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退任インタビュー:D.C.での10年を終え、「宣教者」教皇大使が去る

「私たちは誰とでも話します。たとえ戦争省であっても」――ワシントンにおける「教皇の代理人」としての任期について、クリストフ・ピエール枢機卿が独占インタビューで語った。

【ワシントンDC INPS Japan/National Catholic Register=ヴィクトル・ガエタン】

バチカン外交官として50年近くにわたり、クリストフ・ピエール枢機卿は6大陸で数百回に及ぶ会合に臨んできた。そのため、80歳の誕生日を8日後に控えた1月下旬、米国の「戦争省」で政府高官と面会したことも、本人にとっては多忙な国際外交官の日常の一コマにすぎなかった。|ENGLISH

Victor Gaetan
Victor Gaetan

「それが私たちの仕事です。私たちは誰とでも話します。たとえ戦争省であってもです!」フランス生まれのピエール枢機卿は、ローマへの転居準備を進めるなか、Registerの取材にそう語った。聖座の大使館である教皇庁大使館は、1937年に建てられた専用の邸宅で、J・D・バンス副大統領公邸の向かいに立つ。

ピエール枢機卿は、この出来事が過度に大きく取り上げられていると考えており、詳しく語ることにはあまり関心を示さなかった。ただ、国防次官(政策担当)のエルブリッジ・コルビー氏との「率直な」協議を通じて、現政権の世界観と聖座の立場との間に明確な隔たりがあることが浮き彫りになったと認めた。また同枢機卿は、外交案件は本来、国務省が扱うものであり、「戦争省」が扱うものではないという従来の米国外交のあり方からの逸脱も示されたと見ている。

最前線での半世紀

対話は国家から歴代教皇にまで及び、最初の赴任地ニュージーランドは教皇パウロ6世の時代だった。しばしば笑みを浮かべながら語るピエール枢機卿は、教会に仕える司祭外交官たちの並外れた献身を体現している。彼が赴任した国々を列挙するだけでも、その経験の広さがうかがえる。モザンビーク、ジンバブエ、キューバ、ブラジル、スイス、ハイチ、ウガンダ、メキシコ、そして最後に米国である。

ワシントンD.C.の教皇庁大使館には、米国人肖像画家イゴール・V・ババイロフによるクリストフ・ピエール枢機卿の肖像画が飾られている。

彼が担った職務は多岐にわたった。ウガンダでは、エイズ対策としてコンドーム使用のみを推進する副大統領の方針に対し、禁欲教育を訴えた。ブルンジでは教皇大使が殺害された後、大使館を引き継いだ。ハイチでは、カトリック司祭の身分のまま大統領に選出されたジャン=ベルトラン・アリスティド氏の聖職離脱をめぐる対応を担った。メキシコでは、信教の自由を憲法に盛り込む交渉を成功させた。そして米国では、前任者のカルロ・マリア・ヴィガノ大司教が教皇フランシスコの辞任を公然と要求した、前例のない危機にも対応した。。

A portrait of Cardinal Christophe Pierre, by American portrait artist Igor V. Babailov, is displayed at the papal nunciature in Washington, D.C.
A portrait of Cardinal Christophe Pierre, by American portrait artist Igor V. Babailov, is displayed at the papal nunciature in Washington, D.C.

2016年にワシントンに着任して以来、ピエール大司教は、全米の司教たちと同時に向き合ってきた。各教区の司教個人として、また米国カトリック司教協議会(USCCB)を通じてである。さらに、カトリック系大学をはじめとする幅広いカトリック機関、そして米国政府に対する教皇の主要な対話窓口としても務めた。これは非常に大きな役割である。とりわけピエール枢機卿は、米国の教会の実情を自らの目で確かめるため、全米をくまなく巡るべきだと判断した。教皇大使の最も重要な職務の一つは、新しい司教を選ぶ際に教皇を補佐することであり、そのためには現場で司教たちが直面している課題を理解する必要がある。

「9年間、教皇大使を務めたメキシコから大使館に着任した翌日には、カリフォルニア州オレンジ郡へ飛び、司教総会に初めて出席しました。ですから、私は典型的なワシントン観光客ではまったくありませんでした。」と彼は語った。「D.C.は旅と旅の間に戻る場所でした。D.C.に戻るとすぐ、次の出張の予定を立てていたのです。」

退任した教皇大使は今後、ローマに居を移し、教皇から特別な外交任務を託されれば引き続きそれに応じる予定である。米国での日々を振り返って何を最も懐かしく思うかと尋ねると、ピエール枢機卿はすぐにこう答えた。「何よりも人々です。人々のもてなしと寛大さを心から楽しみました。教皇の代理人として、私は多くのカトリック信者と接しました。人口の20%ですからね。ほとんどの教区を訪ねました。アラスカには4、5回行きました。ハワイにも行きました。雪も楽しみました。カリフォルニアも、フロリダも楽しみました。フェニックスにも行きました。」

「美しさです。」と彼は熱を込めて続けた。「この国の多様性です。」

枢機卿が教皇庁大使館で気に入っていたのは、静けさと黙想にふさわしい雰囲気だった。木々に囲まれた裏庭には、シカやアライグマが姿を見せる。ワシントン市内の美術館や博物館も気に入っていた。しかし何よりも、ピエール枢機卿が力を注いだのは、自身の中心的な使命だった。それは任期の大半を通じて、「教皇フランシスコを米国に伝え、米国を教皇フランシスコに伝えること」だった。

アパレシーダと「希望の大陸」を読み解く

ピエール枢機卿は着任当初、米国の教会指導層が、2007年にラテンアメリカの司教たちによってまとめられた「アパレシーダ最終文書」をよく知らないことに驚いた。同文書は、世界を福音化することに献身する、より宣教志向の教会を求めている。教皇フランシスコは、その主要な編集責任者だった。フランシスコの最初の使徒的勧告『福音の喜び』に見られる多くのテーマは、アパレシーダにさかのぼることができる。

ピエール枢機卿によれば、アパレシーダの重要性を理解するには、それを第2バチカン公会議の文脈の中で捉えなければならない。「教会の歴史は、およそ20の偉大な公会議によって形づくられてきました。そして前世紀における偉大な出来事、聖霊の出来事こそ、第2バチカン公会議でした」と彼は説明した。

「1960年代初頭以来、南米の司教たちは――教皇パウロ6世が南米を『希望の大陸』と呼んだことを思い出してください――5回の大規模な会議を開催することによって、第2バチカン公会議を実践に移しました。アパレシーダはその5回目でした。それはベルリンの壁崩壊後、そしてマルクス主義という奇妙で恐るべきイデオロギーの押しつけが終わった後に行われたのです。」

「アパレシーダで司教たちは、信仰と価値の継承の断絶、社会の分断、近代主義、ポストモダンなどを見つめました。これらは多くの哲学者や観察者によって分析されてきた現象です。そこで司教たちは、今こそ再び始めなければならない、当然ながらキリストから再出発し、この新しい世界を福音化しなければならない、と語ったのです」

枢機卿は、この出来事を「今世紀の転換点」と呼ぶ。

ピエール枢機卿は、ブラジルのアパレシーダにある大陸随一の巡礼地、アパレシーダの聖母国立大聖堂に集まった南米の司教たちが、聖霊に促されていたと考えている。教皇フランシスコの選出により、アパレシーダで示された洞察は、とりわけ『福音の喜び』という文書を通じて普遍教会へと広がった。そして同枢機卿の見方では、その聖霊の働きは今日も続いている。

「だからこそ、個人的には」と彼は要約する。「私が米国で果たすべき使命の一つとして、教皇フランシスコとアパレシーダについて私が見て取ったことを、米国の司教たちと分かち合うことを掲げたのです」

2007年、ピエール枢機卿はメキシコの教皇大使としての任期を始めたばかりだった。当時、ホルヘ・ベルゴリオはブエノスアイレス大司教だった。「教皇フランシスコは預言者でした。変化する時代、時代の転換期に教会であるとはどういうことかを語っていました。彼は診断を示し、今日どのように福音化するのかに焦点を当てたのです。私にとって、これは非常に魅力的なことでした」

枢機卿は、教皇レオ14世が2007年に示された精神を引き継いでいると見る。「聖父の言葉を読み、聞くと、彼はフランシスコが始めたことと完全に連続しています。毎週、第2バチカン公会議について語っていますし、次の枢機卿会議では『福音の喜び』が議論されます。お分かりでしょう」

「教皇レオは、何よりもまずラテンアメリカの司教です」とピエールは笑った。「米国で生まれた司教ですが、ラテンアメリカの司教なのです。そう言えば、教皇レオについてすべてを語ることになります。同時に、米国についてもすべてを語ることになります。時に人々はそれを認めたがりません」

ピエール枢機卿は、フランシスコとレオの双方を預言者だと表現する。なぜか。「預言者とは、福音について語る人です。教皇レオは政治家になろうとしているのではありません。彼自身が明確にそう述べています。預言者とは、今日の世界にあって、福音の良き知らせを告げ知らせる人なのです」と彼は説明した。

「預言者には優れた洞察が必要です。勇気も必要です。そして今日の世界と対話する力も必要です。キリストの現存と福音の価値を今日の世界に示すこと――教皇レオが行っているのはまさにそれです。しかも非常に的確に、親切に、説得力をもって行っています」

ピエール枢機卿は、発表から20年近くたったアパレシーダ文書の価値を、米国の司教たちが今では理解していると考えているのだろうか。

「この世界に完全なものはありません。しかし、そうだと言えるでしょう」と彼は厳粛に答えた。「私は一つの文書だけの擁護者になりたいのではありません。重要なのは、私の兄弟である司教たちが、貧しい人々を守り、移民を守り、人間の命を守り、死刑に反対して立ち上がる声を聞く時、私はうれしく思うということです。司教たちはイエスに従っていると信じるからです。そして、そのことを神に感謝しています」

米国教会におけるイデオロギーと現実

ピエール枢機卿は、米国の司教たちに対して常に称賛ばかりを述べてきたわけではない。約10年前には、米国カトリック教会に過度なイデオロギー性があると批判することで知られていた。2016年当時、それが教会指導部に対する彼の診断だったのかと尋ねると、枢機卿はまず、なぜイデオロギーが問題なのかを理解しなければならないと説明した。

「イデオロギーの危険は、それが非常に分断的であることです。人は一つの考えの所有者となり、それを押しつけようとし、現実のいくつかの側面を忘れてしまうからです。」と彼は語った。

現実は考えよりも重要である、と彼は強調する。「イデオロギーを扱うほうがはるかに簡単です。なぜなら人はそのイデオロギーの所有者となり、自分に同意しない人々は忘れ去られるべき、無視されるべき、あるいは打ち負かされるべきだと考えるからです。これは世界中で起きていることですが、教会の内部にも存在する危険です。」

彼は続けた。「ある意味で、米国のカトリックは価値を守る一種の政党のようになっていました。彼らは価値を守り、それをよく行っていました。しかし、それは一種の政治闘争になっていったのです。カトリックであることは、価値を守ることを意味するようになりました。教皇フランシスコはこの状況を見て、『注意しなさい。教会としての私たちは、たとえそれが良い価値であっても、価値を守っているだけではないのです。』と言ったのです」

この評価によれば、米国のカトリック指導層は、プロライフ運動を一つのイデオロギーとして自らと同一視するようになり、その結果、他の優先課題が忘れられていった。この焦点化は、文化戦争に寄与する危険をはらんでいる。

ピエール枢機卿はこう要約した。「長年にわたり、この文化戦争が支配的となり、分断を生み出しました。必然的に、『私と共にいないなら、あなたは私に反対している』という姿勢が広がっていくのです」

