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米国/イスラエルによる対イラン爆撃―国際法軽視のケーススタディ

【米カリフォルニア州オークランドIPS=ジャクリーン・カバッソ、ジョン・バローズ】

「『エピック・フューリー』作戦は、トランプ大統領の“壮大な癇癪”とも言うべき衝動が、取り巻きによって増幅され、現実の武力行使として実行に移されたものだ。影響は地域にとどまらず、世界の平和と安全保障、国際経済、そして第二次世界大戦後の国際法秩序を揺るがしかねない。」

米国/イスラエルによるイラン爆撃は、国際法の基本規則を明白に踏みにじっている。国連憲章第2条4項が禁じる「いかなる国の領土保全又は政治的独立に対する武力による威嚇又は武力の行使」に反し、イランの主権を侵害するものである。

米国とイスラエルが、差し迫った武力攻撃に対する自衛権の行使として行動しているとする説明には、説得力がない。まして体制転換(レジーム・チェンジ)は武力行使の正当化になり得ない。国家の政治的独立を尊重するという原則に、真正面から反するからである。

Credit: UN Photo/Evan Schneider
UN Secretary-General António Guterres, briefing reporters outside the Security Council, described the United States’ bombing in Iran as a “dangerous escalation.”
“I am gravely alarmed by the use of force by the United States against Iran today,” said the UN chief, reiterating that there is no military solution. “This is a dangerous escalation in a region already on the edge – and a direct threat to international peace and security.”
Credit: UN Photo/Evan Schneider
UN Secretary-General António Guterres, briefing reporters outside the Security Council, described the United States’ bombing in Iran as a “dangerous escalation.”
“I am gravely alarmed by the use of force by the United States against Iran today,” said the UN chief, reiterating that there is no military solution. “This is a dangerous escalation in a region already on the edge – and a direct threat to international peace and security.”

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、安全保障理事会の外で記者団に対し、米国によるイラン爆撃を「危険なエスカレーション」と表現した。「私は本日、米国がイランに対して武力を行使したことに深い懸念を抱いている。すでに瀬戸際にある地域での危険なエスカレーションであり、国際の平和と安全に対する直接の脅威である。」と事務総長は述べ、軍事的解決はないとの立場を改めて強調した。

Jacqueline Cabasso, Executive Director, Western States Legal Foundation. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, INPS Japan.
Jacqueline Cabasso, Executive Director, Western States Legal Foundation. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, INPS Japan.

とりわけ目立つのは、トランプ政権が多国間メカニズムを活用したり、国際法を根拠としたりするための真剣な努力をほとんど示していない点である。政権は、その行動と国際法への軽視によって、冷戦終結後ほぼ30年にわたり進んできた武力行使をめぐる基本規範の侵食を、さらに加速させている。

武力行使を形式的に制限してきた法的枠組みの弱体化は、長期にわたって進行してきた。21世紀に入ってからは、とりわけ大国が国際法や国際機関をいっそう軽視し、大規模な戦争に踏み切る事例が、衝撃的なかたちで繰り返されてきた。

最初の大きな例が、2003年の米国によるイラク侵攻である。90年代にイラク周辺で続いた長期かつ大規模な米軍展開、そして2001年のアフガニスタン侵攻・占領が、その下地となった。トランプ政権とは異なり、ジョージ・W・ブッシュ政権は少なくとも国際法上の根拠を示そうとはした。だが、戦争の正当化は虚偽に基づいていた。

次いで、ロシアによる2014年のクリミア併合、そして2022年のウクライナ全面侵攻が起きた。いずれも国際法上の正当化を欠いていた。今世紀にはほかにも、たとえば最近、米国がベネズエラに侵攻し大統領を拉致するために行動したように、侵略とみなし得る事例がある。だが、イラクをめぐる米国の行動、ウクライナにおけるロシアの行動、そして米国/イスラエルの対イラン爆撃は、武力行使をめぐる規範の侵食という観点で、とりわけ重大な転換点である。

イランの核開発をめぐって言えば、爆撃前には、自衛権を主張し得るような状況は存在しなかった。一般に、イランが長年にわたりウラン濃縮能力を維持してきたのは、将来のどこかで核兵器取得という「選択肢」を温存する意図もあったとみられる。だが、実際に取得へ踏み切った形跡はなかった。

John Burroughs/ LCNP
John Burroughs/ LCNP

しかも、2015年に苦心の交渉で成立した「包括的共同行動計画(JCPOA)」―イランの核計画に実効的かつ検証可能な制約を課した国際合意――から、一方的に離脱したのは、第一次トランプ政権下の米国である。

イランの核計画を論じる際、イスラエルが強固な核兵器庫を有している事実は、しばしば正面から扱われない。長期的にみれば、一部の国家には核兵器の保有を認め、他の国家にはそれを否定するという状態を維持することは現実的ではない。北朝鮮のように核拡散が現実化したケースであれ、イランのように潜在的拡散が懸念されるケースであれ、最も根本的な対処は、核兵器の世界的廃絶に向けて迅速に歩を進めることである。

もう一つの、少なくとも部分的な対応策は、新たな非核兵器地帯を地域に構築することである。中東でも、実際にその試みが進められてきた。核不拡散条約(NPT)の枠内でも国連においても、中東非核兵器地帯の交渉開始に向けた真剣な努力が続けられてきた。イランはその交渉への参加に前向きだった。

しかし、イスラエルと米国はこれらの取り組みをボイコットしてきた。これは、彼らが「脅威となるイランの核開発を止めるために行動している」と主張する際、その正当性を大きく損なう。

では、この状況にどう対応すべきか。

第一に、イラン侵攻は違法な侵略として非難されるべきであり、国連憲章が定める基本規範は、少なくとも将来のために守られなければならない。

第二に、世界はいま大きな変化の只中にあることを認識すべきである。その特徴は、権威主義的ナショナリズムの再興にある。権威主義的な民族ナショナリズム勢力が、核保有国を含む多くの国で政権を握るか、あるいは有力な政治勢力となっている。

課題の性質を直視する現実的な視点が必要であり、より公正で民主的かつ平和的なポスト・ナショナリズムの世界に向けて、新たな発想と革新的なアドボカシーと政治の形が求められている。(原文へ

ジャクリーン・カバッソは米カリフォルニア州オークランドの西部諸州法律財団事務局長(Western States Legal Foundation)事務局長。ジョン・バローズは同財団理事。

IPS UN Bureau

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国連が直面しているのは予算危機か―それとも指導力の危機か―あるいは両方か

【ニューヨークIPS=アンワルル・K・チョウドリー】

2025年2月、今から1年前のことだ。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は報道陣へのブリーフィングの冒頭で、「まず、過去48時間に国連機関や多くの人道・開発NGOに届いた情報について、深い懸念を表明したい。米国が資金拠出を大幅に削減するという内容だ。」と述べ、警鐘を鳴らした。事務総長は続けて、「その影響は、世界中の脆弱な人々にとって特に壊滅的なものとなるだろう。」と語った。
UN80イニシアチブ――改革か圧力か
Anwarul K. Chowdhury
Anwarul K. Chowdhury

その予算危機は、国連創設80周年を口実に掲げた「UN80イニシアチブ」という改革アジェンダによって、当面は先送りされようとした。資金繰りの逼迫に追い立てられて打ち出された、いわば体裁づくろいの改革である。

国連システムの構造改革とプログラム改革は、少なくとも過去4人の事務総長の時代から長年の課題とされてきた。だが、頭字語の変更、マンデートの拡張、組織の微調整、そして近年では職員の移転といった措置を除けば、目立った成果はほとんど見られない。

財政破綻への警鐘

今年1月末、事務総長は全加盟国宛ての書簡で、国連の通常予算の手元資金が7月までに底を突く可能性があると指摘し、業務運営に重大な支障が生じ得ると警告した。さらに、「差し迫った財政破綻」を回避するため、同様の事態を防ぐ国連の財政ルールを抜本的に見直すよう加盟国に求めた。

なぜ今になって、加盟国に具体的な行動を迫るのか。2025年2月に自ら危機を訴えた時点で、なぜ同じだけ踏み込んだ要請をしなかったのか。

これは、オオカミが来たと叫び続けた少年の寓話を思い起こさせる。

権限の限界を嘆く―権力も資金もない

グテーレス事務総長は過去に報道陣に対し、次のように語っている。「国連事務総長の権限が非常に限られているのは事実であり、財源を動員する能力もきわめて乏しい。つまり、権力もなく、資金もない」。

これは、すべての事務総長が直面し、十分承知してきた現実である。国連を継続的に追い、その複雑な機能を理解する人々にとっても周知の事実だ。

それでもなお、なぜこの現実は、国連指導部が与えられた責務を果たせない局面に限って、改めて公の場に持ち出されるのか。

私は、事務総長の「非常に限られた権限」は、国連とその最高指導部に過度の期待が寄せられないよう、繰り返し明示されるべきだと考える。私の知る限り、歴代の事務総長は、選出に向けた過程や就任時に、こうした制約を正面から語ってこなかった。

