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チリは先に手を引き、モルディブは扉を閉ざした―国連事務総長選が映す静かな淘汰

チリがミシェル・バチェレ氏への支持を撤回したことで、礼儀正しい外交言辞の裏にある政治の現実が浮かび上がった。これに対し、モルディブがバージニア・ガンバ氏の推薦を取り下げたことは、立候補が制度上本当に終わるとはどういうことかを示した。同じ事務総長選でも、その意味はまったく異なっていた。

国連本部(ニューヨーク)ATN=アハメド・ファティ】

チリは、ミシェル・バチェレ氏への支持を単に撤回したのではない。国連事務総長選という苛烈な力学の中で、もはや彼女が勝ち残れるとは見ていないという判断を、外交的な美辞麗句に包んで示したのである。

公式には、チリ政府は、彼女の立候補が「実現可能ではなくなった」と説明した。平たく言えば、それは、この選考過程に現実的な勝ち筋を見いだせなくなったということだ。国連事務総長選は、拍手や好意的評価で決まるのではない。最終的にものを言うのは、安全保障理事会とその拒否権である。

この決定は、3月11日にホセ・アントニオ・カスト大統領が就任した後に下された。前任のボリッチ政権がバチェレ氏擁立を後押ししていたことを踏まえれば、これはチリ国内政治の急激な右傾化を反映した動きでもあった。

チリ政府の説明は、整然として慎重で、感情を排したものだった。バチェレ氏の立候補にはもはや現実的な成功の可能性がなく、他候補への支持に回るのではなく、中立を維持するというものである。だが、その背後にある政治的事情は決して隠されてはいなかった。ロイター通信によれば、カスト大統領はすでに、バチェレ氏と、彼女の推薦を支持したガブリエル・ボリッチ前大統領の双方を批判していた。今回の撤回は、驚きというより、すでに到来していた政治的現実を正式に確認したものにすぎなかった。

さらに外交筋の関心を引いたのは、チリが「このプロセスを左右する一部の重要なアクターとの見解の相違」に言及した点である。これは何気ない表現ではない。外交的な暗号に近い言い回しである。

『エル・パイス』紙も報じているように、最も有力な解釈は、チリ政府が、最終局面で実際に影響力を行使する主要国、特に安全保障理事会の常任理事国の間で、バチェレ氏への強い抵抗があると判断した、というものだ。同紙は、彼女が国連人権高等弁務官の任期末に公表した2022年の新疆報告書をめぐる中国との摩擦に加え、中絶の権利やイスラエルを含む諸問題での立場をめぐって、米国の保守派との対立もあった可能性を指摘している。ロイター通信も別途、アナリストのリチャード・ゴーワン氏の見解として、米国内の共和党系圧力が彼女の立候補を難しくしていたと伝えた。

「ここで公式説明は終わり、ここからは国連内でささやかれる非公式の見方になる。」

その見方は、より辛辣で単純だ。チリは盤面を見渡し、行く手を阻むマスが多すぎると判断した。そして、すでに拒否権による待ち伏せが予想される局面に向けて、これ以上バチェレ氏に政治的資本を注ぎ込むことを断念した、というのである。国連の選挙では、候補者が正式に脱落するはるか前から、政治的にはすでに深手を負っていることが少なくない。今回も、まさにその一例だったように見える。

ただし、チリの支持撤回が、バチェレ氏の立候補を手続き上終わらせたわけではない。ロイター通信は3月25日、メキシコが引き続き彼女を支持すると報じ、ブラジル政府関係者も支持継続の意向を示していると伝えた。国連の選出枠組みにおいては、候補者は加盟国によって推薦される。そのため、チリが手を引いても、他の国家による推薦が残る限り、バチェレ氏はなお選挙戦にとどまる。弱体化はしたが、消えたわけではない。

これに対し、バージニア・ガンバ氏のケースはまったく異なる。しかも、その意味ははるかに決定的である。

3月26日、国連報道官は、モルディブが、アルゼンチン出身の外交官で、元国連事務総長特別代表(子どもと武力紛争担当)を務めたバージニア・ガンバ氏の推薦を撤回したと明らかにした。ガンバ氏はモルディブ単独の推薦を受けていたため、この撤回によって彼女の立候補は事実上終わったとみられる。国連の事務総長選考に関する公式ページでは、推薦と推薦撤回が正式な手続きの一部として記録されている。だからこそ、これは単なる象徴的な行為ではなかった。手続き上、立候補が終わったことを意味していたのである。

この対比は示唆的である。チリによるバチェレ氏支持の撤回は、政治的な切断ではあったが、選挙戦の終わりを意味するものではなかった。メキシコとブラジルが、なお彼女の立候補を支えているからである。これに対し、モルディブによるガンバ氏の推薦撤回は、まったく別の意味を持っていた。推薦国が一国しかなく、その国が手を引けば、立候補は終わる。同じ選挙であり、外交的には同じように丁重な言葉で語られていても、その帰結は大きく異なる。

そして、そのことこそが、この国連事務総長選の実態を端的に物語っている。表向きには、誰もが磨き上げられた言葉で語る。だが非公式の世界では、落とし戸は静かに開くのである。(原文へ)

INPS Japan

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えん)

欧州右派は、トランプに近づきすぎた代償を学び始めている

ニューヨークATN=アハメド・ファティ

長長年にわたり、ドナルド・トランプへの近さは、欧州右派の一部にとって思想的な正統性を示す勲章だった。そこには、既成秩序への反発、文化戦争への傾斜、EUへの反発、そして不満の政治をあけすけな言葉で語る姿勢が込められていた。だが政治の世界では、昨日までの資産が今日の重荷に変わることがある。いま欧州右派の一部で浮かび上がっているのは、トランプ主義との全面的な決別ではない。むしろ、トランプに公然と近いこと自体が、選挙や政治の場で代償を伴い得るという認識が広がりつつあるという、より注目すべき変化である。

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

その最も明確な警鐘が鳴ったのが、ハンガリーだった。

ヴィクトル・オルバンは、単なる再選を目指す保守派指導者ではなかった。彼は欧州における非自由主義的右派の象徴であり、トランプ陣営からは、強硬な右派統治が欧州でも通用し、成功し得ることの証しとして長く称賛されてきた存在だった。ハンガリーの選挙戦終盤には、J・D・ヴァンス副大統領がブダペストを訪れ、公然とオルバン支持を表明し、外部からの干渉だとする動きを非難した。トランプ本人も支援に加わり、選挙集会に電話で参加までした。だが、それでもオルバンは敗れ、16年に及ぶ政権に幕を下ろした。この敗北は、欧州右派における最も強固な政治ブランドの一つに深刻な打撃を与えた。ロイターはこの結果を、欧州極右の柱の一つが崩れた出来事と位置づけ、MAGAと結びついた政治に対する大陸全体の見直しを招いたと報じた。

重要なのは、オルバンの敗北が単なるハンガリー国内の出来事ではなかったという点である。それは、長く信じられてきた前提の限界を露わにした。トランプの支持表明は、思想的に近い勢力を鼓舞するというだけで、国外でも政治的価値を持つとみなされてきた。だが実際には、その近さは諸刃の剣である。支持層の一部を勢いづける一方で、指導者を主体性に欠ける存在に見せ、米国発の政治運動の地方支部のような印象を与えかねない。その運動はしばしば劇場型であり、その代償は他者に及ぶ。

ここで焦点に浮かび上がるのが、ジョルジャ・メローニである。

メローニはオルバンではなく、イタリアもまたハンガリーではない。だが彼女はいま、この新たな現実への対応を迫られている欧州右派の主要指導者の一人である。彼女とトランプとの距離が次第に明確になっているのは、単なる個人的な不和でも、一時的な外交上の対立でもない。それは、欧州のナショナリスト指導者が、トランプとの思想的な近さを保ちながらも、彼に従属しているように見られずに済むかどうかの試金石となっている。

最近の報道を見る限り、この亀裂は見かけだけのものではない。ロイターによれば、メローニがイラン危機をめぐるトランプの立場への支持を拒み、イタリアのさらなる軍事的歩調合わせにも慎重姿勢を示し、さらに教皇レオを攻撃するトランプの姿勢から距離を置いた後、トランプは公然と彼女を批判した。重要なのは、単なる意見の相違ではなく、そのタイミングである。オルバンの敗北によって、トランプとの公然たる一体化が、欧州右派がかつて考えていたような政治的追い風ではもはやなくなりつつあることが明らかになった、まさにその時期に、メローニは立ち位置の修正に動き始めた。

