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草の根にSTEMを

ネパールの女子生徒が科学技術教育で力をつける

【カトマンズNepali Times=ボゲンドラ・ラミチャン】

初めて触れたパソコンから広がる世界

西ネパールの山岳地帯にある学校で10年生に在籍するドゥルガ・ブダは、つい最近までパソコンを一度も見たことがなかった。

この地域の多くの若い女性たちは、家事や家畜の世話に縛られ、やがては早婚を強いられるのが一般的だ。だがドゥルガにとって、明滅するコンピューターの画面は、これまで想像したこともない新しい世界への扉となった。

彼女は、EDGE(English and Digital for Girls’ Education:女子のための英語とデジタル教育)と呼ばれる放課後プログラムを通じて、今では自信を持ってインターネットを使い、英語を話せるようになった。

女子が排除される現実
Nepali Times.
Nepali Times.

南アジアや途上国の数百万の少女たちは、未来を切り拓くスキルから切り離されている。STEM(科学・技術・工学・数学)は現代生活のあらゆる分野を変革しているが、多くの国で女子生徒は体系的に排除されている。
世界的に見ても、研究者に占める女性は30%未満。特にコンピューター科学や工学などの成長分野ではさらに少なく、この格差は南アジアで一層顕著である。

初期教育の力

女子のSTEMへの関心は15歳頃から低下する。励ましや資源の不足、成功例の欠如が背景にある。早期の教育介入なしには、ジェンダー格差は広がるばかりだ。
安全で包摂的な環境での初期教育は、能力の開発と同時に自信の醸成にもつながる。

EDGEプログラムの成果

EDGEは英国文化会議が展開する有望な取り組みで、女子が英語、デジタルリテラシー、社会的スキルを学ぶ放課後クラブを設置する。特徴はピア・リーダー方式で、女子が仲間を指導しながら協働学習を進める。
これまでに南アジアで2万人以上が参加。ネパールでは98%が「自信がついた」と答え、92%が「高等教育を目指す動機づけになった」と答えている。

社会を変える力

EDGEの成果は教室を超えて広がっている。参加者の活躍は地域社会の家父長的規範に挑み、ICTフェアや地域発表会を通じて女子の可能性を示す。
ドゥルガは早婚を期待されていたが、今では可能性の象徴と見なされている。調査によると、95%の参加者が「女子教育に対する家族の姿勢が改善した」と報告している。

海外進学とリーダーシップ

英国文化会議の「Women in STEM奨学金」は、AIやデータ科学、再生可能エネルギーなどの修士課程にネパール女性を送り出す。昨年は6人が奨学金を受給し、未来を形づくる分野でのリーダーシップに一歩を踏み出した。

STEM教育の意義

STEM教育は市民教育や民主的価値観を育み、デジタルリテラシーは情報アクセスや公共生活への参加を可能にする。
経済的にも、STEMにおけるジェンダー格差解消は国家GDPを押し上げる可能性がある。しかし「人口の半分を未来から排除する社会は繁栄できない」という道義的理由はさらに強い。

気候危機、公衆衛生の緊急事態、デジタル変革には多様で包摂的なリーダーシップが必要だ。EDGEの教訓は明快である―変化は可能であり、そして早く始まる。(原文へ

ボゲンドラ・ラミチャンは英国文化会議ネパール 英語・学校教育リード、EDGEプログラム担当

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高齢者の惑星(Planet of Aged)の台頭

【ポートランドIPS=ジョセフ・チャミー】

地球が「高齢者の惑星」へと進化しつつあることが、ますます明らかになっている。世界のほぼすべての国で、高齢者(一般的に65歳以上と定義される)の数と割合が急速に増加している。その結果、高齢者は官庁や制度に入り込み、自らの要求や願望を前面に押し出すようになった。こうした展開の結果として、しばしば国民全体を真に代表していない「老齢支配」(ゲロントクラシー)が形成され、政策、プログラム、支出を左右している。

1950年には、高齢者は世界人口のわずか5%(1億2800万人)にすぎなかった。今日、その割合は倍増し、8億5400万人、すなわち世界人口の10%を占めている。1950年以降、高齢者人口はほぼ7倍に膨れ上がったのである。

2000年には、子ども(18歳未満)より高齢者の数が多い国は、イタリア、日本、モナコの3か国に限られていた。しかし2025年までに、この歴史的な逆転現象は約45の国と地域に広がった。たとえばイタリアでは、高齢者の割合が25%であるのに対し、18歳未満の子どもは15%にとどまっている。日本ではさらに顕著で、高齢者が30%、子どもが14%となっている。

2050年までには、世界人口の17%が高齢者になると予測されている。さらに2080年までには、65歳以上の人口が18歳未満の子どもを上回るとされ、「高齢者の惑星」の台頭を映し出す。

21世紀末までには、地球上に生きる人間のほぼ4人に1人、約25億人が高齢者になると見込まれている。

国連安全保障理事会の常任理事国を含む多くの国々では、世紀末までに高齢者比率がさらに高くなる。たとえば2100年には、フランスとイギリスで34%、中国では41%に達すると予想されている(図1)。

2025年時点で、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、イタリア、日本、ポルトガルといった国々では、人口の約4分の1が高齢者となっている。この割合は2050年までに約3分の1に増える見込みである。

Source: United Nations.

高齢者の台頭により、地球上の多くの国が「老齢支配」へと変貌しつつある。

老齢支配の問題点

「老齢支配」体制は、若い世代のニーズに合致しない政策を打ち出しがちである。その結果、立法の停滞や、国民の変化する需要に対応できない政治体制を固定化する恐れがある。

高齢の指導者たちは自らの世代に主に関わる問題に焦点を当てるため、人口の大多数が抱える課題を見過ごすことが多い。たとえば高齢の指導者は、子どもの福祉より高齢者向け給付に多くを費やし、若者の利益を軽視しがちである。

こうした政治体制は、気候変動、食料不安、環境劣化、生物多様性の喪失、汚染といった長期的課題に取り組みにくい。さらに革新を阻害し、科学研究を縮小し、若手研究者のキャリア進展にも壁をつくる可能性がある。

加えて高齢者は、かつてないほど長生きしている。1950年、65歳時点の平均余命は男性11年、女性12年であった。2025年には男性16年、女性19年へと延びている。さらに21世紀末までには男性21年、女性23年に達すると予測されている。

IPS NORAM
IPS NORAM
高齢者と若い人口のギャップ

高齢者人口が増えているとはいえ、世界人口の大多数、約90%(74億人)は高齢者ではない。2025年の世界人口の中央値は31歳であり、約40億人が子どもや若い成人を含む。