では現在はどうか。「司教たちは今日、より一致しています。現実の多くの側面に目を向けています。イデオロギーの中で機能すると、人は分裂します。」と彼は述べた。

米国教会について敬服するようになった点を尋ねると、ピエール枢機卿は、米国の教会がいかに多くのものを築き、惜しみなく社会に貢献してきたかを強調した。「カトリック信者が築いてきたものを見れば、驚くべき聖堂、活気ある小教区、大学、病院があります。実に見事です。200年以上にわたる米国カトリックの美しさは、この寛大さにあります。教会の良い影響は至るところに見られます。」

「カトリック信者の国への貢献がこれほど劇的な国を、私は他に知りません。そして、その勇気です。考えてみてください。米国人は移民です。どこか別の場所から来た人々です。彼らは自らの努力によって自分たちの国を変えることができました。そして今もそうし続けています」と彼は語った。

ピエール枢機卿は、カトリックが教育に重点を置いてきたことを特に挙げた。「私はノートルダム大学で名誉博士号を授与されました。なんと素晴らしいキャンパスでしょう。私たちには200近いカトリック大学があります。これは驚くべきことです。」

彼はこう観察した。「米国文化は夢の文化になりました。そしてここに来た人々は、自らを自由にするために来ました。アメリカン・ドリームは、プロテスタンティズムに深く刻まれた、ほとんど一つの宗教です。カトリック信者は、とりわけ教育に投資しました。信仰に深く根ざしたまま、アメリカン・ドリームの一部となるためです。」

分裂の謎と平和への呼びかけ

誠実なインタビューであるなら、痛みを伴うテーマを避けることはできない。教皇大使にとって、任期中で最も困難だった時期は、前任者ヴィガノ大司教が2018年に教皇の辞任を求めたことで引き起こされたスキャンダルだった。

ヴィガノ氏がなぜ分裂へと進み、2024年の破門につながったのかという問いに対し、枢機卿はこう答えた。「このことについて私はあまり話してきませんでした。なぜなら、私はいまだにこの兄弟の態度に困惑しているからです。彼はいまも私の兄弟、司教としての兄弟です。私は彼を長く知っています。彼を尊重しています。しかし困惑しています。理解できないのです。」

「ご存じの通り、これは人生における謎です。80歳になり、人生の終わりに近づく今、私は多くの種類の謎に直面してきました。しかし最大の謎は人間に関わるものです。もちろん、完全な人間などいません。しかし、この兄弟の立場を私は理解できませんでした。ですから、これ以上詳しく述べるつもりはありません。ただ、私にとって確かに心を痛めることでした。」

ピエール枢機卿は、自身の故郷ノルマンディー地方の聖人、リジューの聖テレーズと同じように、教会を自分の家と考えていると付け加えた。「彼女はよく『私の母なる教会』と言っていました。私も同じように言います。私は生涯で5人の教皇に仕えてきました。私は常に、教会の中に神の働きを見てきました」

ピエール枢機卿は、ピエルバッティスタ・ピッツァバッラ大司教、ロバート・プレヴォスト大司教と同じ時期に赤い帽子、すなわち枢機卿位を受けた。歴史的に見れば、教皇大使が枢機卿に任命されることは多くなかった。しかしフランシスコは、特に危険または困難な状況で宣教者として奉仕した教皇大使たちを、枢機卿として顕彰した。私は枢機卿に、フランシスコは彼を米国という宣教地で奉仕する司教と見なしていたのかと尋ねた。

「なぜ私が枢機卿に任命されたのかは分かりません」と彼は答えた。「それは例外的なことでした。私は教皇フランシスコと良い関係にありました。この教皇の重要性を強く信じてきました。彼は確かに米国に多くの注意を向けていました。一般に、南米の人々、特にエリート層は、北米で何が起きているかに大きな関心を払います。しかし、その逆はそうではありません。北米は南米で何が起きているかに、もっと注意を払うべきです。私はその両方の場所で生きる特権に恵まれました。私にとって、教皇レオは米国人というより、よりラテン的な方です」

米国の外交政策

現在の情勢に話を戻し、私は教皇大使に対し、1月22日に戦争省当局者が彼を呼び出した理由を尋ねた。「それは明らかに、教皇レオが外交団に向けた演説で、『戦争が再び流行し、戦争への熱狂が広がっている』と述べたことに関係していました」

ピエール枢機卿はこう付け加えた。「教皇レオの最も重要な強調点は平和です。選出後、バルコニーから発した最初の言葉は『平和』でした。彼は一貫してそのテーマを語り続けています。」

教皇大使によれば、聖座は、トランプ政権の外交政策が、第2次世界大戦後に支持されてきた政策―国連の創設を助けた政策―から離れていることを非常に懸念している。「昨年末に発表された米国の国家安全保障戦略には、いくつか憂慮すべき点がありました。」とピエール枢機卿は述べた。「それは法の力ではなく、力の法を称揚しています。建設的な多国間主義の余地をほとんど残していません。一方で教皇は、外交の古典的な考え方を継続しています」

彼は感情を込めて続けた。「米国の本当の歴史とは、対話のための制度を築いてきた歴史です。ところが今、対話にノーと言うのですか。人々を破壊しておいて、その後に対話に応じると言うのですか。それは決して実現しません。トランプは米国を孤立させ、他者に対抗して米国を偉大にしようとしています。以前の米国は、他者と共に偉大になったのです。米国が偉大になったのは、他者と共にあったからです。」

ピエール枢機卿は、教皇が「正戦」についての議論を始めたのではなく、むしろ他の人々がこのカトリックの概念を持ち出したのだと指摘した。レオが述べたのは、ただ「戦争にノー」ということだった。

「現在のイランでの戦争は、正戦とは見なせません」と枢機卿は説明した。「それは防衛戦争ではないからです。交渉するために戦争に行くのではありません。戦争を避けるために交渉に行くのです。」

「最近起きていること、すなわち大統領がほぼ毎日のように教皇に言及していることは、人々が教皇を前向きな形で発見しつつあることを示しています。なぜなら、教皇の言うことは理にかなっているからです」

彼は最後にこう結んだ。「皮肉なことに、大統領の攻撃は、教皇レオとカトリック教会の肯定的なイメージを高めているのです。」

ビクトル・ガエタンは、国際問題を専門とするナショナル・カトリック・レジスターの上級特派員であり、バチカン通信、フォーリン・アフェアーズ誌、アメリカン・スペクテーター誌、ワシントン・エグザミナー誌にも執筆している。北米カトリック・プレス協会は、過去5年間で彼の記事に個人優秀賞を含む4つの最優秀賞を授与している。ガエタン氏はパリのソルボンヌ大学でオスマントルコ帝国とビザンチン帝国研究の学士号を取得し、フレッチャー・スクール・オブ・ロー・アンド・ディプロマシーで修士号を取得、タフツ大学で文学におけるイデオロギーの博士号を取得している。彼の著書『神の外交官:教皇フランシスコ、バチカン外交、そしてアメリカのハルマゲドン』は2021年7月にロウマン&リトルフィールド社から出版された。2024年4月、研究のためガエタン氏が初来日した際にINPS Japanの浅霧理事長が東京、長崎、京都に同行。INPS Japanではナショナル・カトリック・レジスター紙の許可を得て日本語版の配信を担当した(With permission from the National Catholic Register)」。

*ナショナル・カトリック・レジスター紙は、米国で最も歴史があるカトリック系週刊誌(1927年創立)

INPS Japan

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アフガニスタンの女性たち、医学課程を修了しても医師になれず

筆者はアフガニスタン在住の女性ジャーナリスト。タリバン政権復帰前にフィンランドの支援を受けて研修を受けた。安全上の理由から氏名は公表していない。

【カブールIPS=匿名】

アフガニスタンでは深刻な女性医師不足が続いているが、イスラム主義政権であるタリバンは女性医学生の卒業資格取得に制限を課し、その状況をさらに悪化させている。女性の医学部卒業生は、医師として正式に診療を行うために必要な最終試験の受験を認められていない。|英語版

アフガニスタンのパルワン州にあるアル・ビルーニ大学医学部を3年前に卒業したニラブ(仮名)は、タリバンによって最終試験の受験を禁じられたため、医師として働くことができない。

最終試験は、医学部卒業生の能力を評価するための試験であり、7年間の課程修了後に実施される。この試験に合格すると医師免許が付与され、卒業生は正式に医療行為を行うことができる。また、免許取得者は教育病院での専門研修にも応募できる。

「医師が最終試験に合格しなければ、高校を卒業したばかりの学生と同じ扱いになります。医療機関に就職を申し込むと、最初に『最終試験を受けましたか』と尋ねられます。受験していなければ、どの病院でも働くことはできず、看護師としてさえ採用されません。」とニラブは語った。

「私は19年間学び続けました。そのうち7年間は家族と離れ、別の州の学生寮で暮らしました。本当に大変な日々でした。ところが最後の段階で、たった一つの試験――最終試験――によって、これまでの努力のすべてが止められてしまいました。今では私の未来そのものが奪われています。」

女性向けの最終試験が最後に実施されたのは2021年である。それ以降、受験を許可されているのは男性だけだ。この状況は、もともと深刻だったアフガニスタンの女性医師不足をさらに悪化させている。

ニラブはカブールで母親と暮らしている。家族は7人きょうだいで、姉妹4人、兄弟3人だ。

姉妹2人と兄弟2人は大学を卒業しているが、その将来は不透明である。

妹の一人は全国大学入学試験で上位の成績を収め、医学部への進学を果たした。しかし学業を続けることはできなかった。また兄の一人はロシア文学を専攻して卒業したものの、職を得られていない。

一家の収入源は母親と姉妹の一人であるハリダ(仮名)だけである。2人は公立小学校で女子児童を教える教師として働いており、そのわずかな給与で家族全体を支えている。

ニラブ自身も別の方法で生計を立てようとしてきた。最近まで、女性は大学以外の医療教育機関で学ぶことが認められていた。

「困難の中でも、私は2年制の医療学校で教員として働いていました。しかし2025年1月、タリバンが医療学校を閉鎖したことで、その仕事も失いました。」とニラブは語った。

長年にわたる学びが無駄になったことで、彼女は深刻な精神的負担やストレス、不安を抱えるようになった。

「近年、多くの若い女性が自ら命を絶ったのを私たちは見てきました。若い女性たちの政府や司法、人権に対する信頼は完全に失われています。女性の声が封じられ、その思いが心の中に閉じ込められたままになると、耐え難い苦しみになります。その苦しみは私たちを蝕み、癒えることのない傷となるのです。」

タリバンの決定は、2022年以降に学業を修了したすべての女性医学生に影響を及ぼしている。その結果、内科、歯科、外科、循環器科、さらには産婦人科においても女性医師が不足している。

A street in Kabul, where restrictions on women’s education and employment are deepening Afghanistan’s health crisis. Credit: Learning Together.
A street in Kabul, where restrictions on women’s education and employment are deepening Afghanistan’s health crisis. Credit: Learning Together.

