ホーム ブログ ページ 8

持続可能な食料システムのためのレシピ

【ニューデリーINPS Japan/ SciDev.Net=ランジット・デブラジ

肉料理やファストフードが生物多様性や持続可能性に大きな負荷をかけていることはよく知られている。しかし、最近の科学的研究によれば、南アジアで人気のある一部のベジタリアンレシピも驚くほど大きな生物多様性フットプリントを持っていることが明らかになっている。

Ranjit Debraj
Ranjit Debraj

消費者は、環境への負荷を高める食材を使った特定の料理を選ぶことが生物多様性に与える影響について、限られた情報しか持っていない。

例えば、ひよこ豆のカレーは、すでに高い農業圧力と人口圧力がかかっているインドで人気のある料理である。

『PLOS One』誌に掲載された研究結果によると、世界最大のひよこ豆の生産国であり消費国であるインドは、他のレシピに切り替えるだけで持続可能な農業に貢献できるかもしれない。

ひよこ豆カレーは、この研究で生物多様性に有害と特定された25の主要な料理の一つである。ひよこ豆は主に、生物多様性のホットスポットであるインドの西ガーツ山脈南部の農業用地に転換された土地で栽培されている。

このリストのトップには、生後35日以下の子羊の肉を使用した「レチャゾ・アサード」(スペイン風子羊のロースト)が挙げられている。

しかしこの研究では、ビーガンやベジタリアン料理は肉料理よりも生物多様性のフットプリントが低い傾向にあることが確認された。また、菜食主義者や卵菜食主義者(乳製品や卵を含む)の食事から排出される温室効果ガスも、天然資源の利用が少ないため、雑食主義者の食事よりも環境への影響が少ない。

朗報なのは、現在利用可能な科学的方法が、世界中の人気料理の生物多様性フットプリントを分析するのに役立ち、将来的には持続可能性を考慮した食事の意思決定を支援できることだ。

食糧に関連する排出量が環境に与える負荷に対する意識の高まりから、このテーマに関する研究が進み、食品のカーボンフットプリント値がレストランのメニューや食品を包装するラベルに記載される日もそう遠くないかもしれない。

生物多様性の保全に貢献したい人が避けるべきレシピの例としては、ブラジル発祥の牛肉料理であるフラルディーニャや、インドの有名な豆料理などが挙げられる。

温室効果ガスの排出

SDGs No. 13
SDGs No. 13

持続可能な食糧システムと持続可能な食事は、気候変動に対処する上で重要であることはよく知られている。国連によれば、人類が排出する温室効果ガスの約3分の1は食品に関連しており、中でも赤肉、乳製品、養殖エビが最大の原因となっている。

赤肉や乳製品の生産には広大な牧草地が必要であり、これらはしばしば樹木やマングローブを伐採して作られるため、樹木に蓄えられた二酸化炭素が放出している。

さらに、家畜は草や植物を消化する際に、強力な温室効果ガスであるメタンを排出する。家畜の糞や化学肥料は、もうひとつの重要な温室効果ガスである亜酸化窒素を放出する。

エビの養殖場は、炭素吸収源として知られる沿岸のマングローブ林を伐採して作られることが多い。エビやクルマエビのカーボンフットプリントが大きいのは、主にマングローブが伐採される際に大気中に放出される蓄積炭素によるものである。

食品データ

ニューデリーにあるインドラプラスタ情報技術研究所の、食品を専門とする計算機研究者、ガネッシュ・バグラー氏は、「レシピのカーボンフットプリントを推定することで、文化的な影響を受けたレシピの環境持続可能性に関する実用的な洞察を得ることができます。」と語った。

バグラー氏によれば、味と栄養の相関関係を理解すれば、おいしく、かつ環境的に持続可能なレシピを考案することが可能になるという。「きめ細かなカーボンフットプリントのデータを収集することは、100億人の人口を養いながら持続可能性にも配慮するという問題に取り組む最善の方法です。」と、バグラー氏は語った。

バグラー氏によれば、世界中の食生活は、炭素や生物多様性のフットプリントを考慮しない伝統的なレシピに従って調理された食品に左右されているという。

あらゆる食品システムの二酸化炭素排出量を削減することは、レシピや食生活を修正することよりもはるかに広範な課題である。エネルギー効率の高い技術の採用、再生可能エネルギーへの移行、食品廃棄物の脱炭素化、より良い農業慣行、健康と環境への配慮を考慮した食品加工技術などが求められる。

良質な栄養と環境の持続可能性は、土壌の質と地域の農業の生物多様性を保全する一方で、農家をはじめとする供給側の人々が気候変動とその適応の必要性を認識できるような食料システムと、切っても切れない関係にある。

持続可能な食事

需要側では、消費者が持続可能な食生活や環境に優しい食材やレシピの価値を認識する必要がある。伝統的な食材やレシピの生物活性成分に注意を払いながら、その栄養価を促進・保存するためのデータベースの作成が待たれる。

特に、レシピやメニューに細心の注意を払うことで、生物多様性の保全や温室効果ガスの大幅な削減が達成できることが確実に分かっている今、健康的で持続可能な食生活を採用することがこれほど重要なことはない。

UN Photo
UN Photo

世界は、食糧不安、気候変動、生物多様性の喪失、栄養不良、不公平、土壌劣化、水とエネルギーの不足、天然資源の枯渇、そして予防可能な疾病の相互関連に目を覚ます必要がある。

要するに、私たちが何を食べ、どのように調理するかは、人間の健康だけでなく、地球の健康にも深刻な影響を及ぼすのである。(原文へ

INPS Japan/ SciDev.Net

関連記事:

国連、ラテンアメリカ・カリブ地域での飢餓と食料不足に懸念を表明

毎年数百万人もの人々が飢える一方で、数億トンの食品が捨てられている

|視点|政治はタイタニック号の旅を楽しみ、かくて地球は破壊される(ロベルト・サビオIPS創立者)(後編)

岐路に立つ 自律型兵器システム:国際的な規制へ緊急の呼びかけ

【ウィーン INPS Japan=オーロラ・ワイス

144カ国の政府代表、国際組織、産業、学界、科学者、市民社会などから1000人以上のゲストがウィーンに集まり、自律型兵器システム(AWS)の規制に関する会議が開催された。「岐路に立つ人類―自律型兵器システムと規制の課題」と題された今回の初の国際会議は、オーストリア外務省が主催し、4月29・30日に開催された。

人工知能の導入によってますます自律化する兵器は、武力紛争のあり方を根本的に変えた。多くの努力と議論がなされているにもかかわらず、国際レベルにおいては急速な技術進歩に対する規制が実行されていない。AWSは、イスラエルのガザ地区における戦争やロシアによるウクライナ侵攻など、現在の紛争ですでに使用されている。紛争におけるAIの利用が国際法や道徳、人道主義、安全保障に関する根本的な疑問を呈する中、規制が緊急に必要とされている。

