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軍事紛争の射程圏内に暮らす女性、過去最多に

オスロIPS=オスロ平和研究所

戦場はもはや遠い存在ではなくなった。数億人の女性にとって、それは隣家に迫っている。オスロ平和研究所(PRIO)の最新報告によると、昨年、世界の女性人口の約17%にあたる6億7600万人が、致死的な紛争から半径50キロ圏内で暮らしていた。冷戦終結以降、過去最高の数値である。

歴史的なピーク

2024年は、紛争にさらされる女性の数が歴史的に最多となった。1990年以降、その数は2倍以上に膨れ上がり、暴力の拡大と紛争が人口密集地にまで広がっている現実を映し出す。

昨年だけで、約2億4500万人の女性が戦闘関連死が25人を超える地域に、さらに1億1300万人が死者100人を超える地域に居住していた。

バングラデシュは絶対数で最も多く、約7500万人の女性が紛争地に近接して暮らしていた。暴力の主因は7月から8月にかけての全国的な抗議行動であり、シェイク・ハシナ前首相の退陣につながった。

シリア、レバノン、イスラエル、パレスチナでは、女性人口全体が直接的に致死的暴力の影響を受けている。

生活への深刻な影響

紛争地に近い生活は、女性の権利と安全を深刻に損なう。紛争は母体死亡率の上昇やジェンダーに基づく暴力のリスク増大を招き、女子教育へのアクセスを阻み、雇用におけるジェンダー格差を拡大させる。こうした影響は即時的な安全を脅かすだけでなく、長期的な福祉や経済的展望も奪う。

「紛争は戦場にとどまらず、女性の家庭や学校、職場にまで及び、生活の基盤を破壊している」と、報告書の著者でPRIO研究部長のシリ・オース・ルスタッド氏は述べる。「一部の女性は危機の中で新しい役割を見出すこともあるが、その機会は脆弱である。厳しい現実は、戦争がジェンダー格差を広げ、女性をより危険にさらすということだ。」

地域ごとの違い

報告は、国や地域による際立った差異を浮き彫りにしている。2024年のレバノンでは、女性人口の100%が死者100人超の紛争から50キロ圏内に暮らしていた。

パレスチナ自治区では、約80%の女性が死者100人を超える地域に居住し、残りの20%も死者1~99人の地域に住んでいる。さらに3分の1以上は死者1000人超の地域近くに暮らす。シリアでも、大多数の女性が中~高強度の紛争にさらされている。

ナイジェリアでは、ボルノ州の女性がボコ・ハラムや「イスラム国」による暴力に直面している一方、南南部では分離主義運動の暴力が拡大している。

長期的な代償

女性が紛争地に暮らす割合が高い国は、国連の人間開発指数(HDI)が一貫して低く、教育・保健・生計に対する長期的な影響が顕著に表れている。

顕在化しにくい長期紛争は、社会や経済の基盤を着実に蝕んでいく。さらに国際援助の削減が、インフラの弱体化と女性の脆弱性の深刻化に拍車をかけている。(原文へ

オスロ平和研究所(PRIO)は、平和と紛争研究の世界的拠点である。暴力の要因と、国家・集団・個人間の平和的関係を可能にする条件を探究している。

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NDCに子どもの声を―ユニセフ気候擁護者ズナイラ(15歳)の訴え

ユニセフの気候擁護者である15歳のズナイラは、子どもたちの声や懸念が各国のNDCに反映されるべきだと考えている。彼女は「子どもは統計上の数字ではなく、“現実に生きる人間”であり、気候計画の中心に据えられる必要がある」と訴えている。

【国連発IPS=ナウリーン・ホサイン】

国連総会ハイレベルウィーク(9月22~30日)は、多国間主義、国際金融、ジェンダー平等、非感染性疾患、AIガバナンスなど、今日最も緊急の課題について世界が集う機会となった。

今年は気候変動も大きな焦点となり、各国が11月のCOP30を前に「国別削減目標(NDC)」を提示した。9月24日に開かれた気候サミットでは、114か国以上が国連事務総長とCOP30議長国ブラジルの指導者らの前で自国のNDCを発表した。

こうした計画は各国の姿勢を示すものだが、実際の行動で示すことこそが求められている。

「空虚な約束」に失望する若者たち

15歳のズナイラにとって、指導者の言葉と現実の行動の間には隔たりがある。COP29の場でさえ「政策や宣言ばかりで、実際の行動はなかった。」と彼女は語った。

「どの国でも同じ。子どもや若者に対して、空虚な言葉、空虚な約束しかなされていない。」とIPSの取材に対して語った。

UNICEF

ユニセフの「子ども気候リスク指数(CCRI)」は、子どもが直面する気候・環境リスクと脆弱性を測定し、163か国で56の指標を評価している。世界で約10億人の子どもが気候影響の最も大きい国々に暮らすと推計される。

ズナイラは、各国政府と指導者が効果的な気候政策を策定する際には、子どもの声や視点を取り入れる必要があると訴える。彼女の観察では、COP29で子どもの声を実際に反映させた国は参加国のわずか3%程度にとどまった。

この要望は新しいものではない。以前から多くの若者の気候活動家が呼びかけてきたが、交渉の場にはほとんど反映されてこなかった。

国連総会での参加と活動

ズナイラは、ユニセフの「ユース・アドボケーツ・モビライゼーション・ラボ」の一員として国連総会に参加するためニューヨークを訪れている。この取り組みは、ユニセフのユース擁護者の活動を評価し、子どもたちに交流や意見交換の場を提供するものだ。

パキスタン・バロチスタン州出身の彼女は、自身の経験を基に、2022年の洪水が女子教育に与えた影響に関する調査結果を共有した。

2022年のパキスタン洪水は3300万人以上に被害を与え、子ども647人が死亡した。気候変動がもたらした極端な気象の影響は、地域社会を破壊し、適応できない現実を突きつけた。

当時12歳だったズナイラは、ユニセフ・パキスタンの政策研究プログラムに参加し、バロチスタン州ハブ地区のサクランを訪れて聞き取り調査を行った。15人の女子生徒にインタビューしたところ、洪水で校舎が流され、学校そのものが失われたことが分かった。

