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「変革は今始まる」: 英国選挙でスターマー労働党が勝利 ウクライナ支援継続を誓う

【ロンドンINPS Japan/London Post】

英国の総選挙で労働党が地滑り的勝利を収め、14年にわたる保守党支配に終止符を打った。この歴史的勝利は英国政治の転換を告げるもので、サー・キア・スターマー氏が新首相に就任することが決まった。しかし、国内経済問題や生活費危機への新たなアプローチを公約に掲げたにもかかわらず、スターマー政権は、ロシアとの紛争が続くウクライナに対する前政権の強力な軍事・外交支援路線を維持する意向を示している。

労働党は欧州連合(EU)に対してより融和的な姿勢をほのめかす一方、北大西洋条約機構(NATO)やその他の同盟国に対しては、英国がロシアを欧州にとって重大な脅威と見なし続けることを確約している。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領はこの継続を歓迎し、退任する保守党に感謝の意を表し、次期労働党政権の「選挙での圧勝」を祝福した。

「ウクライナと英国は、これまでも、そしてこれからも、強い絆で結ばれた信頼できる同盟国であり続けるだろう。我々は、生命、自由、ルールに基づく国際秩序という共通の価値観を守り、前進させ続けるだろう。」

61歳の元弁護士で、4年前に労働党の党首に就任したスターマー氏は、バッキンガム宮殿を訪れてチャールズ国王に謁見し、正式に首相としての任期を開始する予定だ。

責任への委任

夜明けに支持者を前に演説したスターマー党首は、このような職務権限に伴う責任を強調した。退任する保守党のリシ・スナク首相は、NATOとウクライナの強固な支持者であり、戦車やストームシャドウ・ミサイルの供与、ウクライナ人パイロットへのF-16訓練など、在任中の「揺るぎない支援」と「共通の成果」に感謝の意を表した。

新外務大臣に就任するデイヴィッド・ラミー氏は、労働党が政権に復帰すれば「進歩的リアリズム」の外交政策がもたらされるだろうと語った。労働党は欧州諸国とのつながりを取り戻し、気候変動に対処し、グローバルサウスとの関わりを深めることを目指している。

国防に関しては、スターマー氏と労働党は、大西洋横断安全保障におけるNATOの役割へのコミットメントを「揺るぎないもの」としている。また、軍事的、財政的、外交的、政治的支援を含むウクライナへの「揺るぎない」支援と、ウクライナのNATO加盟への道を約束した。

London Post

外交政策におけるコンセンサス

チャタムハウスのU.K.イン・ザ・ワールド・プログラムのディレクター、オリビア・オサリバン氏は、外交政策、特にウクライナに関する労働党と保守党の意外なコンセンサスについて、「労働党の外交政策の立場は、保守党とそれほど異なるものではありません。」と指摘し、ウクライナを支援するという共通のコミットメントを強調した。

エストニアのカラ・カッラス首相は、欧州連合(EU)の外交トップに就任する見込みだが、スターマー氏の勝利を祝福し、共通の安全保障に対する英国のコミットメントを称賛した。「私たちの素晴らしい協力関係は、今後もますます発展していくことでしょう。」と付け加えた。

スターマー新首相は、ゼレンスキー大統領と早い段階で会談する意向を示しており、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「ウクライナにおける侵略者」と評している。彼は、ウクライナ支援における統一戦線の重要性を強調した。この姿勢は、7月9日〜11日にワシントンで開催されるNATO75周年記念首脳会議と、7月18日にブレナム宮殿で開催される欧州政治共同体首脳会議で試されることになる。

国内の課題

英国の有権者は、新型コロナウィルス感染症のパンデミックとロシアのウクライナ侵攻に続く経済的苦境と停滞からの救済を求めて労働党を支持した。労働党が勝利したことで、下院の過半数獲得に必要な326議席を超え、保守党がさらに多くの議席を失う中、200議席以上を獲得した。

スナク氏は譲位演説で労働党の勝利を認め、スターマー氏に祝辞を述べた。右派ポピュリストの改革党党首ナイジェル・ファラージ氏も初めて議席を獲得し、最近の欧州議会選挙における右派の躍進を反映している。

スターマー新政権は、国内の経済問題に対処する一方で、英国の強い国際姿勢(特にウクライナ支援)を維持するという二重の課題に直面している。今後数週間の新政権の行動は、そのリーダーシップを確固たるものにし、国内と世界の両方の課題に対処する上で極めて重要である。(原文へ

INPS Japan/London Post

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気候の崩壊がネパール西部の苦境を拡大

猛暑と干ばつに苦しむネパール西部は深刻な水不足に陥っている

【カイラリNepali Times=ウンナティ・チャウダリー】

ネパール西部の山岳地帯で灌漑が困難なために食料不足が常態化しており、農民らはより耕作が容易な平野部(タライ平原)に移住してきた。

しかし、モンスーンの遅れに伴う今年の灼熱の熱波は、国連の持続可能な開発目標(SDG)の達成に向けたネパールの成果を損なう恐れのある水危機につながった。気候危機は同時に水危機であり、食糧生産、栄養、安全な飲料水の確保に悪影響を及ぼしている。

しかしすべてを気候変動のせいにするわけにはいかない。例えば、以前は稲作の最後の手段として使用されていた井戸は、水位の低下により干上がってしまっている。

高速道路が通過するアッタリヤ市には、かつて深井戸が5つあり、毎日400万リットルの水を市内の5500世帯に供給していた。しかしこの3年間で、そのうち4つが枯渇した。自治体はさらに深さ80メートルの井戸を4つ掘ったが、それでも1年のうち6カ月しか水が得られない状況だった。

インドとの国境に近い人口30万人のダンガディ市では、家庭用井戸が涸れた後、自治体が3つの深井戸を掘ったが、この夏には、その深井戸さえも枯渇してしまった。この状況は近隣の他の町村でも同様である。

Towns in Tarai are parched for drinking water, there is no water for irrigation. They have to dig deeper for water and even then, new borewells have dried up. Photos: UNNATI CHAUDHARI

専門家らは、タライ地方の水位低下の原因は、ネパールと隣国インドの両方で地下水が過剰に取水されているためと指摘している。インドでは農家が灌漑用ポンプの電力に補助金を受け取っているほか、この地域の産業や農場も、独自の井戸を掘削してかつては豊富だった地下水を利用している。

「冬が終わると、水は枯渇し始めます。そして6月にモンスーンが来るまで、水はまったくありません。」と近くの町クリシュナプルに住むプラム・チャウダリー氏は語った。

実際、水不足にあえぐ町や都市は、貴重な水を求めてますます深く掘削し、地下水の供給量を減らしている。ミランプル町では深さ90メートルの井戸を掘ったが、10日で枯渇してしまった。

ネパールでも隣国インドでも、地下水の過剰採取がタライ平原の水位低下を引き起こしている。

ネパール西部の慢性的な冬の干ばつ、熱波、不規則なモンスーンにつながる気候破壊の影響は、人口増加と家庭・農業利用の増加による地下水の乱開発によって一層深刻な状況に陥っている。

Over-extraction of ground water both in Nepal and neighbouring India is causing water lavels to fall in the Tarai.

「10年前は20メートルも掘れば一年中水が湧きましたが、今では80メートル掘っても水が出ません。灌漑のための水はおろか、飲み水さえもないのです。」とカイラリ村の農民、カリデヴィ・チャウダリーさんは語った。

水の専門家でトリブバン大学中央環境科学部のスディープ・タクリ教授によると、タライ平原一帯で地下水位が低下した主な原因は、過剰な取水、チュレ川の集水域での掘削、砂の採掘、そして気候変動であることが調査で明らかになっているという。

「私たちは水循環を乱し、気候危機は長引く干ばつと不安定なモンスーンによって問題をより深刻にしています。つまり、自然による地下水の再充填が十分にできなくなっていることを意味します。」

タライ地方の集落が増え、水需要が増えるにつれて、井戸とボーリング井戸の間の距離も縮まっている。実際、カイラリ地区とカンチャンプル地区には140の井戸が掘られており、そのうち水がでたのは91のみであった。

また、地下水資源・灌漑開発課の事務所によると、この2地区では1,001本の深井戸からもポンプで水が取水されている。

タライ地方の地下水は、地方議員らによって交渉材料として利用され、選挙民をなだめるために無計画な井戸の掘削がなされている。

ネパールの州および地方政府は、地下水の最大利用という連邦政府の方針に従い、100のボーリング井戸を掘削する予算で、地下水掘削の補助金に多額の投資を行ってきた。

Tarai’s groundwater is being used as a bargaining chip by elected officials, who have drilled arbitrarily to appease voters.

カンチャンプル地区(カトマンズの西640キロ)のマハカリ灌漑プロジェクトの責任者であるタラ・ダッタ・ジョシ氏は、これらのプロジェクトを通じて抽出された地下水を今後20年間利用することが目的だったが、90のボーリング井戸うち6つは既に枯渇してしまったと語った。

チューブ井戸では地下40メートルまで水を汲み上げることが可能だが、タライ西部の大半の集落ではもはやこの深さで水は見つからない。一方、ボーリング井戸では110メートルまで掘削され、被圧地下水は地下110~400メートルの間で抽出される。

専門家によれば、タライの地下水は、有権者をなだめるために恣意的に掘削する政治家らに、交渉の切り札として利用されているという。ある地域にどれだけのボーリング孔を掘ることができるのか、どれだけの水を採水できるのか、政策だけでなく調査も不足している。

カイラリ村のサンカル・ダッタ・アワスティー氏によると、連邦政府の分権化により、地元の政治家たちは、誰が自分の選挙区により多くの水を供給できるかを競うようになったという。実際、この自治体では、州政府と連邦政府が実施する大規模なプロジェクトに加え、2017年の自治体設立以来、1,200の小規模な地下水プロジェクトが実施されている。

「政治家らは、この無秩序な採掘が将来この地域にどのような悪影響を与えるかよりも、いかにして自身の選挙区内の地下水プロジェクトを繰り返し確保するかに余念がありません。」とアワスティー氏は語った。

カイラリ村で掘削された井戸の1つは、4年前にラメシュ・チャウダリー氏が灌漑用に掘削させたが、運河が完成するまでの2年間で枯渇してしまった。近くのランプール村でも、灌漑用に掘られた深さ200メートルの井戸が涸れた。

One tubewell used to be enough to sustain a village some decades ago, while today even three tubewells in one household in not enough to fulfil basic water needs.

