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古代カザフスタンの秘密が明らかに:東西を結ぶ新たな発見

【アスタナThe Astana Times=ナジマ・アブオワ】

カザフスタン各地で進められている考古学調査により、古代から中世にかけての文明の痕跡が次々と明らかになり、同地域が東西を結ぶ文化と交易の要衝であったことが改めて浮き彫りとなった。セルジューク朝時代の陶器や、サカ族ウスン(烏孫)族の時代にさかのぼる金の装飾品など、発見された遺物は広範な時代と地理にまたがっている。

サライシュク:中世交易の交差点
An array of gold ornaments dating back to the Early Iron Age. Photo credit: Kazinform
An array of gold ornaments dating back to the Early Iron Age. Photo credit: Kazinform

カザフスタン西部のアティラウ州に位置する古代都市サライシュクでは、セルジューク様式の貴重な陶器や中国産青磁の破片が発掘されたと、カザフスタンの報道機関24.kzが伝えた。

1950年代後半、トルコの学者たちは、1243年のモンゴル侵攻以前、アナトリア地方にクバダバードという主要な交易都市が存在したことを証明している。そこには中国、ペルシャ、キプチャク草原からキャラバン(隊商)が到来していた。

トルコの研究者ムハレム・チェケン氏によれば、サライシュクはジョチ・ウルス(黄金の大オルド)時代、中国、アナトリア、ビザンティウム、ホラズムなどと交易関係を維持していたという。発見された陶製のパイプや複雑な給水システムは、この都市に高度な都市インフラが存在していたことを示している。

13世紀のジョチ・ウルス 出典:Wikimedia Commons
Saray-Jük By Yakov Fedorov - Own work, CC BY-SA 4.0
Saray-Jük By Yakov Fedorov – Own work, CC BY-SA 4.0

「シルクロード沿いの都市の建築には多くの共通点があります。中世のセルジューク宮殿では飲料水や排水のために陶製のパイプが使用されていたことがすでに証明されており、今回サライシュクでも同様のシステムの破片が発見されました」とチェケン氏は語った。

また、ロシアの考古学者ヴィャチェスラフ・プラホフ氏は、「中国の陶磁器からクリミア沿岸由来の品々に至るまで、多様な遺物が発見されていることから、サライシュクが広範な交易と文化ネットワークに組み込まれていたことがうかがえる」と付け加えた。

現在、専門家たちはサライシュクを単なる交易所ではなく、東西を結ぶ「黄金の架け橋」と表現している。今年後半には、トルコの研究者チームも発掘の次段階に参加する予定だ。

カラガンダ州:手つかずの鉄器時代の墓が発見

カザフスタン中部カラガンダ州シェット地区の「タルディ歴史・考古公園」では、ブケトフ・カラガンダ大学の考古学者たちによって、初期鉄器時代の極めて保存状態の良い埋葬遺構が発見されたと、Kazinform通信が報じた。

An untouched Iron Age burial in the Shet district of the Karaganda Region. Photo credit: Kazinform
An untouched Iron Age burial in the Shet district of the Karaganda Region. Photo credit: Kazinform

この遺構は「コルガンタス型」と呼ばれる石積みの墳墓で、初期鉄器時代の遊牧文化と関連している。仰向けに埋葬された人骨、酸化した鉄製工具、小型家畜の頭骨3つが確認された。

「この種の埋葬は当地域では非常に珍しく、重要な点は遺構が手つかずで残っていることです」と研究者は述べている。

この墓は青銅器時代の石造墳墓の上に後から築かれたもので、紀元前4世紀から1世紀頃と暫定的に推定されている。

タルディ渓谷には約200の考古学的遺跡が存在し、中でも有名な「ステップ・ピラミッド」がある。この地域の発掘調査は州文化局の支援を受け、来年まで継続される予定だ。

アルマトイ州:サカ族とウスン族の金装飾が出土

カザフスタン南東部アルマトイ州ウイグル郡では、アル・ファラビ・カザフ国立大学の考古学者たちが、初期鉄器時代にさかのぼる数々の金の装飾品を発掘した。中でも注目されているのが、ライオンの顔、女性の顔、あるいは牡牛や雄羊の顔を象ったと解釈される複合的な意匠が刻まれた8グラムの金の指輪である。これらのシンボルは、古代部族にとって重要な意味を持っていたとされる。

発掘は「トギズブラク1号・2号墓地」で行われ、そこには50基以上の墳墓が存在する。第3・第4号墳墓からは、陶器、鉄製工具、金製の小板、金の鎖の一部、人骨などが発見された。

A ring cast from a gold ingot, featuring a design where one can discern a human face. Photo credit: Kazinform

科学・高等教育省によれば、これらの埋葬遺物は初期鉄器時代に属し、現在のウイグル地区がサカ文化の中心地の一つであったことを裏付けている。

ウイグル郡の副アキム(副首長)であるエラシル・トリムベクウリ氏は、アルマトイ州の歴史的・地理的に重要な集落チュンジャから10〜12キロの地点に位置するこの遺跡には、紀元前2世紀にさかのぼるウスン文化の痕跡も含まれている可能性があると指摘した。

「鋳造された金の延べ棒から作られた人の顔を描いた指輪や、“黄金人間”の衣装を思わせる金の装飾品、古代の金の鎖の破片なども見つかりました」と彼は語った。

トリムベクウリ氏はまた、周辺地域、すなわちチュンジャ、チャリン国立公園、周辺の墳墓地でも発掘が継続されていると述べた。研究者たちは、ウスン(烏孫)族の首都と推定される「チグチェン」がチャリン渓谷のサリトガイ周辺に存在していたという仮説についても検討を進めているという。(原文へ

INPS Japan/The Astana Times

Original URL: https://astanatimes.com/2025/06/ancient-kazakhstan-revealed-new-finds-link-east-and-west/

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|視点|広島からガザへ──大量死を正当化する論理の連鎖(サクライン・イマーム元BCC記者)

【ロンドンLondon Post=サクライン・イマーム】

1945年8月6日、第2次世界大戦が終結に近づき、日本の敗北がほぼ確実となっていた時、米国は戦争史上最も恐るべき決断を下した。民間人を標的に、人類史上最悪の破壊兵器を投下するという選択である。パイロットの母の名にちなんで「エノラ・ゲイ」と名付けられたB29爆撃機が、初の原子爆弾「リトルボーイ」を広島に投下したのは午前8時15分だった。爆弾は志摩病院上空600メートルで爆発し、15,000トンのTNT火薬に相当する威力で都市を火と灰の海に変えた。即死者は7万人にのぼり、ほとんどが罪なき民間人だった。その後数か月で、放射線障害や熱傷、負傷により死者は14万人に達した。爆心地から半径1.5マイル以内は完全に破壊され、活気ある都市は数秒で巨大な墓場と化した。3日後の8月9日には長崎に2発目の原爆が投下され、傷口はさらに深まった。日本はまもなく降伏したが、真の勝者は放射能の灰に刻まれた新たな世界支配の時代だった。

これは軍事的必然ではなく、技術力と帝国的威光を誇示するための冷徹な演出であった。人類を絶滅させる力を誰が握っているかを示すための「地政学的メッセージ」として行われた虐殺である。死を政治の道具とする「死の政治学(ネクロポリティクス)」──国家が生と死の選別権を握り、誰が生き、誰が死ぬのかを決める行為──の最も鮮烈な実演であった。広島と長崎は単なる悲劇ではなく、国家権力が死を政策に変える冷酷な宣言であった。

