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国連、スーダンの残虐行為を非難 RSFがエルファシルを制圧、病院攻撃で数百人死亡(アハメド・ファティ)

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

【国連ATN=アハメド・ファティ】

スーダンでの人道危機は、同国の準軍事組織RSF(即応支援部隊)が北ダルフール州の州都エルファシルを制圧した後、集団殺害、病院攻撃、大規模な住民避難が発生し、かつてないほどの惨状に陥っている。

国連は「国際人道法の継続的な違反」に対して強く非難を表明し、民間人を標的とした残虐行為が確認されつつあると警告した。

国連報道官ステファン・ドゥジャリック氏は、「エルファシルのサウジ産科病院で、患者と付き添いを含む460人以上が殺害されたという悲惨な報告に、国連は衝撃を受けている。」と述べた。

UN Spokesperson Stéphane Dujarric
UN Spokesperson Stéphane Dujarric

この攻撃は、医療従事者を狙った襲撃や拉致が相次ぐ中で発生し、2023年4月の紛争勃発以来、最も暗い局面の一つとなった。

世界保健機関(WHO)によると、これまでに医療施設に対する攻撃が185件確認され、医療従事者や患者を含む1,200人以上が死亡、416人が負傷している。今年だけで49件の攻撃により約1,000人が殺害されたという。

避難と絶望

国際移住機関(IOM)は、日曜から火曜の間に3万6,000人以上がエルファシルから逃れ、ケブカビヤ、メリト、タウィラなど近隣地域に避難したと報告した。

多くの人々が屋外で避難生活を送っており、避難所も衛生設備もない状態だ。女性や少女が性的暴力や虐待の危険にさらされているとの報告もある。

高齢者や負傷者、障害者など数千人が依然として市内に取り残されており、不安定な治安と交通手段の欠如により避難できない状況にある。

UN Emergency Relief Coordinator Tom Fletcher
UN Emergency Relief Coordinator Tom Fletcher

国連緊急援助調整官トム・フレッチャー氏は、ダルフールおよびコルドファン地域での人道支援のため、国連中央緊急対応基金(CERF)から新たに2,000万ドルを拠出すると発表した。今年初めにも2,700万ドルが拠出されている。

それでもドゥジャリック氏は、「民間人、人道支援要員、医療従事者は常に保護されなければならない。」と警告した。

WFP職員の国外追放

事態をさらに悪化させているのが、スーダン外務省による世界食糧計画(WFP)幹部2名―カントリーディレクターと緊急対応コーディネーター―の国外追放である。理由は明らかにされていない。

ドゥジャリック氏はこの決定を「深刻に懸念する」と述べ、現在2,400万人以上のスーダン国民が深刻な食糧不安に直面しており、多くの地域が「飢饉の影響を受けている」と指摘した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW):RSFによる「大量虐殺」と民族標的

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の独自調査によると、10月26日にRSFがエルファシルを掌握した後、「逃げ惑う民間人への無差別虐待」が蔓延しているという。

検証済みの映像には、RSF戦闘員が民間人を処刑し、遺体の上で歓声を上げ、負傷者を嘲笑する様子が映っている。HRWはこれを「RSFによる一連の大量残虐行為の典型的な特徴を示す」と指摘した。

HRWの暫定事務局長フェデリコ・ボレッロ氏は、「エルファシルから届く恐ろしい映像は、RSFによる過去の大量虐殺の記録と酷似している。世界が緊急に行動を起こさなければ、民間人がさらなる残虐行為の犠牲となる」と警告した。

HRWはこれまでにも、西ダルフールでRSFによる大量処刑や民族的標的、人道に対する罪を記録しており、その行為がマサリート族など非アラブ系住民を標的にしたジェノサイドにあたる可能性があると警告している。

行動を求める声の高まり

UN High Commissioner for Human Rights Volker Türk

国連人権高等弁務官フォルカー・トゥルク氏は、「エルファシルでさらなる大規模な民族的動機による人権侵害や残虐行為が発生する危険が日々高まっている」と警告した。

HRWは国連安全保障理事会に対し、RSFの指導者モハメド・ハムダン・ダガロ(通称ヘメティ)および副指導者アブデル・ラヒーム・ハムダン・ダガロに対して標的制裁を課すよう求めた。さらに、RSFの主要支援国とされるアラブ首長国連邦(UAE)に対し、民間人攻撃を停止させるよう圧力をかけるべきだと呼びかけた。

HRWと独立系ジャーナリストによる調査では、UAEが関与する武器供与や、ラテンアメリカ出身のスペイン語を話す外国人傭兵がRSF部隊と共にダルフールで活動している実態も明らかになっている。

終わりの見えない危機

スーダンでの紛争はすでに19か月目に入り、数百万人が避難を余儀なくされ、世界最悪級の人道危機を引き起こしている。全地域が飢饉の瀬戸際にある。

度重なる国際社会の停戦呼びかけにもかかわらず、RSFは安保理決議を無視し続け、ダルフール全域で勢力を拡大する一方、政府軍は後退している。

国連本部でドゥジャリック氏は重苦しい言葉で締めくくった。
「スーダンの人道的ニーズはかつてないほど深刻だ。前例のない飢餓、前例のない治安の崩壊、そして前例のない苦難が続いている。」(原文へ

INPS Japan/ATN

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/un-condemns-atrocities-in-sudan-as-rsf-seizes-el-fasher-hundreds-killed-in-hospital-attack

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「今必要なのは政治的勇気だ」とグテーレス国連事務総長、COP30で訴え

【ブラジル・ベレン/南アフリカ・ヨハネスブルクIPS=セシリア・ラッセル】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、地球の平均気温上昇を1.5℃以内に抑えるために最も欠けているのは「政治的勇気」であると警告した。「最大の障害は政治的勇気の欠如だ。多くの約束が停滞している。多くの企業が“気候破壊”から記録的な利益を上げている。そして多くの指導者が、国民の利益ではなく、化石燃料利権の虜になっている」と、グテーレス事務総長はブラジル・ベレンで開かれたCOP30首脳会議の開会全体会合で述べた。

彼は、気候破壊によって巨額の利益を得ている勢力を名指しで批判した。
「莫大な資金がロビー活動や世論操作、進展の妨害に使われ、あまりに多くの指導者がこうした既得権益に囚われている」と述べた。

グテーレス氏は、世界気象機関(WMO)のセレステ・サウロ事務局長の発言を引用した。彼女は全体会合でこう述べている。
「例外的な高温の連続という警告すべき傾向が続いています。2025年は観測史上2番目か3番目に暑い年になる見込みです。過去3年間はいずれも記録的な高温でした。これは、私の2歳の孫が生まれた世界です。」

サウロ氏は、この気温上昇に伴う問題を挙げた。
海洋熱の過去最高更新による海洋生態系や経済への打撃、海面上昇、南極・北極の海氷面積の記録的低下などである。
私たちはもはや、破壊的な気象を例外としてではなく、日常の一部として目にしている。わずか数分で数か月分の雨が降り、地上の河川は“天空の川(大気河川)”へと変貌する。極端な高温や火災、そして先週のハリケーン・メリッサのような“異常にエネルギーを帯びた熱帯低気圧”が地球を襲っている。

「不平等を克服せずして、気候変動は抑えられない」― ルラ大統領

ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は、気候変動を引き起こした根本的な条件を変えなければならないと訴えた。

開会演説でルラ大統領は次のように語った。
「気候変動とは、何世紀にもわたって私たちの社会を分断し、富裕層と貧困層、先進国と途上国とを隔ててきた同じ力学の結果である。
国内外の不平等を克服せずして、気候変動を抑えることは不可能だ。」

