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EUベラルーシ国境地帯の移民を取巻く状況が悪化

【ブラチスラバ IPS=エド・ホルト】

ベラルーシと欧州連合(EU)の国境における難民危機が4年目を迎えようとしている中、ベラルーシ国内における活動家への弾圧が、国外に脱出しようとして「死の地帯」から抜け出せない移民の状況を悪化させている。

難民の支援活動を行っている団体によれば、ベラルーシ当局のNGOに対する弾圧により、多くの団体が移民のための支援活動を停止したため、移民には人道的支援が限られているか、まったくない状態になっているという。

一方、ベラルーシでは国際機関が難民に何らかのサービスを提供しているが、NGOはそれが十分でないと懸念している。

「この危機が始まって以来、(国境警備隊による)難民に対する暴力は激しくなっています。以前は難民を助けようとする人がもっといましたが、刑事罰を受ける可能性があるため、今ではほぼ誰も助けていません。」と、ベラルーシから撤退を余儀なくされ、現在はポーランドで活動しているベラルーシのNGO『ヒューマン・コンスタンタ』の人権活動家、エニラ・ブロニツカヤ氏はIPSの取材に対して語った。

2021年夏にベラルーシとEUの国境で難民危機が始まって以来、人権擁護諸団体は国境の両側の警備員による難民に対する残忍な「押し戻し」について抗議の声を上げてきた。

EUによる経済制裁に対する対抗策として、ベラルーシ政府が危機を作り出していると非難する声もある。彼らによれば、ベラルーシ当局は積極的に移民を組織し、奨励し、さらには強制的に国境を越えさせようとしているが、同時に国境警備隊による同じ移民に対する暴力的で卑劣な扱いを是認している。

しかし、ポーランド、ラトビア、リトアニアのEU国境警備隊が、同じ移民たちに対して同様に暴力的で非人道的な方法を用いていること、また亡命を申請する権利が組織的に侵害されていることを問題視する声もある。

「これらの人々は、ベラルーシとポーランド双方の国境警備隊員から、数多くの暴力を受けています。 私たちは、殴打、蹴り、ライフル銃床の後頭部で殴られた後のあざ、目の周りのあざ、折れた歯、唐辛子ガスを吹きかけられた後の皮膚や目の炎症、犬に噛まれた後の歯形などを目の当たりにしてきました。」と、ベラルーシからポーランドに到着した移民を支援するポーランドのNGO、We Are Monitoring (WAM)のバルテク・ルミエンチク氏はIPSの取材に対して語った。

「私たちはまた、ポーランドで国際的な保護を求める権利があることも伝えていますが、実際には、こうした訴えは国境警備隊に無視されることが多いのです。私たちの目の前で亡命を求めているにもかかわらず、ベラルーシに押し戻される状況を何度も目撃しました。」と彼は付け加えた。

このような行為によって、人々は2つの国境の間に悲惨な状況で取り残されている。援助活動家の中には、そこを「死の地帯」と表現する者もいる。

「(EUに)何とかたどり着いた難民は、EU国境のフェンスとベラルーシ側の剃刀ワイヤー、そしてベラルーシに引き返すことを許さない国境警備隊の間の『死の地帯』について語っています。」と、ポーランドの国境なき医師団(MSF)の医療コーディネーター、ジョアンナ・ラドミルスカ氏はIPSの取材に対して語った。

「この死の地帯はベラルーシとEUの国境に沿って広がっており、その広さは数万平方キロメートルにも及びます。私の心配は、NGOも誰もこの地帯にアクセスできないことです。」とラドミルスカさんは付け加えた。

ヒューマン・コンスタンタの調査によると、危機が始まって以来、少なくとも94人が国境地帯で死亡したことが確認されているが、さらに多くの人々が命を落としたと考えられている。

国境を越えることができた人々の中には負傷し、中には重傷を負う者もいる。疲労困憊、低体温症、沼地や川の水を飲まざるを得なかったことによる胃腸障害などが一般的で、ほぼ3分の1が塹壕足になり、剃刀や有刺鉄線のフェンスで重傷を負う者も少なくない。また、医療ケアを提供する援助団体によれば、凍傷のために手足の一部を切断しなければならない者もいるという。

「国境のEU側では国際機関や地元団体が移民を支援する活動を続けているが、ベラルーシ側ではもっと限られています。」と、移民と直接関わっている人々は語った。

2020年の再選後の大規模な抗議行動以来、独裁的なベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、反対意見に対する徹底的な弾圧を実施してきた。その結果、とりわけ市民社会で働く人々が広く訴追された。

これまで移民を支援してきたNGOを含め、多くのNGOが閉鎖を余儀なくされ、移民のためにできることをする主要な国際組織はほんの一握りとなっている。

しかし、彼らの活動がどれほど効果的であるかについては、疑問の声が上がっている。

「赤十字と協力しているICRCのような国際機関はありますが、ベラルーシ赤十字は特定の地域で食料小包を配っているだけで、定期的で安定した供給はしていません」とブロニツカヤさんは語った。

「基本的に、(移民に)必要な支援を与える人がいないのです。以前よりもさらに多くの死者が出る可能性があります。」とブロニツカヤ氏は付け加えた。

しかし、助けを得るのに苦労しているのは、国境の間で立ち往生している人々だけではない。

EUへの入国に失敗し、ベラルーシに戻ることになった者は、非正規移民として分類され、医療や手当を受けることができず、合法的に働くこともできない。

「多くの人はすぐに貧困に陥り、入国管理当局に発見されることを常に恐れて生活し、搾取されやすくなります。ミンスクや他のベラルーシの都市で、生きていくために売春を余儀なくされている移民の話を聞いたことがあります。」と、ある匿名の援助活動家はIPSの取材に対して語った。

このような窮状に直面すると、多くの移民は危険を顧みず再び越境を試みるしかないと決断する。

援助団体や世界的な人権擁護団体は、EU諸国やベラルーシ政府は、これらの移民の権利を保護する義務を守らなければならないと述べている。

「EUが物理的な壁や法的な障壁を設けたりして、国境を越えることを難しくしたり、不可能にしたりするのは、今日の状況に対する最善のアプローチではありません。また、ベラルーシが人々を立ち往生させるような状況を作り出すのもよくありません。」と、「ベラルーシにある国境なき医師団(MSF)のメディカル・オペレーション・マネージャー、ノーマル・シタリ氏はIPSの取材に対して語った。

「独立した人道支援組織や、国際機関、市民団体が、この悲惨な状況に対応するために、国境地帯に自由に立ち入ることができなければなりません。各国政府は、国際組織が医療を提供したり、その費用を負担したりする必要がないよう、これらの人々の医療へのアクセスを確保することに目を向ける必要があります。また、これらの人々の法的保護についても検討する必要があります。さらに、これらの人々が通過中に個人としての権利を主張するための空間と保護をどのように確保できるかを検討する必要があります。」と付け加えた。

危機の間、何千人もの移民を支援したMSFは、保護や法的支援のニーズが、移民の医療ニーズを上回ったと判断し、移民へのサービス提供を停止した。MSFは、医療ニーズは特定の専門知識を持つ専門組織のみが提供できると述べている。

しかし、ベラルーシとEU諸国の政治関係がひどく緊張しているため、状況がすぐに改善されるとは思えないという声もある。

「政府は何かしなければならないが、政治的な状況が事態を複雑にしています。ベラルーシでは弾圧が続いているため、EU各国政府はルカシェンコ大統領と交渉しないだろう。何か大きな変化がない限り、事態は好転しないだろう。」とブロニツカヤ氏は語った。

