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中東は核をめぐる膠着状態を打開できるか

中東条約機構(METO)が提示する、イスラエル人とイラン人による既成概念にとらわれない「大量破壊兵器のない中東」構想

【パリ/エルサレムINPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】

核兵器、化学兵器、生物兵器のない中東を実現するという構想は、何十年にもわたり、この地域で最も困難な外交課題の一つであり続けてきた。|英語版|アラビア語|ロシア語|トルコ語|

市民社会のイニシアチブとして始まり、正式に登録された組織へと発展した中東条約機構(Middle East Treaty Organization=METO)は、いま、この構想を実際に機能し得る交渉の枠組みへと具体化しようとしている。

Roman Yanushevsky
Roman Yanushevsky

METOが掲げる目標は、あらゆる大量破壊兵器のない中東を実現し、その先に地域の安全保障と平和を築くことである。同組織は、核・化学・生物兵器を包括的に対象とする条約草案を策定し、改訂を重ねてきた。それは完成された協定として各国政府に採択を求めるものではなく、政府間交渉の青写真となり得るものとして提示されている。

METOの設立に携わった中心人物の中には、イスラエルの平和・軍縮活動家シャロン・ドレフと、イラン出身の紛争解決専門家エマド・キヤエイがいる。ドレフは2007年以来、イスラエルで核軍縮に取り組み、METOの創設者兼事務局長を務めている。キヤエイは同組織の理事の一人で、長年にわたり外交、紛争解決、イラン核問題に携わってきた。

二人の歩みは、より根本的な問いへの答えを探る試みでもある。

中東で最も危険な対立をめぐって敵対する立場に置かれてきたイスラエル人とイラン人が、まさに両国を対立させてきたその問題について協力することは可能なのだろうか。

「私たちは時限爆弾の上に座っている」

Sharon Dolev
Sharon Dolev

ドレフにとって、核問題は彼女が活動を始めるはるか以前から身近な存在だった。

彼女が育ったのは、ディモナからそれほど遠くないイスラエル南部の都市アラドだった。そこでは、イスラエルが核兵器を保有しているとの認識が広く共有されながら、それについて公然と語られることはほとんどなかった。

「私はその秘密とともに育ちました。」と彼女は振り返る。

「考えない。語らない。それが当たり前でした。」

2007年、ドレフはグリーンピース・インターナショナルで核軍縮に取り組み始めた。その後、同団体が世界規模の核軍縮キャンペーンを終了すると、彼女は独自に活動を続けることを決意した。

活動を重ねるにつれ、核軍縮は地域の安全保障と切り離して考えることはできないとの確信を深めていった。

「たとえ多くのイスラエル人に、核兵器のない世界を望んでもらうことができたとしても、地域全体の解決策がないまま核兵器を手放しても安全だとイスラエル人に信じてもらうことはできません。」

ドレフにとって、問題は宣言が不足していることではなかった。アラブ諸国、イラン、イスラエルはいずれも、それぞれ異なる形で「大量破壊兵器のない中東」という構想に言及してきた。

欠けていたのは、各国が実際に参加できるようにする具体的なモデルだったと、彼女は考えた。

そして彼女は単純な結論にたどり着いた。

「なぜそのような地帯は実現不可能なのか。」を延々と論じ続けるのではなく、誰かが実際にその仕組みを設計してみなければならない、と。

イランからの視点

キヤエイがこの問題に取り組むようになった経緯は、ドレフとは大きく異なっていた。

イラン出身で、紛争解決、国際関係、外交に携わってきた彼は、長年にわたりイランと欧米諸国との核をめぐる対立を追ってきた。

彼にとって核問題は、イランと米国の間のより大きな意思疎通の失敗、さらには中東地域全体の外交的枠組みの欠如という問題の一部だった。

Emad Kiyaei
Emad Kiyaei

「選択肢の一つは戦争です。もう一つは外交です。」とキヤエイは語る。

「では、外交的なアプローチを取りながら、それを技術的に確かで、なおかつ政治的にも実行可能な解決策によって支えるには、どうすればよいのか。」

彼は仕事を通じて、核物理学者、技術者、政策立案者、外交官らと接するようになった。そして、包括的な国際監視の下で、イランの核計画が平和目的にとどまっていることを立証できる仕組みの構築に関わった。

その経験から、同じ論理はイラン一国を超えて応用できるのではないかと考えるようになった。

国際的な仕組みによって一国の核活動が平和目的に限定されていることを検証できるのであれば、なぜすべての国を対象とする地域的な制度を構築できないのか。

やがて、その問いはさらに大きなものへと発展した。

中東全域を、核不拡散、検証、軍縮に関する共通の制度の下に置いたら、何が起こるのか。

イスラエル人とイラン人

ドレフとキヤエイが初めて出会ったのは国連だった。

キヤエイは、核兵器について公然と語っているイスラエル人がいると耳にした。最初の反応は信じ難いというものだった。

「イスラエル人が核兵器について語るとは、なんという大胆さだと思いました。」

彼は反論するつもりで、ドレフの話を聞きに行った。

ところが実際に耳を傾けてみると、二人が主張していることの多くは驚くほど共通していた。

やがて二人の関係は、正式な会合で顔を合わせるだけのものではなくなった。

ある時期、ドレフは深刻な個人的危機に直面していた。長い闘病の末に父親を亡くし、その直後にはパートナーも彼女のもとを去った。それでも彼女は国連に赴き、条約草案について説明を続けていた。

様子がおかしいことに気付いたキヤエイは、二人だけで話そうと持ちかけた。

結局、その時二人が語り合ったのは、イランでもイスラエルでも核兵器でもなかった。家族やそれぞれの人生についてだった。

ドレフは後に、その出会いを、二人が「きょうだいのような関係になった」瞬間だったと表現している。

キヤエイにとって、この人間的なつながりはMETOの理念の中心となった。

「イスラエル人、イラン人、アラブ人、パレスチナ人、その他どんな人たちであっても、一緒にこの未来をつくることなど本当に可能なのか、とよく聞かれます。私たちは、もちろん可能だと答えます。」

彼によれば、出発点は、国籍や政治的アイデンティティー、歴史的対立を見る前に、まず相手を一人の人間として見ることである。

「不可能」から条約草案へ

ドレフが最初の草案づくりに取り掛かった時、外交官や専門家から何度も「そのような条約は実現できない」と言われたという。

核・化学・生物兵器のすべてを対象とする既存の地域的なモデルはなかった。しかも対象となる国々は深刻に対立しており、その多くは正常な外交関係すら持っていなかった。

「ですから、最初の草案を書いた時でさえ、うまくいくとは思っていませんでした。」とドレフは振り返る。

当初の目的は、どこに技術的な障害があるのかを洗い出し、それを相互不信という政治的問題から切り分けることだった。

しかし、その草案は次第に中東各国の外務省の間を回るようになった。

ドレフによれば、その反応は活動家たちを驚かせた。草案は単なる非現実的な理想論として退けられるのではなく、外交官たちが批判し、修正し、交渉することのできる文書として扱われるようになったのである。

それこそが、まさに狙いだった。

草案はその後、複数回の改訂を重ねた。METO自身、この文書を、各国政府がそのまま採択することを期待する完成済みの条約ではなく、専門家や外交官との協議を通じて変化し続ける「生きた文書」と位置付けている。

「私たちがしなければならなかったのは、各国が『実現したい』と言っていることを、本当に実現したいのだと仮定することだけでした」とドレフは語る。

問いが「そんなことは可能なのか」から「どうすれば実現できるのか」へと変わった時、議論そのものも変わり始めた。

本当の目的は軍縮よりも大きい

METOにとって、大量破壊兵器のない地域を実現すること自体が、プロセスの最終目的ではない。

核・化学・生物兵器をめぐる交渉は、利害が大きく異なる国々を同じテーブルにつかせることのできる数少ないテーマの一つだと同組織は考えている。

そして、その交渉のプロセスそのものが、意思疎通を生み、信頼を育て、協力の習慣を築くことにつながる。

「何より重要なのは、そのプロセスです。そこから信頼が生まれ、橋が架けられるからです。」とキヤエイは語る。

だからこそ、METOの活動は条約草案の作成だけにとどまらない。

外交、教育、市民への啓発、研究、他の市民社会組織との協力など、多岐にわたっている。

その先にある構想は極めて野心的だ。

地域協力が例外ではなく、ごく当たり前のものとなる中東である。

「徹底して『愛』の側に立たなければならない」

近年続く戦争によっても、ドレフとキヤエイがこのアプローチを諦めることはなかった。

むしろ逆だった。

二人は、暴力によって軍事的解決には限界があることが明らかになった一方、社会同士の信頼を築くことはこれまで以上に困難になったと指摘する。

そこには一つの逆説がある。

地域協力が最も困難になったまさにその時、地域協力の必要性は一層高まっているのである。

「私たちは反対側の極端にまで行かなければなりません」とキヤエイは語る。

「暴力や破壊、戦争を唱える過激派がいるのなら、私たちはもう一方の極端にまで行く必要があります。」

彼が意味するのは、思いやり、対話、そして一国の政府の行動を、その国のすべての人々と同一視することを意識的に拒む姿勢である。

「敵を憎む方が、私にとってはずっと簡単です。」と彼は言う。

「だからこそ、私たちはそれと闘わなければならないのです。」

地域が憎悪に深く沈めば沈むほど、人々はそれに抗う努力を、より意識的に続けなければならないと彼は考えている。

戦争によって、この構想の必要性は高まったのか

ドレフの答えは単純ではない。

イエスでもあり、ノーでもある。

地域的な安全保障メカニズムの必要性は以前より明白になった。しかし同時に、相互不信の深刻さも一段と明らかになっている。

軍事衝突は外交の必要性をより強く認識させる一方で、外交そのものを一層困難にする可能性がある。

一方、ドレフは、繰り返される攻撃が軍事力の根本的な限界も示したと考えている。

「イランの核計画は軍事力では止められないことが明らかになったのです。」

それによって、従来は政治的に非現実的だと思われていた別の選択肢を検討する余地が生まれていると、彼女は見る。

キヤエイはさらに踏み込む。

10月7日以降の出来事から得られる教訓の一つは、一国の安全保障を、近隣諸国が恒久的に不安定な状態に置かれることの上に築くことは、最終的にはできないということだと語る。

「軍事力では平和を実現できないということです。……私たちには別の道が必要です。暴力を超えた道です。」

中東の紛争は、もはや単純な二国間対立ではない。

イラン、イスラエル、米国、あるいはその他の国々が関わる戦争は、たちまち中東全域に影響を及ぼす。

だからこそ、地域的な安全保障の枠組みは、これまで以上に重要になっているとキヤエイは考えている。

イスラエルを交渉のテーブルへ

METOにとって最大の難題は、依然としてイスラエルの参加である。

しかしドレフによれば、「大量破壊兵器のない中東」をめぐる外交の言葉遣いは変わりつつある。

単にイスラエルに一方的な措置を要求するのではなく、その安全保障上の懸念にも対応しながら、将来的にイスラエル自身が参加できる制度をどのように設計するかという方向へ、議論を進めることができる。

