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ベネディクト16世の死去から3年。いま改めて、ほとんど語られてこなかった外交手腕を検証する。(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

【National Catholic Register/INPS JapanワシントンDC=ヴィクトル・ガエタン】

教皇ベネディクト16世の偉大さは疑いようがない。学識、謙虚さ、そして伝統的な典礼形式を高く位置づけて新しい世代の信徒にも語りかけたことなど、司牧上の的確な判断によって、彼は広く称賛されてきた。教皇在位中には、イエス・キリストの生涯と宣教を扱ったベストセラー三部作『ナザレのイエス』を刊行し、「知の巨人」としての評価を世界的に確立した。

Victor Gaetan
Victor Gaetan

だが、外交面での功績が語られることは多くない。

ベネディクト16世の「世俗的」な成果を正当に位置づけ直すことは、バチカンが長年にわたって続けてきた、目立たない国際活動の連続性を示すうえでも重要である。とりわけ価値が大きい領域は三つある。①キリスト教の諸教派の和解と協力を進める取り組み(エキュメニズム)の推進、②イランのシーア派指導者との関係強化、③ベトナムおよび中国との二国間関係の改善である。

キリスト教の諸教派の和解と協力を進める取り組み

ベネディクト教皇の下で、キリスト教の教派を超えた対話と協力(教派間対話)は着実に前進した。とくにギリシャ正教会、ロシア正教会(ROC)との関係改善は顕著である。在位8年の間に、他のキリスト教諸派との歴史的な溝を埋めようとする取り組みは、これまでになく進んだ。

こうした関係がいっそう重要になった背景には、三つの世界的潮流があった。第一に、とりわけ西側で進むキリスト教の周縁化。第二に、とりわけ中東で深刻化する教会と信徒への暴力。第三に、旧共産圏のロシアにおけるカトリックと正教会の緊張である。

The Greek-Orthodox Ecumenical Patriarch Bartholomew.

2006年、ベネディクトはトルコのイスタンブールで全地総主教バルトロマイ1世と会談した。イスタンブールは、かつてコンスタンティノープル総主教座が置かれた正教会の歴史的中心地だが、現在では信徒数は数千人規模にまで減っている。教皇(正教会世界では「同輩中の第一」と位置づけられる)と全地総主教は、両教会がともに崇敬する元主教、聖ヨハネス・クリュソストモスと聖グレゴリオス・ナジアンゼンの聖遺物の前で祈りを捧げた。

滞在中、ベネディクトとバルトロメオ1世は共同声明に署名し、ヨハネ・パウロ2世の時代に中断していた「カトリック—正教会神学委員会」(双方の専門家による協議体)を再始動させた。両者はその後も、教派を超えた対話を継続した。

さらに大きな転機となったのは、ロシア正教会で新たな指導者が選出されたことである。スモレンスク・カリーニングラード府主教キリル(のちの総主教)の登場が、関係改善の流れを強めた。

ローマとモスクワ

ロシア正教会は、世界最大の正教会共同体である。カトリック教会とロシア正教会(ROC)—後者はクレムリンに近いとされる—の関係は、2002年に深刻な低迷を迎えた。ロシア当局が、シベリアで世界最大級の教区を率いていたポーランド人カトリック司教の再入国を拒否したためである。

Patriarch Kirill of Moscow Photo: Katsuhiro Asagiri

この冷え込んだ関係を立て直す転機となったのが、ベネディクト16世の即位と、2009年のキリル総主教の選出だった。キリルは20年間、ROCで「外相」に当たる対外部門を率いており、ベネディクトは以前から面識があった。両者は、西側社会の不安定化をめぐる危機感を共有していた。全体主義や権威主義の抑圧を身をもって経験した彼らにとって、行き過ぎた世俗化は社会の揺らぎの兆しであり、新たな抑圧を招きかねないものに映った。さらに、急進的なイスラム主義が少数派キリスト教徒に及ぼす脅威にも警戒感を抱いていた。

両者の下で協力は拡大した。バチカンは「ロシア文化・霊性の日」を後援し、ROC側はベネディクトに献呈するローマでのコンサートを企画した。そして2009年、ベネディクトはロシア(国家)との外交関係を樹立した。

こうした意思疎通の改善は、ポーランドのカトリック教会とロシア正教会の関係にも影響を及ぼした。2012年、ベネディクトの勧めを受けて、ポーランドのローマ・カトリック司教団とロシア正教会総主教(4日間ポーランドを訪問)は共同声明に署名し、第二次世界大戦の惨禍を踏まえつつ、両国民に「相互の偏見」を乗り越えた和解を呼びかけた。この声明は、1965年の「ポーランド—ドイツ和解」の象徴的交換に着想を得たとされる。

ベネディクトがこの合意を重視したのは、教会が和解のモデルを示し得ることを示す事例になると考えたからだった。もっとも、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、バチカンとモスクワの関係を冷却させた。それでも教皇フランシスコは、ヨハネ・パウロ2世以来積み上げてきた相互尊重の進展を守るため、ROCを一方的に悪者扱いすることは避けようとした。

ベネディクトとイランのシーア派指導部

聖座(教皇庁)とイランの外交関係は、1954年から続いている。

Map of Iran
Map of Iran

2006年12月27日、ベネディクト16世はマヌーチェル・モッタキ外相を含むイラン高官代表団と非公開で会談した。モッタキはアフマディネジャド大統領の書簡を教皇に手渡した。バチカンは内容を明らかにしなかったが、当時は国連が「ウラン濃縮停止に応じない」として対イラン制裁を科しており、核問題と結びついたやり取りだった可能性がある。ウィキリークスで公開されたバチカン市国発の米国務省公電は、この問題をめぐるバチカンの動きを米政府が注意深く追っていたことをうかがわせる。

神学者でもあったベネディクト16世は、シーア派イスラムが(教義は別として)実践面ではスンニ派よりキリスト教に近い、という見方があることも念頭に置いていた。モッタキとの会談から5か月を待たずに、教皇は元イラン大統領ともバチカンで会談する。名目は「文明間対話」だったが、教皇は原子力にも触れ、平和目的での原子力利用には権利があるとの趣旨を述べた。また、イランにおける宗教の自由にも言及した。

こうした「対話を重ねる姿勢」は、カトリック教会にとっては新しいものではない。源流は、第2バチカン公会議(教会が現代社会との関係を見直した世界会議)にある。のちにベネディクト16世となるラッツィンガー神父は当時、神学顧問として議論に関わった。公会議では、キリスト教徒とイスラム教徒が、ともにアブラハムの信仰に連なり、唯一で慈しみ深い神を礼拝し、終末の日の審判を信じるという共通点が確認された。さらに1965年の宣言『ノストラ・エターテ』(他宗教との関係を示した文書)は、過去の偏見を離れ、相互理解を進めるよう信徒に促した。こうした流れの延長線上で、2012年にはカトリックの聖職者とシーア派学者が、イランの聖地コムやナジャフで会談するなど、対話は具体的な形でも続いている。

西側諸国がイラン指導部を強く批判していた時期にも、ベネディクト16世がシーア派を含む他宗教共同体との関係を重視したことは、後にフランシスコ教皇が、とりわけイスラム世界の宗教指導者との対話に力点を置く外交を進めるうえでの土台にもなった。

ベトナムと中国
Map of Vietnam
Map of Vietnam

2008年、各国の聖座(教皇庁)駐在大使らとの年次会合で、ベネディクト16世は外交を「希望の技芸」と呼んだ。成果がすぐに見えなくても、何十年単位で粘り強く関係を築く。教会外交の特徴は、この言葉に象徴されている。

ベネディクト16世はアジアを歴訪しなかった(例外は大陸間国家のトルコ)。それでも、ベトナムや中国との関係では、重要な前進の糸口をつくった。

2005年7月、ベトナムの公式代表団がバチカンを訪問した。同じ週、サンピエトロ大聖堂でのミサでは、ハノイ大司教を含む32人の大司教が教会の手続きにより任命される場面もあった。さらに4か月後には、教皇庁で宣教を担当する部門の責任者級の枢機卿がハノイを訪れ、新たに57人の司祭を任命した。

ベトナムには約700万人のカトリック信徒がいる。この厚い信仰共同体が、共産主義体制の下でも信仰が途絶えなかった背景にある、とされる。

2007年1月には、グエン・タン・ズン首相が代表団を率いてローマを訪れ、教皇と会談した。社会主義共和国ベトナムの成立後、政府首脳が教皇と会うのは初めてだった。バチカンはこの会談を「新たで重要な一歩」と表現した。さらに10か月後には、ベトナム国家主席も初めてバチカンを訪問した。

1989年から2011年にかけて、聖座は17回にわたり代表団を派遣し、ベトナム国内の教区を訪れるなど、対話と現地交流を積み重ねた。その結果、ベトナムにおける教会活動の環境も徐々に広がった。節目となったのが、2011年1月の「非駐在の教皇代表」の任命である。常駐ではないが、教皇側の公式窓口を置くことで、政府との連絡を継続的に保てる。ベネディクト16世が築いた土台は、その後、フランシスコ教皇がハノイに常駐の教皇使節を置く流れへとつながった。

中国での和解
Map of China
Map of China

中国に関して、ベネディクト16世はバチカンの対中外交を大きく方向転換することはなかった。ただ一方で、中国政府や、いわゆる「愛国教会」に対して、対話を促す配慮ある働きかけを認め、関係者をローマに招くなどの対応も進めた。

