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|ブルキナファソ|3年の破られた約束


【モンテビデオ/ウルグアイIPS=イネス・M・ポウサデラ】

3年前、イブラヒム・トラオレ大尉は二つの約束を掲げて権力を掌握した。深刻化する治安危機への対応と、民政復帰である。しかし、この二つはいずれも空約束に終わった。トラオレ政権は選挙を2029年まで延期し、独立選挙管理委員会を解散、さらには西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)国際刑事裁判所(ICC)からの離脱を決めた。ブルキナファソは今や完全な軍事独裁国家となった。

その道のりは2022年1月に始まった。文民政府がジハード主義者の暴力に対処できないことへの抗議が高まり、ポール=アンリ・サンダオゴ・ダミバ中佐によるクーデターの口実となった。移行政権はECOWASと合意した2年以内の民政移管を約束したが、8カ月後にはトラオレが2度目のクーデターを主導し、ダミバが反乱勢力の鎮圧に失敗したと非難した。

Burkina Faso
Burkina Faso

そして、トラオレが約束した2024年6月の選挙期限が近づくと、軍事政権は「国民対話」を開催したが、多くの政党はこれをボイコットした。結果として採択された憲章は、トラオレの任期を2029年まで延長し、次期選挙への出馬も認めた。移行期間だったはずの体制は、個人的権力の恒久化へと姿を変えた。さらに、2024年12月にはアポリネール・ジョアシャン・キレム・デ・タンベラ首相を解任し内閣を総辞職させ、民間人参加の体裁も完全に放棄した。

軍が権力を固定化する中で、市民的自由は急速に失われた。CIVICUSモニターは2024年12月、ブルキナファソの市民空間を「抑圧」と格下げし、恣意的拘束やとりわけ恐るべき手法――批判者の強制徴兵――による沈黙化を指摘した。2024年6〜7月に拉致された4人のジャーナリストは、軍の中に「消え」、当局は彼らを「入隊させた」と発表した。2025年3月には、言論弾圧に抗議していた3人の著名ジャーナリストが10日間にわたり強制失踪し、再び姿を見せたときには軍服を着せられていた。職業的独立性は銃口の前で消し去られた。

市民社会活動家も同様の運命を辿った。Sensという政治運動の5人のメンバーは、民間人殺害を非難する声明を発表した直後に拉致された。同団体のコーディネーターである人権派弁護士ガイ・エルヴェ・カムは、軍批判を理由に繰り返し拘束されている。2024年8月には、政権支持者を捜査していた7人の判事・検察官が徴兵された。6人は軍基地に連行され、それ以降消息不明のままである。徴兵を武器化することで、市民の意思表示が「国家防衛」の名の下に犯罪化されている。

一方、クーデターの大義名分とされた治安情勢は、むしろ劇的に悪化した。イスラム主義過激派による暴力の死者数はトラオレ政権下で3倍に増え、軍に対する最悪の攻撃10件のうち8件が彼の統治中に起きている。軍が実効支配し自由に行動できる地域は、国土の約3割にまで縮小した。

軍と同盟民兵組織は大規模な残虐行為を犯しており、2024年前半だけで民間人の犠牲者は1,000人を超えた。2024年2月には、イスラミストによる攻撃への報復として、少なくとも223人――そのうち56人は子ども――が軍により銃殺されたとされる。

紛争により数百万人が国内避難民となり、独立推計ではその数は300万〜500万人に達し、政府が2023年3月に公表した約200万人という公式数字を大きく上回る。国境を越えて逃れる人もいる。2025年4月から9月の間だけで、約51,000人の難民がマリのコロ・セルク地区に流入し、脆弱な公的サービスに頼る現地コミュニティを圧倒している。さらに、肝炎E、麻疹、ポリオ、黄熱など複数の疫病が同時に発生し、ブルキナファソの人道危機に拍車をかけている。

こうした失敗への説明責任を回避するため、軍政は国際的監視から撤退しつつある。ECOWASの「外国の影響」を批判し、テロ対策への支援が不足したと主張しながら、2024年1月にマリ、ニジェールと共にECOWASを脱退。9月にはICCからの脱退を表明し、人権侵害者を裁く国際機関を「新植民地主義の道具」と歪曲した。これにより、超法規的殺害、拷問、戦争犯罪の被害者が正義を求める現実的な道は閉ざされた。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

その一方で、政権のオンライン・プロパガンダは驚くほど効果的である。トラオレは「西洋帝国主義と闘う若き汎アフリカの英雄」というイメージを巧みに築いてきた。一部のアフリカの若者やディアスポラにとって、彼は腐敗した政治や旧宗主国との関係を断ち切るために必要なカリスマ的指導者として映る。しかし、この名声は、成果を誇張し、人権侵害を過小評価し、国際機関からの離脱を“抵抗”として演出する広範な偽情報の上に成り立っている。

軍政の反帝国主義的レトリックは、単純な現実を覆い隠している。フランス軍を追放した後、ブルキナファソは代わりにロシアへと傾いた。ロシアの民間軍事会社は国軍と広範に行動を共にしているが、人権尊重を促すことはなく、ウクライナ戦争で批判されるウラジーミル・プーチンへの盾として機能している。最近では、ロシア政府系企業とされる団体に金採掘の権益も付与した。

それでも民主主義の理想は生き残っている。市民社会の指導者は声を上げ続け、ジャーナリストは報道を続け、野党勢力は組織化を進めている。大きな危険を承知のうえでの行動である。その勇気には、単なる懸念表明以上の支援が必要だ。

トランプ政権がUSAIDプログラムを突然打ち切った今、他の国際ドナーは一歩踏み出し、強い制約下でも活動を続ける市民社会団体や独立メディアを支える緊急資金メカニズムを構築しなければならない。地域機関は人権侵害に責任を負う当局者への標的制裁を科し、民政復帰への圧力を維持すべきだ。国際社会がブルキナファソの民主勢力と連帯し続けなければ、この国は「軍事統治がいかに不可逆的か」を示すもう一つの警鐘となりかねない。(原文へ

イネス・M・ポウサデラ:CIVICUSリサーチ・分析部門責任者、『CIVICUS Lens』共同ディレクター・ライター、『市民社会の現状報告書』共著者、ウルグアイORT大学 比較政治学教授。

INPS Japan/IPS UN Nureau Report

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宗教的・倫理的論争:核兵器開発はイスラームにおいてハラール(許容)か

【ロンドンLondon Postラザ・サイード、ロリサナム・ウルゴヴァ】

核兵器の開発・保有・使用がイスラーム法に照らしてハラール(許容)なのか、あるいはハラーム(禁忌)なのか――この問いは、古来の教義が究極的破壊力をもつ現代技術と交差する倫理的試金石である。それは単なる法解釈の問題ではなく、ムスリム多数国の政策判断、さらには世界のウンマ(共同体)の良心に向けられた根源的な問いでもある。

ここに横たわるのは明白な緊張である。慈悲、節度、生命の不可侵を中核とするイスラーム倫理は、核抑止という破局的な安全保障論理を受容し得るのか。法学的見解は二層に分かれつつも、結論はほぼ収斂している。すなわち、抑止を目的とした限定的保有に一定の余地を認める議論は存在するものの、核兵器の使用はいかなる状況でも許されないという点で、学説的合意は圧倒的である。

聖典が示す枠組:越境の禁止と生命保護

この難題に対し、学者たちはコーランとスンナ(預言者ムハンマドの言行)という基本法源に立ち返る。これらは、戦闘に関する区別・比例・必要性の三原則を明確に定め、武力行使を厳しく限定し、苦痛の最小化を求めている。

prayer
prayer

コーランはこう命じている。
「あなたがたを攻撃する者と戦え。ただし越境してはならない。神は越境する者を愛さない」(2章190節)

ここでいう越境(ラ・タʾタドゥ)とは、侵略の開始、非戦闘員の殺害、過剰あるいは無差別な武力行使を禁じる包括的な規範を指す。預言者ムハンマドも軍勢に対し、「老人や幼児、子ども、女性を殺してはならない」と明確に禁じた。