「最大の変化は、まだ私たちの政府から生まれたものではありません。」と彼女は語る。

「最大の変化をもたらしたのは外交官たちです」

いま重要なのは、イスラエルに単に「参加すべきだ」と迫ることではない。

イスラエルが現実的に参加することのできる枠組みをつくることである。

ドレフにとって、それは、この地域的なプロセスがイスラエルの安全保障に対する脅威なのではなく、長期的な安全保障体制の一部となり得ることを、イスラエルの政策決定者に理解してもらうことを意味する。

エルサレムからテヘランへ続く道

METOが最終的に描く未来は、核兵器の問題をはるかに超えている。

キヤエイが思い描くのは、現在の国境や政治的対立が、人々の移動や貿易、協力を妨げることのない地域である。

ドレフにも似たイメージがある。

中東を横断する列車に乗り、エルサレムで朝食をとり、ダマスカスかベイルートで昼食をとり、テヘランで夕食をとる。

そんな未来である。

ユートピアのように聞こえる。

しかし二人は、そうではないと言う。

かつてヨーロッパも、同じように終わりのない戦争の連鎖に閉じ込められているように見えたと、二人は指摘する。

欧州連合(EU)が誕生したのは、何世紀にもわたる対立が突然消え去ったからではない。

政治指導者たちが、戦争の連鎖を再び繰り返しにくくするための制度を構築したからである。

「私たちも、それほど違うわけではありません」とキヤエイは語る。

「私たちにもできるのです。」

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

Toward a Nuclear Free World
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INPS Japan

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宗教間対話の舞台裏―信仰と黄金、「生命の木」が語るカザフスタンの物語

世界各地の宗教指導者が集う会合を翌日に控え、国際記者団がアスタナの宗教施設、古代の文化遺産、近代的な都市景観を巡った。そこには、カザフスタンが進める対話外交の歴史的・文化的背景が浮かび上がっていた。
The central ceiling of Nur-Sultan Mosque in Astana. Its Islamic architecture incorporates various symbolic motifs reflecting the traditional Kazakh way of life. | Photo: Katsuhiro Asagiri
ヌル・スルタン・モスク中央の天井。イスラム建築の中に、カザフ民族伝統の生活様式の名残がさまざまなシンボルとして埋め込まれている。
写真:浅霧勝浩

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

「太陽はどこにあるでしょうか。」

アスタナのヌル・スルタン・モスク(旧称:グランドモスク)。その巨大なドームの下で、外国人記者の一行に案内者が問いかけた。

答えは頭上にあった。青く彩られた広大な天井を、巨大なシャンデリアが照らしていたのである。

濃い青は宇宙を、淡い青は昼間の空を表しているという。その二つの色が描き出すのは、カザフの伝統的な移動式住居「ユルタ」の屋根の頂部にある円形の枠組み「シャヌラク」を通して見上げる空だ。遊牧民たちは幾世代にもわたり、そこから天を仰いできた。

それは、カザフスタンの宗教文化を知るための、意外で印象的な導入だった。

この国の首都アスタナでは、古くから受け継がれてきた文化、異なる宗教的伝統、そして近代国家としての大きな構想が、都市の建築の中で重なり合っている。

10月6日の訪問は、翌日に開催される第24回「世界伝統宗教リーダー会議」事務局会合に先立ち、国際記者団を対象に企画されたプレスツアーの一環だった。

時間の制約で日程は短縮されたものの、一行は5か所を訪れた。ヌル・スルタン・モスク、ロシア正教会の聖母就寝大聖堂、カトリックの「絶えざる御助けの聖母」大聖堂、国立博物館、そしてバイテレクである。

これらの訪問先は、それぞれ異なる角度からカザフスタンの歴史と文化を映し出していた。そこには、国際会議の宣言文だけでは見えてこない、この国の姿があった。

異なる形で息づく信仰

2022年に開堂し、2026年7月に現在の正式名称が付けられたヌル・スルタン・モスクは、中央アジア有数の壮大なイスラム建築である。

Nursultan Mosque, Astana, Kazakhstan. credit: Красный
ヌルスルタンモスク credit: Красный

主任イマームの顧問だと自己紹介した案内者のイェルマル氏は、カザフ文化に由来する装飾について繰り返し説明した。

建物の各所には、羊の角をかたどった文様が見られる。中央の巨大なシャンデリアは太陽を象徴する。モスクの意匠には、遊牧生活に由来するさまざまなイメージが取り入れられていた。

イェルマル氏は、クルアーンやイスラムの教え、信仰生活について学ぶ無料講座など、モスクで行われている教育活動についても紹介した。

その説明から伝わってきたのは、この建物が単なる壮大な建築物ではなく、イスラムの信仰とカザフ民族の文化的アイデンティティーが互いに支え合う場だということだった。

The press tour brought together journalists from a diverse range of countries, including India, Uzbekistan, Lebanon, Türkiye, Ethiopia, Egypt, Morocco, Azerbaijan, Israel, Belarus, Pakistan, Poland, Kyrgyzstan, Japan and the Vatican.
The press tour brought together journalists from a diverse range of countries, including India, Uzbekistan, Lebanon, Türkiye, Ethiopia, Egypt, Morocco, Azerbaijan, Israel, Belarus, Pakistan, Poland, Kyrgyzstan, Japan and the Vatican.

次に訪れた聖母就寝大聖堂では、まったく異なる宗教芸術の世界が広がっていた。

Holy Dormition Cathedral. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
聖母就寝大聖堂。写真:浅霧勝浩/INPS Japan

2010年1月にモスクワおよび全ルーシ総主教キリルによって成聖されたこのロシア正教会の大聖堂は、高さ68メートルに達する。内部には、異なる宗教的伝統と歴史を伝える聖画やイコンが並んでいた。

案内者は、聖ニコライのイコンと、その生涯の場面を描いた絵を紹介した。また、大聖堂の各祭壇が聖母マリア、大天使ミカエル、聖キリルと聖メトディウスらにささげられていることを説明した。

教会側の記録によると、この大聖堂には、2010年に教皇ベネディクト16世からカザフスタンの正教会共同体に贈られた使徒聖アンデレの聖遺物も安置されている。

それは、歴史的に分かれてきたキリスト教の教派の間にも、宗教的な結びつきが存在することを物語っている。

一行は続いて、アスタナのカトリック共同体の中心である「絶えざる御助けの聖母」大聖堂を訪れた。

イスラム教、ロシア正教会、カトリック教会の施設が同じ首都に存在することは、カザフスタンの宗教的多様性を示している。

Cathedral of Our Lady of Perpetual Help. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
絶えざる御助けの聖母大聖堂。写真:浅霧勝浩/INPS Japan

しかし、異なる宗教施設が建っているという事実だけで、それぞれの信徒が日常生活の中でどれほど円滑に共存しているかを判断することはできない。

その実態を知るには、建築物の向こう側にも目を向ける必要がある。

「黄金人間」が伝える遊牧文明の記憶

カザフスタン国立博物館では、一行の歴史をたどる旅は一気に2,000年以上さかのぼった。中心的な展示の一つは、古代サカ人の若者が身にまとっていた儀礼用衣装を復元した、通称「黄金人間(Golden Man)」である。

1969年から1970年にかけて、アルマトイ近郊のイシク古墳で発見された遺骨の周囲からは、紀元前5世紀から4世紀ごろのものとされる数千点の金製装飾品が出土した。その数は4,000点を超える。復元された黄金の衣装は、今では独立カザフスタンを象徴する最もよく知られた文化遺産の一つとなっている。

周囲の展示では、古代テュルク語の碑文、埋葬儀礼、装飾された馬、石像、ユーラシアの草原地帯に暮らした人々の卓越した工芸技術などが紹介されていた。

The Golden Man. | Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
Golden Man(黄金人間)。写真:浅霧勝浩/INPS Japan

しかし、案内者の説明で特に印象に残ったのは、現代の生活にも受け継がれている伝統についての話だった。

ユルタや衣装、生活用品の展示を前に、案内者は家族で囲む食卓、馬肉料理、結婚式、そして年長者が食事を始めるまで家族が待つ習慣について語った。

食事は、単に料理を分かち合う時間ではないという。親族が集まり、つながりを保ち、互いの近況を伝え合う大切な機会でもある。

案内者にとって、こうした伝統は、すでに消滅した文明の名残ではなかった。

形を変えながらも、現代のカザフ人の暮らしの中に確かに息づいている文化だった。

過去から未来へ向かう都市

最後の訪問先は、近代的な行政地区を見渡す高さ105メートルの記念塔、バイテレクだった。

そのデザインには、古代の「生命の木」の伝説が取り入れられている。

聖なる鳥サムルクが、太陽を象徴する黄金の卵を産む。一方、木の根元に潜む竜がその卵をのみ込もうとする。

The Baiterek Monument rises above Astana, Kazakhstan’s capital, whose development was shaped by a master plan by Japanese architect Kisho Kurokawa, winner of the city’s international planning competition in 1998. | Photo: Radis B / Pexels.
カザフスタンの首都アスタナにそびえるバイテレク記念塔。同市の都市開発の基礎となったのは、1998年の国際設計競技で最優秀賞を受賞した日本人建築家、黒川紀章氏による都市計画だった。|写真:Radis B/Pexels

光と闇、再生と破壊のせめぎ合いを表す物語である。

展望フロアからは、案内者がアスタナの変貌を説明した。

Kisho Kurokawa
黒川紀章

かつてのソ連時代の都市アクモラから、独立したカザフスタンの首都へ。イシム川を挟んだ対岸には、近代的な行政地区が広がっていた。

この都市構想には、1998年に首都のマスタープランの国際コンペで最優秀案に選ばれた日本人建築家、黒川紀章の思想が大きな影響を与えている。

黒川が提唱した「メタボリズム(新陳代謝)」と「共生」は、歴史と未来を結びつけながら、成長と変化を続ける都市を目指す考え方だった。

案内者は、アスタナの発展を「過去から未来へ」という言葉で表現した。

近代的な都市景観の中には、2003年に始まった国際的な宗教間対話の恒久的な拠点として建設された、ピラミッド形の「平和と和解の宮殿」もあった。

バイテレクにも、世界伝統宗教リーダー会議との歴史的な接点が残されている。

運営団体によると、塔内には「バタ(祝福)」と呼ばれる作品があり、2003年の第1回会議に参加した17の宗教・宗派の代表者の署名が刻まれている。

建築が象徴するもの、その先にある課題

翌10月7日、宗教指導者たちは平和と和解の宮殿に集まり、人工知能、気候変動、治癒困難な病気を抱える子どもの尊厳について議論した。そこには、宗教間の対話を、人類全体に関わる課題についての実践的な協力へと発展させようとする、より大きな構想があった。

Inside Baiterek, the Bata (“Blessing”) installation bears the signatures of 17 religious representatives from the inaugural 2003 Congress. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
塔内には「バタ(祝福)」と呼ばれる作品があり、2003年の第1回会議に参加した17の宗教・宗派の代表者の署名が刻まれている。
写真:浅霧勝浩/INPS Japan

