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|中東|核の火種となり得る地域:戦略力学と核リスク

【エルサレムINPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】

中東は、世界で最も不安定な地域の一つとしばしば形容される。長期化する紛争、根深いイデオロギー対立、脆弱な地域安全保障枠組み、そして大国の関与が重なり、核リスクが高まりやすい構造を抱えている。

この地域で核兵器を保有していると広く信じられている国は一国に限られるが、核能力の獲得を目指した、あるいは目指していると疑われる国は複数ある。こうした力学が地域の対立と結びつくことで、中東は核の火種(flashpoint)となり得る。|ENGLISHRUSSIAN

中東で核兵器を保有しているのはどこか

イスラエル

イスラエルは中東で唯一、核兵器を保有していると広く見られている。ただし政府は、保有の有無を公式に肯定も否定もしていない。この「核の不透明性(nuclear opacity)」政策は数十年にわたり維持されてきた。

専門家の推計では、核弾頭数はおおむね80~200発とされる。運搬手段としては、航空機、地上配備ミサイル、潜水艦発射能力を組み合わせた「核の三本柱(トライアド)」を備えるとみられている。

イスラエルにとって核兵器は、敵対的な地域環境における究極の抑止力であり、国家の存立を脅かす事態を防ぐための最終手段と位置づけられている。現時点で、イスラエル以外の中東諸国が運用可能な核兵器を保有しているとの評価は、一般的ではない。

中東で核兵器保有を目指す(と見られる)国々

イラン

中東の核拡散をめぐる議論の最大の焦点はイランである。イランは核兵器開発の意図を否定し、計画は民生目的だと主張している。しかし実際には、先進的なウラン濃縮能力を発展させる一方、時期によっては国際原子力機関(IAEA)による査察・監視への協力を制限してきた。

同時にイランは、長距離弾道ミサイル計画の高度化も進めている。これらのミサイルは、理論上は核弾頭を搭載し得る。

多くの分析者は、イランが核の閾値(threshold)――政治的な意思決定さえ下されれば、比較的短期間で核兵器を製造し得る段階――に近づいているとみる。イランの核武装の可能性は、地域の軍拡競争を誘発する主要因とされ、周辺国の政策判断にも連鎖的な影響を及ぼし得る。

サウジアラビア

サウジアラビアは近年、原子力計画の推進姿勢をいっそう鮮明にしている。公式には民生用のエネルギー需要を軸に説明されるが、地域の安全保障上の懸念と強く結びついており、軍事・抑止上の含意も帯びる。

サウジ側は、原子力発電がエネルギー構成の多様化、石油依存の低減、そして「ビジョン2030」の下で増大する国内電力需要への対応に不可欠だと主張する。

一方でサウジ指導部は繰り返し、イランが核兵器を獲得すればリヤドも同等の能力を求めると警告してきた。この点が、同国の原子力計画を安全保障上きわめて敏感な案件にしている。

サウジは原子炉建設を視野に入れつつ、国内のウラン資源開発や燃料サイクル関連研究の拡大を進め、米国、中国、韓国、ロシアなどとの原子力協力の枠組みも模索してきた。

ワシントンとの最大の争点は、ウラン濃縮と再処理に厳格な制限を受け入れることに対するサウジの消極姿勢である。濃縮と再処理は国際的に、核兵器能力へ至り得る潜在的な「経路」と見なされやすい。

トルコ

トルコはNATO加盟国であり、NATOの核共有(nuclear sharing)をめぐる枠組みの下で、米国の核兵器が自国内に配備されていると指摘されている。トルコの指導者は機会あるごとに、「ある国は核兵器を持てるのに、なぜ他国は持てないのか」との趣旨で疑問を呈してきた。

NATO加盟と国際的コミットメントは現時点でトルコの選択肢を制約しているが、こうした発言は長期的な不確実性を示唆している。

エジプト

エジプトは過去に核研究を進めた経緯があり、中東を大量破壊兵器のない地域にする構想(WMDフリー・ゾーン)を長年提唱してきた。だが現在は、公式には不拡散体制を支持する立場をとっている。

またエジプトは、イスラエルの核能力とイランの核計画を、地域の安全保障上の不均衡要因として注視している。

核の「能力」を持つ(ただし兵器化を公言していない)国々

中東には、現時点で核兵器開発の意思を公言せず、国際的な監視・検証の枠組みの下で、エネルギー、研究、医療、産業などの民生目的に焦点を当てる国もある。

最も明確な例がアラブ首長国連邦(UAE)である。UAEは、濃縮・再処理を行わないという厳格な不拡散コミットメントの下で、バラカ原子力発電所を運用している。

ヨルダンは、訓練、医療用同位体、科学研究に用いる小型研究炉を運転している。エジプトは、長期的なエネルギー戦略の一環としてロシア支援の下でエル・ダバア原発を建設中であり、核不拡散条約(NPT)体制内にとどまる立場を示している。トルコは、エネルギー構成の多様化を目的にアックユ原発を開発しているが、燃料サイクルに関わる機微技術の追求は掲げていない。

北アフリカでは、モロッコとアルジェリアが、科学研究や医療用途など民生目的の研究炉をIAEA保障措置の下で運用している。これらの計画は技術的知見と基盤を提供し得る一方、公式には平和利用と透明性が強調され、核兵器化への意図は示されていない。

中東における主要な核リスク

1)地域的な軍拡競争
イランが核の閾値を越えれば、サウジアラビアを中心とする地域大国が追随する可能性がある。不安定な地域で核保有国(あるいは核能力を持つ国)が増えれば、核兵器を求める動きが他国にも波及しかねない。

2)低い信頼と脆弱な意思疎通
冷戦期の米ソ対立と異なり、中東の対立関係には、危機管理の仕組みやホットライン、軍備管理合意といった安全弁が十分に整っていない。誤算や偶発的衝突のリスクは高い。

3)先制攻撃の誘惑
競合国が核能力の獲得に近づいているとの認識は、核関連施設への先制攻撃を促し得る。攻撃は短期間でエスカレートし、地域諸国に加え域外大国を巻き込む広域戦争へ発展する恐れがある。