「水はどの農家の畑にも届かず、1000万ルピーの無駄遣いです。」とチャウダリー氏は語った。

水専門家のタルカ・ラジ・ジョシ氏は、数十年前は1つのチューブ井戸で村を維持できたが、現在では1つの家庭に3つのチューブ井戸があっても基本的な水需要を満たせていないと指摘した。

「地方、州、連邦政府の水分配計画は、タライ地方の地下水位に大きな影響を与えるでしょう。この危機が将来に何を意味するのかについて誰も考えていません。」とジョシ氏は語った。

子どもたちは汚染された水を飲まざるを得ないため、水不足はSDGsの目標である乳幼児と子どもの死亡率削減におけるネパールの成果を損なう恐れがある。また、灌漑用水の不足により食糧生産が減少するため、栄養状態にも悪影響が出る。これらすべてが、国外移住の傾向に拍車をかけている。

解決策は、チュレの樹木再生による地下水の再充填を可能にし、無秩序な都市化を規制するゾーニング、深い地下水抽出に対する課税、カルナリ川とマハカリ川からの水を導入して供給を補強し、地下水への依存を減らすことである。

水不足がスルケット村の人口流出の原因となっている

レクチャ村の住民は水への絶望を示すために、草の籠に入れた水差しを持って自治体の事務所まで行進した。

6月のモンスーン雨の開始が遅れたため、レクチャ村は深刻な水不足に陥った。住民たちはいつものように、地域の水道のそばにある藁籠に水差しを入れて一日を始めた。しかし、住民たちは井戸に水を汲みに行くのではなく、代わりに市役所にデモ行進に出かけた。

村の給水闘争委員会は、区議会議員のタペンドラ・チェトリ氏に率いられ、彼は水を求めて自治体の外で座り込みをせざるを得なかった。

かつてレクチャ村は、肥沃な土壌と豊富な水のために入植者にとって理想的な場所だった。レクチャ村には11の井戸があり、何十年もの間、家族を養うのに十分な水を供給していたが、今ではすべて枯渇してしまった。

「村人たちは今、井戸の底に残ったわずかな水を布で濾過して集めています。この村は渇きで死にそうです。」とチェトリさんは語った。

極度の水不足により住民は村を離れはじめている。レクチャ村には5年前まで115世帯が暮らしていたが、その後35世帯が別の場所に移住した。カギサラ・シャヒさんは、水差しを持って農村自治体本部まで歩いて行った村人の一人だ。他の隣人たちと同じように、彼女もレクチャ村で生きていくのが難しくなってきている。

「私たちの訴えは聞き入れられなかったので、水差しを持ってここまで歩いてきて、指導者に私たちの苦境を訴えました。他のことは何とかやりくりしていますが、とりわけ暑くなってきた今、水がなければ生活を維持するのは不可能です。」とシャヒさんは語った。

村の井戸に水があった頃でさえ、各家庭が水を汲むには何時間も行列に並んだものだ。村の井戸が枯渇した今、他の水源までの道のりはさらに長くなり、この重労働は女性たちにのしかかっている。

「家事をこなしながら、農作物や家畜の世話をし、さらに遠くまで水を汲みに行くには、一日に十分な時間がありません。」と、シャヒさんは語った。

4年前、農村自治体はカルナリ川から村に水を引く計画を立て、1720万ルピーの予算を計上した。しかし、道路へのアクセスが困難だったため、このプロジェクトは頓挫した。

チャウクネ農村自治体のカドカBK議長は、レクチャ村に飲料水を供給するには、自治体のリソースだけでは不十分だと言う。「この村は遠隔地にあるため、連邦政府と州政府の支援が必要なのです。」

一方、村人たちは青い雪解け水を湛えたカルナリ川を見下ろしながら、彼らの畑は干上がり、子供たちは渇きに苦しんでいる。(原文へ

INPS Japan/ Nepali Times

This article is brought to you by Nepali Times, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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|上海協力機構首脳会議|専門家らが議長国終えたカザフスタンの成果を振り返る

【アスタナINPS Japan/The Atana Times=アセル・サトゥバルディナ】

上海協力機構(SCO)の第24回首脳会議(7月3日・4日)がアスタナで開催される中、専門家たちは現在の地政学的動向におけるこのイベントの重要性と、SCOの議長職を終えたカザフスタンの役割について考察している。

カザフスタンは昨年7月にインドからSCO議長職を引き継いだ。それ以来、同国は、現在10カ国が加盟するSCOの安全保障、安定、発展に取り組むため、さまざまな領域で150を超えるイベントを開催してきた。

2日間にわたった首脳会議では、アスタナ宣言、カザフスタンが提案した「公正な平和、調和、発展のための世界団結構想」、2025年までのSCO開発戦略、2025-27年のテロリズム、分離主義、過激主義に対抗するための協力プログラム、麻薬対策戦略、エネルギー協力開発戦略など、いくつかの重要文書が採択された。

各国首脳を歓迎したカシムジョマルト・トカエフ大統領は、「SCOはすべての加盟国の声を考慮するユニークなプラットフォームである。」と指摘したうえで、「条約基盤は、反麻薬戦略、経済協力戦略実施計画、環境保護協定、エネルギー協力開発戦略を含む60の新たな文書で充実したものとなりました。 SCOのパートナー国際機関の範囲も拡大され、 投資に関する特別作業部会の活動も再開されました。また、 各国通貨による決済への移行プロセスは、前向きな勢いを増しています。」と語った。

カザフスタン戦略研究所のアジア研究部門のバウルジャン・アウケン主任専門家では、「カザフスタンはSCOのすべての分野で利益を得ています。」と語った。

「政治的には、上海協力機構への加盟はカザフスタンに国際政治における発言権を与えています。 地政学的な混乱が続いている現在、多国間フォーマットで外交関係を構築することは、カザフスタンにとって外国投資を確保・誘致する上で特に重要です。」とアウケン主任専門家はアスタナ・タイムズ紙の取材に対して語った。

「また経済的には、貿易関係の強化に寄与しています。政府のデータによると、カザフスタンのSCO加盟国との貿易額は過去5年間で56.5%増加し、660億ドルに達しました。2024年1月から4月の間に、域内の貿易量は191億ドルに達しました。」

「SCOへの加盟のおかげで、カザフスタンの企業は商品を輸出する機会を得ています。 例えば、中国を例にとると、技術の時代において、カザフスタンの市民は中国のオンラインプラットフォームに商品を出品することができます。昨年、大統領の訪問中に、中国の主要なeコマースプラットフォームに我が国のパビリオンが開設されましたが、これはその典型的な事例です。」とアウケン氏は語った。

安全保障の強化は、SCO設立当初からの目的の一つであり、これはテロリズム、過激主義、分離主義という、三つの悪とされる問題に対処することを含む。アスタナ首脳会議で採択された主要な文書の一つは、2025年から27年にかけての「テロリズム、分離主義、過激主義に対抗するための協力プログラム」である。

「今日の首脳会議では、麻薬対策、とりわけ麻薬密売に対抗する戦略が採択されましたが、これは我が国にとっても関連性のある問題です。麻薬の国民への蔓延を防ぐことは特に重要です。」と、アウケン氏は付け加えた。

「SCOは東西の架け橋として重要な役割を担っており、カザフスタンの議長国就任は、地政学及び地経学的な課題に対処する好機を提供している。」とインドの英字ビジネス専門日刊紙『エコノミック・タイムズ』の外交エディター、ディパンジャン・ロイ・チャウドリー氏は語った。

SCOは、東西の架け橋として重要な役割を果たしており、カザフスタンの議長職は地政学的および地経学的な課題に対処する機会を提供すると、インドの英字ビジネス紙The Economic Timesの外交編集者であるディパンジャン・ロイ・チャウドリー氏は語った。

「カザフスタンが前回SCOの議長国を務めたのは2017年でした。以来、コロナ禍や世界各地の戦争など、多くの地経学的、地政学的な課題が山積しています。成長する多国間組織として、SCOはこれらの課題に対処する必要があります。トカエフ大統領は、SCOを東西の架け橋として活用するための良い方策を持っており、その成功を期待しています。」と、この記事にコメントを寄せた。

チャウドリー氏はまた、「ベラルーシがSCOに加盟したことで、欧州連合と直接国境を接することになった。」と指摘したうえで、「これは接続性の健全な兆候でもあります。しかし、接続性は一つの回廊に限定されるべきではありません。接続性には複数の回廊があり、カザフスタンは東西回廊と南北回廊の両方に関心を持っています。南北回廊は、カザフスタンと中央アジアがインド洋やインドとつながるのに役立ちます。インドはSCOに加盟する大国のひとつで、人口も市場規模も大きい。 それはSCOに多様性をもたらし、組織の精神に良い影響を与えるでしょう。」と語った。

