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核時代80年:ラテンアメリカの軍縮路線が示す「対抗モデル」

【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アヤラ・アラニス】

核抑止が再び世界の権力構造の柱として前面に出つつある中で、ラテンアメリカ・カリブ海地域は、核兵器に依存しない安全保障という立場を粘り強く掲げている。安全は核によってではなく、核兵器を持たないことによってこそ確かなものになる―という考え方である。

英語版スペイン語

Image: Book A 80 años de la era nuclear ¿Dónde estamos y a dónde vamos? Una mirada desde México y América Latina

その確信を中心に据えるのが、新刊『A 80 años de la era nuclear: ¿Dónde estamos y a dónde vamos? Una mirada desde México y América Latina(核時代80年―私たちはどこにいて、どこへ向かうのか。メキシコとラテンアメリカからの視座)』である。本書は、世界初の「非核兵器地帯(NWFZ)」の視点から、核という大量破壊兵器の軍縮をめぐる歩みとリスク、そして未解決の課題を検証する。

編纂を担ったのは、メキシコ外務省の軍縮・不拡散・軍備管理調整官であるマリア・アントニエタ・ハケス・ウアクハと、イベロアメリカーナ大学の教授・研究者であるアベラルド・ロドリゲス・スーマノである。両氏は本書を、緊張が再燃する国際環境の中で、核兵器をめぐる理論的・政策的議論を更新する試みと位置づけている。

本書は、冷戦期の従来型の議論をなぞるものではなく、核テロ、サイバー上の脆弱性、人工知能(AI)がもたらす不安定化、さらには抑止ドクトリンの揺らぎといった、近年浮上する新たな争点に焦点を当てている。

抑止に頼らない安全保障という選択

本書が刊行された背景には、世界の安全保障を支えてきた前提が大きく揺れ始めているという現実がある。ウクライナでの戦争に加え、米国によるベネズエラでの軍事行動や、グリーンランドをめぐる強硬な発言は、国際秩序が新たな段階へ移行しつつあることを示している。

こうした動きが広がる中でも、ラテンアメリカ・カリブ海地域は、「核兵器があってこそ国家は守られる」という考え方には距離を保ってきた。むしろ、この地域は長年にわたり、大量破壊兵器を広げないこと、そして非核兵器地帯を維持・強化することを安全保障の柱としてきた。

Dr. Abelardo Rodríguez Sumano
Dr. Abelardo Rodríguez Sumano

イベロアメリカーナ大学のロドリゲス・スーマノ教授は、INPS Japanの取材に対し、「核兵器を持たないことこそが、ラテンアメリカ・カリブ海にとって最も確かな安全の保証だ」と語る。

この考え方によれば、核兵器を持たない国は、大国からの軍事的圧力や介入の対象になりにくい。核兵器の有無は大国の判断に大きな影響を与え、核を持たないことで、緊張の高まりや武力衝突へと発展するリスクを抑えることができるという。

「核兵器を持たないことは、米国が敵対的、あるいは自国の利益に反すると見なした国に対し、軍事介入を検討する追加的な理由を与えない。その結果、衝突や介入、さらには政権転換に至る可能性を大きく下げることになる」とロドリゲス・スーマノ教授は説明する。

トラテロルコ条約という転換点

本書の中心にあるのが、トラテロルコ条約である。この条約は2月14日に59周年を迎える。1962年のキューバ危機(ミサイル危機)を受けて採択され、ラテンアメリカ・カリブ海地域を世界で初めての非核兵器地帯として確立した。

条約は、地域を構成する33カ国において、核兵器の製造や保有、配備を禁止した。軍事力の均衡に頼るのではなく、ルールによって安全を確保するという、画期的な枠組みだった。

ロドリゲス・スーマノ氏は、この条約の意義は地域にとどまらないと指摘する。トラテロルコ条約は、その後、世界の他地域で非核兵器地帯が生まれる際のモデルとなり、同様の枠組みがさらに4つの地域(南太平洋〈ラロトンガ条約〉、東南アジア〈バンコク条約〉、アフリカ〈ペリンダバ条約〉、中央アジア〈セミパラチンスク条約〉)に広がった。

現在では、こうした非核兵器地帯に参加する国は117カ国にのぼり、対象となる範囲は地球の表面積の半分以上を占めている。

SGI

「ラテンアメリカは、最初の核戦争の舞台になりかねなかった。」とロドリゲス・スーマノ氏は振り返る。1962年、米国とソ連が戦争寸前まで追い込まれたキューバミサイル危機が、その象徴だ。「しかし現実には、この地域は核対立の最前線ではなく、核軍縮の試みを進める実験場となった。」

覇権と生存のための「抑止」

本書は、理想論だけでなく、現実の国際政治の動きにも目を向けている。ロドリゲス・スーマノ氏によれば、核兵器を持つ国々は今も、世界での影響力を保ち、自国を守るために「抑止」という考え方に頼っている。

「米国もロシアも、核兵器を持つことで国が生き残れると考えている。国際社会の中で自国の立場を守れる限り、主権は保証されるという発想だ。だから核兵器が、そのための手段として位置づけられている。」と同氏は説明する。

核兵器を持っているかどうかは、大国の行動を大きく左右する。ロドリゲス・スーマノ氏は、対応の違いがはっきり表れる例として、中国や北朝鮮への姿勢を挙げる。

Photo: The spectre of war between Europe and Russia looms large. Source: The Hague Centre for Strategic Studies.
Photo: The spectre of war between Europe and Russia looms large. Source: The Hague Centre for Strategic Studies.

「ロシアは、中国や北朝鮮に対して慎重に振る舞っている。米国も現在、北朝鮮に対して直接的な軍事行動を取っていない。核兵器を持つ相手には、対応が変わるのだ。」と同氏は語る。

さらに同氏は、ヨーロッパが難しい立場に置かれているとも指摘する。国際秩序が変化する中で、欧州はロシアの勢力拡大への対応を迫られる一方、グリーンランドをめぐる強硬な発言や取得をちらつかせる圧力といった、新しい形の脅しにも向き合わなければならないという。

技術変化がもたらす新たなリスク

本書の大きな特徴の一つは、これまでの軍備管理の考え方では十分に対応できなくなりつつある、新しいリスクを正面から取り上げている点にある。サイバー攻撃や人工知能(AI)、情報戦の広がりが、核兵器を管理する仕組みを一段と複雑にしているという問題だ。

たとえば、核兵器の指揮や管理を担うシステムに不正に侵入される可能性や、ミサイル発射を察知する早期警戒データが改ざんされる危険性が指摘されている。さらに、AIを使った判断が誤作動を起こせば、誤った決定につながるおそれもある。こうした事態は、もともと不安定な核抑止の仕組みに、新たな不安定要因を加えかねない。

編者たちは、これらの問題を「遠い将来の話ではなく、すでに直面している現実的な課題」だと位置づける。そのため、時代に合った新たなルール作りと、国境を越えた協力を改めて強化する必要があると訴えている。

この点で、外交や検証制度、国際的な取り決めを重視してきたラテンアメリカの経験は、地域を超えて参考になる教訓を含んでいると本書は示している。

世界に開かれた無料公開の書籍

『核時代80年』は、印刷版に加え、メキシコ国際研究協会(AMEI)のウェブサイトから無料でダウンロードできる。英語版の準備も進められており、日本語版についても翻訳に向けた支援が模索されている。

本書には、国際原子力機関(IAEA)事務局長のラファエル・マリアーノ・グロッシ、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のヤンス・フロモウ・ゲラ、ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止機構(OPANAL)の国際関係担当官マルタ・マリアナ・メンドサ・バスルト、国連常駐コスタリカ代表のマリツァ・チャン・バルベルデなど、国際的に影響力のある専門家や外交官の論考も収録されている。

Guillermo Ayala Alanis
Guillermo Ayala Alanis

寄稿者たちの分析が共通して伝えるのは、核のリスクが再び高まる時代にあっても、ラテンアメリカ・カリブ海が歩んできた軍縮の道は、決して時代遅れではないという点だ。むしろ、それは現実の国際政治の中で成り立つ、もう一つの安全保障の選択肢である。

核時代の幕開けから80年。世界が再び「抑止」に立ち戻ろうとする今、この地域の経験は、安全は本当に核兵器に依存しなければ守れないのかという根本的な問いを、改めて私たちに投げかけている。(原文へ

INPS Japan

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「勝利と涙」:元グルカ兵が告発する不平等―フォークランド戦争とハワイ事件の記憶

【カトマンズNepali Times=ビシャド・ラージ・オンタ】

ネパールのグルカ兵は、比類ない勇気と忠誠心で世界的に名高い。だが、1986年にハワイで起きた出来事と、その後に続いた公正な賃金・年金を求める長い闘いは、ネパールの屈強な兵士たちが不正義を黙認しない存在でもあることを示している。