2006年6月には、バチカン代表団が北京を訪れ、実務レベルの協議を行った。国際メディアが注目したのは、バチカンと北京の交渉の動きが、約5年ぶりに「表に見える形」で確認できたためである。協議はまず、連絡ルートを開くための慎重な試みだった。同じ頃、中国政府は国内最大の神学校を開設するなど、神学校整備を含む教会の基盤づくりも進めていた。

2007年1月、バチカンは内部会合を開き、中国の教会関係者を枢機卿から宣教師までローマに集めた。参加者には、ベネディクト16世が中国のカトリック信徒に宛てる書簡の草案をまとめた資料が配布された。

この書簡は、聖霊降臨祭(ペンテコステ)に「中華人民共和国のカトリック教会の司教、司祭、修道者など奉献生活者、ならびに信徒各位への 教皇ベネディクト16世の書簡」として公表された。そこでは、信者が一致に向けて歩むことが大きな目標として示された。

これは、ベネディクト16世の対中姿勢の中でも、外交的にも霊的にも最も重い「意思表示」だったと言える。書簡は緻密で明晰であり、寛大な精神に貫かれている。一方で脚注では、「愛国教会」は「カトリック教義と両立しない」と率直に退けてもいる。

St. Peter's Basilica in Vatican City
St. Peter’s Basilica in Vatican City

書簡の公表から数か月後、関係改善をうかがわせる動きが見られた。北京の大司教が党幹部向けの病院で死去した後、中国政府はその要職に当局寄りの人物を据えるのではなく、ローマの事前承認を得ていた教区司祭ヨセフ・リー・シャン神父を任命した。北京出身で代々カトリックの家系に連なるリー神父は、海外経験はなく、国家管理下の愛国教会に対して時に異議を唱えることもあったため、信徒の間で支持を集めていた。

ベネディクト16世の書簡は、中国のカトリック信徒の一致という大目標に向けた重要な節目となった。そこでは、政府との協議を前提としつつも、最終的には教皇が司教を選び、その司教が教会を導くべきだという考え方が示されていた。

フランシスコ教皇は就任後まもなく、この流れを受けて取り組みを前に進めた。

十分に評価されてこなかったベネディクト16世の外交は、次の教皇職において、その成果が形となって表れていった。(原文へ

INPS Japan

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人々がいてこそ(クンダ・ディキシット ネパーリタイムズ社主)

チトワン国立公園の緩衝地帯の地域社会が、保全の要を担う

【チトワンNepali Times=クンダ・ディキシット】

Kunda Dixit
Kunda Dixit

チトワン国立公園を流れるナラヤニ川は標高わずか180メートルにある。だが先週、珍しく空気が澄んだ日には、来園者がネパールを横断して150キロ先にそびえる標高7,893メートルのヒマルチュリの頂を望むことができた。

上流ではトリスリ川、セティ川、カリ・ガンダキ川が合流し、ナラヤニ川となる。集水域はダウラギリからランタンに至る46,300平方キロに及び、ネパール国土の3分の1を覆う。山々の氷河に加え、チベット高原の一部からの水もナラヤニ川を支えている。雪と川を同時に望むとき、ヒマラヤは単なる山脈ではなく、複合的な「流域(ウォーターシェッド)」として捉えるべきだという事実が浮かび上がる。だが、山と平野の微妙な均衡は、気候危機によって揺らぎつつある。

「気候危機は水の問題である。問題はこの川だけではない。私たちが見ている山々と氷河の問題でもある。」先週チトワンを訪れた世界自然保護基金(WWF)インターナショナルのアディル・ナジャム総裁は、こう語った。「水はネパールだけでなく世界にとって、気候をめぐる最前線の争点になっていく。この危機は長期の話ではない。いま目の前の危機である。」

ナラヤニ川やラプティ川などの水系は、チトワン国立公園の保全の成功を支えてきた。だがネパール最古の自然保護区はいま、気候危機に伴う極端気象により、雨季の洪水と乾季の渇水という両極端に揺さぶられている。地下水が十分に涵養されないうえ、過剰な揚水も重なり、公園内の三日月湖(オックスボウ湖)や野生動物の水場が干上がる例も出ている。このため一部では、太陽光発電のポンプを設置して水場を補っている。

ネパールはこの14年間でトラの個体数を約400頭へと3倍近くに増やした。サイも752頭に回復し、過去10年にわたり密猟はほぼ確認されていない。ハゲワシ類も絶滅の瀬戸際から救い出された。こうした成果の大部分は、チトワンのような国立公園の緩衝地帯(バッファーゾーン)に暮らす地域社会の努力によるものだ。

公園に隣接するラトナナガル地区の選挙で選ばれた議員、ビレンドラ・マハトは、「緩衝地帯に暮らす人々、私たち先住コミュニティも含めた参画が、密猟の抑止や人と野生動物の衝突の軽減に役立ってきた。ここで生物多様性が守られてきたのは、保全が協働で進められてきたからである。」と語った。

かつて国立公園となる前、この地にはタルー、ボーテ、ムサハルなどの先住コミュニティが暮らしていた。彼らはトラやサイ、野生ゾウの行動を踏まえた暮らしの知恵を受け継ぎ、野生動物による死亡事故は少なかったとされる。

「人と野生動物が対立ではなく共存できるよう、先人から受け継いできた暮らしの知恵を取り戻さなければならない。」とマハトは付け加えた。

緩衝地帯の住民が野生動物を守るには、保護の利益が地域に見える形で還元されることが欠かせない。共存を確かなものにする方法として効果が示されてきたのが、地域の生活水準を引き上げる、適切に管理された持続可能な観光である。

ナラヤニ川沿いのアマルタリ村には高級リゾートが複数あり、自然ガイドやホテルスタッフ、観光客向けの文化公演などで地域住民を雇用している。さらに、先住コミュニティの文化や食、暮らしを体験できる女性主導のホームステイが35軒ある。

「生活水準の向上こそが、自然保全を確かなものにする最も有効な方法である。そのためには、観光収入につながる本物の地域文化遺産を守る必要がある。」と、ナジャムはそう述べた(インタビューは後述)。

観光客はチトワン国立公園西端の緩衝地帯にあるアマルタリを訪れ、トラやサイの観察を目的としたサファリや、ハゲワシ保全サイトの見学、川下りでガビアル(細長い口を持つ希少なワニ)やワニ、渡り鳥を観察する。チトワン国立公園の来園者は昨年約30万人に達し、現在は外国人観光客をネパール人観光客が上回っている。

アマルタリでホームステイを営むギータ・マハトは、当初はサービス水準を整えるのが容易ではなく、パンデミック期とその後に事業も打撃を受けたと認める。それでも「いまは経験と自信がつき、収入も増えた。文化への誇りが戻り、自然を守ることにもつながっている。」「まるで夢のようだ。」と語った。


ジャターユ(ハゲワシ保全拠点)での給餌は、絶滅の危機にあった猛禽類の保全・回復を支える取り組みの一つである。

生活水準の改善は、社会の別の側面にも波及した。学校の整備が進み、子どもの栄養状態が改善し、児童婚も減少した。違法な引き込みによる電力盗用も見られなくなり、アマルタリでは美容院が3軒開業したという。

WWFネパールは、地域の「ハマル協同組合」の立ち上げ資金を支援した。同組合は観光収入を貯蓄制度に回し、組合員に融資している。返済の延滞は出ておらず、ムサハル、ボーテ、タルーの各世帯はいまや貯蓄を持つようになった。

自治体は野生動物から稲やマスタード畑を守るため電気柵を設置し、この地域ではトラによる死亡事故がなくなった。9月に野生動物密輸で知られる容疑者が脱獄したことを受け、地域の「密猟対策青年グループ」と公園を警備する軍が警戒を強化している。

Vulture feeding at Jatayu which has rescued the raptors from the brink of extinction.

チトワンを含むネパール各地の国立公園と緩衝地帯では今週、大規模なトラのセンサス(個体数調査)を実施している。

WWFネパールのガーナ・グルンは、「食物連鎖の頂点に立つ象徴種(フラッグシップ種)を守ることは、生物多様性と生態系全体を守ることにつながる。その最良の例がここにある。」と語った。

緩衝地帯の若い森林ガイドと、WWFインターナショナルのアディル・ナジャム総裁。

「水は気候の最前線の課題」

WWFインターナショナルのアディル・ナジャム総裁は先週チトワンを訪れ、WWFネパールのガーナ・グルンのインタビューに応じた。

グルン: チトワン国立公園を訪れて、どのような印象を持ちましたか。

ナジャム: ネパールが特別な国であり、WWFネパールの取り組みが特別であることは以前から知っていました。しかし、ここまでとは想像していませんでした。チトワンで、種の保全、密猟ゼロ、そして何より地域社会、とりわけ先住コミュニティと協働する実践を目の当たりにし、「自然か人か」という対立構図を、自然と人をつなぐ橋へと変えられることを確信しました。先住コミュニティの人々や保全当局者に会い、達成してきたことへの誇りに触れたことは、大きな励みになりました。

ネパールで皆さんが行っていることの多くは、国連のSDGsやWWF自身の「2030年ロードマップ」と深く結びついています。とりわけ私たちの中核である「種」の取り組みと直結しています。課題は大きい一方で、成果を十分に評価する時間が私たちには足りていません。目標地点にはまだ達していませんが、道のりは大きく前進しています。

トラはほぼ3倍、サイは3倍以上に増え、密猟は長年ほぼゼロに抑えられてきました。しかも、草の根で地域社会と協働するアプローチでこれを実現している。常に容易ではありませんし、住民の懸念は現実のものです。それでも、パートナーとして共に取り組むことで、保全と人々は矛盾しないことが示されています。

