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ウズベキスタンの建築ルネサンス:歴史とモダニズムの融合

【タシケントLondon Post=ラザ・サイード】

中央アジアの交差点に位置するウズベキスタンは、豊かな歴史的遺産と現代的なデザインを融合させた注目すべき建築ルネサンスを迎えています。サマルカンド、ブハラ、ヒヴァといったシルクロード沿いの古都で知られるこの国の建築の歩みは、文化的な復興と未来への野心を象徴しています。この変革は、過去を守りながら現代都市の発展を受け入れるという繊細なバランスを反映しています。

ウズベク建築の歴史的ルーツ

ウズベキスタンの建築的アイデンティティは、ペルシャ、トルコ、モンゴル、そしてイスラム文化の影響を受けた多様な伝統に深く根ざしています。かつてシルクロードの主要拠点であったこの国の古都には、幾何学模様や壮麗なドームを特徴とする精巧なタイル装飾が施された、イスラム建築の代表的な作品が数多く残されています。

サマルカンドのレギスタン広場にそびえ立つ壮大なマドラサ群や、ブハラのカロン・ミナレットは、この遺産を象徴する代表的な例です。これらの遺跡は単なる建築の傑作にとどまらず、ウズベキスタンの知的および文化的遺産を体現しています。また、これらの構造物は、イスラム黄金時代における地域の芸術的・科学的な進歩を物語る永遠の証ともいえる存在です。

Raza Syed
Raza Syed

現代建築の新たな波

ウズベキスタンの歴史的遺跡がアイデンティティの中核を成している一方で、同国はモダニズムの受容にも積極的です。近年、首都タシュケントは建築革新の重要な舞台として注目を集めています。1966年の大地震の後、タシュケントのスカイラインはソビエト時代のブルータリズムや未来的な建築様式によって形作られました。しかし、近年では現代建築の新たな波が到来しています。その代表例が、アリシェル・ナヴォイ国際科学研究センターや「ニュー・タシュケント・シティ」といった大規模プロジェクトです。

これらのプロジェクトは、ウズベキスタンを建築革新の国際的な中心地として位置づけることを目指すと同時に、国の豊かな建築遺産を守ることにも重点を置いています。首都タシュケントでは、洗練された高層ビルやモダンなオフィスビルが、修復された植民地時代の建造物やイスラムの歴史的ランドマークと共存しています。この対比は、過去とのつながりを大切にしながらも、未来志向で近代化を進めるウズベキスタンの取り組みを象徴しています。

Silk Road in the I century AD Credit: Wikimedia Commons.
Silk Road in the I century AD Credit: Wikimedia Commons.

持続可能性:古代技術の再発見

持続可能性は、ウズベキスタンの建築ルネサンスにおける重要な要素の一つです。現代の技術が採用される一方で、シルクロード時代の伝統的な建築技術も再評価されています。サマルカンド、ブハラ、ヒヴァといった古代都市の建物では、煉瓦や粘土などの素材が使用されており、これらは自然断熱材として機能し、エネルギー集約的な現代のソリューションに頼らずとも、夏は涼しく、冬は暖かい環境を提供していました。

こうした時代を超えた方法の復活は、ウズベキスタンの持続可能性運動の中心的な柱となっています。タフミナ・トゥルディアリエヴァのような建築家たちは、地域の素材を使用することを推奨しており、これは国の歴史を尊重するだけでなく、現代の環境問題への対応にも寄与しています。持続可能なデザインへの注力は、エネルギー効率やエコフレンドリーな特徴を優先する新しいプロジェクトにも反映されており、これには太陽光パネルや緑地、そして伝統的な建築材料の採用が含まれます。

保存と開発の間の緊張

ウズベキスタンが近代化を進める中で、建築遺産を保存したいという思いと、急速な都市化の要求との間に緊張が生じています。同国の人口の約60%が30歳未満という若い世代で構成されており、彼らは進歩や経済発展を象徴する洗練された国際的な建築スタイルを好む傾向があります。

この世代間のギャップが顕著になったのは、2017年にソ連時代の映画館「ドム・キノ」がビジネスパーク建設のために取り壊されたときでした。この問題は開発と保存のバランスに関する激しい議論を引き起こしました。こうした議論は、急速な変化の時代におけるウズベキスタンの国家アイデンティティを定義する際の複雑な課題を浮き彫りにしています。

これらの懸念に対処するため、ウズベキスタン芸術文化発展基金は、建築遺産の重要性に対する認識を高めるためのプログラムをいくつか開始しました。展覧会や「タシュケント・モダニズム」アプリなどのデジタルツールを通じて、若い世代に建築遺産の価値を教育し、それを誇りとインスピレーションの源泉として保つことを目指しています。

建築における文化的アイデンティティ

ウズベキスタンの建築は、国の文化的アイデンティティを表現する上で重要な役割を果たしています。アーチやドーム、緻密なタイル装飾などの伝統的要素を現代のデザイン原則と統合することで、多様な歴史を反映した独自の建築言語が形成されています。

タシュケントにあるアミール・ティムール博物館などの建物は、この融合を象徴しています。この博物館のデザインは、現代的な素材を用いながら古典的なウズベク様式を取り入れており、ウズベキスタンの文化的遺産の連続性を示すとともに未来への展望を表現しています。このようなデザインを通じて、ウズベキスタンは歴史に根ざしながらもグローバルな影響を受け入れる国家アイデンティティを発信しています。

世界的な認知とソーシャルメディアの影響

ウズベキスタンの建築ルネサンスは、国際的な注目を集めつつあります。ルーブル美術館やミラノ・トリエンナーレといった著名な会場での展示会が、同国の建築の可能性を示し、世界的な会議でウズベク建築家の作品が取り上げられています。また、ソーシャルメディアは、同国の建築環境に対する認識を再形成する上で重要な役割を果たしています。

インフルエンサーや旅行者たちは、ソビエトモダニズムとシルクロードの壮麗さが融合した同国の建築を記録し、ウズベキスタンのユニークな建築アイデンティティに国際的な認知をもたらしています。インスタグラムやYouTubeなどのプラットフォームを通じて、ウズベキスタンの隠れた建築の宝物が広く知られるようになり、国の建築物が文化的アイコンとしての地位を確立しています。

未来へのビジョン

ウズベキスタンの建築の歩みは、豊かな歴史的遺産を保存することと、現代の機会を受け入れることとの間で慎重にバランスを取る試みです。タシュケントやサマルカンドといった都市の進化する都市景観は、国家の誇りとグローバルな志向の両方を反映しています。

古代のデザインの知恵を現代の都市計画と統合することにコミットすることで、ウズベキスタンの建築ルネサンスは、急速に変化する世界で文化遺産を保存する複雑さを克服しようとする他国にとってのモデルを提供しています。歴史と現代性の調和を育むことで、ウズベキスタンは建築分野での世界的リーダーとしての地位を確立しつつあります。この国は、過去と未来の両方を大切にする国としてのビジョンを示しています。(原文へ

INPS Japan/London Post

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国際協力と外交が絶えず疑問視される中、トラテロルコ条約署名から58周年を迎える

世界初の非核兵器地帯の創設から58年が経過し、ラテンアメリカおよびカリブ海の33か国は、核兵器という大量破壊兵器を世界から廃絶するための国際的な取り組みに貢献するという誓約を改めて表明した。

【メキシコシティーINPS Japan=ギイレルモ・アヤラ・アラニス】

Image: Alfonso García Robles, Treaty of Tlatelolco.
Source: OPANAL

58年前、ラテンアメリカとカリブ海地域で世界初の非核兵器地帯が創設された。これは冷戦時代の最も恐ろしい出来事の一つである1962年の「キューバミサイル危機」に対する反応としての出来事だった。米国とソ連が核戦争を引き起こす寸前までいったこの危機を受け、メキシコの提案で、ボリビア、ブラジル、チリ、エクアドルの外交官が協力し、世界初の非核兵器地帯(NWFZ)の創設に向けた交渉を行った。数年にわたる交渉の末、1967年2月14日に「ラテンアメリカ(及びカリブ)における核兵器の禁止に関する条約」(通称トラテロルコ条約)が署名され、地域内での核兵器の開発、製造、備蓄、保有、使用が禁止されることが確定した(1990年にカリブ諸国が加盟し現在の呼称に変更された)。

この時の外交的および多国間の努力は、現在、ラテンアメリカとカリブ海地域の6億5700万人(世界銀行データ)の人々に地域の安全という遺産をもたらした。

Image: Flávio Roberto Bonzanini, Secretary General OPANAL. Source: OPANAL

トラテロルコ条約58周年を記念するイベントではラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止機関(OPANAL)の事務総長であるフラヴィオ・ロベルト・ボンサニーニ大使が、国際協力や多国間の枠組み、外交が絶えず疑問視されている現状において、今年の記念式典が重要であることを強調した。メキシコシティーのOPANAL本部で開催された式典でボンサニーニ大使は、「我々の条約、及びラテンアメリカとカリブ海の非核兵器地帯は、非常に緊張した状況の中で生まれたものであることを忘れてはならない」と述べ、地域を核兵器から守り続け、さらに世界全体でこの大量破壊兵器の廃絶に貢献するというコミットメントを再確認した。