しかし、多くの国の指導者は高齢者である。彼らの多くは自国民の中央値年齢の2倍以上の年齢であり、国民の大多数より数十年も年上である(表1)。

さらに政府指導者の中には70歳を大きく超える高齢男性が増加している。2025年時点で、国家元首または政府首班の地位に就いている女性は27か国で、世界の約14%にとどまる。議会や閣僚ポストも男性が圧倒的多数を占め、それぞれ73%、77%である。

高齢の国家指導者を持つことには、認知機能低下、柔軟な思考力の減退、戦略的計画の非効率、新しい発想への抵抗、健康問題(しばしば隠される)、精力や持久力の低下、そして高齢者世代の利益に偏った政策決定といったリスクがある。

特に懸念されるのは認知症である。65歳を過ぎると、認知症発症のリスクは約5年ごとに倍増すると考えられている。米国などの研究者は、55歳以上の人口の42%が最終的に認知症を発症すると推定している。

高齢の国家指導者は、年齢の高さに加え、職務の重圧と持続的ストレスにさらされているため、認知症リスクはさらに高いとみられる。研究によれば、65歳以上の指導者の相当数が意思決定機能の障害を抱えている可能性がある。これは複雑な意思決定、柔軟な思考、衝動の制御に影響を及ぼす。

高齢者の影響力と投票行動

高齢の国家指導者は、自らの任期や人生の終盤に「遺産」を残そうと努める。自身の在任中を超えて長く続く制度や戦略を築こうとする傾向がある。

高齢者にとって強力な手段のひとつが「投票」である。高齢者は年齢を問わず選挙権を持つが、18歳未満の若者は選挙権を持たない。また、高齢者は若者より投票率が一貫して高い。若者は仕事や生活で多忙なため投票行動が制限されがちだ。

高齢の有権者は、より保守的で現状維持を好み、退職や老後医療に関連する経済的問題への関心が強い。そのため、高齢人口の増加は、各国の年金制度財政に深刻な課題をもたらしている。

解決策として、増税、退職年齢の引き上げ、年金給付の制限などが提案されている。しかし高齢者は長寿になったにもかかわらず、退職年齢の引き上げや給付削減、老人への課税強化に強く反対している。彼らは抗議や抵抗を強め、年金制度の現状維持を求めている。

また労働力人口の減少が年金や医療を支える基盤を揺るがしているため、高齢者は出生率向上を求め、家族の伝統的価値観や愛国心を強調する「多産政策」を支持している。しかし世界の半数以上の国や地域で出生率は人口置換水準を下回っており、これらの努力は成功していない。

結論

高齢者の数と比率が増加し、世界の指導者の高齢化が進み、さらに政策や支出を左右する「老齢支配」が確立されつつある現在、地球はまさに「高齢者の惑星」の台頭を目撃している。(原文へ

ジョセフ・チャミー氏は人口学コンサルタントであり、国連人口部の元ディレクター。人口問題に関する著作多数。近著に『人口の水準、動向、格差』がある。

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カザフスタン館、来場者100万人を達成 ― 2025年大阪・関西万博

【大阪INPS Japan】

カザフスタン館は、大阪・関西万博の開幕以来、多くの来場者から高い関心を集め、このたび来場者数100万人を突破した。

記念すべき100万人目の来場者となったのは、兵庫県尼崎市在住の長谷川浩介氏。長谷川氏には、20266年にエア・アスタナが開設を予定している日本-カザフスタン間直行便のビジネスクラス往復航空券と、アスタナ市内高級ホテルでの2泊宿泊券が贈られた。

Mr. Diyas Azbergenov, Chairman of the Management Board of “QazExpoCongress” NC JSC, and Mr. Daulet Yerkimbayev, Commissioner General of the Kazakhstan Pavilion, congratulate the Pavilion’s one-millionth visitor at EXPO 2025 Osaka. Photo credit: QazExpoCongress NC JSC.
Mr. Diyas Azbergenov, Chairman of the Management Board of “QazExpoCongress” NC JSC, and Mr. Daulet Yerkimbayev, Commissioner General of the Kazakhstan Pavilion, congratulate the Pavilion’s one-millionth visitor at EXPO 2025 Osaka. Photo credit: QazExpoCongress NC JSC.

長谷川氏は次のように語った。

「100万人目の来場者になれたことは大変光栄です。館内のモダンなデザインと独創的なコンセプト、革新的なデジタル展示に強い感銘を受けました。デジタル化や経済成長、投資ポテンシャルに関するカザフスタンの成果を学ぶことができ、とても刺激的でした。この経験をきっかけに、ぜひ現地を訪れ、雄大な自然や文化を自分の目で確かめたいと思います。」

また、国際博覧会事務局(BIE)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長も公式訪問を行った。同事務局長の来館は、同館の高度な運営体制と充実した展示内容を裏付ける重要な機会となった。

ケルケンツェス事務局長は次のように述べた。

Dimitri Kerkentzes, Secretary General of the Bureau International des Expositions (BIE), Mr. Diyas Azbergenov, Chairman of the Management Board of “QazExpoCongress” NC JSC, and Mr. Daulet Yerkimbayev, Commissioner General of the Kazakhstan Pavilion, during a tour of the Pavilion at EXPO 2025 Osaka. Photo Credit: QazExpoCongress NC JSC

「カザフスタン館は、その高い運営水準と包括的な展示内容、そして綿密に構成されたプレゼンテーションによって深い印象を与えます。持続可能な開発、イノベーション、多様な文化といったテーマが明確かつ一貫性をもって表現されており、現代社会の課題に対するカザフスタンの国際的な視点が際立っています。カザフスタンは、国際博覧会において責任感と成熟した姿勢を示し、万博の基本理念と調和しながら持続可能な未来の実現に貢献しています。同館は来場者の真の関心と敬意を呼び起こし、カザフスタンのさらなる可能性や価値の探求へとつながっています。」

Mr. Dimitri Kerkentzes, Secretary General of the Bureau International des Expositions (BIE), at the Kazakhstan Pavilion at EXPO 2025 Osaka. Photo Credit: QazExpoCongress NC JSC.
Mr. Dimitri Kerkentzes, Secretary General of the Bureau International des Expositions (BIE), at the Kazakhstan Pavilion at EXPO 2025 Osaka. Photo Credit: QazExpoCongress NC JSC.

