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|カザフスタン|宗教指導者らが3文書を採択―対話から平和と人間の尊厳を守る共同の行動へ

【アスタナ、INPS Japan/フィデス通信=パオロ・アファタート】

10月7日にカザフスタンの首都アスタナで開催された「世界伝統宗教リーダー会議」の第24回事務局会合は、宗教間対話が新たな段階へと進みつつあることを鮮明に示した。議論から協力へ、相互理解から人類が直面する重大な課題に対する共通の解決策の模索へと、活動の重点が移りつつあるのである。

この変化についてフィデス通信に語ったのは、会合に参加した教皇庁諸宗教対話省のロラン・バサネー神父(イエズス会、部長)である。バサネー神父は、こうした取り組みを「スピリチュアル外交」と表現した。|スペイン語|イタリア語|フランス語|ドイツ語|中国語|英語|

それは国家間外交に代わるものでも、宗教が政治的な役割を担おうとする試みでもない。宗教指導者たちが出会い、互いの声に耳を傾け、それぞれが持つ道徳的権威を社会のために生かすことのできる、もう一つの対話の場を意味している。

アスタナでの会合では、人工知能(AI)、気候変動、治癒が見込めない病気を抱える子どもたちの保護という、一見すると異なる三つの課題に関する文書が採択された。

しかし、これらの文書には共通する根本的な問いがある。技術、環境、地政学的な変化が、各国の制度や国際機関による共通の対応を上回る速さで進むなか、いかにして人間の尊厳を守ることができるのか、という問いである。

対話から共同の行動へ

「世界伝統宗教リーダー会議の第24回事務局会合は、スピリチュアル外交の価値と有用性を改めて確認するものとなりました」

バサネー神父はフィデス通信にこう語り、「スピリチュアル外交」という表現が、今回の場合はカザフスタンのエルラン・カリン副大統領をはじめ、会議の関係者によって用いられていることに言及した。

バサネー神父は、この会合が持つ独特の性格についても説明した。

「政治的な側面があることは避けられません。参加者の中には、特に一部のイスラム教指導者や国家機関と関係のある代表者など、政府とのつながりを持つ人々もいるからです」

しかし、カトリック教会が何よりも重視しているのは、「兄弟愛と霊的なつながりに基づく出会いを通じて、私たちに何ができるのか、どのように協力できるのかを考えること」だという。

ここに、アスタナで続けられてきた宗教間対話の最も重要な変化がある。

長年にわたり、宗教間対話は主として相互理解を深めるためのものであった。

「それは必要な段階です。ともに行動するためには、まず相手を知り、その信仰、人生観、歴史、そして大切にしている価値観や感受性を理解しなければなりません」

バサネー神父はそう述べたうえで、次のように続けた。

「しかし、その段階を経た今、具体的な協力という第二の段階へ進む道が開かれています。今日、私たちが目指しているのは、出会いを通じて、より実践的な取り組みの道を見いだすことです」

つまり、今求められているのは、対話だけでなく行動である。

アスタナで取り上げられた三つの課題の選択は、まさにこの変化を反映している。

人工知能、気候危機、弱い立場に置かれた子どもたちの保護は、いずれも精神的・宗教的な視点を切り離して考えることのできない問題である。

同時に、これらは各国の法制度による対応が難しく、あるいは変化の速さに追いつけていない分野でもある。

バサネー神父によれば、カトリック教会には、こうした課題についてすでに蓄積された重要な教えがある。その例として、教皇レオの回勅『マニフィカ・フマニタス(Magnifica Humanitas)』や、教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』を挙げた。

これらの文書に共通しているのは、こうした課題が政府や巨大テクノロジー企業、専門家だけに関わるものではなく、すべての人に関係しているという認識だと、神父は強調する。

「これらの問題は、信仰や精神性を持つ人間にも関わっています。信仰を持つ人々や宗教共同体もまた、社会の一員であり、市民だからです」

バサネー神父は、アスタナで採択された文書について、「法的拘束力を持つ文書ではありません」と認めつつも、「意思決定を担う人々が考える際の枠組みを提供し、その検討に貢献することができます」と述べた。

これこそが、神父の言う「表舞台には立たない声」の役割である。

政治的・経済的な権力に属することなく、それらの意思決定に伴走し、考えるべき方向を示す声である。

そこにあるのは、責任を分かち合うという考え方だ。

「私たちは皆、同じ人類に属し、同じ地球に暮らしています。政治、経済、金融、精神的・宗教的な分野など、それぞれが持つ能力や役割は異なります。しかし、誰もが共通善の実現に貢献することを求められているのです」

スピリチュアル外交は、政治的な意思決定者に取って代わるものではない。

むしろ、政策や決定が人間と社会にどのような影響を及ぼすのかを問い直す道徳的な視点を、議論に加えるものなのである。

三つの文書に共通する課題――人間の尊厳

アスタナで採択された三つの文書は、それぞれ異なる分野を扱っている。しかし、いずれも人間の尊厳を守り、人類の未来に対する共通の責任を果たすという、一つの問題意識に基づくものとして捉えることができる。

第一の文書は、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領の提唱によって策定された「宗教分野における人工知能の利用に関する倫理規範」である。

その出発点となっているのは、AIが宗教共同体の活動にも浸透しつつあるという、ますます明らかになっている現実である。

新しい技術は、情報発信や教育、コンテンツ制作、人々との交流、とりわけ若い世代とのつながりを深めるために活用できる。

しかし、だからこそ、宗教的感情を操作したり、憎悪を広めたり、信仰の内容を歪めたりする手段にもなり得る。

この倫理規範は、宗教共同体におけるAIの利用が、人間の尊厳と精神的・宗教的価値観の尊重に基づくものとなるよう、道徳的・倫理的な指針を示すことを目指している。

ここで問われているのは、単なる技術上の問題ではない。

宗教界には、技術そのものに先立つ根本的な問いを投げかける役割がある。

それは、人工知能に「何ができるのか」だけではなく、「何をさせることが許されるのか」という問いである。

第二の課題は、気候危機である。

採択された「気候変動との闘いにおける宗教の役割」に関する文書は、環境保護を政府の政策だけに委ねることはできないという認識を示している。

宗教共同体は、信仰を持つ人々に対して、自然界に対する責任を自覚するよう促し、持続可能な生活習慣を広めるとともに、資源の無秩序な開発や気候変動に伴う災害がもたらす影響に注意を向けさせることができる。

こうした影響は、特に社会的に弱い立場に置かれた人々に深刻な被害を及ぼす。

ここでも、精神的・宗教的な価値観が社会的責任として具体化される。

気候危機は、単なる科学的・経済的な問題ではない。

それは、人類が地球や資源、そして将来世代との関係をどのように捉えるかという問題でもある。

第三の文書は、「終末期にある子どもの権利憲章」である。

この文書は、人間の尊厳という問題を、より直接的で切実な次元から捉えている。

カザフスタンとバチカン市国による共同の取り組みとして提示されたこの憲章は、治癒が見込めない病気を抱える子どもたちの尊厳を、その中心に据えている(フィデス通信、2026年10月2日付参照)。

憲章は、人間としての尊厳を尊重したケア、医療および緩和ケアを受ける権利、心理的支援を受ける権利を確認している。

さらに、宗教間対話にとって特に重要な側面も盛り込まれている。

それは、子ども本人と家族の宗教的なニーズや世界観を尊重しながら、精神的・宗教的な支援を提供することである。

この第三の文書では、技術や政治に関する議論に代わって、他の二つの文書にも通底する根本的な問いが前面に現れる。

人間は、単なるデータでも、消費者でも、サービスの受け手でもないということである。

人工知能、環境問題、そして子どもの病気という三つの異なる分野は、こうして一つの原則を再確認する場となっている。

人間の尊厳は、効率性や技術、経済的利益よりも優先されなければならない。

対話から「グローバル平和運動」へ

第24回事務局会合で議論された「グローバル平和運動(Global Peace Movement)」構想は、アスタナが推進するスピリチュアル外交の次なる段階となる可能性を秘めている。

トカエフ大統領が提唱したこの構想は、宗教的・精神的なメッセージを、より継続性のある協力の仕組みへと発展させることを目指している。

第8回世界伝統宗教リーダー会議のテーマである「未来のための相乗効果(Synergy for the Future)」は、ここで具体的な行動につながる意味を持つことになる。

戦争や社会の分断、対立の激化、信頼の危機に直面する世界において、さまざまな宗教共同体が持つ力を結集し、共通の課題に取り組もうというのである。

そのなかでも、特に慎重な対応を要する課題がある。

それは、宗教的信念が操作されたり、武力紛争や敵意、ヘイトスピーチをあおる口実として悪用されたりすることを防ぐことである。

この責任は、宗教指導者たちに直接関わる。

宗教は、人々を分断し、暴力を正当化するために利用されることもある。しかし一方で、和解を促す力にもなり得る。

スピリチュアル外交は、まさに後者の可能性を強める必要性から生まれてきたのである。

アスタナで提示された資料によれば、この運動では、紛争地域で特に攻撃や破壊の危険にさらされやすい礼拝施設の保護に向けて、国連文明の同盟(UNAOC)と協力する取り組みも構想されている。

また、若者、研究者、メディア関係者が参加する恒久的な活動を通じて、若い世代の間に寛容と相互尊重の文化を育むことも目指している。

ここに、宗教間対話のための会議と、平和を支える本格的な基盤との違いがある。

会議は宣言を生み出すことができる。しかし、運動は、人々のつながりや人材育成、ネットワーク、そして長期にわたって継続できる行動を育むことができる。

スピリチュアル外交が示しているのは、宗教指導者たちが持つ道徳的な影響力、教育的な役割、地域社会とのつながりを通じて、政治指導者の思考や判断を豊かにできるという可能性である。

そのうえで、今問われているのは、異なる宗教的伝統を持つ人々が、個人の尊厳と平和、そして地球の未来を守るために、何をともに実行できるかということである。

この観点から見れば、「グローバル平和運動」は、その可能性を具体的に試す重要な試金石となるだろう。

(フィデス通信)Original URL:

フィデス通信は、バチカンの通信社であり、聖フィデスは古代ローマのキリスト教徒の殉教者で聖人です。フィデス通信は、信頼を意味するラテン語で、バチカンの公式な通信を担当している。INPS Japanはフィデス通信をはじめ世界10数か国から参加した国際記者団とともに、世界伝統宗教リーダー会議第24回事務局会合を取材した。
アスタナのカトリック教会を訪問した国際記者団
アスタナのカトリック教会を訪問した国際記者団(中央の神父の右がパオロ・アファタート記者。左がINPS Japanの浅霧記者。)

INPS Japan

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河口慧海から川喜田二郎へ

仏陀の教えを求めた河口慧海から半世紀―その足跡をたどった日本人類学者が見た民主化後のネパール

【カトマンズINPS Japan/Nepali Times=サリル・スベディ】

約100年前、日本の禅僧・河口慧海(1866~1945)が、ネパール、チベット、インドへの壮大な旅を終えて帰国したとき、その冒険譚は日本中で大きな話題となった。一方で、そのあまりにも数奇な体験談を信じようとしない人々も少なくなかった。とりわけ「仏陀の国」とされるネパールや、鎖国状態にあったチベットについて語られた内容は、多くの人にとって現実離れした物語のように映ったのである。|英文版|

Nepali Times Logo

河口慧海が亡くなってから8年後の1953年、日本の人類学者・地理学者である川喜田二郎は、ネパール政府の招きにより、11人から成る日本調査団の一員として初めてネパールの土を踏んだ。

当時を振り返り、川喜田教授はこう語る。「1950年代半ばのカトマンズは、ゆったりとした時間が流れる街でした。私は深い安らぎを感じると同時に、この未知の国には、まだ誰も知らない世界が数多く残されているという期待に胸を躍らせました。」

しかし、川喜田氏の人生を大きく変える出来事は、カトマンズではなくポカラで待っていた。フェワ湖畔で日なたぼっこをしていた彼は、かつて河口慧海をトゥクチェ村で迎え入れた人物の息子たち、アナン・マン・シェルチャンとクリシュナ・マン・シェルチャンに偶然出会う。

二人は、半世紀前に村を訪れた「不思議な日本人僧侶」の数々の逸話を語って聞かせた。実は、それまで川喜田氏は河口慧海という人物をまったく知らなかった。しかし、その話を聞いた瞬間から、彼は強く魅了される。「この人物についてもっと知りたい。」その思いが、後に彼のライフワークとなる「河口慧海の足跡を追う旅」の出発点となった。

ポカラでは、もう二人の重要人物とも出会っている。一人は、後にネパール研究の第一人者として知られるスイス人地質学者トニ・ハーゲンである。当時、ハーゲンはポカラのスイス・ミッション病院を拠点にネパール全土の地質調査を進めており、二人は互いの調査成果について意見を交わした。

Kawaguchi as Tibetan lama, Darjeeling. Photo: Public Domain
チベット僧の姿をした河口慧海。ダージリンにて。写真:パブリック・ドメイン

川喜田氏は当時を懐かしみながら語る。「トニは実に精力的で、ユーモアにあふれた人物でした。」もう一人は、当時ポカラ地方の行政長官(バダ・ハキム)を務めていたプラン・シンである。彼は第二次世界大戦中、イギリス領インド軍の兵士としてマレーシアやビルマ戦線に従軍し、日本軍と戦った経歴を持っていた。

やがて川喜田氏は、自らがポカラまで歩いてきた登山道が、50年以上前に河口慧海が通った道とほぼ同じであることに気付く。その偶然は、彼の探究心をさらにかき立てた。「驚きと同時に、強い好奇心が湧き上がりました。河口慧海について、できる限り多くのことを調べようと決心したのです。そして、ネパールの友人たちの助けがあったからこそ、それが可能になりました。」