2024 Vienna Conference on Autonomous Weapons Systems Credit: Federal Ministry Republic of Austria
2024 Vienna Conference on Autonomous Weapons Systems Credit: Federal Ministry Republic of Austria

「自律型兵器システムはまもなく世界中の戦場を埋め尽くすでしょう。人工知能(AI)対応ドローンやAIベースの標的選択に既に見られるように、技術は急速に進歩している一方で、政治は遅れを取っています。私たちは深刻な法的、倫理的、安全保障上の問題に直面しています。つまり、命と死の決定を機械に委ねることをどう防ぐか?誤作動とバイアスを起こしやすいアルゴリズムをどう扱うか?AIによって駆り立てられた軍拡競争をいかにして防ぎ、これがテロリストの手に渡らないようにするにはどうすればよいか?これらの課題の緊急性は、いくら強調しても足りないほどです。これは私たちの世代の『オッペンハイマーの瞬間』*です。今こそ、人間の手による規制を実現するために国際ルールと規範に合意すべき時です。」と、オーストリアのアレクサンダー・シャレンベルク外務大臣は開会の挨拶で語った。彼は、あまりに多くの人命が失われており、生と死をめぐる決定が機械によってなされてはならないと訴えた。

オーストリアはAWSの国際規制に長らく取り組んでおり、この分野で先駆的な役割を果たしてきた。2023年、オーストリアはAWSに関する初の国連決議採択を主導し、規制の必要性を強調した。国際法や規範の策定には時間がかかるが、条約の採択までには通常、数十年に及ぶ作業や緊密なパートナーシップ、集団的な動員が必要とされる。また、ひとたび合意がなされた後でも、効果的な支援が必要とされる。

自律型兵器システムは特定の「ターゲットプロファイル」を殺害するように事前にプログラムされており、顔認証などのセンサーデータを用いた「ターゲットプロファイル」をAIが行うような環境で配備される。AWSは、デジタル化のもたらす非人間化の極致だと言えよう。機械に対して生殺与奪の権利を与えることで人間の尊厳は損なわれ、私たちの権利は否定される。個人は、人間としてではなく、単なる客体として処理される。自律型兵器が作動すると、誰が、何が、どこで、いつ攻撃されるかを正確に知ることはできなくなる。

PHOTO Credit: Michael Gruber (BMEIA)

またオーストリアには、核兵器禁止条約(TPNW)など、国際的に法的拘束力のある条約の策定に取り組んできた長い伝統がある。核兵器禁止条約を最終的に生み出すことになった「人道イニシアチブ」の立案者の一人が、同国外務省で軍縮・軍備管理・不拡散局長を務めるアレクサンダー・クメント氏だ。

J. Robert Oppenheimer/ public Domain.

会議中、多くの講演者が再び歴史的な「オッペンハイマーの瞬間」に立ち会っていると指摘した。そこでクメント氏に核兵器と自律型兵器の比較について尋ねてみた。

『オッペンハイマーの瞬間』との比較は、広島・長崎以降、ロバート・オッペンハイマー博士やアルベルト・アインシュタイン博士を含む多くの人々が核兵器の持つ意味合いについて警告し、その規制を推進した状況を指しています。今日、AIやAWSの持ちうるリスクについて主要なAI専門家らが警告を発しており、その規制を求めています。しかし、現在の地政学的な状況では、国際ルールに合意することは極めて困難です。防止措置がまだ可能な瞬間を逃さないようにしなければなりません。」とクメント氏は説明した。

クメント氏のような軍備管理の専門家から見て、AWSにはいくつかの重大な課題がある。(AIの使用を通じた)兵器システムにおける自律性の増大は武力紛争の性格を根本から変えるだろう。そうした変化はすでにいくつか現れている。主要な懸念の一つは、機械が事前にプログラムされたアルゴリズムに基づいて生死の決定を下すことだ。

「機械が互いに学習し意思疎通を行うようになれば、兵器がそうした決定を下す際の人間の役割はどのようなものであり、どのようなものであるべきだろうか? すでにAI軍拡競争の兆候は表れている。早晩、これらの兵器が世界各国の戦力の中に現れるようになり、テロリストなどの非国家主体の手に渡ることになるだろう。」とクメント氏は警告した。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

現在、AWSのような兵器システムがもたらす法的、倫理的、安全保障面での問題に対応する特定のルールは存在しない。クメント氏は、「オーストリア政府はこの問題への政治的意識を高め、AWSの国際規制に進展をもたらす推進力を生み出したいと考えている。」と語った。昨年オーストリアは国連総会に決議案を提出し、今回はこの会議を主催している。これはこの問題に関する最大の国際会議であり、国際規則に向けた政治的勢いを高める一歩となることを期待している。TPNWの創設に大きく貢献したクメント氏に、この会議がAWSに関する条約が近々準備されている兆候かどうか尋ねた。

「現在の問題は、もう長年続けられている議論の段階から条約交渉へと実際に踏み出すことにあります。国連事務総長は国際社会に対して、2026年までに条約を作るようにと課題を出しています。交渉を行うならば、国際法に従って使用されることのない、あるいは基本的な倫理的原則に反するシステムを明確に禁止し、人間による意味のあるレベルの制御がなされていないその他のシステムを規制することを目指すべきでしょう。」「科学技術におけるイノベーションは急速なペースで進んでいます。中には、指向性エネルギー兵器からナノ兵器、神経兵器、さまざまな自律型ロボット基盤に到る兵器開発への応用が可能なものもあります。こうした開発は、国際の平和と安全の維持、人権の擁護、持続可能な開発目標の達成といった、確立された規範に反しかねないものです。」とクメント氏は語った。

Alexander Kmentt, Director for Disarmament, Arms Control, and Non-Proliferation at the Austrian Ministry of Foreign Affairs. PHOTO Credit: Michael Gruber (BMEIA)
Alexander Kmentt, Director for Disarmament, Arms Control, and Non-Proliferation at the Austrian Ministry of Foreign Affairs. PHOTO Credit: Michael Gruber (BMEIA)

「36条の会」の代表のリチャード・モイエス氏は、今回のウィーン会議は、新たな条約作りを見据えて、諸政府や国際機関、市民社会の間にパートナーシップを創り出すうえで重要なものであったと評価する。「ストップ・キラーロボット」は、人権や紛争、技術、民間人の保護に関心を寄せる世界各地の市民団体の連合体である。新たな国際条約の策定に向けて諸国に圧力をかける市民団体のパートナーシップだ。

紛争が民間人に与える影響と兵器技術の国際規制を専門とするモイエス氏は、「まだ条約文の草案を作成する段階にはありませんが、さまざまなパートナーの間で『条約は可能だ』という機運を創り出しています。究極的には新たな条約に合意できるのは国家だけですが、国家が行動できるように私たちは協力して事を進めることができます。」と語った。