しかし、変化を期待する声もある。

昨年12月に誕生したポーランドの新政権は、新政権下で移民のベラルーシへの押し戻しの件数が減少したと主張し、人権保護を最優先とする新たな国境・移民政策を策定中であると述べた。また、国境での人道危機を食い止めるため、国境警備隊が特別捜索救助隊を設置する計画も進められているという。

「欧州の国として、(ポーランドは)欧州の人権法を尊重し、人々に安全なアクセスを提供すべきです。そのためにベラルーシ政権と交渉する必要はありません。」とラドミルスカ氏はIPSの取材に対して語った。

「ポーランドの新政権によって、何かが変わることを期待しています。私たちは彼らと話し合っています。変化を起こすことは可能ですし、新政権にはそれを実現するチャンスがあります。」(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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アゼルバイジャンとアルメニア、アルマトイで和平交渉開催

【アスタナINPS Japan/The Atana Times=ダナ・オミグラジィ

アゼルバイジャンのジェイフン・バイラモフ外相とアルメニアのアララト・ミゾヤン外相は、5月10日にカザフスタンのアルマトイで交渉を開始した。カザフスタンのムラト・ヌルトレウ副首相兼外相は、両外相を歓迎し、カザフスタンが仲介役を引き受けることなく、交渉をホストする事務局としての職務を誠実に遂行する準備ができていることを強調した。

Photo: Ministry of Foreign Affairs of Kazakhstan

アゼルバイジャンアルメニア両国は、カザフスタンにとって親密な国であるだけでなく、重要な戦略的パートナーでもあります。古来より、両国民は何世紀にもわたる友好の絆、相互理解、共通の歴史的過去によって結ばれてきました。両国間の協議が、信頼にもとづく対話を通じて実りあるものとなり、成功裏に目標を達成することを祈念します。」と語った。

バヤラモフ外相は、カザフ政府、とりわけこの交渉をホストするイニシアチブをとってくれたカシム・ジョマルト・トカエフ大統領に感謝の意を表した。

「我々はこのプロセスを非常に重要視しており、作業を継続する用意があることを確認したい。アルマトイでの交渉は非常に有益なものになると確信しており、今後2日間、未解決の問題の解決策を見出すために前向きに取り組んでいきたい。」とバイラモフ外相は語った。

ミゾヤン外相もまた、今回の会談をホストしたカザフ政府に感謝の意を表した。

「アルメニアは和平を目指していることを強調したい。我々は非常に建設的に交渉プロセスに参加しています。さらに、我々は平和条約の締結にとどまるべきでないと考えています。すべての輸送インフラは、その領土を通過する国々の主権の下に置かれるという理解の下で、(現在遮断している)域内のすべての交通通信を共同で解除することができます。私たちが合意する国境、行政、税関手続きを抑制するすべての手続きは、相互主義の原則に従い、相互のものとなります。」とミゾヤン外相は語った。

ヌルトレウ外相はまた、アゼルバイジャンおよびアルメニアの外相と個別に二国間協議を行い、協力の展望について話し合った。

ミゾヤン外相との会談では、両外相はカザフスタンとアルメニア間でハイレベルの政治対話が進展している現状に満足の意を示した。

3カ国の外相は、国境画定を含むアゼルバイジャン・アルメニア間の関係解決における画期的な1991年のアルマ・アタ宣言の役割を挙げ、今般アルマトイでアゼルバイジャンとアルメニア外相が会談した象徴的な重要性を強調した。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

バヤラモフ外相との会談では、カザフ・アゼルバイジャンの戦略的パートナーシップと同盟の強化について話し合われ、貿易と通過・輸送拡大の可能性について意見交換が行われた。

バイラモフ外相は、アゼルバイジャンとアルメニアの二国間和平プロセス促進におけるカザフスタン政府の努力と支援に感謝の意を表した。(原文へ

INPS Japan

この記事は、The Astana Timesに初出掲載されたものです。

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雨漏りする屋根: 「アジアの世紀」脅かすヒマラヤ融解

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ロバート・ミゾ】

世界の屋根が雨漏りしている。より正確には、融けている。脆弱なヒマラヤの生態圏は、気候変動が引き起こした気温上昇による大きな脅威に直面している。これは、生態系への影響をもたらすだけでなく、下流に住む何百万もの人々の生活を、政治的境界や文化を超えて、破壊はしないまでも変えてしまうだろう。次なる世界的大国と目され、「アジアの世紀」の二大主役として競い合ってもいる中国とインドは、経済や政治の安全保障という点でヒマラヤの健全性に負うところが極めて大きい。しかし、気候変動がもたらすであろう運命がこの地域に差し迫っており、そのうちのいくつかはすでに起こりつつあることを考えると、アジアの世紀は控えめに言っても不確実であるようだ。(

ヒマラヤ地域は、そこに暮らす人間や他の多くの生き物にとって極めて重要であるだけでなく、近隣の数カ国、具体的にはアフガニスタン、インド、中国、ネパール、ブータン、パキスタン、バングラデシュ、さらにはミャンマーの何十億人という人々の命を支えている。ヒマラヤは、北極、南極に次ぐ膨大な量の凍った水が集中していることから「第3の極」とも呼ばれ、ガンジス川、インダス川、黄河、メコン川、イラワジ川といった命を支える主要な河川系の水源となっている。これらの河川は、流域にアジア文明の主要な中心地を擁し、何十億人もの人々に、食料、エネルギー、生計手段を直接的あるいは間接的に提供している。いわゆるアジアの世紀は、これらの川の流域に根差していると言って良いだろう。また、地政学的にも、ヒマラヤ地域には世界で最も重武装された二つの国境(インド・パキスタン間、インド・中国間)があり、そのため軍事インフラの設置面積が拡大している。それがさらに、全体的な生態系の脆弱性に拍車をかけている。

ヒマラヤの氷河が融解していることは、だいぶ前から知られている事実である。科学者らは10年以上前からこの融解について警告し、時には「論争」を引き起こしてきた。しかし、最近の科学研究により、さらに憂慮するべき事実が裏付けられた。当初の記録または予測よりもはるかに速いペースで融解が進んでいるのだ。カトマンズにある国際総合山岳開発センター(ICIMOD)は、2023年の研究で、2011~2020年におけるヒマラヤ氷河の融解スピードはその前の10年間より65%速かったと報告した。報告では、たとえ地球温暖化がパリ協定で定めた通り1.5℃~2℃に抑えられたとしてもヒマラヤ氷河は2100年までに容積の3分の1から半分を失うと結論付けている。ただし、これはまだ最善のシナリオの話である。

イースト・アングリア大学の大規模な研究プログラムでは、気候温暖化のレベルが上昇すると人間や自然のシステムへのリスクがどのように増大するかが検討された。学術誌「Climatic Change」に発表されたこの研究では、地球の気温が3℃上昇するとヒマラヤ地域の約90%で1年以上続く干ばつが起こり、予測される上昇が4℃の場合は4年以上続く干ばつが起こると予想されている。報告書の執筆者らは、破滅的な気候現象を回避するためには、地球温暖化をパリ協定が掲げる1.5℃の限度内に抑える持続的な政策が必要であると繰り返し述べている。