現在OPANAL理事会の議長を務めるエドゥアルド・ハラミージョ氏は、ラテンアメリカとカリブ海の非核兵器地帯が、モンゴルの一国非核兵器地帯創設というコミットメントをはじめ、世界の他の四つの地域で類似の非核兵器地帯が創設されるインスピレーションとなり、模範となったことの重要性を強調した。

Image: Eduardo Jaramillo X: @ejaramillon

OPANAL加盟33カ国を代表して、ハラミージョ氏はまた、「核兵器の使用が明示的または暗黙のうちに脅かされる状況が増す中、国際情勢への懸念を改めて」表明した。彼は、非核兵器地帯が地域および国際的な平和と安全を促進し、これらの非核地帯が「効果的な国際的管理の下での一般的かつ完全な軍縮に向けた一歩を示している」と述べ、「したがって新たな非核兵器地帯の設立を奨励している。」と強調した。

OPANALの創立54周年記念式典では、初めての「アントニオ・アウグスト・カンサード・トリンダード核軍縮・非拡散賞」の受賞者が発表された。受賞者はエリザベス・メンデンホール氏とホセ・ルイス・ロドリゲス氏で、彼らの研究「ラテンアメリカにおける核兵器不拡散ゾーンと海上輸送の問題」に対する貢献が評価された。この研究は、トラテロルコ条約が海上輸送に与える影響を調査したものだ。

Source: UN
Image: Alfonso García Robles bookshop.
Source: FCE

ホセ・ルイス・ロドリゲス氏は、研究に関心を持ったきっかけとして、トラテロルコ条約の盲点とも言える、ラテンアメリカとカリブ海の非核兵器地帯が核兵器の海上輸送まで制限していないことを発見した点を挙げ、また「発展途上国が世界の核秩序にどのように貢献しているかを分析する文献が増えてきている」と述べ、「この論文は、発展途上国の核秩序への貢献を理解するための説明を深めるものだと考えている」と語った。 一方、エリザベス・メンデンホール氏は、二人が現在も研究を続けており、「非核兵器国家が非核兵器地帯を海域に拡大する方法を示すことができ、同時に、これらを制御する条約を作成する際の非核兵器国家の主体性とリーダーシップについて調査している。」と語った。

トラテロルコ条約の署名は、メキシコとラテンアメリカの人々にとって記憶に残るべき重要な出来事であり、その58周年を記念して行われた「トラテロルコ条約:核兵器使用の歴史と展望」という講演が、1967年にこの文書が署名されたメキシコ外務省の旧本部で開催された。

Image: Alfonso García Robles bust at La Salle University.
Photo: Guillermo Ayala Alanis.

トラテロルコは、メキシコシティー北部に位置する地区で、先コロンブス時代(アステカ帝国時代)から商業の中心地として機能してきた。19世紀後半にはモデル住宅地として発展し、メキシコ外交の拠点となり、外務省の建物が置かれた。現在、この建物はメキシコ国立自治大学(UNAM)によって管理され、トラテロルコ大学文化センター(CCUT)として、地域の文化的および歴史的な遺産を保存することを目的とした施設となっている。

トラテロルコ条約は、ラテンアメリカとカリブ海を構成する33の国々で有効であり、その創設とコミットメントは、核兵器拡散を拒否する政策が、広大な地域の平和を保障する効力を持つことを示す明確な事例となっている。

その主要な推進者であり、1982年にノーベル平和賞を受賞したメキシコの大使アルフォンソ・ガルシア・ロブレスは、メキシコの人々の記憶の中で今も生き続けている。彼の名前は公共の学校に付けられ、また歴史的なトラテロルコの建物にある書店にもその名が冠されている。さらに、UNAMやラ・サール大学などの大学でも彼を讃える像が立てられており、いくつかの例がある。(原文へスペイン語版

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

トランプ政権が、米国政府の主要な人道支援および災害救援機関である米国国際開発庁(USAID)を解体する決定を下したことで、世界の発展途上国に壊滅的な影響が及ぶことが予想されている。

バイデン前政権下で策定された2025年度予算要求では、今年の米国の対外援助額は驚異的な588億ドルに上った。

この援助計画には、昨年5月に開催された「米・アフリカ首脳会議」での米国の優先事項と約束を完全に支援するための資金が含まれていた。また、バイデン氏が「第7回グローバル基金補充会合」で公約した「他のドナーが2ドル拠出するごとに1ドルを拠出する」方針に従い、12億ドルを「エイズ・結核・マラリア対策グローバル基金」に提供することも予定されていた。さらに、国務省によると、感染症の脅威に対する世界的な備えを強化する「パンデミック基金」に対して持続的な資金提供を行い、米国のリーダーシップを推進する計画もあった。

しかし、USAIDの廃止と、世界中で1万人以上の職員が解雇され、わずか約290人のポジションが残されることで、これらの約束は放棄されるか、もしくは大幅に縮小されることになる。米国籍の職員は帰国を求められる予定だ。

「人道的大惨事と米国の信頼性の低下を招く」

Photo: Then U.S. President Trump announcing withdrawal from Iran nuclear deal in May 2018. Credit: The White House Flickr.
Photo: Then U.S. President Trump announcing withdrawal from Iran nuclear deal in May 2018. Credit: The White House Flickr.

2月11日付のニューヨーク・タイムズの一面記事によると、トランプ氏の大統領令に対する批判の声が高まっており、「これらの命令は人道的大惨事を引き起こし、米国の影響力、信頼性、そして国際的地位を損なう」と警鐘を鳴らしている。

同紙によれば、2023年の米国の対外援助額は約720億ドルであり、これにはUSAIDおよび国務省による支出も含まれている。経済規模が世界最大であるにもかかわらず、米国の対外援助額は国内総生産(GDP)比で他の先進国と比べて著しく低い。

USAIDは2023年に約380億ドルを医療サービス、災害救援、貧困対策、その他のプログラムに費やしており、これは米国連邦予算の0.7%に相当する。

「これは冷酷そのもの」

国際人道支援団体「コンシャス・インターナショナル」のジェームズ・E・ジェニングス会長はIPSの取材に対し、「USAIDの大幅な削減はすでに世界中に影響を及ぼしている」と述べた。

「世界で最も裕福な億万長者のうち2人が、グローバルサウスの何百万もの子どもたちの口から食べ物を奪うことは、単なる無関心ではなく、冷酷そのものだ」と指摘する。

「国際援助は単なる数字の問題ではない。それは、次の食事、安全な飲み水、寝る場所、そして緊急医療を必要としている人々の生活に直結しているのだ」と警告した。

ワシントンのUSAIDプログラムは、連邦予算のわずか1.2%の費用しかかからないとピュー・リサーチ・センターは指摘している。その多くは、世界中の難民や避難民を支援するために使われている。

「現在、難民の数は史上最多となり、約1億人に達している。マラリア撲滅やエイズ(HIV/SIDA)治療・予防プログラムへの支援を削減することは、狂気の沙汰だ。なぜなら、致命的な感染症はいずれすべての地域社会に広がるからだ」と、ジェームズ・E・ジェニングス博士は警告する。

ジェニングス博士によれば、「フランクリン・ルーズベルト大統領が1932年にホワイトハウス入りして以来、これほど多くの大統領令を発した指導者はいない」という。しかし、FDR(ルーズベルト大統領)の政策との違いは明白だ。

Wikimedia Commons
FDR. Credit: Wikimedia Commons

「FDRの政策は人々を救い、貧困から脱却させ、雇用を生み出し、生活を向上させるためのものだった」

たとえ巨大な連邦政府に改革が必要であり、国境管理を強化する必要があったとしても(これには多くの米国人が賛成している)、トランプ氏の政策は「自身のような富裕層をさらに強化し、退役軍人を含む米国民へのサービスを削減し、世界中で苦しむ人々への支援を排除するためのものだ。」とジェニングス博士は批判する。

このような行動は「独裁者や、独裁者になりたがる者の典型的な振る舞いだ」とも指摘した。

「子どもたちを飢餓に追いやる政策」

ニューヨーク大学(NYU)国際関係学の元教授であるアロン・ベン=メイル博士は、今週のオピニオン記事で次のように書いている。

「トランプの大統領令がもたらした壊滅的な影響を目の当たりにするのは、胸が張り裂けるようだ」

彼の決定により、世界中の何百万もの子どもたちが命を救う食糧援助を受けられなくなった。

例えば、スーダンでは120万人以上が米国の資金による食糧・医療・安全な水の支援を受けていたが、それがすべて失われた。

また、エチオピアの難民キャンプでは3000人以上の栄養失調の子どもたちが、米国が支援する「Action Against Hunger」のプログラムに依存していたが、これも打ち切られた。

