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|防災|ネパールとブータン、地震緊急対応で連携

同様の地震リスクを抱えるヒマラヤの両国が、防災の知見を共有

【カトマンズINPS Japan/Nepali Times=ソニア・アワレ】

ブータンの首都ティンプーでは先ごろ、けたたましいサイレンで住民が目を覚ました。道路は封鎖され、市内を流れるティンプー川に架かる3本の橋はすべて通行止めとなり、救急車や消防車が慌ただしく行き交った。当局の事前告知を見落としていた人が、本物の災害が起きたと思っても無理はなかった。|英語版

それこそが訓練の狙いだった。家屋の倒壊や建物火災を想定し、大規模地震後の捜索・救助において、情報伝達や関係機関の調整、意思決定が適切に機能するかを検証したのである。

訓練の設計と実施を担ったのは、ネパール国内で防災対策や建物の耐震改修事業に豊富な経験を持つネパール地震工学協会(NSET)の技術者と地震専門家たちだった。

訓練の結果、ブータンでは捜索・救助用の装備と緊急対応計画が大幅に不足していることが明らかになった。しかし少なくとも、今後何をすべきかは見えてきた。一方、ネパールの専門家たちは、自国では歴代政権に耳を傾けさせるだけでも容易ではないと話す。

NSETのスーリヤ・ナラヤン・シュレスタは、首相をはじめとするブータン政府関係者の積極的に学ぼうとする姿勢に感銘を受けたという。

「訓練後、ツェリン・トブゲイ首相は『ブータンはネパールから学ばなければならない。ネパールはわれわれと最も状況が近く、ブータンに教える立場として、これほど適した国はほかにない』と語った」と、シュレスタは振り返る。

このように率直で柔軟な姿勢は、当局者や専門家が自分たちこそ最も事情を分かっていると思い込みがちな南アジアでは珍しい。

All photos: NSET NEPAL

ネパールとブータンの協力は、ニューデリーに本部を置く「災害に強靱なインフラのための連合(CDRI)」の支援を受けて実現した。ネパールも加盟するCDRIは、「ティンプー地震緊急対応計画」を支援する機関としてNSETを選定した。

NSETは、2段階に分けてブータンの計画策定を支援した。第1段階では、災害が発生する前に意思決定の手順や情報伝達、調整の仕組みを整備した。第2段階では、現地での訓練とシミュレーションを実施し、捜索・救助に関する計画が実際にどのように機能するかを検証した。

地震リスク

今週コロンビアで発生したM7.4の地震は、先月ベネズエラを襲った多数の死者を伴う地震に続くものであり、同様の地震リスクを抱えるネパールとブータンにとっても警鐘となった。

コロンビア、ベネズエラ、ネパール、ブータンの4カ国は、建築基準の徹底、国家レベルの緊急対応計画、災害訓練、捜索・救助の経験をめぐり、互いに学び合うことができる。

ティンプーでの訓練では、最新式のコンクリート切断機を備えた現場がある一方で、そうした機材がない現場もあった。シュレスタによれば、ブータンの捜索救助部隊から、どのように対応すべきかと問われたという。

「私たちは、実際の災害ならどうするのかと逆に問いかけた。そして、緊急の国際支援を要請するという方法もあるのではないかとヒントを与えた」と、シュレスタは語った。

当局は、市内最大の中核病院1カ所と一次医療センター2カ所を対象に、多数の傷病者が発生する事態を想定した。

さらに、救急医療従事者が自らの家族の緊急事態に対応しなければならないため、あるいは地滑りで道路が寸断されたために病院へ到着できず、病院自体も停電しているという展開も訓練に組み込まれた。

訓練チームは、11本の橋、病院1カ所、変電施設、通信網、食料備蓄倉庫など、重要インフラの構造的な安全性も評価した。

訓練は4時間にわたり、さまざまな役割を担う約500人が参加した。ネパールのチームは、2段階の訓練を実施するための準備にほぼ1年を費やした。

災害対応チームの統括責任者を務めるトブゲイ首相も訓練に立ち会い、ジグミ国王にも進捗状況が逐次報告された。

訓練結果を分析したNSETは、一連の提言をまとめた。その一つが、人口1万5000~2万人の各行政区に、少なくとも6人編成の地震初動救助隊を1隊ずつ配置するという提案である。

ブータンでは数十年にわたって大地震が発生していない。同国はヒマラヤ東部の地震空白域に位置しており、地殻に蓄積したひずみがいつ解放されてもおかしくない。

ティンプーの人口は約12万1000人である。NSETは、M7を超える地震が発生すれば、市内にある1万3700戸の住宅のうち約3000戸が深刻な被害を受け、夜間の発生なら死傷者が約3000人に上る可能性があると推計している。

All photos: NSET NEPAL

一方、NSETが2015年以前に行った推計では、カトマンズ盆地の脆弱性はさらに高いとされていた。2015年に発生したM7.8の地震では約1万人が死亡したが、地震学者によれば、この地震でもネパール中部の地殻に蓄積したひずみは完全には解放されなかった。

皮肉なことに、ネパールの専門家が他の地震脆弱国を指導する一方で、ネパール自身には詳細で実効性のある緊急対応計画がない。

「ブータンは私たちから学んだ。では、私たちはブータンから何を学べるのか」とシュレスタは問いかける。

ネパールにも、NSETがティンプーで支援したのと同様に、国の最高レベルによる政治的関与、緻密な計画、実地シミュレーションが必要だという。

All photos: NSET NEPAL

確かにNSETは、2015年の地震以前にも、各機関の役割を定めた国家災害対応枠組みの策定に協力していた。しかし、それは書類上の計画にとどまり、十分な政治的主体性に裏付けられた戦略的な実施計画を欠いていた。

「訓練は実施しているが、机上のものが多く、避難に使うオープンスペースをどこに確保するのか、緊急物資をどこに事前配備するのかといった重要な問いに答えていない」と、NSET創設者のアモド・マニ・ディキシットは指摘する。

「ネパールとブータンを分けているのは、政治の本気度である」

ネパールの防災体制は2015年以降、改善している。治安機関では訓練を受けた要員が増え、装備も充実してきた。しかし、ヒマラヤ規模の巨大地震に対処するには、依然として不十分である。

トゥレ・ライは、ネパール警察で捜索・救助部門の最高責任者を務め、ブータンに派遣されたNSETチームにも加わった。

ライは、2015年以前のネパールに計画が欠けていたことについて、次のように語る。

「当時は、将来起きることに、なぜ今から投資する必要があるのかという考えが一般的だった。しかしブータンは、南アジアで初めて緊急対応計画を実地シミュレーションで検証した国となった。ネパールでは計画は紙の上にあるだけで、ほとんど検証されていない」

だからこそ、シミュレーションが重要なのである。実際の災害に近い状況で計画の空白や問題点を洗い出し、あらかじめ担当を定めた当局者が解決に当たることができるからだ。

2002年には、国際協力機構(JICA)がカトマンズ盆地の地震被害軽減に関する調査を実施した。1934年にネパール東部で発生したM8.3の地震を想定の基準とし、建物やインフラの構造上のリスクを評価するとともに、多数の死傷者が発生する可能性を予測した。

それから25年が経過した。報告書は2018年に改訂されたものの、事実上、棚上げされたままである。

2017年に制定された国家災害リスク軽減管理法は、リスク軽減、防災、緊急対応、捜索・救助を一つの枠組みの下に統合しようとした。しかし、関係機関の調整が今なお最大の障害となっている。

緊急時の機関連携を進める政治的意思の欠如こそ、ネパールが抱える最大の問題なのかもしれない。

シュレスタはこう語る。

「ネパールには意識も知識もある。だが、連携がない。災害対策に取り組む優れた機関には、武装警察隊、ネパール警察、赤十字などがあるが、それぞれがばらばらに動いている。ブータンから学ぶべきは、まさにこの点である」

ソニア・アワレは『ネパリ・タイムズ』編集長で、保健・科学・環境分野の記者も兼務している。気候危機、防災、開発、公衆衛生について、それぞれの政治・経済的な相互連関に着目しながら幅広く取材してきた。公衆衛生学を修め、香港大学でジャーナリズムの修士号を取得している。

INPS Japan

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80歳からさらに長く生きる時代

【米オレゴン州ポートランドIPS=ジョセフ・チャミー】

80歳を迎えた後も、人々は男女とも、かつてないほど長く生きるようになっている。|英語版

80歳に達した人々のこうした長寿化は、人口学上の目覚ましい成果である。寿命が延びたことで、高齢者とその家族には新たな可能性が開かれる一方、社会・経済・医療の各面で重要な課題も生じている。

1950年、世界全体の80歳時平均余命は、男性4.8年、女性5.3年だった。その後数十年にわたって着実に延び、2026年には男性7.7年、女性9.1年に達していると推計される。この傾向は今後も続き、2050年には男性8.8年、女性10.1年まで延びると予測されている。(図1)。

図1 80歳時の男女別平均余命:1950年、1975年、2000年、2026年、2050年 出所:国連
図1 80歳時の男女別平均余命:1950年、1975年、2000年、2026年、2050年 出所:国連

しかし、こうした世界平均の背後には、国による大きな違いがある。日本やフランスなどの先進国では、80歳時の平均余命が比較的長く、男性はさらに10年、女性は約12年生きると見込まれている。

これに対し、ナイジェリア、ニジェール、マリなどの開発途上国は分布の下位に位置し、80歳に達した男女の平均余命はいずれも約5年である(図2)。

図2 主要国における80歳時の男女別平均余命:2026年 出所:国連
図2 主要国における80歳時の男女別平均余命:2026年 出所:国連

世界人口に占める80歳以上の割合は、ここ数十年にわたって着実に上昇している。1950年には世界人口の約0.6%だったが、2026年には1.2%と倍増し、2050年にはさらに2.1%まで上昇すると予測されている(表1)。

(表1)出所:国連
表1 出所:国連

80歳以上の人々が世界人口に占める割合は依然として比較的小さいものの、その人数と割合は急速に増えている。これは、生存率の継続的な向上と、世界各地で進む人口高齢化を反映したものである。

