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安全保障理事会に亀裂、地域は緊張状態:イスラエルとイランの衝突で外交力が試される

「イスラエルがイランを攻撃、国連安全保障理事会は危機的な事態の激化に直面―各国首脳は自制と外交を呼びかけ」

【ニューヨーク国連本部ATN=アハメド・ファティ】

イスラエルによるイランの軍事および核関連施設への空爆が行われた数時間後、国連安全保障理事会は緊急会合を招集し、中東地域での戦争拡大の危機に直面する中、冷静さと自制を求める切迫した訴えが相次いだ。

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

空爆は現地時間午前3時15分頃に開始されたとされ、標的となったのはイランのナタンズ濃縮施設、イスラム革命防衛隊の本部、レーダー施設など、核関連インフラの要所だった。イスラエル政府はこれを「差し迫った実存的脅威」への「精密かつ先制的な措置」と位置づけた。

イランは直ちに報復を開始し、100機以上の無人機をイスラエルに向けて発射、会合開催時点でもミサイルを発射しているとの報告がなされた。周辺諸国は空域を閉鎖し、軍の警戒態勢を強化。イエメンのフーシ派もこの衝突に加わり、イスラエルへのミサイル攻撃を行ったとされ、地域全体に戦争の火種が広がる恐れが高まっている。

世界的懸念と核の恐怖

Rosemary DiCarlo, Under-Secretary-General for Political and Peacebuilding-(UN Photo/Loey Felipe)

国連の政治問題担当トップであるローズマリー・ディカルロ氏は冒頭の報告で、今回の危機が地域にとどまらず世界的な安全保障をも脅かすと警告。「この火種が拡大する事態は、なんとしても避けなければなりません」と強調した。

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシー事務局長は、ナタンズの地上施設が破壊され、ウラン濃縮が停止したことを明らかにした。地下の遠心分離機施設は無傷とみられるが、停電による内部機器への損傷が懸念されている。外部への放射線漏れは確認されていないが、施設内部の汚染は「管理可能だが憂慮すべき」と述べた。

「はっきり申し上げます。核施設が攻撃されてはなりません」とグロッシー氏は強調。IAEAは24時間体制の緊急監視チームを稼働させ、追加の査察官を派遣する用意があると述べた。

理事会の反応:一致と分裂の両面

理事会では全体として事態の沈静化を求める声が上がったが、責任の所在をめぐって意見が割れた。

ロシアのワシリー・ネベンジャ大使は、イスラエルの行動を「軍事的冒険主義」と非難し、2015年のイラン核合意を崩壊させたとして米国を、また英国がキプロスの基地を通じて関与したと指摘。これに対し、英国代表は「ナンセンスで無責任な偽情報」と強く否定した。

パナマは今回の攻撃を「予見されていた死」と表現し、連鎖的な不安定化の一環と警告。中国、アルジェリア、シエラレオネ、パキスタンも、国連憲章違反となる一方的な武力行使を非難。「倫理的にも戦略的にも許されない」とし、オマーンでの米・イラン間の核協議再開が予定されていた中での攻撃を問題視した。

アルジェリアとイランの代表は、未申告の核保有国であるイスラエルが、核拡散防止条約(NPT)に加盟する非核保有国イランを攻撃するという「皮肉」を指摘。「先制攻撃が防いだものがあるとすれば、それは平和だ」とアルジェリア代表は皮肉を込めた。

イスラエルは正当防衛を主張、イランは「戦争」だと非難

Amir Saeid Iravani, Permanent Representative of the Islamic Republic of Iran- (UN Photo/Loey Felipe)

イスラエルの代表は、「イランが核兵器級のウラン濃縮を進め、我が国の滅亡を公言している以上、脅威は現実であり、昨夜は行動を起こす時だった」と述べ、自衛権の行使であると主張。IAEA査察の妨害や外交の停滞を挙げて正当性を訴えた。

一方、イランの代表は激しく反発し、「戦争犯罪」だと非難。「核施設への無謀な攻撃で数百万の命を危険にさらした」と述べ、イスラエルを「世界で最も危険でテロ的な体制」と呼んだ。

米国の微妙な立場

米国はイランの核開発に強い懸念を表明しつつも、「イランが核兵器を持つことは決して許されない」としながら、今回の空爆には関与していないと説明。ただし事前に情報は得ていたと述べた。

さらに、イランに対し米国人や米国関連施設への報復攻撃を行わないよう警告し、外交交渉への復帰を求めた。

Danny Danon, Permanent Representative of Israel to the United Nations-(UN Photo/Loey Felipe)

地域全面戦争のリスク

イラクとクウェートは主権侵害を非難。イラクはイスラエルによる自国空域の侵害を主張。クウェートは湾岸協力会議(GCC)を代表して発言し、「これ以上のエスカレーションは過激勢力の台頭を招く」と警告した。

韓国とフランスも外交の重要性を強調。ギリシャは「自衛権」を認めつつも、「持続可能な安全保障は外交と交渉によってのみ達成される」とバランスを取った発言を行った。

議長国ガイアナの訴え

安保理の議長国であるガイアナは、閉会にあたり強い調子で訴えた。「今は瀬戸際外交や責任の押し付けをしている場合ではありません。今こそ責任を果たす時です」

分析:決定的な分岐点に立つ中東

今回の空爆は、長年にわたるイスラエルとイランの対立が新たな段階に入ったことを意味する。外交の水面下の再開が報じられる中での攻撃は、かすかな信頼を打ち砕いた。

安保理が異例の一致で「緊張緩和」を訴えた背景には、単なる核不拡散だけでなく、地域戦争への拡大、ひいては大国や代理勢力を巻き込む国際紛争への発展を警戒する思惑がある。

IAEAが放射能漏れの監視を続けるなか、外交の糸は今にも切れそうな状態にある。事態が破局へと向かうか、踏みとどまれるかを左右するのは、“数日”ではなく“数時間”なのだ。(原文へ

INPS Japan/ ATN

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/security-council-divided-region-on-edge-diplomacy-tested-amid-israel-iran-clash

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核の瀬戸際にある世界:拡散する現代戦とその代償

【カトマンズNepali Times=クンダ・ディクシット】

進行中の紛争は、戦争のあり方が変化しており、もはや人間の制御下には収まらないことを示している。ウクライナ、スーダン、ガザ、イラン—いずれも世界大戦とは見なされないかもしれないが、私たちは危険なまでにその瀬戸際に近づいている。

Kunda Dixit
Kunda Dixit

ここネパールでは、そうした出来事から遠く離れているように思えるかもしれない。しかし、イスラエルや湾岸諸国で働くネパール人は約200万人に上り、戦争の激化は私たちの送金依存経済に壊滅的な打撃を与えかねない。

イスラエルによるイランの要衝バンダル・アッバース空爆と、イランがホルムズ海峡の封鎖を示唆したことで、今週カトマンズではガソリンスタンドに買いだめの列ができた。石油関連はネパールの輸入額の4分の1を占めている。

