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ハイチ中部県で武装ギャングの支配拡大

【国連IPS=オリトロ・カリム】

2025年3月下旬、ハイチ中部県のミルバレ(Mirebalais)およびソードー(Saut d’Eau)で発生した一連の凄惨な衝突の後、現地のギャングが両コミューンを掌握し、住民の避難と治安悪化が深刻化している。これは、ポルトープランス首都圏以外にも武装勢力の支配が拡大し続けていることを示しており、ハイチにおける人道状況の悪化が続いている証左である。

5月2日、ホワイトハウスは「ヴィヴ・アンサム(Viv Ansamn)」および「グラン・グリフ(Gran Grif)」という2つのギャング組織をテロ組織に指定し、ハイチの問題の根幹にはこれらのグループの活動があると断定した。マルコ・ルビオ米国務長官は、「これらのギャングは、違法取引やその他の犯罪活動が自由に行われ、国民を恐怖に陥れる“ギャング国家”の樹立を最終目標としている」と述べ、こうした指定は対テロ対策として極めて重要であり、彼らへの支援や取引には、ハイチ国民のみならず米国永住者や米国市民も制裁の対象となる可能性があると警告した。

国連児童基金(UNICEF)は4月29日、首都圏および中部県の状況に関する報告書を発表した。それによると、4月初旬に発生した襲撃で、ミルバレの刑務所から515人以上の囚人が脱走。民間人の死者が相次ぎ、略奪や警察署の破壊も確認されている。4月25日には、中部県の治安回復を目指して法執行機関による作戦が実施され、8名の武装者が死亡、3丁の銃が押収されたが、ギャングの根絶には至らなかった。

さらに、ハイチ当局は、ヴィヴ・アンサムがラスカオバス(Lascahobas)と接するデヴァリュー(Devarrieux)地区の掌握を試みていると警告している。UNICEFによると、中部県でのギャング活動の激化により、人道支援団体の活動にも深刻な支障が出ており、ヒンチェ(Hinche)とミルバレ、ラスカオバス、ベラデール(Belladère)を結ぶ道路の一部が封鎖されている。一方で、ヒンチェとカンジュ=ブーカン=カレ(Cange-Boucan-Carré)間は比較的安全とされ、支援物資の輸送が許可されている。

国際移住機関(IOM)の統計によると、2023年に敵対行為が激化して以来、国内避難民は100万人を超えた。中部県ではおよそ5万1千人が避難しており、そのうち2万7千人が子どもである。また、IOMの報告では、ドミニカ共和国によるハイチ人の国外追放が大幅に増加しており、ベラデールおよびオアナミンテ(Ouanaminthe)といった国境地域で、2025年4月だけで2万人以上が送還された。これは今年最大の月間記録である。

人道団体は、女性、子ども、新生児など、特に脆弱な立場にある人々が多く含まれていることから、これらの強制送還に懸念を示している。IOMのエイミー・ポープ事務局長は「ハイチの状況は日に日に悪化しており、強制送還とギャングによる暴力が、すでに脆弱な現地社会をさらに悪化させている」と述べた。

また、避難所の状況も深刻で、IOMによると、現在1万2500人以上が95ヵ所に設置された避難所に分散しているが、その多くには食料、水、医療といった基本的なサービスすら行き届いていない。ミルバレでのギャング活動の激化により、ベラデールは事実上、他地域から孤立した状態にある。IOMハイチ代表のグレゴワール・グッドスタイン氏は、「これは首都圏を超えて拡大する複合的な危機であり、国境をまたぐ追放と国内避難がベラデールのような地域で収束している。支援活動の関係者自身も、救援を必要とする人々と共に閉じ込められてしまっている。」と危機感を示した。

ハイチの医療制度も、暴力の激化により崩壊寸前である。米州保健機関(PAHO)によると、首都ポルトープランスでは42%の医療施設が閉鎖中であり、国民の約5人に2人が緊急医療を必要としている。

さらに、性的暴力も蔓延している。国連の統計によれば、これまでに333人以上の女性や少女がギャングによる性暴力の被害を受けており、その96%が強姦である。人身売買や少年兵への強制徴用もポルトープランスで頻発している。

複数の分野にわたる資金不足が、ハイチの人々が生き延びるために必要な資源へのアクセスを困難にしている。構造的な障壁や社会的タブーのために、加害者が処罰されることは少なく、暴力の多くが見過ごされている。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、ハイチの2025年人道支援計画に必要な9億0800万ドルのうち、実際に集まったのはわずか6100万ドルで、支援充足率は7%未満にとどまっている。国連およびパートナー団体は、急速に悪化するこの危機への対応のため、各国に緊急の支援拠出を呼びかけている。(原文へ