この訪問は、カザフスタンが大阪・関西万博2025に参加する意義を改めて示すものとなった。国際的な舞台を通じ、同国は世界からの信頼を一層強め、未来に向けた新たな展望を開いている。

Osaka,Kansai, Japan EXPO

カザフスタン館は「命をつなぐ(Connecting Lives)」クラスターに属し、シャニラク(遊牧民の住居ユルトの天窓)を象徴としたデザインを採用。最新のデジタル技術と豊かな文化的伝統を融合させている。デジタル化の進展を紹介するだけでなく、環境、観光、イノベーション、グリーンエネルギー、持続可能な開発における同国の可能性を幅広く発信している。体験型展示と充実したコンテンツにより、万博でも有数の来場者数を誇り、日本のメディアからも大きな注目を集めている。

2025年4月13日に開幕した大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、「いのちを救う(Saving Lives)」「いのちに力を与える(Empowering Lives)」「いのちをつなぐ(Connecting Lives)」の3つのサブテーマを軸に展開されている。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会によれば、今回の万博には160か国と9つの国際機関が参加しており、2025年10月13日まで開催される。(原文へ

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AIドローンが変える核兵器の未来

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。The Loop 掲載記事を Creative Commons ライセンスのもとに再掲載

【Global Outlook=エスラ・セリム】

エスラ・セリム氏は、人工知能(AI)を搭載したドローン技術の急速な進展が、核兵器の運搬能力、精密な標的設定、そして抑止力を大幅に強化していると論じている。しかし、自律型ドローンシステムの拡散は、戦略的かつ倫理的に深刻な課題も生み出している。世界の安定を確保するためには、強固な国際的枠組みの構築が不可欠である。

ウクライナ戦争が新技術に与えた影響

2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻以降、主要国の間で新興技術をめぐる競争は一段と激化した。とりわけ、この紛争はドローン技術への投資を加速させた。米国、中国、ロシア、そして欧州諸国はいずれも、こうした技術を戦略上不可欠なものと見なしている。 

Image source: Sky News
Image source: Sky News

先端技術、特に人工知能(AI)は、防衛戦略における重要性を一層増している。こうした依存度の高まりは、武装ドローン分野での軍拡競争を加速させるとの懸念を呼んでいる。AI統合によってドローンの自律性は飛躍的に向上し、精密な任務遂行や高度な作戦運用が可能となっている。

軍事分野において、AIドローンは大きな技術的転換を示している。物流や偵察を強化するだけでなく、核兵器の運搬手段となる可能性すらある。このため各国は、安全保障の強化、抑止力の維持、地政学的影響力の拡大を狙い、先端ドローン技術の開発と取得に注力している。

先端軍事技術を追求する四つの要因

まず、実用主義の観点からすると、外交政策は国際・国内の変化に柔軟に対応し、適応していく。実用主義は現実主義的思考と深く結びつき、具体的成果や実際的な解決策を重視する。そのため各国は、平和と抑止を維持するだけでなく、紛争発生に備える意味でも軍需産業を発展させている。

次に、安全保障上の脅威認識は国際関係に大きな影響を及ぼしている。国家は主に自衛のために経済力や軍事力を構築するが、そうした行動は他国には攻撃的に映り、相互不信や軍拡競争を招きやすい。そのため、強固な軍需産業を維持することは、主権を守り、安全保障を確保し、潜在的な脅威を抑止する上で不可欠となっている。

さらに、強国は常に影響力を拡大する機会を追い求め、とりわけ紛争期にはそれが顕著となる。戦争は先端軍事技術が国家の相対的な力を大きく高める契機となり、戦術的優位や地政学的競争における新たな梃子となりうる。

最後に、AIの急速な進展は新たな戦略的前線を切り開いた。AIは高度な軍事能力をこれまで以上に安価で容易に利用可能にし、各国の軍事的有効性と経済的影響力を大きく高めている。軍事運用に不可欠な要素となったAIは、安全保障戦略を再構築し、平時・戦時を問わず意思決定の迅速化を促す。各国はこの技術革新を取り込むことを迫られ、現代の権力競争は新たな局面を迎えている。

核兵器の運搬と標的設定の強化

ウクライナ戦争が示すように、AI搭載ドローンは現代戦に不可欠な装備となりつつある。高度な情報収集・監視・偵察任務を遂行できるだけでなく、核兵器を運搬する潜在的能力も備えている。軍事運用への統合が進むことで、核兵器の投射能力はより精密かつ効果的に強化される。

AIドローンは、敵のミサイル防衛や防空システムを突破することで、核攻撃を支援する重要な役割を果たす。核弾頭を搭載していなくても、欺瞞や妨害、無力化によって敵の防衛網を撹乱できる。AIを活用して脆弱性を突くことで、核戦力は敵対的環境においても確実かつ効率的に浸透できるようになる。

さらに、AIは標的選定を高度化し、リアルタイムで精緻な情報と敵の弱点分析を提供する。これにより、無差別攻撃に頼らず戦略目標を特定でき、作戦効率が向上するとともに付随的被害を抑制できる。標的精度の向上によって必要な弾頭や運搬手段を削減でき、運用の簡素化や維持費削減にもつながる。

さらに、AI搭載ドローンは核抑止力を大幅に強化する。持続的な監視と即応能力により、脅威を早期に察知し迅速に対応できる体制を整えることで、信頼性の高い第二撃能力を保証し、核保有国間の戦略的安定性を支えている。

ドローン戦時代の戦略的リスク

自律型AIドローンや無人航空機の拡散は、核の標的設定や抑止戦略に深刻な影響を及ぼす可能性がある。これらを核の指揮・管制システムに組み込めば、監視・早期警戒・精密な対兵力攻撃が強化され、核対応力の向上につながるだろう。その一方で、核保有国は戦略ドクトリンや指揮手順、危機管理の在り方を改めて検討せざるを得なくなる。

しかし、同時に核分野特有の戦略的・倫理的課題も浮上する。AIが脅威を誤認したり、敵の意図を誤解した場合、自律性の高いシステムは危機時に核緊張を不必要に高める恐れがある。さらに、透明性を欠いた迅速なAI判断は人間の監督や判断を弱め、核安定性や抑止力の信頼を揺るがす可能性がある。自律型ドローンの核戦力への統合は、通常兵器と核の境界を曖昧にし、核使用の敷居を下げかねない。

運用上の不確実性

AI搭載ドローンの核環境下での運用信頼性は依然として不透明である。電子戦やサイバー攻撃に脆弱であり、特に緊張下では技術的故障が発生する可能性もある。AI生成情報に基づく核判断は、誤ったデータや偏ったアルゴリズム、あるいは拙速な対応によって、事態をさらに悪化させる危険を孕んでいる。

さらに、高度なドローン技術の拡散は、敵対国に高度な対抗手段やより複雑な核能力の開発を促すだろう。これは安定した抑止の強化どころか、不安定な軍拡競争を助長する恐れが強い。そのため、厳格な試験、人間による監督の徹底、そして強固な国際規制が、AIドローンの統合を導くうえで欠かせない。原文へ

エスラ・セリム氏は、フランスのリール・カトリック大学(ESPOL)の客員講師兼研究員。これまでエクス=アン=プロヴァンス政治学院で教鞭を執り、同校で博士号を取得したほか、米国ワシントンD.C.のジョージ・ワシントン大学で客員研究員も務めた。博士論文では、冷戦後におけるイランの核開発が米国とトルコの関係に与えた影響を分析している。現在は通常兵器や武器貿易を中心に研究を進めており、これまでに核安全保障、大量破壊兵器、武器取引、ミサイルシステムに関する論文を多数発表している。

