南アフリカでマラウイ人、ナイジェリア人、ジンバブエ人をはじめとするアフリカ諸国出身者を標的に広がった排外主義的な抗議行動は、人道危機を引き起こしただけでなく、いくつかの持続可能な開発目標(SDGs)の達成を危うくし、アフリカ大陸が掲げる「人の自由な移動」という理念にも深刻な打撃を与えている。
【マラウイ・ブランタイヤ IPS=チャールズ・ンパカ】
マラウイ政府は2026年8月12日、南アフリカで外国出身のアフリカ人を標的とした反移民暴力に巻き込まれていた自国民の帰還事業を完了したと発表した。マラウイ災害管理局によると、帰国した国民は5万6723人に上った。これは、約4カ月にわたって続いた異例の大規模帰還に終止符を打つものだった。約900台のバスが数万人をマラウイへ運び、中にはより良い暮らしを求めて南アフリカへ渡ってから数十年ぶりに故郷へ戻る人もいた。
マラウイ中部ドワ県出身のラヒム・アリさんも、7月下旬、そのうちの1台のバスに乗って帰国した。|英語版|
「ほっとしています。政府が無事に故郷まで連れ戻してくれたことに感謝しています」と、アリさんは8月2日、自宅の村からIPSの電話取材に答えた。

「南アフリカの状況はひどく、多くの人があの暴力から逃れる手段を持っていませんでした。」
現在33歳のアリさんが南アフリカへ渡ったのは2019年6月だった。父親を亡くして2年後、母親を亡くしてからは約4年がたっていた。2011年に中等教育を終えたものの、小規模なトウモロコシ農家だった両親には、大学など高等教育へ進ませるだけの余裕がなかった。
世界銀行の最新データによると、マラウイでは毎年最大27万人の若者が労働市場に参入する一方、国内経済が年間に生み出す正規雇用は約4万件にすぎない。
安定した仕事を見つけられなかったアリさんは、地元で他人のトウモロコシ畑やタバコ畑の開墾や収穫作業を請け負って生計を立てていた。2013年には資金を工面して理髪店を開き、携帯電話の充電サービスのほか、充電器やバッテリーも販売した。
収入は多くなかったが、それでも小さな家を借り、自活することはできたという。
しかし、2017年に父親が亡くなると、それまでの自立した生活は一変した。一家の長男として、2人の妹と弟の食費、学費、衣服代を負担しなければならなくなった。
「理髪店の収入だけでは、本当に厳しくなりました」とアリさんはIPSに語った。
そんな時、南アフリカへ渡った元同級生から一緒に来ないかと誘われた。アリさんはすぐに応じ、友人とともにヨハネスブルクのイチゴ農園で働き始めた。当時の賃金は週412ランドだった。

その後5年間、アリさんはいくつもの農場を渡り歩いた。
仕事は過酷だったという。監督者たちは「理由もなくむちでたたき、私たちには分からない言葉で罵倒した」。休憩はほとんどなく、病気で休めば賃金は支払われず、雇用の保障もなかった。
「それでも、同じような仕事をマラウイでするよりは給料が良かったのです」とアリさんは言う。
「それに、向こうは生活費がずっと安かったので、お金を貯めて弟や妹たちを支えることができました。」
2024年には、ソーラーパネルを販売するインド人経営の商店で助手として働き始めた。
しかし2026年5月、南アフリカ人の一団が店に押しかけ、経営者に対し、そこで働いている他のアフリカ諸国出身者を解雇するよう要求した。
仕事を失ったアリさんは、生活必需品を買うことも家賃を払うことも難しくなった。やがて家主から退去を命じられ、マラウイ領事館に避難していた同胞たちに加わった。そこでマラウイ政府による帰国手続きが進められていた。
「マーチ・アンド・マーチ(March and March)」運動に動員された南アフリカ市民は、2026年4月から6月にかけて外国人を住宅や職場から追い出した。彼らは、この取り締まりについて、不法滞在者を排除することが目的だと主張した。
南アフリカでこうした排外主義的な暴力が起きたのは、今回が初めてではない。
2008年には、2週間にわたる反移民暴力で60人以上の外国人が死亡し、少なくとも10万人が国内各地で避難を余儀なくされた。
2019年には、南アフリカのトラック運転手組合から分裂した一派が、外国人トラック運転手を排除するよう要求し、数百台のトラックに放火した。
南アフリカ国内の排外主義的差別を監視する「Xenowatch」によると、2022年から2025年にかけて、406件の排外主義的な襲撃事件が記録され、そのうち75件で死者が出た。2025年だけでも151件に上った。
2026年1月から5月までには22件が確認され、そのうち14件が暴力を伴うものだった。

