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アマゾンの心臓部で―COP30と地球の運命

【ワシントンDC=アショカ・バンダラゲ】

筆者が最近ブラジルを訪れたのは、第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)がベレンで開催された時期と重なっていた。私は会議そのものには参加しなかったが、幸運にもアマゾンを訪れる機会を得た。

それは、自然の神秘と静寂、そして生命の循環――世界最大の熱帯雨林であり、地球最大の流域を誇るアマゾン川によって支えられる生命のうねり――を体感する、畏敬と謙虚さに満ちた体験だった。

壮大な森と川、その支流である黒い水をたたえたリオ・ネグロなどには、無数の相互依存する生物が生息している。巨大なサマウマの木――“生命の木”と呼ばれるセイバノキ――は、他の木々やツタ、植物の上にそびえ立つ。

多くの木々は鳥や動物のすみかとなり、枝や根元に巣が作られる。ナマケモノは巣を作らず、一生を森林の樹冠で過ごし、枝にぶら下がって眠る。
一方、フサオマキザルやリスザルは食べ物を求めて枝から枝へと飛び移り、鳥たちは――最小のショウビタキから、鮮やかな赤冠や緑、黒のアマゾンカワセミまで――それぞれの獲物を狙いながら枝々を飛び回る。夜が訪れると、白い羽をもつフクロウに似た美しいグレート・ポトゥが現れ、獲物をじっと待つ。

川では、銀色のトビウオが群れをなして水面を飛び、虫を捕まえる。灰色やピンクのイルカは魚を追いながら、あるいは遊びながら水面に浮かび上がる。岸辺では、白鷺が誇らしげに立ち、クロカイマンやメガネカイマンが獲物を待ち伏せる。上空では、インコを含む鳥の群れが空を歌で満たし、ハゲワシが地上の死骸を求めて舞い降りる。

アマゾンと人間

人間もまた、数万年前から他の生物と密接な共生関係を保ちながらこの地に暮らしてきた。森で狩りをし、川で魚をとり、生き延びてきたのだ。アマゾン川沿いの岩に刻まれたペトログリフ(岩刻画)は、人間と動物の姿や抽象的な模様を描き、自然への深い敬意と、人々の間の精神的な交流を伝えている。

今日でも、アマゾンに暮らす多くの先住民コミュニティは、母なる地球を守ることに献身的であり、自然中心の価値観と伝統的な生活様式を守り続けている。

また、アマゾン川沿いには「ヒベリーニョス(川の民)」と呼ばれる人々も暮らす。彼らは先住民とポルトガル人の混血が多く、川の上に浮かぶ家や高床式の家で生活している。その生業と文化は川と森に密接に結びついており、アマゾンの保護は彼らの生存に直結している。

森林喪失の現実

アマゾンは2001年から2020年の間に約5420万ヘクタール(総面積の9%以上)を失った。これはフランスに匹敵する広さである。中でもアマゾンの62%を占めるブラジル領が最も被害を受け、次いでボリビア、ペルー、コロンビアが続く。森林伐採に加え、アマゾンでは年間4,000~6,000種の動植物が失われていると推定されている。

IPS Team at COP30
IPS Team at COP30

COP30

先週ベレンで開かれたCOP30の開会式で、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は、「アマゾンでの森林伐採は過去2年間で半減しており、気候変動への具体的な行動は可能だ」と述べた。そして「美辞麗句や善意の時代は終わった。ブラジルのCOP30は“真実と行動のCOP”である」と強調した。

「COPは優れた理念を披露する場や交渉者の年次集会であってはならない。現実と向き合い、気候変動に実効的に取り組む場でなければならない」とも述べた。

また、ダ・シルバ大統領は、ブラジルが植物や藻類、廃棄物などから得られる再生可能エネルギー――すなわちバイオ燃料――の生産で世界をリードしていると指摘し、「化石燃料に依存する成長モデルは持続できない」と警告した。実際、COP30では世界の熱帯雨林と生命維持に不可欠な生態系、そして人類と他の生物が共有する気候の未来が問われている。

「真実と行動」

しかし、ベレンでの楽観的な発言にもかかわらず、ブラジルや世界では依然として懸念すべき動きが続いている。

COP30に先立ち、2025年10月にブラジル政府はインド、イタリア、日本とともに、2035年までに世界の持続可能燃料使用量を4倍にすることを目指す「ベレン4×(フォーバイ)」誓約を打ち出した。この目標は現在のバイオ燃料消費量を2倍以上にするものだ。

しかし環境保護団体は、十分な環境保全措置を伴わない大規模なバイオ燃料拡大は、森林伐採の加速、土地や水資源の劣化、生態系の破壊、さらには食料安全保障への脅威をもたらすと警鐘を鳴らしている。大豆、サトウキビ、パーム油などの作物が「食料か燃料か」の土地争奪を引き起こすおそれがあるからだ。

さらにCOP30直前、ブラジル政府は国営石油会社ペトロブラスに対し、アマゾン川河口付近での石油掘削を許可した。環境相マリーナ・ダ・シルバ氏を含む政府は、この事業がエネルギー転換を支え、経済発展の目標達成に寄与すると主張している。

しかし環境団体はこれを強く批判し、「化石燃料拡大を促進し、地球温暖化を悪化させる」と非難した。世界最大の熱帯雨林という炭素吸収源の沿岸での掘削は、生物多様性やアマゾン地域の先住民共同体に深刻な脅威を及ぼすと警告している。

環境活動家によれば、アマゾンでは「先住民族の土地3,100万ヘクタールがすでに石油・ガス開発区画と重なっており、さらに980万ヘクタールが鉱山採掘の脅威にさらされている」という。

COP30開催都市の矛盾

また、COP30の開催準備の一環として建設されたベレン市内の4車線高速道路「アベニーダ・リベルダージ」も論争を呼んでいる。ブラジル政府は人口増に対応するための必要なインフラだと擁護するが、環境団体や一部住民は、100ヘクタール以上の保護林を伐採して建設を進めることが、森林破壊を加速させ、野生生物を脅かし、COPの気候目標を損なうと批判している。

地球規模の責任

「地球の肺」とも呼ばれるアマゾン熱帯雨林を守る責任は、ブラジルだけに負わせるべきではない。それは人類全体が共有すべき責任である。多くの研究は、化石燃料やバイオ燃料に頼らずとも、太陽光、風力、水力といった代替エネルギー源を活用すれば世界は十分に持続できることを示している。

世界秩序を主導してきた米国や他の先進国は、気候・環境危機、そして世界的不平等の拡大に対して主要な責任を負っている。一方、新興国――特にブラジルを含むBRICS諸国――には、いまこそ言葉を超えて具体的行動に踏み出すことが求められている。ダ・シルバ大統領自身が述べたように、COP30はその方向へと果敢に踏み出す決定的な機会である。

COP30に参加する交渉官と政策立案者たちは、化石燃料業界からの圧力に屈することなく、短期的利益ではなく地球と人類の未来を優先し、倫理的かつ原則的な行動を取らなければならない。(原文へ)