ハリダは2022年にカブールの私立医科大学を卒業した。

「最終試験を受けられないことで、私たちの人生は完全に壊されてしまいました。かつて思い描いていた未来は失われました。その未来のために、12年間の学校教育、大学入試の準備に1年、そして大学での7年間を費やして努力してきました。しかし、そのすべてが今では無駄になってしまったのです。」

卒業後、ハリダは経験を積むために複数の私立病院で無給で働いた。同時に超音波検査の専門研修も受けていた。しかし、最終試験も専門資格取得に必要な試験も実施されず、最終的には自宅に留まらざるを得なくなった。

女性医師の中には、専門性とは無関係で、しかも極めて低賃金の仕事に就かざるを得ない人もいる。

「私も一時期、病院で栄養失調患者向けの栄養補助食品を配布する仕事をしていました。しかし、これは高校卒業者でもできる仕事です。私たちは7年間医学を学んだ医師です。本来なら専門知識を生かして女性患者に医療を提供すべきなのです。」

現在ハリダは大学外で英語を学びながら、国の英語能力試験に合格し、奨学金を得て海外で学び続けることを目指している。

彼女は、アフガニスタンでの19年間の学びにもかかわらず、他者の苦しみも自らの苦しみも和らげることができていないと語る。いまなお家族の経済的支援に頼らざるを得ず、その支えがなければ、自宅の四方の壁の中に閉じこもるしかなくなることを恐れている。

タリバンによる数々の女性規制の結果、多くの女性が人生への希望を失っている。結婚への期待を失った女性もいれば、望まない結婚を強いられた女性もいる。

「私は未婚ですが、現在のアフガニスタンで結婚したいとは思いません。私たち以上に不幸な世代を新たにこの社会に生み出したくないからです。」とハリダは語った。

国連の専門家らは、アフガニスタンにおける女性の教育や就労への制限が、同国の医療危機を一層深刻化させていると警告している。特に、女性患者を診療できる女性医師や女性医療従事者の減少が大きな問題となっている。

「私たち女性医師は、長年学んできたにもかかわらず、社会の女性たちに医療を提供することができません。その代わりに家族の負担になってしまっています。教育を受けた女性にとって、これほどつらいことはありません。私たちはただ女性であり、タリバン統治下に生きているという理由だけで苦しんでいるのです。」とハリダは語った。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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ロシア・アフリカ関係発展の基盤としてのメディア

モスクワIPS=ケスター・ケン・クロメガー】

ロモノーソフ・モスクワ国立大学ジャーナリズム学部の後援のもと、ロシア・アフリカ・クラブは4月下旬、ロシアとアフリカのジャーナリストによる第4回国際フォーラムを開催した。同フォーラムは、両地域のメディア協力における新たな歴史的節目となった。|ENGLISH

毎年の恒例に従い、討議ではメディアのあり方、構造、現在の活動状況、情報発信の内容、課題、そして将来展望に焦点が当てられた。

また、アフリカとロシア連邦の双方におけるメディアが、二国間関係の強化にどのような役割を果たしてきたのか、さらに第1回および第2回ロシア・アフリカ首脳会議で掲げられた重要目標の推進に寄与してきたのかを、批判的に検証することも共通の目的であった。

なぜメディアなのか

予想された通り、会合では踏み込んだ議論が行われた。同時に、「ロシアとアフリカのマスメディア:世界の諸民族の友好と連帯を強化する役割」というフォーラムのテーマをめぐり、著名な専門家らがメディア活動の現状に関する見解や批判を提示し、議論は白熱した。

モスクワ国立大学ジャーナリズム学部長のエレナ・ヴァルタノワ氏は、メディアはロシアとアフリカの多様なパートナーシップ構築に貢献すべきだと指摘した。また、現代世界が複雑な変容を遂げるなか、統一的な情報空間を創出するうえで、異文化間対話が重要であると強調した。

MGIMO国際ジャーナリズム学部長のヤロスラフ・スクヴォルツォフ氏は、最近行った南アフリカへの特別な訪問について語り、南アフリカ、そしてアフリカ大陸全体は、ロシアのメディアにとって依然として「報道の空白地帯」であると述べた。同時に、アフリカの読者や視聴者に向けたロシア報道も極めて限られていると指摘した。

同氏は、この分野において、真摯で思慮深く、掘り下げた報道活動が必要だと強調した。また、強固な関係を築き、地政学的展開への理解を深め、アフリカ大陸の市民社会との対話を促進するため、より多くの機会を探る必要があると訴えた。

背景にある理由

ロシアとアフリカの間に存在するメディア活動の格差は、欧米メディアの圧倒的な影響力、ロシアにおけるアフリカ発の直接報道の少なさ、すなわち認定を受けたアフリカ人ジャーナリストの不足、そして制度的投資の限界に起因している。

こうした要因は、アフリカ研究を専門とするジャーナリストでITAR-TASS分析センターのコラムニストであるオレグ・オシポフ氏、ロシア・ジャーナリスト連盟書記で同連盟国際部長を務めるティムール・シャフィール氏、モスクワ国立大学ロシア・アフリカ・クラブのアフリカ系ディアスポラ・メディア関係委員会委員長で、アフリカ・ビジネス・クラブ会長でもあるルイス・ゴウェンド氏らによって、討議の中で指摘された。

オレグ・オシポフ氏は、ロシアとアフリカのジャーナリズムにおける情報不足に率直な懸念を示した。そのうえで、アフリカ大陸全域にロシアの特派員拠点網を拡大するとともに、経験豊かなアフリカ人メディア関係者をロシアに招くことが急務だと強調した。世界的に地政学的緊張が高まる今日、この課題はとりわけ重要である。

同氏は、現在の世界的潮流を踏まえれば、ロシアはあらゆる分野で存在感を拡大する必要があり、メディア空間はその過程における重要な構成要素であると述べた。

一方、ティムール・シャフィール氏は、メディアを通じてロシアとアフリカの人々や文化が相互にどのように認識されているのかを見つめ、共通の基盤を見いだすことが、今こそ特に重要であると述べた。

さらに同氏は、現在のメディア環境が大きな変革期にあり、技術、受け手、コミュニケーション手段が変化していると指摘した。そのため、ジャーナリズムは特別な責任と職業的誠実さを求められる分野であり、ロシアとアフリカのジャーナリストによる直接対話は、これまで以上に重要になっていると強調した。

新たなアプローチの模索

第4回ロシア・アフリカ・ジャーナリスト国際フォーラムは、新たな夜明けであり、両地域のメディア活動を改善するための新たな章を開くものと受け止められた。参加者はこの見解に大きな拍手を送った。登壇者らは、同フォーラムが多くの新たな共同イニシアチブの出発点になるとの確信を表明した。

ルイス・ゴウェンド氏によれば、たとえば、モスクワ国立大学ロシア・アフリカ・クラブが2022年に創設した情報資源であるメディア・プラットフォーム「RusAfroMedia」は、協力強化を通じて抜本的に刷新され、ロシア・アフリカ協力のイメージ向上に貢献する必要がある。

このプラットフォームは、自由で率直な意見交換、有益で関連性の高い情報の共有、そしてロシアとアフリカのあらゆる協力分野におけるイニシアチブの推進に必要な条件を備えている。同氏は、RusAfroMedia上でロシア人ジャーナリストの活動がアフリカ側に比べて著しく低調であることに懸念を示し、出席者にこの資源をさらに積極的に活用するよう呼びかけた。

ロシア・アフリカ・クラブの事務局長アレクサンドル・ベルドニコフ氏は、世界で新たな発展傾向が広がるなか、ジャーナリズムとメディア分野全体は、情報戦や特殊作戦の「戦場」となりつつあると明確に述べた。

同氏は、2026年10月に予定されている第3回ロシア・アフリカ首脳会議を前に今回のフォーラムが開催されたことは、参加者がロシアとアフリカのジャーナリズム協力に関する解決策やイニシアチブを形成するうえで極めて重要であると指摘した。そうした提案は、今後のアフリカ諸国首脳会議に向けた実践的勧告の基盤となるという。

伝統的取り組みの継続

TASS国際関係局の儀典・アフリカ部長リュボフ・サフノ氏は、ロシア最古の通信社を代表し、ITAR-TASSがアフリカのメディアに対して外国語ニュース配信を継続的に提供してきた取り組みについて説明した。ただし、ロシア・メディアの海外展開は限られた予算という制約に直面している。

同氏によると、アフリカでは400を超えるメディア機関がこれらの情報資源を利用している。また、同氏はロシア・アフリカ首脳会議に合わせて伝統的に開催される同社のメディア・フォーラムについても説明した。

国際通信社「ロシア・セゴドニャ」のメディア研究・分析局副局長セルゲイ・グラチェフ氏は、今日、ロシアが欧米メディアから前例のない圧力を受けているという点で、同僚らと見解を同じくした。アフリカのメディアは多くの場合、欧米の情報源に依存しており、ロシア当局者は、それが偏向的あるいは敵対的な情報で満たされる「空白」を生み出していると主張している。

それにもかかわらず、アフリカにおけるロシアのメディア・プロジェクトは発展を続けている。同氏は、33の外国語で発信するスプートニクのソーシャルメディア上での展開について、分析モデルを紹介した。

通信社「アフリカ・イニシアチブ」の編集長ブインタ・ベンベエワ氏は、近年、ロシアのニュースにおいてアフリカの存在感が明らかに高まっていると述べた。同氏は、アフリカにおける同社の経験について説明した。同社は、多くのアフリカ諸国で現地メディアとの協力協定を通じて存在感を示している。

また、同社はブロガーとも協力し、若いアフリカ人ジャーナリストを対象としたジャーナリズム学校も運営している。アフリカのメディア機関と現地で直接、緊密に協力することこそ、本格的なジャーナリズム活動を実現する鍵である。

ナイジェリアの研究者からの提言

カドゥナ州立大学のババトゥンデ・ジョセフ教授は、戦略的コミュニケーションを強化することで、パートナーシップを深め、アフリカ諸国の文化を結びつける必要性について語った。同教授は、アフリカにおけるロシア通信社の存在感と、ロシアにおけるアフリカ・メディアの存在感を拡大する必要があるという点で、ロシア側の同僚らに同意した。

同教授は、ナイジェリアだけでもハウサ語、ヨルバ語、イボ語、ピジン英語、そして平易な英語の5言語で放送を行う有名な英国のラジオ局を例に挙げた。「これは成功した戦略である」と、同教授は認めざるを得なかった。

ナイジェリア代表団を率いたカドゥナ州立大学のモハマド・バシル・アリ教授は、ロシアとアフリカの経済・起業協力を促進するうえでメディアが果たしてきた伝統的役割について、詳しく論じた。アフリカとロシアの双方が複雑な国際環境による多くの課題に直面しているにもかかわらず、この分野には巨大な可能性がある。同教授は、メディア分野における一層の連携強化が不可欠であると結論づけた。

同じくカドゥナ州立大学のユシャウ・イブラヒム・アンゴ教授とアヨデレ・ババトゥンデ教授は、「デジタル化の文脈におけるアフリカの創造産業とメディア・システム」と題する研究報告を行い、デジタルメディアがナイジェリア経済における起業活動に与える影響を分析した。

同報告は、デジタル・プラットフォームへの依存が、アルゴリズムの予測不能性を含む新たな脆弱性を経済にもたらしていると結論づけた。また、デジタル・プラットフォームを起業活動のインフラとして理論化することで、起業研究とメディア研究に貢献するものであり、政策、プラットフォーム・ガバナンス、そしてアフリカの文脈においてメディアが経済生活をどのように形づくるのかを理解するうえで示唆を与えるものとなった。

Russian and African media professionals engage in dialogue, symbolizing journalism’s role in building mutual understanding and strengthening Russia-Africa relations. Image: INPS Japan
Russian and African media professionals engage in dialogue, symbolizing journalism’s role in building mutual understanding and strengthening Russia-Africa relations. Image: INPS Japan
結び

ロシア・アフリカ・クラブ青年プロジェクト委員会委員長のハフィズ・バシ氏は、閉会挨拶で、ソ連時代の政治的決まり文句によってロシアとアフリカを描く古い固定観念を改める時期に来ていると強く訴えた。

「私たちに必要なのは、人々をさらに隔てるジャーナリズムではなく、人々を結びつけるジャーナリズムである」とバシ氏は強調した。また、ロシアで認定を受けたアフリカ人ジャーナリストが不足していることは、依然として差し迫った課題であると指摘した。