その意味で、メローニの姿勢は、裏切りというより自己防衛と読むべきだろう。

彼女は、より持続可能な路線を模索しているように見える。すなわち、ナショナリストとしての立場は保つ。保守政治家としてのアイデンティティも維持する。必要なときにはワシントンとの関係も生かす。だが、その近さが依存や従属に見える前に、はっきりと一線を引くのである。『同盟国であって、属国ではない』という言葉が説得力を持つのは、それが現実の不安に応えているからだ。欧州右派の指導者たちは、トランプの政治を称賛し、その言葉の一部を借り、彼の支持を歓迎することはできる。だが、いまや彼らが避けたいのは、トランプの影響下にあるように見えることである。

教皇の存在は、イタリアの事例をいっそう際立たせている。イランをめぐる対立であれば、戦略上の相違として説明できる。だが、教皇を巻き込む公然たる衝突は、イタリアではまったく別の意味を帯びる。それは、外交上の距離を、文化的にも分かりやすく、国内政治的にも訴求力を持つ問題へと変える。だからこそメローニは、イタリアの有権者に直感的に響く言葉で、トランプとの距離を広げる余地を得た。イランがこの亀裂に戦略的な意味を与えたのだとすれば、教皇はそれを政治的に避けて通れないものにしたのである。

もちろん、これは欧州右派全体が一斉にトランプ主義から離れつつあることを意味するわけではない。そう見るのは単純すぎるし、欧州政治はそれほど整然とは動かない。移民、国民的アイデンティティ、リベラルな制度への反発といった争点では、いまなおトランプの路線に明確な価値を見いだしている政党や指導者もいる。だが、オルバンの敗北とメローニの軌道修正が示しているのは、より微妙で、しかも重要な変化である。すなわち、トランプの『お墨付き』は、もはや無条件の追い風ではなくなりつつあるということだ。ある者にとってはなお支持層を勢いづけるが、別の者にとっては政治的な足かせにもなり得る。

おそらく、いま欧州右派のあいだで進行している本質的な変化はそこにある。もはや課題は、いかにトランプと歩調を合わせるかではない。そうした連携の中で自らが矮小化されるのを、いかに避けるかである。オルバンは全面的な接近路線を選び、そして敗れた。これに対しメローニは、より困難な道を探っているように見える。思想的な近さは保ちながらも、首輪の跡だけは見せないという道である。

今日の欧州において、それが政治的生存を保証するわけではない。だが少なくとも、それはますます賢明な選択に見え始めている。(原文へ

Original URL:https://www.amerinews.tv/posts/europe-s-right-is-learning-the-price-of-getting-too-close-to-trump

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中央アジア、新たな環境協力の段階へ

アスタナ地域環境サミット、気候・水・土地劣化に共同で対応

【アスタナ・タシケントINPS Japan/London Pos】

2026年4月22日から24日にかけてカザフスタンの首都アスタナで開かれている地域環境サミットは、中央アジアが気候変動、水不足、土地劣化といった複合的課題に対し、地域として本格的に共同対応へ踏み出す節目となる。環境問題を自然保護にとどまらず、安全保障、経済の安定、社会的福祉に関わる政策課題として位置づける動きが鮮明になっている。

RES 2026
RES 2026

中央アジアの環境問題は、一国だけで完結しない。アラル海の危機、国境をまたぐ水資源の非効率な利用、砂漠化、大気汚染はいずれも、個別の国家課題にとどまらず、地域全体の将来を左右する問題である。

とりわけ、アムダリヤ川とシルダリヤ川の流域で続いてきた持続可能性を欠く水管理は、生態系のみならず、各国経済の強靱性にも深刻な影響を及ぼしてきた。今回のサミットは、こうした共通課題を共有する段階から、共同で対処する段階へと進む具体的な一歩となる。

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会議では、環境政策を包括的に捉える8つの重点分野が議論されている。(1)気候変動の緩和、(2)食料安全保障と生態系の強靱性の確保、(3)自然災害リスクへの適応と経済的強靱性の強化、(4)大気汚染の削減と廃棄物管理の改善、(5)環境目標達成に向けた制度整備、(6)天然資源の持続可能な管理、(7)公正で包摂的なグリーン移行、さらに(8)環境・デジタル分野の能力強化である。

この議題設定は、環境問題を単なる保全の枠内に閉じ込めるのではなく、社会・経済の持続可能性と一体のものとして捉える発想を示している。

Image credit: United Nations
Image credit: United Nations

また、この取り組みが国連レベルで支持されていることは、会議に大きな政治的・国際的重みを与えている。環境問題がもはや自然保護だけの領域ではなく、安全保障や経済安定に直結する課題として認識されていることの表れでもある。

世界銀行やアジア開発銀行など国際金融機関の参加も重要である。環境分野の構想を具体的な事業へと結び付けるには、政治的意思だけでなく、多額の資金と高度な技術が不可欠だからだ。

今回のサミットで中心的な位置を占めるのが「グリーン移行(GX:グリーントランスフォーメーション:化石燃料中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー主体へ転換し、脱炭素と経済成長を両立させる取り組み)」である。中央アジア諸国にとって、それは大きな機会であると同時に、重い課題でもある。

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一方で、グリーン経済への転換は、投資の呼び込み、技術革新の促進、新たな雇用の創出につながり得る。再生可能エネルギー、省資源技術、持続可能な農業の拡大は、今後の経済成長を支える柱となる可能性がある。

他方で、その実現には大規模な制度・産業改革が求められる。老朽化したインフラの更新、産業構造の転換、市民の環境意識の向上はいずれも容易ではない。だからこそ、「公正で包摂的なグリーン移行」が強調されている点は重要である。移行の負担と利益を社会全体でどう分かち合うかが問われている。

ウズベキスタンにとって、このサミットは自国の環境政策を国際社会に示す重要な場でもある。近年、同国は「Yashil Makon」「Toza Havo」「Bio Meros」「Territory Without Waste」「Eco-Culture」などの取り組みを進め、環境分野での積極姿勢を打ち出してきた。

Image: INPS Japan

中でも、アラル海地域の再生に向けた取り組みは大きな注目を集めている。この分野で進められている具体策は、ウズベキスタンを地域内のみならず国際的にも重要な協力相手として位置づけるものであり、投資誘致や国際連携の拡大にもつながり得る。

サミットでは、中央アジア各国首脳による共同宣言をはじめ、2026年から2030年を対象とする国連との地域協力プログラム、生物多様性、エコツーリズム、生態系保護に関する覚書、森林火災に対応する地域早期警戒システムの創設に向けた合意、さらに国境を越える「平和公園」構想など、複数の重要文書がまとまる見通しである。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

これらは、環境事業の長期的推進と資金確保の基盤となり、地域協力を制度面から支えることになる。

今回の地域環境サミットは、中央アジアが地球規模の環境課題に対して、地域としてより主体的な役割を果たそうとしていることを示す場である。気候リスクの低減、天然資源の保全、持続可能な発展の確保に向け、統一的な地域戦略を築く試みが本格化している。

この会議は自国の成果を示す機会にとどまらない。国際連携を強め、投資を呼び込み、グリーン経済への移行をさらに前進させるための重要な外交・政策の舞台となる。(原文へ

INPS Japan/London Post

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次期国連事務総長は「選ばれる」のではない―「合意される」のだ

【国連本部ATN=アハメド・ファティ】

次期国連事務総長選びが始まった。少なくとも公式にはそうである。各国に書簡が送られ、候補者が推薦され、ビジョン・ステートメントも出そろった。今後数カ月のうちに、有力候補たちは加盟国との公開対話に臨み、改革、平和維持、そして多国間主義の将来について質問に答えることになる。

表向き、このプロセスは透明で秩序立ったものに見える。

だが、国連を長く見てきた者なら誰もが知っているように、事務総長選は演説で決まることはほとんどない。

勝敗を決めるのは、政治的な「算術」である。

Michelle Bachelet
Michelle Bachelet

公開された手続きの背後では、地域グループ、政治同盟、そして安全保障理事会の5常任理事国による拒否権が絡む静かな外交交渉が進んでいる。選挙戦の言葉はビジョンや指導力を前面に掲げるが、最終的な決着はもっと単純な一点に収れんする。すなわち、世界で最も力を持つ政府が「受け入れ可能」とみなす人物は誰か、ということである。

