SDGsGoal8(働きがいも 経済成長も)|フィジー|看護師が海外流出し、医療サービス継続の危機

|フィジー|看護師が海外流出し、医療サービス継続の危機

【スバIDN=ポーリアシ・マテボト】

今年に入り、800人以上の看護師が地元の民間企業に転職したり、主に隣国のオーストラリアやニュージーランドなど海外に移住したりして、より良い環境を求めて去っていったと報じられ、不振にあえぐフィジーの医療業界は新たな大打撃を受けている。

過去の政権が放置してきた医療インフラの老朽化に加えて、低い給与水準や、コロナ禍の間に保健省が医療の質を維持しなかったことで、医療部門は悲惨な状態に陥っている。

整形外科医のエディー・マケイグ博士によると、看護師が大量に離職しており、この1年間だけでも全労働力4分の1にあたる800人以上が海外へ移住しているという。博士によると、医療関係者の離職にはいくつかの理由が考えられる。彼らの主な動機は、賃金待遇や労働条件の悪さ、厳しい政治環境、子供たちのためにより良い機会を求めることにあった。

Fiji on the globe/By TUBS - This vector image includes elements that have been taken or adapted from this file:, CC BY-SA 3.0
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「昨年(2022年)、私たちは807人の看護師を失いましたが、これは3056人の看護師の26.77%に相当します。」と博士は明かし、「社会経済的な問題のために、医療専門家が提供する患者ケアの水準も低下しています。」と指摘した。

「医療提供者が推進し、一般の人々が望み求めている医療を全て提供できるだけの資源がないのです。」と博士は語った。

フィジー中央地区の医療技官であるテビタ・コリニャジ氏は、ノーソリ保健センターには看護師の空きが37人も出ていると話す。また、現在のスタッフは疲弊しており、「医療サービスパシフィック」とのカウンセリングがこのチームのために行われていた。

「この3カ月で辞職した職員61人のうち、16人がナウソリ(首都スバ近郊)出身者でした。人員体制については、138のポストに対して39人の欠員となっています。」とコリニャジ氏は語った。

「当院のGOPD(一般外来)では、週平均2500人の患者が受診しています。この数には、SOPD(専門外来)や産科での診察は含まれていません。」

コリニャジ氏は、「スタッフは過剰労働になっており、特定の部署は閉鎖されている。」と指摘した上で、「現スタッフは業務をカバーするために超過勤務を余儀なくされ、シフト時間も12時間に延長されました。」と語った。

コリニャジ氏はまた、「『小児疾患総合管理(IMCI)』のような通常のサービスを閉鎖せざるを得なかったことも、待ち時間の長期化につながりました。管理部門と保健省は、原因を追究することなく現在のスタッフ不足に対応しようとしています。」と語った。

オーストラリアやニュージーランドの医療部門はこの数年、フィジーの経験豊富なフィジー人看護スタッフを積極的に採用している。オーストラリアで高齢者介護の仕事に就く太平洋諸島の看護師の中には、より高い資格を持つ者もいるはずだ。フィジーの専門家たちは、この地域の医療システムに重大な空白を残す「頭脳流出」を懸念している。

フィジー看護師協会のアリシ・ブディニアボラ会長はIDNの取材に対して、海外で老人介護に従事するためにフィジーを離れる「経験豊富で十分な資格をもった」看護師の多くは、その職務内容以上の資格を持った人々だという。「一部の人々は助産師、一部は高度な診療看護師、一部は一次的診療所の管理者になれるような人々です。これほど高度な資格を持った看護師がフィジーから流出することは大きな損失です。」

海外で働くフィジー出身看護師の数は統計上明らかではない。ブディニアボラ博士はそれでも、そのほとんどがこの半年でオーストラリア・ニュージーランド・中東・米国へと出国したとみている。

医療体制が逼迫してきているにも関わらず、フィジー政府は箝口令を敷いて具体的な数字を明らかにしようとしない。「政府は情報を隠しています。出国者の数字はわからないが、看護師が毎日辞めていっていることだけはわかります。」とブディニアボラ博士は語った。