一方、アフリカのメディアはロシアについて主に政治的な観点から報じており、ロシア文化の真の深みやロシアの人々の精神を十分に伝えられていない。バシ氏によれば、ロシア・アフリカ・ジャーナリスト・フォーラムは、ロシアとアフリカのメディア協力を強化するための最も差し迫った課題、展望、戦略を議論する場として、その重要性を改めて示した。

急速な地政学的変化の時代にあって、また欧米諸国とその同盟国による攻撃的な言説に対応するうえで、パブリック・ディプロマシー、ソフトパワー、平和構築に資するジャーナリズムは、ますます重要性を増している。ロシア・アフリカ対話の強固な基盤を築くためには、慎重な分析と有効な措置が求められる。

ケスター・ケン・クロメガは、アフリカにおける現在の地政学的変化、対外関係、そして外部諸国との経済開発に関する問題を専門としている。同氏の記事の多くは、信頼性の高い複数の海外メディアに転載されている。

INPS Japan

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アフリカのクーデターと資源の権利

アフリカの水は未来そのものだ――誰がそれを統治するのか

【国連IPS=クリスティーナ・ドゥアルテ

アフリカには、世界の再生可能淡水資源の9%、未開発の水力発電潜在力600ギガワット超、そして世界の未耕作の耕作可能地の60~65%が存在する。|ENGLISH

その労働力は地球上で最も若い。消費市場は2050年までに25億人規模に達する。これらを合わせれば、今後数十年、世界の水・エネルギー・食料システムが必要とするあらゆる生産要素がそろっていることになる。

これは欠乏の大陸ではない。戦略的豊かさを備えた大陸である。アフリカ連合(AU)が2026年のテーマを水と衛生に据えたことは、アフリカの指導者たちが、この豊かさをそれにふさわしく統治する用意があることを示している。

豊かさが適切に統治されるとはどういうことか、考えてみたい。グランド・インガ・ダムだけでも、中国の三峡ダムの2倍の発電量を生み出し、中部、南部、西部アフリカの産業に電力を供給できる可能性がある。レソト高地水プロジェクトは、アフリカ自身が手がける国境を越えた水インフラが大規模に機能し、主要な都市経済に供給できることをすでに証明している。

サブサハラ・アフリカの耕作可能地に占める管理灌漑の割合は3.7%にすぎず、開発途上地域で最も低い。この割合を今後10年で10%に引き上げるだけでも、食料安全保障は大きく変わり、農業バリューチェーン全体で数百万人規模の雇用が生まれ、降雨変動に対する大陸の脆弱性も低下するだろう。

こうした投資はいずれも、アフリカの技術的能力の射程内にある。工学的知見はすでにある。水はある。土地はある。労働力もある。

問われているのはガバナンスである。この点について、アフリカは自らに率直でなければならない。現在主流となっているアプローチは、この機会の規模に見合っていない。各国政府やドナーは、水を道路、港湾、送電網と同等の生産的インフラとして扱うのではなく、掘削井戸や簡易トイレを案件ごとに管理する社会サービス提供の課題として扱ってきた。

維持管理予算を伴わずに設置された手押しポンプは、開発ではない。衛生システムにつながらない穴式トイレの建設も、開発ではない。こうした介入は、成果管理の枠組み上は進捗として記録されるかもしれない。しかし、経済を変革するものではない。それらは資産ではなく、消耗品である。

この不均衡を示す証拠は明白である。安全に管理された飲料水を利用できるアフリカの人々は、人口の半数にも満たず、41%にとどまる。小学校就学年齢の子ども2300万人が、空腹のまま授業を受けている。約4億2900万人のアフリカ人が極度の貧困の中で暮らしており、この数は2030年にも4億人を上回ると予測されている。

これらの数字が示しているのは、資源に乏しい大陸の姿ではない。水を戦略ではなく慈善として扱うガバナンスモデルであり、限られた資本を消費しながら持続的なシステムを生み出さない「建設し、放置し、再建する」という循環である。

アフリカはこの循環を断ち切ることができる。私は、その軌道を変えるために3つの転換を提案したい。

第一に、「戦略的資産管理」を大陸規模の基本方針として採用することである。

ダム、灌漑網、都市部の処理施設、国境を越える水システムは、50年から100年の寿命を持つ資産である。これらに必要なのは、5年単位のプロジェクト期間ではなく、持続的な制度的管理である。計画から維持管理、更新に至る全ライフサイクルを通じて、あらゆる段階に気候適応を組み込みながら統治しなければならない。

アフリカ各国政府が水システムを国家インフラとして、すなわち引き渡して終わる一時的な事業ではなく、維持すべき恒久的な資産として扱うとき、「建設し、放置し、再建する」というパターンは終わる。

Credit: Adobe Stock
Credit: Adobe Stock

第二に、大陸規模の灌漑拡大に着手することである。

南アジアでは耕作可能地の41%が灌漑されている。サブサハラ・アフリカでは3.7%にすぎない。今後10年でこの差の一部を埋めるだけでも、雇用を生み出し、農業バリューチェーンを構築し、食料主権を強化し、輸入食料への依存を減らすことができる。水があっても灌漑がなければ何も育たない。土地があっても水がなければ誰も養えない。管理された灌漑こそ、賦存資源を経済価値へと転換する最短の道である。

第三に、共有流域に対して、実効性ある協調的ガバナンスを構築することである。

アフリカの地表水の90%は、少なくとも1つの国境を越えて流れている。ナイル川、ニジェール川、コンゴ川、ザンベジ川。これらは地域的なシステムであり、地域的なガバナンスを必要としている。アフリカには、すでに機能しているモデルがある。セネガル川流域開発機構は、4カ国にまたがる越境システムを半世紀にわたって管理してきた。課題は、協調的ガバナンスを例外ではなく標準にすることである。それは外交上の礼儀としてではなく、地域の安定と統合に向けた戦略的要件として位置づけられなければならない。

こうした転換に資金を投じるには、アフリカ自身が自らの資源をもって主導しなければならない。AUハイレベル・パネルおよびアフリカ開発銀行によれば、水安全保障の格差を埋めるには、年間500億~640億ドルが必要とされる。主たる資金基盤は国内になければならない。料金体系を段階的に改革し、維持管理予算を守り、漏出を止め、水への投資を道路や送電網と同じ真剣さで扱うべきである。

アフリカはまた、統合的な水投資に向けて、これまで慢性的に活用しきれてこなかった国際気候資金を動員しなければならない。さらに、アフリカ各国政府は、義務的な水影響評価なしに外国資本による土地取引の承認を検討すべきではない。アフリカ各国政府は、土地管理と土地ガバナンスを、水ガバナンスと一体的に扱う必要がある。外国にリースされたアフリカの農地で栽培され、輸出される作物はすべて、大陸外への「仮想水」の移転である。その水は価格付けされず、勘定に入れられず、統治されてこなかった。土地と水は切り離せない。一方を手放すことは、他方を手放すことに等しい。

今後数十年のうちに、世界はアフリカの水と土地を開発するだろう。その過程はすでに始まっている。自国の水と食料の制約に直面する豊かな国々は、アフリカの豊かさが意味する現実的な計算を理解し、それに応じた布石を打っている。唯一の問いは、この開発がアフリカ自身の条件で進むのか、それとも他者の条件で進むのかである。

最後に、厳しい現実を述べておきたい。持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までにアフリカで達成されることはないだろう。率直であるなら、そう言わなければならない。しかし、アフリカの指導者たちがいま、水を本来あるべきものとして統治することを選ぶなら、2030年以後の世代は異なる未来を受け継ぐことができる。すなわち、水を経済変革の原動力、平和の基盤、そして大陸が子どもたちのために託された最も重要な資産として扱う未来である。

アフリカの水は、アフリカの未来である。問われているのは、アフリカがそれを統治するのか、それとも他者によって統治されるのかということである。

クリスティーナ・ドゥアルテは、国連アフリカ担当特別顧問室の事務次長である。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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中東のエネルギー輸送路の混乱、英国にとっての「ミドル・コリドー」の戦略的重要性を浮き彫りに

【エディンバラINPS Japan/London Post=編集部】

ヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールは5月27日、「ミドル・コリドー(中央回廊)と英国・中央アジア貿易の未来」と題するウェビナーを開催した。学界、ビジネス界、専門家コミュニティから参加者を迎えた同討論では、英国が中東の先を見据え、南コーカサス、中央アジア、さらに広くユーラシア地域との連携により大きな関心を払うべきかが議論された。これらの地域は、新たに形成されつつある複合的な貿易・エネルギー網を通じて、欧州との結び付きを強めている。|英語版

London Post
London Post

世界の液化天然ガスと海上輸送される石油のおよそ5分の1が通過するホルムズ海峡の閉鎖は、世界のエネルギー供給網の脆弱性を改めて浮き彫りにした。米国、イスラエル、イランの対立がいつ、どのように収束するのか見通せないなか、市場は長期的な不安定化に備えている。

同時に、イエメンのフーシ派による脅威が続いていることは、紅海とアデン湾、インド洋を結ぶ海上の要衝バブ・エル・マンデブ海峡の安全にもリスクをもたらしている。さらに、ソマリアを含む「アフリカの角」地域の不安定化も、地域の海上安全保障上のリスクを一段と高めている。

その影響はすでに英国にも及んでいる。エネルギー業界の幹部らは、湾岸地域の緊張が世界市場に波及するなか、7月以降、家計の光熱費が最大209ポンド上昇する可能性があると警告している。燃料価格も急騰しており、対立が激化して以降、英国全土でガソリンは1リットル当たり25ペンス以上、ディーゼルは50ペンス近く上昇した。

この議論の中心にあるのが、正式名称を「カスピ海横断国際輸送ルート(TITR)」というミドル・コリドーである。同ルートは、カザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、トルコを経由してアジアと欧州を結ぶ貿易の大動脈である。地政学的混乱の影響を受けやすい従来のルートとは異なり、ミドル・コリドーは輸送時間の短縮と比較的高い政治的安定性を兼ね備え、紛争の影響を受ける地域を迂回しながら、東西間の貨物輸送を支えている。

Middle Corridor Image: London Post
Middle Corridor Image: London Post

ウェビナーで発言した英王立防衛安全保障研究所(RUSI)金融・安全保障センターのリサーチアナリスト、アルズ・アッバソヴァ氏は次のように述べた。

「ホルムズ海峡危機は、従来型ルートの脆弱性を示す一方で、チョークポイント依存のリスクと、ミドル・コリドーのような代替的・新興ルートにより注目する必要性を改めて浮き彫りにしました。

地政学的分断が進むなか、ミドル・コリドーは貿易、安全保障、影響力が交差する戦略的空間として台頭しています。英国にとって、ミドル・コリドーへのより深い関与は、世界のサプライチェーンが根本的に再編されるなか、連結性を高め、地政学的重要性を増す地域とのパートナーシップを強化する機会となります。

アゼルバイジャンは、ミドル・コリドーを2020年以降の連結性戦略の主要な柱であり、戦略的統合の手段と位置付けています。近隣のミドル・コリドー諸国との二国間の関係固定化の取り決め、インフラ外交、環境配慮型物流への投資を通じて、バクーは新たに形成されつつある連結性の構造の中心的結節点として自らを位置付けています。」

Zayed Prize 2026 to Armenia and Azerbaijan  Credit: Vatican News
Zayed Prize 2026 to Armenia and Azerbaijan Credit: Vatican News

アゼルバイジャンとカザフスタンは、それぞれ南コーカサスと中央アジアにおける英国の関心の最前線に位置している。両国はいずれも英国と戦略的パートナーシップを維持し、主要なエネルギー生産国でもあることから、世界的な不確実性が高まるなかで重要な対話相手となっている。さらに重要なのは、両国が地域の安定、開かれた貿易、ルールに基づく国際秩序という英国の関心をおおむね共有している点である。それは、困難な近隣環境という現実に根差した実務的な見方でもある。

