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爆撃と投票—ミャンマー、緊張下の総選挙

【ミャンマー・ヤンゴン/バンコクIPS=ガイ・ディンモア】

内戦が数年にわたり続き、民間人の死者は数千人に上る。政治犯もなお2万2000人以上が収監されたままだ。こうした状況下で、ミャンマーが2021年のクーデター後に初めて実施した、しかし厳しく管理された選挙の早期開票結果が、軍の「代理政党」の勝利を示していても、驚く者はいなかった。

Map of Myammar
Map of Myammar

「民間人を爆撃しながら、同時に選挙を行うことなどできるのか。」国外で情勢を監視する人権活動家キン・オーマーは、抵抗勢力と影の政府(国民統一政府=NUG)が「茶番(sham)」として拒否する今回の投票を念頭に、そう問いかけた。

軍政はすでに、自らが掲げる「真に規律ある複数政党制民主主義」へ向けた地ならしを進めていた。選挙を不当として登録を拒んだ約40政党を解散させ、指導者や支持者の多くはいまも獄中にある。

解散対象には、国民民主連盟(NLD)と党首アウン・サン・スー・チーも含まれる。NLDは2020年総選挙で圧勝し、2期目の続投を決めたが、クーデターを主導し、自ら大統領代行を名乗るミン・アウン・フライン上級大将が結果を無効化した。2021年初頭の大規模な街頭抗議は弾圧され、内戦は全土に拡大した。

ヤンゴンのベテラン分析者は「潮目は軍に有利に変わった」と述べ、中国とロシアの影響を指摘した。国境を接する少数民族武装勢力を中国が抑え込み、ミン・アウン・フラインを全面的に受け入れたうえ、ロシアとともに、抵抗勢力を押し返すために必要な武器、技術、訓練を供給したという。

UN News
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軍政は、航空戦力と新たに獲得したドローンを容赦なく投入してきた。攻撃は、抵抗勢力が草の根の支持を持つ比較的遠隔地で行われることが多く、民間人がしばしば標的となっている。選挙が近づくにつれ、空爆は激しさを増した。ヤンゴンのような大都市は比較的落ち着いていたものの、社会全体には重苦しい空気が漂っていた。

AFPによると、12月5日にはサガイン地方タバイン郡区への爆撃で18人が死亡し、混雑する茶屋にいた人々も犠牲となった。12月10日には、ラカイン州の古都ミャウ・ウーで病院が空爆され、入院患者10人を含む23人が死亡した。軍政側は、アラカン軍や人民防衛隊(PDF)が病院を拠点として使用していたと主張している。

Photo: António Guterres, United Nations Secretary-General, at the Security Council meeting on Non-proliferation/Democratic People's Republic of Korea on December 15, 2017. Credit: UN Photo/Manuel Elias.
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国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、投票を前に地域を訪問した際、「自由で公正な選挙になると信じている者は誰もいない。」と語った。さらに、軍政に対し「嘆かわしい」暴力を終わらせ、市民統治への「信頼できる道筋」を示すよう求めた。

一方、トランプ政権は11月、軍政が進める選挙計画を「自由で公正なもの」と位置づけ、米国内にいるミャンマー難民に対する一時的保護資格(TPS)を終了させた。政権は、ミャンマーに帰還しても安全だと判断した。

「投票しなければ投獄されるかもしれない。」投票前日、ヤンゴンでタクシーを運転するミンは、半ば冗談めかしてそう語った。「どうせ何も変わらない。この国を動かしているのは、ミン・アウン・フラインではなく、中国と習近平だ。」

Campaigners for the pro-military USDP canvas residents and check voters lists in Yangon ahead of the December 28 parliamentary election that excluded major anti-junta parties. Credit: Guy Dinmore/IPS

投票は3段階で実施される。第1回は12月28日に102郡区で行われ、残りは1月11日と1月25日に続く。対象は、二院制の国民議会と、14の管区・州の議会で、計330郡区のうち265郡区で投票が予定されている。

残る65郡区では、選挙管理当局が治安上の理由で投票を実施しない。

第1回投票が行われたヤンゴン(都市部と周辺の半農村地帯が広がり、人口約700万人)では、静かな日曜日、投票は落ち着いた雰囲気のまま、ゆっくりと進んだ。軍政は投票率の引き上げに強い圧力をかけ、脅しがあったとの指摘もあるが、現場は大きな混乱が見られなかった。

2015年と2020年には、ミャンマーは地域で最も開かれ公正な選挙を実施したとも評された。ミャンマー国軍の代理政党である連邦団結発展党(USDP)は大敗し、人々は投票の証しとして、消えないインクで染まった小指の写真をソーシャルメディアに競うように投稿した。数週間にわたる大規模集会と活気ある選挙戦が続いた。

だが今回は違う。ソーシャルメディアには体制への罵倒があふれ、滑稽で下品な投稿も少なくない。抵抗勢力が呼びかけたボイコットを支持したい一方、報復を恐れる人々は、有権者名簿から自分の名前が「誤って」漏れているのを見つけると安堵した。初めて導入された電子投票機では、候補者欄を空欄のまま提出することもできなかった。

Residents in downtown Yangon check their names on the electoral register and then cast their votes in a polling station on December 28. Credit: Guy Dinmore/IPS

それでも、従来の選挙と同様に、軍とその強大な経済利権ネットワークに近い人々からなる「中核層」は、連邦団結発展党(USDP)に投票するため投票所に足を運んだ。

「私たちは自分たちの政府を選んでいる」。ヤンゴン中心部の投票所から家族とともに出てきた男性は、そう宣言した。男性はUSDP支持者とみられ、同行者の1人は、消えないインクに浸した小指を誇らしげに掲げた。

第1回投票の投票率について、軍政当局は52%と発表した。過去2回の選挙での約70%と比べ、低下している。中国は、特使を「公式オブザーバー」として派遣し、ロシア、ベラルーシ、ベトナム、カンボジアなどの代表団とともに選挙を評価した。

1月2日、選挙管理委員会は予告なく部分開票結果を公表した。開票が終わった下院40議席のうち、退役将軍が率いるUSDPが38議席を獲得したという。誰も驚かなかった。

USDPの選挙メッセージは、主に2点に集約されていた。家族そろって投票に行くこと、そして「安定と前進」を取り戻すためUSDP政権を支持すること、である。

その底流にあるのは、過去の「実績」への想起だった。NLDなどが不在だった2010年総選挙で大勝した後、テイン・セイン大統領(当時)が、社会経済・政治改革と、少数民族武装勢力との停戦交渉を導入したことを強調する構図である。

Aung San Suu Kyi
Aung San Suu Kyi Credit: cc-by-2.0 

スー・チーは当時、自宅軟禁下にあったが、2010年選挙直後に解放され、2012年の補欠選挙で当選した。さらに2015年にはNLDが圧勝し、政権を奪取する。だがスー・チーは、その後5年間、軍との難しい権力分有の下で統治を行い、クーデターで再び投獄された。

現時点で、ミャンマー人口の多くは軍政支配地域に暮らす。14の管区・州の首都はすべて軍政の管理下にあり、紛争から逃れた人々の流入で膨張している。軍はまた、主要港湾と空港を押さえ、中国およびタイとの主要な国境検問所も、程度の差はあれ掌握している。

しかし領域で見れば、ミャンマーの半分以上は、分散した少数民族武装勢力や抵抗勢力の手にある。連携は流動的で、交渉可能なものだ。

影の国民統一政府(NUG)は、解放地域で独自の統治権限を確立しようとしている。軍の干渉を排し、民主的で連邦制のミャンマーを築くという理念の下で合意形成を固める狙いだ。だが、それは英国植民地支配から独立した1948年以来、この国が達成できずにきた課題でもある。

前線は揺れ動いている。軍は、かつて自らの牙城とみなしてきた中部のバマー(ビルマ)中核地帯の掌握回復を図る一方、クーデター後に国境地帯の広大な領域を失い、他地域でも戦線を引き伸ばされている。国外へ逃れた人々、あるいは国内避難を余儀なくされた人々は、数百万人に達した。

一方で、今回の選挙が「円滑に」進み、4月に連邦団結発展党(USDP)政権が発足すれば、軍は自信を誇示するかたちで、強制徴兵の停止や一部政治犯の釈放といった措置を打ち出すのではないか、との見方もある。まず力を誇示し、次に正統性を回収する―そうした構図である。

「政治犯は餌として使われている。」

バンコクを拠点とする人権活動家キン・オーマーは、そう語った。軍政が選挙後に政治犯の一部釈放などの“譲歩”を示せば、弾圧の構造が変わらなくても、国際社会はそれを「前進」と受け取り、一定の評価を示さざるを得なくなるという。

「世界は、少なくとも拍手を送らざるを得なくなる」と、彼女は皮肉を込めて付け加えた。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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世界の「右利き」と「左利き」の拷問者たち

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ジーン・カークパトリック元国連米大使はかつて、米国や西側の同盟国である「友好的な」右派の「権威主義」体制と、米国が敵視した「非友好的な」左派の「全体主義」独裁を区別するという、議論を呼ぶ見方を示した。