INPS Japan

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AIによる「情報汚染」から選挙を守れという呼びかけ

【国連IPS=ナウリーン・ホセイン】

人工知能(AI)の普及は、情報の流れやアクセスのあり方を変化させており、表現の自由にどのような影響が及ぶかという点で、広範な影響をもたらしている。国家レベルおよび地方レベルの選挙では、AIが有権者や選挙キャンペーンに与える影響の大きさと、悪用される脆弱性が顕在化しやすい。人々が制度や情報に対して懐疑的になる中、政府やテック企業は、選挙期間中における表現の自由を守る責任を果たす必要がある。

今年(2025年)の「世界報道自由デー」(5月3日)は、AIが報道の自由、情報の自由な流通、そして情報と基本的自由へのアクセスに与える影響に焦点を当てた。AIは誤情報・偽情報の拡散や、オンライン上のヘイトスピーチの助長といったリスクを伴い、選挙の文脈では、言論の自由やプライバシーの権利を侵害しかねない。

同時に開催された世界報道自由グローバル会議2025の関連イベントでは、国連教育科学文化機関(UNESCO)と国連開発計画(UNDP)が共同で発表したブリーフィングペーパーが紹介され、AIの影響と、選挙における表現の自由を巡るリスクと可能性について論じられた。

UNDP人間開発報告室のペドロ・コンセイソン所長は、情報アクセスに影響を与える「レコメンド・アルゴリズム」の役割について、「その仕組みは極めて複雑で、かつ新しいものであり、さまざまな利害関係者の視点を集める必要がある」と述べた。

選挙が信頼性と透明性を持って実施されるには、表現の自由の保障が不可欠である。この自由と情報アクセスがあることで、市民の関与や討論が可能になる。各国は国際法上、表現の自由を尊重し保護する義務を負っているが、選挙期間中にはその責務の実行が困難になる場合もある。AIへの投資が拡大する中で、選挙に関わるさまざまな主体がAI技術を利用している。

選挙管理機関は、有権者に投票方法などを伝える責任があり、SNSなどを通じて情報を迅速に届けるためにAIを活用することがある。また、AIは広報戦略や意識啓発、オンライン分析・リサーチの分野でも用いられている。

ソーシャルメディアやデジタルプラットフォームでは、親会社が生成AIの統合を進めており、コンテンツモデレーションにもAIが使われている。しかし、利用者の滞在時間やエンゲージメントを優先するあまり、情報の健全性が損なわれているリスクもある。BBC Media Actionのシニア・リサーチマネージャーであるクーパー・ゲートウッド氏は、「特に若者はソーシャルメディアを主な情報源としている」と述べた。

ゲートウッド氏が紹介したインドネシア、チュニジア、リビアでの調査では、偽情報・誤情報に日常的に触れていると答えた人はそれぞれ83%、39%、35%にのぼった。一方で、「拡散のスピードが真偽より重要」と考える傾向もチュニジアやネパールで見られたという。

「こうした調査結果は、選挙や人道危機、情報の入手が困難な状況下において、AI生成の偽情報が迅速に拡散されることで、深刻な被害をもたらす可能性があることを示しています」とゲートウッド氏は警鐘を鳴らした。

AIは選挙の健全性に複数のリスクをもたらす。まず、技術基盤が国によって大きく異なること。特に開発途上国では、AIの活用も、その規制や対応にも限界がある。UNESCOの『デジタル・プラットフォームのガバナンスに関するガイドライン』(2023年)や『AI倫理に関する勧告』(2021年)は、人権と尊厳の保護を軸とした政策的指針を提供している。

UNESCO報道の自由・ジャーナリストの安全担当の選挙プロジェクトオフィサー、アルベルティナ・ピテルバーグ氏は、「デジタル情報を白黒つけるように単純化して語るのはますます難しくなっている」と語り、「マルチステークホルダー・アプローチの重要性」に言及した。政府、テック企業、投資家、学術機関、メディア、市民社会などが協力し、キャパシティビルディング(能力構築)を通じて共通認識を築く必要があるという。

「私たちはこの課題に、人権尊重に基づき、平等な方法で取り組む必要があります。どの選挙もどの民主主義も重要です。商業的な利益やその他の私的利益よりも、それを優先すべきです」とピテルバーグ氏は語った。

チリ選挙管理委員会のパメラ・フィゲロア委員長は、AIによる「情報汚染」が政治参加における非対称性を生み出し、制度や選挙プロセス全体への信頼を損なうリスクを指摘した。

情報の複雑さはAIによってさらに増しており、「ディープフェイク」をはじめとするAI生成コンテンツが、候補者の信用失墜や政治的混乱に使われている。こうした技術は一般市民にも容易にアクセス可能となっており、その悪用が懸念される。