南コーカサスの地政学的展望も、連結性に有利な方向へ変化しつつある可能性がある。アゼルバイジャンとアルメニアの間で持続的な和平合意が成立し、地域関係が改善し、輸送路の再開が実現すれば、東西を結ぶ新たな動脈が生まれ、ミドル・コリドー全体の商業的実現性をさらに高めることになる。

南コーカサスの先にある中央アジア5カ国も、炭化水素資源にとどまらない大きな経済的潜在力を有している。同地域は、大規模な農業生産や畜産に自然条件の面で適しているだけでなく、先端技術に不可欠となりつつある重要鉱物の豊富な埋蔵量も抱えている。同じく重要なのは、中央アジア全体に見られる人的資本の質である。高等教育を受けた労働力が増加しており、その多くは欧米で教育を受けている。これが地域の経済競争力の強化に寄与している。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

ミドル・コリドーの地経学的重要性について、ヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールの持続可能交通学教授、ジョン・イーストン氏は次のように述べた。

「鉄道インフラの整備の進展は、鉄道貨物サービスへの需要に大きな影響を与える可能性があります。今回の講演では、ミドル・コリドーの東側と西側にある鉄道システムの違いに触れ、鉄道利用に対するアプローチの違いが、その実現可能性にどのような影響を及ぼし得るのかを検討します」

ミドル・コリドー沿いの進展は漸進的ではあるが、確実な成果を上げてきた。特に、通関手続き、許認可、輸送規制の調和において前進が見られる。それでもなお、最大の制約はインフラである。これまでの投資は主に鉄道、港湾、トンネルに集中してきたが、今後はカザフスタンやアゼルバイジャンなどの生産国から欧州市場へ石油と天然ガスを輸送するためのパイプライン能力も、議論の重要な一部としなければならない。

経済的意義は大きい。ミドル・コリドーが全面的に稼働すれば、ユーラシア全域の貿易を再形成し、中央アジアと南コーカサスにおける連結性、投資、経済統合を一段と深める可能性がある。世界銀行の試算によれば、貨物輸送時間は最大50%短縮され、同ルートの貿易量は2030年までに3倍に増加する可能性がある。

サプライチェーンと国際貿易への影響について、オークランド大学ビジネススクールのオペレーション・サプライチェーン管理学教授、イスマイル・ギョルゲジ氏は次のように述べた。

「最近の地政学的緊張とサプライチェーンの混乱は、ミドル・コリドーの戦略的重要性を高めています。しかし、この回廊が将来、世界貿易においてどのような役割を果たすかは、インフラや輸送面の連結性だけでなく、地域全体で事業を展開する企業の強靱性、戦略的機動力、制度的準備態勢にも左右されます」

現在、欧州連合(EU)は域外最大の利害関係者であり、地域の連結性強化を目的とした100億ユーロの投資コミットメントがその基盤となっている。一方で、英国の関心も高まり始めている。政策機関やシンクタンクは同ルートの戦略的価値に注目を強めており、インフラ金融、規制基準、輸出金融メカニズムに関する英国の専門性は、同回廊全域での将来的な商業的関与において重要な役割を果たし得ると見られている。

英国がミドル・コリドーへの関与を深めれば、その影響は商業分野にとどまらない。サプライチェーンの強靱性を高め、南コーカサスと中央アジアという、合わせて約1億人規模の市場における英国の地域的プレゼンスを広げ、地政学的リスクが高まる海上輸送ルートへの依存を軽減することにつながる。

討論の司会を務めたヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールの戦略・国際ビジネス助教、アシルベク・ヌルガブデショフ氏は、次のように述べた。

「ミドル・コリドーは、単なる代替的な貿易ルートではなく、分断が進む世界貿易システムにおける戦略的な多角化メカニズムとして浮上しています。しかし、その長期的成功は、インフラ投資だけでなく、調整、制度的信頼、運用上の信頼性にもかかっています。この文脈において、地域の軸としてのカザフスタンの役割、そしてガバナンス、金融、教育を通じた英国の制度的貢献は、ますます重要になっています。」

INPS Japan

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次期国連事務総長が重要である理由

国際機関への信頼が低下するなか、国連のリーダーシップをめぐる問題は民主主義そのものと切り離せない

【カトマンズINPS Japan/Nepali Times=アマンダ・スーレック】

次期国連事務総長は、単に複雑な機構を管理するだけの人物ではない。代表性、説明責任、参加という民主主義の根幹をなす原則に支えられた国際システムにおいて、最高行政官であると同時に、道義的支柱としての役割を担わなければならない。国連憲章にはこうした価値が暗黙のうちに織り込まれているが、実際には民主主義そのものが常に優先され、十分に議論されてきたわけではない。だからこそ、事務総長のリーダーシップは今、とりわけ重大な意味を持つ。|ENGLISH

しかし、国連事務局ビル38階への道のりは決して平坦ではない。世界で最も困難な職務の一つとされる国連事務総長の選出は、国連加盟国による一般選挙ではなく、公平とは言い難い外交上の難関である。国連事務総長は、安全保障理事会の勧告に基づいて、総会によって任命される。この仕組みは、中国、フランス、ロシア、英国、米国という常任理事国5か国(P5)に、それぞれの政治的優先事項に基づく絶対的な拒否権を与えている。候補者が民主主義を擁護しようとするなら、民主主義の促進を西側による押しつけ、あるいは主権の侵害とみなす拒否権保有国を遠ざけることなく、それを行わなければならない。民主主義は国連加盟の正式な条件ではないが、多国間主義の正統性と有効性の中核にあるからである。

包摂的な統治、市民社会の参加、説明責任を果たす制度は、民主主義の重要な柱であり、持続可能な平和と開発に不可欠である。それらはまた、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」など、国際的な公約の信頼性を支える基盤でもある。実務的に見れば、民主主義は国連を三つの面で強化する。第一に、各国政府が国民の意思を反映することで正統性を高める。第二に、透明性と監視を通じて説明責任を強化する。第三に、包摂的な制度を可能にすることで、長期的な開発成果をより効果的に実現できるようにする。だが、これらの原則が世界各地で圧力にさらされるなか、国連が集団として行動する能力も弱まりつつある。次期指導者は、国連が掲げる民主主義への志向と、民主主義国、君主制国家、一党支配国家、軍事政権を含む加盟国の現実との隔たりを埋めなければならない。

したがって、事務総長はこの状況のなかで独自の立場に置かれている。その役割は必ずしも政治的に中立なものではない。加盟国の利害の均衡を図りながら、国連システムに刻まれた価値を守ることが求められるからである。この緊張関係のなかでこそ、民主的なリーダーシップが決定的に重要となる。民主主義の原則にコミットする事務総長は、市民社会の声を高め、選挙の公正性と法の支配を守り、人権とより広範な政治参加を訴え、多国間行動に必要な合意形成を損なうことなく、権威主義的な傾向に慎重に歯止めをかけることができる。そのような取り組みを通じて、国連事務総長は、国際協力への信頼回復に貢献し得る。いま、それは喫緊の課題である。

国連総会による事務総長候補者との非公式対話、各候補者のビジョン・ステートメント、履歴書を踏まえると、有力候補たちは、多国間リーダーシップにおける民主主義に対して、それぞれ異なるアプローチを示している。

ミチェル・バチェレ(チリ)は、人権とジェンダー平等の推進に長く携わってきた経験に裏打ちされた、強い規範的志向を持つ。彼女の実績は、民主的価値への明確なコミットメントを示している。一方で、その姿勢は、人権に基づく監視を警戒する国々の反発を招く可能性もある。

ラファエル・マリアーノ・グロッシ(アルゼンチン)は、核外交での経験に形づくられた、より技術的・実務的なアプローチを提示している。これは大国に受け入れられやすく、実務的協力を促進する可能性がある。その一方で、彼のビジョンでは民主主義や人権への明示的な言及は比較的弱く、これらの課題が彼のリーダーシップにおいてどの程度重視されるのかという疑問も残る。

レベカ・グリンスパン(コスタリカ)は、多国間主義への信頼再構築に焦点を当て、統治を経済的包摂と開発に結びつけてきた経歴を持つ。分断が深まる環境において、合意形成を重視する彼女の姿勢は強みとなる。ただし、民主主義が常に明確に前面に打ち出されているわけではない。

マッキー・サル(セネガル)は、グローバル・サウスの公平性と代表性を強調し、最高レベルの政治・外交経験を備えている。しかし、国内における民主的統治の実績には評価が分かれる面がある。そのため、彼のアプローチは制度的な民主改革よりも、開発や構造的不平等の是正を優先するものとなる可能性がある。

同時に、誰が国連を率いるのかという問題は、代表性そのものの問題と切り離せない。次期事務総長に女性を任命することは、単なる象徴的な節目にとどまらず、民主主義の原則を実質的に確認する行為となる。ジェンダー平等は、政治制度が平等な参加、代表、発言権をどの程度保障しているかを示すものであり、機能する民主主義の決定的な特徴である。数十年にわたる公約にもかかわらず、国連ではこれまで女性が事務総長を務めたことがない。この空白を埋めることは、国連が世界に向けて掲げる価値と自らの指導体制を一致させる意思を示す力強いメッセージとなる。また、ジェンダー平等と包摂的統治に関する国連の取り組み、とりわけSDG5に関する活動の信頼性を高めることにもつながる。より広く見れば、それは民主主義が社会のあらゆる層の意味ある参加を必要とし、その原則がグローバルなリーダーシップの最高位にも及ぶべきであることを改めて示すものとなる。

国際民主主義・選挙支援機構(International IDEA)の知見も、民主主義が国連システムにとって周辺的な課題ではなく、その強靱性と存立に不可欠であることを示している。民主的制度は、紛争の可能性を低下させ、平和的な紛争解決を可能にすることにより、平和と安定に直接貢献する。また、世界的に統治への信頼が低下するなかで、制度への信頼を支える役割も果たす。さらに、多様な声が意思決定に反映されることを可能にし、包摂性を確保する。国際的な公約の進捗を検証するために必要な説明責任の仕組みも提供する。おそらく最も重要なのは、国連の場で民主主義を積極的に擁護する加盟国が減少するなか、これらの原則を守る責任が、国連システム内の独立した機関にますます委ねられているという点である。

したがって、次期事務総長の選択は、国連の実務面での有効性だけでなく、その規範的方向性をも左右する。世界外交において民主主義という言葉が影を潜めつつあるいま、多国間主義が、共有された原則を前進させる枠組みではなく、権力の調整に重きを置く、より取引主義的なモデルへと傾いていく現実的なリスクがある。参加、説明責任、包摂、平等を通じて民主主義を擁護することは、任意の政策課題ではない。それは、有効で正統性ある多国間主義が依拠する基盤である。それを欠いても、国連は機能し続けることはできるかもしれない。しかし、世界を導き、その存在意義を保ち続けることは困難になるだろう。

アマンダ・スーレックは、ニューヨークにおける International IDEA の国連リエゾンを務めた。

INPS Japan

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2030年への最後の追い込みを「自然保全への資金動員の転換点」に――第8回GEF総会

【サマルカンド(ウズベキスタン)IPS=セシリア・ラッセル

「公的予算への圧力が高まり、地政学的緊張が増すなかで、環境資金を任意のものと見なしたくなるかもしれない。しかし、それは誤りである。」地球環境ファシリティ(GEF)のクロード・ガスコン暫定CEO兼議長は、ウズベキスタン・サマルカンドで開催された第8回GEF総会の閉会本会議で、こう訴えた。|ENGLISH