カザフスタン憲法は世俗国家と政教分離を定め、宗教を理由とする差別を禁じるとともに、良心の自由を制限できない権利として保障している。

今回のプレスツアーが明らかにしたのは、具体的なことだった。カザフスタンが、自国の歴史的・文化的遺産を、現代の国際社会における自らの役割を形づくる基盤として、どのように位置づけているかということである。

モスクのドームに表現されたシャヌラク、正教会のイコン、古代サカ人の黄金、そして神話の「生命の木」。それぞれ異なる信仰と記憶の世界に属するものが、アスタナでは、対話を国家の重要な目標として掲げる一つの物語の中に組み込まれている。

建築物は、その理想に目に見える形を与えている。しかし、その理想が持つ本当の意味は、そこに託された価値観が、首都の象徴的な空間を離れ、人々の暮らしの中でどのように実践されていくかによって問われることになる。

INPS Japan

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カザフスタン、AIの学びを仕事と創作につなぐ

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

"The First Honest Day," an AI film by Latvian director Nikolay Shestak (18:02), from the Astana AI Film Festival 2026 screening programme. Photo: Katsuhiro Asagiri / INPS Japan
「ラトビアのニコライ・シェスタク監督によるAI映画『The First Honest Day』写真:浅霧勝浩/INPS Japan

カザフスタンの首都アスタナで開かれた非公開上映会では、人工知能(AI)を使って制作された映画が、研究室やデータセンターの外にも広がる技術革新の可能性を映し出していた。制作者にとってAIは、かつては映像化が難しかった物語を形にし、観客に届ける手段になりつつある。

10月3日、初開催のアスタナAI映画祭は、ラトビアの映画監督ニコラ・シェスタク氏による『The First Honest Day』にグランプリを授与した。カザフスタンのミルザハン・ジュマハン氏は、『It Was Just a Joke』で最優秀キャラクター賞を受賞した。

「AI & Digital Bridge 2026」と並行して開催された映画祭は、より大きな構想の一端を示していた。技術への投資を、人々が学び、働き、事業を起こし、創作する機会につなげようというものである。

記者説明会や展示ブースでの取材からは、こうしたつながりを生み出そうとする取り組みが見えてきた。開会時の議論が国家戦略や基盤整備に重点を置いていたのに対し、その後の対話では、構想を実践へ移し始めた人々の姿が浮かび上がった。

ミルザハン・ジュマハン氏 写真:アスタナAI映画祭

その中核の一つが、旧EXPO会場の球体の建物に設けられた「Alem.AI」だ。10月2日の記者説明会で、ジャスラン・マディエフ副首相兼AI・デジタル開発相は、一般の人々がAIに触れるところから、教育、研究、起業を経て、経済の各分野での活用へとつなぐ拠点として説明した。

出発点にあるのは好奇心である。家族や子どもたちは展示を通じてAIに触れ、無料のTUMOプログラムでは、12~18歳の若者が技術や創作分野を学ぶ機会を得られる。

省の説明資料によると、TUMOには4500人が登録している。18歳以上を対象とするTomorrow Schoolでは、学生同士で学ぶ方式を採用し、実践と協働を通じて技能を身につける無料の学習環境を提供している。マディエフ氏によれば、このプログラムは14地域にも展開している。

こうした取り組みは、技術を学ぶ入口を広げ、変化する経済に必要な能力を育む場を提供している。

会場では、アティラウから来た18歳の学生、ダスタンさんが、AIを学んでいると話した。翻訳を介したやり取りで、自分自身で理解を深める代わりにAIへ頼ることへの懸念を示した。その言葉は、学習機会の拡大とともに取り組むべき教育上の課題を映していた。強力な道具を使いながら、自ら考える力をどう育てるかという課題である。

Network School. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.
Network School. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

技能を仕事につなぐ別の道筋は、ネットワーク・スクールのブースで紹介された。担当者は、住居や共同作業の場、家族を持つ参加者への支援を組み合わせたコミュニティーについて説明した。

同担当者はまた、オンラインと対面の試験、面接、試用段階を通じ、カザフスタンのソフトウエア技術者を国際的な企業の仕事につなぐ仕組みを紹介した。通常の学校教育を提供することよりも、実証された能力を就業機会に結びつけることに重点を置いている。

カザフスタンに暮らしながら遠隔で働ける技術者にとって、こうしたつながりは、国際市場に参加する機会を広げうる。

デジタル技術を企業の実務に役立つ仕組みへと発展させる取り組みは、同国の起業家にも見られる。

Madiyar Aiyp, a young Kazakhstani IT entrepreneur Photo: Katsuhiro Asagiri/ INPS Japan
BTKazのマディヤール・アイイップ最高経営責任者 写真:INPS Japan

BTKazのマディヤール・アイイップ最高経営責任者(CEO)は、企業間の調達や、買い手と供給業者のやり取りを、より効率的で透明性の高いものにするデジタルプラットフォーム「FOCUS」を開発していると説明した。

「私たちにとって、デジタル化が価値を生むのは、実際のビジネス上の問題を解決するときです」とアイイップ氏は語った。「調達では今も、連絡が複数の手段に分散し、供給業者を探すのに時間がかかり、技術面や取引条件に関する提案を何段階にもわたって比較することがあります。FOCUSでは、その過程をできるだけ一つのデジタル環境にまとめたいと考えています。」

開発の出発点となったのは、適切な供給業者を見つけ、提案を比較し、要件を調整して取引を進めるという、調達現場の具体的な課題だった。地元のスタートアップで働きながらソフトウエア開発の技能を身につけたアイイップ氏は、将来的に世界各地の企業に役立つサービスを開発する基盤として、AIに可能性を見いだしている。

カザフスタンは、海外からの人材誘致にも力を入れている。10月3日の記者説明会で、Astana Hubのマネージング・ディレクター、リナタ・イリュバエワ氏は、技術者や起業家、研究者、投資家が同国を活動拠点として選べるよう支援する「Trusted Kazakhstan」構想を説明した。同氏が紹介した支援は、入国・在留手続きや必要書類の準備から、教育、創業支援、事業成長の支援まで幅広い。外国籍の創業者も会社を設立し、Astana Hubの優遇措置やサービスの利用を申請できるという。起業家のコミュニティーと実務的な支援を組み合わせることで、新たに来た人々が製品開発に集中できる環境を整えようとしている。

Astana Hubが以前に紹介した事例は、仕事の機会と生活の定着が互いを支えうることを示す。Datanomixのニキータ・スソエフ氏は、カザフスタンでの5年間にキャリアを築き、家庭を持ったと説明した。自社のサービスはウズベキスタンから米国まで展開しており、デジタルノマド制度が、同国で長期的な生活と仕事の展望を描く安心感につながったと述べている。

省の説明資料は、住居、教育、医療、安全を、人材の定着を支える条件として挙げた。市当局者による説明会では、学校、医療施設、スポーツ施設への投資が紹介され、急成長する首都を支える生活基盤の重要性が示された。

The Baiterek Monument rises above Astana, Kazakhstan’s capital, whose development was shaped by a master plan by Japanese architect Kisho Kurokawa, winner of the city’s international planning competition in 1998. | Photo: Radis B / Pexels.
カザフスタンの首都アスタナにそびえるバイテレク記念塔。同市の都市開発の基礎となったのは、1998年の国際設計競技で最優秀賞を受賞した日本人建築家、黒川紀章氏による都市計画だった。|写真:Radis B/Pexels
「AI & Digital Bridge 2026」のパネル討論で発言するカザフテレコムのバグダト・ムシン氏。2026年10月2日、カザフスタンの首都アスタナで。写真:浅霧勝浩/INPS Japan.

人材が能力を発揮するには、組織の側にも変化が求められる。10月2日のパネル討論で、カザフテレコムのバグダト・ムシン氏は、AIによって個人の生産性が高まっても、提案が長い承認手続きに阻まれれば、企業全体の変革にはつながらないと指摘した。その発言は、人材育成と組織改革を結びつけるものだった。働く人々には新たな能力を発揮する機会が必要であり、経営者には、有用なアイデアを実行に移せるよう業務の進め方を見直す役割がある。

創造産業も、技能を経済活動につなぐ道を開く。主催者の公式発表によると、映画祭には125カ国から8067作品が寄せられ、応募数で世界最大の国際AI映画コンペティションとなった。25作品が最終選考に残った。

グランプリを受賞したシェスタク氏には、賞金45万ドルが贈られた。同氏は約4年前に監督として活動を始め、2年前からAIを使った映画制作に取り組んでいるという。賞金は新たな映画の制作に投じる考えだ。インドのアビク・バネルジー氏による『SITARA』が第2位となり、賞金20万ドルを獲得した。スペインのエルネスト・デスンビラ氏による『Looking For Perseida』は第3位となり、10万ドルが贈られた。

Festival co-founder and creative director Aizat Kussainov. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.
アスタナAI映画祭の共同創設者でクリエイティブ・ディレクターのアイザット・クサイノフ Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

技術への習熟は、審査の一要素だった。共同創設者でクリエイティブ・ディレクターのアイザット・クサイノフ氏によると、選考では、創作者の構想と作品全体のまとまりを何より重視した。

この審査方針は、技術が変化する時代にも、人間の判断が中心的な役割を担うことを示している。AIは制作の可能性を広げるが、その可能性を意味のある映画へと形にすることは、創作に携わる人々の仕事である。

映画祭の総資金200万ドルのうち、100万ドルが賞金に充てられ、別の100万ドルは、有望なAIチームへの投資とカザフスタン国内の制作活動の発展に充てられる予定だ。主催者は、映画祭での上映にとどまらず作品を観客に届けるため、配信プラットフォーム「Mooncast.ai」の開発も進めている。

イリュバエワ氏は、映画祭を、創造分野で活動する起業家の誘致や、国内でのAI映画制作の発展に結びつけて説明した。学び、制作、配信、投資をつなぐことで、継続的な創作活動を支える基盤が生まれる可能性がある。

各事業の進捗は異なり、学びが就業にどれだけ結びついたかは、今後も重要な評価指標となる。それでも、取り組みに共通する方向は見え始めている。学ぶ機会を広げ、技能を仕事につなぎ、事業を支え、作品を観客に届けることである。

カシムジョマルト・トカエフ大統領は、技術の進歩を一人ひとりの国民の具体的な利益へと変えるべきだと述べている。アスタナでは、その構想が、人々を新たな可能性へとつなぐ組織や出会いを通じて形になりつつある。その持続的な価値は、学ぶ人が実践の担い手となり、起業家が事業を着実に育て、制作者が自らの物語を届ける観客を見いだすなかで生まれていくだろう。

海外人材や起業家の誘致を目指す「Trusted Kazakhstan」構想について説明後、各国の記者団と記念撮影に臨むAstana Hubのマネージング・ディレクター、リナタ・イリュバエワ氏(中央)写真:浅霧勝浩/ INPS Japan

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「発展の権利」40年―成長が人々を取り残すなら、それはなお開発と呼べるのか