チャウドリー氏は、インドとユーラシア諸国との間の「自然なパートナーシップ」を強調し、SCOは両地域を結ぶことで多様性と経済成長を促進していると語った。

セルビア在住の研究者・アナリストであるニコラ・ミコヴィッチ氏は、SCO首脳会議は、中堅国であるカザフスタンにとって中央アジアでの地位を強化し、SCO加盟各国との二国間関係を発展させるための機会と見ている。

「カザフスタンは非常に建設的な立場をとっており、SCOがとるべき重要なステップを提示しています。 対立的な政策を追求しているように見える大国とは異なり、カザフスタンは実際に平和的アジェンダと紛争の外交的解決を促進しています。 自国の地政学的利益を考慮し、このアプローチが大国に採用されるかどうかは、これからわかるだろう。」とミコヴィッチ氏はアスタナ・タイムズ紙の取材に対して語った。

ミコヴィッチ氏は、SCOの有効性を高めるために、域内でより多くの経済プロジェクトが必要であると強調した。 また、「加盟国間の地政学的な相違が障害になっている」と指摘したうえで、「カザフスタンは、これらすべての国々の間でバランスを取ろうとしている。」と語った。(原文へ

INPS Japan

この記事は、The Astana Timesに初出掲載されたものです。

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国連事務総長、カザフスタンを称賛し、上海協力機構との緊密な協力を約束

カザフスタンは現実的かつ平和を志向した「マルチ・ベクトル外交」政策をとっている(ロマン・ヴァシレンコカザフスタン共和国外務副大臣)

|視点|カザフスタンの宗教間対話イニシアチブ:知恵とリーダーシップで世界の調和を育む(浅霧勝浩INPS Japan理事長)

|視点|曖昧な戦争(ロマン・ヤヌシェフスキーTVレポーター・ジャーナリスト)

ガザ地区とイスラエルで展開されている出来事には、深い誤解がある。多くの人々は、その複雑さに気づいていない。報道は断片的な情報を伝えるだけで、全体状況を提示することはない。なかには、情報を意図的に捻じ曲げた報道すらある。

【Tel Aviv INPS Japan=ロマン・ヤヌシェフスキー】

Scarcity of food in Gaza is increasingly causing malnutrition and severe hunger among the population as the war continues. Credit: WHO
Scarcity of food in Gaza is increasingly causing malnutrition and severe hunger among the population as the war continues. Credit: WHO

ガザでは、子どもを含む3万7000人以上の死傷者がでており、広範にわたる破壊と大量に発生した国内避難民の間に広がる飢餓、さらにはジェノサイド(大量虐殺)の非難を巡る報道がなされている。ガザ地区のパレスチナ人をとりまく状況は悲惨を極めている。私たちはこの紛争を見るとき、同時にこれらの悲劇的な出来事の根本原因、つまり紛争の発端となった10月7日のハマスによる緻密に計画されたイスラエルに対するテロ攻撃も忘れてはならない。

現在ガザ地区で起こっている戦争がもたらした現実を鑑みれば、国連が掲げる持続可能な開発目標のいくつかと密接に関連している。つまり、 第2目標「飢餓をゼロに」及び第16目標「平和と公正を全ての人に」である。

ハマスの秘密計画

多くの国でテロ組織と認識されているパレスチナのイスラム主義組織であるハマスは、2007年以来ガザ地区を支配してきた。その綱領には、イスラエル国家を破壊するという目標が明記されており、それは不可避的に事態のエスカレーションへとつながる。

ハマスは、イスラエル領土に侵入し、イスラエル人を殺害し誘拐する秘密計画を立てた。その目的はパレスチナの大義に世界の注目を集め、イスラエルを挑発してガザ地区に軍隊を展開することを誘発することにあった。テロ攻撃は、ユダヤ人の伝統的な休息日である安息日と重なるユダヤ教の宗教的祝祭日、シェミニ・アツェレットに強行された。ハマスはイスラエル人が警戒心を低下させるこの機会をあえて利用した。

当時イスラエル政府はハマスが暴力路線から離れたと考えており、軍も諜報部門も大規模な侵攻を予想しておらず、国境には少数の兵士しか配備されていなかった。ガザ国境沿いに設置されたセンサーや自動発砲システムを備えた「スマートフェンス」に依存していた。しかし、ハマス側は周到な計画を立て、イスラエルの防衛網をことごとく回避する形で侵入した。

Ma of Gaza and Israel. Public Domain.
Ma of Gaza and Israel. Public Domain.

10月7日の早朝、突如ガザ地区からイスラエル領に対してロケット弾の一斉射撃(攻撃開始から数時間で約3000発)が始まり、防衛システムを圧倒、同時に、数千人のよく訓練された重武装の武装勢力が複数の地点でガザ国境を突破し、イスラエルに侵入した。混乱のなか、国境を守るイスラエル兵は一掃され壊滅した。単体の戦車やパトロール隊では、数千人規模の武装勢力に対抗できなかった。武装警察も各地で抵抗したが、戦力差はあまりにも不均衡だった。

武装勢力はガザ国境沿いの国防軍拠点を占拠し、国境から20キロ以内のイスラエル領で残忍な虐殺を行った。民家に押し入り、住民やペットまでも射殺した。住民の中には、ハマスが発射したロケット弾の破片から身を守るために、シェルターに避難できた者もいたが、その後侵入してきたカラシニコフ銃で武装したハマス民兵の襲撃から逃れることはできなかった。

やがて、10代の若者たちを含む一部のガザ住民も、武装勢力による略奪行為に加わり、ユダヤ人の住宅を放火して回った。彼らは住民に対する残虐行為を映像に撮りソーシャルメディアで拡散した。少なくとも1つの事例では、人質のSNSアカウントを使ってフェイスブックで生中継し、友人の前で犠牲者を嘲弄し、その後一部を殺害した。

全体として、1日で約1200人のイスラエル人と外国人が死亡し、251人が誘拐された。

Private home in Be’eri following the Hamas October 7th attack. Around 70 Hamas militants of the al-Qassam Brigades, Nuseirat Battalion, along with DFLP militants had attacked the kibbutz and at least 130 people were killed in the attack, including women (such as peace activist Vivian Silver), children, and one infant, claiming the lives of 10% of the farming community’s residents. Dozens of homes were also burned down. This incident occurred concurrently with a series of other massacres and military engagements in multiple neighbouring Israeli communities, including Netiv haAsaraKfar Aza, and the Rei’m music festival massacre. Credit: Roman Yanushevsky

「スーパーノヴァ」音楽フェスティバルの惨劇

「スーパーノヴァ」音楽フェスティバルは、ガザ国境に近い自然の中で開催されていた。約3000人が参加していたが、ライフルとグレネードランチャーで武装した武装勢力に襲撃された。

ここでは少なくとも365人が殺害された。ご斉射の中には英雄的な行為で民間人を救おうとした兵士のエピソードが伝わっている。休暇中で武装していなかったイスラエル国防軍兵士のアネル・シャピラさんは、突如ハマスの襲撃に巻き込まれたフェスティバル参加者らを守るため、襲撃者たちが投げ込んでくる手榴弾を巧みに拾っては投げ返していた。彼は7つの手榴弾を投げ返すのに成功したが、8つ目が彼の手の中で爆発し死亡した。

テロリストがフェスティバル会場から延びる唯一の道路を封鎖したとき、ベン・シモニさんは自分の車にできるだけ多くのフェスティバル参加者を乗せて救出しようと、型破りな行動に出た。彼は、武装勢力が構築したフェンスの穴を通ってガザ地区に入り、パレスチナ領内を通り抜け、別の穴を通って再びイスラエル領に戻った。彼はそれを2度成功させたものの3回目の救出行動中に殺害された。

A Hamas militant pointing his gun into a shelter where attendees of the festival were hiding/ By Dashcam footage: No human authorship, Public Domain
A Hamas militant pointing his gun into a shelter where attendees of the festival were hiding/ By Dashcam footage: No human authorship, Public Domain

この際、武装勢力が捕虜にした少女たちに残忍な性的暴行を加え、生きたまま切断したという証言は数多くある。暴力行為の後、彼女たちは殺害された。約40人のフェスティバル参加者がハマスによるガザ地区に人質として連れ去られた。

11月末までにイスラエル政府は、一時的な停戦とイスラエルの刑務所からのパレスチナ人テロリストの釈放と引き換えに、約250人の人質のうち105人の解放を交渉することに成功した。しかしそれ以後、人質の解放を巡る交渉は停滞している。

戦争

10月7日のハマスによる攻撃は、イスラエルでは史上最悪のテロ攻撃として認識されている。その2週間後、イスラエルは、人質の解放とハマスの軍事能力を奪うことを目的とした軍事作戦をガザ地区で開始した。

ハマス側は2007年以来、イスラエルとの戦争に備えて積極的に準備を進めてきた。ガザ地区の市民のために用意された数十億ドルにのぼる援助は、軍事インフラに投資され、戦争に対処するための広大な地下トンネルのネットワークが構築された。

ハマス指導部にとって人命は何の価値もない。死者が多ければ多いほど、イスラエルへの圧力が高まるからだ。その結果、ハマスが意図的に住宅地に軍事インフラを配置し、イスラエルの陣地に攻撃を仕掛け、人道的危機を人為的に作り出すために到着する援助を略奪してきた。

対照的に、イスラエル軍は軍事作戦を有利に進めるうえで有効であるはずの奇襲の要素を犠牲にしてでも、作戦開始前に住民に警告を発することで犠牲者を減らす取り組みを余儀なくされている。

この国家とテロ組織の間のハイブリッド戦争では、ハマスは欺瞞に大きく依存しています。ハマスはガザ地区における犠牲者に関するデータの唯一の情報源であり、検証は不可能なのが実態だ。専門家は、死者に関する統計は非論理的で明らかに誇張され、操作されていると指摘している。しかし、代替となる数字がないため、国際社会はそれに頼らざるを得ない。