4)非国家主体の存在
中東では、強力な非国家武装組織の存在感が際立つ。核兵器が国家の管理下にとどまるとしても、核施設への攻撃や核物質の奪取を狙う試みが生じるリスクは、より安定した地域より高い。

5)通常戦からのエスカレーション
中東の多くの紛争は、全面戦争の一歩手前で継続している。核が絡む環境では、通常戦の衝突が、指導者が国家の存立に関わる危機を恐れる局面で、より急速に拡大し得る。

6)国際不拡散体制の弱体化
中東で核拡散が進めば、国際的な不拡散体制は弱体化し、他地域でも同様の動きを誘発しかねない。(原文へ

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

INPS Japan

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援助予算が歴史的低水準に、2026年に数百万人が危機に

【ニューヨークIPS=オリトロ・カリム】

2025年は、人道支援活動にとって特に混迷を極めた年となった。世界の援助予算が記録的な規模で減少し、紛争、環境災害、経済危機が激化するなかで、最も脆弱な人々が不均衡に深刻な影響を受けている。一方で、緊急対応に充てられる国際的な資金は、急増するニーズに遠く及ばない状況にある。

人道機関は、資金不足が拡大し続ければ、2026年にはさらに多くの人々が命を守るために不可欠な支援を受けられなくなると警告している。これを受け、国連(UN)とパートナー機関は、12月12日に開催される中央緊急対応基金(CERF)設立20周年記念の年次誓約会合に向け、国際社会に対し、支援拡大を強く呼びかけている。

United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「人道システムの燃料タンクは空になりかけており、数百万人の命が危機にさらされている。」と述べた。「より多くを求められながら、使える資源はますます少なくなっている。これは明らかに持続不可能である」。

国連人道問題調整事務所(OCHA)の数値によると、国連は来年、8,700万人の命を救うことを目標としており、そのためには約230億ドルの資金が必要とされる。さらに、50か国で実施される23の国別人道支援事業に加え、難民や移民に特化した6つの追加事業を通じて、1億3,500万人を支援するため、約330億ドルの資金調達を目指している。

しかし、支援拡大の必要性がかつてなく高まる一方で、人道支援アピールへの資金拠出は過去数十年で最も急激に落ち込んでいる。2025年に1,200億ドルを求めた支援要請では、前年より約2,500万人少ない人々しか支援できなかった。

OCHAは、この資金不足がもたらした即時的な影響として、世界的な飢餓危機の悪化、崩壊寸前まで追い込まれた保健医療体制、重要な教育プログラムの衰退、長期化する武力紛争から逃れた脆弱な避難民に対する保護サービスの大幅な後退を挙げている。一部の地域では援助関係者の安全も著しく悪化し、今年だけで320人以上が殺害された。国連当局者は、これを「戦時国際法に対する完全な無視」と表現している。

Tom Fletcher

国連人道問題担当事務次長兼緊急救援調整官のトム・フレッチャー氏は、「最も力を必要とされているときに、警告灯が点滅している。」と述べた。「これは単なる資金ギャップではなく、運営上の緊急事態である。CERFが揺らげば、世界の緊急対応サービスそのものが揺らぐ。そうなれば、私たちに頼る人々が苦しむことになる。」

資源が極端に不足するなか、国連とパートナー機関は、ある命を救う支援を優先するため、別の支援を縮小せざるを得なくなっている。その結果、差し迫った人道危機の多くが深刻な資金不足に陥っている。こうした戦略的配分により、国連は「人類の苦しみの震源地」とも形容されるスーダン・ダルフール地方から逃れる多くの避難民を、十分に支援できていない。

フレッチャー氏は、「ご存じの通り、私たちが直面している苛烈な削減は、苛烈な選択を強いている。人間の生存をめぐる冷酷なトリアージである」と語った。「これは、連帯や思いやりよりも力を優先したときに起きる現実である」。

国連当局者はまた、CERFの極めて重要な役割を強調した。同基金は2006年以降、110か国以上で総額100億ドルを超える支援を提供し、数十年にわたり脆弱な人々の命綱となってきた。CERFは「迅速かつ戦略的」な資金源として、他の支援が届く前に危機下の市民に到達し、数え切れない命を救ってきた。

グテーレス事務総長は、「多くの地域で、CERFは命を救う支援があるか、全くないかの分かれ目となってきた。」と述べている。今年初め、ガザ地区で人道活動が再開された際には、CERFが病院への重要な燃料供給、水・衛生システムの復旧、その他の不可欠な救命サービスの強化を支えた。

2025年には、CERFが資金不足の危機下にある支援活動を維持するため、約2億1,200万ドルを拠出した。国連はまた、ブルキナファソ、コンゴ民主共和国、マリ、ハイチ、ミャンマー、モザンビーク、シリアなどで、女性や少女のニーズを含む緊急課題に対応するため、追加で1億ドルを割り当てたと発表した。

これまでにCERFは、総額4億3,500万ドルの拠出を通じ、30の国と地域で数百万人を支援してきた。これらの資金は、停戦後のガザにおける人道支援の拡大を可能にし、ダルフールでの武力紛争から逃れる人々への重要な支援も提供している。

こうしたCERFの取り組みは、国連が2026年に向けて構想する「人道リセット」の中核を成すものである。フレッチャー氏は、「だからこそ人道リセットが重要なのだ。単なるスローガンではなく、私たち全員への挑戦である。」と述べた。「それは使命であると同時に、私たちの活動と、支援を必要とする多くの人々にとっての生存戦略でもある。より賢く、より速く、地域社会により近づき、直面する厳しい選択についてより正直になること。支援を受ける人々のために、1ドル1ドルの価値を最大化することが求められている。」

国連にとって2026年最大の単独人道対応計画は、占領下パレスチナ地域に焦点を当てたもので、壊滅的な暴力と破壊を経験した約300万人を支援するため、約41億ドルが必要とされる。これに続き、世界最大の避難民危機を抱えるスーダンでは2,000万人を支援するため29億ドル、シリアでは860万人を支援するため28億ドルが必要とされている。