2023年10月7日のハマスによる攻撃では10人のネパール人が命を落とし、いまも1人がガザで拘束されている。ウクライナ戦線ではロシア軍に加わったネパール人兵士が戦い、命を落としている。

また、米軍に志願したネパール出身のグリーンカード保有者もおり、6月14日にワシントンD.C.で行われた「平壌スタイルの軍事パレード」に参加した者もいる。北朝鮮が武力によって敵を威嚇するのと同様に、米国のパレードは自国民に「言うことを聞け」と警告する意図があった。

その背後では、グローバルな超大国(=米国)の指導者が、自らのSNS「トゥルース・ソーシャル」で、イスラエルと共にイランを爆撃することを仄めかす好戦的な投稿を繰り返している。

一方でもう一つの超大国(=ロシア)は、誘導ミサイルでウクライナの首都キーウのアパートを攻撃している。モスクワのテレビ討論番組では、ロンドンへの核攻撃を軽々しく語るゲストが登場している。

ウクライナによるロシアの戦略爆撃機基地への大胆なドローン攻撃は、戦争の性質と規模がすでに様変わりしていることを改めて証明した。

2025年5月には、インドとパキスタンも無人機やミサイルを使って交戦したという。さらにパキスタンのJ-10戦闘機がインドの航空機2機(うち1機はフランス製ラファール)を撃墜したとも報じられた。

仮にこれらの報道が事実でなくても、各国空軍が中国製兵器の性能を見直し始めているのは確かだ。

インド・パキスタン間の空中戦、そして現在進行中のイスラエルによるイラン空爆においては、核関連施設が標的となったケースもある。ドナルド・トランプ大統領がテヘランからの避難を警告したことが実行に移されるかは不明だが、米国が地下核施設に対しバンカーバスター爆弾を使う可能性を専門家は指摘している。

イラン指導部は報復を警告しており、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)にある米軍基地が標的になりうる。もしそうなれば、まさに「地獄の釜の蓋が開く」ことになるだろう。

冷静な声に望みを託しつつも、世界は以下の3つの核戦争の火種に備えねばならない。すなわち、ロシア・ウクライナ、イスラエル・イラン、そして私たちのすぐ近く、インド・パキスタンである。

核抑止によってニューデリーとイスラマバードは互いの都市を焼き払うには至らなかったかもしれないが、それは小さな計算違い一つで破綻しかねない不安定な均衡である。

両国はプロパガンダと大衆メディアによって国民の好戦的感情を煽り、SNSでは市民たちが互いに憎悪をぶつけ合い、指導者に「核ボタンを押せ」と叫んでいた。

この3つの紛争全てに共通する危険性はそこにある。つまり、ソーシャルメディアによって増幅された憎しみに国民が飲み込まれ、核抑止の意味が失われてしまっているということだ。

ウクライナによるロシア本土深部へのドローン攻撃、インドによる徘徊型兵器(ロイタリング・ミュニション)の使用などによって、従来の戦争の概念は崩壊した。高価なステルス爆撃機、主力戦車、防空ミサイル基地といった「旧来の兵器」は、今やアマゾンで購入できるドローンによって無力化されうるのだ。

この3つの紛争に共通して見られる戦争の新たな様相は、米国の核の傘の信頼低下と相まって、世界を再び軍拡の時代へと導きつつある。開発資金や気候変動対策の予算は軍拡に回され、皮肉なことに戦争が原因で飢饉まで引き起こされている。

ネパールでは、インドとパキスタンの間で起こりうる限定的あるいは全面的な核戦争による放射能汚染を懸念している。だが同時に、傷を負ったイランと核兵器を保有するイスラエルとの対決、あるいはロシアがウクライナで戦術核を使う可能性も視野に入れなければならない。そして常に潜在するのが、非国家主体による核テロの脅威である。

それだけではない。さらに深刻なのが、人工知能(AI)によって標的を選ぶ数百万台のドローンが世界中に拡散するという危険だ。

カリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ラッセル教授が短編映画『Slaughterbots(殺戮ロボット)』で警鐘を鳴らしているように、人類は人間の制御を離れた兵器を制限するための新たな軍縮条約を必要としているのかもしれない。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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カザフスタン、国連軍縮フェローに核軍縮の経験を共有

【アスタナThe Astana Times=アイバルシン・アフメトカリ】

カザフスタン外務省は6月19日、2025年度国連軍縮フェローシップ・プログラムの参加者をアスタナに迎え、同国がリーダーシップを発揮してきた核軍縮の取り組みと、世界平和の推進に向けた努力について紹介した。

世界各国から集まった19人のフェローたちは今後、アバイ州クルチャトフ市にあるカザフスタン国立原子力センターや、旧ソ連時代に468回の核実験が行われた旧セミパラチンスク核実験場を訪れる予定だ。クルチャトフはかつて、ソ連の核兵器開発の拠点として一般立ち入りが禁止されていた都市である。

外交政策研究所のボラート・ヌルガリエフ所長(元駐日大使)は、カザフスタンが核兵器を放棄するという歴史的な決断を下した当時の状況を振り返り、フェローたちに自身の経験を語った。

「カザフスタンにとって、この問題は非常に痛ましく、かつ慎重な対応が求められる問題でした」とヌルガリエフ氏は語る。「核兵器が存在しない状況で、将来の安全と国民の福祉をどう確保するかについて、政府や各方面で多くの議論が交わされました。」

「私たちが選んだ道は、外国からの投資を呼び込み、主要国との間で政治的にも経済的にも建設的な関係を築いていくことでした。そのためには、核兵器という要素を何らかの形で解決する必要があったのです。」

プログラム参加者のひとり、ナイジェリア・バイエロ大学の再生可能エネルギー・持続可能性転換センターで核研究官を務めるアブバカル・サディク・アリユ氏は、核物理学者として核軍縮に強い関心を持っている。

「私は核物理学者として、カザフスタンの核実験場について以前から関心を持っていました。実際に核実験場がどのような場所なのかをこの目で見てみたいと長年思ってきました。カザフスタンが豊富なウラン資源を持ち、さらにIAEA(国際原子力機関)の低濃縮ウラン(LEU)バンクを保有していることもよく知っています」とアリユ氏は語った。

このIAEA低濃縮ウランバンクは、軽水炉の燃料として使用可能な90トンの六フッ化ウランを保管する現物備蓄施設であり、カザフスタン東部のウスケメン市にあるウルバ冶金工場に設置されている。同施設の安全性、保安、保障措置は、カザフスタンの関係当局が責任を持って管理している。

「カザフスタンが核兵器プログラムを放棄したという事実は非常に興味深く、私にとっても軍縮をさらに推進する上での励みになります。加えて、同国が核燃料供給国であるという点も、大きなインスピレーションになります。」

