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国連総会、米国ビザ拒否でジュネーブ一時移転論再燃

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1988年、パレスチナ解放機構(PLO)議長ヤーセル・アラファトが米国からニューヨーク訪問のビザを拒否された際、国連総会は米国に抗して、史上初めて会場をジュネーブに移し、PLO議長にとってより敵対的でない政治環境を提供した。

アラファトは1974年に初めて国連で演説したが、ジュネーブでの発言をこう切り出した。「この名誉ある総会での2度目の会合が、ジュネーブという温かく迎えてくれる都市で行われることになろうとは、夢にも思わなかった」。

そして今、37年を経て、再び総会を一時的にジュネーブへ移すべきだとの運動が起きている。理由は、パレスチナ代表団が米国への入国ビザを拒否されているためだ。

中東における米国政策の改革を目指す非営利団体DAWNのサラ・リア・ウィットソン事務局長はIPSの取材に対して、「米国はガザにおけるジェノサイドやパレスチナ国家承認に関する議論を阻止しようと、パレスチナ当局者のビザを取り消しているのは明らかです。」「世界は毎日目撃しているイスラエルの残虐行為にうんざりしており、米国がこのような茶番を繰り返した前回と同じく、総会をジュネーブに移すべきだと強く望んでいます。」と語った。

彼女は、会場を移すことは国際社会が長年の国際法違反を容認しないという明確なメッセージになると主張した。

DAWNは先週発表した声明で、1947年の米国・国連本部協定は、二国間の対立にかかわらず、すべての代表が国連に参加できる「無制限の権利」を保障していると指摘した。

米国がこの協定を破ったのは今回が初めてではない。1988年、米国はアラファトのニューヨーク総会出席を拒否し、国連は米国の違反を認定する決議を採択、総会をジュネーブに移すという異例の対応を取った。
セント・ピーター大学外交・国際関係学部のマーティン・S・エドワーズ副学部長はIPSの取材に対して、「会場移転の呼びかけは想定の範囲内だ。」と指摘したうえで、「トランプ政権は他国の意見を顧みずに政策を進めることを好みます。『アメリカ・ファースト』は『アメリカ・アローン』へと変わりつつあるのです。」と語った。

パレスチナ承認を進める国々が実際に行動すれば、米国は安保理常任理事国5カ国の中で唯一、承認しない国となる。

「会場をジュネーブへ移すという威嚇は極めて合理的であり、世界が圧力に対抗して押し返すことができるという教訓を、ホワイトハウスはまだ学んでいない」と同氏は述べた。

国連のステファン・ドゥジャリック報道官は8月29日、ビザ拒否に関して「国務省と協議する。特に協定の第11条と第12条は読む価値がある。」「すべての加盟国、オブザーバーが代表を派遣できることは重要であり、とりわけ今回、フランスとサウジアラビアが主催する二国家解決会合を控えているためです。」と語った。

一方、米国務省は8月29日発表の声明で、「米国法に従い、マルコ・ルビオ国務長官は国連総会を前にPLOおよびパレスチナ自治政府(PA)の関係者のビザを取り消す」と表明した。

声明はさらに「PLOとPAがテロを否認し、扇動をやめない限り、平和のパートナーとは認められない。ICCやICJへの提訴や一方的な国家承認の追求は、ガザ停戦協議の崩壊を招いた要因でもある。」とした。

ただしPAの国連代表部は協定に基づき渡航を認めるとしたうえで、「PA/PLOが義務を果たし、妥協と平和共存への具体的な道を歩むなら、再関与は可能だ」と付け加えた。

現在、パレスチナは193加盟国のうち147カ国(約76%)から国家として承認されている。2012年11月以降、国連では「非加盟オブザーバー国家」とされている。

さらに、米国の抗議を押し切り、2018年にはパレスチナが国連最大の経済ブロックである134カ国の「77カ国グループ(G77)」の議長に選出された。

元国連事務次長補は匿名を条件にIPSの取材に対して、「米国は総会で拒否権を持たないため、OIC(イスラム協力機構、57カ国)主導で決議を採択することは容易だろう。」と語った。(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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地球のための報道

核実験に反対する国際デーに 若者がグローバル・ヒバクシャ支援を世界に訴え

UN University credit: Wikimedia Commons.
UN University credit: Wikimedia Commons.

【東京INPS Japan=浅霧勝浩】

国連が制定した「核実験に反対する国際デー(8月29日)」に合わせ、若者や専門家が東京の国連大学に集まり、「グローバル・ヒバクシャ支援のためのユースの役割」と題するフォーラムが開催された。このイベントでは、広島からマーシャル諸島に至るまで、核兵器の生産、使用、実験等によって被害を受けた人々を総称する「グローバル・ヒバクシャ」の声を若者の連帯がどう増幅し、核兵器廃絶に向けた世界的な機運を強めることができるかが強調された。|HINDICHINESEENGLISH

このイベントは会議であると同時に、行動への呼びかけでもあった。そのメッセージは明確だ。核の時代は過去の歴史ではなく、いまも世界中の人々の身体、記憶、そして闘いの中に生き続ける危機である。そして若者こそが、その声を未来へと継承していく責任を担わなければならない、と主催者たちは強調した。

青年平和意識調査
Daiki Nakazawa (right) and Momoka Abe(left) presenting the final results of a Youth Peace Awareness Survey. Photo credit: Katsuhiro Asagiri
Daiki Nakazawa (right) and Momoka Abe(left) presenting the final results of a Youth Peace Awareness Survey. Photo credit: Katsuhiro Asagiri

このフォーラムは、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、Qazaq Nuclear Frontline Coalition(カザフスタン核フロントライン連合)、創価学会インタナショナル(SGI)、フリードリヒ・エーベルト財団(FES)カザフスタン、マーシャル諸島教育イニシアチブ(MEI)が共催した。

5団体は、1月6日から8月9日の間に米国、オーストラリア、カザフスタン、日本、マーシャル諸島の5カ国で「青年平和意識調査」を実施し、その最終結果を発表した。対象は18歳から35歳の若者で、青年世代が核兵器について、どの程度の知識・認識を持ち、どのような行動を取っているのか、あるいは取ろうと考えているのかを問う調査で、1580人が回答した。

「どの国においても、被爆者の証言を聞いたことのある人は、核廃絶のために行動している割合が高いことが分かりました。」と、SGIユースの中沢大樹氏は語った。「各被害者の証言に耳を傾けることは、単なる記憶の継承ではなく、行動を生み出す触媒なのです。」

同じくSGIユースの阿部百花氏は、彼らの世代にとって被爆者の証言は「核兵器の人間的な代償と、その使用を防ぐ必要性を理解する最も力強い手段の一つ。」であると語った。

カザフスタンの核の遺産を想起
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

東京とカザフスタン・アルマトイを結んだオンライン対話では、FESカザフスタンのメデット・スレイメン氏が同国の悲劇的な歴史を振り返った。ソ連時代、北東部のセミパラチンスク実験場で456回の核実験が行われ直接影響を受けた人々とその子孫は約150万人にのぼること、そして、被ばくに関するデータはソ連崩壊時にモスクワに持ち去られたため、未だに核実験と被爆の影響に関する検証が困難になっていることを指摘した。「影響はいまだ十分に解明されていません。しかし人々の苦しみは明らかです」と語った。