川喜田氏は調査のため、河口慧海が滞在したトゥクチェにも足を運んだ。そこで彼は、慧海がタク・コーラからムスタン地方を経てチベットへ入ったことを確認する。慧海は、その道中で地図を作成し、村々の人口や生活、社会の仕組みなどを克明に記録していた。さらにトゥクチェの後は、ツァランやマルファに滞在し、仏教経典の研究に没頭した。

しかし、外国人がほとんど訪れることのなかった当時のヒマラヤでは、その熱心な調査活動は地元住民の警戒を招いた。中には、慧海を英国のスパイではないかと疑う者もいたという。

疑惑を避けるため、慧海はダウラギリ山麓の険しい道を北上し、ドルポ地方トルポへ向かった。そこでは、チベット仏教以前から伝わる古代宗教ボン教(Bon)についても貴重な調査を行っている。川喜田氏は、その足跡をまるで探偵のように一つひとつたどっていった。

「探検家」ではなく、真理を求めた巡礼者―河口慧海の足跡を追って

トルポへ向かう険しい山道をたどりながら、川喜田二郎氏は、河口慧海が残した日記や地図を一つひとつ現地の証言と照らし合わせていった。その結果、驚くべき事実が明らかになる。慧海の記録は、驚くほど正確だったのである。

村人たちの証言と日記の記述は見事に一致し、人口や集落の配置、地図、スケッチ、さらには山々の位置や形状に至るまで、ほとんど誤りが見当たらなかった。川喜田氏は語る。「村の人口も、地図も、スケッチも、山々の描写も、実に正確でした。」

そして、こう付け加える。「残念なのは、河口慧海自身が、自らの生涯をかけた仕事が正当に評価される日を見ることなく亡くなったことです。」

トルポで案内人と別れた慧海は、その後は荷物を自ら背負い、外国人であることを隠すためチベット僧に変装して、閉ざされたチベットへと足を踏み入れた。当時のチベットは外国人の立ち入りを厳しく禁じており、正体が知られれば命さえ危うい状況だった。

それでも慧海は、およそ2年間にわたりチベット各地で仏典の研究を続けた。しかし、やがて当局に日本人であることが発覚し、追われる身となる。彼は命からがらダージリンへ逃れ、その後、ネパール東部を経由して再びカトマンズへ戻った。

そこで慧海は、当時ネパールを統治していたラナ政権の実力者、チャンドラ・シャムシェル首相との謁見を果たす。この訪問の際、慧海は後に広く知られることになる一通の書簡を首相へ送っている。その内容は、一介の旅僧の手紙とは思えないほど大胆なものだった。

川口がラナ首相に提出した献策文書は、ネパール語による教育の大切さを強調した川口に感銘を受けたディキシット家(Nepali Times社主)が膨大なネパール語による文献・雑誌とともに大切に保管している。資料:Nepali Times
川口がラナ首相に提出した献策文書は、ネパール語による教育の大切さを強調した川口に感銘を受けたディキシット家(Nepali Times社主)が膨大なネパール語による文献・雑誌とともに大切に保管している。資料:Nepali Times

慧海は、国家統治のあり方について率直な助言を述べ、イギリス領インドとの外交では冷静さを失わないこと、政治戦略を慎重に進めること、そして権力者の周囲に集まる追従者に惑わされないことなどを説いたのである。

川喜田氏は、慧海の旅の本当の目的について次のように説明する。「河口慧海がチベットを目指したのは、仏陀の教えをできるだけ原典に近い形で伝える経典を探し求めるためでした。彼は、それらの経典がチベットで大切に守られていると信じていたのです。」

慧海はしばしば、英国のためのスパイ、あるいは明治日本政府の密偵ではないかと疑われた。しかし川喜田氏は、そのような見方をきっぱりと否定する。「河口慧海は、英国のスパイだとか、日本政府の密偵だとか言われることもありました。しかし、彼の本当の姿は、ただ一人で真理を求めて歩き続けた旅人であり、歴史家であり、そして巡礼者だったのです。」

その言葉には、長年にわたり慧海の足跡を追い続けてきた研究者としての深い敬意がにじんでいる。実際、川喜田氏自身も1950年代にネパール各地を精力的に踏査した最初期の外国人文化人類学者の一人であり、その後のネパール研究に大きな足跡を残した。

しかし彼は、単なる研究者では終わらなかった。1970年代初頭には、ネパール中西部ミャグディ郡でロープウェー(索道)や上水道整備などの地域開発事業にも深く関わることになる。その経験は、彼の「開発とは何か」という考え方を大きく形づくっていくことになる。

「開発は人が育てるもの」―川喜田二郎がネパールに託した未来

1950年代にネパール各地を踏査した川喜田二郎氏は、研究者としてだけでなく、地域開発にも深く関わった。1970年代初頭には、ネパール中西部ミャグディ郡でロープウェー(索道)や上水道整備事業の実現に尽力した。

その経験を通して、川喜田氏が最も強く印象づけられたのは、地域住民が自ら進んで事業に参加する姿だった。住民たちが自発的に協力し合うことで、プロジェクトは着実に発展していったのである。

こうした経験から、川喜田氏は、人々が自ら管理・運営できる「小さな開発(Small is Beautiful)」こそが持続可能な発展につながるという信念を抱くようになった。彼は次のように語る。「ネパールに必要なのは、その土地の社会や暮らしに柔軟に溶け込む、小規模なプロジェクトです。」

さらに、住民参加型の地域づくりこそが民主社会の基盤になると強調する。「ネパールの村々は、それぞれが自立した共同体であるべきです。地域の人々が共通の目標に向かって自発的に力を合わせることで、地域社会は自ら成長していくことができます。」

この考え方は、後に世界的に広く知られることになる川喜田氏独自の発想法―「KJ法(Kawakita Jiro Method)」にも通じている。川喜田氏は、スイスの地質学者トニ・ハーゲン、イタリアの東洋学者ジュゼッペ・トゥッチと並び、外国人による本格的なネパール人類学研究の草分け的存在となった。日本語・英語による数多くの論文に加え、『Hill Magars and Their Neighbours』『Nurturing Creativity in the Himalaya』『People of Nepal Himalaya』(H.木原編)などの主要著作を発表し、ネパール研究の発展に大きく貢献している。

取材当時、川喜田氏は「これまでとはまったく異なる内容になる」という新著を執筆中だった。教え子たちは、その本には川喜田氏が長年考え続けてきた開発、近代化、そして伝統に対する思想が集大成されるだろうと期待を寄せていた。

UN Photo
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日本では、川喜田氏は「KJ法」の創始者として熱狂的な支持を集めている。ネパール研究者の高山龍三教授や、若き日にネパールを共に歩いた仲間たち、さらには東京外国語大学のネパール研究者・石井溥教授らも、その思想に大きな影響を受けた一人である。

KJ法は、先入観を持たずに現実を観察し、収集した情報を創造的に整理・統合して、新たな発想を導き出す問題解決法である。単に数値データを集めるだけではなく、現場で得られる質的な情報や、人々の暮らしの実感を丁寧に拾い上げることを重視する。

川喜田氏は、この方法について次のように説明する。「論理的な枠組みを理解すれば、決して難しいものではありません。この方法は、ごく普通の人々が生きている現実を描き出そうとするものです。だからこそ、社会のエリートたちには好まれないのかもしれません。」そして、その本質を一言で表現する。「答えは上から与えられるものではありません。現場から生まれるものなのです。」民主化を歩み始めたネパールについて、川喜田氏は希望と課題の双方を見据えていた。「今のネパールは、20世紀初頭の日本によく似ています。社会全体が大きな転換期を迎えているのです。」

もちろん、急激な変化はネパールだけの現象ではない。

「こうした変化は世界中で起きています。しかし、民主主義を十分に機能させるためには、現在の官僚制度に大きな改革が必要です。残念ながら、いまのエリート層は自らの利益を追うことに忙しすぎます。」その言葉には、長年ネパール社会を見つめ続けてきた一人の研究者としての率直な思いが込められていた。

一方で、川喜田氏は自国・日本の将来にも強い危機感を抱いていた。質素な生活を好み、少食で、よく笑う。日本の学術界で高い評価を受けながらも、少しも驕ることのない人物だった。

The Khumbu Valley in the Heart of the Himalaya. View on Ama Dablam. Photo: LAXMAN LAMA BLON https://nepalitimes.com/cleaning-up-mt-everest-top-to-bottom
ヒマラヤ山脈の中心部に位置するクンブ渓谷。アマ・ダブラムを望む壮大な景観が広がるこの地には、世界中から多くの人々が訪れる。写真:LAXMAN LAMA BLON

しかし、その穏やかな表情の奥には、日本社会への深い憂慮があった。「日本社会は、先の見えない暗闇へ向かって進んでいるように感じます。若い世代は心の拠り所を見失い、小さなことにも苛立つようになっています。」そして、人生の残された時間をどのように生きるかについて、静かにこう語った。

「私に残された時間は多くありません。その時間を、私が心から愛する国、ネパールのために使いたいのです。」その思いを形にするため、川喜田氏はポカラに学校を設立する計画を進め、資金集めにも奔走していた。

河口慧海は、仏陀の教えの源流を求めてヒマラヤを越えた。半世紀後、川喜田二郎は、その足跡をたどりながら、ネパールという国そのものから多くを学んだ。一人は真理を求める巡礼者として、もう一人は人々の暮らしに寄り添う研究者として―。

二人の日本人がネパールに残した足跡は、それぞれ異なる時代を生きながらも、人と文化への深い敬意という一点で静かにつながっている。

INPS Japan

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アスタナ、23年の歩み―「信頼を築く外交国家」の台頭

【アスタナINPS Japan/Atlantica Africa=ナスララ・ベルカヤテ博士】

Dr Nasrallah Belkhayate

2026年10月7日、カザフスタンの首都アスタナで開催された「世界伝統宗教リーダー会議」の第24回事務局会合は、歴史的な視点から捉える必要がある。この会合だけを取り上げれば、世界各地で開かれている数多くの宗教間対話の一つに見えるかもしれない。しかし、これまでの歩みを振り返ると、そこには異なる姿が浮かび上がる。カザフスタンは2003年以来、宗教間対話のために始めた取り組みを、着実に本格的な外交基盤へと発展させてきた。世界伝統宗教リーダー会議は、もはや単なる会合ではない。国際社会における同国の存在感を高める外交手段となりつつある。

この変化がとりわけ重要なのは、カザフスタンが、その地理的条件ゆえに独自の外交姿勢を求められる国だからである。ロシア、中国、欧州、中央アジア、そしてイスラム世界の間に位置するカザフスタンには、外交の方向性を一つに絞るという選択肢はない。同国が進めてきた「マルチベクトル外交(多角的外交)」の本質は、まさに複数の方向に対話と協力の扉を開き続けることにある。世界伝統宗教リーダー会議は、この外交方針に独自の側面を加えている。国家間のバランスを取るだけでなく、国境を越えて広がる社会、伝統、宗教的権威が互いに関わり合うための枠組みを提供しているのである。

ここに、23年間の歩みから得られる第一の教訓がある。地理的条件は制約となり得る一方で、独自の役割を生み出すこともできる。カザフスタンは、複数の大国や地域勢力が交差する場所に位置している。アスタナは、この立地を弱点ではなく、外交上の資産へと転換しようとしている。カザフスタンは、従来の意味での大国になろうとしているわけではない。大国や地域の主要国、宗教指導者たちが、立場の違いを超えて対話を続けられる場となることを目指しているのである。

今回の第24回事務局会合は、こうした外交が新たな段階に入りつつあることを示している。世界伝統宗教リーダー会議の事務局長を務めるエルラン・カリン氏の発言は、その方向性をよく表している。目標は、もはや単に対話を支援することではない。宗教団体や国連、その他の国際機関と協力し、さまざまな構想を「合意文書と具体的な行動」へと結びつけることにある。この転換は極めて重要だ。会議を開催することを中心とした外交から、合意を実行に移す外交へと、活動の重点が移りつつあるからである。

専門家や市民社会の代表が参加する評価制度を導入しようとする動きも、同じ方向を示している。組織が自らの成果を検証し、その結果を評価する必要性を受け入れてこそ、影響力は高まる。したがって、本質的な変化は宣言の数を増やすことではなく、宣言がその後どのような成果につながったかを明らかにすることにある。大会が終わった後も、どれだけの取り組みが継続されているのか。そのうち、いくつが具体的な事業となったのか。そして、どれほどの取り組みが測定可能な成果を生み出したのか。カザフスタンが築いてきた外交モデルの信頼性は、今後ますます、こうした問いへの答えによって左右されることになるだろう。

成果を重視するこの姿勢は、カリン氏のもう一つの発言にも新たな意味を与えている。

「人間とその尊厳は、あらゆる意思決定の中心に置かれなければならない」

この言葉は、今回アスタナで議論された三つの主要課題を貫く共通の理念を示している。人工知能(AI)、気候変動、そして治癒が見込めない病気を抱える子どもたちの保護である。一見すると異なる三つの問題だが、その根底には同じ問いがある。技術、気候、そして力関係が急速に社会を変化させるなかで、私たちはいかにして人間の尊厳を守ることができるのか、という問いである。

人工知能(AI)は、こうした新たな段階の真価を問う、最も明確な試金石となるだろう。イスラム教指導者のアッラーフシュクル・パシャザデ師(シェイフルイスラーム)は、「AIには魂がないため、礼拝において人間の代わりになることはできない」と改めて指摘した。