香港を拠点とする「第7エディンバラ公爵グルカ・ライフル連隊第1大隊」は、統合太平洋多国籍即応訓練センター(Joint Pacific Multinational Readiness Center)でのジャングル戦訓練のため、ハワイに派遣されていた。その最中、同部隊の兵士たちが指揮官のコリン・ピアース少佐(Major Corin Pearce)に暴行を加える事件が起きた。

Gurkhas in Falkland

グルカ兵側は、ピアースが自分たちを侮辱したと主張し、兵士111人が解雇された。ピアースは肋骨を折り、頭部にも負傷を負ったが、本人もまた除隊処分となった。

この事件は世界的に報じられ、英軍においてネパール人兵士が公正に扱われていないのではないか、という見方を強めた。また、退役兵の一部が英国人同僚と同等の補償を求め、数十年に及ぶ闘いを始める契機にもなった。

退役した英軍グルカ兵のシャンカル・ライ(Shankar Rai)は、著書『Triumph and Tears』で、当時目撃したハワイ事件を振り返るとともに、1982年のフォークランド/マルビナス戦争での体験も描いている。そこには、英軍が自分や仲間に対して行った不平等と不正義への数多くの不満が並ぶ。彼の語りは憤りと幻滅に貫かれ、忠誠と信念を抱いて務めたにもかかわらず、裏切られたという感情がにじむ。「英国軍のグルカであること」の光と影と醜部を記した記録である。

この本はまた、権力を振りかざす一個人が、ネパールと英国が2世紀にわたり積み重ねてきた共有の歴史に傷をつけ、当事者たちの人生を壊し得ることへの警鐘とも読める。忠誠は当然視されるべきではない、ということの証明でもある。

フォークランドでアルゼンチン軍を退けてから4年後の1986年、グルカ・ライフル連隊の複数の中隊や小隊が、米英合同の軍事演習「Exercise Union Pacific」のためハワイに駐屯した。目的は「米海兵隊と協力し、海上戦闘の技術を完成させる」ことだった。

規定では、英軍グルカ部隊の中隊長は少佐階級であり、ネパール語試験に合格している必要があった。しかしピアース大尉(Captain Pearce)は、旅団長の娘婿で、連隊外勤務中という事情もあり、この規定は免除された。彼は臨時の少佐(Acting Major)に任命されたのである。

ところがピアースは、ネパール語も文化も学ぼうとしなかった。ライの記述によれば、彼は機会あるごとにグルカ兵を貶め、貧しく、愚かで、無礼で、後進的で、そこにいられるだけでも幸運だと言わんばかりに侮辱したという。ライはこう記す。「ピアース大尉はハワイに着くと、自分を主人、グルカを召使いのように扱い、米軍の前で見せつけた」

著者はほかにも、過酷な訓練中に本来支給されるはずの配給の4分の1しか受け取れなかったことや、高熱の兵士がいても訓練を強行させられたこと、さらにはネパール人を「文明化」したと主張したことなど、数々の屈辱を挙げている。

ピアースは訓練前にネパール東部を訪れ、苛烈な貧困を目にしていた。彼はその経験を持ち出し、グルカ兵に「この仕事に就けてどれほど幸運か」を繰り返し説き、「ネパールの首相より稼いでいる」と言い続けたという。

ハワイでの最後の送別会では、ピアースが机を並べて閲兵台のようなものを作り、グルカのバグパイプとドラムの楽隊に、演奏しながら自分の周囲を行進するよう命じた。怒りが限界に達した兵士たちは、宴の後、酩酊した一団となってピアース大尉とチャンドラ・クマール・プラダン(Chandra Kumar Pradhan)をテントから引きずり出し、暴行を加えた。両名とも肋骨を折り、少佐の頭部は15針を要した。

事件を調査した報告書は、「この遺憾で見苦しい一件は、英国軍におけるグルカ旅団の忠誠と勇敢な奉仕の伝統と完全に相いれないものとみなされる。例外的かつ非典型的な出来事であり、旅団が高い評価を受けてきた事実を損なうことがないようにされるべきだ」と記した。

だが実際には、第1/7中隊の兵士の多くが、暴行に関与したか否かにかかわらず解雇された。著者は、その後の「恥」の連鎖を描く。解雇された兵士たちは面目を失ってネパールに戻った。

「屈辱で身が焼ける思いだった。人生が怖くなった」と著者は書く。父親からは「お前を息子と呼ぶのが恥ずかしい」と言われたという。「友人の多くは恋人に去られ、別の相手と結婚された。イタハリ出身のライフルマン、ケム・グルン(Khem Gurung、21162015)は自殺した」とライは記す。解雇者はブラックリスト化され、他の仕事にも就けなかったとも述べる。

彼らは英国政府を相手取った法的措置も検討したが、高額な有名弁護士を雇う余裕がなく、敗訴すれば英国政府側の訴訟費用まで負担することになるとして断念した。

一方、英国で4年勤務したグルカ兵には英国への移住が認められた。ハワイ事件で解雇された人々の多くがこの選択肢を取り、著者自身も現在はオックスフォードに暮らしている。

ライは本の終盤で、痛みと感情を吐露する。「生活は小さな仕事に頼っている。残りの時間は、ハワイ事件の被害者の問題提起に注いでいる。私たちは一生、侮辱、憎悪、軽蔑を背負わされる。軍法会議よりも苛酷で、重すぎて耐えられない」と。

本書は薄く、素早く読める。30年前の事件を扱いながら、ライの筆致は兵士らしい精密さを備える。怒りは年月を経ても消えていないが、物語は過度に劇的に誇張されてはいない。

前半では、南大西洋をQEII(クイーン・エリザベス2世)で渡り、戦地へ向かう様子が描かれる。客船だったQEIIは兵員輸送船に改装され、内陸国ネパール出身の兵士の多くは船酔いに苦しんだが、1日2缶のビールを喜んだ。船内にはBarclays Bankの支店まであったという。

中隊内や戦場で育まれた友情の描写は胸を打つ。彼らはアルゼンチン軍の爆撃に耐え、塹壕を掘り、南半球の冬の雨の中で戦った。仲間と茶を分け合う場面、戦友の死を目の当たりにする場面、若いアルゼンチン兵の遺体のポケットから妻子の写真が見つかる場面などが、小さな挿話として織り込まれる。

グルカ兵という威信、名誉、神話の背後で、そこにあるのは縁故主義、ひどい上司、低い待遇という「もうひとつの職場の現実」でもあるように見える。それでもなお、絶望の深さゆえか、いまも英国軍の募集には、毎年最大2万人の若者が300の枠を求めて応募するとされる。(原文へ

INPS Japan

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【ダボスATN=ATNニュースチーム】

今週、世界各国の主要な政治指導者(国家元首・政府首脳約65人を含む)が、スイス・ダボスで開かれる世界経済フォーラム(WEF)年次総会2026に集結した。今年のWEFは、企業主導の「アイデアの祭典」というより、世界秩序の耐久力をその場で試す実地の検証に近かった。成長見通しではなく、地政学が議論の中心を占めたからだ。

各セッションや非公開会合、廊下での会話に共通していた支配的な空気は、米欧摩擦の先鋭化だった。背景には、ドナルド・トランプ大統領がグリーンランドをめぐって圧力を再び強め、関税を交渉の梃子として用いていることがある。例年なら周到に演出された楽観ムードが支配するが、今年は「危機下の同盟管理」を思わせる緊張感が漂っていた。

欧州の指導者は公の場で結束を示した。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、グリーンランドの主権は「交渉の余地がない」と改めて明言し、各国と連携して北極の安全保障を強化する措置を欧州連合(EU)として準備していると語った。メッセージは明確だが、表現はあくまで外交的である。欧州が求めるのは米国との協力であり、強要ではない。

カナダも同様の立場を示した。マーク・カーニー首相は、地政学的対立と結びついた貿易措置の行使にカナダ政府は反対だと述べ、関税の「武器化」は国際貿易体制への信頼を損ないかねないと警告した。

先行きの安定を求めてダボスに集まる企業幹部からも、不安の声が出ていた。複数の最高経営責任者(CEO)は、感情に左右される政治判断や唐突な政策転換が市場を揺さぶり、長期の投資計画を立てにくくしていると指摘した。ある欧州企業の幹部は私的に、この場の雰囲気を「政治的すぎる。変動が大きく、不確実性が高すぎる」と表現したという。

米国側は沈静化を図っている。スコット・ベッセント財務長官は、米欧関係の決裂を懸念する見方は誇張だとして退け、同盟国に外交の進展を見守るよう求めた。だが市場はそれほど楽観的ではない。主要経済圏の間で貿易が混乱する危険が高まっているとの見方を投資家が織り込み、火曜日には世界の株式が下落した。

ダボスの外で起きた出来事も、会議に漂う地政学の影をいっそう濃くした。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによるミサイル攻撃の再開への対応のため、予定していた登壇を取りやめた。アルプスで各国指導者が戦略を論じる一方、戦争が別の場所で現実を規定し続けている――その事実を突きつける出来事だった。