「トランプの非人道的な決定は、単なる冷酷さではない。それは、かつて米国を象徴していた思いやりとリーダーシップの理念を打ち砕くものだ。」と、ベン=メイル博士は述べる。

かつて世界の飢餓と闘い、命を救うリーダーだった米国は、今や「トランプの残忍な攻撃のもとで、何百万もの無実の子どもたちを飢えと死に追いやっている。」と、強く非難する。

「凍結された30以上の研究プロジェクト」

ニューヨーク・タイムズによると、30以上の研究プロジェクトが凍結され、その中には以下のような重要な医療プログラムが含まれる。

モザンビークの5歳未満児へのマラリア治療

バングラデシュのコレラ治療

マラウイの子宮頸がん検診・治療プログラム

ペルーと南アフリカの小児結核治療

エチオピアの子どもたちへの栄養支援

カンボジアの幼児発達プログラム

ホワイトハウスの言い分

マルコ・ルビオ国務長官兼USAID暫定管理者は、次のように弁明している。

「米国は外国援助から手を引いているわけではない。しかし、それは私たちが説明できる、正当化できるプログラムでなければならない。そうでなければ、外国援助そのものが危険にさらされる。」

ホワイトハウスの「無駄遣いリスト」

USAIDの閉鎖を正当化するために、ホワイトハウスは次のような「無駄遣いの例」を挙げている。

150万ドル:「セルビアの職場やビジネスコミュニティにおける多様性、公平性、包摂性(DEI)の促進」

7万ドル:「アイルランドでのDEIミュージカルの制作」

250万ドル:「ベトナムの電気自動車」

4万7000ドル:「コロンビアでのトランスジェンダー・オペラの制作」

3万2000ドル:「ペルーでのトランスジェンダー・コミックの制作」

200万ドル:「グアテマラでの性転換手術とLGBT活動支援」

600万ドル:「エジプトの観光促進」

数十万ドル:「テロ組織と関係がある非営利団体への資金提供(監察官による調査後も継続)」

数百万ドル:「武漢研究所と関わるエコヘルス・アライアンスへの資金提供」

「シリアでアルカイダ系戦闘員に送られた数十万食の食料」

「途上国での個別カスタマイズされた避妊具の配布資金」

「アフガニスタンでのケシ栽培とヘロイン生産を支える灌漑施設・農機具・肥料の支援(タリバンへの利益供与)」

USAIDの閉鎖は、難民や貧困層への支援だけでなく、世界的な医療・公衆衛生プログラムにも深刻な影響を与えている。しかし、トランプ政権とホワイトハウスは、USAIDの資金の一部が「不必要なプロジェクト」に使われていると主張し、廃止を正当化している。

果たして、米国は本当に世界のリーダーとしての責任を放棄するのか?それとも、いずれこの決定が覆される日が来るのか?(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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核の脅威:ウクライナへの欧州の軍事支援に対するロシアの対応

【ロンドンLondon Post=ラザ・サイード】

ウクライナ戦争は21世紀を代表する紛争の一つとなり、世界の安定に深刻な影響を及ぼしている。欧州諸国によるウクライナに対する継続的な軍事支援は、ロシアの核に関する強硬な発言を引き出し、地域の微妙な軍事バランスを浮き彫りにしている。本稿では、ロシアの核戦略、欧州諸国の対応、そしてこの不安定な状況がもたらす広範な影響について、スティーブン・パイファー氏とヘザー・ウィリアムズ氏の見解を交えながら考察する。

紛争の背景

The High Mobility Artillery Rocket System fires the U.S. Army's new guided Multiple Launch Rocket System during testing at White Sands Missile Range.Public Domain.
The High Mobility Artillery Rocket System fires the U.S. Army’s new guided Multiple Launch Rocket System during testing at White Sands Missile Range.Public Domain.

2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、国際関係を大きく変える長期的な戦争へと発展した。ウクライナの防衛を支援するため、欧州諸国は米国や北大西洋条約(NATO)同盟国と共に、大規模な軍事支援を提供している。その支援には、HIMARSロケットシステム、防空システム、戦車、そして最新鋭の戦闘機の供与が含まれる。こうした西側の支援は、ウクライナの主権を守るという強い決意を示しているが、一方でロシアとの緊張を激化させる要因にもなっている。

ロシア政府は、西側の軍事支援をロシアの国家安全保障への直接的な脅威と位置づけ、戦争が地域紛争からNATOとの代理戦争へと変化したと主張している。この認識のもと、ロシアは核をめぐる強硬な発言を強め、事態のエスカレーションを招く可能性が高まっている。

ロシアの核戦略:戦略的ブラフか、それとも本当の脅威か?

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

ロシアの核戦略は、西側の軍事支援に対する主要な対応策となっている。ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアの核戦力を高度な警戒態勢に置き、大規模な核演習を実施し、戦術核兵器のベラルーシ配備を示唆するなど、威嚇的な動きを見せている。こうした措置は、NATOのさらなる介入を阻止し、欧州諸国を威圧する意図を持つと考えられる。

2024年11月、プーチン大統領はロシアの核ドクトリンの改定を発表し、核兵器使用の閾値を引き下げたとされている。この動きにより、国際社会の懸念は一層強まった。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の核政策専門家であるエミリー・ラーソン博士は、「ロシアの核の脅しには二つの目的がある。それは、西側のウクライナ支援を抑制することと、NATOの結束を揺るがすことだ。しかし、核攻撃の可能性は低いとはいえ、このような発言がもたらす心理的影響は決して軽視できない」と指摘する。

さらに、ブダペスト覚書の米国側交渉担当者であったスティーブン・パイファー氏は、「ロシアの核の脅威は新たな軍拡競争を引き起こしかねない。新START条約の履行停止など、軍備管理協定の崩壊が進む中、世界の核安定性はますます脆弱になっている。」と警鐘を鳴らしている。

欧州の軍事支援とその影響

欧州諸国は、ロシアの侵攻に対抗するため、かつてない規模の軍事支援をウクライナに提供している。ドイツ、フランス、英国は、数十億ドル規模の支援を約束し、最新鋭の兵器や訓練を提供している。特に東欧諸国、ポーランドやバルト三国は、兵站や作戦面での支援において重要な役割を果たしており、ロシアの侵略に対する欧州の結束した姿勢を示している。

しかし、この軍事支援は議論を呼んでいる。長距離ミサイルの供与や戦闘機の供給計画をめぐって、欧州各国の政府内でも意見が分かれている。ロシア政府はこれらの行為が「レッドライン(越えてはならない一線)」を超えると警告し、直接的な対立のリスクが高まっている。

戦略国際問題研究所(CSIS)の核問題プロジェクトの研究者であるヘザー・ウィリアムズ氏は、「西側諸国のウクライナ支援は効果的ではあるが、重大なリスクも伴っている。ロシアの核の威嚇は誤算の可能性を示しており、国際社会は意図しないエスカレーションを防ぐために警戒を怠るべきではない」と指摘している。

エスカレーションのリスクと世界への影響

ウクライナ紛争の激化は、世界の安全保障に深刻な懸念をもたらしている。ロシアが戦術核兵器をベラルーシに配備すると脅したことで、NATO東部の国々では警戒感が一層高まっている。核事故や限定的な核攻撃のリスクは、政策立案者にとって最大の懸念事項となっている。

Now I am become Death, the destroyer of worlds,” Oppenheimer quoted a line from Bhagawad Gita, when the nuclear blast took place. Source: The Wire
Now I am become Death, the destroyer of worlds,” Oppenheimer quoted a line from Bhagawad Gita, when the nuclear blast took place. Source: The Wire

元NATO顧問のマイケル・オコナー博士は、「現在の状況は極めて危険である。誤解や誤った解釈が連鎖反応を引き起こし、制御不能なエスカレーションへとつながる可能性がある。このため、NATOとロシアの間で強固な意思疎通のチャネルを維持することが極めて重要だ。」と警告している。

この影響は欧州にとどまらない。アジア、中東、アフリカの観察者たちは、西側諸国がロシアの核の脅しにどう対応するかを注視している。ロシア政府による抑止策が破綻したと見なされれば、北朝鮮やイランなどの核保有国が、地域紛争において同様の戦術を採用する可能性がある。

壊滅的事態を防ぐための外交の役割

ウクライナの防衛には軍事支援が不可欠だが、核のエスカレーションを回避するためには外交も欠かせない。国際社会は、核兵器不拡散条約(NPT)などの軍備管理協定を強化する取り組みを優先すべきである。こうした枠組みの信頼性が、核兵器の乱用を防ぐ鍵となる。