Collage: Thalif Deen
Collage: Thalif Deen

同じ頃、米国の歴代政権は、中東を中心に多くの権威主義体制と親密な関係を深めていた。非常事態法の導入、反体制派の拘束、報道への弾圧、政治犯への拷問、死刑の厳格な適用などが広く指摘されていた政権である。

こうした「友好的な右派」と「非友好的な左派」という区別に対し、当時(カーター政権で)、国家安全保障担当補佐官ズビグニュー・ブレジンスキーと路線対立を続けていたサイラス・バンス元米国務長官は、皮肉を込めてこう言い返した。

「拷問台の上では、拷問者が右派でも左派でも同じことだ。」

先月、国連の拷問に関する特別報告者アリス・ジル・エドワーズは、禁止対象の、または本質的に虐待的な法執行機器が市場に出回るのを防ぐため、治安・警察関連の見本市に対する厳格な監視が必要だと警鐘を鳴らした。11月18日から21日にパリで開かれた武器・治安関連見本市「Milipol 2025」で、そうした機器の展示が確認されたためである。

エドワーズは、「直接接触型の電気ショック装置、複数弾を同時に放つ運動エネルギー弾、マルチバレル(多連装)発射装置は、不必要な苦痛をもたらし、禁止されるべきだ。」と語った。さらに、「これらの取引や宣伝は、欧州連合(EU)加盟27カ国すべて、そして世界規模で禁じられるべきだ。」と訴えた。

EUの「反拷問規則(Anti-Torture Regulation)」は2006年に導入され、2019年に強化された。同規則の下では、拷問や残虐・非人道的・品位を傷つける取扱いに用いられ得る特定の機器について、企業による宣伝、展示、取引が禁じられている。国連のプレスリリースによれば、EUは2025年、禁止・規制対象となる法執行関連品目のリストをさらに拡大した。

拷問被害者センター(CVT)の社長兼CEOサイモン・アダムズ博士はIPSの取材に対して、CVTは拷問の被害者の回復を支援し、拷問根絶を訴える世界最大規模の団体の一つだと説明した。そのうえで、特別報告者の取り組みと、もっぱら人間の苦痛を与える目的で設計された製品を企業が売り込み、宣伝し、販売・取引することを止めるキャンペーンを支持すると語った。

「拷問は国際法上の犯罪であり、いかなる場所でも、いかなる時でも違法である。治安当局が人権侵害のために常習的に悪用している装備や、拷問以外の用途を持たない装備を、企業が市場に出し続けることは許されない。」と、アダムズ博士は強調した。

「CVTでは、拷問のトラウマを抱えた被害者と日々向き合っている。多くは難民で、出身国では、見本市で売り込まれていた類いの装置が治安部隊によって使われている。EUは、拷問に利用される装備の取引を断つ『拷問のない取引(torture-free trade)』を確立する運動の主要なパートナーだった。」

The United Nations has always condemned torture as one of the most heinous acts perpetrated by man against man.Photo:UN/Staton winter

さらにアダムズ博士は、「EU域内で企業がこうした製品を宣伝できるなど、良心に反する。そもそも、そんな製品が存在すること自体が異様だ。人間の残酷さを商う取引は、全面的に禁止されるべきである。」と断じた。

国連によれば、同見本市では、特別報告者が以前「本質的に虐待的(inherently abusive)」と位置づけた装備が幅広く展示されていた。展示・宣伝されていた問題装備には、直接接触型の電気ショック武器(警棒、グローブ、スタンガン)、突起付きの暴動鎮圧用盾、複数弾を放つ運動エネルギー弾の弾薬、多連装発射装置などが含まれる。

これらの製品は、ブラジル、中国、チェコ、フランス、インド、イスラエル、イタリア、カザフスタン、北マケドニア、韓国、トルコ、米国の企業が売り込んでいた。

EU法で新たに禁止対象とされた品目には、「人体に害を及ぼし得る量の暴動鎮圧剤を散布する航空システム」も含まれる。にもかかわらず、多連装発射装置を搭載し、大量の化学刺激物を散布し得るドローンが宣伝されていたと国連は指摘する。

Milipolの主催者に問題装備の存在が通知されると、主催者は迅速に対応し、企業に対してカタログ掲載ページや展示物の撤去を求めた。エドワーズによれば、ある国有企業が撤去に応じず、その出展ブースは閉鎖された。

Dr. Alice Jill Edwards (Australia) is the seventh – and first woman – UN Special Rapporteur on Torture and Other Cruel, Inhuman or Degrading Treatment or Punishment
Dr. Alice Jill Edwards (Australia) is the seventh – and first woman – UN Special Rapporteur on Torture and Other Cruel, Inhuman or Degrading Treatment or Punishment 

エドワーズは「本質的に虐待的な兵器の宣伝が続く現実は、各国が私の2023年報告書の勧告を採用すべき緊急性を、改めて浮き彫りにしている。」と述べた。

EUが規制強化に踏み出した点を評価しつつも、エドワーズは「地域的な取り組みだけでは不十分だ」と強調する。さらに示唆的なのは、次の指摘である。「Milipolでの発見は、世界的に法的拘束力を持つ『拷問のない貿易条約(Torture-Free Trade Treaty)』が不可欠であることを示している。国際的な規制が連携しなければ、虐待的な装備は新たな市場、新たな流通経路、新たな犠牲者を見いだすだけだ。」

エドワーズは、世界各地の治安・防衛・警察関連展示会の主催者に対し、強固な監視体制の構築、禁止措置の一貫した執行、そして独立した調査機関との全面的な協力を求めた。

さらに「Milipolの対応は迅速で責任あるものだった。しかし、禁止品がそもそも展示されていた事実は、不断の警戒が不可欠であることを示している」とも述べた。

エドワーズは過去にも同様の問題提起を行っており、今後も関連動向を監視し続けるとしている。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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米国の国際機関離脱、世界に警鐘

【国連IPS=オリトロ・カリム】

ドナルド・トランプ米大統領が、国際機関66組織(うち国連関連31機関)への米国支援停止を命じる大統領令に署名したことを受け、関係機関や国際社会、人道・気候分野の専門家から反発が広がっている。世界的協力や持続可能な開発、国際平和と安全保障への悪影響が懸念されている。

この大統領令は、米国がこれまでに世界保健機関(WHO)、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国連人権理事会(UNHRC)、国連教育科学文化機関(UNESCO)から離脱してきた流れを引き継ぐものだ。米国は最近、対外援助関連機関への資金も削減している。|英語版日本語韓国語

対象となった国際機関・団体の多くは、気候変動、労働、平和維持活動(PKO)、移民、市民社会の活動空間(civic space)などに関わる。米国務省は声明で、見直しの結果、これらの組織は「無駄が多く、非効率で、有害」だとした。

また同省は、対象組織を、米国の納税者資金で支えられる「進歩的イデオロギー」の媒体であり、米国の国益と整合しないと位置づけた。

U.S. Secretary of State, Marco Rubio Public Domain.

マルコ・ルビオ国務長官は「これらの機関は任務が重複し、運営も不全で、不要かつ浪費的だ。さらに、管理が不十分で、私たちと相反する議題を進める主体の影響下に置かれている場合もある。わが国の主権、自由、繁栄への脅威となり得る」と述べた。

その上で「成果がほとんど見えないまま、米国民の税金をこうした機関に注ぎ続けることは容認できない。自国民の負担を犠牲にして、外国の利益へ資金が流れ込む時代は終わった。」と強調した。

大統領令は、連邦政府のすべての省庁・機関に対し、離脱の実施に直ちに着手するよう指示している。影響を受ける国連機関については、米国の参加を終了し、拠出を停止することになる。ルビオ国務長官は、追加の国際機関についても見直し作業が継続中だと明らかにした。

人道支援の専門家や、影響を受ける多くの組織の報道官は、この措置に警戒と非難の声を上げている。気候行動、人権、平和構築、多国間ガバナンス、世界的な危機対応体制に深刻な影響を及ぼすとし、国際的不安定が増す局面での打撃を問題視している。

「きょう私たちは、世界的な協力から取引的な関係へと完全に転じていくのを目の当たりにしている。」と、NRDC(天然資源保護協議会)のヤミデ・ダグネット国際担当上級副代表は語った。

「共有された原則や法の支配、連帯よりも、取引主義が優先されつつあり、さらなる世界的不安定を招きかねない。地球規模の主要な環境・経済・保健・安全保障上の脅威に向き合うことを避ければ、米国は多くを失う。将来産業における信認と競争力を損ない、雇用創出や技術革新の機会を取り逃がし、科学技術の主導権を他国に明け渡すことになる。」

グネットは、各国指導者に多国間主義への関与を改めて求めた。「世界は米国より大きい。そして、私たちの問題の解決策も、米国だけでは完結しない。いま必要なのは、国だけでなく州や都市を含む国際的な協力であり、その重要性はかつてなく高い。世界の指導者が多国間の協働に断固として取り組まなければ、これらの地球規模の脅威を乗り越え、すべての人にとって安全で持続可能な未来を確保することはできない」と語った。
一方で、米国が国際的義務の履行を取捨選択し、トランプ大統領の優先事項に合致する事業や機関のみを支援する姿勢にも批判が集まっている。