「気候正義とは、飢餓や貧困との闘い、人種差別やジェンダー不平等との闘い、そしてより代表性と包摂性のある地球規模のガバナンスを推進するための同盟者である」と強調した。

ルラ氏はまた、今回の気候会議をアマゾンの中心地ベレンで開催するという決定を「大胆な選択だった」と述べた。

「人類は、IPCC最初の報告書が発表されて以来35年以上にわたり気候変動の影響を認識してきた。しかし、化石燃料からの脱却と森林破壊の停止・反転の必要性を初めて公式に認めるまでには28回もの会議を要した(=2023年のドバイ会議)」と回顧した。

さらに、バクーからベレンへと引き継がれた「ロードマップ」に言及し、次のように続けた。
「2035年までに年間少なくとも1兆3000億ドル規模に気候資金を拡大すべきだと認めるまでに、さらに1年を要した。」

「困難や矛盾に直面するだろうが、公正な方法で計画を立て、森林破壊を逆転させ、化石燃料依存を克服し、これらの目標を達成するための資金を動員するために、私たちはこのロードマップを必要としていると確信している」と述べた。

科学は「警告」だけでなく「解決策」も示している

グテーレス氏とサウロ氏は共に、温度上昇を示す科学は同時に解決策も提示していると強調した。

Credit: United Nations
Credit: United Nations

サウロ氏はこう述べた。
「科学は単に警鐘を鳴らしているのではありません。私たちが適応できるよう支援しているのです。再生可能エネルギーの導入はかつてないスピードで進んでいます。気候インテリジェンスを活用すれば、クリーンエネルギーシステムを信頼性・柔軟性・強靱性のあるものにできます。」

グテーレス氏も気候危機への即応の必要性を改めて訴えた。
「多くの国々が適応のための資源を欠き、クリーンエネルギー移行から締め出されている。そして多くの人々が、自国の指導者が行動することへの希望を失いつつある。私たちは、もっと速く、そして共に前進しなければならない。この会議を“加速と実行の10年”の出発点としなければならない。」(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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中央アジア:混乱から恒久平和へ

【London Post=エルドル・アリポフ】

平和は、ときに紛争が地域のアイデンティティに深く刻み込まれた場所にこそ見いだされることがある。中央アジアのフェルガナ盆地は、その最たる例である。かつてはウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの間で争いの火種となっていたこの肥沃な地は、現在、世界でも有数の平和構築モデルとして注目されている。

長年にわたり、フェルガナ盆地はポスト・ソ連時代の分断の深い傷跡を象徴してきた。国境封鎖、断続的な緊張、過激思想の台頭、そして国境線によって引き裂かれた共同体――。状況はあまりに深刻で、多くの政治評論家がこの地域を「中央アジアのアキレス腱」と呼んだ。

しかし今日、三国政府の実務的なリーダーシップのもと、かつて対立していた地域社会は国境を越えて交流を深め、貿易を拡大し、十年前には想像もできなかった信頼の雰囲気を共有している。

London Post.

この変化は偶然ではない。競争やゼロサム思考よりも協力と共通の繁栄を優先する「政治的実務主義」が原動力となった。その中心にいるのがウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領である。彼の改革志向かつ地域重視の政策は、中央アジアの進路そのものを再定義した。彼は第80回国連総会でこう語っている。
「閉ざされた国境、未解決の紛争、対立の時代は過去のものとなった。今日、私たちは“新たな中央アジア”の形成を始めている。」

その言葉は行動に移された。2025年3月に署名された「永遠の友情に関する宣言」と「国境接点に関する条約」は、長年の不信を終結させる歴史的な合意となった。ミルジヨエフ大統領の指導のもと、ウズベキスタンは開放政策、国境和解、共同開発プロジェクトを推進し、フェルガナを協力の肥沃な地へと変貌させた。その実務的なアプローチ――貿易、交通網、人と人との交流に焦点を当てた政策――は、隣国のキルギスやタジキスタンにも波及し、協調の精神を共有する動きを促している。

かつて紛争の原因であった限られた共有資源、特に水資源は、いまや政治的合意の中核となっている。アムダリヤ川やシルダリヤ川流域の資源共有を保証する協定が近年相次いで締結され、2025年5月には作付期における水分配に関する合意も成立した。これは一方的な利用競争から、ルールに基づく協調への転換を意味する。農民にとっては綿花や果実作物の安定した灌漑を意味し、国境村の住民にとっては紛争の減少と安定の向上を意味している。

フェルガナ盆地の人々にとって、これらの変化は古き良き共生の時代の復活でもある。共同体の記憶は、古代シルクロードの時代まで遡る。当時フェルガナは隊商と商取引の十字路であり、多様な民族が土地と水を分かち合い、寛容と相互依存の精神で共存していた。ウズベクの学者が「調和のコード」と呼ぶその精神は、決して消え去ったわけではなく、ただ長く沈黙していただけだった。

その調和の精神は、今月初めて開催された「フェルガナ平和フォーラム」で再び示された。ミルジヨエフ大統領の提唱により実現したこの会議には、地域の政治指導者や草の根のコミュニティが参加し、「中央アジアの平和は外部勢力によってではなく、自らの指導者と人々の手によって築かれる」という強いメッセージを世界に発信した。女性団体や若者組織などの積極的な参加も、平和構築にはすべての声が反映されるべきであるという重要な理念を体現していた。

Map of Central Asia
Map of Central Asia

フォーラムの中心では、フェルガナ平和フォーラムを常設のプラットフォームとし、今後はキルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの順に開催地を持ち回りとすることを呼びかける共同声明が採択された。また、フォーラムの枠組みの下で、初の「キルギス・ウィンティマク(団結)の日」が共同開催され、地域の一体感をさらに強めた。

平和は繁栄をもたらす――それはよく知られた真理である。フェルガナ盆地は、今や10年前には想像もできなかった経済変貌の只中にある。国境制限に縛られていた往時とは異なり、現在のフェルガナは繊維産業、農業、越境貿易の活発な中心地となり、地域全体の要として機能している。ウズベキスタン領フェルガナ地域の地域総生産は過去8年間で4倍に増え、現在は約200億ドルに達している。同期間に輸出額は2.4倍の27億ドルに拡大し、キルギスおよびタジキスタンとの越境貿易も3倍の16億ドルに達した。2017年から24年の間に投資総額は312億ドルに上り、約100万人の雇用を創出、貧困率は13.9%から8.6%に低下した。

紛争が世界各地で再燃するなか、フェルガナ盆地の静かな成功はより広く注目されるべきである。中央アジアはもはや世界の周縁ではない。実務的リーダーシップ、地域協力、そして「共に生きる」という人々の意志が、平和構築の新たな教訓を世界に示している。

エルドル・アリポフ博士(政治学博士/ウズベキスタン大統領付属戦略・地域研究所長)

INPS Japan

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ニューヨーク新市長マムダニ氏―多文化の尊厳のために

【ニューヨークIPS=ナウリーン・ホサイン】

ニューヨーク市長選は、まるで米国大統領選挙のような熱気で世界の注目を集めた。そして火曜日夜、ゾーラン・マムダニ氏が圧勝を収め、米国社会が不安と混迷の時代を経て新たな希望を見出した瞬間となった。彼は今後、世界で最も裕福で注目度の高い都市の一つであるニューヨーク市を率いることになる。

水曜朝から、筆者のSNSには、ニューヨークどころか米国外に住む友人や家族までもがマムダニ氏の勝利を自分の街の出来事のように祝う投稿であふれた。これは、彼がソーシャルメディアを通じて展開した効果的な発信によるもので、その「本物であること」を基盤とするブランドと理念は、ニューヨークの枠を超えて多くの人々に響いた。