ヒマラヤ氷河の融解による破滅的な影響は現れ始めている。2023年10月、インド北東部のシッキム州のサウス・ロナック湖が決壊し、住宅、橋、高速道路、1,200 メガワット級ウルジャ水力発電所のチュンタン・ダムが破壊されて、30人が死亡したほか、下流の村のさらに多くの人が家を失った。当初、決壊は集中豪雨によるものと報道されたが、インド宇宙研究機関(ISRO)が湖増水の様子を捉えた衛星画像から、氷河湖決壊洪水(GLOF)と過剰降雨の組み合わせによって引き起こされたことが明らかになった。この事態は2013年にすでに予見されており、湖が決壊する可能性は42%であるとインドの国立リモートセンシングセンターが予測していた。それ以前には、インド側のヒマラヤ地域で鉄砲水やGLOFにつながる集中豪雨が数回観測されていた。

GLOFは、ブータン、インド、中国、ネパール、パキスタンにまたがるヒマラヤ地域のコミュニティーに深刻な脅威をもたらしている。2020年、ヒマラヤ地域の重要な氷河湖に関する国連開発計画(UNDP)とICIMODの合同報告では、極めて危険であるとして47の氷河湖が特定された。これらは、決壊して中国、インド、ネパールの下流域に洪水を発生させる恐れがあった。さらに、「Nature」に発表された氷河湖決壊に関する2023年の研究では、世界でGLOFのリスクにさらされている全ての人々のうち50%以上がインド、パキスタン、中国、ペルーに住んでいることが示された。

このような生態学的不安と不確実な未来に直面すれば、予想されているアジアの優位性がどれほど脆弱なものか想像できるというものだ。アジアの世紀は、成熟に達する前にすでに阻まれているようだ。経済成長は生態学的基盤に根差しており、そこでは全ての経済活動が直接的または間接的に生起する。水、物質、生計手段のまさに源泉が脅かされれば、最終的には努力、事業、イノベーションの妨げとなる。気候変動に起因する氷河の融解と湖の決壊は、ヒマラヤ地域に領土を有する国々に今後も破壊的な影響を及ぼし、それによってアジアの興隆をめぐる熱狂に水をかけるだろう。何をなすべきかという問いを地域が一丸となって模索し、差し迫る破滅から自国のコミュニティーを守る手立てを団結して見いだす必要がある。

最近では、市民社会が声を上げ、政府に対してヒマラヤ地域に関する懸念に目を向けるよう求めるようになった。2024年2月、インドのヒマラヤ地域で活動する多くの社会団体や環境団体が、気候変動に対する地域の脆弱性を訴える「ピープル・フォー・ヒマラヤ(People for Himalaya)」宣言に署名した。彼らは、気候災害は生態学的であるだけでなく、政治的、経済的、社会的でもあると主張するとともに、開発プロジェクトを持続可能な形で設計し、ヒマラヤの脆弱な生態系に配慮することを求めた。宣言は、資本主義の強欲さがヒマラヤのさらなる商品化をもたらしているとして、国際金融機関から国や州の政府まで、さまざまな機関を非難している。それらの全てが、ヒマラヤ地域とそのコミュニティーの脆弱性増大に影響しているのだ。同様に、インドのラダック地方出身の気候活動家でありイノベーターであるソナム・ワンチュクは現在、脆弱な先住民のコミュニティーと地域の保全を保証するインド憲法第6付則の特別規定をラダック地方に適用することを求めて、「決死の気候ハンガーストライキ」を実行している。

インドや中国のような経済成長大国は、それぞれ自国の台頭と優越の脚本を書くことに熱心で、しばしば互いに競争しているが、気候に起因する変化によって彼らが直面している脅威は、彼らの野心をひどく損なうものとなる。ヒマラヤの健全性に大きな利害を持つ二つの隣国として、ヒマラヤを差し迫った大惨事から保護し、国境を越えて脆弱なコミュニティーを守る方法を見つけるという目標に向けて、ヒマラヤ地域に領土を有する国々の協調を導くことが両国の共同利益になる。しかし、残念なことに、国境問題と領土保全に関する地政学的検討事項が、依然として両国にとって重要度の高い課題となっている。優先順位の見直しを少しでも早く行うことが、地域にとっては利益となる。

ロバート・ミゾは、デリー大学政治学部の政治学・国際関係学助教授である。気候政策研究で博士号を取得した。研究関心分野は、気候変動と安全保障、気候政治学、国際環境政治学などである。上記テーマについて、国内外の論壇で出版および発表を行っている。

INPS Japan

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グローバルな危機、ローカルな解決策

気候変動、災害、武力紛争

地球のための報道

【カトマンズNepali Times=クンダ・ディキシット】

The Napal Timesは、INPS Japanが創価学会インタナショナル(SGI)と推進している「Toward A Nuclear Free Words(核なき世界に向けて)」と「SDGs for All(万人のための持続可能な開発目標)」メディアプロジェクトに2024年4月から参画しています。本プロジェクトに参画しているジャーナリストは、世界で起こっている環境、紛争、人権問題等について、他人事ではなく自らの問題意識として捉え、身近にできることから変革の主体者となる「同苦の精神」を持ち合わせたSGIメンバーをはじめとした読者の存在を励みに、世界各地から最新の分析記事を配信してまいります。

世界が気候変動という緊急事態に直面するなか、環境対策と報道の自由のための闘いは相互に絡み合っています。

私たちは今日、5月3日の「世界報道自由デー」と第3回ヒマラヤ・メディア・メラを記念してここに集まりました。今年私たちは、報道の自由と環境活動の関連性に焦点を当てるため、ユネスコのテーマ「地球のための報道・環境危機に直面するジャーナリズム」を採択しました。

人間の活動が世界的に自然を絶滅させ、地球上のすべての生命を脅かしているにもかかわらず、こうした問題を報道するジャーナリストたちは、脅迫や威嚇に直面したり、罵詈雑言の荒らしによって沈黙させられたりしています。フィリピン、ブラジル、メキシコ、インドでは、違法伐採や採掘について報道しているジャーナリストが殺害されたことさえあります。

特に、地元の環境犯罪や悪質な政治家とのつながりを調査する記者は危険に晒されています。気候否定派は、二酸化炭素排出者や自然エネルギーへの取り組みを訴えるジャーナリストを恐怖に陥れるため、ボット軍団(ソーシャルメディア上で偽のアカウントとして機能し、情報を操作したり人々を威嚇するために使われるインターネット上で自動的に活動を行うソフトウェアプログラム)を展開しています。

環境ジャーナリストへの脅威が、民主主義、多元主義、表現の自由を蝕んでいるのと同じところから来ているのは偶然ではありません。

昨年のメディアメラでは、民主主義の後退、報道の自由への脅威、気候の崩壊、紛争について議論しました。それらの問題はまだそこにありますが、今年唯一違うのは、それらがすべてはるかに悪化しているということです。

報道の自由とジャーナリストの安全は、世界中で危険に晒されています。ジャーナリスト保護委員会は、昨年10月7日以来、少なくとも100人のパレスチナ人ジャーナリストがガザでイスラエル軍に殺害されたと推定しています。これは、第2次世界大戦の6年間に殺害されたジャーナリストの数よりも多い。

気候崩壊の新たな兆候がいたるところで現れています。昨年の異常気温の記録は、今年すでに私たちの地域や世界中で破られています。パリ協定が目標に掲げた、2050年までに世界の平均気温を産業革命時の1.5℃に抑えるというというレベルは2024年に既に到達されようとしています。