カザフスタン政府は独立した1991年に実験場を閉鎖し、当時世界第4位の核戦力を自ら放棄した。国連はこの歴史的な決断をたたえ、2009年に8月29日を「核実験に反対する国際反対デー」に制定した。

日本の視点
UN Secretariate Building. Credit: Katsuhiro Asagiri

日本の若者にとって、核の記憶は身近であると同時に遠い存在でもある。広島と長崎は国民的記憶の中心にあるが、オーストラリア先住民や太平洋の島しょ国の人々、カザフ人など他の核被害者の経験はしばしば見落とされてきた。

今年3月、ニューヨークで開かれた第3回核兵器禁止条約(TPNW)締約国会議に参加したSGIユースの二瓶優妃氏は、そのギャップを鮮明に感じたと語った。サイドイベントで、英国の核実験で被曝したオーストラリア先住民の証言を聞いたのだ。

「何の通告もなく一方的に核実験が実施され、先住民という弱い立場から未だに十分な補償をうけることができず、認知度も低いままです。」「日本では広島と長崎が歴史的悲劇として語られる一方で、グローバル・ヒバクシャの証言を聞くと、被害は現に今起こっており、苦しんでいる人が今なおたくさんいることが理解できました。」と二瓶氏は語った。

その気づきは、連帯のあり方を考え直す契機となった。「日本人として、グローバル・ヒバクシャの人々と連携して、本当の意味での核廃絶を目指していきたい。」と二瓶氏は語った。

条約と課題
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

Youth Community for Global Hibakusha高垣慶太氏は、TPNWの画期的な意義を強調した。同条約はそれまでの核管理条約とは異なり、初めて被害者支援と環境回復を締約国の義務として明記している(第6条・第7条)。同時に高垣氏は同条約に関する課題についても言及した。例えば、核保有国の不参加、政府とNGOの対立、そしてグローバルサウス諸国の多くが資金的に制約を抱えている点だ。「こうした諸課題は現実のものです。しかし、ビジョンもまた現実です。それを実現するために、私たちは努力を続けなければなりません。」と語った。

また高垣氏は、若者の活動を単なる「継承」に矮小化すべきではないと指摘した。「若者は『被爆者の思いを継ぐべきだ』とよく言われます。確かにそれは重要ですが十分ではありません。その前提として、私たち一人ひとりがどのような社会を築きたいのかを決め、その実現に責任を持つことが必要なのです。」と強調した。

カザフスタンからの呼びかけ
Anvar Mirzatillayev, Counselor of the Embassy of Kazakhstan in Japan Photo Credit: Katsuhiro Asagiri

在日カザフスタン大使館のアンヴァル・ミルザティラエフ参事官は、カザフスタンは独立以来核兵器のない平和を国の基本的な選択として歩んできたことを指摘したうえで、本日のイベントは核の悲劇を記憶にとどめるだけでなく、未来に向けて行動を促す点で極めて重要だ。」と評価した。

青年平和意識調査で多くの若者が「核廃絶のために行動したいが、どうすればよいか分からない」と答えたことについては、「だからこそ核廃絶のキャンペーンはもっと分かりやすく、気軽に参加できる形にしていくことが重要です。」と指摘した。

「被爆者の証言を伝え続けていくことが、若者の思いを行動につなげる大きな力になります。」とミルザティラエフ参事官は強調した。さらに「青年には3つの力があります。『被害の事実を広める力』、『国境を越えて対話を繋ぐ力』、そして『社会を動かす行動力です』。」と述べ、「カザフスタンと日本、そして世界の若者と共に歩み、グローバル・ヒバクシャを支えながら、核兵器のない未来を築いていく、その実現を私は心から信じています。」と力強く訴えた。

国連大学学長の呼びかけ

国際連合大学学長のツシリッツィ・マルワラ博士もまた、核兵器の被害を受けたすべての人々の声を未来へ引き継ぐ責務があると強調した。国連創設時の誓い「戦争の惨禍から将来の世代を救う」を新たにし、未来を担う世代に対し、先見性と勇気をもって平和のために行動を起こそうと呼びかけた。(原文へ

Group photo. Credit: Embassy of Kazakhstan in Japan.
Group photo. Credit: Embassy of the Republic of Kazakhstan in Japan.

INPS Japan

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アフガン報道の危機 逮捕・検閲・崩壊

【プラハIPS=バシール・アフマド・グワク】

アフマド・シヤールは現在、バルフ州で道路建設に従事している。頭上から落ちてくる岩や破片から身を守るためにヘルメットを着用しているが、かつて同じようなヘルメットをまったく別の理由でかぶっていたことがある。北部アフガニスタン各地を取材していた記者時代、彼のヘルメットにはダリ語と英語で「ジャーナリスト」と記されていた。

「取材時には『私はジャーナリストだ』と交戦当事者に示すためにジャーナリスト用ヘルメットを着用していました。厳しい時代でしたが、同時に黄金期でもありました。人々の声を伝える仕事を愛していました。しかしタリバンが権力を掌握してからは、規制と経済的困難が重なり、記者を続けられなくなりました。」とシヤールは語る。「今は建設労働者です。決して楽な仕事ではありませんが、家族を養うためには選択肢がありません。」3人の子の父である彼は一家の唯一の稼ぎ手だ。

シヤールのようにタリバン政権下で苦しむジャーナリストは少なくない。2021年8月15日に権力を奪還して以来、タリバン政権は2025年6月までに少なくとも21のメディア関連指令を発出。国営テレビ・ラジオへの女性出演禁止、抗議活動の報道禁止、音楽の禁止など広範な規制を課してきた。

こうした規制に加え、深刻な経済危機と資金不足が重なり、タリバン統治下で350の独立系メディアが閉鎖に追い込まれた。2021年8月以前は600以上の独立系メディアが存在していたが、その活気は失われた。IPSが確認した国際ジャーナリスト連盟(IFJ)、国境なき記者団(RSF)、ジャーナリスト保護委員会(CPJ)などの報告書に基づく数字である。

「タリバンの復権から4年、かつて活気にあふれていたアフガニスタンの自由な報道は見る影もありません。国内の報道の自由は壊滅的状況にあり、国外に逃れたアフガン人記者もパキスタンやイランで恣意的逮捕の危険に直面しています。」とCPJアジア太平洋地域ディレクターのベー・リー・イー氏はIPSの取材に対して語った。

アフガニスタン最大の独立系ニュースネットワークTOLOnewsは2024年6月、25人の記者を解雇せざるを得なかった。タリバンから「誤解を招き、反政権的な宣伝とされた」とされた番組を停止するよう命じられたためだ。匿名を条件に語った編集幹部は「規制が相次ぎ、情報へのアクセスも遮断されています。資金も枯渇しつつあり、もはや国民に十分なニュース放送を届けられません。」と訴えた。

タリバンは女性の服装やメディア出演に厳格な制限を課しており、演劇やテレビ娯楽番組への女性の参加は禁止された。野党関係者とのインタビューも禁じられ、国際テレビ番組の放送や映画・ドラマの公開も停止された。国外メディアとの協力も禁止されている。