アショカ・バンダラゲ博士は、『Women, Population and Global Crisis』(Zed Books, 1997)、『Sustainability and Well-Being: The Middle Path to Environment, Society and the Economy』(Palgrave Macmillan, 2013)などの著作をはじめ、地球政治経済と環境をテーマに多数の論文を発表している。近著に「The Climate Emergency and Urgency of System Change」(2023)および「Existential Crisis, Mindfulness and the Middle Path to Social Action」(2025)がある。現在、宗教間気候倫理行動ネットワーク(Interfaith Moral Action on Climate)の運営委員を務めている。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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カザフスタン共和国大統領直属カザフスタン戦略研究所(KazISS)副所長にダウレン・アベン氏が就任

【アスタナINPS Japan/ KazISS】

ダウレン・アベヌリ・アベン氏が、カザフスタン共和国大統領直属カザフスタン戦略研究所(KazISS)の副所長に任命された。新職務では、アベン氏が、グローバル動向、外交、国際安全保障に関する同研究所の分析業務の統括を担う。

アベン氏は1997年にカイナル大学を国際関係専攻で卒業し、1999年には同大学で修士課程を修了した。2003年には米国モントレーにあるミドルベリー国際大学院(Middlebury Institute of International Studies at Monterey)で国際政策研究の修士号を取得。2011年にはアル=ファラビ・カザフ国立大学で博士課程を修了している。

これまでに、中央アジア・プロジェクト研究グループのプロジェクト・マネジャー(1997~2001年)、ジェームズ・マーティン不拡散研究センター地域事務所(アルマトイ)のプログラム・コーディネーター兼事務局長(2003~2009年)、アル=ファラビ・カザフ国立大学の認証・ランキング部門長(2008~2010年)、そして KazISS 外交・国際安全保障部の上級研究員および部長代行(2011~2014年)など、多くの要職を務めてきた。

また、ヌルスルタン(現アスタナ)のナザルバエフ大学教育大学院で上級マネジャー兼研究員、ホジャ・アフメト・ヤサウィ国際カザフ=トルコ大学ユーラシア研究所で上級研究員を歴任。2023年2月からは KazISS の国際安全保障部長を務めてきた。

アベン氏の研究分野には、核不拡散、核セキュリティ、輸出管理に加え、中央アジアおよびコーカサス地域の安全保障と協力の様々な側面が含まれる。これらのテーマについて、多くの学術論文を発表している。

必要であれば常体(原文へ

INPS Japan

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【ローマIPS=カーロス・ズルトゥーサ】

エフムディ・レブシルが命からがら砂漠を50キロ以上歩いたのは、彼が17歳のときだった。半世紀を経た今も、このサハラウィ難民は、かつてスペイン領だった西サハラの故郷に戻れていない。

1975年11月6日、モロッコ軍が同地に侵攻してからわずか6日後、数十万人のモロッコ市民が軍の護衛のもと南へと向かった。「グリーン・マーチ」と呼ばれたこの行進は、実質的には侵略であり、サハラウィの土地に対する軍事占領の始まりだった。

国連は、長年神聖視してきた原則―「人民の自決権」―を事実上棚上げした。それは30年以上にわたり、サハラウィ問題への国連の対応を支えてきた基本的な枠組みである。

「アフリカ最後の植民地」とも呼ばれる西サハラは、英国本土ほどの広さを持ち、いまだ非植民地化を待つ唯一のアフリカの領土である。だが今年10月31日、その目標はさらに遠のいた。

モロッコの侵攻から50周年にあたり、国連安全保障理事会はモロッコ政府の「自治案」を支持する決議を採択し、モロッコの領有権主張に重みを与えた。

砂漠の難民キャンプからの声

レブシルはアルジェリア西部ティンドゥーフの難民キャンプから、ビデオ会議でIPSの取材に応じた。アルジェから南西へ約2,000キロ、夏には気温60度に達する過酷な砂漠地帯―ここが50年間、サハラウィの人々にとって「故郷に最も近い場所」となっている。

「私たちは選択を迫られた。難民としてアルジェリアに留まるか、それとも国家の仕組み―省庁や議会―を築くか」と、現在ポリサリオ戦線の幹部代表となったレブシルは振り返る。1973年に設立されたポリサリオ戦線は、国連により「サハラウィ人民の正統な代表」と認められている。

1975年にティンドゥーフに到着した彼は、キャンプでの学校設立を任され、その後キューバに留学するサハラウィ学生の監督役を務め、10年間サハラウィ議会で活動し、さらにサハラ・アラブ民主共和国(SADR)の司法・文化両省でも要職を担った。

A man walks past a mural in the Tindouf camps in Algeria, where the Polisario Front has managed life in exile while building state institutions. Credit: Karlos Zurutuza / IPS

同共和国は1976年2月、議会において宣言された。
「100年に及ぶスペインの支配の後、スペイン政府が我々を見捨てて去るとは想像もしていなかった。」と彼は語る。「もはや後戻りはない。独立国家を築くか、さもなくば我々の民は滅びるだけだ。」

ポリサリオが1976年に独立を宣言した後、国連はサハラウィの自決権を再確認した。しかし1991年に設立された「西サハラ住民投票監視団(MINURSO)」は、設立目的であった住民投票をいまだ実施していない。

侵攻を目撃した者たち

トマス・バルブロもまた、モロッコ軍の侵攻時に17歳だった。ラバトから南へ1,100キロの西サハラ首都ラユーンに駐留していたスペイン軍兵士の息子で、侵攻の3か月前にマドリードへ帰国していた。

「サハラウィの人々は、ナパーム弾や白リン弾の攻撃、迫害、追放、天然資源の体系的な略奪、そして数十万人の入植者によるアイデンティティの抹消の試みに耐えてきた。」と、ジャーナリストであり『禁じられたサハラ史』(Destino社、2002年)の著者でもある彼は語る。

バルブロは膠着状態の責任を「モロッコの強硬姿勢と、それを黙認してきた安保理主要国」にあると指摘し、「国連はモロッコ政府に屈服した」と批判する。

皮肉なことに、国連自体もモロッコの主権を正式には認めていない。占領地域は1963年以来「非自治地域リスト」に掲載されたままであり、法的には西サハラの非植民地化は「未完」のままである。

Mohamed Dadach in Laayoune, the capital of occupied Western Sahara. Released in 1999 after 24 years in prison, he is known as the “Sahrawi Nelson Mandela.” Credit: Karlos Zurutuza / IPS

「巨大な野外刑務所」

UNHCRによれば、アルジェリアの砂漠キャンプには17万〜20万人のサハラウィが暮らしている。一方で、モロッコ支配下にある地域の実情を把握するのはさらに難しい。モロッコ政府はサハラウィ民族の存在自体を公式に認めていないからだ。

ノーム・チョムスキー氏のような識者は、この地を「巨大な野外刑務所」と呼ぶ。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は7月の報告書で、モロッコが2015年以降、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の訪問を拒否していると指摘した。

「OHCHRは、特に自決権を訴えるサハラウィ個人に対して、脅迫、監視、差別といった人権侵害の訴えを受け続けている」と報告書は述べている。

国際人権団体も、厳しい制限の中で弾圧の実態を記録し続けている。アムネスティ・インターナショナルの2024年報告書は、モロッコ当局が「西サハラでの反対意見や結社・平和的集会の自由を抑圧し、平和的抗議を暴力的に弾圧している。」と非難した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、裁判所が「警察による拷問で得られたとされる自白のみに基づき、活動家に長期刑を言い渡している。」と指摘した。