同じ論理が今日、ガザで繰り返されている。イスラエルの現政権は「自衛」の名の下に、230万人のパレスチナ人に対して体系的な破壊作戦を展開している。住宅地は破壊され、病院、学校、難民キャンプまでも爆撃されている。国連のデータによれば、死者は3万8千人を超え、その70%が女性と子どもである。国際司法裁判所ではジェノサイド(集団虐殺)の訴えが審理されているが、主要な大国は沈黙、あるいはこの残虐行為への共犯関係にある。1945年、原爆投下が道徳的正当化の衣をまとっていたように、ガザの破壊も「テロとの戦い」として合理化され、その背後にあるネクロポリティクスの現実──命を取捨選択する傲慢な意志──が覆い隠されている。

Hiroshima aftermath/ Wikimedia Commons
Hiroshima aftermath/ Wikimedia Commons

1998年、筆者がラホール記者クラブ会長を務めていた時、1人の若い日本人女性と出会った。彼女は広島の被爆者を祖母に持つ3世で、放射線被害による苦しみを受け継いでいた。彼女は日本のNGO「ピースボート」の一員として、同年にパキスタンが核実験を行った後、核廃絶を訴えるためにラホールを訪れていた。1945年に日本が経験した原子戦争の惨禍を世界に伝えるのが彼女の使命だった。しかし、パキスタンの主要な公的機関のいずれも、彼女らを歓迎しようとはしなかった。筆者は自ら彼女らを受け入れ、広島・長崎の破壊を記録したオリジナル写真展を一般公開した。それは単なる被害記録ではなく、世界の良心に突き付ける挑戦であった。

広島、長崎、そしてガザ──これらは、未解決の惨禍が世紀の両端を刻む暗い碑である。瓦礫と化したこれらの地は、文明も道徳も人間性も、死が政策として武器化される時にいかに灰燼に帰するかを証言している。原爆投下は戦争の終焉ではなく、帝国的権力が殲滅によって支配を刻み込む世界秩序の始まりだった。ガザでの民間人の標的化、インフラの破壊、共同体の消滅は、同じネクロポリティクスの論理を反響させている──大量死を常態化させて支配を強化するという発想である。広島の被爆者とガザの生存者は、命を使い捨てにされた者同士として、悲劇的な連帯を分かち合っている。

これらの出来事は、人類がいつまで「死によって統治する」支配者を許容するのかという切迫した問いを突き付ける。広島の灰とガザの瓦礫は、一部の命が軽んじられてよいという虚構を拒否し、次なる惨禍を生み出し続けるネクロポリティクスに対する断固たる裁きを求めている。(原文へ

INPS Japan

*INPS Japanでは、ガザ紛争のように複雑な背景を持つ現在進行中の戦争を分析するにあたって、当事国を含む様々な国の記者や国際機関の専門家らによる視点を紹介しています。

Original URL: https://londonpost.news/from-hiroshima-to-gaza-the-reign-of-death/

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欧州には戦略的距離が必要だ──米国への盲目的同調ではなく

【ロンドンLondon Post=シャブナム・デルファニ博士】

スペインのペドロ・サンチェス首相は、「欧州の意思決定に対する米国の覇権を断ち切らなければ、我々は共に燃え尽きることになる」と警告した。これは誇張ではなく、ヨーロッパが自らの独立性を確保しなければ、ワシントンの無謀な外交政策に巻き込まれ、破滅的な結果を招くことになりかねないとの危機感に基づく発言である。現在進行中のイラン・イスラエル間の緊張は、地域戦争に発展する可能性をはらみ、ヨーロッパが米国の中東政策に過度に依存していることの危うさを示している。ヨーロッパがワシントンに過度に歩調を合わせれば、制御も利益も及ばない危機に巻き込まれるおそれがある。これは政治的脆弱性を露呈させ、大陸全体を火の海にしかねない。

イランとイスラエルの対立は、ヨーロッパが米国の政策に従属してきたことの危険性を浮き彫りにする典型的な事例である。ワシントンがイスラエルへの支持を一貫して強める一方で、外交よりも軍事的な手段が優先され、イランはヒズボラやフーシ派といった地域の代理勢力を動員して応じている。これにより、より広範な戦争へと発展する危険が高まっている。ヨーロッパは地理的にも経済的にもこの危機の影響を強く受ける立場にありながら、米国の方針に縛られ、独自の対応が難しい状況にある。

この構図は過去にも見られた。2015年のイラン核合意(JCPOA)を、トランプ政権が一方的に離脱した際、EUはこれを維持しようとしたが成果を上げられなかった。米国の制裁を回避してイランとの貿易を継続するために設立されたINSTEXも、アメリカの圧力に屈し、機能しなかった。現在の情勢下でヨーロッパが同様の受け身の姿勢を続ければ、過去の失敗を、さらに深刻な代償を払って繰り返すことになる。

すでに、米国に追随することによる代償は顕在化している。紅海での攻撃により、重要なエネルギー輸送路が脅かされており、イランを巻き込む広範な戦争が起きれば、ホルムズ海峡を通る石油輸送が遮断され、原油価格は急騰する可能性がある。これによりヨーロッパ経済の不安定化が進むおそれがある。南欧諸国では、ガザやレバノンからの難民流入への備えが求められ、各国の治安機関は、欧州がイスラエルの軍事行動に関与しているとの印象によって、国内の過激化が進む可能性を警告している。

一方で、EU内の分裂が対応を困難にしている。スペイン、アイルランド、ベルギーなどはイスラエルの軍事行動を非難し停戦を求めているが、ドイツなど一部の国は依然としてワシントンの立場を支持している。このような分裂により、ヨーロッパは統一的な外交力を発揮できず、地政学的な傍観者にとどまっている。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領はかねてから「戦略的自律性」の必要性を訴えてきたが、具体的な行動が伴わなければ、その主張は空疎なスローガンに過ぎない。ヨーロッパが真に地政学的な主体を目指すのであれば、ワシントンの軌道から脱却し、自らの利益を基準とした政策を構築する必要がある。

そのためには、米国が対決姿勢を強める場合であってもイランとの外交的対話を継続し、中東地域の安定とエネルギー安全保障の確保を図ることが求められる。また、イスラエルを含むすべての当事者に対して国際人道法の遵守を求めることで、原則に立脚した姿勢を内外に示すべきである。さらに、いくつかの欧州諸国が提案しているように、パレスチナ国家の承認を進めることで、中東における信頼と均衡を回復し、偏向しているとの見方を払拭する必要がある。

これらの措置は、NATOからの離脱や反米姿勢を意味するものではなく、ヨーロッパの経済安定、エネルギー安全保障、そして平和の維持といった基本的利益が、常に米国の政策と一致するとは限らないという現実を踏まえた冷静な判断である。

ヨーロッパはこれまで、イラクやリビアへの米国主導の軍事介入に加わってきたが、こうした関与は地域の不安定化、難民流入、テロの拡大を招く結果となった。そこから得られた教訓は重い。現在の中東情勢では、さらに深刻な危機へと発展する懸念がある。戦火は地域にとどまらず、エネルギー市場の混乱、ヨーロッパ経済の不安定化、社会の分断、さらには域内での暴力の発生につながる恐れもある。

スペインの首相による警告は、今まさに決断の時であることを突きつけている。ヨーロッパは、ワシントン主導の危険な路線に受動的に従い続けるのか、それとも独自の声と価値観、そして平和に向けたビジョンを持つ主権的な主体として歩み出すのか、重大な岐路に立たされている。時間は限られており、燃え広がる危機の炎は、すでにヨーロッパの足元に迫っている。(原文へ

INPS Japan/London Post

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長崎原爆から80年──唯一の道徳的選択肢は廃絶である(アハメド・ファティATN国連特派員・編集長)

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

2025年8月9日、世界は長崎への原子爆弾投下から80年を迎え、人類史上最も暗い日々の一つ、そしていまだに無視され続けている警鐘に思いを致している。1945年のこの日午前11時02分、広島に3日前に投下されたものよりも強力な爆弾が、一瞬にして町の一角を消し去り、およそ7万4千人を殺害した。生き延びた被爆者たちは、白血病やがんなど放射線による病に長年苦しみ、目に見えない傷を抱えて生き続けた。

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

今朝、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は長崎平和祈念式典に寄せたメッセージで、被爆者の証言を「世界の永遠の道徳的羅針盤」と呼んだ。その声が時とともに減っていくほどに、その真実はより鮮明になる──核兵器は安全をもたらすのではなく、破滅しかもたらさない。

私自身、彼らが警告するものを目にした。2019年、私はカザフスタンのセミパラチンスクとクルチャトフ──旧ソ連の核実験の中心地──を訪れた。(ドキュメンタリー映像はこちらへ

研究機関や老人ホーム、孤児院の静かな廊下で、放射能汚染の代償を目の当たりにした。重い障害を抱えて生まれる乳児、がんで壊滅した村々、何十年経っても汚染されたままの大地──それは過去の話ではなく、今まさに起きている現実だった。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Atomic bombed Agnes of Urakami, displayed at United Nations Headquarters.Photo: Katsuhiro Asagiri、President of INPS Japan.
Atomic bombed Agnes of Urakami, displayed at United Nations Headquarters.Photo: Katsuhiro Asagiri、President of INPS Japan.

