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移民の国が多数の難民と庇護申請者を強制送還

【国連IPS=タリフ・ディーン】

米国は、主に移民によって築かれた国と長らく称されてきたが、移民、難民、庇護申請者の流入を抑制する計画を進めている。2022年から23年にかけて、その数は平均約240万人に達すると、米国議会予算局(CBO)は報告している。

トランプ次期政権は、主に不法移民や未登録労働者を対象とした「大量強制送還」を提案している。

1月20日から2期目の大統領に就任予定のドナルド・トランプ氏は、移民政策での強硬姿勢を継続する意向を示し、米国憲法第14条で保証されている出生地主義の廃止を公約した。これにより、米国内で生まれた子どもへの市民権付与が終了する可能性がある。また、トランプ氏はカナダとメキシコに対し、違法移民や薬物の流入を抑制しなければ、両国からの輸入品に25%の関税を課すと警告している。

トランプ氏が2017年から21年の任期中に、ハイチやアフリカ諸国を「糞溜めの国」と表現したことで、55か国から成るアフリカ連合(AU)の抗議を招いた。また、トランプ氏は「すべてのハイチ人がエイズを持っている」「ナイジェリア人は米国を訪れると自国に帰らない」といった侮辱的な発言でも非難を受けた。

一方、中東では、シリアの独裁的なバシャール・アル・アサド政権の崩壊という良いニュースがある一方、トルコにいる300万人以上のシリア難民がシリアに強制送還される可能性も報じられている。また、ドイツにいるシリア難民も同様の状況に直面する可能性がある。

12月14日のニューヨーク・タイムズ紙によれば、ドイツは他の欧州諸国よりも多くのシリア難民を受け入れており、現在10万人以上がドイツ市民になっている。しかし、この流入が排外的な極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の台頭を助長しているとの批判もある。同党は、シリアやアフガニスタンからの難民、とりわけ若い男性を日常的に侮辱している。

米国における難民と庇護申請者の急増は、ベネズエラでの政治的暴力や独裁主義、ハイチでのギャング暴力が一因とされている。国連人口部の元部長で人口学コンサルタントのジョセフ・チャミー氏は、世界は「大移動の衝突」の真っ只中にあり、それは「自国を出たい人々」と「他国からの移民を拒絶したい人々」との間の激しい争いだと語った。チャミー氏はまた、「移住希望者は全世界で10億人以上、移民の流入を制限したいと考える人々も10億人以上います。」と指摘したうえで、「人口動態、気候変動、貧困、飢餓、暴力、武力紛争といった強力な要因が、世界的な移民問題を悪化させています。開発途上国における潜在的移民の供給は、先進国での移民需要を大幅に上回っているのです。」と語った。

不規則な移民を選択する人々が増加しており、その多くは到着後に庇護を求めている。

米国のニュースチャンネルCNNは12月19日、トランプ次期政権の「国境対策責任者」トム・ホーマン氏が、大規模な不法移民の送還計画を進めており、そのために議会からの資金が必要だと語ったと報じた。ホーマン氏はインタビューで、トランプ氏の大量強制送還の公約を実現するために、最低でも10万の収容施設ベッドが必要だと述べている。

国際移民デーである12月18日、アントニオ・グテーレス国連事務総長は次のように述べた。「今日は、移民が直面する課題―偏見や差別、さらには露骨な暴力や虐待、人身売買という想像を絶する残虐行為―を思い起こす日です。」また、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際移住機関(IOM)、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連の人身売買特別報告者、さらには人道支援団体が共同で行動を呼びかけ、海上で危険にさらされている難民や移民の保護を各国に求めた。


「この呼びかけは、私たちがここでしばしば議論するように、増え続ける犠牲者数によって促されたものです。毎年、数千人の難民や移民が、暴力、迫害、貧困から逃れるために命がけの旅を試みています。」とグテーレス事務総長は語った。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU REPORT

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2025年の市民社会の潮流:9つの世界的課題と1つの希望の光

【ロンドン/モンテビデオIPS=アンドリュー・ファーミン、イネス・M・ポウサデラ】


2024年は、激動の一年だった。人権のための闘いにおいても厳しい試練の年となった。社会正義を追求し、権力者に責任を問う市民社会の取り組みは、あらゆる場面で試された。それでも市民社会は闘い続け、不正義を告発し、時には大きな犠牲を払って勝利を収めてきた。しかし、2025年も決して楽観できる状況ではない。2024年に浮き彫りとなった主要な課題は、2025年さらに深刻化することが予想される。

  1. 紛争とその影響の拡大
Andrew Firmin
Andrew Firmin

より多くの人々が、紛争やその結果である人道的・人権的災害、大規模な避難、長期的なトラウマに直面する可能性が高まっている。2024年のメッセージは、主に「不処罰」の問題を示している。イスラエルやロシアを含む紛争の加害国は、国際的な圧力を退け、責任を逃れることができるという自信を深めるだろう。ガザでの停戦やロシア・ウクライナ紛争の停止が一時的に実現したとしても、大規模な残虐行為の責任者が正義を追及される可能性は低いと見られる。また、ミャンマーやスーダンなど、国際的な注目をほとんど受けていない紛争においても、不処罰が横行する可能性が高い。

さらに、戦争における人工知能(AI)や自律型致死兵器システム(LAWS)の使用についての懸念が高まっているが、この分野は規制が著しく不十分なままである。レバノンやシリアでの最近の出来事が示すように、イラン、イスラエル、ロシア、トルコ、米国などの国々の計算が変化する中で、凍結状態にあった紛争が再燃し、新たな紛争が発生する可能性がある。シリアの場合のように、これらの変化は突発的な好機を生むことがあるが、国際社会と市民社会は、その機会を迅速に活用する準備が求められる。

2. トランプ政権下での世界的影響

トランプ政権の2期目は、多くの現在の課題に対して世界的な影響を与えるだろう。イスラエルへの圧力を軽減し、気候危機への対応を妨げ、既に欠陥があり困難に直面している国際統治機関にさらなる負担をかけ、世界中の右派ポピュリストやナショナリストを勢いづかせる可能性が高いと見られる。これらの影響は、市民社会の自由(結社、表現、平和的集会の自由)に依存する市民社会の活動空間に対して、否定的な結果をもたらすだろう。また、新政権の政策優先順位の変化により、市民社会への資金提供も大幅に削減される可能性がある。

Inés M. Pousadela
Inés M. Pousadela

3.気候変動への取り組みの分岐点

2025年は、パリ協定の下で各国が温室効果ガス排出削減および気候変動への適応に向けた新たな計画を策定する必要がある年だ。このプロセスは、ブラジルで開催されるCOP30気候サミットで最高潮を迎える。このサミットは、産業革命前の水準と比較して地球の気温上昇を1.5度に抑えるための、世界最後のチャンスとなる可能性がある。しかし、それを実現するためには、各国が化石燃料企業に対抗し、狭い短期的利益を超えた視点を持つ必要がある。これに失敗した場合、議論の焦点は適応策に移る可能性がある。

気候変動への移行費用を誰が負担するのかという未解決の問題は引き続き中心的な課題となるだろう。一方で、熱波や洪水などの極端な気象現象は引き続き地域社会を壊滅させ、高い経済的コストをもたらし、移住を促し、紛争を悪化させることが予想される。

4. 経済的不安の増大

世界的に経済の機能不全が増加すると予想され、より多くの人々が基本的な生活必需品、特に住宅を手に入れるのに苦労するようになるだろう。価格の上昇は、気候変動や紛争がその一因となっている。苦しむ大多数と超富裕層の間の格差が一層目に見えるようになり、物価や税金の上昇への怒りが、特に機会を奪われた若者を街頭へと駆り立てるでだろう。それに対して国家による弾圧が頻繁に行われることが予想される。現状への不満が続く中、人々は政治的な代替案を模索し続けるだろう。この状況を右派ポピュリストやナショナリストが引き続き利用することが予想される。一方で、特に若い労働者を中心に労働権の要求が増加し、富裕税や普遍的なベーシックインカム、短時間労働制などの政策への圧力も強まるだろう。