アディル・ナジャムWWF総裁(左) ガーナ・グルンWWFネパール(右)

グルン: 課題にも触れられました。今後、どのような困難が待ち受けていますか。

ナジャム: 大きな成果を上げた後に最も難しいのは、その水準を維持することです。残念ながら、気候変動や生物多様性の損失といった地球規模の課題は、いま極めて深刻で、取り組みの規模を何倍にも拡大しなければなりません。

同時に、ネパールがここで積み上げてきた経験を、世界と共有する必要もあります。互いに学び合わなければ、地球規模の危機は乗り越えられません。私は、若者がネパールの保全に深く関わっていることを見て、とても心強く感じました。ただ今後の課題は、若者が保全に関心を持ち続け、さらに踏み込んで行動したいという志を育めるよう、どう後押しするかです。

グルン: 私たちも若者との取り組みを強めています。今回の訪問で、ほかに印象に残った点はありますか。

ナジャム: 何より印象的だったのは、先住コミュニティが運営するホームステイの取り組みです。とりわけ女性が中心となり、起業家として新しい働き方を学び、自然と共に生きる新しい生計を設計している。自然を楽しむ旅行者を迎えることで、それを実現している点が素晴らしい。ネパールのホームステイ事業には当事者の所有感があり、自然と人を結びつけています。

グルン: ネパールは世界でも気候脆弱性が高い国の一つです。現地で気づいた影響はありましたか。

ナジャム: いまや、どの国も気候の影響に対して脆弱です。ただ開発途上国にとっては、課題が一層複合的です。問題を引き起こした側ではないのに、いまその結果に直面しているからです。世界が緩和(排出削減)に十分取り組まなかったため、状況はさらに難しくなっています。炭素排出の削減に加え、適応に本腰を入れ、水の問題に取り組む必要があります。

適応の時代において、気候は本質的に「水の問題」になります。チトワンは淡水生息地の保護で大きな成果を上げてきました。重要なのは、ここにある川だけでなく、ここから見える山々と氷河が川を支えているという事実です。私たちは問題を「これは気候」「これは生物多様性」「あれはプラスチック」と区切って考えがちですが、自然はそうは働きません。自然を抜きに気候の課題を解決することはできず、その逆も同じです。だからこそ、水はネパールだけでなく世界にとって、気候をめぐる最前線の課題になっていきます。

グルン: では、今後必要な戦略は何でしょうか。

ナジャム: 資源に制約があることは周知の事実です。しかしそれ以上に、私たちの時代の最大の課題の多くが、すでに限界点に達するか、あるいはそれを超えています。気候、自然の損失、水ストレスなどです。私たちはいま分岐点に立っています。こうした危機に対処する、より良い方法を生み出せることを願っています。

ネパールがすでに実践しているように、生態系を統合的で相互に連結したものとして捉え、一つの分野で良い成果を出すことが別の分野にも好影響を及ぼすように設計しなければなりません。チトワンの種の保全が示す通り、一つの種が守られれば、多くの種が恩恵を受けます。

そして皆さんがここで行っているように、地域社会、保全に関わる人々、国際機関、民間セクターがパートナーシップを組む必要があります。各自が自分の持ち場に閉じこもる時ではありません。これは地球規模の問題であり、80億人を巻き込む解決策が求められています。

さらに、ネパールでも他国でも、若者こそが現在と未来の鍵であることは明らかです。社会は、彼らが自らの可能性を最大限に発揮できる環境を整えなければなりません。そして状況が厳しくても、正しいことをすれば解決策はあるのだという確信を持てるようにしなければなりません。(原文へ

This article is brought to you by Nepali Times, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

Nepali Times SDG

INPS Japan

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国連は「更新なし・任期7年」の事務総長制に備えがあるのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連事務総長の任期を「更新なしの単一期・7年」とする案(1996年にさかのぼる長年の提案)が、潘基文(パン・ギムン)元国連事務総長によって再び持ち上がった。この原案は、ダグ・ハマーショルド財団とフォード財団が支援した研究の一部であった。同提案によれば、7年任期は「望ましくない圧力から自由な形で、事務総長が踏み込んだ計画に取り組む機会を与える。」

潘氏は、更新を認めない単一期の7年任期は、事務総長職の独立性を強化すると述べている。現行の「5年×2期」という慣行は、潘氏によれば、事務総長を「延長(再任)を得るために安保理常任理事国への依存を過度に強める」結果になりかねない。

Photo: UNON – United Nations Office at Nairobi
Photo: UNON – United Nations Office at Nairobi

エジプト出身のブトロス・ブトロス=ガリ元事務総長は、安保理で15票中14票の支持を得ていたにもかかわらず、米国が唯一の拒否権行使国となり、2期目(2度目の5年任期)を阻まれた。

研究は、「国連の最高の政策決定機関であり、最終的な任命機関でもある総会は、事務総長の任期を単一期7年とすること、および事務総長任命手続の改善に関わる主要要素を包括的に定める決議を採択すべきである」と提言した。

さらに同研究は、更新なしの7年任期という考え方を事務総長だけに限らず、UNDPやUNICEFなど国連の基金・計画、さらにはWHOをはじめとする専門機関を含む、国連システム各組織のトップにも広げるべきだと提言した。研究の題名は『指導力を必要とする世界:明日の国連――新たな評価(A World in Need of Leadership: Tomorrow’s United Nations. A Fresh Appraisal)』。執筆したブライアン・アーカート卿は、国連事務次長(特別政治担当)を務めた人物で、アースキン・チルダーズは国連の開発・国際経済分野で上級顧問として活動してきた。

Ambassador Anwarul Chowdhury
Ambassador Anwarul Chowdhury

バングラデシュの国連常駐代表を務め、国連事務次長および上級代表(High Representative)も歴任したアンワルル・K・チョウドリ大使は、IPSに対し、国連という「普遍的な多国間組織」の運用上の信頼性という最善の利益にかなうものとして、また「良心ある国連内部の人間」として、「事務総長の任期を更新なしの単一期7年とするという、長年の、しかし驚くほど過小評価されてきた提案には、実質的な価値があると強く、そして安心して確信している。」と語った。

同大使は、潘氏の2期目に関する2011年6月20日付のIPSの論考で、再選プロセス一般にも触れ、「不明確で、非公開で、舞台裏の、排他的なこの手続は、就任初日から2期目再選を夢見る人物の推薦へとつながる。」と書いている。

チョウドリ大使はさらに、「2期目へのこのきわめて人間的な誘惑は、あまりに圧倒的で、あまりに陶酔的であるため、新任事務総長の最大の努力は、この欲求によって全面的に条件付けられてしまう。」と強調した。拒否権という要素を十分に踏まえるなら、常任理事国(P5)の意向と傾向が、国連の「最高行政責任者(Chief Administrative Officer)。」たる事務総長にとって最優先の関心事となる。

「私は全面的に同意する」と同大使は述べ、国連の廊下で共有される通念として、「事務総長が1期目にP5から再選のために負った“借り”は、2期目に返済される。」という見方があると指摘した。「この取り決めは、事務総長にとってもP5にとっても都合がよい。」

しかも、国連加盟国の大多数が、事務局トップを選ぶ不適切な選出過程の改革という「長年の宿題」について、結局合意できないことを、彼らは熟知している――同大使はそう述べた。その結果、指導力に乏しいリーダーが登場し得る余地が温存される。とりわけ、P5の代表が、本国の指示に基づき、国連のグローバルな役割の中核性を支持しない立場で選考に関与する場合、その可能性は高まるという。

Farhan Haq, UN Deputy Spokesperson. Photo: UN
Farhan Haq, UN Deputy Spokesperson. Photo: UN

現職のアントニオ・グテーレス事務総長がこの提案に同意しているかと問われ、国連のファルハン・ハク副報道官は先週、記者団に次のように述べた。

「現職事務総長は、加盟国間の議論のプロセスから距離を置くべき立場にあることを尊重している。明らかに、事務総長の任期に変更を加えるには加盟国の合意が必要であり、(事務総長は)加盟国が相互に協議し、解決策を見いだすことを信頼している。」

ハク副報道官は、グテーレス事務総長が「改革として取り得る手段はいくつもある。」と考えていることにも触れた。ただし、現職である以上、加盟国が検討している最中に自らの見解を表明することはしないだろう、とした。さらに、グテーレス事務総長が「初の女性事務総長」という理念を支持してきたことにも言及したうえで、「しかし繰り返すが、これらは私たちの手の中にある決定ではない。」と述べた。

Dr. Palitha_Kohona
Dr. Palitha_Kohona

国連条約課の元課長(Chief)であるパリタ・コホナ博士は、事務総長の任期を7年に延長することに一定の意義を見る向きがある一方、その延長が本当に付加価値をもたらすのかと疑問を呈した。効果的な事務総長であれば、現行制度の下でも再選を目指すことはでき、総会は大半の事務総長に2期目を与えてきた。

加盟国は、能力に欠ける事務総長を再任しない、という選択もできる。しかし、仮に非効率な事務総長に7年任期を与えてしまえば、「世界で最も重要な国際機関」が、不当に長く、苦痛に満ちた期間、その人物の重荷に耐えねばならなくなる―博士はそう指摘した。