人口に占める80歳以上の割合は、国によって大きく異なる。先進国では高く、開発途上国では低い傾向にある。例えば2026年には、日本では人口の11%、イタリアでは8.1%が80歳以上となっている。これに対し、インドでは1.1%、ナイジェリアでは0.3%にとどまる。

世界保健機関(WHO)によると、80歳以上の人々の健康には遺伝も一定の影響を及ぼすが、健康状態の差の大部分は、物理的・社会的環境に加え、性別、民族的背景、社会経済的地位といった個人の特性によって左右される。

高齢になっても健康を保てるかどうかは、生涯を通じて健康的な生活習慣を維持できるかに大きく左右される。具体的には、バランスの取れた食事、定期的な運動、喫煙や薬物使用の回避、飲酒の節制、人とのつながりの維持などである。

こうした健康的な生活習慣は、慢性疾患のリスクを減らし、身体機能と認知機能を保つとともに、長期介護が必要となる時期を遅らせる。その結果、寿命を延ばすだけでなく、高齢期の生活の質を高めることにもつながる。

しかし、80歳代の多くの人々は、慢性疾患の管理、必要な長期介護の確保、経済的安定の維持、社会的孤立への対処など、深刻な課題に直面している。

80歳以上の人のうち、独り暮らしをする人の割合は、文化的規範、家族構成、所得水準、公的支援制度の違いを反映し、国によって大きく異なる。多くの開発途上国では10%未満であるのに対し、高所得国では通常30~50%に達する。

高齢者は、年齢に基づく偏見や差別にもさらされがちである。高齢者を虚弱で他者に依存する存在、あるいは社会の負担とみなす固定観念があるためだ。こうした見方は差別を招くだけでなく、健康で活動的に年齢を重ねる機会を狭めるような政策につながりかねない。

80歳代の後半になっても身体的・精神的能力を保ち、数十歳若い人々と同程度の機能を維持する人もいる。しかし、大半の人は身体機能や認知機能がある程度低下し、少なくとも一つの慢性疾患を抱えている。

慢性疾患を抱える人の増加と長期介護需要の高まりは、政府、医療制度、家族に大きな影響を及ぼす。急速に増える80歳以上の人々のニーズに応えるには、医療、長期介護サービス、高齢者に配慮した地域づくりへの投資を拡大する必要がある。

同時に、高齢者介護をめぐっては、政府と家族が責任をどのように分担すべきかという重要な問題も生じる。人口の高齢化が進むにつれ、この責任分担のあり方は、ますます重要な政策課題となる。

政府は、高齢の親族を介護する中心的な役割を家族が担うことを期待しがちである。一方、家族は、介護に必要な資金、サービス、支援を政府が提供すべきだと考えている。こうした議論が続いていることは、政府が負うべき公的責任と家族による介護との適切な均衡を図る、持続可能な政策の重要性を浮き彫りにしている。

包括的な公衆衛生対策では、80歳以上の人々が置かれた多様な状況とニーズに対応する必要がある。高齢者の暮らしを支える物理的・社会的環境が整えば、加齢によって身体機能や認知機能が低下しても、本人にとって意義のある活動を続けることができる。

そうした環境には、安全で利用しやすい公共施設、高齢者に配慮した交通システム、手頃な価格の住宅、地域に根差した保健・福祉サービスなどが含まれる。

80歳以上の人々が健康を保ち、支援の行き届いた環境で高齢期を過ごせれば、自立を維持し、家庭生活や地域社会に積極的に関わり、より若い人々と同程度の生活の質を享受できる。

一方、寿命が延びても、その年月が身体的虚弱、認知機能障害、精神的な健康問題を伴うものとなれば、影響は本人だけにとどまらず、家族、医療制度、社会全体に及ぶ。

80歳代の多くの人々は、複数の慢性疾患、心身機能の低下、加齢に伴うさまざまな障害によって生じる、健康・生活両面の複雑な課題に直面している。

世界では、80歳以上の多くの人々が、身体の慢性疾患、認知機能障害、老年症候群、心理面の変化を複合的に抱えている。こうした問題は重なり合い、相互に関連していることが多い。そのため、疾病予防、ケアの継続性、多職種連携、高齢者本人と介護者双方への継続的支援を重視した、本人中心の一体的な保健医療・福祉ケアが求められる。

世界的に見て、80歳の男女が直面する主な健康課題には、心臓発作や心不全などの心疾患、アルツハイマー病を含む認知症、老年症候群がある。老年症候群には、フレイル(虚弱)、骨粗しょう症、聴覚・視覚障害、尿失禁、転倒リスクの上昇など、加齢に伴うさまざまな状態が含まれる。

転倒は、高齢者の負傷、障害、入院、自立の喪失、けがによる死亡の主な原因の一つである。加齢による筋力や平衡感覚の低下、視覚障害、薬剤の副作用、認知機能の低下、神経疾患などが、転倒リスクを高めている。

多くの疾患は男女双方にみられるが、生物学的な違い、生活習慣上の要因、女性の方が長寿であることなどにより、80歳時の健康状態には男女で異なる特徴がみられる。

80歳の女性が直面する主な課題は、移動能力の維持、骨粗しょう症や骨の脆弱化による骨折の予防、社会的孤立への対処であることが多い。女性は一般に男性より長生きするため、配偶者に先立たれたり、独り暮らしになったりする可能性が高い。また、孤独や経済的不安を抱え、長期的な支援を必要とすることも多い。

また、アルツハイマー病を含む認知症患者に占める女性の割合は高い。その一因は女性の方が長寿であることにあり、認知機能の低下は、高齢期の女性にとって特に重要な健康課題となっている。

こうした深刻な課題にもかかわらず、多くの高齢者は前向きな姿勢とユーモアの精神を保っている。誰の言葉かは定かでないが、年長者の言葉としてしばしば紹介される次の一節は、そうした心意気をよく表している。

Older adults gather in an accessible public space, illustrating how age-friendly environments, mobility support and social connections can help people aged 80 and older maintain independence and quality of life. Image: INPS Japan

「年を取ると正気を失う、と人は言う。だが、失ってもさほど惜しくはないとは、誰も教えてくれない」

80歳代の男性が直面する主な健康リスクには、命に関わる急性の心血管障害、代謝性疾患、深刻な心理的危機などがある。多くの国や地域では、この年齢層の男性は同年齢の女性に比べ、一部のがんや2型糖尿病の罹患率も高い。高齢男性に多く診断されるがんには、前立腺がんと膀胱がんがある。

うつ病と診断される割合は女性の方が高いものの、自殺率は80歳以上の男性の方が大幅に高い。こうした死の背景には、配偶者との死別、身体的健康の悪化、社会的孤立、慢性疼痛のほか、人生の大きな変化に伴ってアイデンティティーや生きる目的意識が薄れることなどがある。

80歳以上の多くの人にとって、運転を続けられるかどうかも重要な問題である。大半の国では、運転できる年齢に一律の上限を設けていない。その代わり、定期的な健康診断や視力検査、通常より短い間隔での運転免許証の更新を義務付け、高齢者が安全に運転できる状態にあるかを判断している。こうした措置は、運転によって得られる自立性や移動の自由を保つことと、公共の安全を守ることとの均衡を図るものである。

こうした世界的な対応の例外として注目されるのがペルーである。同国では、80歳以上になると運転免許証の更新が認められない。この政策は、視力、聴力、反応時間、認知機能、身体の運動機能が加齢とともに低下することへの懸念を踏まえ、交通事故を減らすための政府の取り組みの一環として導入された。

80歳を迎え、過去の世代よりも長く生きるようになったことは、人口学上の目覚ましい成果である。これは、医学、公衆衛生、栄養、教育の大幅な進歩と生活水準の向上を反映したものである。

同時に、長寿化は、個人、家族、医療制度、社会に新たな可能性をもたらす一方、重大な課題も生み出している。

こうした課題に対応するには、健康な高齢化を促進し、高齢者の自立を支え、質の高い医療・長期介護へのアクセスを拡充するとともに、増え続ける80歳以上の人々の生活の質を高める政策や事業が必要である。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

80歳以上の多くの人々は、自立を失うこと、慢性疾患を発症すること、家族の負担になること、独りで死を迎えることを不安に感じている。しかし、思いやりのあるケアを受け、できる限り安楽に過ごし、治療や終末期ケアに関する本人の希望が尊重されれば、死に至る過程への不安は和らぐ。

一方、多くの80歳以上の人々にとって、死は近づくにつれて次第に恐ろしいものではなくなっていく。配偶者、親族、友人、同世代の人々との死別を経験するうちに、死を理解し難い謎ではなく、人生の自然で避けられない一部と捉えるようになるためである。

こうした見方は、自らもいつか死を迎えるという事実を、より深く受け入れることにつながる。恐怖にとらわれるのではなく、今に目を向け、大切な人とのつながりを慈しみ、残された時間に感謝することを選ぶ人も多い。

死を受け入れることで、人生の自然な終わりが近づくなか、より深い感謝の念と生きる目的、心の安らぎを得る人もいる。

ジョセフ・チャミーは人口問題を専門とするコンサルタントで、国連人口部の元部長。人口問題に関する著作を多数発表している。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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戦線と深まる亀裂―ロシア・ウクライナ戦争の最新情勢と今後の行方

【メルボルンINPS Japan/London Post=マジッド・カーン】

ロシア・ウクライナ戦争が5年目に入る中、戦場では激しい戦闘が続き、戦略や同盟関係も絶えず変化している。双方が優位を確保しようとする攻防に、終息の兆しは見えない。かつて短期間で終わる「特別軍事作戦」と位置づけられていた戦争は、いまや凄惨な塹壕戦、先端技術を駆使したドローン攻撃、敵後方深部への長距離攻撃、さらには東欧を越えて国際社会に波紋を広げる政治的駆け引きを伴う長期消耗戦へと変貌した。|英語版