ユニセフによると、彼女の調査は「洪水が教育格差を悪化させ、少女たちを避難所に追いやり、学びを中断させた。」と指摘している。

また、学校の防災対策や洪水に強いインフラ整備が急務であることも浮き彫りになった。「気候変動への強靱性とジェンダー平等を組み合わせた戦略。」が必要だと強調された。

学びを失った子どもたち

ズナイラは「洪水後、多くの子どもにとって戻るべき学校そのものが存在しなかった。」と振り返る。最寄りの学校が40キロ近く離れている場合もあり、通学は現実的ではなかった。

そのため、極端な気象に耐えられる学校インフラや地域社会への投資が不可欠だと訴えた。国際社会も「損失と被害への対応基金(FRLD)」を通じた支援を含め、適応策を後押しする必要がある。

「子どもは統計ではなく、現実の命」

ズナイラのメッセージは明確だ。指導者たちは子どもや若者を気候議論に参加させるべきだ。そして、彼らの経験を単なる数字に矮小化してはならない。

「考えてみてください。これは単なる統計ではありません。命が失われ、数千の家が破壊され、数千人が避難を余儀なくされたのです。子どもや人々は数字ではなく、現実の命です。世界の指導者はそのことを理解しなければなりません。」(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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廃墟から承認へ:ガザ

【メルボルンLondon Post=マジド・カーン】

2023年10月に始まったガザ戦争は、2024年10月から2025年9月まで続き、壊滅的な人道的結果、地域の不安定化、そして国際外交の大きな変化をもたらした。2025年8月末までに、国連の状況報告はガザ保健省の発表を引用し、パレスチナ人死者数は6万2千人を超え、負傷者は約15万9千人に達したと伝えた。9月に入ってもガザ市での激しい市街戦が再開され、死者はさらに増加した。

9月前半だけで数百人が死亡し、数千人が負傷した。世界保健機関(WHO)はガザ県で飢饉状態を公式に確認し、9月5日までに記録された栄養失調関連の死者は361人、そのうち子どもが130人を占めた。

人道危機の深刻化

人道危機は前例のない水準に達した。主要な支援ルートが封鎖・制限され、9月12日にはズィキム検問所が閉鎖され、ガザ北部への食料搬入が完全に停止した。7月以降、必要最低限とされる1日2千トンの食料の35%未満しか搬入されていない。

ケレム・シャロームや西エレズの検問所は断続的に稼働したが、支援は限定的で、ラファ検問所は支配権争いや治安問題からほとんど閉鎖されたままだった。その結果、食料・水・医薬品が極端に不足し、ガザ住民の困窮は深まった。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、9月中旬にガザ市で1万1千人以上の避難民を収容する複数のシェルターが被害を受け、安全な避難場所を失ったと報告した。

インフラの破壊と大規模な避難は状況を一層悪化させた。軍事攻撃が激化する中、支援物資輸送隊は配布地点付近での攻撃や、食料を求める市民の死傷といった重大なリスクに直面した。5月末以降、支援物資配給所周辺での衝突が救援活動をさらに複雑化させ、燃料不足は病院や上下水道の機能を麻痺させ、感染症拡大の危険性を高めている。

西岸情勢

ガザ以外でも、西岸地区では暴力が激化した。国連人道問題調整事務所(OCHA)は、死者の増加、入植者関連の暴力、移動制限の強化(東エルサレムを含む)を報告し、地域全体が一触即発の状況にあると警告した。

外交と承認の変化(2024年10月以降)

政治的側面では、過去1年でパレスチナ国家承認をめぐる国際情勢が大きく変化した。2024年5~6月、スペイン、アイルランド、ノルウェーが承認を発表し、続いてスロベニア、アルメニア、メキシコが加わった。2025年前半から中盤にかけては、ジャマイカ、バルバドス、トリニダード・トバゴ、バハマなどカリブ諸国が承認に踏み切った。4月までに140を超える国連加盟国がパレスチナを承認し、外交的な流れは加速した。

決定的な転換点は2025年9月に訪れた。英国、カナダ、オーストラリア、ポルトガルが国連総会を前に一斉にパレスチナ承認を発表したのだ。米国の同盟国が長年の方針を転換したことは、国際的アプローチに深い変化を示した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は即座に反発し、「ヨルダン川以西にパレスチナ国家は存在しない」と述べ、これらの承認を「テロリズムへの褒美」と非難した。

国際社会の反応
UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe
UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、9月16日に開幕した第80回国連総会で、即時停戦、人道支援の無制限なアクセス、国際法の厳格な順守を求めた。

英国のキア・スターマー首相は承認発表に際し、「二国家解決の可能性をつなぎとめるために必要」と強調し、ハマスへの報償ではないと釘を刺した。カナダのマーク・カーニー首相も「和平と安定維持の一歩」と位置づけた。オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、人道的惨状、とりわけ支援活動従事者の殺害を指摘し、ハマスを排除した統治枠組みの必要性を訴えた。これに対し、ネタニヤフ首相は断固として拒否し、承認はイスラエルの安全と主権を損なうと主張した。

こうして外交の力学は大きく変わり、パレスチナ承認はグローバル・サウスや欧州周縁から西側主要国の中枢へと拡大した。

戦場と人道の現実

2025年9月時点で、ガザは爆撃、避難、飢饉の三重苦に直面していた。人道状況は、国際援助の量だけでなく、国境検問所の開放状況に左右された。北部のアクセス回復と持続的・安全な人道回廊が確立されない限り、飢饉による死者は急増すると予測されている。

主要国による承認は国際外交に新たな活力を与えたが、民間人保護の強制力ある仕組み、捕虜や人質交換の有効な枠組み、明確な政治的スケジュールと結びつかなければ、戦闘と人道的惨禍は続く恐れが強い。

Scarcity of food in Gaza is increasingly causing malnutrition and severe hunger among the population as the war continues. Credit: WHO
Scarcity of food in Gaza is increasingly causing malnutrition and severe hunger among the population as the war continues. Credit: WHO

2025年8月末時点で、パレスチナ人の死者は約6万2900人、負傷者は15万9千人に達した。9月5日までに記録された栄養失調死は361人(うち子ども130人)。7月以降、必要量の35%未満の食料しか搬入されず、9月12日以降はガザ北部に食料は届いていない。

パレスチナを承認する国連加盟国は140を超え、直近では英国、カナダ、オーストラリア、ポルトガルが加わり、歴史的転換を示した。しかし現地では、支援制限、支援隊列への攻撃、インフラ破壊により、人道支援団体は圧倒的な困難に直面している。