「カブール陥落以降、タリバンは報道に対する弾圧を強化し、検閲、暴行、恣意的逮捕、女性記者への制限が日常的に行われています。タリバンとその情報総局(GDI)は日々アフガン記者を取り締まり続けています。」とイー氏は指摘する。

多くの女性記者は国外に脱出したが、残った者は恐怖の中で生きている。取材に応じたカブールの記者ファリダ・ハビビ(仮名)は、障害を持つ父を置いて逃げることができず国内に残った。タリバンにより『声が非イスラム的だ』とされ放送から退けられ、今はオンラインメディアで働いている。「本当に鬱々とした毎日です。外出も自由にできず、給与もごくわずかです」と彼女は語る。

タリバンの「勧善懲悪省」は生き物の姿を描いた画像の掲載を禁止した。多くの規則に具体的な罰則が明記されていないため、当局はこの曖昧さを利用して記者を恣意的に処罰している。

アフガニスタン・ジャーナリスト・センター(AFCJ)の2024年報告書によれば、2021年8月から2024年12月までに703件の人権侵害が記録された。これには恣意的な逮捕・拘束、拷問、脅迫、威嚇が含まれる。

同様に国連アフガニスタン支援団(UNAMA)も2024年の報告書で、タリバンによる「報道の自由の体系的な解体」を強く非難した。UNAMA代表のローザ・オトゥンバエワ氏は「アフガンの記者たちは不明確な規則の下で活動し、何を報じられるかも不明確なまま、批判と見なされれば恣意的な拘束にさらされています。自由な報道は、どの国にとっても選択ではなく不可欠です。アフガニスタンでは今、その不可欠な権利が体系的に解体されています。」と述べた。

一方、タリバン政権は不当行為を否定し、報道を支援していると主張する。2025年7月2日、カブールで記者団に応じた情報文化省の報道官ハビブ・ガフラン氏は「我々は自由なメディアを支持するが、誰もイスラムのレッドラインを越えることは許されない」と述べ、詳細は示さなかった。また、記者向けの資金支援基金の設立を進めていると付け加えた。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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アフガンメディアフォーラムを取材

国連のAI決議:野心あるも実効性に欠ける

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

ニューヨーク、国連本部──国連総会は人工知能(AI)に関する決議(文書A/79/L.118)を採択した。国際社会がAIガバナンスを本格的に検討し始めたことを示す動きとして注目を集めたが、その内容を精査すると、実効性に乏しく、対話や報告を重ねる枠組みを新設するにとどまっている。

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN

この決議は、リスクや機会、影響を評価する40人規模の「人工知能科学パネル」の設立を決め、持続可能な開発目標(SDGs)支援やデジタル格差是正を目的とした「AIガバナンスに関するグローバル対話」を立ち上げた。総会では多くの代表団がこれを歴史的な一歩と評価した。イラク代表は「77カ国グループ+中国」を代表し、AIが教育、医療、デジタル経済を変革する可能性を強調した上で、途上国のニーズに応じた公平で包摂的なガバナンスを求めた。デンマーク代表はEUを代表し、科学的独立性と多様な主体の関与を重視する枠組みを高く評価し、国連の有効性を示す成果だと述べた。

しかし、その意義づけとは裏腹に、この決議は「手続きを優先し、実質を伴わない」という国連加盟国の従来の傾向を映し出している。アントニオ・グテーレス国連事務総長が「国連80周年」の関連報告で任務過多と財政危機を警告したように、国連は実行力や政治的意志を欠いたまま包括的なマンデートを次々と生み出してきた。今回の決議もその例外ではなく、野心的な目標を掲げながらも範囲は限定的で、実効性に欠ける。

最大の問題点は、軍事利用のAIを明示的に対象外とした点である。自律型兵器やAI駆動の監視、アルゴリズムによる戦闘指揮は最も深刻なリスクを伴う領域であるにもかかわらず、国際的な対話から除外された。これは合意形成を優先するための回避に過ぎず、現実の課題への対応を弱めている。

ATN
ATN

資金面も懸念材料だ。決議は自発的拠出金に依存しており、その多くがAIの影響力を持つ大企業から拠出されることが予想される。手続きが透明に見えても、資金提供は優先順位を左右しがちであり、企業資金が条件なしに提供されることはまれである。「AI格差の是正」をうたってはいるが、実効的な資金や技術移転が伴わなければ、約束は実現しない可能性が高い。途上国にとってこれは抽象的な議論ではなく、デジタル教育の欠如、AI診断機器を持たない医療現場、そして一部の大国と企業が将来のルールを決める中で取り残される経済という現実を意味する。

AI決議は、AIガバナンスの緊急性を認識し、対話の場を提供した点では評価できる。しかし「認識」と「実行」は異なる。加盟国が軍事AIに踏み込み、資金面で裏付けを行い、象徴的な対話にとどまらない実効的な枠組みに移行しない限り、この取り組みがAIの行方を左右することはないだろう。

人工知能の進展は外交の速度を上回っている。国連が「対話」を「統治」と取り違え、任務過多に陥ったこれまでの悪循環を繰り返すならば、主導権を主張する分野で自らの存在意義を失いかねない。選択は明白である──AI決議に実効性を持たせるのか、それとも大国と企業がAIの未来を決定するのを傍観するのか。(原文へ

アハメド・ファティは、国連担当記者であり国際問題アナリスト。著書に『America First, The World Divided: Trump 2.0 Influence』がある。外交、多国間主義、権力、国際政治の動向について執筆している。

INPS Japan/ATN

Original Link: https://www.amerinews.tv/posts/the-un-s-ai-resolution-ambition-without-teeth

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ツバル国民の3人に1人が新設されたオーストラリア移住の「気候ビザ」に応募

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。この記事は、2025年6月27日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

【Global Outlook=ラルビ・サディキ】

ツバル国民の3人に1人が、新設されたオーストラリア移住の「気候ビザ」に応募している。最終的には全員が応募することになるかもしれない理由を解説する。

わずか4日間でツバル国民の3分の1が、新設されたオーストラリア永住ビザの抽選に応募した。

この世界初のビザは、ツバルの現人口約1万人のうち、毎年最大280人のツバル国民がオーストラリアに永住することを可能にするものだ。このビザは、オーストラリアでの就労、就学、または居住を希望する人であれば誰にでも門戸を開いている。太平洋諸国民を対象とする他のビザ制度と異なり、オーストラリアでの就職先が要件とはされない。() 

ビザ自体は気候変動に言及していないが、ビザの創設を定めた条約は、「気候変動がもたらす存亡の脅威」という状況を背景としている。そのため、このビザが発表されたとき、筆者はこれを気候による移動に関する世界初の2国間協定と表現したのである。

オーストラリア政府も、「気候変動の悪化に伴って尊厳ある移住の道筋を提供する、世界にも類を見ない協定」と呼んでいる

抽選への応募者の多さに驚く人も多いかもしれない。特に、条約が発表された当初はツバル国内にさまざまな懸念があったからである。それでも、一部のアナリストは、最終的には全てのツバル国民が選択肢を保持するために応募するだろうと予測した