ネパールでは、気候による深刻な干ばつもありますが、政府の怠慢と無関心のせいもあり、かつて経験したことのない山火事と大気汚染の緊急事態が起きています。

The Nepali Times
The Nepali Times

気候変動と環境の脅威は、マスメディアが存亡の危機に直面しているときに起こっています。メディア各社は生き残りに必死であり、ジャーナリストたちは給料が支払われなかったり、職を失ったりしています。

私たちの地域では、権威主義政権や選挙で選ばれた独裁者が、取り巻きを通じてマスメディアを懐柔しています。番犬は飼い犬と化しているのです。弱体化したメディアは、現代の切実な問題を独自に取り上げることができません。

民主主義の後退とメディア抑圧の逆風はネパールにも吹いています。ネパールには現在、アジアで最も自由なメディアがありますが、私たちは警戒を怠らず、自由を守るために自由を十分に行使しなければなりません。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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世界報道の自由デー2024

ロシアの報道の自由度は「冷戦後最悪」

報道の自由と気候ジャーナリズム、危機の中の連帯(ファルハナ・ハクラーマンIPS北米事務総長・国連総局長)

【ローマIPS=ファルハナ・ハクラーマン】

ジャーナリズムは再び危機に瀕している。報道の自由に対する挑戦は甚大かつ多面的であり、「自由」で開放的な社会においても、独裁的な社会においても、混迷の度合いを深めている。しかしこれに対する単純な解決策はない。

個人やメディア全体にとって、今日の危機は存亡にかかわる深刻なものである。

ジャーナリスト保護委員会によれば、昨年10月のイスラエル・ガザ戦争が始まって以来、100人近いジャーナリストやメディア関係者が殺害され、紛争地域における死者数としては過去数十年で最悪だという。そのほかにも逮捕されたり、負傷したり、行方不明になったりしている。またジャーナリストの家族も殺されている。ジャーナリストの中には、イスラエル軍に狙われていると考える者もいる。

生命や身体への脅威だけでなく、2023年には何万ものメディアの仕事が失われた。報道機関全体が閉鎖されたり、買収されたり、縮小されたりしている。

デジタル・カオスが強化され、偏見と偽情報のはびこるソーシャル・メディアの世界では、視聴者は、彼らが選ぶ報道機関と同様に、ますます分裂している。

Image credit: Pixabay
Image credit: Pixabay

ボットやAIが生成するディープフェイクは、この政治的混乱と不信感をさらに増幅させるだろう。流言飛語、微妙な脅し文句、旧来型の脅迫は、自由と民主主義を侵食する強力な組み合わせである。

ロシアではジャーナリストが多数国外に流出している。香港はかつての面影はない。ミャンマーの軍事政権は記者を殺害し投獄している。しかし、ますます二極化が進む米国では、アメリカ人の3分の2以上がマスメディアを信用していないと答えている。優れた報道も行われているが、その多くは目に触れることなく、あるいは完全に見過ごされている。

南アフリカの会員制日刊紙マーベリックは4月、市場の失敗がいかに独立ジャーナリズムを危険にさらしているかについて注意を喚起するため、丸一日休刊した。

ジャーナリズムがなければ、民主主義も経済も崩壊する」と同紙は宣言した。

こうしたまったく異なる要因がどのように組み合わさっているのかは、世界的な気候の崩壊や、環境に対するより広範な脅威に関するメディア報道を見れば明らかだ。

環境は、時に紛争報道にも似た非常に危険なテーマであるだけでなく、汚染産業(その中には巨大な国有企業もある)や、政治、学界、「非営利」財団、そしてマスメディア自身に巣食う偽情報のパートナーたちによって発せられる企業プロパガンダの巣窟となっている。

ユネスコは今年の「世界報道の自由デー」を、現在の世界的な環境危機におけるジャーナリズムと表現の自由の重要性に捧げる。ユネスコが言うように、「科学者と同様に独立したジャーナリストも、私たちの社会が環境政策を含め、十分な情報に基づいた決定を下すために、嘘や操作から事実を切り離すための重要な役割を担っている。」

「調査報道ジャーナリストはまた、環境犯罪に光を当て、汚職や強大な権益を暴き、時には究極の代償を払うこともある。」

世界最大の民主主義国家であるインドでは、ナレンドラ・モディ氏が首相に就任してから10年後に選挙が行われるが、国境なき記者団は、この間インドで殺害されたジャーナリスト28人のうち少なくとも13人が、主に土地の差し押さえや違法採掘など、環境に関連する記事を担当していたと指摘した。そのうちの何人かは、いわゆるサンド・マフィアと呼ばれる、建設業界に資金を供給する組織犯罪ネットワークの調査中に殺害された。

国境なき記者団は、2023年世界報道の自由度指数でインドを180カ国中161位にランク付けした。

グローバル・サウスでは、先住民、ローカル、独立系のジャーナリストやコミュニケーターは、十分なバックアップやリソースのない遠隔地で活動している間、暴力や 脅迫に対してとりわけ脆弱である。

しかし、世界の先進民主主義国(生物多様性の大量絶滅、汚染、地球を過熱させる温室効果ガスの排出の道を切り開いた国)では、大手メディアは化石燃料企業と提携し、積極的に協力している。

DrilledとDeSmogの報告書で明らかにされているように、多くの大手メディアは、「社説やビデオ、さらにはイベントやポッドキャスト全体を広告主のために制作する自社ブランドのスタジオ」を持っており、その多くは化石燃料会社である。

「ポリティコ、ロイター、ブルームバーグ、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ファイナンシャルタイムズのようなメディアは、石油会社のために、気候に関するジャーナリストの発表と正反対の記事を作成している。そして、広告コンテンツと報道の違いを見分けられる人は、せいぜい3分の1であることが、専門家らによる調査からわかっている。

World Press Freedom Day 2024

ジャーナリスト、特に気候危機と生態系の崩壊を取材するジャーナリストは、一般大衆の関心を引き、情報を伝えようとする努力を妨げる、ほとんど無形の矛盾にも立ち向かわなければならない。

私たちや私たちの地球が直面している危険の大きさを、すでに悲惨な出来事の数々に打ちのめされている世界中の聴衆にどう伝えるのか。ある米国の政治学者が「banality of crazy(狂気の凡庸さ)」と呼んだものに、どう抗うのか。

「狂気の凡庸さ」とは、元々ドナルド・トランプ氏の暴力的で性差別的で人種差別的な暴言を指していた。彼の暴言は頻繁に繰り返されるためそのうちメディアがほとんど反応しなくなった。このことからこの言葉は他の危険なニューノーマルを表現するのにも使われている。

この問題に対する答えはひとつではない。報道の自由はまさにそれにかかっている。それはまた、私たち自身の誠実さと信頼性にかかっているのだ。(原文へ

SDGs for All Logo
SDGs for All Logo
国際通信社IPSが、INPS Japanが創価学会インタナショナル(SGI)と推進しているSDGs for Allメディアプロジェクトに2024年4月から参画している動機の一つは、まさに「報道の自由」と「気候ジャーナリズム」を守り、国際社会で起こっている真実を読者に伝えるためである。IPSのジャーナリストは本プロジェクトに参画しているLondon Post,Nepali Timesと共に、世界で起こっている環境、紛争、人権問題等について、他人事ではなく自らの問題意識として捉え、身近にできることから変革の主体者となる「同苦の精神」を持ち合わせたSGIメンバーをはじめとした読者の存在を励みに、世界各地から最新の分析記事を配信してまいります。

INPS Japan/IPS UN Bureau

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|視点|世界の指導者たちへ、あなたがたは今、耳を傾けていますか?(ファルハナ・ハクラーマンIPS北米事務総長・国連総局長)