政治的・財政的制約の下でも、有能な事務総長は5年で多くを成し得る。必要なのは、変動の激しいグローバル環境で行動できる能力、卓越した経営管理能力、そして、とりわけ事務次長(USG)や事務次長補(ASG)として優れた人材を選び抜く才覚である。大国が事務総長に押し付ける人物を受け入れ、精彩を欠く人材を任命してしまう現在の傾向は、この尊厳ある機関のリーダーとしての評価を損ない、加盟国は高い代償を払うことになる―スリランカの元国連常駐代表でもあるコホナ博士はそう述べた。

「真に必要なのは、P5の気まぐれに依存せずに、国連が潜在的に有能な人材を選べる制度を制度化することである。大企業はそのように運営している。優れた成果を出す者は5年や10年留任し、失敗した者は外される。加盟国こそが最良の審判である。」と博士は述べた。

国際市民社会行動ネットワーク(ICAN)の創設者兼CEOであるサナム・B・アンダーリニは、IPSの取材に対して次のように語った。「私は7年任期は素晴らしい案だと思う。事務総長が、ビジョンと実務の両面で、勇気と想像力を持って行動できるようになる。加盟国に取り入ることや、2期目のための票集めの選挙運動に煩わされることがなくなるからだ。」

さらに彼女は、7年という時間軸があることで、変化と成果を確実に生み出そうとする動機付けにもなると指摘した。誰しも最終的には良いレガシーを残したいからである。

ただし鍵は、選ばれるリーダーが必要な勇気、ビジョン、価値観を備えていることだ――とも述べた。

また、国連システム全体の指導部が一度に入れ替わってしまわないよう、7年任期は「段階的(staggered)」に設定すべきだとした。事務総長の在任期間を延長するという発想は、改革案として議論されてきたが、現在の標準は「5年で、1回更新可能」のままである、とアンダーリニは述べた。

チョウドリ大使は、自身の論考に触れながら、「事務総長の独立性を確保するもう一つの重要な考え方は、各事務総長を1期に限定することだ。」と強調していたと振り返った。

同大使は、7年任期は、名に値するいかなるリーダーにとっても、肯定的な成果を出し、グローバル機関として何が達成できるかを示すのに十分であると述べた。一方で、任期や再選プロセスを変更するには国連憲章の改正が必要であり、そのためにはP5の同意が不可欠であるとも指摘した。チョウドリ大使は、2000年3月に安保理議長として国連安保理決議1325の発議者となり、総会の主要委員会(行政・予算問題)の議長、さらに「平和の文化のためのグローバル運動(GMCoP)」の創設者でもある。

さらに、チョウドリ大使は、2023年10月30日付のIPSの別の論考で、「将来、事務総長は1回限りの7年任期とすべきである。現行のように、事務総長の業績評価すら行わないまま、2期目の5年任期がほぼ自動的に更新される慣行とは異なる形が望ましい。」と提言している。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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【トロントIPS=ファルハナ・ハク・ラーマン】

例年の「年末総括」記事は、この1年に起きた世界的災害や危機を重たい調子で振り返り、IPSのパートナーや寄稿者の取り組みを紹介したうえで、最後はやや明るい結びで締めくくられるのが通例である。だが今回は、比喩にもなる個人的な出来事から始めたい。|英語版アラビア語|ドイツ語|

IPS Team at COP30
IPS Team at COP30

11月20日、ブラジル・ベレンで開かれていた国連気候会議COP30では、化石燃料ロビーに翻弄されながら各国代表が最終文書をめぐって駆け引きを続け、会期延長も避けられない様相を呈していた。そのさなか、会場のコンベンションセンターで火災が発生した。場内は炎と混乱に包まれ、緊張が走った。

数千人が出口を求めて動くなか、若いバングラデシュ人外交官が私に気づいた。彼は我先にと人波に加わるのではなく、混み合う群衆の間を縫って私を安全な場所へと導いてくれた。危機の瞬間、人は思いがけない形で助け合える。そのことを示してくれたアミヌル・イスラム・ジサンに感謝したい。

幸い死者は出なかった。協議は再開され、締約国会議(COP)のプロセスも、気候危機の抑制に向けた小さな前進と解釈し得る最終文書の採択という形で、ひとまず持ちこたえた。もっとも、危機の主因である化石燃料についての言及は、なお婉曲な表現にとどまった。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

COPの存続は盤石ではなかった。ドナルド・トランプ大統領が米国の不参加を指示し、9月の国連総会演説で気候変動を「史上最大のペテン」と切り捨てたためである。

だがベレンへの不参加は、国際的地位という点で、むしろ米国自身により大きな損失をもたらした。トランプがヨハネスブルグで並行開催されていたG20協議も回避したことで、米国の評判はさらに傷ついた。その「傷口に塩を塗る」形となったのが、G20議長国のシリル・ラマポーザ大統領の落ち着いたリーダーシップである。米国の反対をよそに、気候危機を含む世界的課題に取り組む宣言の採択へと議論を導いた。

振り返れば、この1週間が「米国の時代」に静かに終止符を打ったのかもしれない。予測不能、混乱、暴力、そして制度化された残酷さ―それらは、2025年に一段と進んだ単独主義と保護主義への劇的な転回を告げる兆候である。

In Gaza, every day is a struggle to find bread and water. Without safe water, many people will die from deprivation and disease. Credit: UNRWA
In Gaza, every day is a struggle to find bread and water. Without safe water, many people will die from deprivation and disease. Credit: UNRWA

10月11日に米国仲介のイスラエルとハマスの「停戦」が始まって以降、子どもを含む数百人のパレスチナ人が殺害された。ロシアによるウクライナの民間人を標的とした空爆も続き、就任初日に戦争を終わらせられると豪語したトランプの、場当たり的な終戦工作をあざ笑うかのように、被害を積み重ねている。

トランプが1月に命じた米国援助の大幅削減は、「世界的な人道的大惨事を助長した」と、国連人権理事会が7月31日の声明で指摘した。貧困、食料、人権に関する2人の独立専門家の見解を引用し、理事会はこう述べた。「援助削減に起因する死者は、すでに35万人以上と推計され、そのうち20万人以上が子どもである。」

西スーダンの紛争で飢饉は拡大し、資金不足は南スーダン向けの重要な国連支援の削減にもつながった。ミャンマーでは「忘れられた内戦」が続くなか、国連世界食糧計画(WFP)は資金不足を理由に、100万人以上への救命支援を打ち切った。

Displaced families shelter at a gathering site in El Fasher in northern Darfur in August 2025 | Photo/UNICEF
Displaced families shelter at a gathering site in El Fasher in northern Darfur in August 2025 | Photo/UNICEF

市民社会の国際ネットワークCIVICUSは、紛争、気候危機、民主主義の後退といった複合危機が、国家が解決できない、あるいは解決しようとしない問題に対応するための国際機関の能力を超えつつあると警告する。米国が国際機関から距離を置く動きは、国際協力の危機をさらに深刻化させかねない。

しかし、CIVICUSの「2025年版 市民社会の現状報告書」が示すように、市民社会は国連を「人々を中心に据える」ことで立て直すための構想を持っている。COP30では、オープン・ソサエティ財団のビナイフェル・ノウロジー総裁がこの方向性に賛同し、先住民やアフロ系コミュニティの声を可視化し、人権を気候行動の中核に据え直したとして、ブラジルの民主的リーダーシップを評価した。

COP30 IPS
COP30 IPS

急速に揺れ動く世界秩序のなかで、ノウロジーは、尊厳と公正、そして地球の保護に根ざした新たな発想とビジョンを携え、グローバル・サウスが前面に出つつあるとみる。

COP30でまとまった合意のなかで、最も重要なのは「公正な移行メカニズム(Just Transition Mechanism)」だろう。世界のグリーン経済への移行を公平に進め、労働者、女性、先住民を含むすべての人々の権利を守ることを目的とする。

太平洋共同体(SPC)の気候変動・持続可能性ディレクター、コーラル・パシシはCOP30で、気候変動の影響が急速に深まる島嶼国にとって事態がいかに危機的であるか、そしてベレンで実質的な前進がいかに切実に求められていたかを強調した。損失と損害(Loss and Damage)への先進国の資金支援を強化する必要性も訴えた。

Kathmandu’s Singha Durbar in flames
Kathmandu’s Singha Durbar in flames

南アジアやアフリカで政権を揺さぶったZ世代のデモも、より公正な将来像を掲げて存在感を強めている。抗議の矛先は、既得権化したエリート層における縁故主義と腐敗である。昨年バングラデシュでは、デモ隊が銃弾にさらされた。9月に政権が退陣に追い込まれたネパールでも、タンザニアでも、同様の暴力が報告され、タンザニアでは数百人が殺害されたとも伝えられた。今年はインドネシア、フィリピン、モロッコでも、Z世代の抗議が政治情勢を揺らした。

スウェーデンの研究者ヤン・ルンディウスはIPSにこう記した。「これらの抗議行動は、個別の出来事が引き金となったとしても、根底には深刻な富の格差、蔓延する縁故主義、際限のない腐敗という、長年にわたり共有されてきた不満があった。とりわけ若者は、富裕で信用を失った政治エリートを支える権力世襲の有力者に抗議したのである。」

SDGs for All Logo
SDGs for All Logo

紛争と気候災害が重なれば、子どもの教育には長期的に深刻な影響が及び得る。IPSが支援する「Education Cannot Wait(ECW)」や「学校の安全に関する宣言(Safe Schools Declaration)」などの取り組みは、危機の影響下にある子どもに質の高い包摂的教育を届け、貧困と不安定の長期的な連鎖を断ち切ることを目指している。