Displaced families shelter at a gathering site in El Fasher in northern Darfur in August 2025 | Photo/UNICEF
Displaced families shelter at a gathering site in El Fasher in northern Darfur in August 2025 | Photo/UNICEF

CERFへの拠出額は、過去10年以上で最も低い水準に落ち込むと予測されており、国連は10億ドルを目標に、加盟国への資金要請を開始する。各国にはまた、民間人や人道支援従事者の保護強化、武力行使の加害者に対する説明責任メカニズムの強化に向け、自国の影響力を行使するよう求められている。

フレッチャー氏は、「人道資金が厳しいこの瞬間にこそ、十分に資金が確保されたCERFがもたらし得る次の20年を想像しなければならない。」と語った。「国連をより速く、より賢く、より費用対効果が高く、より環境に配慮し、より先取り型で、より包摂的にする基金である。地域社会の声を増幅し、連帯が今も機能することを証明する基金だ。その連帯を信じる市民の運動に支えられて。」(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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|視点|新国連事務総長を待ち受ける困難な課題(クル・C・ガウタム元国連事務次長、元ユニセフ副事務局長)

【カトマンズIPS=クル・C・ガウタム】

次期国連事務総長の選出は、国連が各国から迂回され、多国間主義――その中核にある国連そのもの――が、世界の最も強大な国家や指導者の一部から強い挑戦を受ける中で、2026年という極めて不利なタイミングで行われる。

2027年に就任する新事務総長は、前例のない財政危機と、国連を存続させるためだけでも大規模な制度改革を迫られるという重い遺産を引き継ぐことになる。一見すると、これは新事務総長が大胆な構想を打ち出すには最悪の状況に映る。とりわけ、真の多国間主義の強化には消極的で、むしろ自らの勢力圏を守るための多極的秩序を好む強国の指導者たちの支持を得ることは容易ではない。

しかし歴史を振り返れば、最も大胆な理念は、戦争や革命、世界的危機といった激動の時代にこそ生まれてきた。先見性ある新たな国連指導者が、これまでにない発想を打ち出し、規範に基づく国際秩序を再生するための種をまく可能性は、決して否定できない。

今日の最も強大な指導者たちの多くが多国間主義に対して消極的である一方、世界の一般市民――とりわけデジタルに精通した若い世代――は、グローバルな相互依存を強く実感している。

彼らは自らを「地球市民」と捉え、国境のない世界で生きることを望み、21世紀の現実に即した国連改革という先進的な提案を受け入れる素地を備えている。

有望な出発点の一つは、国連初の女性事務総長の選出であろう。さらに不可欠なのは、国連の財政制度を改革し、少数の富裕で強大な国家の意向に過度に左右されない、より広範で持続可能な資金基盤を築くことである。

資金不足に陥っている国連の巨大で分散した組織構造については、現事務総長が進める「UN80イニシアティブ」の下で、すでに一定の統合が始まっている。新事務総長はこの流れを加速させ、批判者や懐疑論者からの支持をも取り付けることができるかもしれない。

とはいえ、いかに活力と構想力に富んだ事務総長であっても、加盟国の後押しなしに改革を進めることはできない。現状では、拒否権を持つ常任理事国(P5)をはじめとする強国の指導者たちは、国連のトップ外交官を真のグローバル・リーダーとして十分に力づけることに消極的であるように見える。

Kul Gautam
Kul Gautam

多くの啓発された世界市民――特にZ世代――が、大胆で人々を鼓舞する指導者を国連のトップに期待しているのに対し、主要国は、戦略的で強い「ジェネラル(総長)」よりも、従順な「セクレタリー(事務官)」を望んでいるのかもしれない。

グローバル・サウスの台頭や、BRICS+、G20といった枠組みの拡大により、特にソフトパワーの面で、国連創設から80年を経た現在、主導的立場にあった国々から力の重心は移りつつある。この変化する国際環境が、国連の強化と多国間主義の再活性化につながることが期待される。

気候変動、戦争と平和、パンデミック、拡大する不平等、そしてAI革命がもたらす深遠な機会とリスク――こうした地球規模の課題に対処する唯一の現実的な手段は、今なお多国間主義である。

いかなる国であれ、どれほど富み、どれほど強大であっても、これらの問題を単独で解決することはできない。世界はいま、より効果的な国連を切実に必要としている。
各国指導者が自国民の願いに耳を傾け、新たな事務総長を選び、その人物に十分な権限を与えて、現在そして未来の世代のために、より平和で繁栄した世界を築くことを期待したい。(原文へ)

クル・ガウタムは、元国連事務次長、ユニセフ副事務局長であり、著書に『Global Citizen from Gulmi: My Journey from the Hills of Nepal to the Halls of the United Nations』がある。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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【ウルグアイ・モンテビデオIPS=イネス・M・ポウサデラ】

良心を持たない機械が、人間の生死を分ける判断を一瞬で下している。これはディストピア小説ではない。現実である。ガザでは、アルゴリズムによって最大3万7000人に及ぶ「殺害対象リスト」が生成されてきた。

自律型兵器はウクライナでも使用されており、最近では中国の軍事パレードでも披露された。各国は、なお制御可能であると信じ、こうした兵器を自国の軍備に組み込む競争を加速させている。しかし、その前提が誤りであれば、結果は破滅的になりかねない。

人間が引き金を引く遠隔操作ドローンとは異なり、自律型兵器は自ら致死的判断を下す。一度起動されると、顔認識、熱探知、行動パターンなどのセンサーデータを処理し、事前に設定された標的プロファイルと一致すると自動的に発砲する。そこにためらいはなく、道徳的省察もなく、人命の価値を理解することもない存在である。

高速性と躊躇の欠如は、紛争を急速にエスカレートさせる危険性をはらんでいる。さらに、これらのシステムはパターン認識と統計的確率に基づいて作動するため、致命的な誤認を引き起こす可能性が極めて高い。