私はまだ広島や長崎を訪れたことはないが、長崎はいつも心の中にある。ニューヨークの国連本部で、軍縮パビリオンにある「聖アグネス像」の前を通るたびに思い起こす。長崎市民から贈られたその像の静かで悲しげな姿は、あの日の影が歴史書の中だけにとどまらず、今も私たちの現在に伸びており、行動を促していることを思い出させる。

長崎では今日、爆心地の記憶を共有するため、原爆投下以来初めて鐘の音が一斉に響いた。犠牲者の「水を…」という叫びをなぞるように、献水の儀が厳かに行われた。被爆当時3キロの地点で体験した93歳の西岡宏さんは、外傷がないように見えた人々でさえ、やがて歯ぐきから血を流し、髪が抜け、次々と命を落としていったと語った。

1946年に国連が最初に採択した決議が核兵器廃絶を求めたのは偶然ではない。それから80年経った今も、核の影は消えていない。核兵器は再び各国の安全保障ドクトリンの中心に据えられ、威嚇や強制の道具として振りかざされている。世界の軍事支出は過去最高を更新し、平和と開発のための資金は後退している。

それでも希望の火はある。昨年、広島・長崎の被爆者を代表する日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が、数十年にわたる活動の功績でノーベル平和賞を受賞した。2024年には、国連加盟国が「未来のための協約」を採択し、核兵器のない世界の実現への再コミットメントを誓った。

しかし、行動なき再コミットメントは裏切りである。核不拡散体制の枠組み──核兵器不拡散条約(NPT)を基礎とし、核兵器禁止条約(TPNW)によって強化された制度──は守り、拡充し、履行させねばならない。そのためには、
・ 信頼と透明性を回復するための軍縮外交の復活
・ 核実験モラトリアムの再確立と包括的核実験禁止条約(CTBT)の全加盟国による批准
・ 検証可能な合意による核兵器備蓄の削減
・ 抑止ドクトリンを廃絶への誓約に置き換えること
が必要だ。

Photo: Atomic Bombing in Nagasaki and the Urakami Cathedral. Credit: Google Arts&Culture
Photo: Atomic Bombing in Nagasaki and the Urakami Cathedral. Credit: Google Arts&Culture

被爆者、セミパラチンスクの犠牲者、そして長崎の人々は、同じ悲劇と警告を共有している。追悼だけで行動を伴わないのは偽善である。

長崎を焼き尽くした火炎から80年、私たちは1945年と同じ選択に直面している──核の影の下にとどまるのか、それともその影を抜け出し、核のない世界という光の中へ進むのか。

選ぶべき時は今である。そして唯一の道徳的選択肢は、廃絶である。(原文へ

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/80-years-after-nagasaki-the-only-moral-choice-is-abolition

INPS Japan/ATN

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世界の先住民の国際デー2025

【INPS Japan/IPS】

人工知能(AI)は、私たちの暮らし方、学び方、働き方──そして誰の声が届くのか──を変えつつある。

AIは人類に希望をもたらす可能性を秘めているが、保護策がなければ、新たな支配の道具となる危険がある。

先住民族にとって、この問題は抽象的なものではない──それは祖先から受け継いだものであり、現実的かつ緊急の課題である。

先住民族の知識、画像、言語、そしてアイデンティティは、すでにAIシステムの学習に利用されている。

その多くは同意も協議も利益分配もないまま進められている。

2023年、研究者は先住民族の文化的コンテンツを含む1,800件以上のAI学習データセットを確認した。

その大半に、自由意思に基づく事前かつ十分な情報提供に基づく同意(FPIC)の証拠はなかった。

これは包摂ではない──デジタル形式での搾取である。

同意なしにAIシステムが先住民族のコンテンツを吸収すると、植民地主義の論理がコードを通して再生産される。

危険は文化面だけではない──領土や環境にも及ぶ。

AIにはデータセンター、レアアース鉱物、そして膨大な電力が必要であり、それらはしばしば先住民族の土地から供給されている。

世界の重要鉱物プロジェクトの54%以上が、先住民族の領土上またはその近くに位置している。

チリでは、AIによって最適化されたリチウム採掘が、アタカメーニョの水源と聖地を脅かしている。

AIの環境コストには、有害な電子廃棄物、土地の劣化、資源の枯渇が含まれる。

先住民族の参加なしに構築されたAIは、追放や収奪を加速させる「力の増幅装置」と化す。

一方で、先住民族はAIのガバナンス、倫理、政策に関する決定から排除されている。

ほとんどの場合、彼らは意見を求められることはない──しかし深刻な影響を受けている。

だが、先住民族はこの物語の受動的な被害者ではない。

ニュージーランドでは、マオリ主導のチームがAIを活用してテ・レオ・マオリ語の復興に取り組んでいる。

北極圏では、イヌイットのコミュニティがAIを用いて氷のパターンを監視し、気候変動への適応を進めている。

ポリネシアでは、先住民のサンゴ礁モニターが伝統知識と機械学習を組み合わせて海洋生態系を保護している。

これらの事例は、AIが権利、文化、同意を基盤に構築されるとき、何になり得るかを示している。

先住民族は、デジタル主権、倫理的枠組み、文化主導の革新に向けた資金提供を求めてきた。

彼らはAIの「共創者」でなければならず、その犠牲者であってはならない。

AIの未来は、単なる技術の問題ではなく、正義の問題である。

8月9日、世界的な対話に参加しよう。権利を守り、未来を形作ろう。(原文へ

INPS Japan

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無駄をなくせば、欠乏もない

ネパールの電気・電子廃棄物管理には政府のリサイクル政策が不可欠

【カトマンズ NepaliTimes=ソニア・アワレ】

今週、The New York Times紙が報じたネパールの電気自動車(EV)ブームに関する記事が広く共有された。世界がようやく、ネパールのエネルギー転換に注目し始めている。

だが、この成功は新たな課題も生んでいる。バッテリー駆動の自動車、スクーター、三輪車の普及により、ネパールはまもなくリチウムイオン電池の廃棄物処理という危機に直面することになる。さらに、携帯電話用バッテリー、重金属、レアアースといった問題も控えている。

「以前はノートパソコンや携帯電話が中心だったため、それほど関心を持たれていませんでした。しかし、電気自動車1台で最大500キロの廃棄物が発生します。それが積み上がっていけば、私たちの手には負えなくなります」と、カトマンズの電子廃棄物管理会社「Doko Recyclers(ドコ・リサイクラーズ)」のパンカジ・パンジヤール氏は警鐘を鳴らす。

同氏によれば、「当初は2027年以降、年間3500トンのリチウムバッテリー廃棄が発生すると見込んでいましたが、EV市場の拡大により、実際の数値はそれを大きく上回る見込みです」。