Serbian Land Rover Defender towing trailer with "Miloš" tracked combat robot/ By Srđan Popović - Own work, CC BY-SA 4.0
Serbian Land Rover Defender towing trailer with “Miloš” tracked combat robot/ By Srđan Popović – Own work, CC BY-SA 4.0

モイエス氏は、兵器と戦争に関する国際的な法的・政治的枠組みの創設に多く関わってきた。AWSに関しては、戦力の使用から人間による制御と責任を奪うことが特に危険だと感じている。「人間は過ちを犯すし、時にはひどいこともします。しかし、戦力の使用をめぐる法的枠組みのすべては、人間が意思決定を行い人間が責任主体となることを前提として作られているのです。私たちは、武力紛争における法律という概念を守ろうとするならば、人間による意味のある制御という観念を維持しなくてはなりません。生死の問題を機械に委ねることは非人間化をもたらし、人間、とりわけすでに社会の中で周縁化されている人々の生命の価値をさらに下げることにつながります。」とモイエス氏は述べ、問題が広範なものになってしまう前に新たな技術を規制することがいかに困難なことであるかを指摘した。自律型兵器の問題が広範に問題化してしまってからではもう遅いのだ。モイエス氏は、法的条約には、人間による意味のある制御を通じて使用することが不可能なシステムを禁止する条項や、そうした制御を実際に可能にするルールが盛り込まれるべきであると語った。また、人間を直接標的とする自律型システムも禁止されるべきであるとした。彼の観点からは、これらは、技術の将来的な発展の道筋に影響を与える重要なルールである。

「主要な問題は、高度に軍事化された国家が、自らの軍事オプションに対する制約を受け入れたがらないという大きな課題があります。社会を安全な方向に導くことのできる線を引くよう、より多くの国家の賛同を得る必要があります。」と英国の非政府組織である「36条の会」のモイエス代表は語った。

法的枠組み、とりわけ国際条約を策定することの重要性は、「ストップ・キラーロボット」キャンペーンの一員でもある創価学会インタナショナル(SGI)も強調している。

日本から参加したSGIの山下勇人軍縮担当プログラムコーディネーターは声明の中で、「私たちは、急速に進む技術革新の中で人間の権利と尊厳を守るため、兵器システムにおける自律性を禁止・規制する国際条約の制定を求める多くの関係者の声に賛同します。」と訴えた。(原文へ)|ドイツ語中国語

『オッペンハイマーの瞬間』という言葉の由来は、2018年に行われたアラン・クーパー氏(Visual Basicというプログラム言語を開発した著名なエンジニア)による基調講演タイトルで、同氏はこの言葉を「自分の最善の意図が裏切られたと悟る瞬間」と定義した。

INPS Japan

This article is brought to you by INPS Japan, in collaboration with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

関連記事:

カリブ諸国、「殺人ロボット」禁止へ

殺人ロボット規制を妨害する米国とロシア

2026年核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けた第1回準備委員会における寺崎広嗣SGI平和運動総局長インタビュー(オーロラ・ワイス)

COP29に日本の首相を招待

【バクーREPORT=グレル・セイムルギジ】

国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)の枠組みで開催されるサミットに岸田文雄首相が招待されたと、アゼルバイジャン外務省が伝えた。

アゼルバイジャンのエルヌール・マムマドフ外務次官が日本を訪問した際、COP29議長国の枠組みにおけるアゼルバイジャンの活動について日本側に伝えた。

また、深沢陽一外務大臣政務官に、アゼルバイジャンのイリハム・アリエフ大統領から岸田文雄首相に宛てた、今年11月12-13日に開催されるCOP29のキックオフとなる世界気候行動サミットへの参加に関する招待状を手渡した。(原文へ)

INPSジャパン/REPORT通信

関連記事

太平洋小島嶼国にとって、COP28は気候正義という砂漠の「オアシス」には小さ過ぎる

|COP26|政治指導者らが行動をためらう中、SGIが国連青年気候サミットを提案

|カリブ海地域|気候変動が水危機を引き起こす

正義のためのグローバルな戦い: ジェノサイド防止はいかにして法制化されたか

0

【INPS Japan/ 国連ニュース】

「ジェノサイド」という言葉は、1944年にポーランドの弁護士ラファエル・レムキンが著書『占領下のヨーロッパにおける枢軸国の支配』の中で初めて使った造語である。ギリシャ語で人種や部族を意味する接頭辞genosと、ラテン語で殺害を意味する接尾辞cideからなる。レムキンは、ホロコーストでユダヤ人を組織的に殺害したナチスの政策に対応するため、また、歴史上、特定の集団の破壊を目的とした標的を絞った行動が過去にあったことに対応して、この用語を考案した。

その後、ラファエル・レムキンは、ジェノサイドを国際犯罪として認定し、成文化する運動を主導した。1946年、国連総会でジェノサイドが国際法上の犯罪として認められ、1948年の「ジェノサイドの犯罪の防止及び処罰に関する条約」で独立した犯罪として成文化されるに至った経緯を、条約75周年を機に振り返る。この条約は153カ国によって批准されている(2022年4月現在)。

国際司法裁判所(ICJ)は、この条約は一般的な国際慣習法の一部である原則を具体化したものであると繰り返し述べている。つまり、各国がジェノサイド条約を批准しているか否かにかかわらず、ジェノサイドは国際法で禁止されている犯罪であるという原則に、法的に拘束されるということである。(原文へ

UN News

INPS Japan

関連記事:

「それはどこでも起こりうる」: 国連総会、ルワンダのツチ族に対するジェノサイドを振り返る

|ナミビア|ドイツの忘れ去られた大量殺戮(アデケイェ・アデバジョ汎アフリカ思考・対話研究所所長)

『キリング・フィールド』指導者の死で高まる疑問:手遅れになるまで国際社会が見て見ぬふりをする大量虐殺は今後も繰り返されるのだろうか。

『核兵器と爆発』、複雑なテーマをわかりやすく解説する書籍

マリア・エスター・ブランダンは核物理学の専門家であり、メキシコのような都市での核兵器の使用がいかに壊滅的であるかを例証している。

【INPS Japanメキシコシティー=ギレルモ・アラヤ・アラニス】

核物理学者のマリア・エステル・ブランダン氏は、核爆弾の定義や仕組み、そして地球や生物に対する壊滅的な影響といった複雑なトピックを、極めて簡単な方法で説明する手法に着想を得て、メキシコで『核兵器と爆発:人類の危機』(原題:Armas y explosiones nucleares: La humanidad en peligro)を執筆した。

このテキストは「みんなのための科学」(La ciencia para todos)というコレクションの一部として1988年に初めてFondo de Cultura Económica(FCE)によって出版された。このコレクションは、学生や科学的な訓練を受けていない一般の読者に、複雑なトピックを理解させ、友人や家族に広めることを目的としている。