この発言を、単なる宗教的見解として片づけることは容易だろう。しかし、それでは、この言葉が持つより広い意味を見落とすことになる。そこには、今や世界共通の課題となった問いが含まれている。機械は、いつの間にか人間に代わる権威となることなく、人間を支援できるのだろうか。最終的な判断を下す人間の責任を肩代わりすることなく、言葉や助言、解釈を生み出すことができるのだろうか。

中国仏教協会のチウ・シュアン副会長も、異なる立場から同様の懸念を表明した。同氏によれば、人工知能の発展は、生命と正義、そして「侵すことのできない人間の尊厳」を尊重するものでなければならない。

異なる宗教的伝統の間に見られるこうした認識の一致は、今回の会合で特に注目すべき点の一つである。宗教界は、もはや宗教同士の対話だけを目指しているのではない。社会を根本から変えようとしている技術に、どのような限界を設けるべきかという世界的な議論にも参加し始めているのである。

まさにここに、カザフスタンが国の規模に左右されない、新たな影響力を獲得する可能性がある。米国や中国をはじめとする大国は、極めて高度な技術力を持っている。カザフスタンが人工知能のあらゆる分野で、これらの国々と競争できるわけではないことは明らかだ。

しかし、国際社会における力とは、単に技術を開発する能力だけではない。その技術をどのように利用すべきかを定めるルールの形成に、どれだけ貢献できるかということでもある。世界伝統宗教リーダー会議は、こうした規範形成をめぐる議論が具体化する場の一つとなり得る。

同じ考え方は、気候変動にも当てはまる。今回の会合では、アゼルバイジャンのバクーで開催された第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)において、宗教指導者たちがすでに表明していた立場が改めて取り上げられた。

ここでも、宗教共同体が果たし得る役割は、道徳的な声明を発することにとどまらない。宗教共同体には、地域社会に根ざしたネットワークや礼拝施設、社会的に認められた指導者がおり、国際機関が必ずしも持ち合わせていない人々を動員する力がある。したがって、世界共通の目標を、地域社会における具体的な行動へと結びつける役割を担うことができる。

チウ・シュアン副会長が言及した「相互依存」の原理は、この問題にさらなる深みを与える。人間と自然が相互につながっているのであれば、気候変動はもはや環境政策だけの問題として捉えることはできない。それは、食料安全保障、水へのアクセス、移住、社会の安定、そして国際安全保障にも関わる問題となりつつある。ここで、精神的・宗教的な価値観は、極めて現実的な地政学上の課題と結びつくのである。

治癒が見込めない病気を抱える子どもたちの保護は、この三つの課題を結ぶ枠組みの最後の要素である。

アスタナで議論された取り組みは、医療だけを対象とするものではない。医療サービスに加え、人間の尊厳、心理的支援、精神的・宗教的なケア、そして子ども本人と家族の信仰や価値観への尊重を一体的に捉えるものである。

この考え方が重要なのは、宗教間対話から生まれた組織が、自らの本来の性格を失うことなく、人道的な問題にも取り組めることを示しているからだ。

こうして、世界伝統宗教リーダー会議の活動を貫く共通の理念が明らかになる。グローバル化のなかで技術的な問題として扱われがちな課題に、人間そのものを中心に据える視点を取り戻そうとしているのである。

人工知能は技術革新の問題として、気候変動は温室効果ガス排出の問題として、病気は医療の問題として捉えることができる。しかし、アスタナは、そこにもう一つの問いを投げかけている。こうした変化のなかで、私たちは人間をどのような位置に置こうとしているのか、という問いである。

この変化は、事務局会合に合わせて行われた一連の会合が持つ意味も説明している。

アッラーフシュクル・パシャザデ師が継続して参加していることは、この外交的枠組みにおけるコーカサス地域の重要性を示している。エジプトのイスラム教スンニ派の権威ある機関、アル・アズハルとの協力に関する協議は、教育と宗教間対話の新たな可能性を開く。ムスリム世界連盟の継続的な参加は、主要な国際イスラム組織とのつながりを維持する役割を果たしている。また、英国国教会との関係は、アスタナのネットワークがイスラム世界の枠を超えて広がっていることを物語っている。

こうした多様性は、単なる形式的なものではない。それ自体が、世界伝統宗教リーダー会議の外交的な資産なのである。

参加者たちにとって、同じように集まりやすい別の場所が必ずしも存在しない場合、その対話の場は特別な価値を持つ。コーカサス、エジプト、湾岸諸国、アジア、キリスト教文化圏の欧州、そしてその他の宗教的・文化的地域の代表が、政治的な立場を一致させることなく、同じ枠組みのなかで対話できるのである。

これが、アスタナの外交に「トラック2外交(非政府主体による対話)」としての側面を与えている。ただし、そこには独自の特徴がある。

従来のトラック2外交は、政治当局者間の公式な交渉に向けた環境整備を目的とすることが多かった。一方、世界伝統宗教リーダー会議は、社会、宗教的権威、地域共同体、文化的な代表者とも関係を築いている。そのため、政治関係が悪化した場合でも、人間同士のつながりを維持できる場合がある。こうした関係を通じて、危機が顕在化する前の段階から働きかけることが可能になるのである。

もっとも、すでに実証された成果と、今後の可能性として語られている構想は、明確に区別する必要がある。

カザフスタンが2003年以来、宗教間対話のための持続的な枠組みを築いてきたことは確かである。また、2026年の会合が、実践的な取り組みや専門的知見の活用、国際協力の強化を目指していることも明らかだ。

その一方で、将来的な「精神的安全保障理事会」や、恒久的な国際仲介機関の創設という構想は、現段階では仮説の域を出ない。発表された仕組みが実際に成果を生み出して初めて、その構想は信頼性を獲得することになる。

だからこそ、「グローバル平和運動(Global Peace Movement)」の発表には、特に注意を払う必要がある。

その重要性は、名称そのものにあるのではない。すべては、この構想がどのような制度的な仕組みとして具体化されるかにかかっている。

事業を立ち上げ、協力相手を結集し、成果を検証し、危機の際にも対話の経路を維持できる恒久的なネットワークへと発展するのであれば、それは大きな進展となるだろう。しかし、単なる新たな宣言にとどまるのであれば、その影響力は必然的に限定されることになる。

2028年という節目は、こうした変化に歴史的な意味を与えている。

2027年には第25回事務局会合が予定されており、2028年には第1回世界伝統宗教リーダー会議の開催から25周年を迎える。カリン氏は、これらの節目を、過去の成果を評価するだけでなく、「新たな段階へ進む」機会であると明確に位置づけている。

したがって、今後の予定は、カザフスタンにとって貴重な機会となる。25年間にわたって積み重ねてきた経験を、より体系的な制度的枠組みへと発展させることができるからだ。

そのような枠組みは、単純な原則に基づいて構築できるだろう。個別の宣言を増やすのではなく、その後の取り組みを充実させるという原則である。

平和、人工知能、気候変動、人間の尊厳に関する常設作業部会の設置。国連やその他の国際機関との協力関係の構築。独立した専門家の参加。試験的な事業の実施。進捗を測定するための指標の導入。そして何よりも、会合と会合の間も活動を継続することである。

そうなれば、世界伝統宗教リーダー会議は、もはや単発の行事ではなく、継続的な取り組みの過程そのものとなる。

このような変革は、現代の多国間主義が抱える弱点の一つにも応えることになる。それは、理念を宣言することと、その理念を実行に移すことの間に存在する隔たりである。

多くの国際文書は圧倒的多数の賛成によって採択される。しかし、その実際の影響は、最終的には組織や社会がそれらを実施できるかどうかにかかっている。カザフスタンは、自国の規模に応じた形で、宣言そのものと同じくらい、その後の実施と検証を重視する外交のあり方を試みることができるだろう。

そうなれば、国際社会におけるカザフスタンの立ち位置も、これまでとは異なる視点から理解できるようになる。

その強みは、大国に取って代わろうとすることではなく、特定の一国の専属的な手段となることなく、複数の大国にとって有益な存在であり続けられる点にある。

これは極めて重要な違いである。世界が対立する陣営へとますます分断されるなか、異なる勢力の間に橋を架け続けられる国家の価値は、必然的に高まっていく。

もっとも、「アスタナはユーラシアのジュネーブである」という表現には慎重であるべきだろう。

ジュネーブには、1世紀以上をかけて築かれてきた卓越した国際機関の集積と、その活動を支える制度的な歴史がある。アスタナは、まだその段階には達していない。

しかし、カザフスタンはジュネーブを再現しようとするのではなく、異なる独自の役割を築くことができる。その可能性は、外交、精神的・宗教的価値観、倫理、技術、そして紛争予防が交差する領域にある。

ここにこそ、世界伝統宗教リーダー会議の歴史が特別な意味を持つ理由がある。

2003年当時の試みは、基本的には対話の場を創設することだった。それが2026年には、実践的な取り組み、専門家による評価、国連との協力、人間の尊厳、人工知能、気候変動、子どもの保護、そしてグローバル平和運動といった言葉で語られるようになっている。

23年間で、活動の重心は対話から行動へと移ってきた。参加者の数以上に注目すべきなのは、この変化そのものなのである。

したがって、今後数年間の課題は、カザフスタンが対話を重視する国であることを世界に納得させることではない。その能力はすでに示されている。

これから問われるのは、対話によって、他の仕組みでは容易に生み出せないもの―信頼、紛争の予防、規範、そして場合によっては具体的な解決策―を生み出せると証明することである。

それは、これまでより困難な目標であると同時に、はるかに戦略的な意味を持つ目標でもある。

さらに、そこから派生する第二の効果も考えられる。

世界伝統宗教リーダー会議が、倫理的規範の形成や紛争の仲介において信頼できる場となることに成功すれば、その影響力は宗教分野にとどまらなくなるだろう。

人工知能に関する議論は科学者や政府の関心を集め、気候変動に関する議論は国際機関の参加を促し、弱い立場に置かれた子どもたちに関する議論には人道支援関係者が加わる可能性がある。

そうなれば、宗教は会議が扱う唯一の主題ではなくなる。世界的な変化を、より人間的な形で管理し、方向づけていくための重要な入り口の一つとなるのである。

第三の波及効果も、すでに見え始めている。カザフスタンは、自国の地理的な位置を、国際制度のなかでの地位へと徐々に転換できる可能性がある。

ユーラシアの中心に位置することは、地理的な事実である。

ユーラシアにおける特定の対話の中心となることは、政治的な選択である。

そして、世界各地の関係者が仲介や調停の機能を求めて集まる場となることは、外交努力によって築き上げる成果である。

この最後の段階に到達できるかどうかが、この取り組みの歴史的意義を決定づけることになるだろう。

現時点で提示できる仮説は、具体的であり、将来的に検証することも可能だ。

2028年までに、アスタナで発表された約束が、恒久的な制度、成果を測定できる事業、そして持続的な国際協力関係へと結びつけば、世界伝統宗教リーダー会議は、制度としての第二世代に入ったと評価できるだろう。

反対に、採択された文書や打ち出された構想が、実質的には宣言にとどまるのであれば、このモデルは強い象徴的価値を維持するものの、国際的な規範形成に影響を及ぼす力を備える段階には到達しないことになる。

創設から23年を経た今、カザフスタンは宗教の枠をはるかに超える問いに直面している。

もはや問われているのは、アスタナが世界の主要な宗教的・精神的伝統の代表者を一堂に集められるかどうかではない。その能力はすでに証明されている。

今、問われているのは、人々を集めるその力を、持続的に行動し、成果を生み出す能力へと転換できるかどうかである。

そして、おそらくここに、カザフスタンの外交モデルが持つ最も際立った特徴がある。

軍事力、資源、技術、資本によって国家の力が引き続き測られるこの時代に、もう一つの力が次第に価値を増していくだろう。

それは、他の主体がもはや信頼を築けなくなったときにも、信頼を生み出すことのできる力である。

カザフスタンが目指しているのは、すでに多くの大国がひしめく国際社会に、もう一つの勢力として加わることではない。

目指しているのは、「信頼を生み出す力を持つ国家」になることなのである。

そして、この構想が2027年から2028年にかけて実際の成果によって裏づけられるならば、それは独立以来のカザフスタンが築いてきた外交の歴史において、最も独創的な遺産の一つとなるかもしれない。

Financial Afrik(フィナンシャル・アフリク)は、アフリカの経済・金融・地政学を専門とする通信社。市場動向や投資、国際関係を現地の視点から伝え、アフリカの変化が世界経済や国際社会に及ぼす影響を理解するうえで有益な情報を提供している。主要6つのSNSで延べ約59万6000人のフォロワー・登録者を擁し、アフリカと世界をつなぐ情報発信を展開している。INPS Japanはフィナンシャル・アフリクをはじめ世界10数か国から参加した国際記者団とともに、世界伝統宗教リーダー会議第24回事務局会合を取材した。
アスタナのヌルスルタンモスクを訪問した国際記者団。最も右に立っているのがフィナンシャル・アフリク編集長であるナスララ・ベルカヤテ博士。写真:カザフ外務省

Original URL:Astana, Twenty-Three Years On: The Emergence of a Power of Trust – Atlantica Africa

INPS Japan

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【メルボルンINPS Japan/London Post=マジッド・カーン】

中東上空でミサイルが発射され、ロシアの無人機がウクライナの都市を攻撃するとき、世界が目にするのは炎上する建物、避難所へ向かう市民、そして破壊された都市の姿である。しかし戦場から遠く離れた金融市場では、まったく異なる反応が起きている。投資家たちは、防衛関連株の値動きを注視している。

2026年、戦争と金融市場の結びつきは、世界経済を特徴づける重要な現象の一つとなった。ウクライナや中東で大量の兵器が消費されるなか、各国政府は備蓄を補充し、軍事予算を拡大し、兵器調達を加速させている。