政治の議論を地政学が主導する一方、経済面で存在感を示したのは人工知能(AI)である。ただし、近年ほどの過熱は見られなかった。

この日の主要論点の一つとなった討論で、PwCのモハメド・カンデ会長は、企業の半数超がAI投資から目立った成果を得られていないと指摘した。問題は技術そのものではなく、組織の準備不足や、実装をめぐる指揮系統の曖昧さにある―というのが同氏の見立てであった。

こうした現実路線は、複数の技術分野の討論でも共有された。登壇者からは、AIが急速に商業ツールから「戦略資産」へと性格を変えつつある、との警告が相次いだ。半導体、データ、基盤設備をめぐる競争は、すでに戦略的対立に近い様相を帯びているという。先端AIは、社会を変え得るほど強力である一方、管理を誤れば不安定化を招き得る「重要な社会基盤」に等しい―そうした比喩も繰り返された。

非公開の場では、近年と比べて語り口が明確に変わった、という声も聞かれた。破壊を礼賛する議論は後退し、統制、運用の規範、そして予期せぬ帰結への懸念が強まっているという。

この日の終盤には、全体の方向性は明確になっていた。ダボス2026の焦点は、気候公約でも環境・社会・企業統治(ESG)の流行語でも、派手な技術の展示でもない。いま問われているのは、むき出しの「力の政治」である。誰がルールを定め、誰がそれを執行し、大国が「ルールは共有されている」という建前を降ろしたとき、何が起きるのか―その問いが前面に出ている。

主催者は対話と協調を強調し続けている。だが会場の空気はむしろ、分断の深まりを映している。中立の場を提供し、国際的な合意形成を後押しする―フォーラム本来の役割は、国際政治の力学が取引優先へ傾き、同盟がますます条件付きになっていく世界の中で試練にさらされている。

注目は水曜日に移る。トランプ大統領がフォーラムで直接演説すると見込まれているためだ。外交官も企業幹部も投資家も、決まり文句ではなく「シグナル」を読み取ろうと身構えている。政権はグリーンランド問題でどこまで踏み込むのか。貿易をどこまで強硬に交渉の梃子として使うのか。同盟国との交渉で、歩み寄りの余地は残されているのか。

現時点のダボスは、楽観のサミットというより、意思決定者たちが静かに前提を組み替えている場である。その気配が強かった。(原文へ

Original URL:https://www.amerinews.tv/posts/davos-2026-power-politics-eclipse-the-economy

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いま、中国に目を向けよ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=スタイン・トンネソン 】

世界平和はいま脅かされている。ウクライナ、中東、アフリカでは戦争が続き、米国の貿易戦争も進行中である。ドナルド・トランプ大統領は複数の国際条約や国際機関から離脱し、同盟上の義務から後退し、他国への軍事介入にも踏み切っている。強い不安感を背景に、各国政府は軍事予算を増やしている。これだけでも深刻だが、巨大テック企業がクラッシュに向かうのではないかという懸念もある。私たちは、終わりの見えないトンネルの中で、方向を失ったコウモリのようにさまよっている。

Dr Stein Tønnesson, Director of Toda Peace Institute

その中で中国は、独立した主権国家から成るグローバルな国際システムと、不干渉原則を重視する姿勢で際立つ。中国の世界観は、個人の権利より国家の主権的権利に重心がある。国家間の戦争がない世界を望む。中国はトランプ関税の嵐に耐えつつ、4月にトランプ氏を国賓訪問として迎える予定だ。世界の将来を左右する存在になるかもしれない。

1月3日のカラカスでの米国の急襲は、国連憲章への重大な違反であった。にもかかわらず、多くの政府は非難を避け、違法性に言及するにとどめた。大統領を拘束するという行為が、他国にとって前例になり得ると批判者は指摘した。ロシアがゼレンスキーを拘束するのか。中国が頼清徳を連れ去るのか。

異なるリアリズム

米国の急襲に対するロシアと中国の反応は異なっていた。両国はいずれもマドゥロ政権に政治的・経済的に関与してきた。両国とも公式に抗議声明を出したが、プーチン大統領は沈黙を保った。自身によるウクライナ侵略は、規模と破壊性の点で、トランプが行った行動をはるかに上回っているからである。

ロシアの元大統領で、現在は国家安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは1月4日、トランプの行動は違法だとしつつも、「内部的には整合的」であり、米国の利益追求として理解できるとの趣旨の発言を行った。ここには、ホワイトハウスとクレムリンの世界観の接近が示唆されている。すなわち、国際関係を利益の競争と捉え、強硬な力の行使を当然視する見方である。メドベージェフはまた、ベネズエラは米国の「裏庭」だとも述べた。

これに対し、中国の反応はより規範に根差したものだった。北京は米国の行動を国際法違反として非難し、「国際法、国際関係の基本規範、国連憲章の目的と原則を明白に違反している」と述べた。中国の公式論評は、いかなる国であれ世界の「警察官」のように振る舞うべきではないと警告した。1月5日、アイルランド首相との会談で習近平国家主席は、「一方的で覇権的ないじめが国際秩序に深刻な影響を与えている」と批判し、「すべての国は、他国の人々が独自に選んだ発展の道を尊重すべきだ」と訴えた。

こうした発言は単なるレトリックにすぎないと退けることもできる。しかし、中国がこれを本気で語っている可能性も考えてみる必要がある。主権を基礎とする国際秩序は、中国自身がその国益と合致すると見ているのかもしれない。

国益と平和

主権を基礎とする安定した国際秩序は、対外環境の予見可能性を高め、開かれたグローバル市場へのアクセスを確保するという点で、中国の中核的利益に資する。中国は世界各地で広範な経済的利害を抱えている。供給過剰傾向の産業が生み出す電気自動車、太陽光パネル、風力発電設備などの輸出が欠かせない。他方で、大豆、石油、半導体(チップ)など、さまざまな必需品の輸入にも依存している。利益率は低く、貯蓄率が過大であるため国内消費は低水準にとどまる。経済改革を進めるうえでも、中国はグローバル市場への十分なアクセスを必要としている。

地政学的安定を確保するため、中国は陸上で国境を接する近隣諸国のうち、インドとブータンを除くすべてと国境画定で合意してきた。上海協力機構(SCO)を通じて、中央アジアではロシアと影響力を分かち合う枠組みも築いている。モンゴルはかつて清の領域の一部だったが、中国はこれを主権国家として認めてきた。結果として、中国の領土紛争は、インド、海上の近隣諸国、そして台湾にほぼ限られる。

この約40年、中国は他国との武力紛争を回避してきた。ヒマラヤ、南シナ海、東シナ海での事案は憂慮すべきものだったが、衝突は限定的にとどまっている。中国は台湾周辺で大規模な軍事演習や航空・海上活動を実施してきた。これらの演習は多くの場合、事前に告知されている。一方で、中国軍機や艦艇の活動は近年、台湾側が防空識別圏(ADIZ)や周辺海域への繰り返しの進入と受け止める水準にまで拡大しており、海峡の中間線を越える事例も常態化している。演習海域が台湾の領海に接近、あるいは含まれているとの台湾当局の指摘もあるが、領空・領海への侵入に当たるかどうかについては、法的解釈と当事者の立場によって評価が分かれている。中国国内には、いずれ大国は国外で自国の利益を守るため武力を用いざるを得ない、と主張する見方がある。戦闘経験が必要だという声もある。しかし孫子の兵法の観点では、必ずしもそうではない。孫子が説くところでは、戦争に勝つ最善の方法は、戦わずして勝つことである。中国のこれまでの強硬な行動の狙いは、戦争を誘発することではなく、シグナルを発して警告することにあった。いまなお、各主体が自制を示す余地は残っている。

台湾の現状維持

台湾は中国のアキレス腱である。台湾は国際的に承認された国家ではないため、台湾への軍事侵攻は、それ自体が直ちに国連憲章2条4項に違反すると断定されるとは限らない、との見方も成り立ち得る(ロシアによるウクライナ侵攻や、米国のベネズエラ介入とは異なる)。しかし、この点は大きな論争を呼ぶだろう。

もっとも、軍事攻撃に用いられる手段は、慣習国際法やジュネーブ諸条約に違反する可能性が極めて高い。全面侵攻となれば抵抗は避けられず、米国や日本の介入を招く恐れもある。台湾をめぐる戦争は拡大し、核兵器の応酬に発展する可能性すら否定できない。

中国の2005年反国家分裂法は、台湾が独立に向けた動きを取る場合、あるいは平和的統一の見通しが失われた場合、武力行使を義務づけている。こうした「レッドライン」は、戦場の主導権を中国自ら手放す結果になりかねず、孫子の兵法の発想にはそぐわない。レッドラインは、相手に挑発の余地を与え、相手の条件で戦争を誘発する危険をはらむ。