ネパールは新車販売の76%が完全電動車であり、その割合はノルウェーに次ぐ世界第2位に位置している。
ネパールは新車販売の76%が完全電動車であり、その割合はノルウェーに次ぐ世界第2位に位置している。

EVだけでなく、携帯電話、玩具、太陽光パネル、全国9000基の通信塔から発生するリチウムイオンバッテリー廃棄物もすでに相当な割合を占めている。

リチウムに加え、コバルト、ニッケル、マンガンなどの重金属は、空気、土壌、水を汚染する可能性があり、レアアースも含まれる。ネパールは昨年、約190万台の携帯電話を輸入しており、これは前年度比で40%の増加である(これは公式統計上の数字に過ぎない)。

リチウムイオン電池のリサイクルは技術的に可能だが、コストが高い。一方、金を含む重金属の回収率は95%以上に達する。中国はこの分野で先行しており、世界全体の重金属リサイクル能力のうち半分以上、年間約50万トンを占めており、米国や欧州を大きく上回っている。

ネパールにはリチウムイオン電池のリサイクル施設が存在せず、鉛蓄電池用の施設すらない。鉛やその他の金属、プラスチックは非公式セクターによって回収されるか、インドへ輸送されている一方、硫酸はそのまま廃棄されている。

「バッテリーのリサイクルは教科書通りの工学技術で、難しいことではありません。しかし、市場が存在しない場合、政治経済の原則として国家がそれを創出する必要があります。米国、英国、中国はそうやってリサイクル産業を育てました」と、エネルギー経済学者のディパク・ギャワリ氏は最近の気候会合で語った。

カトマンズのDoko Recyclersでは、今週、スタッフが電気廃棄物の仕分け作業に従事している。
カトマンズのDoko Recyclersでは、今週、スタッフが電気廃棄物の仕分け作業に従事している。

Doko Recyclersはリチウムイオン電池のリサイクル施設設置に向けて取り組み、シンガポール拠点のTotal Environment Solutions(TES)から4000万ルピーの投資を受ける直前までこぎつけた。しかし、ネパールには電子廃棄物(e-waste)政策や投資ガイドラインが整備されておらず、TESは投資回収の見通しが立たないとして撤退した。

ネパールには、製品の廃棄責任をメーカーや流通業者に課す「拡大生産者責任(EPR)」制度も存在しない。

「リチウムイオン電池のリサイクルには、技術移転さえあれば対応可能です。ただ、それには政府のEPR政策に基づいた投資が必要です。また、抽出されたリチウムのような原材料の扱いに関する規定も必要です。ネパールにはバッテリー製造の仕組みがないため、回収した原材料は輸出するしかありません。しかし、その輸送費は誰が負担するのでしょうか」と、パンジヤール氏は問いかける。

リチウムや重金属、レアアースの採掘は、その倫理性や環境負荷の高さが世界的に問題視されている。リチウム1トンの採掘で約15トンのCO2が排出され、塩水や鉱石からの抽出には水源の汚染や枯渇のリスクがある。ニッケルやコバルトの採掘も、生態系の破壊や労働搾取と密接に関係している。

電子機器の修理や再生は、電子廃棄物の削減に貢献できる。
電子機器の修理や再生は、電子廃棄物の削減に貢献できる。

より安全で安価、持続可能なナトリウムイオン電池の開発も進んでおり、EVは将来的にグリーン水素燃料への橋渡し的な技術となる可能性がある。

「これらの金属を使用するのであれば、少なくとも公共の利益のために活用すべきです。例えば電動バスの導入などです。最終的には、私たちの消費パターンが問われます。そもそも不要な携帯電話や車を買わないことの方が、リサイクルよりはるかに容易です」と、プラスチックなどの廃棄物リサイクルを手がけるAvni Center for Sustainabilityのシルシラ・アチャリャ氏は指摘する。

使い終わったあなたのスマートフォンはどこへ行くのか

Global E-waste Monitorの世界調査によると、ネパールが2024年に排出した電子廃棄物は4万2千トンに達し、10年前の1万3千トンから大幅に増加した。2026年には6万9千トンに達すると予測されている。

この数字は他国と比較すれば控えめだが、増加傾向とリサイクル施設の欠如は深刻な懸念材料である。

家庭用電化製品(洗濯機、冷蔵庫、ガスレンジ、オーブンなど)は、ネパールの電子・電気廃棄物の約半分を占めている。次いで携帯電話、ノートパソコン、タブレット、ハードディスク、ルーター、モデムが9%、コンシューマーエレクトロニクスが17%、照明機器が14%、スクリーン・モニターが8%、おもちゃが9%を占めている。

「過去10年ほどでe-wasteの性質も変化しました。以前はCRTモニターやCFL電球が中心でしたが、今では多くの電子機器、太陽光パネル、光ファイバーなど、リサイクル価値がマイナスのものも増え、さらに今後はEVバッテリーが中心になります」と、Doko Recyclersのパンジヤール氏は述べる。

e-wasteの構成は、人々の消費パターンの変化によっても変わっている。現在では、製品が寿命を迎える前に買い替える傾向が強まっている。

ネパールにおける携帯電話の平均使用期間はわずか2年、ノートパソコンは4年、テレビやパソコンは8年、冷蔵庫と洗濯機は10年である。直近の会計年度だけでも、ネパールは1千9百万台近いスマートフォンを輸入しており、その総額は240億ルピーにのぼる。

「最近では、電子機器メーカーが“交換キャンペーン”を展開しており、問題なく使える製品でも新機種に交換させる仕組みができています。製品を寿命まで使い切らないことで、存在しなかったはずの問題を自ら作り出しているのです」と、Avni Center for Sustainabilityのシルシラ・アチャリャ氏は述べる。「電子機器の使用量は飛躍的に増えていますが、それに見合う廃棄物管理能力は整っていません」

生ごみすら管理できていない自治体にとって、電子廃棄物は想定の範囲外だ。したがって、電子・電気廃棄物の大部分は非公式セクターに依存している。

カトマンズには約1200のスクラップ業者が存在し、電子廃棄物のうち約20%が正式な流通経路を経ずにリサイクルされていると推定されている。そしてその大部分はインドへ流れていく。

この非公式なリサイクルでは、プラスチックやアルミニウム、銅などの素材は一部回収されるが、貴金属や重金属の回収は行われていない。鉛バッテリーからの液体廃棄物(硫酸など)は埋立地に投棄され、地下水や河川を汚染している。

ネパールには、いまだ適切なe-wasteリサイクルインフラが存在せず、貴金属や重金属の抽出は不可能な状態だ。
ネパールには、いまだ適切なe-wasteリサイクルインフラが存在せず、貴金属や重金属の抽出は不可能な状態だ。

一方で、使用済み電子機器の再生市場も小規模ながら拡大しつつある。たとえば、Sabko Phoneのような企業は、中古スマートフォンを買い取り、ほぼ新品同様に再整備して、安価な端末として再販売している。

「当初はこの活動に賛同を得るのが非常に難しかったですが、ここ数年で意識が変わりつつあります。人々が再生スマホを買うようになれば、将来的には再生洗濯機なども選択肢になるかもしれません」と、Sabkoのウッタム・カフレ氏は語る。

2023年に販売された携帯電話12億2千万台のうち、14%が再生品であり、これにより1億9千万台分の新機種が不要になったという。

カフレ氏は次のように述べる。「再生や“アップサイクル”(使い終わったものをより価値ある形に作り替えること)が環境保護につながるという意識を社会全体に広げることができれば、大きな前進になります」

専門家たちは、e-waste問題に取り組む第一歩として、不要な電子製品の消費を抑えることを勧めている。
専門家たちは、e-waste問題に取り組む第一歩として、不要な電子製品の消費を抑えることを勧めている。