「いま起きているのは、米国の多国間主義への姿勢が『こちらの言い分をのむか、さもなくば去れ』という形で、より鮮明に表れていることだ。ワシントンの条件でのみ国際協力を求めるという、きわめて明確な構図である。」と、国際危機グループのダニエル・フォーティ国連担当責任者は語った。

生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)は、米国がIPBESからの参加撤回を意図していることについて、「極めて失望させられる知らせ」だとして遺憾の意を表明した。今回の大統領令では、IPBESを含む60を超える国際機関・団体が離脱の対象とされている。

IPBES議長のデービッド・オブラ博士は、米国は創設メンバーであり、「2012年の設立以来、米国の科学者や政策担当者、先住民や地域コミュニティを含む利害関係者は、IPBESの活動に最も積極的に関与してきた貢献者の一部で、科学に基づく客観的な評価に重要な貢献をしてきた」と述べた。

The United Nations Headquarters as seen from First Avenue in New York City. Credit: UN News/Vibhu Mishra
The United Nations Headquarters as seen from First Avenue in New York City. Credit: UN News/Vibhu Mishra

さらにオブラは、IPBESの成果が、米国内のあらゆるレベルと領域の意思決定者に広く活用され、政策や規制、投資、将来の研究をより的確に方向づける一助となってきたとも指摘した。

オブラは米国の貢献に謝意を示しつつ、離脱はIPBESと地球に重大な影響を及ぼすと述べた。「残念ながら、100万種を超える動植物が絶滅の危機にあるという現実から、私たちは目を背けることはできない。環境影響によって世界経済が年に最大25兆ドルを失っているという事実も変えられない。いま行動しないことで、2030年までに10兆ドル超のビジネス機会と3億9500万人の雇用を生み出し得たはずの機会を失う。その損失は取り戻せない。」

Photo: United Nations Peacekeeping helps countries torn by conflict while creating conditions for lasting peace. Credit: United Nations.
Photo: United Nations Peacekeeping helps countries torn by conflict while creating conditions for lasting peace. Credit: United Nations.

歴史的に米国は国連最大の資金拠出国であり、国連の通常予算の約22%、PKO予算全体の約28%を拠出してきた。

米国が国連関連31機関への支援を引き揚げれば、大幅な予算不足に加え、人道支援要員の削減や、米国人職員が担ってきた重要な技術的専門性の喪失が見込まれる。こうした影響は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた進捗を鈍らせ、長期化する危機下の人々への食料支援や医療サービスを縮小させる恐れがある。さらに、権威主義的な政府が人道的監視や介入への抵抗を強めることにもつながりかねない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の国連担当ディレクター、ルイ・シャルボノーは、「数十の国連計画・機関を含む国際機関から手を引くという米国の決定は、人権保護と国際的な法の支配に対するトランプ大統領の最新の攻撃にほかならない」と語った。

さらに「人権理事会からの離脱であれ、世界中の数百万人の女性と少女を支援する国連人口基金(UNFPA)への資金停止であれ、この政権は、米国が過去80年にわたり築いてきた人権制度そのものを破壊しようとしてきた。国連加盟国は、人権を守るための手段を解体しようとする米国の動きに抗し、重要な国連事業が必要な資金と政治的支えを確保できるようにすべきだ。」と訴えた。

U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo
U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo

国連本部での記者会見で、国連事務総長報道官のステファン・デュジャリックは、米国の離脱に対する国連の立場を説明し、米国の参加の有無にかかわらず、困窮する人々への支援を継続すると強調した。

「私たちが一貫して強調してきたように、総会が承認した国連の通常予算およびPKO予算への分担金は、国連憲章に基づくすべての加盟国の法的義務であり、米国も例外ではない。すべての国連機関は、加盟国から付与されたマンデートの実施を継続する。国連には、支援を必要とする人々のために責務を果たす責任がある。私たちは、引き続き断固として任務を遂行する。」と、デュジャリック報道官は語った。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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YALA:新刊写真集はラリトプル訪問者必携、住民にも新発見の案内書

【カトマンズNepali Times=ソニア・アワレ】

Sonia Aware.
Sonia Aware.

パタンで生まれ育った私は、この街が芸術や建築、そして無形の文化遺産に富んでいることは知っていた。だが、この本に出会うまで、それがどれほど豊かで、自分がその「隠れた宝」をどれほど知らなかったのか、気づいていなかった。『Yala Mhasika/Exploring Lalitpur/Lalitpurko Chinari』はラリトプル商工会議所(Lalitpur Chamber of Commerce & Industry)が刊行した写真集で、街の魅力を世界に紹介すると同時に、住民自身にも改めてその価値を伝える内容となっている。

ラリトプルは一般にパタンとして知られる。おそらく周辺部に家畜の牧草地が広がっていたことに由来するのだろう。本来の名称はネパール・バサ(Nepal Bhasa)で「ヤラ(Yala)」であり、都市と農村、古さと新しさが溶け合う街である。

写真:パタン・ドカ

スォニガ(Swoniga=カトマンズ盆地)にあった他の王国と同様、家々や寺院、僧院が密集する市街地は高台に築かれ、農地はそこから川へ下る斜面に広がっていた。農業を基盤とする田園的環境の中に都市生活が同居する、この独特の景観が形づくられた。

街路から流れ落ちる有機物が土壌を肥やし続けたこと、そしてカトマンズ盆地がインドとチベットを結ぶ古代交易路の要衝に位置していたことが、盆地の諸王国に繁栄をもたらし、幾世紀にもわたる芸術と文化の開花につながった。

ヤラの住民の多くは、農業を営む人々や商人、金工・木工などの職人だった。6世紀にネパールを訪れた中国の使節(旅行者)は、この街では「農民より商人が多く、家より寺院が多い」と記している。チベットのラサ(Lhasa)と交易していた商人の子孫が集まって暮らす通りも、いまなお残る。さらに、ネパールを代表する仏教美術の名匠アルニコ(Araniko/1245年頃~1306年頃)がヤラに生まれたとする伝承も伝わっている。

写真:クォンティ地区。シヴァ神を祀る五重塔のクンベシュワル寺院と、ダシャ・マハーヴィディヤのシャクティ・ピートに捧げられたバグラムキ寺院がある

ネパールはチベットに物資を輸出し、さらには硬貨を鋳造して供給していた。主要なトランス・ヒマラヤ交易路を事実上独占していた時期もある。この繁栄は、クワ・バハ(Kwa Baha)の黄金寺院(Golden Temple)などの記念碑や祠に映し出されている。

スォニガの他の3王国にも増して、ヤラでは建築が発展し、金属・石・木工芸の中心地となった。「ラリトプル」という名は「美術の都」を意味するが、強い共同体意識を踏まえれば、「よく生きる都」と言ってもよいかもしれない。

伝承では、「ラリトプル」という名は、盆地が長い干ばつに苦しんでいた際、雨神カルナマヤ(Karunamaya)をアッサムから迎えるのを助けた農民ラリト(Lalit)に由来するとされる。ラリトが担い棒に使った梁は、今もジャタポル(Jhatapol)に残る。災害、侵攻、疫病はパタンの歴史で繰り返し登場するテーマでもあった。

写真:ハウガル・トレのアジマ(Ajima)。ネパール最古の石碑文とされ、チャヤサル(Chyasal)にはガジャ・ラクシュミ(Gaja Laxmi)がある

本書は文化遺産の専門家チーム、ロシャ・バジュラチャリヤ(Rosha Bajracharya)、スニル・パンデイ(Sunil Pandey)、アニル・チトラカル(Anil Chitrakar)が編纂した。パタンの社会経済・政治史を跡づけ、持続可能な農業によって近年まで食料余剰の街であり続けたことなどを描く。

Photo Venture Nepalによる地上・ドローン写真は、パタンをこれまでにない視点から捉えている。カルナマヤ(マチンドラナート=Machhindranath)の山車(チャリオット)祭には一章が割かれ、共同体が運営する祭礼の舞台裏が紹介される。バラヒ(Barahi)の大工が木組みを組み立て、ヤンバ(Yamva)の「つるの技術者」が高さ25メートルの山車に使う綱や籐を編み、ガク(Ghaku)の御者が狭い路地を進む巨大構造物の速度と制動を制御する。

写真:テ・バハル(Te Bahal)。カルナマヤが年の半分を過ごす場所
歩く、祈る

本書は、パタン・ドカ、プルチョーク(Pulchok)、シャンカムル(Shankhamul)、マハボウダ(Mahaboudha)、ラガンケル(Lagankhel)を起点とする5つのルートでパタンを歩いて巡る案内となる。地図とともに、バハ(baha)やバヒル(bahil)、祠、池、広場、デョチェン(dhyochenn)、中庭、ファルチャ(phalcha)などが道中の見どころとして紹介されている。

ただし、コーヒーテーブル・ブックとしての大判サイズと重量のため、持ち歩きには向かない。各地点の過去と現在について丁寧な説明がある一方で、読者は「もっと知りたい」という気持ちを残される。これは、パタンの宝があまりに膨大で、本書でさえ表面をかすったにすぎないことの証左でもある。