2024年10月から2025年9月までの1年間は、イスラエル・パレスチナ紛争の歴史の中で最も壊滅的な章の一つである。国際舞台ではパレスチナ承認が大きく前進したが、現場の状況は悪化の一途をたどり、市民が政治的行き詰まりと絶え間ない軍事作戦の犠牲となり続けている。包括的停戦と信頼できる和平枠組みがなければ、ガザと地域全体は今後も不安定さ、人道的破局、そして深まる不信に直面し続けるであろう。(原文へ

INPS Japan

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タンザニアの港湾都市で有害な大気汚染が数百万人を脅かす、と研究者が警告

【ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ】

灼熱の午後、ダルエスサラームの商業中心地カリアコーでは、空気はディーゼル排気ガス、木炭の煙、そして人々の足で巻き上がる埃が入り混じる。商人たちはハンカチで口元を覆い、喉や肺に入り込む煙を避けようとする。

「車が多すぎて、煙で息が苦しくなる」と、19年間市場で働く青果商のアブドゥル・ハッサンは語る。

ダルエスサラーム工科大学とストックホルム環境研究所による新たな研究(『クリーン・エア・ジャーナル』掲載)は、市民が日常的に感じている現実を裏付けた。2021年5月から2022年2月にかけて、市内14カ所の観測所で収集されたデータは、微小粒子状物質(PM2.5およびPM10)の濃度が世界保健機関(WHO)の基準を一貫して上回っていたことを示した。日平均のPM2.5は最高で130µg/m³に達し、WHOの推奨値の8倍以上となった。

これらの結果は、ダルエスサラームが世界的な大気汚染危機のただ中にあることを浮き彫りにし、SDGsターゲット3.9.1(有害大気による死亡や疾病の大幅削減)の実現を迫っている。

「大気汚染は目に見えない問題ではありません。匂いで感じ、肺で実感するのです」と、カリアコー市場近くで働く屋台料理人ネエマ・ジョンは語る。「ごみ焼却の煙が家に入ると、子どもたちは一晩中咳き込むのです」。

沈黙の殺し屋

研究によれば、ごみ埋立地、幹線道路、工業地帯の周辺住民が最も危険にさらされている。プグ・ダンポの埋立地では、無秩序なごみ焼却が続く中、PM10濃度が2,762µg/m³に達することもあった。イララやキノンドニなどの工業地帯でも日平均は基準を大きく超えていた。

医療専門家は、こうした暴露が喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、早死の原因となると警告する。タンザニアでは呼吸器感染症が病院受診と小児死亡の主要因である。

「これは見過ごされている公衆衛生の緊急事態だ」と、ダルエスサラームの公衆衛生専門家リナス・チュワは指摘する。

エネルギー貧困と汚れた燃料

汚染の原因は交通や産業だけではない。調査によれば、ダルエスサラームは国内の木炭消費の半分近くを占めている。電力のわずか34%しか水力発電から供給されていないため、多くの家庭は木炭や薪に依存している。

「木炭は安くて手に入りやすいけれど、煙で家が有害な粒子で満たされる」と、マバガラの住民ファトマ・スレイマンは語る。「危険だと分かっているけど、他に安い選択肢はないのですか?」

急成長都市の持続可能性の課題

人口600万を超え、アフリカで最も成長の速い都市のひとつであるダルエスサラーム。無秩序な産業、混雑する道路は、SDGsターゲット11.6.2(都市の環境影響削減と大気質改善)が直面する典型的課題を映す。

調査では、通勤ピーク時(午前6時~11時、午後6時~9時)に大気汚染が急増し、休日には低下することが確認された。

バス高速輸送(BRT)や標準軌鉄道といった取り組みは進んでいるが、2007年制定の大気質規制はほとんど執行されていない。

政策と市民生活の狭間で

カリアコーのコンゴ通りでは、煙と埃、そしてごみの悪臭が入り混じる。母親ムワナイディ・サルムは「鼻をかむと黒い埃が出る」と話す。

研究者らは、子ども、路上商人、高齢者が特に脆弱であると警告する。

「14カ所の観測所データは、WHO基準を何倍も超える高濃度を示していました」と、ストックホルム環境研究所の研究員ジャクリン・セニャグワは説明する。「これは喘息、心不全、COPDなど、世界的に非感染性疾患の主要因になっているのです」。

しかし、タンザニアには依然として全国的な大気質監視体制が欠けている。専門人材や機材不足に加え、規制当局の権限も分散している。

行動計画と展望

研究者は、全国的な監視体制の整備、排出基準の強化、ごみリサイクルや堆肥化への投資を提言する。また、大気汚染の健康リスクに関する市民への啓発も不可欠だと指摘する。

「子どもたちを一息ごとに危険な環境で育てるわけにはいかない」と、ハッサンは訴える。

汚染対策を怠れば、タンザニアの経済的成果は、健康コストの増大と生活の質の低下に覆い隠されかねない。

それでもカリアコーの生活は続く。人々は雑踏をかき分け、煙と埃にむせながらも日々を営んでいる。(原文へ

This article is brought to you by IPS Noram, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

INPS Japan

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人間社会に広がるアンドロイドの台頭

【ポートランドIPS=ジョセフ・チャミー】

不安や懸念、警告にもかかわらず、生成系人工知能(GAI)と先進ロボティクスに依存するアンドロイド、すなわちヒューマノイド型ロボットは、人間社会の生活に急速に統合されつつある。この統合は、人類の未来に深刻な課題を突き付けている。

一部からは、GAIとロボットが既存の社会的偏見、ステレオタイプ、女性蔑視、差別を技術の発展過程で埋め込み、強化しているとの懸念も示されている。

近い将来、アンドロイドは労働の在り方や社会的交流、紛争解決、資源管理の方法を変えると予想される。しかし、その使用や人権、雇用、社会関係を保護するための指針、規制、手順はいまだ確立されていない。

成長

自動化の需要拡大、生産コストの低下、企業投資の増加を背景に、アンドロイドの活用は急速に進展している。生成系人工知能の飛躍的進歩が開発を加速させた。

21世紀初頭、世界の人間の人口は約62億人であり、アンドロイドはSF小説や映画の中にしか存在しなかった。2025年には人間人口が約82億人に増加し、アンドロイドの数は約1万体に達したと推計される。

2050年には、人間の世界人口は92億人、アンドロイドは10億体に達すると予測されている(表1)。

Source: United Nations and Morgan Stanley.
Source: United Nations and Morgan Stanley.