チャンスをつかむ

このビザは、気候変動や災害という状況で人々に移住の機会をもたらすことの重要性を浮き彫りにしている。沿岸部の洪水、嵐による被害、水供給への影響など、海面上昇の危険性は一目瞭然である。しかし、ここにはもっと多くの要因が働いている。

多くの人々、特に若いファミリー層にとって、これはオーストラリアで教育と技能訓練を受けるチャンスと考えることができる。どのような場合に、いつ、どこに移住するかの選択肢を人々に提供することで、人々に力を与え、彼らが自らの人生について十分な情報を得たうえで決断することを可能にする。

ツバル政府にとって、新たなビザ制度は経済へのテコ入れという意味もある。今や移民は、多くの太平洋諸国にとって経済の屋台骨となっている。

移民が母国の家族やコミュニティーを支えるために送る資金は、本国送金として知られている。2023年、本国送金はサモアのGDPの28%、トンガのGDPの42%近くを占めた。これは世界で最も高い水準である。現在、ツバルは3.2%である。

ようやくの実現

気候変動が懸念事項となるかなり前から、ツバルはオーストラリアに対して特別ビザ制度の設置を働きかけていた。人口動態の圧力に加えて、生計機会や教育機会の乏しさから、移住は1980年代と90年代を通して関心を集める政策課題だった。1984年、オーストラリアの対外援助プログラムに関するレビューにおいて、ツバル国民の移民機会を強化することが最も有益な支援のあり方かもしれないと示唆された。

2000年代初めまでに、焦点は気候変動がもたらす存亡の脅威に移っていた。2006年、当時影の内閣で環境相を務めていたアンソニー・アルバニージーが、「Our Drowning Neighbours(溺れる隣人たち)」と題する政策議論文書を発表した。そこでは、オーストラリアが隣国としての対応の一環として太平洋諸国からの移民制度を創設することが提案された。2009年、当時のペニー・ウォン気候変動相の報道官が、一部の太平洋諸国民にとって最終的には永久移住が唯一の選択肢になるかもしれないと述べた

太平洋におけるオーストラリアおよびニュージーランドへの他の移住制度と合わせると、毎年人口の4%近くが移住することになるかもしれない。ある専門家によれば、これは「並外れて高い水準」である。10年以内に、人口の40%近くが移住を済ませている可能性がある。とはいえ、なかには帰国する人や往来する人もいるかもしれない。

新来者はどのように受け入れられるか?

新しいビザ制度が真に試されるのは、人々がオーストラリアに到着したときにどのように扱われるかであろう。

現地での生活に適応できるよう支援が受けられるのか、あるいは孤独で締め出されたように感じるのか? 仕事や訓練機会を見つけることができるのか、あるいは不安定で不確かな状況に置かれるのか? 文化的つながりを失ったように感じるのか、あるいは拡大するツバル人ディアスポラ社会の中で文化的伝統を維持することができるのか?

健全で文化的に適切な定住サービスを整備することが極めて重要である。理想的にはこれらをツバル人コミュニティーのメンバーと共同で策定し、「継続的対話と信頼を確保するためにツバルの文化と価値観を中心に置く」ことが望ましい。

専門家らは、「ツバル文化に関する専門知識とツバル語の能力を備えた連絡担当官がいれば、到着後のプログラムのような活動を支援することができるだろう」と提案している

経験から学ぶ

また、新来者が経済的・社会的困難を経験するリスクを低減するために、ツバル人のニュージーランド移住からも学ぶべき多くの重要な教訓がある。

制度の継続的な監視と改善もまた鍵となる。これには、ツバル人ディアスポラ、ツバル本国のコミュニティー、オーストラリアのサービス提供者、さらには連邦、州/準州、自治体政府が関与するべきである。

また、移住によって資源への制限から解放され、すでに脆弱化している環礁環境へのストレスが軽減されることから、一部の人々が本国送金と海外の拡大親族ネットワークに支えられてツバルにより長く残留できるようになるかもしれない。

一部の専門家が指摘している通り、海外からの送金は親族が気候変動への脆弱性を低減するために活用することができるだろう。雨水タンクや小型ボートを購入する、あるいはインターネットなどの通信環境を改善するために役立つかもしれない。また、本国送金は、子どもたちの教育水準を高める、あるいは社会資本を増強するサービスに投資した場合も有益である。

大規模な流出を遅らせる

転換点にいつ達するかを知ることは難しい。例えば、ツバルに残る人があまりにも少なければ労働力と技能の不足により開発が制約されるだろうと、一部の人々は警告する。キリバスのテブロロ・シト元大統領はかつて、移住は「両刃の剣」であると筆者に語った。人々が海外で仕事を見つけ、本国に送金できるようになる一方、「地元の経済や整備にも十分な技能人材が必要であり」、そうでなければ逆効果になる。

ビザには年間280人の上限があり、問題が生じれば人数を調整する余地はあるが、転換点までの道のりはまだ遠い。現時点では、新たなビザは気候変動への対処方法に関する選択肢を人々にもたらすセーフティネットを提供している。ビザの抽選は7月18日まで応募可能であり、応募者はさらに増えると思われる。

ジェーン・マックアダムは、豪・ニューサウスウェールズ大学(UNSW Sydney)のカルダー国際難民法センターにおいて、科学教授およびARC 受賞者 Fellowを務める。

INPS Japan

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選択は今もなお明白:80周年迎えた国連憲章を再確認する

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。またこの記事は、2025年6月26日にジョーダン・ライアンが国連憲章調印80周年に寄せて語ったものである。

【Global Outlook=ジョーダン・ライアン

今から80年前、サンフランシスコに世界中の国から代表者が集まった。ある文書に調印するだけではなく、ある約束をするためだった。(原文へ 

Jordan Ryan. Photo Credit: Toda Peace Institute

人類の歴史上最も破壊的な戦争の灰燼の中から生まれた国際連合憲章は、後世の人々を戦争の惨禍から守り、全ての人間の尊厳と価値を守り、征服ではなく協調によって平和を築くという誓いを具現化した。

その冒頭の言葉「われら人民」は、各国政府だけでなく全ての人類を指している。それは、より壮大で永続的なものへの転換を示していた。

トルーマン大統領が米国上院で国連憲章を提示した際、「この憲章か、より良い憲章かではなかった。この憲章か、全く憲章なしかの選択だった」と述べたが、今日、われわれは同様の選択を迫られている。

トルーマンによるサンフランシスコ会議閉会の辞は、厳しい真実を突き付けるものだった。「数年前われわれにこの憲章があったなら、そして何よりこれを用いる意志があったなら、死亡した何百万人もの人は現在も生きていただろう。将来、これを用いるというわれわれの意志が揺らぐことがあれば、今生きている何百万人もの人が必ずや死ぬだろう」。そして彼は世界に対し、「ファシズムはムッソリーニとともに完全に死んだわけではない。ヒトラーは破滅した。しかし、彼の無秩序な精神によってばら撒かれた種子は、あまりにも多くの狂信的頭脳の中に深く根を下ろしている」と釘を刺した。

それは1945年のことだ。しかし、その警告は今なお響き渡っている。今日、これらの種子は新たな形を取るようになった。それらは制服を着ているとも限らず、戦場にいるとも限らない。異論を封じ込めるデジタルシステム、遺恨を生む経済的排除、真実よりも権力を重視するイデオロギーといった形である。外面は変わったが、その危険は同じままである。