マムダニ氏の選挙戦と勝利は、まるで現代の寓話のようであった。州内でも知名度の低かった一地方議員から、わずか1年で世界的に知られる人物となったのである。

草の根運動と、既成政治が避けてきた新たな戦術を駆使しながら、彼の陣営は人口構成の多様性を特徴とする広範な連合を形成していった。彼は現政権への挑戦者として、信念と理念を貫き、同じ政党内の旧勢力からの抵抗にも立ち向かった。

その勝利は「誰もがよりよい人生を追求できる自由と機会を持つ」というアメリカン・ドリームの再確認でもある。マムダニ氏は、団結と共感を基盤とした信念を貫きながら、いくつもの歴史的偉業を成し遂げた。市史上初のイスラム教徒の市長、初の南アジア系市長、そして100年以上ぶりに最年少の市長である。

彼の魅力の中核にあるのは、生活費の負担を軽減する政策、インド系ウガンダ移民を父に持つイスラム教徒としての背景は、「より良い生活」を求めて母国を離れた移民たちに深く響いた。アメリカン・ドリームは、本来「繁栄は受け継ぐものではなく、追求するもの」という理念であり、経済的機会と市民的自由を守る国という理想を掲げてきた。

しかし現実には、移民たちは高騰する生活費の中で基本的な生活を維持するために苦闘している。その点において、マムダニ氏は彼らの苦しみを真に理解していると感じさせた。彼の語る希望のメッセージは、人々が自らの姿を彼の中に見出せるような共感を生んだ。

信仰や経験不足を攻撃する中傷的な言説にも、マムダニ氏は一歩も引かず、自らのアイデンティティを損なうこともなかった。多くの移民が同化を選ぶ中で、彼は「本物であること」こそが今の時代に最も重要だと証明してみせたのである。

次期市長となる彼には、都市の生活をより手頃にするという公約を実現する責任がある。同時に、その信念が単なる選挙戦略ではなかったことを証明しなければならない。国連本部を擁する「世界の首都」ニューヨークにとって、これほど国際的視野を持つ市長はふさわしい存在と言える。

彼は国内政治家でありながら、国際的な視野を持つ人物である。その傾向は彼の家庭にも表れている。妻はシリア系アメリカ人移民であり、両親もそれぞれ文化・学術の分野で著名な人物だ。

父マフムード・マムダニ氏は、ウガンダ出身の政治学者で、ウガンダ、南アフリカ、セネガル、そして米国コロンビア大学などでポストコロニアル研究を教えてきた。

母ミーラー・ナイール氏はインドの映画監督で、『モンスーン・ウェディング』『ミシシッピ・マサラ』などの代表作で知られる一方、北東インドのガロ先住民族を描いたドキュメンタリー『Still, the Children Are Here』など社会派作品も手がけている。同作は国連国際農業開発基金(IFAD)と共同制作された。

このように彼の家系は恵まれた文化的背景を持つが、それゆえにこそ社会正義への意識が高く、変革と誠実さを掲げた彼の政治的スタンスにもその影響が見て取れる。

近年、社会の分断と不確実性が深まり、既存の問題解決をより困難にしている。国連も例外ではない。開発と繁栄のために全てのコミュニティを包摂するという理想を掲げながらも、資金不足や政治的意思の欠如、加盟国間の利害対立のために行動が制約されている。

国連は「原則的中立性」を掲げ、世界の多様な課題を取り上げ、平和で包摂的な対話を促進する。しかし加盟国の利害が絡むため、しばしば強い立場を取ることができないという限界を抱えている。

その意味で、国連とニューヨーク市は共通点を持つ。どちらも構成員によって形づくられ、時に一部の影響力が全体の行方を左右する。

だからこそ、マムダニ市長のような人物から国連が学ぶべき点は多い。彼は「国内課題を国際的視野で捉えることが有益である」ことを実証している。希望を原動力とし、「尊厳ある生活を当然の権利として求める」姿勢を持つことが、変化をもたらす力になるということを、彼の当選は私たちに思い起こさせる。(原文へ

INPS JAPAN/IPS UN Bureau Report

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【国連IPS=タリフ・ディーン

「世界は気候変動との闘いを諦めたのか?」──これは最近、ニューヨーク・タイムズが皮肉を込めて投げかけた修辞的な問いである。

NGO「グローバル・オプティミズム」の創設パートナー、クリスティアナ・フィゲレス氏は「そう見えるかもしれない」と語る。なぜなら、「ドナルド・トランプ米大統領が化石燃料を賛美し、ビル・ゲイツ氏が気候保護よりも子どもの健康を優先し、石油・ガス企業が数十年先まで増産計画を立てている」からだという。

しかしそれが全てではないと、フィゲレス氏は指摘する。世界人口の8割から9割が、より強力な気候対策を望んでいることを、Covering Climate Nowの加盟報道機関が報じてきた。再生可能エネルギー技術への投資額は化石燃料の2倍に達し、太陽光発電と再生型農業はグローバル・サウスで急速に拡大しているという。

一方、ホワイトハウスによれば、米国はCOP30に高官を派遣しない予定だ。

グリーンピース・インターナショナルの活動家、ジョン・ノエル氏はIPSの取材に対し、現政権はクリーンエネルギーの未来に対する主導権と影響力を他国に譲り渡していると語った。「悲劇的だが驚くことではない。しかし我々米国からベレンへ向かう者たちは、パリ協定を支持する幅広い世論を背景に確固たる立場にある。私たちはこれまで以上に決意を固めている」とノエル氏は述べた。

連邦政府の支援が欠如する中でも、汚染者負担原則(polluter pay)や州レベルのクリーンエネルギー奨励策など、地方自治体レベルでの取り組みには道が残されていると指摘する。

「COP30の世界の指導者たちは、野心的な気候目標を採択し、2030年までに森林破壊を終わらせ、公正なエネルギー移行を進めなければならない。気候行動を止めてはならない」とノエル氏は訴えた。

国連気候サミット・ベレン会議の首脳級会合で、アントニオ・グテーレス国連事務総長は11月6日に次のように述べた。

「厳しい現実は、私たちは1.5度以内に抑えるという目標を守れていないということだ。」

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

「科学は今、早ければ2030年代初頭から1.5度の一時的な超過が避けられないと告げている。我々はこの超過の規模と期間を制限し、できるだけ早く引き下げるためのパラダイム転換を必要としている。」

たとえ一時的な超過でも、その影響は壊滅的である。生態系を不可逆的な転換点へ押しやり、数十億人を生存不可能な環境にさらし、平和と安全保障への脅威を増幅させる可能性がある。

「気温上昇のわずかな差が、さらなる飢餓、移住、喪失を意味する。とりわけ責任が最も少ない人々にとって。これは道徳的な失敗であり、致命的な怠慢である」と警告した。

それでもグテーレス事務総長は「国連は1.5度目標を決して諦めない」と宣言した。

再生可能エネルギー技術は急速に進歩している一方で、政治的意思は弱まりつつあり、現在の努力では大幅な温暖化を防ぐには不十分とされている。例えば、メタン排出削減の誓約も、新たな国連報告書によれば達成が困難と見られている。

オークランド研究所のアヌラダ・ミッタル事務局長はIPSの取材に対し、「政府、特に気候危機に最も責任を負う西側諸国が、温室効果ガス削減義務を果たしておらず、途上国への支援も不十分であることを非常に懸念すべきだ。」と述べた。また、「同じ政府や世界銀行のような金融機関が、排出削減にまったく効果のない炭素市場といった偽りの解決策を推進していることも憂慮すべきだ」と指摘した。

また、現在起きている「重要鉱物」採掘の新たなブームは「エネルギー転換のためではなく、軍事・通信・電気自動車など各種産業における鉱物の支配をめぐる国際的な争奪戦。」であることも強調した。