イスラエルによるガザ攻撃は、AIが大量殺戮に組み込まれた最初の兆候を示す事例となった。イスラエル軍は複数のアルゴリズム標的選定システムを投入している。ラベンダーや「ゴスペル」と呼ばれるシステムは、ハマス構成員と疑われる人物を特定し、人間の標的リストや爆撃対象のインフラを生成する。また「ウェアズ・ダディ(Where’s Daddy)」は、標的が家族と共に自宅にいる時間帯を追跡し、その瞬間を狙って殺害を実行するためのシステムである。

イスラエルの情報当局者は、約10%の誤認率が存在することを認めながらも、それを「織り込み済み」とし、アルゴリズムが特定した下級戦闘員1人につき民間人15〜20人、司令官の場合は100人以上の民間人死者を容認している。

暴力の非人格化は、責任の空白も生み出す。アルゴリズムが誤って人を殺した場合、誰が責任を負うのか。プログラマーか、指揮官か、使用を承認した政治家か。法的な曖昧さは、加害者を責任追及から守る構造として組み込まれている。生死の判断が機械に委ねられるとき、「責任」という概念そのものが、制度の中で溶解していく。

こうした懸念は、AIが市民空間や人権に与える影響をめぐる、より広範な警戒の流れの中に位置づけられる。技術が安価になるにつれ、AIは戦場にとどまらず、国境管理や警察活動にも用いられるようになっている。AI搭載の顔認識技術は監視能力を飛躍的に強化し、プライバシー権を侵食する。アルゴリズムに埋め込まれた偏見は、性別や人種などに基づく排除を再生産する。

技術が急速に発展する一方で、国際社会は10年以上にわたり自律型兵器を議論してきたにもかかわらず、拘束力ある規制を生み出せていない。2013年、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)を採択する国々が議論開始に合意して以来、進展は極めて遅い。2017年以降、致死的自律型兵器システムに関する政府専門家会合(GGE)が定期的に開催されているが、インド、イスラエル、ロシア、米国といった主要軍事大国が、全会一致を要する仕組みを利用して規制案を体系的に阻止してきた。

2025年9月には、42カ国が規制前進への用意を示す共同声明を発出し、長年の膠着状態を破る一歩となった。しかし、主要な反対国は依然として立場を崩していない。

United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

この行き詰まりを打破すべく、国連総会が主導権を握った。2023年12月、総会は自律型兵器に関する初の決議である決議78/241を採択し、152カ国が賛成した。続く2024年12月には、決議79/62により加盟国間協議が義務付けられ、2025年5月にニューヨークで開催された。協議では、倫理的ジレンマ、人権への影響、安全保障上の脅威、技術的リスクが検討された。国連事務総長、赤十字国際委員会、そして多数の市民社会組織は、軍事AIの急速な進展を踏まえ、2026年までに交渉を妥結させるよう求めている。

2012年以来、70カ国以上、270以上の市民社会団体からなる「キラーロボット反対キャンペーン(Campaign to Stop Killer Robots)」が、自律型兵器規制を求めるこの取り組みを主導してきた。継続的な提言と調査を通じて、同キャンペーンは現在120カ国以上が支持する「二層アプローチ」を打ち出している。これは、人間を直接標的とするシステム、有意義な人間の制御を欠くシステム、影響を十分に予測できないシステムといった最も危険な兵器を禁止すると同時に、それ以外の兵器に対しても厳格な規制を課すものである。

禁止されないシステムについても、人間の監督、予測可能性、明確な責任の所在を条件とし、標的の種類、使用時間や場所の制限、義務的な試験、人間が介入可能な監視体制など、厳しい制約の下でのみ使用が認められる。

期限を守るために残された時間は1年しかない。10年に及ぶ議論が生み出せなかった条約を、国際社会は今後1年で取りまとめなければならない。月日が過ぎるごとに、自律型兵器はより高度化し、より広く配備され、軍事ドクトリンに深く組み込まれていく。

ひとたび、機械が人の生死を決めるという発想が常態化すれば、規制を導入することははるかに困難になる。各国は、人間を直接標的とする、あるいは有意義な人間の制御を欠く自律型兵器システムを禁止し、違反に対する明確な責任追及の仕組みを定める条約を、早急に交渉を開始すべきである。技術を「発明しなかったこと」にすることはできない。しかし、制御することは、まだ可能である。(原文へ

イネス・M・ポウサデラは、CIVICUSの調査・分析部門責任者であり、「CIVICUS・レンズ」の共同ディレクター兼執筆者、「市民社会の現状報告書」の共著者である。また、ウルグアイのORT大学における比較政治学教授も務める。

INPS Japan/IPS

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「ホワイト・クリスマス」は気候変動対策を促す警鐘となるのか

【ワシントンDC IPS=フィリップ・ブノワ】

White Christmas (1947 Version)

ククリスマスが近づくたびに、米国をはじめ世界各地の電波を席巻する一曲がある。「ホワイト・クリスマス」だ。ギネス世界記録によれば、この曲は累計販売枚数が5,000万枚を超え、史上最も売れたシングル盤である。

多くの人が、あの象徴的な冒頭の歌詞を知っている。

「白いクリスマスを夢見ている

昔よく知っていた、あの頃のような」

Bing Crosby, Public Domain 
Bing Crosby, Public Domain 

この米国のホリデー・クラシックは、作曲家アーヴィング・バーリンが第二次世界大戦のさなか、1942年に書き、ビング・クロスビーが録音した。そこには、より素朴な過去への郷愁と、より良い未来への希望が込められていた。

しかし、時代背景が変われば、意味合いも変化する。今日、私たちは新たな、そして異なる種類の地球規模の脅威―深刻な気候変動―に直面している。世界経済フォーラムの最近の報告書によれば、気候変動は2050年までに、追加で1,450万人の死亡と12兆5,000億ドルの経済損失をもたらす可能性がある。

近い将来、「ホワイト・クリスマス」の歌詞で最も際立つのは、かつて12月下旬には当たり前だった「雪のある風景」への郷愁かもしれない。気候変動の影響により、多くの地域でその体験は今後ますます希少になると予測されている。