親しい友人の義父ジョン・ドライアーは、サンフランシスコのその場にいた。代表団としてではなく、会議を実現させるために舞台裏で尽力した若いプロフェッショナルたちの一人としてである。彼は38歳という若さで事務局の次長を務め、本会議の計画、演説の順序管理、会議を円滑に運営するロジスティクス機能などを監督し支援した。

彼は妻への手紙の中で、最終投票について、「議長を務めたハリファックスが起立投票を呼び掛けた。議長が起立し、私が数え、投票結果をアルジャー[・ヒス]に伝えた。国連憲章が全会一致で承認されたことをハリファックスが宣言すると、誰もが立ち上がって拍手し、歓声をあげた。本当に自然発生的で熱狂的な瞬間だった」と描写した。

彼は、会議全体の中で最高の瞬間だったと述べている。それは、この憲章が単に交渉によって取り決められたテキストなどではなく、信じるという賭けであったことをわれわれに思い起こさせる。それは、響き渡る希望だった。

今日、ウクライナ、ガザ地区、スーダン、サヘル地域で戦争が勃発し、イラン空爆が中東における危険で新たなエスカレーションの様相を呈するなか、国際法は組織的に無視され、民間人を標的にしても罰せられることなく、住民全体が保護も発言の場も与えられないままになっている。病院を標的にすることからクラスター爆弾の使用にいたるまで、戦争法への違反が起こっているだけでなく、戦争法そのものが崩れつつある。その一方で大国間の対立が安全保障理事会を麻痺状態に陥らせ、国連憲章の最も基本的な約束は危うい状況にある。

Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini
Photo: Thousands of Ukrainians seek safety in neighbouring Poland. © WFP/Marco Frattini

われわれが直面する状況を明確にしてみよう。ロシアによるウクライナ侵攻は、国連憲章に対する直接的な攻撃であり、国連が守るべく設立されたあらゆる原則を侵害する領土侵略戦争である。米国は多国間制度や協定から離脱し、国際協調の基盤そのものを弱体化させている。世界中の権威主義政権がこれらの亀裂に乗じ、権利よりも支配を、自由よりも監視を、真実よりも権力を優先させるという対照的なもう一つの体制を構築しつつある。

このような空白を権威主義的な意図が埋めるに任せてはならない。われわれは、国連憲章のビジョン、完璧な調和のビジョンではなく原則に基づく協調のビジョンを取り戻さなければならない。画一性ではなく、多様性、主権、法の支配の尊重による平和のビジョンである。

それには、武力行使や侵略に対し、明白かつ普遍的に抗議することが含まれる。領土の保全が侵害されるとき、力によって体制が変更されるとき、戦争犯罪が罰せられないとき、構造全体が弱体化する。国連憲章のガードレールは、任意のものではない。それは、われわれと暗い絶望との間に立つ防壁なのだ。

そして、覚えておこう。平和に必要なのは停戦だけではない。トルーマンが同じサンフランシスコ演説で述べた通り、「公正かつ永続的な平和は、外交協定や軍事協力だけでは達成できない」。彼は、経済的な対立と社会的不公正が「戦争の種」をまくことを理解し、「人為的かつ不経済な貿易障壁」を取り除くことを呼び掛けた。平和には、全ての人の公正、尊厳、公平な未来が必要である。それは、事実、透明性、真実を重視する世界の姿勢にかかっている。「諸国家は、自由でありたければ真実を知らなければならない」と、トルーマンは言った。

しかし、私が希望を見いだせるものがある。

The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.
The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.

力を持つ者が弱体化すると、他の者たちが力をつける。安全保障理事会で国境の防衛を訴えたケニアの勇気ある演説。人道的アクセスをめぐるアイルランドの外交努力。地域の平和構築を推進するガーナとブラジル。これらは、周縁的活動ではない。これらが中心を支えているのである。

世界は、少数の国によるコンセンサスを待っていられない。中堅国家、地域のリーダー国、そして多くの場合サイレント・マジョリティーである国々は、特別な責任を負っている。彼らのリーダーシップ、静かで、忍耐強く、原則に根差したリーダーシップこそ、声高な国々が免責を選ぶような時代に、国際規範がいかに存続するかを示している。

また、そのようなリーダーシップが力を発揮できるようなスペースを守ることも必要である。拒否権による機能麻痺や官僚主義といった欠点があるとはいえ、国連は今なお不可欠である。国連は日々、何百万人もの人々に食糧を提供し、子どもたちにワクチン接種をし、人権を監視し、脆弱な地域で平和を再構築している。

しかし、国連憲章は戦争を終わらせることばかりを意図しているのではなく、それを防止することを意図している。それは、外交に再注力し、市民社会スペースを守り、偽情報に対抗し、国際法が権力者をかばうのではなく弱者を保護するようにするということである。そこがハルトゥームであれ、キーウであれ、ガザであれ、ポルトープランスであれ、「われら人民」との言葉が依然として意味を持つ未来を築くということである。

トルーマンは、国連憲章を合衆国憲法になぞらえ、「最終的あるいは完璧な文書ではない。しかし、時が経つにつれて拡大し、より良くなるものだ」と述べた。それこそが、今日のわれわれの仕事なのである。憲章を拡大し、より良くすること。憲章がわれわれの記憶の中だけでなく、われわれの行動の中に生きるようにすることである。

United Nations

国連憲章が生き続けられるものとなったのは、その起草者たちが失敗の代償を目の当たりにしたからである。彼らは、死者を葬った。彼らは、協力なくして平和がないことを知っていた。そして、平和なくして未来がないことも。

当時、選択肢は明白だったとトルーマンは言った。それは今もなお変わらず明白である。

平和を選ぼう。国連憲章を選ぼう。憲章に、再び命を吹き込もう。(原文へ

* * * * *

国連憲章80周年を記念して、元国連職員らのネットワーク “Peace Reflection Group”は、国連憲章の創設原理を大切にする姿勢を再確認するよう促す世界的呼びかけを開始した。

呼びかけは、全ての国の人々に対し、平和、尊厳、国際協力という共通の価値を再確認することを求めている。

署名は人類の全ての構成員に開かれており、こちらのリンクから追加することができる: 呼びかけに署名する
呼びかけの原文を「フィナンシャル・タイムズ」で読む
10以上の言語による全文と署名者リストはこちらから閲覧できる: 呼びかけを読む

ジョーダン・ライアンは戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会(TIRAC)メンバーおよびフォルケ・ベルナドッテ・アカデミー(Folke Bernadotte Academy)のシニア・コンサルタント。過去には国連事務次長補を務め、国際的な平和構築、人権、開発政策分野で幅広い経験を持つ。専門分野は平和と安全に寄与する民主的機関と国際協力の強化である。これまでに、アフリカ、アジアおよび中東で市民社会団体を支援し、持続可能な開発を推進する数多くのプログラムを率いてきた。国際機関や各国政府に危機予防や民主的統治に関する助言を定期的に行っている。