ブディニアボラ医師は、少なくとも太平洋地域の看護師には、スキルアップの機会が与えられることを望んでいる。「私は、オーストラリアが専門的な能力開発の道筋に目を向け、ただ高齢者ケアに従事させるだけでないことを望んでいます。」

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

コロナ禍の間、オーストラリアのコロナ関連の死者のほとんどは老人ホームに居住していた人々であり、この部門に適切な訓練を受けたスタッフが少ないことが原因であると批判された。

オーストラリアやニュージーランドの高等委員会のコメントは取れていないが、オーストラリア放送局は昨年11月、「太平洋オーストラリア労働移動」(PALM)スキームがフィジーの看護師不足を招いているとの批判はあたらないとの豪州政府の反論について報じている。

PALMスキームによって、さらなる労働力を必要とする同国の企業は太平洋島嶼9カ国と東ティモールから労働力を雇い入れることができるようになった。非熟練、低熟練、準熟練の職種において、最長9ヶ月の季節労働、または1年から4年の長期労働のために労働者を雇うことができる。

豪州政府のウェブサイトでは、「雇用者が、信頼性が高く生産的な労働者を雇用できるようになると同時に、太平洋諸国や東ティモールの労働者が豪州で働き、スキルを伸ばし、自国に送金できるようになる。」と説明されている。

The Pacific Australia Labour Mobility (PALM) scheme

政府は、5月9日に議会に提示された予算で、すでに3万7700人以上を太平洋諸国や東ティモールから雇い入れている同スキームをさらに拡張するとしている。

この制度が最初に導入されたとき、当時のパット・コンロイ国際開発・太平洋大臣は、高齢者ケアに従事するために訓練を受けている太平洋地域の労働者のうち、看護師の資格を持つ者は「ごく一部」であると述べていた。

コンロイ大臣は、「オーストラリアはこの地域の経済発展に貢献したい。太平洋諸国から医療労働力を奪おうという気はない。」と指摘した上で、「同スキームは豪州と太平洋地域の諸国との間に『ウィンウィンの関係』をもたらすものです。労働者が収入を本国に送り、同時にオーストラリアの労働力不足も補うことで、地域の経済発展に大いなる貢献を成しています。」と語った。

匿名で取材に応じた経験30年以上のフィジーのある看護師は、今年の末までにはニュージーランドに移住する計画であるという。その決断は簡単なものではなかったが、自身とその家族のために太平洋を越える決断をしたという。

「ここ数年、私たち(医療従事者)のフィジーでの労働条件は無視されてきました、 そのため、私たちの多くは、新天地を海外に求めるという難しい決断を下しました。看護師の多くが、移住するとまずは老人介護から入り、のちに現地の医療部門に入っていくチャンスを狙います。遠回りではありますが、甘受するしかありません。」と語った。それが、ニュージーランドに移住するフィジーの看護師たちを待っている運命である。

SDGs Goal No. 8
SDGs Goal No. 8

海外に移住した彼女の同僚たちの多くがすでに海外での生活に慣れ、フィジーの家族への送金を始めているという。家族にとってはボーナスのようなものだ。

他方で、フィジー経済に影響を与える多くの問題に新連立政権が対処しようとする中、看護師の大量海外移住は間違いなく最優先事項となっている。

保健事務次官のジェイムズ・フォン博士は会見で、保健省は、実現可能な解決策を探るために看護師協会のような関連団体と協議を重ねていると記者団に語った。来週までに、すべての関連する政府機関と看護師関係団体を束ねた作業部会で適切な予算を提案することになるという。

フォン博士は、「そこでの提案がどのようなものであれ、すべての当事者の願いを尊重したものでなければなりません。」と語った。事務次官は、保健省は今月末までに、2023-24年度予算において何らかの看護師流出対策を打ち出すことになると示唆した。(原文へ

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