写真:パトゥコドム(Patukodom)。古代キラント王宮の遺構が残る

あまり知られていない必訪スポットの一つがパトゥコドムだ。ここは、パタンの原住民とされるキラント(Kirat)の王宮の名残である。考古学的発掘が行われれば、ネワ(Newa)以前のパタンの未知の側面が掘り起こされるかもしれない。

やや足を延ばす必要があるが、マハボウダ(Mahabouha)も見逃せない。ボードガヤの寺院を模したもので、3341体のテラコッタ仏と90体の大像を収める。完成までに35年、4世代を要したという。

写真:マハボウダ。ボードガヤの寺院の複製

最近の「パタン・バイ・ナイト(Patan by Night)」遺産ウォークでは、ピム・バハル(Pim Bahal)が、地元の少女に恋をしたラクヘ(lakhe)の悪鬼(現在は仮面舞踊で人気の存在)が情熱を注いだ「愛の労作」だと教わった。少女が遠くの水場まで水を汲みに行かずに済むよう、彼が池を掘ったのだという。近くにはチャルマティ・チャイティヤ(Charumati Chaitya)があり、紀元前3世紀にアショーカ王の娘が盆地を訪れ、ネパールに仏教を広めた際に建立したと伝えられる。

興味深いのは、カトマンズが「寺院の街」と呼ばれるのに対し、パタンは僧院(新仏教の寺院共同体で、礼拝や行事の拠点となる)を中心に発展してきた点である。そこでは仏教とヒンドゥー教の要素が重なり合い、密教的(タントラ的)な信仰や儀礼として独自の形をとってきた。例えば、仏陀の生涯の主要な出来事を象徴する古い仏塔(チャイティヤ)を集めたタダム・チュカ(Tadham Cuka)、ネパール最古級の石碑文とされるハウガル・トレの女神アジマ(Ajima)像、チャヤサル(Chyasal)に残るガジャ・ラクシュミ(象と結びついた吉祥の女神)像、さらにヒンドゥー教のシヴァ神信仰と金剛乗仏教の要素が交錯するビグナンタク・ガネーシャ寺院(Bignantak Ganesa temple)などが、その代表例として挙げられる。

写真:ビグナンタク・ガネーシャ寺院

本書は空間的な説明だけでなく、時間軸も提示する。農耕サイクルと黄道十二宮(zodiac)を織り合わせる形で、ラリトプルのジャトラ(jatra)、儀礼、信仰舞踊、祭礼の日時と場所を整理した詳細な文化カレンダーが編まれている。

写真:パタンのミプワ・ラクヘ(Mipwa Lakhe)。演舞の最中に火を出す。
写真:ダサインの期間、パタン・ダルバール広場で演じられるガン・ピャカン(Gan pyakhan)またはアスタマトリカ舞踊(Astamatrika dance)

最終章は水と自然に捧げられている。人々の暮らしと文明を支える水、そして祖先が残した給水システムが、浸食や汚染にもかかわらず今なお機能し続けているからこそ、ラリトプルはラリトプルであり続ける—という視点だ。

著者たちはこう記す。世界の歴史には、都市が築かれ、しばらく繁栄した後、空気や水、土壌の質を維持できずに衰退し、やがて考古学的遺跡となった例がある。その結果、人口が流出して都市は死に、歴史書の中でのみ言及される存在になった。ラリトプルは同じ過ちを繰り返さない、と。(原文へ

ソニア・アワレはネパーリ・タイムズ編集者で、保健、科学、環境担当の記者。気候危機、防災、開発、公衆衛生を、政治・経済との相互連関に着目しながら幅広く取材してきた。公衆衛生を専攻し、香港大学でジャーナリズム修士号を取得している。

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収奪と殺しのライセンスをキャンセルする(ジュリオ・ゴドイ人権ジャーナリスト)

【パリIDN=ジュリオ・ゴドイ】

Official campaign portrait, 1944

米国のフランクリン・D・ルーズベルト大統領は、非情で腐敗したニカラグアの独裁者アナスタシオ・ソモサ(大統領在職1937年-47年、51-56年)について、「彼は『Son of a Bitch(ろくでなし)』だが、『我々の』ろくでなしだ。」と言ったという伝説がある。
 
 今日に至るまで歴史家の間では、このルーズベルト大統領の発言について、はたしてソモサについて言及したものか、それとも同じく当時のラテンアメリカ(ドミニカ共和国)における親米独裁者ラファエル・トルヒーリョ(大統領在職1930年-38年、42-52年)に言及したものかで論争が続いている。いずれにしてもソモサもトルヒーリョも実に『Son of a Bitch(ろくでなし)』であったことには変わりがない。
 
しかし両者とも生粋の反共産主義者であり、それこそが米国の親しい同盟者となりえる唯一の条件でもあった。そして両独裁者は、その後死ぬまで、ルーズベルトが言及した「『我々の』ろくでなし」であり続けたのである。トルヒーリョは1961年、おそらくCIAが操作したと思われるグループにより暗殺された。一方、ニカラグアの支配者としてソモサの跡を継いだ息子は1979年のサンディニスタ革命で政権の座を追われ、1年後亡命先のパラグアイでニカラグアが放った暗殺者に殺害された。

しかし米国はトルヒーリョ、ソモサとの経験から教訓を学ぶことはなかった。その後の米国歴代の大統領が-或いはこの点について欧州各国政府が-エジプトの独裁者ホスニ・ムバラク(大統領在職1981年-)やチュニジアの泥棒政治家ザイン・アル=アービディーン・ベンアリ(大統領在職1987年-2011年)について類似のコメントをしたかどうかは知られていないが、過去30年に亘って彼らが両独裁者を「我々のろくでなし(Our Son of a Bitch)」と見做していたことは明らかだ。

Rafael Trujillo of the Dominican Republic. Official photograph published in several Dominican newspapers. August 1952. Copyright expired (D.R. copyright is life plus 50 years), Public Domain
Rafael Trujillo of the Dominican Republic. Official photograph published in several Dominican newspapers. August 1952. Copyright expired (D.R. copyright is life plus 50 years), Public Domain

ムバラク、ベンアリ両氏は、イスラム原理主義を徹底的に弾圧する一方でイスラエルに対して穏健な姿勢をとったことから、米国やフランス政府は、両者がそれぞれ支配するエジプト、チュニジアを西側同盟国と認め、両政権の腐敗や不手際については黙認する姿勢を続けてきた。例えばフランス歴代政権は1987年以来一貫して、ベンアリ大統領を地中海南岸の安定・平和・経済成長の擁護者として讃えてきた。またフランス政府は、ベンアリ大統領の腐敗や残忍性に関する指摘に対しては、「誇張である」として一蹴するか、単純に無視する姿勢を示してきた。 

2010年前に、2人のジャーナリストがベンアリ政権の腐敗の内幕を検証した著書「La Regente de Carthago(カルタゴの統治者)」が出版された際、フランス当局は同書を黙殺した。フランス政府にとって、あえて第三者からベンアリの強盗行為について指摘させるまでもなかった。南フランスからヨット数隻が強奪された事件が発生したが、ベンアリの悪名高い妻レイラ・トラベルジィの2人の姪が直接的に関与していた。しかもそれらのヨットは後にトラベルジィの姪の名義で登録された上でチュニジアの港で発見されたのである。

1月中旬、ベンアリの政権維持が民衆蜂起により危うくなると、フランス政府は独裁者に事態の「正常化」を支援するため警察部隊の派遣を申し出た。結局、フランス政府は、ベンアリが敗北を認め首都チュニスから国外亡命する段階に至って初めて、泥棒と拷問人からなる政権を支援してきたことを悟った。

しかし欧米諸国政府のアラブ独裁者達との関係は、後者の振る舞いを黙認していたことにとどまらない。ベンアリ、ムバラク、その他のアラブ独裁者たちはフランス銀行、スイス銀行及び各国行政機関の支援を得て、個人蓄財に励んできた経緯がある。フランスの不正監視組織「シェルパ」によると、ベンアリの個人蓄財はパリ及びフランス各地に点在する高価な不動産を含めて少なくとも50億ドルにのぼる。シェルパのウィリアム・ボルドン代表はこの点について、「この莫大な財産はベンアリ氏がチュニジアの大統領としての合法的な所得で築き上げたものではあり得ない。」と語った。しかしベンアリの蓄財は、スイス銀行の公式発表にある4兆ドルにものぼるムバラク大統領による「エジプト信託」の規模にはとうてい及ばない。

欧州及び米国の歴代政権は、西側民主主義が掲げる価値観の優越を盛んに説く一方で、独裁者達との関係は地中海南岸地域に限定されたものではなかった。過去10年から20年の間、悪名高い独裁者であるガボンのオマール・ボンゴ、赤道ギニアのテオドロ・オビアン、コンゴ共和国のドニ・サスヌゲソ、そして元共産党の旧敵であるアンゴラのジョゼ・エドゥアルド・ドス・サントスさえもが(興味深いことにこれらはいずれも石油資源が豊かな国々である)、50年前にトルヒーリョやソモサがそうであったように、フランス、米国、英国、ドイツ政府から無条件の支持を享受してきた。