5. 選挙と政治の動向

過去最多の有権者が投票に参加した年が終わったが、今後も多くの選挙が予定されている。選挙が自由で公正に行われる場合、特に経済的困難を背景に、現職者が拒否される傾向が続くと見られる。右派ポピュリストやナショナリストが最も利益を得る可能性が高いが、彼らが政治体制の一部として認識されるほど長くその地位を保持すれば、最終的にはその地位も脅かされるだろう。そして、その際には権威主義、弾圧、排除された集団のスケープゴート化を通じて対応すると予想される。その結果、政治的に操作された女性嫌悪、同性愛嫌悪、トランスジェンダー嫌悪、反移民の言説がさらに広がる可能性がある。

6. AIとデジタル技術の課題

現行モデルが人間が生成した素材の限界に達することで生成AIの発展が減速するとしても、国際的な規制やデータ保護の進展は引き続き遅れるだろう。活動家に対する顔認識などのAIを活用した監視技術の使用は増加し、より一般化する可能性がある。また、特に紛争や選挙を巡って偽情報の課題がさらに深刻化すると予想される。

一部のテクノロジーリーダーは右派ポピュリストや権威主義者の側につき、自身のプラットフォームや富をその政治的野心のために提供している。新興の代替ソーシャルメディアプラットフォームには一定の可能性があるが、成長するにつれて同様の問題に直面する可能性が高い。

7. 移住と難民問題の拡大

気候変動、紛争、経済的困難、LGBTQI+アイデンティティへの抑圧、さらには市民的および政治的な抑圧が、今後も避難や移住を促進する要因となり続けるだろう。移民の多くは、依然として困難で資金が不足した状態のグローバルサウス諸国に留まることが予想される。一方で、グローバルノースでは右派の台頭が、より制限的かつ抑圧的な政策、例えば移民を危険な状況にある国へ追放する政策を推進すると見られる。海や陸の国境で支援を行いながら移民の権利を守る市民社会への攻撃も一層激化する可能性がある。

8. 女性とLGBTQI+の権利に対する反動

女性とLGBTQI+の権利に対する反動も続く。米国の右派勢力は、特にコモンウェルス・アフリカ諸国において、グローバルサウスで反権利運動を資金提供し続ける。一方、欧州の保守団体も、スペインの一部の組織が長年ラテンアメリカで行ってきたように、反権利キャンペーンを輸出し続けるだろう。また、ロシアの国営メディアを含む多様な情報源からの偽情報が引き続き世論に影響を及ぼすだろう。このため、市民社会は主に既得権益の維持や後退の防止に注力せざるを得なくなるだろう。

9. 市民社会への圧力の増大

これらの傾向の結果として、市民社会組織や活動家が自由に活動する能力は、ほとんどの国で引き続き圧力を受けることになる。市民社会の活動が最も必要とされる時期に、基本的な市民的自由への制限が強化される見通しだ。これには、NGOに対する規制法や市民社会を外国勢力のエージェントとして認定する法律、抗議活動の犯罪化、活動家やジャーナリストの安全に対する脅威の増加が含まれる。市民社会は、自らの活動空間を守るためにより多くのリソースを割かざるを得なくなり、その結果、権利の促進と進展のために利用可能な資源が減少することになる。

希望の光

これら多くの課題にもかかわらず、市民社会はあらゆる分野で努力を続けていく。市民社会は、アドボカシー、抗議活動、オンラインキャンペーン、戦略的訴訟、国際外交を組み合わせながら行動を続ける。また、課題の相互連関性や国境を超えた性質についての認識が高まる中、国家の枠を超えた連帯行動を強調し、異なる文脈での多様な闘争とのつながりを構築していくだろう。

厳しい状況の中でも、市民社会は2024年にいくつかの注目すべき勝利を収めた。チェコ共和国では市民社会の努力が強姦法の画期的な改革を実現し、ポーランドでは緊急避妊薬を処方箋なしで利用可能にする法律が制定され、以前の制限的な立法を覆した。タイでは市民社会の広範なアドボカシー活動の結果、東南アジアで初めて婚姻平等法が可決され、ギリシャでは主にキリスト教正教会を信仰する国として初めて同性婚を合法化した。

市民は民主主義を守った。韓国では多くの人々が街頭に繰り出し、戒厳令に抵抗した。バングラデシュでは抗議活動が長年続いた権威主義的政府の退陣をもたらした。グアテマラでは、市民社会が組織した大規模な抗議活動により、有力エリートたちが選挙結果を尊重するよう求め、腐敗と闘うことを掲げる大統領が就任した。また、ベネズエラでは、何十万人もの人々が選挙の正当性を守るために組織し、選挙で権威主義的政府を打ち負かし、結果が認められない場合には厳しい弾圧にも屈せず街頭に立ち続けた。セネガルでは、市民社会が選挙の延期を防ぎ、野党の勝利を導いた。

気候変動と環境に関する訴訟においても、市民社会は勝利を収めた。エクアドル、インド、スイスでは、政府に対して気候変動が人権に与える影響を認識し、排出削減や汚染防止を強化するよう訴訟を通じて強制した。また、市民社会は裁判を通じて政府に対し、イスラエルへの武器輸出を停止するよう求めた。オランダでは成功した判決が下され、他の訴訟も進行中だ。

2025年、市民社会の闘争は続く。より平和で、公正で、平等で、持続可能な世界が可能であるという希望の灯火を掲げ続けるだろう。この理念は、困難な状況の中でも達成され続ける具体的な成果と同様に重要であり続ける。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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マスツーリズムがもたらす経済効果と受け入れ側の負荷

【SciDev.Net=ランジット・デブラジ】 

昨年8月、絵のように美しいヒマラヤ山脈に位置するブータン王国は、外国人観光客に課している「Sustainable Development Fee」(SDF = 持続可能な開発費用)と呼ばれる一人一泊あたりの観光税を半額の100米ドルに引き下げた。

Doug Knuth from Woodstock, IL - Paro , CC 表示-継承 2.0
Doug Knuth from Woodstock, IL – Paro , CC 表示-継承 2.0

この税金は、「雇用創出、外貨獲得、経済成長の促進における観光産業の重要な役割」を果たすもので、2022年9月には、観光によるカーボン・オフセットのため、SDFを約30年間続いた65ドルから200ドルに引き上げた。

しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて制限してきた国外からの観光客の受け入れを再開後も、ブータン王国への旅行者数は期待通りに回復することはなかった。

この状況は、ブータン王国に限らず、アジア太平洋地域の多くの国々が抱える共通の課題である。環境負荷が大きいオーバーツーリズムへの対応と、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンや自然災害で打撃を受けた経済を回復させるために不可欠な外貨獲得を両立させるという難しい課題に直面している。

Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain
Coronaviruses are a group of viruses that have a halo, or crown-like (corona) appearance when viewed under an electron microscope./ Public Domain

国連世界観光機関(UNWTO)によると、観光産業は、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で最も大きな打撃を受けた産業である。

アジア地域の人気観光地では、新型コロナウイルス感染症の世界的流行以前から、オーバーツーリズムによる環境破壊や地域社会への負の影響が深刻化し、入域制限 や施設閉鎖といった対策が講じられてきた。

2018年には、タイのピピ・レイ島のマヤ湾が、映画 『ザ・ビーチ』のロケ地として知られるようになったことを契機に、観光客の急増による海洋生態系の破壊が深刻化し、一時閉鎖に追い込まれた。同年、フィリピンのボラカイ島も同様の問題を抱え、環境修復のために6ヶ月間閉鎖措置が実施された。また、インドネシアのバリ島においても、環境整備保全や生活文化の保全·維持など持続可能な観光づくりのための観光税を今年導入した。

しかし、これらの国々は、観光収入に大きく依存しているため、大幅な規制を課すことは難しい。アジア地域では、インフラ、所得水準、政治体制が国ごとに大きく異なるため、それぞれの国に合った持続的な観光モデルを導入しなければならない。