ヘザー・ウィリアムズ氏は、外交交渉の重要性を強調する。「核のエスカレーションを防ぐには、持続的な対話と創造的な外交が不可欠だ。国際社会は、ロシアに対して事態を沈静化させるための出口戦略を提供しつつ、核兵器の使用を禁じる国際規範を再確認しなければならない。」

結論

ウクライナ紛争は、欧州の軍事支援とロシアの核の威嚇によって、世界の安全保障の脆弱さを浮き彫りにしている。モスクワの脅しは主に抑止目的である可能性が高いが、誤算や意図しないエスカレーションのリスクは依然として重大である。スティーブン・パイファー氏やヘザー・ウィリアムズ氏が指摘するように、ウクライナへの確固たる支援と、核の惨禍を防ぐための積極的な外交努力の両方が必要である。

不確実な未来に直面する中で、軍事的な決意と外交的な関与のバランスを慎重に取ることが不可欠だ。核の脅威に対する国際的な規範を維持し、対立する勢力間の対話を促進することこそが、核の影が世界を覆うことを防ぐための鍵となるだろう。(原文へ

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燃え上がる炎:激化するオーストラリアのブッシュファイヤー

【メルボルンLondon Post=マジッド・カーン】

オーストラリアは特に南東部でブッシュファイヤーのリスクが高まっており、熱波の影響で気温が平均を14℃も上回る異常な状況に直面している。特にビクトリア州では厳しい条件が続き、多くの地域で火災禁止令が発令されている。グランピアンズ国立公園での壊滅的な火災の余波により、家屋や農地が焼失した後、この状況はさらに複雑化している。このような激しいブッシュファイヤーシーズンの初期兆候は、オーストラリアが頻発する深刻な火災に直面していることを示している。

オーストラリアがブッシュファイヤーに見舞われやすい国であることは今に始まったことではない。しかし、気象局(BOM)の最近のデータは、そのリスクがより極端になっていることを示している。2024年は1910年以降で2番目に暑い年となり、平均気温が平年を1.46℃上回った。これに加えて、熱波の長期化や干ばつの影響により、火災の発生が頻繁化し、激化する「火薬庫」のような状況が生まれている。さらに、気候変動が加速する中、シドニーのような地域では今後数十年で気温が50℃に達する可能性があると専門家は警告している。

2019年から2020年にかけての「ブラックサマー」の壊滅的な火災は、記録的な高温と乾燥した条件が相まってオーストラリア全土を焼き尽くしたため、国全体に衝撃を与えた。ブラックサマーの被害は現在も多くのオーストラリア人にとって悪夢のような記憶となっている。2019-20年のブラックサマーで甚大な被害を受けたニューサウスウェールズ州タンバランバで自動車整備業を営むダニー・J氏(59歳)は、「20台ほどの車と他の財産を失った」と当時を振り返った。

それ以来、火災シーズンは比較的穏やかでしたが、根本的なリスクは減少していません。適切な準備が不足していることに加え、気候変動の影響により、オーストラリアは依然として急速に広がる壊滅的なブッシュファイヤーに脆弱なままです。

火災管理の課題

火災対策において中心的な課題の一つは、必要なインフラやリソースの劣化だ。例えば、ビクトリア州の地域ネットワークは寿命を迎えつつあり、多くの問題を抱えている。手作業による点検は数年ごとに行われているが、潜在的な危険を解消するには十分ではない。

さらに、気温の上昇に伴い、火災シーズンが早まり、長期化している。春から初夏にかけての気温、湿度、降雨パターンの変化は、火災管理の取り組みをさらに複雑化させている。燃料を減らし、大規模な火災を抑えるための「計画的燃焼」(制御された火災)の実施機会はますます制限されている。「ブラックサマー」のような深刻な火災シーズンでなくても、より暑く乾燥した条件が続く長期的な傾向により、火災はますます頻発し、制御不能になると考えられている。

気候変動の影響

気候変動そのものがブッシュファイヤーの直接的な原因ではないものの、その悪化を招いている。地球温暖化により、頻繁かつ激しい熱波、長期的な乾燥、干ばつが引き起こされ、火災の発生と拡大の可能性が高まっている。2019-2020年の火災前にも、オーストラリアは12月を通じて記録的な高温に見舞われた。2024年の統計では平均気温が平年を1.46℃上回り、極端な高温が増加している。このような温度上昇と気候変動の影響が相まって、制御不能な大規模火災が発生しやすい条件を作り出している。

気候変動はまた、消防リソースの限界を悪化させている。オーストラリアの火災対策は、ボランティアに大きく依存しているうえ、消防機器の供給が不足している。大規模火災時には海外から水爆撃機を借りることが多く、国内のリソースだけではこれらの火災を抑えるには不十分だ。また、燃料削減を目的とした安全な気象条件下での計画的燃焼を行う時間枠は短くなり、予測が難しくなっています。これにより、火災の拡大を防ぎ、地域社会を保護する取り組みがさらに困難になっている。

世界的な脅威と国際的な対応の必要性

この問題はオーストラリアに特有のものではない。国連の報告書によれば、今世紀末までに極端な火災の頻度が50%増加すると予測されている。気温上昇、土地利用の変化、干ばつの長期化がこの増加を促進し、より頻繁で激しい火災を引き起こすとされています。同報告書は、火災への対応ではなく予防を優先するために、財源の抜本的な再配分が必要であると強調しています。

オーストラリアは気候変動の影響を最も受けている国の一つであり、極端に暑い日が増加している。これにより、ブッシュファイヤーの条件が悪化し、人々や財産へのリスクが高まっている。気候評議会は、地球温暖化がより危険なブッシュファイヤー条件を生み出していると警告しており、極端な熱や火災の強度によって多くの固有種が大量死していることを指摘している。

包括的な対応の必要性

2019-2020年の「ブラックサマー」の規模と強度は、気候変動がいかに壊滅的な気象現象を引き起こしているかを世界に示した。しかし、この災害から得られる教訓は、単に火災が引き起こす被害にとどまらない。人間の居住地がますます危険な場所に置かれるようになっている現実も浮き彫りにした。過去50で、森林地帯に囲まれた地域への移住、いわゆる「シーチェンジ」や「ツリーチェンジ」と呼ばれる現象が進み、火災リスクの高い地域に住宅が建設されるようになった。このような開発パターンにより、地域社会の脆弱性が一層高まっている。

現在進行中のブッシュファイヤー危機に対応するためには、過去の災害から得た教訓を基にした効果的かつ科学的に裏付けられた対応が急務である。しかし、これらの教訓は、大規模火災がまれにしか発生しないために時間の経過とともに忘れ去られる傾向がある。

生存者の証言と破壊の統計データという2つの重要な情報源を現在の火災管理戦略に統合する必要がある。生存者の証言は、極度のストレスが合理的な意思決定を妨げ、危険に直面した際に効果的に行動することが困難になることを示している。ストレスが意思決定に与える心理的影響を理解することで、火災緊急時の警告や助言を改善することができる。また、破壊の統計データは、同様の火災が過去にも発生しており、抜本的な変化がなければ将来も続くことを厳しい現実として示している。

気候変動に焦点を当てることは重要だが、過去から学ぶ必要性を軽視してはならない。ブッシュファイヤーがもたらす課題に対処するためには、科学的知識、心理的洞察、歴史的教訓を組み合わせた包括的なアプローチが必要だ。

ブッシュファイヤー危機に対する合理的で効果的な対応を達成するには、問題に寄与する社会的、経済的、環境的要因を認識する必要がある。企業の利益を公衆の安全よりも優先する資本主義の利益追求システムは、環境破壊の根本的な原因です。社会を再編し、社会的ニーズを優先することで、極端な気象現象の脅威に対処するためのリソースを動員することが可能になる。(原文へ

INPS Japan/ London Post

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コロンビアの歴史的な児童婚禁止法

【モンテビデオIPS=イネス・M・ポウサデラ】

コロンビアは、児童婚および早期結婚に反対する世界的な運動において歴史的な節目を迎えた。同国の上院は、ラテンアメリカおよびカリブ海地域で最も包括的な児童婚禁止法の一つを可決した。コロンビアでは、18歳未満の少女の5人に1人、14歳未満の少女の10人に1人が結婚または結婚に類似した状況で生活していると言われている。この新しい法律は、例外を一切認めず、最低年齢を18歳に引き上げ、14歳以上の子どもが親の同意を得て結婚できると定めた137年もの歴史を持つ民法の条項を撤廃する。

この成果は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標5に沿ったものであり、2030年までに児童婚のような有害な慣習を廃止するというターゲットを掲げている。新しい法律は、現在、グスタボ・ペトロ大統領の署名を経て施行されるのを待っている状態である。