36歳のアフメド・エタンジは、占領地で最も著名なサハラウィ人権活動家の一人だ。彼はこれまで18回逮捕され、繰り返し拷問を受けてきた。

ラユーンからの電話取材に対し、彼は「国際NGOが与えてくれる注目だけが、私を刑務所やそれ以上の悲劇から守っている。」と語る。

「50年にわたり、軍事封鎖、超法規的殺害、あらゆる形の弾圧が続いている。行方不明者は数千人、逮捕者は数万人に上る。大国の経済的利害は、いつも人権より優先されてきた」と彼は述べた。

それでもエタンジは希望を失っていない。
「占領下で生まれた私たちは、本来なら最もモロッコに同化しやすい世代と見られていた。しかし現実は違う。自決への願いは若者の間で確かに生き続けている。」

Sunset on a beach in occupied Western Sahara. In addition to a coastline rich in fishing resources, Sahrawis watch helplessly as Rabat exploits the rest of their natural wealth with the complicity of powers like the US, France, and Spain. Credit: Karlos Zurutuza / IPS

「サハラ自治地域」構想

国連が事実上支持を与えたモロッコの「自治案」は、この50年間で唯一の政治的提案だ。2007年に初めて提示され、2020年にはトランプ政権が支持を表明した。

「サハラ自治地域」がどのように機能するのかは曖昧なままで、地方行政・司法・経済面での権限に関する言及があるのみだ。

ポリサリオ戦線はこの案を拒否しているが、それによってサハラウィが自らの未来を決める機会が近づいたわけではない。

多くのサハラウィにとって、安保理がこの決定をモロッコ侵攻50周年の記念日に下したことは、偶然ではなく「計算された侮辱」と映った。

植民地支配の続く地で

バスク人の母を持ち、初期の避難民を支えた看護師の娘でもあるガラジ・ハチ・エンバレク氏(47)は、ポリサリオ戦線創設メンバーの一人の子でもある。彼女は半生をかけて、学校や大学、市議会などあらゆる場で、西サハラの声を届けてきた。

スペイン北部ウレチュ(マドリードの北約400キロ)で行われたIPSのインタビューで、彼女は失望を隠さなかった。「積極的な抵抗は極めて困難で、モロッコのロビーは今も強力です。」と彼女は嘆く。

「何でもありの時代に生きていますが、これは正義でも合法でもありません。平和の名のもとに進められているのは、不正を正当化することにすぎないのです」と述べ、「新たな連帯を築く必要がある」と強調した。

「植民地主義は終わっていません。私たちは、アフリカ最後の植民地で続く誤った統治の犠牲者にすぎないのです。」(原文へ

INPS Japan

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国連、スーダンの残虐行為を非難 RSFがエルファシルを制圧、病院攻撃で数百人死亡(アハメド・ファティ)

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

【国連ATN=アハメド・ファティ】

スーダンでの人道危機は、同国の準軍事組織RSF(即応支援部隊)が北ダルフール州の州都エルファシルを制圧した後、集団殺害、病院攻撃、大規模な住民避難が発生し、かつてないほどの惨状に陥っている。

国連は「国際人道法の継続的な違反」に対して強く非難を表明し、民間人を標的とした残虐行為が確認されつつあると警告した。

国連報道官ステファン・ドゥジャリック氏は、「エルファシルのサウジ産科病院で、患者と付き添いを含む460人以上が殺害されたという悲惨な報告に、国連は衝撃を受けている。」と述べた。

UN Spokesperson Stéphane Dujarric
UN Spokesperson Stéphane Dujarric

この攻撃は、医療従事者を狙った襲撃や拉致が相次ぐ中で発生し、2023年4月の紛争勃発以来、最も暗い局面の一つとなった。

世界保健機関(WHO)によると、これまでに医療施設に対する攻撃が185件確認され、医療従事者や患者を含む1,200人以上が死亡、416人が負傷している。今年だけで49件の攻撃により約1,000人が殺害されたという。

避難と絶望

国際移住機関(IOM)は、日曜から火曜の間に3万6,000人以上がエルファシルから逃れ、ケブカビヤ、メリト、タウィラなど近隣地域に避難したと報告した。

多くの人々が屋外で避難生活を送っており、避難所も衛生設備もない状態だ。女性や少女が性的暴力や虐待の危険にさらされているとの報告もある。

高齢者や負傷者、障害者など数千人が依然として市内に取り残されており、不安定な治安と交通手段の欠如により避難できない状況にある。

UN Emergency Relief Coordinator Tom Fletcher
UN Emergency Relief Coordinator Tom Fletcher

国連緊急援助調整官トム・フレッチャー氏は、ダルフールおよびコルドファン地域での人道支援のため、国連中央緊急対応基金(CERF)から新たに2,000万ドルを拠出すると発表した。今年初めにも2,700万ドルが拠出されている。

それでもドゥジャリック氏は、「民間人、人道支援要員、医療従事者は常に保護されなければならない。」と警告した。

WFP職員の国外追放

事態をさらに悪化させているのが、スーダン外務省による世界食糧計画(WFP)幹部2名―カントリーディレクターと緊急対応コーディネーター―の国外追放である。理由は明らかにされていない。

ドゥジャリック氏はこの決定を「深刻に懸念する」と述べ、現在2,400万人以上のスーダン国民が深刻な食糧不安に直面しており、多くの地域が「飢饉の影響を受けている」と指摘した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW):RSFによる「大量虐殺」と民族標的

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の独自調査によると、10月26日にRSFがエルファシルを掌握した後、「逃げ惑う民間人への無差別虐待」が蔓延しているという。

検証済みの映像には、RSF戦闘員が民間人を処刑し、遺体の上で歓声を上げ、負傷者を嘲笑する様子が映っている。HRWはこれを「RSFによる一連の大量残虐行為の典型的な特徴を示す」と指摘した。

HRWの暫定事務局長フェデリコ・ボレッロ氏は、「エルファシルから届く恐ろしい映像は、RSFによる過去の大量虐殺の記録と酷似している。世界が緊急に行動を起こさなければ、民間人がさらなる残虐行為の犠牲となる」と警告した。

HRWはこれまでにも、西ダルフールでRSFによる大量処刑や民族的標的、人道に対する罪を記録しており、その行為がマサリート族など非アラブ系住民を標的にしたジェノサイドにあたる可能性があると警告している。

行動を求める声の高まり

UN High Commissioner for Human Rights Volker Türk

国連人権高等弁務官フォルカー・トゥルク氏は、「エルファシルでさらなる大規模な民族的動機による人権侵害や残虐行為が発生する危険が日々高まっている」と警告した。

HRWは国連安全保障理事会に対し、RSFの指導者モハメド・ハムダン・ダガロ(通称ヘメティ)および副指導者アブデル・ラヒーム・ハムダン・ダガロに対して標的制裁を課すよう求めた。さらに、RSFの主要支援国とされるアラブ首長国連邦(UAE)に対し、民間人攻撃を停止させるよう圧力をかけるべきだと呼びかけた。

HRWと独立系ジャーナリストによる調査では、UAEが関与する武器供与や、ラテンアメリカ出身のスペイン語を話す外国人傭兵がRSF部隊と共にダルフールで活動している実態も明らかになっている。