ここ数カ月の展開は、この戦争がいかに流動的かつ複雑になっているかを改めて浮き彫りにしている。戦場では双方が戦果を主張する一方、独立系の分析機関は、消耗戦と膠着状態が続く厳しい現実を指摘している。

ウクライナ軍司令部によれば、2026年に入ってからの防衛作戦により、ロシア軍の領土拡大は大幅に鈍化し、その進撃ペースは年初の時期に比べ半分以下に落ちたという。オレクサンドル・シルスキー総司令官は、兵員、装備ともに数的優位に立つロシア軍が今年前半に実施した大規模攻勢について、目標を達成できなかったと述べている。これはウクライナ側の防衛態勢が一定の成果を上げたことを示すと同時に、ロシア軍が抱える作戦上の困難を浮き彫りにしている。

一方、独立した戦況分析によれば、領土支配の推移にはばらつきがみられる。ロシア軍の前線での前進は絶対量では小さく、ここ数カ月の占領地域の純増も限定的である。支配地域は依然として流動的で、争奪が続いており、どちらの側にも決定的な優位をもたらさない消耗戦の様相を呈している。

分析者らは、ロシア軍が一時的に小規模な領土拡大を実現しても、その前後に後退を強いられる場合が多く、戦略的突破には至っていないと指摘する。ウクライナの防衛力強化と国際社会による継続的な支援を背景に、大規模攻勢によって決定的な成果を得ることの難しさが鮮明になっている。

戦場における最も顕著な変化の一つが、ウクライナによる攻撃範囲の拡大である。長距離ドローンやミサイルによる攻撃は、前線を越え、ロシア領内深部のエネルギー施設、物流拠点、交通網などを標的とするケースが増えている。

複数の報道によれば、ウクライナ軍は主要な石油精製所や燃料関連施設を攻撃し、ロシアのエネルギー生産能力に大きな混乱をもたらしている。その影響で国内の広い地域で燃料不足が生じ、ガソリンスタンドには長い列ができ、一部地域では配給措置も導入された。国内市場の安定を図るため、ディーゼル燃料の輸出禁止措置も取られている。

こうした攻撃は単なる戦術上の変化にとどまらない。ロシアが長期にわたり軍事作戦を維持する能力を低下させるという、ウクライナ側のより広範な戦略的狙いを反映している。

ウクライナによる大規模かつ継続的なドローン攻撃も注目を集めている。最近では数日間にわたり、モスクワ州を含む遠隔地の標的に無人機による波状攻撃が行われ、ロシア側は24時間以内に1000機近くを撃墜したと主張した。

ロシア当局が迎撃実績を強調する一方、ウクライナ軍司令部はドローン作戦を、ロシアの物流網や戦略基盤を弱体化させるための中核的手段と位置づけている。アゾフ海の艦船やクリミア周辺のインフラへの攻撃も含むこれらの作戦は、ウクライナが数週間から数カ月にわたって継続しようとしている、より広範な「影響作戦」の一環である。

こうした動きは、技術革新と無人システムの普及によって、大規模兵力同士の従来型戦争が、消耗と撹乱を重視する戦いへと変化していることを示している。

防御面では、ロシアも対応を強化している。ロシア連邦当局は最近、ウラル地方や極東の空軍基地など、戦略的に重要な遠隔地の標的を攻撃する目的で投入されたとする、西側製のAI搭載・爆薬積載ドローンを迎撃したと発表した。

ロシア連邦保安局(FSB)は、ウクライナから密かに搬送されたドローンを使った作戦を阻止したと主張している。これは、双方が従来の前線をはるかに越えた長距離作戦を展開している実態を示すものでもある。

クレムリンは、こうした事例を西側諸国による戦争への関与を裏づけるものとして位置づけている。一方、ウクライナとその同盟国は、侵略国に対するこうした作戦は正当な軍事行動だとの立場を維持している。戦闘の非対称性が増していることは、この戦争が従来型の正面戦闘をはるかに超えるものへと変化したことを示している。

長期化する戦争の重圧は、キーウの政治情勢にも表れている。2026年7月、ウクライナのユリア・スヴィリデンコ首相が就任から1年で辞任し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は大規模な政府改造を発表した。

治安・法執行機関の指導部交代やエネルギー部門の主要人事を含む今回の再編は、軍事作戦が激しさを増し、経済的困難が続く中で実施された。

また、米国がウクライナによるパトリオット・ミサイル・システムの生産支援を約束するなど、ゼレンスキー政権は防衛協力の拡大に軸足を移している。これは西側諸国との戦略的連携の深化を示す一方、ウクライナが戦争を継続するうえで、依然として外国からの援助と技術に大きく依存している現実も浮き彫りにしている。

こうした国内政治の変化は、戦時下で国家を統治することの難しさと、軍事上の優先課題と行政運営が密接に絡み合う状況を示している。

外交面でも各国の関与は続いている。パリでは、ウクライナとフランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン、英国など欧州9カ国が、ロシアのミサイルによる脅威から欧州を守るため、共同の弾道ミサイル防衛システムを構築する連合の設立を発表した。

この共同構想は、欧州の同盟国によるウクライナ支援が依然として続いていることを示すとともに、ウクライナ国境を越えた統合的な防衛態勢を構築する戦略を反映している。

同時に、この戦争が欧州全体の防衛上の優先順位を大きく変え、将来和平が実現したとしても存続する可能性のある共同安全保障プロジェクトを加速させていることも明らかになっている。

戦争の過程では何度か交渉への動きがみられたものの、外交的な機運は一貫していない。報道によれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、とりわけ激しい争奪が続くドンバス地方での領土目標を追求する姿勢を崩しておらず、西側首脳との断続的な対話にもかかわらず、相次ぐ和平提案には応じてこなかった。

クレムリンに近い関係者によれば、プーチン大統領は、制裁や戦場での後退によって大きな経済的代償を払うことになっても、軍事的圧力を維持することが国内での政治的正統性と戦略目標の双方に不可欠だと考えているという。

分析者の間では、ロシアによるエスカレーションがウクライナ領外に及び、欧州の重要施設が標的となる可能性も懸念されている。そうなれば、NATOや西側諸国が回避しようとしてきた、より広範な対立へと発展しかねない。

こうした状況は、戦争疲れが深まる一方で戦略的要請も存在するという、ロシアの政策判断を規定する根深い緊張関係を映し出している。

ロシアが本格的な停戦協議に踏み切ることをためらう背景には、戦争が国内にもたらしている大きな代償もある。

包括的な評価によれば、ロシア軍の戦場での死傷者と行方不明者は合わせて数十万人に上り、ウクライナの粘り強い抵抗と国際的な支援を前に、ロシア軍は主導権の維持に苦戦している。

さらに、長期化する戦争と制裁はロシア経済にも重くのしかかっている。影響はエネルギー産業にとどまらず、建設業や工業生産など幅広い分野に及び、構造的な圧力を強めている。

こうした負担は、戦時政策を長期にわたり維持することへの国民の信頼を損ない、戦争の方向性と長期的な持続可能性をめぐる国内論議を激化させている。これは、決定的な軍事的敗北がなくても、長期戦が国家の能力を徐々に消耗させていくことを示している。

ウクライナもまた、深刻な課題を抱えている。攻撃能力を拡大し、ドローン技術を効果的に活用している一方、防空能力の不足や複数の前線で続く圧力など、依然として大きな脆弱性を抱える。

西側諸国は追加支援を約束しているものの、防空システムや高度な長距離攻撃手段の不足により、ウクライナ軍の陣地はロシアによるミサイルやドローンの集中攻撃にさらされ続けている。

ドイツが攻撃用ドローン5万機への資金提供を約束するなど、新技術の調達と運用統合に向けた取り組みは、現代戦において技術的優位を確保することの戦略的重要性を示している。その一方で、戦時経済に内在する物流や生産能力のボトルネックも浮き彫りにしている。

戦場の需要と産業生産能力のせめぎ合いは、この戦争の行方を左右する重要な要素となっている。

ロシア・ウクライナ戦争の影響は、戦場をはるかに越えて世界に及んでいる。ロシア産燃料の輸出混乱によってエネルギー市場が不安定化するなど、東欧から遠く離れた国々の経済にも影響が波及している。

The Russia-Ukraine war has evolved into a prolonged war of attrition marked by trench warfare, drone attacks, and long-range strikes on infrastructure deep behind the front lines, with repercussions extending far beyond the battlefield to European security and the wider geopolitical landscape. Illustrative image:INPS Japan

また、NATO加盟国の間では、集団防衛上の義務や戦略的関与のあり方をめぐる議論が改めて活発化している。

インドのような国も外交的な影響力を示しており、ナレンドラ・モディ首相については、西側当局者が、地政学上の問題でモスクワが耳を傾ける重要な人物の一人と位置づけている。これは、この戦争の影響が大国間の世界的な勢力均衡にまで及んでいることを示唆する。

ロシア、西側諸国、地域的利益の間で相反する圧力に対応する中、インドをはじめとする非西側諸国の戦略的判断は、今後の戦況や外交交渉の枠組みに大きな影響を及ぼす可能性がある。

こうした情勢の中、戦争がもたらした人的犠牲を無視することはできない。何百万人ものウクライナ人が今なお避難生活を余儀なくされ、インフラの破壊は広範囲に及び、度重なる砲爆撃によって民間人は甚大な被害を受けている。

同時に、ロシア各地の家庭も、戦争がもたらした犠牲や制裁に伴う経済的困難に直面している。

ザポリージャのような都市や、ドネツク州の前線都市コスチャンティニウカをめぐる戦闘は依然として激しく、一つ一つの交戦が、都市空間や市民生活と軍事目標を切り離すことが困難な現代戦の残酷な現実を改めて突きつけている。

大量の火力が集中し、航空戦力、装甲戦力、無人システムが一体的に運用されるこの戦争は、破壊力が極めて大きく、技術的に高度で、戦場の両側の社会に深刻な混乱をもたらす21世紀型戦争の典型となっている。

今後について、政策当局者や専門家の間では、大きく二つのシナリオが想定されている。

一つは、国際社会からの圧力、ウクライナの同盟国による継続的な防衛協力、戦場での限定的な前進を背景に、交渉によって膠着状態が固定化され、双方が長期にわたり対峙しながらも、一定程度抑制された紛争が続くというものである。