アリユ氏は、今回の訪問とフェローシップ・プログラムで得た知見を、ナイジェリアにおける軍縮推進や教育活動に活かしていく考えだ。

「ナイジェリアは核エネルギーの平和利用に関心を持っており、NPT(核不拡散条約)の締約国でもあります。現在は研究と教育目的の原子炉を保有しており、将来的には原子力発電の導入を目指しています」と語った。

「ナイジェリアは、核を含むあらゆる形の軍縮を強く支持しています」とアリユ氏は付け加えた。(原文へ

INPS Japan/ The Astana Times

Original URL: https://astanatimes.com/2025/06/kazakhstan-shares-nuclear-disarmament-experience-with-un-fellows/

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抑止から軍縮へ:グローバルな提唱者たちが正義と平和を訴える

【サンタバーバラ/東京INPSJ=浅霧 勝浩

核時代の幕開けから80年を迎えた2025年3月12日・13日、世界各地の平和活動家、外交官、教育者、被爆者が「希望の選択」シンポジウムに出席し、核兵器廃絶への新たな決意を共有した。シンポジウムは、核時代平和財団(NAPF)と創価学会インタナショナル(SGI)の共催により、サンタバーバラ市のウエスト音楽アカデミーで開催された。

Tomohiko Aishima of SGI opens the symposium with reflections on the dialogue between Daisaku Ikeda and David Krieger, which he witnessed during his time as a reporter at Seikyo Shimbun Credit: SGI
Tomohiko Aishima of SGI opens the symposium with reflections on the dialogue between Daisaku Ikeda and David Krieger, which he witnessed during his time as a reporter at Seikyo Shimbun Credit: SGI

2001年に刊行された、NAPF創設者デイビッド・クリーガー氏とSGI会長・池田大作氏による対談集『希望の選択』をテーマに、核廃絶の倫理的・戦略的緊急性があらためて提起された。

「これは単なる遺産ではありません」とNAPF会長のイヴァナ・ニコリッチ・ヒューズ博士は語った。「私たちは彼らの歩みを継承し、核の脅威のない世界を築くためにここに集まっています。」

SGI平和運動局長の相島智彦氏は、両者の対談を目の当たりにした経験に触れ、「彼らの対話は、単なる理念の共有ではなく、現実的な解決策に根ざした行動への呼びかけだったことが最も印象的でした」と語った。

核抑止への警鐘

Annie Jacobsen, Pulitzer Prize finalist and author of Nuclear War: A Scenario delivers the 20th Frank K. Kelly Lecture on Humanity’s Future at the start of the symposium. Credit:Nuclear Age Peace Foundation

基調講演では、ピュリッツァー賞最終候補の記者で『核戦争:一つのシナリオ』を出版した作家のアニー・ジェイコブセン氏が、「核抑止が破綻したらどうなるのか?」という問いを投げかけた。米国政府関係者から得た機密情報に基づく洞察をもとに、「核戦争はどのように始まっても、最終的には完全な破壊で終わる」と警告した。

続くパネルディスカッションでは、プリンストン大学のリチャード・フォーク名誉教授、社会的責任を果たすための医師団ロサンゼルス支部(RSR-LA)のジミー・ハラ博士、アメリカン大学のピーター・クズニック教授、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメリッサ・パーク事務局長が登壇。ヒューズ博士の進行のもと、核政策の転換を訴えた。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

翌日には、「抑止から軍縮へ:未来への道」と題するセッションが行われ、SGI軍縮・人権担当ディレクターの砂田智映氏が司会を務めた。砂田氏は、核兵器が国家の安全保障政策に組み込まれている現状に警鐘を鳴らし、「核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会議では、核抑止そのものが生存への脅威であると確認された」と報告した。

2017年のTPNW国連交渉会議で議長を務めたエレイン・ホワイト元コスタリカ国連大使は、「意見の異なる者とも誠実に対話を続けることの重要性」を強調した。

証言に耳を傾ける

Nagasaki, Japan, before and after the atomic bombing of August 9, 1945./ Public Domain
Nagasaki, Japan, before and after the atomic bombing of August 9, 1945./ Public Domain

長崎の被爆者である和田征子さん(日本被団協)はビデオメッセージで登壇し、「被爆の現実を語り継いでほしい」と訴えた。

米国の「ダウンウィンダー(風下住民)」で甲状腺がんを患ったメアリー・ディクソンさんは、「私たちは意図的に被曝させられました。マーシャル諸島、カザフスタン、ポリネシアなどの犠牲者にも正義が必要です」と語った。

「核使用と核実験の遺産:正義への呼びかけ」と題されたセッションでは、SGI国連事務所軍縮プログラム・コーディネーターのアナ・イケダ氏が、被爆者や核実験被害者の健康・差別・心理的影響に関する証言を紹介。「核の正義とは、核の使用・実験・威嚇がいかなる状況でも正当化されないという意識を社会に根づかせること」と語った。

カザフスタンのセミパラチンスク旧核実験場での世代を超えた健康影響については、トグジャン・カッセノヴァ博士が研究成果を報告した。

キリバス代表およびYouth for TPNW代表として参加したクリスチャン・シオバヌ氏は、被害者支援と環境回復のための国際基金設立を提案。赤十字国際委員会(ICRC)のヴェロニク・クリストリー氏は、人道の視点から軍縮の必要性を訴えた。

Anna Ikeda of SGI (center) speaks as a panelist on the second panel discussion, “Legacy of Nuclear Use and Testing: A Call for Justice” Credit: SGI
Anna Ikeda of SGI (center) speaks as a panelist on the second panel discussion, “Legacy of Nuclear Use and Testing: A Call for Justice” Credit: SGI

気候正義との交差点

「気候と核の正義の交差点:若者の力で変革を」と題された最終パネルでは、SGI軍縮プログラム・コーディネーターの堀口美幸氏が司会を務めた。

NuclearBan.USのアンドゥイン・デヴォス氏は、気候危機への不安から核軍縮運動に参加した経緯を語り、「核兵器に費やされる資源を気候対策に回すべきだ」と訴えた。

若手活動家のケヴィン・チウ氏とヴィクトリア・ロク氏は、核政策に若者の声を反映させる重要性を共有。堀口氏は「地球は祖先から受け継いだものではなく、子どもたちから借りている」というアメリカ先住民の言葉と、「希望とは若さの別名である」との『希望の選択』の一節を引用し、若者が理想を掲げて時代を切り開く力を象徴するものとして紹介した。

Miyuki Horiguchi of SGI (left) moderates the final panel discussion, “The Intersection of Climate and Nuclear Justice: Empowering Youth for Change” Credit: SGI
Miyuki Horiguchi of SGI (left) moderates the final panel discussion, “The Intersection of Climate and Nuclear Justice: Empowering Youth for Change” Credit: SGI

文化がもたらす変革

映画監督アンドリュー・デイヴィス氏とアーティストのステラ・ローズ氏は、芸術が意識を変え行動を促す力について語った。「芸術は単に真実を映すだけでなく、それを感じさせ、行動へと導くものです」とデイヴィス氏。