もちろん、2025年12月の米国は極渦による厳しい寒波に見舞われている。しかし、世界の他地域では数十年で最も暖かい12月が観測されており、温室効果ガス排出に起因する大気中二酸化炭素濃度の上昇を背景に、今年は観測史上2番目に暑い年となる見通しだ。こうした傾向は、気候そのものを変えつつある。

2026年、2027年、あるいは2028年に雪の積もるクリスマスが訪れることはあるかもしれない。しかし、現在の気候予測が示すように、中長期的にはそれはますます稀な出来事となる。深刻な気候変動を回避できなければ、雪のあるクリスマスは多くの地域で「記憶の中の出来事」へと後退していく可能性が高い。

SDGs No. 13
SDGs No. 13

こうした状況のもと、「ホワイト・クリスマス」は新たな意味を帯び始めている。本来は郷愁と希望を喚起するために書かれた歌詞は、いまや文字どおりに読まれるべきだ。「白いクリスマスを夢見ている。昔よく知っていた、あの頃のような」という一節は、深刻な気候変動がもたらす異常と破壊を防ぐため、温室効果ガス排出を削減する必要性を私たちに警告している。

過去のホリデー・クラシックである「ホワイト・クリスマス」は、今日、気候変動対策を求める警鐘として聴かれるべきである。(原文へ

フィリップ・ブノワは、気候変動を専門とする「グローバル・インフラストラクチャー・アドバイザリー・サービス2050」のマネージング・ディレクターである。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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ネパール内戦を「人びと」の目線で描く

モニカ・ラナ『The Paths We Choose』が照らす、戦争と日常の断絶

【カトマンズNepaki Times=サンギャ・ラムサル】

マオイスト戦争(ネパール内戦、1996年から2006年)の時代、現在の若い世代の多くは、その恐怖を体験として記憶していない。抗議行動、暴力、外出禁止令、政治的駆け引きが交錯した国家的危機の只中で、人びとはどのように暮らし、何を恐れ、何に希望を託していたのか。モニカ・ラナのデビュー小説『The Paths We Choose』は、20年前に終結した内戦を、指導者や武装勢力ではなく、名もなき市民の視点から描き出す。

本作は、歴史的事件の再構成や暴力の描写を主眼としない。焦点を当てるのは、戦争に巻き込まれた「普通の人びと」の人生である。紛争は、彼らの選択肢を狭め、ときに強制し、人生の進路そのものを変えていく。本作は、マオイスト側が「人民戦争」と呼んだ内戦を、人びと自身の目線で捉え直す試みと言える。

Map of Nepal
Map of Nepal

物語の中心に置かれるのは、姉妹のスムニマとリタだ。勇敢で機転の利く姉と、内気で従順な妹。二人は丘陵地帯の村で、笑いと冒険に満ちた幼少期を共有する。ディレ・ダイのマンゴーの木から実を盗み、ラト・マトへと駆け下りる日々。作家の言葉は軽やかで、穏やかな日常を丁寧にすくい取る。

しかし、その静けさは長くは続かない。村の生活は牧歌的に理想化されることなく、貧困や自給自足の厳しさ、都市との格差が現実として描かれる。その一方で、幸福が物質的な豊かさではなく、ささやかな日常の中にあったという事実が、対照的に浮かび上がる。

物語が進むにつれ、題名が意味を帯び始める。同じ家に育ち、同じ夢を抱いていた姉妹は、戦争によって異なる道へと引き裂かれる。一人は自らの選択によって、もう一人は生き延びるための必然に迫られて。

時代は2001年。内戦が激化する中で、二人の人生は決定的に分岐する。スムニマは「平等と自由」を掲げ、反政府勢力に加わる。一方、リタは、村が暴力的な襲撃によって「ゴーストタウン」と化した後、家族の切実な判断により、遠く離れた都市セト・バンガラへ送られ、上流階級の家で使用人として暮らすことになる。

物語には、王宮と農村、権力と貧困、イデオロギーと生存が交錯する。銀の皿で食事をする王族と、略奪を恐れて最後の穀物を隠す村人。その間に横たわる階級格差は、抽象論ではなく、日常のディテールとして描かれる。カースト、肌の色、ジェンダーによる差別もまた、人びとの人生を左右する現実として提示される。

激動の中にあっても、変わらぬものが一つある。離れ離れになった姉妹は、常に互いを思い、再会を願い続ける。いつか村でゲストハウスを開くという、かつて共有した夢。恐れずに生き、自由で、幸せで、共にあるという、ごく控えめな願いである。

Monica Rana's book
Monica Rana’s book

やがて姉妹は再会する。しかし、その先に待つ未来は、どちらにとっても想像していたものとは異なる。ラナは、運命として物語を美化することを拒み、戦争が最も重い代償を強いるのは常に無辜の市民であるという現実を静かに示す。人びとは敵対する双方の狭間に置かれ、飢え、強制移動、暴力に、何の責任もなく耐え続ける。

世界ではいまも戦争が続いている。本作は、戦争犯罪の凄惨さを直接告発するものではない。しかし、戦争が人びとの日常と人生をいかに深く損なうのかを静かに伝える点で、強い普遍性を持つ。そこには、パレスチナの詩人マフムード・ダルウィーシュの言葉が重なる。

「戦争は終わり、指導者たちは握手を交わす。老女は殉教した息子を待ち続け、子どもたちは英雄だった父を待ち続ける。誰が祖国を売ったのか、私は知らない。だが、誰が代償を支払ってきたのかは、この目で見てきた。」(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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中央アジア・日本首脳会合、トランス・カスピ回廊を後押し トカエフ大統領は核リスク再上昇に警鐘

【INPS Japan東京=浅霧勝浩】

日本と中央アジア5カ国の首脳は20日、東京で新たな首脳会合を初開催し、「東京宣言」を採択した。宣言は、重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強靱化と、中央アジアと欧州をロシアを経由せずに結ぶトランス・カスピ回廊(トランス・カスピ国際輸送ルート)への支援を、協力の中核に据えた。|中国語版英語タイ語|スペイン語|

高市早苗首相が議長を務めた会合は、中央アジアがユーラシアの結節点に位置し、脱炭素化と先端産業に不可欠な鉱物資源を有するという戦略的重要性を背景に開かれた。地域をめぐっては主要国の関与が強まり、外交・通商の舞台としての重みが増している。

日本政府は、協力を「実装可能な案件」に落とし込む実務志向を強調した。中央アジア側にとっても、トランス・カスピ回廊は輸送の選択肢を増やし、特定の通過国への依存を下げる手段となる。港湾、鉄道、税関などの近代化投資を呼び込みつつ、通過・物流収益を取り込む余地も広がる。

“Central Asia plus Japan Dialogue” (CA+JAD). Credit: Prime Minister’s Office of Japan.