その結果、防衛企業は生産能力を増強し、工場を拡張し、業績見通しを引き上げている。危険な世界は、防衛産業にとって大きな市場にもなっているのである。

戦場と企業収益を結ぶメカニズム

もちろん、防衛企業が戦争を引き起こしているわけではない。また、軍需関連株を購入するすべての投資家が、人々の苦しみに賭けているわけでもない。戦争には複雑な政治的、歴史的、戦略的背景がある。

しかし、いったん戦闘が始まれば、一つの強力な経済メカニズムが作動する。兵器が消費される。備蓄が減少する。 政府が補充を決定する。 企業が生産を拡大する。 契約が増える。そして売上高と利益が伸びる。

こうして、戦場と企業の貸借対照表が結びついていく。

7月23日、米防衛大手ロッキード・マーティンは、ウクライナ戦争やイランをめぐる軍事的緊張によってミサイルなどの需要が拡大していることを背景に、2026年通期の売上高と利益見通しを上方修正した。

同社の第2四半期の売上高は201億ドルに達し、前年同期比11%増加した。受注残高は約2300億ドルとなり、ミサイル・火器管制部門の売上高は約20%増の41億ドルに達した。

また、高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD」の迎撃ミサイル増産に関連する350億ドル規模の契約も、同社の成長を支えている。

株式市場もすぐに反応した。ロッキード・マーティンとRTXが業績見通しを引き上げると、ロッキード株は10.6%、RTX株は7.7%上昇した。投資家が、軍事需要の長期化を織り込んだ結果である。

レイセオンを傘下に持つRTXも、2026年第2四半期に247億ドルの売上高を記録した。前年同期比14%増で、防空・ミサイル防衛システムへの旺盛な需要が業績を押し上げた。同社の受注残高は2890億ドルに達し、その後、2026年通期の売上高と利益予想も上方修正された。

ミサイル1発が新たな需要を生む

こうした数字は、単なる企業決算ではない。戦争が経済の中をどのように伝わっていくのかを示している。航空機を撃墜するために迎撃ミサイルが1発使用されれば、その分を補充するために新たなミサイルが必要になる。ウクライナで砲弾が1発発射されれば、その砲弾を補充するための発注が、欧州や米国のどこかで行われる。

無人機が防空システムによって撃墜されれば、迎撃弾や関連装備の追加調達が検討される。戦争が兵器を消費し、政府が追加発注し、企業が増産し、投資家が将来の収益増加を予測する。現代の防衛産業が、戦争を始める政治的決定そのものに関与しなくても、紛争によって経済的な恩恵を受けることができるのはこのためである。

停戦後も続く「再軍備サイクル」

さらに重要なのは、戦争が終わったからといって軍事需要が直ちに消えるわけではないことである。戦闘によって兵器備蓄の不足を経験した政府は、停戦後も従来の軍事予算に単純に戻るとは限らない。むしろ、「以前の備蓄量では足りなかった」と判断する可能性が高い。その結果、より多くのミサイル、無人機、航空機、レーダー、砲弾を保有しようとする。

つまり、停戦そのものが新たな軍事支出を生み出すこともある。戦争が終われば、防衛企業の株価に織り込まれていた目先の地政学的リスクは低下するかもしれない。しかし同時に、停戦は長期的な兵器補充サイクルの始まりにもなり得る。

軍関係者は戦場で使われた兵器の性能を分析する。高い効果を示した兵器は追加発注される。十分な成果を上げなかった兵器は改良され、場合によっては新しいシステムへ置き換えられる。こうして戦争は、将来の軍事調達を決める「実験場」としての役割も果たす。

世界規模で進む軍備拡大

世界の防衛産業は、最近の米国とイランをめぐる軍事的対立が激化する以前から、すでに拡大を続けていた。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が公表している最新の包括的データによれば、2024年の世界の軍需・軍事サービス企業上位100社の兵器関連売上高は6790億ドルに達し、当時として過去最高を記録した。

そのうち77社が前年より兵器関連売上高を伸ばした。SIPRIは、旺盛な需要と巨額の受注残高を背景に、軍需企業の売上高は今後も増加する可能性が高いとみている。

2026年の世界を見ると、その構造はさらに鮮明になっている。

欧州ではロシアへの警戒から再軍備が進む。中東では、イランや地域情勢の不安定化を背景に、各国がミサイル備蓄や防空能力を拡充している。アジアでも、中国をめぐる安全保障上の懸念や将来の軍事衝突の可能性を背景に、防衛支出が増えている。

世界規模の軍事調達サイクルが形成されつつあるのである。

恐怖が需要を生む。→需要が契約を生む。→契約が生産を生む。→生産が利益を生む。→そして金融市場が、その利益を評価する。

雇用と安全保障、そして倫理的ジレンマ

数十億ドル規模の防衛契約を獲得した企業は、数千人の雇用を生み、生産設備を拡張し、長期間にわたる安定した収益を投資家にもたらすことができる。地域社会にとって、新しい軍需工場は雇用と税収を意味する。政府にとって、国内の防衛産業基盤は国家安全保障に不可欠な存在でもある。

しかし、そこには大きな倫理的問題がある。戦争が巨大な商業的機会を生み出すとき、その利益構造は政治にどのような影響を及ぼすのか。

軍需企業が特定地域の主要な雇用主となれば、政治家には軍事計画や防衛予算を守ろうとする動機が生まれる。軍需産業が地域経済を支えるようになれば、防衛支出の削減は政治的に難しくなる。投資家の資産が防衛企業の収益に依存するようになれば、地政学的不安定そのものが、金融市場において利益を期待される要因となる。そこには、無視できない「経済的利害関係」が形成される。

「戦争に備えること」が恒常的産業に

こうした現象が示しているのは、現代の経済が軍事支出と深く結びついているという現実である。もはや戦争への備えは、一時的な非常措置ではない。それ自体が恒常的な経済部門となっている。

しかし、戦争のただ中で暮らす市民にとって、この議論は決して抽象的なものではない。彼らが経験するのは、破壊された住宅やインフラ、避難、物価上昇、物資不足、そして家族や友人の死である。政府にとって、戦争は莫大な支出である。

防衛企業にとっては、莫大な需要である。

金融市場にとっては、各国政府が次にどこへ資金を投じるのかを示すシグナルである。これが、2026年の戦場と株式市場を結ぶ、居心地の悪い現実である。中東の空を飛ぶミサイルや、ウクライナ上空を飛行する無人機は、単なる軍事的出来事ではない。それらは政府予算、企業の受注台帳、そして投資家のポートフォリオへと伝わっていく経済的なシグナルでもある。

戦争は、朝に都市を破壊し、数カ月後には新しい軍事調達契約を生み出すことがある。停戦は戦闘を止めても、その後何年にもわたる兵器補充を引き起こすことがある。そして新たな脅威は、最初のミサイルが発射される前から需要を生み出すことさえある。

世界はこれからも、戦争が一刻も早く終わることを願い続けるだろう。しかし防衛産業はますます、戦争が長期化する可能性、あるいは次の戦争が起きる可能性に備えることを前提として構築されている。そこにこそ、現代の戦争がこれほど大きな経済力を持ち、その周囲に形成された企業利益や政治的利害から切り離すことが困難になっている理由がある。

INPS Japan

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カザフスタンで宗教指導者らがAIと気候危機への対応を訴え

【イスタンブールINPS Japan/Haber7=エネス・クルチ】

トルコのニュースサイト「Haber7」のコラムニスト、ミュルセル・ギュンドードゥ記者によると、カザフスタンの首都アスタナで開催された「世界伝統宗教リーダー会議」の事務局会合で、人工知能(AI)、気候危機、そして難病を抱える子どもたちの権利に関する重要な決定がなされた。|トルコ語|

「平和と和解の宮殿(Palace of Peace and Reconciliation)」 写真:浅霧勝浩/INPS Japan

ギュンドードゥ記者がアスタナから伝えたところによると、カザフスタンは2028年に開催予定の第9回世界伝統宗教リーダー会議に向け、着実に準備を進めている。世界が直面する諸課題に対し、精神的・宗教的な視点から持続可能な解決策を見いだそうと、積極的な外交活動を展開している同国は、首都アスタナに世界伝統宗教リーダー会議の事務局メンバーを招集した。

2026年10月7日、アスタナの「平和と和解の宮殿(Palace of Peace and Reconciliation)」のアトリウムホールで開催された第24回事務局会合には、世界20か国からさまざまな宗教団体の代表者、政府関係者、専門家らが参加した。

多数の参加者や報道関係者が見守るなか、会合の進行役を務めたのは、世界伝統宗教リーダー会議の事務局副議長で、カザフスタンのエルジャン・アシュクバエフ第一外務次官だった。

開会に当たり、カザフスタンのエルラン・カリン副大統領兼世界伝統宗教リーダー会議事務局長が演説し、出席者に謝意を表した。

カリン氏は、カザフスタンの憲法が掲げる基本的価値である団結、寛容、人間の尊重の重要性を強調し、「トカエフ大統領の指導の下、わが国が推進する平和外交の基盤となっているのは、まさにこれらの憲法上の価値観です」と述べた。

「人間の行いによって、陸と海の秩序が乱された」

Fatih Mehmet Karaca, Deputy President of Türkiye’s Presidency of Religious Affairs. Credit:Nokta Gazetesi
トルコ宗務庁の**ファティフ・メフメト・カラジャ副長官 出典:Nokta Gazetesi(トルコ)

トルコを代表して会合に出席した同国宗務庁のファティフ・メフメト・カラジャ副長官は、気候変動との闘いにおいて宗教が果たす役割について演説した。

カラジャ氏は、イスラム教の聖典クルアーン(コーラン)の一節を引用しながら、環境問題に対する人間の責任を強調した。

「クルアーンの『ルーム章』第41節には、『人間が自らの手で行ったことによって、陸にも海にも乱れが生じた。アッラーは、人々が正しい道に立ち返るよう、自らの行いの報いの一部を味わわせる』と記されています。また、『夜の旅章』第27節には、『浪費する者たちは悪魔の仲間であり、悪魔はその主に対して極めて恩知らずである』と説かれています」

カラジャ氏は、環境に対して一人ひとりが負う責任を強調し、「誰もが、次の世代にどのような世界を残すのかを真剣に考えなければなりません」と訴えた。

AIと気候危機に関する文書を採択

会合では、2025年に開催された第8回世界伝統宗教リーダー会議に関連する二つの共同文書、「気候変動との闘いにおける宗教の役割」と「宗教分野における人工知能の利用に関する倫理規範」が提示され、採択された。

カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領の提唱によって策定されたAIに関する文書は、宗教分野において、人工知能が道徳的な主体となることはできず、責任は常に人間が負うべきであり、技術を神聖視してはならないという原則を強調している。

この取り組みは、AIに宗教的権威を与えることを防ぐとともに、クルアーン、福音書、トーラー(モーセ五書)などの聖典が改変されたり、内容を歪められたりすることを防止する狙いがある。

会合では、こうした原則を実際の取り組みに反映させていくことが決定された。

難病を抱える子どもたちを守る共同イニシアチブ

2026年10月7日、カザフスタンの首都アスタナで開催された第24回「世界伝統宗教リーダー会議」事務局会合で発言するエルラン・カリン副大統領(事務局長)。従来の外交を補完し、信頼醸成に貢献するスピリチュアル外交の重要性を強調した。|写真:会議広報担当

今回の事務局会合では、カザフスタンとバチカンの共同イニシアチブとして策定された「治癒不能な病気を抱える子どもの権利憲章」も紹介された。

この文書は、10月2日から3日にかけて開催されたカザフスタンとバチカンの合同コロキウムで合意されたものである。

憲章は、子どもの尊厳を守るとともに、包括的な医療、心理的支援、精神的・宗教的なケアを提供し、家族が治療や支援の過程に参加できるようにすることを目指している。また、子どもと家族の宗教的なニーズにも十分な配慮を払うことを重視している。

会合は、事務局会合の議事録の承認に続き、カリン副大統領による閉会の挨拶と参加者全員による記念撮影をもって終了した。

世界各国から宗教指導者や国際機関の代表が参加

今回の事務局会合には、国際的に著名な宗教指導者や関係機関の高官が多数出席した。

主な参加者は以下のとおり。

  • サウジアラビア: ムスリム世界連盟のアブドゥルラフマン・アブドゥッラー・アルザイド事務次長(組織広報担当)
  • バチカン: 教皇庁諸宗教対話省のロラン・バサネー部長
  • アラブ首長国連邦(UAE): ムスリム長老評議会のムハンマド・アブドゥッサラーム事務総長、寛容・共生省のアフラ・アルサブリ局長
  • エジプト: アル・アズハルの最高指導者の首席補佐官を務めるアブドゥルラフマン・ムーサ大使
  • 中国: 中国仏教協会のチウ・シュアン副会長
  • アゼルバイジャン: コーカサス・ムスリム宗務局長のアッラーフシュクル・パシャザデ師(シェイフルイスラーム)
  • 米国: 国連文明の同盟(UNAOC)のニハル・サアド局長
  • ロシア: モスクワ総主教庁対外教会関係局のイーゴリ・ヴィジャノフ副局長(首席司祭)

今回の会合は、世界の主要な宗教・宗派の代表者や国際機関の関係者が一堂に会し、人工知能の倫理的利用、気候変動への対応、そして病気を抱える子どもたちの尊厳と権利の保護という共通課題について、具体的な協力を進める機会となった。