この本は別の時代に書かれたものだが、核戦争の危険が非常に現実味を帯びてきている今日の国際状況を背景に、若い読者の関心を惹きつけている。ブランダン教授はINPS Japanの取材に対して、「本質的な内容は今も変わっていません…私たちは、ますます核兵器が実際に使用されるのではないかという恐怖に怯えて暮らしています。しかもそれはほんの一握りの人々に依存している構造も変わりません…人類が連綿と築き上げてきたあらゆるものが、核ボタンを押されれば一瞬して失われる可能性があるということを、社会の多くの人々に改めて認識してほしいと考えています。」と語った。

この本の着想は、ブランダン教授が、ニューヨークで1メガトン(TNT火薬100万トン)の核爆発が起きたと仮定した場合の影響と被害に関する文章を40年以上前に母国チリで読んだときに遡る。その数ヵ月後、彼女はその文献を首都サンティアゴの街に当てはめて、地元の人気科学雑誌で発表することを思いついた。

後年メキシコに移住した後、新たに本を執筆するにあたってこれを同国の首都に適応し、「メキシコシティー上空のメガトン」という章を設けた。ブランダン教授は、核爆弾がメキシコの首都の中心部から2000メートル上空に落ち、数秒以内に灼熱に輝く火の玉が形成され、衝撃波と相まって現在2200万人が住む大都市の大部分を壊滅させる様子を詳述している。

メキシコに30年以上在住し、メキシコ国立自治大学(UNAM)で核物理学の研究に専念しているブランダン教授は、「今日の方が、『オッペンハイマー』のような映画が上映されたり、核兵器に関する機密文書が公開されて関連情報も入手しやすくなっていますが、著書『核兵器と爆発』の土台となった歴史的・技術的研究は今日でも正当性と関連性を保っており、この本の出版に向けた研究を誇りに思っています。」と語った。

María Ester Brandan author of the book Nuclear weapons and explosions. Humanity in danger. Credit: Guillermo Ayala Alanis
María Ester Brandan author of the book Nuclear weapons and explosions. Humanity in danger. Credit: Guillermo Ayala Alanis

この本は52,000部以上売り上げ、「みんなのための科学」コレクションの中でも最も人気のある書籍のひとつである。ブランダン教授は、この本を広めたFCEの功績と、友人や家族の間で知識を伝えることに関心を持つ読者の存在に感謝している。逸話として、この本の要約とエッセイを書くという課題を与えられた高校生が、核兵器のテーマに関心を持ち両親や親戚に広め、数日間夕食時のメイントピックになったというケースを話してくれた。

ブランダン教授はまた、「キューバやチリなど、メキシコ以外の公立学校でもこの本を見つけることができたのは幸運だった。」とコメントしている。「私たちはチリ南部を旅していて、チランという街に行ったのですが、そこにはエスクエラ・メヒコという公立学校がありました。夫がメキシコ人なので、娘たちとエスクエラ・メヒコに行くことにしたのです。なぜなら、その場所には著名なメキシコ人画家ダビッド・アルファロ・シケイロスが亡命中に図書館に描いた壁画があったから…。その壁画とメキシコから届いた本を図書館で見たとき、自分の本があることに気づきました。同じことをハバナでも経験しました。」とブランダン教授はコメントした。

この作品の創造性は、核兵器の複雑さと核爆発が引き起こす壊滅的な被害を分かりやすく説明している点にとどまらない。表紙もデザイナーの才能と努力の賜物である。36年前の初版から3つの表紙が発表されたが、ブランダン教授は、「核爆発を再現するためにカリフラワーとオレンジ色の紙を使用して作成された最初の表紙に特別な愛着を感じています。」と説明した。

彼女はまた、最新版の表紙も評価しており、放射能のシンボルの手前で地球が綱渡りしているデザインが描かれている(下の写真中央の表紙)。

Covers of the book Nuclear weapons and explosions. Humanity in danger. Credit: Guillermo Ayala Alanis
Covers of the book Nuclear weapons and explosions. Humanity in danger. Credit: Guillermo Ayala Alanis

核戦争の将来について、ブランダン教授は悲観的であり、今は非常に深刻で危険な時期であると断言した。彼女は、今日人類が核兵器に関して経験していることを表現するのに、ガブリエル・ガルシア・マルケス氏の引用ほど適切な言葉はないと強調した:

「地上に目に見える生命が誕生して以来、蝶が飛ぶことを覚えるまでに3億8千万年、美しいということ以外に何のこだわりもないバラができるまでにさらに1億8千万年、そして、先祖のピテカントロピストとは違って、人間が鳥よりもうまく歌えるようになり、愛のために死ぬことができるようになるまでに4つの地質時代を要した。科学の黄金時代に、ボタンを押すという単純な技術によって、このような途方もない千年単位のプロセスが元の無に還る方法を思いついたことは、何の名誉でもない。」原文へ

Guillermo Ayala Alanis
Guillermo Ayala Alanis

* ギエルモ・アヤラ・アラニスはメキシコのジャーナリスト・テレビレポーター。メキシコ国立自治大学(UAM)ソチミルコ校では核軍縮を研究、国際関係学の修士号を取得。INPS Japanとは、2019年に国際プレスチームのメンバーとしてセミパラチンスク旧核実験場とセメイ、アスタナを取材。INPS Japanが創価学会インタナショナルと推進している「核廃絶」「SDGs for All」メディアプロジェクトにメキシコ特派員として参加している。

INPS Japan

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with  Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

関連記事:

「二度とあってはならない!」長崎原爆の被爆者がメキシコで訴え

INPS Japanが国際プレスチームと共に旧セミパラチンスク核実験場とセメイを取材

南太平洋諸国で核実験が世代を超えてもたらした影響

国連の未来サミットを前に、若者に焦点を当てた「未来アクションフェス」の教訓

【ナイロビIPS=ジョイス・チンビ

世界は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた折り返し地点を通過したが、未曽有の破壊力を持つ複合的な脅威に見舞われている。なかでも、最も差し迫った世界的課題は気候危機と核武装の脅威である。また、深刻な懸念事項として、重要な世界的課題に対する若者の関与が著しく不足していることが挙げられる。

2024 UN Civil Society Conference

ナイロビで開催された2024年国連市民社会会議(5月9日~10日)においてIPSの取材に応じた永井忠氏は、SDGs達成に向けた進展を加速させるために、連携と運動の構築、そして若者の関与の重要性を強調した。この市民社会会議(ナイロビ会議)の成果は、国連が9月にニューヨークで数百人の世界の指導者、政策立案者、専門家、提唱者を招いて開催する「国連の未来サミット」のハイレベル会合に提出される。

「2024年3月、東京で開催された未来アクションフェスには、約6万6千人が参加し、ライブ配信を通じて延べ50万人以上が視聴しました。このイベントは、核軍縮と気候変動の解決という2つの世界的な関心事について、若者の理解を深め、積極的な姿勢を育むために、若者と市民団体が協力して開催したものです。」と、創価学会インタナショナル(SGI)ユースと未来アクションフェス実行委員会を代表してナイロビ会議に参加していた永井氏は語った。