平和の観点から理想を言えば、中国は台湾政府を安心させ、高度な自治を認める方向で備えるべきだろう。そうなれば、台湾海峡を越えた自由貿易が可能となり、中国は台湾の世界最先端の技術へのアクセスも確保できる。

中国の軍事演習、米国の対台湾武器売却、そして台湾の指導者による「独立志向」と受け止められる行動は、緊密に絡み合い、自己強化的なエスカレーションの連鎖を生みかねない。だからこそ、相互の安心供与が不可欠である。台湾問題の最も現実的な解は、実は「解を求めないこと」なのかもしれない。1979年以来、現状維持は双方にとって機能してきた。

小国の役割

勢力圏の発想で動くプーチンとトランプの反グローバリズム政策は、アジアの国々―大国から小国まで―が平和促進に役割を果たす余地を生み出している。賢明な中国であれば、北東アジアでも東南アジアでも、こうした動きを後押しするだろう。11加盟国から成る東南アジア諸国連合(ASEAN)は、ASEAN主導の首脳会合、ASEAN地域フォーラム、東アジア首脳会議などを通じ、大国の指導者を同じ場に集めてきた実績がある。ASEANは、日本、韓国、中国、さらにはインドも含め、国連を再活性化し、ルールに基づく国際秩序を支えるための持続的な努力において、新たな協力の時代を形づくる助けになり得る。

東アジアの国々が相互の安心を高める模範を示せば、欧州にとっても、ロシアという宿敵と気まぐれな米国の「保護者」の間に挟まれた圧迫感を和らげる一助となるかもしれない。残念ながら、米国とロシアは世界最大の核兵器庫を抱える。中国の核戦力も憂慮すべきペースで増大している。それでも北京は先制不使用(No First Use)を掲げている。日本も反核の立場を堅持することが望まれる。1995年に宣言されたASEAN非核地帯は、加盟国に対し、核兵器の開発、保有、配備を行わないことを引き続き誓約させている。

トンネルのアジア側には、光が差すのかもしれない。(原文へ

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アメリカ・ファーストと多国間主義の狭間で揺れる国家安全保障戦略

【国連ATN=アハメド・ファティ】

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN

2025年版国家安全保障戦略(NSS)は、政策文書というより、明確に打ち出されたひとつの世界観である。それは研ぎ澄まされ、体系化され、米国が第2次世界大戦後に自ら築き上げた国際秩序に正面から挑む形をとっている。

多国間主義が〈酸素〉のように不可欠な国連内部の視点から読むと、これは、かつて家を設計した建築家が数十年後にブルドーザーと測量器具を携えて戻ってきて、長年の住まいを「作り直す」と言い放つ光景を目の当たりにするようである。

NSSの冒頭は、過去30年の米国外交を「放漫で、誤った方向に進み、グローバリストに支配され、主権を『国際的制度』へ外注してきた」と一刀両断する(1〜2頁)。端的に言えば、協調的な世界統治の基盤そのものを否定する理念的な挑戦である。

国連が「共有された責任」を見るところ、NSSは「目的の希薄化」を見る。国連が「相互依存」を強調するところ、NSSは「脆弱性」と捉える。国連が「外交」を尊ぶところ、NSSにとっては「干渉」に映る。

問題は語調ではない。理念そのものが決定的に食い違っている。

移民政策:国連の人道的柱と「要塞化する米国」の衝突

多国間主義と最も激しく衝突するのが、文書が示す移民政策の強硬姿勢である。NSSは「大量移民の時代は終わった」と宣言し、国境管理を国家安全保障の最優先課題に据える(11頁)。

これは国連のアプローチとは対照的である。
・UNHCRは、避難を保護と権利の観点から位置づける。
・IOMは、移動を国際的な制度として共同で管理すべき課題とみなす。
・「安全で秩序ある移住のためのグローバル・コンパクト」は、協力を前提とする。

しかしNSSは移民を、テロやフェンタニルと並ぶ戦略的脅威として扱う。端的に言えば、この文書は脆弱な人々を「不安定化の要因」と描き、国際社会の安定を支える主体として位置づけていない。

この政策転換は、今後数年にわたり、人道交渉のあらゆる局面に影響を及ぼすだろう。

モンロー・ドクトリンの“再来”―今度は実効力を伴って

続く米州(西半球)の章は、地政学的な急展開と言うべき内容であり、警報級の示唆を含んでいる。NSSは、いわば「モンロー主義のトランプ流再定義」を掲げ、テキサス以南の港湾から鉱物資源、海底ケーブルに至るまで、域内の広範な領域への他国の関与に警鐘を鳴らしている(15〜18頁)。

婉曲ではない。礼儀ですらない。つまりトランプ政権は、こう言っている。
「この半球は我々のものだ。以上。」

国連にとって、これは不快であるだけでなく、多国間秩序の制度設計とも鋭く衝突する。多国間秩序の核心は、大国が特定地域を自国の勢力圏として固定化しないことにある。だが、この方針はその禁忌に踏み込み、西半球を戦略的な「囲い込み」へ傾けかねない。

ラテンアメリカ諸国は表向き投資を歓迎するかもしれない。だが国連関係者の間では、次の問いが生まれるだろう。

米国がパートナーシップに事実上の拒否権を主張するなら、我々の主権はどこから始まるのか。

このドクトリンの下で相対的に影響力が削がれ得るもの:
・国連開発計画(UNDP)
・地域機関
・多国間の金融支援
・ワシントンの承認を前提としない対外パートナーシップ

結果として、多国間主義は「米国の裏庭」において周縁化される。

欧州:断罪される「文明」、対話されない地域

Map of Europe
Map of Europe

NSSの欧州に関する記述は、戦略文書というより文化評論を思わせる論調に貫かれている。欧州は「文明的消滅」「人口の崩壊」「アイデンティティの喪失」「規制による窒息」に直面している――といった語で描かれる(25〜27頁)。

これは分析ではない。死亡告知である。

こうした欧州観は、安保理対応、制裁、決議形成などで不可欠な「西側の結束した外交姿勢」を維持するうえで、国連にも深刻な影響を及ぼし得る。仮にトランプ政権が欧州連合を協力相手ではなく「障害物」と位置づけるなら、1945年以来リベラル秩序を支えてきた米欧の結束は揺らぎ始める。

中国:多国間システムの「ストレステスト」

Map of China
Map of China

文書全体のトーンを最も強く規定しているのは中国である。NSSは中国を、サプライチェーン、AI、レアメタル、知的財産、移民管理、プロパガンダ、医薬品など、ほぼ全領域における米国の唯一の「体制的競争相手」と位置づける(20〜24頁)。ここで描かれているのは単なる「競争」ではない。より広範な「全面的対峙」である。

ただし、動かしがたい現実がある。国連は中国抜きには立ちゆかない。中国は主要拠出国であり、安保理常任理事国で、平和維持活動の主要な貢献国でもある。保健、気候、開発金融の分野でも、その関与は不可欠だ。

米国が中国をあらゆる領域で「存亡に関わる脅威」として描けば、多国間主義はその余波を免れない。リスクは明確である。競合する二つの国際システムが形成され始め、国連の普遍性と完全には両立しなくなる。

中東:稀で脆い「部分的な一致」

Map of Middle East
Map of Middle East

注目すべきことに、中東に関するNSSの方針は一部で国連の優先事項と重なる。すなわち、緊張緩和、安定化、人質解放、地域戦争の回避、そして新たな外交枠組みの支援である(27〜29頁)。

ただし、動機は大きく異なる。国連が目指すのは、権利、統治、国際人道法に基づく持続的な平和であるのに対し、NSSが求めるのは「米国の負担を減らし、敵対勢力を封じ込める」ための安定の確保である。

この一致は当面の接点となり得るが、極めて脆い。ガザ、レバノン、シリア、紅海のいずれかで再燃が起これば、理念の差異は直ちに露呈する。

アフリカ:パートナーシップか、資源争奪か

African Continent/ Wikimedia Commons
African Continent/ Wikimedia Commons

NSSにおけるアフリカは、鉱物・エネルギーを軸にした「投資の最前線」として描かれている(29頁)。アフリカ諸国には、中国、ロシア、トルコ、EU、湾岸諸国など複数の外部勢力がすでに関与しており、競争を一定程度歓迎する向きもあるだろう。だが、国連が描くアフリカの将来像はより広い。
・統治(ガバナンス)
・人間開発
・平和構築
・産業化
・持続可能な成長

NSSはアフリカが「持っているもの」に焦点を当てる一方で、「何を目指すのか」という将来像には踏み込まない。このギャップこそ、多国間機関が関与し、支援と調整を担うべき領域である。

結論:衝突は避けられない――だが、可能性は消えていない

NSSは、国連を基軸とする多国間秩序の時代における米国戦略の中でも、とりわけ「主権優先・多国間主義懐疑」の色彩が濃い。世界を「共有されたシステム」ではなく「競争の地図」として捉え、協力という前提そのものに疑義を突きつける。