AIモデル自体が人間の偏見や差別を反映することもある。特に女性政治家は、性的に描写されたディープフェイクなどの嫌がらせやサイバーストーキングの被害を受けやすく、それが政治参加を阻む要因にもなっている。

とはいえ、AIは表現の自由を促進する機会も提供している。ブリーフでは、情報の健全性を保つための多様な利害関係者の関与と、戦略的コミュニケーションの必要性が指摘された。信頼できる選挙のためには、メディア、市民社会、テック企業が連携し、メディア・リテラシーの強化に取り組むことが求められている。

デジタルプラットフォームにも、選挙文脈でAIに対する保護措置を講じる責任がある。たとえば、選挙期間に適したコンテンツ監視への投資、選挙関連情報の推薦アルゴリズムの公共的利益の優先、リスク評価の公開、正確な情報の推進、選挙管理機関や市民団体との協議などが挙げられる。

AI、表現の自由、選挙の相互作用には、複数の立場からの連携と理解が不可欠であることが今回明らかになった。選挙に限らず、AIを人類のために活用するための方策として、今後の指針となる可能性がある。

UNDPで技術と選挙を専門とするアジャイ・パテル氏は、「AIツールはすでにすべての人のスマホに入り、ある意味で“無料”です。では、それがどこへ向かうのか?何が起こるのか?善にも悪にも、どんな革新が生まれるのか?」と問いかけた。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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ヒマラヤの栄光とリスク

2025年春、記録を追い求める登山隊が続々とヒマラヤへ

【カトマンズNepali Times=ヴィシャド・ラジ・オンタ】

2025年春の登山シーズンが始まり、ヒマラヤの山々における栄光とリスクの微妙な均衡を、早くも思い知らされる事態が起きている。

エベレストは例年どおり最大の注目を集めているが、初登頂から75周年を迎えるアンナプルナでも記録的な数の登山隊が集結しており、カンチェンジュンガの初登頂から70周年となる節目も、多くの登山者に記憶されている。

しかし、気候変動によって一層深刻化しているヒマラヤ登山の危険性が、アンナプルナでの2人の有望な若手高所ガイドの悲劇的な死によって、あらためて突きつけられた。

エベレストはエベレストであるがゆえに、多くの登山者を引きつける。今年すでに22隊、約220人の外国人登山者とガイドがベースキャンプに到着しており、今後その数は450人を超え、2023年の外国人登山者478人という過去最高記録を更新する可能性もある。

登山許可証の料金がこの秋から1万1000ドルから1万5000ドルに引き上げられることもあって、許可証の需要が高まっているようだ。しかし、4000ドルの値上げが登山者数の抑制、すなわちリスクの低減にはつながらないと見られている。

ネパール政府観光局では、登山許可証の発行は毎年4月上旬から開始されるが、登山者たちは数年前から準備を始めているため、これには不満も多い。「これが現在の制度なのです。登山者がネパール到着時にすべての書類が揃っていることを確認したいのです。」と、観光局のゴマ・ライ氏は語った。

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エベレストではすでに氷河の危険地帯クンブ・アイスフォールに最初のアタックが始まっているが、他のヒマラヤの峰々でも活動は活発だ。標高8485メートルのマカルーでは、すでに登頂に成功したチームも出ている。4月10日にはロープ固定を担当した10人のガイドが、世界第5位の高峰の頂上に到達した。

標高8586メートルで世界第3位のカンチェンジュンガには、インド隊が2隊入っており、インド側からの登山が認められていないため、ネパール側からのアプローチとなっている。その1隊は、エベレストを3度制覇したランヴィール・シン・ジャムワル大佐が率い、「ハル・シカール・ティランガ(すべての州の最高峰にインド国旗を掲げる)」キャンペーンの最後の行程に挑んでいる。

“カンチ”の北壁は天候が読めず技術的にも困難なため、非常に危険である。1953年以来エベレストには1万2884回の登頂がある一方で、カンチェンジュンガは70年でわずか250回の登頂しか記録されていない。

アンナプルナでは4月6~7日にかけて45人が登頂に成功したが、天候の悪化により事態は一変した。7日には雪崩が発生し、ニマ・タシ・シェルパとリマ・リンジェ・シェルパの2人が命を落とした。ともにロープで結ばれていたペンバ・テンドゥク・シェルパは奇跡的に生還した。

「家よりも高い巨大な雪崩でした」と、ペンバは振り返る。「私とクライアントはセラックの真下にいて助かりました。2人が巻き込まれたことに気づきましたが、発見できませんでした。」

4日間にわたりヘリ2機を使って捜索が続けられたが、遠征会社セブンサミット・トレックはついに捜索の打ち切りを決定した。ニマ・タシは、前年エベレストで身動きの取れなくなったマレーシア人登山者を標高8400メートルから背負って救出し、国際的な注目を浴びた“無名の英雄”だった。