グテーレス事務総長も例外ではない。2017年の就任時点で、指導力の「限界」としてではなく、むしろ職務遂行上の「障害」として、これらの制約を事実として示していれば、より現実的で誠実だったはずだ。にもかかわらず、在任9年近くを経た2026年になって初めて、この点が強調されている。世界の「最重要外交官」が抱える構造的弱点―行動を縛る制度的制約―は、以前から変わらず存在してきたのである。

統制か撤退か

米国が、財政的影響力を梃子に国連の機能不全を脅しとして用いているのではないか、と見る向きもある。

米国は拒否権という強大な権限を持ち、国連システムの運営予算への拠出でも約4分の1を担ってきた。国連憲章を改正し、真に民主的な組織へ作り替えない限り、この構造は直視せざるを得ない。国連指導部も加盟国も、この現実を前提に対応すべきである。

米国は長年、法的に支払うべき拠出金を分割で納める方式をとってきた。事務総長もその事情を理解し、事実上受け入れてきた。狙いは、分割払いの局面ごとに見返りを引き出しつつ、拠出金未納による投票権停止を回避することにある。

私は、米国は国連から「撤退」するのではなく、「統制」を通じて国連を自国流に使おうとしているのだと考える。

国連のトップに女性を

こうした文脈において、私は改めて強調したい。国連は創設から80年を経たにもかかわらず、世界の最高外交官として9人続けて男性を選んできた。2026年に現職の後継者を選出するにあたり、次期事務総長は女性であるべきだ。いま国連に求められているのは、そのための判断力と見識である。

いま必要なのは、創造的で官僚主義に縛られず、主体的かつ先見性を備えた指導力である。そうした真の変化がなければ、「オオカミ少年」症候群が国連の活動を揺るがし続け、人類全体の利益のために存在する最も普遍的な多国間機関としての使命が損なわれかねない。

アンワルル・K・チョウドリー氏は、元国連事務次長。バングラデシュの元国連常駐代表を務め、国連総会第5委員会(行政・予算委員会)委員長(1997~1998年)、国連安全保障理事会議長(2000年、2001年)、国連総会議長上級特別顧問(2011~2012年)などを歴任した。さらに、国連計画・調整委員会の副委員長も2期務めている。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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ホルムズ海峡危機で進む静かな同盟シフト―トランプ政権の論理に近づく日本と欧州

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

ホルムズ海峡をめぐる同盟の変容は、同海峡への艦隊派遣によって始まったのではない。発端となったのは、一つの首脳会談である。ドナルド・トランプ米大統領が日本の高市早苗首相をホワイトハウスに迎えた際、焦点は、同盟国が海峡の安全確保に踏み込むのかどうかにあった。だが実際に浮かび上がったのは、より重大な変化だった。日本と欧州の主要国が、戦争そのものへの全面的な政治的責任を引き受けることなく、ホルムズ海峡をめぐる米国の戦略的論理へと静かに、しかし確実に歩み寄ったのである。重要なのは、まさにその点である。

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

トランプ氏のメッセージは明快だった。ホルムズ海峡に依存してエネルギーを輸入する国々は、その安全確保に応分の役割を果たすべきだ、というものだ。日本がその圧力の対象となるのは避けられなかった。欧州諸国も同様である。もっとも、両者にはそれに慎重にならざるを得ない理由があった。日本はなお、海外での武力行使に法的制約を抱えている。欧州にも、拡大しつつある米・イスラエルの軍事行動に巻き込まれることへの強い警戒感があった。首脳会談前、日本政府の立場は、慎重姿勢、法的自制、そして護衛任務への不参加というものだった。しかしワシントンは、その前提そのものを揺さぶった。

日本は海上自衛隊の派遣を発表したわけではない。米国主導の護衛艦隊に参加したわけでもない。法的な慎重姿勢を捨てたわけでもない。だが、日本政府は政治的には米国にとってより重要な一歩を踏み出した。危機に対する米国の捉え方を、従来以上に受け入れたのである。日本は事実上、「これは日本の戦争ではない」と距離を置く段階から、「これは航行の自由とエネルギー安全保障に対する重大な脅威であり、米国と緊密に連携すべき問題だ」と位置づける段階へ移った。同盟政治において、これは単なる表現の違いではない。立場の変化そのものである。

日本の報道からも明らかなように、高市首相はきわめて難しい舵取りを迫られていた。米国との決裂は避けなければならない一方で、国内の法的・政治的制約を超えることもできない。同時に、日本政府が見据えていたのはホルムズ海峡だけではなかった。より深い懸念は、米軍の関心と戦力が中東に振り向けられることで、対中抑止が弱まることにあった。つまり、これは単なる湾岸問題ではない。湾岸問題の形を取ったインド太平洋の問題だったのである。

欧州もまた、同様の方向に動いた。ただし、いつものように、実際以上に結束しているように装いながらである。欧州各国の当初の反応は、慎重というより抵抗に近かった。ブリュッセルでは、EUの海上安全保障態勢を調整すべきかどうかが検討されたものの、戦争に直接関与することへの意欲は乏しかった。欧州の当局者たちは、海上安全保障が進行中の空爆作戦と結びつけば、護衛任務が驚くほど容易に戦闘任務へと転化しかねないことを理解していた。

その後に出されたのが、あの声明である。

英国、フランス、ドイツ、オランダ、日本などは、「ホルムズ海峡の安全保障を改善するための適切な努力」に貢献する用意があると表明した。この「適切な努力」という表現が、すべてを支えていた。ワシントンを安心させるには十分に幅広く、各国政府が踏み込みすぎたと受け取られないようにするには十分に曖昧だったからである。その中身には、計画立案、監視、兵站、情報協力、制裁履行、エネルギー調整、さらには後になって、より都合のよい政治的隠れみのの下での海上展開まで含まれ得る。意図された曖昧さであり、この場合、曖昧さそのものが政策だった。

Strait of Hormuz

その中でも英国は、欧州大陸諸国より一歩先へ進んだ。ロンドンは、航行を脅かすイランのミサイル拠点への攻撃にあたり、米国による英軍基地の使用を認めた。これは単なる政治的支持ではなく、作戦上の支援である。一方、フランスは最も明確な慎重派として踏みとどまった。ホルムズ海峡の重要性は認めつつも、欧州の軍事力が米国とイスラエルによって形作られた戦闘環境に組み込まれるべきだという前提には抵抗した。この英仏政府の温度差こそ、欧州の実像をよく示している。統一でもなければ反乱でもない。そこにあるのは、複層的なためらいである。

では、ワシントンで何が起きたのか。

それは屈服ではなかった。反抗でもなかった。もっと捉えにくく、しかもより重要な変化だった。トランプ氏が得られなかったのは、テレビ映えする勝利である。艦隊派遣の発表もなければ、大々的な同盟国の誓約もなく、整然と従う同盟国の姿を示す写真もなかった。だが実際に得たのは、より現実的な成果だった。すなわち、徐々に進む接近である。日本は調整した。欧州も調整した。英国はより速く動いた。フランスは軍事的な帰結には抵抗しつつも、危機認識そのものは否定しなかった。同盟が実際に変化するとき、それはファンファーレとともに訪れるのではない。誰もが一時的措置だと言い張る半歩ずつの前進として進むのである。

より深い問題は、トランプ氏が、より苛烈な同盟政治のモデルを試している点にある。従来の構図では、米国が主導し、同盟国が支持を表明し、そして誰もが負担は共有されているかのように装っていた。だが新たな構図は、はるかに取引的で、礼儀も薄い。ワシントンがまず攻撃し、その後で、その余波に最もさらされる同盟国に対し、安定化のコストをより多く負担するよう求めるのである。日本はこの論理にとりわけ脆弱である。中東のエネルギーに大きく依存し、同時に米国の安全保障の傘にも深く依存しているからだ。

最もあり得る帰結は、同盟国の完全な足並みの一致を伴わない、選択的な負担分担である。日本は今後も、政治的には支持を示しつつ、軍事的には慎重姿勢を維持する可能性が高い。欧州は分裂したままだろう。英国は作戦上の支援役を果たし続けるかもしれない。フランスは、航行の安全保障を際限のない戦争と安易に結びつけることに引き続き抵抗するだろう。

しかし、より大きな変化はすでに見えている。日本はワシントンで屈服したわけではなく、欧州も足並みをそろえたわけではない。それでも両者は、自らが公に認める以上に、トランプ氏の戦略的論理へと近づいた。そこにこそ、この問題の本質がある。ホルムズ海峡を行き交う艦船は表層にすぎない。より深い現実は、湾岸の石油航路を舞台に、同盟そのものがいま再交渉されているという点にある。(原文へ

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/strait-of-hormuz-alliance-shift-what-changed-after-the-trump-takaichi-meeting

INPS Japan

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「断絶」を修復するのに、貿易だけでは足りない

【カトマンズIPS=シモーネ・ガリンベルティ

いま世界を覆う混乱と無秩序―覇権国同士の対立が深める亀裂―を乗り越えるのに、貿易だけで十分なのだろうか。地政学と国際関係は大きな転換点にある。カナダのマーク・カーニー首相が最近、「ルールに基づく多国間秩序」に生じた「断絶(rupture)」と呼んだような状況の中で、貿易はほとんど万能薬のように語られている。