今年の候補者の顔触れは、その複雑な計算をよく映し出している。

ミシェル・バチェレ氏は、おそらく最も知名度の高い国際的経歴を携えて選挙戦に入った。チリ元大統領であり、元国連人権高等弁務官でもある同氏は、一国の指導者としての政治的重みと、国連高官としての制度的経験を併せ持つ。チリ、ブラジル、メキシコによる推薦は、中南米の一部諸国が国際的存在感のある候補を早い段階で結集軸にしようとしていることを示唆している。

Rebeca Grynspan
Rebeca Grynspan

バチェレ氏の訴えの中心にあるのは、国際協力が揺らぐ時代において多国間機関への信頼を取り戻すことである。これは国連外交で繰り返し語られてきたテーマでもある。戦争は増え、地政学的対立は鋭さを増し、国際機関への信頼は後退している。彼女の選挙戦は、国連がこの分断された世界に適応しつつ、創設時の原則を守り抜かなければならないと訴えている。

しかし、中南米からは別のタイプの候補も出ている。

現在、国連貿易開発会議(UNCTAD)事務総長を務めるレベッカ・グリンスパン氏である。コスタリカ元副大統領で、開発経済学を専門とする同氏は、貿易、金融安定、開発政策をめぐる取り組みを通じて、国連システム内で幅広い敬意を集めてきた。彼女の選挙戦が掲げるのは、国連をより機能的で、より説明責任のある、そして今日の世界経済の現実に即した組織へと立て直すことで、信頼性を回復するという路線である。

Rafael Grossi
Rafael Grossi

アルゼンチンは、現在国際原子力機関(IAEA)事務局長を務める職業外交官、ラファエル・グロッシ氏を推薦した。

その立候補は、いわば「テクノクラート型」の道筋を示している。グロッシ氏は長年にわたり、安全保障外交、核監視、国際交渉が交差する複雑な領域で活動してきた。彼の主張は明快である。国連は宣言を重ねるだけでなく、実際に成果を出すことに集中しなければならない、というものだ。

さらに、セネガル元大統領で、直近ではアフリカ連合(AU)議長も務めたマッキー・サル氏がいる。その推薦は、近年アフリカの外交官たちの間で繰り返し聞かれる声――今こそアフリカが再び国連を率いる番だ――を反映している。

アフリカから事務総長が出たのは、コフィ・アナン氏が退任してからすでに約20年も前のことである。54の加盟国を擁し、国連平和維持活動でも中核的役割を果たしてきたアフリカの多くの政府は、国連トップにおける新たな代表性がいまこそ必要だと考えている。

Macky Sall
Macky Sall

一見すると、この選挙戦は国連の将来像をめぐる異なるビジョンの競争に見える。

だが現実には、これは何十年にもわたり事務総長選出を左右してきた構造的な力によって形づくられている。

その最も重要な力が存在するのは、安全保障理事会の議場の中である。

国連憲章上、事務総長は安全保障理事会の勧告に基づき、総会によって任命される。実際には、これは候補者がさらに厳しい試練を通過しなければならないことを意味する。すなわち、米国、中国、ロシア、英国、フランスという5常任理事国のいずれからも拒否権を行使されないことである。

あらゆる選挙戦は、この現実を前提に組み立てられる。

ワシントンは通常、多国間機関を支持しつつも、西側同盟国との現実的な関係を維持できる候補を好む。北京とモスクワは、事務局を「政治的に積極介入する主体」にしない人物を選好することが多い。欧州諸国は、制度改革と国際協調を重視する傾向がある。

事務総長選がしばしば予想外の展開をたどるのは、このためである。

序盤の有力候補が、安全保障理事会による非公式のストロー・ポール(予備投票)が始まると、最有力であり続けるとは限らない。こうした非公開の投票では、各国政府がひそかに支持と「受け入れ不能ライン」を示す。常任理事国の一国からでも否定的な票が出れば、それだけで候補者の道が断たれることもある。

この過程の背後には、外交官たちがしばしば口にしながら、めったに制度化しないもう一つの要素がある。

地域持ち回りである。

国連憲章は、事務総長職に地域持ち回り制を定めてはいない。だが、このポストは長年にわたり、欧州、アジア、中南米、アフリカの間を緩やかに移ってきた。この慣行が、いまの選挙戦をめぐる主張の土台になっている。

アフリカ諸国にとって理屈は明快だ。アフリカは国連で最大の地域グループであり、平和維持や開発をめぐる議論でも中心的役割を担っている。それにもかかわらず、国際機関の最上層部における指導的地位は依然として限られている。アフリカ出身の事務総長を選ぶことは、この不均衡を是正する一歩になる。

その一方で、加盟国の間では別の論点も勢いを増している。

国連の約80年の歴史において、事務総長は一貫して男性だけであった。

国際機関全体でジェンダー平等を推進してきた各国政府にとって、次の国連トップは初の女性事務総長となり得る。もしこの論理が優勢になれば、争いはバチェレ氏とグリンスパン氏の2人に一気に絞られることになる。

さらに、地政学的な分断が深すぎる場合、熟練した外交官たちが水面下でしばしば語る第三の可能性もある。

大国間で政治色の強い人物に合意できないとき、彼らは時にテクノクラートに落ち着く。すなわち、イデオロギー上の対立をあまり背負い込まずに職務に就ける、評価の高い外交官である。この選挙戦でその人物像に当てはまるのがグロッシ氏である。

しかし、こうした複数の物語が同時に満たされることはない。

アフリカの候補を選べば、地域持ち回り論に応えることになる。女性を選べば、ジェンダー不均衡の是正につながる。テクノクラート型の外交官を選べば、安全保障理事会にとって無難な妥協案となる。

やがてこの選挙戦は、そうした優先順位の間で選択を迫られることになる。

当面は、公式対話と外交的な働きかけを通じて選挙戦が進んでいく。各国政府は耳を傾け、候補者は各地を回り、同盟関係はゆっくりと形を取っていく。

だが、その表のプロセスの下で、本当の計算はすでに始まっている。

問われているのは、単に誰がその職を望んでいるかではない。

世界で最も力を持つ政府が、今後5年間「この人物なら受け入れられる」と考えるのは誰か、ということである。

国連事務総長選は、常にこの静かな算術によって決まってきた。

今回だけが例外になると考える理由は、ほとんどない。

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/the-next-un-secretary-general-power-diplomacy-and-the-quiet-arithmetic-behind-the-race

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【カトマンズNepali Times=スディクシャ・トゥラダル

新型コロナウイルス禍で高級美容製品の販売店が相次いで閉店するなか、ネパールでは2人の若い女性が、主に国産の天然成分を使い、自国の肌質に合ったスキンケア・ヘアケアブランドの立ち上げに挑んだ。薬用植物の豊かさを生かしたその試みは、美のあり方だけでなく、女性の起業や雇用創出の可能性も広げようとしている。

Photo: KUNDA DIXIT
Photo: KUNDA DIXIT

アルシュリー・シャルマ・カティワダとメガ・アガルワルは、かつて学校の同級生だった。その後、それぞれ海外へ留学したが、帰国後、アーユルヴェーダに基づく化粧品について1年にわたる本格的な研究を重ね、「アヴァニ・ネパール(Avani Nepal)」を立ち上げた。サンスクリット語で「アヴァニ」は「大地」を意味する。その名の通り、天然で純粋、かつ本物志向の美容製品を届けることを理念としている。

共同創業者のカティワダは、「ネパールの化粧品市場には需要がある一方で、それを満たす製品が十分ではないと感じました。そこで、これまで十分に活用されてこなかったヒマラヤ産の天然ハーブを使ったブランドを立ち上げることにしたのです」と語る。

ネパールは、薬用植物や治療効果を持つ植物の宝庫である。伝説によれば、戦いで傷ついたラーマの命を救う希少な薬草を探すため、ハヌマーンはスリランカからヒマラヤまで飛んだという。だが、目的の草を見つけられなかったため、山そのものを引きちぎって運んできたとされる。