フェイクニュースは生命を危険に晒す「インフォデミック」

|国際貢献賞|IPSが核廃絶の主唱者を表彰

|視点|未来の岐路に立つ今、希望の選択を(大串博子未来アクションフェス実行委員会創価学会インタナショナルユース 共同代表)

【東京INPS Japan=大串博子

私たちは今、人類史の転換点にあり、大きな存亡の危機に直面しています。ロシアとウクライナの紛争は、冷戦以来、核兵器使用のリスクを高めています。また、気候危機は速度を増しています。こうした危機において、最も影響を受けるのは、弱い立場に置かれている人々です。

このような危機的状況の中、世界的な協力を強化し、これらの課題に取り組むための多国間アプローチを活性化させるため、未来サミットが9月に初めて国連で開催されます。このサミットは、誰一人取り残されることのない平和な世界へと人類の針路を転換させる、一世一代の機会です。

Future Action Festival Poster. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Future Action Festival Poster. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

このサミットに向け、平和で持続可能な未来に向けた連帯を強める機運を醸成するため、私たちは若者を中心に活動している日本の市民社会団体とともに、「未来アクションフェス」の開催を決定しました。

2023年夏、GeNuine、グリーンピース・ジャパン、日本若者協議会、カクワカ広島、Youth for TPNW、創価学会インタナショナル(SGI)ユースを含む6団体の代表からなる未来アクションフェス実行委員会を設立。そして、あらゆる世界的課題の中から、特に核兵器と気候危機という2つの存亡の危機に焦点を当て、フェスを開催することを決めました。

こうした問題について、若者の関与がこれまで以上に重要である一方、自身が変革の主体者であるとの若者の自覚を培う必要があります。このイベントは「サミット」ではなく、若者による、若者のための、また若者とともに作る「フェスティバル」であり、より良い未来のために若者が団結する喜びに焦点を当てるものです。

このユニークなイベントを実現するため、実行委員会はフェスの開催に向けて可能な限り多くの関係者と連携を取ってきました。その過程を経て、NGO、企業、アーティスト、国連代表など、多数のステークホルダーに多様な形で参加いただくことができました。

企業との連携は、フェスを実現させる上でも、企業内の意識を高める上でも、大きな役割を果たしました。例えば、ゼロ・エミッションを目指す240社以上の企業で構成される日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、本イベントの趣旨に賛同し、実行委員会設立当初から支援してくださいました。最終的に160社を超える企業に協賛・参加いただくことができ、経済的な支援だけでなく、核兵器廃絶への企業の関わりという意味でも、新たな可能性を開くものとなりました。

Future Action Festival convened at Tokyo's National Stadium on March 24, drawing approximately 66,000 attedees. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Future Action Festival convened at Tokyo’s National Stadium on March 24, drawing approximately 66,000 attedees. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

フェスには、プロの歌手や漫才師、YouTuber、マーチングバンドによるパフォーマンスなどのエンターテイメント要素も盛り込みました。エンターテインメント分野に携わる方々による参加や積極的な告知によって、フェスのテーマにあまり関心のなかった人々も含め、多くの人々を動員し、他にはない魅力的なイベントとすることができました。

最後に、国連との連携により、多くの方を巻き込んだイベントとなり、フェスの持つ可能性を広げることができました。例えば、東京の国連広報センター(UNIC)は、フェスの開催に賛同し、また支援してくれた主要なパートナーです。UNICは開催準備当初から、企業やアーティストをはじめとする多様なステークホルダーからの信頼を得ることができるよう、私たちを支援してくれました。また、初代ユース担当国連事務次長補のフェリペ・ポーリエ氏からは、核兵器のない世界、そしてすべての人にとって持続可能な世界のために、ユースの参加者が共に努力するよう呼びかける内容のビデオメッセージをいただきました。またフェスの最後には、国連大学の学長であるチリツィ・マルワラ教授にご挨拶をいただき、その中でマルワラ学長からは地球規模の問題に取り組む上でユースが果たす役割の重要性をお話いただきました。国連とのパートナーシップは、イベント成功のための主要な原動力となりました。

こうした強力なパートナーシップと若者による参画が、3月24日に東京の国立競技場で開催された未来アクションフェスの成功につながりました。当日、会場には6万人以上の参加者が集い、50万人以上がライブ配信を視聴してくださいました。

Tshilisi Marwala, President of the UN University and UN Under-Secretary-General (Center) who endorsed the joint statement from the organizing committee, acknowledged the critical importance of young voices in shaping the Summit’s agenda and urged them to “be a beacon of hope and a driving force for change.Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Tshilisi Marwala, President of the UN University and UN Under-Secretary-General (Center) who endorsed the joint statement from the organizing committee, acknowledged the critical importance of young voices in shaping the Summit’s agenda and urged them to “be a beacon of hope and a driving force for change.Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

このイベントが掲げる重要な目的のひとつは、若者の声を国連に届けることです。フェスに向けて、実行委員会は、核兵器、気候危機、そして国連に関する「青年意識調査」を実施し、2023年11月から2024年2月にかけて、10代から40代の個人から約12万件の回答を集めました。その結果から、若者は気候問題に対して高い問題意識を持ち、また核兵器は必要ないと考えていることがわかりました。また若者は、気候変動や核兵器に関する課題に対処するための取り組みに貢献したいと考えています。一方で、回答者の半数以上が将来に希望を持つことが難しいと考えています。さらには、回答者全体の約80%が、国の政策に若者の声が十分に反映されていないと感じています。若者は、現状に不満を持ち、制度改革を求めているのです。

フェス実行委員会は、この結果をもとに、未来サミットでの議論に若者の声が確実に反映されるよう、共同声明を作成。同声明は、フェスの場でマルワラ教授に手渡されました。

UN Civil Society Conference
UN Civil Society Conference

フェスの開催は、若者がより良い未来のために立ち上がる大きな勢いを生み出す取り組みのスタートにすぎません。若者の声を広げるため、次のステップとして、私たちは未来サミットの国内窓口となる外務省との対話・連携を予定しています。また、フェス実行委員会は、5月にケニア・ナイロビで開催される国連市民社会会議にも参加予定です。同会議は、市民社会が加盟国に意見を述べるための重要な機会となります。この会議への参加を通して、意識調査結果を共同議長や国連の高官等に届けていきたいと考えています。さらに、国内においては、政府、国連、そして志を同じくする団体と協力し、「未来のための協定」の議論に有意義な形で貢献していきたいと思います。

気が遠くなるほどに困難に思われる地球規模の問題に取り組む中で、絶望感を感じることがあるかもしれません。しかし、フェスを通じて、さまざまな背景を持つ多様なステークホルダーが結束して変化を生み出そうとするとき、その連帯が若者の希望の光となることを学びました。若者が希望を感じられる世界を作ることは、私たちの責任です。日本の若者から、国連や多様なステークホルダーとともに、地域また地球規模における連帯を広げる具体的な一歩を踏み出し、前進していきます。(英文へ

INPS Japan

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WHOアフリカ支部、アフリカの査読付き論文執筆支援を強化

【ナイロビIPS=マイナ・ワルル】

世界保健機関(WHO)アフリカ支部とそのパートナーらは2023年、科学誌に25本以上の査読付論文を発表した。研究活動の世界的な不均衡を正し、保健分野の科学研究でアフリカの代表性を高めることが狙いである、と最新の報告書は述べている。