そのうえで、修理、再利用、アップサイクルと段階を踏み、最後の手段としてリサイクルに頼るべきだと指摘している。なぜなら、ネパールにはまだ、十分なリサイクル施設も法的枠組みも整っていないからだ。

ネパールの「廃棄物管理法(2011年)」には、e-wasteに関する記述がない。法改正案はすでに準備され、複数の省庁を回っているが、まだ確定していない。しかも、改正案にも電子・電気廃棄物の具体的な管理ガイドラインはなく、定義づけの域を出ていない。

一方、インドでは「拡大生産者責任(EPR)」と「バッテリー廃棄物管理規則2022」が整備されており、製造業者、リサイクラー(廃棄物の再資源化を担う業者)、再生業者の責任が明確に規定されている。

「ネパールでも、全国レベルのe-waste法制化とEPR導入が不可欠です。地方自治体単位でも、回収ルートの構築とリサイクルインフラへの支援が必要です。そして、こうした施策は同時並行的に実施されるべきであり、一般市民への意識啓発も重要な鍵となります」と、パンジヤール氏は語る。

EPR制度の導入は、信頼できない事業者を市場から排除し、不良品の流通を抑制する効果も期待できる。また、それは無制限で無秩序な消費の抑制、そして倫理的で持続可能な開発を優先する社会への転換にもつながる。

これは、現在ネパールで進むEVブームにも深く関係している。2024年度、ネパールは2万2907台の四輪車(総額508億8千万ルピー)を輸入し、そのうち1万6701台(412億3千万ルピー相当)が電気自動車だった。輸入された電動車の中で、公共バスの割合は非常に低く、同サイズのディーゼル車より高額であることが理由だ。

本来であれば、トロリーバスや路面電車のような「送電網直結型モビリティ」が導入されるべきだが、それが難しい現状では、政府が電動バスへの補助を拡充する必要がある。これにより、水力発電による余剰電力を活用し、大気汚染を抑え、石油輸入コストの削減にもつながる。

ラリトプールでは電動バスと自転車専用レーンの設置が進められている。(写真:Gopen Rai)
ラリトプールでは電動バスと自転車専用レーンの設置が進められている。(写真:Gopen Rai)

「ネパールのEV普及は、一面では成功物語ですが、同時にバッテリー廃棄問題という“次の災害”の引き金にもなっています。問題を一つ解決したと思ったら、別の問題を作り出していたということです」と、アチャリャ氏は警告する。

Sabko Phoneのカフレ氏は、再利用・修理・再生・リサイクルを軸とする「循環型経済」こそが、今後の進むべき道であると語る。

「電子機器は、人々の生活をより良くするために最大限活用されるべきです。まだ多くの地域や人々がそれらにアクセスできていない現状があります。しかし、使用後の管理や廃棄を含めた倫理的な使用こそが、将来の深刻な問題を防ぐ鍵となるのです」(原文へ

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世界的な水の破綻とイランの危機

【ロンドン London Times=シャブナム・デルファニ】

政治的不安や軍事衝突に世界の注目が集まる一方で、静かに進行する破局がある。それが「水の破綻(water bankruptcy)」──需要が不可逆的に供給を上回り、生態系と人類の生存を脅かす危機である。イランはこの破綻の震源地にありながら、その影響は干上がる河川流域や枯渇する帯水層を通じて、世界中に広がっている。

Shabnam Delfani,is Green Ambassador for the MENA Region and World Women Peace Ambassador.
Shabnam Delfani,is Green Ambassador for the MENA Region and World Women Peace Ambassador.

イランでは、再生可能な淡水資源の85%以上が枯渇しており、国連の持続可能性基準を大きく上回っている。かつて中東最大の塩水湖だったウルミエ湖は、その水量の90%を失い、今やひび割れた塩の荒野に変わった。古都の生命線だったザヤンデ・ルード川は、現在では数か月間にわたり干上がり、イスファハンでは抗議運動が起きている。イラン31州のうち28州で、約9000万人が深刻な水ストレスに直面しており、干ばつ、食料不安、生態系の崩壊が進んでいる。

120万基以上の違法な井戸が、何世紀もかけて形成された帯水層を汲み上げ、砂漠化を加速させている。これは単なる環境破綻にとどまらず、結果として水と食料の権利を脅かす、人権上の緊急事態である。水と食料の安全保障は、国連決議64/292および世界人権宣言第25条に明記された権利である。それにもかかわらず、こうした権利が侵されているのだ。世界中で、水の破綻はさまざまな形で、しかし同様の構造で現れている。

2018年、南アフリカのケープタウンは、干ばつと過剰消費により「ゼロデー(Day Zero)」──蛇口から水が出なくなる日──の到来が現実味を帯びていたが、同市は極端な節水政策を導入し、市民1人あたりの使用量を1日50リットル以下に制限。家庭や農業への厳しい給水制限を課し、市民の協力を得た大規模な節水運動と、幸運にもその後訪れた降雨により、最悪の事態を土壇場で回避した。

オーストラリアのマリー・ダーリング流域では、農業の過剰割当と気候変動に起因する干ばつによって河川流量が減少し、生態系が破壊されている。米国のカリフォルニア州では、地下水の過剰汲み上げが原因で地盤沈下が発生し、地域によっては地下水位が最大100フィートも低下している。

インドのパンジャブ州は「穀倉地帯」として知られるが、過度な灌漑により地下水が枯渇し、井戸の78%が「過剰利用」に分類されている。

メキシコシティでは過剰な地下水の採取により、都市全体が最大10メートルも沈下している。また、米国とメキシコが共有するコロラド川は、上流での取水の影響でデルタ地帯に達しないことも多い。これらの事例は、世界共通の構造的課題──管理の失敗、気候変動、無制限な需要──が水システムを崩壊の瀬戸際に追いやっていることを示している。

イランでは、自然的な水不足に加え、国内の政策的失敗が事態を悪化させている。何十年にもわたるガバナンスの欠如により、乾燥地帯でもコメやサトウキビといった水を大量に消費する作物が優先され、貴重な水資源が浪費されてきた。流域間の水移送、時代遅れの灌漑技術(農業用水の90%が非効率に失われている)は、危機をさらに深刻化させている。「ダム建設マフィア」は、計画性を欠いたダムを乱立させ、河川の流れを断ち、地域社会を移転させてきた。環境専門家の声は無視され、政策決定の場から排除されている。

さらに、国際制裁は、最新の水処理技術や革新的な灌漑技術、気候資金へのアクセスを阻み、危機を深刻化させている。制裁が環境そのものを直接標的にしているわけではないが、その影響は否定できない。復元プロジェクトは停止し、研究は頓挫し、持続可能な開発の取り組みは完全に麻痺している。イランは、必要な適応手段を奪われたまま取り残されている。

農村部の女性たちは、この危機の影響をとりわけ不均等に受けている。家庭における水と食料の管理を担う彼女たちは、水を汲むための過酷な労働、食料価格の高騰、資源の枯渇による家庭内のストレス増加に苦しんでいる。それにもかかわらず、女性たちは水資源のガバナンスから事実上排除されており、この構造的な見落としが持続可能な解決策を妨げている。女性の知識とリーダーシップを活かすことは、単なる正義の問題ではなく、持続可能性を実現するための不可欠な要素である。

SDGs Goal No. 6
SDGs Goal No. 6

イランの水危機は国境を越えて波及し、地域の安定を脅かしている。ヘルマンド川、チグリス川、アラス川といった国境を越える河川の干上がりは、アフガニスタン、イラク、トルコとの間での緊張を高めている。農村から都市への人口流入も都市部に圧力をかけ、社会的不安や人口構成の変化を引き起こしている。対策を講じなければ、食料不足と気候難民の発生が中東全域を不安定化させ、世界的な影響をもたらす可能性がある。国際社会は、もはやこの危機を見過ごしてはならない。