欧米諸国のイランに対する強硬姿勢は、これらの国々が一方でイスラエルの政策に寛容な姿勢を示し、イランの周辺諸国の独裁・腐敗政権を支援している実情と照らし合わせれば、典型的な2重基準(ダブルスタンダード)と言わざるを得ない。また欧米諸国のこうした偽善行為こそが、中東地域の平和と安定を目指す自らの努力を台無しにしている原因でもある。

腐敗・不正に対する対処についても、欧米諸国は失敗したと言えよう。なぜなら、チュニスで起こった民衆蜂起やフランスの「シェルパ」等の不正監視団体による圧力に晒されて初めて、しかも躊躇しながら、フランスやスイスの司法機関は、独裁者の口座凍結や、時にはそうした財産の祖国への返納に応じる決定を下す始末だからである。

例えばジャック・シラク元フランス大統領が現在が暮らしている住居はというと、レバノンを過去約20年間に亘って支配してきた大富豪ハリーリ一族の所有するパリの豪邸である。シラク氏は全く家賃を払っていない。明らかにハリーリ氏は「純粋に友情から」シラク氏に無料で豪邸での滞在を許可しているのである。

欧米諸国が(彼らの敵や彼らの利益と関係ない人々を殺害したり財産を奪う)泥棒や殺人者との共謀から教訓を学んだかどうかは、今のところ不明である。しかしトルヒーリョやソモサの時代まで遡って欧米諸国がそれら独裁者との共謀から教訓を学んだかどうかを一つの判断基準として今日の状況を推定するならば、その答えは多分に「教訓を学んでいない」という結論に辿り着かざるを得ないだろう。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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軍事費の急増が世界の貧困層向け開発援助を蝕む

【国連IPS=タリフ・ディーン】

数字は衝撃的である。軍事支出が急増を続ける一方、富裕国から途上国への政府開発援助(ODA)は大幅に減少している。

国連が先週公表したファクトシートによれば、2024年の世界の軍事支出は2兆7000億ドルに達し、地球上の1人当たりでは334ドルに相当する。この額はアフリカ全諸国のGDP総額に匹敵し、ラテンアメリカ全体のGDPの半分を上回る。国連の通常予算(2024年)の750倍であり、OECDが2024年に拠出したODAのほぼ13倍でもある。|タイ語版英語

French aircraft carrier Charles De Gaulle(right)/ Wikimedia Commons
French aircraft carrier Charles De Gaulle(right)/ Wikimedia Commons

100を超える国が軍事予算を増額し、上位10カ国だけで総額の73%を占めた。国連加盟国のおよそ4分の1、世界人口の約2割を占めるアフリカ諸国の軍事支出は、合計しても世界全体の2%未満にとどまる。

この傾向が続けば、グテーレス国連事務総長は、世界の軍事支出が2030年までに3兆5000億ドルへ増え、2035年には4兆7000億ドルを超え、最大で6兆6000億ドルに達する恐れがあると警告した。6兆6000億ドルは、冷戦終結時の水準のほぼ5倍、世界の軍事支出が最も低かった1998年の6倍、そして2024年(2兆7000億ドル)の2・5倍に相当する。

国際NGO「コンシエンス・インターナショナル」のジェームズ・E・ジェニングス会長(博士)は、世界が1月1日に新年を祝うさなか、「2026年の世界の軍事予算を読めば、涙を流すほかない。」とIPSの取材に対して語った。

先ごろ公表された国連のファクトシートは、兵器や軍事費への支出が今後数十年にわたり人類にとって深刻な帰結をもたらし得ることを示している。ジェニングス氏は「それは、力と支配への渇望と、極度の貧困の中で暮らす人々が増え続けている現実への無関心との間に、巨大な隔たりがあるからだ。」と述べた。

Photo: A woman holds her new born baby in a makeshift ward at a perinatal centre in Kyiv, Ukraine. © UNICEF/Oleksandr Ratushniak
Photo: A woman holds her new born baby in a makeshift ward at a perinatal centre in Kyiv, Ukraine. © UNICEF/Oleksandr Ratushniak

ジェニングス氏は、こうした状況が続けば、清潔な水や衛生設備を欠く子どもたちが、本来は治療可能な病気に苦しみ、教育へのアクセスも乏しいままになると指摘した。「戦闘機や戦車や爆弾を買うことは、赤ん坊の口から食べ物を奪うことに直結している。毎年兵器に費やされる資金のほんの一部でも振り向ければ、世界の飢餓は数年で緩和できる」と語った。

さらにジェニングス氏は、富の世界的な偏在がグローバル・サウスを不利にしている点も問題だと述べた。とりわけ健康、特に子どもの健康は最優先事項である。軍事装備や軍事技術に比べれば、ワクチンや医薬品は比較的安価で入手可能であり、接種や治療を通じて状況を大きく改善し得るという。

教育は、人々の人生と社会を変える最も重要な鍵である。しかし、最も困窮する国々では、いまなお多くの人々に教育が行き届いていない。ジェニングス氏は、とりわけ憂慮すべきなのは軍事支出が増え続けている事実だとして、この流れが続けば将来は深刻だと警告した。

Drone credit: Public Domain.
Drone credit: Public Domain.

一方、国連のファクトシートは次の点を示している。
・2兆7000億ドルのうち、年間930億ドル(4%未満)で、2030年までに世界の飢餓を終わらせるための必要額を賄える。
・同じく2兆7000億ドルの1割強(2850億ドル)で、すべての子どもに必要な予防接種を実施できる。
・5兆ドルがあれば、低所得国および下位中所得国のすべての子どもに対し、質の高い12年間の教育を提供できる。
・軍事に10億ドルを投じると1万1200の雇用が生まれる一方、同額で教育は2万6700、医療は1万7200、クリーンエネルギーは1万6800の雇用を生む。
・軍事費2兆7000億ドルの15%(3870億ドル)を振り向ければ、途上国における気候変動適応の年間コストを賄うのに十分以上である。
・軍事に1ドルを使うと、民生部門に1ドルを投資する場合に比べ、2倍超の温室効果ガスを排出する。

Photo: A tactical nuclear weapon. Credit: Modern War Institute.
Photo: A tactical nuclear weapon. Credit: Modern War Institute.

加盟38カ国からなるOECDは、政府開発援助(ODA)が現在「著しい減少局面」にあると指摘している。米国、フランス、ドイツ、英国といった主要ドナー国が援助予算を削減しており、2024年に9%落ち込んだ後、2025年にはさらに9〜17%の減少が見込まれる。最貧国や、保健をはじめとする重要な公共サービスへの影響が懸念されている。

これは、数年にわたって続いてきた増加傾向からの急激な反転である。これまでのODA増加は、難民受け入れ費などの国内支出に支えられてきたが、政策の優先順位が転換しつつある。

Alice Slater/Green Shadow Cabinet
Alice Slater/Green Shadow Cabinet

「ワールド・ビヨンド・ウォー」および「宇宙における兵器と核戦力に反対するグローバル・ネットワーク」の理事を務め、「核時代平和財団」の国連NGO代表でもあるアリス・スレーターは、国連ファクトシートが示した昨年の軍事支出2兆7000億ドルという過去最高額について、人々の福祉や環境、気候崩壊を回避する取り組みに深刻な打撃を与えているとIPSに語った。さらに、雇用の創出や、飢餓・貧困の解消、医療や教育に必要な資金が不足するなど、連鎖的な悪影響を招いていると指摘した。

同ファクトシートは、国家による巨額の軍事支出の配分がいかに偏っているかを明らかにするとともに、その資金があれば、飢餓や栄養失調の終結、清潔な水と衛生の確保、教育、環境修復など、多くの分野で何が可能になるかを具体的に示している。

United Nations Secretary-General António Guterres addresses the high-level pledging event on the Central Emergency Response Fund (CERF) 2026. Credit: UN Photo/Mark Garten
United Nations Secretary-General António Guterres addresses the high-level pledging event on the Central Emergency Response Fund (CERF) 2026. Credit: UN Photo/Mark Garten

グテーレス国連事務総長は先週、世界の指導者に向けたメッセージの中で、次のように訴えた。

「新年を迎え、世界は岐路に立っている。混乱と不確実性が私たちを取り巻く中、人々は問いかけている。指導者は本当に耳を傾けているのか。行動する用意があるのか、と。」

「いま、人間の苦しみの規模は甚大である。人類の4分の1以上が紛争の影響下にある地域で暮らしている。世界で2億人以上が人道支援を必要とし、約1億2000万人が、戦争や危機、災害、迫害から逃れ、強制的に移動を余儀なくされている。」

「激動の年を越えてページをめくる中で、ひとつの事実が言葉以上に響く。世界の軍事支出は2兆7000億ドルへと膨れ上がり、ほぼ10%増加した。」

一方で、世界の人道危機が深刻化する中、現在の傾向が続けば、軍事支出は2024年の2兆7000億ドルから、2035年には驚異的な6兆6000億ドルへと2倍以上に増えると見込まれている。データによれば、2兆7000億ドルは世界の開発援助総額の13倍に当たり、アフリカ大陸のGDP総額に等しい。