画期的な進展

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

児童婚はコロンビアの最も脆弱なコミュニティに不釣り合いな影響を及ぼしており、農村地域、先住民、アフロ・コロンビア系の人々の間では、その割合が40%から65%に達している。一部のコミュニティでは、10歳の少女が結婚させられることもある。このような早期の結婚は、少女たちを不平等な権力関係にさらし、教育を受ける機会を奪い、身体的および経済的な自律性を制限し、ジェンダーに基づく暴力や早期妊娠に関連する健康問題のリスクを高める。

#SonNiñasNoEsposas(「彼女たちは少女であり、妻ではない」)法案の可決は、粘り強い市民社会の働きかけの力を示している。2007年以降、いくつもの失敗を経た後、2人の女性議員によって作成されたこの法案は、全会一致で可決された。この成功を支えたのは、コロンビアの市民社会組織による連携であり、彼らは世界的なネットワーク「Girls Not Brides(児童婚に反対する団体)」の一部として活動した。この中には、ジェンダーと家族の発展財団、Fundación Plan、Profamiliaなどの団体が含まれ、Equality Nowやプラン・インターナショナルといった国際的なパートナーと協力しながら、法改正のための働きかけやメディアキャンペーンを直接支援した。

結婚年齢を引き上げることに加え、新法は「子どもと青年のための包括的ライフプロジェクト全国プログラム」を設立する。この予防的取り組みは、早期結婚の構造的な原因である貧困や教育不足を特に遠隔地の農村地域で解決することを目指している。また、このプログラムは、先住民コミュニティが独自の統治構造を通じて参加することを含み、実施における文化的配慮の重要性を認識している。

世界的な状況

コロンビアだけが児童婚の問題を抱えているわけではない。世界では毎年約1,200万人の少女が結婚しており、そのうち200万人は15歳未満で結婚している。児童婚は少年にも影響を及ぼすが、少女が児童期に結婚する可能性は少年の6倍にのぼっている。

「児童婚モニタリング機構」(児童婚廃止の取り組みを支援するための証拠を生み出す共同イニシアチブ)によると、世界中の若い女性の5人に1人が18歳の誕生日を迎える前に結婚しており、その割合はサハラ以南部アフリカで最も高いとされている。

この問題に取り組むため、元首脳らによる団体「The Elders(長老会議)」は2011年、世界的なパートナーシップ「Girls Not Brides(児童婚反対団体)」を発足させた。100カ国以上に1,400以上の加盟団体を持つこの組織は、児童婚を防ぐための活動を展開し、児童婚を人権侵害であり開発の障害と位置付けている。同団体は、児童婚の主な要因として貧困、教育や経済機会の不足、ジェンダー不平等、紛争や災害状況での不安定さを挙げている。そして、この問題に対して啓発キャンペーン、国や国際レベルでの政策提言、コミュニティ参加を通じて児童婚を助長する社会規範に挑戦している。

それ以降、この取り組みは拡大した。2016年には、国連人口基金(UNFPA)と国連児童基金(UNICEF)が「児童婚廃止のためのグローバルプログラム」を開始した。このプログラムは現在2030年まで続く第3フェーズに入り、アフリカ、中東、南アジアの12の高発生国で実施されている。各国政府と直接連携し、教育、医療、経済的機会を中心に活動を展開し、数百万人の思春期の少女たちに支援を届けている。

地域レベルの取り組みとしては、アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、パキスタン、スリランカで活動する「南アジア児童暴力撲滅イニシアチブ」や、2014年に10の高発生国で始まり後に30カ国に拡大した「アフリカ連合の児童婚撲滅キャンペーン」などがある。

さらに、多くのイニシアチブが国内および地域レベルで活動している。これらは、宗教や地域社会の指導者と協力して社会規範を変える、少女の教育や経済的エンパワーメントを支援する、ジェンダー平等について男性や少年と対話する、より厳格な法律とその執行を求める、児童婚のリスクにある少女への支援サービスを提供する、メディアや技術を使って啓発を進め意識を変える、若いアドボケートやチェンジメーカーのネットワークを構築するなど、多様な対策を組み合わせている。

UN Photo
UN Photo

進展と課題

これらの取り組みにより、児童婚率は世界的に減少してきました。UNICEFによると、過去10年間で児童婚した若い女性の割合は25%から21%に減少し、2,500万件の児童婚が防がれたとされている。しかし、18歳未満で結婚した少女や児童期に結婚した成人女性を含めると、世界で児童婚した女性の数は依然として6億5,000万人と推定されている。

過去25年間の年間平均減少率は0.7%、過去10年間では1.9%であり、最近の取り組みが一定の効果を上げていることを示している。しかし、このペースではSDGsの2030年までに児童婚を廃止する目標を達成するのは難しい状況だ。

COVID-19のパンデミック、気候変動、紛争、経済的不安定といった要因が後退を招いている。不安定な状況が高まると、児童婚も増加する傾向がある。例えば、シリアの紛争では、ヨルダンやレバノンなどの難民コミュニティで児童婚の割合が急上昇した。

未来への展望

コロンビアの新しい法律は大きな進歩を示しているが、これは始まりに過ぎない。同国で行われている多くの早期結婚は、旧法の下でも違法とされていたことを考えると、実際の課題はこれから始まる。

Location of Colombia

これから数年間のコロンビアの取り組みは、法改正がどのようにして脆弱な少女を実際に保護する具体的な行動に変わるかを示す鍵となる。また、この進展は、ラテンアメリカおよびカリブ海地域における国境を越えた協力や類似した法改正の機会を広げるきっかけになるだろう。

コロンビアの包括的なアプローチは、この地域の変革のモデルとなる可能性がある。多くの国では、依然として一定の条件下で児童婚を許可する例外規定が存在し、他国では強力な法律があっても十分に施行されていない状況にある。

児童婚率が世界的に減少しているという希望はあるものの、現在の変化のペースは依然として非常に遅いのが現状である。コロンビアの例は、法律の変更だけでなく、社会的なダイナミクスの根本的な部分に取り組む包括的アプローチと、持続的なマルチステークホルダーのコミットメントによって、大きな進展が可能であることを示している。国際社会はこの勢いを活かし、成功した取り組みを拡大し、市民社会組織への資金提供を増やし、政治的圧力を維持する必要がある。(原文へ)

イネス・M・ポウサデラは、CIVICUSのシニアリサーチスペシャリストであり、CIVICUS Lensの共同ディレクター兼ライター、さらに「State of Civil Society Report」の共著者。

INPS Japan/IPS UN Bureau

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アサド政権崩壊:誤算が招いた連鎖的危機

【Global Outlook=ラメシュ・タクール】

恐怖に基づき、恐怖によって統治され、外国の代理勢力に支えられた政権が、わずか2週間足らずで崩壊した。最終的に、「アサド家」(1970年~2024年)の基盤は、時の流れという移ろいやすい砂の上に築かれていたのだ。かつて、独裁者たちは略奪した富を手にヨーロッパのリゾート地で快適な隠遁生活を送ることができた時代もあった。しかし、今ではそれも叶わない。ダマスカスからモスクワへの屈辱的な逃亡劇により、アサド一家はプーチンの元に逃げ込むこととなった。

Ramesh Takur/ ANU
Ramesh Takur/ ANU

アサド王朝の終焉の始まりは、2023年10月7日に起きたハマスの残虐な攻撃に遡ることができる。その目的は、イスラエル人をできる限り殺害し、強姦し、拷問し、誘拐し、ガザの路上で公然と屈辱を与えることにあった。また政治的な計算として、イスラエル政府が国民を守る能力に対する信頼を損ね、ガザ地区という人口密集地帯への報復攻撃を引き起こし、多くの市民が人間の盾として非自発的に犠牲となる状況を作り出すことを狙っていた。これにより、アラブ諸国の世論を刺激し、世界中のムスリムを怒らせ、西側諸国の都市をパレスチナ・ハマス支持の大規模な群衆で埋め尽くすことを目指した。また、イスラエルによるアラブ諸国との関係正常化プロセスを混乱させ、「アブラハム合意」を崩壊させ、国際的にイスラエルを孤立させるという狙いもあった。

ハマスは宣伝戦に勝利したと言っても過言ではない。イスラエルが国連安全保障理事会、総会、人権理事会、国際司法裁判所、国際刑事裁判所などでこれほど持続的に国際的非難を浴びたことはこれまでなかった。また、かつては支持的だった多くの西側諸国の首都、街頭、大学キャンパス、そしてオーストラリアでも厳しい批判を受けている。

現在でも、約100人の人質がガザで拘束されている。イスラエルの兵士たちも引き続き殺傷されている。ハマス、ヒズボラ、フーシ派は、イスラエルにロケット弾やドローンを発射する残存能力を保っている。しかし、イスラエルはガザ全域およびその後のレバノンでの戦闘において、印象的な軍事的成功を収めている。ハマスとヒズボラは戦闘勢力として壊滅し、その軍事司令官や指導者たちは、標的を絞った暗殺や、ポケベルやトランシーバーに仕掛けられた即席爆発装置によって排除された。イランは屈辱を味わい、その無敵のオーラを失い、代理勢力による「千の切り傷」でイスラエルを消耗させるという戦略全体が破綻した。