世界的に、国境を越えた水資源の紛争が増加している。ナイル川における「グランド・エチオピア・ルネサンス・ダム(Grand Ethiopian Renaissance Dam)」の建設は、エジプトおよびスーダンとの間で流量の減少を懸念する緊張を生んでいる。中央アジアでは、アムダリヤ川の過剰利用がウズベキスタンおよびトルクメニスタンの生活に深刻な影響を及ぼしている。こうした事例は、協調的な水管理の必要性を浮き彫りにしており、イランの隣国もこの教訓に学ばなければならない。

水の破綻に対処するには、緊急かつ協調的な行動が求められる。

イランにおいては、政府が「国家水緊急事態」を宣言し、国際的な支援を呼び込んで改革を迅速化する必要がある。農業慣行の抜本的な見直しも不可欠であり、水を多く必要とする作物の30%を干ばつ耐性のある品種に置き換え、500万ヘクタールにわたる灌漑を近代化し、再生農業に資金を投入すれば、年間数十億立方メートルの節水が可能になる。

違法な水の汲み上げは衛星監視を活用して取り締まり、無許可の井戸を封鎖し、各州ごとに地下水の使用枠を設定して厳格に運用すべきである。

女性と若者のエンパワーメントも不可欠である。水管理委員会への女性の30%参画を義務づけ、気候データの収集と革新を担う「ユース・クライメート・コープス(Youth Climate Corps)」を創設することで、未開拓の力を引き出すことができる。

また、水外交の再活性化も急務である。地域条約と独立監視機関を通じて、共有河川の公平な管理を実現するべきである。イランにおける国連開発計画(UNDP)は、象徴的なプロジェクトにとどまるのではなく、透明性と公正性を重視する役割へと転換し、成果の数値よりも気候レジリエンス(適応力)を優先する必要がある。こうした措置は、世界各地においても求められている。

オーストラリアのマリー・ダーリング流域管理局(Murray-Darling Basin Authority)は、水資源の過剰割当を是正するため、水の買戻し政策(water buybacks)を導入しており、持続可能な配分モデルとして注目されている。イスラエルの点滴灌漑(drip irrigation)システムは、従来の方法と比べて60%の水を節約し、高効率の一例となっている。ヨルダンでは、乾燥地に適した低コストの雨水収集(water harvesting)技術が普及しており、これも有効なモデルだ。

UN Photo
UN Photo

これらの成功事例が示すのは、解決策が存在するという事実である。ただし、それを実行に移すには、政治的意思と資金投入が不可欠である。

水は政治的な武器ではなく、食料も制裁の対象ではない。環境正義は交渉の余地がない原則であり、それは国連憲章、持続可能な開発目標(SDGs)、そして国際人権文書に明記されている。SDG6(安全な水と衛生)およびSDG13(気候変動対策)は、水の安全保障が政治化され、無視される限り達成不可能である。

イランの崩壊は、遠い未来への警告ではない。それはすでに始まっている現実である。現在、世界で約20億人が水ストレス地域に暮らしており、この数は2050年までに35億人に達すると予測されている。国連は、世界人口の40%が水不足に直面し、2030年までに700万人が干ばつによって移住を余儀なくされると推定している。

Map of Iran. Wikimedia Commons.

これらの数字は抽象的な統計ではない。そこには人々の生活、生計、そして崩壊寸前の生態系がある。イランの水危機に対する国際社会の沈黙は、もはや共犯といっても過言ではない。官僚的な遅延や政治的な慎重さを捨て、大胆な行動へと踏み出す時である。

国連、各国政府、市民社会は、水を取引材料ではなく「人権」として扱うべきである。

イラン国内では、政府、国連開発計画(UNDP)、国際パートナーが迅速に行動し、さらなる崩壊を防がなければならない。世界全体としても、イランの危機から学び、持続可能な水資源管理への投資を加速させなければ、自らのシステムが崩壊するのを待つだけとなる。

国連憲章に刻まれた「平和・尊厳・正義」という原則は、水の安全保障なしには成り立たない。世界が、最後の川が干上がるのを見届けるまで動かないという選択は、許されない。

イランの「水の破綻」は道徳的・地域的な失敗であり、今こそ、無策の代償がいかに大きいかを突きつける警告である。私たちは今、行動しなければならない。地球規模の水危機が、人類の破滅につながる前に。(原文へ

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セメイから広島へ―ジャーナリズムで世界の連帯を築く(アスタナ・タイムズ編集長 ザナ・シャヤフメトワ氏インタビュー)

80年前、広島と長崎を襲った原爆の惨禍は、人類に核兵器の非人道性を突きつけ続けている。カザフスタンもまた、旧ソ連時代の核実験によって深い傷を負った国だ。これまでアスタナで核廃絶をテーマにした展示会ドキュメンタリー制作を支援してきた創価学会インタナショナル(SGI)のカザフスタンにおける活動を取材してきたINPS Japanは、このほど、カザフスタンから軍縮と平和のメッセージを世界に発信し続ける同国を代表する英字紙「The Astana Times」の編集長ザナ・シャヤフメトワ氏にインタビューを行った。シャヤフメトワ氏は、本紙の取材に応じ、9月に世界各地からアスタナに集う宗教指導者の役割、若い世代への記憶の継承、そしてジャーナリズムが果たすべき責任について語った。

【東京/アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

Q: 今年8月は、広島と長崎への原爆投下から80年にあたります。核兵器の壊滅的な影響を世界に伝えるこの節目に、核保有国間の紛争や緊張は高まり、終末時計は「真夜中まで89秒」を示しています。市民社会による軍縮への声は強まっていますが、とりわけ若い世代への継続的な意識啓発は大きな課題です。こうした中、カザフスタンは9月に第8回「世界伝統宗教指導者会議」を開催します。教育や道徳的指導を通じて、宗教指導者が平和と核軍縮を進める上で果たせる役割をどう見ていますか。

Karipbek Kuyukov(2nd from left) and Dmitriy Vesselov(2nd from right)/ Photo by Katsuhiro Asagiri
Karipbek Kuyukov(2nd from left) and Dmitriy Vesselov(2nd from right)/ Photo by Katsuhiro Asagiri

A: 広島と長崎の原爆投下は、核兵器の恐るべき破壊力を示すもので、人類に長期的な影響を残しました。活動家カリプベク・クユコフ氏は「それは国際社会にとって恥であり、日本の人々にとって恐怖の瞬間でした。二度と核兵器が人を殺すために使われないよう、この瞬間を永遠に記憶し続けなければなりません」と語っています。

クユコフ氏は、旧ソ連のセミパラチンスク核実験場で40年間にわたり行われた456回の核実験により被害を受けた150万人の一人です。両親が被ばくした影響で腕のない状態で生まれました。1991年にカザフスタンが同実験場を閉鎖する以前のことです。彼は世界的に知られる核不拡散活動家であり画家でもあり、その作品は核実験被害者の苦しみを描いています。

宗教指導者は、平和と核軍縮の推進において特別な立場にあります。カザフスタンが世界伝統宗教指導者会議を開催することは時宜を得たものであり、非常に意義深いと言えます。平和は政治的目標であると同時に精神的目標でもあります。世界の指導者が、とりわけ若者に向けて一つの声で語ることができれば、恐怖や無関心から責任と希望へと意識を転換できるでしょう。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

Q: 日本は平和記念館や教育、被爆者の証言を通じて核の記憶を伝え続けています。カザフスタンも旧ソ連時代の核実験被害の経験を同様に継承することが重要だと思いますか。そのための効果的な方法は何でしょうか。

A: 非常に重要だと考えます。これは単なる歴史的事実ではなく、特にセメイ(旧名:セミパラチンスク)のような地域社会を形作ってきた、生きた経験です。核実験の影響は世代を超えて、身体的にも精神的にも今日まで続いています。