WHOは「感染症・非感染症分野における保健サービスの普遍的利用促進」(UCNクラスター)プログラムを通じて、保健政策の課題や疾患に関する多くの成果を発表した。たとえば、ウガンダやマラウィ、タンザニア、ガーナ、ナイジェリアなどの国々での動物由来感染症のリスクや、アフリカでの疾患の負担を緩和する公共保健のアプローチがテーマだ。

WHOアフリカ支部長のマツィディソ・モエティ博士は、「こうした研究はアフリカに不可欠です。」と語った。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

「世界的に見れば、アフリカ地域は疾患の悪影響を最も被っています。貧困によって状況はさらに悪化しますが、コロナ禍以前の10年間は、貧困は減少傾向にありました。しかしコロナ禍だけが理由ではなく、2020年から22年にかけての一連の深刻なショックによって、状況は再び逆転しています」とモエティ博士は語った。

「気候変動、世界的な不安定、経済成長の鈍化、紛争といった大きな脅威があります。このため、私たちWHOアフリカ地域事務局は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けた保健システム強化のアプローチを用いて、『誰一人取り残さない』という2030年アジェンダの中心的な約束に焦点を当てることが、これまで以上に重要になっています。」

4月に公表された『アフリカにおける疾患の根絶:感染症・非感染症対策2023』によると、WHOの科学者らは『社会科学・人文学オープン』誌を含めた評価の高い学術誌に論文を発表し、世界全体で2%と推定されるアフリカからの科学研究発表の底上げに一役買うことができたという。

これらの研究は米国のPublic Library of Science(PLOS)を含めたオープンアクセス誌に投稿され、世界中の科学者や市民が無料でアクセスすることができる。

ナイジェリア寄生虫学雑誌』のようなアフリカで出版されている科学誌に加えて、地域での出版支援はアフリカの科学向上に役立ち、その延長として世界的な研究の不均衡是正にも資することになろう。

「科学技術の進歩を創造し、獲得し、翻訳し、適用する国の能力は、その国の社会経済的・産業的発展の主要な決定要因である。アフリカの現在および将来の健康上の課題の多くは、効果的な疾病予防とコントロールに向けた集団ベースのアプローチに関する研究を実施し、それを政策と実践に反映させることによってのみ対処できる」と上記報告書は序文で述べている。

According to the Ending Disease in Africa: Responding to Communicable and Noncommunicable Diseases, WHO scientists were able to publish their work in reputable journals, supporting Africa’s efforts to raise her scientific research production, which is estimated at only 2 percent of the world’s total. Credit: WHO
According to the Ending Disease in Africa: Responding to Communicable and Noncommunicable Diseases, WHO scientists were able to publish their work in reputable journals, supporting Africa’s efforts to raise her scientific research production, which is estimated at only 2 percent of the world’s total. Credit: WHO

「アフリカでは他の地域よりも疾患による社会への影響が大きいが、世界全体の研究に占める割合は、2000年で0.7%、2014年で1.3%、最近でも推定2%にしか過ぎない。これに対して、UCNクラスターとそのパートナーらは、2023年に査読論文25本以上を刊行した。研究活動の世界的な不均衡を正し、アフリカの代表性を高める取組みの一環だ」。

ガーナでは、WHOが皮膚潰瘍の発生について調査する「地域を基盤とした分野横断的研究」を実施した。『PLOS One』誌で発表された知見において、さまざまな皮膚疾患に関する情報を共通の研究プラットフォームで統合する重要性を示した。またタンザニアでは、本土における地域を基盤としたマラリア対策を導出するため医療施設のデータを定期的に集める「時空間モデル」の構築がなされた。

WHOアフリカ支部の言及する論文の一部は、アフリカ大陸におけるエビデンスを基にした臨床的、公共保健的な対応の採用及びその実行を成功させるために実施された「実証研究」の例だ。

その中には、アンゴラにおける「顧みられない熱帯病」(NTDs)、住血吸虫症、土壌伝染蠕虫駆除のための学校ベースの予防化学療法プログラムの影響評価が一例として挙げられる。この例の場合、使用された医薬品はこれら疾患の抑制にほとんど効果がなかった。これらの知見はPLOS Neglected Tropical Diseases誌に掲載されている。

「このことは、地域全体での疾患抑制プログラムの経験を伝え、考慮するにあたって、個人やコミュニティ、環境の要因を包括的に理解する必要性を指し示している。」とこの研究は結論している。

シュプリンガー・ネイチャーの『マラリア・ジャーナル』は、マラリア関連の発熱をしたマラウィの子どもたちの親がどのように治療を求めたかに関するこの研究チームの調査結果を刊行している。研究では、社会経済的な状況があまりよくなく、医療機関から遠い地域に居住する人々に対して、いかに対象を絞った医療的対応ができるかを記述している。

ナイジェリアでは、UCNクラスタープログラムが開発した地域における住血吸虫症データ分析ツールを用いた研究が、戦略的計画策定目的でこのツールが有用であることを強調している。この疾病を抑えるためにアフリカ全体で利用できるツールだ。住血吸虫属が急性及び慢性の寄生虫病の主要な原因となっている。

保健政策・保健システムの研究の目的は、「集団的な保健目標」がいかにして達成しうるかをよりよく理解することにある。このことは、経済学・社会学・人類学・政治学・公共保健学などさまざまな学問分野を通じてなしうる。

こうした学術誌の一つが、エルゼビアの発行する『社会科学・人文学オープン』誌である。アフリカ大陸における感染症蔓延の50年を検討し、協調的な公共保健政策によって蔓延が防げるだけではなく、疾患への備えと予防行動に関する重要な教訓を引き出せる、としている。

きわめて重要なことは、専門家が「知識の翻訳作業」を行っていることだ。すなわち、保健システムを強化し健康を改善する上で、世界及び地域でのイノベーションの利益をもたらすために、さまざまな主体が知識を応用するということだ。

「アフリカに関しては、知識の翻訳作業とは土着化のことである。つまり、地元の観点やアプローチを取り入れ、その政策的な介入の影響に関して社会的、文化的、政治的、環境的、保健システム的な状況の効果を考慮に入れるということだ。」

2023年、UCNクラスターは、アフリカ地域の人口の約44%が罹っていると言われる口腔疾患などについて、世界の知識を翻訳し、土着化させた。

African Continent/ Wikimedia Commons
African Continent/ Wikimedia Commons

この文書によれば、アフリカは「この30年で世界の中でも最も口腔疾患の増加率が高い」という。実際のところ治療コストは「きわめて低い」。疾患抑制に関する最新情報の共有が必要なゆえんだ。

この報告は、科学研究とは別に、モーリシャスが禁煙対策に関するWHOのパッケージをアフリカで完全実施した初の国になったことを報告し、同時に、WHOアフリカ支部がコートジボワール・ケニア・ジンバブエで乳ガン・頸椎ガンの発見・治療・ケアを支援する取り組みを開始した、としている。

同様に重要なことは、WHOアフリカ支部が、ナイジェリア政府と協力して、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを定期的なワクチン接種のスケジュールに入れ込んだことだ。700万人以上の女児を対象としており、アフリカでの1回のHPVワクチン接種としては最大の数となる。

2024年1月にこの3年間で住血吸虫症の発症ゼロを記録したアルジェリアでのサクセスストーリーや、アフリカで3番目のマラリア撲滅国と宣言されたカーボベルデも印象的である。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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|パキスタン|100億本植樹プロジェクト:政治がいかにこの素晴らしい取り組みをぶち壊しにしたか