"A fortified room in a house in Be'eri, an Israeli kibbutz near the Gaza Strip, tells a harrowing story. Inside, a couple with two children desperately held the door shut to keep terrorists out. The militants began shooting through the door, tragically killing the mother on the spot. Her young son also succumbed to his wounds from severe blood loss shortly afterward. The teenage daughter heroically managed to save her father's life by staunching the bleeding. Although his leg was amputated, he survived. Inside the room, there is a mattress soaked in blood, numerous stains on the floor, and bullet holes riddling the walls—a testament to the brutal reality faced by those living in the kibbutz". Photo by Roman Yanushevsly.
“A fortified room in a house in Be’eri, an Israeli kibbutz near the Gaza Strip, tells a harrowing story. Inside, a couple with two children desperately held the door shut to keep terrorists out. The militants began shooting through the door, tragically killing the mother on the spot. Her young son also succumbed to his wounds from severe blood loss shortly afterward. The teenage daughter heroically managed to save her father’s life by staunching the bleeding. Although his leg was amputated, he survived. Inside the room, there is a mattress soaked in blood, numerous stains on the floor, and bullet holes riddling the walls—a testament to the brutal reality faced by those living in the kibbutz”. Photo by Roman Yanushevsly.

その結果、軍事的な成果として地域の勢力均衡は完全にイスラエルに有利な形でリセットされた。この理由は、ハマスの戦略的な誤算にある。ハマスは10月7日の攻撃を一方的に開始し、兄弟組織を戦争に引き込もうとした。しかし、地上部隊を投入することなく、ロケットを発射する形で半ば応じたのはヒズボラだけだった。

ハマスの2つ目の戦略的誤算は、イスラエルの意志と決意を過小評価したことだった。これはイスラエルにとって最も長い戦争となったが、イスラエルはガザにおけるハマスを軍事勢力としても統治勢力としても破壊することに揺るぎない姿勢を貫いた。人質救出は望ましいが二次的な目標に位置付けられた。さらにヒズボラを壊滅させ、南レバノンから追放し、ガザとレバノンという2の強力な代理勢力を通じてイスラエルを脅かすイランの戦略を封じた。

また、ダマスカスのアサド政権を支えていた支柱が取り除かれ、武装した意欲的なジハード主義反政府勢力による打倒にさらされる結果となった。ベンヤミン・ネタニヤフ首相が「イランとヒズボラに与えた打撃がアサド政権の崩壊を助けた。」と主張するのは正しいと言える。

新たな戦略的均衡において、反イスラエル抵抗軸の廃墟の中からイスラエルの中心勢力がはるかに強大な姿で浮上した。この背景には、2023年10月7日に起きた事件の規模、奇襲性、そしてその残虐性が原因だ。この事件により、ハマスとイスラエル間の攻撃、報復、再現という無限ループが取り返しのつかない形で破壊された。唯一の解決策は、抑止力に基づいた休戦を再構築することであり、それはイスラエルの報復が確実であり、すべてのエスカレーション段階でのイスラエルの優位性が保証される場合にのみ成立する。

Israeli Prime Minister Benjamin Netanyahu addresses the general debate of the sixty-seventh session of the General Assembly. Credit: UN Photo/J Carrier
Israeli Prime Minister Benjamin Netanyahu addresses the general debate of the sixty-seventh session of the General Assembly. Credit: UN Photo/J Carrier

即時かつ無条件の停戦を求める国際的な声や、ラマッラへの進攻を控えるべきだという主張は、2つの理由から逆効果をもたらしたと考えられる。1つは、10月7日の惨事の規模を考えると、イスラエルにとって真の友人と表面的な友人を区別するきっかけとなったことだ。もう1つは、西側諸国の若者や国家が、大量の中東系移民による選挙人口の変化の影響を受け、自国内での反ユダヤ主義への対策が弱まりつつある中で、イスラエルへの支持を離れつつあったことだ。この状況が、時間がイスラエルの味方ではないという現実を痛感させた。ハマスとヒズボラを安全保障上の脅威として排除するならば、今しかないと結論づけられたのだ。

しかし、アサド後のシリアは極めて不安定な状態にある。シリアは国家ではなく、血塗られた争いの歴史を持つさまざまな宗派が入り乱れた継ぎはぎのパッチワークのようなものだ。反政府勢力は部族、民族、宗教の点で多様であり、それぞれの思惑を持つ外国勢力に支援されている。勝利の後には、交戦する派閥の洪水が押し寄せ、シリアが再び殺戮の地に戻る可能性が高いと言えるだろう。

A poster in Damascus, Syria, features Iranian President Mahmoud Ahmedinejad, Syrian President Bashar al-Assad and Hezbollah leader Hassan Nasrallah. Credit: Elizabeth Whitman/IPS
A poster in Damascus, Syria, features Iranian President Mahmoud Ahmedinejad, Syrian President Bashar al-Assad and Hezbollah leader Hassan Nasrallah. Credit: Elizabeth Whitman/IPS

主導的な反政府勢力は「ハヤート・タハリール・アル=シャーム(HTS)」であり、そのルーツはアルカイダやイスラム国に遡る。その指導者であるアブ・ムハンマド・アル=ジョラニには、2017年以降、テロリストとしてFBIによる1,000万ドルの懸賞金がかけられている。HTSの基盤はシリアの人口の75%を占めるスンニ派だが、残りの4分の1はシーア派、クルド人、キリスト教徒、ドルーズ派、イスマーイール派、アルメニア人、アラウィー派に分かれている。

イスラエルは、地域の多くのムスリムを駆り立てる反ユダヤ主義がシリア人には無関係であると仮定することはできない。そのため、イスラエルは独自の予防原則に基づき、シリアの兵器、化学兵器インフラ、武器製造施設の多くを事前に破壊し、ゴラン高原の非武装緩衝地帯を支配下に置いています。

2001年から2011年の間にアフガニスタン、イラク、リビアが人道的解放を経て自由と民主主義を享受した後の経験を振り返れば、「新しいシリア」に対して楽観的すぎる考えを持つ者は現実を直視すべきだろう。(原文へInter Press Service

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)理事を務める。元国際連合事務次長補、元APLN共同議長。

本記事は戸田平和研究所によって発行され、許可を得て原文から再掲載されたものである。

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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バロチスタンの隠された真実:人権活動家サミ・ディーン・バローチ氏との独占インタビュー

【London Post=スマイヤ・アリ】

今回は、バロチスタン出身の人権活動家サミ・ディーン・バローチ氏にインタビューを行い、バローチの闘争を深く理解するための対話をお届けする。彼女は2024年にフロントライン・ディフェンダーズのアジア太平洋人権賞を受賞し、パキスタンにおけるバローチ問題を象徴する代表的な人物の一人。

ロンドン・ポスト:「バロチスタンでの暴力について、パキスタンのメディア報道をどう思いますか?」

サミ・ディーン・バローチ:パキスタンの主流メディア、電子版・印刷版を問わず、バロチスタンで起きている国家による暴力や人権侵害を世界に向けて明らかにしたことはありません。ただ一方的な国家の見解、つまり「バローチの人々はテロリストだ」というナラティブを推し進めるだけです。実際のバローチの人々、その苦しみ、そしてパキスタンの軍当局がこの地域で行っていることを決して報道しません。

メディア関係者からは、「制約がかけられている」と何度も聞かされました。特にバロチスタンでの強制失踪の問題について、彼らはその家族による座り込み抗議を報道しないよう指示されています。最近、バローチ分離主義グループによる事件がパキスタンのメディアで広く報じられましたが、同じようにバローチスタンで人々が軍事作戦中にパキスタン軍によって日常的に殺害されている場合は、同じ扱いにはなりません。バローチの人々の遺体が毎日のように発見されています。今この瞬間も、失踪したり、偽の遭遇戦で殺されたりした人々の家族が抗議を続けています。

Balochistan located in south west Pakistan.
Balochistan located in south west Pakistan.

バランでは、6か月前から行方不明になっている男性がいますが、それに対する抗議活動が続いています。彼の妹は絶食抗議を行い、「命を懸けてでも」と訴えています。しかし、このようなニュースがメディアで報じられることはありません。我々にとって唯一の情報源はソーシャルメディアですが、そこにも多くのルールやコミュニティ基準があります。国家に反対する投稿をしたとして、アカウントがブロックされるという警告を受けることも頻繁です。

ロンドン・ポスト:CPEC(中国パキスタン経済回廊)プロジェクトは、バロチスタンやその住民に利益をもたらすと思いますか?