開発途上国、後発開発途上国、小島嶼開発途上国(SIDS)、そして脆弱で不安定な国々にとって、政府開発援助(ODA)は依然として支援の礎である。

The 8th GEF Assembly
The 8th GEF Assembly

「問われているのは、単なる国際目標の達成ではない。この地球上での生活の質の未来である。子どもたちが、清らかに流れる川、豊かに立つ森林、地域社会を守る海岸線、そしてすべての繁栄を支える自然システムを破壊することなく発展できる経済を受け継げるかどうかが問われている。」

総会議長を務めたアジズ・アブドゥハキモフ・ウズベキスタン大統領環境顧問兼国家生態・気候変動委員会議長は、今回の総会について、50を超えるサイドイベントや二国間会談、非公式協議が行われた極めて生産的な会合だったと評価した。

「GEF理事会は、GEF-9のプログラム方針やGEF-8最後の作業計画を含む重要決定を審議し、改善した。」と同氏は語った。また、統合的なプログラム編成、革新的資金調達、包摂的な参加に強い焦点が当てられたことを歓迎し、GEF-9資金の少なくとも20%を先住民族および地域コミュニティに振り向ける目標にも言及した。

さらにアブドゥハキモフ氏は、ウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領が示した、同国が支援受入国から支援供与国へ移行するとの方針について、環境の持続可能性に対する同国の強い意思を示すものだと語った。

「これは、われわれが協力の恩恵を受けるだけでなく、地球環境分野の取り組みに貢献する用意があることを示している」

これに先立つハイレベル・パネル討論では、GEF科学技術諮問委員会(STAP)のロジーナ・ビアバウム議長が、世界のGDPの半分が自然に依存している一方で、生物多様性資金には年間7000億ドルの不足があると指摘した。

一方で同氏は、コンサルティング大手マッキンゼーの分析を引用し、2030年までに地球の陸域と海域の少なくとも30%を効果的に保全する「30by30」目標を実行に移せば、保全と社会経済の両面で大きな成果が得られ、貧困削減にもつながると述べた。

資金調達をめぐる議論は厳しい環境下で行われているが、ロッククリークのシニア・マネージング・ディレクターで、元世界銀行財務総長のケネス・レイ氏は、民間部門が課題解決に貢献できることは明るい材料だと語った。

同氏は、過去15年間の好調な市場環境に支えられ、世界の貯蓄資産は大きく拡大したと説明した。年金基金、政府系ファンド、保険部門の準備金などには数兆ドル規模の資金が存在し、それらを自然への投資に振り向けることは可能だとした一方で、「資産所有者がこの場にいない」と指摘した。

レイ氏は、GEFが中央銀行、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、証券規制当局などの主要関係者を招集し、「自然への投資がインフラ投資と同じくらい当たり前になる」環境を整えるべきだと提案した。

世界銀行グループ環境局長のバレリー・ヒッキー氏は、GEFには、民間部門がリスクを管理できるよう、規制環境の整備と政策の予見可能性向上を支援する役割があると述べた。同氏は、譲許的資金と商業資金を過不足なく組み合わせる「ゴルディロックス型」のブレンド・ファイナンスが重要だと指摘した。投資の失敗を一定程度吸収しながらも、商業的収益性と財務的な健全性を確保することで、測定可能な環境成果を伴う民間資本を呼び込むことができるという。

一方で、警鐘も鳴らされた。

英国のレイチェル・カイト気候担当特別代表は、英国が「生態系崩壊に対して極めて脆弱である」とする研究結果を紹介した。

「それは何を意味するのか。英国の家庭が、子どもの健康を守るために必要な食料をスーパーで買い物かごに入れられるかどうかは、コンゴ盆地の健全性と完全に結びついているということだ。もしそこにさらなる脅威が及べば、安全保障や防衛上の影響をもたらすことになる。」

セントクリストファー・ネービスのジョイエル・クラーク持続可能開発・環境・気候行動・地域社会強化担当大臣は、地域社会や先住民族の参画を得るには、人間中心で包摂的かつ経済的に実行可能な解決策が鍵になると述べた。同氏は、ブルーカーボン市場は十分に評価されておらず、その意義も理解されにくいと指摘した。

その一例として、ウミガメを保護するユネスコ世界遺産地域を挙げた。その地域では、漁業コミュニティの食生活にウミガメが含まれていた。そこで観光産業における代替的な雇用機会を提供したところ、地域住民の保護活動への支持を得ることができたという。

Leaders and delegates from the Uzbek government and the GEF pose for a group photo at the conclusion of the Eighth GEF Assembly in Samarkand, Uzbekistan. Credit: Stella Paul/IPS

閉会本会議でガスコン氏は、環境は「周辺的な課題」ではないと改めて強調した。

「第一に、各国への公的開発援助を守り、強化しなければならない。ODAの継続は、単なる道義的責任ではない。世界の安定、人間の安全保障、そしてすべての国々が共有する未来への投資である」

次に同氏は、各国が自ら求める環境成果と国家政策を整合させる必要があると述べた。

Claude Gascon, interim CEO of the GEF and Aziz Abduhakimov, Minister of Environment of the Republic of Uzbekistan, at the closing ceremony of the Eighth GEF Assembly in Samarkand, Uzbekistan. Gascon was presented with a traditional Uzbek outfit. Credit: Stella Paul/IPS
Claude Gascon, interim CEO of the GEF and Aziz Abduhakimov, Minister of Environment of the Republic of Uzbekistan, at the closing ceremony of the Eighth GEF Assembly in Samarkand, Uzbekistan. Gascon was presented with a traditional Uzbek outfit. Credit: Stella Paul/IPS

「持続可能性へのコミットメントを掲げながら、生態系の破壊、天然資源の過剰利用、大気・土地・水の汚染をなお促す政策を続けることはできない。」

第三に、GEFは民間資本の力を最大限に引き出し、民間部門を単なる資金源ではなく、地球環境目標のガバナンスと実施を担う真のパートナーにしなければならないとした。

最後に同氏は、環境目標の達成には「内閣全体のコミットメントと社会全体の参加」が必要だと訴えた。

「国家レベルのリーダーシップが必要である一方、地域に根差した主体的な取り組みも必要である。つまり、地域社会、先住民族、女性、若者、市民社会、科学者、地方自治体、農業従事者、労働者、起業家の声に耳を傾け、ともに取り組むということだ。持続的な解決策は押し付けられるものではなく、共につくり上げるものであることを認識しなければならない」

ガスコン氏は最後に、2030年へ向けた最後の追い込みは「単なるカウントダウンであってはならない。それは転換点でなければならない。」と締めくくった。

第8回地球環境ファシリティ(GEF)総会は、2026年6月6日、ウズベキスタン・サマルカンドで最終本会議を開いた。本特集記事はGEFの支援を受けて制作された。編集内容についてはIPSが単独で責任を負い、必ずしもGEFの見解を反映するものではない。

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インド・ハイデラバードIPS=ステラ・ポール

ウズベキスタン・サマルカンドで開催される第8回地球環境ファシリティ(GEF)総会を前に、各国政府や開発機関は、急速に拡大する環境対策の資金需要にどう対応するかという、なじみ深い課題に向き合っている。公的予算が逼迫し、生物多様性や気候変動に伴うリスクが高まるなか、注目はブレンデッド・ファイナンスへと集まりつつある。これは、譲許的な公的資金と民間の商業投資を組み合わせ、大規模な資本動員を図る手法である。|ENGLISH

支持者は、この仕組みによって投資リスクを軽減し、従来なら資金確保が難しかった事業に民間資本を呼び込むことができると主張する。一方、批判的な見方をする人々は、こうした手法がなお公的支援に大きく依存しており、どの地域でも容易に再現できるとは限らないと指摘する。

インドのハイデラバードでは、世界最大級の自治体LED街路灯整備事業が、ブレンデッド・ファイナンスの実効性を示す代表的な事例として注目されている。

街路灯を気候資金へ転換する

急速に拡大し、気候変動の影響を受けやすい大都市ハイデラバードは、気温上昇とエネルギー需要の増大に対応するため、インドの「街路灯国家プログラム」(SLNP)の下で、街路灯を省エネ型のLEDに改修してきた。

この取り組みは、エネルギー効率サービス社(EESL)が国連環境計画(UNEP)およびアジア開発銀行(ADB)と連携し、GEFの支援を受けて実施した、より広範な「エネルギー効率市場の創出と維持」プログラムの一環である。

同プログラムでは、GEFによる無償資金と4億3400万米ドルを超える協調融資を組み合わせ、省エネ技術の大規模導入を進めた。

「環境資金の不足額は、年間で数千億ドル規模に及んでいる。これは、無償資金や政府開発援助(ODA)だけで埋められる規模ではない」と、GEFのプログラム責任者であるフレッド・ボルツ氏は語る。

「健全な地球環境を維持していくには、民間資本の動員が不可欠である。」

ブレンデッド・ファイナンスは、譲許的融資や保証、無償資金支援などを通じて民間投資家のリスクを抑え、収益の見通しが立ちにくい市場でも事業を実現しやすくする仕組みである。公的資金やフィランソロピー資金がリスクの一部を引き受けることで、再生可能エネルギー、生物多様性、持続可能なインフラなど、リスクが高いと見なされがちな分野にも民間資本を呼び込みやすくなる。

ハイデラバードでは、EESLがLED街路灯の設置費用を先行して賄い、その後に得られる電力費の削減分で費用を回収する仕組みを導入した。これにより、大ハイデラバード市公社(GHMC)は多額の初期支出を避けることができた。

初期段階で45万基を超える街路灯が交換され、その後の拡大によって対象地域は市内全域に及んだ。公共照明に伴う電力消費量はおおむね半減し、年間10億ルピー超(約1200万米ドル)の節約を生むとともに、炭素排出量の大幅削減にも寄与した。

節約分が資産となる仕組み

資金調達の仕組みは、「みなし節約」モデルに基づいていた。自治体は初期費用を支払う代わりに、電力費と維持管理費の削減分を検証したうえで、その削減分を返済原資として投資額を段階的に返済していく仕組みである。

支持者は、こうした仕組みによって、予算制約を抱える都市でもインフラの近代化が可能になると評価する。一方で、分析者は、このモデルが正確な削減予測、信頼できる維持管理、そして十分な行政能力に依存していると警告する。

専門家の間では、ブレンデッド・ファイナンスが最も効果を発揮するのは、公的機関が事業の実施と監督に積極的に関与し続ける場合だとの見方が共有されている。

ハイデラバードの事業には、中央監視制御システム(CCMS)が導入された。これにより、当局は電力使用量を把握し、故障を検知し、設備の稼働状況をリアルタイムで監視できるようになった。

このシステムは運用管理を強化するとともに、独立した検証に基づいて支払いを行う成果連動型の資金調達に必要なデータの蓄積にもつながった。

インド・ハイデラバード東部でLED化された街路灯。LED照明は、従来型照明に代わる費用対効果と省エネ性に優れた選択肢であり、設置地域に安心感をもたらしている。

Newly retrofitted LED street lights on the eastern edge of Hyderabad, in India. LED lights are a cost- and energy-efficient alternative to other lighting and bring a sense of security to the areas where they are installed. Credit: Stella Paul/IPS
炭素を超えて――気候資金から日常生活へ

住民にとって、LED化の効果は、財務や技術の言葉で語られるものというより、日々の暮らしや安全に対する実感の変化として受け止められることが多い。

カヴィタ・ラマヴァトさん(27)と夫のラヴィ・ラマヴァトさん(35)は最近、幼い2人の子どもを連れて、ハイデラバード東部郊外の急成長地域、ウッパル・バガトに移り住んだ。以前は約4キロ離れたウッパル・カランに住んでいた。家賃は安かったが、インフラは十分に整っていなかった。カヴィタさんは家事労働者として働き、ラヴィさんはオートリキシャの運転手をしている。