日本にとっては、回廊整備と鉱物分野の連携が経済安全保障上のリスク分散につながる。バッテリーや再生可能エネルギー、電子機器などに必要なレアアースやリチウムなどの重要鉱物について、調達先と輸送経路を多角化し、地政学リスクの高まりに備える狙いだ。あわせて、インフラ、物流、デジタル分野で日本企業の参画機会を広げる狙いもある。

日・カザフ共同声明が「軸」

Central Asia plus Japan Dialogue” (CA+JAD)
Central Asia plus Japan Dialogue” (CA+JAD)

首脳会合に先立ち、カザフスタンのカスムジョマルト・トカエフ大統領が公式訪日し、一連の外交日程が組まれた。

12月18日、高市首相とトカエフ大統領は首脳会談を行い、「将来に向けた拡大された戦略的パートナーシップの更なる相乗効果に関する共同声明」を発表した。共同声明は、法の支配に基づく国際秩序と国連憲章の諸原則を確認した上で、重要鉱物、エネルギー移行、輸送・物流の連結性などの分野で、具体的取組を通じて協力を推進することで一致した。

トランス・カスピ回廊に関して共同声明は、世界税関機構(WCO)と連携した税関職員研修や、カザフスタン西部アクタウ港での貨物検査用スキャナー(貨物検査機材)の整備支援など、通関・港湾のボトルネック解消につながる実務的措置を明記した。両首脳はまた、2026年の定期直行便就航計画を歓迎し、航空協定締結に向けた政府間交渉を開始することで一致した。さらに共同声明は、アルマトイに設立された「中央アジア及びアフガニスタンのための国連SDGs地域センター」について、情報交換を行い協力の可能性を探る意向を示した。

Trans-Caspian Route (Middle Corridor) Credit: TITR
トカエフ大統領、東京で核リスクに警鐘
Kassym-Jomart Tokayev delivered a lecture at the United Nations University

翌19日、トカエフ大統領は東京都内の国連大学で講演し、「核のリスクが再び高まっている」と警告した。

トカエフ氏は、広島・長崎への原爆投下に加え、旧ソ連が450回以上の核実験を実施したセミパラチンスク核実験場に言及し、日本とカザフスタンはいずれも核兵器がもたらす甚大な被害を知る国だと訴えた。その上で、核軍縮とリスク低減に向け、具体的な措置を積み重ねる必要があるとの立場を示した。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

また、ソ連崩壊後に自国領内に残された核兵器(当時の規模で世界第4位)を放棄したカザフスタンの決断に触れ、安全保障は核抑止にのみ依存すべきではないとの認識を示唆した。

カザフスタンは、8月29日(セミパラチンスク核実験場閉鎖日であり、国連の「核実験に反対する国際デー」)前後に、核兵器の非人道的影響を前面に据えた会合をアスタナで開催し、中央アジア非核兵器地帯の規範強化を訴えてきた。これらの会合には、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)創価学会インタナショナル(SGI)などの市民社会団体も参加している。

A Group photo of participants of the regional conference on the humanitarian consequences of nuclear weapons and nuclear-free-zone in Central Asia held on August 29, 2023. Photo Credit: Jibek Joly TV Channel.
A Group photo of participants of the regional conference on the humanitarian consequences of nuclear weapons and nuclear-free-zone in Central Asia held on August 29, 2023. Photo Credit: Jibek Joly TV Channel.
重点3分野:強靱化、連結性、人づくり

20日の首脳会合には、トカエフ氏のほか、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの各大統領が出席した。高市首相は、人口増と急速な経済成長を背景に中央アジアの国際的存在感が高まっていると指摘し、地域協力と外部との連携が重要だと強調した。

日本は会合で「CA+JAD東京イニシアティブ」を発表し、重点協力として(1)グリーン・強靱化(エネルギー移行、防災、重要鉱物の供給網など)(2)コネクティビティ(トランス・カスピ回廊、AI協力など)(3)人づくり(奨学金、医療・保健分野の協力など)の3分野を掲げた。

東京宣言はまた、資源開発などへのAI活用を視野に「日本・中央アジアAI協力パートナーシップ」の立ち上げを明記した。会合に合わせて官民で150件超の文書が署名・披露され、今後5年間で総額3兆円規模のビジネス・プロジェクト目標も示された。

多極化する関与、カザフスタンの「マルチベクター外交」

東京会合は、中央アジアをめぐり各国の首脳外交が相次ぐ現実も映し出した。中国は今年、カザフスタンで5カ国との首脳会合を開き、米国も11月に同じ5カ国首脳をワシントンに招いた。

とりわけカザフスタンは、競合する大国と同時並行で関係を築き、主権と選択肢を確保する「マルチベクター外交」を掲げてきた。輸送回廊の多角化、鉱物・技術協力の拡張、国際機関を通じた開発協力の活用を組み合わせる東京での合意は、このバランス戦略と整合する。

日本にとって新たな首脳級枠組みは、資源、物流、技術を結節点として中央アジアとの関与を深める手段となる。一方、トカエフ大統領にとって今回の訪日は、核リスクが再び前面化する中で、ユーラシアの経済の将来像が安全保障の課題と切り離せないことを訴える場にもなった。(原文へ