サミ・ディーン・バローチ:バロチスタンの人々は、この地に存在する深海や海岸線などの天然資源から恩恵を受けたことがありません。2年前、サインダクの住民が抗議を行い、そこにおけるプロジェクトで雇用されることを求めました。彼らはCEOや上級役員になりたいと言ったのではありません。清掃員でさえパンジャブやギルギット・バルティスタンから雇われている中で、彼らは「この地域の出身である自分たちが働く権利がある」と訴えました。

過去70年間、スイガスやグリスタン・ジョハルはパキスタンの人々にガスを供給してきました。パンジャブのすべての工場はバロチスタンから供給されるガスで稼働しています。しかし、バロチスタンの首都クエッタでさえ、ガスが届かず、住民は薪を燃やして生活しています。これでどうしてCPECが「ゲームチェンジャー」だと思えるでしょうか?

CPECはすでに10年前から実施されていますが、その結果、バロチスタンの土地は強制的に奪われています。グワダルの住民は漁業を生業としてきましたが、CPECプロジェクトのために漁を禁じられています。彼らは代々海で働いてきましたが、今ではそれすら許されません。

現在、グワダルは2つの部分に分かれています。一方は政府によって管理されており、トローリングやプロジェクトが行われています。他方では地元の住民が移動の自由すら制限され、監視下に置かれています。彼らは抑圧され、ある場所から別の場所へ移動するにも許可が必要な状態です。

ロンドン・ポスト:あなたならどう考えますか?人々が望むのは、自由な生活でしょうか、それとも「ゲームチェンジャー」と称されるCPECプロジェクトでしょうか?

サミ・ディーン・バローチ:基本的に、バロチスタンの資源から利益を得たバローチ人は一人もいません。雇用もパンジャブの労働者に与えられています。サインダクプロジェクトで雇用されているバローチ人はわずか5%にすぎません。同じことがグワダルプロジェクトでも起きています。

ロンドン・ポスト:バロチスタンの闘争に対して、国際的な支援や同盟はありますか?

サミ・ディーン・バローチ:政府はバロチスタンでの虐殺や強制失踪を一貫して否定してきました。しかし、「ヒューマンライツ・ディフェンダーズ賞」を私とマラン・バローチが受賞したこと、またマランがTIME誌の影響力のある人物として取り上げられたことは、バローチの闘争に対する認識を広める成果です。これは、バロチスタンの問題を国際的に訴えるための私たちの努力です。

ロンドン・ポスト:パキスタン政府は、特にインドによる外部からの干渉がバロチスタンであるとたびたび主張していますが、これについてどうお考えですか?

サミ・ディーン・バローチ:バロチスタンの反乱運動を否定することはできませんし、分離主義者が存在していることも事実です。彼らの中には山中で銃を手にしている者もいます。彼らはイスラム主義者であり、パキスタン政府と関わりたくないと考えています。彼らにとって、国からの分離が唯一の解決策なのです。

私たちの運動は非暴力的であり、パキスタンの憲法の範囲内で行われています。私たちはこの国の司法、民主主義、そして憲法を信じています。それにもかかわらず、私たちは「インドの情報機関(RAW)のエージェント」であり、「インドから資金を受け取ってパキスタンの平和を乱している」と呼ばれています。しかし、バロチスタンで起きている問題は、パキスタン自身の間違いや問題が原因です。

政府はバローチの人々の権利や生活を抑圧してきました。バローチ運動は、パキスタン政府による植民地的な行為や抑圧に反対するものです。現在、私たちの道路での抗議やデモ行進は「資金提供されたもの」と呼ばれていますが、それは根拠のないことです。私たちがどのようにしてこのような脅威の中で運動を続けているかは、私たち自身だけが知っています。(原文へ

INPS Japan/London Post

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米ホワイトハウスの大統領令、国連への支援に懸念を引き起こす

【国連IPS=ナウリーン・ホセイン】

米国ホワイトハウスが新たに発表した大統領令により、国連の主要機関への支援の撤回や、米国が加盟する国際的な政府間組織の見直しが求められている。さらに、米国が国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対して取っている措置は、ガザでの停戦交渉にも悪影響を与えると懸念されている。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

ドナルド・トランプ大統領の「米国がガザ地区を引き継ぎ、しっかり管理する。われわれのものになる」という発言も、広く批判を浴びている。

火曜日、ホワイトハウスは大統領令を発表し、即時に国連人権理事会(UNHRC)から脱退することを決定。また、国連およびその他の政府間組織への加盟を見直すことを指示した。この大統領令では、特に「さらなる精査が必要」とされる国連機関として、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)および国連教育科学文化機関(UNESCO)を挙げており、これらの組織への資金提供をすべて停止するとしている。

大統領令では、UNESCOについて「累積債務の増加への対応や改革が不十分」であり、過去10年間にわたり反イスラエル的な姿勢を示してきたと指摘。今後、米国の国益を考慮しながらUNESCOへの加盟を再評価するとしており、組織内での反ユダヤ主義や反イスラエル的な傾向の分析も含まれるという。

また、米国はUNRWAへの資金提供を完全に停止すると発表。その理由として、同機関の汚職や、ハマスをはじめとするテロ組織の浸透を挙げている。

国連事務総長スポークスマンのステファン・ドゥジャリック氏は火曜日の記者会見で、今回の米国の決定について、「UNRWAの活動を支援するという国連の姿勢や、人権理事会(HRC)が国連の人権保護の枠組みの重要な一部であることには変わりがない」と述べた。

「米国の国連への支援が、これまでに数えきれないほどの人命を救い、世界の安全保障に貢献してきたことは明白です」とドゥジャリック氏は強調。

UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe
UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe

「(アントニオ・)グテーレス事務総長は、ドナルド・トランプ大統領との会談を楽しみにしており、前回の政権時と同様に率直かつ生産的な関係を続けることを望んでいる。現在のような激動の時代において、米国との関係を強化することが重要だ」と述べた。

水曜日には、パレスチナ人民の譲ることのできない権利に関する委員会の新議長に選出されたコリー・セック大使(セネガル常駐国連代表)が記者会見を開き、イスラエルがUNRWAの活動を禁止したことを強く非難した。

「イスラエルがUNRWAを禁止したことを強く非難する。この措置は、国連のマンデートおよび国連総会決議に直接違反し、重要な人道支援の協力を妨げ、停戦の安定化やガザ復興の妨げとなる。この禁止措置は、停戦合意の直後に課せられたものであり、ガザの苦しみをさらに深めることになる。」

米国による援助資金の停止は、すでにさまざまな国際機関の人道支援活動に影響を与えている。国連のドゥジャリック報道官によると、米国は国連の信託基金に1,500万ドルを拠出していたが、そのうち170万ドルはすでに使用されているものの、残る1,330万ドルは凍結され、現在使用できない状態にある。

国連人口基金(UNFPA)のピオ・スミスアジア・太平洋地域ディレクターは、ジュネーブで記者団に対し、米国の助成金で資金提供されていたプログラムの停止を余儀なくされたと語った。この資金はすでにUNFPAに割り当てられていたものであり、その影響はアフガニスタン、パキスタン、バングラデシュなどの地域にも及ぶ可能性があるという。全世界でUNFPAが運営する982の施設のうち5966施設が、今回の資金停止の影響を受ける見込みだ。

また、コンゴ民主共和国の国連平和維持活動(MONUSCO)副代表であるヴィヴィアン・ファン・デ・ペレ氏は、水曜日にニューヨークで記者会見を開き、米国国際開発庁(USAID)による資金停止が現地の人道支援活動を停止に追い込んでいると述べた。

「多くの人道支援団体が活動を停止せざるを得ない状況です。我々にとって重要なパートナーである国際移住機関(IOM)も、USAIDの「業務停止命令」により活動を中断しなければなりません。」

この大統領令に加えて、ドナルド・トランプ大統領が「米国がガザ地区を引き継ぎ、管理する」と発言したことで、進行中の停戦交渉に深刻な影響を与えている。

国連人権高等弁務官フォルカー・トゥルク氏は、今最も重要なのは、停戦合意の次の段階へと進むことであると述べた。その内容には、すべての人質および恣意的に拘束された囚人の解放、戦争の終結、ガザの復興が含まれる。

「占領下のパレスチナ地域およびイスラエルに住む人々の苦しみは、もはや耐え難いものとなっています。パレスチナ人とイスラエル人の双方にとって、尊厳と平等に基づく平和と安全が必要です。」

また、トゥルク氏は国際法の観点から、トランプの発言を強く批判した。「国際法は極めて明確です。民族自決の権利は、国際法の基本原則であり、すべての国家によって保護されるべきものです。国際司法裁判所(ICJ)も最近これを改めて強調しました。占領地における住民の強制移住や追放は、厳格に禁止されています。」