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国連改革に「痛みを伴う人員削減」―帰国強制の恐れも

【国連本部IPS=タリフ・ディーン】

国連加盟193か国で構成される総会は、現在進められている国連機構改革案について最終決定を下すことになる。改革には人員削減、部局の統合や廃止、高コスト地域から低コスト地域への機関移転が含まれる見通しだ。

最大の懸念は、米国の永住権や市民権を持たない数千人規模の職員とその家族が、長年――あるいは数十年――米国で生活してきたにもかかわらず、国連ビザを失って自国に帰らざるを得なくなる恐れである。

国連のステファン・ドゥジャリック報道官は8月25日、事務総長が近く第5委員会に修正予算を提出すると説明した。その上で、今回の改革案に含まれる措置を「痛みを伴う人員削減」と表現した。提案は総会に諮られ、最終的な決定は加盟国に委ねられる。

国連開発計画(UNDP、1994〜96年、1999〜2004年)や国連児童基金(UNICEF、2008〜14年)で勤務した経歴を持つステファニー・ホッジ氏はIPSに対し、「国連における『改革』とは、まるで一律20%の削減を意味するかのようだ。まるでリーダーシップが芝刈り機で測られるようだ」と語った。

「実際に起きるのは、強権的な者や取り巻き、上にへつらい下に威張る生き残りが職を守り、実際に成果を出す技術系職員が真っ先に切られるということです」と彼女は批判する。

ホッジ氏は、職員にとって屈辱はまぎれもない現実だと強調する。かつて自らが働いた国連オフィスの前を、再雇用の約束を信じて何か月も通い続ける人もいる。そして今、米国市民でも永住権保持者でもないニューヨーク在勤の数千人が、解雇通知と国外退去、そして「効率化」の名の下に数十年の奉職を切り捨てられるという、いっそう厳しい運命に直面している。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

「皮肉なことに、権利を守るために設立された機関が、いま自らの職員の権利を踏みにじろうとしている。家族は引き裂かれ、生計は奪われ、配慮の責務は放棄される。これは改革ではなく制度的偽善であり、国連が掲げる価値を空洞化させている」と彼女は指摘する。

国連は「誰一人取り残さない」と説く。だがそれは、自らの職員を除外しているようだ、とホッジ氏は皮肉を込めて述べた。彼女は国際的な評価の専門家であり、国連顧問として140か国以上で活動してきた経歴を持つ。

ある元国連職員もIPSにこう語った。「キャリアの途中や子どもの教育の最中に人々の生活を突然断ち切るのは、補償が十分でない限り、ほとんど非人道的です。ですが、国連が実際に何を計画しているのかはまだ分からないのです」。

一方、世界保健機関(WHO)は2026〜27年の予算削減に伴い、ジュネーブ本部で600人の職員削減を見込んでいる。テドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は職員宛ての書簡でこう述べたと、開発系メディア「Devex」が報じている。

「2026〜27年予算は21%削減されました。我々は中核的任務に沿って組織を再編しています。いくつかの活動は終了し、他は縮小され、最も使命に直結する分野は維持されます。本部では最終承認された新体制に基づき、およそ600人の離職が見込まれます」と記した。

国連人口基金(UNFPA)の元事務局次長(プログラム担当)で、パスファインダー・インターナショナル前会長兼CEOのプルニマ・メイン博士はIPSに対し、国連改革は本来、その機能を効率化し目標達成を後押しするものとして歓迎されてきたと語った。

しかし同氏は、今回の改革が主に財政的制約に起因している点に懸念を示す。「組織再編が資金不足に主導される場合、人間的な配慮や国連の広範な目的への影響が犠牲になる危険があります」と指摘した。

最終決定は総会に委ねられるが、現時点で明らかになっているのは、人員削減、部局の統合や廃止、高コスト地域から低コスト地域への移転が含まれるということだ。議論の中では、早期退職制度(双方合意による自発的退職)が検討されており、特に退職を控えた職員には魅力的に映る可能性がある。

しかし、より抜本的な手段は、部局や場合によっては機関そのものの統合・廃止、さらには移転である。これらは大きな後方支援上の課題を伴うが、同時に職員への影響にも十分配慮が必要だ。

特に米国に駐在する非市民・非永住者の職員とその家族にとっては、生活基盤を大きく揺るがすことになる。長年米国に暮らしてきた家庭の生活を壊すだけでなく、健康保険や年金といった不可欠な給付を奪う恐れもある。これらの制度は多くの場合、生活費の高騰を十分に反映していない。

加えて、解雇された職員が移民ステータスを抱えながら新たな雇用を見つけるのは、厳しい労働市場では一層難しい。こうした措置は職員とその家族の生活を損なうだけでなく、国連機関から貴重な技能と経験を失わせ、機敏かつ的確な活動能力を弱める。結果として、これまでの成果や将来の進展が犠牲になりかねない。

今回の削減は国連全体にとって痛みを伴うものだが、最も深刻な打撃を受けるのは職員とその家族である。一方で、国連職員は経済的にも待遇面でも「特権的」とみなされることが多く、職員福祉は軽視されがちだ。

メイン博士は、総会加盟国が選択肢を慎重に吟味し、人的コストと国連の使命達成への影響を併せて考慮することを望むと述べた。

「不安定な世界において、団結し機能する国連がこれまで以上に求められている時期に、大規模な構造改革や人員削減に焦点を当てれば、職員の士気を損ね、国連が築いてきた成果を危うくし、将来に向けた役割すら損なう恐れがあります」と同氏は警告した。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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平和の祈りを水面の波紋のように―広島・長崎から80年

【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アラヤ・アラニス】

80年前、世界は人類史上最も破壊的な兵器の力を目の当たりにした。広島と長崎は核兵器の標的とされ、人類史の中でも最も暗い章の舞台となった。死者は20万人を超え、その惨禍は世代を超えて響き続けている。だが今なお、80歳を超える被爆者たちが声を上げ続け、核兵器廃絶と平和を訴えている。|RUSSIANSPANISH

Photo: Yasuaki Yamashita, hibakusha.Credit: Guillermo Ayala.