リチウムコバルトといった鉱物の大量供給は、新たな環境破壊と人権危機を引き起こすことになる。「政府は真のエネルギー転換に向けて責任ある選択を行い、資源を浪費し多大な排出を生む軍事部門の拡張を止めるべきだ。」と訴えた。

現状のガソリン車を電気自動車に単純置換することは不可能である。もし現在のEV需要を2050年まで投影すれば、米国市場だけで世界全体の3倍のリチウムが必要になる。

「個人用車両の数とサイズを減らし、公共交通や低炭素型の移動手段を整備する積極的な政策が必要だ」とミタル氏は述べた。

グテーレス事務総長は11月4日にカタールで開いた記者会見で、「各国政府はCOP30(ブラジル)に、今後10年間で自国の排出量を削減する具体的な計画を携えて臨み、気候危機の最前線に立つ人々への気候正義を実現しなければならない」と強調した。

彼は「先週ハリケーン・メリッサによる壊滅的被害を受けたジャマイカを見てほしい」と例を挙げた。

クリーンエネルギー革命は、排出削減と経済成長の両立が可能であることを示している。しかし、途上国はいまだにその移行を支える資金と技術を欠いている。

「ブラジルでのCOP30では、2035年までに年間1兆33000億ドルの気候資金を動員する信頼できる計画を合意しなければならない。先進国は、適応資金を今年少なくとも400億ドルに倍増させるという約束を果たすべきだ。また、損失と被害基金(Loss and Damage Fund)にも十分な拠出を行う必要がある」と述べた。

「COP30は転換点となるべきだ。世界が野心と実施のギャップを埋める大胆で信頼できる行動計画を示す場所にしなければならない。2035年までに年間1.3兆ドルの気候資金を動員し、すべての人に気候正義をもたらすために。1.5度への道は狭いが、まだ開かれている。人類、地球、そして共通の未来のために、この道を生かし続けよう」とグテーレス氏は結んだ。

オックスファムとCARE気候正義センターの新しい共同調査によると、途上国は気候資金の「借金返済」において、受け取る額以上を先進国に返している。つまり、5ドルを受け取るごとに7ドルを返済しており、資金の65%が融資形式で供与されている。

この「危機の商機化(crisis profiteering)」は、債務負担を悪化させ、気候行動を妨げている。加えて、開発援助の大幅削減により、気候資金はさらに減少し、気候災害の被害を最も受ける貧困層を裏切る結果となっている。

報告書の主なポイント:

先進国は2022年に1,160億ドルを動員したと主張するが、実際の実質価値は280〜350億ドルに過ぎず、約3分の1にとどまる。

資金の約3分の2は融資であり、多くは通常の金利で提供されているため、気候資金がむしろ途上国の債務(現在3兆3,000億ドル)を増大させている。フランス、日本、イタリアが特に悪質な例として挙げられている。

最貧国(LDCs)は全体の19.5%、小島嶼開発途上国(SIDS)はわずか2.9%しか受け取っておらず、その半分以上が返済義務付きの融資である。

先進国はこれらの融資から利益を得ており、2022年には途上国が620億ドルの融資を受けた一方で、880億ドルの返済が見込まれ、債権者に42%の「利益」をもたらしている。

気候資金のうちジェンダー平等促進に特化したものはわずか3%にすぎない。

オックスファムの気候政策リード、ナフコテ・ダビ氏は「先進国は気候危機を道義的責任ではなく、ビジネスチャンスとして扱っている」と批判した。「これらの国々は、これまで傷つけてきた人々に金を貸し付け、脆弱な国々を借金の罠に陥れている。これはまさに危機の商機化だ。」と述べた。

このような失敗は、1960年代以来最悪の開発援助削減の中で起きている。OECDデータによると2024年に9%減少し、2025年にはさらに9〜17%の削減が見込まれている。

化石燃料に起因する気候災害の影響は深刻さを増しており、アフリカの角で数百万人が避難し、フィリピンでは1,300万人、ブラジルでは2024年だけで60万人が洪水被害を受けた。こうした地域社会は急速に変化する気候への適応に必要な資源をますます失っていると、報告書は結論づけている。(原文へ

INPS Japan

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市民社会が沈黙させられる中、腐敗と不平等が拡大

【ブラワヨ/バンコクIPS=ブサニ・バファナ】

バンコクの街頭からワシントンの権力中枢に至るまで、異議を唱える市民社会の空間が急速に縮小している。権威主義体制は反対派を沈黙させているが、それによって結果的に腐敗を助長し、不平等を拡大させていると、世界的な市民社会連合が警告している。

警告を発したのは、世界市民社会連盟(CIVICUS)事務総長のマンディープ・ティワナ氏である。彼は「市民社会が権力者にとって脅威とみなされつつあるという憂慮すべき傾向がある。」と指摘する。

CIVICUSによると、権威主義政権による弾圧の波が腐敗と不平等の拡大を直接的に引き起こしているという。
「現在、世界における民主主義の質は非常に低い水準にある」とティワナ氏はIPSの単独インタビューで語った。「そのため、市民社会組織は権威主義的指導者にとって脅威と見なされ、攻撃の結果として腐敗が増大し、包摂性が失われ、公的生活の透明性が低下し、社会の不平等が拡大している」。

同氏の発言は、11月1日から5日まで開催される第16回「国際市民社会ウィーク(ICSW)」を前にしたものである。CIVICUSとアジア民主主義ネットワーク(ADN)が主催する同会議には、活動家、市民団体、学者、人権擁護者など1300人以上が参加し、市民の行動力を高め、強固な連帯を築くことを目的としている。ICSWは、数々の困難にもかかわらず市民的自由を守り抜き、顕著な成果を上げた活動家や運動に敬意を表する場でもある。

世界の7割超が「抑圧」か「閉鎖」状態

CIVICUSモニター(CIVICUSと20以上の団体による共同調査)によると、198の国と地域のうち116で市民社会が攻撃を受けており、表現・結社・平和的集会の自由が大きく制限されている。
「市民社会の活動家や組織のリーダーであることが、かつてなく危険になっている」とティワナ氏は語る。「政府は、透明性を求めたり有力者を批判したりする団体への資金提供を止め、多くの組織が資金難に陥っている」。

CIVICUSは市民的自由を「開放」「限定」「阻害」「抑圧」「閉鎖」の5段階で分類している。驚くべきことに、世界人口の70%以上が「抑圧」または「閉鎖」の国で暮らしているという。「これは民主主義的価値、権利、説明責任の後退を意味する」とティワナ氏は述べた。

弾圧の道具とその影響

Protests at COP27 in Egypt. Mandeep Tiwana, Secretary General of CIVICUS Global Alliance, is hopeful that COP30, in Belém, Brazil, will be more inclusive. Credit: Busani Bafana/IPS
Protests at COP27 in Egypt. Mandeep Tiwana, Secretary General of CIVICUS Global Alliance, is hopeful that COP30, in Belém, Brazil, will be more inclusive. Credit: Busani Bafana/IPS

今回のICSWは「市民の行動を祝福する――今日の世界における民主主義、権利、包摂を再構築する」をテーマに開催される。

政府は多様な手段で異議を封じている。国際資金を受け取る市民団体を阻止する法律を制定する一方、国内資金も制限している。さらに、政府を監視し透明性を促す団体の独立性を奪う法制度も導入されている。
「権力に真実を突きつけ、高位の腐敗を暴き、ジェンダー平等や少数派包摂など社会変革を求める者は、烙印、脅迫、長期拘禁、暴行、さらには殺害といった深刻な迫害に直面する」と同氏は語る。