もう一つは、より深刻なシナリオである。ロシアが領土目標の達成を目指して再び大規模攻勢に乗り出し、それによってさらなるエスカレーションが生じ、地域諸国や世界の大国がより深く関与する事態へと発展する可能性である。

多くの専門家が指摘するように、最大の問題は、相互不信と戦略目標の隔たりによって外交の余地が狭められていることである。現時点では、キーウもモスクワも、国内政治上受け入れ難い大幅な譲歩なしに、戦争の根幹にある目標を放棄する意思を示していない。

5年目に入ったこの戦争は、現代の紛争がいかに複雑化し、多層化し、決定的な解決を拒むものへと変化していくかを示す典型例となっている。

技術革新、経済的圧力、外国との同盟関係、国内政治上の制約が交錯し、長期にわたる消耗戦が戦場だけでなく、より広範な地政学的均衡をも形づくっている。

この戦争を見守る世界にとって、ロシア・ウクライナ戦争は、地域紛争が国際安全保障と経済の安定をいかに大きく変え得るのか、そして絶え間ない戦略的競争の時代に平和を追求することがいかに困難であるのかを、改めて突きつけている。

INPS Japan

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【IPS国連=ナウリーン・ホセイン】

―「世界人道デー」は、極めて複雑で、しばしば危険な状況の中で、人命を救う活動に従事する人道支援要員とその活動をたたえる日である。

今年、国連の指導者らは国際社会に対し、紛争地域で活動する人道支援要員を保護するとともに、任務中に負傷したり命を落としたりした人々について、加害者の責任を追及するよう訴えている。

国連総会は2008年末、イラクのバグダッドにあるカナル・ホテルで起きたテロ攻撃から5年後の8月19日を「世界人道デー」に定めた。この攻撃では、当時のセルジオ・ビエイラ・デメロ国連事務総長特別代表(イラク担当)を含む国連職員22人が死亡した。

20日水曜日、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、このテロ攻撃から23年を迎えるにあたり、犠牲となった国連職員に哀悼の意を表し、彼らの遺志は「紛争、災害、絶望のただ中で支援を届けるすべての人道支援要員の中に生き続けている」と述べた。

グテーレス事務総長はまた、民間人や人道支援要員を守るための国際人道法が、「憂慮すべき頻度で、しかも処罰されることなく」侵害されていると指摘した。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、2025年には人道支援要員に対する暴力が過去最悪を記録し、712件の事件が報告された。その結果、350人が死亡、322人が負傷、235人が誘拐され、280人が拘束された。

人道支援活動の安全を調査する「Humanitarian Outcomes」の「Aid Worker Security Database(人道支援要員安全データベース)」によれば、今年に入ってからもすでに136件の重大事件が発生している。これは、近年、人道支援要員を標的とする事件が増加し続けていることを示している。報告された攻撃件数は、2022年の300件から2023年には471件、2024年には634件へと急増した。

「こうした深刻な数字の一つひとつの背後には、人の名前があります。彼らは同僚であり、友人であり、家族であり、そして私たちの中で最も献身的な人々なのです」と、国連人道問題担当事務次長兼緊急援助調整官のトム・フレッチャー氏は語った。

世界人道デーを前に記者会見するトム・フレッチャー国連人道問題担当事務次長兼緊急援助調整官。写真:Naureen Hossain/IPS

フレッチャー氏は、ウクライナからオンラインで記者団の取材に応じた。同氏は現在、最近ドローン攻撃を受けた地域を含む被災地を視察している。

同氏は、民間人やインフラを標的とするドローンの使用が増えていると警告した。今回の訪問中にも多数のドローンを目撃し、自身と同行チームの近くにドローンが飛来したため、身を守るため避難しなければならない場面もあったという。

ウクライナ、ガザ、スーダン、ソマリアなど、危機が続く地域ではドローンがますます広く使用されている。これらの兵器は人間が操作する一方、AIによって誘導することも可能であり、民間人の日常生活のあり方を変え、人道支援要員の活動にも大きな影響を及ぼしている。

ドローンは、民間人や支援要員の間に「集団的な不安感」を生み出している。一方、ドローン攻撃やその実行者について、十分な責任追及が行われているとは言い難い。攻撃を行う側は、自らが何を標的としているかを認識している可能性が高いにもかかわらずである。

さらに、ドローン技術は低価格化し、入手も容易になっている。そのため、紛争当事者がさまざまな使用方法を試す中で、より多くの主体がドローンを手にするようになっている。

フレッチャー氏は、ドローンはワクチンの配送や緊急時の生存者捜索など、人道支援活動に有益な形で活用することもできると認めた。しかし紛争下での利用の多くは、「非人道的で無謀なものだ」と指摘した。

「これほどドローンが日常会話の一部になっている場所を、私はほかに知りません。避難所で会った子どもたちから、民間人、人道支援要員、私の同僚に至るまで、誰もが一人称視点(FPV)ドローンの音と、光ファイバー式ドローン、中距離ドローン、そして私たちの活動に重大な脅威を与えている徘徊型兵器の音を聞き分けることができるのです」とフレッチャー氏は語った。

フレッチャー氏は国際社会、とりわけ国連加盟国に対し、国際人道法を順守し、国家を含む紛争当事者の責任を追及するよう求めた。加盟国は独立した調査を実施するため、より強力な措置を取ることができるし、そうすべきだと訴えた。

また同氏は、国際人道法について対話と検討をさらに深める必要性を繰り返し強調し、その中にはドローンのような新興技術から人道支援要員をどのように守るかという問題も含まれるとした。

技術が「人間性を追い越すことなく」、また「責任追及を追い越すことのない」ようにする責任は、加盟国とその技術を開発する企業にあるという。

さらに、ドローンの製造や流通に関わる企業とも対話し、自らの技術がどのような危険を生み出しているのかを理解してもらう必要があると訴えた。

国連や世界的な連帯の精神を信じる人々は、加盟国には今なお国際人道法上の責任を果たす意思があると信じている。

「もし世界があまりにも取引優先で、利己的かつ内向きになり、加盟国がもはやこうした責務を果たす能力も意思も失ってしまったのだとすれば、私たちは本当に暗いディストピア的現実の中にいることになります」と、フレッチャー氏はIPSに語った。

さらに、一般市民も自国政府に責任を果たすよう求めることができると指摘した。

「手遅れになる前に、こうしたリスクを管理するよう指導者に求める世論の声が必要です。しかし、私がともに働いてきた多くの人々、命を落とした同僚たち、そして私たちが支援するためにここにいる多くの人々にとっては、残念ながら、すでに手遅れなのです。」

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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米国とサウジアラビア、民生用原子力協力協定に署名―ただし実現には「一つの大きな条件」

【国連本部 IPS=マクシミリアン・マラウィスタ

7月22日(水)、米国のクリス・ライト・エネルギー長官と、サウジアラビアのアブドルアジーズ・ビン・サルマン・ビン・アブドルアジーズ・エネルギー相(王族)は、民生用原子力協力協定(通称「123協定」)およびそれに付随する二国間保障措置協定に署名した。これは米国エネルギー省およびサウジアラビア・エネルギー省が発表した。|英語版

この協定は米議会による審査に付される予定だが、ドナルド・トランプ大統領は、米国の原子力技術をサウジアラビアに供与する条件として、同国がイスラエルとの国交正常化を実現することを求めている。

Map of Middle East
Map of Middle East

しかし、この条件を満たすのは容易ではないとみられる。サウジアラビアの事実上の最高指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、「東エルサレムを首都とするパレスチナ国家が樹立されるまではイスラエルとの国交正常化は行わない。」との強硬な立場を繰り返し表明しているからである。

米政府は、この二つの協定について、「核不拡散を含む複数の優先的な経済・戦略目標を推進する、数十年に及ぶ数十億ドル規模のパートナーシップの法的基盤を築くもの」と説明している。協定の有効期間は30年間である。

「123協定」は、1954年米原子力法(Atomic Energy Act)第123条に由来する名称であり、米国と協力相手国との長期的な民生用原子力協力の法的枠組みを定めるものである。

原子炉や核燃料、その他主要な原子力関連機器など、米国由来の原子力資材を相手国へ輸出するためには、この123協定の締結が法的に義務付けられている。

サウジアラビアと米国の今回の原子力協力は、単なるエネルギー協定にとどまらない。それは、同国の石油依存の在り方や、中東における次世代クリーンエネルギー基盤の構築をめぐる地政学的役割を大きく変える可能性を秘めている。

また、原子力発電の導入によって、これまで国内で消費していた石油・天然ガスを輸出へ振り向けられる可能性もある。

2023年、サウジアラビアは石油および石油製品を2,274万4,529テラジュール(TJ)生産し、このうち国内で640万TJを消費した。これは生産量の約28%に相当する。

同年には264万348TJの天然ガスも生産したが、国内で生産した天然ガスはすべて国内で消費された。参考までに、3,600TJは約1テラワット時(TWh)のエネルギーに相当する。

これを原油換算(boe:Barrels of Oil Equivalent)で見ると、サウジアラビアは2023年に約37億2千万バレル相当の石油エネルギーを生産し、そのうち約10億5千万バレル相当を国内で消費した。

つまり、エネルギー量ベースでは、生産された石油・石油製品の約72%が国内で消費されず、輸出やその他の用途に回されていることになる。

サウジアラビアは世界第2位または第3位の原油輸出国であり、世界の石油供給量の約11%を生産している。

国際エネルギー機関(IEA)によると、サウジアラビアの最終エネルギー消費の内訳は、運輸部門が約30%で最も多く、次いで非エネルギー用途が29.7%、産業部門が19.9%、商業・公共サービス部門が11%となっている。

サウジアラビアがどの程度の速度で化石燃料依存から脱却できるかは依然として不透明である。しかし、原子力発電の導入によって国内の石油消費を徐々に削減し、その分を輸出へ回せる可能性がある。