さらに「ひとりの無辜の生命を奪うことは、全人類を殺したも同然である」(5章32節)と記されるように、生命の不可侵は普遍的原理として確立されている。

初代カリフのアブー・バクルも兵士に命じた。女性、子ども、老人、聖職者、家畜や果樹に害を加えてはならない。戦闘はあくまで軍事的必要性に限定され、破壊そのものが目的となってはならない。

この倫理的基盤は、核兵器の性質――熱、爆風、放射線、そして世代的な環境汚染(ファサード・フィル・アルド)――が区別原則に反し、無差別殺傷と環境破壊を避け得ないという点で、イスラーム倫理と核兵器のあいだに本質的な緊張関係をもたらす。

抑止論:限定的保有の論理

核戦力の保有を擁護する論者が拠り所とするのが、次の一節である。
「あなたがたは力の限りを尽くして備えよ…敵を畏怖させるために」(8章60節)

ここから導かれるのが、抑止(ラドʿ)の概念である。すなわち、十分な軍備を保持することで攻撃を抑え、共同体を保護するという論理である。これは、公共善(マスラハ)および緊急必要(ダルーラ)の原理に基づく防衛権として解釈される。

しかし、この許容範囲はきわめて狭い。学者の大半は、抑止の枠を超えて核兵器を現実に使用することは、いかなる状況においても容認されないと結論づけている。

「核兵器の使用は絶対的にハラームであり、いかなる抑止論もその境界を越え得ない」

すなわち、許容の余地は保有に限られ、核兵器の使用はイスラーム法上、絶対的禁忌(ハラーム)とされる。

禁止論:倫理的障壁

支配的な立場は、核兵器を意図ではなく、その兵器特性そのものにおいて非合法・非倫理的なものとみなす。すなわち、核兵器は区別原則に反し、比例性を欠き、放射線被害と環境破壊(ファサード)を世代にわたって残す。

主要な宗教機関――OIC傘下の国際イスラーム法学アカデミーやアル=アズハル――は、大量破壊兵器を「それ自体が悪」「人類に対する罪」と明確に断じている。これは、シャリーアの究極目的(マカースィド)である生命・信仰・知性の保全と根本的に矛盾する。

矛盾の事例:ファトワと「イスラーム核」

イラン:禁忌ファトワと戦略的曖昧性

最高指導者ハーメネイー師は、核兵器をハラーム(禁忌)とするファトワを繰り返し表明してきた。ただしその文言は、核使用を罪とする一方で、製造や保有能力に関する閾値を明確にせず、解釈上の余地を残している。
2021年、アラヴィー情報相が「追い詰められた猫は違う振る舞いをすることもある」と発言したのは、この曖昧性を暗に認めたものと受け止められた。こうした禁忌は倫理原則であると同時に、国家的抑止の柔軟性を支える政治的装置としても機能している。

Image Credit: debatepolitics
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パキスタン:「イスラーム抑止」

唯一のムスリム核保有国であるパキスタンは、核抑止をイスラームに基づく防衛の正当性として位置づけてきた。8章60節とダルーラ(緊急必要)の原理に依拠し、核戦力を一貫して「防衛的抑止」として正当化する立場である。しかし、その破壊力と無差別性は、国内外のイスラーム法学者に重大な神学的・倫理的懸念を生じさせている。

結論:倫理的指導性と核軍縮の要請

核兵器をめぐるイスラーム論争は、単純な二分法には収まらない。それは、抑止を目的とした限定的保有の可能性と、核兵器の使用を絶対的に禁ずる立場とのあいだにある緊張関係に根ざしている。

倫理的潮流は明確に禁忌化と軍縮へと傾いており、国際宗教対話や国連枠組みを通じて発せられる多宗教声明は、核抑止論が未来世代の保護という理念と両立し得ないという現実を浮き彫りにしている。

真の安全保障は核の均衡ではなく、勇気、信仰、平和と完全軍縮への共同努力に存する。

原文へ

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ロシアと核軍備管理の未来―抑止と軍縮のはざまで

【バイユーLondon Post=シュチタ・ジャー】

冷戦終結以来、世界の核秩序はかつてないほど脆弱な局面にある。新戦略兵器削減条約(新START)は2026年2月に失効を迎えるが、代替枠組みに向けた本格交渉は進展していない。こうした空白の中で、ロシアの核態勢は今後の戦略的安定を左右する決定的な要因となっている。ロシアは世界最大の核弾頭保有国であり、2024年9月時点で約5,580発を保有し、このうち1,588発が新STARTの計算方式に基づく戦略配備戦力に分類される。

ロシアは核三本柱(陸・海・空)を維持し、RS-28「サルマト」ICBM、ボレイA級潜水艦と「ブラヴァ」SLBM、Tu-160M2戦略爆撃機、さらに極超音速滑空体「アバンガルド」や原子力駆動無人魚雷「ポセイドン」など全階層の近代化を推し進めている。これには核戦力の生存性確保に加え、米国・NATOの技術的優位性を相殺する意図が含まれている。|トルコ語

Image: A short-range Iskander missile system test flight test. Russian intermediate-range missiles, like the controversial 9M729, are launched from similar platforms. Credit: Russian Defense Ministry.
Image: A short-range Iskander missile system test flight test. Russian intermediate-range missiles, like the controversial 9M729, are launched from similar platforms. Credit: Russian Defense Ministry.

数十年をかけ構築された軍備管理の安定構造は、現在崩壊の瀬戸際にある。第一次戦略兵器制限交渉(SALTⅠ)から新STARTに至る条約群は半世紀以上にわたり戦略核戦力を制限・削減し、透明性と予測可能性を提供してきたが、その時代は終焉に向かっている。ロシアが2023年に新START履行を停止したことで検証機能は麻痺し、双方は不確実性の高い状況下で運用せざるを得なくなった。さらに2023年11月の包括的核実験禁止条約(CTBT)批准撤回は、ロシアが制約なき核開発環境を受容する姿勢を明確に示した。新STARTの上限が消失すれば、ロシアは既存システムへの弾頭追加によって戦略配備戦力を最大60%増強することが理論上可能となる。

ロシアは期限延長案を示しているものの、それは暫定措置に過ぎず、実質的解決策ではない。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)など専門家は、米露間の核軍備管理は「ほぼ終焉段階」にあると指摘し、この空白は新たな複合型軍拡競争を誘発する恐れがある。

ロシアは、2022年のウクライナ侵攻以降、核戦力の運用や威嚇的な核言説を通じて、軍備管理体制と国際規範の双方を著しく損なってきた。

戦術核兵器のベラルーシ配備、欧州での限定的核使用を想定した演習、そして継続的な核威嚇は、抑止と強制外交の境界を曖昧にし、核タブーの弱体化を招いている。さらに、2020年および2024年のドクトリン改訂により、核使用の閾値は実質的に引き下げられ、ベラルーシへの攻撃、大規模な航空宇宙攻撃、主権の重大な侵害が核使用を正当化しうる事態として明記された。こうした核シグナリングは、NATOの関与抑制と政治的譲歩の強要を狙った意図的手段として位置づけられている。

NATO.INT
NATO.INT

こうした行動をめぐっては、専門家の見解が大きく分かれる。クライシス・グループのオルガ・オリカー博士は、ロシアはもはや米露二国間の法的拘束力ある軍備管理を志向しておらず、抑止安定の基盤を「数的均衡」ではなく二次報復能力に置いていると分析する。この見方によれば、条約停止は感情的反応ではなく、「制約なき核環境への適応」を示す政治的シグナルであり、ロシアは「軍備管理」から「リスク管理」へ軸足を移しつつある。2026年以降の後継枠組みをめぐっても、ロシアは欧州配備の中距離ミサイル、中国の核戦力、宇宙領域を交渉範囲に含めるよう主張しているが、米国はこれを受け入れていない。

これに対し、元カーネギー・モスクワセンターのドミトリー・トレーニン教授は、ロシアは相互確証破壊(MAD)に依拠した抑止構造から、限定核使用を含むエスカレーション優位への意図的転換を進めていると指摘する。戦術核の域外配備や繰り返される演習は、単なる威嚇的抑止ではなく、強制外交(戦争を開始することなく相手の行動を変えさせるため、軍事力の示威や限定的圧力を用いて意思決定を強いる手法)の実効的手段として位置づけられつつある。その観点から、軍備管理体制はもはや有効な安全保障枠組みではなく、冷戦期の制度的遺産にすぎないと論じている。