終わりの見えない危機

スーダンでの紛争はすでに19か月目に入り、数百万人が避難を余儀なくされ、世界最悪級の人道危機を引き起こしている。全地域が飢饉の瀬戸際にある。

度重なる国際社会の停戦呼びかけにもかかわらず、RSFは安保理決議を無視し続け、ダルフール全域で勢力を拡大する一方、政府軍は後退している。

国連本部でドゥジャリック氏は重苦しい言葉で締めくくった。
「スーダンの人道的ニーズはかつてないほど深刻だ。前例のない飢餓、前例のない治安の崩壊、そして前例のない苦難が続いている。」(原文へ

INPS Japan/ATN

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/un-condemns-atrocities-in-sudan-as-rsf-seizes-el-fasher-hundreds-killed-in-hospital-attack

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【ブラジル・ベレン/南アフリカ・ヨハネスブルクIPS=セシリア・ラッセル】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、地球の平均気温上昇を1.5℃以内に抑えるために最も欠けているのは「政治的勇気」であると警告した。「最大の障害は政治的勇気の欠如だ。多くの約束が停滞している。多くの企業が“気候破壊”から記録的な利益を上げている。そして多くの指導者が、国民の利益ではなく、化石燃料利権の虜になっている」と、グテーレス事務総長はブラジル・ベレンで開かれたCOP30首脳会議の開会全体会合で述べた。

彼は、気候破壊によって巨額の利益を得ている勢力を名指しで批判した。
「莫大な資金がロビー活動や世論操作、進展の妨害に使われ、あまりに多くの指導者がこうした既得権益に囚われている」と述べた。

グテーレス氏は、世界気象機関(WMO)のセレステ・サウロ事務局長の発言を引用した。彼女は全体会合でこう述べている。
「例外的な高温の連続という警告すべき傾向が続いています。2025年は観測史上2番目か3番目に暑い年になる見込みです。過去3年間はいずれも記録的な高温でした。これは、私の2歳の孫が生まれた世界です。」

サウロ氏は、この気温上昇に伴う問題を挙げた。
海洋熱の過去最高更新による海洋生態系や経済への打撃、海面上昇、南極・北極の海氷面積の記録的低下などである。
私たちはもはや、破壊的な気象を例外としてではなく、日常の一部として目にしている。わずか数分で数か月分の雨が降り、地上の河川は“天空の川(大気河川)”へと変貌する。極端な高温や火災、そして先週のハリケーン・メリッサのような“異常にエネルギーを帯びた熱帯低気圧”が地球を襲っている。

「不平等を克服せずして、気候変動は抑えられない」― ルラ大統領

ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は、気候変動を引き起こした根本的な条件を変えなければならないと訴えた。

開会演説でルラ大統領は次のように語った。
「気候変動とは、何世紀にもわたって私たちの社会を分断し、富裕層と貧困層、先進国と途上国とを隔ててきた同じ力学の結果である。
国内外の不平等を克服せずして、気候変動を抑えることは不可能だ。」

「気候正義とは、飢餓や貧困との闘い、人種差別やジェンダー不平等との闘い、そしてより代表性と包摂性のある地球規模のガバナンスを推進するための同盟者である」と強調した。

ルラ氏はまた、今回の気候会議をアマゾンの中心地ベレンで開催するという決定を「大胆な選択だった」と述べた。

「人類は、IPCC最初の報告書が発表されて以来35年以上にわたり気候変動の影響を認識してきた。しかし、化石燃料からの脱却と森林破壊の停止・反転の必要性を初めて公式に認めるまでには28回もの会議を要した(=2023年のドバイ会議)」と回顧した。

さらに、バクーからベレンへと引き継がれた「ロードマップ」に言及し、次のように続けた。
「2035年までに年間少なくとも1兆3000億ドル規模に気候資金を拡大すべきだと認めるまでに、さらに1年を要した。」

「困難や矛盾に直面するだろうが、公正な方法で計画を立て、森林破壊を逆転させ、化石燃料依存を克服し、これらの目標を達成するための資金を動員するために、私たちはこのロードマップを必要としていると確信している」と述べた。

科学は「警告」だけでなく「解決策」も示している

グテーレス氏とサウロ氏は共に、温度上昇を示す科学は同時に解決策も提示していると強調した。

Credit: United Nations
Credit: United Nations

サウロ氏はこう述べた。
「科学は単に警鐘を鳴らしているのではありません。私たちが適応できるよう支援しているのです。再生可能エネルギーの導入はかつてないスピードで進んでいます。気候インテリジェンスを活用すれば、クリーンエネルギーシステムを信頼性・柔軟性・強靱性のあるものにできます。」

グテーレス氏も気候危機への即応の必要性を改めて訴えた。
「多くの国々が適応のための資源を欠き、クリーンエネルギー移行から締め出されている。そして多くの人々が、自国の指導者が行動することへの希望を失いつつある。私たちは、もっと速く、そして共に前進しなければならない。この会議を“加速と実行の10年”の出発点としなければならない。」(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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中央アジア:混乱から恒久平和へ

【London Post=エルドル・アリポフ】

平和は、ときに紛争が地域のアイデンティティに深く刻み込まれた場所にこそ見いだされることがある。中央アジアのフェルガナ盆地は、その最たる例である。かつてはウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの間で争いの火種となっていたこの肥沃な地は、現在、世界でも有数の平和構築モデルとして注目されている。

長年にわたり、フェルガナ盆地はポスト・ソ連時代の分断の深い傷跡を象徴してきた。国境封鎖、断続的な緊張、過激思想の台頭、そして国境線によって引き裂かれた共同体――。状況はあまりに深刻で、多くの政治評論家がこの地域を「中央アジアのアキレス腱」と呼んだ。

しかし今日、三国政府の実務的なリーダーシップのもと、かつて対立していた地域社会は国境を越えて交流を深め、貿易を拡大し、十年前には想像もできなかった信頼の雰囲気を共有している。

London Post.

この変化は偶然ではない。競争やゼロサム思考よりも協力と共通の繁栄を優先する「政治的実務主義」が原動力となった。その中心にいるのがウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領である。彼の改革志向かつ地域重視の政策は、中央アジアの進路そのものを再定義した。彼は第80回国連総会でこう語っている。
「閉ざされた国境、未解決の紛争、対立の時代は過去のものとなった。今日、私たちは“新たな中央アジア”の形成を始めている。」

その言葉は行動に移された。2025年3月に署名された「永遠の友情に関する宣言」と「国境接点に関する条約」は、長年の不信を終結させる歴史的な合意となった。ミルジヨエフ大統領の指導のもと、ウズベキスタンは開放政策、国境和解、共同開発プロジェクトを推進し、フェルガナを協力の肥沃な地へと変貌させた。その実務的なアプローチ――貿易、交通網、人と人との交流に焦点を当てた政策――は、隣国のキルギスやタジキスタンにも波及し、協調の精神を共有する動きを促している。

かつて紛争の原因であった限られた共有資源、特に水資源は、いまや政治的合意の中核となっている。アムダリヤ川やシルダリヤ川流域の資源共有を保証する協定が近年相次いで締結され、2025年5月には作付期における水分配に関する合意も成立した。これは一方的な利用競争から、ルールに基づく協調への転換を意味する。農民にとっては綿花や果実作物の安定した灌漑を意味し、国境村の住民にとっては紛争の減少と安定の向上を意味している。