Canadian Prime Minister Mark Carney

だが本当に、欧州連合(EU)がメルコスールやインドと結んだような、新たな代替的通商パートナーシップだけが、予測不能さを増す米国政権と、自信過剰で野心を強める中国に対処する唯一の道なのだろうか。

カーニー首相は数週間前、ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)で演説し、カナダのような「ミドルパワー」が巨大な覇権国への依存を減らすための指針を示した。国境の南にいる横柄で予測不能、しかも権威主義化を強める大統領にどう向き合うか―そうした含意をにじませながら、天然資源を梃子にし、代替市場との貿易に大きく賭けることで、国家は選択肢を広げられるとの基本戦略を提示した。

貿易が、成熟経済だけでなくインドのような新興経済にも新たな選択肢を開くことは疑いようがない。EUも同様の方向へ舵を切り、新たな通商協定を、成長を促しつつ自らの強靱性を高める手段として用いている。もっとも、米国との良好な関係を維持せざるを得ないという現実は変わらない。だが、貿易に全面的に依存する「処方箋」も、いずれ壁に突き当たる。

短期的には、米国や中国の拡張的な動きをかわす―少なくとも回避を試みる―うえで、貿易は有効かもしれない。だが貿易にも限界がある。この新しい難局への包括的で長期的な対応には、政治的な手当てが不可欠だ。

貿易は、より広い政策ツールキットの一部として位置づけるべきである。各国は、近隣国との地域協力プロジェクトへの投資を拡大することを政策の中心に据える必要がある。強化された経済連携を通じて近隣国同士の政治的結び付きを深めることは、新しい国際地域主義への出発点となり得る。

しかし、二国間関係の経済的側面を活用するだけでは足りない。そこには、より大胆で、より包括的で、何より人々を鼓舞する構想が必要だ。経済の枠を超えた取り組みがあってこそ、既存の覇権国から尊重され、場合によっては競合し得る新たな政治的枠組みを構想する余地が生まれる。

第二次世界大戦後の欧州を思い浮かべればよい。貿易と経済が、地域協力のプロジェクトを下支えし、加速させた。やがて、当初は単なる経済的結社に過ぎなかった「対等な協力の成功例」―欧州経済共同体(EEC)は、より先見的で大胆な地域統合の構想へと変貌した。

だが、近年の米欧対立の局面で欧州が貶められた出来事が示すように、このプロジェクトはまだ完成していない。グローバル・サウスもグローバル・ノースも含め、各国が理解すべき点は明確だ。統合を経済に限定せず、政治・安全保障・技術・社会まで射程に入れた「より大きなビジョン」を掲げてこそ、外部に振り回されない自律を確保できる。

東南アジア諸国連合(ASEAN)や南部アフリカ開発共同体(SADC)のような地域協力枠組みを築くことは、加盟国が国内で市民からの正統性を保つうえでも、国際関係の領域で影響力を固めるうえでも、道を開き得る。だが、欧州の教訓は明確である。経済協力や、経済を基盤とした統合にも限界がある。

China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes - Own work, CC BY-SA 4.0
China in Red, the members of the Asian Infrastructure Investment Bank in orange. The proposed corridors and in black (Land Silk Road), and blue (Maritime Silk Road)./ By Lommes – Own work, CC BY-SA 4.0

中国、ロシア、そして第2次トランプ政権下の米国―制約の少ない覇権国に対抗し得る梃子を国家に与えるのは、より大胆な統合プロジェクトへの明確な支持だけである。困難で気の遠くなる課題ではあるが、地域統合だけが、各国に一定の「集団的な力」を与え、相応の敬意を引き出し得る。ところが残念なことに、地域協力そのものが崩れている。

南米南部共同市場(メルコスール)は、EUとの貿易協定の署名で注目を集めた。だが、その協定はEUの「準立法機関」である欧州議会が採決によって事実上「凍結」し、適法性の判断を欧州司法裁判所(ECJ)に委ねる形となった。そもそもメルコスールは、政治的に統合された共同体には程遠い。南米諸国連合(UNASUR)の存在を覚えている者がどれほどいるだろうか。地域協力の模範と見なされてきたASEANですら、「中心性」が揺らぎ、信認を失いかねない状況にある。

アフリカでは、SADCの潜在力はしぼみ、最も有望で大胆な政治統合の試みとされた東アフリカ共同体(EAC)も、真の連邦―東アフリカ連邦―へと移行する構想が大きく失速した。

ATN
ATN

トランプ氏の自我と、それが生むドラマのせいで、EUはいま、自らの統合の軌道を再考せざるを得なくなっている。このままの速度と方向では、EUは足場を固められず、世界支配を競う覇権国が投げかける露骨な脅しや、見えにくい圧力、恐喝に対して、団結と結束を保ったまま対処することはできない。

EUは経済領域を超えて力を投射できなければならない。マリオ・ドラギ前イタリア首相(前欧州中央銀行総裁)は最近、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)での講演で、同趣旨を語った。
「力は、欧州が連合体(confederation)から連邦(federation)へ移行することを求める。」現状のままでは、欧州は生き残ることさえ想像できない、というのである。さらにドラギは、「これは、欧州が従属し、分断され、同時に脱工業化する危険を伴う未来だ。自らの利益を守れない欧州は、価値も長くは守れない」と警告した。

ダボスで遠慮なく語ったカーニー首相は評価されてよい。だが、多国間秩序に生じた断絶は、絆創膏のような対症療法では修復できない。貿易が重要であることに変わりはないとしても、それだけで断絶を縫い合わせ、つぎはぎできると信じるのは幻想である。貿易は強力だが不完全な解でしかない。

必要なのは、設計の段階から政治的プロジェクトを構築できる取り組みである。国民国家を中心に据えつつ、遠くない将来に、より大胆な政治的構想を展望できるような取り組みだ。EUの事実上の首都であるブリュッセルは、欧州政治プロジェクトを新たな段階へ跳躍させる青写真を、再び示し得る。より深い統合、そして不可避に連邦主義を含む形での結束を追求する段階である。

結局のところ、国家の地位を守る最善の方法は、新しい形の「共有主権」へ投資することだ。これはカナダのようなミドルパワーやEU加盟国だけの課題ではない。開発途上国も、この新秩序と向き合い、自国の存続が、限界を設けないほど野心的な地域協力の取り組みによってのみ保証されることを理解しなければならない。

とはいえ、カーニー首相とカナダにとって、地理は容赦がない。カナダが欧州、あるいはメキシコやカリブ海諸国と、いまは想像できないような恒久的な結び付きで結ばれる―そんな「想像できない関係」を構想することもできるのだろうか。(原文へ

シモーネ・ガリンベルティは、SDGs、若者中心の政策形成、より強くより良い国連について執筆している。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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ドイツのフリードリヒ・メルツ首相が第62回ミュンヘン安全保障会議の開幕に際し、「戦後のルールに基づく秩序は、もはや存在しない」と語ったとき、その認識を裏づける現実はすでに十分に存在していた。イスラエルは国際法を無視してガザでジェノサイドを続け、ロシアは違法なウクライナ侵攻の開始から4年目に入っていた。ロシアと米国の間に残されていた最後の核軍備管理条約も失効し、米国は66の国際機関や国際的枠組みから離脱していた。

Credit: Global Centre for the Responsibility to Protect
Credit: Global Centre for the Responsibility to Protect

会議後には、イスラエルと米国がイランに対する新たな軍事行動に踏み切り、地域全体を巻き込む大規模紛争へ発展する危険が高まっている。一方、国連は深刻な資金難に直面し、職員や事業の削減を迫られている。米国国際開発庁(USAID)の資金に依存してきた市民社会組織もまた、存続の危機に立たされている。

1963年に大西洋横断の防衛会議として創設されたミュンヘン安全保障会議は、いまや国家元首や外相、市民社会、シンクタンク、メディアが一堂に会する、世界で最も重要な年次安全保障会議の一つとなっている。2026年会合は「破壊のただ中で(Under Destruction)」をテーマに掲げ、115カ国以上から1000人超が参加した。60人を超える各国首脳のほか、中国の王毅外相、米国のマルコ・ルビオ国務長官、複数の国連機関トップらも顔をそろえた。

会議の分析的な基盤となったのが『ミュンヘン安全保障報告書2026』である。同報告書は、世界が「レッキングボール(鉄球)政治」の時代に入ったと指摘した。そこでは、改革ではなく破壊を志向する政治勢力によって、1945年以降の国際秩序が打ち壊されつつあると論じている。報告書に盛り込まれた「ミュンヘン安全保障指数」も、その危機の深さを示していた。フランス、ドイツ、英国では、回答者の過半数が、自国政府の政策は将来世代を現在より悪い状況に追い込むと答えた。さらに、多くのBRICS諸国とG7諸国では、米国が「増大するリスク」と受け止められている。

Marco Rubio Credit: State Department.
Marco Rubio Credit: State Department.