UN Photo
UN Photo

INPS Japan

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

American Television Network(ATN), Inter Press Service(IPS), London Post, Nepali Times, AZVision

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雨水の収集がグアテマラ東部の干ばつを緩和

【サンルイス・ヒロテペケIPS=エドガルド・アヤラ】

干ばつに苦しむグアテマラ東部のドライ・コリドー(乾燥回廊)地域に暮らす農家の家族が、雨水収集という手法によって生計の糸口を見いだしている。この取り組みにより、これまで耕作が困難だった土地でも食料生産が可能になった。

スウェーデン政府の資金提供を受け、国際機関が実施するこの事業は、雨水貯留タンクの設置に必要な技術や資材を提供し、同国東部における水不足の緩和を目的としている。現在、約7,000世帯がこのプログラムの恩恵を受けている。

Map of Guatemala
Map of Guatemala

対象となっているのは、グアテマラ東部のチキムラ県とハラパ県にある7自治体の小規模流域周辺に暮らす家庭である。対象自治体は、ホコタン、カモタン、オロパ、サン・フアン・エルミタ、チキムラ、サンルイス・ヒロテペケ、サン・ペドロ・ピヌラである。

「ここはドライ・コリドーで、作物を育てるのが難しい。育てようとしても水が足りず、実が十分な重さまで育たない。」ハラパ県サンルイス・ヒロテペケ郡サン・ホセ・ラス・ピラス村で、支援を受ける家族の一人、メルリン・サンドバルはIPSの取材に対して語った。

全長1,600キロに及ぶ中米ドライ・コリドーは、中米全体の35%を占め、1,050万人以上が暮らしている。国連食糧農業機関(FAO)によると、この地域では農村人口の73%以上が貧困状態にあり、710万人が深刻な食料不安に直面している。

事業の一環として、サンドバルは自宅裏の敷地で雨水収集に取り組んでいる。底部に不透水性のポリエチレン製ジオメンブレンを敷いた円形タンクを設置し、容量は16立方メートルに及ぶ。

雨が降ると、屋根を伝って流れた雨水がPVCパイプを通じ、「集水槽」と呼ばれるタンクに集められる。蓄えられた水は、家庭菜園や果樹の灌漑に使われるほか、11月から5月にかけての乾季には生活用水としても利用されている。

家庭菜園では、セロリ、キュウリ、コリアンダー、チャイブ、トマト、青唐辛子を栽培している。果樹としては、バナナやマンゴー、ホコテ(熱帯果実)などが実を結ぶ。

さらに、500匹のティラピアの稚魚を育てる養魚池も設けられている。底部にポリエチレン製ジオメンブレンを敷いた構造で、長さ8メートル、幅6メートル、深さ1メートルである。

同様に支援を受けるリカルド・ラミレスも、設置した雨水収集タンクからの水を利用して作物を育てている。タンクの隣にはマクロトンネルと呼ばれる小型温室があり、そこでキュウリ、トマト、青唐辛子などを栽培している。灌漑は点滴方式で行われる。

「1畝からキュウリが950本、トマトは450ポンド(約204キロ)収穫できました。唐辛子も次々に実をつけています。雨水収集タンクに水があったからこそです。バルブを少し開いて30分ほど点滴灌漑するだけで、土壌がしっかり潤いました。」ラミレスは語った。(原文へ

INPS Japan/IPS

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コミュニティーラジオが支えるタンザニアの気候レジリエンス

【タンザニア・ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ】

マングローブが密生するルフィジ河口の夜明け。木製カヌーの櫂が静かな水面を進むなか、穏やかな声が潮の上を流れていく。「今日は、洪水からマングローブを守るために、地域社会ができることをお話しします。」語りかけるのは、タンザニア放送協会(TBC)のTBC・FMで司会を務めるエヴァリリアン・マッサウェである。

ほどなく放送は現場の音へと切り替わる。ぬかるむ泥の音、長靴が擦れる音、マングローブの苗木が揺れる音。デルタで作業する女性たちの笑い声が重なり合う。

タンザニア各地の多くの地域社会にとって、コミュニティ・ラジオは、塩害の進行や干ばつ、洪水といった深刻化する気候影響の中で、重要な「教師」となっている。

レジリエンスの物語

マッサウェは毎週、荒廃したマングローブの再生に取り組む漁民や、護岸を築く沿岸住民、干ばつ耐性作物を導入する家族などの物語を伝えている。番組では、複雑な気候科学を日常生活の言葉に置き換え、多くのリスナーの関心を引きつけてきた。

気候正義、適応資金、最前線に立つ地域社会との連携強化が主要議題となったブラジルでのCOP30が閉幕するなか、洪水多発地帯や干ばつに苦しむサバンナ、脆弱な沿岸集落を抱えるタンザニアでは、コミュニティ・ラジオが気候変動への対応を担う重要な主体となりつつある。

ラジオ保有率が依然80%を超える同国では、これらの放送局が、科学的予測と一般家庭を結ぶ信頼の媒体として機能している。抽象的な気候リスクを、人々の暮らしに即した物語へと翻訳しているのである。

COP30で強調された議論とも響き合う形で、携帯録音機と地域の知恵を頼りに活動する放送人たちは、農民、漁師、牧畜民の声を国際社会へと届けている。

「ラジオは物語を語るだけではありません。行動を呼び起こすのです」
―コミュニティ放送人、アミナ・モハメド

水上の命綱

ルフィジ・デルタの茅葺き小屋で、漁師のファキル・ムスミは古いラジオに耳を傾けながら網を修繕している。そのラジオは、彼にとって信頼できる気象計だ。

「強風の知らせを聞いたら、仲間に待つよう伝える。潮位が上がると分かるからだ」

マングローブが嵐から家屋を守ることを、彼はラジオを通じて初めて知った。2024年の大洪水後、ムスミは近隣住民とともにインド洋沿岸で再植林に取り組んだ。それ以来、「バハリ・イェトゥ、マイシャ・イェトゥ(私たちの海、私たちの命)」を欠かさず聴いている。