多国間主義の崩壊と一国主義の台頭

ティワナ氏は、国際法と多国間主義の崩壊が市民社会の権利を脅かしていると警鐘を鳴らす。
「パレスチナ、コンゴ、スーダン、ミャンマー、ウクライナ、カメルーンなど、世界各地で政府は国際規範を無視している。権威主義体制は他国の主権を侵害し、ジュネーブ条約を軽視し、市民への攻撃や拷問、迫害を正当化している」と述べた。

このような多国間体制の崩壊により、人権よりも狭義の国益を優先する「取引型外交」が台頭している。強国同士が公的政策を操作して富と権力を増大させるなか、市民社会が。その腐敗関係を暴こうとすると、攻撃の標的にされる。

「権力者と富裕層が結託し、公共政策を自らの利益のために歪めている。その結果、こうした腐敗を暴こうとする市民社会が攻撃されている」とティワナ氏は述べ、メディアやテクノロジー分野の大部分が寡頭勢力に支配されている現状を懸念した。

中国やルワンダなど、体制は異なれどもともに強力な権威主義国家であり、市民社会による説明責任の追及に敵対していると指摘した。さらに2025年のドナルド・トランプ米大統領の再登場が「米国民主主義の基盤を打ち砕いた」と批判し、「米国はもはや国際的に民主的価値を支援せず、国内でもメディア攻撃や市民社会の資金削減が進んでいる。」と述べた。

その影響は世界に波及し、エルサルバドル、イスラエル、アルゼンチン、ハンガリーなどで同様の弾圧が強まっているという。

抵抗は続く

弾圧や脅威にもかかわらず、市民社会は権威主義体制に抗して闘い続けている。ネパールやグアテマラの大規模な反腐敗デモ、バングラデシュやマダガスカルでの民主化運動などがその例である。
「人々は信じるもののために立ち上がり、隣人が迫害されているときに声を上げなければならない。平和的な抗議を通じて不正義に立ち向かう勇気を失ってはならない」とティワナ氏は訴える。

気候変動交渉への市民社会の参加制限について、同氏はブラジルで開催されるCOP30に希望を見出している。「これまでのCOPは、アゼルバイジャン、UAE、エジプトといった“石油国家”で開かれ、市民社会が抑圧されてきた。しかし、ブラジル政府は民主的価値を重んじ、市民社会を交渉の場に迎え入れるだろう」と述べた。

ただし、問題は会議後にあると指摘する。「発表される削減目標が野心的であっても、それを実行する政府が市民社会や国民の福祉を顧みない場合、意味を持たない」。

若者が示す希望と課題

若者たちは希望の灯をともしている。フライデーズ・フォー・フューチャーやブラック・ライブズ・マターなどの運動は、連帯と統一行動の力を示してきた。しかし、これほどの抗議行動にもかかわらず、同規模の変化は起きているのか? ティワナ氏は「残念ながら、世界では軍事独裁が増加している」と認めた。国際社会が人権や民主的価値を擁護する意欲を失いつつあるためだという。

「紛争、環境破壊、極端な富の集中、高位の腐敗はすべて相互に関連している。より多くを所有しようとする人間の欲望が根底にある」と彼は語る。

世界の優先順位を問う

ティワナ氏は世界の矛盾をこう指摘する。「現在、世界の年間軍事費は2.7兆ドルに達する一方で、7億人が毎晩空腹のまま眠りについている。」

「私たち市民社会は、こうした腐敗した関係構造を暴こうとしている。平等、公正、平和で持続可能な社会を築くための闘い―これこそCIVICUSが最も重視する課題であり、国際市民社会ウィークで議論していくテーマである。」と結んだ。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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核軍縮の議論を止めてはならない

【国連IPS=ナウリーン・ホセイン】

近年、核保有国の指導者たちは核不拡散に関する規範やルールを無視し、「力の誇示」という名の下に、より公然と核の威力を誇示するようになっている。

先週、米国とロシアは相次いで核兵器に関するメッセージを世界に発した。10月27日、ウラジーミル・プーチン大統領は、従来のミサイルよりもはるかに長時間飛行し、ミサイル防衛システムを回避できる新型の原子力推進ミサイルを公開した。専門家の中には、これは2022年2月のウクライナ侵攻以来、プーチンが依存してきたロシアの核戦力を誇示する意図があると指摘する者もいる。

その2日後の10月29日、ドナルド・トランプ大統領はソーシャルメディア上で「他国の核実験計画に対応するため、我が国も30年ぶりに核実験を再開するよう国防省に指示した」と発表した。この発表が習近平国家主席との会談直前に行われたことから、中国の核戦力拡大がワシントンでの核戦力近代化論を刺激しているとの見方も出ている。主要核保有国による核実験は数十年行われていないが、もし実施されれば三大国間関係を一層複雑化させるだろう。

このような展開は驚くべきことではない。人類は1945年以来、核兵器の危険性を認識してきたにもかかわらず、核保有国は依然として軍拡を続けている。2025年6月時点で、世界には約12,400発の核弾頭が存在し、その90%を米露両国が保有している。両国はいずれも5,000発を超える核弾頭を抱えている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2024年には9つの核保有国すべてが既存の核兵器の近代化と新型ミサイルの取得を進めた。

地政学的緊張の高まりは不安と不安定を増大させ、各国は国家安全保障を最優先するようになっている。中国は600発の核弾頭を保有していると推定され、英国とフランスも戦略兵器や潜水艦の開発を進めている。北朝鮮は核弾頭増産のための核分裂性物質生産を加速させている。

Concerns about nuclear testing have been reflected in headlines. Credit: IPS

今年、核兵器の脅威は多くの国際的出来事に影を落とした。5月にインドとパキスタンが空爆と報復攻撃を行った際、二つの核保有国がいかに戦争寸前まで近づくかを世界に示した。一方、ウクライナ戦争とロシアの脅威を受けて、フランスや英国など欧州諸国は抑止力を含む防衛投資を優先している。ドイツ、デンマーク、リトアニアなども核兵器の受け入れを検討している。

ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのウィリアム・ポッター所長は、核保有国間に「信頼、尊重、共感が完全に欠如している。」と警鐘を鳴らし、「核兵器が増えれば偶発的使用の危険が高まる。だがさらに危険なのは、真剣な軍備管理・軍縮が進められない政治的環境そのものである。」とIPSの取材に対して語った。

核軍縮の枠組みも揺らいでいる。米露間の最後の軍備管理条約である新START条約は2026年2月に失効予定だが、両国は配備済み戦略核兵器の上限を自主的に1年間維持する意向を示していた。しかしこの約束も最近の動きで崩れつつある。

それでも、非拡散と軍縮を求める声は絶えない。被曝被害や放射能汚染の影響を訴える活動家たちは、国連を中心に世界各地で声を上げている。国連は1945年10月24日の創設以来、軍縮推進のために行動してきた。

その一方で、新たな核軍拡競争の懸念が高まっている。今年9月の「核兵器廃絶に関するハイレベル会合」で、アントニオ・グテーレス国連事務総長を代表して演説したラトレー事務局長官は、世界が「新たな軍拡競争に夢遊病のように突き進んでいる。」と警告した。サイバー空間など新領域を含むこの競争では、「誤算と誤認のリスクが増大している。」と述べた。

AI時代の核抑止をめぐる新たな課題

核保有国が兵器を近代化する中で、新技術がどのように関わるのかも重要な論点である。人工知能(AI)はその最前線にある。各国はAI開発に多大な資源を投じており、その安全なガバナンスに関する国際的合意はいまだ形成途上にある。

AIは急速に進化し、軍事分野にも導入が進んでいるが、従来の抑止理論では説明できない「不安定化効果」が懸念されていると、SIPRI大量破壊兵器プログラムのウィルフレッド・ワン所長は指摘する。彼によれば、AIの軍事利用をめぐる国際的協議が進められており、2024年の「責任ある軍事AIに関する第2回サミット(REAIM)」では、61カ国(米英仏やパキスタンを含む)が非拘束的な行動指針「ブループリント・フォー・アクション」に合意した。さらに、国連総会では「軍事領域におけるAIと国際平和・安全保障への影響」に関する決議79/239も採択された。