Nuclear weapons sent by Russia to Belarus will target Europe. Source: YouTube Kanal 13 Global
Nuclear weapons sent by Russia to Belarus will target Europe. Source: YouTube Kanal 13 Global

その他の専門家も、この議論の分岐を補完している。イワノフ博士は、軍備管理を制約ではなく交渉レバレッジと捉え、違反行為を戦術的圧力として読み解く。一方、ペトロワ博士は、ドクトリンの曖昧化が誤算の誘発につながり、ポセイドンのような新型戦略兵器が安定性を損なうと警告する。モロゾフ博士がロシアを「多極秩序における規則更新の主体」と位置づけるのに対し、グラント教授は、ロシアを「核の脅しを交渉カードとして用い、相手に譲歩を迫る国家」と評価する。これらの分析は、抑止、条約、そして信頼という、核軍備管理が直面する三重の課題を浮き彫りにしている。

Image: President Xi Jinping of China, 10 March 2023. Credit: Xinhua News
Image: President Xi Jinping of China, 10 March 2023. Credit: Xinhua News

状況をさらに複雑化させているのが、多極化しつつある核秩序である。中国は2035年までに弾頭数を1,500発規模へ拡大する可能性があり、インド、パキスタン、北朝鮮も核戦力の増強を続けている。AI、サイバー、極超音速兵器、宇宙といった新興領域は、従来の兵器数管理型条約が抱える構造的限界を明らかにしている。世論調査では、抑止と軍縮は両立し得るとの認識が広がる一方、最も緊急の課題はリスク削減であることが示されている。

この岐路を脱するには、実務的な措置が不可欠である。条約が不在の状況でも、米露はデータ交換や軍事間通信を維持し、誤算の回避を確保する必要がある。発射即応態勢の解除(二次警戒化)、二重用途システムの明確化、核指揮統制系統へのサイバー干渉に関する規範策定といったリスク削減措置は、偶発的核使用の可能性を確実に低減する。将来的には、米露中の三者による凍結から着手し、他の核保有国を含む枠組へ拡張する道が開かれよう。検証制度も新技術へ適応し、国際機関は条約が停止している状況でも監視が可能な次世代検証ツールを整備する必要がある。

結論は厳しい。米露間で法的拘束力と検証性を備えた核軍備管理は、当面は停止し、場合によっては恒久的に失われる恐れすらある。ロシアの最終目的については、管理されたエスカレーションに備えるための措置とみる立場と、条約外に新たな安定化モデルを構築しようとする転換とみる立場とに分かれている。ウクライナ戦争および米露関係の構造的転換が生じない限り、新たな軍備管理枠組みが成立する展望も、デタントへの回帰も現実味を帯びない。世界はいま、弾頭数の上限管理ではなく、核の生残性(報復能力)、指導部の意思決定、そして越えるべきではない境界線(レッドライン)の運用によって抑止が維持される段階へと移行している。

ガードレールの再構築に失敗すれば、核瀬戸際政策は常態化し、核拡散は加速し、「核使用」という制御不能な局面が一層現実味を帯びてくる。選択肢はひとつである。協調的安全保障とリスク削減への再コミットメントによってのみ、破局への道筋から退避することができる。核兵器が存在する限り、歴史が示すとおり、それは誤算、事故、さらには意図によって使用され得る。抑止管理と破局的衝突との岐路は、まさに今この瞬間の判断に委ねられている。(原文へ

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国連総会、山積する重複決議の負担増で“刷新”へ―効率化に向けた改革案が始動

【国連IPS=タリフ・ディーン

193加盟国から成る国連総会(GA)は、国連の最高意思決定機関として、長年にわたり数十年分の「冗長で時代遅れの決議」を蓄積し、その多くが“保管庫入り”のまま放置されてきた。

深刻な資金難に直面する国連の再構築案の一環として、いま総会の業務を整理・活性化する動きが本格化している。総会は長年、事務処理の滞留と非効率性に悩まされてきたからである。

総会議長(PGA)のアンナレーナ・ベアボック氏は、各主要委員会に対し、作業方法を見直し、効率性を高める具体策を提示するよう求めた。提案内容には以下が含まれる。

  • 類似する議題項目を統合し、重複を回避すること
  • 決議案の頻度・長さ・件数を削減すること
  • 必要に応じて隔年・3年周期の審議に移行すること
  • 投票説明(EOV)を5分以内に制限すること
  • 採択手続きを簡素化し、「ハンマー1回で1決定、すべての文書」を実現すること

これらは最近採択された決議でも明記されており、総会がより機敏かつ一貫性をもって国際課題に対応するための再設計につながるとされる。しかし、実行されなければ“紙の上の理想論”にすぎない。

ベアボック議長は警鐘を鳴らす。

「これまで通りでは通用しない。重複する決議を減らし、議論を短縮し、より賢明な日程管理が必要です。“決議のための決議”はもう終わりにすべきです。」

さらに、こうした非効率は現実に続いていると指摘する。

「日曜日に『決議を減らすべきだ』と説きながら、月曜日には新たな決議案を提出する――残念ながら、これが実際に起きているのです。」

「80年分の重荷を下ろすべき」――元国連条約局長コホナ氏

元国連条約局長でスリランカ国連大使を務めたパリタ・コホナ氏は、IPSに対し次のように語った。

「国連は80年分の決議という重い荷物を背負っている。既に不要となったもの、冗長なもの、重複するものがあまりに多い。」

同氏は、各部局・事務所が所管する決議を精査し、廃止可能なものを特定すべきだと提案する。その際は**包括的な“オムニバス決議”**で処理することもできるという。

もっとも、かつて主導した加盟国が“所有権”を主張するケースもあり、敏感な交渉が必要になる。しかし適切に進めれば、大幅な財政・人員面のメリットが得られると指摘する。

また新規決議案については、冗長性を避けるため慎重な審査が不可欠だと強調した。

「既存予算の範囲内で実施可能であっても、必ず一定のコストがかかる。資源的に実施が難しい決議案は、最初から退けるべきです。」

さらに、実施担当官は最も効果的な場所に配置すべきだとし、例としてUNDP関連の決議はナイロビ事務所に集約すべきだと提案。PKO(平和維持活動)も、活動の多くがアフリカで行われている現状からナイロビ移転を主張した。

「議題を増やし続ける総会」――ベアボック議長の苦言

ベアボック議長は、現状が改革の理念に逆行していると指摘した。

  • 資金危機が議論されている同じ場で、予算が伴わない3日間の会議を提案する委員会がある
  • ハイレベルウィーク期間には160超のサイドイベントが開催され、削減要請が無視されている
  • 来年の第81会期に向けてすでに3〜4件のハイレベル会合が提案され、翌年以降も4件ずつ提出されている
    (総会は最大3件までと決定しているにもかかわらず)

「私たちは皆、自分が大切にするものを守りたい。しかし、改革期には誰もが譲歩しなければなりません。」

「根本原因は優先順位の欠如」――元UNFPA ASGマネ氏

UNFPA元事務局次長で元ASGのプルニマ・マネ氏は、委員会の作業方法見直しは歓迎すべき“絶好の機会”だと評価する一方、現行の提案は「周辺的」だと指摘する。

「委員会が抱える最も深刻な問題は、優先順位設定が曖昧なまま広範な議題を引き受けていること、そして重要でありながら置き去りにされている課題に十分焦点を当てていないことです。」

また、加盟国の意欲が伴わなければどれほど制度を改善しても実行段階で進まないと警告した。

「議題の削減、重複回避、無限に続く議論の終結――いずれも有意義だが、決議を実施する意思がなければ何の意味もない。」

「総会改革そのものが儀式化している」――民主主義専門家ブンメル氏

国際NGO「Democracy Without Borders」の共同創設者アンドレアス・ブンメル氏は、GA改革の議論が“形骸化”してきたと指摘する。

「毎年同じ決議を繰り返すのを止めるのは当然の話で、本来ならとっくに実行されているべきだ。しかし根本改革が必要だ。」

同氏は以下を提案する。

  • 総会議長の任期を1年から2年に延長し、十分な予算を確保
  • 国連議会会議(Parliamentary Assembly)の創設
  • 市民イニシアティブ制度、シチズンズ・アセンブリーの導入