シンポジウムの宣言文でも、連帯と創造性を通じた平和の促進と、文化的関与の役割が強調された。

閉会宣言:「希望」を選ぶ

シンポジウム後に発表された「希望の選択」宣言は、終末時計が「午前0時まで残り89秒」と迫る中、「核兵器のない世界は、意識的で集団的な選択によってこそ実現する」と強調。「私たちは絶望ではなく、希望を選ぶ。」と述べている。(英文へ

「希望の選択」宣言の要約
「希望の選択」宣言では、核兵器廃絶への緊急性が改めて強調された。宣言は、核抑止の論理が安全保障ではなく破滅をもたらすリスクであると断じ、核の使用・威嚇・実験がいかなる状況でも正当化されないとの倫理的立場を明示している。
さらに、核のない世界は「選択」の問題であり、連帯、創造性、市民社会の力を通じて築くべきものであると呼びかけた。文化や芸術の力にも言及し、想像力と共感を育む表現活動が、核兵器のない未来を築く鍵であると認識された。
宣言は、「希望を選ぶことは、責任ある行動を選ぶことであり、未来を信じることである」との言葉で結ばれている。(宣言の全文はこちらへ

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

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出生登録の進展回復は子どもの保護に不可欠

【シドニーIPS=キャサリン・ウィルソン】

多くの国では当たり前とされている新生児の出生登録だが、これは子どもの健康、保護、そして生涯にわたる福祉に深く関わる極めて重要な行為である。今世紀初頭には世界的に出生登録率が上昇したものの、過去10年間で再び低下傾向に転じている。特に太平洋諸国やサブサハラ・アフリカの一部では深刻な課題に直面しており、技術革新の導入、政治的意思の強化、そして親たちの意識向上が、こうした傾向を逆転させる鍵となる。

国連児童基金(UNICEF)の報告によると、現在5歳未満の子どものうち約75%が出生登録を受けており、2000年の60%から改善している。

しかし、ニューヨークのUNICEF本部で子どもの保護を担当するバスカル・ミシュラ氏は、近年の進展が鈍化していると警鐘を鳴らす。

「特にサブサハラ・アフリカでは急速な人口増加が登録システムの能力を上回っており、インフラの脆弱さや資金不足、政治的な優先順位の低さも要因となっています。さらに、登録には高額な手数料や煩雑な手続き、アクセスの困難さといった障壁もあります。」とミシュラ氏はIPSの取材に対して語った。

こうした障害は、出生登録率が41%にとどまる東アフリカや、26%の太平洋諸国にも見られる。国別では、タンザニアが29%、パプアニューギニアが13%、ソマリアとエチオピアはわずか3%にすぎない。世界で推定6億5400万人の5歳未満の子どもたちのうち、約1億6600万人が未登録であり、2億3700万人が出生証明書を持っていない。

「システムと社会的な障害、さらに新型コロナウィルスの余波によって過去の成果が後退しました。2030年までにすべての子どもの出生登録を達成するという持続可能な開発目標(SDGs)を実現するには、現在の進捗スピードを5倍に加速させる必要があります。」とミシュラ氏は強調する。

In Papua New Guinea, the birth registration rate is being raised with the aid of mobile registration, an important means to reach rural and remote communities and help protect children living in vulnerable circumstances. Mangem IDP Camp, Madang Province, PNG. Credit: Catherine Wilson/IPS

この課題に取り組んでいる国の一つが、太平洋諸国で最も人口の多いパプアニューギニア(PNG)だ。約1100万人が暮らすこの国は、山脈が連なる本島と点在する島々から成り、多くの人々が山道や未舗装の道路を何時間もかけて移動しなければならない環境にある。

人口の80%以上が農村部に住んでおり、北東部のマダン州では、カントリー・ウィメンズ・アソシエーションが妊産婦への保健啓発に取り組んでいる。

「一部の女性は非常に遠隔地に暮らしており、医療施設に行くには何時間もかかります。そのため、出産は村で行うのが一般的です。医療施設が老朽化している上、医療従事者もいない地域もあります。これが最大の課題です」と同団体マダン支部のタビサ・ワカ氏は語る。

母親が子どもの出生を登録するには、バスを乗り継ぎながら悪路を進み、登録所まで長距離を移動しなければならず、交通費の負担も重い。

「情報不足も大きな障害です。農村の母親たちは出生登録の重要性を知らされていませんし、地域の伝統や慣習によって、出産は村でしかできないとされているところもあります。」とワカ氏は続ける。政府の統計によれば、PNGでは出生の半数以上が医療機関ではなく自宅で行われている。

それでもPNGでは近年、大きな進展が見られる。2023年から2024年にかけて、出生証明書の発行数は2万6000件から7万8000件へと3倍に増加。昨年7月にはUNICEFの支援で、手持ち型の出生登録デバイス44台が政府に提供され、地域への訪問登録が開始された。

Births are registered and birth certificates issued to mothers at Nijereng Primary Health Centre, Adamawa State, Nigeria. Photo credit: UNICEF/Esiebo

さらに昨年12月、同国議会は国民身分登録制度を整備する法案を可決。ジェームズ・マラぺ首相は11月に「私たちの政府は全国にわたる包摂的な政策を推進しており、正確かつ信頼できる身元情報は、公共サービスの提供や国民の福祉に極めて重要です」と述べている。

UNICEFパプアニューギニア事務所の子どもの保護担当責任者ポーラ・バルガス氏は、「目標は年間50万人の出生登録です。その実現には、技術の拡充とキットの全国展開、そして証明書発行の分権化が必要です。」と指摘する。「現時点では、手作業で出生証明書に署名する権限がある職員が国内に1人しかおらず、これが大きなボトルネックになっています。」

一方、世界の未登録児の半数以上が暮らすサブサハラ・アフリカでは、エチオピアも同様の課題に直面している。

アフリカ東部の角(ホーン)に位置するエチオピアは、PNGの2倍以上の面積を持ち、出生率は人口1000人あたり32人で、世界平均の16人の2倍となっている。1億1900万人を超える人口の大半が広大な遠隔地に住んでいる。

政府は出生登録を無料としており、医療拡充員への研修も進めているが、都市部と農村部との格差は依然として大きい。登録完了のために複数回役所に行かなければならず、距離と交通費が農村の親たちにとっては大きな負担となっている。南部諸民族州(SNNP)では出生登録率がわずか3%で、首都アディスアベバの24%と比べても大きな差がある。

エチオピア・ゴンダール大学の公衆衛生学助教授タリク・ニガツ氏は、次のような改善策を提案する。「出生登録サービスを保健システムに統合し、リソースを確保して介入を支援し、リアルタイムでの出生報告が可能なインフラを整備すべきです。」