しかし、一国主義がどれほど強まっても、世界の現実から逃れることはできない。
・パンデミック
・気候変動の影響
・サプライチェーンの脆弱性
・技術ガバナンス
・国境を越える危機

これらは、いかなる大国であっても単独では解決できない課題である。

確かに衝突は不可避だ。だが、崩壊は必然ではない。

いま求められるのは、国連と多国間システムが、この摩擦の中に機会を見いだし、それを生かし、米国に対して、歴史が繰り返し示してきた真実を思い起こさせることである。一国の意思が世界を支配する時代は不安定であり、責任を共有する世界こそが持続可能である―。

そして最終的には、どのような米国であれ、「機能する国際システムの価値に代わるほど高い城塞」を築くことはできないことを、否応なく理解することになるだろう。(原文へ

INPS Japan/ATN

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/a-national-security-strategy-caught-between-america-first-and-a-multilateral-world

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厳冬を前に攻撃激化、ウクライナ各地で生活インフラが麻痺

【国連IPS=オリトロ・カリム】

ここ数週間、ロシアによるウクライナ侵攻は一段と深刻化し、戦闘は頻度・強度ともに増している。民生インフラへの被害は広範に及び、ウクライナ全土で死傷者も増加している。国連人権高等弁務官フォルカー・トゥルク氏は、エネルギー関連インフラへの攻撃とそれに伴う停電により、最も脆弱な人々が冬の間、「冷たく、恐ろしい試練」を強いられていると警告した。

Volker Türk, United Nations High Commissioner for Human Rights, in Helsinki © Lauri Heikkinen, valtioneuvoston kanslia - FinnishGovernment, CC BY 2.0
Volker Türk, United Nations High Commissioner for Human Rights, in Helsinki © Lauri Heikkinen, valtioneuvoston kanslia – FinnishGovernment, CC BY 2.0

「ロシアによる全面侵攻からまもなく4年になるいま、市民の苦境はいっそう耐え難いものになっている。」とトゥルク氏は述べた。「和平交渉が続く一方で、私たちの監視と報告は、戦争が激化し、死者と被害、破壊が増えていることを示している……ウクライナのどこにも安全な場所はない。」

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によれば、2025年1月から11月の間に、戦争の直接の影響で死亡したウクライナ人は2311人に上る。これは2024年の同時期に比べて26%増、2023年からは70%増である。トゥルク氏はまた、2024年12月から2025年11月にかけて、ロシアが使用した長距離ドローンの1日当たり平均数が大幅に増加したと指摘した。特に人口の多い前線地域や都市部で顕著だという。

11月はとりわけ情勢が不安定で、少なくとも226人の民間人が死亡し、952人が負傷した。そのうち51%は、ロシア軍による長距離ミサイル攻撃や徘徊型弾薬(遊弋弾薬)によるものだった。民間人の死傷者の大半はウクライナ側が統治する地域で発生し、約60%は前線近くで起きている。11月18日には、ミサイルとドローンによる大規模な複合攻撃がテルノーピリで発生し、少なくとも38人が死亡した。これは2022年2月の全面侵攻開始以降、西部ウクライナで最も死者の多い攻撃となった。

前線地域では、短距離ドローン、空爆、その他の弾薬により住宅地が大きく損壊し、居住不能となった地区が相次ぎ、新たな避難も顕著に増えている。前線地域の病院や診療所も深刻な被害を受け、一部施設は完全閉鎖に追い込まれ、残る医療機関も運営が逼迫している。治安の悪化が続くため、救急車が負傷者に到達できない状況があり、支援要員も命の危険を冒して活動している。

さらに、ウクライナ全土で水道・エネルギーインフラへの攻撃が続き、数百万人が、水・暖房・電力へのアクセスを失っている。しかも、停止が長期化するケースも少なくない。国連人道問題調整事務所(OCHA)は、週末だけでも新たな攻撃により100万人以上が水・暖房・電力を利用できなくなり、とりわけ南部で影響が大きいと報告した。

A shopping center in the city of Kremenchuk in the Poltava region of Ukraine after a Russian rocket strike on June 27, 2022 at 15:50./ By Dsns.gov.ua, CC BY 4.0
A shopping center in the city of Kremenchuk in the Poltava region of Ukraine after a Russian rocket strike on June 27, 2022 at 15:50./ By Dsns.gov.ua, CC BY 4.0

オデーサ州、ヘルソン州、チェルニーヒウ州では、地区単位で電力・水道・暖房サービスが停止し、人命に直結する活動に深刻な負荷がかかっている。一方、前線地域の食料品店や薬局の多く、特にドネツク州、ハルキウ州、スムイ州では閉鎖が相次いでいる。これらの地域の一部コミュニティでは、2年以上にわたり電力にアクセスできていないとの報告もある。

ドネツク州の一部住民は、数日に1回、質の低い流水しか供給されないと訴えている。多数の放棄鉱山や化学工場が近接していることから、人道支援団体は安全面への警戒を強めており、厳冬期の到来がすでに深刻な生活環境をさらに悪化させると懸念している。

ワールド・ビジョン(WV)によれば、ウクライナの子どもと家族は、2022年の戦闘開始以降で最も厳しい冬に直面する見通しだ。今季は気温が−10℃を下回ることが予測されるうえ、重要なエネルギーインフラへの反復攻撃により、子どもたちは1日平均16〜17時間の停電にさらされているという。こうした長時間の停電は、最も寒い時期に、暖房・電力・水・不可欠なサービスを奪う。まさに最も必要な時期に起きている。

「地域によっては、暖房、電力、水が最大36時間にわたって途絶えることがあります。基礎サービスが長時間失われることで、子どもの健康リスクが深刻化し、教育も中断され、全体的な福祉が脅かされます」と、ワールド・ビジョンのウクライナ危機対応ディレクター、アルマン・グリゴリヤン氏は述べた。「子どもを守るため、冬季物資、安全な居場所、心理社会的支援を含む人道支援が緊急に必要です。」

ワールド・ビジョンは、最も過酷な生活条件が確認されている地域として、北部・東部のチェルニーヒウ、ドニプロ、ドネツク、ハルキウ、スムイなどを挙げた。教育面の影響も深刻で、停電により学校や幼稚園を安全に運営することが難しくなり、子どもの約40%が遠隔または対面と遠隔を組み合わせた学習を余儀なくされている。

Image source: Los Angeles Times
Image source: Los Angeles Times

高齢者や障害のある人々にとっても、生活はとりわけ困難である。多くが自宅から離れられないうえ、適切な移動手段や住環境へのアクセスを欠いている。前線地域で死亡した民間人の約60%は60歳以上だった。

国連とパートナー団体は前線で冬季支援(ウィンターライゼーション)を進め、緊急シェルターや保護サービスを提供している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も、燃料や断熱など冬季特有のニーズに充てるための現金給付を、脆弱なコミュニティに配布している。

UNHCRは、2025年にウクライナ国内で人道支援と保護を緊急に必要とする人々を約1270万人と推計する。しかし、資金拠出の削減が相次ぎ、2025年のウクライナ人道ニーズ・対応計画(HNRP)は当初の対象800万人から大幅に縮小し、480万人への支援を優先せざるを得なくなった。状況が悪化するなか、国連は拡大する人道ニーズに対応するため、拠出国の追加拠出と国際社会のより広範な支援を求めている。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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新たな植民地主義の時代

Rudyard Kipling 
Credit:Public Domain

「白人の重荷を担え――
お前たちが生み出した最良の者を送り出せ。
叫びであれ、囁きであれ、
去ることであれ、行うことであれ、
黙して不満げな人々は、
お前たちの神々を量り――
そして、お前たち自身を量るだろう……」

―ラドヤード・キプリング
「白人の重荷:米国とフィリピン諸島」(1899年)

【ニューヨークIPS=アッザ・カラム】

いま私たちは、世界が「帝国の終焉」を声高に宣言しながら、その構造を別の形で再生産している時代に生きている。これは、植民地時代の絵葉書を懐かしむ話ではない。外交政策、国際統治(国際社会の意思決定の仕組み)、そして世界経済の力学が、真の協力というより、植民地的な論理に近い形で組み替えられつつある、ということだ。

「新しい植民地主義(New Colonialism)」という言葉は、修辞的な誇張ではない。軍事介入やジェノサイド(集団殺害)、外交の場からの撤退、そして「中立」を装いながら不平等や人権侵害を温存する制度。そうした権力の振る舞いは、いまも現実として進行している。

Ⅰ いま、どこにいるのか

「帝国主義とは本質的に地理的暴力の実践であり、世界のほぼすべての空間を探索し、地図化し、最終的には支配下に置く過程にほかならない。」
エドワード・サイード『文化と帝国主義』(1993年)

An image circulating online shows Venezuela’s president handcuffed and giving a thumbs-up, flanked by individuals in DEA jackets, amid unverified claims of a U.S. law-enforcement operation.
An image circulating online shows Venezuela’s president handcuffed and giving a thumbs-up, flanked by individuals in DEA jackets, amid unverified claims of a U.S. law-enforcement operation.