会議を前に、各国の注目はルビオ国務長官の基調演説に集まっていた。前年、J・D・ヴァンス米副大統領は攻撃的な演説を行い、欧州各国政府が言論の自由を抑圧し、政治的過激主義に同調していると非難した。そこに自己矛盾への自覚は見られなかった。これに対し、ルビオ国務長官はより穏当な口調で、欧州を米国にとって「大切な同盟国であり、最も古い友人たち」と表現した。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は「大いに安心した」と述べ、会場の半数が立ち上がって拍手を送った。

だが、その演説の骨格は、前年にヴァンスが示した路線と変わらなかった。ルビオ国務長官は大西洋横断関係を、共有された民主主義制度や国際法ではなく、「キリスト教の信仰、文化、遺産、言語、祖先」によって定義したのである。この語り口は、グローバルサウスの参加者から強い反発を招いた。そこには、世界の多数派を排除しながら、グローバルノースの文化的・人種的優位を暗に示す含意があったからである。

トランプ政権は、ヴァンス副大統領の対決的な姿勢が裏目に出て、欧州を中国に接近させ、米国主導の構想への支持を得にくくしたと判断したのだろう。そこで政権は、メッセージ自体は維持したまま、より穏当な語り手へと前面を差し替えたのである。

ルビオ国務長官の会議後の日程は、現在の米国の優先順位を端的に示していた。彼はミュンヘンを離れると直ちにブダペストとブラチスラバを訪れ、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相、スロバキアのロベルト・フィツォ首相という2人のナショナリスト指導者と会談した。いずれも親トランプであり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対しても融和的な立場を取ってきた人物である。トランプ政権が欧州における真の同盟相手とみなしているのは、こうした政治勢力なのだ。さらに米国は、欧州各地の右派系シンクタンクや慈善団体への資金提供も計画しており、大陸の政治に公然と影響力を及ぼそうとしている。

Photo: France to form a commission for reconciling with Algeria. Credit: Anadolu Agency
Photo: France to form a commission for reconciling with Algeria. Credit: Anadolu Agency

メルツ首相の現状認識は、歴史的であると同時に憂慮すべき動きを促した。メルツ首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、フランスの「核の傘」を欧州の他国にも拡大する可能性について協議を始めたと明らかにしたのである。ほんの1年前なら想像しにくかった展開である。欧州諸国は長らく、安全保障をNATOと、その集団防衛義務を定めた第5条に依拠してきた。だがトランプ政権は、その第5条を尊重しない可能性を示唆しており、欧州諸国はNATO依存から脱却するための、長く高コストな道を歩み始めている。いまや、その模索は核抑止の代替策にまで及びつつある。

フォン・デア・ライエン欧州委員長はこれを「欧州の目覚め」と呼び、「相互防衛条項」を具体化すべきだと訴えた。英国のキア・スターマー首相は「ハードパワー」と、必要であれば戦う覚悟を持つ必要性を強調した。ポーランドの民族主義的なカロル・ナヴロツキ大統領は、自国が核兵器を持つべきだとまで語った。こうした反応は、多国間秩序の動揺に対応するどころか、戦後秩序がかろうじて支えてきた不拡散と軍備管理の規範そのものをさらに損なう危険をはらんでいる。危機に対して第二の核軍拡競争で応じれば、不安定さはいっそう増すだろう。この点で警鐘を鳴らした欧州首脳は、会議の場ではスペインのペドロ・サンチェス首相ただ一人だった。

European Commission President Ursula von der Leyen
European Commission President Ursula von der Leyen

会議の総括として示されたのは、国際秩序を守ろうとする者は、今日の現実に即し、人々に対して説明責任を負う新たな制度や連合、枠組みを築かなければならないという認識である。しかし、一見妥当に見えるこの整理は、いくつかの根本的な問いを脇へ退けている。そうした制度は誰の利益に奉仕するのか。新たな設計図が描かれるとき、誰がそこから排除されるのか、という問いである。

欧州諸国が米国との従来の同盟関係の動揺に応答するのであれば、それは新たな核軍拡競争ではなく、人権、真の多国間主義、そして国際法への確固たるコミットメントに根ざすべきである。そのためには、市民社会が交渉の場に対等な主体として参画しなければならない。

旧秩序が壊れていることは、もはや明らかである。人権を擁護し、軍事化と露骨な力の政治に反対する人々は、もはや傍観者でいることはできない。その応答は、より断固たるものであると同時に、より包摂的でなければならない。市民社会を排除し、グローバルサウスを周縁化したまま築かれる新たな国際秩序は、今日の危機に対応できなかった古い構造を、ただ再生産するにとどまるだろう。(原文へ

サミュエル・キングは、市民社会世界連盟CIVICUSで、ホライズン・ヨーロッパの資金提供を受ける研究プロジェクト「ENSURED(移行期の世界に向けた協力形成)」に携わる研究者である。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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アスタナのナウルズ舞踏会、外交・伝統・再生を鮮やかに体現

【アスタナThe Astana Timesアイマン・ナキスペコワ

カザフスタンの首都アスタナで3月16日、ナウルズ舞踏会が開催された。カザフスタンの豊かな歴史的遺産、民族の伝統、そして現代の社会発展を紹介しつつ、文化・人道対話の場としても機能した特別行事である。会場には、在カザフスタン外交団のメンバーをはじめ、国際機関や外国の協力機関の代表者らが集った。

テーマ別の展示では、ナウルズが「再生」「調和」「善行」「精神的伝統への敬意」を象徴する祝祭であることが外交関係者らに紹介された。来場者はまた、アルカン・タルトゥ(綱引き)や、羊の膝関節の骨を使った遊びであるアッスィク・アトゥなど、伝統的な遊戯や競技にも参加した。

アイダ・バラエワ副首相兼文化・情報相は、今年のナウルズの祝賀が、国内の大きな政治的出来事の直後に行われたことの象徴的意義を強調した。

Deputy Prime Minister and Minister of Culture and Information Aida Balayeva noted the symbolic significance of Nauryz celebration this year, which followed a major political event in the country. Photo credit: The Astana Times/ Nargiz Raimbekova
Deputy Prime Minister and Minister of Culture and Information Aida Balayeva noted the symbolic significance of Nauryz celebration this year, which followed a major political event in the country. Photo credit: The Astana Times/ Nargiz Raimbekova

「今年のナウルズは、わが国にとって重要な歴史的瞬間と重なった。まさに前日、国民投票が実施され、国民は新しい憲法を選び、国家発展の将来の方向性を定めた。国民は、公正、進歩、教育、科学、そしてイノベーションに基づく未来に票を投じた」と同氏は述べた。

バラエワ氏は、新憲法が社会発展に向けた新たな価値観を打ち立てており、その中には、歴史・文化遺産の保全や民族の伝統への敬意が、国家政策の重要原則として盛り込まれていると強調した。

「国民的アイデンティティーの保持、世代間の継承、そして文化的価値の次世代への伝達は、これらの憲法規範の深い意味を映し出している。文化遺産は単なる過去の記憶ではなく、国家の精神的基盤であり、社会を結びつける価値の土台でもある。カザフスタンは常に、諸民族の友好と文明間対話を重視してきた」と同氏は語った。

アリベク・バカエフ外務次官は、ナウルズが諸国を結びつけ、相互理解を強める文化外交の要素として果たす役割を強調した。

「ナウルズは、自然の再生と生命の刷新を象徴している。2009年には、ユネスコがナウルズを無形文化遺産の一覧に登録し、私たちの共有された遺産の重要な一部として認めた」と同氏は述べた。

Deputy Foreign Minister Alibek Bakayev highlighted the role of Nauryz as an element of cultural diplomacy. Photo credit: The Astana Times/ Nargiz Raimbekova
Deputy Foreign Minister Alibek Bakayev highlighted the role of Nauryz as an element of cultural diplomacy. Photo credit: The Astana Times/ Nargiz Raimbekova

バカエフ氏によれば、この祝祭が体現する再生、調和、創造という理念は、国際協力と対話の基盤を成す価値観そのものである。

会場ではまた、全国的に10日間にわたって行われるナウルズ祝祭「ナウルズナマ」の伝統も紹介された。プログラムでは、長い冬の後の挨拶と再会を祝うコリスの日、親切と慈善を重んじるカイリムドゥリクの日、そして文化と民族伝統の日など、祭りを構成するさまざまな日が取り上げられた。

さらに、子どもが初めて歩こうとする節目を祝う伝統儀礼トゥサウケスも披露された。この儀礼では、子どもの足に結ばれた特別なひもを切り、将来その子が優雅に歩み、すばやく走れるよう願いを込める。

国際移住機関(IOM)のセルハン・アクトプラク代表は、ナウルズが今なお文化的アイデンティティーの重要な一部であり続けていると語った。

Serhan Aktoprak, IOM Chief of Mission. Photo credit: The Astana Times/ Nargiz Raimbekova
Serhan Aktoprak, IOM Chief of Mission. Photo credit: The Astana Times/ Nargiz Raimbekova

「ナウルズは、今日そして未来に向けて、私たちを自らのルーツと結びつけてくれる。この祝祭は自然のよみがえりと季節の移り変わりを象徴しており、新たな循環の始まりを祝ううえで大きな意味を持つ」とアクトプラク氏は『The Astana Times』に語った。

同氏はさらに、ナウルズナマの各日にはそれぞれ独自の意味があり、それらが一体となって調和、団結、そして伝統の継承を映し出していると付け加えた。

Original URL:https://astanatimes.com/2026/03/nauryz-ball-in-astana-highlights-diplomacy-tradition-and-renewal/

INPS Japan/The Astana Times

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ベネズエラ、岐路に立つ

【ウルグアイ・モンテビデオIPS=イネス・M・ポウサデラ】

An image circulating online shows Venezuela’s president handcuffed and giving a thumbs-up, flanked by individuals in DEA jackets, amid unverified claims of a U.S. law-enforcement operation.
An image circulating online shows Venezuela’s president handcuffed and giving a thumbs-up, flanked by individuals in DEA jackets, amid unverified claims of a U.S. law-enforcement operation.