UNICEFもまた、エチオピアの不安定な地域や人道危機下にある遠隔地の医療従事者にモバイル登録キットを提供している。ミシュラ氏は「これにより、緊急時や避難中に生まれた子どもたちも法的な身元と保護から取り残されることがないようにしています」と述べた。エチオピアでは2020年から2022年の内戦後、北部ティグレ地域で人道危機が続いている。

一部の地域社会には出生登録に対する誤解や迷信も残っていると、ニガツ氏は指摘する。

「生後すぐに人間として“数える”と不運を招くという迷信が一部にあります。新生児が生き延びるか分からない段階では、人間として認めるべきではないと考えられているのです。」この背景には、エチオピアの新生児死亡率が1000件中30件と高く、そのうち半数が出生24時間以内に亡くなるという現実もある。

Birth registration is the first step to reducing the risk of children being exploited, abused, trafficked and coerced into child marriage. A young mother in Mozambique ensures her newborn is protected with a birth certificate and legal identity. Photo credit: UNICEF/Fauvrelle

出生登録が一生の重要性を持つことを、社会全体で理解しなければならない。公式な存在を持たない無数の子どもたちは、貧困からの脱出、性的搾取や虐待、児童労働や人身売買のリスクから身を守ることが難しくなる。法的保護や投票権、正規雇用、財産権の取得にも障害が生じる。

しかし出生登録は、子どもたちの保護と福祉に向けた第一歩にすぎない。

「登録が効果を持つのは、それがワクチン接種、病院での出産、学校入学などのサービスと連携している場合に限ります。」とミシュラ氏は語った。

そしてより広い視点で見ると、出生および人口データの正確な把握は、政府が公共サービスや国家開発を計画する上で不可欠であり、SDGsの進捗を評価するためにも極めて重要である。(原文へ

This article is brought to you by IPS Noram, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

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米国が世界の舞台から後退する中、軍事衝突が歴史的水準に

オスロ、ノルウェーIPS=ピース・リサーチ・インスティチュート・オスロ(PRIO)】

世界は第二次世界大戦後で最も暴力的な時代に突入している。PRIOが発表した報告書『Conflict Trends: A Global Overview(紛争動向:世界概観)』によると、2024年には過去70年以上で最多となる36か国で61件の国家ベースの武力衝突が記録された。

「これは単なる一時的な急増ではありません。構造的な変化です。現在の世界は10年前と比べ、はるかに暴力的で分断が進んでいます」と、PRIOの研究ディレクターで報告書の筆頭著者であるシリ・オース・ルスタッド氏は警告する。

「米国をはじめとする大国が、国際的関与から後退する時ではありません。世界的な暴力の増加を前に孤立主義に転じるのは、長期的にみて甚大な人的被害をもたらす大きな過ちです。」

この報告書は、スウェーデンのウプサラ紛争データプログラム(UCDP)のデータに基づいている。
それによれば、2024年の戦闘による死者数はおよそ129,000人で、2023年と同水準にとどまったものの、この数値は過去30年間の平均を大きく上回っている。2024年は冷戦終結以降で4番目に致命的な年となった。

戦場で特に注目を集めたのは、ロシアのウクライナ侵攻(推定死者76,000人)とガザ戦争(同26,000人)の2大戦争だ。しかし、これらの大規模戦争は氷山の一角にすぎない。

特に懸念されるのは、単一国家内で複数の武力衝突が発生しているケースが急増していることだ。現在、紛争に巻き込まれている国の半数以上が2件以上の国家ベースの紛争を抱えており、そのうち9か国では3件以上の武力衝突が同時進行している。

「いまや紛争は孤立したものではなく、重層的で国境を超え、終結が困難になっています。」とルスタッド氏は述べる。「どの政権の下であろうと、米国が国際的連帯を放棄することは、第二次世界大戦後に同国が築いてきた安定そのものを手放すことになるのです。」

報告書では、武装勢力の活動拡大が新たな暴力の主因となっていることも明らかにされている。イスラム国(IS)は依然として12か国で活動を継続しており、西アフリカの5か国ではJNIM(イスラムとムスリムの支援のための集団)が勢力を拡大している。

最も多くの紛争が記録されたのはアフリカ地域で28件。これは10年前のほぼ倍に相当する。次いでアジアが17件、中東が10件、欧州が3件、アメリカ大陸が2件だった。

ルスタッド氏は次のように警鐘を鳴らしている。

「我々の分析は、世界の安全保障状況が改善していないどころか、深刻に断片化していることを示しています。国際社会の継続的な関与がなければ、市民の安全、地域の安定、そして国際秩序そのものがさらに深刻なリスクにさらされるでしょう。」(原文へ

👉 こちらからPRIO報告書『Conflict Trends: A Global Overview, 1946-2024』全文をダウンロードできます。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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視点|忠誠か、駆け引きか? トランプがマスクを見限る中、湾岸諸国が再考する賭け(アハメド・ファティATN国連特派員・編集長)

『America First, The World Divided: Trump 2.0 Influence』より分析抜粋

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

数週間前、イーロン・マスクがドナルド・トランプ大統領とともに湾岸諸国を巡るハイレベル訪問団に加わった際、そのメッセージは明確だった。米国は技術と革新の競争において再び主導権を握り、湾岸諸国はただの観客ではなく、共同投資者でもあるということだ。

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦の政府では、マスクはまるで王族のように歓迎された。テスラのヒューマノイドロボット「オプティマス」が披露され、スターリンクの中東展開も示唆された。会場ではAI(人工知能)、インフラ、火星移住といった未来構想が、金色に装飾された会議室で自由に語られていた。

しかし今、トランプがマスクとの関係を公然と断絶し、連邦契約の打ち切りや「数十億ドル規模の支援」の撤回を宣言する中、湾岸諸国は厄介な立場に置かれている。つまり、「テック界の先駆者」と「政治の覇者」の狭間に挟まれているのだ。

湾岸の戦略的ジレンマ

拙著『America First, The World Divided』の第10章「アメリカ・ファーストの世界進出」ではこう書いた。

「ポスト・グローバル化時代の湾岸諸国は、資本と忠誠の両方の言語を話す術を身につけた。彼らの影響力は、どちらの側につくかではなく、“あえて決めない”ことで生まれる。」(p.209)

しかし今回に限っては、中立では済まされないかもしれない。 サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、カタールはいずれも、AI都市、宇宙開発、自動運転、デジタルインフラなど未来経済に深く関与しており、その中核にマスクの存在がある。一方で、政権に返り咲いたトランプは依然として米国の武器供与、外交的後ろ盾、政治的恩恵の“門番”であり続けている。

第7章「忠誠というレバレッジ」で私はこう警告した:

「トランプ2.0政権下では、外交関係は条約ではなく忠誠心によって試される。大統領との“私的な一致”こそが入場料だ。」(p.157)

湾岸諸国とマスクの関係

サウジアラビア

2025年4月、テスラはリヤドに旗艦店をオープンし、サウジでの事業展開を公式に開始。トランプとの中東訪問中、マスクはサウジ政府がスペースXのスターリンクを航空・海運用途で承認したと発表。関係の修復を象徴した。