ワン氏は「これは軍縮の代替策ではないが、現状では信頼と信念を回復し、軍縮努力を再活性化する手がかりとなる」と語る。ただし、SIPRIの研究によれば、核兵器とAIの交差領域に関するガバナンス枠組みは存在しない。「核分野では、人間による最終判断の保持が主に議論されているが、AIの統合が意思決定環境に与える直接・間接の影響は十分に考慮されていない」とワン氏は説明する。「こうした側面を規制・技術両面から扱う枠組みがない限り、核保有国がAI統合を加速させ、戦略的安定性を脅かし、核使用のリスクを高める危険がある」と警告した。

包摂的対話と教育の重要性

AIガバナンスをめぐる現行のアプローチには、多様な利害関係者の参加と人間による介入能力の保持、安全措置によるエスカレーション防止などの共通点が見られる。核軍縮と不拡散の枠組みは、こうしたAIガバナンスの議論においても有用な示唆を与える可能性がある。政策立案者や非核保有国、専門家、民間セクターなど幅広い主体が対話に参加することが不可欠であり、たとえ核戦力構造への理解が限定的であっても、その関与を確保することが求められる。

核保有国・非保有国の双方は、核不拡散条約(NPT)、核兵器禁止条約(TPNW)、包括的核実験禁止条約(CTBT)など既存の反核合意への再コミットを図らねばならない。ポッター所長は、次世代が「創造的な手法で核の危険を減らす。」力を養えるよう、軍縮・不拡散教育の重要性を強調する。

国連は、総会や軍縮局(UN-ODA)を通じた対話と啓発活動により軍縮を前進させることができる。国連はまた、核戦争の影響を評価する独立科学者パネルと「非核戦争地帯専門家グループ」の設置も発表した。

ポッター氏は最後にこう警告する。「核軍縮は今ほど重要な時代はない。単に核兵器数を減らすだけでは不十分だ。『核使用の禁忌』が浸食され、核兵器使用の議論が常態化している今こそ、政策決定者は脅威に見合う大胆な行動を取るべきだ。」(原文へ

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INPS Japan

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「混迷する世界」で民主主義を守るために

【バンコクIPS=ゾフィーン・エブラヒム】

いま、世界は暗い時代を迎えている。市民社会の活動家たちは、暗殺、投獄、でっち上げの罪状、そして資金削減と闘いながら、格差、気候の混乱、権威主義の台頭に覆われた世界の中で民主主義を守ろうとしている。
しかし、バンコクのタマサート大学に満ちた空気は決して絶望的ではなかった。

1976年、民主化を求める学生たちが残虐に弾圧されたあの事件の舞台となったこの大学は、市民社会にとって「聖地」とも言える場所である。そこに再び、「混乱した世界(topsy-turvy world)」で民主主義を守ろうと呼びかける声が響いた。市民社会組織CIVICUSのマンディープ・ティワナ事務総長は、「権威主義が台頭するこの世界においても、市民空間を守る闘いは続いている」と語った。

アジア民主主義ネットワークのイチャル・スプリアディ事務総長は「この声を響かせよう。民主主義は共に守らねばならない」と訴え、「権威主義に立ち向かうのは、私たちの『連帯の力』だ」と強調した。

希望に満ちた会場の雰囲気の中でも、対話の多くは厳しい現実を見据えていた。アジア文化発展フォーラムおよび平和文化財団のゴトム・アリア博士は、「世界各地で市民の自由が制限されている」と警鐘を鳴らした。
彼は軍事費の膨張を引き合いに出し、世界の優先順位がいかに歪んでいるかを指摘した。「米国の国防総省は、むしろ『戦争省』と呼ぶべきだ」と述べ、米国の軍事予算が9680億ドルに上る一方、中国は300億ドルにすぎないと比較した。さらに「ウクライナ戦争への支出はわずか3年で10倍に増えた」と指摘し、「平和と戦争の現状はこの数字が物語っている」と沈痛な面持ちで語った。

Ichal Supriadi, Secretary General, Asian Democracy Network. Credit: Civicus

別のセッションでは、世界の権力構造への批判が展開された。フィリピンの元上院議員で平和活動家のウォルデン・ベロー氏は、トランプ政権下の米国が「自由市場」の仮面を完全に捨て、「あからさまな独占的覇権」に転じたと断じた。「アメリカの帝国主義は、もはや偽装をやめ、世界に自国の意のままに従うよう公然と要求している」と彼は述べた。

Dr. Gothom Arya of the Asian Cultural Forum on Development and the Peace and Culture Foundation. Credit: Civicus

パキスタンの物理学者で作家のペルヴェズ・フッドボーイ博士も、自国政府への怒りを隠さなかった。パキスタンが「精神異常者で、虚言癖があり、好戦的な人物」をノーベル平和賞に推薦したことを痛烈に批判し、「国民の同意もなく、米国の独裁者に鉱物資源を売り渡す権利など政府にはない」と糾弾した。

また彼は、核保有国であるインドとパキスタンが再び衝突の縁に立たされているとして、国際社会に和平交渉の再開を呼びかけた。

アリア博士は議論を人道危機に戻した。ガザでの民間人の犠牲、スーダンでの戦闘による飢餓の拡大、そして気候行動の遅れがもたらす格差の悪化—。「10年前に大国がパリ協定の履行を拒んだために、いま世界はその代償を払っている」と彼は警告した。

その現実をさらに痛切に訴えたのが、パレスチナの医師で政治家のムスタファ・バルグーティ博士だった。彼は、米国製の兵器を使ったイスラエルの攻撃により、ガザの人口の推定12%が殺され、すべての病院と大学が破壊され、約1万人の遺体が瓦礫の下に埋もれていると語った。

それでも、会議が示したのは市民社会の底力だった。
渡航禁止やビザの壁を越え、75以上の団体から約1000人がタマサート大学に集い、120以上のセッションで戦略と希望を共有した。その中には、アフガニスタンから唯一参加したとみられる団体「ハムラー」の代表もいた。

「世界がアフガニスタンから目を背けている今こそ、私たちが存在し続けていることを示すことが重要だ」と、ハムラー・イニシアチブ共同設立者でプログラム・ディレクターのティモール・シャラン氏はIPSの取材に対して語った。「アフガンの市民社会は消えていない。闘い続け、最前線を守っているのだ。」

彼によれば、同団体は秘密またはオンラインで学校を運営し、虐待を記録し、タリバン支配下で声を奪われた人々の発信を続けているという。「私たちの参加は、レジリエンス(回復力)の証であり、連帯への呼びかけでもある」と語った。

インドネシア出身でLGBTQ+の権利擁護者、リスカ・カロリナ氏(ASEAN SOGIE コーカス所属)はこう指摘した。「『見えること』が大切。でも、もっと強いのは『共に見えること』です。」「この会議は、ダリット(被差別民)、先住民族、フェミニスト、障害者、クィアといった、普段は交わることの少ない運動を一堂に集め、交差的な民主主義(intersectional democracy)の形をつくる特別な場でした」と語った。

彼女の活動は、東南アジアの政治・人権枠組み、とりわけ性的多様性の承認に慎重なASEAN制度内で、LGBTQIA+の権利を推進することに焦点を当てている。

「SOGIESC(性的指向、性自認・表現、身体的性の特徴)を“特殊な問題”ではなく、民主主義、統治、人権の中核として位置づけることが重要です。そのために政府、市民社会、地域機構のすべてと関わり、クィアの人々の参加、安全、尊厳を民主主義の尺度に含める必要があるのです。」