未来アクションフェス実行委員会はGeNuineグリーンピース・ジャパン日本若者協議会カクワカ広島Youth for TPNW、SGIユースを含む6団体の代表で構成されている。永井氏は、「この実行委員会は、核兵器の脅威気候危機という、人類の存立を脅かす今日の2大脅威について、世界的、国家的、地域的な問題を解決するための具体的かつ影響力のある連携と運動の構築を目指して活動しています。」と語った。

Future Action Festival convened at Tokyo's National Stadium on March 24, drawing approximately 66,000 attedees. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Future Action Festival convened at Tokyo’s National Stadium on March 24, drawing approximately 66,000 attedees. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

永井氏は、SDGsやその他の関連する世界的・国家的コミットメントを達成するために必要不可欠な、「若者の参画」と「平和な世界という約束の実現」との間の不可分のつながりについて語った。未来アクションフェスの開催に先立ち、実行委員会は2023年11月から24年2月にかけて、日本全国で10代から40代を対象に若者の意識調査を実施した。この調査では、社会、気候変動、核兵器、若者と社会システム、国連といったテーマに焦点を当てた。

調査結果は示唆に富んだもので、若者がこれらの問題をどのように受け止め、その解決にどのような役割を果たしうるかについての洞察を与えてくれた。例えば、核兵器のない世界の実現については、回答者の82%が核兵器は必要ないと答えている。調査対象のサンプル数が119,925人にのぼっていることから、核兵器廃絶は日本の若者の間で広く共有されているビジョンである。

Future Action Festival Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Yukie Asagiri and Kevin Lin of INPS Japan Media.

「私たちは、ナイロビ会議に参加する市民社会組織が、今日人類が直面している最も深刻な存続の危機に対処するために、いかにインパクトがあり、有益で、人生を変えるような連合や運動を構築できるかについて、日本からの教訓を携えてきました。ナイロビ会議は国連の未来サミットを前にして開催されるユニークで歴史的イベントであり、非常に重要なものです。未来アクションフェスは、ナイロビ会議の成果が9月の国連の未来サミットに報告されるのと同じように、国際社会にとって極めて重要な問題について若者の声を結集する機会でした。」と永井氏は語った。

未来アクションフェス実行委員会は、このイベントを通じて国連のイニシアチブに貢献し、新設された国連ユース・オフィスを支持することを決定した。さらに、平和で持続可能な未来に向けた国際協力と連帯を強化する機運を醸成することを目指している。

こうしてこのことを念頭に、「未来アクションフェス」の共同宣言は、国連の未来サミットのハイレベル会合における協議に資するべく、国連に提出された。同ハイレベル会議では、「未来のための協定」(ゼロ・ドラフト)、「グローバル・デジタル・コンパクト」、「未来世代宣言」の3つの国際的な枠組みを作成される予定である。永井氏は、「未来のための協定」は野心的で、包括的で、革新的でなければならないと語った。

UN Summit of the Future
UN Summit of the Future

国連の未来サミットは、「より良い明日のための多国間の解決策」というテーマの下、集合的な未来がどのようなものであるべきか、そしてそれを確保するために今日何ができるのかについて、新たな世界的コンセンサスを形成することを目的としている。また、SDGsを含む既存のコミットメントを再確認し、人々の生活にプラスの影響を与えられるような、より活性化された多国間システムに向けて、重要な課題に対する協力を強化し、グローバル・ガバナンスのギャップに対処する。国連の未来サミットは、持続可能な開発のための2030アジェンダの迅速な実施を支援する条件を創出する。

2030アジェンダにおける世界の指導者たちの立場は、持続可能な開発における若者の重要な役割を認め、SDGsが人々の、人々による、人々のためのものでなければ達成できないというものである。2030アジェンダは、市民の参加、特に若者の参加を呼びかけており、「その無限の行動力を、より良い世界の創造に向けさせようとしているのです。」と永井氏は語った。

それゆえ、国連の未来サミットへと続くナイロビ会議や未来アクションフェスのようなイベントは、いずれも気候変動、戦争、不平等の悪化といった世界的な関心事への効果的な対処に向けたものである。グテーレス国連事務総長が国連の未来サミットで検討するために示すあらゆる提案は、SDGsの達成に明確な影響を及ぼすだろう。

ナイロビ会議は、結局のところ、あらゆるレベル、すなわち人々、国々、そして世代間の信頼と連帯を再構築するプロセスであった。すべての人々に対してより公平かつ効果的に機能するように、政治、経済、社会システムを根本的に再考することを求めている。

2024 UN Civil Society Conference. Photo: UN News
2024 UN Civil Society Conference. Photo: UN News

ナイロビ会議の閉会にあたり、汎アフリカ気候正義同盟のミティカ・ムウェンダ氏は、すべての人に持続可能な開発を保証し、貧困緩和を実現し、最終的には行動志向の「未来のための協定」(国連の未来サミットで期待される成果の一つ)を達成するために、「大胆さと率直な対話」が必要だと強調した。

ナイロビ会議に参加した市民社会諸団体はまた、来たる「国連の未来サミット」を、平等、公平、そして分かち合われた繁栄によって定義される未来を実現するために必要な、最も重要な改善について合意する決定的な機会と位置づけ、多国間システムを刷新するよう提言した。

グテーレス事務総長とケニアのウィリアム・ルト大統領は、市民社会の努力を賞賛し、その「不可欠な貢献」を強調した。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

グテーレス事務総長は演説の中で、市民社会は、多くの人々が個人的リスクを冒しながら、他者の苦しみを和らげ、平和と正義を推し進め、真実を訴え、ジェンダーの平等と持続可能な開発を推し進めるなど、世界のあらゆる場所で多大な影響を及ぼしていると語った。

ガザ地区、スーダン、サヘル地域、大湖地域、アフリカの角等で進行中の危機を含む現在の紛争について、グテーレス事務総長は、「国連は平和、正義、人権を推進するためにこの状況を変える闘いをあきらめません。」と断言した。事務総長また、市民社会が世界の多くの問題に対処するために重要であり、デジタル格差の解消や平和と安全保障への集団的アプローチの再活性化を含む課題に取り組む上で不可欠であるとの認識を示した。

「私たちには、皆様が持つ、最前線のノウハウについての情報が必要です。私たちは、障害を克服し、革新的な解決策を見いだそうとする、皆様の積極的な姿勢を必要としています。そして、解決策を実行し、各国政府に行動を促すために、皆様がそのネットワーク、知識、人脈を活用してくださることが必要です。」とグテーレス事務総長は語った。(原文へ

This article is brought to you by IPS Noram, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan/IPS UN Bureau

関連記事:

|視点|未来の岐路に立つ今、希望の選択を(大串博子未来アクションフェス実行委員会創価学会インタナショナルユース 共同代表)