これにより、総会は国連全体の“革新と包摂”の中心になりうると述べた。

総会議長室(OPGA)も刷新へ

United Nations Headquarters  Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

ベアボック議長によれば、第80会期は第79会期からの引き継ぎが円滑に行われたことで、当初から迅速な立ち上がりが実現した。しかし、業務量は依然として膨大である。

  • ハイレベルウィークでは数日で7つ以上の主要会合を開催
  • 残り会期も、約20の政府間プロセスと複数のハイレベル会合を予定
  • 決議数はほぼ横ばいで、内容も過去会期とほぼ同一

ベアボック氏は「この状況は持続可能ではない」とし、小規模ミッションが「同時に3会合に出席できない」と悲鳴を上げている現実を強調した。

「移行は重要です。準備も重要です。総会議長が成功できるよう、制度として環境を整えなければなりません。」

(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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爆発性兵器、紛争下の子どもの犠牲の主因に — 世界の衝突地域で深刻化する被害

【国連IPS=オリトロ・カリム】

近年、世界各地の紛争は一段と苛烈さを増し、爆発性兵器による死傷者が、これまで主因だった栄養失調や疾病、医療不足を上回るようになっている。紛争が激化するなか、最も大きな犠牲を強いられているのは子どもたちであり、不処罰と資金不足が必要不可欠な保護サービスの欠如に拍車をかけている。

11月20日、セーブ・ザ・チルドレンは『Children and Blast Injuries: The Devastating Impact of Explosive Weapons on Children, 2020–2025(子どもと爆発外傷:爆発性兵器が与える壊滅的影響、2020〜2025年)』を発表した。報告書は、現在進行中の11の紛争で深刻化する爆発性兵器の脅威を、臨床研究と現地調査に基づいて分析し、小児の爆発外傷が医療現場に及ぼす影響を明らかにするとともに、予防と回復支援への国際的投資を優先すべきだと訴えている。

報告書の主任著者で、セーブ・ザ・チルドレン英国の紛争・人道アドボカシー上級顧問ナルミナ・ストリシェネッツ氏は次のように述べた。「今日の戦争で最も高い代償を払っているのは子どもたちです。武装勢力だけでなく、本来彼らを守るべき政府の行為によっても命が奪われています。ミサイルは子どもが眠り、遊び、学ぶ場所を直撃し、最も安全であるべき家庭や学校が死の罠と化しています。かつて国際社会が強く非難した行為が、いまや『戦争のコスト』として片付けられる。この倫理の後退こそ、時代の危険な兆候です。」

報告書は、紛争下で暮らす子どもたちが置かれた極めて不安定な状況を浮き彫りにする。子どもは身体の発達が不十分で回復力も弱く、爆発性兵器がもたらす外傷に特に脆弱である。にもかかわらず、医療、リハビリ、心理社会的支援は慢性的に資金不足で、大半が成人を想定して設計されているため、子ども向けの必要なケアが欠落している。

セーブ・ザ・チルドレンのデータによれば、特に頭部や胴体の損傷、火傷では、子どもは大人より死亡リスクが著しく高い。7歳未満の子どもは「生命を脅かす脳損傷」を負う割合が成人の約2倍に上り、負傷した子どもの65〜70%が体の複数部位に重度の火傷を負っている。

小児救急医で、小児爆発外傷パートナーシップ(セーブ・ザ・チルドレンと医療者の協働枠組み)の共同創設者ポール・リーヴリー医師はこう指摘する。「子どもは解剖学的・生理学的特徴、行動、心理社会的ニーズのすべてにおいて大人より脆弱です。病院に到達する前に命を落とす例も多い。生存しても多数の重傷を負い、生涯にわたる治療とケアを必要とします。しかし紛争下の医療対応の大半は大人を前提としており、子どもの特有のニーズは見落とされています。」

報告書によれば、爆発性兵器は都市中心部へ戦闘が移行するにつれて子どもに前例のない被害を与えており、昨年の紛争下で死亡・負傷した約12,000人の子どものうち、70%が爆発性兵器によるものだった。2024年の子どもの死傷の70%超が爆発性兵器由来で、2020〜2024年の59%から大幅に増加している。

この増加は、現代の紛争において子どもがどのように危険にさらされているかの変化を示すものだ。セーブ・ザ・チルドレンは、被害増大の背景にある5つの要因として、①破壊力を増幅する新技術の拡散、②民間人被害の「常態化」、③説明責任の欠如、④子どもの死傷の深刻化、⑤爆発性暴力の長期的な社会コスト──を挙げている。

2024年に子どもへの被害が最も大きかった地域は、被占領パレスチナで2,917人、次いでスーダン1,739人、ミャンマー1,261人、ウクライナ671人、シリア670人で、いずれも多数が爆発性兵器による犠牲だった。また、地雷や不発弾による犠牲者の約43%を子どもが占め、農地や学校、家屋に何十年も残存する爆発物が深刻な脅威となっている。

この2年間、セーブ・ザ・チルドレンは紛争下の子どもの保護規範が「危険なまでに後退している」と警告してきた。2023年に地雷対策として拠出された10億ドルのうち、除去に充てられたのは半分に満たず、被害者の医療支援は6%、地雷リスク教育はわずか1%にとどまった。

同団体は各国政府に対し、人口密集地での爆発性兵器の使用停止、子ども保護政策の強化、そして被害児童の支援・研究・回復への投資拡大を求めている。

国連児童基金(UNICEF)とパートナー団体は、紛争下の子どもに食糧、避難所、医療、社会支援といった基本サービスを提供し、給水・衛生インフラの復旧や避難民への現金給付、精神的ケアや教育支援にも取り組んでいる。また、爆発性兵器の生存者には医療、義肢装具、心理社会的支援を提供し、障害のある子どもを含む保護サービスの強化に向け、政府や市民社会と協働している。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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ベレンに響く地球規模の警鐘

エネルギー多角化、気候資金、カーボンクレジット―COP30でネパールが優先課題を提示

【カトマンズNepali Times/INPS Japan=ソニア・アワレ】

ベレンで火曜日に開幕した第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)の全体会合で、ネパールはヒマラヤ水系の深刻な脆弱性を訴えた。ネパール代表として登壇したラジェンドラ・プラサド・ミシュラ外務省事務次官は、ブータン、バングラデシュと共に、適応資金を2015年比で3倍(年間1,200億ドル)に拡充し、国別貢献(NDC)実施に伴う資金アクセス手続きを大幅に簡素化するよう求めた。

「ブータンはすでに後発開発途上国(LDC)を卒業し、バングラデシュとネパールも近く卒業段階にあります。しかし、卒業は気候脆弱性の解消を意味しません。発展の成果を守るための支援規模は依然として不可欠です」とミシュラ氏は述べた。

損失と被害(Loss & Damage)基金が始動し、各国は500万〜2,000万ドル規模の申請が可能となったものの、災害と気候変動との因果関係立証は依然として課題が残る。

「200MW規模の発電所喪失はネパール経済に深刻な影響を与える。1MWの建設に2,000万ドルを要することを考慮すれば、氷河洪水による損壊は電力基盤全体に波及する」とエネルギー企業家クシャル・グルン氏は指摘した。

COP30はパリ協定10周年にあたる。最新分析では、各国がNDCを完全履行しても、2035年の排出削減は12%に留まり、1.5℃目標達成には40%削減が必要となる。「4℃上昇が見込まれた世界は2.5℃水準まで低下したが、さらなる削減努力は不可欠だ」とClimate Analytics South Asiaのマンジート・ダカール氏は述べた。

Credit: United Nations
Credit: United Nations

ネパールの第3次NDCは温室効果ガス純排出17.1%削減(2035年時点で26.8%)を掲げるが、費用は737億4,000万ドルに達し、国際気候資金への依存は避けられない。米国の再離脱や欧州資金の縮小傾向は、気候資金環境に追加的制約を生じさせている。