メキシコシティ西部にあるメトロポリタン自治大学クアヒマルパ校(UAMクアヒマルパ)では、1945年8月9日の長崎原爆を生き延びた山下泰昭氏が、自らの体験を語るために登壇した。その言葉には歴史を生き抜いた重みがこもっていた。

「皆さん一人ひとりの小さな声を、世界中に広げることができます。その声は水面の波紋のように広がり、やがて核兵器の脅威のない世界で生きられるようになるでしょう。それこそが私たちの願いであり、平和なのです」と山下氏は強調した。

炎に包まれた幼少期の記憶

山下氏の証言は、私たちをあの日の長崎へと引き戻す。わずか6歳のとき、彼は「一度に千本の稲妻が落ちたような閃光」を目にした。それは人間には理解し難い恐怖の始まりだった。爆心地から約2.5キロの自宅は熱線と爆風で倒壊し、家の別の部屋にいた姉はガラス片で頭に大怪我を負った。(化学兵器による攻撃と思い込んでいた)姉はその傷から流れる血は「米軍が日本人に使った危険な油」だと勘違いし、恐怖に震えたという。

街は一瞬にして廃墟と化し、病院も壊滅した。医師や看護師も犠牲となり、助けを求める人々には手立てがなかった。やがて飢えが襲い、家族はわずかな食料を求めて何キロも歩き、農村で残りの財産を物々交換に差し出した。山下氏は、破壊し尽くされた街を歩きながら「現実とも思えぬ惨状」を目に焼き付けたと振り返る。

From the book: “Yasuaki Yamashita’s A-Bomb Testimony” Photo credit: Guillermo Ayala Alanis
沈黙から証言へ

長い間、彼は被爆体験を語らなかった。日本では被爆者に対する差別や偏見が根強く、「放射能がうつる」という無理解にさらされたからだ。1960年、山下氏は日本赤十字社の原爆病院で働き、多くの放射線障害患者の看護に携わった。年齢の近い白血病患者のために度々献血したが、その患者は亡くなった。「自分もいつ発病するかわからない」という恐怖が常につきまとったという。

Yasuaki Yamashita

やがて彼は日本を離れ、新しい人生を求めてメキシコに渡る。メキシコ文化に強い憧れを抱いていた山下氏は、1968年のメキシコ五輪で日本選手団の通訳を務め、そのまま移住を決意した。ナワトル語を学び、通訳や翻訳者として働き、市民権も取得した。

1995年、ケレタロで初めて被爆体験を公の場で語ったのをきっかけに、彼は長い沈黙を破り、証言活動を始めた。それは癒やしの道であると同時に、核兵器廃絶を訴える使命でもあった。

学生の応答――漫画と写真で伝える

メキシコシティでも、山下氏の証言は若者に深い影響を与えた。UAMクアヒマルパの人文学部の学生、ジェシカ・エスカンドンさんは、被爆の現実を伝えるために、漫画と写真を組み合わせた展示を企画した。

「広島と長崎について調べるうちに、このプロジェクトを始めました。自分の好きな表現を通して、今私たちが直面している現実とつなげなければならないと感じたのです。完成までに2年かかりました」と彼女は語る。

展示「広島と長崎―生存と抵抗の証言」は、写真や漫画のコマ34点で構成され、原爆による人々の苦しみを生々しく描いた。キャンパス内のミゲル・レオン・ポルティーリャ図書館で開かれ、被爆者の傷や、反核運動の始まりを示す肖像も展示された。その中心に置かれたのが、活動家としての山下氏の姿だった。

Photo: Jessica Escandón, organizer and student at UAM Cuajimalpa. Credit: Guillermo Ayala.
Photo: Jessica Escandón, organizer and student at UAM Cuajimalpa. Credit: Guillermo Ayala.

「被爆者は今や80歳を超えています。これからは若者の責任です。学校教育で表面的に扱うのではなく、決して忘れてはならないこととして意識を高めていく必要があります」とジェシカさんは訴えた。

書籍で残す証言
Book: Hibakusha. Testimony of Yasuaki Yamashita. Photo: Guillermo Ayala.
Book: Hibakusha. Testimony of Yasuaki Yamashita. Photo: Guillermo Ayala.

イベントでは、セルヒオ・エルナンデス博士による著書『ヒバクシャ―山下泰昭の証言』も紹介された。長年にわたり山下氏と交流を続けてきた博士がまとめたもので、長崎での体験、差別との闘い、メキシコ移住、そして被爆証言活動が描かれている。

「短いけれどとても心を打つ本です。特に、彼が受けた差別が衝撃的でした。人々がそれを隠そうとした事実に強い印象を受けました」とジェシカさんは話す。

会場には千羽鶴が色鮮やかに飾られた。平和の象徴であり、反核運動のシンボルでもある。「千羽鶴を折ることは、核兵器を二度と生み出さないという誓いを表す、日本の平和運動の伝統です」とエルナンデス博士は説明した。

世界への警鐘

山下氏は講演で、国際社会に対して強い警告を発した。

「私たちは何年も軍縮のために活動してきましたが、世界は逆方向に進んでいます。核兵器はますます増えています。人類は本当に広島と長崎の悲劇から学んだのでしょうか」と問いかけた。

そして、メキシコのような非核国も安全ではないと指摘する。「私たちは核兵器を持つ国々に囲まれています。平和と核兵器廃絶の運動は、平和国家だけでなく、ロシア、アメリカ、中国、北朝鮮といった核保有国にも強く響かせなければなりません。」

Guillermo Ayala Alanis
Guillermo Ayala Alanis
記憶から行動へ

長崎の廃墟からメキシコシティの講義室へ。山下泰昭氏の歩みは、一人の声が世界に波紋を広げ、平和の連鎖を生み出すことを示している。被爆体験、差別との闘い、異国での新しい人生、そして証言者としての使命――そのすべてが、平和は記憶だけでなく行動によって築かれることを物語っている。

彼の「小さな声」が世界を巡り、いつの日か核兵器の脅威なき世界を実現することを願ってやまない。(原文へ

This article is published by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International, in consultative status with the UN ECOSOC.

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フェミニスト電化―アフリカに不可欠な『力』」

【ワシントンDC IPS=スディクシャ・バッティネニ】

チャドはエネルギー貧困の最も深刻な例の一つである。人口のわずか10%しか電力に接続されておらず、農村部の電化率は2%未満、そして一人当たりの電力消費量は世界平均のわずか18%にとどまる。このことが経済発展を阻んでいる。

加えて、急速な人口増加も大きな課題だ。チャドは世界で最も人口増加が速い国の一つであり、現在2100万人の人口は今世紀末までに3倍以上に達すると予測されている。女子の初等教育修了率は38%にとどまり、児童婚と高い出生率が開発の障害となっている。

Map of Chad. Credit: Wikimedia Commons

世界銀行はこうした課題の一部に取り組んでおり、教育制度を強化する新たな協定を発表したほか、アフリカ開発銀行と提携して「ミッション300」を立ち上げ、2030年までにアフリカで3億人を新たに電力に接続することを目指している。

しかし、これらの課題は相互に関連しており、縦割りでは解決できない。誰もが利用できる安価でクリーンなエネルギーを目指す持続可能な開発目標(SDG7)は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメント(SDG5)とも密接に結びついている。女性の権利拡大は出生率低下と人口増加抑制の前提条件だからだ。さらにエネルギーアクセスは教育(SDG4)、貧困撲滅(SDG1)、保健(SDG3)、気候変動対策(SDG13)など、SDGs全体に関わっている。