日本やシンガポールは、インドネシアやフィリピンとは異なる経済構造を有しており、観光産業における成長戦略も変わってくる。各国が直面する課題は、観光産業がGDPに占める割合をどのように設定し、外国人観光客の誘致拡大に伴う潜在的なリスクをいかに評価をするかにある。

ブータン王国は、収益を炭素貯蔵林の保全やクリーンエネルギープロジェクトを通じた持続可能な開発に投資する「高付加価値で少人数」の観光モデルを導入しており、南アジアで唯一の「カーボン・マイナス国家」(年間の温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る国)となった。しかし、ブータンの人口密度は1平方キロメートルあたりわずか20人である。

これに対し、隣国のバングラデシュでは1平方キロメートルあたり1329人が暮らしている。両国は気候変動に対して脆弱であるが、その様相は大きく異なる。ブータンが氷河の縮小を懸念している一方で、バングラデシュは海岸線が海面上昇の影響を非常に受けやすいデルタ地帯である。

気候変動による異常気象は、アジア太平洋地域の沿岸部を中心に甚大な被害をもたらし、観光インフラへの直接的な打撃となっている。2004年のインド洋大津波が示すように、自然災害は観光地を壊滅させ、地域経済に深刻な影響を与える。

また、同地域は、新型コロナウイルス感染症だけでなく、SARSやMERSといった感染症の脅威にも晒されてきた。これら保健衛生上の緊急事態は、医療体制の逼迫や旅行制限、国境封鎖などを招き、観光産業は大きな打撃を受けた。企業の倒産、 雇用喪失、景気後退など、世界的な観光業界では十分に考慮されていない影響が、地域経済に広範囲に及んでいる。

新型コロナウイルス感染症の世界流行は、グロー バルな観光産業の相互依存関係と、国境を越えた健康危機に対する国際的な連携の重要性を如実に示した。

一方、観光客の急増は、地域社会に深刻な影響をもたらしている。家賃や不動産価格の高騰といった経済的な影響に加え、長蛇の列や騒音といった生活環境への直接的な影響や、歴史的建築物の損傷や宗教施設への冒涜といった文化的な側面への悪影響も無視できない。さらに、地域住民の生活基盤を支える資源にも大きな負担をかけ、食料価格の上昇や供給不安定化といった問題を引き起こす。

観光は、宿泊施設、航空便、現地の交通機関に関連して、世界の二酸化炭素排出量の約8パーセントを占めている。高所得国の訪問者がこれらの排出量のほとんどを占めており、旅行が増加するにつれて、観光による環境への影響も大きくなる。

世界観光機関(UNWTO)と国際交通フォーラム(ITF)が発表した2019年の報告書では、2030年までに国際観光による交通関連の排出量は2016年の水準と比較して25%増加し、国内観光による排出量は同期間で21%増加すると予測している。

また、オーバーツーリズムは観光地としての評判にも悪影響を及ぼす可能性がある。記念建造物に並んで入場したり、ホテルやホームステイの料金が値上がりしたり、食事代が法外な額になったりすることを喜ぶ観光客はほとんどいないだろう。

衛星データなどを活用した観光アナリティクスプラットフォーム「Murmuration」も調査によれば、世界中の旅行客の80%が、わずか10%の観光地に集中していると推定している。各国は、少数の観光地に集中するのではなく、観光地の代替地を開発することで負荷を分散する必要がある。

UNWTOの予測によると、2030年までに世界全体の観光客数が18億人に達する見込みであり、すでに人気の観光地への圧力がさらに高まる可能性が高い。

観光客の過度な集中による負の側面を緩和するためには、送り出し国と受け入れ国間の国際協力が不可欠である。両国が協力し、友好的なビザ制度の構築、観光客による破壊行為の防止、地域住民との共生に向けた取り組み、そして自然環境や文化遺産の保護のための資金やノウハウの共有を図ることで、持続可能な観光を実現することが可能となる。

Crowds at the Trevi Fountain in Rome Credit:Public Domain.

また、新たな観光地や代替地の共同開発は、観光客の分散化を促進するうえで有効な手段である。 道路、ホテル、施設などの観光インフラへの投資を通じて、魅力的な観光ルートを創出し、多様な観光資源を開発することで、観光客の選択肢を広げることができる。

観光は、単なる外貨獲得手段にとどまらず、地域経済の活性化や文化交流の促進など、地域社会に多大な貢献を果たす重要な産業である。

すべての問題を解決する万能な解決策は存在しないため、地域住民、観光事業者、行政機関など、様々なステイクホルダーの意見を聞きながら、多角的な視点で解決策を模索していくことが重要である。(原文へ

INPS JAPAN

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|視点|暴走列車に閉じ込められて:2024年を振り返って(ファルハナ・ハクラーマンIPS北米事務総長・国連総局長)

【トロントIPS—ファルハナ・ハク・ラーマン】

時に、自分が回し車の上で走り続けるハムスターのように感じたり、あるいは深淵に向かって突進する暴走列車に閉じ込められているように感じたりしたことはないだろうか。2024年を振り返ると、どの比喩を選んでも、虹が簡単に思い浮かぶことはない。

1年前から既に進行していた戦争や紛争はさらに悪化し、民間人、特に女性や子どもたちに恐ろしい暴力が振るわれ、何百万人もの人々が避難を余儀なくされた。パレスチナのガザ地区、スーダン、ウクライナ、ミャンマー、コンゴ民主共和国、サヘル地域、ハイチ…リストはますます長くなっている。

Special reports on COP 29 in Baku. Creidt: IPS
Special reports on COP 29 in Baku. Creidt: IPS

アゼルバイジャンのバクーで開催された第29回気候変動枠組条約締約国会議(COP29)は、地球規模の気候危機に対処するための合意を模索することを目的としていた。国際通信社インタープレスサービス(IPS)が詳細に報じた2週間にわたる交渉は崩壊寸前まで追い込まれ、最終的には完全な失敗を免れたに過ぎなかった。

2024年が史上最も暑い年として記録される勢いの中、貧困国向けの気候資金に関する意味のあるバクー合意は、再び強大な国々とその地政学的な対立によって阻まれた。これらの国々は、既に増加している債務を背景に責任追及を巡り争っていた。気候とエネルギーに関するシンクタンク「パワーシフト・アフリカ」のモハメド・アドウ氏は次のように述べている。

「バクーでは、豊かな国々が本当の資金を出さず、漠然として責任のない資金調達の約束だけを掲げる‘大脱走’を演じた。」

また、強力な影響力と富を誇りながらも「豊かな国」として定義されることを拒む主要排出国である中国やインドも、バクーではほとんど責任を逃れたと言えるだろいう。

新しい基金の資金に関する争いは、コロンビアのカリで開催された生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)でも同様に進展を妨げ、疲弊した代表団は合意に達することができなかった。

大量絶滅を防ごうとする人々にとって痛手となったのは、各国が生物多様性の喪失に対処する進捗を監視する新たな枠組みに合意できなかったことだ。

生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の新たな画期的な報告書は、人々が自然界をどう見ているか、そしてどのように関わっているかについての深い根本的な変化が、生物多様性の喪失を止め、逆転させ、地球上の生命を守るために緊急に必要であると警告している。

IPBESの生物多様性喪失の根本原因と変革的変化の決定要因、および2050年ビジョン達成のための選択肢に関する評価報告書(通称「変革的変化報告書」)は、2019年のIPBESグローバル評価報告書に基づいている。この報告書では、世界的な開発目標を達成する唯一の方法は「変革的変化」であると結論づけている。また、2022年のIPBES価値評価報告書も基盤となっている。

これらの問題において人類への貢献は極めて重要であるものの、大国が主導する舞台の脇役として追いやられているのが、国連人道問題調整事務所(OCHA)、国際移住機関(IOM)、世界保健機関(WHO)といった組織だ。これらの組織は、破滅の予兆を示しつつ、残骸の中で必要不可欠な修復・維持作業を遂行しようとしている。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

国連人道問題調整事務所(OCHA)の気候チーム責任者であるグレッグ・プーリー氏は、COP29で野心的で公平なグローバル気候資金目標を求める強い警鐘を鳴らした。

「今年だけでも、サヘルでの壊滅的な洪水、アジアとラテンアメリカでの極端な熱波、南部アフリカでの干ばつを目の当たりにしました。」と彼はIPSの取材に対して語った。

UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe
UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe

また、11月にイスラエルに対してガザ北部への攻撃を停止するよう求めた訴えも無視された。15の国連およびその他の人道支援組織は、そこでの危機を「黙示録的」と表現した。この文脈で、世界保健機関(WHO)は、ガザ地区でのポリオ予防接種の第2回目が部分的に成功したと報告している。

国連人権高等弁務官事務所の分析によれば、ガザ戦争で死亡した人々の約70%が女性と子どもだったことが明らかになっている。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は11月6日、「ガザは子どもたちの墓場になりつつあります。」と指摘したうえで、「報道によると、少なくとも過去30年間のどの紛争よりも多くのジャーナリストがわずか4週間の間に殺害されています。また、国連の援助活動家がこれほど多くの犠牲を出した期間は、我々の組織の歴史上比較対象がありません。」と語った。

ocation of Sudan Credit: Wikimedia Commons.
Location of Sudan Credit: Wikimedia Commons.