【国連/ジンバブエ・ブラワヨIPS=ブサニ・バファナ】

世界の指導者たちは、「発展の権利」が掲げてきた約束に現実が追いつかず、最も脆弱な立場にある人々が取り残されていると警告した。開発の恩恵が、超富裕層や権力を持つ人々に偏っているかのような状況が広がっている。ニューヨークで開かれた第81回国連総会の関連会合では、「発展の権利に関する宣言」採択40周年を記念し、世界の不均衡な発展によって生じている深刻な格差を是正するため、さらなる行動を求める声が相次いだ。|英語版|

1986年12月に国連総会で採択された同宣言は、「発展の権利は不可譲の人権であり、すべての人間およびすべての人民は、すべての人権と基本的自由が十分に実現される経済的、社会的、文化的および政治的発展に参加し、これに貢献し、その恩恵を享受する権利を有する」とうたっている。

人類の発展のあり方を根本的に転換するものとして期待されたこの宣言だが、その約束はいまだ十分に果たされていない。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は世界の指導者たちに対し、「世界中の何百万人もの人々にとって、宣言に盛り込まれた約束はいまだ実現していません。しかし、それを現実のものにする方法を、私たちは知っています」と語った。

そして、宣言採択40周年は行動を求める機会であると強調し、「誰一人取り残さない」ための青写真として持続可能な開発目標(SDGs)を挙げた。

「開発、人権、平和は、それぞれ別個の目標ではありません。これらは相互に連動しながら前進するものです。分断が深まる今日の世界においても、このビジョンはなお私たちを結び付ける力があります。そして、持続可能な開発目標(SDGs)は、その実現に向けた道筋を示すものです」

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の下に掲げられた17のSDGsには、人々を貧困から脱却させ、その権利を守るための目標と具体的なターゲットが盛り込まれている。

しかし、139のSDGターゲットのうち、達成に向けて順調に進んでいるか、一定の進展を示しているものは36%にとどまっている。

グテーレス事務総長は、今日、開発という約束が新たな試練に直面していると指摘した。拡大する格差、根強い食料不安、膨張する債務、紛争、経済的不安定などが、開発と経済成長を妨げているためだ。

「気候危機は年を追うごとに壊滅的な水準に達しつつあり、劣化し、不健全になった地球の上では開発など成り立たないということを世界に突き付けています」

さらに、デジタル革命や人工知能(AI)には人々の生活を大きく改善する可能性がある一方で、排除や分断を助長する要因にもなり得ると警告した。

「この宣言は、発展を明確に一つの権利として位置付け、人間を発展のプロセスの中心に据えています」

Ensuring food security forms part of the right to development, according to the United Nations. Credit: Busani Bafana/IPS
国連によれば、食料安全保障の確保も「発展の権利」の一部である。写真:ブサニ・バファナ/IPS

一定の前進、それでもさらなる取り組みが必要

第81回国連総会議長のハリルール・ラーマン氏は、発展とは単なる経済成長ではなく、人々が積極的、自由かつ意味のある形でそのプロセスに参加することを通じて、人間の福祉を継続的に向上させていくことだと述べた。

「私たちは進歩を、単に経済成長の総量だけで測るのではありません。人々が尊厳を持って生き、権利を行使し、自らの未来を形づくることができるかどうかによって測るのです」

そして、宣言の理念を行動によって実現し、過去40年間に苦労の末に勝ち取ってきた成果を守るとともに、今なお残る格差や構造的障壁に取り組む必要があると強調した。

「多国間主義を、より代表性が高く、より人々のニーズに応え、すべての人に成果をもたらすことのできるものにしていきましょう」

ラーマン氏は、世界の平均寿命が延び、多くの人々にとって教育や保健医療へのアクセスも改善し、過去40年間に15億人が貧困を脱したと指摘した。

一方で、多くの国々が持続不可能な債務負担を抱え、世界的な意思決定に平等に参加できていないと指摘した。そして、過去40年間の経験から得られた教訓として、発展は包摂的でなければならず、人権、環境、平和、安全保障と切り離すことはできないと強調した。

開発途上国が負う債務コストは1兆4000億ドルに上り、現在、34億人が、教育や保健医療よりも債務の利払いに多くの資金を充てている国々で暮らしている。

国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルク氏は、発展という目標はより広範なものであると指摘し、その実現を妨げるさまざまな障壁を取り除くよう求めた。

テュルク氏は、現在の国際金融システムは「著しく不均衡」であり、人権のために充てられるべき予算を圧迫していると指摘した。

また、予算削減は最も貧しい人々により大きな打撃を与えるとして、際限なく拡大する軍事力や経済力の一方で続く人々の苦境をなくしていかなければならないと訴えた。

さらに、2025年の世界の軍事支出は2兆8000億ドルに達し、その規模は世界の貧困を終わらせるために必要な費用の8倍に相当すると述べた。

「発展は公平であり、かつ環境的に持続可能でなければなりません」

「持続可能性を、人々や地球を犠牲にしてでも追求される経済成長と同一視してはなりません。私たちは、より大きな平等、参加、尊厳、自由、相互尊重へと大きく舵を切る必要があります。そして、『発展の権利』の核心にある国際協力の原則に改めて立ち返らなければなりません」

Oxfam International Executive Director Amitabh Behar. Credit, Oxfam International
オックスファム・インターナショナル事務局長アミタブ・ベハール氏。写真:オックスファム・インターナショナル

富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しく

オックスファムが発表した2026年版報告書『富裕層による支配に抗して―億万長者の権力から自由を守る』によると、超富裕層のかつてない資産拡大によって、世界の格差は一段と深まっている。

億万長者の保有資産は昨年、2兆5000億ドル増加した。これは、資産保有額で世界の下位に位置する41億人の資産総額とほぼ同じ規模である。

オックスファム・インターナショナルのアミタブ・ベハール事務局長は、「発展の権利」という原則は今も維持されており、1990年代から2000年代にかけて一定の前進が見られたものの、ここ数年は一部で後退も生じていると指摘した。

例えば、教育や医療を受ける権利が商品化され、民営化されるようになったことで、「発展の権利」そのものが揺らいでいるという。

ベハール氏は、国際的な場で合意された権利を各国レベルで具体化し、人々が自らの権利を理解し、その実現に向けた動きにつなげていく必要があると訴えた。

「いかなる権利も、本当の意味で権利として定着するためには、草の根から積み上げていくことが極めて重要です。そこに時間、エネルギー、資源を投入しなければ、こうした権利の実現は不十分なままに終わってしまいます」

さらにベハール氏は、「発展の権利」は人権が不可分であることを示すものであり、政府もこうした権利の実現に向けて一定の政治的意思を示してきたと指摘した。

しかし、本格的な前進が可能になるのは、人々自身が権利を要求し始めたときだという。

「私たちが目にしているのは、資金が上へ上へと流れ、ごく一部の超富裕層の億万長者の手に集中していく経済システムです。ですから政府は彼らに課税し、人々のための財源を確保し、『発展の権利』をすべての人にとって現実のものにするために投資しなければなりません」

「Fill the Fund」キャンペーンのグローバル・コンビーナーを務めるハルジート・シン氏は、「私たちは不都合な真実に向き合わなければなりません。支配的な世界経済モデルは、この40年間、宣言の核心を裏切り続けてきたのです」と警告した。

シン氏は、サタット・サンパダ気候財団の創設理事であり、化石燃料不拡散条約イニシアチブのエンゲージメント・ディレクターも務めている。

「発展とは本来、人間を中心に据えた解放を目指す営みであり、すべての人が積極的、自由かつ意味のある形で参加し、経済的・社会的進歩の恩恵を公平に享受する権利を確認するものでした」とシン氏はIPSに語った。

「しかし今日、それはグローバルな金融資本に乗っ取られ、小規模農家や先住民族、都市労働者ではなく、多国籍企業や民間の債券保有者に奉仕するものとなっています」

シン氏はさらに、気候変動への寄与が最も小さい開発途上国が、災害からの復旧のために国家予算のかなりの部分を振り向けざるを得ず、その結果、さらに深刻な債務へと追い込まれていると指摘した。

「40周年を迎える今、グローバル・サウス諸国とその協力国は、法的拘束力のある化石燃料条約を求め、化石燃料を公平な形で段階的に廃止し、新たな化石燃料開発の拡大を終わらせ、世界規模の公正な移行に必要な資金を確保するための明確な国際的枠組みを構築すべきです。」

「1986年の宣言は、解放と正義のための憲章として構想されたものでした。国連総会が発展を、人権、気候変動による損失・損害への賠償、化石燃料の段階的廃止、そして経済システムそのものの改革に明確に結び付けない限り、この40周年は、約束が果たされなかった40年間を刻むだけの節目となってしまうでしょう。」

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カザフスタン、ユーラシアの地の利をAI時代の強みへ

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

カザフスタンは長年、欧州とアジアの間に位置する地理的条件に活路を見いだしてきた。戦争によってエネルギー供給や交易路が揺らぐなか、同国はその地の利と電力資源、産業面の経験を、人工知能(AI)時代の強みに転換しようとしている。|英語版|ドイツ語|トルコ語|

President Kassym-Jomart Tokayev at the opening session of AI & Digital Bridge 2026. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

10月1日にアスタナで開幕した「AI & Digital Bridge 2026」で、カシムジョマルト・トカエフ大統領と国際的な経済界の指導者らは、計算基盤、投資、通信、教育を結びつける構想を示した。翌日の説明会や展示会場で見えてきたのは、それを産業の高度化、若者の仕事、国際協力へとつなげようとする取り組みだった。

天然資源への依存からの脱却を目指すカザフスタンは、海外の技術を受け入れるとともに、国内で研究者や起業家を育て、新たな経済的価値を生み出す拠点を築こうとしている。

地政学的な背景が、この構想に一層の意味を与えている。ロシアによるウクライナ侵攻を機に、中国・中央アジアと欧州をカスピ海と南コーカサス経由で結ぶ「中央回廊(ミドル・コリドー)」への関心が高まった。ロシアを迂回する鉄道・海上輸送網であり、カザフスタンはその重要な結節点に位置する。

今年の米国とイスラエルによるイラン攻撃に伴うホルムズ海峡の海運混乱も、エネルギー供給経路の多様化の重要性を改めて示した。カザフスタンは、カスピ海を横断してアゼルバイジャンへ原油を運び、バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプラインを通じて地中海へ送る輸出経路を活用している。

Middle Corridor. Photo credit: TITR
Middle Corridor. Photo credit: TITR

この原油輸送経路と中央回廊全体は別個のものだが、いずれも、より強靭な供給網を求める国々に選択肢をもたらしている。既存の主要ルートを全面的に代替するものではないものの、カザフスタンの接続拠点としての役割を広げる動きだ。

6月には、欧州連合(EU)とカザフスタンがカスピ海横断輸送回廊の戦略的重要性を再確認した。日本も、アクタウ港税関への貨物検査機材整備を通じ、カスピ海ルートの円滑化を支援している。