【イスラマバードLondon Post=マジッド・カーン】

「100億本の木の津波」プロジェクトは、大規模な再森林化を通じて環境劣化の問題に取り組むというパキスタンの強い意志を示している。世界的な「10億本植樹キャンペーン」(=国連環境計画がノーベル平和賞受賞者であるワンガリ・マータイ女史と連携して、2007年末までに界中で10億本の植樹を目指して始めた活動)に触発されたこの大胆な活動は、パキスタン全土に100億本の木を植樹し、失われた森を取り戻し、気候変動に対抗し、生物多様性を保つことを目的としていた。この高邁な志と当初の称賛にも関わらず、パキスタンの複雑な政治情勢のためにプロジェクトは危殆に瀕している。

「100億本の木の津波」活動は、2018年初めまでに10億本の植樹を成功させたカイバル・パクトゥンクワ州のプロジェクト「10億本の木の津波」の延長として構想されたものだ。このプロジェクトの成功と国際的な認知を受けて、パキスタン連邦政府は2018年にプロジェクトを全国に拡大することを決め、2023年までに100億本の植樹を目指した。プロジェクトは単なる環境問題への取り組みではなく、国際環境協定や持続可能な開発目標(SDGs)に対するパキスタンの広範なコミットメントにも組み込まれていた。違法伐採や過剰な農業、持続不可能な林業などの緊急の問題に対処し、荒廃した景観を再生させることを目指している。

このプロジェクトは、持続可能な実践を通じた環境再生と経済活性化に焦点を当てた複数の目標を掲げて構成された。主要な環境目標は、森林を取り戻すことでパキスタンのCO2排出を大幅に削減し、土地の劣化と砂漠化を食い止めることだった。経済面では、苗木工場、植樹、森林の育成などで多くの雇用を生み農村地帯に成長をもたらすことを目指した。これにより、大気の質を改善し、エネルギーコストを削減し、地域の生物多様性を高めることで、生態系のバランスを促進し、パキスタンの多様な生態系を維持するために重要な自然の生息地を回復することが期待された。

パキスタン各地に数億本の植樹をしたこのプロジェクトは、開始当初から著しい進展を見せた。地域社会を効果的に動員し、環境意識を高め、持続可能な土地管理の実践を促進した。このイニシアティブは、環境保護団体や政府から国際的な賞賛を受け、大規模な環境保全の先駆的モデルとして高く評価された。このような評価は、このプロジェクトの可能性を示しており、継続的な成功に希望を与えるものであった。

Image credit AFP

政府の強力なバックアップのもとに始まったにもかかわらず、プロジェクトはたちまち論争の種になってしまった。野党はプロジェクトの実施やその透明性に疑問を投げかけ、高邁な理想の背景にある真意を訝った。この政治的抗争は、地域・地方レベルでの権力の交代が頻繁に起きて、プロジェクト実施の継続性と一貫性に悪影響を及ぼした。

プロジェクトは、政治的な反対から、実務的・財政的な障害に至るさまざまな難題に直面した。政治的には、この取り組みは、環境対策というよりも単なるイメージアップ作戦の道具だとしばしば見られており、政治的腐敗や管理不行き届きの汚名を着せられている。実務的に見れば、パキスタンの多様な地域と気候条件においてこれだけ大規模な植樹を行うことは、そもそも困難を抱えている。財政的な持続性も懸念されており、不安定な経済状況と国際支援への依存という状況の中で、長期的に資金を確保する必要がある。

「100億本の木の津波」プロジェクトに対する反応は、社会の様々な領域でまちまちだった。環境活動家や地域社会は全体としてプロジェクトを支持しているが、野党からは懐疑的な見方や批判にさらされた。世論の認識を形成する上で、プロジェクトの成功を強調し、その欠点を浮き彫りにする支持と批判の両方を提供するメディアの役割は極めて重要だ。

政治的な介入によってプロジェクトの進行は妨げられてきた。方針がしばしば変わり、資源の配分が変更され、お役所仕事的な障害もある。イムラン・カーン首相が議会の不信任決議可決で権力の座を追われると、プロジェクトは大幅な後退を強いられた。歴史的に気候変動問題は、現職のシャバーズ・シャリフ首相にとってはあまり重要な問題ではないようだ。他方で、気候問題の専門家らは首相に対して、森林を回復するカーン政権時代のこのプロジェクトを継続するよう求めている。

プロジェクトの目標が政治化され、政府の優先順位に矛盾が生じたため、プロジェクトの実施に一貫性がなくなり、実効性が低下した。プロジェクトへの介入は、不安定な政治状況が環境対策にいかに大きな影響を与えるかを示しており、こうしたプロジェクトを政治的な妨害から守る強力なガバナンス構造が必要であることを印象づけた。

プロジェクトの履行が不完全なことで、環境・経済・社会に広範な悪影響があった。環境面では、植林目標を達成できなかったため、CO2吸収と生物多様性の改善という潜在的な利益に制約が課された。経済面では、プロジェクトは目標とした雇用を創出できず、農村地帯の経済開発にブレーキがかかった。社会面では、プロジェクトの困難と管理のまずさによって、一般からの信頼を失い、このような大規模な環境保全の成功にとって不可欠な政府主導の取り組みに対する熱意を減退させた。

「100億本の木の津波」プロジェクトは、このような重大な困難に直面しながらも、環境保全の一里塚となり、政治的枠組みの中で大規模な環境関連事業を統合する上での重要な教訓を提供してきた。今後の取り組みにおいては、超党派の支持を確保し、透明性を高め、市民参加をしっかりと維持することが重要になってくる。これらの戦略は、環境目標の達成に役立つだけでなく、政治的・経済的課題に対するプロジェクトの回復力を強化し、その効果を高め、長期的な持続可能性を確保することにもつながる。「100億本の木の津波」は、環境保全において何が可能かを示す道標であり、潜在的な利益と、このような野心的なプロジェクトが必然的に直面する複雑な課題を象徴している。(原文へ

※著者のマジッド・カーンはメディア学の博士で、ジャーナリスト、学者、作家である。プロパガンダ戦略、情報戦争、イメージ構築の分析を専門とする。

INPS Japan/London Post

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2024年に注視するべき五つの紛争

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=トビアス・イデ 

平和と紛争という観点で見ると2023年は良い年ではなかった。2023年7月、ウプサラ平和紛争データプログラムは、直近の2~3年間に1945年以降のいかなる時期よりも多くの武力紛争が起こったと発表した。メキシコのカルテル絡みの争い、ロシアによるウクライナ侵攻、ミャンマーの軍事クーデター、西アフリカ諸国の国家脆弱性による苛烈な戦いなどである。さらに最近では、中東でイスラエルとパレスチナにおける大規模な武力衝突が起こっている。(

本稿では、2024年に世界が注視すべき五つの紛争を手短に取り上げたい。人命を危機にさらし、生計を損ない、従って注視に値する紛争はこれよりもっと多いことは明らかである。例えば、コロンビアで進行中の反政府活動、アフリカの数カ国(エチオピア、マリ、スーダンなど)で起きている内戦、台湾をめぐる緊張の高まりなどだが、ここでは、影響が広範囲に及ぶ可能性があり、被害を受けた人々の状況を改善するには国際社会の注目が不可欠と思われる紛争を取り上げる。ただし、そのようなリストにある程度の主観的判断も含まれることは避けようがない。