スーダンでは、紛争によって国内で1,000万人以上が避難を余儀なくされ、さらに220万人が国外に逃れている。交戦する勢力は定期的に民間人を攻撃し、女性に対して恐ろしい暴力を振るっている。スーダンを逃れざるを得なかった活動家でジャーナリストのマディハ・アブダラ氏は、IPSに寄稿し、女性の人権擁護者がどのように標的にされているかを記述した。

スーダンの苦境がこれほど深刻であるにもかかわらず、国際社会の関心は薄れつつあり、援助も妨げられている。ロシアは国連安全保障理事会の停戦決議を拒否した。11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」を世界が迎える中、UN Womenのデータによると、世界中で女性の3人に1人が人生で少なくとも一度、身体的および/または性的暴力を受けたことがあるとされています。

アブダラ氏のような個々の活動家は、紛争時にほとんど支援を受けられず、特に脆弱な立場に置かれている。しかし2024年は、組織全体が撤退を余儀なくされる事例も見られた。ハイチがその一例である。ギャングによる暴力が激化し、特に資金不足の多国籍安全保障支援ミッションの展開以降、70万人以上が避難を余儀なくされている。

Location of Haiti Credit:Wikimedia Commons.

30年以上にわたりハイチで活動してきた「国境なき医師団」は、地元の法執行機関からスタッフや患者に対する繰り返しの脅迫を受けたことを受け、首都ポルトープランスでの重要な医療提供を停止すると発表した。また、国連も「ポルトープランスにおける存在感の一時的な縮小」と表現しつつ、首都から職員を避難させる命令を出した。国際連合児童基金(ユニセフ)は、前例のない数の子どもたちがギャングに徴用されていると報告している。

ハイチからの難民は、ドナルド・トランプ氏の米大統領選挙キャンペーンにおいても一種の「武器」として利用された。トランプ氏は、ハイチ移民がオハイオ州スプリングフィールドの住民の犬や猫を食べていると非難しました。この虚偽の主張は広く否定されたが、最終的に成功を収めたトランプ氏の選挙キャンペーンを妨げることはなかった。トランプ氏は、大統領に選出された場合、不法移民の大量追放を行う意向を繰り返し宣言している。

皮肉なことに、トランプ氏の追放計画は、国際移住機関(IOM)が発表した2024年版「世界移住報告書」によってさらに加速する可能性がある。同報告書では、世界の国際移民数が史上最多の2億8,100万人に達したとされています。これにより、移民たちが母国に送金する金額も急増し、数千億ドル規模に達しており、これが発展途上国のGDPの「重要な」部分を占めるようになっている。

トランプ氏が国際機関やその加盟による拘束力のある協定を軽視する姿勢を取っていることから、彼が2016~21年の任期中に行った極端な行動、例えば米国をパリ気候協定から脱退させたり、WHOへの拠出金を凍結したりしたことが、再び繰り返される可能性が高いと見られている。

2024年が終わりに近づき、シリアで戦争が再び広がる不安定な状況の中、トランプ氏の孤立主義的な米国の姿勢は、普段あまり注目されない組織の重要性を改めて思い起こさせる。例えば、ハンセン病とその汚名を終わらせるために活動する笹川財団、アフリカの小規模農家と食料システムの変革に取り組むIITA/CGIAR、新しいマラリア免疫ワクチンを開発する科学者たちなどである。…今回は長くポジティブなリストである。

気候問題においても、遅すぎるとはいえ、進展を認識し育てるべきだ。例えば、2024年に年間温室効果ガス排出量がピークを迎える可能性があるという期待がある。これは、太陽光や風力発電能力の飛躍的な向上が一因となっています。

2024年が示したように、人々には変化をもたらす力がある。トランプ氏を選ぶにしても、腐敗した独裁者を排除するにしても、それは私たち次第なのだ。

バングラデシュの暫定政府の最高顧問であり、ノーベル平和賞受賞者でもある84歳のムハマド・ユヌス博士は、国連での初演説で「普通の人々」、特に若者たちの力について語り、大規模な抗議運動による政府の腐敗や暴力への反発が、8月に当時の首相シェイク・ハシナを退陣させた後、「新しいバングラデシュ」を築く可能性に言及した。

私たちは深淵に向かう列車に乗っているかもしれないが、ブレーキをかけるための知識と道具を持っている。ただ、その教訓を学び取ることができればの話だが。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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共感から始まる平和:SGIが目指す核軍縮と社会変革への道(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビュー)

トカエフ大統領、新年のスピーチで国の進展を強調

【The Astana Times=アッセル・サトゥバルディナ

カシム=ジョマルト・トカエフ大統領は、新年のスピーチで2024年のカザフスタンにおける重要な進展を強調し、過去1年が「重要な出来事に彩られた年」であったと述べた。この内容はアコルダ大統領府の報道部が伝えた。

「この家族志向の祝日において、まず最初に、我が国の平和と繁栄、そして全ての市民の幸福を心から願っています。2024年は多くの出来事があり、重要な進展に彩られた1年でした。我々が開始した包括的な改革は、その最初の成果を上げました。」と、トカエフ大統領は約10分間のスピーチで語った。

経済発展

「私たちは新しい経済方針を実行するために果断な一歩を踏み出しました。製造業は急速に発展し、大規模な工業企業が立ち上がり、投資環境も改善しました。」とトカエフ大統領は述べた。

The longest bridge over the Bukhtarma reservoir in the East Kazakhstan region. Photo credit: primeminister.kz Click to see the map in full size. The map is designed by The Astana Times.
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カザフスタン経済省の最新データによると、2024年の11か月間で国内総生産(GDP)は4.4%成長した。分野別では、農業と建設業が最も高い成長を示している。貿易は8.2%、輸送サービスは8.1%、製造業は5.3%の成長を記録した。また、2024年にはカザフスタンは、国際経営開発研究所(IMD)の世界競争力ランキングで67か国中35位にランクインした。

「何千キロもの道路が再建され、国内最長の橋が完成しました。我が国の農業生産者は記録的な収穫を達成しました。」とトカエフ大統領は付け加えた。

国際的な評価

トカエフ大統領は、国際舞台におけるカザフスタンの影響力が高まっていることを強調し、アスタナが国際機関の重要なサミットを開催したことに言及した。

「最高レベルで開催された ワールド・ノマド・ゲームズ(世界遊牧民競技会) には、89か国から数千人のアスリートや外国のゲストが集まりました。この大会は、遊牧民文明の独自性と独創性を世界に示す場となりました。」とトカエフ大統領は述べた。

また、「カザフスタンのアスリートたちの勝利のおかげで、我が国のターコイズの旗がオリンピックやパラリンピックの舞台で誇らしく掲げられました。さらに、我が国の学生たちも国際学術大会で多くのメダルを獲得しました。」と語った。