今回のフォーラムで示されたのは、こうした接続性をデジタル経済へ広げる構想だった。モノや資源を運ぶ役割に、データが行き交い、計算基盤と専門知識が集まる役割を重ねようというものである。

米投資会社ジェネラル・アトランティックのウィリアム・フォード会長兼最高経営責任者(CEO)は、AIをパソコン、インターネット、モバイル技術、クラウドに続く大きな技術の波と位置づけた。そのうえで、AIは特に多額の資本とエネルギーを必要とすると指摘し、人材と安価な電力をカザフスタンの強みに挙げた。

Zhaslan Madiyev, deputy prime minister and minister of artificial intelligence and digital development. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

その見方は、資源国としての蓄積を新たな産業へつなぐ道筋を示している。電力を生かして計算基盤への投資を呼び込み、その周辺で研究、ソフトウエア、サービスを育てるという道だ。

エキバストゥズの「データセンター・バレー」構想は、その展望を体現するものだ。10月2日の記者説明会で、ジャスラン・マディエフ副首相兼AI・デジタル開発相は、電力、通信、投資家支援、規制上の仕組みを組み合わせて誘致を進める方針を説明した。

提示資料では、最大1ギガワットの電力容量と、1キロワット時当たり2.5米セントの電力料金を掲げている。これらは構想上の規模と誘致条件を示す数字であり、施設の全面稼働を意味するものではない。

同相はまた、既存のスーパーコンピューターを大学、政府機関、銀行、IT企業が利用できると説明した。大規模な計算基盤の整備と、国内の研究・事業開発を結びつける取り組みである。利用条件の整備や、安定した電力供給、冷却・環境対策は、この基盤を持続的に発展させるうえで重要になる。

The conceptual panel of the Data Center Valley. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.
Rev Lebaredian, a vice president at NVIDIA. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

米エヌビディア(NVIDIA)のレブ・レバレディアン副社長は、製造、物流、農業、エネルギーなど、物理的な世界へのAIの応用を論じた。

カザフスタンには、こうした応用を支える産業の経験がある。鉱業、エネルギー施設、輸送網で働く人々は、複雑な設備や厳しい操業環境に精通している。その知見を技術開発に生かせれば、国内の技術者が産業の実情に即した製品を生み出す機会が広がる。

トカエフ大統領が提案した「AIチャレンジ」も、その方向を目指す。経済の実際の需要から課題を抽出し、国内外のチームに解決策を募り、効果を実証したプロジェクトを生産現場へ導入する構想だ。技術開発を、企業や産業が必要とする成果につなげようという試みである。

10月2日のパネル討論では、組織そのものを変える必要性も論じられた。カザフテレコムのバグダト・ムシン氏は、AIによって個人の作業が速くなっても、提案が長い承認手続きに阻まれれば、企業全体の生産性向上にはつながらないと指摘した。AIを業務改革の契機として捉える議論だった。

トカエフ大統領は、こうした転換を支える中心に人材を据えている。最近開学した「カザフAI研究大学(Qazaq AI Research University)」に、教育と産業の需要に応える研究を結びつける役割を期待し、医療、エネルギー、金融、行政などにAIを応用する「AI+X」の手法を強調した。

大統領が同時に訴えたのは、AIを使いこなす人間の能力の重要性だった。AIは人間の知的能力を代替するものではなく、学習と知識の獲得を助ける道具であり、技術が進むほど、批判的思考、判断力、責任感が重要になるという。

その人材育成を身近な学びから始める拠点が、球体の旧EXPO施設を活用した「Alem.AI」だ。マディエフ氏は、一般の人々がAIに触れる場から、子どもの学習、専門教育、起業、研究、産業への実装へとつなぐ仕組みを説明した。

Alem AI. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan

提示資料によると、12~18歳を対象とする無料のTUMOプログラムには4500人が登録している。18歳以上を対象とするTomorrow Schoolでは、学生同士で学ぶ方式を採用し、無料で学習環境を提供している。登録者数は修了・就業実績とは異なるが、学びへの入口を広げる取り組みとして位置づけられる。

Network School. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

学びから仕事への接続を試みる別の取り組みが、ネットワーク・スクールだ。展示ブースの担当者はINPS Japanに、オンラインと対面の試験、面接、試用段階を通じ、カザフスタンのソフトウエア技術者を企業の仕事につなぐ仕組みを説明した。

担当者によれば、通常の学校教育よりも、起業家や技術者が住み、働き、交流する共同体としての性格が強い。国際的な仕事への接続と、共に活動する環境づくりを組み合わせる試みだ。

人材の定着を支える生活基盤にも目が向けられている。大臣説明会の資料は、住居、教育、医療、安全をその条件として挙げた。同日、市当局者らが紹介した学校、医療、スポーツ施設への投資も、急成長する首都の生活環境を整える動きである。技術産業の育成と、人々が暮らし続けられる都市づくりが並行して進められている。

国際協力では、トカエフ大統領が新たな構想を示した。

10月2日の第3回AI開発評議会で、トカエフ大統領は、米国の主要技術企業が署名した「Superintelligence Accord」を踏まえ、いわゆる「ワシントン・モデル」が、専門家による検討を経て、国連の下での国際条約の基礎となりうるとの考えを表明した。カザフスタンが実質的な国際対話の場となる用意を示し、評議会のメンバーに具体的な提案を求めた。

これは条約の成立を告げるものではなく、安全で責任あるAI開発を国際的な議論へつなげる提案である。大統領は、カザフスタンの構想を12月にマイアミで開催されるG20首脳会議で提示する方針も示した。

国内では、市民の安全や権利、重要な利益に関わる領域を厳格に扱いつつ、過度な規制によって人材や投資が国外へ流出することを避ける方針を掲げる。技術の発展と社会的責任を両立させる制度づくりを目指している。

Pope Fransisco(Left)and Kassym-Jomart Kemeluly Tokayev, President of Kazakhstan (Right) during the 7th Congress of Leaders of the World and Traditional Religions held in Astana. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan
Pope Fransisco(Left)and Kassym-Jomart Kemeluly Tokayev, President of Kazakhstan (Right) during the 7th Congress of Leaders of the World and Traditional Religions held in Astana. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

カザフスタンの外交経験は、この国際協力構想を考える背景にもなる。INPS Japanは、同国の核軍縮への取り組みや「世界伝統宗教リーダー会議」を通じ、政治的・文化的な違いを越えて対話を維持しようとする努力を追ってきた。

AI分野の提案は、そうした対話外交との接点を探る新たな機会である。先端技術をめぐる競争が激しくなるなか、国際的な知識交換、共同研究、人材育成の経路を開いておこうとする姿勢が示されている。

トカエフ大統領は「人工知能が新たな分断線を生み出してはならない。技術的な障壁は国家間の格差を広げ、私たちの進歩を遅らせるだけだ。」と述べた。

10月1日夜、INPS Japanも参加したアスタナAI映画祭の非公開上映会は、この転換を文化の側面から映し出した。主催者によると、125カ国から寄せられた8067作品のうち、25作品が最終候補に選ばれた。受賞作は10月3日に発表される予定だ。

Exhibition booth of the Astana AI Film Festival. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

主催者の一人は記者団に、AIによって、より少ない資源でアイデアを映画にすることが容易になったと語った。創作、学習、起業の手段を広く行き渡らせるという期待は、フォーラム全体に通底している。

トカエフ大統領が掲げた最終的な目標も、技術の進歩を一人ひとりの国民の具体的な利益へと変えることだった。

アスタナで始まっている挑戦は、地理と資源によって築いてきた接続性を、知識と創造力へ広げる試みである。計算基盤を使う研究者、産業の課題を解く技術者、国際的な仕事に挑む若者、新しい表現を生み出す映画制作者。その活動が国内で育ち、互いにつながることによって、カザフスタンの「橋」としての役割は新たな意味を帯びようとしている。

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【アスタナ/ 東京INPS Japan=浅霧勝浩】

カザフスタンの首都アスタナは、前衛的な建築群、文化の多様性、豊かな歴史を体感できる観光地として急速に注目を集めている。2026年春には日本とカザフスタン間の直行便が開設される予定で、アスタナの魅力はさらに高まるだろう。アスタナは「中央アジアのドバイ」としても知られ、現代的な都市計画と伝統が融合した独自の魅力を持っている。10月、私は国際ジャーナリストたち(フランス、キルギス、トルコ、アゼルバイジャン、インド、パキスタン、べラルース、中国、韓国、ベルギー、セルビア、アルメニア)とともにプレスツアーに参加し、アスタナの最も象徴的な観光スポットをいくつか訪れる機会があった。|英語版|

International journalists visit Alem.AI, a hub for artificial intelligence education, research and entrepreneurship in Astana, Kazakhstan, on October 3, 2026. Photo: MFA, Kazakhstan

日本人建築家が描いた未来のビジョン

Kisho Kurokawa

アスタナが急速に近代的な首都へと変貌を遂げたのは、1990年代後半に都市のマスタープランを作成した日本人建築家、故黒川紀章氏の先見性のある設計によるところが大きい。黒川氏の未来的なビジョンは、洗練された現代的な建造物とカザフスタンの遊牧民の過去を反映する要素を組み合わせたもので、都市のスカイラインと都市全体のレイアウトを形成している。彼の作品は伝統と現代性の相互作用を際立たせ、アスタナを世界の首都の中でも際立った存在としている。

日本の旅行者にとって、アスタナとこの偉大な日本人建築家とのつながりは、さらに魅力的なポイントとなるだろう。アスタナの街を歩くと、黒川氏のモダニスト的なアプローチが、カザフスタンの未来を象徴する都市にどのように実現されているかを直接目にすることができる。

文化のモザイク

Kazakhstan celebrates peoples unity day. Cedit Silkway TV
Kazakhstan celebrates peoples unity day. Cedit Silkway TV

この多様性は、地元の料理シーンにも反映されている。プレスツアー中、私たちは市内のレストランで様々な料理を楽しんだが、カザフ、ロシア、カフカス、韓国、そして、ウズベキスタンなど中央アジアの文化の影響が感じられた。

伝統的なカザフ料理であるベシュバルマック(茹でた肉と麺で作られる料理)や、ユーラシアの多彩な味を楽しむことで、アスタナでの料理体験はその人々の多様性を豊かに映し出している。特に日本からの観光客にとって、アスタナの料理はその多文化的なアイデンティティを体感できる貴重な機会となるだろう。

未来的なスカイライン

アスタナのスカイラインは、大胆で未来的な建築によって形作られ、「中央アジアのドバイ」としての評価を得ている。その中でも最も象徴的な建物の一つが、カザフスタンの独立と未来への希望を象徴するバイテレクタワーである。ツアー中、私は他のジャーナリストと共にバイテレクを訪れ、地上97メートルの展望台からの眺めは息を呑むほどの美しさだった。アスタナのスカイラインのパノラマビューは、ガラスの高層ビルと広々としたオープンスペースが融合した都市の姿を映し出している。

Golden man Credit: Astana City Pass
Golden man Credit: Astana City Pass

もう一つのハイライトは、2017年の万博の遺産である世界最大の球形建築物、ヌル・アレム(現:アレムAI)だ。この未来的な建造物は現在、再生可能エネルギーや持続可能な技術に関する展示を行っており、エネルギー生産の未来についてインタラクティブに学ぶことができる。他のジャーナリストと共にアレムAIを探索し、カザフスタンが持続可能性に対してコミットしているだけでなく、世界的なIT及びAI革新における役割も強調されていることを感じた。

歴史を巡る旅

カザフスタンの歴史に興味のある方には、カザフ国立博物館で同国の豊かな文化と歴史の変遷を詳しく知ることができる。 プレスツアー中、私たちは古代遊牧民の遺物から現代アートまで、同博物館の膨大なコレクションを探索する機会があった。 この訪問は、カザフスタンの歴史が、同国が現代の独立国家としてどのようなアイデンティティを持つに至ったかを理解する上で、貴重な洞察を提供してくれた。

National Museum of Kazakhstan
National Museum of Kazakhstan

直行便就航で観光促進

2026年11月30日に予定されている日本とカザフスタン間の直行便就航は、両国の関係において重要な進展となるだろう。この新しい路線により、日本の観光客がカザフスタンの活気あふれる首都を訪れることがこれまで以上に容易になり、文化交流や観光の機会が拡大するだろう。

International Journalists with Zhaslan Madiyev, deputy prime minister and minister of artificial intelligence and digital development. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.
International Journalists with Zhaslan Madiyev, deputy prime minister and minister of artificial intelligence and digital development. Photo: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan.