家賃はほぼ2倍になったが、街路照明の改善は一家の日常を変えた。

「この地域は以前より活気があり、道路も広く、明るく照らされています」と、カヴィタさんは自宅近くの路地に設置されたLED街路灯を指さしながら語った。「以前は、子どもの塾の送り迎えで一人で歩くのが怖かったのです」

今では、子どもたちは夕方になっても以前より長く外で遊ぶことができ、近隣の商店も遅くまで店を開けているという。ラヴィさんも、自宅前にオートリキシャを停めても、盗難や破損を心配しなくて済むようになったと話す。

都市計画の専門家は、公共照明の改善が、人々の移動、インフォーマルな経済活動、公共空間における安全への認識に影響を及ぼし得ると指摘する。とりわけ、女性や子どもにとって、その意味は大きい。

先週、カヴィタさんは自宅前で小さな果物屋台を始めた。明るくなった通りのおかげで、客足が増える日没後も仕事を続けることができる。

彼女の家族にとって、その恩恵は排出削減量や資金調達の仕組みで測られるものではない。公共空間で以前より安心して働き、少しでも収入を増やせるという、日々の生活の変化として表れている。

地元の街路から世界の金融モデルへ

ハイデラバードの経験は、気候変動緩和におけるブレンデッド・ファイナンスの可能性を示しているが、このモデルはエネルギー効率化の分野を超え、より幅広い領域へと広がりつつある。

世界各地では、GEFが支援するブレンデッド・ファイナンス事業が、生物多様性の保全、海洋保護、持続可能なサプライチェーンに投資を呼び込んでいる。これらの事業は、従来は投資を集めにくかった分野において、公的資金がどのように民間資本を引き出し得るかを示している。

例えばブラジルでは、「リビング・アマゾン・メカニズム」が、資本市場を活用した金融手段とフィランソロピー資金を組み合わせ、アマゾン地域の持続可能なサプライチェーンを支えている。この仕組みは、協同組合や地域の生産者を資金につなぐとともに、投資家であり買い手でもある企業ナチュラの参画によってリスクを軽減している。

同様に、IFC・GEF「グリーン・グローバル・サプライチェーン脱炭素化イニシアティブ」のような国際的プラットフォームは、新興市場の製造業者や供給業者に対し、環境目標に連動した長期融資を提供することを目指している。これにより、脱炭素化に向けた大きな障壁である、手頃な資金へのアクセス不足に対応しようとしている。

国家レベルでも、ブレンデッド・ファイナンスは、債務や債券を活用した革新的な金融手法を可能にしている。世界銀行の保証とGEFの譲許的資金によって支援されたセーシェルのブルーボンドは、借入コストを抑えながら海洋保全のために民間資本を調達できることを示した。

ラテンアメリカ・カリブ地域では、米州開発銀行(IDB)とGEFが支援する新たなファシリティが、債務自然保護スワップの拡大にブレンデッド・ファイナンスを活用している。これは、各国がより低いコストで債務を借り換え、その節約分を生物多様性の保全や気候レジリエンスの強化に振り向けることを可能にする仕組みである。

これらのモデルに共通する原則は明確である。公的資本や譲許的資金がリスクを引き受けることで、金融面のリターンだけでは投資を正当化しにくい分野にも、民間投資家が参入しやすくなるという点である。

都市を超えて市場を育てる

ハイデラバードの事業は、自治体インフラにとどまらなかった。インドのUJALAイニシアティブを通じて、EESLは需要を集約し、電球を一括調達することで、家庭向けLED照明の普及も進めた。

この手法により、LED電球の価格は大きく下がり、数百万世帯が省エネ型照明を手頃な価格で入手できるようになった。また、電気料金の請求に組み込む形で少額ずつ支払える仕組みも導入された。

公共インフラと家庭需要の双方に取り組むことで、このプログラムは、省エネ技術を導入するだけでなく、長期的に自立して機能する市場をつくることも目指した。

「環境面の成果を大規模に広げる道筋は、ブレンデッド・ファイナンスを通じて開かれる。公的資本は、民間資本が担わない役割を果たす。過大なリスクを引き受け、教訓を持続的な変化へと転換するための厳格な監視に資金を投じるのである。公的資金を排除すれば、成果もまた排除されることになる」と、ボルツ氏は述べた。

ブレンデッド・ファイナンスの試金石

気候資金と生物多様性資金をめぐる国際的な議論が活発化するなか、ハイデラバードは、ブレンデッド・ファイナンスが都市レベルでどのように機能し得るかを示す試金石として、ますます注目されている。

ハイデラバードに拠点を置くコンサルティング会社プロベンチャーのクリーンエネルギー専門家、スリニヴァス・コナ氏はこう語る。「LEDプログラムは、譲許的資金、公的部門による実施、節約分に基づく返済構造が連動することで、自治体による多額の初期支出を伴わずに都市インフラを拡充できることを示した」

同時に、同氏は課題も残ると指摘する。「こうしたモデルを他地域でどこまで容易に再現できるかは明らかではない。特に、歳入基盤が弱く、行政能力も低い小規模都市では難しい可能性がある。」と述べ、一部の設備で維持管理上の問題が報告されていることにも言及した。

それでも、ハイデラバードの経験は、世界的な金融をめぐる議論が、都市の日常生活に目に見える変化としてどのように表れるのかを垣間見せている。

先週、カヴィタ・ラマヴァトさんは、明るいLED街路灯の下、始めたばかりの果物屋台のそばに立ち、夕方の客が通り過ぎるなか、グアバやバナナを並べていた。

果物の販売にはリスクも伴うと、彼女は言う。それでも、その追加収入は、上昇する家賃や子どもの学校関連費を賄う助けになるかもしれない。

カヴィタさんにとって、ブレンデッド・ファイナンスの影響は、投資フローや政策の枠組みで測られるものではない。安全に働ける時間を延ばし、少しでも収入を増やし、子どもたちのためにより安定した未来を思い描けることに、その影響は表れている。

注:第8回地球環境ファシリティ総会は、2026年5月30日から6月6日まで、ウズベキスタン・サマルカンドで開催される。

本特集記事はGEFの支援を受けて掲載された。編集内容についてはIPSが単独で責任を負うものであり、必ずしもGEFの見解を反映するものではない。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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紛争と住民避難が続くコンゴ民主共和国でエボラ流行、国際的懸念高まる

国連IPS=オリトロ・カリム

5月16日以降、コンゴ民主共和国(DRC)では、エボラ出血熱の検査確定例および疑い例が大幅に増加している。主な発生地はイトゥリ州で、ウガンダの首都カンパラでも、これとは別系統とみられる症例が確認された。流行は現時点で主にDRC東部に限られているものの、不安定な治安状況、住民の避難、鉱山労働に伴う人の移動と深く結びついている。このため、国際的な保健専門家の間では、十分な監視と対応が講じられなければ、感染がさらに拡大する恐れがあるとの懸念が高まっている。|英語版

5月17日現在、世界保健機関(WHO)は、DRCおよびウガンダで確認されたブンディブギョ型ウイルスによるエボラ出血熱の流行について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると判断した。一方、米疾病対策センター(CDC)は、この地域での感染拡大を受け、医療従事者や渡航者に対して健康警戒情報を発出している。ただしWHOは、現時点で他大陸への感染拡大リスクは低く、2005年の国際保健規則(IHR)で定義される「パンデミック」の要件には該当しないとしている。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は5月22日、ジュネーブで開かれた国連記者会見で、「リスク評価を改訂し、国家レベルでは『非常に高い』、地域レベルでは『高い』、世界レベルでは『低い』と判断している」と述べた。同氏によれば、DRCではエボラ出血熱の確定症例が82件、死亡者が7人確認されている。しかし実際の感染規模はこれを大きく上回るとみられ、疑い症例は約750件、疑い死亡例は177件に達している。

また、DRCから移動した人に関連する確定症例がウガンダでも2件報告され、そのうち1人は死亡した。さらに、長期間にわたり「高リスク接触」があったとされる米国人2人が、感染の疑いにより欧州へ搬送され治療を受けている。

対応活動は、広範な住民避難と長期化する紛争によって大きく制約されている。国連によると、5月21日にはイトゥリ州の病院が放火される事件が発生した。警察が感染防止上の理由から死亡した感染者の遺体を家族に引き渡すことを拒否したことに対し、親族らが反発したためである。

今回の流行は、とりわけイトゥリ州と北キブ州で深刻化している。これらの地域は長年にわたり武力衝突と人道危機の中心地となってきた。ここ数カ月だけでも暴力行為によって10万人以上が避難を余儀なくされており、人道支援活動に深刻な支障をもたらしている。

国連人道問題担当事務次長兼緊急援助調整官のトム・フレッチャー氏は、SNS「X」に投稿した声明で次のように述べた。

「私たちが人命救助活動を行っている現場は、世界でも最も厳しい環境の一つである。紛争が続き、人々の移動も非常に活発だ。武装勢力が支配する地域を含め、最前線で活動する対応要員が安全かつ継続的にアクセスできるよう取り組んでいる。対応活動が妨害されてはならない。影響を受けた地域全体において、空路、陸路、水路のすべてへのアクセスが不可欠である。」

ゲブレイェスス事務局長によれば、約400万人が緊急の人道支援を必要としており、200万人が避難生活を送り、1,000万人が深刻な食料不安に直面している。女性は介護、家事労働、最前線のサービス業務を担うことが多く、感染リスクが特に高い。妊婦も極めて脆弱な立場にあり、隔離措置の実施に伴ってジェンダーに基づく暴力の増加も報告されている。

こうした危険性は、最も深刻な被害を受けている北キブ州とイトゥリ州における保健医療システムの崩壊によってさらに悪化している。WHOによると、2025年には両州で150万人以上が基礎的な医療サービスへのアクセスを失った。また、医療施設の約85%が深刻な医薬品不足に直面している。

WHO人道支援活動部門責任者のテレサ・ザカリア氏は次のように語った。

「たとえ体調を崩していても、感染疑いがある人々は医療サービスを受けられず、結果として発見も診断もできない状況にある。流行対応と並行して、両州のすべての住民に対する基本的な保健サービスを確実に維持しなければならない。特に強制的に避難させられた人々や極めて脆弱な立場に置かれている人々への支援が重要である。」

人道支援の専門家らは、今後の流行封じ込めには、支援機関が感染拡大を抑制できるという住民の信頼を回復することが不可欠だと強調している。2013年から2016年にかけて西アフリカで発生したエボラ出血熱の大流行の記憶は今なお根強く、多くの地域社会が深いトラウマと人道支援への不信感を抱えている。

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)のガブリエラ・アレナス氏によれば、一部の住民は治療を求めている一方で、エボラ出血熱そのものを「でっち上げ」と考える人々も存在する。

アレナス氏は次のように語った。

「人々はあの恐怖を覚えている。村々に広がった噂を覚えている。近隣住民が治療センターへ運ばれていったことを覚えている。エボラ流行時には、信頼と地域社会の受容こそが、封じ込め成功と感染拡大の分かれ目となる。」

Supplies handed over by UNICEF Chief Field Office Ibrahim Abdi Shire hands over supplies to the Provincial Health Directorate in Bukavu, South Kivu Province, DR Congo, on 20 May 2026. Credit: UNICEF/Christian Kalengera
Supplies handed over by UNICEF Chief Field Office Ibrahim Abdi Shire hands over supplies to the Provincial Health Directorate in Bukavu, South Kivu Province, DR Congo, on 20 May 2026. Credit: UNICEF/Christian Kalengera