自然死も含め、ガザ地区での死はすべて自動的にイスラエルのせいにされる。ハマスが子どもや女性の死者数を水増ししているのは、パレスチナとイスラエルの紛争の詳細をよく知らない人々の同情をあてにしているからだ。また、イスラエルの攻撃で負傷したり死亡したりした人々を、変装した地元の人々が演じる「パリウッド」という現象もある。時には、「死んだ」役者が自分の役割を忘れ、目を開いたり、動いたりすることもある。

ハマスだけではない

実際、イスラエルはイランが作り上げた中東にいおける武装集団のネットワークである「抵抗の枢軸」と対峙している。レバノンのヒズボラ、イエメンのアンサール・アラー(フーシ派)、シリアとイラクの親イラン派などが含まれる。これらの武装集団は定期的にイスラエルを攻撃している。こうした攻撃の背後には、現在のイスラム政権がイスラエルの破壊にコミットしているイランの存在がある。

Fighters from the Lebanese militant group Hezbollah carried out a training exercise in Aaramta village in the Jezzine District, southern Lebanon, on Sunday, May 21, 2023. The show of force came ahead of “Liberation Day,” the annual celebration of the withdrawal of Israeli forces from south Lebanon on May 25, 2000, and in the wake of a recent escalation of the Israel-Palestine conflict in the Gaza Strip./By Tasnim News Agency, CC BY 4.0
Fighters from the Lebanese militant group Hezbollah carried out a training exercise in Aaramta village in the Jezzine District, southern Lebanon, on Sunday, May 21, 2023. The show of force came ahead of “Liberation Day,” the annual celebration of the withdrawal of Israeli forces from south Lebanon on May 25, 2000, and in the wake of a recent escalation of the Israel-Palestine conflict in the Gaza Strip./By Tasnim News Agency, CC BY 4.0

4月、イランは数百発のロケット弾と無人機でイスラエル領土を直接攻撃した。米国といくつかの穏健なアラブ諸国の関与により、この脅威は阻止された。

イランの最も重要な代理団体はレバノンのヒズボラでである。10月8日に、このグループはパレスチナのグループとの連帯を示すために、明確な理由もなく南に隣接するイスラエルを砲撃し始めた。

ヒズボラは徐々にイスラエルへの圧力を強め、国境付近のイスラエル北部の町に大きな損害を与えている。米国とフランスは両陣営を牽制し、この紛争が予期せぬ大規模な地域戦争にエスカレートするのを防ごうとしている。この紛争は今後数週間のうちに始まる可能性がある。

火の海

10月に、北部イスラエルの住民は命の危険を感じて家を離れ始めた。61,000人が政府出資のホテルで暮らしている。彼らはヒズボラがレバノンから北部イスラエルを激しく砲撃し続けているため、家に戻ることができない。

また、ガザ地区との国境近辺のコミュニティーに住む7万人の住民も家を離れることを余儀なくされた。何千もの家族が、戦争から遠ざけるために子供たちを海外に送り出した。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)

ハナ・ツィポリさんは、ロシアによりウクライナに対する「特別軍事作戦」が始まった後、2022年末にロシアからイスラエルに移住した。その当時、彼女はまさか戦火が移住先のイスラエルでも広がるとは想像もしていなかった。

「10月7日の朝、私たちはぐっすり眠っていましたが、突然空襲警報が鳴り響きました。」とツィポリさんは振り返った。「サイレンは鳴り止まず、私たちはシェルターに駆け込みました。それまで何の前兆もなく何が起こっているのかわからなくて、とても怖かったです。5歳の息子の目には恐怖が浮かんでいたし、私自身もとても不安だった。私たちはその部屋で一日中、爆撃のなかでニュースを読み続けました。その後イスラエルがハマスに宣戦布告した瞬間が特に印象に残っています。それは本当に恐ろしいと感じた瞬間でした。」

ツィポリさんによれば、テロリストが住宅に侵入し、人々を殺害しているという報道に接し、自宅にいれば安心という先入観が打ち砕かれたという。「国内司令官がイスラエル国民に3日分の食料と物資を備蓄するよう勧告を出した後、もう耐えられないと悟り家族を連れてキプロスに飛びました。」とツィポリさんは語った。

キプロスではしばらくの間、大きな音に怯えて暮らした。ツィポリさんの下の息子はテロリストをゲームの主要キャラクターにした。彼女自身はハマスによる残虐な暴力の動画を無数に目にしたことでPTSDを発症した。不安と恐怖に苛まれ、血を見ただけでパニックに陥ったり、街でアラビア語を耳にするだけで恐怖に襲われた。ツィポリさんが家族を連れてイスラエルに帰国したのは1カ月後のことだった。

On 7 October 2023, around 70 Hamas militants attacked Kfar Aza, a kibbutz about 3 kilometers (1.9 mi) from the border with the Gaza Strip, massacring residents and abducting several hostages.
On 7 October 2023, around 70 Hamas militants attacked Kfar Aza, a kibbutz about 3 kilometers (1.9 mi) from the border with the Gaza Strip, massacring residents and abducting several hostages.

シャイさんはレバノンとの国境から6キロ離れたクファル・ブラディム村に住むコンピュータープログラマーである。ハマスの急襲を契機に事態がエスカレーションするなか、彼は妻と2人の幼い子どもを連れて欧州に避難した。しかし3か月後には貯金が底をつき、雇い主からの現場復帰の要請もありイスラエルへ帰国した。

Hana’s kids waiting for their flight to Cyprus in October 2023. Credit: Hana Tzipori
Hana’s kids waiting for their flight to Cyprus in October 2023. Credit: Hana Tzipori

ほぼ毎日、空襲警報のサイレンが聞こえるという。ドローンやロケット弾が飛び交い、イスラエルの防衛システムがそれを迎撃し、大砲が応戦する音が聞こえる。

「私たちはみな緊張しています。家族を残して仕事に出るのが怖い。ありがたいことに、自宅で仕事をする許可をもらうことがよくあります。この不安のせいで、毎晩お酒を飲むようになりました。落ち着くためにマリファナも吸いますが、リラックスできません。いつも緊張していて、家族のことが心配なんです。」とシャイさんは語った。

私たちの世代は比較的平和な時代を生きてきた。しかし、ここ数年、戦争は思いのほか身近なものであることが明らかになっている。第二次世界大戦後に形成されたグローバル・システムは、紛争を解決する手段として戦争を否定したが、徐々にそれは摩耗していった。その結果、世界ではより多くの戦争が起きている。私たちの世代は、子どもたちや孫たちを戦争から守り、私たち全員により良い未来への希望を与える新しいシステムを開発する必要がある。(原文へ)|ロシア語中国語

INPS Japan

This article is brought to you by INPS Japan in partnership with Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

*INPS Japanでは、ガザ紛争のように複雑な背景を持つ現在進行中の戦争を分析するにあたって、当事国を含む様々な国の記者や国際機関の専門家らによる視点を紹介しています。

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|インド|1991年のトロンベイ放射能漏れの影響を追う

【ムンバイ(ロンドン・ポスト)=フルトウィ・クシルサガル、スマイヤ・アリ】

セメントで固められ、有刺鉄線が張り巡らされたバーバ原子力研究センター(BARC)の複合施設に隣接して、ムンバイ東郊のトロンベイ村の集落がある。この付近の特徴は、トタン屋根の家屋と無数の狭い連絡通路だ。

この区域では、鼻を突くような化学薬品のような異臭が漂っている。トロンベイ村は、BARC施設内にある2つの研究炉「シーラス(CIRUS)」と「ドゥルヴァ(Dhruva)」から歩いて行ける距離にある。

Map of India
Map of India

インド政府当局はこの原子炉の秘密を70年近くにわたって隠匿してきた。1991年12月1日、シーラスとドゥルヴァ原子炉付近から大量の放射線漏れ事故があった。

この事件を報じたのはインドの非核化を求める雑誌『アヌムクティ』の1992年8・9月号であった。トロンベイの原子炉から有害な物質が漏れて深刻な土壌汚染を引き起こし、さらに有害な廃液がアラビア海に流出した可能性が指摘された。

放射性化学廃液が縦横に流れている場所に形成されたこの地域では、高い数値のセシウム137があると推定されている。この高い数値は、原子炉と海との間の土壌の中に広範にみられた。これらの原子炉の事業者が引いたパイプラインは、最終的に水の流れに行き着く。

質問を受けたBARCの科学者は、「入植地はありません。」と述べ、施設周辺における住民の存在を否定した。しかし、近くのトロンベイ・コリワダやトロンベイ・チータに居住区があり、その住民の大部分は低所得者層の漁民だ。

ムンバイ在住のルパ・チナイ記者は1992年当時この流出事故について報じ、放射性物質の海洋流出が食物連鎖を阻害する危険性を指摘した。その中でチナイ記者は、「放射性物質は水中で見えませんし、長期間残留します。例えば、汚染された海産物を人間が取り込むことで、人体に重大な影響をもたらす可能性があります。同様に、水、植物、鳥、昆虫が放射性物質を媒介しますが、地域住民たちは放射性物質が流出した事実を今日まで知らされていません。」と記している。

1991年の放射線漏れ事故の現場に最も近い病院を訪問したところ、「1991年から2000年の間、死産する事例が極めて多かった。」との証言が病院のベテラン看護師から得られた。1991年とはちょうど放射線漏れ事故が発生の年である。

Laboratories BARC also played an essential and important role in nuclear weapons technology and research in India. The plutonium used in India’s 1974 Smiling Buddha nuclear test came from a research reacter CIRUS here. Photo: Nuclear reactor of Bhabha Atomic Research Centre (view from Arabian sea) By Sobarwiki – Own work, Public Domain.