米特殊部隊は1月3日、カラカスの大統領公邸でニコラス・マドゥロ大統領と妻を拘束し、連行した。その過程で、ベネズエラの治安要員少なくとも24人と、キューバの情報要員32人が死亡した。

これを受け、ベネズエラの反体制派の一部は一瞬、希望を抱いた。2024年7月の選挙で敗れながら権力に居座り、民主的移行が阻まれてきた状況を、米国の介入がついに動かすのではないか――との見方が出たためだ。

だが、その期待は数時間で打ち砕かれた。トランプ大統領は、米国が今後ベネズエラを「運営する」と発表し、副大統領のデルシー・ロドリゲスが後任として宣誓就任した。主権は一度ならず二度、踏みにじられた。民意を簒奪した権威主義体制によって、そして国際法を意図的に破った外部勢力によってである。

冷笑的な介入

トランプ政権の下で、米国は民主主義を掲げる建前すら後景に退けた。介入は「麻薬対策作戦」を名目に正当化されたが、トランプはベネズエラの石油埋蔵量やレアアース(希土類)鉱床、投資機会への関心を隠さなかった。優先順位は一貫して、米国の地域覇権である。ベネズエラ国民の自己決定権への軽視も露骨だった。反体制派指導者マリア・コリナ・マチャドについて問われると、トランプは「敬意」や「指導力の器」に欠けるとして退けた。ベネズエラの民主化運動に対し、米国の関心は原則ではなく利害にある――そう受け取らざるを得ない発言であった。

map of venezuela
map of venezuela

皮肉にも、この介入は、マドゥロが長年の宣伝でも作り出せなかった効果をもたらし、反帝国主義の言説に再び勢いを与えた。ラテンアメリカの権威主義体制は従来、米国介入の脅威を口実に弾圧を正当化してきたが、それは主として過去の歴史に根差す主張でもあった。ところが今回、トランプはその「過去」を現在の現実に変え、独裁者たちに権威主義支配を継続するための格好の口実を与えた。

国際社会の反応も同様に示唆に富むものだった。国家主権を最も強く擁護したのは、中国、イラン、ロシアといった権威主義国家である。自国民の権利を日常的に侵害しているにもかかわらず、これらの国々は「ベネズエラの人々との連帯」を表明し、国際法の擁護者を自任した。戦後(1945年以降)の国際秩序の基礎原則を公然と踏みにじったのはトランプであり、その結果、世界でも最も抑圧的な体制の指導者たちが、相対的に理性的な存在に見えてしまう状況が生まれた。こうしてラテンアメリカ全域で政治議論の焦点も大きく移り、いまや問われているのは「ベネズエラの民主主義をいかに回復するか」ではなく、「次なる米国の軍事介入をいかに防ぐか」となっている。

権威主義は続く

一方で、ベネズエラの権威主義体制は崩れていない。マドゥロはニューヨークの法廷に立っているかもしれないが、彼を支えた構造――腐敗した軍、キューバ情報機関の浸透、恩顧主義のネットワーク、抑圧装置――は手つかずのままだ。ロドリゲスは選挙を避けるため、「マドゥロがいつでも戻り得る」との含みを口実に時間を稼ぎつつ、米企業との石油取引を水面下で進め、権威主義的支配の再強化を図る可能性が高い。ロドリゲスにとってもトランプにとっても、民主主義は資源権益の確保にとっての障害に映る。

ベネズエラの市民社会にとって、これは深刻なジレンマである。宣誓就任の場でロドリゲスは、自身を権力の座に押し上げた作戦を非難し、ベネズエラは「いかなる帝国の植民地にも二度となることはない」と誓った。国旗を前面に掲げ、体制の継続を「西側帝国主義への愛国的抵抗」と位置づけたのである。

この構図では、かねて民主化のための国際的圧力を訴えてきた反体制派の活動家は、外国勢力と結託する「反逆者」として描かれやすくなる。だがその一方で、ロドリゲス自身は、キューバ情報機関の関与やイランの石油関係者、ロシアの軍事顧問を受け入れてきた体制の中枢にいた人物でもある。しかも今や米国との石油取引を交渉し、民間投資を可能にする法改正まで約束することで、自ら掲げた「越えてはならない一線」を踏み越えつつある。

Evelis Cano, mother of political prisoner Jack Tantak Cano, pleads with the police for her son’s release outside a detention centre in Caracas, Venezuela, 20 January 2026. Credit: Gaby Oraa/Reuters via Gallo Images
Evelis Cano, mother of political prisoner Jack Tantak Cano, pleads with the police for her son’s release outside a detention centre in Caracas, Venezuela, 20 January 2026. Credit: Gaby Oraa/Reuters via Gallo Images
ベネズエラのためのベネズエラの解決策

ただし、体制には綻びの兆しもある。マドゥロの不在によって、与党内の摩擦が表面化した。たとえば、800人を超える政治犯の釈放要求にどう応じるかをめぐり、対応方針の対立が見えている。これは民主化勢力にとって、状況を動かし得る余地になり得る。

いまこそ民主的反体制派は、主導権を取り戻すべきだ。介入直後、政治犯の家族は収容施設の前で夜通しの抗議行動を行い、釈放を求めた。政府が応じたのは一部にとどまっている。市民社会はこうした声を増幅し、移行に必要なのは単なる「顔ぶれの交代」ではなく、抑圧装置の解体であることを明確にしなければならない。

市民社会組織の幅広い連合は、民主的移行への道筋を示す10項目の要求を発表した。求めているのは、政治犯の即時・無条件の釈放、不正規武装集団の解体、人権監視団と人道支援の制約のない受け入れ、そして何より、国際監視団の下での自由で公正な大統領選挙である。これらは石油契約の条件としてではなく、ベネズエラを代表すると名乗るいかなる政府にとっても譲れない最低条件として、国際社会が支持すべき要求である。

ベネズエラの民主勢力の前には、二つの道がある。トランプとロドリゲスが資源を切り分けるのを傍観し、周縁化を受け入れるのか。あるいは、この混乱の局面を利用して、真にベネズエラ自身の民主化の課題を前に進めるのか。必要なのは、マドゥロの権威主義とトランプの介入の双方を退け、ロドリゲス政権が主張するいかなる正統性も、米軍や石油契約ではなく、有権者の意思からのみ生まれるべきだと突きつけることである。だが、機会の窓は急速に閉じつつあるかもしれない。問われているのは、民主化運動がその瞬間をつかみ、長く希求してきた国を築けるのか、それとも他者に運命を委ねる「観客」にとどまるのか、である。(原文へ)

イネス・M・ポウサデラはCIVICUS(シビカス)調査・分析部長。CIVICUS Lens共同ディレクター兼ライターで、「市民社会報告書(State of Civil Society Report)」の共著者でもある。ウルグアイのオルト大学(Universidad ORT Uruguay)で比較政治学教授を務める。取材・問い合わせ:research@civicus.org

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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新たな植民地主義の時代

タンザニアの学校、クリーン・クッキング推進へ「エネルギークラブ」を設立

【タンザニア・ドドマIPS=キジト・マコエ】

いコック帽に色あせたエプロン姿のマリア・ジョセフさんが、タイル張りの厨房の床にしっかりと足を踏ん張る。巨大なアルミ鍋から立ちのぼる湯気のなか、彼女は両手で木製のへらを握り、鍋底で焦げつきかけた米を力強くかき返していく。|英語版

手首を返すたび、鍋底の米が上へと返され、規則正しく混ざり合っていく。米はやわらかな波のように揺れるが、鍋の縁からこぼれることはない。額には汗がにじみ、湯気が顔を包む。それでも彼女はひるまない。鍋の縁に沿ってへらを走らせ、正確な手つきで丁寧にこそげ取っていく。

だが、少し前まで、タンザニアの首都ドドマにあるブンゲ女子中等学校のこの厨房は、煙に包まれていた。空気は目を刺し、喉を締めつけた。昼になる頃には、パチパチと燃える薪の前に何時間も立ち続けたせいで、彼女の声はかすれていた。

「煙が本当にひどかったです」と彼女は語る。

「しかも、食事の準備にとても時間がかかっていました。」と振り返る。

その安堵の表情は、厨房の外へと広がる、より大きな物語を物語っている。

生徒たちによる働きかけ
SDGs
SDGs

ブンゲ女子中等学校は、クリーン・クッキング・エネルギーの普及を進めるより広範な取り組みの一環として、生徒主導の「エネルギー・クリーン・クッキングクラブ」を立ち上げた。これは、汚染をもたらす燃料からの脱却を目指す国の取り組みの中で、10代の女子生徒たちをその担い手の前面に据える試みである。この取り組みは、日々の暮らしの経験と政策改革を結びつけるものであり、持続可能な開発目標(SDGs)の理念とも密接に結びついている。