気候を教えるラジオ

「ラジオはより親密な形で物語を伝えます」とマッサウェは語る。「インターネットにアクセスできない人々にとって、声は橋なのです」

彼女は「ゼロから学ぶ気候変動」というシリーズを制作し、専門用語を日常語に置き換えた。

「気候変動とは何かと聞くと、多くの人が『暑い天気』と答えました。そこで、伐採や木炭利用も天候に影響すると説明しました。」

乾いた土を踏みしめる音、内陸へ忍び寄る塩水の音。音そのものが物語となる。

「時に、統計よりも音の方が雄弁です。」

番組をきっかけに、トウモロコシからキャッサバへ転換する農家や、雨水貯留を学ぶ女性が増えている。

音で語られる気候の現実

北方数百キロに位置するモシFMでは、記者リリアン・ミハレが録音機を手首にぶら下げ、スタジオに入る。担当番組は「ウカメ・ササ・バシ(干ばつに終止符を)」だ。

彼女の脚本は、現場の音である。牛鈴の金属音、子どもたちの話し声、井戸で水を汲むマサイ女性の笑い声。

「音が私の台本です。干ばつが最も深刻な場所へ行きます」

家畜をすべて失った家族を取材した際には、その声ににじむ痛みが、そのまま伝わった。

信頼のメディア

不規則な天候、長期干ばつ、洪水、害虫被害。こうした状況下で、コミュニティ・ラジオは気候科学を実践知へと変換し、世界で交わされる議論と農村の現実を結びつけてきた。

「雨が遅れて不安だった農家に、土壌水分を保つ技術を伝えました。収穫は予想以上でした」

塩害に苦しむルフィジでは、台所や漁船、商店でラジオが鳴り、早期警戒やアグロフォレストリー、水管理に関する知識が、先祖伝来の知恵と並んで共有されている。

「以前はトウモロコシだけでした。」と農民のファトゥマ・ジュマは語る。「ラジオで果樹栽培を学び、今では雨が少なくても、食料と収入の両方を得られています。」

若者主導の団体も、TBC・FMなどの放送局と連携し、気候スマート農業や植林の推進を担っている。

沿岸の声、共有される運命

ザンジバルのカティFMでは、アミナ・モハメドが番組の冒頭で、まず住民の声を届ける。

「海の主は漁師であり、母親であり、若者ですから。」

かつて放送でマングローブ伐採を悔いた漁師フセイン・コンボは、現在では1万本以上の苗木を植えるボランティアグループを率いている。

「ラジオは行動を生みます。」とモハメドは語る。

命を救う警報

タンザニア気象局(TMA)は地域ラジオと連携し、予報を届けている。2024年のキロムベロ洪水では、早期放送により被害軽減が実現した。

ドドマの番組「キリモ・ナ・マバディリコ・ヤ・タビアンチ」は壁のない教室だ。

「マルチングは怠けだと思っていましたが、今は違います」と女性農民は語る。

マイクの裏側の課題

資金不足、停電、老朽化した設備。困難は少なくない。

「それでも伝え続けます。大切な物語だからです。」

レジリエンスの道具として

タンザニア気象局(TMA)の気候学者、ジョン・ムビセは指摘する。

「ラジオがなければ、適応は成り立ちません。」

レジリエンスの声

夕暮れのルフィジで、漁師は静かに言葉を選ぶ。

「気候は変わる。しかし、私たちも変われる。」(原文へ

この特集はオープン・ソサエティ財団の支援を受けて制作された。


INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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トカエフ大統領、初の日本公式訪問で徳仁天皇と会見

【アスタナThe Astana Times=アイマン・ナキスペコワ】

カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は12月18日、日本への初の公式訪問の一環として、徳仁天皇陛下と会見した。大統領府(アコルダ)広報が伝えた。

会談でトカエフ大統領は、日本側から受けた温かい歓迎に謝意を示すとともに、日本が規律と強靱さによって長年にわたりカザフスタン国民に感銘を与えてきたと述べた。

Emperor Naruhito hosted an official reception in honor of Tokayev. Photo credit: Akorda

また、両国は相互尊重を基盤に、幅広い分野で協力を重ね、長年にわたる友好関係を築いてきたと強調した。

これに対し徳仁天皇陛下は、トカエフ大統領の訪日が日カザフスタン関係にとって重要な節目となり、二国間関係を新たな段階へと引き上げる契機になるとの期待を示された。

両者は、主要な協力分野に加え、国際情勢についても意見を交わした。

また、トカエフ大統領は、1920年に創建され、皇室ゆかりの神社として知られる都内有数の神社、明治神宮を参拝した。

戦略的利害と貿易動向

今回の訪問期間中、エネルギー、再生可能エネルギー、デジタル化、鉱業、運輸分野を中心に、総額37億ドル超に上る40件以上の商業協定が締結される見通しである。

両国間の貿易額は2024年に18億ドルに達した。2025年最初の9か月では13億ドルとなり、前年同期比で1.9%減少したものの、貿易構造自体は概ね安定している。

カザフスタンと日本は1992年の国交樹立以降、首脳級の相互訪問、議会交流、共同委員会を通じて、安定した外交関係を維持してきた。日本はカザフスタンをユーラシアにおける安定したパートナーと位置づけ、カザフスタンは日本を、外交において一貫性と責任感を備えた重要な協力国と見なしている。

Kazakhstan-Japan
Kazakhstan-Japan

カザフスタンから日本への輸出は、引き続きフェロアロイが約95%を占める一方、農産品、水素、不活性ガス、銅などの輸出も徐々に拡大している。日本からの輸入品には、自動車、産業機械、ハイテク機器が含まれる。

カザフスタン外務省によると、過去20年間で日本企業は、主に石油・ガス、冶金、機械、物流、医療分野において、約90億ドルをカザフスタンに投資してきた。現在、60社以上の日本企業が同国で事業を展開しており、日本資本が関与する企業は約100社に上る。

INPS Japan/The Astana Times

Original URL: https://astanatimes.com/2025/12/president-tokayev-meets-japans-emperor-naruhito-during-first-official-visit/

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