国民の連帯

トカエフ大統領は、春に発生した壊滅的な洪水にも言及した。この災害では数千人が避難を余儀なくされた。

「これらの困難にもかかわらず、我が国民は連帯と揺るぎない団結を示しました。被災者全員が必要な支援を受け、国家は誰一人取り残さず、すべての義務を果たしました。」と述べた。

今後の展望

Kazakhstan celebrates peoples unity day. Cedit Silkway TV
Kazakhstan celebrates peoples unity day. Cedit Silkway TV

トカエフ大統領は、「2025年をさらに実り多い年にするために、私の力の限りを尽くします。」と述べた。

「私たちは、体系的な改革を継続し、計画したすべての取り組みを実行していきます。」と語った。

また、「政府は、経済の安定した成長を確保するために効果的に取り組む必要があります。新たな生産施設を立ち上げ、事業環境を改善し、道路の建設を続け、公共サービス分野の問題に対処しなければなりません。」と述べた。

さらに、デジタル技術、特に人工知能(AI)の活用を引き続き推進するべきだと強調した。

「これらすべての取り組みの主な目標は、国民の幸福を向上させることです。」と締めくくった。(原文へ

INPS Japan/The Astana Times

この記事は、The Astana Timesの許可を得て掲載しています。

Link to the original article on the Astana Times:https://astanatimes.com/2025/01/president-tokayev-highlights-nations-developments-in-new-year-speech/

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2024年は、観測史上最も暑い年となる見込み

【国連IPS=オリトロ・カリム】

世界気象機関(WMO)は、2024年が観測史上最も暑い年となる見込みであると警告しており、2023年を上回る記録的な暑さが予想されている。この原因として、化石燃料への依存が強まり、世界中の産業がグリーンエネルギーへの転換に消極的であることが挙げられる。地球温暖化の急速な進行に科学者たちは警鐘を鳴らしており、環境、経済、社会への影響に対する懸念が高まっている。

この事実を受け、COP29(国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議)がアゼルバイジャンのバクーで開催されるのを前に、アントニオ・グテーレス国連事務総長は「人類は地球を焼き尽くし、その代償を払っている。」と述べた。

さらに2024年は、産業革命前の平均気温を1.5℃以上上回る初の年となった。欧州連合(EU)の気候変動サービス機関「コペルニクス(C3S)」のデータによれば、2024年の平均気温は1.60℃に達すると予想され、昨年の1.48℃から大幅に上昇している。

パリ協定は、196カ国が署名した国際条約で、2030年までに炭素排出量を43%削減し、気候危機を緩和することを目的としている。C3Sのサマンサ・バージェス副所長は、「気温上昇がパリ協定を実現不可能にするわけではないが、気候危機を一層緊急の課題にしている。」と述べた。

オックスフォード大学が主催する研究プラットフォーム「オックスフォード・ネットゼロ」によると、地球の平均気温を1.5℃に戻すには、化石燃料による排出量を43%削減する必要がある。世界中の主要企業や政府は、これらの目標を達成するために炭素排出量削減計画を発表している。

世界の産業界が化石燃料の消費削減や代替エネルギーの採用を徐々に進めている一方で、過去30で石炭の世界消費量はほぼ2倍に増加しています。国際エネルギー機関(IEA)は12月18日に「Coal2024」という包括的な報告書を発表し、2020年代の石炭消費を分析するとともに、今後3年間の予測を提供した。

報告書によると、2023年の世界の石炭需要は過去最高の8,687百万トンに達し、前年比で2.5%増加した。2024年にはさらに1%増加すると予想されている。この需要増加は、水力発電の供給不足が主な要因とされている。

中国は世界最大の石炭消費国であり、2023年の世界石炭消費量の56%を占め、4,833百万トンに相当します。2024年には中国の石炭消費量がさらに1.1%増加し、56百万トンが追加で消費されると見積もられている。

中国の石炭消費量の約63%は、国内の電力部門に使用されている。再生可能エネルギーの利用が世界的に増加しているにもかかわらず、中国の発電量は近年減少している。

IEAのエネルギー市場・安全保障部門の笹守圭介ディレクターは、「石炭需要を抑えるには、中国の役割が極めて重要だ。」と指摘し、「気象条件、特に世界最大の石炭消費国である中国の気候が短期的な石炭需要の傾向に大きな影響を与える」と述べている。

科学者や経済学者は、気候危機の加速が環境と経済に深刻な影響を及ぼすと予測している。ポツダム気候影響研究所によれば、気温の上昇による経済的損失は約38兆ドルに達すると推定されており、その多くは農業生産性の低下、労働生産性の低下、気候に敏感なインフラの損傷に起因するとされている。

2024年には、気候変動が原因で多くの自然災害が発生し、コミュニティに壊滅的な影響を及ぼした。サイクロン、モンスーン、山火事、熱波、ハリケーン、海面上昇などの極端な気象現象が、世界中で何百万人もの人々の生活を脅かしている。国連の推定によると、自然災害の悪化により、世界で約3億500万人が人道支援を必要とする状況に追い込まれるとされている。

その他の環境的影響として、森林破壊、生物多様性の喪失、海洋酸性化、水循環の混乱、農業生産への影響などが挙げられ、地球上の生命に壊滅的な結果をもたらしている。2030年までに世界の気温と炭素排出量が削減されない場合、これらの影響はさらに深刻化すると予想されている。

科学者たちは、世界の気温が2℃を超えないようにすることが重要だと警告している。それを超えると、魚や多くの植物種を含む人間の生活に必要不可欠な生物が広範囲で失われる可能性がある。外交問題評議会(CFR)のエネルギー・環境シニアフェローであるアリス・C・ヒル氏は、「温暖化を抑制できなければ、私たちは災害に向かって進んでおり、それを迅速に実行する必要があります。」と語った。

ポツダムの気候研究者アンダース・レーバーマン氏は、経済的・環境的影響が発展途上国にとって主要な商業大国である米国や中国よりもはるかに深刻であると予測している。

「私たちはほぼすべての場所で被害を確認していますが、熱帯地域の国々はすでに気温が高いため、最も多くの被害を受けるでしょう」と述べている。さらに、気候変動に最も責任がない国(発展途上国)が、適応のための資源が最も少ないため、最も大きな経済的・環境的影響を受けると予測されている。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU Report

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INPS Japan/ IPS UN Bureau ReportSDGs

アゼルバイジャン大統領、墜落した飛行機がロシアからの攻撃を受けたと発言

【ロンドンLondon Post】

アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は12月29日、先週墜落し38人が死亡した旅客機がロシア領内からの地上からの攻撃を受けたと述べ、ロシア側がこの惨事の原因について虚偽の説明をしていると非難した。

28日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はアリエフ大統領に対し、ウクライナの攻撃用ドローンに対抗する中でロシアの防空システムが関与したロシア空域での「悲劇的な事件」に謝罪した。しかしクレムリンの声明では、ロシアが飛行機を撃墜したとは明記されておらず、刑事事件が開始されたことのみが言及された。

「我々の飛行機は誤って撃墜された。」とアリエフ大統領は29日に国営テレビで語り、飛行機が何らかの電子妨害を受け、その後ロシア南部の都市グロズヌイに接近中に攻撃を受けたと述べた。

Ilham Aliyev Credit: President.az, CC 4.0
Ilham Aliyev Credit: President.az, CC 4.0

「残念ながら、最初の3日間、ロシアからは鳥が原因だとか、何らかのガスボンベが爆発したというような馬鹿げた説明しか聞かされなかった。」とアリエフ大統領は述べ、問題を隠蔽しようとする明らかな試みがあったと指摘した。

モスクワの名門大学で教育を受け、ロシアと密接な関係を持つアゼルバイジャンの指導者であるアリエフ大統領は、ロシアが飛行機を撃墜した責任を認め、関与した者たちを処罰することを求めた。

クレムリンは29日、プーチン大統領とアリエフ大統領が再び電話会談を行ったと発表したが、詳細は明らかにされなかった。ただし、28日には民間および軍事の専門家が事件について事情を聴取されていると述べていた。

アゼルバイジャン航空のJ2-8243便は水曜日、カザフスタンのアクタウ市付近で火の玉となり墜落した。この飛行機はウクライナのドローンがいくつかの都市を攻撃していたロシア南部の空域を迂回していた。