一方、中国とインドは再生可能エネルギー投資を拡大しており、中国は太陽光・風力・電動車(EV)製造で世界を主導し、ネパールもその供給網を活用している。氷河湖決壊洪水(GLOF)で脆弱性を露呈した水力偏重からの脱却は急務である。太陽光発電は432GWと水力の約10倍の潜在力を有し、年間300日超の発電可能日数が期待されるが、変動性電源であることから、大規模蓄電や揚水式貯蔵が不可欠となる。

7月の氷河洪水でボテコシ川沿いの発電所・変電所4か所が損壊し、昨年9月の洪水では国内総発電量の半分が一時停止するなど、水力依存のリスクはすでに顕在化している。電動車(EV)普及や家庭・公共部門の電化は排出削減に加え、年間3,000億ルピー規模の燃料輸入削減効果が見込まれる。

国連交渉の場では、単独での影響力確保は難しく、LDC卒業後はG77や山岳・氷河国連合など、目的を共有する協力枠組みの構築が鍵となる。「LDC特権が失われる一方、カーボンクレジット市場の透明性確保は国内で即時に進められる分野だ。」とグルン氏は述べた。(原文へ

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ネベ・シャローム/ワーハト・アッサラーム:知られざるユダヤ人とアラブ人の共同社会の物語

【エルサレムINPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】

ネベ・シャローム/ワーハト・アッサラーム(ヘブライ語とアラビア語で「平和のオアシス」)は、イスラエルにおけるきわめて独自の共同体である。ユダヤ人とアラブ系市民が、完全な平等、共同所有、そして文化と教育を共有する生活を基盤に暮らす、世界で唯一の“計画的に築かれた”混住コミュニティだ。地域で最も多く研究され、象徴的意義の大きい共存プロジェクトとして広く知られている。

Roman Yanushevsky
Roman Yanushevsky

イスラエルの社会構成とアラブ系市民の役割

イスラエル中央統計局(CBS)が2025年9月末に発表したデータによると、人口1,000万人のうち、ユダヤ人は約776万人(78.5%)、アラブ系イスラエル市民は約213万人(21.5%)を占める。アラブ系の大多数はムスリムで、キリスト教徒は6.9%。

アラブ系市民は、弁護士、医師、薬剤師、教師だけでなく、建設業、農業、小売・卸売、運輸、サービス、観光など幅広い分野で働いている。また、国会議員(クネセト議員)や最高裁判事も存在する。

イスラエルには複数の混住都市があるが、ユダヤ人とアラブ人が平等な条件で共同体を“意図的に作った”例は、この村が唯一である。

それが ネベ・シャローム/ワーハト・アッサラームである。エルサレムから車でわずか20分の小さな村だが、その歴史は極めて特異である。この共同体は、“行政上の偶然”ではなく、あえて共に暮らすことを選んだユダヤ人とアラブ人の生活共同体として創設された。

SDGsとの関連

SDGs
SDGs

この村の理念と実践は、複数の国連持続可能な開発目標(SDGs)と密接に結びついている:

  • SDG 4:質の高い教育
  • SDG 10:不平等の是正
  • SDG 11:住み続けられるまちづくり
  • SDG 16:平和と公正、強い社会制度
  • SDG 17:パートナーシップ

1.始まりは“ひとりの修道士のビジョン”(1970年代初頭)

Photo credit: Roman Yanushevsky
Photo credit: Roman Yanushevsky

この共同体の発想者は、ユダヤ人の出自を持つドミニコ会修道士 ブルーノ・フッサール師であった。イスラエル・アラブ紛争に心を痛めていた彼は、1967年の六日戦争後、ユダヤ人・ムスリム・キリスト教徒が 理念ではなく“日常生活”の中で共に暮らす場所を夢見た。

1972年、ラトゥルン地域近くの荒れた丘に、アブ・ゴシュ村から借りた土地で共同体を設立。当初は家もインフラもなく、数家族の先駆者しかいなかった。

名称はヘブライ語とアラビア語の両方で意図的に選ばれた:

  • ネベ・シャローム(ヘブライ語)
  • ワーハト・アッサラーム(アラビア語)

いずれも「平和のオアシス」を意味する。

2.ゆっくりと始まった共同生活(1970〜80年代)

初期のユダヤ人・アラブ人家庭は1970年代末から1980年代にかけて集まり始めた。共同生活のすべてをゼロから決めなければならなかった:

  • 二言語コミュニティの運営
  • ユダヤ教・イスラム教・キリスト教の祝祭の扱い
  • 子どもの二言語教育
  • 意思決定をいかに「平等」に行うか

その結果、完全なコンセンサス方式が採用され、ユダヤ人とアラブ人の権力は常に同等とされた。

当時、この試みは称賛と懐疑の両方を集めた。イスラエル人やパレスチナ人の中には「理想主義すぎる」と考える人もいれば、「将来のモデル」と評価する人もいた。

3.歴史を作った“二言語学校”(1984年〜)

共同体最大の成果のひとつが、1984年に設立された 二言語・二民族の小学校である。イスラエル初の試みで、その後中学校にも発展した。

Photo credit: Roman Yanushevsky

特徴:

  • 生徒はユダヤ人とアラブ人が半数ずつ
  • 各クラスにヘブライ語教師とアラビア語教師の2名体制
  • イスラエルとパレスチナ双方の歴史・物語を学ぶカリキュラム

現在イスラエル国内に複数存在する二言語学校の多くは、このモデルから影響を受けている。

4.“平和のための学校”(School for Peace)

1979年に始まった「平和のための学校」はもう一つの柱である。

提供しているのは:

  • 紛争解決セミナー
  • ユースおよび大人向け対話プログラム
  • 教師・心理士・活動家向けワークショップ

数万人のイスラエル人、パレスチナ人、海外参加者が受講し、多くが「紛争の見方が変わった」と証言している。

Photo credit: Roman Yanushevsky

5.成長と国際的評価(1990〜2000年代)

Peace
Peace

1990〜2000年代初頭、村は世界的に知られる存在になった。

  • 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)平和教育賞(2001年)を受賞
  • 国際機関や各国メディアが多数訪問
  • 海外の平和団体からの支援

共同体はゆっくりと拡大したが、人口はユダヤ人とアラブ人の「人数バランス」を保つため、参加には長い選考プロセスがある。現在の世帯数はおよそ70〜80。

6.理想の裏にある葛藤と困難

村は“希望の象徴”として知られる一方で、内側では深刻な葛藤も経験してきた。

Photo credit: Roman Yanushevsky

対立のテーマは多岐にわたる:

  • ナクバ(パレスチナの過去)をどう教えるか
  • シオニズムの意味
  • 国旗・国歌などの国家象徴
  • 兵役の扱い(ユダヤ人住民は入隊、アラブ人住民は免除)
  • 土地問題や行政的な制約

第二次インティファーダやガザ戦争など緊張が高まる時期には、村でも関係が揺らぎ、一部住民が離れることもあった。しかしコミュニティはその度に修復を重ね、生き残ってきた。

7.現在のネベ・シャローム/ワーハト・アッサラーム(2025年)

Map of Israel

現在、村にはユダヤ教徒、ムスリム、キリスト教徒が暮らしている。

運営している施設:

  • 二言語学校
  • 平和のための学校
  • 多元的スピリチュアル・センター(Pluritralistic Spiritual Centre)

多くの研究者、学生、海外 delegations が訪れ、和平研究のモデルとして注目され続けている。

この共同体は「ユートピア」ではなく、日常に政治性と困難を抱える。それでも、ユダヤ人とアラブ人が平等な自治・教育・共同生活を実践している希少な場所であり、世界の紛争解決プログラムでも研究対象となっている。

ネベ・シャローム/ワーハト・アッサラームはなぜ特別なのか?