例えば、エネルギー貧困は病院がワクチンを保存できない、起業が難しい、日没後に子どもが勉強できないといった事態を招き、教育が是正しようとする格差、とりわけジェンダー格差を悪化させる。

こうした問題への包括的な解決策として、エネルギー不足の国々の女性活動家たちは「フェミニスト電化」を提唱している。これは女性を経済的主体かつ消費者として力づけることを目的に、エネルギー投資を設計するものだ。家族計画を電力導入に組み込み、女性の教育、研修、リーダーシップ開発に投資し、エネルギー計画に女性を参画させるといった取り組みが考えられる。

しかし、この視点は「ミッション300」の「エネルギー・コンパクト」には欠けている。これは各国や企業、組織が「誰もが利用できる安価でクリーンなエネルギー」に向けた自主的な誓約をまとめたものだ。チャドの国家エネルギー・コンパクトは、2030年までに1400万人以上に新規接続を提供し、電力アクセスを11%から90%へ引き上げ、クリーン調理手段の普及率を46%に拡大し、再生可能エネルギーを発電量全体の30%に高め、866メガワットの新規発電容量を追加し、総額6億5030万ドルの投資を動員する(約3分の1は民間から)。

コンパクトはインフラ整備、民間セクターの関与、規制改革に重点を置いているが、ジェンダー平等や人口増加との交差といった「人間的次元」を見落としている。

例えば、チャドの高い出生率は大規模な家族を生み出し、調理・照明などの家庭エネルギー需要を増大させる。女性は家庭のエネルギー需要の大半を担っているが、意思決定には関与できていない。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

ほぼすべての農村家庭は薪を調理に使い、森林を破壊するだけでなく、室内空気汚染による呼吸器疾患を引き起こしている。LPG調理器や電気調理器などのクリーン調理手段はこれらのリスクを一変させうるが、それは女性が利用でき、購入でき、信頼できる場合に限られる。

家族計画への需要が満たされないまま、チャドの急速な人口増加が続き、エネルギーアクセス拡大の成果を押し流しかねない。教育や経済的選択肢が乏しいため、18歳までに結婚する少女は61%にのぼり、女性一人当たりの合計特殊出生率は5.14と極めて高い。

急速な人口増加は都市のスプロール化を加速させ、木炭生産のための森林破壊を進め、送電網の拡大をより困難にする。

このように、家族計画とエネルギー計画は密接に結びついている。チャドは家族計画や女性のエンパワーメントを進めなければ、エネルギー・コンパクトの目標を達成できない。

フェミニスト電化では、女性に太陽光発電設備の設置、電気調理器の販売や保守の職業訓練を提供し、家庭にクリーンエネルギーを届けると同時に、女性の雇用と自己決定の機会を生み出す。これは普遍的に出生率低下につながる傾向がある。さらに、分散型再エネ拡大や民間投資促進といったコンパクトの目標を女性にも広げることになる。

チャドは国家エネルギー・コンパクトを改訂し、ジェンダーと人口動態の統合計画を盛り込むべきだ。すべての新規エネルギー事業にジェンダー影響評価を義務づけ、性別や所得別のエネルギーアクセス成果を追跡し、電化事業を家族計画、保健、女性の経済的エンパワーメント施策と直接連携させるべきである。

エネルギーアクセスとは、どれだけのキロワットが発電されるかだけではなく、その数字の背後にある人間の現実と、誰が恩恵を共有するのかという問題である。真のアクセスとは、チャド農村部の女性がスイッチを押し、クリーンに調理し、安全に呼吸し、自らの家族の大きさを選べることを意味する。

それこそが、アフリカに必要な「力」なのである。(原文へ

スディクシャ・バッティネニはデューク大学の2年生で、Population Instituteのスタンバック・フェロー。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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国連総会、米国ビザ拒否でジュネーブ一時移転論再燃

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1988年、パレスチナ解放機構(PLO)議長ヤーセル・アラファトが米国からニューヨーク訪問のビザを拒否された際、国連総会は米国に抗して、史上初めて会場をジュネーブに移し、PLO議長にとってより敵対的でない政治環境を提供した。

アラファトは1974年に初めて国連で演説したが、ジュネーブでの発言をこう切り出した。「この名誉ある総会での2度目の会合が、ジュネーブという温かく迎えてくれる都市で行われることになろうとは、夢にも思わなかった」。

そして今、37年を経て、再び総会を一時的にジュネーブへ移すべきだとの運動が起きている。理由は、パレスチナ代表団が米国への入国ビザを拒否されているためだ。

中東における米国政策の改革を目指す非営利団体DAWNのサラ・リア・ウィットソン事務局長はIPSの取材に対して、「米国はガザにおけるジェノサイドやパレスチナ国家承認に関する議論を阻止しようと、パレスチナ当局者のビザを取り消しているのは明らかです。」「世界は毎日目撃しているイスラエルの残虐行為にうんざりしており、米国がこのような茶番を繰り返した前回と同じく、総会をジュネーブに移すべきだと強く望んでいます。」と語った。

彼女は、会場を移すことは国際社会が長年の国際法違反を容認しないという明確なメッセージになると主張した。

DAWNは先週発表した声明で、1947年の米国・国連本部協定は、二国間の対立にかかわらず、すべての代表が国連に参加できる「無制限の権利」を保障していると指摘した。

米国がこの協定を破ったのは今回が初めてではない。1988年、米国はアラファトのニューヨーク総会出席を拒否し、国連は米国の違反を認定する決議を採択、総会をジュネーブに移すという異例の対応を取った。
セント・ピーター大学外交・国際関係学部のマーティン・S・エドワーズ副学部長はIPSの取材に対して、「会場移転の呼びかけは想定の範囲内だ。」と指摘したうえで、「トランプ政権は他国の意見を顧みずに政策を進めることを好みます。『アメリカ・ファースト』は『アメリカ・アローン』へと変わりつつあるのです。」と語った。

パレスチナ承認を進める国々が実際に行動すれば、米国は安保理常任理事国5カ国の中で唯一、承認しない国となる。

「会場をジュネーブへ移すという威嚇は極めて合理的であり、世界が圧力に対抗して押し返すことができるという教訓を、ホワイトハウスはまだ学んでいない」と同氏は述べた。

国連のステファン・ドゥジャリック報道官は8月29日、ビザ拒否に関して「国務省と協議する。特に協定の第11条と第12条は読む価値がある。」「すべての加盟国、オブザーバーが代表を派遣できることは重要であり、とりわけ今回、フランスとサウジアラビアが主催する二国家解決会合を控えているためです。」と語った。