Nepali Times

ネパールには、ヤルサグンバやジャタマンシをはじめ、アーユルヴェーダで伝統的に用いられてきた植物や、近年ウェルネス産業でも注目される植物が500種以上ある。アヴァニも、ハイビスカスやヒマラヤ産の蜂蜜、そのほかの植物を使った製品開発を進めており、将来的には輸出拡大も視野に入れている。

ネパールで事業を営むことは決して容易ではない。とりわけ、地元で生産される小規模な手作り製品であればなおさらである。それでもアヴァニは、創業からわずか数年で忠実な顧客基盤を築き、多くのリピーターを獲得してきた。カティワダは「当初は難しい面もありましたが、高品質の原料を使い、手ごろな価格帯で製品を届けるという方針を貫きました」と振り返る。

世界的な潮流を受け、韓国の化粧品ブランドの手法も取り入れながら、アヴァニはTikTok、Facebook、YouTubeを通じて著名人やインフルエンサーを起用し、認知拡大を図ってきた。女優のバルシャ・シワコティやシルパ・マスケイ、メイクアップアーティストのレミらも、同社製品に好意的な評価を寄せている。

持続可能性も、このブランドの大きな柱である。アヴァニは全製品にガラス瓶、段ボール箱、紙袋を採用している。プラスチックの使用は最小限に抑え、使用する場合も再生素材を用いている。

カティワダは「持続可能なブランドは高価だと思われがちですが、私たちはその思い込みを打ち破りたいのです」と語る。「環境に配慮し、倫理的に調達された原料を使うことを重視しています。しかも、パラベン不使用、シリコン不使用、動物実験も行っていません。」

アヴァニは事業をさらに広げ、ネパールの観光・ウェルネス産業への足がかりも築いている。同社製品は、カトマンズやポカラの主要ホテルやリゾートに併設されたスパでも取り扱われており、The Terraces、Marriott、Kavya Resortのほか、ポカラのHideaway Resortとも協議を進めている。

当初10品目で始まったこのスキンケア・ヘアケアブランドは、いまでは60品目にまで拡大し、カトマンズ市内の100店舗以上で販売されている。今後はインド、中国、さらに日本市場への進出も計画しており、日本ではオカダとの提携が構想されている。

アヴァニ・ネパールの創業者たちは、雇用と研修の機会を通じて女性のエンパワーメントにも力を入れている。カティワダ自身も、ネパール女性商工会議所やネパール青年起業家フォーラムなどの団体で活動してきた。

政府による税負担の軽減などの追加支援は確かに助けになっているが、輸出に関する指導や、そのほかの事業規制に関する支援も同じくらい重要である。そうした環境が整えば、仕事や留学のため国外へ流出しがちな若者たちにも、新たな機会が開かれるだろう。

カティワダはこう語る。「誰もが海外を目指そうとしているなかでも、政府の十分な支援があれば、ネパール国内で機会を生み出すことはできます。私たちは目先ではなく、長期的な価値を見据えています。ネパールの化粧品ブランドの礎を築きたいのです。」(原文へ

Original URL: https://nepalitimes.com/multimedia/redefining-the-criteria-for-beauty

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ニュージャージーIPS=A・K・アブドゥル・モメン

当面、政治的に利を得るのは、ドナルド・トランプ米大統領とベンヤミン・ネタニヤフ首相かもしれない。だが、戦争が長期化すれば、両氏にとっての政治的帰結は見通せなくなる。他方で、結果がどうであれ一貫して利益を手にするのは、防衛関連企業や軍需産業、そして軍事ロビイストである。

A. K. Abdul Momen
A. K. Abdul Momen

最大の犠牲を強いられるのは、中東諸国、そしてより広くはイスラム世界である。何よりもまず、イラン、イスラエル、そしてその周辺諸国の人々が、絶え間ない空爆や砲撃、ミサイル攻撃にさらされている。双方の兵士と同様、何百万人もの人々が住まいを追われ、戦争が終わるまで恐怖の中で日々を過ごしている。

この地域は莫大な石油・ガス埋蔵量を抱え、世界経済を支える原動力でもあるにもかかわらず、多くの国々がなお不安定と貧困、治安不安に苦しんでいる。パレスチナからイエメン、イラクからアフガニスタンに至るまで、何百万人もの人々が、食料や安全、経済的機会といった基本的な生活条件すら欠いている。

実際、バーレーン、UAE、カタール、イエメン、サウジアラビア、レバノン、オマーン、エジプト、イラン、イラク、ヨルダン、パキスタン、アフガニスタン、シリア、アルジェリア、チュニジア、ナイジェリア、インドネシア、マレーシア、バングラデシュなど、多くのイスラム諸国で何百万人もの人々が、戦争やテロ、食料不足、そして命と自由が脅かされる状況に苦しんできた。

その結果、こうした国々の富はしばしば国外へ向かい、エリート層も、自国で産業基盤やインフラ、研究体制を築くより、より安定した非イスラム諸国に資金を投じる傾向がある。たとえ自国やイスラム共同体に投資するとしても、その多くはモスクや礼拝所、あるいは貧しい学生のためのイスラム神学校(マドラサ)の建設に向けられている。

一方で、病院や道路、工場、橋、技術学校、研究センターの建設には後ろ向きである。こうした偏りが、長期的な構造的弱体性を招いている。

ここで重大な問いが浮かび上がる。

国家の安全保障を担保するものは何か。

Photo credit: journal-neo.org
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ますます浮かび上がっているのは、核兵器と長距離ミサイル能力を持つ国家ほど、強い抑止力と安定を手にしているように見えるという見方がある。その逆説を端的に示しているのが北朝鮮である。

北朝鮮は、孤立し敵対勢力に囲まれながらも、核能力を背景に体制を維持している。そこから浮かび上がるのは、不穏な問いである。すなわち、今日の世界で生き残るには核武装が必要なのか、という問いだ。国家の安全と安定を守るために、各国の指導者は核能力を持つべきなのか。(ちなみに筆者の祖国バングラデシュは、自国の核武装と核保有国の国内駐留も拒否する選択をした。)

米国とイスラエルによるイランとの戦争の影響は、戦場の外にも大きく広がるだろう。たとえ戦闘が終わったとしても、この地域は長期にわたる経済的打撃、インフラの損傷、そして政治的信頼の失墜に直面する可能性が高い。

サウジアラビア、カタール、バーレーン、イラク、オマーン、レバノン、イランなどの国々は、深刻な経済混乱と国内の不安定化に見舞われるおそれがある。

さらに、この種の紛争が生み出す戦略的な力関係は、イスラム世界内部の分断を一層深める危険をはらんでいる。特に、域内諸国に置かれた外国軍基地が軍事行動や報復の標的となれば、域内で被害が広がり、もともと脆弱な同盟関係をさらに揺るがすことになりかねない。

ここでも別の問いが浮かぶ

自国領土内に外国軍基地を受け入れることは、本当に国家の安全を保障するのか。

それとも、むしろさらなる不安定と紛争を呼び込むのか。
各国指導部は、自国領内の外国軍基地を拒否すべきなのか。
そして、現実にそれを回避することは可能なのか。

バングラデシュでは、シェイク・ハシナ前首相が、自国領土が外国政府の軍事拠点として使われることを拒んだ結果、政権を追われたとの見方がある。果たして各国は、強大な外国政府の要求を拒むことができるのだろうか。

地政学の観点から見れば、この種の戦争はしばしば、資源支配や影響力の再編と結びついている。とりわけ、エネルギー資源や鉱物資源へのアクセスをめぐる経済的動機は、戦略的意思決定を理解するうえで無視できない。

US bases in the Middle East

そこからさらに深い倫理的な問いが浮かび上がる。

力と勝利は、結局のところ、正義や人権、倫理的指導力といった原則に優先されるのか。

倫理、人権、公平、道徳―これらは、弱者や聖職者が語る理想論にすぎないのか。
マキャヴェリ的な論理、すなわち力こそが生存を決めるという考え方こそが正しいのか。

実際、その論理はしばしば、ニッコロ・マキャヴェリに通じる政治的リアリズムを思わせる。そこでは、成功は倫理的な行為ではなく、生き残りと支配力によって測られる。一般にマキャヴェリズムとは、狡猾さや策謀、操作、欺瞞、二枚舌、非倫理的な手段を用いて目的を達成しようとする傾向を指し、とりわけ政治やビジネスの世界では「成功譚」として語られてきた。