イスラエルにはエルサレム、テルアビブ(ヤッファ)、ハイファ、アッコ、ロッドなど混住都市がある。しかし、それらと比べると重要な違いがある。

  • 多くの混住都市では、住民は行政上同じ市に住んでいるだけで、居住区は分離している。
  • 二言語学校、共同自治、全住民参加の意思決定といった高度な共有制度は極めて稀。
  • つまり、“偶然の共存”はあっても、“選択された共存”は存在しない。

この点で、ネベ・シャローム/ワーハト・アッサラームは特異であり、ユダヤ人とアラブ人が“共存を選ぶ”ことが可能であると証明している。(原文へ

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UNAIDSの早期閉鎖で脆弱層が苦境に陥る恐れ

【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】

「すでに燃えている火に油を注ぐようなものです。」アディティア・タスリム氏はそう語る。

「私たちは年初の米国の資金削減による打撃から、いまだに回復できていません。国連合同エイズ計画(UNAIDS)が閉鎖されることになれば、状況はさらに悪化します。特に、薬物使用者を含むハイリスク層や、しばしば刑事罰の対象とされる集団にとって深刻です」と、国際薬物使用者ネットワーク(INPUD)のアドボカシー責任者であるタスリム氏はIPSの取材に対して語った。

こうした懸念は、世界のHIV活動家の間で広く共有されている。国連改革の進捗報告の中で、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、国連の主たるHIV/AIDS対策機関であるUNAIDSを翌年に閉鎖する方針を9月に初めて示したためだ。

これまで、UNAIDSと理事会に参加する市民社会組織、専門家、各国政府は、2030年の現在のHIV目標の終了時をめどに、UNAIDSを段階的に移行させる「トランスフォーメーション計画」を進めてきた。にもかかわらず、なぜ2026年での閉鎖案が突然浮上したのかについて、いまも多くの関係者が説明を得られずにいる。

「現時点で混乱が大きいのは事実です。なぜ2026年が選ばれたのか、私たちにも判断材料がありません。すでに移行プロセスが進行していたことが影響している可能性はあります」と、UNAIDSプログラム部副事務局長のアンジェリ・アクレカル氏はIPSの取材に対して語った。

しかし、この提案は強い反発を招いている。UNAIDSプログラム調整委員会(PCB)のNGO代表団は、事務総長あてに見直しを求める書簡を提出し、これには1000を超えるNGOが賛同した。

これまでの成果が損なわれ、命が危険にさらされる恐れがある

1988年から続く世界エイズデーの写真(クレジット:UNAIDS)

多くの市民社会団体は、早期閉鎖が実施されれば、HIVとの闘いで積み重ねてきた前進が危機にさらされ、場合によっては不必要な死が生じると警告している。

「もし閉鎖されれば、予防と治療の効果は大きく低下し、完全に予防・治療可能な病気で人々が命を落とすことになります。UNAIDSの閉鎖は、HIV感染と死亡の増加につながるでしょう。」と、オランダのAidsfondsの戦略顧問ジュリア・ルコムニク氏はIPSの取材に対して語った。

1996年に活動を開始したUNAIDSは、国連機関の中でも特異な存在だ。理事会に市民社会組織が参加しており、現場で患者やハイリスク層を支援する団体が政策策定や実施に直接関与してきた。治療プロジェクトだけでなく、UNAIDSは多くの国で政府、地域当局、NGO、コミュニティを結ぶ重要な架け橋として機能してきた。

「もし2026年にUNAIDSが閉鎖されれば、影響は甚大です。特にベトナムのように、コミュニティ主導の組織がデータ、技術ガイダンス、調整、政策形成の場としてUNAIDSに依存している国では深刻です。」と、ベトナム最大級のLGBTQ+団体のひとつ、LighthouseVietnamのドアン・タイン・トゥン事務局長は語った。

多くの国でHIVとともに生きる人々(PLHIV)や、HIV流行の影響を強く受ける主要集団が差別や犯罪化に直面するなか、UNAIDSは人権擁護の中心的役割を果たしてきた。同機関は、性的少数者、薬物使用者、セックスワーカーなどの権利保護を支援し、各国で画期的な法律の制定にも寄与してきた。

「UNAIDSが存在しなければ、こうしたコミュニティは迅速に周縁化され、犯罪化の動きが加速するでしょう。UNAIDSが繰り返し示してきたとおり、権利侵害はHIV感染の増加を招きます。性的マイノリティやトランスジェンダーの人々を犯罪化すれば感染は拡大し、セックスワーカーを犯罪化すれば感染は拡大し、安全な薬物使用支援サービスを禁止すれば感染は拡大します」と、ルコムニク氏は語った。

「権利侵害が深刻化する中で、最も強力に人権を擁護してきた国連機関を閉じれば、権利侵害もHIV感染も増加を招くことになります」と述べた。

「UNAIDSがなくなれば、HIV流行の影響を強く受ける主要集団へのアドボカシーを誰が担うのか。政府に対して課題を明確に提起できる主体はどこに残るのか」と、UNAIDSアジア太平洋・東欧・中央アジア地域支援チーム長のイーモン・マーフィー氏は語った。

UNAIDS workers provide support to communities in need of their services. The organization and its workers have been badly affected by the impact of a sudden acceleration of cuts to international HIV financing. Credit: UNAIDS

アクレカル氏もこう強調する。「私たちの重要な役割のひとつは、コミュニティの声を代弁することです。この声は地域・国家・世界レベルで守られなければなりません。」

さらにUNAIDSは、各国政府以上にコミュニティの状況を把握できる立場にあり、精密なデータ収集と分析を通じて、効果的な政策形成や目標設定を支えてきた。

「UNAIDSが提示した国際エイズ対応目標は、各国が戦略計画を策定し、実証に基づく介入を展開するための基盤となりました。」と、Pan African Positive Women’s Coalition – Zimbabwe(PAPWC)のカントリーディレクター、テンデイ・ウェスターホフ氏は語った。

「UNAIDSは各国の取り組みを監視する『Global Aids Programme』報告書を作成してきました。閉鎖されれば、各国の進捗監視に大きな空白が生じます。」

今年初め、国際HIV/AIDS対策資金の73%を担っていた米国が拠出を停止し、多くの現場組織が活動停止や閉鎖に追い込まれている。

UNAIDSの試算によれば、この資金削減により2029年までに新規HIV感染が約660万件、エイズ関連死が約420万件増加する可能性がある。

こうした状況下でUNAIDSを閉鎖すれば、特に資金逼迫に直面する国やコミュニティでは、HIV対応の持続性が一層損なわれる恐れがある。

「米国の突然の資金削減は、ハームリダクション(減害)サービスに深刻な打撃を与え、薬物使用者ネットワークの活動停止を招きました。UNAIDSまで閉鎖されれば、政府がサービスや支援を縮小する口実として利用されかねません。」と、タスリム氏は指摘する。

「低・中所得国では、薬物使用者を含む主要集団向けサービスの多くが国際支援に依存しています。UNAIDSを早期に閉鎖すれば、こうしたサービスは国家政策における優先度を大幅に失う可能性があります。」

トゥン氏も警鐘を鳴らす。「世界のHIV資金が縮小する中でUNAIDSを終結させれば、国際・地域間の連携やコミュニティ主導の参画が弱まり、データシステムの脆弱化を招き、長年の成果が失われる恐れがあります。」

とはいえ、活動家らは、この提案はまだ確定ではないと強調している。

「2026年にUNAIDSの機能を終結させる案は事務総長が提示したものですが、最終的な決定権はPCB(UNAIDSプログラム調整委員会)にあります。」と、ルコムニク氏は語った。

UNAIDS側は、機関自身がすでに抜本的改革プロセスを進めていた点を指摘する。PCBは2025〜27年の再編計画を承認し、2027年に進捗評価を実施し、2030年までに主要機能を国連諸機関および他のアクターに段階的に移管する構想を有していた。

その初期段階として、今年UNAIDSは世界の職員および事務所を50%以上削減する大規模な組織再編を開始した。

アクレカル氏はこう語る。「私たちの改革は、資金の不安定化に対応するためでもありますが、同時に、それ以前から不可欠とされていたものです。2030年以降、HIV対応が各国で持続的に担われる体制へ移行するためにも、機関の在り方を再設計する必要がありました。」

「グテーレス事務総長の提案が撤回されるかは現時点では不透明です。ただし、私たちが進めてきた改革計画と整合させる道は依然存在すると考えています。UNAIDSは変化そのものを恐れてはいません」と述べた。

もし閉鎖が現実化した場合、UNAIDSは他の国連機関や地域組織が役割を引き継ぎ、対策を維持することに期待を寄せている。

「UNAIDSはHIV対応の唯一ではなく一角を担う存在であり、他のアクターにも重要な役割があります。今後も国際的な連帯を維持し、最も重要な領域と当事者コミュニティを守っていかなければなりません」とアクレカル氏は語った。(原文へ