2026年1月、米国は、ラテンアメリカにおいて過去数十年で最も劇的な対外介入と言える行動に踏み切った。ベネズエラに軍事侵攻し、ニコラス・マドゥロ大統領を連れ去ったのである。ドナルド・トランプ大統領は、米国が「安全で適切、かつ慎重な移行が可能になるまで、国を運営する」と公言した。これは暗号ではない。露骨な支配の宣言である。

政権はこれを、麻薬対策(麻薬密輸の摘発)や法執行(犯罪捜査・逮捕など)として位置づける。しかし批判者のみならず同盟国の一部も、限定的な取締りではなく、20世紀の「政権転覆介入(regime change)」を思わせる、古い覇権の手法の復活だと見ている。メキシコからブラジルに至るラテンアメリカ諸国は、主権侵害として非難した。これは、過去の介入の現代版の鏡像である。

米誌『Foreign Policy』の分析も、この介入がより大きな流れの一部であることを示している。リシ・イエンガーとジョン・ハルティワンガーは、「麻薬テロ(narcoterrorism:麻薬取引と武装勢力・政治暴力の結びつきを、テロとして扱う概念)」との戦いを掲げる一方で、米国が軍の役割を拡張し、麻薬密売人とされる勢力への空爆までを「任務のリスト」に加えてきたと指摘した。安全保障と政治的統制の境界が曖昧になっていく構図である。

こうした動きは、対外政策の軍事化が進み、かつ一方的に実行される傾向を示している。

さらに、この介入は単発の出来事ではない。ベネズエラに対するトランプ政権の動きは、麻薬阻止というより、戦略的な布石と資源確保――とりわけ同国の莫大な石油埋蔵量――をめぐる思惑と結びついているのではないか、という見方が強い。

Donald Trump, President of the United States of America, addresses the general debate of the General Assembly’s eightieth session in 2025. Credit: UN Photo/Evan Schneider.
Donald Trump, President of the United States of America, addresses the general debate of the General Assembly’s eightieth session in 2025. Credit: UN Photo/Evan Schneider.

米国の力が中国やロシアに挑戦されるなか、いわば「世界-1(World-Minus-One:米国の影響力が相対的に低下し、米国抜きでも国際秩序が動き得る、という含意の比喩)」の状況が広がっている。そうした秩序の下で、介入への傾斜は、人道を掲げた事業としてではなく、地政学的な賭けとして再燃している。

植民地主義批判の視点から見れば、「独裁者から救う」という言葉は、キプリングが説いた「道徳的責務」を担えという呼びかけと重なる。だが、かつての正当化が暴力と労働搾取を覆い隠したように、いまのレトリックもまた、地政学的な自己利益を覆い隠している。

米国は「権威主義からの解放」を掲げる一方で、統治と経済インフラへの支配を主張している。これは、「他国はワシントンの指導なしには統治できない」と言い換えるに等しい、21世紀版の植民地的態度である。もたらされるのは解放ではなく、依存だ。依存こそ、植民地関係の典型である。

Ⅱ 多国間制度からの米国の撤退

「『白人の重荷』は、新たに支配される側に責任を転嫁しながら、真の重荷――体系的・構造的で、ときに暴力を伴う搾取――を認めない。これは帝国の最古の神話である。」
――クマーリ・ジャヤワルデナ『白人女性のもう一つの重荷:英領植民地期南アジアと西洋女性』(1995年)

ベネズエラの掌握が古典的な帝国建設に見えるのだとすれば、多国間制度からの撤退は、そうした一方主義を抑えるはずの枠組みそのものから離脱する行為である。

2026年初頭、米国は大統領覚書に署名し、「米国の利益に反する」と見なす66の国際機関について、支援と参加を停止する方針を打ち出した。対象には多数の国連機関や条約枠組み(各国が合意し、守るべきルールを定めた国際約束)が含まれており、国際ガバナンスから距離を置く米国の流れをさらに加速させるものだ。

UN Secretary-General António Guterres briefing reporters after a leaders' meeting on climate action. Credit: Naureen Hossain/IPS
UN Secretary-General António Guterres briefing reporters after a leaders’ meeting on climate action. Credit: Naureen Hossain/IPS

撤退対象となった組織には、国連の人口関連機関(UNFPA:国連人口基金。母子保健やリプロダクティブ・ヘルス=性と生殖に関する健康を扱う)や、気候交渉の国際枠組み(UNFCCC:国連気候変動枠組条約。各国が温暖化対策を協議する土台)も含まれる。米国はすでに、パリ協定のような主要な気候合意への関与を縮小しており、WHO(世界保健機関)からも正式に脱退した。深い多国間協力よりも、取引的な二国間主義へ回帰する動きと言える。

国連事務総長アントニオ・グテーレスは、この発表に遺憾の意を示しつつ、国連憲章上の法的義務を改めて強調した。国連憲章の下では、通常予算やPKO(国連平和維持活動)予算への分担金(各国に割り当てられる拠出義務)は、米国を含む加盟国すべてに拘束力を持つ。さらに、米国が撤退しても、国連機関は支援を必要とするコミュニティのために活動を続けると強調した。

ただしこの動きは、国連などがすでに深刻な内部課題に直面しているという背景のもとで起きている。批判者は、こうした問題が組織の正当性を損ない、統治(ガバナンス)の欠陥を示していると主張する。例えば、国連平和維持要員や職員による性的搾取・虐待(SEA:Sexual Exploitation and Abuse)をめぐる通報は繰り返し報告され、数百件の事例が記録されてきた。指導部の対応の信頼性にも懸念が示されている。

Photo: United Nations Peacekeeping helps countries torn by conflict while creating conditions for lasting peace. Credit: United Nations.
Photo: United Nations Peacekeeping helps countries torn by conflict while creating conditions for lasting peace. Credit: United Nations.

2024年だけでも、平和維持活動や政治ミッションで100件を超える通報が報告され、職員調査では、不適切行為に対する甘い認識もうかがえた。こうした虐待は偶発的な不祥事ではない。権力格差が搾取やハラスメントを可能にし、透明性と説明責任が後れがちな組織文化が根強いことを、研究者や人権擁護団体は繰り返し指摘してきた。

だからといって、多国間協力という理念そのものが否定されるわけではない。しかし、現行の制度が「公正で有効なガバナンス(統治)」だと言い切れるのかは、確かに問われている。

国際NGO(INGO:International Non-Governmental Organization。国境を越えて活動する民間支援団体)にも、同様に厳しい目が向けられている。援助関係者による性的搾取・虐待の事例や、組織の優先順位が現地のニーズよりドナー(資金提供者)の意向に引きずられやすい構造などが批判の対象だ。2024年の人道支援分野における性的搾取・ハラスメントに関する研究は、権力格差と、ルールを徹底し是正する実効性の弱さが、過少報告と不十分な対応を生んでいることを明らかにした。

国連や人道支援分野におけるこれらの問題は、「被害者や地域社会よりも、組織の評判を守ることが優先されがちだ」という不満を増幅させる。その不満が、一部の米国政策担当者に、これらを「時代遅れで腐敗した組織」と見なさせる土壌になっている面もある。

しかし、だからといって「去る」ことが解決ではない。説明責任を徹底し、検証と是正の仕組みを強化する代わりに見捨てれば、国際ガバナンスを空洞化させたい勢力を利するだけである。

Ⅲ 二人三脚でなければ踊れない

では、協力が壊れ、植民地的な衝動が蘇るこの状況で、米国だけが悪役なのか。結論は、部分的にはそうだ、である。

近年の米国の対外政策が国際規範を傷つけてきたことは否定できない。主権国家への軍事介入、主要条約や国際機関からの撤退、多国間協力を政治問題化して拒む姿勢は、「共有されたリーダーシップ」からの後退を示している。

しかし、多国間制度が本質的に有効で正しく、批判を免れるという前提もまた誤りである。危機対応の遅さ、説明責任の不透明さ、グローバル・サウス(主にアジア・アフリカ・中南米の新興・途上国を指す)の声の弱さ――国際統治の構造的な弱点は以前から指摘されてきた。こうした欠陥は、国際機関が政治的に利用され、機能不全に陥るリスクを高め、解消すべき不平等を温存しかねない。

国連や国際援助の現場(人道・開発支援分野)で起きてきた失敗は、米国だけの責任ではない。そもそも制度の出発点から、西側の資金拠出国(ドナー)を中心とする権力序列が組み込まれてきた、世界システムの問題でもある。

「新しい植民地主義」は、19世紀の征服のような露骨な形では現れない。「国益」「安全保障」「制度改革」といった語りの中に織り込まれている。強大国が人道や「自衛」を名目に軍事力を誇示する場合であれ、小国を守るための合意から離脱する場合であれ、現れる構図は同じである。力は行使可能な場所で自己主張し、多国間の規範は選択的に扱われる。