グテーレス事務総長は「この新年、優先順位を正す決意をしよう。より安全な世界は、戦争に投資するのではなく、貧困との闘いに投資することから始まる。平和が勝たねばならない。」と呼びかけた。

The United Nations Headquarters as seen from First Avenue in New York City. Credit: UN News/Vibhu Mishra
The United Nations Headquarters as seen from First Avenue in New York City. Credit: UN News/Vibhu Mishra

事務総長は2025年9月、2024年の「未来のための協定(Pact for the Future)」を受け、加盟国の要請に基づいて、世界の支出構造の深刻な不均衡を明らかにする報告書を公表した。題名は「必要とされる安全保障:持続可能で平和な未来のための軍事支出の再均衡(The Security We Need: Rebalancing Military Spending for a Sustainable and Peaceful Future)」である。同報告書は、世界的な軍事支出の拡大がもたらす難しいトレードオフを検討し、平和と人々の未来への投資を強く訴えている。

グテーレス事務総長は「世界には、人々の暮らしを引き上げ、地球を癒し、平和と正義の未来を確かなものにする資源があることは明らかである」と述べた。そのうえで、「私は2026年、あらゆる指導者に呼びかける。本気で取り組め。苦痛を拡大させる道ではなく、人と地球を選べ。」と訴えた。

「この新年、共に立ち上がろう。正義のために。人間性のために。平和のために。」(原文へ

Image: A NASA image of the Earth. Public Domain.
Image: A NASA image of the Earth. Public Domain.

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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【国連ATN=アハメド・ファティ】

国連の仕事は滅多に止まらない。だが2025年は、とりわけアントニオ・グテーレス事務総長に立ち止まる余地すら与えなかった。公式の渡航記録を追うと、儀礼的な日誌というより、危機が連鎖する世界を追走する「対応記録」に近い。各訪問地は緊張の焦点であり、全体として浮かび上がる構図は明白だ。多国間主義はいま、一定のテンポで運用されているのではない。反応し、調整し、ときに「追いつくこと」そのものに追われている。

1月初旬から12月最終週まで、事務総長は欧州、中東、アフリカ、アジア、太平洋地域を繰り返し往来した。いずれも親善訪問ではない。外交関与が最も切迫する地点を映し、国連の最高政治責任者が不在であれば、具体的な影響が生じかねない局面ばかりだった。

Map of Middle East
Map of Middle East

スイスの登場頻度が高いのは偶然ではない。ジュネーブは、人道ニーズが資源の拡大を上回る局面で、国連システムの運用を支える中枢となっている。難民危機、人権調査、緊急調整の取り組みが、ますます同地に集中している。繰り返しの訪問は、財政・政治の両面で負荷が強まるなか、基本的な業務の維持ですら継続的な高官級の関与を要する現実を示す。

渡航日程の多くを占めたのは中東だった。エジプト、イラク、サウジアラビア、カタール、オマーン、レバノンを巡り、未解決の戦争、脆弱な停戦、地域秩序の再編が交錯する地域に向き合った。イラクでは、20年以上続いた国連イラク支援ミッション(UNAMI)の終了に立ち会った。象徴性を帯びると同時に、戦略上の不確実性も残す節目である。

African Continent/ Wikimedia Commons
African Continent/ Wikimedia Commons

ミッションの終了は、任務縮小後の国際関与をどう設計するか、そして平和維持活動や政治ミッションが終結した後に主権と安定をいかに両立させるかという難題を突きつけた。

湾岸での訪問は表向き静かなものだったが、重要性は劣らない。協議の焦点は仲介、緊張緩和、地域調整であり、多くは公の場から離れて行われた。最も重要な国連外交は、演壇の上で起きるとは限らないことを、改めて示している。

アフリカ訪問は、単発の危機ではなく重層的な危機に直面する大陸の現実を反映した。エチオピア、アンゴラ、南アフリカ、エジプトへの訪問の背景には、紛争、気候危機の影響、債務圧力、政治移行が重なっていた。関与のトーンも変化している。国連は長期的な開発目標の達成だけを軸に据えるのではなく、政治的安定化、人道アクセスの確保、そして地域機構―とりわけアフリカ連合(AU)―との協力強化へと重点を移しつつある。アフリカ主導の外交が存在感を増すなかでの転換である。

アジア太平洋は別種の緊張を示した。中央アジアの戦略的再浮上とも連動し、課題が相互に波及しやすい局面に入っている。中国と日本での関与は、大国間競争、経済の不確実性、停滞する気候公約を背景に展開した。カザフスタンとトルクメニスタンでは、エネルギーと貿易の要衝として、ユーラシア全域の地政学的均衡を左右し得る地域の位置づけが一段と際立った。

Map of Central Asia
Map of Central Asia

東南アジアと太平洋―マレーシア、ベトナム、パプアニューギニア―では焦点が移り、存立に関わる気候リスクが前面に出た。太平洋の島嶼国にとって、事務総長の訪問は象徴ではない。生存そのものが外交課題となった現実を映している。

Cop30 Building
Cop30 Building

ラテンアメリカで目立ったのは主にブラジルだった。ベレンで開かれたCOP30が、世界の気候外交の流れを画する節目となった。グテーレス事務総長は同会議で、1・5℃目標の突破がもはや回避不能になりつつあるとして、先送りが招く人的被害を強い言葉で警告した。関与の中心は、実施の加速、気候資金ギャップの解消、森林保護、そして各国政府・金融機関・主要排出国に対する説明責任の強化に置かれた。

この渡航記録の意味をいっそう重くしているのは、国連内部の状況である。2025年を通じ、未納や拠出遅延に伴う深刻な資金不足が組織を揺さぶった。事業は縮小され、人員判断は先送りされ、運用の不確実性が常態化した。そうした環境下で、事務総長の各地訪問は別の目的も帯びた。目に見える緊張の中にある国際機関を支える政治的支持を、つなぎ止めることである。

国連担当記者の視点から言えば、ここで語られるべきは移動距離や会談数ではない。核心は「封じ込め」にある。多くの訪問は、突破口を開くことよりも悪化を防ぐことを狙った。成功はしばしば「起きなかったこと」で測られる。紛争が拡大しないこと、人道回廊が開いたままであること、外交チャンネルが途切れないこと―その積み重ねだ。

United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

2025年の事務総長の動線は、世界の断層線とほぼ重なる。国際システムが自動的に均衡を取り戻さなくなったなかで、悪化を防ぐための介入を絶え間なく続けた記録である。今日の国際環境において、外交は断続的な出来事ではない。連続的で、消耗が激しく、そしてますます個人の負担に依存する営みとなっている。

この旅程が突きつける現実は明白だ。多国間主義はいま、現場にとどまり続けること、粘り強さ、そして絶え間ない関与によって、かろうじて支えられている。事務総長の「ほぼ常時移動」は、個人の嗜好や活動スタイルの問題ではない。危機が同時多発し、放置すれば国際協調が空洞化しかねないこの世界では、現場に身を置き続けること自体が、多国間主義をつなぎ留めるための必然となっている。(原文へ

INPS Japan/ATN

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/un-secretary-general-s-global-travel-reflects-a-world-in-crisis

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【ニューヨークIPS=マンディープ・S・ティワナ】

2025年は、民主主義にとって惨憺たる年だった。世界人口のうち、組織し、抗議し、声を上げる権利が概ね尊重されている場所に暮らす人々は、いまやわずか7%強にすぎない。市民的自由の状況を世界的に測定する市民社会の調査パートナーシップ「CIVICUS Monitor(シビカス・モニター)」によれば、これは昨年同時期の14%超からの急落である。

市民的自由は健全な民主主義を支える基盤であり、市民社会の締め付けがもたらす結果は明らかだ。21世紀最初の四半世紀を終えようとするいま、世界は19世紀並みの経済的不平等に直面している。最富裕層である上位1%の資産は急増する一方で、世界人口の約8%に当たる6億7000万人超が慢性的な飢餓に苦しむ。ガザ、ミャンマー、スーダン、ウクライナなどで死と破壊が続くなか、政治エリートと密接に結び付いた兵器製造企業は莫大な利益を得ている。こうした紛争を煽る政治指導者たちが、自らの動機を問われるのを避けるために市民的自由を抑圧しているとしても、驚くにはあたらない。

リマからロサンゼルス、ベオグラードからダルエスサラーム、ジェニンからジャカルタに至るまで、あまりにも多くの人々が、自らに関わる意思決定に参加する力を奪われている。だが同時に、これらの場所は今年、政府に抗議する重要なデモの舞台にもなった。権威主義が台頭するなかでも、人々は自由を求めて路上に出続けている。本稿執筆時点でも、ブルガリアの首都ソフィアでは蔓延する汚職に抗議する大規模デモが続き、政府は辞任を余儀なくされた。