原子力規制委員会(AERB)の元委員長であるA・ゴパルクリシュナン博士は、1970年代から80年代にかけて多くの村人が臨時労働者として放射性物質の除去に従事していたことを指摘した。トロンベイの村には、毎日技術者エリアに入る前と退出する際に放射能被曝の有無をチェックされるBARCの技術者が多数住んでいた。すでに退職している技術者に質問したところ、当時その数値に上下の変化があることを認識しておらず、作業中は原発施設のオペレーターの指示に依存していた語った。

バーバ原子力研究所ウェブサイトに掲載されている安全マニュアルによると、包括的なモニタリングと定期的な検査が重要であるという。

トロンベイの住民に取材してみると、BARCへの不満の声が聞かれた。「BARC従業員のほとんどがこの地区から出ているにもかかわらず、BARCの人間が定期的な健康診断や調査に来たことはありません。」と、ある住民は語った。

さらに、1986年環境保護法第2章の条項は、環境の質の向上や公害の予防・抑制・緩和について説明している。

トロンベイ・コリワダの漁民らは現在、魚の種類が少なくなってきたことに不平を述べている。コリワダの漁民サンジェイ・トゥルベカル氏は、「網にかかってくる魚が依然と比べて小さくなってきた。」と語った。

BARCの運営側と科学者らは、文書や安全マニュアルをウェブサイトで公開していると主張している。さらなる情報はこちらで。

インドの反核抵抗活動

インド南部のタミル・ナドゥ州には国内最大級のクダンクラム原子力発電所がある。1979年年に建設が提案されて以来、地元住民は反対運動を続けてきた。抗議者たちは、原発から放出される排水が海に流れ込み、魚の質に影響を及ぼすと主張している。インドの雑誌『Caravan』は、日本の福島原発事故の後、2011年にプロジェクトに対する抗議が高まったと報じている。原発の稼動以来、魚の質と種類が低下していると、魚類労働者たちは語っている。

原発稼働に向けた最終的な作業が行われていた2012年の抗議活動では、66人が逮捕され1人が殺害された。

マハラシュトラでは、タラプール原発の「負の側面」について、人々が折に触れて抗議している。インドの新聞『テレグラフ』紙は、同原発は地元の村民や漁師らの反対を押し切って稼働したと報じている。

しかし、バーバ原子力研究センターの研究者が行った調査によると、過去20年間、インドにある6つの原発からの放射能放出と潜在的な環境破壊は「最小限」であったと主張している。

しかし、バーバ原子力研究センターの研究者らが行った調査によると、この20年間にインドの6カ所の原発から排出された放射性物質やそれが環境にもたらしうる被害は「最小限」であると主張している。(原文へ

INPS Japan/London Times

バーバ原子力研究センター(BARC)インドの核兵器技術と研究において重要な役割を果たした。1974年の核実験(微笑むブッダ)で使用されたプルトニウムは、ここにある研究用原子炉CIRUSから供給された。

This article is brought to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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侮辱、病気、死—パキスタンの下水作業員の生活

【カラチIPS=ゾフィーン・イブラヒム】

まず黒髪の頭が、次に胴体が現れた。頭髪の薄くなった男が自らの体を持ち上げ、マンホールの淵に手をかけて、2人の男に引き上げられた。苦し気に息をするその男は40代後半のようだ。彼が出てきたマンホールの中で悪臭を放ちながら渦巻く水と同じ濃い色のズボンをはいて、マンホールの端っこに座っている。

これはカラチでよくみられる風景だ。この都市では、2000万人以上の住民が毎日4億7500万ガロンの下水を敷設から数十年経ち老朽化しているシステムに流している。

この2年で100回以上は下水に潜って仕事をしたアディル・マシ(22)は「自分の腕は上司に示すことができた。うまく仕事ができる。」と語った。彼は今年後半、カラチの上下水道公社(正規名称「カラチ上下水道委員会:KWFC」、通常「水委員会」)でカチャ(非正規雇用)からプッカ(正規雇用)への昇進を狙っている。

月収2万5000ルピー(90米ドル)で3カ月ごとにまとめて7万5000ルピー(269米ドル)を受け取るアディルは、正規雇用になれば、シンド州の最低賃金制度によって少なくとも3万2000ルピー(115米ドル)は受け取れるようになる。

左の耳たぶに金属製のピアスをつけたアムジャド・マシ(48)は、「初めての経験というのは、いつだって一番恐ろしいものです」と振り返る。下水を詰まらせないように手作業を行う約2300人の下水処理労働者の中で、彼はアディルに、汚泥に飛び込む際の注意点を教えたという。「死を避けるには賢くならないとね。潜る以上、死のリスクは付きものだから。」

岩や汚泥の入ったバケツを引き上げるためにマンホールを降りていくときに心配すべきことは、ゴキブリの大群でもマンホールの中を漂う悪臭でも、汚水を泳ぐネズミでもなく、汚水を浮遊している刃物や使用済みの注射器なのだ。

Sewer work is dirty but essential work in a busy city like Karachi. A worker popularly known as Mithoo rests after unblocking sewage. Credit: Zofeen T. Ebrahim/IPS

しかし、下水の中に入っていくのは最終手段である。「私たちはまず、長い竹のシャフトでゴミを突いてほぐし、詰まりを解消しようとします。それがうまくいかないと、側溝に降りて手で掃除します。」とアムジャドは語る。彼は2014年に公社に採用され、2017年から正社員となった。

毒のマンホール

上下水道公社は、危険な化学物質や下水中を流れるモノや微生物から身を守るための防護器具を労働者に供与しているというが、アムジャドのようにその着装を拒絶するものも多い。

「岩や石を持ち上げるには、自分の足で感触を確かめる必要があるんです。大丈夫です。病院に治療に行って、また仕事に戻ってくる。それだけのことです。」とアムジャドは語った。

匿名を条件にIPSの取材に応じた上下水道公社の元職員によると、死傷者が何人も出ているという。「安全規則を遵守している労働者だけをマンホールに送り込むかどうかは、上司の考え方ひとつです。健康上の危険どころか命の危険すらある仕事ですから、ガスマスクやはしご、手袋のような防護器具が最低限含まれていなければなりません。」と語った。

物理的な危険物に加えて、メタンガスや一酸化炭素、二酸化硫黄、亜酸化窒素のような目に見えない危険も存在する。これらは、塩素系漂白剤や工業用溶剤、ガソリンなどが下水に流され、配水管のコンクリートと反応した時に生成されるもので、下水処理労働者の命を奪いかねないものだ。

3月の初め、パンジャブ州ファイサラバードで若い清掃作業員アリフ・ムーン・マシフ(25歳)とシャン・マシフ(23歳)が有毒ガスを吸い込んで死亡した。1月には、カラチで2人の作業員が下水管を清掃中に同様の運命をたどった。

アドボカシー活動を行う団体「清掃人達はスーパーヒーロー(Sweepers Are Superheroes)」によると、過去5年間でパキスタンの19地区で約84人の下水作業員が死亡している。隣国インドでは、2018年の国家清掃労働者委員会の報告によると、5日に1人の割合で下水作業員が死亡している。

「一度ほとんど死にかけたことがあります。」とアムジャドは、ガスで意識を失った経験を振り返った。「その時は運良く、仕事を終えて地上に出てから倒れたので助かった。しかし、下水管の中にいる間にガスを吸って亡くなってしまった同僚もたくさんいます。」

アディルも、「何度かガスを吸ってしまったことがあるよ。目が焼けるような感じがして、外に出ると吐いてしまったんだ。冷たい炭酸水を飲ませてもらって、生き返ったんだ。しかし、前回同じようなことがあったときは気絶してしまい、入院を余儀なくされた。」と語った。

「時とともに、予防策を講じることを学んでいった。」と、アムジャドは語った。

「マンホールを降りていく前に、蓋を外しておいてガスが逃げるようにした。下水の表面をネズミが流れているのを見たら、ガスが発生しているサインだ。」とアムジャドは言う。

カラチ上下水道公社の労働者は4人1組で働く。ひとりが、ロープに結びつけられたハーネスを付けて下に降りていく。異常事態が起こったり、仕事が完了したときは、ロープを引っ張る。すると、外で待っている残りの3人がすぐに中の人間を引き上げる。「3~4分間何の反応もないときは、意識を失っている可能性を考慮に入れてロープを引き上げるんだ。時には30フィートも下らないといけないから自分は5分は息を止めておくことができる。」と、アムジャドは説明した。アディルは「自分の限界は7フィートまでで、息も2分以上は止められない。」と語った。しかし、ガスは浅い排水溝でも発生する。大量の汚泥に加えて、排水溝に石や岩が詰まり、水の流れをよくするためにそれを引き上げないといけないこともある。

アムジャドとアディルは、上下水道公社の他の労働者と同じように公社を通さない仕事もしているが、公社は見て見ぬふりだ。「追加の収入が得られるなら、それはいいこと」と幹部は語る。

「住民や食堂の店長から頼まれて詰まった排水溝をきれいにすることがあるが、数時間の仕事でけっこうな収入になる。」とアディルは語った。

Adil Masih and Amjad Masih work in the sewers of Karachi, a dangerous and low-paying occupation. Credit: Zofeen T. Ebrahim/IPS

キリスト教徒に割り当てられる清掃の仕事

アディルとアムジャドは互いに親戚ではないが、マシ(Masih)という共通の姓を持つ。これは一族が同じ宗教を信仰していることを示している。2人ともキリスト教徒なのだ。「ウォーターエイド・パキスタン」によると、パキスタンの下水清掃労働者のうち8割がキリスト教徒であるという。しかし、2023年の国勢調査によるとキリスト教徒は人口のわずか2%しかいない。「法律・正義センター」(CLJ)が2021年に発行した『清掃作業における恥と烙印』という報告書によると、インド亜大陸に長年にわたって存在するカースト制度が人間をある特定の職業に結び付け、清掃作業に従事することになるという。