そして歴史は、往々にして勝者だけを記憶する。だが、人間の苦しみや不安定化、道義の荒廃という長期的な代償を見れば、勝利だけで真の指導力を測れるのかという問いはなお残る。(原文へ

A・K・アブドゥル・モメン氏は、バングラデシュ元外相。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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森林なくして、経済なし

森林産品への需要が高まるなか、自然を守り育てる持続可能な管理を

【カトマンズNepali Times=ジーミン・ウー】

お金が木になるわけではない。だが、私たちの繁栄の多くは木々に支えられている。

森林は、何兆ドル規模もの経済活動や何百万という雇用、そして私たちが口にする食べ物、吸う空気、依拠する気候といった不可欠な基盤を、静かに支えている。現実には、健全な森林なしに世界経済は成り立たない。

森林の価値は、木材にとどまらない。森林は土壌を安定させ、農業・食料システムや産業生産に欠かせない水を調節し、エネルギーや多様な森林産品を供給し、さらにレクリエーションやエコツーリズムの場も生み出している。

Image: Amazon forest landscape. Credit: Ecuador Government
Image: Amazon forest landscape. Credit: Ecuador Government

森林セクターだけでも、世界経済に年間約1兆5200億ドルの価値をもたらしていると推計される。さらに、世界の国内総生産(GDP)の半分以上にあたる約44兆ドルが、森林を含む自然に依存している。

20億人以上にとって、薪などの木質燃料は調理や暖房に欠かせない。さらに数億人が、生計を森林に直接依存している。木材以外にも、森林は食料、薬用資源、樹脂、繊維、飼料、観賞用植物を提供しており、世界で約58億人を支えている。こうした非木材林産物の価値は、少なくとも年間94億1000万ドルにのぼり、今後さらに拡大する可能性がある。

森林は炭素を蓄えることで、数十億ドル規模の損失をもたらしかねない気候変動の影響から経済を守る役割も果たしている。たとえばブラジルでは、熱帯林を農地に転換した結果、蒸発散、すなわち地表から大気へ水分が移動する働きが30%低下し、地域の気温上昇と天水農業へのリスク増大を招いている。森林がなければ、世界の食料生産は持続しえない。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

さらに森林は、世界が鉄鋼やコンクリート、プラスチックといった高排出資材に代わる、気候にやさしい代替素材を基盤とするバイオエコノミーへと移行し始めるなかで、自然に根ざした解決策の一部でもある。人口が増加するなか、住宅建設に用いられる再生可能で持続可能な木材は、低炭素経済の柱となりうる。木材由来の繊維、食品包装材、さらには透明な「ガラス」に相当する新素材まで、すでに実用化されている。

これは、すでに過去最高水準にある森林産品への需要が、今後さらに増加することを意味する。たとえば2050年までに、世界は工業用丸太を10億立方メートル必要とする可能性がある。現在の年間生産量は40億立方メートルだが、そこにさらに需要が上積みされることになる。

もっとも、森林はすでに大きな圧力にさらされている。陸上生物多様性の最大80%が森林に生息しているにもかかわらず、森林減少と森林劣化の進行は世界全体で鈍化しつつあるとはいえ、なお他の経済用途のために伐採や転用が続いている。

気候変動が深刻化するなか、未来の世界経済は、より持続可能で、より循環型で、より自然と結びついたものへと変わらなければならない。そのためには、保全と生産を対立するものとしてではなく、一体のものとして結びつける必要がある。

国連食糧農業機関(FAO)は、生計を支え、生態系サービスを提供し、持続可能な産品を生み出す健全な森林というビジョンを実現するために必要な具体的措置を推進している。

まず重要なのは、需要の増大に応えることが、自然の再生能力を超えて資源を利用することを意味しないようにすることである。木材をより効率的に使い、木材製品のリサイクルと再利用を賢く進めれば、森林への圧力を軽減できる。

木造建築のように長期にわたって利用される用途では、炭素が数十年にわたり固定され、伐採された一本一本の丸太をより有効に活用できる。木材や非木材林産物の採取を生態学的限界の範囲内にとどめ、森林生態系の健全性を維持するうえで、持続可能な森林管理は不可欠である。

国際貿易もまた、世界の需給バランスを調整し、森林資源の豊かな地域が資源の乏しい地域を支えることを可能にする。だが、その前提として、貿易は強固な持続可能性基準と適切なガバナンスに支えられていなければならない。森林減少や非木材林産物の過剰採取を防ぎ、地域社会が確実に利益を得られるようにするためである。

また、小規模生産者から大規模生産者に至るまで、森林を守り責任ある管理を行う人々に報いるうえで、奨励制度や革新的な資金調達の仕組みも役立つ。

Photo: KUNDA DIXIT
Photo: KUNDA DIXIT

木材や竹などの再生可能資源を基盤とする拡大するバイオエコノミーは、さらなる発展の準備が整っており、有望な道筋を示している。ただし、それはあくまで持続可能な林業にしっかり根ざしている場合に限られる。そのためには、セーフガード、明確なルール、そして適切なガバナンスが不可欠である。

3月21日の「国際森林デー」にあたり、ひとつの結論が鮮明に浮かび上がる。森林なくして、経済は成り立たない。いま下される決定が、森林を守りながら、同時に将来世代のために強靱な経済を築けるかどうかを左右するのである。(原文へ

ジーミン・ウーは、国連食糧農業機関(FAO)林業部門ディレクター兼事務局長補である。

INPS Japan

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イラン紛争:「内戦は不可避」

マンチェスターIPS=カルロス・スルトゥサ

英北部マンチェスター中心部には、イランとイスラエルの国旗が掲げられ、約半世紀前に打倒された国王と、亡命先から王位継承を主張するその息子の肖像が並んでいた。アヤトラ体制に代わる選択肢として、レザ・パフラヴィ氏を支持するイラン人たちのデモである。

「体制は、もう長くは続かない。移行期を導き、国の統一を保てるのはレザ・パフラヴィだけだ。」家族がイラン国内で報復を受けることを恐れ、フルネームの公表や写真撮影を拒んだ若い女性ナザニンさんは、IPSの取材に対してこう語った。

実際、彼女自身も祖国をよく知っているわけではない。英国生まれで、両親が1982年に逃れたイランを一度も訪れたことがない。両親が祖国を去ったのは、聖職者らに乗っ取られた革命によって、西側に支えられた約40年の専制体制が終わってから3年後だった。

それ以来、イランはシーア派イスラム神権体制の下にあり、異論には苛烈な弾圧が加えられてきた。1月初旬には新たな弾圧の波が押し寄せ、死者数をめぐる数字は大きく食い違っている。政府発表では約3000人だが、医師や記者が引用する内部報告では数万人に上るとされる。

マンチェスター中心部でナザニンさんは、2月28日にイスラエルと米国が始めた対イラン爆撃作戦に、すべての希望を託していると語った。

これまでにこの爆撃で、最高指導者アリ・ハメネイ師を含む1000人超のイラン人が死亡した。息子がその地位を引き継ごうとしている事実は、体制側がなお抵抗を続ける意思を示している。攻撃は軍事目標だけでなく、9000万人を超える国民生活を支える重要インフラにも及んでいる。

「聖職者たちは、平和的な抗議や正当な要求に対して、常に暴力で応じてきた。悲しいことだが、体制を終わらせるには、もうこれしか道がないのかもしれない。」と彼女は語った。

Remains of a bombed residence in Tehran, allegedly belonging to a nuclear scientist. The joint bombing campaign by Washington and Tel Aviv has resulted in over a thousand deaths, the vast majority of them civilians. Credit: Mirza Reza/IPS
断片化する反体制派

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2月24日に公表した「恣意的逮捕と強制失踪の津波」と題する報告書で、1月8日と9日に全国で起きたとされる虐殺の後、数万人が拘束されたと非難した。

実際、聖職者体制への反対は、この10年近くにわたり強まり続けてきた。2017年と2019年には、経済苦境に抗議する大規模デモが発生し、やがて政権打倒を求める声へと変わった。

さらに2022年から2023年にかけては、イスラムのベールを着用していなかったとして治安当局に拘束され、死亡した若いクルド人女性の事件をきっかけに、「女性・命・自由」運動が数カ月にわたり国を揺るがした。