少子高齢化と人口減少に直面し、さらに移民受け入れに反対する国が多い中で、多くの政府や産業界、組織がGAIと先進ロボティクスを取り入れる技術に依存しつつある。

アンドロイドの成長を牽引するのは、巨額の投資、生産コストの低下、そして各国の熾烈な市場競争である。教育、娯楽、医療、製造業、家庭など幅広い分野で導入が進んでいる。

反応

人間社会の反応は大きく分かれる。多くの人々はAIを搭載したアンドロイドに複雑な感情を抱きつつも、その進展を「避けられないもの」と受け止めている。

日常的にAI技術を利用しながらも、雇用喪失や失業の拡大、悪用や乱用、監視の侵入、人間的つながりの喪失を恐れる声は根強い。

特に若年層の労働市場でアンドロイドとの競合が激化し、失業の拡大やテクノロジー依存の強化、格差拡大につながる可能性が指摘されている。

また、国ごとにAIへの受容度も異なる。21か国を対象とした調査では、ブラジル、中国、インドなどの途上国では肯定的な見方が多い一方、ドイツ、日本、米国など先進国では「肯定的」と答えたのは40%以下にとどまった(図1)。

Source: Visual Capitalist.
Source: Visual Capitalist.

さらに、2024年に行われたG7諸国での調査では、80%が「アンドロイドは雇用を奪う」と答え、70%が「社会的交流を支配するようになる」と懸念した。

加えて、60%はアンドロイドが人間に似ることに不快感を示し、その背景には「不気味の谷」効果があるとされる(図2)。

Source: Euronews.
進展

ロボティクスとGAIの進歩により、「ソーシャルボット(Socibot)」と呼ばれるアンドロイドが登場している。これは友人のように寄り添い、対話できる社会的ロボットである。

国際ギャラップ調査では、世界人口の約5分の1が「昨日の大半で孤独を感じた」と回答。WHOによると、孤独や社会的孤立は世界で10億人以上に影響している。

ソーシャルボットは人間の感情を理解し、会話を行い、教育や介護、家庭内での役割を担うことを目指して開発されている。表情や感情表現も進化し、まさに「友人」となる存在へと近づいている。

一方で、軍事用の「ウォーボット(warbot)」も進化している。自律型兵器システムとして開発され、偵察、監視、狙撃探知、爆発物処理に利用されるほか、将来的には敵地で自律的に作戦を遂行する能力が強化されつつある。

完全自律型の「殺人ロボット」はまだ戦場で広く配備されていないが、開発は進んでおり、人間による制御を伴わない攻撃能力の拡大が懸念されている。

懸念

120か国以上と複数の団体(ヒューマン・ライツ・ウォッチや「ストップ・キラーロボット」キャンペーンなど)が、自律的に標的を選択・攻撃する戦闘ロボットの開発・使用に対する国際的禁止を訴えている。

しかし一部の政府はこれに反対し、「兵士の生命を救える」と主張。多くの軍用ロボットは遠隔操作や非武装用途であると説明している。

一方で「ロボフォビア」と呼ばれる不安障害を持つ人々もいる。アンドロイドの存在そのものを脅威や不気味さとして感じる人も少なくない。

また、GAIの発展は膨大な電力需要を伴い、国際エネルギー機関(IEA)は「2030年にはデータセンターの消費電力が日本全体の消費量を超える」と予測している。

利益を得る側は懸念を軽視しつつ、効率向上や労働力補完、生産性向上、ビジネス機会、安全性強化、娯楽、個人支援、友情などの利点を強調している。

ただし一部の専門家は「ヒューマノイド・ハイプ(過剰期待)」を警告し、ロボットが現実世界で必要な技能を習得するには、まだ数十年の研究開発が必要だとみている。

また、「終末論者」と呼ばれる人々は、GAIが人類の知性を超え、シンギュラリティに到達し、人間の制御を逸脱する危険を指摘。人類存続に壊滅的影響を与えかねないと警鐘を鳴らしている。

結論

GAIとロボティクスの進歩は、アンドロイドを社会に導入する流れを加速させている。その台頭は人類の未来に大きな課題をもたらす。

今後5年以内に、アンドロイドが過度に侵入的・破壊的となり、法律、金融、コンサルティングなどの初級職を大量に代替する可能性があると警戒する声もある。

孤独や依存、社会的つながりの喪失に対する懸念も広がる一方で、投資家らは利点を強調し続けている。

安全性、公平性、人権を重視した適切な規制と枠組みがない限り、アンドロイドが人間社会にどのように統合されるのかは不透明である。特に、子どもを含む人々が高度なGAIを備えたヒューマノイドにどう反応するかは未知数である。(原文へ

ジョセフ・チャミーは国連人口部の元ディレクターであり、人口問題に関する多数の著作を持つコンサルティング人口学者。近著に『Population Levels, Trends, and Differentials』がある。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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国連80周年:成功と失敗が交錯する混合の遺産

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連が138か国の首脳を集めたハイレベル会合で創設80周年を記念するなか、ある疑問が浮かぶ―過去80年の政治的実績がほとんど失敗に終わったことを踏まえ、本当に祝う理由があるのだろうか。

2022年4月、ウクライナのゼレンスキー大統領は国連安全保障理事会でのリモート演説で核心を突いた。「国連が保証すべき平和はどこにあるのか? 安保理が保障すべき安全はどこにあるのか?」国連はこの両方に失敗したかのように見える。

一方で、地政学的な役割が低下するなかでも、軍事紛争に巻き込まれた数千万の人々に人道支援を届ける巨大な救援機関としての役割はますます重要性を増している。しかし、80周年の焦点はやはり政治にある。

サンフランシスコ大学の政治学教授スティーブン・ズネス氏はIPSに対しこう語った。「1964年、8歳の時に初めて国連本部を訪れて以来、国連の成功を強調し擁護してきたが、これほど悲観的になったことはない。」

彼は国連の効果は「とりわけ強力な加盟国がどれだけ国連の権威を認めるかに左右される」と指摘する。冷戦終結以降、米国によるイラク侵攻やロシアによるウクライナ侵攻は、侵略戦争を防ぐという国連の根本的使命が破綻したことを示す、と。

過去2年間、米国はガザでの停戦を求める安保理決議に6回反対票を投じ、そのうち4回はバイデン政権下であった。これは、武力紛争の終結に向けた国連の権威を損なおうとする動きが超党派であることを物語る。