米エネルギー情報局(EIA)によれば、原子炉は、認可や規制当局による承認を取得した後でも、建設完了まで通常5年以上を要する。

Saudi Arabia aims to curb domestic oil and natural gas consumption through nuclear power, freeing more hydrocarbons for export and accelerating the transformation of its energy system. Nuclear cooperation with the United States could also reshape the Kingdom’s economic strategy and geopolitical role in the Middle East. Image: INPS Japan

サウジアラビア初の原子力発電所は、約140万キロワット(1.4ギガワット)の原子炉2基で構成され、総発電容量は280万キロワット(2.8ギガワット)となる見込みである。

設備利用率を90%と仮定した場合、年間発電量は約221億キロワット時(22.1TWh)となり、サウジアラビアの年間総発電量431.9TWhの約5%を賄う計算になる。

この最初の原子力発電所が国内電力供給に占める割合は約5%にすぎないものの、同国の国家開発戦略「ビジョン2030」の柱の一つである国内炭化水素消費の削減に向けた重要な第一歩となるだろう。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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「危険シーズン」を乗り切るための「セーフティー・チェーン」―偽情報から身を守るには

【ミラノINPS Japan/CitiPlat(気候変動と持続可能な世界のための市民プラットフォーム)編集部】

北北米では今、気候変動の影響が最も深刻になる5月から10月までの「危険シーズン(Danger Season)」が、2026年も本格的に始まっている。この時期には、ソーシャルメディアをはじめとするさまざまなプラットフォームで、偽情報が一段と増えることが予想される。|英語版

CitiPlat
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だからこそ、私が「セーフティー・チェーン」と呼ぶ一連のつながりを維持することが、これまで以上に重要になる。この連鎖がしっかり機能していれば、気候変動によって深刻化し、私たちの身に迫る可能性のある異常気象や災害を正しく理解し、それに備え、被害を受けた場合にも、できるだけ迅速かつ人道的に復旧するために必要な情報を得ることができる。

しかし残念ながら、トランプ政権、とりわけ行政管理予算局(OMB)のラッセル・ヴォート局長は、予算削減、科学者の解雇、監督の拒否、説明責任の回避、さらには露骨な偽情報の拡散を通じて、このセーフティー・チェーンのほぼすべての環を弱体化させてきた。

気候変動の影響が、反科学的な政権、そして私たちに経済的な打撃を与えるその政策と重なり合うことで、「危険シーズン」は三重に危険な時期となっている。

「セーフティー・チェーン」とは何か

「セーフティー・チェーン」とは、危険シーズンや気候変動によって深刻化する災害から私たちを守る、一連のつながりを指す私の呼び方である。

その出発点となるのは正確なデータである。それによって、明確で理解しやすい気象予報が可能になる。そして、その予報が信頼できる発信者を通じて伝えられることで、人々の理解が深まり、個人や地域社会が適切な備えを行い、必要な場合には効果的に対応し、復旧することができる。

誰がセーフティー・チェーンを壊しているのか

トランプ政権は、気候システムを理解するうえで不可欠なデータ収集や研究支援を停止してきた。こうした連邦政府による気候研究への打撃は、結果として気象予報の精度や基盤をも損なう。

さらに事態を悪化させているのが、政権自らが気候科学に関する偽情報を積極的に広め、化石燃料業界が長年用いてきた主張を繰り返していることである。

トランプ大統領自身も、前政権時代にハリケーンの進路予測をめぐる自らの誤りを訂正することを拒み、いわゆる「シャーピーゲート(SharpieGate)」では、政権側に自らの主張を擁護させた。ハリケーンの進路について誤った情報を発信することは、気象予報士を含む科学コミュニケーターが市民に正確な情報を伝える力を損なう。

一方、連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、トランプ政権下のこの15カ月間、激しい混乱に見舞われてきた。経験と専門性を備えた指導部が失われ、その後を十分な資質を欠く指導部が担ったことで、人材流出が進み、FEMAの災害対応能力に疑問が投げかけられている。

トランプ大統領は、民主党支持の強い「ブルー・ステート」に対する災害支援を遅らせたり拒否したりしてきたほか、地域社会の防災・減災を支えるFEMAの取り組みを廃止しようともしてきた。その一つが、「強靱なインフラと地域社会の構築(Building Resilient Infrastructure and Communities=BRIC)」プログラムである。

しかし、連邦裁判所が二度にわたり命令を出した結果、国土安全保障省(DHS)はようやく、インフラ投資・雇用法とFEMAの災害救援基金(DRF)の留保分から確保された46億ドルのうち、10億ドルについて資金提供の通知を出した。

FEMAの災害対応資金は、危険シーズンが始まる前から危険なほど低い水準にあったが、議会がDHSの政府機関閉鎖を終結させたことで、切実に必要とされていた追加資金がようやく確保された。

今年の大西洋ハリケーンシーズンは平年よりやや穏やかになると予想されているものの、DRFについては、シーズン途中で議会による追加予算措置が必要になる可能性が高い。

その一方で、FEMA長官代行を務めたキャメロン・ハミルトン氏が、現在、同庁長官候補として再び指名されている。ハミルトン氏は、法律で求められる資格を満たしておらず、ソーシャルメディア上でFEMAに関する誤情報を共有したことも自ら認めている。

トランプ政権による数千人規模の人員削減、不安定な指導体制、資源の削減によって、連邦政府の緊急事態管理能力は弱体化してきた。その結果、FEMAは、頻度と強度を増す異常気象や、気候変動によって深刻化する災害に対応する態勢を十分に整えにくくなっている。

As climate change intensifies wildfires, heat waves, hurricanes, floods, and other disasters, a strong “safety chain” linking accurate data, trusted information, preparedness, and effective response is essential. Disinformation and the weakening of public institutions can break that chain and make disasters even more dangerous.
気候変動で激しさを増す山火事、熱波、ハリケーン、洪水などの災害に備えるには、正確なデータ、信頼できる情報、適切な防災・対応をつなぐ「セーフティー・チェーン」が欠かせない。偽情報や公的機関の弱体化は、その連鎖を断ち切り、被害をさらに深刻化させる恐れがある。イメージ:INPS Japan
偽情報はどのようにセーフティー・チェーンを壊すのか

気候変動によって深刻化した異常気象や災害が発生する際、化石燃料企業、それと連携する政治勢力、関連するメディアや擁護団体のネットワークは、市民の理解や公的機関への信頼、気候対策や災害対応への支持を損なう偽情報を繰り返し拡散、増幅してきた。

こうした偽情報は、大きく五つの類型に分けることができる。

1.原因の歪曲

例えば、山火事の原因を事実に反して放火だとするソーシャルメディア上の投稿は、正確なデータ、予報、そして状況の理解を結ぶ連鎖を断ち切る。

その結果、人々が危険を過小評価したり、逆に過剰反応したりする可能性がある。

2.責任の所在の歪曲

異常気象や災害を深刻化させる気候変動の役割が認識されなければ、化石燃料業界など、気候変動を主に引き起こしてきた企業に十分な責任を問うことができなくなる。

その結果、責任を負うべき相手を取り違え、問題の根本原因に十分対処できなくなる。

3.信頼への攻撃
「政府機関や当局者は何も分かっていない」「政府は私たちのことなど気にかけていない」といった主張は、信頼を築き、人々の適切な備えにつなげる情報伝達を損なう。
その結果、人々が警告を無視したり、行動を遅らせたりする恐れがある。例えば、ハリケーンの接近を前に避難を拒むといった事態につながりかねない。
その一方で、トランプ政権の下では、政府が実際に何をしているのか、あるいはどのような意図で行動しているのかを見極めること自体が、ますます難しくなっている。

4.誤った安心感を与える情報
一方、人々に「危険はない」と思わせるような誤った安心感は、状況の理解と、備えや対応とのつながりを断ち切る。
当局やメディアから「緊急事態ではない」と受け取れる情報が発信されれば、人々は避難を遅らせたり、必要な予防措置を取る機会を逃したりする可能性がある。
重要なのは、こうした誤った安心感が、必ずしも偽情報やプロパガンダによって生み出されるとは限らないという点である。例えば、危険な熱波のさなかに、人々が浜辺で楽しんでいる映像を流すだけでも、「安全だ」という誤った印象を与えかねない。

5.論点のすり替え
「論点のすり替え」とは、悪意ある主体が、災害警報や防災、災害対応を、選挙や移民といった社会的に対立の激しい問題と意図的に結び付け、有害なメッセージを持ち込むことである。その標的となった人々は、避難所や支援サービスの利用を避けたり、公的機関による公式の情報提供を敬遠したりする恐れがある。

私たちに何ができるのか

第一に、ヒポクラテスの誓いにならい、「まず害を与えない」ことを心がけてほしい。特にソーシャルメディアで情報を共有する前には、情報源を確認することが重要である。検索や投稿日時の確認、情報の出所をたどるために利用できるさまざまなツールがある。

「気候偽情報に対抗する行動(Climate Action Against Disinformation=CAAD)」連合は、気候や異常気象をめぐる偽情報キャンペーンの動向を示すブリーフやデータモニターを公表している。

第二に、米国立気象局(NWS)や地域の緊急対応機関など、信頼できる情報源をすぐに確認できるようにしておくことである。気候変動と異常気象との科学的な関係を理解するためには、憂慮する科学者同盟(UCS)の「Danger Season」に関する情報や、提携団体Climate Centralの活動にも目を向けてほしい。

信頼できる情報は、できるだけ周囲と共有することも大切である。正確な情報が不足すれば、その空白を偽情報が埋めることになるからだ。

第三に、異常気象や災害が、選挙や移民など社会的に対立の激しい問題と結び付けられていないか注意する必要がある。情報の歪曲や信頼を損なう攻撃が持ち込まれていないかを見極め、そうした動きが見られた場合には、偽情報に効果的に対抗する方法をまとめたUCSの各種資料を活用してほしい。

最後に、セーフティー・チェーンの重要な環を立て直すため、必要な資金と議会による監督を確保するよう、私たちとともに議会に働きかけてほしい。それには、連邦政府の気候科学研究や災害への備え・対応に十分な資金を確保し、適切な監督を行うことが含まれる。