最新の暴力が激化するなか、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、南アフリカ国民の経済的不満につけ込んだ「便乗者」が抗議行動をあおっていると述べた。また、この暴力は外国人に対する南アフリカ政府の政策を反映するものではないと強調した。
一方でラマポーザ大統領は、不法移民が国内の住宅や医療制度に負担を与えているとも指摘し、政府として「法の枠内で」対応していくと述べた。
Xenowatchの共同創設者、ローレン・ランドー氏は、南アフリカ政府は排外主義的暴力に対し、実効性のある対応を取っていないと指摘する。
「政府はまず、『これは外国人嫌悪ではなく、不満や誤情報、犯罪者の問題であり、それに対処する』と言います。しかし同時に、マーチ・アンド・マーチが提起した問題の一部、つまり国境管理の強化、国外退去の拡大、職場管理の強化については対応すると言っています。」
「実際、政府はそうした措置を進めています。しかし、2008年以来続いてきた行進やその他の動員を主導してきた人々の責任を追及することはしていません。」
ランドー氏はIPSの電話取材にこう語った。
外国人に対する恐怖と暴力を仕組み、実行した者たちの責任を問わなければ、彼らは今後も自らの利益や権力獲得の手段として移民を利用し続けるだろう、とランドー氏は警告する。
今回の排外主義的襲撃の深刻さと、その結果としての大規模な帰還は、南アフリカのアフリカ大陸における評判を「大きく傷つけ」、労働、貿易、投資を通じた地域統合の取り組みを後退させたという。
「個々の人々が犠牲になったことに加え、マラウイ、モザンビーク、レソトなどに対して、『自国民は自国で面倒を見て、自分たちの問題は自分たちで解決しろ』と言わんばかりの政府の発言も、極めて侮辱的だと思います」とランドー氏は述べた。
研究論文「南アフリカの外国人嫌悪とSDG8実現の現実(Xenophobia in South Africa and the Realities of Actualising SDG 8)」を執筆したケスター・チュウマ・オノール氏は、南アフリカがこの問題を解決しない限り、他国との平和と協力を確立することは難しく、とりわけ「働きがいも経済成長も」を掲げるSDG8の達成は困難になると論じている。

ほかの研究でも、外国人嫌悪は「貧困をなくそう」を掲げるSDG1を脅かすと指摘されている。
ジャスティス・K・ムシャ氏とエリック・ブランコ・ニイトゥンガ氏は、論文「南アフリカ国家開発計画とSDGsの障壁としての外国人嫌悪(Xenophobia as a Barrier to South Africa’s National Development Plan and SDGs)」の中で、排外主義的襲撃は外国人起業家の事業を打撃し、雇用喪失や失業率上昇を引き起こし、経済成長にも悪影響を及ぼすと論じている。
汎アフリカ調査ネットワーク「アフロバロメーター」が最近実施した調査では、アフリカ人の56%が、他国で生活し働くために国境を越えて自由に移動できることを支持していることが分かった。
一方、少なくとも40%は、国内の雇用やその他の機会を守るため、国境を越えた人の移動を制限する方が望ましいと回答した。
アフロバロメーターの研究者で、マラウイ大学の政治学者でもあるボニフェース・ドゥラニ氏は、今回の南アフリカからの大規模な外国人排除により、アフリカ市民の間では、地域および大陸レベルで進められてきた統合や国境を越えた自由な移動という理念が「紙の上だけのもの」にすぎないとの印象が強まるだろうと指摘する。
さらにドゥラニ氏は、今回の暴力を組織した人物を南アフリカ政府が逮捕・起訴していない背景には、選挙を意識した政治的判断があるとみている。南アフリカでは2026年11月に地方選挙が予定されている。
「重要な選挙の年で政治情勢が不安定になっていることを考えれば、政府が動かないのは、厳しい対応を取れば一部野党勢力に政治的に利用されかねないという観点から理解する必要があります」とドゥラニ氏は語った。
その後、南アフリカ内務省は、少なくとも8万2000人の外国人の帰国を支援するために支出したとして、約3億ランド(約1900万ドル)の費用をマラウイ、エチオピア、ナイジェリアに返済するよう求めた。
ランドー氏によれば、この要求は、抗議行動後に地域諸国との関係を再構築していくとしたラマポーザ大統領の発言と真っ向から矛盾する。
「その後になって請求書を送りつけるというのは侮辱です。まさに、倒れている人をさらに蹴るようなものです。しかし、これは国内向けの政治的な行為であり、政府が南アフリカと南アフリカ国民の利益を最優先していると示すために行われています。」
ランドー氏は、南アフリカ側も実際には各国が支払うとは考えていないとみている。
一方、マラウイでは、政府によると約500万ドルを要した大規模帰還事業の最中、国会議員から、有効な書類を持たずに非正規雇用を求めて南アフリカへ渡るマラウイ人を禁止すべきだとの提案も出された。
アリさんは2019年に南アフリカへ渡った際、パスポートを所持していた。ベイトブリッジ国境検問所で入国した際には、30日間のビザが押されていた。
「問題は、そのビザが切れてからです」とアリさんは言う。
「雇用主は、こちらが当局に訴えられないことを知っているので、労働者の権利を平気で侵害します。当局に訴えるということは、不法滞在・不法就労している自分自身を逮捕してくれと差し出すようなものだからです。」
アリさんに南アフリカへ戻るつもりはない。
南アフリカで働いていた間、故郷の町に将来家を建てるための土地を購入していた。現在、その土地を売りに出し、その資金で小さな商売を始めようとしている。
「うまくいってほしいです」とアリさんは語った。
「もう、あの暴力は十分に見ました。」
Note: This article is brought to you by IPS Noram in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International in consultative status with ECOSOC.

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