エネス・クルチ(Enes Kılıç)Haber7.com ニュース編集者:Haber7.comは、トルコ最大の都市イスタンブールに本社を置く、トルコ語のオンライン・ニュースポータルである。運営会社はNokta Elektronik Medya A.Ş.で、ゼネラルマネージャー兼編集長はオスマン・アテシリ(Osman Ateşli)氏が務める。テレビ局「Kanal 7」、ラジオ局「Radyo 7」、ニュース専門局「Ülke TV」と同じメディアグループに属し、国内政治、経済、国際ニュース、スポーツ、地方ニュースなど幅広い分野を速報中心に配信している。2025年9月には、トルコ・マラティヤで開催された第4回「ホシュハンル黄金のアンズ賞」で「年間最優秀ニュースサイト賞」を受賞した。INPS JapanはHaber7.comのコラムニスト、ミュルセル・ギュンドードゥ記者(左から二番目)をはじめ世界10数か国から参加した国際記者団とともに、「AI & Digital Bridge 2026」及び「世界伝統宗教リーダー会議第24回事務局会合」を取材した。

INPS Japan

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宗教や文化の違いを超えて対話の架け橋を築いてきたカザフスタン。アスタナに集まった宗教リーダーや国際機関の関係者たちは今、その対話を具体的な行動と成果につなげる必要性を強調している。

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

Erlan Karin, Vice President of Kazakhstan and Head of the Secretariat of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions, addresses the 24th Secretariat meeting at the Palace of Peace and Reconciliation in Astana on October 7, 2026. He emphasized the role of spiritual diplomacy in building trust and complementing conventional diplomatic efforts. | Photo: Congress Press Service
2026年10月7日、カザフスタンの首都アスタナで開催された第24回「世界伝統宗教リーダー会議」事務局会合で発言するエルラン・カリン副大統領(事務局長)。従来の外交を補完し、信頼醸成に貢献するスピリチュアル外交の重要性を強調した。|写真:会議広報担当

戦争や政治的不信、価値観の対立によって世界の分断が深まるなか、カザフスタンは20年以上にわたり、独自の外交的取り組みを続けてきた。異なる宗教の代表者たちが対話を継続できる場を維持することである。今週アスタナで開かれた会合で、エルラン・カリン副大統領は、そうした対話を続けるだけでは、もはや十分ではないことを明確にした。|英語版|タイ語|

「スピリチュアル外交は、特別な役割を果たすことができます。政治的な交渉に取って代わるものではありませんが、それを補完し、外交対話が困難な状況でも意思疎通の経路を維持することができるのです。」とカリン副大統領は参加者に語った。

この発言があったのは、10月7日に「平和と和解の宮殿」で開催された第24回「世界伝統宗教リーダー会議」事務局会合でのことだった。

公式参加者名簿には、宗教共同体、国際機関、カザフスタン政府機関などから計38人が記載されており、会議の宗教的・地理的な多様性を示していた。

この会議は、2003年にカザフスタンの初代大統領ヌルスルタン・ナザルバエフ氏の提唱によって創設された。第1回会議には、13か国から17の代表団が集まった。

以来、3年ごとに主要な大会を開催するとともに、事務局を通じて継続的な交流を維持する国際的な枠組みへと発展してきた。

2022年の第7回会議には、ローマ教皇フランシスコとイスラム教スンニ派の最高学府アズハルのアフマド・アルタイーブ総長が参加した。2025年9月の第8回会議では、宗教界や国際機関の代表者らが集い、「アスタナ平和宣言」を採択した。

Kazakhstan’s Legacy of Interfaith Dialogue. This illustration traces the Congress of Leaders of World and Traditional Religions from its founding in 2003 under President Nursultan Nazarbayev to the historic 2022 gathering attended by Pope Francis and Al-Azhar’s Grand Imam Ahmed Al-Tayeb, and the adoption of the Astana Peace Declaration in 2025 under President Kassym-Jomart Tokayev. Together, these milestones reflect Kazakhstan’s enduring efforts to promote interfaith dialogue, mutual understanding and global peace. | Image: AI-generated illustration/INPS Japan
カザフスタンが築いてきた宗教間対話の歩み。 このイラストは、初代大統領ヌルスルタン・ナザルバエフ氏の主導による2003年の「世界伝統宗教リーダー会議」の創設から、ローマ教皇フランシスコとイスラム教スンニ派の最高学府アズハルのアフマド・アルタイーブ総長が参加した2022年の歴史的な会議、そしてカシムジョマルト・トカエフ大統領の下で2025年に採択された「アスタナ平和宣言」に至るまでの歩みを描いている。これらの節目は、宗教間対話、相互理解、世界平和の促進に向けてカザフスタンが積み重ねてきた継続的な取り組みを象徴している。|画像:AI生成イラスト/INPS Japan

ロシアと中国に挟まれ、複数の大国との関係を重視する外交政策を進めるカザフスタンにとって、この会議は、政治的な利害が必ずしも一致しない政府、宗教、文明が出会う場を提供するという、同国の幅広い外交姿勢を体現する取り組みの一つとなっている。

しかし、参加者たちは今、こうした交流が会議場の外の現実にどのような影響を及ぼし得るのか、という問いを強く意識するようになっている。

Father Laurent Basanese of the Holy See’s Dicastery for Interreligious Dialogue addresses the 24th Secretariat meeting of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions in Astana on October 7, 2026. He emphasized the Vatican’s longstanding commitment to the initiative and the importance of translating interfaith declarations into sustained cooperation. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
ローマ教皇庁宗教間対話省のロラン・バサネーゼ神父。写真:浅霧勝浩/INPS Japan.

会議が終わっても続く対話

ローマ教皇庁宗教間対話省を代表して出席したロラン・バサネーゼ神父は、バチカンが2003年の創設以来、この取り組みを支援してきたことを振り返った。

同神父は、2022年の教皇フランシスコの参加に言及するとともに、宣言を採択した後も取り組みを続けることの重要性を強調した。

宣言が信頼に値するものとなるかどうかは、最終的には、それに賛同した人々が採択後も協力を続ける意思を持っているかにかかっているという。

Mohamed Abdelsalam, Secretary-General of the Muslim Council of Elders, addresses the 24th Secretariat meeting of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions in Astana on October 7, 2026. He emphasized the need to translate interfaith declarations into concrete action for peace and human fraternity. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
イスラム長老評議会のムハンマド・アブデルサラム事務総長。宗教間対話の宣言を、平和と人類の友愛に向けた具体的な行動へと結びつける必要性を強調した。|写真:浅霧勝浩/INPS Japan

同様の問題意識は、イスラム長老評議会のムハンマド・アブデルサラム事務総長からも示された。実行に移されない原則は、結局、紙の上の言葉にとどまってしまう危険があると警告したのである。

「実行されない宣言は、その機能を失ってしまいます」と同事務総長は述べた。これは会議の議事録に記録されている発言である。

対話の継続と具体的な協力の重要性は、国連側からも強調された。

国連文明の同盟(UNAOC)のニハル・サード・ディレクターは、文化や宗教の違いを超えた協力を促進するため、カザフスタンが長年にわたり取り組んできたことに謝意を表明した。

サード氏は、気候変動への対応や人工知能(AI)がもたらす倫理的課題に宗教指導者が果たし得る役割を指摘した。政府や技術専門家による取り組みに加え、地域社会に働きかける宗教共同体の影響力を生かすことができるという。

AIについてサード氏は、倫理を「後から付け加えるのではなく、AIシステムの設計段階から組み込む」ことが必要だと強調した。

Nihal Saad, director of the United Nations Alliance of Civilizations. Photo credit: The Astana Times.
国連文明の同盟(UNAOC)のニハル・サード・ディレクター。|写真提供:The Astana Times

この発言は、急速に進む技術革新をいかに人間の価値観に基づく責任あるものにするかという国際的な議論の中に、世界伝統宗教リーダー会議の取り組みを位置づけるものだった。

理念を具体的な取り組みへ

宗教間対話により実践的な役割を持たせようとするカザフスタンの最新の取り組みは、今回の会合で採択された2つの文書に結実した。一つは、気候変動への対応における宗教の役割を示した文書。もう一つは、宗教的な場面でのAI利用に関する11の倫理原則を定めた文書である。

いずれも、2025年の世界伝統宗教リーダー会議でカシムジョマルト・トカエフ大統領が提唱した構想を具体化したものだ。

国際宗教間・宗派間対話センターのグルサナ・コジャバイ理事長は、気候変動に関する文書が、宗教関係者、外交官、専門家ら26人の協力を得て策定されたことを説明した。

この文書には、カザフスタンの文化的遺産に根ざす「アマナト(Amanat)」という考え方が取り入れられている。それは、ある世代が託されたものを守り、次の世代へ責任を持って引き継ぐという倫理観である。

一方、宗教関係者、研究者、技術専門家ら24人による宗教間委員会で内容が練り上げられたAI倫理規範は、人間の尊厳、信教・良心の自由、宗教に関する個人情報の保護、アルゴリズムによる心理的操作の危険などを扱っている。

策定作業には、日本の神道関係者や中国の道教指導者をはじめ、中央アジアをはるかに超える地域のさまざまな宗教的伝統の代表者が参加した。

今回の会合では、これとは異なる形の協力も取り上げられた。

Yerzhan Ashikbayev, Kazakhstan’s First Deputy Minister of Foreign Affairs, addresses the 24th Secretariat meeting of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions in Astana on October 7, 2026. He presented a joint Kazakhstan–Holy See initiative to protect the rights and dignity of children with incurable diseases. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
2026年10月7日、カザフスタンの首都アスタナで開催された第24回「世界伝統宗教リーダー会議」事務局会合で発言するイェルジャン・アシクバエフ外務第一次官。カザフスタンとローマ教皇庁が共同で進める、治癒困難な病気を抱える子どもの権利と尊厳を守るためのイニシアティブを紹介した。|写真:浅霧勝浩/INPS Japan

カザフスタンのイェルジャン・アシクバエフ外務第一次官は、ローマ教皇庁との共同イニシアティブとして、治癒困難な病気を抱える子どもの権利と尊厳を守るための憲章を紹介した。

カザフスタンと教皇庁は、10月2日から3日にかけてアスタナで開かれた別の会合で、この憲章の文案について合意していた。今回の事務局会合では、その国際的な推進に向けた今後の取り組みが支持された。

「医学の力が限界に達しても、私たち人間の責任がそこで終わるわけではありません」とアシクバエフ外務第一次官は発表原稿の中で述べている。

憲章は、緩和ケア、苦痛の軽減、保護者の意思決定への参加、子どもと家族への支援を重視している。

医療や生命倫理の専門的な知見も取り入れた憲章の策定は、宗教間で築かれた関係が、人道分野での協力へと発展し得ることを示している。

スピリチュアル外交の次なる課題

もっとも、こうした取り組みによって、国際協力を阻む政治的な困難が解消されるわけではない。

採択された2つの倫理文書はいずれも勧告的な性格を持ち、法的拘束力はない。その影響力は、宗教団体、政府、技術企業などが提言を実際の行動に移すかどうかにかかっている。|英語版|

こうした取り組みの背景には、中央アジアが直面する安全保障上の課題もある。アフガニスタン情勢が周辺地域の安定に影響を及ぼすなか、カザフスタンは国連との協力を通じて、テロ対策や暴力的過激主義の防止に取り組んできた。

安全保障と宗教的多様性の尊重という課題に向き合いながら、異なる宗教の指導者たちが対話を続けられる国際的な枠組みを20年以上にわたって維持してきたことは、カザフスタン外交の重要な特徴の一つである。

The pyramid-shaped Palace of Peace and Reconciliation in Astana, Kazakhstan, hosted the 24th Secretariat meeting of the Congress of Leaders of World and Traditional Religions on October 7, 2026. The landmark symbolizes Kazakhstan’s longstanding commitment to promoting interfaith dialogue, mutual understanding and global peace. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
カザフスタンの首都アスタナにあるピラミッド形の「平和と和解の宮殿」。2026年10月7日、第24回「世界伝統宗教リーダー会議」事務局会合が開催された。宗教間対話、相互理解、世界平和の促進に向けたカザフスタンの長年の取り組みを象徴する建築物である。|写真:浅霧勝浩/INPS Japan

会合の閉幕に際し、カリン副大統領は、宗教指導者間の協力を強化し、スピリチュアル外交により実践的な国際的役割を持たせることを目指す「平和のためのグローバル運動」構想について、作業を進めるよう呼びかけた。

構想案と段階的な実施計画は、2028年の第9回世界伝統宗教リーダー会議に先立ち、2027年に検討される予定である。

ただし、これはまだ提案段階にあり、確立された平和構築の仕組みではない。それでも、この構想はカザフスタンの取り組みが重要な転換点を迎えていることを示している。

異なる宗教の指導者たちが、立場の違いを超えて一堂に会することができると示す段階から、共に何を成し遂げられるのかを問う段階へと移ろうとしているのである。

23年にわたり、カザフスタンは対話を継続する力を示してきた。これから問われるのは、その対話がアスタナの外の世界を変える力となり得るかどうかである。(SDGs for All)(Inter Press Service)

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SDGs for All
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中東は核をめぐる膠着状態を打開できるか

中東条約機構(METO)が提示する、イスラエル人とイラン人による既成概念にとらわれない「大量破壊兵器のない中東」構想

【パリ/エルサレムINPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】

核兵器、化学兵器、生物兵器のない中東を実現するという構想は、何十年にもわたり、この地域で最も困難な外交課題の一つであり続けてきた。|英語版|アラビア語|ロシア語|トルコ語|

市民社会のイニシアチブとして始まり、正式に登録された組織へと発展した中東条約機構(Middle East Treaty Organization=METO)は、いま、この構想を実際に機能し得る交渉の枠組みへと具体化しようとしている。