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カヤックと朝日―共有経済が育むソチミルコの新しい水辺の風景

カヤックは、ソチミルコ(=メキシコシティ南部にある水郷地帯で、アステカ時代の「湖上都市」の面影を残す世界遺産)の運河を巡る際の従来のトラヒネラ(=カラフルで派手な装飾が施された平底舟)に代わる手段として広がりつつあり、地域社会で共有型経済モデルの重要な役割も果たしている。このモデルは、適正な雇用を生み出し、経済成長にも寄与している。

【メキシコシティINPS Japan=ギレルモ・アヤラ・アラニス】

夜明け前のソチミルコでは、運河が昼と夜の境界にそっと浮かんでいるかのようだ。薄い霧が水面を覆い、差し込み始めた陽光を受けて淡く光る。先住期から続くチナンパ(浮畑)が織りなす静かな景観の中、沈黙を破るのはカヤックのパドルが水を押す柔らかな音だけ。色鮮やかなトラヒネラ(平底舟)が動き始めるずっと前、この静かな時間帯に、環境に優しい新たな観光の形が静かに広がっている。

カヤックは、ソチミルコをより親密に、そして環境に配慮して楽しむ手段として人気が高まっている。小型で静か、かつ環境負荷が低いという特性が、共有経済モデルに基づく地域の取り組みと結びつき、若いガイドやチナンパ農家、生物保全の団体、家族経営の小規模事業者らが協力して世界遺産ソチミルコを守り、再生しようとする動きを後押ししている。

古層の景観を新たに体験する方法

何世代にもわたり、ソチミルコ観光といえばトラヒネラが主役だった。しかし近年、カヤックが独自の存在感を高めている。騒音やごみを出さず、大型船が入れない浅瀬や細い水路にも容易に入れる点が評価されている。地元住民にとっても、伝統的な観光を補完し、地域の収入源を多様化する持続可能な選択肢となりつつある。

この動きを先頭で導くのがロドリゴ・ナバである。仲間たちと立ち上げた「カヤック・アドベンチャーズ」は、わずか2年で地域屈指のガイドネットワークへと成長した。

Photo: Sunrise aboard a kayak in Xochimilco. Credit: Guillermo Ayala Alanis.

「私たちの願いは、人々が自然や水、太陽とのつながりを取り戻すことです。」とロドリゴは語る。「ここで迎える朝日は、体験してはじめてその意味がわかります。静かな時間の中で、自分が景色の一部になったように感じられるのです。」

彼らのボートは安定感に優れ、操作もしやすい。初心者でも安心して参加できるよう工夫されている。また、安全面だけでなく、地域文化への敬意や環境意識を育むこともツアーの大切な柱となっている。

都市のストレスから逃れるために

参加者のひとり、メキシコシティ在住の医師リズベスは、貴重な休日を使って日の出ツアーに参加した。カヤックの上から望むイスタクシワトル火山の稜線は、刻一刻と光に染まっていった。

「都市の生活は混沌としていて、日々のストレスが当たり前になります」と彼女は話す。「でも、水面に昇る太陽を見ると、自然に感謝の気持ちが湧いてくるんです。」

同行した同僚のエスメラルダは「魔法のような朝だった」と振り返る。「4時に起きるのは大変ですが、それだけの価値があります。」

Photo: Golden axolotl and Alejandro Correa, Ajolotario Apantli. Credit: Guillermo Ayala.

カヤック・アドベンチャーズの評判は国外にも広がり、キューバ、コロンビア、米国、ベネズエラなどから観光客を受け入れている。ガイドの中には英語や日本語を話せるスタッフもいる。初心者や水に不安を抱える参加者にも丁寧に寄り添い、安心して楽しめるようサポートしている。

「沈むのが怖いという方も多いですが、最初から最後まで支えます。」とロドリゴは話す。「長く抱えてきた恐怖を乗り越える人もいて、本当にやりがいを感じます。」

水上から広がる持続可能な発展

カヤックは単なる流行ではなく、家族の生計を支え、環境を守り、SDG8「働きがいも経済成長も」に沿う共有経済エコシステムの柱となっている。文化的価値と環境保全を調和させながら、地域に根ざした雇用を生み出している。

この協力的なモデルは、観光事業者、チナンパ農家、生態系保全団体、飲食店などを結びつけ、ソチミルコの繊細な環境を損なうことなく地域経済を強化する。

アホロートルを守る地域の取り組み

Credit: Guillermo Ayala.

ソチミルコの象徴ともいえるのが、絶滅危惧種アホロートル(メキシコサンショウウオ)だ。再生能力の高さと神話的意味を持ち、古くから地域文化に根付いてきた。現在は運河環境の健全性を示す指標にもなっている。

生息地保全の中心を担うのが、アレハンドロ・コレア家が25年前に立ち上げた「アホロタリオ・アパントリ」だ。繁殖、研究、教育を通じてアホロートルの保全に取り組んでいる。

「先住文化にとって象徴的な存在です」とアレハンドロは語る。「かつては食用や薬としても利用されていましたが、長い間、人々の記憶から消えていました。今では保全活動のおかげで、再び注目され、保護の必要性が広く認識されるようになりました。」

自宅の上階にある選択繁殖センターでは、黒、ピンク、白化型、黄金色のザントフォア型まで、さまざまな系統のアホロートルを研究している。カヤック利用者の多くはこの施設を訪れ、エコツーリズムと教育的取り組みが直接結びついている。

食と農と協働の力

日の出ツアーとアホロートル見学を終えた多くの人々が向かうのが、カレン・ペレスの小さなレストランだ。メニューには、近隣チナンパで育てられたトウモロコシ、ビーツ、ニンジン、ホウレンソウ、ウチワサボテンなど、地域の恵みが並ぶ。

カレンは、共有経済モデルの効果を実感している。

「以前は皆が個別に働いていました。でも、協力した方がずっと良いと気づいたんです。花の生産者とも、カヤックのガイドとも連携し、みんなが行き来することでグループ全体が強くなります。」

彼女の店は、結婚式や誕生日会などの会場にもなり、カヤックで訪れたカップルのロマンチックなデートやプロポーズの舞台にもなっている。

外部からの悪質開発に立ち向かう

共有経済型の持続可能な観光が広がりつつある一方で、ソチミルコには外部投資家による開発圧力が高まっている。安価で買い取られたチナンパが大規模農地に転換されたり、騒音やごみの発生源となるレクリエーション施設に変わる事例が増えている。

こうした開発は、SDG8はもちろん、SDG11「住み続けられるまちづくりを」、SDG15「陸の豊かさも守ろう」にも深刻な悪影響を及ぼす。生態系の破壊、生物多様性の喪失、伝統農業の衰退など、影響は計り知れない。

その対極にあるのが、地域主体で運営される共有経済モデルである。文化と自然の両方を守りながら、雇用と地域の自立を持続的に支える仕組みとして注目されている。

協働と若い力が形づくる未来

この動きを特筆すべきものにしているのは、若い世代の主体性だ。カヤックガイド、代々チナンパを守る農家、地域密着型の事業者などが協力し、「外からの開発」に依存しない持続可能な経済モデルを築いている。

彼らは、大規模投資こそが発展の道という従来の考え方に異議を唱え、地域の英知と協力こそが未来をつくることを証明している。

カヤックは、その入口にすぎない。そこから広がるのは、共有の繁栄、文化継承、環境保全というより大きなビジョンである。

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未来世代のために、夜明けを守る

ロドリゴにとって、日の出ツアーの仕事は単なる案内役ではない。毎朝、太陽が運河を照らし、チナンパが姿を現す瞬間に立ち会うことが、ソチミルコを守る意義を改めて感じさせてくれる。

訪問者にとっても、自然が静かに、しかし力強く語りかけてくるような時間だ。そのひとときに、ガイド、農家、研究者、飲食店主らの努力が結びつき、遺産と未来を両立させる持続可能な成長モデルが形となって現れる。(原文へ

This article is brought to you by INPS Japan in partnership with Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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COP30からCOP31へ