国連の未来サミットに向けて変革を求める青年達が結集

国連の新開発アジェンダ、若者に重要な役割を与える

|国連市民社会会議|包摂性・インパクト・革新がSDGs達成には必要

【ナイロビIPS=ジョイス・チンビ】

世界は、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて順調に進んでもいないし、極度な飢餓、貧困、紛争、気候変動といった世界的な課題に効果的に対処するためのあらたな機会を活用できてもいない。

2024 UN Civil Society Conference
2024 UN Civil Society Conference

国連ナイロビ事務所は、世界的な観点を強化するために、「グローバルで持続可能な前進の未来を形作る」というテーマの下で国連市民社会会議を開催している。市民団体や研究機関、シンクタンク、加盟国、民間企業、国連機関、変革者、その他の利害関係者など、世界各地から2000人以上の参加者が集っている。

 「ヘルプエイジ・インターナショナル」のグローバル活動推進・アフリカ地域代表であるキャロル・アジェンゴ氏は、「市民社会の関与が開発の歯車を回す上で重要な要素であるという考えはすでに確立されています。市民団体や政府、民間部門の連携を強化することは、『国連の未来サミット』に力を入れていこうという中で、緊急の課題となっています。」と語った。

「実際、市民社会の参加は、現在および将来に直面する課題に対処するため、そして全人類と未来の世代のためにより適切に準備された国際システムを実現するうえで大いに貢献するでしょう。」

1947年以来、68回の市民社会会議が、市民社会組織とのこれまでの交流により成功が導かれてきた。現在開催されているナイロビ会議は、国連の市民社会カレンダーにおける主要なイベントであり、アフリカで開催される初めての国連市民社会会議である。

ジンバブエで生まれ、現在は南アフリカで人権活動家として活動しているコンスタンス・ムカラティは、IPSの取材に対して、「市民団体の役割、とりわけ人権擁護者らの役割は、『誰一人取り残さない』という(SDGsの)目標の中で強調されすぎることはない。」と語った。

「アフリカ女性人権活動家イニシアチブ」のムカラティ氏は、「私たちにとっては、SDGの第5目標は第1目標と同じことです。緊急性の問題から言えば、どこに住んでいる女性・女児であっても、平等の権利と機会を持たねばなりません。依然として女児教育が軽視されている時代に私たちはおり、今回のような会議は、各国や世界における課題についての私たちの考え方、それら問題に関する私たちの語り方、誰が決定権を握っていて、持続可能な開発に向けた公約をいかにして実行していくのかといったことについて、変革をたらすことになるだろう。」と語った。

市民社会やその他の利害関係者による今回の集まりは、今年9月22・23両日にニューヨークの国連本部で開催される世界の指導者らによる国連の未来サミットを前にした予備的な議論やデータを提供することになるだろう。既存の国際公約を果たす努力を加速させ、新たな課題と機会に対応するための具体的なステップを踏むべく、世界的な協力をリセットするための大きな取り組みの一部である。

UN Summit of the Future
UN Summit of the Future

究極的には、国連の未来サミットの目的は、公的機関に対する信頼の低下、富の偏在の加速、世界の大多数の人口が低開発の状態にあり極度の飢餓と貧困が加速している状況が世界で見られる中で、多国間主義が意味するものを再考する点にある。同サミットは、世界的な課題に対処するために、「未来のための協定」(ゼロ・ドラフトとして入手可能)、「グローバル・デジタル・コンパクト」、「未来世代宣言」の3つの国際枠組みを打ち出すことになろう。

 ナイロビを中心に活動するエリック・オモンディ氏は、「国連システムが地球市民との関わり方を見直し、再設計することが緊急の課題となっています。SDGsを再び軌道に載せるためにまさに必要なことです。今日直面している複合的な課題に関して人々がどう考えているか? 市民社会運動の中には、国連システムの中で政府の声が優先されているという思いがあります。ナイロビ会議への参加は、活動家や人権擁護者としての私たちの声を国連に伝え、国連の未来サミットの方向性に影響を与える、ユニークで非常に関連性の高いものです。」と語った。

「ナイロビ会議は、持続可能な開発に関する市民社会の連携を活性化しその関与を強めることを目的とした歴史的な集まりです。私たちの世代は、私たちが取る行動のひとつひとつが、私たちが共有する地球の未来を大きく形作ることができる重要な分岐点に立っていると認識しています。」と、SDGケニアフォーラムの代表で、「我々の望む国連連合」の共同議長であるフローレンス・スエヴォ氏は語った。

スエヴォ共同議長は、気候変動のような地球規模の問題に取り組む緊急性を認識する必要性が、人間と自然との相互作用がより明確になるにつれ、かつてないほど顕著になっていると強調し、この会議の成果がすべての人々にとって重要である理由を強調した。

ナイロビ会議と国連の未来サミットは、国際協力における市民社会の知見を集め、広く参画を促す重要なプラットフォームである。ナイロビ会議では、国連の未来サミットへの序章として、「包摂性」・「インパクト」・「革新性」という3つの主要テーマに沿った、詳細な対話や様々なワークショップ、展示が行われている。

「包摂性」は、多様な声の可視性と影響力を高めることで、グローバルな問題に対する言説の幅を広げるのに役立つ。「インパクト」については、参加者は、9月の国連の未来サミットの成果となる主要な課題の重要性を訴え前進させるさまざまなステークホールダーから成る連合が参加者らによって形成されようとしている。「イノベーション」に関しては、今回の2日間の集まりで市民社会と政府間プロセスの相互作用が再定義されようとしており、世代と部門を越えた連携の新しいモデルが示されている。

UN Photo
UN Photo

ウガンダからきた青年参加者キコンコ・シャローム・エステル氏は、「若者の声をSDGsやそれに関連した公約実施のプロセスに取り込むことが最重要課題です。私は最近カンパラ国際大学で法学を修めたばかりで、グローバル・サウスの若者と彼らが住む地域が直面している最も緊急の課題に対処するために法律に関する自分の知識を使いたいと思っています。」と語った。

この画期的な市民社会会議の1日目が終了する中、国連加盟国主導の国連の未来サミットプロセスを強化するために、市民社会の洞察やイニシアチブを促進する必要性についてのコンセンサスが得られた。また、再活性化され組織化された市民社会グループが、公正で公平な共有された未来に向けた進展について、政府や権力をより効果的に責任を追及できることが強調された。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

関連記事:

|視点|未来の岐路に立つ今、希望の選択を(大串博子未来アクションフェス実行委員会創価学会インタナショナルユース 共同代表)

国連の未来サミットは壊れたシステムを修復する貴重な機会

市民社会の参加を国連未来サミットに向けて変革を求める青年達が結集

ファクトチェック:フェイクニュースへの反撃

【INPS Japan/ 国連ニュース】

紛争時には混乱が生じ、悪意がなくても事実が誤って解釈されることが少なくない。国連はこれをディスインフォメーション(偽情報)ではなく、ミスインフォメーション(誤報)と呼んでいる。