Roman Yanushevsky
Roman Yanushevsky

METOが掲げる目標は、あらゆる大量破壊兵器のない中東を実現し、その先に地域の安全保障と平和を築くことである。同組織は、核・化学・生物兵器を包括的に対象とする条約草案を策定し、改訂を重ねてきた。それは完成された協定として各国政府に採択を求めるものではなく、政府間交渉の青写真となり得るものとして提示されている。

METOの設立に携わった中心人物の中には、イスラエルの平和・軍縮活動家シャロン・ドレフと、イラン出身の紛争解決専門家エマド・キヤエイがいる。ドレフは2007年以来、イスラエルで核軍縮に取り組み、METOの創設者兼事務局長を務めている。キヤエイは同組織の理事の一人で、長年にわたり外交、紛争解決、イラン核問題に携わってきた。

二人の歩みは、より根本的な問いへの答えを探る試みでもある。

中東で最も危険な対立をめぐって敵対する立場に置かれてきたイスラエル人とイラン人が、まさに両国を対立させてきたその問題について協力することは可能なのだろうか。

「私たちは時限爆弾の上に座っている」

Sharon Dolev
Sharon Dolev

ドレフにとって、核問題は彼女が活動を始めるはるか以前から身近な存在だった。

彼女が育ったのは、ディモナからそれほど遠くないイスラエル南部の都市アラドだった。そこでは、イスラエルが核兵器を保有しているとの認識が広く共有されながら、それについて公然と語られることはほとんどなかった。

「私はその秘密とともに育ちました。」と彼女は振り返る。

「考えない。語らない。それが当たり前でした。」

2007年、ドレフはグリーンピース・インターナショナルで核軍縮に取り組み始めた。その後、同団体が世界規模の核軍縮キャンペーンを終了すると、彼女は独自に活動を続けることを決意した。

活動を重ねるにつれ、核軍縮は地域の安全保障と切り離して考えることはできないとの確信を深めていった。

「たとえ多くのイスラエル人に、核兵器のない世界を望んでもらうことができたとしても、地域全体の解決策がないまま核兵器を手放しても安全だとイスラエル人に信じてもらうことはできません。」

ドレフにとって、問題は宣言が不足していることではなかった。アラブ諸国、イラン、イスラエルはいずれも、それぞれ異なる形で「大量破壊兵器のない中東」という構想に言及してきた。

欠けていたのは、各国が実際に参加できるようにする具体的なモデルだったと、彼女は考えた。

そして彼女は単純な結論にたどり着いた。

「なぜそのような地帯は実現不可能なのか。」を延々と論じ続けるのではなく、誰かが実際にその仕組みを設計してみなければならない、と。

イランからの視点

キヤエイがこの問題に取り組むようになった経緯は、ドレフとは大きく異なっていた。

イラン出身で、紛争解決、国際関係、外交に携わってきた彼は、長年にわたりイランと欧米諸国との核をめぐる対立を追ってきた。

彼にとって核問題は、イランと米国の間のより大きな意思疎通の失敗、さらには中東地域全体の外交的枠組みの欠如という問題の一部だった。

Emad Kiyaei
Emad Kiyaei

「選択肢の一つは戦争です。もう一つは外交です。」とキヤエイは語る。

「では、外交的なアプローチを取りながら、それを技術的に確かで、なおかつ政治的にも実行可能な解決策によって支えるには、どうすればよいのか。」

彼は仕事を通じて、核物理学者、技術者、政策立案者、外交官らと接するようになった。そして、包括的な国際監視の下で、イランの核計画が平和目的にとどまっていることを立証できる仕組みの構築に関わった。

その経験から、同じ論理はイラン一国を超えて応用できるのではないかと考えるようになった。

国際的な仕組みによって一国の核活動が平和目的に限定されていることを検証できるのであれば、なぜすべての国を対象とする地域的な制度を構築できないのか。

やがて、その問いはさらに大きなものへと発展した。

中東全域を、核不拡散、検証、軍縮に関する共通の制度の下に置いたら、何が起こるのか。

イスラエル人とイラン人

ドレフとキヤエイが初めて出会ったのは国連だった。

キヤエイは、核兵器について公然と語っているイスラエル人がいると耳にした。最初の反応は信じ難いというものだった。

「イスラエル人が核兵器について語るとは、なんという大胆さだと思いました。」

彼は反論するつもりで、ドレフの話を聞きに行った。

ところが実際に耳を傾けてみると、二人が主張していることの多くは驚くほど共通していた。

やがて二人の関係は、正式な会合で顔を合わせるだけのものではなくなった。

ある時期、ドレフは深刻な個人的危機に直面していた。長い闘病の末に父親を亡くし、その直後にはパートナーも彼女のもとを去った。それでも彼女は国連に赴き、条約草案について説明を続けていた。

様子がおかしいことに気付いたキヤエイは、二人だけで話そうと持ちかけた。

結局、その時二人が語り合ったのは、イランでもイスラエルでも核兵器でもなかった。家族やそれぞれの人生についてだった。

ドレフは後に、その出会いを、二人が「きょうだいのような関係になった」瞬間だったと表現している。

キヤエイにとって、この人間的なつながりはMETOの理念の中心となった。

「イスラエル人、イラン人、アラブ人、パレスチナ人、その他どんな人たちであっても、一緒にこの未来をつくることなど本当に可能なのか、とよく聞かれます。私たちは、もちろん可能だと答えます。」

彼によれば、出発点は、国籍や政治的アイデンティティー、歴史的対立を見る前に、まず相手を一人の人間として見ることである。

「不可能」から条約草案へ

ドレフが最初の草案づくりに取り掛かった時、外交官や専門家から何度も「そのような条約は実現できない」と言われたという。

核・化学・生物兵器のすべてを対象とする既存の地域的なモデルはなかった。しかも対象となる国々は深刻に対立しており、その多くは正常な外交関係すら持っていなかった。

「ですから、最初の草案を書いた時でさえ、うまくいくとは思っていませんでした。」とドレフは振り返る。

当初の目的は、どこに技術的な障害があるのかを洗い出し、それを相互不信という政治的問題から切り分けることだった。

しかし、その草案は次第に中東各国の外務省の間を回るようになった。

ドレフによれば、その反応は活動家たちを驚かせた。草案は単なる非現実的な理想論として退けられるのではなく、外交官たちが批判し、修正し、交渉することのできる文書として扱われるようになったのである。

それこそが、まさに狙いだった。

草案はその後、複数回の改訂を重ねた。METO自身、この文書を、各国政府がそのまま採択することを期待する完成済みの条約ではなく、専門家や外交官との協議を通じて変化し続ける「生きた文書」と位置付けている。

「私たちがしなければならなかったのは、各国が『実現したい』と言っていることを、本当に実現したいのだと仮定することだけでした」とドレフは語る。

問いが「そんなことは可能なのか」から「どうすれば実現できるのか」へと変わった時、議論そのものも変わり始めた。

本当の目的は軍縮よりも大きい

METOにとって、大量破壊兵器のない地域を実現すること自体が、プロセスの最終目的ではない。

核・化学・生物兵器をめぐる交渉は、利害が大きく異なる国々を同じテーブルにつかせることのできる数少ないテーマの一つだと同組織は考えている。

そして、その交渉のプロセスそのものが、意思疎通を生み、信頼を育て、協力の習慣を築くことにつながる。

「何より重要なのは、そのプロセスです。そこから信頼が生まれ、橋が架けられるからです。」とキヤエイは語る。

だからこそ、METOの活動は条約草案の作成だけにとどまらない。

外交、教育、市民への啓発、研究、他の市民社会組織との協力など、多岐にわたっている。

その先にある構想は極めて野心的だ。

地域協力が例外ではなく、ごく当たり前のものとなる中東である。

「徹底して『愛』の側に立たなければならない」

近年続く戦争によっても、ドレフとキヤエイがこのアプローチを諦めることはなかった。

むしろ逆だった。

二人は、暴力によって軍事的解決には限界があることが明らかになった一方、社会同士の信頼を築くことはこれまで以上に困難になったと指摘する。

そこには一つの逆説がある。

地域協力が最も困難になったまさにその時、地域協力の必要性は一層高まっているのである。

「私たちは反対側の極端にまで行かなければなりません」とキヤエイは語る。

「暴力や破壊、戦争を唱える過激派がいるのなら、私たちはもう一方の極端にまで行く必要があります。」

彼が意味するのは、思いやり、対話、そして一国の政府の行動を、その国のすべての人々と同一視することを意識的に拒む姿勢である。

「敵を憎む方が、私にとってはずっと簡単です。」と彼は言う。

「だからこそ、私たちはそれと闘わなければならないのです。」

地域が憎悪に深く沈めば沈むほど、人々はそれに抗う努力を、より意識的に続けなければならないと彼は考えている。

戦争によって、この構想の必要性は高まったのか

ドレフの答えは単純ではない。

イエスでもあり、ノーでもある。

地域的な安全保障メカニズムの必要性は以前より明白になった。しかし同時に、相互不信の深刻さも一段と明らかになっている。

軍事衝突は外交の必要性をより強く認識させる一方で、外交そのものを一層困難にする可能性がある。

一方、ドレフは、繰り返される攻撃が軍事力の根本的な限界も示したと考えている。

「イランの核計画は軍事力では止められないことが明らかになったのです。」

それによって、従来は政治的に非現実的だと思われていた別の選択肢を検討する余地が生まれていると、彼女は見る。

キヤエイはさらに踏み込む。

10月7日以降の出来事から得られる教訓の一つは、一国の安全保障を、近隣諸国が恒久的に不安定な状態に置かれることの上に築くことは、最終的にはできないということだと語る。

「軍事力では平和を実現できないということです。……私たちには別の道が必要です。暴力を超えた道です。」

中東の紛争は、もはや単純な二国間対立ではない。

イラン、イスラエル、米国、あるいはその他の国々が関わる戦争は、たちまち中東全域に影響を及ぼす。

だからこそ、地域的な安全保障の枠組みは、これまで以上に重要になっているとキヤエイは考えている。

イスラエルを交渉のテーブルへ

METOにとって最大の難題は、依然としてイスラエルの参加である。

しかしドレフによれば、「大量破壊兵器のない中東」をめぐる外交の言葉遣いは変わりつつある。

単にイスラエルに一方的な措置を要求するのではなく、その安全保障上の懸念にも対応しながら、将来的にイスラエル自身が参加できる制度をどのように設計するかという方向へ、議論を進めることができる。

「最大の変化は、まだ私たちの政府から生まれたものではありません。」と彼女は語る。

「最大の変化をもたらしたのは外交官たちです」

いま重要なのは、イスラエルに単に「参加すべきだ」と迫ることではない。

イスラエルが現実的に参加することのできる枠組みをつくることである。

ドレフにとって、それは、この地域的なプロセスがイスラエルの安全保障に対する脅威なのではなく、長期的な安全保障体制の一部となり得ることを、イスラエルの政策決定者に理解してもらうことを意味する。

エルサレムからテヘランへ続く道

METOが最終的に描く未来は、核兵器の問題をはるかに超えている。

キヤエイが思い描くのは、現在の国境や政治的対立が、人々の移動や貿易、協力を妨げることのない地域である。

ドレフにも似たイメージがある。

中東を横断する列車に乗り、エルサレムで朝食をとり、ダマスカスかベイルートで昼食をとり、テヘランで夕食をとる。

そんな未来である。

ユートピアのように聞こえる。

しかし二人は、そうではないと言う。

かつてヨーロッパも、同じように終わりのない戦争の連鎖に閉じ込められているように見えたと、二人は指摘する。

欧州連合(EU)が誕生したのは、何世紀にもわたる対立が突然消え去ったからではない。

政治指導者たちが、戦争の連鎖を再び繰り返しにくくするための制度を構築したからである。

「私たちも、それほど違うわけではありません」とキヤエイは語る。

「私たちにもできるのです。」

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宗教間対話の舞台裏―信仰と黄金、「生命の木」が語るカザフスタンの物語

世界各地の宗教指導者が集う会合を翌日に控え、国際記者団がアスタナの宗教施設、古代の文化遺産、近代的な都市景観を巡った。そこには、カザフスタンが進める対話外交の歴史的・文化的背景が浮かび上がっていた。
The central ceiling of Nur-Sultan Mosque in Astana. Its Islamic architecture incorporates various symbolic motifs reflecting the traditional Kazakh way of life. | Photo: Katsuhiro Asagiri
ヌル・スルタン・モスク中央の天井。イスラム建築の中に、カザフ民族伝統の生活様式の名残がさまざまなシンボルとして埋め込まれている。
写真:浅霧勝浩

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

「太陽はどこにあるでしょうか。」

アスタナのヌル・スルタン・モスク(旧称:グランドモスク)。その巨大なドームの下で、外国人記者の一行に案内者が問いかけた。

答えは頭上にあった。青く彩られた広大な天井を、巨大なシャンデリアが照らしていたのである。

濃い青は宇宙を、淡い青は昼間の空を表しているという。その二つの色が描き出すのは、カザフの伝統的な移動式住居「ユルタ」の屋根の頂部にある円形の枠組み「シャヌラク」を通して見上げる空だ。遊牧民たちは幾世代にもわたり、そこから天を仰いできた。

それは、カザフスタンの宗教文化を知るための、意外で印象的な導入だった。

この国の首都アスタナでは、古くから受け継がれてきた文化、異なる宗教的伝統、そして近代国家としての大きな構想が、都市の建築の中で重なり合っている。

10月6日の訪問は、翌日に開催される第24回「世界伝統宗教リーダー会議」事務局会合に先立ち、国際記者団を対象に企画されたプレスツアーの一環だった。

時間の制約で日程は短縮されたものの、一行は5か所を訪れた。ヌル・スルタン・モスク、ロシア正教会の聖母就寝大聖堂、カトリックの「絶えざる御助けの聖母」大聖堂、国立博物館、そしてバイテレクである。

これらの訪問先は、それぞれ異なる角度からカザフスタンの歴史と文化を映し出していた。そこには、国際会議の宣言文だけでは見えてこない、この国の姿があった。

異なる形で息づく信仰

2022年に開堂し、2026年7月に現在の正式名称が付けられたヌル・スルタン・モスクは、中央アジア有数の壮大なイスラム建築である。

Nursultan Mosque, Astana, Kazakhstan. credit: Красный
ヌルスルタンモスク credit: Красный

主任イマームの顧問だと自己紹介した案内者のイェルマル氏は、カザフ文化に由来する装飾について繰り返し説明した。

建物の各所には、羊の角をかたどった文様が見られる。中央の巨大なシャンデリアは太陽を象徴する。モスクの意匠には、遊牧生活に由来するさまざまなイメージが取り入れられていた。

イェルマル氏は、クルアーンやイスラムの教え、信仰生活について学ぶ無料講座など、モスクで行われている教育活動についても紹介した。

その説明から伝わってきたのは、この建物が単なる壮大な建築物ではなく、イスラムの信仰とカザフ民族の文化的アイデンティティーが互いに支え合う場だということだった。

The press tour brought together journalists from a diverse range of countries, including India, Uzbekistan, Lebanon, Türkiye, Ethiopia, Egypt, Morocco, Azerbaijan, Israel, Belarus, Pakistan, Poland, Kyrgyzstan, Japan and the Vatican.
The press tour brought together journalists from a diverse range of countries, including India, Uzbekistan, Lebanon, Türkiye, Ethiopia, Egypt, Morocco, Azerbaijan, Israel, Belarus, Pakistan, Poland, Kyrgyzstan, Japan and the Vatican.