「この無慈悲なやり化はパキスタンでは大部分なくなっていたのだが、衛生関係労働はこの伝統的なカースト制度がいまだに残っている唯一の職業だろう。」と同報告書は指摘する。

このCLJの報告書は、上水を提供し下水システムの円滑な稼働を任務とする水衛生局(WASA)と、ラホール市の家庭や工場、病院などから固形ごみを収集し処分するラホール廃棄物管理社(LWMC)の従業員を調査したものある。WASAには2240人の衛生関係労働者がおり、うち1609人がキリスト教徒だ。LWMCの場合は、9000人の労働者のすべてがキリスト教徒だった。両社の従業員の87%が「『汚れ仕事』はキリスト教徒だけのもの」だと考えており、キリスト教徒の労働者の72%が、イスラム教徒(ムスリム)の同僚は「これは自分たちの仕事ではない」とみなしている、と回答した。

カラチでも同じことが言える。5年前までKWSCはとりわけ非ムスリムに対して下水労働への応募を呼びかけていたが、人権団体からの抗議で取りやめになった。

「私たちはこの条件を撤廃し、ムスリムからの下水清掃の労働者を雇い始めたが、彼らは下水に降りて行こうとしない」とKWSCの幹部は語る。パンジャブ州では、社会のマイノリティである非ムスリムだけを「汚れ仕事」に雇う差別的な政策が2016年に廃止された。

カラチの半分が掘られ、あらたな下水管が敷設されつつあるなか、その多くの作業をパサン(ある民族集団に属するムスリム)が担っていた。昨年まではアフガン人も行っていた。「彼らも同じ汚い水の中で作業していた」とアムジャドは言う。

彼はアパートの清掃人として働き始めた。こちらの方がずっと稼ぐことができる。

「政府部門で正規の仕事を得ることは生涯の保証を得るということだ。この仕事は保険になる」と彼は説明する。「日々のことを考えても、生活は少し楽になる。警察に嫌がらせを受けることはないし、病欠できるし、医療費もタダ。おまけに年金もあって、誰かの気まぐれで辞めさせられることもない。」

今後の見通し

しかし、アムジャドとアディルの仕事、そして彼らが使用者から受けている扱いは、「持続可能な開発目標」の下でパキスタン政府が約束していることには完全に反している。とりわけ、その第8目標(衛生関係労働者の労働環境改善)に反する。目標8.5(完全雇用、人間らしい労働、同一賃金)や、目標8.8(労働者の人権の擁護、安全な労働環境の確保)が2030年までに達成されることは考えにくい。

市民団体「パキスタン人権委員会」のファラー・ジア代表はIPSによる取材に対し、「パキスタンは、同国の労働者の中で最も周縁化された存在だとみなされる衛生関係労働者に人間らしい労働環境を実現するという点ではほとんど進歩がありません。」と、指摘した。

「彼らは生存に足る賃金も与えられていなければ、社会的な烙印を押されることのない労働環境にもない。しかも、労働災害から身を守るためのまともな安全器具も与えられず、訓練も受けていない。加えて、2006年の「国家衛生政策」は時代遅れで「これらの問題への対処に全く追いついていない。」とジアは語った。

アムジャドやアディルが暮らしているシンド州でも同じことが言える。「シンド州政府は2017年に州の衛生政策を決定しているが、こうした労働者の労働環境や生活環境に関連した懸念に応えるものになっていない。」とジアは指摘する。

2021年、SDG第8目標に従って、「ウォーターエイド・パキスタン」(WAP)がパンジャブ州ムザファルガルの地方政府と協力し、衛生関係労働者の安全向上に乗り出した。WAPの戦略・政策プログラム責任者であるムハンマド・ファザルは、「安全装備の提供や清潔な飲料水へのアクセスとは別に、このような『必要不可欠な労働者』に、彼らに相応しい敬意と尊厳が与えられるべきです。」と語った。

カラチを拠点とする工業技術者で社会活動家でもあるナエム・サディクは、長年こうした労働者の権利のために闘っており、公共部門における最高賃金と最低賃金を計算してきた。

「英国では、清掃労働者と幹部の給与比は1:8だが、パキスタンでは1:80になります。英国では、清掃労働者と上級裁判官の給与比は1:11だが、パキスタンでは1:115です。英国では、清掃労働者と公共部門で最も給与の高い者の給与比は1:20だが、パキスタンでは1:250にもなります。」とサディクはIPSの取材に対して語った。

サディクは手作業で汚泥を扱わせるのを禁止すべきだと考えている。「人糞や毒ガスでまみれた下水の中に人間をどうして送り込むことなどできようか。こうした汚く危険な仕事をするには機械を使うべきです。」

上下水道公社の担当者は、「公社には128台の移動式タンクがあり、これらの機械で下水から水分を除去することで、清掃員が30フィートのマンホールに潜らずに、手作業で取り除かなければならないシルト、木材、石を取り出すことができます。」と語った。

しかし、サディクにしてみればこれでも不十分だ。1年前、彼は慈善団体とともにシンプルな構造の下水清掃機のプロトタイプ(バイクの骨格を用いたもの)を開発した。サディクによれば、これは世界で最も安価なもので、150万ルピー(5382米ドル)で入手できるという。「これは高圧吸引噴射機で下水に深く挿入すれば、下水の中から石や岩、汚泥や泥を引き上げ下水管の詰まりを取り除くことができます。」

今後は政府がこのデザインを採用し、バライ(やさしさ、利益などを意味する)と名付けられたこの装置の製造を開始するかにどうかにかかっています。「私たちは設計図を提供する用があります。」とサディクは語った。(原文へ

INPS Japan

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松葉を火災の危険から再生可能燃料へ

【ニューデリーINPS Japan/ SciDev.Net=ランジット・デブラジ

インドの広大な亜ヒマラヤ帯の針葉樹林では、松葉の燃えやすさが火災の主な原因となっているが、一方で松葉は豊富な再生可能エネルギー源である、と研究者らは言う。

インドの国営中央農業工学研究所(CIAE)の研究者らによれば、落ちた松葉は乾燥した時期に発火し、壊滅的な森林火災を引き起こす可能性があるため、森林床から松葉を除去する必要があるという。

『カレント・サイエンス』誌に掲載されたこの研究は、松葉の炭化とブリケット化によって、温室効果ガスの発生を抑制できる可能性について検討したものである。

インドのボパールにあるCIAE農業エネルギー・電力部門の上級科学者、サンディップ・マンダル主任研究員はSciDev.Netの取材に対して、 「松葉は簡単に圧縮して高発熱量のブリケットにすることができ、あらゆる熱用途に使用することができ、化学プロセスを通じて高品質のバイオ燃料を生成することができます。」と語った。

熱分解(酸素のない状態で有機物を加熱するプロセス)により、松葉は1キロ当たり28.52メガジュールの発熱量を持つバイオオイルに変換され、内燃機関用の混合燃料や炉の燃料として使用できることが、この研究で明らかになった。

これに対し、ディーゼルの発熱量は1キログラムあたり約45.5メガジュールである。

「バイオオイルの引火点、発火点、流動点は、高速ディーゼルよりも高かった」と研究は述べ、「オイルは広く使用されている圧縮注入エンジンにも適している。」と付け加えた。

また、松葉から作られたブリケットは、レンガ窯やボイラーの燃料として使用され、電力を生成するだけでなく、家庭用の清潔で手頃な燃料としても提供できる。

ブリケット化には、乾燥した植物由来のいわゆる「リグノセルロース系」バイオマスを高密度化し、発熱量が高く、貯蔵・輸送が可能なブロックにすることが含まれる。バイオマスは、その豊富さから、太陽光、風力、水力といった他の再生可能エネルギー源に勝るとも劣らない、と研究は言う。

また、松葉を熱分解するとバイオ炭が生成されるが、これは土壌の炭素隔離に理想的な材料であり、気候変動の緩和にも貢献できる、と研究者は言う。分析によると、ブリケット化、炭化、熱分解の3つの変換技術を組み合わせることで、87%のエネルギー効率を達成できることが示された。

松葉の活用

松葉は他の種類の植物バイオマスとは異なり、微生物によって容易に分解されず、森林の床に蓄積する。研究は、インドの夏季には1ヘクタールの松林に約6.3トンの松葉が落ちると推定している。

ヒマラヤ亜熱帯松林は、パキスタン、インドのジャム・カシミール、ヒマーチャル・プラデーシュ、ウッタラーカンド、シッキム、アルナーチャル・プラデーシュ州およびネパールやブータンを含む、世界最長の3,000キロメートルの範囲に広がり、77,700平方キロメートル以上を覆っている。

インド国内では、松葉の商業利用を目指した研究や活動の多くは、ヒマーチャル・プラデーシュ州北部に集中しており、同州には約3,300平方キロメートルの松林があり、毎年約1,300メートルトンの松葉を排出している。これらの森林の大部分は、支配的で干ばつに強いヒマラヤマツで占められている。

ヒマーチャル・プラデーシュ州政府によると、同州では毎年平均2,000件の森林火災が報告されている。

2001年から21年にかけて、ヒマーチャル・プラデーシュ州では900ヘクタール以上の森林が火災によって失われた。グローバル・フォレスト・ウォッチのデータによると、最も深刻な損失は2004年で、150ヘクタールが焼失した。