手頃でよりクリーンな燃料の普及を通じて、このクラブは目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を後押ししている。毎年数千人のタンザニア人の命を奪っている室内空気汚染に取り組むことで、目標3「すべての人に健康と福祉を」にも貢献する。また、薪集めや煙にさらされる負担が女性や少女に偏っている現状を和らげることで、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を支えている。

さらに、学校生活の中にエネルギー・リテラシーを取り入れることは、目標4「質の高い教育をみんなに」の達成にもつながる。木炭への依存を減らすことは、森林破壊の抑制を通じて目標13「気候変動に具体的な対策を」目標15「陸の豊かさも守ろう」に資する。政府、学校、民間の連携によって進められている点で、この取り組みは目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」も体現している。

このクラブの際立った特徴は、これまで省庁の会議室で語られてきたクリーン・クッキングの議論を、10代の少女たち自身の実践へと移した点にある。

Students of Bunge Girls Secondary School in Dodoma pose for a group photo during the launch of their Clean Cooking Energy Club, an initiative placing Tanzanian schoolgirls at the forefront of Africa’s transition away from polluting fuels. The student-led club links classroom learning to the global push for clean energy access, as governments and development partners intensify efforts to reduce household air pollution affecting 2.3 billion people worldwide. Credit: Kizito Makoye/IPS
バイオマス依存の高い代償

リチャード・ムサナ校長は、旧来の方式がもたらしていた負担をよく覚えている。

「薪を使っていた頃は、わずか3カ月で1050万タンザニア・シリング(約4000米ドル)を支出していました。学校にとって大きな負担でした」と彼は語る。

負担軽減を求めて、学校は改良型木炭へと切り替えた。煙はやや減ったが、費用は依然として高かった。

「改良型木炭でも、毎月約275万3334タンザニア・シリング(約1000米ドル)かかっていました」とムサナ校長は言う。
「それでも高すぎました。」

転機となったのは、政府のクリーン・クッキング推進策であった。エネルギー省の支援を受けた官民連携により、学校は液化石油ガス(LPG)システムを導入した。現在では、1トンのガスで2カ月間まかなえるという。

「ガスを使うことで、月々の費用は275万3334シリングから135万5300シリング(約500米ドル)にまで減りました」とムサナ校長は話す。
「大きな節約になっています。このエネルギーは利用者に優しく、特に調理師たちにとって助かっています。」

改修された厨房の内部では、すすで黒ずんでいた壁がきれいにされ、鍋はパチパチと燃える炭火ではなく、制御された青い炎の上で煮立っている。

再びコンロの前に立つマリアさんは、鍋のふたを持ち上げ、さらに勢いよく立ち上る蒸気を逃がした。

「この近代的なコンロで料理するのが好きです」と彼女は言う。
「煙が出ないし、もう目がかゆくなりません。」

国家目標

クラブ発足式で、サロメ・マカンバ・エネルギー副大臣は政府の目標を明らかにした。

Photo: Ms. Shefali Ghosh from Savar, near Dhaka, teaches her daugher in the kitchen. Credit: The World Bank
Photo: Ms. Shefali Ghosh from Savar, near Dhaka, teaches her daugher in the kitchen. Credit: The World Bank

「私たちの目標は、2030年までにすべての家庭とすべての施設がクリーン・クッキング・エネルギーを利用するようにすることです」と彼女は述べた。「クリーン・クッキング・エネルギーの利用率は、2021年の6.9%から、2025年現在では23.2%にまで伸びています。」

この取り組みは、まさに時宜を得たものである。2024年に開催された「アフリカ・クリーン・クッキング・サミット」では、汚染燃料からの転換を加速させるため、世界の指導者たちが過去最高となる22億米ドルの拠出を約束した。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界では依然として推計23億人が汚染燃料で調理している。サハラ以南アフリカでは、バイオマスへの依存が依然として支配的であり、森林破壊、室内空気汚染、炭素排出の増加を招いている。

タンザニアでは、施設部門の遅れが際立っている。学校、病院、刑務所など、1日100人以上に食事を提供する3万を超える大規模施設のうち、クリーン・クッキング・システムを導入しているのはわずか1136施設にすぎない。残る施設の多くは、依然としてバイオマスに頼っている。

教科書から台所へ

学校の中庭では、エネルギー・クリーン・クッキングクラブのメンバーたちが日常的に集まっている。ノートと計量カップを手に、木炭とガスでの沸騰時間を比較し、家庭で木炭にかかる費用を計算し、換気の悪い厨房で煙がどのようにたまるかを示す図を描いている。

「両親は、ガスは高すぎると思っています」と話すのは、5年生のレヘマ・マリヤさん。
「でも、毎週木炭にいくら使っているのかを見せると、考え方が変わり始めます。」

16歳のリリアン・マサウェさんにとって、この問題は個人的な意味を持つ。

「もし祖母がもっと良い調理用コンロを使っていたら、毎晩せき込むこともなかったはずです」と彼女は言う。

政府統計によれば、タンザニアでは伝統的な調理法に起因する家庭内空気汚染によって、年間推計3万3000人が命を落としている。最も大きな影響を受けるのは女性と子どもたちである。

薪集めは、女性や少女を暴力の危険にさらす。母親の背中におぶわれた乳児は、換気の悪い台所で有害な煙を吸い込む。多くの家庭にとって、木炭は好みではなく、貧困と限られたインフラによって選ばざるを得ない現実なのである。

転換を支える資金調達
Map of Tanzania
Map of Tanzania

当局者らは、鍵となるのは手ごろな価格だと指摘する。マイクロクレジットや従量払い方式を通じて、各家庭は改良型コンロやLPGシステムを、初期費用の全額を一度に支払うことなく導入できる。

この転換はまた、特に女性にとって、クリーン・クッキング技術の販売や整備に携わる経済的機会とも見なされている。

「クリーン・クッキングへの移行は、政府だけの事業ではありません」と、クラブ発足後にマカンバ副大臣は語った。
「市民、学校、宗教団体、地域の指導者たちの参加が必要です。」

一歩を踏み出す世代

再び学校の中庭。午後のベルが鳴っても、議論は続いていた。

「エネルギーは、単なる電気のことではありません」と、ある生徒は言う。
「健康や森林、気候、そして私たちの母親たちに関わることなのです。」

クラブのメンバーたちは各家庭からデータを集めており、その結果を地元当局に提示する計画である。多くの生徒にとって、この活動は極めて個人的な意味を持つ。

「煙がなぜ危険なのかを母に説明すると、母はこれまでとは違う受け止め方をしてくれます」と、クリーン・クッキング推進役の一人であるスザンナ・キボナさんは話す。

タンザニアのクリーン・クッキングへの移行は、単にコンロを置き換えることではない。それは、習慣を変え、知識を広げ、日々の暮らしを形づくる意思決定への参加を広げることでもある。

ブンゲ女子中等学校では、かつて政策決定者だけのものだった議論に、10代の少女たちが加わり始めている。彼女たちは、台所の煙を気候変動への公約と結びつけ、家庭の支出を国家の改革へとつなげている。

「私たちは、明日のより良いリーダーになるための準備をしています」とマリヤさんは語った。

This article is brought to you by IPS NORAM in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

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氷河湖拡大、決壊リスクの下で暮らすヒマラヤの村々

マナンの村々は、決壊の危険を抱える氷河湖の直下に暮らす

【マナンNepali Times=ドゥルガ・ラナ・マガル】

1月の淡い陽光を受け、湖面を覆う淡い緑色の氷が鈍くきらめく。半透明の凍結面の下には、暗い水が透けて見える。ネパール中部、マナスル山麓に広がるトゥラギ氷河湖(Thulagi Glacial Lake)である。気候温暖化の影響で拡大しており、ヒマラヤの氷河湖の中でも危険度が高い湖の一つに数えられる。

The Nepali Times
The Nepali Times

標高は4,050メートル。息をのむような景観が広がる一方で、その美しさは、拡大する湖が下流のマルシャンディ渓谷にもたらし得る脅威を覆い隠している。湖は全長4・5キロのトゥラギ氷河の末端に位置し、地元グルンの人々は「ドナ・タル(Dona Tal)」と呼ぶ。出現は1960年代にさかのぼるという。47歳の地元ガイド、チャンドラ・バハドゥル・グルン氏は、約20年にわたりトレッカーをここへ案内してきた。

Yaks graze below Thulagi Himal (7,059m) and Mt Manaslu (8,163m) along the Dona Khola that drains the lake.
トゥラギ・ヒマール(7,059m)とマナスル(8,163m)の麓を流れるドナ・コラ(Dona Khola)の周辺では、ヤクが草をはんでいる。

マナンのトゥラギ氷河湖は、気候変動の影響による決壊洪水(GLOF)の危険が指摘され、ネパールでリスクが高いとされる47の氷河湖の一つに数えられている。

「ドナは昔は小さかったが、いまは大きくなった。」グルン氏は、後退し縮小した氷河を指さしながら説明する。かつてはトレッカーも氷河の反対側へ回り込むことができたが、現在は氷河が池状の水たまりに覆われ、モレーン(堆積地形)から落下する岩も増え、危険が増しているという。