カタール

マスクはカタールの政府系ファンドの会長と会談し、投資協議を行った。2025年のカタール経済フォーラムにも登壇し、同国のテック・グリーンエネルギー分野での台頭を印象づけた。

UAE(アラブ首長国連邦)

「Stargate UAE」プロジェクトが2025年5月に発表された。エミラティ企業G42と、Nvidia、OpenAI、Cisco、Oracle、日本のソフトバンクなど米系企業との協業により、世界最大規模のAIデータキャンパス構築を目指す。これはUAEの国家AI戦略の一環であり、米ハイテク企業との連携を強化する動きだ。

今後の戦略的選択肢

湾岸諸国にとって:

  • バランス外交の維持:トランプ政権ともマスクとも関係を保ち、国家利益の最大化を図る。
  • パートナーの多様化:特定企業に依存せず、テック分野での協力相手を分散させ、リスク管理を強化。

イーロン・マスクにとって:

  • 外交的対話:米政権との溝を埋め、国家利益への貢献を示すことで不安を和らげる。
  • 国際的な提携強化:米国以外の市場との連携を強め、地政学的リスクへの耐性を高める。
結論:複雑な同盟関係をどう乗り越えるか

今回のトランプとマスクの対立は、単なる個人的な衝突ではなく、地政学的なストレステストだ。湾岸諸国にとっての焦点は、どちらが正しいかではなく、「どちらが影響力を持つか」である。

「トランプの世界では、彼に背いても生き残れるかもしれないが、決して繁栄はできない。」(第9章「忠誠の代償」、p.193)

マスクには、技術、知性、資金があるかもしれない。だが、ホワイトハウスの“政治的認可”がなければ、彼の中東戦略は始まる前に静かに幕を閉じるかもしれない。(原文へ

アハメド・ファティは、American Television Network (ATN)の国連特派員で国際問題アナリスト。著書『America First, The World Divided: Trump 2.0 Influence』では、外交、多国間主義、権力と認識、そしてグローバル政治の本質を論じている。

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/trump-musk-and-the-gulf-states

INPS Japan/ATN

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なぜ海洋を中心に据えたグローバル開発が必要なのか

第3回国連海洋会議(UNOC 3)が6月9日から13日にかけてフランス・ニースで開催され、各国首脳、科学者、市民社会、企業リーダーが一堂に会し、地球最大かつ最も重要な生態系とも言える「海洋」の静かなる崩壊を食い止めるという共通の目標に取り組む。

【ニューヨークIPS=フランシーヌ・ピックアップ】

海洋は単なる広大な水域ではなく、生命の基盤であり、持続可能な開発を推進する重要な原動力である。人間の発展と海洋との複雑な相互関係は、海洋ガバナンスと持続可能性がグローバルな進展にとっていかに不可欠であるかを物語っている。これは特に**小島嶼開発途上国(SIDS)**において顕著であり、そこでは海は資源であると同時に、アイデンティティと生存そのものと深く結びついている。

SIDSは世界最大規模の排他的経済水域(EEZ)を有しており、世界の動植物・爬虫類の20%が生息する広大な海洋および沿岸地域を保護している。多くの国が自国海域の広範囲を海洋保護区に指定し、グローバルな自然保護の最前線に立っている。こうした自然資産は観光業や漁業といった海洋依存型経済の根幹を成している。しかし同時に、SIDSは気候変動の最前線にも立たされている。

海面上昇、激甚化する気象災害、環境悪化の加速はもはや将来の脅威ではなく、すでに現実として直面している問題である。SIDSは、将来を見据えた包括的な開発アプローチを採用しているにもかかわらず、債務の悪循環に陥っており、今後間違いなく増加するであろう気候ショックへの備えと対応能力を損なわれている。

解決策の「海」

SIDSはパリ協定での**「1.5度」目標**の合意に大きく貢献した国々でもある。彼らは、海洋・沿岸資源の保全と持続可能な利用、再生可能エネルギーの推進、デジタル化と地域能力の強化、雇用創出など、複数の課題を統合的に解決する大胆なアプローチを先導している。

2024年5月に開催された第4回小島嶼開発途上国国際会議(SIDS4)と、「アンティグア・バーブーダ・アジェンダ(ABAS)」の採択により、今後10年間の行動計画が策定された。これは気候・生物多様性への取り組みの強化、海洋の持続可能な利用の促進、レジリエンス強化を柱としている。

また、SIDSは昆明・モントリオール生物多様性枠組み(KMGBF)、パリ協定、国連砂漠化対処条約(UNCCD)戦略枠組みにも積極的に貢献しており、海洋保全や陸海両面からの環境劣化対策を優先事項としている。

「ライジング・アップ・フォー・SIDS」(Rising Up for SIDS)は、今後10年間に向けた変革的ビジョンを描く戦略であり、UNDPとSIDSが約60年にわたり築いてきた協力関係、そして**小島嶼国連合(AOSIS)**とのパートナーシップを基盤としている。これにより、政策や実践の中でSIDSのニーズが確実に反映されるようになっている。

**ニースでの第3回国連海洋会議(6月9日~13日)**には、こうしたSIDSの革新的かつ拡張可能な解決策が示され、彼らが「海洋ポジティブ(ocean-positive)」な取り組みの最前線にいることが明らかにされるだろう。世界はその声に耳を傾けなければならない。以下、SIDSが示す3つの重要な教訓を紹介する。

1.海洋は人間開発の原動力である

SIDSにとって海洋は境界ではなく、まさに「生命線」である。小規模漁業は何百万人もの食と生計を支えている。海洋・沿岸観光はGDPの多くを占めている。ブルーカーボン生態系(マングローブ、海草、塩性湿地)は炭素を隔離し、海岸を守り、多様な生物の生息地となっている。海洋の遺伝的・生物学的な豊かさは、将来の医療や持続可能な産業、気候適応の可能性も秘めている。

SIDSでは、海洋の取り組みと経済開発は切り離せない。環境リスクの深刻化は経済的不安定さを悪化させているが、海洋経済の活用は食料安全保障、観光、貿易、気候レジリエンスに資する持続可能な成長と多様化を促す。

しかし、SIDSだけでこの道を切り開くことはできない。グローバルなパートナーシップと国際的な資金支援が不可欠であり、誰ひとり取り残さない包摂的で公平な開発の実現が求められている。

2.統合的な解決策が必要である

海面上昇、生態系の劣化、経済的脆弱性は別個の問題ではない。その解決策も同様である。SIDSでは沿岸生態系の修復・保護の取り組みが持続可能な観光や漁業にもつながっている。こうした取り組みは人間開発の機会を広げ、雇用と繁栄を生み出す。

「島全体のアプローチ(Whole of island approach)」は、持続可能な開発の力強いモデルとなっている。脱炭素化と地域社会のエンパワーメント、生物多様性の保護と機会・安全保障の拡大、伝統的・地域の知恵を基盤とした革新が統合されている。