脆弱国を代表する気候リーダーシップを示すために、ネパールの気候アプローチを再構築する

【カトマンズNepali Times=ゾーイ・ウィトコウスキー】

今年ブラジルで開催された気候サミットは、アントニオ・グテーレス国連事務総長が地球温暖化を1.5℃以内に抑制できていない「道義的失敗」を率直に認めるところから始まった。しかし、COP30の閉幕は、より効果的で持続的な成果を生み出すために、私たちが立ち止まり、再び取り組みを強化する好機でもある。パリ協定から10年を経て、気候危機と生物多様性危機が悪化する中、行動の遅れに対する不満は高まるばかりだ。

COPは気候問題を世界に可視化するうえで重要な場であるものの、その議論は依然として不十分な短期的・非拘束的な解決策にとどまり、これが大きな制約となっている。こうしたアプローチは、脆弱国を気候ガバナンスの主体ではなく、あくまで“受け手”として扱ってしまう。

The Amazon rainforest, covering much of northwestern Brazil and extending into other South American countries, is the world’s largest tropical rainforest and is vital to fighting climate change. Credit: CIAT/Neil Palmer Source UN News
The Amazon rainforest, covering much of northwestern Brazil and extending into other South American countries, is the world’s largest tropical rainforest and is vital to fighting climate change. Credit: CIAT/Neil Palmer Source UN News

さらに、COPには正統性と規制の不足という構造的な弱点があり、実効性ある行動を損なっている。近年の開催国には石油依存国家が続いており、今年の開催地もまたアマゾンの玄関口でありながら、同様の性格を強めている。

COP30には記録的な1,600人の化石燃料ロビイストが参加し、農業企業からのロビーも加わったことで、企業による「取り込み」という衝撃的な現実が示された。また、米国など主要国の不参加は、気候問題が国際議題から後退しているのではないかとの懸念を強めている。ネパールのCOPでの経験はこうした課題を映し出しつつ、気候行動とガバナンス能力を強化する機会も示している。

ネパール:出席中心から「結果重視」へ

ネパールはCOP創設以来、すべてのサミットに参加してきたが、その関与は依然として「出席」に重きが置かれ、「成果」に結びついてこなかった。

Four 8,000m peaks (Cho Oyu, Everest, Lhotse and Makalu) showing the rapidly receding snowline in the Himalaya. Photo: KUNDA DIXIT
Four 8,000m peaks (Cho Oyu, Everest, Lhotse and Makalu) showing the rapidly receding snowline in the Himalaya. Photo: KUNDA DIXIT

今年の代表団は関連分野の閣僚経験者を中心とする少数精鋭に絞られたが、依然として明確な戦略を欠き、全体として受動的な姿勢に終始した。

ネパールの気候アジェンダは、依然として外部影響に左右され続けており、国家としての主体性を取り戻す必要がある。COP30では、若者や途上国との協議を行い、ブータン・バングラデシュと連名で、氷河融解と下流域への影響で結びついた3カ国として共同声明を出した。

しかしこの声明も、最終的には予測可能な「資金要請」へと収斂した。

ネパールは毎年、気候資金の確保と不公正の訴えを中心課題としてきた。これは、温室効果ガス排出への貢献度が極めて低い一方で、甚大な影響を受けているという事情を踏まえたものである。

しかし、政府の頻繁な交代や経験不足の担当者の参加は、メッセージの一貫性を欠く結果を招いてきた。特に、資金配分の執行率が低いにもかかわらず、毎年同じく資金を強調する点は矛盾を際立たせている。

「資金があれば十分」という発想が行動を制限する

昨年、ラム・チャンドラ・パウデル大統領は「汚染者負担(polluter pays)」原則に言及したが、「汚染者行動(polluter acts)」はどこへ消えたのか。資金は補償メカニズムであり、いくら多額であっても排出増加という根本原因に対処することはできない。その結果、気候資金は脆弱国にとってしばしば「必要だが十分でない」、時に債務を悪化させる手段にさえなっている。

さらに、ガバナンスの脆弱さがネパールの気候行動を決定的に制約している。機能不全の政府、実施されない政策、非国家アクターの過小評価――これらは、COPで実効的な成果を得る力を大きく損なっている。

COP30を越えて

政治的変化が進む今、ネパールには外交アプローチを再定義し、「受益者」ではなく「主体」として、ヒマラヤ地域の気候アジェンダを形作る立場へ回帰する機会が訪れている。COP30に向けた準備や地域協力には前進が見られたものの、目的の精緻化が必要だ。

気候正義の議論は、単なる資金要請を超え、「汚染者の責任」を追及する方向へと広がるべきである。山岳地域の脆弱性を訴える声は強まっており、ネパールにはそれを主導する潜在力と責務がある。COP30では、ネパール・ブータン・キルギスが主導し、山岳地域の声を反映する年次対話枠組みが新設されるという大きな前進があった。

11回のCOPに参加したバトゥ・クリシュナ・ウプレティ氏は、資金戦略の必要性を次のように強調する。

「新たな資金を求める前に、国内で詳細な計画を策定し、どこに投資し、どのように活用するのかを明確にする必要があります。」

今後、援助の減少、後発開発途上国(LDC)卒業、資金需要の高まり、債務問題といった課題を見通した戦略を持つことで、ネパールは交渉でより大きな主導性を発揮できるだろう。

COP自体の改革も必要

30回のサミットを経て、COPは政策づくりの段階から実施段階へと移行しなければならない。
自己利益を優先する勢力がプロセスを損ねる現状への対処も急務だ。気候変動は「多中心的ガバナンス」を要する問題だが、COPは依然として中央集権的な解決策に偏り、非国家主体の貢献を十分に生かせていない。

ネパールのように資源や行政能力が限られる国ほど、地域社会や多様な主体の潜在力を活かすハイブリッド型のアプローチが有効となる。

ネパールの行動は経済・安全保障にも直結する

ネパールは排出量こそ少ないが、脱炭素化の遅れは国内経済そのものを危うくする。
電気自動車の普及にしても、その恩恵が不平等を拡大しない形で実施されなければ成功しない。

COPでの議論は、開催国の特徴により「陸か海か」という焦点の振れ幅が大きい。だが、アジア太平洋地域は、ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ(HKH:2億7000万人が居住し、20億人の下流域住民を支える)を含め、気候と生計の双方に巨大な影響力を持っている。

ヒマラヤの環境変化は世界中に影響をもたらしており、「世界の屋根」での気候課題は一国の問題ではなく地球規模の責務である。近年、ネパールは山岳アジェンダを国際的に押し上げるために一定の貢献を続けており、さらなる地域連携・国際連携の基盤も築きつつある。

COP31:連帯の新しい地平を開く機会

Pacific Islands Map/ Pacific Islands Forum Secretariat
Pacific Islands Map/ Pacific Islands Forum Secretariat

次回COP31はトルコで開催されるが、事前会議を太平洋で行い、オーストラリアが主導する初の「アジア太平洋フォーカス」となる。これは、山岳から島嶼まで、脆弱性をつなぐ視点を強化する大きな機会である。

脆弱な国々やコミュニティは、資金や支援の「受け手」として語られがちだが、本来は重要な主体である。住民の経験に根ざした声を信頼できる仲介者を通じて国際プロセスに届けることは、COPの議題設定と成果の双方を強化するだろう。

COPの失望をただ嘆くだけではなく、その欠点を明確に指摘することこそが、プロセスを再構想し、世界が切実に求める野心的な成果への道を開く第一歩である。外交議論をグローバルノースが独占してきた時代は、変わらなければならない。

主要排出国が内向きになりつつある今こそ、グローバルサウスが連帯し、気候外交を再構築する声を上げる時だ。ネパールはその変化に貢献しうる位置にある。山岳アジェンダの推進、国内ガバナンスの強化、地域・地理を越えた協力を進めることで、ネパールは脆弱国家による「新しい気候リーダーシップ」を示すことができる。(原文へ

ゾーイ・ウィトコウスキーは、ニティ財団で気候ガバナンスのインターンシップを最近修了した。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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|視点|未来の岐路に立つ今、希望の選択を(大串博子未来アクションフェス実行委員会創価学会インタナショナルユース 共同代表)