アスタナは最先端の建築物と文化の多様性、そして歴史の深みが融合した都市であり、海外からの観光客にとって魅力的な目的地だ。日本人観光客にとっては、日本の最も象徴的な建築家の一人である黒川氏によって設計された都市であることも魅力の一つだろう。プレスツアーの一環として他の国際ジャーナリストと共にこの街を探検した経験を通じて、アスタナが伝統と革新のユニークな融合によって際立っていることを強く感じた。

直行便就航の期待が高まる中、アスタナはダイナミックに発展するその風景を体験したいと願う新たな観光客の波を迎える準備ができている。 ようこそカザフスタンへ(Казакстанға қош келдіңіз!)。

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この1年、未来学者たちと対話を重ねるなかで、とりわけ驚かされたことがある。人工知能(AI)をめぐって始まった話が、最後までAIそのものを中心に進むことは、ほとんどないのだ。(英語版)

たいてい、話の出発点はAIである。生成モデル、自律型エージェント、ChatGPTの次期バージョン、そして、こうしたシステムが進化する速さについて語り合う。ところが、20分、30分とたつうちに、AIそのものは会話の中心からほぼ姿を消す。気づけば私たちは、労働市場や教育、政治制度、ガバナンスについて話している。そして最後には、技術という枠をはるかに超えた問いに行き着く。何世代にもわたって近代社会を形づくってきた経済モデルが、終わりに近づいているのではないか、という問いだ。

本題は、AIそのものではない

Brett King during an interview with The Astana Times correspondent Aida Haidar. Photo credit: The Astana Time

https://astanatimes.com/2026/08/preparing-for-economy-that-doesnt-yet-exist-why-kazakhstans-experiment-is-worth-watching/
The Astana Timesのアイダ・ハイダル記者のインタビューに応じる未来学者ブレット・キング氏。写真提供:The Astana Times

こうした視点の変化を、私は次第に見過ごせなくなった。

私たちはAIがもたらす変化を理解しやすくするために、しばしばインターネットやスマートフォンになぞらえる。確かに、これらの技術は私たちの暮らしを変えた。しかし、近代経済を支える中心的な前提の一つを揺るがすことはなかった。それは、人間の労働こそが、価値を生み出し、富を分配する主要な原動力だという前提である。

AIは、その前提さえ揺るがすかもしれない。

未来学者のブレット・キング氏が、あるインタビューで語った言葉が、今も心に残っている。経済の自動化が進めば進むほど、資本主義の従来の仕組みは、想定されてきたとおりには機能しなくなるというのだ。彼の言葉を借りれば、それは「私たちが知る資本主義の終わり」を意味する。

その結論に賛同するかどうかは、むしろ二次的な問題だ。より重要なのは、彼の見立てが部分的にでも正しいとすれば、政府は何をすべきなのか、という問いである。

歴史を振り返れば、制度を担う側には、構造的な変化が完了するまで待ってから対応を決める余裕など、ほとんどないことが分かる。その段階では、移行に伴う痛みは、すでに必要以上に大きくなっていることが多い。

おそらく、それが、私の関心がAIそのものからリーダーシップへと徐々に移ってきた理由なのだろう。ここでいうリーダーシップとは、通常の意味での政治的指導力ではない。目先の政治日程を超えて考え、まだ十分に姿を現していない経済に向けて、社会の準備を進める政府の能力のことである。

キング氏は、過去40年にわたって多くの人が当然視してきた、もう一つの前提にも疑問を投げかけた。市場におおむね任せておけば、いずれ大半の問題は解決するという考え方だ。

「自由市場は気候変動を解決していません。貧困も解決していない。住まいを失う人々の問題も解決していません。これは自由市場が解決してくれる問題ではないのです。足並みをそろえた統治の取り組みが担うべき役割です」と、彼は私に語った。

世界各国の政府が、AIをどこまで規制すべきか、どこまで技術革新の展開に委ねるべきかを模索している今、この主張は強く議論を促すものだ。

それでも、彼が示す区別には説得力がある。AIが変えようとしているのは、単一の産業ではない。医療、交通、物流、金融、製造業、教育、行政に、同時に影響を及ぼし始めている。

これまでの技術革命とは異なり、AIは一つの省庁や規制当局の所管にきれいに収まるものではない。近代国家が数十年をかけて築いてきた、ほぼあらゆる制度に関わっている。

そうであるなら、リーダーシップの意味も変わってくる。問われるのは、今日の経済を効率よく運営すること以上に、明日の経済が本格的に到来する前に、国民がそれに備えられるようにすることだ。

カザフスタンが、思いがけず興味深い事例となっている理由も、おそらくここにある。

未来が訪れる前に備える

長年、カザフスタンの将来をめぐる議論は、主にエネルギー、重要鉱物、交通・物流の連結性、そして大国の間に位置する地政学的な立場を中心に展開されてきた。

しかし近年、別の見方が浮かび上がっている。AIをデジタル政策の一施策として扱うのではなく、国の長期的な発展戦略の中心に据える見方である。

この2年間、政府は国際AIセンター「Alem.ai」を開設し、AI教育プログラム「AI-Sana」を拡充するとともに、計算基盤に投資し、行政へのAI導入を加速させてきた。

この変化は、政府の公式発言にも表れている。

カシムジョマルト・トカエフ大統領は、AI開発評議会の第2回会合で、「資源と労働に基づく従来の成長モデルは、有効性を失いつつある」と述べた。そして、AIを原動力とし、データに基づいて機能する、全面的に統合された経済へと速やかに移行しなければ、カザフスタンは世界の技術競争に後れを取るおそれがあると警告した。

すべての取り組みが成功するかどうかは、ある意味では本質的な問題ではない。技術革命を完璧に乗り切った政府の例など、歴史上ほとんどないからだ。

しかし、備えるのが早すぎることと、遅すぎることの間には、大きな違いがある。

前者には、今後必ず変化していく構想に投資するリスクがある。後者には、気づいたときには世界経済のルールがすでに変わっているというリスクがある。

キング氏が、技術ではなく時間について語ったときに指摘していたのは、まさにこのことだった。

彼によれば、現代社会は四半期ごとの決算、単年度予算、選挙の周期に縛られている。しかし、社会を大きく変える事業は、そうした時間軸で成し遂げられてきたわけではない。大聖堂の建設は世代をまたぎ、パナマ運河の建設には数十年が費やされた。アポロ計画には、一つの政権の任期を大きく超える、持続的な政治の関与が必要だった。彼は、AIもまた、こうした文明のあり方を変える変革に属すると考えている。

話を聞きながら、私は考え始めた。私たちが直面する最大の課題は、AIそのものではないのかもしれない。むしろ、政治が未来を思い描く力を失いつつあることではないだろうか。

民主主義国の政府は、今なお30年先を見据えて考えることができるのか。現在の指導者たちが退任してから、はるか後になって初めて成果が明らかになるかもしれない投資について、その意義を説明し、支持を得ることができるのか。

カザフスタンを見ていると、こうした問いがますます重要に思えてくる。

トカエフ大統領は、急速に変化する世界で競争力を維持するうえで、デジタル変革はもはや選択肢ではなく、不可欠なものだと繰り返し述べている。

今年7月、上海で開かれたAI会議で、大統領は、どの国もAI技術の単なる利用者にとどまるべきではないと強調した。そして、技術の進歩が不平等を深めるのではなく、社会に役立つものとなるよう、すべての国が自国の人材を育てなければならないと訴えた。「どの国も、人工知能の単なる利用者にとどまるべきではありません。すべての国に、人材、デジタル基盤、そして制度を整え運営する能力を育む機会が保障されなければなりません。その根底にあるのは、公正と公平の問題です」と、大統領は述べた。

AI経済を、人間の側から考える

私が興味を引かれるのは、その構想の壮大さそのものではない。今や多くの政府が、AIについて熱心に語っている。注目すべきなのは、AIを単なる一つの技術分野として捉えるのではなく、教育や国家の政策遂行能力、長期的な経済計画と結び付けようとしている点だ。こうしたつながりは、未来学者のブレット・キング氏、ロン・イミンク氏との対話でも、繰り返し浮かび上がった。

イミンク氏は、まったく異なる角度からこの問題に向き合っていた。彼の関心は、アルゴリズムよりも文化にあった。主要なAIシステムの大半は、今なお主として英語を基盤に「思考」している、と彼は指摘する。しかし、言語にはそれぞれ異なる世界の捉え方、歴史的経験、文化的背景が織り込まれている。AIが真に知的なものになるには、単に言語を翻訳するだけでは足りない。それぞれの言語を理解することを学ばなければならないのだ。

Ron Immink. Photo credit: The Astana Times

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ロン・イミンク氏。写真提供:The Astana Times

この指摘によって、私は一見ささやかなニュースを、別の角度から捉えるようになった。カザフ語が、ChatGPTで利用の伸びが最も速い言語の一つになったというニュースである。これを、ちょっと興味深い統計として受け流すことは簡単だ。しかし、そこにはもっと大きな意味があるのかもしれない。AIの時代において、言語はもはやアイデンティティーだけの問題ではない。社会への参加を左右する問題にもなりつつある。

AIシステムのなかに取り込まれた文化は、そのシステムが人類そのものをどのように理解するかを形づくるうえで、必然的により強い影響力を持つことになる。教育も、同様の課題を突き付けている。

イミンク氏は、学校教育の大部分が、今なお工業社会の経済的な要請に沿って組み立てられていると考えている。学校は、1世代後には今の形では存在していないかもしれない仕組みのなかで、安定した職業人生を送るための準備を、生徒たちにさせているというのだ。