28日にプーチン大統領が発した非常に稀な公式謝罪は、この惨事についてロシア政府がある程度の責任を認める最も近い表現とされている。

アゼルバイジャンの調査の予備結果に詳しい4つの情報筋は26日、ロシアの防空システムが誤って飛行機を撃墜したとロイターに語った。

埋葬

アリエフ大統領の発言は、アゼルバイジャンが飛行機の乗客と乗員に敬意を表する中で行われた。

機長のイゴール・クシュニャキン、副操縦士のアレクサンドル・カリャニノフ(いずれもアゼルバイジャン国籍を持つロシア系国民)および客室乗務員のホクマ・アリエバは、バクー中心部のアレー・オブ・オナーで行われた式典で正式な栄誉が授与された。この式典にはアリエフ大統領とメフリバン夫人も出席した。

パイロットたちは、自身の命を犠牲にして29人の生存者を救ったとしてアゼルバイジャンで称賛されている。

「パイロットたちは経験豊富で、この不時着で自分たちが生き残れないことを分かっていました。」とアリエフ大統領は述べ、機首を最初に地面に向けることで一部の乗客を救うことを試み、自身を犠牲にした行動を賞賛した。

「乗客を救うため、彼らは非常に英雄的に行動し、その結果、生存者が出たのです。」とアリエフ大統領は語った。

エンブラエル(EMBR3.SA)製旅客機は、アゼルバイジャンの首都バクーからロシア南部のチェチェン地域にあるグロズヌイに飛行した後、カスピ海を横断して数百マイル離れた場所にそれた。

アゼルバイジャン大統領府によれば、パイロットたちは飛行機を制御しようと必死に努力し、着陸場所を探し続けた。

胴体に穴が空き、乗員の一部が負傷し、乗客が気圧の抜けた客室で必死に助かることを願い、飛行機が制御不能に陥る中、パイロットたちはカスピ海を越え、最終的には墜落に至る航路を選んだ。

アレー・オブ・オナーはアゼルバイジャンで最も神聖視される埋葬地であり、著名な政治家や詩人、科学者たちが眠る場所で、現大統領の父親ヘイダル・アリエフも埋葬されている。

機長クシュニャキンの娘、アナスタシア・クシュニャキナさんは、父親が乗客の命に対して深い責任感を持つ献身的なパイロットだったと語った。

「父はいつも言っていました。『離陸した瞬間、私は自分の命だけでなく、乗客全員と乗員全員の命に責任を負っている。』と」とクシュニャキナさんは語り、「最後の飛行で、父は真の英雄がどうあるべきかを証明しました。」と述べた。(原文へ)

INPS Japan/London Post

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ニュース政治・紛争・平和地域

ルーマニア版の「トランプ」?:絶え間ない戦争とウォーク政治に対する拒絶(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

もし文脈と一般市民の懸念に注意を払えば、国連の元高官でマーシャル諸島における核実験による健康被害を報告したカリン・ジョルジェスクのルーマニアでの勝利は、ドナルド・トランプの勝利と同様、全く驚くべきことではなかった。

【The American Spectator/INPS JapanワシントンDC=ヴィクトル・ガエタン】

11月24日に行われた、ルーマニアの大統領選挙の第1回投票で、有権者たちが無所属のジョルジェスクを選んだ際、米国のドナルド・J・トランプ氏の選出がもたらした余震がルーマニアでも起きた。ジョルジェスクは、政府が市民のために働き、ウォーク・アジェンダを拒絶し、平和を推進するべきだと主張するアウトサイダーであり、ジョー・バイデン政権がルーマニアの軍事費をさらに増強するよう圧力をかけている現状に反対する立場を明らかにしている。

2016年にトランプに対して向けられた非難と同様に、ジョルジェスクもすぐさま、PoliticoやBBCのような主流メディア、さらに匿名のSNSアカウントから「親ロシア派の手先」と非難された。しかし、それは土壌科学者であり、尊敬される環境保護活動家であり、大学教授でもあるジョルジェスクに対しては、的外れでばかげた非難と言わざるを得ない。

Image: The United States conducted the first in a series of high-yield thermonuclear weapon design tests, the Castle Bravo test, at Bikini Atoll, Marshall Islands, as part of Operation Castle on 1 March 1954. Credit: U.S. Department of Energy. Credit: U.S. Department of Energy
Image: The United States conducted the first in a series of high-yield thermonuclear weapon design tests, the Castle Bravo test, at Bikini Atoll, Marshall Islands, as part of Operation Castle on 1 March 1954. Credit: U.S. Department of Energy. Credit: U.S. Department of Energy

ジョルジェスクは国連開発計画(UNDP)やルーマニア環境省で活動してきた。また、マーシャル諸島の人権活動家たちからも支持されている。彼は国連特別報告者として、(米国が数十年にわたって行った)核実験による健康への悪影響を記録したことでも知られている。

ジョルジェスクの候補者としての立場が物議を醸しているのは、彼が独立系であるためだ。

ジョルジェスクは、ウクライナ問題で交渉の時が来たというトランプのビジョンを支持している。また、今年ルーマニア語に翻訳されたロバート・F・ケネディ・ジュニアの著書『The Real Anthony Fauci』に序文を寄せた人物でもある。

冷静で穏やかな口調で語るジョルジェスクの特徴は、農家支持、信仰、家族、そして西側のアジェンダに対する国益の優先といった立場にある。この姿勢が、武器製造業界やルーマニアの政治クラスを動揺させている。これらの業界はルーマニア政府を説得して兵器優先政策を取らせてきた。

戦車やF-35に数十億ドル

An U.S. Army M1A2 SEP v2 Abrams during a training exercise in Germany. credit: By 7th Army Joint Multinational Training Command from Grafenwoehr, Germany - Combined Resolve II Distinguished Visitors, CC BY 2.0,
An U.S. Army M1A2 SEP v2 Abrams during a training exercise in Germany. credit: By 7th Army Joint Multinational Training Command from Grafenwoehr, Germany – Combined Resolve II Distinguished Visitors, CC BY 2.0,

ルーマニアはウクライナと2つの国境を接している。北の長い陸上国境と、東の黒海沿岸国境である。ルーマニアはロシアによるウクライナ軍事侵攻直後、ウクライナ難民を寛大に支援する緊急措置を採択した。現在も17万人以上の難民に無料輸送を含む様々なサービスを提供している。

しかし、この厳しい紛争は国内経済と生活水準に明らかに悪影響を及ぼしている。ルーマニアのインフレ率は、現在欧州連合(EU)加盟国の中で最も高く、とりわけ食料品やエネルギー価格が急騰している。

EUのデータによれば、2023年には32%のルーマニア人が貧困のリスクに晒されており、これも地域で最も高い数値でる。また、別のデータでは、2023年の時点で20%以上の人々が実際に貧困線以下の生活を送っているとされている。

2020~21年に好調だった農村経済の一部も戦争の影響で深刻な打撃を受けた。例えば、欧州最大の湿地であるドナウ・デルタでの観光業は壊滅状態に陥った。

一方、ルーマニア政府は、米国製のエイブラムス戦車に10億ドル、F-335闘機32機に72億ドルを支出するという軍事支出を高らかに宣伝している。これらはルーマニア史上最も高額な兵器購入である。

今年のルーマニア軍予算は210億ドルを超え、2023年比で45%増加している。この中には、欧州最大規模となる北大西洋条約機構(NATO)軍事基地、ミハイル・コガルニチャヌ基地(黒海沿岸のコンスタンツァ近郊)の建設費も含まれている。この基地はドイツのラムシュタイン基地よりも大規模なものになる予定だ。

もしアラブ首長国連邦(UAE)のように非常に裕福な国であれば軍事支出も問題にならないだろうが、ルーマニアの国家債務は劇的に増加している。

NATO.INT
NATO.INT

ウォーク・アジェンダ

有権者たちは、党派的な決まり文句と、ジョルジェスクのような真実を語る新鮮な存在を見分けることが可能だ。

ルーマニアは、35年前に独裁者ニコラエ・チャウシェスクが処刑されて以来、米国の熱心な同盟国となっている。国民はNATOの「平和のためのパートナーシップ」を歓迎した。2002年にはジョージ・W・ブッシュ大統領がルーマニアを訪問し、歓声を上げる群衆に迎えられた。2年後、ルーマニアはNATOに加盟した。

しかし、バラク・オバマ政権下では、米国の影響が国家の自立性を損ない、ウォーク文化を押し付け、ルーマニアをロシアに対する代理国として利用しようとしていると人々は感じ始めた。ロシアと同じく、ルーマニアは正教会の信者が多い国でである。

オバマが任命した大使は同性婚の熱心な支持者で、ブカレストでのプライド・パレードに参加した。この姿勢に対し、地元のジャーナリストたちは内政干渉だと批判した。

今年も、米国大使館は「ルーマニアにおけるLGBTIQ+コミュニティの多様性、可視性、レジリエンス、尊厳」を促進する活動を行ったが、多くの人々はこれを米国の駐在ミッションの目的に無関係だと見ている。

Location of Romania. Credit: Wikimedia Commons.