10月にカリブ海を襲ったハリケーン「メリッサ」は、政府が早急に介入しなければ、気候変動に伴う教育喪失によって、ラテンアメリカ・カリブ地域の子どもと若者590万人が2030年までに貧困に追い込まれる恐れがある―というUNICEFの警鐘を改めて想起させた。

世界銀行は、ハリケーン「メリッサ」によるジャマイカの被害額(物的損害)を約88億ドル、すなわち同国の2024年GDPの41%に相当すると推計した。

Pope Leo XIV during a meeting with the media on May 12, 2025 By Edgar Beltrán, The Pillar, CC BY-SA 4.0,
Pope Leo XIV during a meeting with the media on May 12, 2025 By Edgar Beltrán, The Pillar, CC BY-SA 4.0,

一方で、気候変動、自然喪失、食料安全保障の不可分のつながりを各国政府が過小評価、あるいは無視しているとも警告されている。生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)は、ナミビアのウィントフックで約150か国が承認した最新評価で、生物多様性は人間活動を主因として、あらゆる地域で減少していると指摘した。

食料安全保障に取り組む国際研究パートナーシップCGIARも、創設から約50年を経た今日、気候変動や生物多様性の損失、新たな紛争といった課題への対応を迫られ、創設当時とはまったく異なる環境に直面している。CGIARの主任科学者サンドラ・ミラッハ博士によれば、重点の一つは、5億人の小規模生産者の気候への適応力(レジリエンス)を高め、生計を守りながら安定的な所得向上につなげることである。

年末総括が年末年始の祝祭期を前に書かれる以上、今年ニュースを賑わせた主要な宗教指導者に触れずに終えるわけにはいかない。

Group photo of delegates. Photo credit: Akorda
Group photo of delegates during the 8th Congress of World and Traditional Religions held in Astana, Kazakhstan. Photo credit: Akorda
Minoru Harada, President of Soka Gakkai/ Seikyo Shimbun
Minoru Harada, President of Soka Gakkai/ Seikyo Shimbun

近代で最も率直な教皇の一人とされたフランシスコ教皇は、復活祭翌日の月曜日に死去した。シカゴ生まれのロバート・フランシス・プレヴォスト(69)が後継となり、北米出身として初の教皇に選出された。レオ14世を名乗った新教皇は、ガザ戦争の「野蛮」を終わらせるよう呼びかけ、気候変動懐疑論を批判した。COP30では各国首脳に対し、緊急の行動を促した。

チベット仏教の精神的指導者ダライ・ラマは、インド亡命中に90歳を迎え、世界の平和を呼びかけた。支持者の注目を集めたのは、自身が転生する意志を明確にし、後継者を見いだす権限は信頼する側近の僧侶グループにのみあると示したことだ。中国は直ちにこれを退け、後継者は北京の承認を得なければならないと述べた。

2025年、世界は第二次世界大戦の終結から80年を迎えた。創価学会の原田稔会長は、幼少期に経験した東京大空襲を回想し、戦争の惨禍を二度と繰り返させないという組織の決意を表明した。(原文へ

ファルハナ・ハク・ラーマンは、国際通信社IPS副総裁兼米エグゼクティブ・ディレクター。2015~2019年には当通信社の事務総長を務めた。ジャーナリストでありコミュニケーション分野の専門家でもある。国連食糧農業機関(FAO)及び国際農業開発基金(IFAD)の元上級職員。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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2025年を振り返って

「エベレストの国」として知られるネパールは、2025年、若者主導の政権転覆と結び付けて語られるようになった。

【カトマンズNepali Times=ソニア・アワレ】

年初は大きな出来事もなく始まったが、年末は騒乱と先行きの不確実性の中で幕を閉じた。ただし緊張は、年初から水面下でくすぶっていた。

Nepali Times
Nepali Times

2月、ネパールはマネーロンダリング対策の不備を理由に、金融活動作業部会(FATF)の「グレーリスト」に入った。米国国際開発庁(USAID)の停止で、保健、気候、栄養分野の多くの事業が止まった。混乱のさなか、5月にはインドとパキスタンが戦争に突入した。全面的な核戦争には至らなかったものの、この衝突を経てドナルド・トランプ大統領とナレンドラ・モディ首相の関係は決定的に悪化した。

3月28日、カトマンズでは、債務不履行で知られるドゥルガ・プラサイが率いた親王政集会が開かれ、機動隊によって解散させられた。支持者が放火と略奪に走り、テレビ記者を含む2人が死亡した。年後半の混乱を予告する出来事だった。

モンスーンは例年通りの被害をもたらした。今回はボテ・コシ川で国境を越える氷河湖決壊洪水が発生し、中国との主要貿易ルートが押し流された。気候リスクを改めて突きつける出来事となった。

8月、カトマンズの政界・メディア関係者の間では、K・P・オリ首相がインド政府から公式招待を得られるかどうかが取り沙汰されていた。招待が実現しないと、オリは9月3日、北京で開かれた戦勝記念パレードに出席するという物議を醸す訪中を強行した。第二次世界大戦における日本の敗戦80周年を掲げる式典である。

会場にはウラジーミル・プーチン大統領、習近平主席、金正恩第総書記が居並んだ。だがオリは帰国から6日後、首相の座を追われた。抗議者が首相公邸に火を放つ直前、オリはネパール軍のヘリコプターで救出された。

Representative image. Photo: Bill Kerr/Flickr, CC BY-SA 2.
Representative image. Photo: Bill Kerr/Flickr, CC BY-SA 2.

この年を通じ、UML(ネパール共産党・統一マルクス・レーニン主義)とNC(ネパール会議派)の連立は、言論の自由を狭める法案を相次いで準備していた。印刷・出版法の改正、ソーシャルメディア法案、対諜報法案、さらに社会福祉評議会(Social Welfare Council)の改組である。導火線に火をつけたのは、9月5日に26のソーシャルメディア・プラットフォームを禁止した措置だった。

インドネシアで起きた若者主導の反汚職抗議に触発され、ネパールのGenZ(Z世代)が動いた。社会政治の空気は乾き切っており、殺害事件への怒りが抗議の拡大を促した。

GenZが9月8日、汚職と悪政に抗議する集会を呼びかけたとき、事態が制御不能に陥るとは(若い抗議者自身も含め)誰も想像していなかった。8日、武装警察部隊(APF)の発砲により、デモ参加者19人が死亡した。

流血はソーシャルメディアで無検閲のまま拡散された。翌日、衝撃が癒えぬ若者たちのさなかで、さまざまな不満を抱えた人々が放火と略奪に走り、標的は住宅、官公庁、学校、事業所に及んだ。9日午後10時にネパール軍が外出禁止令を出すころには、多くが焼け落ちていた。

Kathmandu’s Singha Durbar in flames
Kathmandu’s Singha Durbar in flames

その後、GenZはスシラ・カルキを首相に選出したが、彼女に不満を抱く強硬な一派もいる。混乱に拍車をかけているのが、打倒されたUMLとNCの指導者たちである。彼らは失脚を受け入れられず、下院(代議院)の復活を狙う。オリはUMLの党首に再選され、退く気配はない。かつての連立相手であるシェール・バハドゥル・デウバにも踏みとどまるよう働きかけている。

People take part in an anti-corruption protest in Kathmandu, Nepal on 8 September 2025. Credit: Navesh Chitrakar/Reuters via Gallo Images
People take part in an anti-corruption protest in Kathmandu, Nepal on 8 September 2025. Credit: Navesh Chitrakar/Reuters via Gallo Images

ただ、両党には選挙に踏み切る以外の選択肢がない。にもかかわらず、長年の失政に対する民衆の怒りに向き合うための党改革は十分に進んでいない。

3月の選挙実施は不透明とみられていたが、ラーム・チャンドラ・パウデル大統領が今週、UML、NC、NCPの各党を招集し、カルキとの初会合を開いたことで情勢が動いた。RSPもカトマンズ市長バレン・シャーとの協議に乗り出し、総選挙はにわかに現実味を帯びてきた。結果がどうであれ、2026年は既成政党の優位が新たな勢力に挑まれ、ネパール政治の進路を変える年となるだろう。

それが透明性、民主主義、説明責任という新たな政治文化につながるのか。あるいは大衆迎合と権威主義へ傾斜するのか。その兆しが見え始めるのが2026年である。(原文へ

ソニア・アワレ(ネパリ・タイムズ編集者/保健・科学・環境担当):気候危機、防災、開発、公衆衛生を長年取材し、それらの政治・経済的な相互連関を追ってきた。公衆衛生を学び、香港大学でジャーナリズムの修士号を取得。

INPS Japan

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国連再編で事務局職員2600人超削減、予算15%削減の可能性

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連職員組合は、最善を願いつつ最悪の事態も想定し、緊張を強めている。総会が12月31日までに、2026年の計画予算(通常予算)案を採決する見通しだからだ。国連職員組合(UNSU)のナルダ・キューピドール会長は、職員に影響を及ぼす提案として、次の点を挙げた。
・2026年の通常予算を15・1%削減する案
・事務局全体で2681ポスト(約18・8%)を廃止する案(このうち半数超は既に空席)
・来年、ニューヨークとバンコクで開始する新たな「共通行政プラットフォーム(Common Administrative Platforms=CAP)」を通じ、行政機能を集約する案
・ナイロビ、ボン、バレンシア、チュニス、ウィーンなど、よりコストの低い勤務地へ約173ポストを移転する案