一方、米国務省は8月29日発表の声明で、「米国法に従い、マルコ・ルビオ国務長官は国連総会を前にPLOおよびパレスチナ自治政府(PA)の関係者のビザを取り消す」と表明した。

声明はさらに「PLOとPAがテロを否認し、扇動をやめない限り、平和のパートナーとは認められない。ICCやICJへの提訴や一方的な国家承認の追求は、ガザ停戦協議の崩壊を招いた要因でもある。」とした。

ただしPAの国連代表部は協定に基づき渡航を認めるとしたうえで、「PA/PLOが義務を果たし、妥協と平和共存への具体的な道を歩むなら、再関与は可能だ」と付け加えた。

現在、パレスチナは193加盟国のうち147カ国(約76%)から国家として承認されている。2012年11月以降、国連では「非加盟オブザーバー国家」とされている。

さらに、米国の抗議を押し切り、2018年にはパレスチナが国連最大の経済ブロックである134カ国の「77カ国グループ(G77)」の議長に選出された。

元国連事務次長補は匿名を条件にIPSの取材に対して、「米国は総会で拒否権を持たないため、OIC(イスラム協力機構、57カ国)主導で決議を採択することは容易だろう。」と語った。(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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地球のための報道

核実験に反対する国際デーに 若者がグローバル・ヒバクシャ支援を世界に訴え

UN University credit: Wikimedia Commons.
UN University credit: Wikimedia Commons.

【東京INPS Japan=浅霧勝浩】

国連が制定した「核実験に反対する国際デー(8月29日)」に合わせ、若者や専門家が東京の国連大学に集まり、「グローバル・ヒバクシャ支援のためのユースの役割」と題するフォーラムが開催された。このイベントでは、広島からマーシャル諸島に至るまで、核兵器の生産、使用、実験等によって被害を受けた人々を総称する「グローバル・ヒバクシャ」の声を若者の連帯がどう増幅し、核兵器廃絶に向けた世界的な機運を強めることができるかが強調された。|HINDICHINESEENGLISH

このイベントは会議であると同時に、行動への呼びかけでもあった。そのメッセージは明確だ。核の時代は過去の歴史ではなく、いまも世界中の人々の身体、記憶、そして闘いの中に生き続ける危機である。そして若者こそが、その声を未来へと継承していく責任を担わなければならない、と主催者たちは強調した。

青年平和意識調査
Daiki Nakazawa (right) and Momoka Abe(left) presenting the final results of a Youth Peace Awareness Survey. Photo credit: Katsuhiro Asagiri
Daiki Nakazawa (right) and Momoka Abe(left) presenting the final results of a Youth Peace Awareness Survey. Photo credit: Katsuhiro Asagiri

このフォーラムは、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、Qazaq Nuclear Frontline Coalition(カザフスタン核フロントライン連合)、創価学会インタナショナル(SGI)、フリードリヒ・エーベルト財団(FES)カザフスタン、マーシャル諸島教育イニシアチブ(MEI)が共催した。

5団体は、1月6日から8月9日の間に米国、オーストラリア、カザフスタン、日本、マーシャル諸島の5カ国で「青年平和意識調査」を実施し、その最終結果を発表した。対象は18歳から35歳の若者で、青年世代が核兵器について、どの程度の知識・認識を持ち、どのような行動を取っているのか、あるいは取ろうと考えているのかを問う調査で、1580人が回答した。

「どの国においても、被爆者の証言を聞いたことのある人は、核廃絶のために行動している割合が高いことが分かりました。」と、SGIユースの中沢大樹氏は語った。「各被害者の証言に耳を傾けることは、単なる記憶の継承ではなく、行動を生み出す触媒なのです。」

同じくSGIユースの阿部百花氏は、彼らの世代にとって被爆者の証言は「核兵器の人間的な代償と、その使用を防ぐ必要性を理解する最も力強い手段の一つ。」であると語った。

カザフスタンの核の遺産を想起
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

東京とカザフスタン・アルマトイを結んだオンライン対話では、FESカザフスタンのメデット・スレイメン氏が同国の悲劇的な歴史を振り返った。ソ連時代、北東部のセミパラチンスク実験場で456回の核実験が行われ直接影響を受けた人々とその子孫は約150万人にのぼること、そして、被ばくに関するデータはソ連崩壊時にモスクワに持ち去られたため、未だに核実験と被爆の影響に関する検証が困難になっていることを指摘した。「影響はいまだ十分に解明されていません。しかし人々の苦しみは明らかです」と語った。

カザフスタン政府は独立した1991年に実験場を閉鎖し、当時世界第4位の核戦力を自ら放棄した。国連はこの歴史的な決断をたたえ、2009年に8月29日を「核実験に反対する国際反対デー」に制定した。

日本の視点
UN Secretariate Building. Credit: Katsuhiro Asagiri

日本の若者にとって、核の記憶は身近であると同時に遠い存在でもある。広島と長崎は国民的記憶の中心にあるが、オーストラリア先住民や太平洋の島しょ国の人々、カザフ人など他の核被害者の経験はしばしば見落とされてきた。

今年3月、ニューヨークで開かれた第3回核兵器禁止条約(TPNW)締約国会議に参加したSGIユースの二瓶優妃氏は、そのギャップを鮮明に感じたと語った。サイドイベントで、英国の核実験で被曝したオーストラリア先住民の証言を聞いたのだ。

「何の通告もなく一方的に核実験が実施され、先住民という弱い立場から未だに十分な補償をうけることができず、認知度も低いままです。」「日本では広島と長崎が歴史的悲劇として語られる一方で、グローバル・ヒバクシャの証言を聞くと、被害は現に今起こっており、苦しんでいる人が今なおたくさんいることが理解できました。」と二瓶氏は語った。

その気づきは、連帯のあり方を考え直す契機となった。「日本人として、グローバル・ヒバクシャの人々と連携して、本当の意味での核廃絶を目指していきたい。」と二瓶氏は語った。

条約と課題
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

Youth Community for Global Hibakusha高垣慶太氏は、TPNWの画期的な意義を強調した。同条約はそれまでの核管理条約とは異なり、初めて被害者支援と環境回復を締約国の義務として明記している(第6条・第7条)。同時に高垣氏は同条約に関する課題についても言及した。例えば、核保有国の不参加、政府とNGOの対立、そしてグローバルサウス諸国の多くが資金的に制約を抱えている点だ。「こうした諸課題は現実のものです。しかし、ビジョンもまた現実です。それを実現するために、私たちは努力を続けなければなりません。」と語った。

また高垣氏は、若者の活動を単なる「継承」に矮小化すべきではないと指摘した。「若者は『被爆者の思いを継ぐべきだ』とよく言われます。確かにそれは重要ですが十分ではありません。その前提として、私たち一人ひとりがどのような社会を築きたいのかを決め、その実現に責任を持つことが必要なのです。」と強調した。