Stonger than death momument, Semey

効果的なのは個人の語りと教育です。学校や公共の場でのドキュメンタリー上映や展示会の開催は、過去を知らない若い世代にとって有効です。文学や映画、デジタルメディアを通じて、被害者の証言を教育課程に組み込めば、生徒たちは人間的なレベルで共感できます。

ジャーナリストには、こうした物語を記念日だけでなく日常的に可視化し続ける責任があります。カザフスタンには世界に伝えるべき力強い物語があり、それを沈黙させてはなりません。

取材の中で印象的だったのは、ノルウェーのトーレ・ネーアランド氏の話です。彼は10代で失明した後、「Bike for Peace」を共同設立し、世界各地を自転車で巡る活動を続けています。旅の中で出会った広島の被爆者の生き方に感銘を受け、核軍縮運動に注力するようになりました。こうした物語は、この対話がなぜ今も必要なのかを思い起こさせてくれます。

Q: カザフスタンは、大規模な核実験場を世界で初めて閉鎖し、核兵器を自主的に放棄しました。この遺産や貢献を世界に発信する上で、アスタナ・タイムズを含むカザフスタン・メディアはどのような役割を果たせるでしょうか。

A: 私たちは軍縮について正確かつ一貫した報道に努めています。事実に基づく核問題の報道を行い、カザフスタンの不拡散への貢献を広めることを使命としています。

また、若い世代の声も積極的に取り上げています。社会学者マルジャン・ヌルジャン氏と協力し、核の遺産がもたらす影響についての認識向上に取り組んできました。

記者ナギマ・アブオワは、2025年3月3~7日にニューヨークの国連本部で開催された核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会合を現地取材しました。アスタナ・タイムズは現場から直接報道した唯一の英語メディアであり、アカン・ラフメトゥリン第一外務次官が議長を務めたことは誇りです。

From left to right: Izumi Nakamitsu, Akan Rakhmetullin and Christopher King. Photo credit: Nagima Abuova / The Astana Times

さらに今年9月には、記者アイバルシン・アフメトカリが包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)主催の科学技術会議シリーズ(SnT2025、ウィーン)に参加予定です。カザフスタンの声を世界に届け、核実験廃絶への機運を高める機会となります。

Katsuhiro Asagiri
Katsuhiro Asagiri

Q: 日本とカザフスタンは、核兵器廃絶を強く訴えています。ジャーナリズムは、核被害国間の連帯や軍縮推進にどのように貢献できるでしょうか。また、メディア関係者の責任とは何でしょうか。

A: ジャーナリズムは、核被害国を結びつけ、TPNWのような国際的取り組みを前進させる重要な役割を担います。カザフスタンと日本は核兵器の悲劇的な歴史を共有しており、それが連帯の基盤となります。

私たちの責務は、人間の物語に光を当てることです。被害者、活動家、科学者の声を届け、核兵器の影響が個人的で世代を超え、不公正であることを世界に理解してもらうことが重要です。TPNW会合やCTBTO会議の報道、若者や専門家の声の発信を通じて、より多くの人々に関心と行動を促していきます。(原文へInter Press Service

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核実験は依然として将来の脅威か ― 広島・長崎原爆投下80周年に寄せて

【国連IPS=タリフ・ディーン】

第二次世界大戦中に広島と長崎に原爆が投下されてから80年。核実験は過去のものとなったのか、それとも依然として生きており、いまなお脅威であり続けるのか―この問いが改めて浮上している。

Atomic Bomb Dome by Jan Letzel and modern Hiroshima/ Wikimedia Commons
Atomic Bomb Dome by Jan Letzel and modern Hiroshima/ Wikimedia Commons

8月6日から9日にかけての記念日は、15万~24万6千人の市民が犠牲となった壊滅的な爆撃を振り返るものであり、核兵器が武力紛争で使用された唯一の事例として、今も歴史に刻まれている。

果たして、そこから学ばれた教訓はあったのか。そして、予測不可能なドナルド・トランプ政権が核実験を再開することはあるのか?

『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ジャッキー・ローゼン上院議員(民主党・ネバダ州)が「わが州では冷戦時代に地下を中心におよそ1000回の核実験が行われた」と述べたと報じた。

米国は1996年に包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名したものの、同条約の批准には至っていない。上院は1999年に同条約を否決している。

Ground zero after the "Trinity" test, the first atomic test, which took place on July 16, 1945/ Public Domain
Ground zero after the “Trinity” test, the first atomic test, which took place on July 16, 1945/ Public Domain

現在もネバダ実験場(土壌に1万1100PBq、地下水に4440PBqの放射性物質が残留しているとされる)は汚染されたままである。

核実験の実施後、数千人の住民が癌やその他の疾患を発症し、核爆発の影響であると考えている。全米各地の「ダウンウィンダーズ」と呼ばれる被曝住民たちは、80年近くにわたり米国政府からの認定を求めてきた。

米国が最後に核実験を実施したのは、1992年9月23日のネバダ実験場での「ディバイダー」実験であり、オペレーション・ジュリンの一環であった(同実験場の記録による)。

At a disarmament exhibition in UN Headquarters in New York, a visitor reads text about a young boy bringing his little brother to a cremation site in Nagasaki, Japan. Credit: UNODA/Erico Platt

2025年4月、米上院軍事委員会で証言したブランドン・ウィリアムズ次期核兵器管理責任者候補は、「核実験再開を推奨しない」と明言した。

一方、トランプ米大統領は先週、元ロシア大統領ドミトリー・メドベージェフの脅迫的発言に対する対応として、「核潜水艦2隻をロシア付近に配備するよう命じた」と発表。ただし、それが「核兵器を搭載した潜水艦」なのか「原子力推進の潜水艦」なのかは明言しなかった。

「このような愚かな挑発的発言が単なる口先だけでない場合に備え、適切な地域に2隻の核潜水艦を配置するよう命じた」とトランプ大統領はSNSで述べた。

国連代表を務めるAcronym Instituteのナタリー・ゴールドリング博士はIPSの取材に対して、「広島と長崎の惨劇から80年を迎える今年、核兵器のない世界を実現するために、まず核兵器実験の恒久的な停止を実現すべき。」と語った。

しかし現実には、トランプ政権は核兵器実験の再開を検討しているという報道もある。

Images Credit:Andrew Harnik/Getty Images
Images Credit:Andrew Harnik/Getty Images

彼女によると、トランプ政権の2期目では、保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が掲げる政策文書「プロジェクト2025」(正式名称「リーダーシップの使命:保守派の約束」)への依存が顕著であるという。

その中で国家核安全保障局(NNSA)に関しては以下のような勧告が記されている:

「包括的核実験禁止条約の批准を拒否し、必要であれば敵対国の核開発に対応するための核実験再開の意志を示すこと。これには、NNSAが即時試験準備体制に移行することが求められる」

ゴールドリング博士は「プロジェクト2025の勧告を実行することは、敵対行動が確認されていない段階で、核実験の再開に直ちに向かうことを意味する。それは攻撃的な姿勢であり、むしろ我々が抑止すべき行動を誘発する“自己成就的予言”となりかねない」と警告した。

「衝動的で予測不可能な性格のトランプ大統領が、米国を強く見せるという誤った信念のもと、核実験を再開する可能性も否定できません。彼は往々にして、否定的な影響を熟慮しないまま、劇的なパフォーマンスを好む傾向があります」

「核実験は、核兵器依存という巨大な問題の一症状に過ぎません。核兵器を廃絶すれば、核実験の問題も消滅します。」

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

「核兵器には、開発・試験・配備・使用、さらには使用の脅しといったあらゆる段階において極めて深刻なリスクが存在します。これらのリスクを根絶する唯一の現実的な解決策は廃絶であり、核兵器禁止条約(TPNW)はそのための有効な設計図となります。」