SIDSは、複雑に絡み合う課題に対して、海洋を中心に据えた統合的な解決策を世界に示している。

3.イノベーションは加速装置である

SIDSは、世界に応用可能な革新的な海洋ベースの解決策を試行・拡大している。多くの島では、海洋経済分野への移行と優良事例の創出に向けた新たな投資可能な取り組みが進行中である。

セーシェルは世界初の「ブルーボンド」を発行し、海洋保全を資金面で支えている。キューバでは自然ベースのソリューションでサバナ・カマグエイ生態系の劣化が回復しつつある。モルディブでは地域コミュニティが使い捨てプラスチック禁止に成功している。

新たに開始された**GEF資金によるUNDP主導の「ブルー&グリーン・アイランズ」**イニシアティブは、都市開発、食料生産、観光の3つの主要経済セクターにおいて自然ベースのソリューションを促進している。これはシステム全体の変革を目指す世界初の取り組みであり、グローバルな環境利益と持続可能な開発の両方を推進する。

また、グローバル・コーラルリーフ基金のような革新的なパートナーシップは、公共・民間・フィランソロピー資金を呼び込み、民間投資のリスクを軽減しつつサンゴ礁生態系の保護と回復を支えている。これらの新たなモデルはすでに他国にも波及しつつある。

SIDSからの海洋アクション

第3回国連海洋会議(UNOC3)や、6月30日から7月3日に開催される第4回開発資金国際会議(FfD)に際して、メッセージは明確である。世界はSIDSの先駆的な解決策をさらに拡大・支援すべき時にある。SIDSのリーダーシップを後押しすることは、人と地球がともに繁栄する新たな「機会の海」を生み出し、SIDSだけでなく世界中の海岸線に恩恵をもたらす持続可能な開発の道を切り開くことにつながる。(原文へ

フランシーヌ・ピックアップは、国連開発計画(UNDP)政策・プログラム支援局 副局長・副アシスタント事務局長

INPS Japan/IPS UN Bureau

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人口は増加する一方で雇用は減少──米国の消費主義に左右される世界の雇用市場

【国連IPS=マキシミリアン・マラウィスタ】

アジア太平洋地域では雇用やGDP成長が活況を呈しているように見えるものの、その市場は米国の消費主義に依存した不安定で脆弱な構造を抱えている可能性が、複数の報告書から明らかになっている。

国際労働機関(ILO)が2025年5月に発表した「世界の雇用及び社会見通し」によれば、世界の雇用市場に関する予測は大幅に下方修正されており、その背景には依存性の高い脆弱な雇用市場の現状がある。

報告によると、世界のGDP成長率予測は3.2%から2.8%に引き下げられ、それに伴い雇用成長率も1.7%から1.5%へと減少、700万人分の雇用減少につながるとされている。この原因の根底には米国の消費主義があり、高関税による貿易の混乱が直接的に雇用減少に結びついていると分析されている。

世界市場が一国の消費に依存している状況は、雇用市場の弱体化を象徴している。さらに、労働所得比率(GDPに占める労働者の取り分)は2014年の**53%から2024年には52.4%**に低下しており、実質購買力平価(PPP)の減少を反映している。

スキル構造の変化も顕著だ。高所得・中所得国では低~中スキル職から高スキル職への移行が進んでいる。2013年から2023年の間に、職務に対してスキル不足の労働者は37.9%から33.4%に減少した一方、スキル過剰の労働者は15.5%から18.9%に増加した。

さらに、生成AI(ジェネレーティブAI)による影響も進行している。現在、4人に1人の労働者が業務の一部がAIによって自動化される可能性があるとされ、16.3%が中程度の影響、7.5%が高度な影響に晒されている(特に高スキル職において)。

不確実性が雇用予測を左右

いま、世界の市場が拡大しインフレ圧力が緩和しているにもかかわらず、企業は雇用拡大に慎重な姿勢を取っており、既存の従業員は維持するものの新規雇用には慎重になっている。地政学的混乱と構造的な転換が雇用情勢を大きく変え、企業にとって前例のない新たな局面を迎えている。

インフレ率はほとんどの国で低下が見込まれており、2025年には4.4%まで下がるとされている(2024年は5.8%)。これは世界的な経済拡大の縮小とも関連している。米国の報復関税(2025年4月)は世界貿易の構造を大きく変化させ、全地域にわたって同期的な景気減速を引き起こしている。

これにより企業は新たな戦略を模索するか、新たな市場条件に適応せざるを得なくなっている。

2025年には4億700万人が就職を希望しているが職に就けておらず、その結果、質の低い職や不安定な職に甘んじる人々が増えている。

アジア太平洋地域は世界最速の成長を続ける経済圏であり、3.8%の成長が見込まれている。これに対し、アメリカ大陸は1.8%、欧州・中央アジアは1.5%。

しかし、2023年の推定ではアジア太平洋地域の5600万件の雇用がサプライチェーンを通じて最終需要に依存しており、これは世界で最も高い依存度であり、米国の輸入需要に左右される最大の脆弱性を抱えている。

雇用成長率はアジア太平洋地域が1.7%(3400万件)と最も高く、次いでアフリカ、アメリカ大陸は1.2%、欧州・中央アジアは0.6%にとどまっている。

世界的逆風の中の経済成長と生産性

2014年から2024年の間に世界のGDPは33.5%成長、アジア太平洋は55%成長しており、コロナ禍を経た力強い回復を示している。

ILOの報告によれば、アジア太平洋の成長は新規雇用創出ではなく生産性向上によるものであり、これとは対照的にアフリカとアラブ諸国では経済成長が雇用増を伴っている。

インフォーマル(非正規)雇用はなおも正式雇用をわずかに上回っており(+1.1%)、現在世界で20億人(全労働者の57.8%)がインフォーマル労働に従事している。

アフリカでは労働者の85%がインフォーマル雇用であり、過去10年間で29.3%成長している。一方、アジア太平洋では過去10年でインフォーマル雇用は11.3%減少しており、正規・非正規を問わず経済成長への寄与は変わっていない。

労働所得比率はアフリカ、アメリカ、欧州・中央アジアでは低下しているが、アジア太平洋とアラブ諸国では増加しており、技術革新や市場構造の地域差を示している。

職種構成は国ごとに大きく異なり、高所得国ほど農業や単純労働から専門職・技術職・管理職にシフトしており、技術・教育志向が強まっている。

世界全体では、いまだに半数以上の労働者が職務とスキルがミスマッチしているが、この状況は過去10年で大幅に改善しており、教育水準の向上が貢献している。

変化の激しい雇用情勢

かつてない速度で世界の雇用市場は変化している。今回の報告は、こうした雇用市場の不安定性と、地域ごとの要因がいかに異なる影響を及ぼしているかを浮き彫りにしている。

農業・縫製産業・低スキル労働中心の国々と、生産性・教育・技術スキルを重視する国々とでは、異なるアプローチながら類似した経済成果が見られ、安定したグローバル経済の「万能解」は存在しないことが示されている。