総会がこれらの変更を承認した場合、次の措置が実施される見込みだ。
・影響緩和策:人員削減は、欠員の整理、早期離職プログラム、各組織内での配置転換を進めたうえで、全体の配置(グローバル・プレースメント)で調整する。
・縮小(ダウンサイジング)方針:それでも追加の人員削減が必要となる場合は、ST/AI/2023/1 に定められた規則に従い、任用形態、勤務評定、勤続年数などを考慮して縮小方針を適用する。

■今後の見通し
・2025年12月:総会決議を待つ
・2026年1〜3月:影響緩和策を実施
・2026年4月以降:必要に応じ縮小方針を適用

■早期離職プログラム(影響緩和策の一つ)
国連人事局(Office of Human Resources)は、次のように周知している。
・第1回および第2回は引き続き受け付けており、最終決定は2026年1月まで確定しない。
・第3回は現在実施中で、本ラウンドで示された特定の基準に基づく対象者に絞って行われている。
・参加の意向を示した職員には、全ラウンド終了後に承認の可否を個別に通知する。

■職員への支援
近く利用可能となる見込みの「Staff Support Framework 2・0」は、今後の変化への対応を支援し、離職よりも再配置を優先するための体系的な指針を示すとともに、非自発的な離職の最小化を図るという。

第5委員会が今後数日、決議採択と予算承認に向けた審議を続ける中、国連職員組合(UNSU)は交渉の行方を注視していると、キューピドール会長は職員向けメモで述べた。会長は「同時に、これらの決定がもたらし得る影響、権利や労働条件への含意について評価を進めている」とした。

一方、米国務省は、国内の132以上の部局を廃止し、約700人の連邦職員を解雇し、海外の在外公館を縮小する手続きを進めている。

提案されている変更には、国連および一部の国連機関への資金拠出の打ち切り、32加盟国から成る軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)への予算削減、さらに特定されていない20の国際機関への予算削減も含まれるという。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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アジア太平洋地域、新たな災害リスク時代への備え

【バンコクIPS=UNESCAP】

サイクロン「ディトワ」と「セニヤール」は、例外的な事象ではなく、災害リスクの地形(リスクスケープ)が変化しつつあることを示している。両者はいずれも、これまでの歴史的なパターンを破った。ディトワは、スリランカ沿岸を異例なほど南下した後、ベンガル湾へとループし、24時間で375ミリを超える豪雨をもたらして地滑りを引き起こした。

一方、セニヤールは、マラッカ海峡で観測された史上2例目のサイクロンで、赤道付近で発達した後にスマトラ島上空に停滞し、アチェ州および北スマトラ州の洪水被害を深刻化させた。

拡大する人的・経済的被害

国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の報告書『アジア太平洋災害報告書2025:上昇する熱、拡大するリスク』によると、アジア太平洋地域は、海洋熱波や海面水温の上昇により極端気象が激化し、連鎖的なリスクが拡大する時代に突入している。

ESCAP

これまで比較的低リスクとされてきたスリランカ中部丘陵地帯やタイ南部沿岸も、いまや気候リスクのホットスポットとなった。

同報告書は、南アジアおよび南西アジア地域だけでも、洪水による年間平均損失額が、歴史的な470億ドルから570億ドルに増加する可能性があると予測している。

インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナムでは、2025年11月下旬の一連の暴風雨により、1,600人以上が死亡、数百人が行方不明となり、1,000万人を超える人々が影響を受けた。

広範な洪水と地滑りは120万人を避難に追い込み、基幹サービスを寸断し、多くの地域社会を孤立させた。必要とされる対応規模の大きさと、今後見込まれる深刻な経済的影響を浮き彫りにしている。

備えの価値

早期警報の改善により、過去数十年と比べて犠牲者数は減少している。しかし、今回の災害は、被害そのものがより破壊的になっている現実を示した。

影響ベースの予測によって大規模な避難が促され、地域訓練により多くの家族が安全を確保できたのは事実である。それでもなお、数千人が取り残された。

警報は発せられたが、現場での実施が不明確で、避難路がすでに冠水している例もあった。公式システムが機能しない場面では、ソーシャルメディアが命綱となった。

傾向は明らかである。信頼と訓練を伴わなければ、技術だけでは命は救えない。警報は、人々が「何をすべきか」を理解し、行動に移せるときに初めて機能する。

ESCAPの「津波・災害・気候レジリエンス多国間信託基金」は、備えへの投資が何倍もの成果をもたらすことを示している。2025~26年の提案募集は、次の暴風期が到来する前に、沿岸レジリエンスの強化、科学技術の統合、地域主導の行動を制度に組み込む機会を各国に提供している。

学ぶべき教訓

・信頼される地域ネットワークと、十分に整備された地域主導の備えが、警報を意味あるものにする

早期警報には限界がある。多くの地域で警報が発出され、ホットラインも開設されたが、急激な増水により家族は取り残され、救助隊やボランティアに頼らざるを得なかった。これらの事例は、情報があっても、移動制約や家庭ごとの備えの格差が行動を妨げることを示している。

2004年のインド洋大津波後に推進された地域主導の取り組みは、地域知と定期的な訓練が意思決定を改善することを実証してきた。20年を経たいま、社会的結束はレジリエンスの指標となっている。

例えば、7万6,000人のボランティアを擁するバングラデシュのサイクロン備えプログラムは、戸別訪問による警報伝達と避難誘導によって、サイクロンによる死者数を大幅に減少させてきた。

・リスクを考慮しない都市成長は、災害被害を増幅させる

ディトワとセニヤールは、リスクを織り込まない急速な都市化が被害を拡大させる現実を露呈した。コロンボでは湿地の40%が消失し、ハートヤイでは排水能力が限界を超えた。

スマトラ島で大きな被害を受けた町の多くは、既知の地滑り危険区域に位置しており、病院や交通網、地域経済に深刻な混乱をもたらした。

自然の緩衝帯が失われると、かつてはゆっくり排水されていた雨水が、数時間で都市を水没させる。都市のレジリエンスは、湿地の保全、ゾーニングの徹底、排水・治水インフラへの投資など、開発計画にリスクを組み込めるかどうかにかかっている。

インフラは量だけでなく、極端事象に耐えうる設計が不可欠である。自然システムを守り、レジリエンスを計画に組み込む都市こそが、将来の暴風に耐え、経済活動を守ることができる。

・地域連帯と共有解決策は命を救う

アジア太平洋地域は、暴風がモンスーン災害を増幅させ、地滑りへと連鎖し、脆弱なインフラによって被害が拡大する複合リスクに直面している。地域協力はもはや選択肢ではなく、世界で最も災害の影響を受ける地域におけるレジリエンスの基盤である。

2025年11月には、インドネシア、スリランカ、タイなど8か国が「国際災害チャーター(宇宙・大規模災害)」を発動し、緊急対応計画のための迅速な衛星画像提供が行われた。共有システムの有効性が実証された。

地域全体で洪水が拡大するなか、ESCAP防災委員会の参加国は、国境を越える災害に対応するため、地域早期警報システムと予測行動へのコミットメントを再確認した。

アジア太平洋地域のレジリエンスは、人と備えの文化への投資、地域連帯、極端事象を前提とした都市計画、自然緩衝帯の保全、そして最終段階の行動指針をすべての世帯に届けることにかかっている。

高まり続けるリスクを管理できる世代と社会を築くことこそ、安全な未来への最も賢明な投資である。(原文へ

INPS Japan/IPS/ESCAP

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NFUは維持、核戦力は拡大―中国の核ドクトリンが軍縮と戦略的安定に与える影響

【シンガポールLondon Post=アダム・ハンコック】

中国の核姿勢は、長らく「抑制」によって特徴づけられてきた。核戦力は比較的小規模に抑えられ、宣言政策としても防御的抑止を強調してきた。1964年の初の核実験以来、中国は「先制不使用(NFU)」を掲げ、いかなる状況下でも核攻撃を先に開始しないと約束している。さらに、非核兵器国および非核兵器地帯に対しては、核兵器を使用せず、また使用を威嚇しないという無条件の保証も示してきた。|トルコ語版英語

Adam Hancock
Adam Hancock

これは核拡散防止条約(NPT)上の5核兵器国(=P5)の中でも中国の特徴の一つであり、中国は自らを「最小限抑止」の担い手として位置づけてきた。すなわち、確実な報復を可能にする必要最小限の戦力にとどめ、米国やロシアといった超大国との軍拡競争を避けるという立場である。

こうした基本姿勢は、2025年後半に入っても維持されている。中国は核兵器のNFU(先制不使用)を明確に再確認しており、2025年11月の軍備管理・軍縮・不拡散に関する白書でも、NFUを自衛的核戦略の中核に据え、国家安全保障における核兵器の役割を抑制するための基盤と位置づけた。外務省声明や安保理常任理事国(P5)の対話の場でも同趣旨が繰り返され、中国は核保有国間の相互NFU合意を、リスク低減に向けた実務的措置として提案している。

その一方で、欧米では危機時の「例外」をめぐる憶測が根強い。核関連施設・資産に対する通常攻撃や、台湾をめぐる緊張が高まる局面で、NFUが実質的に曖昧化するのではないか、という見方である。もっとも、中国が公式に政策転換を示した事実はない。中国はNFUを、ドクトリンであると同時に外交的シグナルとして位置づけ、自らを「責任ある行為者」として演出しつつ、他国のより攻勢的な核姿勢を批判する論拠としている。