ヒマーチャル・プラデーシュ州の州都マンディにあるインド工科大学(IIT)は、再生可能エネルギー源としての松葉の可能性と、森林火災を引き起こす松葉の役割を認識し、ヒマラヤ生活向上センターで特別プログラムを実施している。「4月から6月の夏季に落ちる松葉は、森林の床への水の浸透を妨げます。」と、IITマンディのアルティ・カシャップ准教授は語った。

「その結果、乾燥と松葉に含まれる油分により、松葉は瞬時に発火し、生物多様性、森林、環境、地域経済に甚大な損失をもたらすことがよくあります。また、松葉の密生によって太陽光が地面に届かなくなるため、草の生育が妨げられ、村人たちは家畜の放牧が困難になります。このため、村人たちは松葉に火をつけるしかないのです。」とカシャップ准教授は語った。

カシャップ准教授はまた、「IITマンディのプログラムは、松葉を集めて加工センターまで運ぶことに重点を置いていますが、ヒマーチャル・プラデーシュ州の丘陵地帯では問題があります。私たちは、小規模なペレット化またはブリケット化ユニットを各地に設置することが、最も実行可能な選択肢であり、地元の生計を立てるために重要であると考えています。」と語った。

多くの研究と試験を経て、IITマンディは松葉を切り刻んで圧縮し、清潔で高密度で扱いやすいブリケットを作る方法を開発した。これは燃料として高い需要があり、特許の申請が進行中です。」とカシャップ准教授は語った。(原文へ

INPS Japan/ SciDev.Net

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|視点|先住民の土地管理の知恵が制御不能な森林火災と闘う一助になる(ソナリ・コルハトカル テレビ・ラジオ番組「Rising up with Sonali」ホスト)

プラスチックを舗装材に変えるタンザニアの環境活動家

|COP29への道|世界の脱炭素化には最も高い気候目標が必要

【ナイロビIPS=ジョイス・チンビ】

2023年は174年間の気候記録の中で最も暖かかっただけでなく、未曽有の高温を記録したという世界的な気候報告書を背景に、国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)への道のりが本格的に始まった。記録的な高温とエルニーニョの組み合わせにより、脆弱で貧しい南半球の国々が極端で厳しい気象現象の最前線に押しやられている。

アフリカでは、コンゴ民主共和国やケニアで致命的な洪水が発生し、リビアでは暴風雨と洪水で都市の4分の1が壊滅した。マラウイなどでは致命的なサイクロン、ケニアでは深刻な干ばつ、南部アフリカ諸国では数ヶ月に及ぶ冬の熱波が発生した。

このような状況の中、2024年2月2日、サイモン・スティール国連気候変動事務局長は、11月に開催されるCOP29国連気候会議の開催地であるアゼルバイジャンのバクーから主要な講演を行った。この講演では、ドバイで開催されたCOP28での進展を踏まえ、今後の重要な時期に必要とされる主要な課題と行動が概説された。

「世界の気候対策において、これまでの対応では全く通用しない時代が到来しました。そこで今日は、これまでとは違ったアプローチでこの講演に臨みたいと思います。もし私たちが地球温暖化を1.5℃以下に抑え、気候変動の影響からすべての人々を保護することに成功した場合、世界がどうなるかを想像しながら、2050年以降の世界を展望したいと思います。」とスティール事務局長は語った。

「もちろん、それはユートピアではなく、絶滅の可能性とも向き合わなければなりませんが、それについては後で説明します。この成功のビジョンでは、世界のエネルギーシステムはネットゼロ排出を達成しています。各国、あるいは少なくとも地域は、大部分がエネルギー自給自足が可能となっています。」

演説では、パリ協定に沿った2050年までの脱炭素化に向けた世界的な取り組みの核心となるすべての重要課題に触れた。2015年にパリで開催された国連のCOP21では、世界の指導者たちが、重要な気候変動目標の達成と、環境、人々、そして地球上のすべての生命の保全のための強固な枠組みを提供する歴史的な合意に達した。

「各国は、温室効果ガス排出量を大幅に削減するなど、設定された目標に向けて注目すべき進歩を遂げています。しかし、各国政府の誓約やコミットメントは十分に野心的とは言えず、2050年までに温室効果ガス排出量を限りなくゼロに近づけるネット・ゼロには至らないだろう。COP29へのカウントダウンにあたり、ケニアのナイロビで開催された第1回2023年アフリカ気候サミットで行われたコミットメントの達成状況も追跡する必要があります。」と、ウガンダ在住の気候活動家アモス・カグワ氏はIPSの取材に対して語った。

スティール氏は再生可能エネルギーについて、「再生可能エネルギーは、すべての人にとってエネルギーを利用しやすく、手ごろな価格で、予測可能なものにした。つまり、過去の経済動向や紛争を生み出したショックや不平等を回避することができるのです。世界の金融システムは、利益のみを追求するのではなく、人間の幸福を優先しているのです。」と語った。

An estimated 3.8 percent of global greenhouse gas emissions are emitted by Africa, but only two percent of the proportion of renewable energy investment went to Africa in 2023. Credit: Joyce Chimbi/IPS
An estimated 3.8 percent of global greenhouse gas emissions are emitted by Africa, but only two percent of the proportion of renewable energy investment went to Africa in 2023. Credit: Joyce Chimbi/IPS

「以前は化石燃料補助金に費やされていた何兆ドルもが、より良い目的—医療、教育、遅れを取る人々のためのセーフティネット—に利用されるようになりました。私たちの強靭な社会は、自然との関係を搾取的なものから再生的なものに変えました。大都市では大気汚染のために外出することが医療的に危険ではなくなりました。その結果、毎年数百万人の命が救われています。」

ケニアはすでに長期低排出開発戦略(LT-LEDS)を開始し、2050年までに同国をネット・ゼロ・エミッションの未来へと導くことを目標としている。LT-LEDSを提出しているアフリカ諸国は、他に8カ国しかない。世界全体でLT-LEDSを提出している国は68カ国あり、その大半は高所得国または中所得国である。

地球温暖化を1.5℃に抑えるには、2030年までに温室効果ガスの排出量を43%削減する必要がある(気候変動に関する政府間パネルによる推定)。電気、輸送、暖房のための化石燃料の燃焼は、有害な排出量の大部分、約73.2%を占めている。

この文脈において、脱炭素化のリーダーとは、化石燃料からの脱却のために再生可能エネルギーへの投資を最も多く行っている国のことである。2010年から19年までの再生可能エネルギー容量への世界投資額が7580億米ドルの中国、3560億米ドルの米国、2020億米ドルの日本、1790億米ドルのドイツ、1220億米ドルの英国などである。

「米国、中国、ロシア、ブラジル、インドネシア、ドイツ、インド、英国、日本、カナダ、フランス、オーストラリア、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカ、イタリア、韓国、サウジアラビア、欧州連合、そしてG20としてのトルコは、2025年における世界の排出量の80%を担っており、このことを前提に目標を真剣に再設計しています。」とスティール氏は語った。

「これらの国々は、PRスピン(政府が気候変動対策について実際には重大な措置を講じずに見せかけだけの行動をとっていること)やリブランディング、細部の微調整では気候責任を果たせないこと、そしてそれが革新の最前線から大きく後れを取ることを知っています。これらの国家気候計画は単なる紙切れではなく、しっかりとした政策手段によって裏打ちされ、コスト計算され、すぐに実行可能な投資機会に変換できるものでなければなりません。」

世界の温室効果ガス排出量の3.8%はアフリカが排出していると推定されるが、2023年の再生可能エネルギー投資のうち、アフリカへの投資は僅か2%に過ぎない。カグワ氏は、「アフリカには多くの競合する差し迫った課題があり、強力な先進国は、損失と損害およびその他の気候変動資金が、アフリカ大陸を気候災害から救うために機能するようにしなければならない。」と語った。

「アフリカは気候変動の影響を深刻に受けていますが、世界の気候資金のわずか3%しか受け取っていません。アフリカには2020年から30年までの適応資金として約5792億ドルが必要です。COP26のコミットメントには、2025年までに気候適応資金を倍増することが含まれていました。現在のアフリカ大陸への適応資金は、必要な金額の5分の1から10分の1に過ぎません。」とカグワ氏は強調した。

スティール事務局長は、「地球、人々、すべての生命を救う仕事に取り組む時がきました。」述べ、世界中の市民に今すぐ大胆な気候変動対策を要求するよう呼びかけた。そして、「国連気候変動会議ではすべての政府、企業、地域社会のリーダーと手を携えて、科学的知見に基づき、最高の気候変動対策を推進することを約束します。」と語った。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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|視点|危機に瀕する人類: 核戦争の脅威と歴史的選択(相島智彦 創価学会インタナショナル平和運動局長)

【東京INPS Japan=相島智彦】

2022年2月のウクライナ侵攻に端を発した危機は、いまだ収束が見えない。核戦争の脅威は、ありえない仮定の話ではなくなった。中東やアフリカなど各地で争いが深刻化し、目を覆う惨状が続く中、人類は危険な崖っぷちに立っている。

冷戦終結後、核兵器使用のリスクが今ほど高く、長期化した時はない。核兵器がもたらす壊滅的な結末に目が向けられているが、議論は対立している。軍事的対立をさらにエスカレートさせるのか、それとも多国間の交渉と対話に戻るのか。人類は厳しい選択を迫られている。

歴史を動かす駆動力は何か。私たちSGIのメンバーは市民社会の側から、次のように考える。

非人道的な被爆の実相をもっと「伝えること」(inform)だ。

悲劇を繰り返さない! 先人の誓いを「受け継ぐこと」(inherit)だ。

そして希望の未来へ「魂を鼓舞すること」(inspire)である。

歴史は、人々が衝撃的な出来事に遭っても悲観とあきらめを振り払って抗い、踏みとどまるならば、思いがけない発展と進歩がもたらされることを示している。つまり、最も暗く絶望的と思われる時こそ、人間社会を根本的に改革する好機となり得るのだ。