レザ・パフラヴィ氏の肖像は、国内外の抗議行動で繰り返し掲げられている。だが、それでもイラン反体制派を最もよく表す言葉は「断片化」である。

君主主義者、共和主義者、連邦制支持派、改革派は共通の敵を抱えながらも、相互に足並みをそろえられずにいる。

“Yemen is a hero,” reads this mural in central Tehran. Despite the ongoing conflict in the Strait of Hormuz, Iran has yet to activate its Houthi allies. Credit: Mirza Reza/IPS

「亡命先には自称指導者が何人もいるが、国内に実質的な基盤はない。パフラヴィはイスラエルが好む選択肢であり、体制を離れた著名な改革派の一部を引き寄せてもいる。だが、それだけでは不十分だ」。イラン南東部バルーチ地域出身のアナリスト、メヘラブ・サルジョフ氏は、ロンドンからIPSの取材に対してこう語った。

サルジョフ氏はまた、1965年に結成され、1979年にモハンマド・レザ・パフラヴィ国王打倒の一翼を担ったイラン人民モジャヘディン機構(MEK)にも言及した。

「彼らは国内で高度に組織化され、情報網を持ち、破壊工作を実行する能力もある。だが、米国とイスラエルは、どうやら彼らを選択肢から外したようだ。」と同氏は述べた。

ただ、状況はさらに複雑である。ペルシャ系は人口のおよそ半数を占める一方、イランはアゼルバイジャン系トルコ人、クルド人、バローチ人、アラブ人などを含む多民族国家でもある。

サルジョフ氏は、「周縁の多様性とペルシャ中心部」という構図を指摘し、多くの勢力が、ある種の連邦制に向けた地方分権を求めていると語る。だが、アヤトラ体制も、パフラヴィ氏も、MEKも、そしてペルシャ系政治中枢の大半も、そのような選択肢を受け入れる構えはない。

では、新たな連邦的単位の境界は、民族に沿って引かれるのか、歴史に基づくのか、それとも地理的条件によるのか。合意の欠如は、暴力の長期化を予感させる。

「体制は殺戮を続けながら崩壊する。その後には、誰もができるだけ多くの領域支配を広げようとする“リビア型”の事態が待っている。内戦は不可避だ」

A daily scene in Iranshar, in southeastern Baluchistan, Iran. Sistan and Baluchestan is the most underdeveloped province, as well as the most affected by violence in the entire country. Credit: Karlos Zurutuza/IPS
不確実な崩壊後の秩序

現時点で、ワシントンとテルアビブは短期的な目標に集中しているように見える。その戦略の軸は、爆撃による体制打倒にある。だが、世界の多くのアナリストは、このような手法がその目的を達成した例はないと指摘している。

現在、米・イスラエルの攻勢は、ホルムズ海峡の航行を確保し、アラビア半島からの石油輸送を回復させることにも重点を置いている。米国は、この重要な海上輸送路をめぐる紛争によって生じたエネルギー価格への打撃を和らげたい考えだ。

CNNや『ニューヨーク・タイムズ』など米主要メディアは、CIAが将来的な地上攻勢への参加を視野に、クルド人ゲリラの武装支援を進めている可能性があると報じている。

国内情勢の不安定化が深まる中で最近結成された「イラン・クルディスタン政治勢力連合」は、軍事力を持つ地下政党5組織を束ねている。

これまでのところ、この連合はワシントンのそうした計画を明確には支持していない。だが、体制打倒と、自己決定権を含む民主的権利の獲得という目標を繰り返し強調している。

さらに、北西部のウルミアやタブリーズなどで歴史的な領土対立を抱えるアゼルバイジャン系トルコ人を含む、国内の他勢力と協力する用意も示している。

イスラエルのバル=イラン大学で中東研究の博士号を取得し、イランのクルド人をテーマに論文を書いた研究者ドゥンヤ・バショル氏は、楽観視は難しいと認める。

Map of Iran
Map of Iran

「イランにおけるトルコ系ナショナリズムは、ペルシャ・ナショナリズムの攻撃性だけでなく、隣国アゼルバイジャンやトルコとの民族的結びつき、さらにイラク領クルディスタン地域における複雑なクルド・トルコ関係からも力を得ている。」と、このトルコ人アナリストはアンカラからの電話取材でIPSに語った。

「アゼルバイジャン系トルコ人もクルド人も、内部の境界線を最大限主義的に引き始めている。したがって、対話や共存を訴える声があっても、衝突の発生を防ぐことはできないだろう。」と同氏は付け加えた。

バショル氏は、民族間対立が国内の他地域にも広がり得ると警告し、1979年の革命後にも同様の火種がすでに表面化していたと指摘する。その際は、1980年から1988年まで続いたイラン・イラク戦争によって、かろうじて封じ込められたという。

「国内には民族的な境界線が生まれるだろう。だが、人口が混在する大都市では何が起きるのか」と同氏は問いかける。

そして、それは「予測不能なシナリオ。」だと述べる。

「もし体制が崩壊すれば、混乱を回避できるのはテヘランに強力な政府が存在する場合だけだ。だが現時点では、パフラヴィであれ他の選択肢であれ、それを実現できることを示す材料は何もない。」(原文へ

INPS Japan/IPS

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体制転換―うまくいくこともあるが、たいていは失敗する

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

ドナルド・トランプは、戦争を終わらせることを公約に掲げて選挙戦を戦った。ベネズエラでの成功に気を良くした彼は、自らの軍事的成果に酔い、複数の国での体制転換を当て込んでいる。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ

米軍は、ベネズエラの指導者ニコラス・マドゥロとその妻を迅速かつ断固たる作戦で拘束し、米国へ連行した。カラカスの現政権は、もはや米国の意向に大筋で従うほかない状況に置かれている。

一方、イランに対する戦争をめぐるドナルド・トランプ大統領の狙いは、なお不明確なままである。その理由の一端は、同氏がさまざまな説明を口にしてきたことにある。すなわち、イランの核開発計画を最終的に破壊するため、中東に対するイランの脅威を終わらせるため、イラン国民を支援するため、そしてイランの「ひどい体制」を打倒するため―という具合である。だが、その論理は曖昧で、体制転換についても思いつきのように語っている印象が否めない。

トランプ氏は、この戦争の終わり方についても大げさな構想を抱いていたようだ。同氏は「無条件降伏」を唱え、その後継指導者の選定にも自ら関与すると示唆した。つまり、「イランの次の指導者を選ぶには、自分が関与しなければならない。」と言わんばかりである。

しかし、イランに対する電撃的勝利は実現せず、戦争終結の見通しも立っていない。しかも、新たな指導者はトランプ氏の関与なしに選ばれた。ムッラー体制の統治構造は極めて強固であり、指導部を急襲して排除すれば体制転換が起きるという期待は現実にならなかった。

それでもトランプ氏は、「ベネズエラで我々がやったことは、私の考えでは完璧な、まさに完璧なシナリオだった。」と語っていた。米誌『アトランティック』は、この姿勢を「国家全体に対する敵対的企業買収」と呼んでいる。いまや米政権はキューバにも「降伏」を求めている。エネルギー供給を事実上断たれ、経済が崩壊状態にあるキューバについて、トランプ氏は「やろうと思えば何でもできる」と述べ、ディアス=カネル大統領の退陣を要求している。

企業の世界では、敵対的買収が成功することもあれば、失敗することもある。トランプ氏が描く「政府の迅速な降伏」も同じである。イランに関して言えば、同氏はウォール街流の発想に惑わされていた。無責任にも、爆撃開始前からイラン国民に対し、政府を打倒するよう呼びかけていたのである。だが、イランでの体制転換という話は、いまや忘れ去られつつあり、トランプ氏自身も民主主義に強い関心を持っているようには見えない。彼の関心は、原油価格を引き下げ、株価を押し上げることにある。

過去からの教訓

体制転換―すなわち政権中枢を入れ替え、米国にとってより都合のよい政府を据えるという発想―は、米国外交において新しいものではない。体制転換の支持者は、しばしば日本やドイツを民主化成功の好例として挙げる。だが実際には、その目的は民主化そのものではなく、少なくとも第一義的には、米国と理念的に近い、あるいは米国に従順な政権を樹立することにある場合が少なくない。