さらに、国連の最大の成果の一つである脱植民地化も、西サハラの人々に自己決定権を与えられず、米国や欧州諸国がモロッコの不法占領を支持していることで傷つけられている。ズネス氏は「米国は国連憲章やジュネーブ第四条約、国際人権規約の起草に深く関わったが、近年は共和・民主両政権が国連やその機関、司法機関を攻撃している」と述べた。

ワシントンのスティムソン・センターのリチャード・J・ポンツィオ氏は「国連は世界で最も普遍的で正統性を持つ国際機関であり、平和構築、極度の貧困との闘い、気候変動対策、AIを含むデジタルガバナンスなどの分野で不可欠な役割を果たしてきた」と評価する。

また、ステークホルダー・フォーラムのフェリックス・ドッズ氏は「冷戦以来最も不安定な時代にある今こそ、多国間主義を強化し、歴史から学ぶべきだ。協力することで、より公正で持続可能な世界を築くことができる」と強調した。

オックスファム・インターナショナルのアミターブ・ベハール事務局長は「国連は資金不足とニーズの増大に直面し、平和と安全を提供する能力が疑問視されている。しかも安保理常任理事国の中には国際人道法違反に加担している国もある」と警告する。

「今こそ政府が国連改革の基盤を築くべき絶好の機会だ。気候危機、格差、民主主義への攻撃、ジェンダー権利の侵害、紛争、飢餓といった複合的危機に立ち向かうために国連を強化しなければならない」。

それでも彼は「私たちは集団行動の力を信じている。今週、オックスファムをはじめとする団体は懸念を表明し、連帯と解決策を提示する。今こそ、指導者たちが未来へのビジョンを示し、それを実現するために行動するときだ」と訴えた。

国連創設前の世界

9月22日、国連総会議長アナレーナ・ベアボック氏は演説で次のように振り返った。
「廃墟と化した国家、7000万人を超える死者、1世代に2度の世界大戦、ホロコーストの恐怖、72の植民地領――これが80年前の世界だった。希望を求めて必死の世界だった。しかし勇敢な指導者たちは国連憲章によって希望を与えた」。

1945年6月26日に署名された国連憲章は、単なる政治的宣言ではなく、国と国民の間の約束だった。
「それは天国を約束するものではなく、憎悪と野心によって再び地獄に引きずり込まれることのないようにする誓いだった」とベアボック氏は述べた。

しかし今、私たちは再び岐路に立っている。ガザの瓦礫の中で食糧を探す孤児、ウクライナの戦争、スーダンでの性暴力、ハイチのギャング、ネット上の憎悪、そして世界各地の洪水や干ばつ。
「これが国連憲章が描いた世界なのか?」と彼女は問いかけた。

過去の試練と現在の課題

ブリュッセルの国際危機グループは先週、「冷戦後の時代に国連が疑念と分裂に直面したのは今回が初めてではない」と指摘した。1990年代のバルカン半島やルワンダでの平和維持の失敗、2003年のイラク戦争を巡る議論など、過去にも困難はあった。しかしその度に加盟国は団結し、改革を進めてきた。今回はそれが可能かは不透明だ。

「未来サミット」で改革が議論される予定だが、平和と安全保障に関する抜本的変革は当面期待できないとグループは警告する。むしろ交渉は、国家間のビジョンの不一致を浮き彫りにしている。

人道支援における国連の力

一方で人道分野では、WFP、WHO、UNICEF、UNHCR、UNFPA、FAO、IOM、OCHAといった国連機関が中心となり、アジア、アフリカ、中東の戦争被災地で食料、医療、避難所を提供している。これらの機関は、国境なき医師団、セーブ・ザ・チルドレン、赤十字、CARE、アクション・アゲインスト・ハンガー、ワールド・ビジョンなどの国際救援団体と協力し、何百万人もの命を救ってきた。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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残酷さの外注化:トランプの大量送還マシン

【ウルグアイ・モンテビデオIPS=イネス・M・ポウサデラ】

2021年8月、タリバンの支配から逃れるため米国に避難した数千人のアフガン人が、今や一度も行ったことのない国への送還に直面している。米軍を支援したがゆえに迫害の危険を冒して逃れてきた人々が、トランプ政権の反移民政策の下で不要な貨物のように扱われている。

トランプが拡大した送還プログラムは、米国内に暮らす推定1000万人の無資格移民を標的としている。これには、不法入国者、ビザ期限切れ、亡命申請却下者、一時保護資格の失効者、あるいは合法的地位を取り消された人々が含まれる。トランプ就任から100日以内に移民税関執行局(ICE)は6万6000人以上を逮捕し、6万5000人以上を国外追放した。8月までに約20万人が送還された。

しかし政権は単に出身国に送り返すだけではない。特に残酷な手法を取り入れているのだ。つながりのない遠方の国に人々を「投棄」しているのである。米政府が政治的目的のために基本的人道原則を無視する姿を、この送還戦略は示している。

米政府はあまり知られていない移民法を根拠に、他国に送還先を求め、資金的誘因や外交圧力で受け入れを迫っている。最近では、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、パラグアイ、さらにアフリカのエスワティニ、ルワンダ、南スーダン、ウガンダなど十数か国が合意した。この地理的広がりは「経由国への送還」という名目を覆し、金銭と引き換えに不要な人間を受け入れる相手を探しているだけであることを示している。

このプログラムは露骨に取引的であり、報酬は直接的な支払い、貿易上の譲歩、制裁緩和や外交上の便益の形をとる。ウガンダは米政府高官に対する制裁の最中に合意に署名し、移民受け入れを外交改善や制裁解除と引き換えにしたとみられる。ルワンダの合意は、米国が仲介するコンゴ民主共和国紛争の協議と同時期に行われ、送還合意が外交交渉の道具にされていることを示唆する。エルサルバドル、エスワティニ、ルワンダのような抑圧的国家の人権状況を、米国が今後批判する可能性は極めて低い。

米国には庇護申請処理を外注してきた長い歴史があるが、トランプ政権はこれを新たな段階に押し上げた。戦争地帯や権威主義国家、さらには刑務所にまで人を送還する用意があるのだ。これらの取り決めは、庇護を求める権利や迫害が予想される場所への送還禁止といった国際法の根本原則に違反している。