INPS Japan

ORIGINAL URL: https://www.citiplat.org/post/your-anti-disinformation-safety-chain-for-danger-season

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イスラエルのスタートアップ、革新技術で世界の水危機に挑む

【エルサレムINPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】

気候変動、急激な人口増加、都市化、産業の拡大、淡水資源への負荷の増大により、世界では数十億人が水不足に直面している。国連によると、今なお20億人以上が安全に管理された飲料水を安定して利用できず、長期化する干ばつと地下水資源の減少が世界各地の地域社会を脅かし続けている。|英語版ロシア語ノルウェー語

Roman Yanushevsky
Roman Yanushevsky

イスラエルほど、この課題を切実に理解している国は少ない。世界有数の乾燥地域に位置する同国は、安定した水供給を確保する方法を数十年にわたり模索してきた。国としての必要性から始まった取り組みは、やがてイスラエル最大の技術的成功の一つへと発展した。科学研究、工学、起業家精神への継続的な投資を通じ、イスラエルは水資源に乏しい国から、世界をリードする水技術イノベーションの拠点の一つへと変貌した。

今日、イスラエルのスタートアップ企業は、政府、自治体、産業界、農家が水をより効率的に管理するための技術を開発している。そのソリューションはイスラエル国外でも採用が広がり、世界各地の持続可能な水管理に貢献している。

先進的な膜技術で海水淡水化を刷新

世界の水安全保障に対するイスラエルの大きな貢献の一つが、海水淡水化と水浄化に用いる膜技術の高度化である。この分野では、VP Membrane Technologiesが技術開発を進めている。

新世代のろ過膜は、従来型のろ過システムより少ないエネルギーで、塩分、細菌、ウイルス、重金属、微細な汚染物質を除去できる。海水淡水化の効率化と低コスト化が進めば、慢性的な水不足に悩む国々は、安全な飲料水の新たな供給源を確保できる。

イスラエルの技術者は、膜の寿命を延ばし、ろ過能力を高め、運用コストを削減するため、性能の向上を続けている。こうした技術革新により、大規模な海水淡水化の採算性は高まりつつある。とりわけ、気候変動による深刻な淡水不足に直面する地域にとって、その意義は大きい。

水道網をスマート化

清潔な水をつくることは、課題の一部にすぎない。世界では、配水網からの漏水によって、処理済みの水が毎日大量に失われている。多くの都市ではインフラの老朽化により、飲料水の20~40%が利用者に届く前に失われている。

イスラエルのスタートアップは、人工知能(AI)、衛星画像、クラウドコンピューティング、高性能センサーを組み合わせ、スマートな水管理システムを構築している。これらの技術は水道網を常時監視し、見えない漏水箇所を特定するとともに、配管の破損を予測し、配水システム全体の水圧を最適化する。

これにより、水道事業者は配管が破裂してから対応するのではなく、問題を早期に発見できるようになった。水の損失と維持管理費を抑えながら、公共水道の安定性を高めることが可能となっている。

より少ない水で農業生産を拡大

農業は今なお世界最大の淡水利用部門であり、世界の水使用量の約70%を占める。気候変動が農業生産への圧力を強めるなか、灌漑効率の向上は不可欠となっている。

イスラエルの技術革新は、近代的な点滴灌漑の発明に始まり、今日のデジタル農業技術に至るまで、長年にわたり精密灌漑と深く結びついてきた。現在、スタートアップ各社は土壌センサー、気象予報、衛星画像、AI、モノのインターネット(IoT)機器を組み合わせ、作物がいつ水を必要とし、どれだけの量を与えるべきかを正確に判断している。

こうしたスマートシステムは、あらかじめ決められた灌漑日程に従うのではなく、変化する環境条件に応じて動的に対応する。その結果、農家は水の使用量、肥料の投入量、エネルギーコストを大幅に削減しながら、収穫量を増やすことができる。

排水を貴重な資源に変える

イスラエルのスタートアップが大きく貢献しているもう一つの分野が、排水の再利用である。

イスラエルの技術者は、排水を単なる廃棄物ではなく、新たな水資源と捉えている。新たな処理技術により、自治体や産業施設から出る排水を安全かつ効率的に再生し、農業、製造業、その他の非飲用用途に利用できるようになった。高度な処理システムの中には、間接的な飲用再利用を可能にし、利用可能な淡水資源をさらに広げるものもある。

この手法は、河川、湖沼、帯水層への負担を軽減するだけではない。水を環境に戻すまでに繰り返し利用する「水の循環型経済」への移行も後押しする。

空気から飲料水をつくる

イスラエルが生み出した最も革新的な技術の一つが、大気中の湿気から飲料水を直接取り出す大気水生成システムである。

高度な凝縮技術と高効率の冷却システムを用い、大気中の水分を清潔で安全な飲料水に変える。従来型の給水インフラを必要としない点が特徴だ。こうしたシステムは、遠隔地の地域社会、被災地、人道危機の現場、軍事活動、既存の水供給が不安定または利用できない地域で、とりわけ大きな価値を持つ。

気候の変動が激しくなるなか、大気水生成は、脆弱な立場に置かれた人々に飲料水を供給する補完的な手段として、今後さらに重要になる可能性がある。

デジタル技術が水管理を変革

Photo credit: UNESCO
Photo credit: UNESCO

AIは、水循環のあらゆる段階を変えつつある。イスラエルのスタートアップは、貯水池、ポンプ場、処理施設、パイプライン、産業施設に設置された数千のセンサーからデータを集約できるクラウド型デジタルプラットフォームを開発している。これらのプラットフォームは、水質を常時監視し、需要を予測するとともに、ポンプの運転を最適化し、エネルギー消費を抑え、業務効率を高める。

膨大な運用データを実務に生かせる知見へと変えることで、デジタル水管理は、水道事業者による迅速で的確な意思決定を可能にし、重要インフラの強靱性も高めている。

世界に変革をもたらすイスラエルのスタートアップ

イスラエルの水技術産業には、水管理のほぼあらゆる分野で事業を展開する数百社の革新的企業が集まっている。

国際的に知られる代表的企業の一つがIDE Technologiesである。同社の海水淡水化・水処理施設は、世界の数百万人に清潔な飲料水を供給している。近代的な点滴灌漑の先駆者であるNetafimは、100カ国を超える国々で、水を節約しながら農業生産性を高める取り組みを支援し続けている。

新興のテクノロジー企業は、デジタル技術によってこうした成果をさらに発展させている。WINT Water IntelligenceはAIを用い、商業ビルや産業施設内の漏水を検知して水使用量を監視する。Utilisは衛星技術を活用し、通常は見つけることができない地下の漏水を特定する。Watergenは、大気中の湿気から飲料水をつくる装置を開発した。Aquarius Spectrumは自治体の水道システムを対象とした音響式漏水検知を手がけ、KandoはAIを排水監視と下水道網の管理に応用している。BlueGreen Water Technologiesは、有害な藻類の異常発生を抑え、淡水の水質を改善する環境配慮型の生物学的ソリューションを開発している。

これらの企業は、イスラエルの起業家精神が工学、環境科学、ロボット工学、AI、デジタル技術を結集し、人類が直面する最も切迫した課題の一つに挑んでいることを示している。

国連の持続可能な開発目標への貢献

SDGs
SDGs

イスラエルの水関連スタートアップの取り組みは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の複数の目標と密接に結びついており、技術革新が世界の持続可能な開発にいかに貢献できるかを示している。

最も直接的に貢献するのが、SDG 6「安全な水とトイレを世界中に」である。この目標は、安全な飲料水への普遍的なアクセスの確保、水質の改善、排水再利用の拡大、水資源の効率的な利用を掲げている。海水淡水化技術、高度なろ過システム、排水の再利用、スマートな漏水検知はいずれも、こうした目標の達成に直接寄与する。

精密灌漑やスマート農業技術によって、より少ない水で多くの食料を生産できるようにすることは、SDG 2「飢餓をゼロに」の推進にもつながる。

水管理のための高度な工学的ソリューション、デジタルインフラ、AIを開発するイスラエル企業は、強靱なインフラの整備と持続可能な産業発展を促すSDG 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも貢献している。

都市の水道網のスマート化はSDG 11「住み続けられるまちづくりを」に寄与し、廃棄物を減らして資源効率を高める技術はSDG 12「つくる責任 つかう責任」の達成を後押しする。

気候変動によって干ばつが深刻化し、降雨パターンが乱れるなか、効率的な水技術はSDG 13「気候変動に具体的な対策を」でも重要な役割を果たす。ますます厳しさを増す環境条件に、地域社会が適応するのを支えるためである。

さらに、イスラエル企業は世界各地の政府、国際機関、研究機関、水道事業者、民間企業と積極的に連携している。知識、技術、専門性の移転を通じ、SDG 17「パートナーシップで目標を達成しよう」**の推進にも寄与している。

今後の展望

世界の水危機は、今後数十年でさらに深刻化するとみられる。人口増加、気候変動、都市の拡大、産業用水需要の増大により、淡水資源にはかつてない圧力がかかる。こうした課題に対応するには、新たなインフラだけでなく、絶え間ない技術革新も欠かせない。

イスラエルの経験は、天然の水資源に乏しい国でも、科学、起業家精神、工学に投資することで、世界のリーダーになり得ることを示している。海水淡水化、膜技術、精密灌漑、排水再利用、AI、大気水生成の進歩を通じ、イスラエルのスタートアップは世界の水管理の未来を変えつつある。

これらの技術革新は、水の安全保障を向上させ、気候変動への強靱性を高め、持続可能な農業を支え、世界で最も不可欠な資源の一つである水を数百万人が利用できるよう後押ししている。イスラエルのスタートアップは、今日の水問題に取り組むだけでなく、国連のSDGsに沿った、より持続可能で強靱な未来の構築にも貢献している。

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アルマトイINPS Japan/The Astana Times=アヤナ・ビルバエワ