Civicus Monitor

歴史が示すとおり、大規模デモは社会の大きな前進をもたらし得る。20世紀には、市民運動が女性参政権の実現、植民地支配からの解放、人種差別に対処する公民権立法の採択を後押しした。21世紀に入ってからも、婚姻平等を含むLGBTQI+の権利拡大、気候危機や経済的不平等を可視化する抗議行動など、前進は続いてきた。だが2025年、抗議の権利は、まさにそれが効果を持ち得るがゆえに、権威主義的指導者から攻撃を受けている。世界各地で記録される市民的自由の侵害のうち、最も多いのは抗議参加者の拘束であり、次いで、汚職や権利侵害を告発するジャーナリストや人権擁護者の恣意的拘束が続く。

この後退は、主要な民主主義国でも起きている。今年、CIVICUS Monitorは、アルゼンチン、フランス、ドイツ、イタリア、米国を、市民の活動空間の評価で「妨げられている(obstructed)」へと格下げした。これは、当局が基本的権利の十分な享受に重大な制約を課していることを意味する。こうした後退を押し進めているのは、憲法上の抑制と均衡を弱め、少数者に経済・政治・社会生活で公正な発言権を与えない「選挙多数を盾にする政治」を進めようとする、反権利のナショナリスト/ポピュリスト勢力である。

反権利勢力による民主主義の劣化は、長年にわたり進められてきた動きが、いま表面化しつつある。今年、ドナルド・トランプの政権復帰によって、その流れは加速した。トランプ政権は、国際的な民主主義支援プログラムへの支援を直ちに停止し、その一方で、市民的自由を抑圧し、深刻な人権侵害が指摘されてきた指導者との関係を強めた。トランプは、エルサルバドルのナジブ・ブケレ、ハンガリーのヴィクトル・オルバン、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ、ロシアのウラジーミル・プーチン、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンらを相次いで厚遇し、価値や規範よりも力を優先する外交姿勢を鮮明にしている。これは、市民社会が何十年もかけて積み上げてきた成果を損ないかねない。

影響はすでに表れている。従来、市民社会活動の資金を担ってきた多くの富裕な民主主義国が、拠出を大幅に減らしている。同時に、残る支援についても、軍事・経済上の狭い戦略的利益に結び付ける傾向が強まった。これは、中国、エジプト、イラン、ニカラグア、ベネズエラといった強権国家が、国内で説明責任を求める動きを弱めようとする試みに、結果として手を貸す形にもなっている。エクアドルやジンバブエなどでは、市民社会組織が海外から資金を受け取ることを制限する法律が導入された。

Civicus Monitor 2025

こうした動きは、平等、平和、社会正義のために取り組む市民社会の努力に悪影響を及ぼしている。だが2025年には、粘り強い抵抗と一定の成果もあった。Z世代(Gen Z)の抗議者が示した勇気は、世界中の人々を鼓舞している。ネパールでは、ソーシャルメディア禁止令を契機とした抗議が政権の退陣につながり、政治の立て直しに向けた希望を示した。ケニアでは、国家暴力にもかかわらず、若者が政治改革を求めて街頭に立ち続けた。モルドバでは、逃亡中の寡頭政治家が潤沢な資金を背景に展開した偽情報キャンペーンが、国政選挙を人権の価値から遠ざけることに失敗した。米国では、「No-Kings(ノー・キングス)」抗議に加わる人の数が増え続けている。

世界人口の90%超が、制度的に十分な市民的自由を否定されて暮らしている現実を前に、反権利勢力は勢いづいているのかもしれない。しかし、民主的な抗議は、とりわけZ世代の間で醸成されつつある。政治的・経済的機会を奪われる一方で、より平等で、公正で、平和で、環境的に持続可能な別の世界が可能だと理解している世代である。事態は決して終局ではない。困難な時代であっても、人々は自由を求める。そして突破口は、すぐそこにあるのかもしれない。(原文へ

マンディープ・S・ティワナは、世界市民社会アライアンスCIVICUSの事務総長。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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デジタル封建主義の時代には、批判的なジャーナリストの声が必要

国連から見た2025年米国家安全保障戦略

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

2025年版「国家安全保障戦略(NSS)」は、単なる政策文書ではない。これは世界観である。研ぎ澄まされ、硬質化し、米国がかつて擁護した戦後国際秩序そのものに、真正面から照準を合わせている。

多国間主義が活動の前提となっている国連の内側から読むと、まるでこの家の設計者が数十年ぶりに戻ってきて、ブルドーザーとメジャーを手に、「修理」すると言いながら、住む側が何とか住み続けてきた構造そのものを壊しにかかる―そんな光景に見える。

この国家安全保障戦略の冒頭は、過去30年の米国外交を「甘い」「誤った」ものと断じ、「グローバリスト」が主権を「国境を越える制度」に外注したと切り捨てる(p.1~2)。意味するところは明白だ。協調にもとづく地球規模のガバナンスという土台そのものに対する、正面からの思想攻撃である。

国連は「責任の共有」を重視する。だがNSSはそれを「目的がぼやける」とみなす。
国連は「相互依存」を前提とする。だがNSSはそれを「弱み」だと捉える。
国連は「外交」を解決の手段と考える。だがNSSはそれを「内政への干渉」に近いものと見る。

これは口調の違いではない。哲学の断絶である。

移民:国連の人道の柱と、米国の新たな「要塞」

多国間主義との衝突が最も露骨に現れるのは、移民に対する文書の断定的な姿勢だろう。NSSは「大量移民の時代は終わった」と宣言し、国境管理をほぼあらゆる国家安全保障上の優先事項の上位に置く(p.11)。

これは、国連のアプローチと正反対である。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、避難や強制的な移動を「保護」と「権利」の問題として捉える。
国際移住機関(IOM)は、移民を地球規模で管理すべき課題と位置づけ、共有された解決策を重視する。
「移住に関するグローバル・コンパクト」も、一方的な壁ではなく、国際協力を前提としている。

これに対しNSSは、移民を戦略的脅威として位置づける。テロやフェンタニルと同列の「不安定化要因」として描いているのだ。率直に言えば、この文書は、脆弱な人々を国際的安定の担い手ではなく、「安全保障を脅かす存在」として扱っている。

この認識の転換は、今後何年にもわたり、あらゆる人道交渉に影響を及ぼすだろう。

蘇るモンロー・ドクトリン―今度は「牙付き」

次に登場する西半球に関する章は、あまりに急進的で、警鐘を鳴らさざるを得ない。NSSは「モンロー・ドクトリンに対する『トランプ補則』」を掲げ、テキサス以南の港湾、鉱物、海底通信ケーブルに至るまで、域外勢力に「手を出すな」と警告する(p.15~18)。

これは婉曲表現ではない。配慮すらない。
要するにトランプ政権はこう宣言している―「この半球は我々のものだ。以上」。

国連にとって、これは単に「居心地が悪い」などというレベルの話ではない。構造的に両立しない。多国間秩序は、大国が特定地域を私有地のように扱うことを防ぐために築かれてきた。ところが、この補則はそれを正面から覆し、西半球を戦略的に「囲い込む」発想へと転じてしまう。

中南米諸国は、投資を歓迎する姿勢を公には示すかもしれない。だが国連の内側では、こうした声が漏れてくるだろう。

「米国が私たちのパートナー選びにまで実質的な拒否権を持つのなら、私たちの主権はどこから始まるのか」

このドクトリンは、次の枠組みを後景に押しやる。
・国連の開発支援
・地域機構
・多国間の資金供与
・ワシントンの承認を前提としない対外連携

結果として、多国間主義は「米国の裏庭」では、存在感を大きく削がれる。

欧州:対話の相手ではなく、「診断」の対象

欧州に関するNSSの語り口は、戦略文書というより文明論に近い。NSSは欧州について、「文明の消失(civilizational erasure)」「人口の先細り」「アイデンティティの喪失」「規制による息苦しさ」を並べ立てる(p.25~27)。

それは分析というより、追悼文に近い。

この見立ては、国連が維持してきた「西側の統一的な外交姿勢」を弱めかねない。安保理の力学、制裁の運用、人道決議の形成において結束は不可欠だ。もしワシントンがブリュッセルを「パートナー」ではなく「問題」と見なすなら、1945年以降の自由主義秩序を支えてきた結束の土台は、確実にひび割れる。

中国:多国間システムのストレステスト

この文書の通底音を最も強く支配している国があるとすれば、中国である。NSSは中国を、供給網、AI、レアメタル、知的財産、移民、宣伝工作、さらには医薬品に至るまで、あらゆる戦略領域を左右する中心的な対抗対象として描く(p.20~24)。これは競争ではない。構造的な対立である。

だが、動かしがたい事実がある。国連は中国抜きでは機能しない。中国は国連予算の主要な拠出国であり、安保理常任理事国であり、PKOにも重要な貢献をしている。さらに、保健、気候交渉、開発金融でも要の一角を占める。

米国が中国を全領域にまたがる「実存的脅威」と位置づければ、多国間主義は巻き添えになる。最大のリスクは単純だ。互いに完全には両立しない2つの国際システムが形を取り始め、国連の普遍性がその狭間で圧迫されることである。