特に衝撃的なのは、エルサルバドルの「テロ収容センター」へのベネズエラ人送還である。ここは人権侵害で悪名高い過密刑務所だ。米政府は今年3月、タトゥーや服装といったわずかな根拠をもとに238人のベネズエラ人男性をギャングと決めつけ、迅速送還を正当化した。米国は600万ドルをエルサルバドルに支払い、庇護を求めただけの人々の収監スペースを事実上「購入」したのである。その後、彼らはベネズエラへの囚人交換の一部として送還され、移民が外交の駒にされていることを浮き彫りにした。

トランプの方針は最近の到着者に限られない。従来の国境警備中心の政策と異なり、長年米国で家族や職業、地域社会とのつながりを築いてきた人々も標的にされている。

ない抵抗を呼び起こした。教師が生徒の家族を守り、雇用主が強制捜査への協力を拒否し、宗教指導者が聖域を提供し、地域住民が相互扶助ネットワークや早期警告システムを組織している。

1日3000人の逮捕割当を果たそうとするICEの強化された急襲に対して、人々は全米各地で抗議している。ボストン、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコといった聖域都市では特に抵抗が激しく、ICE職員への直接対峙、送還車両の阻止、空港での抗議、送還ビジネスに関与する企業へのボイコットが展開されている。

その規模は連邦軍による前例のない介入を招き、政府は違法に4000人以上の州兵と700人の海兵隊をロサンゼルスに投入した。

トランプの政策は排外主義と人種差別を正当化し、政治言論を毒し、社会を分断している。世界最強の民主国家が難民を取引可能な商品として扱うならば、世界中の権威主義的指導者たちに「人権は交渉可能だ」との明確なメッセージを送ることになる。

米国はいま、二つの未来の岐路に立っている。人間を輸出すべき問題として扱い、権威主義国家を利し、国際法を損なう「取引的残酷さ」の道を歩むのか。それとも、人道と人権の義務を果たし、安全で合法的な移住経路を提供し、人々が故郷を追われる根本原因の解決を助ける道を選ぶのか。

米国はすべての国外移住管理合意を停止し、庇護希望者を安全でない国や無縁の国へ送還することをやめ、「安全を求めることは罪ではなく基本的人権である」という原則を回復すべきである。

イネス・M・ポウサデラはCIVICUSのシニア・リサーチ・アドバイザーであり、CIVICUS Lensの共同ディレクター兼ライター、『世界市民社会報告書』の共著者である。
インタビューや詳細情報については research@civicus.org まで。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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AIガバナンス:テック大手と権威主義の収斂で揺らぐ人権

【ブリュッセルIPS=サミュエル・キング】

ガザではアルゴリズムが「誰が生き、誰が死ぬか」を決めている。セルビアではAI搭載の監視システムがジャーナリストを追跡し、北京の街頭では自律型兵器が技術力の誇示として行進(軍事パレードや大規模な式典での公開展示を指す:INPSJ)している。これはディストピア小説ではない。現実である。AIが世界を再編する中、この技術を誰が管理し、どのように統治するかという課題は緊急の優先事項となっている。

AIの影響力は、抗議者を追跡できる監視システム、民主主義を不安定化させる虚偽情報キャンペーン、人間の判断を奪い命の選択を機械に委ねる軍事応用にまで及んでいる。十分な安全策が欠如していることがそれを可能にしている。

UN reform should be an ongoing dynamic process and not simply a response to regular US threats to withhold funding. It must be overseen by a specialized unit reporting to the Secretary-General and which should have the power to review the organizational structure, responsibilities, work methods and output of any unit in the Organization or any unit affiliated to with it and make recommendations. Credit: United Nations
UN reform should be an ongoing dynamic process and not simply a response to regular US threats to withhold funding. It must be overseen by a specialized unit reporting to the Secretary-General and which should have the power to review the organizational structure, responsibilities, work methods and output of any unit in the Organization or any unit affiliated to with it and make recommendations. Credit: United Nations
ガバナンスの失敗

先月、国連総会は初の国際的なAI統治メカニズムとして「独立した国際科学者パネル」と「AIガバナンスに関するグローバル対話」の設立を決定した。これは「未来サミット」で合意された「グローバル・デジタル・コンパクト」の一環であり、非拘束的な決議ではあるが、より強固な規制に向けた第一歩となった。しかしその交渉過程では深刻な地政学的亀裂が露わになった。

 Image: Flickr/USDA
 Image: Flickr/USDA

中国は「グローバルAIガバナンス・イニシアティブ」を通じ、完全に市民社会を排除した国家主導型のアプローチを推進し、グローバル・サウスのリーダーとしての地位をアピールしている。AI開発を経済発展や社会目的の道具と位置づけ、西側の技術覇権に対抗する代替モデルとして提示している。

一方、ドナルド・トランプ政権下の米国はテクノナショナリズムを受け入れ、AIを経済的・地政学的レバレッジの道具として扱っている。AIチップ輸入に対する100%関税や、半導体大手インテル株の10%取得といった最近の決定は、多国間協力からの後退と、取引的な二国間関係への傾斜を示している。

欧州連合(EU)は異なる道を歩み、世界初の包括的AI法を制定した。同法は2026年8月に施行され、リスクベースの規制枠組みによって「容認できない」リスクを持つAIシステムを禁止し、その他については透明性を義務づける。前進ではあるが、懸念すべき抜け穴も残されている。

European Commission President Ursula von der Leyen
European Commission President Ursula von der Leyen

例えば、当初はライブ顔認識技術を全面禁止する提案があったが、最終的には限定的使用が条件付きで認められ、人権団体は不十分だと批判している。また、感情認識技術は学校や職場での使用は禁止されたが、治安維持や移民管理では依然として許可されており、既存システムの人種的偏見が記録されていることを考えれば重大な懸念がある。「ProtectNotSurveil」連合は、移民やヨーロッパの人種的マイノリティがAI監視技術の「実験台」となっていると警告している。さらに重要なのは、国家安全保障目的で使用されるシステムや戦争で使用される自律型ドローンがAI法の適用除外とされている点である。

AI開発による気候・環境への影響もガバナンスをめぐる緊急性を増している。AIチャットボットとのやり取りは、通常のインターネット検索の約10倍の電力を消費する。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの電力消費が2030年までに倍増以上になると予測しており、その主因はAIだとしている。マイクロソフトの排出量は2020年以降で29%増加、グーグルは2019〜2023年に炭素排出量が48%増加したことから、ウェブサイト上から「ネットゼロ排出」公約を密かに削除した。AI拡大は新たなガス火力発電所建設を促し、石炭火力の廃止計画を遅らせており、化石燃料依存を終わらせる必要性に真っ向から反している。