フェルガナ盆地の人々にとって、これらの変化は古き良き共生の時代の復活でもある。共同体の記憶は、古代シルクロードの時代まで遡る。当時フェルガナは隊商と商取引の十字路であり、多様な民族が土地と水を分かち合い、寛容と相互依存の精神で共存していた。ウズベクの学者が「調和のコード」と呼ぶその精神は、決して消え去ったわけではなく、ただ長く沈黙していただけだった。

その調和の精神は、今月初めて開催された「フェルガナ平和フォーラム」で再び示された。ミルジヨエフ大統領の提唱により実現したこの会議には、地域の政治指導者や草の根のコミュニティが参加し、「中央アジアの平和は外部勢力によってではなく、自らの指導者と人々の手によって築かれる」という強いメッセージを世界に発信した。女性団体や若者組織などの積極的な参加も、平和構築にはすべての声が反映されるべきであるという重要な理念を体現していた。

Map of Central Asia
Map of Central Asia

フォーラムの中心では、フェルガナ平和フォーラムを常設のプラットフォームとし、今後はキルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの順に開催地を持ち回りとすることを呼びかける共同声明が採択された。また、フォーラムの枠組みの下で、初の「キルギス・ウィンティマク(団結)の日」が共同開催され、地域の一体感をさらに強めた。

平和は繁栄をもたらす――それはよく知られた真理である。フェルガナ盆地は、今や10年前には想像もできなかった経済変貌の只中にある。国境制限に縛られていた往時とは異なり、現在のフェルガナは繊維産業、農業、越境貿易の活発な中心地となり、地域全体の要として機能している。ウズベキスタン領フェルガナ地域の地域総生産は過去8年間で4倍に増え、現在は約200億ドルに達している。同期間に輸出額は2.4倍の27億ドルに拡大し、キルギスおよびタジキスタンとの越境貿易も3倍の16億ドルに達した。2017年から24年の間に投資総額は312億ドルに上り、約100万人の雇用を創出、貧困率は13.9%から8.6%に低下した。

紛争が世界各地で再燃するなか、フェルガナ盆地の静かな成功はより広く注目されるべきである。中央アジアはもはや世界の周縁ではない。実務的リーダーシップ、地域協力、そして「共に生きる」という人々の意志が、平和構築の新たな教訓を世界に示している。

エルドル・アリポフ博士(政治学博士/ウズベキスタン大統領付属戦略・地域研究所長)

INPS Japan

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ニューヨーク新市長マムダニ氏―多文化の尊厳のために

【ニューヨークIPS=ナウリーン・ホサイン】

ニューヨーク市長選は、まるで米国大統領選挙のような熱気で世界の注目を集めた。そして火曜日夜、ゾーラン・マムダニ氏が圧勝を収め、米国社会が不安と混迷の時代を経て新たな希望を見出した瞬間となった。彼は今後、世界で最も裕福で注目度の高い都市の一つであるニューヨーク市を率いることになる。

水曜朝から、筆者のSNSには、ニューヨークどころか米国外に住む友人や家族までもがマムダニ氏の勝利を自分の街の出来事のように祝う投稿であふれた。これは、彼がソーシャルメディアを通じて展開した効果的な発信によるもので、その「本物であること」を基盤とするブランドと理念は、ニューヨークの枠を超えて多くの人々に響いた。

マムダニ氏の選挙戦と勝利は、まるで現代の寓話のようであった。州内でも知名度の低かった一地方議員から、わずか1年で世界的に知られる人物となったのである。

草の根運動と、既成政治が避けてきた新たな戦術を駆使しながら、彼の陣営は人口構成の多様性を特徴とする広範な連合を形成していった。彼は現政権への挑戦者として、信念と理念を貫き、同じ政党内の旧勢力からの抵抗にも立ち向かった。

その勝利は「誰もがよりよい人生を追求できる自由と機会を持つ」というアメリカン・ドリームの再確認でもある。マムダニ氏は、団結と共感を基盤とした信念を貫きながら、いくつもの歴史的偉業を成し遂げた。市史上初のイスラム教徒の市長、初の南アジア系市長、そして100年以上ぶりに最年少の市長である。

彼の魅力の中核にあるのは、生活費の負担を軽減する政策、インド系ウガンダ移民を父に持つイスラム教徒としての背景は、「より良い生活」を求めて母国を離れた移民たちに深く響いた。アメリカン・ドリームは、本来「繁栄は受け継ぐものではなく、追求するもの」という理念であり、経済的機会と市民的自由を守る国という理想を掲げてきた。

しかし現実には、移民たちは高騰する生活費の中で基本的な生活を維持するために苦闘している。その点において、マムダニ氏は彼らの苦しみを真に理解していると感じさせた。彼の語る希望のメッセージは、人々が自らの姿を彼の中に見出せるような共感を生んだ。

信仰や経験不足を攻撃する中傷的な言説にも、マムダニ氏は一歩も引かず、自らのアイデンティティを損なうこともなかった。多くの移民が同化を選ぶ中で、彼は「本物であること」こそが今の時代に最も重要だと証明してみせたのである。

次期市長となる彼には、都市の生活をより手頃にするという公約を実現する責任がある。同時に、その信念が単なる選挙戦略ではなかったことを証明しなければならない。国連本部を擁する「世界の首都」ニューヨークにとって、これほど国際的視野を持つ市長はふさわしい存在と言える。

彼は国内政治家でありながら、国際的な視野を持つ人物である。その傾向は彼の家庭にも表れている。妻はシリア系アメリカ人移民であり、両親もそれぞれ文化・学術の分野で著名な人物だ。

父マフムード・マムダニ氏は、ウガンダ出身の政治学者で、ウガンダ、南アフリカ、セネガル、そして米国コロンビア大学などでポストコロニアル研究を教えてきた。

母ミーラー・ナイール氏はインドの映画監督で、『モンスーン・ウェディング』『ミシシッピ・マサラ』などの代表作で知られる一方、北東インドのガロ先住民族を描いたドキュメンタリー『Still, the Children Are Here』など社会派作品も手がけている。同作は国連国際農業開発基金(IFAD)と共同制作された。

このように彼の家系は恵まれた文化的背景を持つが、それゆえにこそ社会正義への意識が高く、変革と誠実さを掲げた彼の政治的スタンスにもその影響が見て取れる。

近年、社会の分断と不確実性が深まり、既存の問題解決をより困難にしている。国連も例外ではない。開発と繁栄のために全てのコミュニティを包摂するという理想を掲げながらも、資金不足や政治的意思の欠如、加盟国間の利害対立のために行動が制約されている。

国連は「原則的中立性」を掲げ、世界の多様な課題を取り上げ、平和で包摂的な対話を促進する。しかし加盟国の利害が絡むため、しばしば強い立場を取ることができないという限界を抱えている。

その意味で、国連とニューヨーク市は共通点を持つ。どちらも構成員によって形づくられ、時に一部の影響力が全体の行方を左右する。

だからこそ、マムダニ市長のような人物から国連が学ぶべき点は多い。彼は「国内課題を国際的視野で捉えることが有益である」ことを実証している。希望を原動力とし、「尊厳ある生活を当然の権利として求める」姿勢を持つことが、変化をもたらす力になるということを、彼の当選は私たちに思い起こさせる。(原文へ