SDGs Goal No. 8
SDGs Goal No. 8

ILOのギルバート・フンボ事務局長は、「今回の雇用情勢に関する報告は厳しい現実を示しているが、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)創出の道しるべにもなる」と述べた。

「社会保障の強化、スキル開発への投資、社会対話の推進、包摂的な労働市場の構築によって、技術革新の恩恵がすべての人に届くようにしなければならない。そのためには、緊急性・野心・連帯が不可欠だ」と強調した。

とりわけ「包摂性の確保」は、世界経済を拡大するうえで最重要な要素といえる。各国が同じ方向に進まないのであれば、それぞれの地域特性と経済の重点分野に応じた対応が求められる。

国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は2月に、「各国政府は政策の優先順位を転換しつつある」と述べた。「米国では貿易政策、税制、公共支出、移民政策、規制緩和といった分野で重大な政策変更が行われつつあり、米国経済と世界経済全体に影響を及ぼしている…。政策変更の影響は複雑で、今後数か月の間により明確になるだろう」と語った。

ゲオルギエバ氏はまた、現代は「不確実性の時代」であり、米国の貿易政策がその不確実性をさらに高めているとも指摘し、各国の政策がそれぞれの経済構造に応じて異なる結果を生んでいることを改めて示した。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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揺らぐ中立外交──ネパール、北と南のはざまで

ネパールの「等距離外交」戦略が揺らぎ始めている。カトマンズは北と南から相反する圧力にさらされている

【カトマンズNepali Times=シュリスティ・カルキ】

260年に及ぶ歴史の中で、ネパールは2つの巨大な隣国との間で均衡を保つことに努めてきた。歴代の統治者たちは、インドと中国という、必ずしも友好関係にない隣国双方と友好関係を築こうとしてきた。

しかし、この綱渡りのような外交がいかに繊細なものであるかは、先週の二つの出来事で改めて浮き彫りになった。

先月、カシミールで起きた襲撃事件でネパール人1人が死亡した。今週カトマンズで開かれた地域テロ対策に関するセミナーでは、ネパールがパキスタン非難に及び腰だったことで、インドを不必要に苛立たせたという見方が示された。

一方、カトマンズ国際山岳映画祭(KIMFF)では、中国の資金提供による『シーザン(Xizang)パノラマ』という枠組みでチベット関連の中国制作ドキュメンタリーが上映された。これに対しては直ちに反発が起き、中国資金の受け入れと「Xizang」というチベットに対する中国名の使用が問題視された。上映作品は「植民地主義的プロパガンダ」であり、北京のチベット文化や民族的アイデンティティ、独立・自治の抹消の試みだとの批判が寄せられた。

「“Xizang”という用語は単なる地理的呼称ではありません。これは中国が国際社会における“チベット”という呼称を意図的に置き換えようとするキャンペーンの一環であり、独自かつ豊かな芸術・文学・精神文化のアイデンティティの抹消を狙っています。」と、チベット人映画制作者や作家たちのグループがKIMFF開催中にネパール・タイムズ紙に寄稿した。

ネパール政府は外交文書ではすでに「Xizang」という呼称を使用し始めており、中国がネパール政府に働きかけてKIMFFにチベット関連作品を上映させたのではないかとの憶測も流れた。KIMFF側は本紙からのコメント要請に応じなかった。

国際関係専門家のインドラ・アディカリ氏は「私たちは市民社会やメディアにおいてチベット人コミュニティの権利とアイデンティティを擁護することはできますが、外交上の呼称は中国との関係を考慮した政府の外交方針に沿うものとなります」と述べている。

今回のテロ対策セミナーや映画祭の騒動は、ネパール政府と市民社会が2つの隣国からの相反する圧力にますます挟まれている現状を象徴する事例の一つにすぎない。

ドナルド・トランプ政権下で米国の国際的影響力が後退し、中国とインドといった新興大国がその空白を埋めつつある。結果として、政治的に弱体化したネパール国家はこれまで以上に従属的な立場に追い込まれている。

北と南からの圧力にさらされる中、ネパールの「等距離外交」戦略はほころびを見せ始めている。

元南アジア地域協力連合(SAARC)事務総長のアルジュン・バハドゥール・タパ氏は「最近のネパールの政治指導者たちは“国益”の定義をその時々の都合に合わせて変更しています。つまり、政権によって対中・対印外交の姿勢が変わるのです」と指摘する。

とはいえ、ネパールが主体性を示す場面もある。リムピヤドゥラ国境問題ではインドの反発を招いたが、パハルガームでの襲撃事件でもネパール人が犠牲になったにもかかわらず、ネパール政府はパキスタンを名指しで非難することを拒んだ。

インド政府は「等距離外交」という言葉自体を快く思っていない。また、ネパール国内でも、地理的近接性、文化的親和性、経済・貿易関係を考慮したより現実的な対印外交を模索すべきとの意見がある。

アディカリ氏は「そろそろ“等距離”という概念を超え、より現実的なアプローチをとるべき時かもしれません。ネパールの対印・対中関係は性質が異なっており、その違いを外交方針にも反映させるべきです。」と述べている。

一方、タパ氏は「欧米諸国の関心低下がインドや中国をより強硬にさせている」という見方には慎重である。「確かに欧米の関心は薄れていますが、米国や欧州がこれまでインドや中国以上にネパールに影響力を持ったことはありません。」と語る。

さらに、ネパール国内で高まっている「ヒンドゥー君主制復活」運動について、両隣国がどう見ているのかという憶測も飛び交っている。王政復古を掲げるRPP(国民民主党)とRPP-Nは連携を組んだものの、最近は首都での集会への参加者が減少しており、抗議活動の場を地方都市へと広げる方針に転じている。

インドのメディアはカトマンズでの王政復古集会を大きく報道しており、ほぼIPLクリケット並みの扱いだ。一方、中国はこの件に関して多くを語っておらず、むしろネパール国内の分裂した共産勢力をまとめることに関心があるようだ。

インドの与党BJPと中国共産党には、それぞれネパールの望ましい政権像があるものの、両国が必ずしも対立しているわけではない。インドと中国政府はいずれも、自国間の緩衝地帯であるネパールに政治的安定を求めている。

アディカリ氏は「BJPの一部にはネパールをヒンドゥー国家化したいと考えている勢力があり、ヒンドゥー君主制復活を望む声も存在します。」と話す。その一方で「中国側は安定した協力的な政権を求めており、できれば左派連合による政権を望んでいます。」と述べた。(原文へ

著者:シュリスティ・カルキ
シュリスティ・カルキ氏はネパーリ・タイムズの特派員。2020年にインターンとして同紙に参加し、カトマンズ大学芸術学部を卒業後、正式に編集部メンバーとなった。政治、時事、芸術、文化に関する記事を執筆している。

INPS Japan/Nepali Times

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