誤報が偶発的な虚偽の流布を指すのに対し、偽情報は、武力紛争時を含め、国家または非国家主体によって意図的に流布され、世論や政治的意見に影響を及ぼすことがある。すなわち偽情報は、平和と安全保障から人道援助に至るまで、開発のあらゆる分野に影響を及ぼす可能性がある。

こうしたなか、国連は信頼できる情報源からニュースを入手することの重要性を強調するとともに、メディア・プラットフォームに対し、有害なコンテンツの拡散を防ぐための独自のガードレールを強化する取り組みを推進する促している。(原文へ

UN News

INPS Japan

関連記事:

フェイクニュースは生命を危険に晒す「インフォデミック」

「グローバル・ヒバクシャ:核実験被害者の声を世界に届ける」(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

2022年のウクライナ:苦難と不屈の10ヶ月間

今年は数十億人が投票する – LGBTIQ+の人々を排除してはならない

【国連IPS=ウルリカ・モデール、クリストフ・シルツ】

今年は「スーパー選挙」の年と呼ばれ、実に37億人もの有権者が投票に行く可能性がある。この歴史的な瞬間は、何十億人もの有権者がどのような経験をするのか、つまり、誰が投票するのか、誰が立候補できるのか、そして誰が政治プロセスから排除されるのか等を考える良い機会でもある。

誰もが自国の政治プロセスに参加する権利を有するべきであることは、言うまでもないことであり、世界人権宣言にも明記されている。近年、LGBTIQ+の権利を認め、擁護するために大きな前進がなされてきた。しかし、LGBTIQ+の人々をとりまく現実はしばしば大きく異なっている。

様々な進歩が見られてきた一方で、世界の3分の1の国が同性間の関係を違法とする法律を維持している。このような国に住むLGBTIQ+の人々は、有権者として、あるいは候補者として、選挙でどのような経験をするのだろうか。

家を出るたびに嫌がらせに直面し、最終的にはコミュニティから排除されるトランスジェンダーのことを考えてみよう。あるいは、ソーシャルメディアの偽情報によりネット上で絶え間ない憎悪に晒されているLGBTIQ+グループ、差別やヘイトスピーチ、あるいは身体的暴力を恐れることなく、政治的見解を表明する自由はどこまであるのだろうか。

このような経験は一過性のものではない。反LGBTIQ+の法律や政策が国によっては勢いを増し続けており、多くのLGBTIQ+の人々が日常生活で直面する偏見や差別が蔓延している。

そしてこれらの法律は、人々を沈黙させ、こうしたマイノリティーが社会に対して発言できる範囲を制限し、構造的な差別を定着させることで政治プロセスに直接的な影響を及ぼしている。

UNDPは数十年にわたり、こうした障壁を取り除き、すべての個人の人権を尊重する法律、 政策、プログラムを強化するための支援に取り組んできた。これは、LGBTIQ+の人々が多様なグループであり、様々な形態の差別に直面していることを認識し、幅広いグローバル・パートナーや擁護者と協力することを求めている。

しかし、世界人口の約半数が今年投票を行う可能性があると推定される中、自国のリーダーシップと政治的方向性を決定する人々が、私たちの住む世界の多様性を真に反映したものであることを確認する必要性に焦点が当てられている。

私たちには、彼らがそうなることを期待する理由がある。なぜなら、ルクセンブルクのようなパートナーの揺るぎない支援を受けて、UNDPはLGBTIQ+の権利を変革するために、LGBTIQ+の団体や活動家を含む世界的な取り組みを支援してきたからだ。

例えば、UNDPは昨年10月、欧州議会のLGBTIインターグループとの共同開催イベント』において「Inclusive Democracies(包摂的民主主義): 政治・選挙プロセスにおけるLGBTI+の参加を強化するための手引書」を発表した。

その目的は、政策立案者、選挙管理機関、立法者、市民社会、その他の利害関係者に、市民的・政治的権利、表現と結社の自由、公共サービスへのアクセスのより平等な行使に向けて取り組むための明確な一連のツールを提供することである。この出版物は、UNDPの世界的な活動から情報を得ており、主に南半球の80カ国以上からのベスト・プラクティスを収録している。

同時にUNDPは、世界の72カ国と全地域で、LGBTIQ+の人々や問題を開発努力に統合するために活動している。

これには、南部アフリカの若いキー・ポピュレーション(ゲイをはじめとする男性と性交渉を持つ若い男性、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスの人々が含まれる)と協力して、主流メディアに登場する否定的なステレオタイプに異議を唱え、否定的なナラティブ(物語)を変えるための支援も含まれる。

支援は、若者のメディア・スキル・トレーニングを開催し、記者としてのスキルを身につけさせるとともに、自分たちに影響を与える問題についてアドボカシーを行うためのデジタル・プラットフォームの利用を強化することに重点を置いてきた。

しかし、デジタル・プラットフォームには大きな害を及ぼす力もあり、LGBTIQ+の人々は、しばしば不釣り合いなオンライン・ハラスメントに直面し、平等な政治参加への脅威となっている。ルクセンブルクの支援により、UNDPはジェンダー、性的指向、民族に基づいて個人を標的にする危険なオンライン言論との闘いを優先してきた。

例えば、UNDPの取り組みの一環であ る「カーボ・ベルデ自由で平等なキャンペーン」は、ジェ ンダーに対する固定観念と闘い、法的手段やコミュニ ケーション手段を通じて偏見をなくすことに重点を置いている。

LGBTIQ+の権利に取り組む世界的な取り組みは、影響を与えつつある。ジョージタウン大学のオニール研究所、UNDP、「HIVとともに生きる人々の世界ネットワーク(GNP+)」が共同で作成した最近のHIVポリシーラボ報告書では、世界中で合意による同性間の性交渉が非犯罪化される傾向が続いていることが明確に示されており、2022年には過去25年間のどの年よりも多くの国が刑罰法規を撤廃している。

これらの進歩は、共同の努力の一環である。なぜなら、包摂的で公平な社会の構築は、パートナーとの連携を築くことを意味するからである。UNDPでは、ルクセンブルクのようなパートナーがこの重要な活動に資金を提供し、LGBTIQ+の人々が直面する不公正に光を当てることを支援しており、その重要性は決して過小評価されていない。

人権への投資は私たちの社会への投資でもあることからこの点は重要である。UNDPは、ルクセンブルクと主要なドナーの支援を得て、誰であろうと、どこであろうと、人々が自分たちの社会を形成する上で声を上げることができるよう支援する活動に取り組んでいる。

今年は、かつてないほど注目度が高い。選挙での決定が、社会の発展や人権の尊重に大きな影響を与えるだろう。だからこそ私たちは、この機会にパートナーシップを認識し、LGBTIQ+コミュニティへのコミットメントを新たにしなければならない。