核兵器のない世界へ。

戦争のない世界へ。

私たちは、青年を主役として、無数の思いが込められた平和への精神遺産を胸に、あらゆる次元で訴え続けたい。その声を強め、広げたい。

その意味でも、良質のメディアが果たすべき役割は、いやまして大きい。

国連や草の根レベルで核軍縮に取り組んできた経験から、私たちは3つの点を強調したい:

第一に、伝えるという点では、核兵器がもたらす壊滅的な結末をより多くの人々に伝える必要がある。大惨事を食い止めるには、これが極めて重要だ。

核兵器の使用、拡散、実験を禁ずる規範が弱体化し、失われつつあることが憂慮されている。2026年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の後継枠組みも見当たらない。核兵器の非人道性についての認識を共有することは、信頼醸成のための対話の基礎となろう。

人類が核戦争の瀬戸際に最も近づいた1962年のキューバ・ミサイル危機への対応から学ぶことは多い。このような経験を二度と繰り返さず、核軍縮を進めるという決意が、1968年の核兵器不拡散条約(NPT)採択の重要な契機となった。米ソ両国がNPT調印式当日に戦略兵器制限交渉を開催する意向を表明したことは注目に値する。この交渉は、両国が核軍拡競争を減速させ、NPT第6条による核軍縮義務を果たすための第一歩を踏み出したことを意味する。

そうした歴史を振り返り、池田大作SGI会長は2023年1月、次のような提言を発表した。

Photo: SGI President Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun
Photo: SGI President Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun

核戦争の寸前まで迫った危機を目の当たりにしたからこそ、当時の人々が示したような歴史創造力を、今再び、世界中の国々が協力し合って発揮することが急務となっています。

NPTの誕生時に息づいていた精神と条約の目的意識は、核兵器禁止条約(TPNW)の理念と通じ合うものであり、二つの条約に基づく取り組みを連携させて相乗効果を生み出しながら、「核兵器のない世界」を実現させていくことを、私は強く呼びかけたいのです。

私たちは、昨年11月に逝去された池田会長の志を継いで、“核抑止を前提とした核兵器の絶えざる増強”から“惨劇を防止するための核軍縮”へと世界全体の方向性を変える転機を創出していきたい。

第二に、受け継ぐという点では、グローバル・ヒバクシャの声にさらに耳を傾けるべきだ。

生存している広島、長崎の被爆者の平均年齢は、85歳を超えた。

それに加えて、世界には、核物質の採掘や核実験、核兵器の製造過程等で影響を受けた、たくさんのグローバル・ヒバクシャと呼ばれる人々がいる。その実相は、苦難は、まだまだ広く語られていない。その物語を知らなければならない。忘れてはならない。

G7広島サミットで、各国首脳に対面で被爆証言を話した広島の小倉桂子氏の映像(リンク1)を、私たちは制作し、NPT準備委員会のサイドイベントでも上映し、多くの若者が心に刻んだ。

Photo: Algerim Yelgeldy, a third-generation survivor of the Semipalatinsk Nuclear Test Site, giving a testimony at a side event during the 2nd meeting of the States Parties to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons. By Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.
Photo: Algerim Yelgeldy, a third-generation survivor of the Semipalatinsk Nuclear Test Site, giving a testimony at a side event during the 2nd meeting of the States Parties to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons. By Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

また、カザフスタンのNGO「国際安全保障政策センター(CISP)」とともに制作した、同国の核実験被害者の証言映像「私は生き抜く~語られざるセミパラチンスク」(リンク2)。この作品は、TPNWの第2回締約国会議のサイドイベントで上映された。

恐ろしい体験と向き合い、それを語り伝える。日本だけでなく世界中のヒバクシャを突き動かしているのは、自らが被った苦悩を誰一人として味わわせたくないという決心である。他者に思いを巡らせるこうした心情は、核兵器の根底にある論理、すなわち自己の利益や目的のためには他者の殲滅をも辞さないという考えとは対照的だ。核兵器が絶対悪であることを際立たせるのは、この決心である。

そして最後に、行動に向けて魂を鼓舞するうえで、核兵器廃絶という問題が、気候変動をはじめとする地球的な課題と結びついていることについて意識啓発することが必要だ。

大規模な核戦争による「核の冬」に至らなくとも、限定核戦争による「核の飢饉」で20億人もの人々が亡くなる可能性があることは、以前から科学者たちによって報告されている。核実験が、“被植民地”や先住民に甚大な被害をもたらしてきている。核廃絶は、差別や人権、気候正義や環境、ジェンダー、包摂性、人道や倫理など、さまざまな分野を横断する問題であることに、さらに焦点を当てるべきだ。

ことし9月の国連の未来サミットに先駆けて、日本の青年が連合して、「未来アクションフェス」を行い、核兵器と気候危機を連結した問題として、参集した7万に近い若者たちに警鐘を鳴らした。

Future Action Festival convened at Tokyo's National Stadium on March 24, drawing approximately 66,000 attedees. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Future Action Festival convened at Tokyo’s National Stadium on March 24, drawing approximately 66,000 attedees. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

SGIは、第2の「民衆行動の10年」キャンペーン(リンク3)として、2027年を目指し、平和・軍縮教育に注力して、核廃絶への新たな潮流をつくろうと挑戦している。

多くの人が、分野や立場を超え、連帯して、核廃絶への声をあげていくことが、ますます肝要だ。そのためにも、宗教間の協働も強めていきたい。

Anna Ikeda of SGI delivered a joint statement endorsed by 115 inter-faith and civil society organizations (CSOs) on 29 November. Photo Credit: SGI.
Anna Ikeda of SGI delivered a joint statement endorsed by 115 inter-faith and civil society organizations (CSOs) on 29 November. Photo Credit: SGI.

核兵器禁止条約の第2回締約国会議では、核兵器を憂慮する、信仰を基盤とした115団体の一員として、SGIの代表が共同声明を読み上げた。その一節を引用して、この小論を結びたい。

私たちはこの瞬間の緊急性を認識し、私たち全員――愛する自然界と人類という愛する共同体にとって、何が危機に瀕しているかを認識しています。私たちの運命は絡み合っており、私たちの前に立ちはだかる脅威を無視することはできません…この恐怖は、今この瞬間だけのものではありません。私たちは、壮大な挑戦は、やり遂げるまでは常に不可能だと感じるものだという知恵に慰めを得つつ、正義のためになされた過去の闘いの大胆さとビジョンから勇気を得ましょう。(英文へ

本記事は、INPS Japanが2009年以来創価学会インタナショナルと推進している核廃絶をテーマにしたメディアプロジェクト「Toward A Nuclear Free World」のうち、2023年4月から24年3月までに配信された関連記事を冊子にまとめた報告書に寄せられたメッセージである。

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人工知能:人類にとっての脅威か、それとも助け手か?

【タシケントLondon Post=ウトキール・アリモフ】

ロボットといえば、人間のように話し、人間の代わりにすべての仕事をこなすアシスタントというイメージが強い。今日、人工知能という新たな要素が急速に社会・経済生活に入り込み、私たちの日常生活に積極的に参加していることは周知の事実である。例えば、携帯端末のアプリケーション: 「google翻訳」、辞書、各種ゲームなども人工知能のわかりやすい事例だ。

いわゆる「人工知能」とは、特定のタスクを実行する際に人間の行動を模倣することができるシステムや技術のことで、受け取った情報を使って徐々に完成していく。一般的に、この技術は形式でも機能でもなく、データ収集、分析などを含むプロセスである。

この分野の将来について言えば、「人工知能」が人類に利益をもたらすのか、それとも害をもたらすのかという議論が50年近く続いている。科学者たちはまだ結論を出していない。人工知能の普及が人間に取って代わる結果、失業率が上昇するのではないかと心配する人がいる一方で、AIに肯定的な意見もある。最近では、インドネシアのニュースサイト『Indonews』が「未来の『人工知能』はエイリアンの侵略のようなものかもしれない」と題した分析記事を掲載し、国際的な学術界の間で多くの疑問が投げかけられている。

あらゆる知的問題を解決できる人工知能の出現は、人類を助けるだけでなく、将来的には人類を脅かすかもしれないという憂慮すべき仮説を生んでいる。

Utkir Alimov Photo: London Post
Utkir Alimov Photo: London Post

将来的には、知能を持った機械が、制御しようとする人間に抵抗するようになるかもしれないのだ。では、どうすれば自分より強いものをコントロールし続けることができるのか?もし私たちが文明の制御に間に合わなければ、将来の生存を決める投票する権利さえ失ってしまう可能性が高い。例えば、「人工知能」が気候問題を解決するためには、「人間を排除する」ことが最善の方法だと結論づけるかもしれない。

また、こうした「超人的な知性」が「フェイク」ニュースや誤ったコンテンツを生み出し、それが結果的に未解決の盗作問題を引き起こすこともある。つまり、”人工知能 “は 事実をチェックするものではなく、あくまでも事実を収集する装置なのである。

このように、私たちの生活における人工知能の役割は日々深まっている。人工知能が人類の勝利なのか敗北なのか、その議論は長く続くだろう。最も重要なことは、SF作家アイザック・アジモフの言葉を借りれば、ロボットを作る際のモットーは、人に危害を加えないことである。(原文へ

ウトキール・アリモフ氏は、ウズベキスタンの著名なジャーナリスト。インドのオスマニア大学国際関係学部卒業。ロシア、トルコ、セルビア、韓国、サウジアラビアで開催された様々な会議に参加。現在、ウズベキスタン国営通信社国際関係部副編集長。

INPS Japan/London Post

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