ウクライナ: ロシアによるウクライナ侵攻からほぼ2年経つが、状況は膠着状態である。ロシアは、戦争の最初の数週間で奪取した領土を大幅に超えて進攻することはできずにいる。同様に、ウクライナが2023年の反転攻勢で奪還した領土もほんのわずかである。侵攻はウクライナの主権(と選挙で選ばれた政府)、ウクライナ国民の人間の安全保障(特にロシア軍の戦争犯罪の数々を考えると)、ルールに基づく国際秩序に対する重大な攻撃である。中国が調整役を果たす可能性はあるものの、今のところ国際制裁の影響を見ると、ロシアが国際圧力に屈することはなさそうである。そのため、ウクライナに対する他の国家と国際社会(国連など)による継続的な軍事支援、経済支援、道徳的支援がいっそう重要になる。

米国: 2024年は全ての国の74%が選挙を迎える。そのうち一部では、過激主義の政党や候補者が権力を握り民主主義の原則が損なわれる可能性が非常に現実的である。米国では近年、著しい政治的分極化が見られており、前回の大統領選をジョー・バイデンが盗んだという(完全に誤りである)思い込みが広まった。その結果、政治的暴力が増加し、2021年初めの連邦議会議事堂襲撃事件へと発展した。2024年の選挙でドナルド・トランプが敗北した場合、あるいは出馬を法的に禁止された場合、同様またはよりひどい政治不安が現実のものとなる可能性がある。そのような注目度の高いイベントに加え、民主党とますます急進化している共和党との間で予算論争が長引いており、その結果、連邦支出の削減や遅延が生じ、それが(とりわけ)ウクライナへの支援や社会的セーフティネットに影響を及ぼしている。2024年の選挙で民主的選択をするかどうかは米国の国民にかかっているが、国際社会は誰であれ正当な勝者として浮上する者をしっかりと支持するべきであろう。

イスラエルとパレスチナ: 2023年10月7日のハマスによる恐ろしい襲撃を受けて、イスラエルは歴史上最も破壊的といえる軍事行動によって反応した。ハマスはイスラエルへのロケット弾攻撃を続けており、一方、西岸地区では急進的なイスラエルの入植者がパレスチナの民間人を恐怖に陥れている。どちらの紛争当事者も、外部からの多大な支援を受けている。それぞれの支援者は、彼らに対し無条件で以下の三つの措置を講じるよう促すべきである。(1)ハマスはイスラエルに対する攻撃を停止し、残りの人質全員を解放し、イスラエルが存在する権利を認めなければならない。(2)イスラエルは、軍事作戦に関連する民間人の犠牲者とインフラ破壊を削減し、ガザ地区への援助拡大を可能にする実質的な措置を講じなければならない。(3)イスラエルは、占領した西岸地区における入植拡大を停止し、現地の過激な入植者を抑制し、西岸地区を将来のパレスチナ国家の主要領土とすることを約束しなければならない。一般市民、国家、そして国連のような国際機関は、紛争の両当事者に対してこれらの措置を講じるよう圧力をかけるべきである。

災害: 2024年は、エルニーニョ現象が最大限の影響を及ぼし、記録的な高温と(世界の地域によっては)多くの場所で厳しい干ばつや破壊的な洪水が起きることが予測される。そのような災害は、抗議活動や反政府感情を誘発することが分かっている。場合によっては、武力紛争の勃発や激化に発展することさえある。例えば、災害によって国家が弱体化する、あるいは絶望した被災者を武装グループがリクルートするといったケースも考えられる。とはいえ、国際的な注目と支援がものを言うことも、研究者らによって示されている。救援物資、救助隊、資金援助(世界銀行やUNICEFなど)が入ることによって、大きな災害後の人道的苦難と政治的不安定の両方を緩和することもできる。同様に、世界の注目の的となれば、武装グループは、評判へのダメージを回避するため、人道上の緊急事態を前に攻撃を続けることをためらう場合が多い。

ミャンマー: デビッド・ブレナーとエンゼ・ハンは最近、大規模な武力紛争であっても国際的には極めて限定的な注意しか引かない場合が多いことを気付かせてくれた。そのような忘れられた紛争に目を向けなければ、これらの戦いに対処するために(激化する前に)取り得る行動について、われわれの理解が限定されてしまう。また、紛争当事者に対して、暴力を抑制し、交渉の席に着くよう促す外部の圧力も限定的となる。ミャンマーでは、そのような忘れられた紛争が起こっている。2021年初め、ミャンマー国軍は2020年11月の選挙結果を退け、政権を退陣させ、暫定軍事政権を樹立した。新政権は、クーデターに対する平和的抗議活動も既存の反政府運動も弾圧し、その過程で重大な人権侵害を働いた。2023年終盤の時点で抵抗勢力連合は国の50%以上を掌握しているが、激しい戦闘が続いており、大量の避難民と人道緊急事態をもたらしている。それにもかかわらず、この紛争は国際的議題として注目度がかなり低く、そのため、紛争当事者に行動を抑制して交渉を開始するよう促す圧力は、国家や国際機関からあまりかけられていない。

現在の世界的な動向を踏まえると、2024年は特別に平和な年とはなりそうもなく、時には見るのもつらいほどになるだろう。しかし、目をそらすことは選択肢ではない。なぜなら、世界の注目と連帯によって、少なくとも一部の残虐行為を現場で防ぐことができるからである。

トビアス・イデは、マードック大学(オーストラリア・パース)で政治・政策学講師、ブラウンシュバイク工科大学で国際関係学特任准教授を務めている。環境、気候変動、平和、紛争、安全保障が交わる分野の幅広いテーマについて、Global Environmental Change、 International Affairs、 Journal of Peace Research、 Nature Climate Change、 World Developmentなどの学術誌に論文を発表している。また、Environmental Peacebuilding Associationの理事も務めている。

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世界報道の自由デー2024

【ニューヨーク/東京INPS Japan/IPS NORAM】

ジャーナリズムは再び危機に瀕している。

報道の自由に対する挑戦は巨大かつ多面的である。

そしてそれは、「自由」で開放的な社会においても、また専制的な国家においても深まっている。

2023年、世界各地で45人のジャーナリストが職務中に命を落とした。

2023年12月1日現在、世界中で363人のジャーナリストが投獄されている。

昨年10月にイスラエル・ガザ戦争が始まって以来、100人近いジャーナリストやメディア関係者が殺害された。

これは紛争地域における死者数としては過去数十年で最悪である。

生命への脅威だけでなく、2023年には何万ものメディアの雇用が失われた。

デジタル優位のこの時代、ソーシャルメディアはますます視聴者を分断している。

私たちは、自由と民主主義が蝕まれていくのを目の当たりにしている。

ロシアではジャーナリストが大量に国外に流出した。

香港は(報道の自由に関して)かつての面影はない。

ミャンマーの政権は記者を殺し、牢獄に閉じ込めている。

アメリカ人の3分の2以上がマスメディアを信用していないと答えている。

優れた報道も行われているが、その多くは目に触れることなく、あるいは完全に見過ごされている。

とりわけ、気候変動や地球の状況に関する報道に関してこの傾向は顕著である。

インドで殺害された28人のジャーナリストのうち、少なくとも13人は環境に関連した記事を担当していた。

そのうちの何人かは、いわゆるサンド・マフィアと呼ばれる、建設業界に砂を供給する組織的犯罪ネットワークを調査取材中に殺害された。

今年、ユネスコは「世界報道の自由デー」を、現在の世界的な環境危機におけるジャーナリズムと表現の自由の重要性に捧げる。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

IPS News Agency

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