キング氏は、さらに踏み込む。哲学、心理学、倫理、生涯学習は、工学と同じくらい重要になるかもしれないという。AI時代に決定的な意味を持つ能力は、単にコードを書くことではない。変化に適応することだからだ。

未来学者たちへの取材を数カ月続けてきた私は、AIが政府に突き付けているのは、意外にも古くからある問いだと考えるようになった。それは、他国より速く技術革新を進められるかどうか、という問いではない。まだ存在しない未来を思い描き、不確実さを抱えながらも、その未来に備えられるかどうか、という問いである。

AI経済が最終的にどのような姿になるのか、誰にも分からない。予測は分かれ、技術は政策よりも速く進化する。そして歴史は、どれほど自信に満ちた予測であっても、その限界を思い知らせるものだ。今日始められたすべての取り組みが、意図した成果を生む保証はない。しかし、おそらく大切なのはそこではない。確実になるまで待つという選択肢は、もはや残されていないのかもしれない、ということだ。

今日のカザフスタンを見ていて、私が注目するのは、技術そのものよりも、その背後にある発想の転換である。AIは、もはや一つのデジタル産業や、技術革新のための政策としてのみ論じられているわけではない。教育、制度、行政、そして国の長期的な経済の方向性をめぐる、より広い議論の一部になりつつある。AI-Sanaであれ、計算基盤への投資であれ、Alem.aiの整備であれ、あるいは最近の政府全体へのAI導入の取り組みであれ、そこに共通するのは、変革への対応が避けられなくなる前に、準備を進めようとする姿勢である。

AI時代のリーダーシップとは、これからますます、そうしたものになっていくのかもしれない。あらゆる技術的な飛躍を予測する能力ではなく、大きな不確実性に国が適応できる条件を、進んで整えていく姿勢である。カザフスタンは今、その選択に賭けているように見える。AI経済が最終的にどのような姿になるのかを、誰も確信を持って語れない段階から、制度、教育、そしてデジタル分野の能力に投資しているのだ。

INPS Japan

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「ゴキブリ」発言が引き起こした、モディ強権政治への過去最大級の挑戦

【ロンドンIPS=アンドリュー・ファーミン】

インドの強権的指導者ナレンドラ・モディ首相は、ついに自らが最も嫌うことを強いられた。抗議運動を受けて譲歩することである。

すべては5月15日に始まった。インド最高裁長官のスーリヤ・カント氏が法廷で、失業して抗議活動を行ったり、ソーシャルメディアで声を上げたりする若者たちは「ゴキブリのようなものだ」と発言したのである。

この発言は、支配層が若者たちをどれほど軽視しているかを如実に示すものだったが、結果は完全に裏目に出た。数日のうちに全国的な運動へと発展し、「コックローチ・ジャンタ党(Cockroach Janta Party=ゴキブリ人民党)」が誕生した。

運動の中心的な要求は、ダルメンドラ・プラダン教育相の辞任だった。プラダン氏は7月25日に辞任した。しかし、それだけでは、この運動が解き放った変革への要求を収めるには不十分かもしれない。

運動の誕生

インドには、世界のどの国よりも多くのZ世代が暮らしている。14歳から29歳までのインド人は約4億700万人に上り、人口のおよそ30%を占める。

彼らは、教育を受けるために激しい競争を強いられ、卒業後も仕事を見つけるのに苦労している。

カント氏の発言は、若者たちの怒りに火をつけた。

コミュニケーション戦略家のアビジート・ディプケ氏は、ソーシャルメディア上でこう問いかけた。

「もし、すべてのゴキブリが団結したらどうなるだろうか?」

この問いかけをきっかけに、「コックローチ・ジャンタ党」という名称の運動が瞬く間に広がった。この名前は、与党のヒンドゥー民族主義政党「インド人民党(Bharatiya Janata Party=BJP)」をもじった風刺的なものだった。

当初は風刺的なウェブサイトにすぎなかったが、たちまち社会運動へと成長し、わずか2週間でインスタグラムのフォロワーは2200万人に達した。

この「ゴキブリ運動」は、世界的に広がるより大きな潮流の一部でもある。

近年、多くの国でZ世代が大規模な抗議行動に立ち上がっている。共通するのは、政府が若者の現実からかけ離れ、経済や政治制度が若者たちの期待に応えられていないことである。

こうした運動は、特定の指導者に依存しない集団的リーダーシップ、大規模な抗議行動、そしてソーシャルメディアの戦略的活用を特徴としている。

インドにも、その波が押し寄せる時が来たのである。

やがて、この運動には人々を結集させる明確な争点が生まれた。

インドの教育制度では、人生を左右する入学試験への依存度が極めて高く、その結果が数百万人の将来の進路を決定する。

医学部入学試験では、約220万人の受験生が13万の定員を争う。家族は大きな犠牲を払い、学生たちは何年もかけて試験勉強を続ける。

ところが、汚職によって試験問題が賄賂と引き換えに漏洩することが珍しくない。

カント氏の「ゴキブリ」発言のわずか2週間前にも、全国医学部入学試験の問題が漏洩し、試験そのものが中止された。

学生たちは絶望した。

そして、怒りに変わった。

抗議が政府を動かす

抗議者たちは数週間にわたりニューデリー中心部に野営し、プラダン教育相の辞任を要求した。

ボランティアたちは食料、水、医薬品、キャンプ用品などを提供した。

運動はやがてZ世代の枠を超え、あらゆる年代の人々が参加するようになった。

環境活動家であり教育改革運動にも取り組み、過去に抗議活動を理由に投獄されたこともあるソナム・ワンチュク氏が、数週間にわたるハンガーストライキを行ったことで、運動への注目はさらに高まった。

政府は7週間にわたり抗議者を無視し続けた。

しかし、それが通用しないと分かると、今度は暴力に訴えた。

当局がワンチュク氏を強制的に病院へ搬送すると、数千人の抗議者が抗議拠点から国会へ向けて行進した。

治安部隊はペレット銃や催涙ガスを使用し、抗議者や通行人を警棒や木の棒で殴打し、多数を拘束した。

その暴力はソーシャルメディア上で広く記録され、「世界最大の民主主義国」を自任するインドにとって衝撃的な光景となった。

政府はもはや無視できなくなった。

抗議は他の都市にも広がり、政府はついに協議に応じざるを得なくなった。

今後の展望

政府は、試験問題漏洩事件を迅速に裁く特別法廷の設置と、試験制度および教育制度全体の見直しを約束した。

これを受けて運動側は抗議活動を終了した。また、抗議参加者に対して一切の報復措置を取らないとの約束も取り付けた。

しかし、これは長年にわたり異論を抑圧してきた政府の体質とは相いれない。

モディ政権には、活動家の拘束、抗議活動への実力行使、批判的な言論の検閲、そして市民の権利を制限する法律の制定といった前歴がある。

市民社会の活動空間が悪化しているとして、インドは最近、国際的な市民社会ネットワーク「CIVICUS」の監視対象リストにも加えられた。

「ゴキブリ」抗議が終結した後も、警察は数百人の学生を拘束・嫌がらせの対象とし、その家族まで標的にしていると報じられている。

プラダン教育相の辞任は、極めて異例の出来事だった。

これまで政府が世論の圧力を受けて、不人気な閣僚を退任させたことはなかったからである。

しかし、BJPがそこから多くを学んだ形跡はない。

最近の補欠選挙の選挙運動中、BJP全国総裁のニティン・ナビン氏は、抗議者たちを「国を壊すことに取りつかれたウイルスであり、ゴキブリ集団だ」と呼んだ。

モディ首相は一時的に時間を稼いだかもしれない。

しかし、根本的な問題は何も解決していない。

一つは経済問題である。若年層の高い失業率と明白な格差がある。

もう一つは政治問題である。若者の声に耳を傾けず、異議を唱える権利も尊重しない高圧的な政府の存在だ。

さらなる抗議が起きる可能性は高い。

すでにジャールカンド州では、公務員採用試験をめぐる同様の汚職疑惑をきっかけに、新たな抗議運動が広がっている。

モディ政権が圧力に屈したのは、今回が初めてではない。

2021年には、長期にわたる農民の抗議運動により、政府は農業関連法の改正を撤回せざるを得なかった。

2024年総選挙ではモディ氏への支持が低下し、政権維持のため連立政党に依存することになった。

その後、BJPは勢いを取り戻したようにも見えた。4月には、選挙人名簿の変更を経て、西ベンガル州で初めて政権を獲得したからである。

しかし、その選挙人名簿変更では900万人以上の名前が削除され、その影響はイスラム教徒やBJPを支持しない可能性が高い有権者に偏っていたとして物議を醸した。

そして今、ニティン・ナビン氏が再び「ゴキブリ」発言を繰り返した補欠選挙で、BJPは敗北した。

「ゴキブリ運動」は、モディ政権にとってこれまでで最大の挑戦となる可能性がある。

なぜなら、この運動は階級、政党、宗教の違いを越えて広がっており、政府にとって単純に切り捨てることが難しいからだ。

BJPは長年、イスラム教徒を敵視することでヒンドゥー教徒の支持基盤を固めてきた。

しかし、デリーの抗議現場では、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が並んで祈りを捧げた。

また、この運動がソーシャルメディアを通じて広がったことも重要である。

それによって、BJPの影響下に置かれ、政府の主張をそのまま繰り返し、異なる意見を軽視しがちな既存メディアを迂回することができたからである。

政府は、社会の空気を読み取るべきだ。

しかし実際には、誤った教訓を引き出し、抗議運動の指導者たちへの弾圧に乗り出す可能性も十分にある。

そうなれば、さらなる抗議と、国家による暴力、そして抗議活動の犯罪視が繰り返される悪循環を招くだろう。

インドが「世界最大の民主主義国」としての可能性を真に実現するためには、民主的自由をさらに深め、異議申し立ての価値を認めなければならない。

そして何より、政府が「ゴキブリ」と呼んだ若者たちこそが、インドの未来に大きく貢献し得る存在であることを認める必要がある。

アンドリュー・ファーミン(Andrew Firmin):CIVICUS編集長。CIVICUS Lens の共同ディレクター兼執筆者であり、State of Civil Society Report の共著者でもある。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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報告書「ネパールの大災害、地球温暖化が引き金に」

科学者ら、地球温暖化が壊滅的な山体崩壊に影響したと結論

【カトマンズNepali Times=編集部】

ネパールのランタン・リルン(Langtang Lirung)で壊滅的な山体崩壊が発生してから3週間。科学者らは衛星画像と気象データを詳細に分析し、気候変動がこの災害を引き起こした要因の一つだったとの結論に達した。

この速報的な分析報告書を発表したのは、異常気象に対する気候変動の影響を分析する国際的な科学者ネットワーク、World Weather Attribution(WWA)である。同グループは主に熱波、集中豪雨、干ばつなどを分析しているが、2024年9月にネパールのレレ川とロシ・コラ川で発生した鉄砲水についても分析を行っている。|英語版|