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オーバーツーリズム:市民社会の動き出し

【ロンドンIPS=アンドリュー・ファーミン】

ヨーロッパや北米は休暇シーズンの真っただ中で、人々はビーチに押し寄せ、都市中心部を埋め尽くしている。旅行・観光産業は巨大なビジネスであり、昨年は世界経済に占める割合が10.9兆米ドル、世界GDPの約10%に達した。

Andrew Firmin
Andrew Firmin

しかし観光地の住民は、その負の側面を肌で感じている。観光客の過剰な集中、地域社会の恒常的な変化、迷惑行為、逼迫する公共サービス、ごみや汚染といった環境負荷、そして高騰する住宅費用である。オーバーツーリズムは、観光産業が住民の生活の質を体系的に損なう状況を指す。各国で住民の抗議が相次ぎ、市民社会の草の根団体が持続可能な観光のあり方を求める動きが広がっている。

住民の抗議

6月、ヨーロッパ各地で連携した抗議行動が行われた。人口160万人のバルセロナには年間3200万人の観光客が訪れる。観光縮小を求める「ネイバーフッド・アセンブリー」は、ホテルの入り口を封鎖し、発煙筒を焚き、水鉄砲を放つ抗議を実施した。ジェノバでは、活動家が大型クルーズ船の模型を旧市街の路地に引き込み、観光船の影響を訴えた。これらの行動は、フランス、イタリア、ポルトガル、スペインの団体が4月に結成した「南欧反観光化ネットワーク」の協議で調整されたものである。

Crowds at the Trevi Fountain in Rome/ Public Domain.
Crowds at the Trevi Fountain in Rome/ Public Domain.

これが初めての抗議ではない。5月にはカナリア諸島で数千人がデモを行い、昨年も複数の都市で抗議が行われた。直近では、パリのモンマルトル地区の住民が、自宅に横断幕を掲げ、地域が観光で変容していることを訴えた。

抗議は街頭にとどまらない。オランダでは「アムステルダム・ハズ・ア・チョイス」という住民団体が市を相手取り法的措置を検討している。2021年、市は住民の請願を受け、宿泊数を年間2000万泊に制限することを決定したが、調査ではこの上限を恒常的に超えていることが示されている。団体は規制の履行を求めて訴訟に踏み切る構えだ。

複数の国で住民が声を上げるのは、同じ問題に直面しているからだ。オーバーツーリズムは地域社会を変貌させ、住民を追いやりつつある。

オーバーツーリズムの影響

観光業は雇用を生むが、多くは低賃金かつ季節労働で、労働権や昇進の機会は限られる。観光の集中する地域では、住民が日常的に利用する店が観光客向けのビジネスに置き換わり、家賃高騰で老舗も淘汰される。

Map of Spain
Map of Spain

環境への負荷も住民を直撃する。イビサ島の活動家は、水不足で住民に制限が課される一方、ホテルは対象外だと訴える。ビーチや公園といった公共空間は過密化・劣化し、地域社会は舞台セットのように扱われ、帰属意識や地域のアイデンティティが脅かされる。「観光よりも生活を」というスペインの運動がその象徴である。

住宅費高騰は最大の懸念のひとつだ。賃金を上回る勢いで住宅価格や家賃が上昇し、若者は収入の大半を家賃に費やさざるを得ない。観光需要は短期滞在用賃貸を増加させ、恒常的な住宅供給を圧迫している。観光地に住む人々は、自分たちの住居が投資用物件や短期レンタルに変わり、住宅不足と価格高騰を招いているのを目の当たりにしている。

マンションの住人は、短期賃貸化により近隣住民が消え、代わりに観光客の迷惑行為に悩まされる。規制は甘く、大家が法を無視しても摘発は少なく、税の回避も容易だ。スペインには推計6万6000件の違法観光アパートが存在する。

対策の必要性

昨年、バルセロナで観光客に水を浴びせた抗議行動が注目を集めたが、住民の多くは観光客を直接狙っているわけではない。彼らは外国人嫌悪ではなく、観光客と住民の間に公平なバランスを求めているのだ。観光で利益を得る者に、問題解決のための負担を求めているのである。

抗議の成果も出始めている。昨年、スペインの裁判所は規制違反を理由にAIRBNBの物件約5000件の削除を命じた。バルセロナ市長は、短期レンタル物件のライセンス更新を打ち切り、5年以内に全面廃止する計画を発表。ポルトガル政府は新規ライセンス発行を停止し、ギリシャ政府は新規登録を1年間禁止した。それでも多くの国で規制の隙間が残り、政府は市民団体と協力して改善する必要がある。

By Steve Swayne - File:O Partenon de Atenas.jpg, originally posted to Flickr as The Parthenon Athens, CC BY 2.0
By Steve Swayne – File:O Partenon de Atenas.jpg, originally posted to Flickr as The Parthenon Athens, CC BY 2.0

観光税を導入する自治体も増えている。ベネチアは非住民にピークシーズンの入場料を課し、アテネではパルテノン神殿の入場者に時間指定を導入した。こうした税や料金は単なる収入源ではなく、被害を受ける地域社会を支援するために使われなければならない。

また、当局は観光誘致のマーケティング戦略にも注意を払い、過度な宣伝を避けるべきだ。観光客に与える影響を認識させ、被害を最小限に抑える行動を促すキャンペーンが必要である。

オーバーツーリズムへの抵抗運動は今後さらに拡大し、環境、住宅、労働などの問題を結びつけながら広がっていくだろう。気候変動が資源を一層圧迫するなか、この問題は深刻さを増している。オーバーツーリズムの懸念は、結局のところ経済が大多数の人々の利益のために機能していないという不満の表れでもある。各国政府と国際社会は、経済をより公正で持続可能かつ搾取的でないものにする方法を真剣に模索し、警鐘を鳴らす市民社会の声に耳を傾けなければならない。(原文へ

アンドリュー・ファーミン氏は、CIVICUS編集長であり、「CIVICUSレンズ」共同ディレクター兼ライター、『世界市民社会報告書』共著者。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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トランプのコーカサス合意:アゼルバイジャンへの傾斜か、それともアルメニアの生命線か?

【ロンドンINPS Japan/London Post=ラザ・サイード】

2025年8月8日、ドナルド・トランプ米大統領はホワイトハウスでニコル・パシニャン・アルメニア首相とイルハム・アリエフ・アゼルバイジャン大統領を迎え、数十年に及ぶナゴルノ・カラバフ紛争の解決を目指す歴史的な和平宣言を発表した。ナゴルノ・カラバフは国際的にはアゼルバイジャン領と認められているが、歴史的にアルメニア人が多く居住してきた地域である。

この合意は包括的な条約ではないものの、ロシア主導の調停から米国の関与へと大きく転換する意味を持つ。背景には2022年のウクライナ侵攻後におけるモスクワの影響力低下がある。合意の中核は「国際平和と繁栄のためのトランプ・ルート(TRIPP)」であり、アルメニアのスユニク州(歴史的にはザンゲズル)を通り、アゼルバイジャン本土と飛び地ナヒチェバンを結ぶ交通回廊である。米国はこの地域の道路、鉄道、パイプライン、光ファイバーなどのインフラ開発に99年間の独占的権利を得る。

2025年8月18日現在、イランの反発とEUの迅速な批准要求の中、この合意がアルメニアに有利なのか、それともアゼルバイジャンに傾いているのか、その行方が問われている。