あるRedditユーザーは次のように説明している。「ルーマニア人は、西側でのLGBTQプロパガンダがいかに有害で押し付けがましいかを見ている。また、厳しい共産主義の下で、厳格な思想統制を経験してきた歴史があるため、それに似たものを本能的に拒否している。」

もし文脈と一般市民の懸念に注意を払えば、ジョルジェスクのルーマニアでの勝利はちょうど米国でのトランプの勝利と同様に全く驚くべきことではなかった。

ルーマニアの憲法裁判所は与党政治勢力によって任命されており、第1回投票の再集計を命じたため、大統領選挙の最終結果には不確実性がある。しかし、これはジョルジェスクにとって、トランプがそうだったようにその人気を拡大するためのさらなる時間となっている。(原文へ

INPS Japan

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【スコピエ、北マケドニアIPS=キャサリン・ウィルソン】

南東ヨーロッパのバルカン半島に位置する北マケドニア共和国の首都スコピエでは、明るい冬の日差しが街を照らし、昼時にはカフェが賑わっている。スコピエは、人口200万人のうち3分の1が暮らす活気ある都市で、多くの若者が仕事を求める希望の地となっている。しかし、その道のりは決して容易ではない。

「雇用を得るのはとても厳しい状況です。若者たちは最初の仕事を見つけるまでに18カ月も待つことがあります。」と、28歳のアレクサンドラ・フィリポヴァさんはIPSの取材に対して語った。それでも彼女は「未来に希望を持っています。」と付け加えた。フィリポヴァさんは、自身の世代が直面する課題を理解しつつ、北マケドニア全国青年協議会のプログラムマネージャーとして、その希望を現実に変えるため尽力している。

国際労働機関(ILO)の報告によると、昨年の世界の若者失業率は13%と、15年ぶりに大幅に減少した。しかし、地域によって状況は大きく異なっている。バルカン、中東・北アフリカ(MENA)地域では、COVID-19後の経済回復の遅れや、ロシアによるウクライナ軍事侵攻、エネルギー危機、労働市場の構造的問題、社会文化的な期待が、平均以上の失業率を引き起こしている。

Skopje, the capital of North Macedonia, is home to one quarter of the country’s population and a focus for young jobseekers. Credit: Catherine Wilson/IPS
Skopje, the capital of North Macedonia, is home to one quarter of the country’s population and a focus for young jobseekers. Credit: Catherine Wilson/IPS
Location of North Mecedonia. Credit: Wikimedia Commons.

北マケドニア共和国は、セルビアの南、ギリシャの北に位置する内陸国で、1991年に旧ユーゴスラビアから独立した。現在、欧州連合(EU)加盟を目指しており、近年の経済成長は鈍化しているものの、高度教育を受けた人々でさえ、教育資格と雇用者が求めるスキルの不一致が、仕事を得る上での大きな障害となっている。この問題は、若者の失業率が28%と、世界平均の13%の2倍以上であることに反映されている。

「私たちの教育システムは理論的な知識に基づいており、技術的および職業的なスキルが欠けています。雇用者は若者を雇いたいと思っていますが、彼らに必要なスキルが備わっていないのです。」とフィリポヴァさんは指摘した。特に中小企業では、「メールの書き方やビジネス環境でのコミュニケーションの取り方などのソフトスキルが欠けています。また、起業家精神や、外国語を話せる人材も不足しています。」と語った。

2018年、北マケドニア政府は若者の課題に対応するため「若者保証政策(Youth Guarantee)」を開始した。これに連動して青年協議会は、有給インターンシッププログラムを立ち上げ、現在では2000の企業が参加し、若者に2カ月間の職業体験の場を提供している。「このプログラムは企業にも有益です。インターンシップ期間中に若者は必要なスキルを学び、多くがその後、長期雇用につながっています。」とフィリポヴァさんは説明した。このプログラムを通じて、有給インターンシップを受けた若者の70%が雇用されており、北マケドニアはバルカン諸国で最初にこの政策を成功させた国となっている。

The National Youth Council of Macedonia has rolled out a paid internship program, in association with the government’s Youth Guarantee policy, which is generating employment success for the country’s youth. Credit: National Youth Council of Macedonia
The National Youth Council of Macedonia has rolled out a paid internship program, in association with the government’s Youth Guarantee policy, which is generating employment success for the country’s youth. Credit: National Youth Council of Macedonia

「これまでに約6万人の若者が北マケドニアの『若者保証プログラム』に参加した。2019年以降、労働市場に関する統計では、若者に関して大きな改善が見られることを指摘したいと思います。若者の雇用率は2018年と比較して3.5ポイント増加しました。」と、北マケドニアの労働・社会政策大臣であるジャゴダ・シャプスカ氏は2021年にメディアに語った。

SDG No. 8

若者の雇用は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に向けた2030年アジェンダの重要な焦点であり、他の国際的な枠組みでも若者の発展と関与の重要性が強調されている。若者はSDGs達成の鍵を握る存在と見なされている。

地中海を挟んだレバント地域では、ヨルダンの若者たちが同様の困難に直面している。人口1,100万人のうち63%が30歳未満であり、この国では若者の失業率が40%に達している。隣国シリアや占領下のパレスチナからの紛争を逃れた300万人以上の難民を受け入れつつ、経済の安定を維持しているヨルダンだが、若者の失業問題は深刻である。

中東・北アフリカ(MENA)地域では、若者の3人に1人が失業しており、国連の予測では、2030年までに労働適齢人口の需要を満たすために3300万の新規雇用が必要になるとされている。毎年10万人の若いヨルダン人、しかも多くは高い教育を受けた若者が労働市場に参入しようとしているが、経済成長が十分な雇用を生み出しておらず、大規模な公的部門でさえ増加する求職者を吸収できない状況にある。

ヨルダンは、湾岸諸国以外のアラブ諸国の中で、新たな求職者に比較的大量の公的部門の仕事を提供し続けている数少ない国の一つである。しかし、これは財政的に非常に負担が大きく、労働市場のインセンティブを歪めている。」と、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの比較政治学准教授であるステフェン・ヘルトグ博士はIPSの取材に対して語った。

ヨルダン渓谷の縁に広がる首都アンマンは、国の行政と商業の中心地である。この地で、国内の若者発展団体「ヨルダン青年革新フォーラム」の執行役員であるアリ・ハダッド氏はIPSの取材に対し、多くの若者が「安定していると見なされる公的部門の仕事を強く希望している。」と述べる一方で、民間部門の成長が不可欠だと強調した。

「拡大する企業は、増加する若者の求職者を吸収することができます。民間産業はスキルの開発やイノベーションを促進し、強力な民間部門はGDPの成長に寄与し、経済を活性化させることで若者にさらに多くの機会を提供します。」と、ハダッド氏は語った。