カザフスタンからの呼びかけ
Anvar Mirzatillayev, Counselor of the Embassy of Kazakhstan in Japan Photo Credit: Katsuhiro Asagiri

在日カザフスタン大使館のアンヴァル・ミルザティラエフ参事官は、カザフスタンは独立以来核兵器のない平和を国の基本的な選択として歩んできたことを指摘したうえで、本日のイベントは核の悲劇を記憶にとどめるだけでなく、未来に向けて行動を促す点で極めて重要だ。」と評価した。

青年平和意識調査で多くの若者が「核廃絶のために行動したいが、どうすればよいか分からない」と答えたことについては、「だからこそ核廃絶のキャンペーンはもっと分かりやすく、気軽に参加できる形にしていくことが重要です。」と指摘した。

「被爆者の証言を伝え続けていくことが、若者の思いを行動につなげる大きな力になります。」とミルザティラエフ参事官は強調した。さらに「青年には3つの力があります。『被害の事実を広める力』、『国境を越えて対話を繋ぐ力』、そして『社会を動かす行動力です』。」と述べ、「カザフスタンと日本、そして世界の若者と共に歩み、グローバル・ヒバクシャを支えながら、核兵器のない未来を築いていく、その実現を私は心から信じています。」と力強く訴えた。

国連大学学長の呼びかけ

国際連合大学学長のツシリッツィ・マルワラ博士もまた、核兵器の被害を受けたすべての人々の声を未来へ引き継ぐ責務があると強調した。国連創設時の誓い「戦争の惨禍から将来の世代を救う」を新たにし、未来を担う世代に対し、先見性と勇気をもって平和のために行動を起こそうと呼びかけた。(原文へ

Group photo. Credit: Embassy of Kazakhstan in Japan.
Group photo. Credit: Embassy of the Republic of Kazakhstan in Japan.

INPS Japan

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アフガン報道の危機 逮捕・検閲・崩壊

【プラハIPS=バシール・アフマド・グワク】

アフマド・シヤールは現在、バルフ州で道路建設に従事している。頭上から落ちてくる岩や破片から身を守るためにヘルメットを着用しているが、かつて同じようなヘルメットをまったく別の理由でかぶっていたことがある。北部アフガニスタン各地を取材していた記者時代、彼のヘルメットにはダリ語と英語で「ジャーナリスト」と記されていた。

「取材時には『私はジャーナリストだ』と交戦当事者に示すためにジャーナリスト用ヘルメットを着用していました。厳しい時代でしたが、同時に黄金期でもありました。人々の声を伝える仕事を愛していました。しかしタリバンが権力を掌握してからは、規制と経済的困難が重なり、記者を続けられなくなりました。」とシヤールは語る。「今は建設労働者です。決して楽な仕事ではありませんが、家族を養うためには選択肢がありません。」3人の子の父である彼は一家の唯一の稼ぎ手だ。

シヤールのようにタリバン政権下で苦しむジャーナリストは少なくない。2021年8月15日に権力を奪還して以来、タリバン政権は2025年6月までに少なくとも21のメディア関連指令を発出。国営テレビ・ラジオへの女性出演禁止、抗議活動の報道禁止、音楽の禁止など広範な規制を課してきた。

こうした規制に加え、深刻な経済危機と資金不足が重なり、タリバン統治下で350の独立系メディアが閉鎖に追い込まれた。2021年8月以前は600以上の独立系メディアが存在していたが、その活気は失われた。IPSが確認した国際ジャーナリスト連盟(IFJ)、国境なき記者団(RSF)、ジャーナリスト保護委員会(CPJ)などの報告書に基づく数字である。

「タリバンの復権から4年、かつて活気にあふれていたアフガニスタンの自由な報道は見る影もありません。国内の報道の自由は壊滅的状況にあり、国外に逃れたアフガン人記者もパキスタンやイランで恣意的逮捕の危険に直面しています。」とCPJアジア太平洋地域ディレクターのベー・リー・イー氏はIPSの取材に対して語った。

アフガニスタン最大の独立系ニュースネットワークTOLOnewsは2024年6月、25人の記者を解雇せざるを得なかった。タリバンから「誤解を招き、反政権的な宣伝とされた」とされた番組を停止するよう命じられたためだ。匿名を条件に語った編集幹部は「規制が相次ぎ、情報へのアクセスも遮断されています。資金も枯渇しつつあり、もはや国民に十分なニュース放送を届けられません。」と訴えた。

タリバンは女性の服装やメディア出演に厳格な制限を課しており、演劇やテレビ娯楽番組への女性の参加は禁止された。野党関係者とのインタビューも禁じられ、国際テレビ番組の放送や映画・ドラマの公開も停止された。国外メディアとの協力も禁止されている。

「カブール陥落以降、タリバンは報道に対する弾圧を強化し、検閲、暴行、恣意的逮捕、女性記者への制限が日常的に行われています。タリバンとその情報総局(GDI)は日々アフガン記者を取り締まり続けています。」とイー氏は指摘する。

多くの女性記者は国外に脱出したが、残った者は恐怖の中で生きている。取材に応じたカブールの記者ファリダ・ハビビ(仮名)は、障害を持つ父を置いて逃げることができず国内に残った。タリバンにより『声が非イスラム的だ』とされ放送から退けられ、今はオンラインメディアで働いている。「本当に鬱々とした毎日です。外出も自由にできず、給与もごくわずかです」と彼女は語る。

タリバンの「勧善懲悪省」は生き物の姿を描いた画像の掲載を禁止した。多くの規則に具体的な罰則が明記されていないため、当局はこの曖昧さを利用して記者を恣意的に処罰している。

アフガニスタン・ジャーナリスト・センター(AFCJ)の2024年報告書によれば、2021年8月から2024年12月までに703件の人権侵害が記録された。これには恣意的な逮捕・拘束、拷問、脅迫、威嚇が含まれる。

同様に国連アフガニスタン支援団(UNAMA)も2024年の報告書で、タリバンによる「報道の自由の体系的な解体」を強く非難した。UNAMA代表のローザ・オトゥンバエワ氏は「アフガンの記者たちは不明確な規則の下で活動し、何を報じられるかも不明確なまま、批判と見なされれば恣意的な拘束にさらされています。自由な報道は、どの国にとっても選択ではなく不可欠です。アフガニスタンでは今、その不可欠な権利が体系的に解体されています。」と述べた。

一方、タリバン政権は不当行為を否定し、報道を支援していると主張する。2025年7月2日、カブールで記者団に応じた情報文化省の報道官ハビブ・ガフラン氏は「我々は自由なメディアを支持するが、誰もイスラムのレッドラインを越えることは許されない」と述べ、詳細は示さなかった。また、記者向けの資金支援基金の設立を進めていると付け加えた。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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