紛争の経緯

起源は1921年、ヨシフ・スターリンがアルメニア人多数のナゴルノ・カラバフをソビエト・アゼルバイジャンに編入したことにさかのぼる。ソ連崩壊期の1980年代末、カラバフのアルメニア人はアルメニアとの統合を求め、民族迫害事件や第1次カラバフ戦争(1988~1994年)が勃発した。アルメニア軍はロシアの支援を受けてカラバフと周辺7地区を掌握、60万人以上のアゼルバイジャン人を追放し、約3万人が死亡した。

1994年にOSCEミンスク・グループ(ロシア、米国、フランス共同議長)の仲介で停戦が成立したが、状況は不安定なままだった。2020年、アゼルバイジャンはトルコ製ドローンや軍事支援を得て44日間の攻勢を展開し、多くの領土を奪還。ロシアの仲介で停戦が成立し、ロシア平和維持部隊が展開した。2023年にはアゼルバイジャン軍が残る飛地を電撃的に制圧し、10万人を超えるアルメニア人が脱出した。この人道危機は「民族浄化」とも呼ばれ、アルメニアは孤立し、西側の仲介に道を開いた。

2025年の和平宣言

宣言は相互の領土保全の承認、敵対行為の停止、そしてアルメニアの法律下で進められるものの米国の監督下に置かれるTRIPP回廊の開発を確認した。さらに米国は、これまでアゼルバイジャンへの援助を制限してきた「自由支援法第907条」の適用を解除し、アゼルバイジャン政府との関係強化を示した。支持者はこれをロシア依存からの転換と見なし、シルクロード貿易路の再活性化、イランやロシアを迂回した南コーカサスの世界市場統合を期待している。

アルメニアにとっては、2023年の敗北後に経済的生命線を提供する可能性がある。通路の再開は輸出、観光、投資を拡大し、ロシア依存を軽減できる。パシニャン首相はこれを「安定に向けた重要な節目」と呼んだ。

しかし、アルメニアでは主権を損なう妥協だとして抗議が広がっている。カラバフのアルメニア人の帰還や捕虜の解放、文化遺産保護の規定は含まれていない。イラン大統領は8月11日にアルメニアを訪れ、軍事演習を警告。北大西洋条約機構(NATO)の浸透と見なして強く反発した。欧州連合は批准を促す一方、ロシアも依然として妨害の可能性を残している。

合意は非対称的で、アゼルバイジャンに有利に見える。アゼルバイジャン政府はナヒチェバンへの自由なアクセスを確保し、トルコとの結びつきを強め、欧州のエネルギーハブとしての役割を固める。アルメニアは敗北の結果、形式的な和平と西側との接近を得る一方で、外国のインフラを1世紀にわたり受け入れることになる。経済多角化の可能性はあるが、人道問題の未解決やイランの反対により、安全保障上の脆弱性はむしろ増す恐れがある。

専門家の見解
Dr. Gevorg Melikyan

ゲヴォルグ・メリキャン博士(アルメニア・レジリエンス&ステートクラフト研究所創設者、元大統領顧問)
「ワシントンDCで署名ではなく“仮署”にとどまったこの和平合意は極めて問題が多い。真の和平条約というより、戦略的に重要な32キロの道路を99年間、米国企業に管理させる取り決めに過ぎず、実質的にアルメニアの主権を譲り渡すものだ。アゼルバイジャン側はこれを“回廊”と呼び、バクーとナヒチェバンを結ぶ障害なき連結とみなしている。この取り決めはアゼルバイジャンとトルコの地域的野心を後押しするものであり、戦争犯罪や民族浄化の責任を免責している。

さらに、アゼルバイジャン大統領は和平の前提条件としてアルメニア憲法の改正まで要求しており、これはアルメニアとアゼルバイジャン間の「平和・国家間関係樹立協定」第4条(内政不干渉の義務)に明確に違反している。こうした要求は主権と安全保障を損なう無期限のプロセスを意味する。

加えて、この合意はアルメニアに対する実質的な軍事的保証を伴っていない。大国や地域勢力の経済的・地政学的利益を優先し、アルメニアを一層脆弱にしている。現在の指導部は2026年議会選挙を前に政権維持を優先し、国家安全保障や外交戦略を欠いたまま、主権を外国勢力に貸し出している。」

Anahit Vardanants

アナヒト・ヴァルダナンツ氏(詩人・芸術家)
「今回の和平合意は、アルメニアにとって大きな機会であると同時に深刻な課題も伴う。経済発展の契機、米国の外交支援、新たな地域協力の扉を開く可能性がある一方、国家主権の一部譲歩、内政的な対立、安全保障上の不確実性を抱える。

特に脅威となるのは、回廊をめぐるイランの強い反発であり、緊張や地域的な複雑化を招く可能性がある。従って、この合意がアルメニアにとって安定と発展の道となるには、公平かつ十分に実施されることが不可欠だ。さもなければリスクが利益を上回るだろう。国家と国民の利益を最優先に、慎重かつ統一的な対応が必要である。」

Vahan Babayan

ヴァハン・ババヤン氏(改革党党首、元国会議員)
「8月8日に米国の仲介で初署されたこの合意は、長年のカラバフ紛争解決を目指すものだが、真の和平には程遠い。なぜバクーに拘束されたアルメニア人捕虜はいまだに解放されないのか。米国がアゼルバイジャンへの軍事支援を制限してきた『自由支援法第907条』を撤廃したのは誰のためであり、アゼルバイジャンは誰に対して武装するのか。アルツァフ(ナゴルノ・カラバフ)からの避難民の帰還や、ジェルムクなど占領地からの撤退についても不透明だ。

さらに、OSCEミンスク・グループという長年の調停機関が解体され、戦略的なスユニク回廊が99年間も米国の監督下に置かれることは、イランを刺激し、重要な経済パートナーであるロシアとの関係を損なう危険がある。この“和解”は言葉と約束に過ぎず、実質を欠いている。捕虜解放、避難民帰還、領土問題といった重要課題に答えなければ、真の和平は実現しない。」

結論

この合意はアルメニアに経済的・外交的な機会をもたらす一方、戦略的利得を得るのはアゼルバイジャンであり、力の不均衡を反映している。成功の鍵は実施と地政学的協調にあり、安定をもたらす可能性もあれば、アルメニアの脆弱性を深める可能性もある。(原文へ

INPS Japan/London Times

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日本政府、中央アジアへの関与を強化 岩屋外相が高官級訪問

【アスタナThe Astana Times=アッセル・サトゥバルディナ】

日本の岩屋毅外務大臣は8月24~26日の日程でカザフスタンを公式訪問し、カシム=ジョマルト・トカエフ大統領およびヌルテリュ外相と会談した。訪問の主な目的は、地域との関係を強化し、日・中央アジア高官級会合の準備を進めることにある。

岩屋外相は、23日にカザフスタンスカヤ・プラウダ紙に寄稿した記事で「今日、中央アジアは着実な経済発展を遂げており、欧州とアジアを結ぶ交易ルートとしての重要性も高まっている。同時に、国際情勢の変化が地域諸国に大きな影響を及ぼしている。まさに今、急速に変化する中央アジアにおいて、地域協力は必要不可欠となっている」と強調した。今回の訪問の主要な目的を「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持と、中央アジアとの関係深化」と位置づけた。