INPS JAPAN/IPS UN Bureau Report

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【国連IPS=タリフ・ディーン

「世界は気候変動との闘いを諦めたのか?」──これは最近、ニューヨーク・タイムズが皮肉を込めて投げかけた修辞的な問いである。

NGO「グローバル・オプティミズム」の創設パートナー、クリスティアナ・フィゲレス氏は「そう見えるかもしれない」と語る。なぜなら、「ドナルド・トランプ米大統領が化石燃料を賛美し、ビル・ゲイツ氏が気候保護よりも子どもの健康を優先し、石油・ガス企業が数十年先まで増産計画を立てている」からだという。

しかしそれが全てではないと、フィゲレス氏は指摘する。世界人口の8割から9割が、より強力な気候対策を望んでいることを、Covering Climate Nowの加盟報道機関が報じてきた。再生可能エネルギー技術への投資額は化石燃料の2倍に達し、太陽光発電と再生型農業はグローバル・サウスで急速に拡大しているという。

一方、ホワイトハウスによれば、米国はCOP30に高官を派遣しない予定だ。

グリーンピース・インターナショナルの活動家、ジョン・ノエル氏はIPSの取材に対し、現政権はクリーンエネルギーの未来に対する主導権と影響力を他国に譲り渡していると語った。「悲劇的だが驚くことではない。しかし我々米国からベレンへ向かう者たちは、パリ協定を支持する幅広い世論を背景に確固たる立場にある。私たちはこれまで以上に決意を固めている」とノエル氏は述べた。

連邦政府の支援が欠如する中でも、汚染者負担原則(polluter pay)や州レベルのクリーンエネルギー奨励策など、地方自治体レベルでの取り組みには道が残されていると指摘する。

「COP30の世界の指導者たちは、野心的な気候目標を採択し、2030年までに森林破壊を終わらせ、公正なエネルギー移行を進めなければならない。気候行動を止めてはならない」とノエル氏は訴えた。

国連気候サミット・ベレン会議の首脳級会合で、アントニオ・グテーレス国連事務総長は11月6日に次のように述べた。

「厳しい現実は、私たちは1.5度以内に抑えるという目標を守れていないということだ。」

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

「科学は今、早ければ2030年代初頭から1.5度の一時的な超過が避けられないと告げている。我々はこの超過の規模と期間を制限し、できるだけ早く引き下げるためのパラダイム転換を必要としている。」

たとえ一時的な超過でも、その影響は壊滅的である。生態系を不可逆的な転換点へ押しやり、数十億人を生存不可能な環境にさらし、平和と安全保障への脅威を増幅させる可能性がある。

「気温上昇のわずかな差が、さらなる飢餓、移住、喪失を意味する。とりわけ責任が最も少ない人々にとって。これは道徳的な失敗であり、致命的な怠慢である」と警告した。

それでもグテーレス事務総長は「国連は1.5度目標を決して諦めない」と宣言した。

再生可能エネルギー技術は急速に進歩している一方で、政治的意思は弱まりつつあり、現在の努力では大幅な温暖化を防ぐには不十分とされている。例えば、メタン排出削減の誓約も、新たな国連報告書によれば達成が困難と見られている。

オークランド研究所のアヌラダ・ミッタル事務局長はIPSの取材に対し、「政府、特に気候危機に最も責任を負う西側諸国が、温室効果ガス削減義務を果たしておらず、途上国への支援も不十分であることを非常に懸念すべきだ。」と述べた。また、「同じ政府や世界銀行のような金融機関が、排出削減にまったく効果のない炭素市場といった偽りの解決策を推進していることも憂慮すべきだ」と指摘した。

また、現在起きている「重要鉱物」採掘の新たなブームは「エネルギー転換のためではなく、軍事・通信・電気自動車など各種産業における鉱物の支配をめぐる国際的な争奪戦。」であることも強調した。

リチウムコバルトといった鉱物の大量供給は、新たな環境破壊と人権危機を引き起こすことになる。「政府は真のエネルギー転換に向けて責任ある選択を行い、資源を浪費し多大な排出を生む軍事部門の拡張を止めるべきだ。」と訴えた。

現状のガソリン車を電気自動車に単純置換することは不可能である。もし現在のEV需要を2050年まで投影すれば、米国市場だけで世界全体の3倍のリチウムが必要になる。

「個人用車両の数とサイズを減らし、公共交通や低炭素型の移動手段を整備する積極的な政策が必要だ」とミタル氏は述べた。

グテーレス事務総長は11月4日にカタールで開いた記者会見で、「各国政府はCOP30(ブラジル)に、今後10年間で自国の排出量を削減する具体的な計画を携えて臨み、気候危機の最前線に立つ人々への気候正義を実現しなければならない」と強調した。

彼は「先週ハリケーン・メリッサによる壊滅的被害を受けたジャマイカを見てほしい」と例を挙げた。

クリーンエネルギー革命は、排出削減と経済成長の両立が可能であることを示している。しかし、途上国はいまだにその移行を支える資金と技術を欠いている。

「ブラジルでのCOP30では、2035年までに年間1兆33000億ドルの気候資金を動員する信頼できる計画を合意しなければならない。先進国は、適応資金を今年少なくとも400億ドルに倍増させるという約束を果たすべきだ。また、損失と被害基金(Loss and Damage Fund)にも十分な拠出を行う必要がある」と述べた。

「COP30は転換点となるべきだ。世界が野心と実施のギャップを埋める大胆で信頼できる行動計画を示す場所にしなければならない。2035年までに年間1.3兆ドルの気候資金を動員し、すべての人に気候正義をもたらすために。1.5度への道は狭いが、まだ開かれている。人類、地球、そして共通の未来のために、この道を生かし続けよう」とグテーレス氏は結んだ。

オックスファムとCARE気候正義センターの新しい共同調査によると、途上国は気候資金の「借金返済」において、受け取る額以上を先進国に返している。つまり、5ドルを受け取るごとに7ドルを返済しており、資金の65%が融資形式で供与されている。

この「危機の商機化(crisis profiteering)」は、債務負担を悪化させ、気候行動を妨げている。加えて、開発援助の大幅削減により、気候資金はさらに減少し、気候災害の被害を最も受ける貧困層を裏切る結果となっている。

報告書の主なポイント:

先進国は2022年に1,160億ドルを動員したと主張するが、実際の実質価値は280〜350億ドルに過ぎず、約3分の1にとどまる。

資金の約3分の2は融資であり、多くは通常の金利で提供されているため、気候資金がむしろ途上国の債務(現在3兆3,000億ドル)を増大させている。フランス、日本、イタリアが特に悪質な例として挙げられている。

最貧国(LDCs)は全体の19.5%、小島嶼開発途上国(SIDS)はわずか2.9%しか受け取っておらず、その半分以上が返済義務付きの融資である。

先進国はこれらの融資から利益を得ており、2022年には途上国が620億ドルの融資を受けた一方で、880億ドルの返済が見込まれ、債権者に42%の「利益」をもたらしている。