いま示されているのは、多国間主義を救うために必要なのは放棄ではなく、説明責任の徹底と制度の刷新だという点である。国際協力を掲げる国々は、統治の中に残る植民地の遺産に向き合い、制度の透明性を高め、不正や弊害を検証し是正する仕組みを強化し、意思決定をより民主的なものへ改めなければならない。

同時に、強大国は、共通の制度から撤退したり、それを自国の限定的利益のために利用したりしても、力の不均衡は是正されないことを認識すべきだ。むしろ固定化される。

結局、意味ある国際協力は、一国の事業でも、強者のネットワークによる事業でもあり得ない。必要なのは、共通善(公共の利益)に向けた連帯であり、妥協だけでなく、ときに負担や犠牲を引き受ける覚悟に支えられた、真の公正である。(原文へ

UN Photo
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アッザ・カラムはLead Integrity(リード・インテグリティ)の代表。オクシデンタル大学カハネUNプログラムのディレクター。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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|ウクライナ|ロシアの攻撃と致命的な寒波で「生き延びるだけの生活」 家族を追い詰める

【ジュネーブINPS Japan/UN News=ダニエル・ジョンソン】

ウクライナ各地の家族は、ロシアによるミサイルや無人機(ドローン)の攻撃が相次ぐ中で、「常に生き延びるだけの生活(サバイバル・モード)」に追い込まれている。攻撃によって電力が途絶え、集合住宅の一部では数日間にわたり停電が続く一方、気温は命に関わる寒さまで落ち込んでいる。国連児童基金(ユニセフ)が1月16日に明らかにした。

「家族は凍える寒さを少しでも遮ろうと、窓にぬいぐるみのような柔らかい玩具まで詰め込む状況に戻ってしまっている。」と、ユニセフのウクライナ事務所代表ムニル・ママザデ氏は語った。

Map of Ukraine

今回の警鐘は、南部ザポリッジャ州と東部ハルキウ州で電力インフラが攻撃を受けたと報告された、別の夜の事案を受けたものだ。これらの攻撃により、多くの住宅地で電気と暖房が失われたという。

「エネルギー網への攻撃がもたらす致命的な寒さの脅威は、戦争に上乗せされた『国規模の緊急事態』になりつつある。」と、ママザデ氏はジュネーブでの定例記者会見で語った。

同氏は、金曜日のキーウの気温がマイナス15度(華氏5度)に達したことを挙げ、来週はさらに冷え込む可能性があると警告した。国内の何百万人もの家族が、暖房、電気、水の供給なしに暮らしているという。
「そのため、子どもと家族は常に生き延びるだけの生活を強いられている。」と語った。

支援の重点が変化

これまで人道支援の焦点は前線地域に置かれてきた。しかし、住宅地を含む都市インフラへのロシアの攻撃が絶えないことで、集合住宅で暮らす人々のニーズが、はるかに複雑であることが浮き彫りになっている。

例えばキーウ在住のスヴィトラーナは、10階の部屋で3歳の娘アディナの世話を何とか続けている。「彼女は、暖房も電気も3日以上ない状態が続いたと話してくれた。それは混乱の最初の週のことで、私たちはすでに2週目、あるいは3週目に入ろうとしている。いまも多くの家族が、供給なしの生活を続けている。」と、ママザデ氏は語った。

ウクライナ政府からのこうした懸念に呼応し、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)のハイメ・ワー氏は、これまでハルキウやオデーサへの攻撃後は「数日で」電力が復旧してきた一方、首都の状況はより厳しく見えると語った。ジュネーブの記者たちにビデオで語りながら、寒さで手をこすり合わせていたワー氏は、「キーウでは停電が長期化し、影響を受ける人口も多い状況に直面している。」と語った。

ロシアの全面侵攻開始から間もなく4年となるが、「子どもの生活はいまも、生存のことばかりに支配され、子ども時代ではなくなっている」と、ユニセフのママザデ氏は警告した。2025年に確認された子どもの死傷者は、前年に比べて11%増加したという。

ユニセフは、ウクライナの都市部で脆弱(ぜいじゃく)な人々を支えるため、大型の共同テントを支援している。そこでは体を温められるほか、ゲームや玩具で遊ぶこともできる。

ウクライナ・キーウで冬の停電が起きた際、移動式テントの中で暖を取り、支援を受ける家族。


「スヴィトラーナは、アリナを入浴させることも、温かい食事を用意することもできない。そこで娘に何枚も衣類を重ね着させ、暗い階段を10階分下って、ウクライナ国家非常事態庁が外に設置したテントに向かう」と、ママザデ氏は説明した。「そこでは暖を取り、温かい食事を得て、端末を充電し、心理士と話すこともできる。あるいは、ただ暖かい場所に座っていられる」

ユニセフは、暗闇の中で生活し、凍える寒さに耐えることが、身体面と精神面の双方で子どもにとってとりわけ深刻な影響を及ぼすと警告する。こうした状況は恐怖やストレスを強め、「呼吸器疾患などの健康問題を引き起こしたり、悪化させたりする恐れがある。」という。

「最も幼い子どもたちが最も脆弱だ」と、ママザデ氏は語った。「新生児や乳児は体温を急速に失い、低体温症や呼吸器疾患のリスクが高まる。十分な暖かさと医療ケアがなければ、こうした状態は急速に命に関わるものになり得る。」(原文へ

INPS Japan/UN News

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|タジキスタン|国際水準と低コストを両立 医学教育の新たな留学先

【ドゥシャンベLondon Post=ラザ・サイード】

タタジキスタンは近年、医学教育の進学先として注目が高まっている。教育の質、費用の手頃さ、文化的な親和性に加え、政府の後押しもあり、とりわけ南アジアの学生にとって有力な選択肢になりつつある。同国は、イブン・シーナー(アヴィセンナ)の遺産に連なる医学の伝統を持つ。その土台の上で国際水準に沿った近代化を進めながら、学生本位でコストを抑えた学習環境を維持してきた。

Raza Syed
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南アジア――とりわけインド、パキスタン、バングラデシュでは、限られた医学部定員をめぐる競争が激しいうえ、私立校の学費も高騰している。結果として、多くの学生が海外に活路を求めるようになった。こうした状況の中で、タジキスタンは旧ソ連型の厳格な教育を基盤に改革を進め、世界水準の医学教育を比較的低い費用で提供している点が評価されている。文化的に馴染みやすく、自然景観にも恵まれた環境も、学びの場としての魅力を後押しする。

タジキスタンが医療の高度化に取り組む背景には、独立後に掲げたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の国家ビジョンがある。世界保健機関(WHO)の指針に沿い、欧州連合(EU)など国際パートナーの支援も得ながら、政府は「国家保健戦略(2030年まで)」と「2024~2026年行動計画」を進めている。重点は、一次医療(プライマリ・ヘルスケア)の強化、非感染性疾患への対応、都市と農村の格差縮小である。

Cropped and flipped portrait of Ibn Sina (Avicenna) from a Tadjik banknote
Cropped and flipped portrait of Ibn Sina (Avicenna) from a Tadjik banknote

具体策として、2025年にはスグド州でパイロット事業が始まり、自己負担の軽減とサービスの質の向上を狙う新たな財源・支払いの仕組みが導入された。こうした改革は国内の医療課題への対応にとどまらず、医学教育機関の対外的な信頼性と存在感を高め、費用面の壁なく高度な訓練を求める南アジアの学生にとっての魅力を強めている。

この体系の中核にあるのが、首都ドゥシャンベのアヴィセンナ・タジク国立医科大学(Avicenna Tajik State Medical University=ATSMU)である。1939年創設で、ペルシャの博学者イブン・シーナー(アヴィセンナ)にちなんで命名された。ATSMUは、規律と臨床重視を特徴とする旧ソ連型の教育モデルを基盤にしつつ、シミュレーション施設、研究センター、家庭医療(総合診療)のカリキュラムなど、現代的な教育要素も取り入れている。

ATSMUでは、一般医学(MD/MBBS)や歯学、公衆衛生などを英語で学べるプログラムを用意し、提携する15の関連教育病院を通じて早期から臨床実習の機会が得られるとしている。留学生は500人を超え、近年はパキスタン出身者が約450人に上るとされるほか、インドやバングラデシュからの学生も多い。

このほか、ダンガラのハトロン州立医科大学やタジキスタン医療社会研究所などが、学際的な教育やシミュレーション実習、卒後研修を提供し、ATSMUを補完している。卒後教育は、卒後教育研究所(Institute of Postgraduate Education)を通じた研修・専門教育として位置づけられている。

学位の扱いについては、各国の関連機関の要件や国際的な枠組みに照らし、卒業後にインドのFMGE/NExT、米国のUSMLE、英国のPLABなど各種ライセンス試験を目指せる点が強調されている。理論と実践の双方で通用する力を育み、国際的な医療制度への接続を視野に入れた教育である、という位置づけである。