首脳・外相会談

トカエフ大統領は、岩屋外相との会談で「日本はアジアにおける信頼できるパートナーだ。」と述べ、二国間関係の前向きな進展を高く評価した。

ヌルテリュ外相との会談では、両国間の高官級対話の継続を歓迎するとともに、二国間の経済協力強化、とりわけ二国間クレジット制度(JCM)、鉱物資源分野、日本企業の投資誘致などについて意見を交わした。

核軍縮・不拡散も協力の柱であり、両外相は経済社会開発計画に関する無償資金協力の交換公文に署名。これには核実験被害者支援や医療機器提供も含まれる。

「中央アジア+日本」枠組み
Kassym-Jomart Tokayev with Takeshi Iwaya. Photo credit: Akorda
Kassym-Jomart Tokayev with Takeshi Iwaya. Photo credit: Akorda

日本は2004年、地域との協力枠組み「中央アジア+日本」を最初に提案し、その後他のパートナーとの協力モデルにもなった。2024年8月にはアスタナで首脳会議が予定されていたが、当時の岸田文雄首相は国内の地震警報を受け、直前に訪問を中止した。日本の首相による中央アジア訪問は2015年以来途絶えている。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

日本外務省の北村俊宏報道官は「これは日本と他国との競争ではなく、中央アジア諸国が世界の他地域と協力することを望んでいる。私たちの役割は相互連結性と地域間協力の触媒となることだった。」と述べた。その目的は概ね達成されたため、今後はより具体的な協力に重点を移すと説明した。

協力の重点分野

岩屋・ヌルテリュ両外相は、エネルギー、脱炭素、接続性を優先分野として協議した。日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指しており、これはカザフスタンの目標より10年早い。震災後に停止していた原子力発電所の再稼働や、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力)の導入拡大を進めている。日本は2040年までに電源構成の50%を再エネ、20%を原子力とする計画であり、風力・太陽光に大きな潜在力を持つカザフスタンとの協力拡大を模索している。

貿易と投資
Photo: Celebrations on the Day of the Capital City of the Republic of Kazakhstan. Credit: expo2017astana.com
Photo: Celebrations on the Day of the Capital City of the Republic of Kazakhstan. Credit: expo2017astana.com

2024年の二国間貿易額は18億ドル。うちカザフスタンから日本への輸出は5億600万ドル、日本からの輸入は13億ドルだった。カザフスタンの主な輸出品はフェロアロイを中心とする金属製品(全体の5割超)、石油、石炭、化学製品、農産物など。一方、日本からは自動車、トラック、建設機械、医療機器、ゴム製品などが輸入されている。

日本はカザフスタンへの外国投資国の上位10か国に入り、累計投資額は80億ドルを超える。2024年の直接投資額は4億6800万ドルで、現在60社以上の日本企業が石油・ガス、石油化学、冶金、金融、鉱業、通信、医療、農業など多様な分野で活動している。

文化・人道分野

両国は人的交流の深化にも意欲を示している。2026年3月にはアスタナ-東京間の直行便がエア・アスタナと日本航空の提携で就航予定であり、二国間関係を一段と高める動きとして注目される。

また、第二次世界大戦末期に中央アジアへ抑留された日本人の遺骨返還にも大きな努力が払われている。抑留者の一部はタシケントのナヴォイ劇場建設など地域の重要建築に従事した。カザフスタン大使館によれば、約5万8900人の日本兵が同国に抑留され、そのうち約5万人が帰国。これまでに188人の遺骨が日本に返還された。

岩屋外相の訪問は、28日までウズベキスタンへと続く。(原文へ

INPS Japan/ The Astana Times

Original URL: https://astanatimes.com/2025/08/tokyo-steps-up-central-asia-engagement-with-high-level-foreign-minister-visit/

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ホワイトハウス首脳会談:欧州は団結、ウクライナは屈服を拒否

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

ホワイトハウスは数々の緊張した外交の舞台となってきたが、月曜の会談は大陸全体の不安と一国の存亡を背負う重みを持っていた。ドナルド・トランプ大統領は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を迎え、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相、英国のキア・スターマー首相、イタリアのジョルジャ・メローニ首相、フィンランドのアレクサンデル・ストゥッブ大統領に加え、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、北大西洋条約機構(NATO)のマルク・ルッテ事務総長らが出席した。

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN
欧州の断固たる団結

欧州諸国は連帯を示す決意で臨んだ。スターマー首相は会談を「有意義で建設的」と表現し、マクロン大統領は「安全保障の保証は欧州大陸全体の安全に関わる」と強調した。さらにメルツ首相は、ロシアの領土要求を米国がフロリダを譲渡するのに等しいと例え、その不当さを浮き彫りにした。メッセージは明白だった──ウクライナは孤立していない、そしてモスクワの条件は和平の基礎にはなり得ない。

プーチンの要求:和平か、それとも降伏か

共同声明の背後には、クレムリンの姿勢が重くのしかかっていた。報じられた提案には、クリミアのロシア領としての承認やドネツク、ルハンスクの割譲が含まれる。これは真の和平提案ではなく、最後通牒である。筆者の見解では、外交に見せかけた降伏条件にほかならない。

ゼレンスキー大統領自身も断固として譲らなかった。「領土の問題は私とプーチンの間のことだ」と語った。これは虚勢ではなく、生存のための決意である。譲歩すれば戦争は終わらず、ウクライナの主権そのものが消え去るからだ。

可能性と危険の狭間で

今回の会談では停戦も突破口となる合意も生まれなかった。しかし今後の進路が示された。

  • 一つは、ウクライナが領土を譲らずに、欧州資金で支えられる約900億ドル規模の米国製兵器パッケージに基づくNATO型の安全保障保証を確保する可能性。これは危ういながらも名誉ある勝利だ。
  • もう一つは、ゼレンスキー大統領が妥協を拒み、欧州が断固とした姿勢を崩さず、戦争が長期化し民間人の苦難が続くシナリオ。
  • 第三の道は、まず停戦で信頼を築くというものだが、ロシアが依然としてウクライナ都市を攻撃している状況では、その信頼性は疑わしい。
  • そして常に背景にあるのが、米国の方針転換リスクだ。もしワシントンが支援を縮小すれば、欧州は長年避けてきた規模で負担を単独で担わざるを得なくなるかもしれない。
問題の核心

今回の首脳会談は、勝利や条約の場ではなく、決意を示す場だった。欧州はウクライナと肩を並べ、ワシントンは選択肢を残し、キーウは妥協に見せかけた屈辱を拒絶した。

空襲警報で目覚める日々を送る一般のウクライナ市民にとって重要なのは、それが恥辱なき安全をもたらすかどうかである。彼らは都市を約束と引き換えに差し出すために戦っているのではない。自らの土地で尊厳を持って生きるために戦っているのだ。

ホワイトハウスでの会談は一つのことを明らかにした──平和は可能である。しかしそれは降伏ではなく、正義の上に築かれたものでなければならない。(原文へ

INPS Japan

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/white-house-summit-europe-unites-ukraine-rejects-capitulation

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