もっとも、国家安全保障戦略の中でモンロー主義の徹底をうたった、いわば「トランプ版補論(Trump Corollary)=ドンロー主義」もまた新しいものではない。実際には、それはすでにケネディ、ニクソン、レーガン、ブッシュの各ドクトリンの中に見られた発想である。

トランプ氏の体制転換論と、カナダ、グリーンランド、パナマ運河に向けられた強硬な領土的野心は、1823年のモンロー主義、とりわけ1904年にセオドア=ルーズベルト大統領によって拡張されたその解釈を想起させる。このドクトリンは、ラテンアメリカへの米国の介入を正当化するものだった。20世紀初頭、米国は「自らの裏庭」とみなした中南米諸国に対し、軍事力と諜報活動を駆使して繰り返し介入した。たとえばコロンビアでは、パナマ運河支配のためにパナマ分離派を支援した。ドミニカ共和国には繰り返し介入し、キューバは1906年から1909年まで占領、その後もたびたび介入した。ニカラグアでは、いわゆる「バナナ戦争」の中で米企業ユナイテッド・フルーツの利益を守るために介入し、さらにメキシコ、ハイチ、ホンジュラスにも介入している。

『ニューヨーク・タイムズ』は最近、トランプ氏の現在の体制転換への熱意は、ドワイト・D・アイゼンハワーのそれに最も近いと指摘した。1953年から1961年までの2期の在任中、かつて冷徹な計算で知られた将軍アイゼンハワーは、次から次へとクーデターへ傾斜していった。1953年、米国は「アヤックス作戦」により、選挙で選ばれたイランのモハンマド・モサデク首相の打倒に成功した。モサデクは英国資本の石油産業を国有化しようとしていた。クーデターはCIAの支援を受けて成功し、米国は傀儡としてモハンマド・レザー・シャーを据えた。シャーは、いわゆるイラン革命と1979年のアヤトラ・ホメイニ師による独裁体制成立まで絶対的権力を握り続けた。

イランでの政権打倒に成功した後、アイゼンハワーはグアテマラにも介入した。大規模な土地改革を進めていた選挙で選ばれたハコボ・アルベンス・グスマン大統領は、1954年のクーデターで追放され、親米派のカスティージョ・アルマス大佐に取って代わられた。

この時期、米国政府は、特にアジア諸国がソ連陣営に接近するのを防ぐため、「ドミノ理論」も打ち出した。一つのドミノが倒れれば、他も連鎖的に倒れる、という考え方である。朝鮮戦争が休戦で終結したのもこの時期であり、ベトナム、ラオス、ビルマ、インドネシアなどが、アイゼンハワーの「ドミノ・リスト」に載せられた。

しかし、CIAが展開した体制不安定化工作は、しばしば逆効果をもたらした。インドネシアやシリアでは、介入の後にかえって政権が強化された。さらにアイゼンハワーは、キューバでの米国の影響力喪失という問題をケネディに引き継いだ。1961年4月のピッグス湾侵攻の失敗―フィデル・カストロ打倒を狙った作戦であった―は、その後何十年にも及ぶキューバ封鎖の出発点となり、トランプ氏はいま、それを体制転換によって終わらせようとしている。

近年における体制転換失敗の最も劇的な例は、疑いなく2003年にジョージ・W・ブッシュ政権下で始まったイラク戦争である。名目上の目的は、サダム・フセインを権力の座から引きずり下ろし、大量破壊兵器を廃棄することにあった。戦争によって体制そのものは崩壊したが、国連と米国の調査団は、現地で徹底的な査察を行ったにもかかわらず、大量破壊兵器を発見できなかった。さらに、イラクに秩序ある国家体制を築こうとする試みも失敗に終わった。こうした経験、そしてとりわけアフガニスタンへの20年に及ぶ軍事介入が悲惨な結末を迎えたことによって、体制転換という発想は決定的に信用を失った。

その含意は何か

外部から強制される体制転換の試みが教える最も重要な教訓は、介入はしばしば、本来は防止または解決しようとしていたはずの危機を、むしろ生み出してしまうということである。トランプ氏にとって、忌み嫌うマドゥロ政権を打倒する機会は、見過ごすにはあまりに魅力的だったのだろう。

体制転換や民主化の試みを数多く検証した学術研究は、三つの重要な知見を示している。

第一に、政権を単に排除するだけでは不十分だということである。たとえばイラクのサダム・フセインのように殺害する場合でも、あるいはベネズエラのように拉致する場合でも、その後に生じるのはしばしば混乱であり、国家崩壊であり、時には内戦である。そうである以上、今後のベネズエラ、キューバ、イランの展開を注意深く見守る必要がある。

第二に、体制転換後の民主化が成功する可能性は、その国にすでに民主主義の経験が存在していた場合の方が高い。しかし現実には、その条件が整っていない場合が多い。

そして第三に、もし真の目的が民主化にあるのなら―勢力圏の確保や石油供給の確保などではなく―単に選挙を実施するだけでは不十分である。アフガニスタンがその典型例である。むしろ、暴力を放棄し、開発援助と市民社会支援を柱とする長期的な取り組みを始める方が、はるかに有望である。

こうした知見に米政権が動かされるかどうか、あるいはそれを認めるかどうかは疑わしい。現時点で米大統領は、イラン政府の強い反発に直面しているにもかかわらず、なお高揚感に包まれている。しかも、その反発は驚くべきことに、同氏にとって予想外だったようである。かつて彼が掲げていた「無意味な戦争を終わらせ、新たな戦争は始めない」という約束は、いまや忘れ去られたかのようである。

※ハーバート・ウルフは、ボン国際軍民転換センター(BICC)の所長を1994年の創設から2004年まで務めた。現在は、BICC上級研究員。

Original URL:https://toda.org/global-outlooks/regime-change-sometimes-it-works-often-it-doesnt

INPS Japan

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太陽光で危機をしのぐパキスタン―中東発のエネルギー不安の中で進む「静かなソーラー革命」

パキスタン・カラチIPS=ゾフィーン・エブラヒム

パキスタンでは、太陽光発電への転換が急速に進んでいる。電力料金の高騰と供給不安を背景に、家庭や企業は国家電力網への依存を減らしつつあり、その拡大は、米国・イスラエルによる対イラン戦争に伴う中東発のエネルギー危機の衝撃を和らげる一因ともなっている。とはいえ、燃料価格の上昇は依然として庶民生活を直撃しており、再生可能エネルギーの恩恵が社会全体に広く及ぶまでにはなお時間がかかる。

エネルギー専門家のワカル・ザカリア氏は、太陽光発電は「非常に合理的な選択」だと語り、自らそれを実践している。過去5年以上にわたり、自宅の屋上に設置した太陽光パネルによって電気料金を大幅に削減し、時には請求額がゼロになることもあった。余剰電力はネットメータリングを通じて売電してきた。

先月、同氏はさらに一歩踏み込んだ。電気自動車(EV)を2台購入し、太陽光パネルの増設と蓄電池容量の倍増によって、国家電力網からのほぼ自立を実現したのである。イスラマバードに拠点を置く環境コンサルティング会社「ハグラー・ベイリー・パキスタン」の最高経営責任者(CEO)である同氏は、「私はもはや彼らの燃料に頼らず、電力も必要としていない」と語った。

「自分の車を走らせているのは『神の手』だと私は呼んでいる」とザカリア氏は語った。

その投資効果もすでに明確だ。「蓄電池の費用を含めても、自家発電した電力のコストは1単位あたり約12ルピー(0.043米ドル)だ。一方、それをイスラマバード電力供給会社に約26ルピー(0.092米ドル)で売ることもできる。」と説明する。ただし、売電収入を得るには煩雑な手続きが必要なため、現時点では申請していないという。

ガソリン車から、1カ月前に購入したEVに乗り換えたことで、コスト差はさらに明確になった。ザカリア氏は、「自宅で発電した電力でEVを走らせた場合、走行1キロ当たりのコストは約2ルピー(0.0071米ドル)にすぎない。これに対し、従来のガソリン車では1キロ当たり27ルピー(0.096米ドル)かかっていた」と語った。