「核兵器廃絶が実現しない場合、問題は“再び戦時下で使用されるかどうか”ではなく、“それがいつ起こるか”ということになります。核兵器は、実際に使用されなくとも、他国への威嚇や行動抑制の手段として日常的に“使用”されているのです」

ゴールドリング博士は、核実験は数十年前に終わるべきだったと指摘する。しかし、包括的核実験禁止条約は発効に至っていない。これは主に米上院が批准を拒んでいるためである。

とはいえ、北朝鮮を除き、事実上の核実験停止は1990年代以降続いている。

「核実験による人間と環境への影響は、現在に至るまで甚大です。新たな核兵器の開発や実験に資金を投じるのではなく、影響を受けた地域社会に対し、長期的な医療・経済・環境支援を提供すべきです」(原文へ

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抑止から軍縮へ:グローバルな提唱者たちが正義と平和を訴える

|視点|トランプ大統領とコットン上院議員は核実験に踏み出せば想定外の難題に直面するだろう(ロバート・ケリー元ロスアラモス国立研究所核兵器アナリスト・IAEA査察官)

「グローバル・ヒバクシャ:核実験被害者の声を世界に届ける」(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

勝利なき戦争―イラン・イスラエル対立が世界の利害を支える構造

【メルボルンLondon Post=マジッド・カーン】

イランとイスラエルの対立は、中東で最も危険かつ複雑な衝突の一つとして燻り続けている。全面的な通常戦争には至っていないものの、両国は秘密工作、サイバー攻撃、ドローン戦、代理勢力の活用、経済制裁、戦略的暗殺といった手段で敵対行為を繰り広げている。この「影の戦争」は、イデオロギー的憎悪と地域覇権争いに加え、列強の戦略的利害や世界の武器産業の影響によって形作られている。

イランの対イスラエル政策は、その革命理念に深く根差し、イスラエル国家を正当でないと見なし、パレスチナの大義を支持する姿勢を貫いている。イランはレバノンのヒズボラ、イラクやシリアの各種民兵組織、ガザの武装勢力などに武器や資金を提供し、地域全体に影響力を拡大してきた。こうした代理戦略により、イランはイスラエルと直接交戦せずにその地域的立場に挑戦している。

Flag of Israel by Pixabay
Flag of Israel by Pixabay

一方、イスラエルはイランによる包囲と影響力拡大を存亡の危機と捉え、先制抑止戦略を採用してきた。テヘランの軍事拠点やシリアを経由する補給線を狙った空爆を数百回実施し、ヒズボラへの武器移送を妨害しつつイランの軍事的足場を弱体化させている。サイバー攻撃(有名なStuxnetウイルスによるイラン核施設破壊)やイラン人科学者の暗殺も、イスラエルの封じ込め政策の要となっている。

直接対峙する両国以外にも、より広い関係者がこの衝突から利益を得ている。最たる例が米国と西側同盟国だ。米国はイスラエルとの数十年に及ぶ同盟関係を通じ、高度な兵器、情報、資金援助を継続している。イランの核開発への恐怖は、巨額の防衛予算や軍事援助パッケージを正当化してきた。

軍事支援にとどまらず、イランを地域の脅威と位置づけることで、米国は湾岸地域に軍事プレゼンスを維持しやすくなり、地域安定や対テロの旗印の下で影響力を強化している。NATO同盟国も表向きは外交を支持しつつ、イスラエルとの防衛協力を続け、フランス、英国、ドイツなどは武器協力を維持している。欧州企業も米国防需産業のサプライチェーンを通じて中東の緊張から恩恵を受ける。

同時期、湾岸アラブ諸国では地政学的な再編が進んだ。これまで根強かったイスラエルへの敵対感情は、イランの地域的な影響拡大への懸念を共有する中で、次第に和らいできている。そうした流れの中で、米国が主導したアブラハム合意により、イスラエルとの国交正常化が歴史的に進展した。

これらの新たな関係は象徴的な意味合いだけでなく、防衛や情報分野での実務的な協力にも広がっている。とりわけ、ミサイル防衛やサイバーセキュリティといった分野での連携が強化されている。UAEやサウジアラビアといった国々は、イスラエルとの協力を通じて自国の安全保障体制を強化しつつ、西側諸国との外交における発言力も高めている。

The first of two Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) interceptors is launched during a successful intercept test/ By The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense - Successful Mission, Public Domain
The first of two Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) interceptors is launched during a successful intercept test/ By The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense – Successful Mission, Public Domain

最も一貫して利益を享受しているのは世界の武器メーカーである。米国ではロッキード・マーティン、レイセオン、ノースロップ・グラマンといった大手防衛企業が、中東の不安定を収益増の要因として挙げている。イランのミサイル計画や核開発の脅威は、アイアンドーム、THAAD、パトリオットなどのシステムの配備・販売を正当化する根拠となり、危機の度に株価も上昇する。

この傾向は欧州企業にも及び、特定の部品や技術を中東同盟国に供給して恩恵を得ている。挑発→軍事対応→武器補充という循環が自己増殖的な需要を生み出し、強力なロビー団体やシンクタンクが脅威の物語を絶えず維持している。

サイバー面も新たな収益源となっている。イスラエルのテック企業や米国のサイバーセキュリティ企業は、イランの諜報やサイバー攻撃への防御を担い、市場を拡大している。

もちろん、衝突が純粋に営利目的だけで仕組まれたと断言するのは単純化しすぎだが、確かに一部のアクターは長期化に適応し、そこから利益を得ている。衝突が激化するたび武器販売は急増し、情報協力は深化し、戦略的同盟が再編される。一方、真の外交的解決努力は、平和が実現すると損をする勢力によって脇に追いやられることが多い。

NATO.INT
NATO.INT

米国と西側同盟国にとっては、防衛契約による経済的利益と同時に、中国やロシアとの地政学的競争を背景に中東で戦略的レバレッジ(影響力)を得る機会となる。湾岸アラブ諸国にとっては、イランへの対抗姿勢が西側との協力を深め、イスラエルとのかつて考えられなかった同盟を可能にする。ここでは軍事調達が単なる防衛手段ではなく、外交政策の重要なツールとなっている。

しかし、外交・軍事活動が目まぐるしく展開される一方、人的・経済的負担は甚大だ。イランでは制裁と防衛支出が経済を圧迫し、国民の不満を高めている。イスラエルでは常在戦場の脅威下で国民が暮らし、経済や国民意識にも軍備体制が影を落としている。地域全体ではシリア、イラク、イエメンの代理戦争が国を不安定化させ、数百万人が避難を余儀なくされている。

勝者は誰かと問われれば、答えははっきりしない。イスラエルは軍事的優位を保ち、精密攻撃やアラブ諸国との外交成果でイランの企図を挫いてきたが、常に非対称的報復の脅威と国際的批判に晒される。イランは広範な代理ネットワークを通じてイスラエルと米国の同盟国に圧力をかける一方、制裁や経済孤立、国内不安という大きな代償を払っている。

実のところ、イランもイスラエルも決定的勝利を収めていない。得るものは戦術的かつ一時的で、失うものは戦略的かつ持続的だ。もっとも顕著な勝者は外部のアクター、武器メーカー、地政学的権力ブローカー、そして衝突を利用して別の思惑を進める諸国家である。地域の人々は不安定と不安全、苦難に耐え続けなければならない。

軍拡の経済的誘因、戦略的ライバル意識、イデオロギーの固定化という根底要因が解決されない限り、イラン・イスラエル間の対立は続くだろう。この問題は地域紛争に見えて、実際には対立を優先させるルールが支配するグローバル化したゲームであり、戦争ビジネスが和平追求を凌駕しているのである。(原文へ

INPS Japan/London Post

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|視点|ハマスとイスラエルの紛争(ケビン・クレメンツ戸田記念国際平和研究所所長)