しかし、人々が雇用の機会にアクセスできるようにすることも不可欠である。若者のスキル開発に焦点を当てた地元の社会的企業「LOYACヨルダン」のゼネラルマネージャーであるアフマド・アスフォール氏は、同国には都市部と農村部の格差があると指摘したうえで、「雇用の機会は都市部に集中しており、農村部の若者が仕事にアクセスするのは困難です。また、女性は社会的規範、育児の欠如、不平等な賃金など、追加の課題に直面しています。」と語った。

One of the challenges youth face in the transition from education to employment is a skills mismatch with what recruiters require. Credit: LOYAC Jordan
One of the challenges youth face in the transition from education to employment is a skills mismatch with what recruiters require. Credit: LOYAC Jordan

労働市場の期待とスキルの不一致も大きな障害となっている。「若者には、コミュニケーション、チームワーク、問題解決のスキルや、批判的思考、イノベーション、デジタルスキル、ビジネススキルを備えた起業家精神が必要です。」とアスフォール氏は指摘した。LOYACは、全国規模のインターンシッププログラムを通じてこのギャップを埋めることに成功してきた。「私たちは毎年1,200人の学生を訓練し、850人を全国レベルのインターンシップにマッチングさせています。これにより、多くの若者が雇用を確保するために必要なスキル、自信、人脈を得ることができています。」と語った。

若者の力を引き出すことは、2021年に発表されたヨルダン政府の10年開発・近代化戦略の一環です。この戦略は「若者が創造的なエネルギーを解き放ち、経済的及び社会的発展に効果的に貢献できる刺激的な環境を提供することを約束している。」と、ヨルダンのヤザン・アルシュデイファット青年大臣が11月24日の声明で述べている。

また、起業家精神による成功例も見られる。例えば、Arab Therapyはアラビア語を話す専門家によるメンタルヘルスサポートを世界中に提供するオンラインサービスで、ヨルダンの若い起業家モハマド・ジャバー氏とラミ・アルクワスミ氏によって設立されたMawdoo3は、現在世界最大のアラビア語コンテンツプラットフォームとなっている。2021年にはフォーブス誌において中東で最も訪問されたウェブサイトの一つとしてリストされた。

失業統計を超えて、両地域では専用の取り組みを通じて雇用の成功を収める若者が増加している。課題はまだ山積しているが、これらの成功を拡大することが、各国の持続可能な経済的および国家的発展を担う世代のために重要だ。(原文へ

This article is brought to you by IPS NORAM, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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2025年における2つの絡み合った世界的脅威:気候崩壊と核の大惨事

【カトマンズNepalitimes/INPS Japan=クンダ・ディキシット

国々が膨大な核兵器を蓄積しているにもかかわらず、支持者によれば、第二次世界大戦以降、抑止力が機能してきた理由の一つは、全面的な核戦争が「考えられないこと」とされてきたからだ。

Kunda Dixit
Kunda Dixit

しかし、ウクライナや中東における戦闘が終わる兆しが見えず、米国とロシアおよび中国が対立する新たな冷戦、そして不安定な性格の米国大統領の再登場により、202025年以降、核紛争が「考えられる現実」となりつつある。

ロシアはウクライナに対して核兵器の使用を繰り返し脅迫しており、11月には新型の極超音速中距離弾道ミサイルをドニプロに向けて発射した。また、核爆発で他の衛星を無力化できる新型プロトタイプ衛星を宇宙に投入した。

ドナルド・トランプ元米国大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、イランの核施設に対する共同攻撃について議論したと報じられている。北朝鮮は核弾頭用の長距離ミサイルをテストし続けており、核武装したインドとパキスタン間の緊張も依然として高まっている。

これらの危険に加えて、異常気象、記録的な高温、極地の氷床やヒマラヤ氷河の急速な融解など、気候崩壊の加速を示す兆候も現れている。

「核兵器の世界を終わらせる可能性は、世界中の人々に暗い影を落としています」とキャメロン・ベガ氏は『原子力科学者会報』に書いている。「気候変動は進行の遅い大惨事ですが、すべてのコミュニティに直接的な脅威を与えています。」

ICAN
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『原子力科学者会報』の終末時計は、今年1月、「世界が大惨事へと向かう不吉な傾向が続いている」ことを理由に、午前0時まで残り100秒から90秒にリセットされた。この終末時計の針は1947年以来25回リセットされており、2025年には1分未満に進む可能性が高いとされている。

Nepali Times.
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気候崩壊と核戦争の両方は人類が引き起こしたものだが、一方が地球を温暖化させる一方で、もう一方の爆発による煙や塵が地球を冷却する。いずれにしても、これらの脅威は密接に結びついている。

戦術的な核兵器の使用でさえ気候に影響を与える可能性がある。また、気候変動による災害、作物の不作、水不足、大量移住、そしてそれに伴う社会的・政治的不安が、核戦争へと発展する戦争の火種となる可能性がある。これに加え、放射性降下物が土地、水、海に与える長期的な影響を考慮する必要がある。

ラトガース大学の研究によると、インドとパキスタン間でたった1週間の核戦争が発生した場合でも、世界的な食糧システムが崩壊し、20億人が飢餓で死亡すると予測されている。風に乗った放射性降下物はヒマラヤ山脈やチベット高原に到達し、アジアの主要な河川を供給する氷河を汚染することになるだろう。

また、米国とロシア間で全面的な核戦争が発生した場合、15年以上続く「核の冬」が引き起こされ、50億人が飢餓で死亡するという研究結果も示されている。

Nepali Times.
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反核活動家たちは、核抑止力に基づく安全保障のパラダイムに挑戦し、代わりに核兵器の禁止を推進している。昨年12月、ニューヨークの国連で開催された第2回核兵器禁止条約締約国会合では、核保有国とその同盟国が採用している抑止論が人類の安全に対する脅威であり、核軍縮の障害であると宣言された。

会議では、核抑止力は証明されていない危険な賭けであり、核兵器を使用するという暗黙の脅威に基づいていることが指摘された。この暗黙の脅威自体が、核による壊滅的破壊の瀬戸際政策を助長しているのだ。

Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN
Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN

「抑止力は容認できません。」と、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のメリッサ・パーク氏は述べた。「それは核戦争を起こす脅威に基づいており、数百万人を即座に殺害し、核の冬と大規模な飢餓を引き起こし、数十億人を死に追いやるものです。」

ICANは、核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道的影響に対する活動や、「核兵器禁止条約」の推進により、2017年にノーベル平和賞を受賞した。

核不拡散条約(NPT)の草案について最初の議論がジュネーブで行われてから50年が経過した。NPTは1970年に発効し、191か国が加盟している。この条約は、核軍縮と不拡散に関する義務を課しているが、これらの取り組みは、新たな冷戦や世界的な緊張の高まりによって脅かされている。

現在、9つの核保有国が合計14,500発の核弾頭を保有しており、その多くが即時発射可能な状態にある。さらに、ネパールの近隣国である中国、インド、パキスタンの3か国も核兵器を保有しており、これらの国々の関係は良好とは言えない。

世界で核兵器のない地域を宣言している5つの地域のうち、3つはアジアに位置している。それは中央アジア、モンゴル、そして南太平洋である。ネパールのカトマンズには国連アジア太平洋平和軍縮地域センター(UNRCPD)が設置されており、各国が軍縮目標を達成するための支援を行っている。

「核の飢饉」というタイトルの報告書で、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)は深刻な警鐘を鳴らしている。世界のどこかで100発の核兵器を使用する限定的な核戦争が発生した場合でも、地球規模の気候と農業生産に混乱をもたらし、20億人が飢餓の危機に陥るとしている。

偶然にも、この20億人という数字は、アジアの山岳地帯における氷河融解によって影響を受けるとされる人々の数と一致している(国際山岳統合開発センター(ICIMOD)の報告による)。

これら二重の世界的脅威を考慮すると、気候変動に対する活動は、核兵器廃絶国際キャンペーンと連携して取り組む必要がある(The Nepali Timesはこの観点から、ICANのメンバーである創価学会インタナショナルとINPS Japanが推進している核廃絶メディアプロジェクトに2024年度から参加しいている)。(原文へ

This Editorial is brought to you by Nepali Times, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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