SIPRI

しかし、こうした宣言上の継続性は、中国の核戦力が急速に近代化され、規模も拡大している現実と鋭く対照をなす。規模と速度の両面で、これは中国の核戦力史上、最も顕著な拡充だ。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)や『Bulletin of the Atomic Scientists』、米国防総省などの推計はおおむね一致しており、2025年半ば時点の運用可能な核弾頭数は約600発と見積もられている。これは前年の約500発から増加し、2020年の水準の2倍超に当たる。今後は2030年までに1,000発超、2035年までに1,500発に達する可能性も指摘され、近年は年間約100発のペースで核弾頭数が増えているとされる。

こうした拡大は、陸・海・空にまたがる「核の三本柱(核トライアド)」の整備を伴っている。主な動きとしては、複数弾頭(MIRV)搭載能力を持つDF-41大陸間弾道ミサイル(ICBM)、射程が5,400海里を超えるとされるJL-3潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、空中発射弾道ミサイルを運用できるH-6N爆撃機の整備などが挙げられる。中国は複数のサイロ群で、新たなICBMサイロを数百基規模で建設しており、2025年初頭までに約350基が完成、または完成間近とされる。地点によっては、100発を超えるミサイルが装填されたとの報道もある。DF-17やDF-27に搭載されるとされる極超音速滑空体(HGV)は、ミサイル防衛の突破能力を高める。さらに、早期警戒システムへの投資は、警報即応発射(launch-on-warning)を含む、より高い警戒態勢への移行を示唆している。

中国は、こうした能力整備を防御的措置として正当化している。とりわけ、米国の弾道ミサイル防衛、精密通常攻撃能力、そして中国の第二撃能力(報復能力)を損ない得る地域同盟の強化を、主要な外部脅威として挙げる。中国側は、核戦力は安全保障に必要な「最小限の水準」にとどまり、米国・ロシアの備蓄と比べればはるかに小さいと主張する。狙いは同等性の追求や核戦争遂行ではなく、抑止の生存性(サバイバビリティ)の確保にある、という説明である。

ただし、拡大の規模と近代化の進展は、NFUへの厳格な依拠が将来どこまで維持されるのか、という新たな問いも生む。長期化する紛争の局面で、より柔軟な選択肢を可能にしているのではないか、という指摘が出るゆえである。

この二面性は、国際的な核不拡散・軍縮の枠組みへの関与にも表れている。中国は1992年のNPT加盟以降、不拡散・軍縮・平和利用という条約の三本柱を支持しつつ、「段階的(step-by-step)」な軍縮を主張してきた。中国の立場は、世界の核弾頭の9割超を保有する米国とロシアが、まず深い削減に主たる責任を負うべきだ、という点にある。中国はNPT運用検討会議や安保理常任理事国(P5)の協議には参加する一方、戦力規模の格差が縮小しない限り、米国・ロシア・中国の三国間軍備管理交渉には応じない姿勢を維持している。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

核兵器禁止条約(TPNW)についても、中国は他の核保有国と同様に参加していない。TPNWは2017年に採択され、2021年に発効した。中国は、人道的目的や長期的な核廃絶のビジョンには理解を示す一方、同条約は安全保障の現実から乖離し、核兵器国の関与を欠いたまま進められてきたうえ、NPT体制を損なうおそれがあると主張している。中国は交渉に加わらず、関連する国連決議にも反対し、安定を損なわない漸進的かつ包摂的な措置を優先している。

こうした動向は、戦略的安定に重大な影響を及ぼす。とりわけ競争が激化する東アジアでは、その影響が大きい。中国の能力増強は、米中対立、インドの近代化、北朝鮮の挑発、日本・韓国の同盟強化と重なり合う。台湾や南シナ海をめぐる危機では、高度な通常戦力と核戦力の統合が進むほど、エスカレーションの閾値が曖昧になり、誤算のリスクが高まる。米国や同盟国側のミサイル防衛の進展は、中国にさらなる戦力の多様化と拡充を促し、安全保障のジレンマを増幅させる可能性がある。

視野を世界に広げれば、中国の動きは、長らく米露中心の二極構造を前提としてきた軍備管理の枠組みを揺さぶっている。核戦力の拡大は、多極的な軍拡競争を誘発する可能性があるほか、NPTにおける軍縮義務への信頼を弱め、交渉を一層複雑にしかねない。中国は核戦力の詳細をほとんど公表していないため、透明性の不足は誤認や過剰反応を招きやすい。

他方で、機会もある。NFUが維持されるなら、リスク低減のモデルとなり得る。また、中国が多国間枠組みを重視する立場は、相互主義的な措置と組み合わされるなら、核保有国と非核兵器国の溝を埋める足がかりとなり得る。

People's Republic of China  credit: Wikimedia Commons
People’s Republic of China  credit: Wikimedia Commons

結論として、中国の核ドクトリンは、歴史的な抑制と、緊張が高まる安全保障環境への適応との間で均衡を取ろうとしている。NFUと最小限抑止は、2025年の再確認を含め、宣言上は維持されている。しかし同時に、前例のない近代化と核戦力の拡大は、「核は先に使わない」と言いながらも、万一攻撃を受けた場合に確実に報復できる体制をより強固にしようとする動きである。中国は、米国のミサイル防衛や精密通常攻撃によって自国の第二撃能力(報復能力)が損なわれることを脆弱性として意識し、核弾頭数の増加、配備の分散・地下化、陸海空への多様化、突破力の向上、早期警戒の整備などを通じて「やり返せる力」を厚くしていると説明してきた。世界の軍縮にとって、これは逆説的な構図だ。拡充は軍縮の勢いを削ぐ一方で、中国の立場は、依然として米国とロシアが主たる責任を負うべきだという論点をかえって際立たせるためである。

安定を維持するには、包摂的な対話と実務的措置が不可欠である。P5の枠組み強化、危機管理のホットライン整備、透明性と予測可能性を高める信頼醸成、そして将来的な多国間軍備管理への道筋づくりが求められる。こうした努力が欠ければ、軍事力の高度化が協力よりも対立を強め、すでに不安定な世界で核の危険が高まるおそれがある。2025年の終わりにあたり、国際社会は、対話の場と危機管理の仕組みを整え、透明性を高める信頼醸成を優先することで、中国の台頭が世界の不安定化ではなく、安定と平和につながるよう導く必要がある。(原文へ

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【エルサレムINPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】

中東は、世界で最も不安定な地域の一つとしばしば形容される。長期化する紛争、根深いイデオロギー対立、脆弱な地域安全保障枠組み、そして大国の関与が重なり、核リスクが高まりやすい構造を抱えている。

この地域で核兵器を保有していると広く信じられている国は一国に限られるが、核能力の獲得を目指した、あるいは目指していると疑われる国は複数ある。こうした力学が地域の対立と結びつくことで、中東は核の火種(flashpoint)となり得る。|ENGLISHRUSSIAN

中東で核兵器を保有しているのはどこか

イスラエル

イスラエルは中東で唯一、核兵器を保有していると広く見られている。ただし政府は、保有の有無を公式に肯定も否定もしていない。この「核の不透明性(nuclear opacity)」政策は数十年にわたり維持されてきた。

専門家の推計では、核弾頭数はおおむね80~200発とされる。運搬手段としては、航空機、地上配備ミサイル、潜水艦発射能力を組み合わせた「核の三本柱(トライアド)」を備えるとみられている。

イスラエルにとって核兵器は、敵対的な地域環境における究極の抑止力であり、国家の存立を脅かす事態を防ぐための最終手段と位置づけられている。現時点で、イスラエル以外の中東諸国が運用可能な核兵器を保有しているとの評価は、一般的ではない。

中東で核兵器保有を目指す(と見られる)国々

イラン

中東の核拡散をめぐる議論の最大の焦点はイランである。イランは核兵器開発の意図を否定し、計画は民生目的だと主張している。しかし実際には、先進的なウラン濃縮能力を発展させる一方、時期によっては国際原子力機関(IAEA)による査察・監視への協力を制限してきた。

同時にイランは、長距離弾道ミサイル計画の高度化も進めている。これらのミサイルは、理論上は核弾頭を搭載し得る。

多くの分析者は、イランが核の閾値(threshold)――政治的な意思決定さえ下されれば、比較的短期間で核兵器を製造し得る段階――に近づいているとみる。イランの核武装の可能性は、地域の軍拡競争を誘発する主要因とされ、周辺国の政策判断にも連鎖的な影響を及ぼし得る。

サウジアラビア

サウジアラビアは近年、原子力計画の推進姿勢をいっそう鮮明にしている。公式には民生用のエネルギー需要を軸に説明されるが、地域の安全保障上の懸念と強く結びついており、軍事・抑止上の含意も帯びる。

サウジ側は、原子力発電がエネルギー構成の多様化、石油依存の低減、そして「ビジョン2030」の下で増大する国内電力需要への対応に不可欠だと主張する。

一方でサウジ指導部は繰り返し、イランが核兵器を獲得すればリヤドも同等の能力を求めると警告してきた。この点が、同国の原子力計画を安全保障上きわめて敏感な案件にしている。

サウジは原子炉建設を視野に入れつつ、国内のウラン資源開発や燃料サイクル関連研究の拡大を進め、米国、中国、韓国、ロシアなどとの原子力協力の枠組みも模索してきた。

ワシントンとの最大の争点は、ウラン濃縮と再処理に厳格な制限を受け入れることに対するサウジの消極姿勢である。濃縮と再処理は国際的に、核兵器能力へ至り得る潜在的な「経路」と見なされやすい。

トルコ

トルコはNATO加盟国であり、NATOの核共有(nuclear sharing)をめぐる枠組みの下で、米国の核兵器が自国内に配備されていると指摘されている。トルコの指導者は機会あるごとに、「ある国は核兵器を持てるのに、なぜ他国は持てないのか」との趣旨で疑問を呈してきた。