氷河学者や気候科学者からなる研究チームは報告書で、次のように指摘している。

「この壊滅的な岩石と氷の崩落には、さまざまな気候的・地質学的要因が影響しており、その大半は、高地の山岳環境に対する気候変動の影響によって悪化している」

木曜日午後の時点で、中国とネパールでは1400人の遺体が発見され、なお5000人以上が行方不明となっている。ランタン・リルンの山体の一部が国境地帯のレンデ・コラ(Lhende Khola)へ崩落し、氷、岩石、土砂が一体となった壊滅的な流れが発生したためだ。

A drone image of the north face of Langtang taken a week after the collapse. Photo: NDRRMA

https://nepalitimes.com/climate-warming-set-off-nepal-disaster-report
【写真】 崩壊から1週間後にドローンで撮影されたランタン北壁。|写真:NDRRMA

報告書によると、今回の災害は複数の要因が連鎖して発生した**複合的な災害(compound hazard chain)**だった。

その発端となったのは、地殻変動と気温上昇の双方の影響を受けた岩壁の崩壊だった。化石燃料の燃焼に伴う数十年にわたる大気の温暖化によって、気温が0度となる高度、いわゆる0℃等温線が上昇し、この山では標高5000メートルを超える高さにまで達していた。

ヒマラヤの他の地域と同様、その影響で氷河は10年間に約100メートルの割合で斜面上方へ後退し、岩盤の亀裂を凍結によってつなぎ止めていた永久凍土も融解した。

こうした融解に加え、2015年の地震以降続いていた山体斜面の長期的な不安定化が重なり、斜面の安定性が損なわれ、最終的な崩壊につながったと報告書は結論づけている。

研究チームはランタン山塊周辺の気温データも分析した。その結果、7月と8月の気温は観測史上最も高かったことが分かった。また、前年10月と11月には異例の大雪があり、融解が進む氷の上に積もる雪の荷重を増大させていた。

気候変動によって、世界の平均気温は産業革命前と比べて約1.5℃上昇している。2015年のパリ気候会議で各国政府は、世界平均気温の上昇を1.5℃に抑えることに合意したが、その水準にはすでに達している。

さらにヒマラヤでは、標高が高いほど温暖化が増幅される**「標高依存型温暖化(elevation-dependent warming)」**の影響もあり、この地域の気温上昇は世界平均を0.7℃上回っている。

報告書は、ネパールではこうした気候変動の影響に対する適応能力の限界を超える事態が生じていると指摘する。

「今回の惨事の規模は物理的な適応の限界を超えており、悪化する災害への適応がいかに困難であるか、そして今後さらに大きな『損失と損害(Loss and Damage)』が生じる危険性を浮き彫りにしている」

科学者らはさらに、氷河や高地の永久凍土は気温上昇に対して数十年という時間をかけて反応するため、過去の温暖化によって将来の不安定化がすでに避けられないものとなっていると指摘する。

このため、将来の壊滅的な山体崩壊を防ぐには、化石燃料からの脱却を急ぐ必要性が一層高まっているという。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの異常気象・気候変動研究者、ベン・クラーク氏はこう語った。

「今回の災害は異常気象そのものではありません。しかし、長期的な環境変化を見れば、気候変動の痕跡は明白です」

山岳水文学者のワルター・イマージール氏はランタン地域で研究を続けてきた研究者で、今回のWWA報告書にも参加した。

「私たちは今、ヒマラヤの山岳環境で根本的かつ不可逆的な変化が起きているのを目の当たりにしています。高地の永久凍土の劣化、氷河の後退、そして記録的な夏の高温が重なることで、山の岩壁そのものの構造的な安定性が損なわれています」

Colourbar showing a 15-day moving average height of the 0°C isotherm at the approximate location of slope failure for each decade since 1980 over the glaciological year (October-September). Dotted and dashed lines show the height of the rockwall base and failure elevation, respectively. The black line shows the data for the 2025/26 year, and the colour of the other lines indicates the mean isotherm elevation.

https://nepalitimes.com/climate-warming-set-off-nepal-disaster-report
【図】 1980年以降、各年代の氷河年(10月~翌9月)について、斜面崩壊地点付近における0℃等温線の高度を15日間移動平均で示したもの。点線と破線はそれぞれ岩壁基部と崩壊地点の標高を示す。黒線は2025/26年のデータで、その他の線の色は各年代の平均的な0℃等温線高度を示している。

ネパールの気候活動家マンジート・ダカル氏は、今回のような洪水が下流域にもたらすリスクが高まっていると、10年にわたって警告を発してきた。

ダカル氏は、気温上昇によって山岳環境が変貌し、より複雑で連鎖的な災害が発生する危険性が高まっていると確信している。

「今回の災害の規模は、ネパールの災害対応能力、そして気候変動への適応そのものの限界を試しています」

WWAによれば、今回のボテ・コシ=トリスリ洪水に関する報告書は、単一の異常気象を分析したものではないという点で、従来の分析とは異なっている。対象となっているのは、複数の段階を経て発生した山岳災害だからだ。

この報告書は、ネパールが訴える**「気候正義(climate justice)」**の根拠を強め、復旧・復興費用を賄うため「損失と損害基金(Loss and Damage Fund)」からの支援を求める際にも重要な材料になるとみられている。

赤十字・赤新月気候センター(Red Cross Red Crescent Climate Centre)のマダブ・ウプレティ氏はこう語る。

「想像を絶する規模の人的被害に加え、今回の災害からの復旧には莫大な費用がかかります。この問題を引き起こすことにほとんど何の責任も負っていない国がこれほどの被害を受けているという事実は、自らが引き起こしたわけではない問題に直面する気候脆弱国を支援するため、公平な仕組みを構築する必要性を改めて浮き彫りにしています」

ネパールのバレンドラ・シャハ首相は9月23日に国連総会で演説する予定で、脱炭素化に取り組んできたにもかかわらず、ネパールが気候災害の最前線に立たされている現状を訴えるとみられている。

科学者らは、これはネパールだけの災害ではなく、世界全体に対する警告だと指摘する。

また、ハイ・マウンテン・アジア(High Mountain Asia)は、北極圏と南極圏に次いで、氷の形で水を蓄えている世界第3の巨大な貯水域でもある。この地域の氷が融解すれば、アジアの主要河川すべてに影響が及び、最終的にはその下流域で暮らす約20億人に影響を与えることになる。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの気候科学教授、フリーデリケ・オットー氏は警告する。

「化石燃料からの排出をゼロにするための移行をはるかに速いペースで進めなければ、今後数年間に、今回と同規模の災害がさらに発生することは避けられないでしょう。」

INPS Japan

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マリで女性性器切除(FGM)の廃絶に取り組む一人の男性

【国連IPS=UNFPA】

マリでは、女性・少女の推定10人中9人が女性性器切除(FGM)を受けている。父親であり、コミュニティの指導者として知られるシディ・ハイダラ氏は、長年この慣習を単なる生活の一部だと信じてきた。

Map of Mali
Map of Mali

マリ中部の彼の地域社会の多くの人々と同様、彼もそれを何世代にもわたって受け継がれてきた、守るべき伝統だと考えていた。しかし今、彼は村から村へと歩きながら、全く異なるメッセージを伝えている。「いかなる伝統も、少女の健康・権利・未来を犠牲にしてはならない。」|英語版|

彼の物語は、一人の男性の個人的な変化にとどまらない。西アフリカ・中央アフリカの一部地域では、FGMは今なお根強く残っており、マリはこの地域で最も実施率が高い国の一つでありながら、この慣習を明確に禁じる法律は存在しない。最近でも、伝統の保護を名目に、マリの男性たちによるFGM擁護キャンペーンが行われている。

社会規範が深く根付いた場所では、変化はしばしば、コミュニティ内部の信頼された声から始まる──ハイダラ氏のような声である。「私はかつて、この慣習は我々の伝統の一部であり、守るべきものだと信じていました。」とハイダラ氏は語る。

彼がいつかFGM廃絶を訴える側になるとは、誰も予想していなかった。

彼の考え方が変わり始めたのは、ドイツ政府の資金支援を受けてUN Women(国連女性機関)が実施する「変化の担い手となる男性と少年たち(Men and Boys as Agents of Change)」プロジェクトを通じて行われた研修やワークショップ、コミュニティ対話に参加してからである。

UNWOMEN
UNWOMEN

さまざまな人々の経験に耳を傾け、FGMがもたらす影響について学ぶうちに、彼はそれまで一度も問い直したことのなかった自らの信念を見直し始めた。そして、持続的な変化は一方的に押し付けるだけでは生まれず、対話と信頼、地域社会が主体となって取り組むことを通じて育まれるのだと理解するに至った。

「ドイツ政府の支援を受けたUN Womenの研修は、FGMに対する私の理解を大きく変えました。この慣習が少女たちに及ぼす身体的、心理的、社会的な影響について学んだのです。」「今では、家族や宗教指導者、若者、女性たちを対象に、定期的に啓発セッションを開いています」と彼は説明する。

彼は人々に何を考えるべきかを説くのではなく、少女を守るとはどういうことかについての対話を促し、対話を通じて長年の思い込みに挑んでいる。

こうした対話は、少しずつ変化を生み出している。「変化を実感しています。より多くの親が疑問を持つようになり、複数の家族が女性性器切除をやめる決断をし、少女を守ることについての議論もより開かれたものになっています。」

After spending years defending female genital mutilation, Sidi Haidara now leads community dialogues in Mopti, Mali, encouraging families to protect girls’ rights and abandon the practice. Credit: UN Women/Dieneba Deme

「少女たちを守ることは、コミュニティ全体の未来への投資だと確信しています。」

ハイダラ氏の歩みは、マリのモプティ州とガオ州全域で進む、より大きな運動の一部である。

ドイツ政府の支援を受け、UN Womenは宗教・伝統指導者、女性、若者、そしてハイダラ氏のような男性たちと協力し、女性・少女に対する暴力を防ぎ、有害な社会規範に挑む、コミュニティ主導の取り組みを進めている。

これまでに、両州で50件のコミュニティ主導の取り組みが実施され、8か所の対話プラットフォームが、少女の権利や保護、ジェンダーに基づく暴力の防止について話し合う場を提供している。

ハイダラ氏にとって、有害な慣習を捨て去ることは、単に一つの伝統を手放す以上の意味を持つ。それは、少女たちが安全に成長し、学校に通い続け、自らの未来を切り拓く機会を得られるようにすることである。

彼の歩みは、かつて有害な社会規範を支持していた人々こそが、それを変える担い手になりうることを示している。

伝統は一夜にして変わるものではない、とハイダラ氏は理解している。しかし、一つ一つの対話が、立ち止まって考える機会を生む。娘を守ることを選んだ一つ一つの家族が、これまでの世代から受け継いできたのとは異なる未来を、少しずつ書き換えていく。

モプティとガオでは、こうした対話が示している──永続的な変化は、必ずしも新たな法律や政策から始まるとは限らない。むしろそれは、コミュニティ自身が、少女たちのために異なる未来を思い描こうと決意するところから始まることが多いのだ。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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