8月12日、「カスピ海の日」が迎えられた。今年は、カスピ海の海洋環境保護に関する地域の主要な協定である「テヘラン条約」が発効してから20周年にあたる。世界最大の閉鎖性水域であるカスピ海では、水位低下とその将来をめぐる環境上の懸念が高まり続けている。|英語版

この節目は、国際イベント「カスピ海アクション・ウィーク2026」の閉幕とも重なった。アクタウで開かれた同イベントには、アゼルバイジャン、イラン、ロシア、トルクメニスタンの代表団に加え、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの関係者、ボランティア、環境活動家、科学者、若者らが参加した。

環境文化の発展を目指す「Taza Kazakhstan(タザ・カザフスタン)」構想のもとで開催された1週間のイベントでは、科学的な議論、環境キャンペーン、ボランティア活動、イノベーション事業などを通じ、カスピ海が直面する共通の課題への関心を喚起した。

地域協定から環境保全の実践へ

「カスピ海海洋環境保護枠組条約」、通称「テヘラン条約」は2006年に発効した。カスピ海沿岸5カ国が、汚染防止と生態系保護で協力するための地域的枠組みを構築したものである。

それから20年を経て、カスピ海をめぐる課題は一段と複雑になっている。

The anniversary coincided with the conclusion of the international Caspian Sea Action Week 2026. Photo credit: Ministry of Ecology and Natural Resources.
テヘラン条約発効20周年は、「カスピ海アクション・ウィーク2026」の閉幕と重なった。写真:カザフスタン生態・天然資源省

当初の環境協力では、汚染対策と海洋生物多様性の保全が大きな焦点となっていた。しかし現在では、カスピ海の長期的な水位低下という新たな問題が、地域の環境政策に加わっている。

環境実務家協会のラウラ・マリコワ会長は最近、カスピ海北部で急速に浅瀬化が進んでいると警告した。マリコワ氏は、一部の懸念について、船舶の航行や貨物輸送を確保するため、ノース・カスピアン・オペレーティング・カンパニー(NCOC)とその請負業者が実施している浚渫作業との関連を指摘した。

Laura Malikova, chair of the Association of Practicing Environmentalists. Photo credit: Kazinform

https://astanatimes.com/2026/08/one-sea-five-countries-two-futures-caspian-seas-next-test/
環境実務家協会のラウラ・マリコワ会長。写真:Kazinform

「写真や映像を見れば、水がどれほど遠くまで後退したかは明らかだ。カスピ海北部では、驚くほどの速さで浅瀬化が進んでいる」とマリコワ氏は、Kazinformの報道で語った。

カザフスタン生態・天然資源省によると、長期的な水位低下の最大の要因は依然として気候変動である。カスピ海地域では降水量が減少する一方、蒸発量が増えており、気温上昇に対して特に脆弱な状況にある。

気候による圧力と人間活動が重なり合うことで、政策上の課題はいっそう複雑になる。水位が低下すれば、沿岸インフラ、航路、港湾、産業プロジェクトの適応が必要になる一方、経済活動を維持するための取り組みそのものが、すでに変化の途上にある生態系にさらなる負荷をかける可能性もある。

対応の鍵を握る科学

こうした問題の複雑化を背景に、「カスピ海アクション・ウィーク」では科学協力が重視された。

8月6、7両日には国際セミナーと円卓会議が開かれ、カスピ海沿岸諸国の科学者や専門家が、環境モニタリング技術や現在進められている研究について議論した。

これは、地域の環境政策にとって重要な問いを浮き彫りにしている。すなわち、カスピ海流域全体で起きている変化を把握するために、各国が十分に連携したデータと科学的能力を備えているのか、という問題である。

Held under Taza Kazakhstan environmental culture development concept, the week combined scientific discussions and environmental campaigns dedicated to the Caspian Sea. Photo credit: Ministry of Ecology and Natural Resources.
「Taza Kazakhstan」環境文化発展構想のもと、カスピ海をテーマとする科学的議論や環境キャンペーンが行われた。写真:カザフスタン生態・天然資源省

カスピ海は一つにつながった生態系である一方、環境情報やモニタリング制度、政策対応の多くは依然として国ごとに運用されている。

より効果的な協力を実現するには、研究成果を交換するだけでなく、互換性のあるモニタリング制度を構築し、環境リスクについて地域全体でより明確な共通認識を形成することが必要になる可能性がある。

期間中に開催された「One Caspian – One Future(一つのカスピ海、一つの未来)」セッションも、こうした考え方を反映したもので、各国のボランティア団体が集まり、カスピ海を守るための共通の取り組みについて意見を交わした。

環境意識から具体的な解決策へ

今回のイベントでは、政府や専門家レベルの環境議論を、市民参加と結びつけようとする試みもみられた。

8月8日にアクタウで開催された「カスピアン・クリーン・チャレンジ」には、カザフスタンのマンスール・オシュルバエフ生態・天然資源次官も参加し、ボランティアによる大規模な海岸清掃とごみの分別活動が行われた。

新たに開設された「カスピ海地域ボランティア友好並木」では80本を超える樹木が植えられ、参加者は未来の世代に向けたメッセージを収めたタイムカプセルも設置した。

8月9日には、マンギスタウ州のボズジュラ地域でも清掃活動が実施された。

国際ハッカソンでは、カスピ海の生態系保護を目的とするプロジェクトの開発が参加者に呼びかけられたほか、TED形式の公開討論会では、環境ボランティアと専門家がアイデアを交換した。

イベントは8月12日の国際ボランティア・サミット「Caspian Talks」で締めくくられ、参加者は現在の環境課題について議論し、それぞれの経験を共有した。

一つの海を待つ二つの未来

カスピ海を保護するうえで最大の難しさは、環境への影響が国境で止まらないことにある。一地域で生じた変化が、やがて漁業、生物多様性、沿岸地域の住民、港湾、そして地域全体の経済インフラに影響を及ぼす可能性がある。

当局者によると、2006年から2025年にかけて、一部の地域では海岸線が30~35キロ後退した。

2025年には、カザフスタン領内のカスピ海の平均水位は、バルト海基準高程系でマイナス29.35メートルとなった。

長期的な見通しとしては、二つのシナリオが示されている。

カザフスタン国営気象機関「Kazhydromet(カズハイドロメット)」の予測によると、楽観的なシナリオでも、2050年までに水位がマイナス32.4メートルまで低下する可能性がある。より悲観的な気候シナリオでは、マイナス34メートルまで低下する恐れがある。

いずれのシナリオも、かつての水準への回復を想定してはいない。両者の違いが示しているのは、カスピ海沿岸諸国が今後備えなければならない「適応の規模」の違いである。

水位がマイナス32.4メートルまで低下すれば、沿岸インフラや経済活動には大幅な調整が必要となる。マイナス34メートルまで下がった場合には、さらに深刻な変化が生じ、海岸線が既存の港湾や沿岸集落から一段と遠ざかるとともに、かつて海底だった場所の一部が陸地へと変わる可能性がある。

これは、政策課題そのものの性格が変わりつつあることを意味する。

カスピ海沿岸諸国が直面しているのは、もはや既存の生態系を汚染や過剰利用から守るという課題だけではない。今後は、海そのものの地理的形状が変化していくなかで、その経済的・環境的影響を管理することが、ますます重要になるとみられる。

テヘラン条約の発効から20年。この問題は、カスピ海をめぐる地域協力の次なる大きな試練となる可能性がある。

地域にはいま、大きく分けて二つの未来が待ち受けている。しかし、そのどちらも「カスピ海が今のまま変わらない」という前提には立っていない。

決定的な問いは、アゼルバイジャン、イラン、カザフスタン、ロシア、トルクメニスタンの5カ国が、科学的モニタリングとデータ共有を活用し、環境変化が経済・インフラ危機へと発展する前に、いずれのシナリオがもたらす影響についても予測し、備えることができるかどうかである。

Original URL: https://astanatimes.com/2026/08/one-sea-five-countries-two-futures-caspian-seas-next-test/

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ネパールは食料安全保障を「国家安全保障」の問題として直ちに位置づけよ

カトマンズNepali Times=シュリスティ・カルキ】

気候危機がもたらす異常気象、世界的なサプライチェーンの混乱、そして国内の不適切な行政運営が重なり、ネパールの食料安全保障を脅かす「パーフェクトストーム」が生じている。水・エネルギー・食料の密接な結びつきが、今年ほど鮮明に表れたことはない。ネパールの農地の60%以上が雨水に依存しているうえ、毎年繰り返される肥料不足は西アジアでの戦争によってさらに深刻化している。一方、農村からの人口流出により、耕作放棄地も増えている。|英語版

先週6月29日の「田植えの日」は、例年に比べて静かなものとなった。泥の中でふざけ合う恒例の光景はほとんど見られず、田植え自体もあまり進まなかった。平年より雨の多いプレモンスーン期に多くの農家が早めに田植えを始めたものの、肝心の本格的なモンスーンの到来は2週間遅れた。

不規則なモンスーンは、ネパール各地で毎年のように繰り返される問題となっている。雨を待ち続けることを諦め、仕事を求めて移住した農家も少なくない。

降雨不足により、コメの収穫量は2023/24年度の600万トンから、2024/25年度には570万トンへ減少した。スーパー・エルニーニョを追跡する気象モデルは深刻な干ばつを予測しており、肥料不足も重なることで、穀物の収穫量はさらに落ち込むとみられている。

ネパール開発研究所で生計・食料安全保障を担当する専門家、クリシュナ・パハリ氏は、次のように説明する。

「ネパールのコメをはじめとする主食の生産は、気候変動による衝撃に左右されています。今年はエルニーニョ現象の影響で、降雨量が平年を下回ると予想されています」

国際栄養会議に出席するため滞在しているローマから『ネパリ・タイムズ』の取材に応じたパハリ氏は、さらにこう語った。

「気候危機に加え、西アジアでの紛争が燃料と肥料の不足を引き起こしています。こうした問題が続けば、ネパールの食料安全保障は一層悪化するでしょう」

かつてネパールは食料の純輸出国だったが、それは遠い過去の話となった。農業が抱える構造的問題の多くは気候危機以前から存在していたが、不安定なモンスーンと灌漑設備の不足が、状況をさらに深刻なものにしている。昨年、ネパールは600億ルピー相当、100万トン以上の穀物を輸入した。