気候資金のうちジェンダー平等促進に特化したものはわずか3%にすぎない。

オックスファムの気候政策リード、ナフコテ・ダビ氏は「先進国は気候危機を道義的責任ではなく、ビジネスチャンスとして扱っている」と批判した。「これらの国々は、これまで傷つけてきた人々に金を貸し付け、脆弱な国々を借金の罠に陥れている。これはまさに危機の商機化だ。」と述べた。

このような失敗は、1960年代以来最悪の開発援助削減の中で起きている。OECDデータによると2024年に9%減少し、2025年にはさらに9〜17%の削減が見込まれている。

化石燃料に起因する気候災害の影響は深刻さを増しており、アフリカの角で数百万人が避難し、フィリピンでは1,300万人、ブラジルでは2024年だけで60万人が洪水被害を受けた。こうした地域社会は急速に変化する気候への適応に必要な資源をますます失っていると、報告書は結論づけている。(原文へ

INPS Japan

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市民社会が沈黙させられる中、腐敗と不平等が拡大

【ブラワヨ/バンコクIPS=ブサニ・バファナ】

バンコクの街頭からワシントンの権力中枢に至るまで、異議を唱える市民社会の空間が急速に縮小している。権威主義体制は反対派を沈黙させているが、それによって結果的に腐敗を助長し、不平等を拡大させていると、世界的な市民社会連合が警告している。

警告を発したのは、世界市民社会連盟(CIVICUS)事務総長のマンディープ・ティワナ氏である。彼は「市民社会が権力者にとって脅威とみなされつつあるという憂慮すべき傾向がある。」と指摘する。

CIVICUSによると、権威主義政権による弾圧の波が腐敗と不平等の拡大を直接的に引き起こしているという。
「現在、世界における民主主義の質は非常に低い水準にある」とティワナ氏はIPSの単独インタビューで語った。「そのため、市民社会組織は権威主義的指導者にとって脅威と見なされ、攻撃の結果として腐敗が増大し、包摂性が失われ、公的生活の透明性が低下し、社会の不平等が拡大している」。

同氏の発言は、11月1日から5日まで開催される第16回「国際市民社会ウィーク(ICSW)」を前にしたものである。CIVICUSとアジア民主主義ネットワーク(ADN)が主催する同会議には、活動家、市民団体、学者、人権擁護者など1300人以上が参加し、市民の行動力を高め、強固な連帯を築くことを目的としている。ICSWは、数々の困難にもかかわらず市民的自由を守り抜き、顕著な成果を上げた活動家や運動に敬意を表する場でもある。

世界の7割超が「抑圧」か「閉鎖」状態

CIVICUSモニター(CIVICUSと20以上の団体による共同調査)によると、198の国と地域のうち116で市民社会が攻撃を受けており、表現・結社・平和的集会の自由が大きく制限されている。
「市民社会の活動家や組織のリーダーであることが、かつてなく危険になっている」とティワナ氏は語る。「政府は、透明性を求めたり有力者を批判したりする団体への資金提供を止め、多くの組織が資金難に陥っている」。

CIVICUSは市民的自由を「開放」「限定」「阻害」「抑圧」「閉鎖」の5段階で分類している。驚くべきことに、世界人口の70%以上が「抑圧」または「閉鎖」の国で暮らしているという。「これは民主主義的価値、権利、説明責任の後退を意味する」とティワナ氏は述べた。

弾圧の道具とその影響

Protests at COP27 in Egypt. Mandeep Tiwana, Secretary General of CIVICUS Global Alliance, is hopeful that COP30, in Belém, Brazil, will be more inclusive. Credit: Busani Bafana/IPS
Protests at COP27 in Egypt. Mandeep Tiwana, Secretary General of CIVICUS Global Alliance, is hopeful that COP30, in Belém, Brazil, will be more inclusive. Credit: Busani Bafana/IPS

今回のICSWは「市民の行動を祝福する――今日の世界における民主主義、権利、包摂を再構築する」をテーマに開催される。

政府は多様な手段で異議を封じている。国際資金を受け取る市民団体を阻止する法律を制定する一方、国内資金も制限している。さらに、政府を監視し透明性を促す団体の独立性を奪う法制度も導入されている。
「権力に真実を突きつけ、高位の腐敗を暴き、ジェンダー平等や少数派包摂など社会変革を求める者は、烙印、脅迫、長期拘禁、暴行、さらには殺害といった深刻な迫害に直面する」と同氏は語る。

多国間主義の崩壊と一国主義の台頭

ティワナ氏は、国際法と多国間主義の崩壊が市民社会の権利を脅かしていると警鐘を鳴らす。
「パレスチナ、コンゴ、スーダン、ミャンマー、ウクライナ、カメルーンなど、世界各地で政府は国際規範を無視している。権威主義体制は他国の主権を侵害し、ジュネーブ条約を軽視し、市民への攻撃や拷問、迫害を正当化している」と述べた。

このような多国間体制の崩壊により、人権よりも狭義の国益を優先する「取引型外交」が台頭している。強国同士が公的政策を操作して富と権力を増大させるなか、市民社会が。その腐敗関係を暴こうとすると、攻撃の標的にされる。

「権力者と富裕層が結託し、公共政策を自らの利益のために歪めている。その結果、こうした腐敗を暴こうとする市民社会が攻撃されている」とティワナ氏は述べ、メディアやテクノロジー分野の大部分が寡頭勢力に支配されている現状を懸念した。

中国やルワンダなど、体制は異なれどもともに強力な権威主義国家であり、市民社会による説明責任の追及に敵対していると指摘した。さらに2025年のドナルド・トランプ米大統領の再登場が「米国民主主義の基盤を打ち砕いた」と批判し、「米国はもはや国際的に民主的価値を支援せず、国内でもメディア攻撃や市民社会の資金削減が進んでいる。」と述べた。

その影響は世界に波及し、エルサルバドル、イスラエル、アルゼンチン、ハンガリーなどで同様の弾圧が強まっているという。

抵抗は続く

弾圧や脅威にもかかわらず、市民社会は権威主義体制に抗して闘い続けている。ネパールやグアテマラの大規模な反腐敗デモ、バングラデシュやマダガスカルでの民主化運動などがその例である。
「人々は信じるもののために立ち上がり、隣人が迫害されているときに声を上げなければならない。平和的な抗議を通じて不正義に立ち向かう勇気を失ってはならない」とティワナ氏は訴える。

気候変動交渉への市民社会の参加制限について、同氏はブラジルで開催されるCOP30に希望を見出している。「これまでのCOPは、アゼルバイジャン、UAE、エジプトといった“石油国家”で開かれ、市民社会が抑圧されてきた。しかし、ブラジル政府は民主的価値を重んじ、市民社会を交渉の場に迎え入れるだろう」と述べた。

ただし、問題は会議後にあると指摘する。「発表される削減目標が野心的であっても、それを実行する政府が市民社会や国民の福祉を顧みない場合、意味を持たない」。

若者が示す希望と課題

若者たちは希望の灯をともしている。フライデーズ・フォー・フューチャーやブラック・ライブズ・マターなどの運動は、連帯と統一行動の力を示してきた。しかし、これほどの抗議行動にもかかわらず、同規模の変化は起きているのか? ティワナ氏は「残念ながら、世界では軍事独裁が増加している」と認めた。国際社会が人権や民主的価値を擁護する意欲を失いつつあるためだという。