トランプが主張するガザ地区から220万人のパレスチナ人を強制的に追放する計画は、国際人道法に違反するとして広く非難されている。

「いかなる強制移住も、民族浄化に等しい行為です。」とドゥジャリック報道官は、トランプ大統領の発言について記者に問われた際に答えた。

Credit: Office of the UN High Commissioner for Refugees (UNOHCR)
Credit: Office of the UN High Commissioner for Refugees (UNOHCR)

「解決策を模索する過程で、状況をさらに悪化させるようなことがあってはなりません。いかなる解決策も、国際法に根ざしたものでなければならないのです。」

国連パレスチナ常駐オブザーバー、リヤド・マンスール氏は、パレスチナ人民の譲ることのできない権利に関する委員会の開会セッション後、記者会見を開き、トランプ大統領の計画を強く非難した。

「パレスチナ人をガザ地区から追放するという考えに対し、過去24時間の間に、エジプト、ヨルダン、パレスチナ、サウジアラビアをはじめとする各国首脳が声明を発表し、この計画を厳しく非難した。また、委員会の会合中に発言した各国の代表も、強制移住を許さないという国際的なコンセンサスを示した。」

「我々パレスチナ人は、パレスチナ国家のすべての地域を愛している。ガザ地区も我々のDNAの一部だ。」

また、マンスール氏は、停戦後に南部から北部へと向かったパレスチナ人の大規模な移動が、彼らの「自らの手で故郷を再建する決意」の証であると強調した。

「40万人以上が、ガザ北部のがれきへと戻り、破壊された家の周辺を片付け始めた。」

一方、ホワイトハウスではトランプの発言を軌道修正しようとする動きが見られた。

マルコ・ルビオ国務長官は記者団に対し、「トランプ大統領はガザの再建を提案した」と説明。また、ホワイトハウス報道官カロライン・リービット氏も、「大統領はガザに地上部隊を派遣すると確約したわけではない」と述べた。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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米国、VOAとラジオ・フリー・ヨーロッパを閉鎖:その決定を分析

【ロンドンLondon Post=ラザ・サイード】

米国政府は最近、国際放送の主要メディアである「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」と「ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)」の閉鎖を発表し、驚きと論争を巻き起こしている。何十年にもわたり、これらの放送局は民主的価値観の促進、自由な報道、そして米国の国益を世界に発信する役割を果たしてきた。しかし、今回の決定により、その未来は不透明になっている。

Raza Sayed
Raza Sayed

この動きに対し、批判者は「米国の世界的影響力と報道の自由へのコミットメントを損なう」と懸念を示している。一方で、支持者は「変化するメディア環境の中で、米国の優先事項を再評価する必要がある」と主張している。

VOAは1942年、RFE/RLは1949年に設立され、米国のソフトパワーの重要なツールとして機能してきた。特に冷戦時代には、ソ連のプロパガンダに対抗し、鉄のカーテンの向こう側にいる人々に検閲のないニュースを提供することで、民主主義の理念を広める役割を果たした。

その後も中東、アジア、アフリカなどの地域に活動を広げ、独立したジャーナリズムを通じて人権を促進してきた。特に報道の自由が制限されている国々にとって、VOAやRFE/RLは貴重な情報源であり、国営メディアが支配する環境の中で信頼できる報道を提供する生命線となっていた。

米国政府は、今回の閉鎖を「資源の再配分と運営の効率化の一環」と説明している。支持者は、「冷戦時代とは異なり、デジタルプラットフォームやソーシャルメディアの発展により、従来型の放送の重要性が低下した」と指摘。これまでVOAやRFE/RLに割り当てられていた予算を、「デジタル外交の強化やオンライン上での偽情報対策に振り向けるべき」だと主張している。

また、米国の外交政策の優先順位が変化している可能性もある。現在の国際情勢では、民主主義の推進よりも、中国の影響力への対抗や安全保障上の脅威への対応といった地政学的な課題に焦点が移りつつあるという見方もある。

VOAやRFE/RLの閉鎖が決定されたことで、「米国の影響力が低下するのではないか」という懸念が広がっている。これまで米国の自由な報道を頼りにしてきた人々にとって、新たな情報源の確保が課題となるだろう。

一方で、今後の米国の公共外交戦略がどのように変化するのかにも注目が集まっている。デジタル技術を活用した新しい形の国際情報発信が、VOAやRFE/RLに代わる役割を果たすのか、それとも民主主義の発信自体が後退してしまうのか—その行方はまだ不透明だ。

米国政府による「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」および「ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)」の閉鎖決定は、大きな議論を巻き起こしている。ジャーナリスト、人権擁護者、外交政策専門家からの強い反対の声が上がっており、今回の決定は米国の報道の自由と民主主義の価値観に対する長年の取り組みからの重大な後退を意味すると批判されている。

特に、独立系ジャーナリズムが乏しい地域では、VOAとRFE/RLが果たしてきた役割は大きい。これらの放送局の閉鎖により、プロパガンダや誤情報に対抗する手段が失われ、脆弱な立場にある人々が一層危険にさらされると懸念されている。また、今回の決定は「米国が報道の自由や人権擁護のリーダーとしての役割を放棄した」との印象を国際社会に与えかねず、権威主義的な政権を勢いづかせ、民主主義活動家の立場を弱める可能性がある。

VOAとRFE/RLの閉鎖は、米国の公共外交の今後について重要な疑問を投げかけている。グローバル化が進む世界において、国際的な視聴者と効果的にコミュニケーションを取ることは、安全保障および外交政策において極めて重要である。

デジタルプラットフォームの発展により、新たなエンゲージメントの機会は増えているが、一方で偽情報の拡散や検閲の厳しい国々への情報到達の困難さといった課題も浮上している。このため、一部の専門家は、VOAとRFE/RLを完全に廃止するのではなく、再編・近代化するべきだと提案している。例えば、より機動的でデジタル重視の組織へ統合し、21世紀の情報環境に適応する形に改革することで、その使命を維持しつつ、より効果的に情報を発信できる可能性がある。

今回の決定の背景には、財政的要因、メディア消費の変化、歴史的な再評価、政治・外交的な要因が絡んでいる。これらの要素は、国際放送のあり方や米国外交政策の変化を反映している。

VOAとRFE/RLは、冷戦時代においてソ連のプロパガンダに対抗し、東欧諸国を中心に民主主義の価値観を広めることを目的として運営されてきた。VOAとRFE/RLは、正確で公平なニュースを提供することを使命としていた。しかし、1991年のソ連崩壊以降、その役割に疑問が呈されるようになった。クリントン政権時代の1993年には予算削減が提案され、1994年の「国際放送法」により、米国の国際放送の効率化が図られた。

1. 財政的要因

VOAとRFE/RLの運営には膨大な財政資源が必要であり、米政府は予算削減を求められていた。従来のラジオ放送はリスナーの減少が顕著であり、デジタルメディアやインターネットニュースの台頭により、政府資金を投じる意義が低下したと指摘されている。

2. 批判の高まり

VOAとRFE/RLは近年、偏向報道や特定の政治的立場を支持する報道を行っているとの批判を受けてきた。米国政府の一部の高官や保守派からは、「客観的なジャーナリズムの役割を果たしていない」と非難され、「活動家の集まりになってしまった」との指摘もある。特に、リチャード・グレネル特使やイーロン・マスクといった著名な人物は、VOAとRFE/RLの閉鎖を支持しており、「今日の自由で開かれたメディア環境においては、これらの組織の必要性は低下している」と主張している。

3. 政治・外交的要因

VOAとRFE/RLの存在は、外交的な摩擦の原因にもなってきた。これらの米国政府資金によるメディアは、外国政府から「独立報道の名を借りたプロパガンダ」と非難されることも多く、米国の国際関係に影響を及ぼしてきた。今回の閉鎖決定は、多極化する世界において米国の外交戦略を見直し、不必要な緊張を緩和する意図がある可能性も指摘されている。

VOAとRFE/RLの閉鎖は、米国の国際放送のあり方に関する根本的な再評価の結果といえる。冷戦の終結後、政府資金によるラジオ放送が依然として国際的な影響力を持ち続けるのかという疑問が提起されてきた。

今回の決定には、①財政的制約、②メディア消費の変化、③放送局に対する批判の増加、④外交戦略の見直し、といった複合的な要因が関与している。

一方で、この決定が米国の国際的な影響力を弱め、偽情報との戦いにおいて不利に働く可能性もあるとの懸念も根強い。VOAやRFE/RLの役割をどのように引き継ぎ、デジタル時代において民主主義の価値観をどのように発信していくのか、米国は新たな戦略を模索する必要がある。

今回の決定が公共外交の近代化を意味するのか、それとも長年築き上げた情報発信の基盤を失うことになるのか、今後の展開が注目される。(原文へ

INPS Japan/London Post

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