5月22日、フレッチャー氏は、国連中央緊急対応基金(CERF)から最大6,000万ドルを拠出し、DRCおよび周辺国での封じ込め、治療、監視活動を支援すると発表した。またWHOは、最前線での支援のため国際スタッフ22人を派遣し、緊急対応基金から390万ドルを拠出したことを明らかにした。さらにWHOはアフリカCDCと連携し、現場対応要員の支援と脆弱な地域社会の保護を目的とした大陸規模のインシデント管理チームを設置している。

フレッチャー氏は次のように述べた。

「私たちは過去の流行から得た教訓を生かしている。封じ込めは地域レベルでの迅速かつ連携した対応にかかっている。各国政府との強力な連携と、影響を受けた国々における効果的な早期警戒・検知システムが必要だ。地域社会からの信頼は不可欠である。今後も影響を受けた人々に幅広い人道支援を提供し、彼らのニーズを理解するため緊密に対話を続ける。また可能な限り事前に物資を配備し、軍事的手法による支援提供は避けていく。」

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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サマルカンド(ウズベキスタン)IPS=キジト・マコエ】

毎年、フィリピンの深い森の上空に黒雲が立ちこめる季節になると、アプライ・カンカナエイ族の56歳、ミニ・バエイエンスは、注意深く空を見守る。

ある日の午後、薬草を採りに森へ入ろうとしていたとき、堂々たるフィリピンワシが樹冠の中から姿を現し、上空を舞った。外部の人々にとっては、それは希少な鳥が飛んでいる光景にすぎなかった。しかし、バエイエンスにとっては、それは「使者」だった。|ENGLISHMALAY

祖父は彼に、自然を注意深く観察することを教えていた。ワシが普段とは異なる時刻に現れることや、飛んでいく方向は、しばしば天候の変化や危険の兆しを示す。

その日、バエイエンスは森へ向かうのをやめた。数時間後、山々は激しい雨に打たれ、洪水と地滑りが相次いで発生し、近隣の集落を襲った。

フィリピンの先住民族は何世代にもわたり、環境破壊によってますます脅かされる土地で生き抜くため、伝統的知識に依拠してきた。

「ワシが現れる時間帯、曜日、月には特定の意味がある。そして、その地域の先住民族コミュニティだけが、フィリピンワシという野生生物が伝えるメッセージを読み解くことができるのです。」フィリピンの先住民族指導者ジョヴァンニ・レイエスは、バエイエンスの体験に基づくこの逸話をこう説明した。

レイエスはIPSの取材に対し、こうした警告は野生生物と人々の間に相互扶助の関係を生み出すと語る。

「ワシが人々に警告を与えると、人々はその見返りとして生息地を守るようになります。」とレイエスは言う。「その生息地を守ることが、結果として領域全体の保全につながるのです。」

ワシの出現が危険を告げることもある、と彼は説明する。

「ワシが現れたことで、大きな嵐が来ると人々は判断します。だから、危険を避けるため、誰も外へ出てはならないと言うのです。」

The 8th GEF Assembly
The 8th GEF Assembly

今週、ウズベキスタンのサマルカンドでは、第8回地球環境ファシリティ(GEF)総会が開かれている。各国閣僚、環境専門家、市民社会の代表らが集まり、地球規模の環境危機に対する資金調達の解決策を探る中、先住民族指導者たちは、バエイエンスのような物語が、しばしば見過ごされてきた真実を示していると訴える。すなわち、先住民族の知識は単なる文化遺産ではなく、生き残るための実践的な手段でもあるということだ。

国際的な環境資金の歴史において初めて、先住民族は保全事業の単なる受益者としてではなく、世界の気候・生物多様性目標の達成に不可欠な知識体系を持つパートナー、助言者、権利主体として、ますます認識されるようになっている。

GEF第9次増資サイクルは、大きな転換点を示している。先住民族は、世界に残された自然生態系を守り、その貢献を地球規模の保全活動に組み込むうえで、重要なパートナーとして正式に認められ、関与していく見通しである。

この転換の中心にいるのが、ジョヴァンニ・レイエスである。彼は、世界最大級の環境資金メカニズムの一つであるGEFに対する先住民族諮問グループ(IPAG)の議長を務めている。

フィリピン北部の山岳地帯コルディリェラ地方のサガダに生まれたレイエスは、カンカナエイ先住民族に属する。彼の権利擁護活動は、先住民族の領域で起きてきた「開発による侵害」を目の当たりにした経験から生まれた。

「先住民族コミュニティのために、そしてその代表として立場を築かなければならないと考えた大きな理由の一つは、私たちの地域で開発による侵害が起きてきたからです。大規模伐採や、コミュニティを水没させかねなかったダム建設も含まれます」と彼は語る。

彼の活動は、山奥の村々から地球規模の環境交渉の場へと広がっていった。そこで彼は、先住民族コミュニティは開発の障害ではなく、生態系の守り手として認識されるべきだと訴えている。

転機となったのは2011年である。レイエスは、フィリピン全土の先住民族の領域を地図化する取り組みに参加した。

先住民族コミュニティにとって、地図化とは単に境界線を引くことではない。何世紀にもわたって口承で受け継がれてきた知識を、政府や制度が認める証拠へと翻訳することを意味する。

「私たちは、地形、景観、境界に関する先住民族の知識を翻訳し、それを地図という物理的な形にしなければなりません。」とレイエスは説明する。

その地図は、法的・政治的闘いにおいて強力な道具となった。

「地図化は、私たちが自分たちが何者であるかを口頭で説明できるだけでなく、先住民族自身が作成した地図という形で、その領域を示す証拠を持っていることを政府に示すものです。」

そこから生まれたのは、古来の知識と現代科学との稀有な協働だった。

「そこには、伝統的知識と科学の調和があります。」とレイエスは言う。

今日、この組み合わせは、GPSによる地図作成などの技術を用いて、先住民族コミュニティが森林を監視し、炭素貯蔵量を測定し、生態系の健全性を評価するうえで役立っている。

「伝統的知識と実践を科学と調和させれば、森林の健康状態を判断するための一覧表を作成することができます。」と彼は語る。

しかし、そうした領域を守ることは依然として容易ではない。

レイエスによれば、先住民族が土地と結ぶ深い精神的なつながりは、しばしば開発事業との対立を生む。

「先住民族には、それぞれ聖地や神聖な儀礼の場があります。カトリック教徒や教会にとって大聖堂があるのと同じことです。」

川や小川、森林は、単なる天然資源ではない。それらは、生きた文化的景観の一部である。

「こうした宗教的・精神的価値が、どのような手段を用いてでもこれらの地域を守ろうとする強い意思を形づくってきたのです。」

しかし、抵抗にはしばしば代償が伴う。

「彼らの地域で開発が進められ、文化や精神的価値を理由にそれを拒むと、彼らは犯罪者扱いされ、テロリストと見なされるのです。」

レイエスは、フィリピンの先住民族が直面する闘いは、世界各地の先住民族コミュニティが直面する課題と重なっていると指摘する。

世界的に、土地収奪は先住民族、牧畜民、小規模農民にとって深刻化する課題となっている。とりわけ途上国では、土地保有制度の脆弱さ、所有権に関する文書の不足、統治の失敗により、コミュニティは土地を奪われやすい状況に置かれている。

アフリカからアジア、中南米に至るまで、農地、鉱物資源、保全地域、大規模投資事業への需要の高まりが土地をめぐる競争を激化させ、地域コミュニティを政府や民間投資家と対立させるケースが増えている。

何世代にもわたって土地を占有し管理してきたコミュニティであっても、正式な権利証書を持たない場合が多い。そのため、有力な利害関係者が、疑わしい取引、汚職、法の抜け穴を通じて広大な土地を取得しやすくなっている。

東アフリカのタンザニアには、農業やその他の商業事業のために土地を求める外国投資家から大きな関心が寄せられてきた。しかし、土地保有の安全性が欠如しているため、多くの農村コミュニティが土地喪失の危険にさらされている。分析者によれば、一部の投資家は正式な取得手続きを迂回し、村の当局と直接交渉してきた。このことが紛争を助長し、信頼を損ない、土地収奪との非難を引き起こしている。

伝統的な土地保護の仕組みが弱体化する中、影響を受けるコミュニティは、権利を守り、祖先伝来の土地や共同体の土地に対する法的承認を得るため、裁判、抗議行動、参加型の土地地図化にますます頼るようになっている。

ブラジルでは、先住民族グループがアマゾンで違法伐採、採掘、森林破壊に直面し続ける一方、気候変動と関連する干ばつや火災の激化にも耐えている。

かつてスワジランドと呼ばれたエスワティニでは、農村コミュニティが、繰り返される干ばつ、水不足、農業生産性の低下に苦しむようになっている。

文化的背景には大きな違いがあるにもかかわらず、先住民族は共通の現実を抱えている。彼らは世界で最も生物多様性に富む景観の中に暮らす一方で、環境劣化と気候変動による混乱の最も重い負担を背負っているのである。

レイエスがいまGEF評議会で提起しているのは、まさにこうした懸念である。

「ここでの先住民族の役割は、先住民族コミュニティに影響を及ぼす事項について、評議会に助言することです。」と彼は言う。

重要な課題の一つは、GEFを通じて資金提供される事業が、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」の原則を尊重するよう確保することである。

「私は、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を含む一定の権利について評議会に助言しています。どのGEF機関が実施する事業であっても、先住民族の領域に入る事業は、自由意思による事前の十分な情報に基づく同意を経なければなりません。」

GEF内で先住民族に対する認識が高まっていることは、重要な節目である。歴史的に、主要な環境資金機関は主に政府や国際機関によって設計され、先住民族が意思決定に参加する余地は限られていた。

今日では、先住民族代表が正式な助言の役割を担っている。これは、地球規模の環境目標は先住民族による管理なくして達成できないという、より広範な認識を反映している。

実際、レイエスは、先住民族はすでに世界で最も野心的な生物多様性目標の一つを上回っていると主張する。

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、2030年までに地球上の陸域と水域の30%を保護することを求めている。

「しかし、それは先住民族によってすでに達成されています」とレイエスは言う。「現在、先住民族が管理している地域は、およそ32%から40%に達しています。」

言い換えれば、多くの先住民族コミュニティは、各国政府がようやく達成を目指し始めた規模で、生態系を守り続けてきたのである。

この成果は、数十億ドル規模のプログラムによって生まれたものではなく、文化、信仰体系、伝統的実践に根ざした何世紀にも及ぶ管理の積み重ねから生まれたものだとレイエスは強調する。

「先住民族の領域は、保護されてきた流域や山々によって、炭素を吸収する能力という点で最も大きな貢献をしています。」とレイエスは言う。

サマルカンドで代表団が資金配分の優先順位、生物多様性目標、気候への野心について議論する中、レイエスは簡潔で力強いメッセージを発している。

「気候であれ、生物多様性であれ、条約の締約国に申し上げたい。先住民族の領域は、地球の心臓を形づくっているのです。」

彼は一呼吸置き、その比喩をさらに広げた。

「人の心臓が破壊され、傷つけられれば、身体は崩壊します。それと同じように、先住民族の領域が傷つけられれば、生態系は崩壊し、生物多様性も崩壊するのです。」

フィリピンの森では、コミュニティが今もワシの導きを仰いでいる。その地では、この真実は長い間理解されてきた。

先住民族指導者たちがいま訴えている課題は、世界の残りの人々がその声に耳を傾けるようにすることである。

第8回地球環境ファシリティ総会は、2026年6月6日までウズベキスタンのサマルカンドで開催されている。本特集記事はGEFの支援を受けて掲載された。編集内容についてはIPSが単独で責任を負うものであり、必ずしもGEFの見解を反映するものではない。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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