求められる「旗手」

現状の地域ごとの規制、非拘束的な国際決議、緩やかな業界自主規制の寄せ集めでは、この深刻な影響力を持つ技術を統治するには不十分である。国家の利己主義が人類全体の利益や普遍的権利に優先され、AIを所有する企業はほとんど規制されずに莫大な権力を蓄積している。

Photo: UNMAS, MINUSMA Mark International Day for Mine Awareness. Robots have been deployed for mine clearance by military authorities in many countries, but concerns are rising over regulation of autonomous weapons which use Artificial Intelligence. UN Photo/Marco Dormino
Photo: UNMAS, MINUSMA Mark International Day for Mine Awareness. Robots have been deployed for mine clearance by military authorities in many countries, but concerns are rising over regulation of autonomous weapons which use Artificial Intelligence. UN Photo/Marco Dormino

今後の道筋は、AIガバナンスが単なる技術的・経済的問題ではなく、権力の分配と説明責任に関わる問題であることを認識することから始まる。少数のテック大手にAI能力が集中する現状に切り込まない規制枠組みは必ず不十分となる。市民社会を排除したり、国家間競争を人権保護より優先するアプローチも課題解決にはならない。

国際社会は、10年以上国連で議論が停滞している致死性自律兵器システムに関する拘束力ある合意から始め、AIガバナンスの仕組みを緊急に強化しなければならない。EUは特に軍事利用や監視技術に関するAI法の抜け穴を塞ぐ必要がある。各国政府は、テック大手のAI開発・運用支配に対抗できる調整メカニズムを確立しなければならない。

市民社会がこの闘いを単独で担うべきではない。人権を中心に据えたAIガバナンスへの転換を実現するには、国際制度の内部から「旗手」が現れ、国家の狭い利害や企業利益よりも人権を優先させる必要がある。AI開発が急速に進む中、もはや時間の猶予はない。(原文へ

サミュエル・キングは、CIVICUS(世界市民参加連盟)で活動する「ENSURED:移行期の世界における協力の形成」プロジェクト(EUホライズン欧州研究プログラム支援)の研究員。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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ここに太陽が:洪水で水力発電所が破壊され、太陽光発電に注目が集まる

【カトマンズNepali Times=ヴィシャド・ラジ・オンタ】

今月のボテ・コシ川の洪水は、気候変動によってネパールの水力発電所が直面するリスクの高さを示す深刻な警告となった。この災害をきっかけに、太陽光発電の可能性に関心が高まっている。ネパールはこれまでほぼ完全に水力に依存したエネルギー戦略を進めてきたが、近年は大規模太陽光発電のコストが低下し、有力な代替手段となりつつある。

ネパールの総発電設備容量は約3,800MWに上るが、太陽光の割合はわずか0.1%に過ぎない。世界が太陽光を利用できるようになった背景には、中国の生産力がある。過去10年でソーラーパネルの価格は最大90%も下がった。

「太陽光の利点のひとつは、プロジェクトの立ち上げの速さです。100MWの水力発電所には10年かかることもありますが、同規模の太陽光発電所なら半年で稼働可能です」と、WindPower社のクシャル・グルンは説明する。

ネパールでは地すべりや洪水、地震が頻繁に水力発電所を損傷してきた。先週のラスワの洪水では、トリスリ川沿いの4つの発電所が計230MW分の発電能力に打撃を受けた。昨年9月の洪水では、456MWのアッパー・タマ・コシ水力発電所が深刻な被害を受けた。これによりネパール電力公社(NEA)や民間事業者は収益を失い、余剰電力をインドに輸出できなくなった。一方、太陽光発電所が被害を受けても、数週間の修復で再稼働が可能である。

ただし「最大の制約は土地です」とグルンは指摘する。「5~10MWを容易に生み出せる小規模な水力に比べ、1MWの太陽光発電所には500㎡の土地が必要です。」

設置場所も重要だ。最適な地域はムスタンで、単位面積当たりの日射量が最も多い。タライ平原も日照はあるが、雲や霧、大気汚染の影響で放射量は低下する。気温が高いと太陽電池の効率も下がる。

「1kWのパネルなら、ムスタンでは1日に6~7ユニット発電できますが、タライではその半分です」とグルンは説明する。

Nepali Times

太陽光のもう一つの利点は分散型であることだ。送電網が不安定で地形が険しいネパールでは、大規模ダムや送電線の建設が難しい。だが家庭用ソーラーは簡単に設置でき、バッテリーと組み合わせれば朝晩も安定した電力を供給できる。

水力ダムは肥沃な谷を水没させ、生態系に影響を与え、住民を移住させる。しかしNEAや電力事業者は水力に固執し、太陽光への転換に消極的である。

一方、GhamPower社は積極的に太陽光に参入し、貧困層にもパネルを導入できる資金調達を提供し、ソーラーマイクログリッドを展開している。同社は2,500件の応募の中から10社の一つとして、インパクトの大きなクリーンエネルギー事業に贈られる5万ドルの「キ―リング・カーブ賞」を受賞した。

また、農家に井戸水を通年で利用できるソーラーポンプを導入し、僻地の診療所には保育器や滅菌器、保温器など出産時や新生児ケアに必要な機器を動かすソーラーシステムを設置してきた。

「産業界にはソーラーに最適な未利用の屋根が多くあります。これを利用すれば電気料金削減につながります」と、Gham Powerのプラディプ・フマガインは語る。ただし国の政策には欠陥がある。産業用ソーラーの発電容量は1MWに制限されており、「この制限は意味をなさず、撤廃すればむしろNEAにとって産業への電力供給が容易になります」と指摘する。

ネパールのエネルギーミックスは、将来の氷河湖決壊による水力発電壊滅リスクを減らすため、太陽光や風力、地熱といった再生可能エネルギーに拡大すべきである。リバースメータリングが導入されれば、太陽光発電者が余剰電力を売電でき、時間別料金制度で負荷の平準化も可能になる。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

「エネルギー政策は水力90%、その他10%に偏っています。少なくとも30%は太陽光を目指すべきです」とグルンは訴える。

ネットメータリングとは、家庭用ソーラーを送電網に接続し、昼間に発電した余剰電力を“輸出”して、他の時間帯に使用した電気代と相殺する仕組みである。実質的に送電網がバッテリーの役割を果たすことになる。