NATO加盟と国際的コミットメントは現時点でトルコの選択肢を制約しているが、こうした発言は長期的な不確実性を示唆している。

エジプト

エジプトは過去に核研究を進めた経緯があり、中東を大量破壊兵器のない地域にする構想(WMDフリー・ゾーン)を長年提唱してきた。だが現在は、公式には不拡散体制を支持する立場をとっている。

またエジプトは、イスラエルの核能力とイランの核計画を、地域の安全保障上の不均衡要因として注視している。

核の「能力」を持つ(ただし兵器化を公言していない)国々

中東には、現時点で核兵器開発の意思を公言せず、国際的な監視・検証の枠組みの下で、エネルギー、研究、医療、産業などの民生目的に焦点を当てる国もある。

最も明確な例がアラブ首長国連邦(UAE)である。UAEは、濃縮・再処理を行わないという厳格な不拡散コミットメントの下で、バラカ原子力発電所を運用している。

ヨルダンは、訓練、医療用同位体、科学研究に用いる小型研究炉を運転している。エジプトは、長期的なエネルギー戦略の一環としてロシア支援の下でエル・ダバア原発を建設中であり、核不拡散条約(NPT)体制内にとどまる立場を示している。トルコは、エネルギー構成の多様化を目的にアックユ原発を開発しているが、燃料サイクルに関わる機微技術の追求は掲げていない。

北アフリカでは、モロッコとアルジェリアが、科学研究や医療用途など民生目的の研究炉をIAEA保障措置の下で運用している。これらの計画は技術的知見と基盤を提供し得る一方、公式には平和利用と透明性が強調され、核兵器化への意図は示されていない。

中東における主要な核リスク

1)地域的な軍拡競争
イランが核の閾値を越えれば、サウジアラビアを中心とする地域大国が追随する可能性がある。不安定な地域で核保有国(あるいは核能力を持つ国)が増えれば、核兵器を求める動きが他国にも波及しかねない。

2)低い信頼と脆弱な意思疎通
冷戦期の米ソ対立と異なり、中東の対立関係には、危機管理の仕組みやホットライン、軍備管理合意といった安全弁が十分に整っていない。誤算や偶発的衝突のリスクは高い。

3)先制攻撃の誘惑
競合国が核能力の獲得に近づいているとの認識は、核関連施設への先制攻撃を促し得る。攻撃は短期間でエスカレートし、地域諸国に加え域外大国を巻き込む広域戦争へ発展する恐れがある。

4)非国家主体の存在
中東では、強力な非国家武装組織の存在感が際立つ。核兵器が国家の管理下にとどまるとしても、核施設への攻撃や核物質の奪取を狙う試みが生じるリスクは、より安定した地域より高い。

5)通常戦からのエスカレーション
中東の多くの紛争は、全面戦争の一歩手前で継続している。核が絡む環境では、通常戦の衝突が、指導者が国家の存立に関わる危機を恐れる局面で、より急速に拡大し得る。

6)国際不拡散体制の弱体化
中東で核拡散が進めば、国際的な不拡散体制は弱体化し、他地域でも同様の動きを誘発しかねない。(原文へ

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援助予算が歴史的低水準に、2026年に数百万人が危機に

【ニューヨークIPS=オリトロ・カリム】

2025年は、人道支援活動にとって特に混迷を極めた年となった。世界の援助予算が記録的な規模で減少し、紛争、環境災害、経済危機が激化するなかで、最も脆弱な人々が不均衡に深刻な影響を受けている。一方で、緊急対応に充てられる国際的な資金は、急増するニーズに遠く及ばない状況にある。

人道機関は、資金不足が拡大し続ければ、2026年にはさらに多くの人々が命を守るために不可欠な支援を受けられなくなると警告している。これを受け、国連(UN)とパートナー機関は、12月12日に開催される中央緊急対応基金(CERF)設立20周年記念の年次誓約会合に向け、国際社会に対し、支援拡大を強く呼びかけている。

United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「人道システムの燃料タンクは空になりかけており、数百万人の命が危機にさらされている。」と述べた。「より多くを求められながら、使える資源はますます少なくなっている。これは明らかに持続不可能である」。

国連人道問題調整事務所(OCHA)の数値によると、国連は来年、8,700万人の命を救うことを目標としており、そのためには約230億ドルの資金が必要とされる。さらに、50か国で実施される23の国別人道支援事業に加え、難民や移民に特化した6つの追加事業を通じて、1億3,500万人を支援するため、約330億ドルの資金調達を目指している。

しかし、支援拡大の必要性がかつてなく高まる一方で、人道支援アピールへの資金拠出は過去数十年で最も急激に落ち込んでいる。2025年に1,200億ドルを求めた支援要請では、前年より約2,500万人少ない人々しか支援できなかった。

OCHAは、この資金不足がもたらした即時的な影響として、世界的な飢餓危機の悪化、崩壊寸前まで追い込まれた保健医療体制、重要な教育プログラムの衰退、長期化する武力紛争から逃れた脆弱な避難民に対する保護サービスの大幅な後退を挙げている。一部の地域では援助関係者の安全も著しく悪化し、今年だけで320人以上が殺害された。国連当局者は、これを「戦時国際法に対する完全な無視」と表現している。

Tom Fletcher

国連人道問題担当事務次長兼緊急救援調整官のトム・フレッチャー氏は、「最も力を必要とされているときに、警告灯が点滅している。」と述べた。「これは単なる資金ギャップではなく、運営上の緊急事態である。CERFが揺らげば、世界の緊急対応サービスそのものが揺らぐ。そうなれば、私たちに頼る人々が苦しむことになる。」

資源が極端に不足するなか、国連とパートナー機関は、ある命を救う支援を優先するため、別の支援を縮小せざるを得なくなっている。その結果、差し迫った人道危機の多くが深刻な資金不足に陥っている。こうした戦略的配分により、国連は「人類の苦しみの震源地」とも形容されるスーダン・ダルフール地方から逃れる多くの避難民を、十分に支援できていない。

フレッチャー氏は、「ご存じの通り、私たちが直面している苛烈な削減は、苛烈な選択を強いている。人間の生存をめぐる冷酷なトリアージである」と語った。「これは、連帯や思いやりよりも力を優先したときに起きる現実である」。

国連当局者はまた、CERFの極めて重要な役割を強調した。同基金は2006年以降、110か国以上で総額100億ドルを超える支援を提供し、数十年にわたり脆弱な人々の命綱となってきた。CERFは「迅速かつ戦略的」な資金源として、他の支援が届く前に危機下の市民に到達し、数え切れない命を救ってきた。

グテーレス事務総長は、「多くの地域で、CERFは命を救う支援があるか、全くないかの分かれ目となってきた。」と述べている。今年初め、ガザ地区で人道活動が再開された際には、CERFが病院への重要な燃料供給、水・衛生システムの復旧、その他の不可欠な救命サービスの強化を支えた。

2025年には、CERFが資金不足の危機下にある支援活動を維持するため、約2億1,200万ドルを拠出した。国連はまた、ブルキナファソ、コンゴ民主共和国、マリ、ハイチ、ミャンマー、モザンビーク、シリアなどで、女性や少女のニーズを含む緊急課題に対応するため、追加で1億ドルを割り当てたと発表した。

これまでにCERFは、総額4億3,500万ドルの拠出を通じ、30の国と地域で数百万人を支援してきた。これらの資金は、停戦後のガザにおける人道支援の拡大を可能にし、ダルフールでの武力紛争から逃れる人々への重要な支援も提供している。

こうしたCERFの取り組みは、国連が2026年に向けて構想する「人道リセット」の中核を成すものである。フレッチャー氏は、「だからこそ人道リセットが重要なのだ。単なるスローガンではなく、私たち全員への挑戦である。」と述べた。「それは使命であると同時に、私たちの活動と、支援を必要とする多くの人々にとっての生存戦略でもある。より賢く、より速く、地域社会により近づき、直面する厳しい選択についてより正直になること。支援を受ける人々のために、1ドル1ドルの価値を最大化することが求められている。」

国連にとって2026年最大の単独人道対応計画は、占領下パレスチナ地域に焦点を当てたもので、壊滅的な暴力と破壊を経験した約300万人を支援するため、約41億ドルが必要とされる。これに続き、世界最大の避難民危機を抱えるスーダンでは2,000万人を支援するため29億ドル、シリアでは860万人を支援するため28億ドルが必要とされている。

Displaced families shelter at a gathering site in El Fasher in northern Darfur in August 2025 | Photo/UNICEF
Displaced families shelter at a gathering site in El Fasher in northern Darfur in August 2025 | Photo/UNICEF

CERFへの拠出額は、過去10年以上で最も低い水準に落ち込むと予測されており、国連は10億ドルを目標に、加盟国への資金要請を開始する。各国にはまた、民間人や人道支援従事者の保護強化、武力行使の加害者に対する説明責任メカニズムの強化に向け、自国の影響力を行使するよう求められている。

フレッチャー氏は、「人道資金が厳しいこの瞬間にこそ、十分に資金が確保されたCERFがもたらし得る次の20年を想像しなければならない。」と語った。「国連をより速く、より賢く、より費用対効果が高く、より環境に配慮し、より先取り型で、より包摂的にする基金である。地域社会の声を増幅し、連帯が今も機能することを証明する基金だ。その連帯を信じる市民の運動に支えられて。」(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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