そして、淡々とこう付け加える。「この湖はいずれ、遅かれ早かれ決壊するだろう。」

トゥラギ湖を20年間案内してきた地元ガイド、チャンドラ・バハドゥル・グルン氏。

カトマンズに本部を置く国際総合山岳開発センター(ICIMOD)は、過去20年にわたりトゥラギ湖を調査してきた。1960年代の地形図や初期の衛星画像を見ると、当時の湖は現在よりはるかに小さかったことが分かる。

1994年、マルシャンディ水力発電プロジェクト建設時に、ドイツ地質・天然資源研究所とネパール水文気象局が湖を測量したところ、すでに湖の長さは2kmに達していた。近年の調査では、その後も拡大を続け、面積は現在1平方kmを超えたとされる。

ICIMODは2020年、湖の規模、地すべりや雪崩の可能性、そして「氷を核に持つモレーン堤」が徐々に崩壊していくリスクなどを理由に、ネパールとチベットにまたがる危険な氷河湖の一つとしてトゥラギを挙げた。

2018年には、ウメシュ・K・ハリタシャ(Umesh K Haritasya)氏が率いる氷河学者チームが、トゥラギ、ロウアー・バルン(Lower Barun)、イムジャ(Imja)の3つの氷河湖の変遷を扱った学術論文を発表した。1976年時点でも、トゥラギはクンブ地域のイムジャ氷河湖の2倍、ロウアー・バルンの6倍の規模があったという。チームは湖の深さを79mと測定し、水量は3,610万m³に達すると推計した。

Local guide Chandra Bahadur Gurung has been taking trekkers up to Thulagi Lake for 20 years.
Local guide Chandra Bahadur Gurung has been taking trekkers up to Thulagi Lake for 20 years.

その後、トゥラギは他の2湖に比べると増加ペースが緩やかだとされる。周囲の山の影で日射が抑えられること、狭い谷地形のため氷河の崩落(カービング)が相対的に少ないことが理由に挙げられている。

それでも、トゥラギが決壊洪水(GLOF)を起こせば、マルシャンディ川沿いの4つの水力発電事業と、ベシサハール(Besisahar)やドゥムレ(Dumre)などの集落に重大な危険をもたらすとして、科学者や専門家は長年警鐘を鳴らしてきた(地図参照)。

湖の水はドナ・コラへ流れ込み、やがてマルシャンディ川へ合流する。そのドナ・コラでは、49.9MWのドナ・コラ水力発電プロジェクトが、総事業費100億ルピーで建設中である。さらに同じ川で、42MWの「スーパー・ドナ・コラ」プロジェクトも計画されている。

「氷河湖決壊の引き金になり得る要因の一つは、急峻な側方モレーンだ。急速に融解する永久凍土によって弱体化する可能性がある」。2018年研究チームに参加したリーズ大学研究者スコット・ワトソン(Scott Watson)氏はそう話す。

住民は、まさにワトソン氏が指摘する変化を目撃している。数年前まではトゥラギの源流部に比較的容易に到達できたが、いまは氷や落石が増え、危険が高まっているという。

The 50MW Upper Marsyangdi Hydropower Project station in Lamjung. A Thulagi Lake outburst would damage four hydropower projects on the Marsyangdi and its tributaries.
ラムジュンにある50MWのアッパー・マルシャンディ水力発電所。トゥラギ湖が決壊すれば、マルシャンディ川本流および支流の4事業が被害を受ける恐れがある。
GLOF(氷河湖決壊洪水)警報

氷河学者のリジャン・バクタ・カヤスタ(Rijan Bhakta Kayastha)氏は1994年からトゥラギを研究しており、湖の末端モレーンが「上部は岩混じりの土壌、内部(核)は氷」という構造であることを突き止めたチームの一員でもある。

2020年、カヤスタ氏のチームは、想定されるGLOFの流下経路をモデル化した研究を公表した。湖が決壊した場合、洪水は2.5時間でダラパニ(Dharapani)に到達し、39km下流のバフンダンダ(Bahundanda)には4時間で達すると推定した。

洪水の波高はダラパニで13.7m、最も危険とされるタール(Taal)に達する時点では15mになるという。タールは、マルシャンディ川面からわずか数メートルの高さに位置するため、被害を受けやすい。

ただし研究は、次のようにも結論づけている。「トゥラギ氷河湖の規模と堤の大きさを考えると、落石や雪崩によってモレーン堤が破堤する可能性は低い。ただし地震や気候変動の影響については別途研究が必要である。現時点で、この氷河湖が直ちに、あるいは差し迫って決壊する兆候はない。」

2021年の記憶

マナン渓谷の住民の多くは、2021年にマルシャンディ川で起きた洪水の記憶をいまも引きずっている。洪水では、チャメ(Chame)やダラパニ、ナソ(Naso)、タールなどで家屋や集落の一部が流された。

ダラパニでマルシャンディ川沿いに育ったカマルカリ・グルン(Kamarkali Gurung)さんは、穏やかだった川が一変し、猛威を振るうとは想像もしなかったという。貯金を投じ、17室の3階建ての宿を建てた。洪水が襲った6月の夜、家族はたまたま外出していたが、宿は濁流にのまれた。

「スプーン一本すら残らなかった。すべて消えた」。カマルカリさんはそう語る。「宿を失うのは、愛する人を失うのと同じくらいつらかった。いまはマルシャンディ川が私の家の中を流れている。もう戻れない。」

〈生存者〉カマルカリ・グルンさんの宿は2021年の洪水で流失した。現在はダラパニの借家で宿を続けている。

同じくホテル経営者のスレンドラ・グルン(Surendra Gurung)さんも、洪水当夜ダラパニにいた。村へ押し寄せる轟音を、今も鮮明に覚えているという。「生きるか死ぬか分からなかった。」

シランタル(Sirantal)村は川面からわずか10mの場所にあり、洪水で壊滅した。32人が軍のヘリコプターで救助され、住民の多くは現在タールへ移転している。

シンハ・バハドゥル・グルン(Singha Bahadur Gurung)さんは20年間ロッジを営んでいた。

その一人、シンハ・バハドゥル・グルン(Singha Bahadur Gurung)さんは、シランタルで20年間ロッジを営んでいた。
「買う必要があったのは米くらいだった。シランタルの土はそれほど肥沃だった」と振り返る。

いま、彼の村があった場所をマルシャンディ川が流れている。「洪水以来、6月から8月に雨が降るたびに恐怖を感じる」

2021年の洪水は雨期に発生し、流域を襲った異例の豪雨が原因だった。しかし、もしマルシャンディ川で氷河湖決壊洪水(GLOF)が発生すれば、被害はさらに壊滅的になる可能性がある。

タールでホテルを営むロシュニ・ガレ(Roshni Ghale)さん(46)は、洪水で近隣の家々が飲み込まれるなか、家族とともに近くの洞窟へ逃げ延びた。「洪水後の半年間は生活を立て直すのに必死で、空腹のまま眠る夜も何度もあった」と振り返る。洪水から4年が経ち、観光は徐々に回復しているが、共同体の心の傷はいまも癒えていない。

ロシュニ・ガレさんは、2021年の洪水後、タールでホテルを再建するのに6か月を費やした。洪水から4年が経ち、観光は着実に回復している。

洪水後、政府は住民の移転・再定住について協議を始めたが、いまのところ「空約束」に終わっている。そもそも、観光業で生計を立ててきた経験豊富な宿主が多いこの地域で、人々は先祖代々の土地と共同体を離れ、別の場所で一からやり直すことに消極的だ。

2021年の洪水で被災したシランタルなどの住民の多くは、上流側のタールへ移転した。しかし、そのタール自体も同年の雨期洪水の被害を受けている。

シランタルなどの村々でマルシャンディ川の2021年洪水を生き延びた住民の多くは、上流にあるタール村へ移り住んだ。しかし、そのタールも同じ2021年のモンスーン洪水で被害を受けている。
防災の現実

マナンを含むネパール各地では、氷河湖決壊洪水(GLOF)のリスク評価や被害想定が重ねられ、警告も発せられてきた。にもかかわらず、マルシャンディ川沿いとタールに早期警報システムが設置されたのは、2021年になってからだった。

しかし、それ以外の備えは十分とは言えない。専門家は、早期警報と防災体制はマルシャンディ流域だけでなく、トゥラギ湖そのものと周辺でも不可欠だと指摘する。

住民の間でも、谷の奥で拡大する湖がもたらす危険への認識は高まりつつある。一方で、世代を超えて暮らしてきた家や共同体を離れることには強い抵抗がある。ドナ・コラの水力発電事業は雇用を生み、地元自治体はトゥラギ湖までのハイキング道を整備しており、湖は観光資源にもなりつつある。

「マナンでは雪が減り、雨が増えた。マルシャンディ川は流路を変え、予測が難しくなっている」。トゥラギが位置するナソ農村自治体ワード1の議長、ミン・ラシ・グルン(Min Rashi Gurung)氏はそう語る。