しかしNEAは水力に固執し、ネットメータリングを長年拒んできた。2018年に政府が制度を承認したものの、NEAは本格的に採用しなかった。さらに、導入例がほとんどないままNEAは「ネット課金」方式に切り替え、売電価格を購入価格より安く設定して1対1の相殺をやめた。

そのうえ、NEAは2022年7月にネットメータリング自体を廃止した。これは導入した利用者や事業者を不意打ちし、投資家の信頼を失わせ、今後の投資意欲を冷やした。技術的にはすでに実現可能だが、ネパールに必要なのは政治的意思である。水力と太陽光を競わせるのではなく、可能な限り再生可能エネルギーを生み出す政策こそが求められる。

さらに太陽光以上に効率的なのが風力発電である。必要な土地面積の面でもよりコスト効率が高く、水力より設置も容易だ。

インドと中国はすでに風力タービンブレードの最大の生産国である。ネパールは海岸線を持たず風力に不利だが、ヒマラヤ北側の地域では導入の可能性がある。ただし道路整備が課題だとグルンは言う。(原文へ

This article is brought to you by Nepali Times, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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正義が死んだ日

― 数千件の犯罪記録が灰と化した運命の日を、政府弁護士が振り返る ―

【カトマンズNepali Times=ママタ・シュレスタ】

火曜日、抗議者たちがマンダラにある特別政府弁護士事務所を放火しながら、政府の腐敗を糾弾するスローガンを叫んでいた。しかし実際には、この事務所こそが政府の腐敗事件を積極的に捜査・起訴していた場所だった。その事件記録が今やすべて灰になってしまったのだ。

襲撃者たちは部屋ごとに建物を荒らし、焼き払った。彼らは「13歳の少女ニルマラ・パンタが7年前にカンチャンプルで強姦・殺害された事件の犯人を捕まえられない政府」に抗議しているつもりだった。
だが実際には、地区政府弁護士事務所はニルマラよりもさらに幼い被害者を持つ強姦・虐待事件の捜査を指揮していた。

私自身も政府弁護士になる前は一市民として、ニルマラ事件のことをメディアで知っていた。それは国を揺るがす大事件であり、私が耳にした中で最大の強姦事件だった。しかしいざ自分が政府弁護士として机に向かうようになると、毎日必ず新しい強姦事件の捜査記録が届いた。これは全国規模で続く連続的な恐怖だった。加害者は見知らぬ他人ではなく、父親、兄弟、継父、教師、運転手など被害者の身近な人々だった。

起訴状にはネパール各地、あらゆる年齢層の加害者と被害者が名を連ねていた。法廷に持ち込むすべての記録は、せめて自分に対する犯罪を認めさせ、加害者を裁いてほしいという誰かの願いだった。だが今、それらすべての記録が失われた。

今週、シンハダルバールの政府データセンターが放火から守られたというニュースには安堵した。だが私たちの記録はすべて失われた。証拠はデジタル化されず、バックアップもなかった。紙とインク、緑の紐で綴じられた脆いファイルにしか存在していなかった。

建物が燃えた時、それは犯罪の唯一の記録と加害者の身元も同時に消え去ったことを意味する。地下室いっぱいに積まれていたそうしたファイルを想像してほしい。それぞれが被害者の顔、人生を表していた。今や1万件以上の事件が灰となってしまった。

Photo: HEMANTA SHRESTHA
Photo: HEMANTA SHRESTHA

シンハダルバールは地震の後と同じように、また一から積み上げれば再建できるだろう。だが誰がこの事件記録を再建できるというのか。

SNSでは政治家の自宅に隠された現金や焼け焦げたドル紙幣の写真が出回った。しかし、犯罪記録が詰まった建物全体が炎に包まれる映像は報じられなかった。火曜日にカトマンズの空を覆った煙は、数千人の被害者――その多くが若い女性――の正義への希望をも運び去ってしまった。

2025年9月8日 ― あの日

私たち政府弁護士の職務は、犯罪捜査を指揮し、事件を起訴し、法廷で主張し、控訴を行うことだ。普段なら、一日に少なくとも5件の刑事事件を担当する。

その8日、Z世代の抗議者たちがマンダラに集まる中、私たちは警察クラブで初の女性政府弁護士会議に参加していた。最も鮮やかな青いサリーの制服にアイロンをかけたブラウスを着て、頭を高く掲げ、女性弁護士として女性に対する暴力事件の最多起訴件数を導いたことを誇りに祝った。

だが午後4時、議会外でデモ参加者が銃撃されたという報を受け、式典は中断された。司法長官から直ちに帰宅するよう指示があり、会場を後にした。私たち若手の女性弁護士数名と一人のベテラン女性弁護士は一緒にバドラカリを通り、事務所へ向かった。

そこで怒れる群衆と遭遇した。制服姿の私たちを見るなり、彼らは激しい罵声を浴びせた。名誉毀損訴訟を起こせるほどのひどい言葉だった。私たちは俯きながら歩いた。唾を吐きかけられた。彼らは政府への怒りを私たち公務員にぶつけていた。だが、彼らが唾を吐いたその女性弁護士こそ、ネパール女性に平等な財産権を与える法律を切り拓いた人物だったのだ。彼女は私たちにとって英雄であり、法学の教科書に名を刻んだ人だった。

私たちは怒りから逃れようと走り、特別政府弁護士事務所にたどり着いた。群衆は外にとどまり、私たちは2時間、祈るように沈黙しながら、道が静まるのを待ち、ようやく家に帰ることができた。

翌9日はさらに悪化した。抗議者たちはすでに議会、シンハダルバール、最高裁判所を焼き払い、次に政府弁護士事務所に火を放った。

焼失したのは建物だけではない

ネパール人として、抗議者の怒りは理解できる。しかし政府弁護士として、私は深い傷と空虚を抱える。

これは建物の損失や唾を吐かれたことの問題ではない。数千人の被害者の物語が詰まった記録の消失なのだ。多くの被害者は、自らの正義への闘いが終わってしまったことすら知らない。

私たちはいかなる政党にも属さない公務員であり、誠実かつ独立して職務を果たしてきた。「正義」を求める名のもとで、人々はその正義を実現していた場所そのものを破壊してしまった。(原文へ

ママタ・シュレスタは地区政府弁護士補佐。

INPS Japan

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