバノン人、シリア人―埋葬し、ゼロからやり直すのはいつも彼ら民衆である。

私はガザの人々への支援に反対しているわけではない。むしろその逆だ。しかし、援助には明確な条件が伴うべきだ。すべての武装勢力を解体し、統治と軍事活動を切り離し、説明責任を確立し、再建が次の無謀な行為で再び破壊されないよう長期的な計画を策定すること。そうでなければ、再建は開いた傷口に貼る絆創膏にすぎない―国際社会の自己満足にはなるが、真の癒しにはならない。

ガザにいま必要なのは、コンクリートやスローガンの再生産ではなく、それを「守る」と称して利用する者たちからの保護である。(原文へ

INPS Japan/ATN

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/saudi-arabia-and-uae-draw-the-line-no-gaza-reconstruction-until-hamas-disarms

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国連世界食糧計画(WFP)、深刻な資金削減で「緊急レベルの飢餓」を警告

【国連IPS=オリトロ・カリム】

2025年、前例のない規模の対外援助および人道支援資金の削減が世界的な飢餓危機を悪化させ、数百万人が食料や基本的サービスへのアクセスを失っている。資金不足のため、支援機関はグローバルサウスを中心とする食料不安の最も深刻な地域で、命を救うための支援事業を縮小または停止せざるを得ない状況に追い込まれている。これらの地域では、紛争、避難、経済不安定、そして気候変動による衝撃がすでに深刻な事態を引き起こしている。

10月15日、世界食糧計画(WFP)は報告書『命綱が危機に瀕している:瀬戸際に立つ食糧支援(A Lifeline At Risk: Food Assistance At A Breaking Point)』を発表し、アフガニスタン、コンゴ民主共和国(DRC)、ハイチ、ソマリア、南スーダン、スーダンの6か国を事例に、資金不足が同機関の事業に与える影響を示した。これらの国々では、資金削減が壊滅的な結果をもたらし、地域社会全体が飢餓の瀬戸際に追いやられている。

「我々およびパートナー団体の活動は大幅に縮小しています」と、WFP緊急事態準備対応局長のロス・スミス氏は述べた。「それは、支援対象者を完全に外さざるを得なかったり、配給量や支援期間を短縮したりすることを意味します。現在、多くの脆弱な人々は安全網も着地点も失っているのです。」

報告書によると、2025年に緊急的な食料および生計支援を必要とする人々の数は過去最高の2億9500万人に達した。一方で、米国を含む主要ドナー国による対外援助・人道支援の大幅削減が進み、WFPはおよそ40%の資金カットに直面している。その結果、同機関は活動を大幅に縮小し、世界で最も飢餓に苦しむ人々への命綱となる支援を届ける能力が深刻に制限されている。

WFPは、こうした資金削減が「世界の食料安全保障を著しく損なうおそれがある」と警告している。推定では、WFPの食糧援助に依存する約1370万人が緊急レベルの飢餓に陥る可能性があり、特に子ども、女性、難民、国内避難民が不均衡に影響を受けている。

「これらの削減は、国家および地域レベルの食料不安をさらに引き起こすおそれがあります」と、WFP食料安全保障・栄養分析局長のジャン=マルタン・バウアー氏は述べた。同氏は、資金削減の影響はすぐには表面化せず、今後数か月かけて現れると指摘した。「報告書で『スローバーン(ゆっくり燃える)』と呼んでいるのはそのためです。削減の影響がすべての国や地域に完全に波及するまで、まだ時間がかかります。」

バウアー氏は、支援の縮小に伴う飢餓の拡大が、児童婚の増加、就学率の低下、社会不安の拡大、避難民の増加、経済的・政治的不安の深刻化など、既存の危機を悪化させる広範な影響をもたらすおそれがあると警鐘を鳴らした。また、難民コミュニティでは子どもの栄養失調率が上昇しており、多くの子どもたちが生涯にわたる健康被害に苦しむことになると報告している。

WFPが直面する最大の課題のひとつは、限られた資源を最も影響を受けた人々への緊急食糧支援に充てざるを得ないため、災害対策プログラムが削減されている点である。ハイチでは、避難民への温かい食事提供プログラムが停止され、月次配給も半減された。同国は過去最悪の飢餓レベルに苦しんでいる。

バウアー氏によれば、ハイチの人道支援用備蓄は完全に枯渇しており、2016年のハリケーン・マシュー以来初めて、WFPはその補充ができない状態にあるという。

同様に、スミス氏は、アフガニスタンの状況も年内に著しく悪化したと述べた。現在、同国の1千万人に及ぶ食料不安者のうち、支援を受けられているのは10%未満だという。「11月には食料供給の中断が予想されており、冬期支援もごく一部しか提供できません。冬季対策支援を受けられるのは必要としている人々の8%未満です」と同氏は語った。

コンゴ民主共和国(DRC)では、支援対象を230万人から60万人にまで縮小せざるを得ず、追加資金がなければ来年2月までに資源が完全に枯渇する見込みである。ソマリアでも支援規模は劇的に縮小され、昨年の4分の1以下の人々しか援助を受けられなくなった。

スーダンでは、8月に約400万人に支援を提供したものの、その半数はダルフールや南コルドファンといった到達困難地域の住民であった。「かつては政府支援がほとんど存在しない大規模プログラムを展開していましたが、現在は限られた資金の中で、飢饉を防ぐためにホットスポットからホットスポットへと移動するような緊急対応に切り替えています」とスミス氏は述べた。隣国の南スーダンでも、WFPは極度の飢餓に直面している市民を最優先に限られた資源を再配分している。

報告書によると、WFPは縮小する援助予算と人員削減の中で、支援対象を絞り、飢饉防止を最優先にした食糧援助に重点を置いている。バウアー氏は、支援団体が現地の関係者と連携し、飢餓のレベルを継続的に監視することの重要性を強調した。「データと分析は、人道コミュニティにとっての“GPS”です」と同氏は述べた。「データが失われれば、我々は道を見失うことになる。だからこそ、データの流れを絶やしてはならないのです。」(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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