「紛争、環境破壊、極端な富の集中、高位の腐敗はすべて相互に関連している。より多くを所有しようとする人間の欲望が根底にある」と彼は語る。

世界の優先順位を問う

ティワナ氏は世界の矛盾をこう指摘する。「現在、世界の年間軍事費は2.7兆ドルに達する一方で、7億人が毎晩空腹のまま眠りについている。」

「私たち市民社会は、こうした腐敗した関係構造を暴こうとしている。平等、公正、平和で持続可能な社会を築くための闘い―これこそCIVICUSが最も重視する課題であり、国際市民社会ウィークで議論していくテーマである。」と結んだ。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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【国連IPS=ナウリーン・ホセイン】

近年、核保有国の指導者たちは核不拡散に関する規範やルールを無視し、「力の誇示」という名の下に、より公然と核の威力を誇示するようになっている。

先週、米国とロシアは相次いで核兵器に関するメッセージを世界に発した。10月27日、ウラジーミル・プーチン大統領は、従来のミサイルよりもはるかに長時間飛行し、ミサイル防衛システムを回避できる新型の原子力推進ミサイルを公開した。専門家の中には、これは2022年2月のウクライナ侵攻以来、プーチンが依存してきたロシアの核戦力を誇示する意図があると指摘する者もいる。

その2日後の10月29日、ドナルド・トランプ大統領はソーシャルメディア上で「他国の核実験計画に対応するため、我が国も30年ぶりに核実験を再開するよう国防省に指示した」と発表した。この発表が習近平国家主席との会談直前に行われたことから、中国の核戦力拡大がワシントンでの核戦力近代化論を刺激しているとの見方も出ている。主要核保有国による核実験は数十年行われていないが、もし実施されれば三大国間関係を一層複雑化させるだろう。

このような展開は驚くべきことではない。人類は1945年以来、核兵器の危険性を認識してきたにもかかわらず、核保有国は依然として軍拡を続けている。2025年6月時点で、世界には約12,400発の核弾頭が存在し、その90%を米露両国が保有している。両国はいずれも5,000発を超える核弾頭を抱えている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2024年には9つの核保有国すべてが既存の核兵器の近代化と新型ミサイルの取得を進めた。

地政学的緊張の高まりは不安と不安定を増大させ、各国は国家安全保障を最優先するようになっている。中国は600発の核弾頭を保有していると推定され、英国とフランスも戦略兵器や潜水艦の開発を進めている。北朝鮮は核弾頭増産のための核分裂性物質生産を加速させている。

Concerns about nuclear testing have been reflected in headlines. Credit: IPS

今年、核兵器の脅威は多くの国際的出来事に影を落とした。5月にインドとパキスタンが空爆と報復攻撃を行った際、二つの核保有国がいかに戦争寸前まで近づくかを世界に示した。一方、ウクライナ戦争とロシアの脅威を受けて、フランスや英国など欧州諸国は抑止力を含む防衛投資を優先している。ドイツ、デンマーク、リトアニアなども核兵器の受け入れを検討している。

ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのウィリアム・ポッター所長は、核保有国間に「信頼、尊重、共感が完全に欠如している。」と警鐘を鳴らし、「核兵器が増えれば偶発的使用の危険が高まる。だがさらに危険なのは、真剣な軍備管理・軍縮が進められない政治的環境そのものである。」とIPSの取材に対して語った。

核軍縮の枠組みも揺らいでいる。米露間の最後の軍備管理条約である新START条約は2026年2月に失効予定だが、両国は配備済み戦略核兵器の上限を自主的に1年間維持する意向を示していた。しかしこの約束も最近の動きで崩れつつある。

それでも、非拡散と軍縮を求める声は絶えない。被曝被害や放射能汚染の影響を訴える活動家たちは、国連を中心に世界各地で声を上げている。国連は1945年10月24日の創設以来、軍縮推進のために行動してきた。

その一方で、新たな核軍拡競争の懸念が高まっている。今年9月の「核兵器廃絶に関するハイレベル会合」で、アントニオ・グテーレス国連事務総長を代表して演説したラトレー事務局長官は、世界が「新たな軍拡競争に夢遊病のように突き進んでいる。」と警告した。サイバー空間など新領域を含むこの競争では、「誤算と誤認のリスクが増大している。」と述べた。

AI時代の核抑止をめぐる新たな課題

核保有国が兵器を近代化する中で、新技術がどのように関わるのかも重要な論点である。人工知能(AI)はその最前線にある。各国はAI開発に多大な資源を投じており、その安全なガバナンスに関する国際的合意はいまだ形成途上にある。

AIは急速に進化し、軍事分野にも導入が進んでいるが、従来の抑止理論では説明できない「不安定化効果」が懸念されていると、SIPRI大量破壊兵器プログラムのウィルフレッド・ワン所長は指摘する。彼によれば、AIの軍事利用をめぐる国際的協議が進められており、2024年の「責任ある軍事AIに関する第2回サミット(REAIM)」では、61カ国(米英仏やパキスタンを含む)が非拘束的な行動指針「ブループリント・フォー・アクション」に合意した。さらに、国連総会では「軍事領域におけるAIと国際平和・安全保障への影響」に関する決議79/239も採択された。

ワン氏は「これは軍縮の代替策ではないが、現状では信頼と信念を回復し、軍縮努力を再活性化する手がかりとなる」と語る。ただし、SIPRIの研究によれば、核兵器とAIの交差領域に関するガバナンス枠組みは存在しない。「核分野では、人間による最終判断の保持が主に議論されているが、AIの統合が意思決定環境に与える直接・間接の影響は十分に考慮されていない」とワン氏は説明する。「こうした側面を規制・技術両面から扱う枠組みがない限り、核保有国がAI統合を加速させ、戦略的安定性を脅かし、核使用のリスクを高める危険がある」と警告した。

包摂的対話と教育の重要性

AIガバナンスをめぐる現行のアプローチには、多様な利害関係者の参加と人間による介入能力の保持、安全措置によるエスカレーション防止などの共通点が見られる。核軍縮と不拡散の枠組みは、こうしたAIガバナンスの議論においても有用な示唆を与える可能性がある。政策立案者や非核保有国、専門家、民間セクターなど幅広い主体が対話に参加することが不可欠であり、たとえ核戦力構造への理解が限定的であっても、その関与を確保することが求められる。

核保有国・非保有国の双方は、核不拡散条約(NPT)、核兵器禁止条約(TPNW)、包括的核実験禁止条約(CTBT)など既存の反核合意への再コミットを図らねばならない。ポッター所長は、次世代が「創造的な手法で核の危険を減らす。」力を養えるよう、軍縮・不拡散教育の重要性を強調する。

国連は、総会や軍縮局(UN-ODA)を通じた対話と啓発活動により軍縮を前進させることができる。国連はまた、核戦争の影響を評価する独立科学者パネルと「非核戦争地帯専門家グループ」の設置も発表した。

ポッター氏は最後にこう警告する。「核軍縮は今ほど重要な時代はない。単に核兵器数を減らすだけでは不十分だ。『核使用の禁忌』が浸食され、核兵器使用の議論が常態化している今こそ、政策決定者は脅威に見合う大胆な行動を取るべきだ。」(原文へ

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INPS Japan

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