次に訪れた聖母就寝大聖堂では、まったく異なる宗教芸術の世界が広がっていた。

Holy Dormition Cathedral. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
聖母就寝大聖堂。写真:浅霧勝浩/INPS Japan

2010年1月にモスクワおよび全ルーシ総主教キリルによって成聖されたこのロシア正教会の大聖堂は、高さ68メートルに達する。内部には、異なる宗教的伝統と歴史を伝える聖画やイコンが並んでいた。

案内者は、聖ニコライのイコンと、その生涯の場面を描いた絵を紹介した。また、大聖堂の各祭壇が聖母マリア、大天使ミカエル、聖キリルと聖メトディウスらにささげられていることを説明した。

教会側の記録によると、この大聖堂には、2010年に教皇ベネディクト16世からカザフスタンの正教会共同体に贈られた使徒聖アンデレの聖遺物も安置されている。

それは、歴史的に分かれてきたキリスト教の教派の間にも、宗教的な結びつきが存在することを物語っている。

一行は続いて、アスタナのカトリック共同体の中心である「絶えざる御助けの聖母」大聖堂を訪れた。

イスラム教、ロシア正教会、カトリック教会の施設が同じ首都に存在することは、カザフスタンの宗教的多様性を示している。

Cathedral of Our Lady of Perpetual Help. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
絶えざる御助けの聖母大聖堂。写真:浅霧勝浩/INPS Japan

しかし、異なる宗教施設が建っているという事実だけで、それぞれの信徒が日常生活の中でどれほど円滑に共存しているかを判断することはできない。

その実態を知るには、建築物の向こう側にも目を向ける必要がある。

「黄金人間」が伝える遊牧文明の記憶

カザフスタン国立博物館では、一行の歴史をたどる旅は一気に2,000年以上さかのぼった。中心的な展示の一つは、古代サカ人の若者が身にまとっていた儀礼用衣装を復元した、通称「黄金人間(Golden Man)」である。

1969年から1970年にかけて、アルマトイ近郊のイシク古墳で発見された遺骨の周囲からは、紀元前5世紀から4世紀ごろのものとされる数千点の金製装飾品が出土した。その数は4,000点を超える。復元された黄金の衣装は、今では独立カザフスタンを象徴する最もよく知られた文化遺産の一つとなっている。

周囲の展示では、古代テュルク語の碑文、埋葬儀礼、装飾された馬、石像、ユーラシアの草原地帯に暮らした人々の卓越した工芸技術などが紹介されていた。

The Golden Man. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
Golden Man(黄金人間)。写真:浅霧勝浩/INPS Japan

しかし、案内者の説明で特に印象に残ったのは、現代の生活にも受け継がれている伝統についての話だった。

ユルタや衣装、生活用品の展示を前に、案内者は家族で囲む食卓、馬肉料理、結婚式、そして年長者が食事を始めるまで家族が待つ習慣について語った。

食事は、単に料理を分かち合う時間ではないという。親族が集まり、つながりを保ち、互いの近況を伝え合う大切な機会でもある。

案内者にとって、こうした伝統は、すでに消滅した文明の名残ではなかった。

形を変えながらも、現代のカザフ人の暮らしの中に確かに息づいている文化だった。

過去から未来へ向かう都市

最後の訪問先は、近代的な行政地区を見渡す高さ105メートルの記念塔、バイテレクだった。

そのデザインには、古代の「生命の木」の伝説が取り入れられている。

聖なる鳥サムルクが、太陽を象徴する黄金の卵を産む。一方、木の根元に潜む竜がその卵をのみ込もうとする。

The Baiterek Monument rises above Astana, Kazakhstan’s capital, whose development was shaped by a master plan by Japanese architect Kisho Kurokawa, winner of the city’s international planning competition in 1998. | Photo: Radis B / Pexels.
カザフスタンの首都アスタナにそびえるバイテレク記念塔。同市の都市開発の基礎となったのは、1998年の国際設計競技で最優秀賞を受賞した日本人建築家、黒川紀章氏による都市計画だった。|写真:Radis B/Pexels

光と闇、再生と破壊のせめぎ合いを表す物語である。

展望フロアからは、案内者がアスタナの変貌を説明した。

Kisho Kurokawa
黒川紀章

かつてのソ連時代の都市アクモラから、独立したカザフスタンの首都へ。イシム川を挟んだ対岸には、近代的な行政地区が広がっていた。

この都市構想には、1998年に首都のマスタープランの国際コンペで最優秀案に選ばれた日本人建築家、黒川紀章の思想が大きな影響を与えている。

黒川が提唱した「メタボリズム(新陳代謝)」と「共生」は、歴史と未来を結びつけながら、成長と変化を続ける都市を目指す考え方だった。

案内者は、アスタナの発展を「過去から未来へ」という言葉で表現した。

近代的な都市景観の中には、2003年に始まった国際的な宗教間対話の恒久的な拠点として建設された、ピラミッド形の「平和と和解の宮殿」もあった。

バイテレクにも、世界伝統宗教リーダー会議との歴史的な接点が残されている。

運営団体によると、塔内には「バタ(祝福)」と呼ばれる作品があり、2003年の第1回会議に参加した17の宗教・宗派の代表者の署名が刻まれている。

建築が象徴するもの、その先にある課題

翌10月7日、宗教指導者たちは平和と和解の宮殿に集まり、人工知能、気候変動、治癒困難な病気を抱える子どもの尊厳について議論した。そこには、宗教間の対話を、人類全体に関わる課題についての実践的な協力へと発展させようとする、より大きな構想があった。

Inside Baiterek, the Bata (“Blessing”) installation bears the signatures of 17 religious representatives from the inaugural 2003 Congress. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
塔内には「バタ(祝福)」と呼ばれる作品があり、2003年の第1回会議に参加した17の宗教・宗派の代表者の署名が刻まれている。
写真:浅霧勝浩/INPS Japan

カザフスタン憲法は世俗国家と政教分離を定め、宗教を理由とする差別を禁じるとともに、良心の自由を制限できない権利として保障している。

今回のプレスツアーが明らかにしたのは、具体的なことだった。カザフスタンが、自国の歴史的・文化的遺産を、現代の国際社会における自らの役割を形づくる基盤として、どのように位置づけているかということである。

モスクのドームに表現されたシャヌラク、正教会のイコン、古代サカ人の黄金、そして神話の「生命の木」。それぞれ異なる信仰と記憶の世界に属するものが、アスタナでは、対話を国家の重要な目標として掲げる一つの物語の中に組み込まれている。

建築物は、その理想に目に見える形を与えている。しかし、その理想が持つ本当の意味は、そこに託された価値観が、首都の象徴的な空間を離れ、人々の暮らしの中でどのように実践されていくかによって問われることになる。

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カザフスタン、AIの学びを仕事と創作につなぐ

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

"The First Honest Day," an AI film by Latvian director Nikolay Shestak (18:02), from the Astana AI Film Festival 2026 screening programme. Photo: Katsuhiro Asagiri / INPS Japan
「ラトビアのニコライ・シェスタク監督によるAI映画『The First Honest Day』写真:浅霧勝浩/INPS Japan

カザフスタンの首都アスタナで開かれた非公開上映会では、人工知能(AI)を使って制作された映画が、研究室やデータセンターの外にも広がる技術革新の可能性を映し出していた。制作者にとってAIは、かつては映像化が難しかった物語を形にし、観客に届ける手段になりつつある。

10月3日、初開催のアスタナAI映画祭は、ラトビアの映画監督ニコラ・シェスタク氏による『The First Honest Day』にグランプリを授与した。カザフスタンのミルザハン・ジュマハン氏は、『It Was Just a Joke』で最優秀キャラクター賞を受賞した。

「AI & Digital Bridge 2026」と並行して開催された映画祭は、より大きな構想の一端を示していた。技術への投資を、人々が学び、働き、事業を起こし、創作する機会につなげようというものである。

記者説明会や展示ブースでの取材からは、こうしたつながりを生み出そうとする取り組みが見えてきた。開会時の議論が国家戦略や基盤整備に重点を置いていたのに対し、その後の対話では、構想を実践へ移し始めた人々の姿が浮かび上がった。

ミルザハン・ジュマハン氏 写真:アスタナAI映画祭

その中核の一つが、旧EXPO会場の球体の建物に設けられた「Alem.AI」だ。10月2日の記者説明会で、ジャスラン・マディエフ副首相兼AI・デジタル開発相は、一般の人々がAIに触れるところから、教育、研究、起業を経て、経済の各分野での活用へとつなぐ拠点として説明した。

出発点にあるのは好奇心である。家族や子どもたちは展示を通じてAIに触れ、無料のTUMOプログラムでは、12~18歳の若者が技術や創作分野を学ぶ機会を得られる。

省の説明資料によると、TUMOには4500人が登録している。18歳以上を対象とするTomorrow Schoolでは、学生同士で学ぶ方式を採用し、実践と協働を通じて技能を身につける無料の学習環境を提供している。マディエフ氏によれば、このプログラムは14地域にも展開している。

こうした取り組みは、技術を学ぶ入口を広げ、変化する経済に必要な能力を育む場を提供している。

会場では、アティラウから来た18歳の学生、ダスタンさんが、AIを学んでいると話した。翻訳を介したやり取りで、自分自身で理解を深める代わりにAIへ頼ることへの懸念を示した。その言葉は、学習機会の拡大とともに取り組むべき教育上の課題を映していた。強力な道具を使いながら、自ら考える力をどう育てるかという課題である。

Network School. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.
Network School. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

技能を仕事につなぐ別の道筋は、ネットワーク・スクールのブースで紹介された。担当者は、住居や共同作業の場、家族を持つ参加者への支援を組み合わせたコミュニティーについて説明した。

同担当者はまた、オンラインと対面の試験、面接、試用段階を通じ、カザフスタンのソフトウエア技術者を国際的な企業の仕事につなぐ仕組みを紹介した。通常の学校教育を提供することよりも、実証された能力を就業機会に結びつけることに重点を置いている。

カザフスタンに暮らしながら遠隔で働ける技術者にとって、こうしたつながりは、国際市場に参加する機会を広げうる。

デジタル技術を企業の実務に役立つ仕組みへと発展させる取り組みは、同国の起業家にも見られる。

Madiyar Aiyp, a young Kazakhstani IT entrepreneur Photo: Katsuhiro Asagiri/ INPS Japan
BTKazのマディヤール・アイイップ最高経営責任者 写真:INPS Japan

BTKazのマディヤール・アイイップ最高経営責任者(CEO)は、企業間の調達や、買い手と供給業者のやり取りを、より効率的で透明性の高いものにするデジタルプラットフォーム「FOCUS」を開発していると説明した。

「私たちにとって、デジタル化が価値を生むのは、実際のビジネス上の問題を解決するときです」とアイイップ氏は語った。「調達では今も、連絡が複数の手段に分散し、供給業者を探すのに時間がかかり、技術面や取引条件に関する提案を何段階にもわたって比較することがあります。FOCUSでは、その過程をできるだけ一つのデジタル環境にまとめたいと考えています。」

開発の出発点となったのは、適切な供給業者を見つけ、提案を比較し、要件を調整して取引を進めるという、調達現場の具体的な課題だった。地元のスタートアップで働きながらソフトウエア開発の技能を身につけたアイイップ氏は、将来的に世界各地の企業に役立つサービスを開発する基盤として、AIに可能性を見いだしている。

カザフスタンは、海外からの人材誘致にも力を入れている。10月3日の記者説明会で、Astana Hubのマネージング・ディレクター、リナタ・イリュバエワ氏は、技術者や起業家、研究者、投資家が同国を活動拠点として選べるよう支援する「Trusted Kazakhstan」構想を説明した。同氏が紹介した支援は、入国・在留手続きや必要書類の準備から、教育、創業支援、事業成長の支援まで幅広い。外国籍の創業者も会社を設立し、Astana Hubの優遇措置やサービスの利用を申請できるという。起業家のコミュニティーと実務的な支援を組み合わせることで、新たに来た人々が製品開発に集中できる環境を整えようとしている。

Astana Hubが以前に紹介した事例は、仕事の機会と生活の定着が互いを支えうることを示す。Datanomixのニキータ・スソエフ氏は、カザフスタンでの5年間にキャリアを築き、家庭を持ったと説明した。自社のサービスはウズベキスタンから米国まで展開しており、デジタルノマド制度が、同国で長期的な生活と仕事の展望を描く安心感につながったと述べている。

省の説明資料は、住居、教育、医療、安全を、人材の定着を支える条件として挙げた。市当局者による説明会では、学校、医療施設、スポーツ施設への投資が紹介され、急成長する首都を支える生活基盤の重要性が示された。

The Baiterek Monument rises above Astana, Kazakhstan’s capital, whose development was shaped by a master plan by Japanese architect Kisho Kurokawa, winner of the city’s international planning competition in 1998. | Photo: Radis B / Pexels.
カザフスタンの首都アスタナにそびえるバイテレク記念塔。同市の都市開発の基礎となったのは、1998年の国際設計競技で最優秀賞を受賞した日本人建築家、黒川紀章氏による都市計画だった。|写真:Radis B/Pexels
「AI & Digital Bridge 2026」のパネル討論で発言するカザフテレコムのバグダト・ムシン氏。2026年10月2日、カザフスタンの首都アスタナで。写真:浅霧勝浩/INPS Japan.