南アジアの学生にとって、タジキスタンの大きな魅力は費用負担の軽さにある。英語による5年制MBBSの授業料は年4,000~5,000ドル程度が一般的で、寮費や生活費を含めた総費用は在学期間全体で、インド・ルピー換算で約16~22ラーク(約160万~220万ルピー)、パキスタン・ルピー換算で約140万~150万PKR程度に収まるとされる。インドやパキスタンの私立医大で学費が高額化し、寄付金が上乗せされる例もある現状と比べれば、負担は相対的に小さい。

Ma p of Tajikistan

入学は成績重視で手続きが比較的明確であり、一般に高校相当課程で理科(物理・化学・生物)の成績50~60%が求められる。インド人学生はNEET合格が必要で、いわゆる「キャピテーション・フィー(裏口入学金)」はないとされる。生活費も月150~200ドル程度と比較的抑えられ、学内の学生寮ではハラール食や南アジア向けの食事を提供する学生寮の食堂(メス)が整い、同じ文化圏の仲間と支え合える環境があるという。

教育費の高騰と世界的な医療人材不足が同時に進む中、タジキスタンは「手頃な費用で質の高い教育機会を提供する」という方向性を強めている。文化的背景にも配慮した訓練環境を整えることで、人材流出の圧力を和らげ、卒業生が母国で貢献する道と国際的に活躍する道の双方を開く狙いがある。改革が進み、パイロット事業の成果が全国展開されれば、同国は医師養成にとどまらず、包摂的な医療を担う人材育成の拠点としての存在感を高める可能性がある。南アジアの志願者にとって、タジキスタンは学位取得を超えたキャリア形成の選択肢になりつつある。(原文へ

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London Post
注記:最近、MBBS Abroad Consultancy Pvt LtdのCEOでありAPP特派員でもあるシャムス・アバシ氏が率いるパキスタン人ジャーナリスト団(団長:ムハンマド・アバス・マハール博士)がドゥシャンベを訪問し、タジキスタンの大学で医学教育を受けるための施設・環境を調査した。筆者はこの件に関連し、アバシ氏から訪問の詳細について情報提供を得た。本稿はそれに基づいて執筆した。また、この訪問の成功と各種支援においては、駐パキスタン・タジキスタン大使H.E.ユスフ・シャリフゾダ・ティオル閣下の役割が重要であった。大使は両国関係、ビジネス、投資における新規プロジェクト創出に向け、重要な役割を果たしている。

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ニューデリーの危険な賭け:変動する地域秩序の中でタリバンを迎え入れること

【ニューデリーLondon Times=ヌーラルハク・ナシミ】

歴歴史的な展開として、10月9日、インド政府はタリバン暫定政権のアミール・カーン・ムッタキー外相を受け入れた。2021年8月にタリバンが権力を掌握して以降、初の高官級訪問である。時期の選定は偶然ではない。ロシアがタリバンを正式承認し、中国も関与拡大の姿勢を示す中、地域の力学は変化し、アフガニスタンにおけるインドの伝統的影響力は相対的に弱めつつあった。

Vladimir Putin. Photo: ЕРА
Vladimir Putin. Photo: ЕРА

昨年7月、ロシアは、タリバンが2021年に政権を再掌握して以来、同暫定政権を正式に承認した最初の国となった。あわせて、事実上の政権を「テロ組織」指定リストから外した。これは場当たり的な外交判断ではなく、段階的に進めてきた関与の延長線上にある。ロシアは米軍撤退後もカブールの大使館を閉鎖せず、2022年には石油・ガス・小麦をめぐる合意を結ぶなど、タリバン指導部との関係を着実に深めてきた。

ロシアの決定が「ドミノ効果」を生み、他の地域大国が追随するのではないかとの観測は、以前から強まっていた。その有力候補として浮上したのが中国である。中国はロシアの判断を速やかに歓迎し、外務省の毛寧報道官は「アフガニスタンを国際社会から排除すべきではない」と述べた。この発言は儀礼的な域にとどまらず、明確な戦略的意図を示すシグナルと受け止められた。

Image: President Xi Jinping of China, 10 March 2023. Credit: Xinhua News
Image: President Xi Jinping of China, 10 March 2023. Credit: Xinhua News

中国が重視するのは、アフガニスタンの鉱物資源に加え、戦略的要衝としての地理的位置、そして新疆への過激派脅威を抑える安全保障上の緩衝地帯としての価値である。中国がタリバン暫定政権を正式承認すれば、北京—モスクワ—イスラマバード—カブールの連携が固定化し、地域の新たな経済・安全保障の枠組みの中でインドが周縁化される可能性がある。

こうした構図のもと、インド政府は二重のジレンマに直面する。ロシアの承認と中国の関与拡大は、地域連結性プロジェクトや安全保障調整からインドを排除する方向に働き得る。さらに、ロシアと中国の外交的後ろ盾のもとでタリバン—パキスタン協力が進めば、アフガニスタンに活動拠点(いわゆる安全地帯)を得た反インド武装勢力が勢いづく恐れもある。他方で、タリバンのムッタキー外相を受け入れることは、インドが道義的立場を損ない、人権や民主主義の原則より現実主義(リアルポリティクス)を優先したと受け取られかねない。

Map of India
Map of India

それでも、インドが地域的影響力を守り、過激主義の脅威がさらに根を張ることを防ぐのであれば、傍観者でいる余地はない、という指摘には一理ある。

ただし、その際には、関与が事実上の統治当局(タリバン暫定政権)への正統性付与と受け取られないための具体的な枠組みが欠かせない。たとえば、人道支援を継続しつつ、現地のNGOや信頼できる国際機関と連携して支援を届ける方法がある。国外にいるアフガニスタンの女性や少女に対して大学奨学金を拡充することも可能だ。さらに、タリバンの制限を回避する手段として、オンライン学習プラットフォームやデジタル教室の整備を支援する選択肢もある。世界有数のIT大国であるインドには、こうした分野で独自に貢献できる余地がある。

戦略面では、タリバン暫定政権とのいかなる関与においても人権を中心に据え、同政権に代わり得る政治的選択肢を育てる視点が重要となる。筆者はこの5年ほど、ロンドンの慈善団体「Afghanistan and Central Asian Association(ACAA)」の創設者兼ディレクターとして、タリバンに対抗し得る組織的な政治的反対勢力の必要性を訴えてきた。亡命下であれ国内であれ、民主主義原則と人権に根差す代替ビジョンを提示できる反対勢力は、タリバンが国際社会で「アフガン国民唯一の声」と見なされることを防ぐうえで、重要な対抗軸になり得る。

Photo: The UN has been supporting displaced families in Afghanistan, providing emergency shelter and protection. Credit: IOM/Mohammed Muse
Photo: The UN has been supporting displaced families in Afghanistan, providing emergency shelter and protection. Credit: IOM/Mohammed Muse

その例の一つが、ダリウス・ナシミ(ACAAの資金調達・パートナーシップ責任者)が設立した「Afghanistan Government in Exile(AGiE)」である。AGiEは、人権、民主主義、安定を掲げる包摂的連合であり、タリバンへの対抗軸として機能し得る。

一般のアフガン市民の苦境は、すでに深刻である。パキスタンとイランから数千人規模が強制送還され、タリバンが十分な保護や生計支援を提供できない状況下のアフガニスタンへ戻されている。国内人口の3分の2が支援を必要としている一方、人道支援の財政と体制は逼迫し、医療も崩壊の瀬戸際にある。国際的な「ドナー疲れ」、米国の支援凍結、国際社会の関心の移行を背景に、人道資金は急減している。送還された人々は逮捕や拷問、さらには処刑の危険にさらされている。教育、就労、移動の自由を奪われた女性と少女もまた、権利を剥奪された生活へと送り返されている。

Photo: US troops leaving Afghanistan. Source: Daily News, Sri Lanka.
Photo: US troops leaving Afghanistan. Source: Daily News, Sri Lanka.

状況をさらに悪化させ得る要因として、英国はARAPとACRSの終了を発表した。両制度は、NATOや英軍に協力し、タリバンによる迫害から逃れるアフガン人にとって、英国での再定住に向けた数少ない合法的ルートだった。英国国防省の個人情報流出を受け、情報が流出した対象者は現在も危険にさらされている。ACAAはこの発表を受け、ARAP終了の是非を争う司法審査(judicial review)の申立てに向けた法的手続きの準備に着手した。

世界が一般のアフガン市民の苦しみを忘れ去りかねない今、インドには、人権を軸に国際的対応を主導する余地がある。アフガンの人々の民主的な代表性を確保し、人権を求める取り組みをつなぎとめるためである。

ヌーラルハク・ナシミは(ACAA=Afghanistan and Central Asian Association)の創設者兼CEO。

Original URL: https://londonpost.news/new-delhis-risky-gamble-hosting-the-taliban-amid-a-shifting-regional-order/

INPS Japan

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