カトマンズの総合開発研究所で食料安全保障とガバナンスを研究するヤムナ・ガレ氏は、次のように指摘する。

「ネパールは気候危機から深刻な影響を受けています。しかし、気候変動に起因する災害が頻発し、農業資源や森林資源が失われた際の、確固たる復旧計画がありません」

「気候変動に対応し、栄養価にも優れた種子や品種を開発するための資源配分も不十分です。その結果、私たちは輸入や援助に依存せざるを得なくなっています」

ネパールでは国民の60%が農業に従事し、農業は国内総生産(GDP)の4分の1を占めている。しかし、農村部の若者は大量に流出しており、農村に残る人々も換金作物に見合った価格を得られずにいる。

6月中旬、韓国政府は韓国国際協力団(KOICA)を通じ、タライ地域における気候変動に強いコメ生産と食料安全保障を促進する6年間の事業に、1,200万ドルの無償資金協力を行うと表明した。

専門家によると、灌漑を整備すれば、ネパールの農業生産性を最大30%向上させることができる。しかし、大規模な灌漑事業は、汚職や不適切な管理のため数十年にわたって停滞している。

生産性の向上は優先課題だが、まず、生産された農産物を守り、無駄なく利用する必要がある。収穫後の損失率は、穀物では15%、野菜や果物では40~50%にも達する。野生動物による農地への侵入も、収穫前の作物に被害を与え、農村からの人口流出をさらに加速させている。

パハリ氏は、「収穫後の損失を減らすことは、人々が利用できる食料を増やすことを意味します。そのためには、コールドチェーンや貯蔵施設を拡充し、穀物貯蔵用サイロを改良する必要があります」と指摘する。

食料を長期保存できるよう、加工方法を多様化することも重要だ。果物は乾燥させたり、ジャムに加工したりできる。また学校給食では、子どもたちの好みに合わせてレシピや献立を工夫することも可能である。

「飢餓をゼロに」

ネパールはこれまで、子どもの発育阻害や消耗症の削減で一定の成果を上げてきた。しかし近年の開発援助の撤退によって、その成果が損なわれ、持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「2030年までに飢餓をゼロにする」との約束の実現も難しくなっている。

先月、ヘレン・ケラー・インターナショナルの支援を受け、ネパール全土の5歳未満児100万人を対象に実施された調査の結果が公表された。それによると、米国国際開発庁(USAID)が資金を拠出していた食料・栄養プログラムの打ち切りにより、子どもの栄養不良が増加している。

急性栄養不良の割合は2025年の6.6%から今年は7.8%に上昇し、マデシ州では全国で最も高い12.3%に達した。

パハリ氏は、次のように語る。

「私たちは、2030年までに『飢餓をゼロに』という目標を達成できる軌道には乗っていません。世帯当たりの平均食料消費量が改善しているのは、海外からの送金と社会保障制度のおかげです」

こうした状況を踏まえれば、国民独立党(RSP)政権が、食料生産の拡大と子どもの飢餓の削減に向けて何をしてきたのかが問われる。

スワルニム・ワグレ財務相は5月の予算演説で、農業部門の再生を「最優先課題」と位置づけた。しかし、農業に配分された470億ルピーは国家予算全体の3%にも満たず、過去9年間で最低の水準である。

その半分以上は化学肥料の輸入に充てられる。それでも、コメの作付け時期になると、毎年のように尿素肥料が不足する。

一部の専門家は、商業的農業の促進と中間層の所得向上を重視するワグレ財務相の方針について、農村部に雇用を創出し、バリューチェーン全体の生産性を高める可能性があると評価する。一方、貧しい農家が取り残されるとの批判もある。

パハリ氏は、次のように話す。

「今回の予算は、ネパールの中間所得層を動かすことに重点を置いています。それには一定の合理性がありますが、ネパールの農家の大半は小規模農家です。この層の問題に取り組まない限り、国全体の生産量を増やすことはできません」

ガレ氏は、他の多くの問題と同様、解決の鍵は政治的な優先順位と政策の実行にあると考えている。

「政策は政治そのものです。新たな政策と予算規模が示しているのは、この政権が農業を優先課題としていないということです。その影響を最も強く受けるのは、社会的に疎外され、排除されてきた人々です」

州政府の農業予算は、中央政府よりは幾分充実している。世帯の食料不安が最も深刻なカルナリ州は、予算の21%以上を農業に充てた。一方、急性栄養不良率が高いルンビニ州とマデシ州は、予算の4%以上を農業に配分している。

ガレ氏は今月初め、アーメダバードで開催された世界銀行の地域政策対話において、「南アジアの食料の未来を共につくるための地域協力と政策行動」をテーマとするパネル討論の司会を務めた。

この会合には南アジア各国から専門家、イノベーター、民間企業の関係者らが参加したが、他国とは対照的に、ネパール政府の代表者は姿を見せなかった。「国内問題の解決」を優先する新政権にとって、こうした招待を辞退することは既に常態化している。

出席者からは、ネパールの新指導部が参加しなかったことについて、奨励策、生産、市場をバリューチェーン全体で結び付け、農業のパラダイム転換を促す貴重な機会を逃したとの声も上がった。

興味深いことに、クリシュナ・パハリ氏とヤムナ・ガレ氏は、共に同じ言葉で結論を語った。

「食料安全保障は、国家安全保障です」

シュリスティ・カルキ氏は『ネパリ・タイムズ』の特派員。2020年にインターンとして同紙に加わり、カトマンズ大学芸術学部を卒業後、正式に編集部の一員となった。政治、時事問題、芸術、文化などを取材している。

This article is brought to you by Nepali Times, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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【ミラノINPS Japan/CitiPlat=アルベルト・スクラヴェラーノ】

この映画が浮き彫りにするのは、現在進行する気候危機をめぐる最も不穏な側面の一つである。その手法と目的から見れば、英米圏における優れた調査報道の伝統を受け継ぐ作品と位置づけることができる。比較するなら、マイケル・ムーアのドキュメンタリー作品を思い浮かべるとよいだろう。|英語版

米国の映画監督ガブリエラ・カウパースウェイトは、2022年のドキュメンタリー映画『ザ・グラブ(The Grab)』によって国際的な注目を集めた。同作は同年9月のトロント国際映画祭でプレミア上映された後、2024年春から世界各地の劇場やVOD(ビデオ・オン・デマンド)で本格的に公開された。

物語の中心にあるのは、米国の非営利報道機関「センター・フォー・インベスティゲーティブ・リポーティング(Center for Investigative Reporting)」の記者たちによる調査活動である。

彼らは世界各地を飛び回り、「カネの流れを追う」ことで、民間企業や国家などさまざまな主体が、食料や水をはじめとする生命維持に不可欠な資源の支配権をめぐって競争を繰り広げている実態を丹念に記録していく。その目的は、気候変動によって将来、生態系が崩壊する事態に陥った場合に備え、あらかじめ優位な立場を確保しておくことにある。

こうした国家・非国家主体そのものは、決して目新しい存在ではない。しかし、彼らが実際に何をしているのかについては、大多数の人々がほとんど知らないのではないだろうか。映画はその実態を詳細に描き、軍事機密の壁に阻まれない限り、入手可能な情報をカウパースウェイト監督と制作チームが徹底して掘り起こしていく。

例えば、米国の民間軍事会社ブラックウォーターが、アフリカで土地を取得し、資源供給網における戦略的な足場を築こうとする動きが紹介される。

また、一見すると信じ難いような事例も登場する。プーチン政権下のロシアが、米国からカウボーイを招き、寒冷地で牧畜に従事させているというのである。その背景には、将来、気候危機によって農業が深刻な打撃を受ける一方、現在は乾燥しているロシアの辺境地域の一部が、逆に農業生産に適した土地へと変わる可能性があるとの見通しがある。

中国共産党からサウジアラビアの民間ファンド、米国政府からロシア政権に至るまで、それぞれの主体が利用可能な資源を最大限に確保し、将来の水と食料の供給拠点を支配しようと、それぞれの思惑に基づいて動いている姿が描き出される。

ここに巨大な陰謀や秘密計画があるわけではない。描かれているのは、近い将来に地球の生態系が崩壊する可能性をすでに現実のものとして受け止め、その状況を自らに有利な形で利用し、力を最大化すると同時に潜在的な競争相手を弱体化させようとする国際的な主体の姿である。

真に不気味なのは、こうした構図の中に、気候変動を食い止めるための国際協調という発想がほとんど見当たらないことである。世界の人々の幸福や人権は考慮の外に置かれ、気候危機そのものが、もはや避けられない既定の現実として扱われている。

『ザ・グラブ』は、映画的な体験というより、むしろ生々しい事実とデータを積み重ねた作品である。アル・ゴア元米副大統領が前面に立った『不都合な真実(An Inconvenient Truth)』のような「一人舞台」ではなく、他の気候変動ドキュメンタリーにしばしば見られる、強い活動家色を打ち出した作品とも異なる。

むしろ、その冷徹なアプローチこそが、この作品をより強烈で、同時により悲痛なものにしている。

世界では、市民から政府関係者に至るまで、何百万人もの人々が日々、気候危機を食い止めようと努力している。それにもかかわらず、なぜ危機はますます深刻になっているように見えるのだろうか。

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『ザ・グラブ』は、この問いに一つの重い答えを提示する。

世界のエリート層や経済・軍事大国の一部は、そもそも気候変動を解決することに関心を持ってこなかった。それどころか、生態系が崩壊した後の世界を生き残るための準備を、すでに進めているというのである。

映画が明確に示しているのは、私たちが次世代により良い世界を残そうとするなら、大気中のCO2(二酸化炭素)排出や海洋を汚染するプラスチックと同様に、こうした主体の存在そのものもまた、問題を構成する重要な一因であると認識しなければならない、ということである。

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