この試算には、ガソリン車で必要となる潤滑油やオイル・エアフィルター、ブレーキ関連などの定期的な整備費用は含まれていない。

Vaqar Zakaria’s white EV charges under rooftop solar panels at his home — powered by the sun. Credit: Vaqar Zakaria

「EVはほとんどメンテナンスを必要としない。」と同氏は付け加えた。

もっとも、ザカリア氏のように国家電力網への依存をほぼ断てる家庭は、なお一部にとどまる。

同氏は、電力会社が消費者を「プロシューマー(電力の利用者であると同時に生産者でもある存在)」として取り込む利益配分の仕組みを導入し、あわせて初期費用を支えるマイクロファイナンスを整備しない限り、太陽光発電をめぐる構図は大きく変わらないだろうと指摘する。そのためには、電力事業の民営化が必要だという。

それでも、蓄電池の有無を問わず、太陽光発電は多くの家庭にとって現実的な代替手段になっている。イスラマバードに拠点を置くエネルギー・環境分野のシンク・アンド・ドゥータンク「リニューアブルズ・ファースト」のデータマネジャー、ラビア・ババール氏は、「パキスタンで起きている変化は極めて大きい。電力消費者の国家電力網への依存は着実に低下している。」と語った。

バハール氏によれば、送電網由来の電力需要は、2025会計年度には2022会計年度比で11%減少した。背景には、家庭や企業による太陽光発電への切り替えがある。

「昼間に送電網から供給される電力は大幅に減っている。その結果、ガス火力発電所の稼働も以前より大きく落ち込んでいる。」とババール氏は説明した。

More than 100 young Pakistani women from across the country have been trained in and certified in solar roof installation by LADIESFUND Energy Pvt Ltd through Dawood Global Foundation’s Educate a Girl programme. They have solarised a women’s shelter, a church and an orphanage. Credit: LADIESFUND Energy (Pvt.) Ltd
2022年が転機に

エネルギー経済財務分析研究所(IEEFA)のエネルギー金融専門家、ハニア・イサード氏は、人々がより安価な選択肢の必要性を痛感した転機は2022年だったと振り返る。

「ロシアによるウクライナ侵攻を受けて液化天然ガス(LNG)価格が急騰し、パキスタンはガス不足に陥った。その結果、広範な停電が発生し、電気料金はこの数年でほぼ3倍になった。」と同氏は語る。

その結果、初期費用を負担できる家庭や企業は、高額で不安定な電力を使い続けるのではなく、太陽光パネルへの投資を選ぶようになったという。

独立系クリーンエネルギー・シンクタンク「EMBER」によると、エネルギーミックスに占める太陽光発電の割合は、2020年の2.9%から2025年末には32.3%へと上昇した。

この静かな「太陽光革命」は、いまや中東発のエネルギー危機に対する重要な緩衝役となりつつある。米国・イスラエルによる対イラン戦争でホルムズ海峡が閉鎖される中、今週公表されたリニューアブルズ・ファーストとエネルギー・大気浄化研究センター(CREA)の共同報告書は、その効果を明確に示した。

報告書の共同執筆者の一人であるババール氏は、「パキスタンの太陽光革命は、この国のエネルギー構造を静かに変えつつある。送電網への依存を減らし、LNGへの依存を抑えることで、多くの近隣諸国がなお持ち得ていない、世界市場の変動に対する耐性を生み出している。」と語った。

A house in rural Gilgit with solar panels. Credit: SHAMA Solar.

報告書によれば、パキスタンは太陽光発電の急拡大によって、2020年以降、石油・ガス輸入で120億米ドル超の支出を回避してきた。現在の価格水準が続けば、2026年だけでもさらに63億米ドルを節約できる見通しだ。

CREA共同創設者で主任分析官のラウリ・ミュリーヴィルタ氏は、今回の太陽光ブームが輸入負担を和らげ、湾岸地域からの石油・LNG価格ショックに対する備えになっていると指摘する。

産業界でも太陽光発電への転換が進み、LNG需要は大きく落ち込んでいる。

ババール氏は、「この変化は政府の政策にも直接影響を及ぼしている。パキスタン政府はLNGの長期供給契約の相手先に対し、余剰カーゴを国際市場に回せるよう契約見直しを求めている。国内のガス消費が急減し、国際市場では供給過剰が生じているからだ」と語った。

パキスタンは国内埋蔵量の減少を受け、2015年からLNGの輸入を開始した。用途の中心は電力部門で、国内電力供給の約4分の1を占め、次いで産業部門が続く。

ホルムズ海峡経由でカタールから供給されるLNGは、価格高騰に加え、家庭での太陽光発電への移行が進んでいることから、競争力を失いつつある。紛争前に一部のLNGがすでに到着していたことに加え、影響を受けたカーゴの不足分を国内ガスで補っているため、供給は4月中旬ごろまで維持される可能性があるという。

ババール氏は、「パキスタンはこれまで、変動の激しい国際LNG価格に常に脆弱だった。価格が急騰すれば、外貨準備に大きな圧力がかかる。」と語った。

イサード氏もこれに同意する。「太陽光発電は一定の緩衝役を果たしてきた。電力部門はインドネシアや南アフリカからの輸入石炭にも依存しており、当面は供給逼迫が深刻化する可能性は低い。加えて、季節的な水力発電の増加と穏やかな気候が、LNG火力需要の急増を抑えるだろう。現時点でパキスタンは、南アジアでより大きな打撃を受けているバングラデシュやインドとは対照的に、当面の危機を回避している。」

それでも生活苦は深まる

ただし、太陽光発電の拡大も、原油価格上昇の打撃から国民生活を守ることはできなかった。ガソリンと軽油の価格は、それぞれ1リットル当たり1.15米ドル、1.20米ドルに達し、同国史上最大となる20%の上昇を記録した。輸送コストの上昇は、交通運賃や食料品価格の値上がりに直結している。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

ザカリア氏は、この危機が進むべき方向をはっきり示しているとみる。すなわち、EVの普及、ディーゼル依存の低減、そして再生可能エネルギーの拡大である。

「まずは二輪車から始めるべきだ」と同氏は提案する。理想を言えば、パキスタンにはEVを基盤とした大規模な公共交通システムが必要だという。さらに、貨物輸送をトラックから鉄道へ転換すれば、燃料コストは大幅に削減できると述べた。

またザカリア氏は、政府による石油配給や緊縮策を支持している。

先週、シェバズ・シャリフ首相はテレビ演説で、「地域全体が現在、戦争状態にある。」と述べ、政府職員の週4日勤務制や、3月16日から月末までの学校の春休みを発表した。政府職員の50%は交代制で在宅勤務とし、民間部門にも同様の措置を勧告した。

高等教育機関は燃料節約のためオンライン授業に移行し、連邦・州政府の会議もオンライン化された。政府機関向けの燃料手当も削減されている。

さらに緊縮措置の一環として、連邦・州の閣僚は2カ月分の給与と手当を返上し、国会議員の報酬も25%削減される。閣僚、議員、政府高官の海外出張は必要不可欠な場合に限られ、搭乗クラスもエコノミーに限定された。結婚式は招待客を200人までに制限し、食事も一品料理のみとされた。

庶民に重い「人間的代償」

だが、こうした措置も、サバ・ナスリーンさん一家の苦境を和らげるには至っていない。家政婦として働く52歳の2児の母は、「燃料価格の上昇で、私たちの暮らしは本当にやっていけなくなった。燃料が上がれば食料品の値段も上がる。果物や肉はほとんど買えず、いまでは牛乳や野菜さえ買えない。」と語った。

ラマダン明けを祝うイスラム教の祭りイード・アル=フィトルを目前に控え、ナスリーンさんは「娘たちのためにシアー・クルマを作れないイードは、物心ついて以来初めてだ。」と打ち明けた。シアー・クルマは、南アジアの多くのムスリム家庭で祝祭時に作られる、甘い細麺の伝統的なデザートである。

「ヴェルミチェリの箱は、今年は150ルピー(0.53米ドル)から300ルピー(1.07米ドル)へと値上がりした。」と彼女は話す。さらに、「それに、イランへの攻撃で祝う気持ちも薄れてしまった。心の底からうれしいと思えない。胸が重い。」と続けた。

太陽光革命は、多くの人にとって希望の光となっている。だが、ナスリーンさんのような家庭にとっては、日々の暮らしを守る闘いがなお続いている。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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