世界の関心は、選挙の勝者と敗者に集まるだろう。しかし、結果はパズルの1ピースに過ぎない。行われる政治プロセスが包括的で、信頼でき、平和的であることを確実にすることが、最終的に、誰もが投票でき、誰もが立候補でき、そして最も重要なことは、誰も沈黙を強いられることのない世界を構築する方法である。(原文へ)

ウリカ・モデールは国連事務次長補兼UNDP対外関係・アドボカシー局長、クリストフ・シルツはルクセンブルク外務・欧州問題・国防・開発協力・対外貿易省開発協力・人道問題局長。

INPS Japan/IPS UN Bureau

関連記事:

「フェミニスト国連キャンペーン」、国連事務総長に有言実行を求める

|エチオピア|正教会がLGBTQの団体旅行を阻止

「変化の風」が「終身大統領」を目指すアフリカの指導者らを阻止するだろうか

|ジンバブエ|気温上昇が人間と野生動物の紛争を助長

【ブラワヨIPS=イグナチウス・バンダ】

ジンバブエでは気温の上昇により、ヘビなどの動物が通常よりも早く自然の生息地を離れるため、人間と野生動物の衝突が増加している。

当局によれば、気温が高いために山火事シーズンが早まり、野生動物が人間の住む地域に押し寄せ、すでに医療サービスが低下しているジンバブエでは、多くの人々の命が危険に晒されているという。

世界保健機関(WHO)などの諸機関が気候変動と健康との関連性を強調し、研究の強化を呼びかけているときでもある。

世界的に、かつてないほどの気温の上昇が壊滅的な山火事の原因となっているが、ジンバブエのような低所得のアフリカ諸国も気候変動の影響を受けている。

今年の初め、ジンバブエ保健省は、ヘビが人間の住む地域に移動したため、ヘビに噛まれる件数が急増したと報告した。

住宅地でヘビが急増しているのを目撃した住民によると、これはジンバブエ全土が猛暑に見舞われていることと重なるという、 また、国内の都市部ではヘビ捕り業者も繁盛しているという。

野生動物当局によると、野生動物の生息地が失われつつあるため、人間への危険性が高まっている一方、気候研究者は気温の上昇と蛇による被害との関連性を指摘している。

ジンバブエ国立公園野生生物局(Zimparks)によると、ヘビが冬眠している期間である冬眠期は、異常な高温の長期化によって短くなり、ヘビは例年よりも早く隠れ場所から移動するようになったという。

また、急速に変化する世界的な気候の中で、冬が短く、日中が長くなることも常態化しており、野生生物は適応を余儀なくされ、状況によっては人間の住む地域に移動せざるを得なくなっている、と研究者たちは指摘している。

このため、ヘビに噛まれる件数が過去最多を記録している、と公園・野生動物局のティナシェ・ファラウォ広報官は指摘した。

ジンバブエで猛暑が続いていることも、山火事のシーズンが長くなっている原因である。乾燥した状況は、ヴェルド(草原)火災の拡大に理想的な条件を提供しているからだ。

そして、草原火災が広がると、ヘビなどの危険な野生生物は安全な場所を求め、さらに人間の命を危険にさらすことになる、とジンバブエ政府関係者は語った。

しかし、影響を受けたコミュニティは、気候変動が引き起こすこの現象にどう対処すべきか、窮地に立たされている。

ジンバブエでは、人間が生命の危機を感じていても、野生動物や保護されているヘビ類を殺すことは処罰の対象であり、気候変動が生物多様性や生態系のバランスに与える影響と複雑さを浮き彫りにしている。

「生態系が変化するにつれ、人間も野生動物も食料、水、資源を求めて遠くまで移動するようになります。ジンバブエにおける人間と野生動物の衝突問題は、ますます大きくなっています。」と環境省の気候変動管理ディレクター、ワシントン・ジャカタ氏は語った。

「気温の上昇は、植生、食料源、水へのアクセスなど、多くのことに影響を及ぼしています。生態系は徐々に特定の動物にとって住めなくなりつつあり、野生動物は食料と住みやすい環境を求めて、通常のパターンから外れた移動を余儀なくされています。」と、ジャカタ氏はIPSの取材に対して語った。

ジンバブエはここ数ヶ月、記録的な高温を記録し、農作物から人々の健康まで、あらゆるものに影響を及ぼしている。

研究者たちは、地球温暖化が長年にわたって生物多様性を破壊し、野生生物がより住みやすい地域に移動することを余儀なくされ、その過程で自然の生態系が乱れていることを指摘している。

「サハラ以南のアフリカの多くの地域では、干ばつの時期になると、人と家畜が減少する資源をめぐって野生生物と競合しています。」と、世界自然保護基金で野生生物と気候レジリエンスのシニアディレクターを務めるニヒル・アドバニ氏は語った。

気候変動がもたらす難題の中で、専門家たちは、人間と野生動物の衝突の増加に対処するために、より良い介入が必要だと言う。

こうした兆候にもかかわらず、ジンバブエのような後発開発途上国は、気候管理プログラムへの資源の動員や投入に苦慮しており、人間と野生生物の紛争が顕在化している。

「人間と野生動物の衝突を緩和するのに役立つ介入策はいくつもあります。例えば、捕食動物を防ぐボーマス(安全地帯)や、その地域の野生動物に対する早期警告システムなどです。重要なことの一つは、野生動物と共存することのメリットをコミュニティが理解することです。」とアドバニ氏は語った。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

ジンバブエには、人間と野生動物の衝突などの問題を解決することを目的としたCAMPFIRE(先住民資源の地域社会による管理プログラム)があるが、気候変動が生態系に与える影響など、より広範な問題は依然として取り組まれていないと、影響を受けたコミュニティは指摘した。

「エコツーリズムのような取り組みは、観光事業が、バリューチェーン全体を通じて地域社会を強く取り込むものである限り、地域社会が野生生物と共存することの利点を知るための素晴らしい方法です。」と、アドバニ氏は指摘した。

気候研究者が地球は今後も温暖化し続けると警告し、地域社会が危険な動物との共生を何とか常態化させようと奮闘する中、気候変動が人間と野生動物の紛争に長期的な影響を及ぼす懸念が高まっている。

「すでに今日、私たちは30年前と比べ、気候や天候に関連した自然災害の急激な増加に直面しています。これらの災害は、人間、ペット、野生動物の生命と生息地に壊滅的な損失をもたらしています。」とジャカタ氏は語った。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

関連記事:

裏庭耕作に目を向けるアフリカ南部の都市住民

|視点|先住民の土地管理の知恵が制御不能な森林火災と闘う一助になる(ソナリ・コルハトカル テレビ・ラジオ番組「Rising up with Sonali」ホスト)

先住民を脅かす気候変動―彼らの視点を取り入れよ