一方で、支援の動きも出てきた。グリーン・クライメート・ファンド(GCF)は2025年、トゥラギを含む5つの氷河湖でGLOFリスクを低減するため、3,610万ドルの無償資金協力(グラント)を承認した。事業は政府と国連開発計画(UNDP)が運営する。

ネパール水文気象局のディンカル・カヤスタ(Dinkar Kayastha)氏によれば、事業は次の会計年度に開始され、イムジャ湖やツォ・ロルパ(Tso Rolpa)で行われたのと同様に、トゥラギを含む4つの氷河湖で水位を下げるなどの対策が実施される予定だという。

Original URL: https://nepalitimes.com/multimedia/hotter-himalaya-melts-glaciers

INPS Japan/Nepali Times

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「『ディープフェイクによる虐待は虐待だ』―生成AIが広げる新たな児童搾取危機にユニセフが警鐘」

【国連IPS=オリトロ・カリム】

国連児童基金(ユニセフ)の新たな調査で、生成型人工知能(AI)を用いて、何百万人もの子どもの画像が性的に加工・改変される被害が広がっている実態が明らかになった。ユニセフは、強固な規制枠組みと、各国政府とテック・プラットフォームの実効的な協力がなければ、この拡大する脅威は次世代に壊滅的な影響を及ぼしかねないと警告している。

独立機関で、児童の性的搾取・虐待を追跡する「チャイルドライト(Childlight)・グローバル子ども安全研究所」の2025年報告書は、近年、テクノロジーを介した児童虐待が急増していることを示した。米国では、2023年に4700件だった関連事案が、2024年には6万7000件超へと跳ね上がった。これらの相当部分に、ディープフェイク(現実に見えるよう精巧に生成されたAI画像・動画・音声)が関与していたという。なかでも「ヌーディフィケーション(nudification)」と呼ばれる、AIツールで写真の衣服を剥いだように見せたり改変したりして、捏造の裸体画像を作り出す行為が広く拡散している。

UNICEF
UNICEF

ユニセフ、国際刑事警察機構(インターポール)、そしてECPATインターナショナル(End Child Prostitution in Asian Tourism=子どもの性的搾取に反対する国際組織)による共同研究は、11か国におけるオンライン上の児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の流通状況を調査し、過去1年だけで少なくとも120万人の子どもが、性的に露骨なディープフェイクに画像を加工される被害に遭ったと推計した。これは、およそ「子ども25人に1人」―「教室に1人」―が、すでにこの新たなデジタル虐待の犠牲になっていることを意味する。

「子どもの画像や身元が使われた場合、その子どもは直接、被害者である」とユニセフの担当者は述べた。「たとえ特定可能な被害者がいない場合でも、AI生成の児童性的虐待コンテンツは、子どもの性的搾取を『当たり前』のものとして正当化し、虐待コンテンツへの需要をあおり、支援が必要な子どもを特定し保護するという点で、法執行機関に重大な困難を突き付ける。ディープフェイクによる虐待は虐待であり、そこにもたらされる害は、決して『偽物』ではない」

英国の全国警察本部長協議会(NPCC)による2025年の世論調査は、2019年から2024年の間にディープフェイク虐待が1780%増加したと報告した。クレスト・アドバイザリーが実施した英国全土の代表性を備えた調査では、回答者の約59%(3人に2人近く)が、自分がディープフェイク虐待の被害者になることを懸念していると答えた。

さらに34%は、知人の性的または親密なディープフェイクを作成した経験があると認め、14%は、面識のない相手のディープフェイクを作成したと答えた。調査はまた、女性と少女が不均衡に標的にされていること、そして拡散の場として最も多いのがソーシャルメディアであることも示した。

研究では、ある人物が恋人の「親密な」ディープフェイクを作成し、本人にそれを明かしたうえで、口論の後に第三者へ拡散する、という想定事例も提示した。驚くべきことに、回答者の13%がこの行為を「道徳的にも法的にも容認できる」とし、さらに9%が「どちらでもない」と答えた。NPCCは、この行為を容認する傾向が、ポルノを積極的に消費し、「一般に女性蔑視とみなされ得る」信条に同意する若年男性ほど強い、とも報告した。

受賞歴のある活動家でインターネット著名人のキャリー=ジェーン・ビーチ氏はNPCCに対し、次のように語った。「私たちは極めて憂慮すべき時代に生きている。デジタル空間で早急に決定的な行動を取らなければ、娘たち(そして息子たち)の未来が危機にさらされる。安全策も、法律も、ルールもないまま育った子どもたちの世代があり、その『自由』が生んだ暗い波及効果を、いま目の当たりにしている」

ディープフェイク虐待は、子どもに深刻で長期的な心理的・社会的影響をもたらし得る。強い羞恥、不安、抑うつ、恐怖を引き起こすことが多く、ユニセフは新たな報告書で、ディープフェイク虐待によって子どもの「身体、アイデンティティ、評判」が、遠隔から、見えない形で、しかも恒久的に侵害され得ると指摘した。加害者による脅迫、恐喝、金銭要求につながるリスクもある。侵害の感覚に、デジタル内容の恒久性と拡散性が重なることで、被害者は長期的トラウマや不信感、社会的発達の阻害に直面しかねない。

「自分の画像が性的に加工されたコンテンツに改変されたと知ったとき、多くの子どもが急性の苦痛と恐怖を経験する」と、ユニセフの子ども保護専門官アフルーズ・カヴィアニ・ジョンソン氏はIPSに語った。「子どもたちは羞恥心や烙印(スティグマ)を訴え、それは自分のアイデンティティをコントロールできないという喪失感によっていっそう深まる。被害は現実で、長く続く。性的に加工されたディープフェイクとして描かれることは、子どものウェルビーイングに深刻な打撃を与え、デジタル空間への信頼を損ない、日常の『オフライン』の生活においてすら安全でないと感じさせる」

国際電気通信連合(ITU)電気通信開発局のコスマス・ザヴァザヴァ局長は、オンライン虐待が身体的被害へと転化し得る点も付け加えた。

「人工知能と子どもの権利」に関する共同声明で、ユニセフ、ITU、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連子どもの権利委員会(CRC)など主要な国連機関は、子ども、親、養育者、教師の間で、AIリテラシーが広く不足していると警告した。AIリテラシーとは、AIシステムの仕組みを理解し、批判的かつ効果的に関わるための基礎的能力を指す。この知識ギャップは若年層をとりわけ脆弱にし、被害者や周囲の支援者が、標的化の兆候を見抜き、通報し、十分な保護や支援サービスにつながることを難しくする。

国連はまた、責任の相当部分がテック・プラットフォーム側にあると強調し、多くの生成AIツールが、デジタル上の児童搾取を防ぐ実効的な安全策を欠いていると指摘した。

「ユニセフの見立てでは、ディープフェイク虐待が広がる一因は、法・規制の枠組みが技術の進展に追いついていないことにある。多くの国では、AI生成の性的に加工された子どもの画像が、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)として明確に認識されていない」とジョンソン氏は述べた。

ユニセフは各国政府に対し、CSAMの定義をAI生成コンテンツまで更新し、「その作成と流通の双方を明確に犯罪化」するよう求めている。ジョンソン氏によれば、テクノロジー企業には、同氏が「セーフティ・バイ・デザイン(安全性の組み込み)」と呼ぶ措置や、「子どもの権利への影響評価」を導入することを義務付ける必要がある。

ただし同氏は、法律や規制は不可欠である一方、それだけでは十分ではないとも強調した。「性的虐待や搾取を容認したり軽視したりする社会規範も変わらなければならない。子どもを効果的に守るには、より良い法律だけでなく、意識、執行、そして被害を受けた人への支援をめぐる実質的な変化が必要だ」

問題は、商業的インセンティブによってさらに複雑化している。AI画像ツールが生む利用者の関与、購読、話題性からプラットフォームが利益を得ることで、より厳格な保護策を導入する動機が弱まるためだ。

Grok logo 

その結果、テック企業がガードレール(安全策)を導入するのは、重大な社会的批判が噴出した後―子どもがすでに被害を受けた後―になりがちだ。例として挙げられるのが、X(旧ツイッター)のAIチャットボット「Grok」である。ユーザーのプロンプトに応じて、同意のない性的ディープフェイク画像を大量に生成していたことが判明した。国際的な反発が広がるなか、Xは1月、Grokの画像生成ツールをXの有料購読者に限定すると発表した。

ただしGrokをめぐる捜査は継続している。英国と欧州連合(EU)は1月以降、調査を開始し、フランスでは2月3日、検察が、CSAMとディープフェイクの流通にプラットフォームが関与した疑いに関する捜査の一環として、Xのオフィスを捜索した。Xのオーナーであるイーロン・マスク氏も事情聴取のため召喚された。

国連関係者は、AIシステムの成長や収益創出を認めつつも、子どもをオンラインで守る規制枠組みが不可欠だと強調する。「当初、彼らはイノベーションを阻害することを懸念しているように感じられた。しかし私たちのメッセージは極めて明確だ。AIを責任ある形で展開すれば、利益も出せるし、事業もできるし、市場シェアも取れる」と、国連の高官は語った。「民間セクターはパートナーである。だが望ましくない結果につながる動きが見えたときには、危険信号を出さなければならない」(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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