彼女はさらに、「ICSW(国際市民社会ウィーク)は、市民空間、民主主義、クィア解放が不可分であることを可視化する場となった」と述べ、「民主主義とは選挙のことだけではなく、誰が自由に生き、誰が法や偏見によって沈黙させられているか、ということでもある」と強調した。

一方、会場の外では、市民社会のリーダーたちが率直な対話の場を設け、縮小する行動空間の中で自らの役割を省みた。「対話の中では、厳しくも必要な問いが投げかけられた」とある参加者は言う。

「私たちは直面する課題の深刻さを本当に理解しているか? 対応は十分か? 反権利勢力が私たちの価値観を尊重することを期待していないか? 受け身になっていないか? 正義のために命を懸ける人々の“同盟者”なのか、“共犯者”なのか?」

しかし、一つだけ全員が共有した確信があった。―それは、市民社会は分断されず、団結して民主主義を守らなければならない、ということである。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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世界の核保有国による核実験の後遺症は、膨大な数に及ぶ被害者に壊滅的な影響を与え続けている。

【国連IPS=タリフ・ディーン】

U.S. nuclear weapon test Ivy Mike, 31 Oct 1952, on Enewetak Atoll in the Pacific, the first test of a thermonuclear weapon (hydrogen bomb). Source: Wikipedia.
U.S. nuclear weapon test Ivy Mike, 31 Oct 1952, on Enewetak Atoll in the Pacific, the first test of a thermonuclear weapon (hydrogen bomb). Source: Wikipedia.

国連によれば、核実験の歴史は1945年7月16日、米国がニューメキシコ州アラモゴード砂漠の試験場で初の原子爆弾を爆発させたことに始まる。

その後、1945年から包括的核実験禁止条約(CTBT)が署名開放された1996年までの半世紀の間に、世界各地で2000回以上の核実験が行われた。

  • 米国:1945~1992年に1032回
  • ソ連:1949~1990年に715回
  • 英国:1952~1991年に45回
  • フランス:1960~1996年に210回
  • 中国:1964~1996年に45回
  • インド:1974年に1回

1996年9月のCTBT署名開放以降にも10回の核実験が実施された。

  • インド:1998年に2回
  • パキスタン:1998年に2回
  • 北朝鮮:2006年、2009年、2013年、2016年、2017年に各1回(ただし2006年は2回)
Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

そして10月30日、ドナルド・トランプ大統領は中国の習近平国家主席との会談を前に、ソーシャルメディア上で「30年以上ぶりに核兵器実験を再開する」と表明した。しかも今回は「ロシアと中国と対等な立場で」と語った。

米国の核実験場とその被害

主な米国の核実験場は、ネバダ核実験場(現ネバダ国家安全保障サイト)、マーシャル諸島およびキリスィマスィ島(クリスマス島)周辺の太平洋実験場であった。そのほか、ニューメキシコ、コロラド、アラスカ、ミシシッピ各州でも実験が行われた。中でもネバダ核実験場は最も活発で、1951年から1992年までに1000回以上の実験が実施された。

9月26日の「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」における会合で、アントニオ・グテーレス国連事務総長は次のように警告した。「核実験の脅威が再び現れ、核の威嚇は過去数十年で最も激しくなっている。」

中国・ロプノール実験場とウイグル人の被害

10月29日付のニューヨーク・タイムズ紙は「中国、原子力開発で世界の先頭に立とうと競争」と題した記事を掲載し、1964~1996年にかけて中国が実施した45回の核実験を振り返った。

On October 16, 1964, the People’s Republic of China conducted its first nuclear test, making it the fifth nuclear-armed state after the USA, the USSR, Britain and France. It was a uranium-235 implosion fission device, yield of 22 kilotons. Project 596 1964 – Lop Nur, China. Credit: Atomic archive.com.

報告によれば、中国の核実験被害者、特に新疆ウイグル自治区のウイグル人は、放射線被曝による健康被害をほとんど認知されず、政府によって声を封じられている。「中国政府は、核実験計画が地元住民にもたらした壊滅的影響に関する情報を意図的に抑圧している。」と報告は指摘している。

人工知能による分析結果によれば、中国の核実験には大気圏内と地下の両方が含まれ、そのうち22回が大気圏内で行われ、地域住民は深刻な放射能汚染にさらされた。政府は「不毛で無人の地域」と説明したが、実際にはウイグル人の遊牧民や農民が何世紀にもわたって暮らしていた。独立研究者や証言によると、新疆では中国全土と比べ、がん、白血病、奇形、退行性疾患の発生率が異常に高いことが確認されている。

「被曝者」の連帯と国際的責任

Alice Slater
Alice Slater

NGO「World BEYOND War」および「Global Network Against Weapons and Nuclear Power in Space」の理事で、核時代平和財団の国連NGO代表も務めるアリス・スレーター氏はIPSの取材に対して、
「中国がロプノールで風下の住民を不当に扱ってきたことは確かだが、それはネバダ核実験場、カザフスタンのセミパラチンスク核実験場マーシャル諸島での被曝者への扱いと比べて、より悪質と言えるだろうか。」と問いかけた。

「この破滅的な時代に、中国から学べることは何か。中国とロシアは、宇宙空間での兵器配備禁止と宇宙戦争防止のための条約交渉を共同提案し、宇宙に兵器を最初に配備しない、また使用しないと誓約している。一方、米露は依然として核弾頭を発射即応態勢のミサイルに搭載しているが、中国は弾頭をミサイルから分離して保管している。」と語った。

スレーター氏はさらに、「核兵器禁止条約(TPNW)は、50か国が批准した時点で発効した。現在ではさらに多くの国が署名・批准しているが、核保有国も、米国の核の傘の下にいる同盟国も、いずれも署名していない。」と指摘した。

CTBTの限界と課題

Tariq Rauf
Tariq Rauf

国際原子力機関(IAEA)元検証・安全保障政策部長のタリク・ラウフ氏は、IPSの取材に対して、「包括的核実験禁止条約(CTBT)は不完全な条約なのではないか?」と語った。

ラウフ氏によれば、当初の目標は核拡散防止と核軍縮を真に包括的に実現することだったが、条約には実質的な軍縮への連関が欠けている。

「交渉過程で、核実験禁止の目的は核兵器の全面廃絶という最終目標から切り離されていった。最終文書では、前文での軍縮への期待と実際の条文との関連を非核兵器国は辛うじて維持したにすぎない。」

さらに、CTBTは非爆発的な実験を容認しており、今日の技術進歩により、それが新たな核兵器の設計・改良に利用される可能性がある。

中国、ロシア、米国(北朝鮮、インド、パキスタンも?)では、核実験場が依然として稼働可能な状態にある。一方、フランスのみが自国の実験場を閉鎖した。

また、ラウフ氏は、「中国、エジプト、イラン、ロシア、米国はいまだ批准しておらず、NPT会合でも圧力はかけられていない。非署名国の北朝鮮、インド、イスラエル、パキスタンも同様である。CTBTが発効する見通しはほとんどないが、核実験モラトリアムが続くことを願うばかりだ。」と語った。

また、「カザフスタンとマーシャル諸島は、核実験被害者支援のための国際信託基金の設立をTPNW第6条に基づき主導しているが、CTBTには被害者支援の条項が存在しない。」と指摘した。

CTBTの意義とトランプ発言への反応

国連によれば、包括的核実験禁止条約は地表、大気圏、水中、地下を問わず、あらゆる場所での核実験を禁止している。この条約は核兵器の開発と高度化を阻止する意義を持ち、既存の核兵器保有国による新型兵器の開発を困難にし、非核保有国が新たに核兵器を開発することをほぼ不可能にしている。さらに、人間と環境への被害防止にもつながる。

一方、トランプ氏の発言を受け、米上院軍事委員会筆頭民主党議員のジャック・リード上院議員(ロードアイランド州)は強く批判した。

The western front of the United States Capitol. The Neoclassical style building is located in Washington, D.C., on top of Capitol Hill at the east end of the National Mall. The Capitol was designated a National Historic Landmark in 1960.
The western front of the United States Capitol. The Neoclassical style building is located in Washington, D.C., on top of Capitol Hill at the east end of the National Mall. The Capitol was designated a National Historic Landmark in 1960.