中東:まれで、脆い一致点

意外にも、中東に関してはNSSが示す方向性が、国連の優先課題と一部で重なる。緊張を和らげ、安定を確保し、人質解放を進め、地域戦争への拡大を防ぎ、新たな外交枠組みを支える――といった点である(p.27~29)。これは、一定程度は活用可能な一致点だ。

ただし、動機は大きく異なる。国連が目指すのは、権利、統治、人道法に根ざした持続可能な平和である。一方、NSSが求めるのは、米国の負担を軽減し、対抗勢力を抑え込むための「安定した環境」に近い。

この一致は有用だが、脆い。ガザ、レバノン、シリア、紅海のいずれかで次の火種が上がれば、思想の違いは容易に再び表面化する。

アフリカ:協力か、資源狩りか

NSSはアフリカを「投資の最前線」と位置づけ、鉱物とエネルギーを米国の主要な関心事に据える(p.29)。

アフリカの指導者の中には、資源をめぐる競争が投資や交渉力の向上につながるとして、一定程度歓迎する向きもあるだろう。中国、ロシア、トルコ、EU、湾岸諸国はすでに深く関与している。

しかし、国連がアフリカを見る視野はそれより広い。国連が重視するのは、資源の確保そのものではなく、社会が安定して回り、人々の暮らしが底上げされ、紛争が再発しにくい土台が築かれることだ。具体的には、次のような課題である。
・汚職を抑え、透明で説明責任のある行政を育てること(統治)
・教育、保健、雇用など生活の基盤を強くすること(人間開発)
・紛争の予防と停戦後の社会の立て直しを支えること(平和構築)
・一次産品頼みから脱し、現地で付加価値を生む産業を育てること(産業化)
・環境と将来世代を損なわない形で成長を続けること(持続可能な成長)

要するに、NSSが焦点を当てるのは「アフリカが何を持つか」であり、国連が重視するのは「アフリカがどのような社会になろうとしているか」だ。この視点のずれこそ、多国間機関が役割を発揮すべき領域である。

結論:衝突は避けられない。それでも機会は死んでいない

NSSは、国連発足後の米国戦略の中でも最も「主権第一」であり、多国間主義に懐疑的な文書である。国際協力を当然の前提とせず、世界を「共有されたシステム」ではなく、国家が競い合う舞台として捉えている。

しかし、どれほど一国主義的な米国であっても、地球規模の現実から逃れ切ることはできない。
・感染症の世界的流行(パンデミック)
・気候変動がもたらす被害
・供給網の分断や脆弱性
・AIなど新技術のルールづくり(技術ガバナンス)
・国境を越えて連鎖する危機

これらは、いかなる国であれ―たとえどれほど強大でも―単独では解決できない問題である。

ゆえに衝突は避けがたい。だが崩壊が必然というわけでもない。

国連と多国間システムはいま、ひび割れの中に活路を見いだし、残された余地を生かしながら、ワシントンに、近代史が繰り返し示してきた真実を思い出させなければならない。

一国の意思だけが支配する世界は不安定である。
責任を共有する世界こそ、持続可能である。

そして結局、米国自身も再び理解することになるだろう。機能する国際システムの価値を代替できるほど高い壁は、いかなる国にも築けないのだと。(原文へ

INPS Japan

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/a-national-security-strategy-caught-between-america-first-and-a-multilateral-world

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軍事支出の増大を止める機会を逸してきた代償

【ニューヨークIPS=アリス・スレーター】

国連は年末、ファクトシート「世界の軍事支出の増大(Rising global military expenditures)」を公表し、昨年の世界の軍事支出が過去最高の2兆7000億ドルに達したと報告した。ファクトシートは、こうした支出の拡大が人々の福祉や環境、気候危機への対応余力を圧迫し、雇用創出、飢餓・貧困対策、医療、教育などへの十分な財源確保を困難にしていると指摘している。

SIPRI

このファクトシートは、各国の軍事支出がいかに偏在しているかを示すとともに、同じ資金があれば飢餓と栄養不良の解消、安全な水と衛生、教育、環境修復などに何を実現し得たかを具体的に浮かび上がらせている点で意義がある。だが今こそ国連は、軍事支出の拡大を止め、地球を癒やすために「これまで何を取り逃がしてきたのか」に焦点を当てたファクトシートを出すべきではないか。

というのも、第二次世界大戦終結80年と国連創設80年の節目に当たる2025年夏、ロシアと中国は「世界戦略的安全保障に関するロシア連邦と中華人民共和国の共同声明」を発出した。同声明は、国家や国家の枠組みが「他国の安全を犠牲にして自国の安全を確保してはならない」とし、「各国人民の運命は相互に結び付いている」と付け加えている。

米国とその核同盟が、ロシアや中国に対する軍事的優位を確保しようとしてきた経緯をたどるだけでも、平和や軍縮に向けた交渉提案を受け入れる機会をたびたび逸してきたことが分かる。もしそれらの提案が受け入れられていれば、長年にわたり数兆ドル規模の資金が軍事以外の分野に回り、いま私たちが直面する「地球上のすべての生命を守る」危機への対応に充てられた可能性がある。

A view of the Earth and a satellite as seen from outer space. Credit: NASA via UN News
A view of the Earth and a satellite as seen from outer space. Credit: NASA via UN News

筆者が直近の「失われた機会」として挙げるのは、中国とロシアが共同声明で、米国の「ゴールデン・ドーム」宇宙計画を批判し、宇宙空間を武力対立の場にしないよう各国に求めた点である。筆者は、この主張が西側メディアで十分に報じられていないとして、軍需産業との関係を背景に挙げて批判している。

中ロはさらに、宇宙空間における兵器の配備や武力行使を防ぐため、ロシアと中国が軍縮会議(CD)で提案してきた条約草案(2008年および2014年)に基づく交渉を求めた。軍縮会議では条約交渉の開始に全会一致が必要だが、米国が合意に同意せず、議論は前に進まなかった。

The first USSR nuclear test "Joe 1" at Semipalatinsk, Kazakhstan, 29 August 1949. Credit: CTBTO
The first USSR nuclear test “Joe 1” at Semipalatinsk, Kazakhstan, 29 August 1949. Credit: CTBTO

また中ロは、宇宙での軍拡競争を防ぎ、宇宙の平和を促進する措置として、「宇宙に兵器を最初に配備しない」国際的なイニシアチブ(政治的コミットメント)を世界規模で推進することで一致したと述べた。言い換えれば、「先に宇宙配備しない」という立場である。

筆者は、宇宙の平和をめぐる提案を最新の「逸失の機会」と位置付ける。一方、最初の「逸失の機会」は1946年にさかのぼる。ハリー・トルーマン大統領が、ヨシフ・スターリンによる提案―新設された国連の下で原爆を国際管理に移す―を拒否し、その結果、ソ連が核兵器を保有するに至った、というのが筆者の見立てである。

President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain
President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain

筆者は、ロナルド・レーガン大統領が、冷戦終盤の転機―ベルリンの壁崩壊と、ミハイル・ゴルバチョフによる東欧の解放へと至る過程―において、核兵器の全廃を視野に入れた交渉条件として「スター・ウォーズ」計画(戦略防衛構想)の放棄を求める訴えに応じなかったと位置づける。こうして、核兵器庫を廃絶する機会は失われた、というのである。

さらに続く「逸失の機会」として筆者が挙げるのは、ベルリンの壁崩壊後、再統一ドイツをめぐる協議で「NATOは東方に拡大しない」との趣旨の説明があったにもかかわらず、NATOがその後ロシア国境に迫る形で拡大していった点である。

・ビル・クリントン大統領は、プーチンによる提案――双方が核弾頭を各1000発に削減し、その後、全核保有国を招いて全廃交渉に入る。その代わり米国がルーマニアでのミサイル関連施設の開発を止める――を退けた。
・ジョージ・W・ブッシュ大統領は、1972年の弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)から離脱し、ルーマニアに基地を設置した。トランプ大統領はポーランドに基地を置いた。
・バラク・オバマ大統領は、プーチンが提示した「サイバー戦を禁止する条約」を交渉する提案を退けた。[i]

NATO.INT
NATO.INT

筆者は、米国が長年にわたり協力により開かれていれば、軍事以外の分野に回り得た資源は拡大し、「住み続けられる地球」を守るという切迫した課題にも、より大きな能力で対処できたはずだと訴える。宇宙の平和に関する中ロ提案を取り上げるのに、まだ遅すぎることはない。より賢明な判断が勝ることを願う。(原文へ

[i](参考)
https://pirm.medium.com/why-no-international-treaty-for-cybersecurity-to-ban-cyber-attacks-5a53d8b3fdd1

(参考資料)国連ファクトシート「世界の軍事支出の増大」
https://www.un.org/sites/un2.un.org/files/milex-docs/MILEX_UN_Fact_Sheet.pdf

アリス・スレーターは、World BEYOND WarおよびGlobal Network Against Weapons and Nuclear Power in Spaceの理事を務め、Nuclear Age Peace Foundationの国連NGO代表でもある。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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|視点|世界最後の偉大なステーツマン、ゴルバチョフについて(ロベルト・サビオIPS創立者)