人材が能力を発揮するには、組織の側にも変化が求められる。10月2日のパネル討論で、カザフテレコムのバグダト・ムシン氏は、AIによって個人の生産性が高まっても、提案が長い承認手続きに阻まれれば、企業全体の変革にはつながらないと指摘した。その発言は、人材育成と組織改革を結びつけるものだった。働く人々には新たな能力を発揮する機会が必要であり、経営者には、有用なアイデアを実行に移せるよう業務の進め方を見直す役割がある。

創造産業も、技能を経済活動につなぐ道を開く。主催者の公式発表によると、映画祭には125カ国から8067作品が寄せられ、応募数で世界最大の国際AI映画コンペティションとなった。25作品が最終選考に残った。

グランプリを受賞したシェスタク氏には、賞金45万ドルが贈られた。同氏は約4年前に監督として活動を始め、2年前からAIを使った映画制作に取り組んでいるという。賞金は新たな映画の制作に投じる考えだ。インドのアビク・バネルジー氏による『SITARA』が第2位となり、賞金20万ドルを獲得した。スペインのエルネスト・デスンビラ氏による『Looking For Perseida』は第3位となり、10万ドルが贈られた。

Festival co-founder and creative director Aizat Kussainov. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.
アスタナAI映画祭の共同創設者でクリエイティブ・ディレクターのアイザット・クサイノフ Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

技術への習熟は、審査の一要素だった。共同創設者でクリエイティブ・ディレクターのアイザット・クサイノフ氏によると、選考では、創作者の構想と作品全体のまとまりを何より重視した。

この審査方針は、技術が変化する時代にも、人間の判断が中心的な役割を担うことを示している。AIは制作の可能性を広げるが、その可能性を意味のある映画へと形にすることは、創作に携わる人々の仕事である。

映画祭の総資金200万ドルのうち、100万ドルが賞金に充てられ、別の100万ドルは、有望なAIチームへの投資とカザフスタン国内の制作活動の発展に充てられる予定だ。主催者は、映画祭での上映にとどまらず作品を観客に届けるため、配信プラットフォーム「Mooncast.ai」の開発も進めている。

イリュバエワ氏は、映画祭を、創造分野で活動する起業家の誘致や、国内でのAI映画制作の発展に結びつけて説明した。学び、制作、配信、投資をつなぐことで、継続的な創作活動を支える基盤が生まれる可能性がある。

各事業の進捗は異なり、学びが就業にどれだけ結びついたかは、今後も重要な評価指標となる。それでも、取り組みに共通する方向は見え始めている。学ぶ機会を広げ、技能を仕事につなぎ、事業を支え、作品を観客に届けることである。

カシムジョマルト・トカエフ大統領は、技術の進歩を一人ひとりの国民の具体的な利益へと変えるべきだと述べている。アスタナでは、その構想が、人々を新たな可能性へとつなぐ組織や出会いを通じて形になりつつある。その持続的な価値は、学ぶ人が実践の担い手となり、起業家が事業を着実に育て、制作者が自らの物語を届ける観客を見いだすなかで生まれていくだろう。

海外人材や起業家の誘致を目指す「Trusted Kazakhstan」構想について説明後、各国の記者団と記念撮影に臨むAstana Hubのマネージング・ディレクター、リナタ・イリュバエワ氏(中央)写真:浅霧勝浩/ INPS Japan

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「発展の権利」40年―成長が人々を取り残すなら、それはなお開発と呼べるのか

【国連/ジンバブエ・ブラワヨIPS=ブサニ・バファナ】

世界の指導者たちは、「発展の権利」が掲げてきた約束に現実が追いつかず、最も脆弱な立場にある人々が取り残されていると警告した。開発の恩恵が、超富裕層や権力を持つ人々に偏っているかのような状況が広がっている。ニューヨークで開かれた第81回国連総会の関連会合では、「発展の権利に関する宣言」採択40周年を記念し、世界の不均衡な発展によって生じている深刻な格差を是正するため、さらなる行動を求める声が相次いだ。|英語版|

1986年12月に国連総会で採択された同宣言は、「発展の権利は不可譲の人権であり、すべての人間およびすべての人民は、すべての人権と基本的自由が十分に実現される経済的、社会的、文化的および政治的発展に参加し、これに貢献し、その恩恵を享受する権利を有する」とうたっている。

人類の発展のあり方を根本的に転換するものとして期待されたこの宣言だが、その約束はいまだ十分に果たされていない。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は世界の指導者たちに対し、「世界中の何百万人もの人々にとって、宣言に盛り込まれた約束はいまだ実現していません。しかし、それを現実のものにする方法を、私たちは知っています」と語った。

そして、宣言採択40周年は行動を求める機会であると強調し、「誰一人取り残さない」ための青写真として持続可能な開発目標(SDGs)を挙げた。

「開発、人権、平和は、それぞれ別個の目標ではありません。これらは相互に連動しながら前進するものです。分断が深まる今日の世界においても、このビジョンはなお私たちを結び付ける力があります。そして、持続可能な開発目標(SDGs)は、その実現に向けた道筋を示すものです」

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の下に掲げられた17のSDGsには、人々を貧困から脱却させ、その権利を守るための目標と具体的なターゲットが盛り込まれている。

しかし、139のSDGターゲットのうち、達成に向けて順調に進んでいるか、一定の進展を示しているものは36%にとどまっている。

グテーレス事務総長は、今日、開発という約束が新たな試練に直面していると指摘した。拡大する格差、根強い食料不安、膨張する債務、紛争、経済的不安定などが、開発と経済成長を妨げているためだ。

「気候危機は年を追うごとに壊滅的な水準に達しつつあり、劣化し、不健全になった地球の上では開発など成り立たないということを世界に突き付けています」

さらに、デジタル革命や人工知能(AI)には人々の生活を大きく改善する可能性がある一方で、排除や分断を助長する要因にもなり得ると警告した。

「この宣言は、発展を明確に一つの権利として位置付け、人間を発展のプロセスの中心に据えています」

Ensuring food security forms part of the right to development, according to the United Nations. Credit: Busani Bafana/IPS
国連によれば、食料安全保障の確保も「発展の権利」の一部である。写真:ブサニ・バファナ/IPS

一定の前進、それでもさらなる取り組みが必要

第81回国連総会議長のハリルール・ラーマン氏は、発展とは単なる経済成長ではなく、人々が積極的、自由かつ意味のある形でそのプロセスに参加することを通じて、人間の福祉を継続的に向上させていくことだと述べた。

「私たちは進歩を、単に経済成長の総量だけで測るのではありません。人々が尊厳を持って生き、権利を行使し、自らの未来を形づくることができるかどうかによって測るのです」

そして、宣言の理念を行動によって実現し、過去40年間に苦労の末に勝ち取ってきた成果を守るとともに、今なお残る格差や構造的障壁に取り組む必要があると強調した。

「多国間主義を、より代表性が高く、より人々のニーズに応え、すべての人に成果をもたらすことのできるものにしていきましょう」

ラーマン氏は、世界の平均寿命が延び、多くの人々にとって教育や保健医療へのアクセスも改善し、過去40年間に15億人が貧困を脱したと指摘した。

一方で、多くの国々が持続不可能な債務負担を抱え、世界的な意思決定に平等に参加できていないと指摘した。そして、過去40年間の経験から得られた教訓として、発展は包摂的でなければならず、人権、環境、平和、安全保障と切り離すことはできないと強調した。

開発途上国が負う債務コストは1兆4000億ドルに上り、現在、34億人が、教育や保健医療よりも債務の利払いに多くの資金を充てている国々で暮らしている。

国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルク氏は、発展という目標はより広範なものであると指摘し、その実現を妨げるさまざまな障壁を取り除くよう求めた。

テュルク氏は、現在の国際金融システムは「著しく不均衡」であり、人権のために充てられるべき予算を圧迫していると指摘した。

また、予算削減は最も貧しい人々により大きな打撃を与えるとして、際限なく拡大する軍事力や経済力の一方で続く人々の苦境をなくしていかなければならないと訴えた。

さらに、2025年の世界の軍事支出は2兆8000億ドルに達し、その規模は世界の貧困を終わらせるために必要な費用の8倍に相当すると述べた。

「発展は公平であり、かつ環境的に持続可能でなければなりません」

「持続可能性を、人々や地球を犠牲にしてでも追求される経済成長と同一視してはなりません。私たちは、より大きな平等、参加、尊厳、自由、相互尊重へと大きく舵を切る必要があります。そして、『発展の権利』の核心にある国際協力の原則に改めて立ち返らなければなりません」

Oxfam International Executive Director Amitabh Behar. Credit, Oxfam International
オックスファム・インターナショナル事務局長アミタブ・ベハール氏。写真:オックスファム・インターナショナル

富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しく

オックスファムが発表した2026年版報告書『富裕層による支配に抗して―億万長者の権力から自由を守る』によると、超富裕層のかつてない資産拡大によって、世界の格差は一段と深まっている。

億万長者の保有資産は昨年、2兆5000億ドル増加した。これは、資産保有額で世界の下位に位置する41億人の資産総額とほぼ同じ規模である。

オックスファム・インターナショナルのアミタブ・ベハール事務局長は、「発展の権利」という原則は今も維持されており、1990年代から2000年代にかけて一定の前進が見られたものの、ここ数年は一部で後退も生じていると指摘した。

例えば、教育や医療を受ける権利が商品化され、民営化されるようになったことで、「発展の権利」そのものが揺らいでいるという。

ベハール氏は、国際的な場で合意された権利を各国レベルで具体化し、人々が自らの権利を理解し、その実現に向けた動きにつなげていく必要があると訴えた。

「いかなる権利も、本当の意味で権利として定着するためには、草の根から積み上げていくことが極めて重要です。そこに時間、エネルギー、資源を投入しなければ、こうした権利の実現は不十分なままに終わってしまいます」

さらにベハール氏は、「発展の権利」は人権が不可分であることを示すものであり、政府もこうした権利の実現に向けて一定の政治的意思を示してきたと指摘した。

しかし、本格的な前進が可能になるのは、人々自身が権利を要求し始めたときだという。

「私たちが目にしているのは、資金が上へ上へと流れ、ごく一部の超富裕層の億万長者の手に集中していく経済システムです。ですから政府は彼らに課税し、人々のための財源を確保し、『発展の権利』をすべての人にとって現実のものにするために投資しなければなりません」

「Fill the Fund」キャンペーンのグローバル・コンビーナーを務めるハルジート・シン氏は、「私たちは不都合な真実に向き合わなければなりません。支配的な世界経済モデルは、この40年間、宣言の核心を裏切り続けてきたのです」と警告した。

シン氏は、サタット・サンパダ気候財団の創設理事であり、化石燃料不拡散条約イニシアチブのエンゲージメント・ディレクターも務めている。

「発展とは本来、人間を中心に据えた解放を目指す営みであり、すべての人が積極的、自由かつ意味のある形で参加し、経済的・社会的進歩の恩恵を公平に享受する権利を確認するものでした」とシン氏はIPSに語った。

「しかし今日、それはグローバルな金融資本に乗っ取られ、小規模農家や先住民族、都市労働者ではなく、多国籍企業や民間の債券保有者に奉仕するものとなっています」

シン氏はさらに、気候変動への寄与が最も小さい開発途上国が、災害からの復旧のために国家予算のかなりの部分を振り向けざるを得ず、その結果、さらに深刻な債務へと追い込まれていると指摘した。

「40周年を迎える今、グローバル・サウス諸国とその協力国は、法的拘束力のある化石燃料条約を求め、化石燃料を公平な形で段階的に廃止し、新たな化石燃料開発の拡大を終わらせ、世界規模の公正な移行に必要な資金を確保するための明確な国際的枠組みを構築すべきです。」

「1986年の宣言は、解放と正義のための憲章として構想されたものでした。国連総会が発展を、人権、気候変動による損失・損害への賠償、化石燃料の段階的廃止、そして経済システムそのものの改革に明確に結び付けない限り、この40周年は、約束が果たされなかった40年間を刻むだけの節目となってしまうでしょう。」

Note: This article is brought to you by IPS Noram in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International in consultative status with ECOSOC.

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