「トランプ大統領は再び核政策を誤解している。今回は国防総省に核実験再開を命じたようだが、核兵器複合体と試験活動を管理するのは国防総省ではなくエネルギー省である。」

リード議員はさらに、「1990年代以来維持されてきた核爆発実験モラトリアムを破れば、ロシアや中国も実験再開に踏み切るだろう。それは戦略的に無謀である。さらに、米国の実験再開はパキスタン、インド、北朝鮮に自国の実験拡大を正当化させ、すでに脆弱な核不拡散体制を一層不安定化させる。米国が得る利益は極めて小さく、数十年かけて築いてきた不拡散の成果を失うことになる。」と警告した。(原文へ

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ローマのコロッセオで宗教指導者が平和を訴える―戦争に引き裂かれた世界に向けた連帯の祈り

Colosseo Credit: Katsuhiro Asagiri, INPS Japan
Colosseo Credit: Kevin Lin, INPS Japan

ローマ/東京IPS=浅霧勝浩】

かつて帝国の暴力の象徴であった古代ローマのコロッセオ。その荘厳な遺跡の下で、世界各地の宗教指導者が一堂に会し、戦争と分断が続く現代に「平和を取り戻す」ための共同の祈りを捧げた。

「平和への果敢な挑戦(Dare Peace)」と題されたこの国際会議は、聖エジディオ共同体が主催する年次フォーラム「平和のための宗教と文化の対話」。3日間にわたり、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンドゥー教など多様な信仰の代表が、対話と祈りを通して平和の道を探った。|英語中国語スペイン語ロシア語

10月28日の閉会式で演説した教皇レオ十四世は、古代の石壁に響く声でこう訴えた。

「戦争は決して聖なるものではありません。聖なるのは平和です。それは神が望まれる道なのです。」

道徳的勇気への呼びかけ

コンスタンティヌスの凱旋門の下で、教皇レオ十四世は「権力の傲慢」と呼んだものに立ち向かうよう、各国政府と信徒の双方に呼びかけた。

「世界は平和を渇望しています。人々が戦争を人類史の“常態”とみなすようになってはなりません。もう十分です―これは貧しい人々と大地の叫びなのです。」

Hirotsugu Terasaki, vice president of Soka Gakkai with Pope Leo XIV. Credit: Vatican News
Hirotsugu Terasaki, vice president of Soka Gakkai with Pope Leo XIV. Credit: Vatican News

数千人規模の群衆の中には、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教の代表者が含まれていた。その中には、長年にわたり平和運動を続けてきた仏教団体、創価学会の寺崎広嗣副会長の姿もあった。

古代の円形闘技場の周囲に蝋燭の火が灯される中、彼らは静かに並んで立ち尽くした。石壁に揺れる小さな光は、和解への共通の祈りを象徴していた。

信仰と責任

教皇の演説は、信仰と政治的責任の間に明確な一線を引くものだった。

「平和はあらゆる政治において最優先でなければなりません。平和を求めず、緊張や紛争をあおった者たちは、その日々と年月を神の前で問われるでしょう。」

その言葉は、ウクライナとガザで戦闘が続く中で発せられ、意図的な緊張感を帯びていた。教皇レオ十四世のもとでのバチカンは、世界的な危機における政治的停滞に対する道徳的な対抗軸としての立場を一層明確にしており、平和を抽象的な理想ではなく人類の義務として語っている。

Pope John Paul II Credit: Gregorini Demetrio, CC BY-SA 3.0
Pope John Paul II Credit: Gregorini Demetrio, CC BY-SA 3.0

「アッシジの精神」を継ぐ対話

今年の会議は、教皇ヨハネ・パウロ二世が1986年にアッシジで初めて宗教間の平和集会を開いてから、ほぼ40年という節目を迎えた。それ以来、聖エジディオ共同体は「信仰間の対話こそ、政治的分断を和らげる力となり得る」との信念を持ち続けてきた。

同共同体のマルコ・インパリアッツォ代表は

「戦争の言葉が支配する世界で、私たちはあえて平和を語る勇気を持ちました」と、語った。「対話の道を閉ざすことは狂気です。教皇フランシスコも言われたように、世界は対話なしでは窒息してしまうのです。」

閉会式では、宗教指導者たちが「平和の燭台」に火をともした後、イタリアのトランペット奏者パオロ・フレズが静寂の中に哀切な旋律を響かせた。

生命の尊厳を問う分科会

同日午前、創価学会はローマ市内のオーストリア文化フォーラムで、分科会22「正義は人を殺さない―死刑制度の廃止に向けて」に参加した。

ピサ大学のエンツァ・ペッレッキア教授は、創価学会を代表して登壇し、この運動による死刑廃止への取り組みについて、創立者である池田大作会長が英国の歴史家アーノルド・トインビー博士との対談で語った言葉を通して、次のように語った。

生命の尊さは罪や功績によって評価されるものではなく、平等である。故に、正義の名のもとであっても生命を奪う権利は誰にもない。死刑を容認するのは、生命の価値に差をつける制度化された暴力の一形態であり、池田会長がそれを「現代における生命軽視の風潮」の現れであると述べている―と。

Professor Enza Pellecchia of the University of Pisa, representing Soka Gakkai, delivering her speech during the Forum titled “Justice Does Not Kill: Abolishing the Death Penalty,” held at the Austrian Cultural Forum. Credit: Seikyo Shimbun
Professor Enza Pellecchia of the University of Pisa, representing Soka Gakkai, delivering her speech during the Forum titled “Justice Does Not Kill: Abolishing the Death Penalty,” held at the Austrian Cultural Forum. Credit: Seikyo Shimbun

池田会長の人間主義的思想は、教皇レオ十四世の「死刑や暴力を容認しながら“プロライフ”を名乗ることはできない。」という最近の発言と深く通じ合うものであり、両者はいずれも「一部の命は犠牲にしてもよい」とする同じ道徳的誤りに立ち向かっているのだと語った。

沈黙を拒む宗教

何十年にもわたり、コロッセオは平和を象徴する集いの場として使われてきた。しかし、参加者たちは今年の式典にはこれまでになく切迫した緊張感があったと語る。欧州と中東で続く戦争、数百万人に及ぶ人々の避難、そして高まる権威主義―そうした現実が、「道徳」という言葉に新たな重みを与えていた。

「平和は人間の心の変革から始まります。」と寺崎副会長は語った。「宗教間の協力は象徴ではなく、歴史を動かす方法なのです。」

次世代へ託された平和のアピール

夜の帳が下りるころ、トランペット奏者のパオロ・フレズが哀切な独奏を奏でた。そのあと、子どもたちが壇上に進み出て、外交官や政府関係者に「平和のアピール」を手渡した。―それは、次の世代が、いま大人たちが下す選択を受け継ぐことになるという事実を静かに思い起こさせる場面だった。

教皇の最後の言葉は短く、低く穏やかだった。

「神は戦争のない世界を望んでおられます。神はこの悪から私たちを解き放ってくださるでしょう。」

群衆が去った後も、蝋燭の光はローマ帝国の遺跡を照らし続けた。古代の石壁を背景に揺れる小さな灯が、なお戦争を続ける世界への静かな抵抗と希望の象徴となった。(原文へ

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

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