しかし今回、アンナプルナでは彼とリマ・リンジェの2人の命が尽きた。セブンサミットは声明で「我々が誇る2人の優秀なシェルパガイドを失いました。これだけの時間が経過した氷の下では生存の可能性はなく、捜索の継続は他のシェルパの命を危険にさらす行為です」と述べた。

アンナプルナは、過去75年間でヒマラヤの峰の中でも最も致死率が高く、登ろうとした者の3人に1人が帰らぬ人となっている。今年も北壁のクレバスが多すぎてロープが足りず、落石や雪崩も例年以上に頻発した。

南アフリカの登山者ジョン・ブラックは、この雪崩に巻き込まれる寸前だった。彼は第3キャンプを出発して間もなく登頂を断念した。

「直感という人もいれば、計算だという人もいますが、私は不安を拭えませんでした」とブラックは語る。実は彼は雪崩に巻き込まれた2人のシェルパと直前にチョコレートを分け合っていた。「これは、リスクが現実であること、そして状況が一瞬で変わることを突きつける警告です。」

この雪崩の後、緊急事態でないにもかかわらず、一部の登山者がヘリで北壁から撤退したことには批判も集まっている。

近年のヒマラヤ登山では、未熟な登山者が増加しており、自身のみならずガイドや他の登山者にも危険を及ぼしている。苦しいときに撤退の判断ができない者も多い。

「アイゼンを使いこなせない人もいれば、岩や氷を登る基本的な技術すら身に付いていない人もいました」とブラックは言う。「技術がないうえに、動きが遅く、困難な地形で効率的に進むことができないのです。アンナプルナのような山では、スピードこそが危険にさらされる時間を減らす唯一の手段です。」

この傾向に拍車をかけているのが、SNSを通じた即時満足への欲求だ。ヒマラヤ登山の本来の挑戦は、「インスタグラムの登頂自慢」へと変質し、遠征会社も顧客の希望に応じざるを得なくなっている。

もう一つの論争を呼んでいるのは、イギリス軍退役兵による4人組の登山隊である。彼らは登山前にキセノンガスを吸引して赤血球の増加を図っており、「実験」とされているが、これはアンチ・ドーピング機関が禁止しているパフォーマンス向上手段である。

スリランカのIT技術者ディマンタ・ディラン・テヌワラは、美しいアマ・ダブラム登頂を目指している。スリランカとネパールの国旗を山頂に掲げ、ネパールの民族衣装ダウラ・スルワルを着て登る予定だ。「南アジアの団結による繁栄」というメッセージを伝えたいという。

テヌワラは、2004年のスリランカ津波で父親を亡くした元“甘やかされた子ども”だった。その悲劇が、彼の登山の原動力となっている。

「この遠征は、20年前に始まった私の使命です」と語るテヌワラは、自立のために技術学校に通い、自ら資金を工面してこの旅に臨んでいる。アマ・ダブラムは、年内に計画しているK2遠征の準備でもある。

注目すべき遠征のもうひとつは、スロバキアのピーター・ハモールとイタリア人カップルのニヴェス・メロイ&ロマーノ・ベネットのチームで、カンチェンジュンガ山塊の7590メートル峰ヤルンピークで新ルート開拓を試みている。

また、イギリス人2人によるチームはすでにエベレスト・ベースキャンプに入り、ローツェフェイスを登ったのち、ウィングスーツで山から飛び降りる挑戦を再び試みようとしている。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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「ジブリ化」は可愛いピクセルだけじゃない

最新のAI生成画像ブームが、児童搾取の新たな温床になり得る

【カトマンズNepali Times=アニル・ラグヴァンシ】

やわらかいパステルカラーに、まるで宮崎駿の映画から切り取ったような幻想的な背景―。今月はじめ、姪が初めてのジブリ風ポートレートを見せてくれたときの興奮は、言葉に表せないほどだった。

これは、個人の写真をスタジオジブリ風に変換する最新の生成AIツールによるもので、「ジブリ化(Ghiblification)」と呼ばれ、世界中で注目を集めている。

しかし、その裏には重大な危険が潜んでいる。この楽しいブームは、プライバシーの侵害や、児童ポルノ、セクストーション(性的脅迫)、いじめ、ヘイトスピーチといった問題への新たな扉を開いてしまう可能性があるのだ。

ChildSafeNetとUNICEFネパールが実施した生成AIと児童安全に関する最近の調査では、カトマンズの若者の60%以上が生成AIを試しており、多くがその潜在的リスクを認識していなかった。

画像生成アプリに写真をアップロードするたびに、ユーザーは単なるピクセル以上のもの―肖像、メタデータ、そして私的空間の情報―を、ブラックボックスのようなシステムに託している。これらの情報は無期限に保存され、AIモデルの訓練データに組み込まれる可能性がある。特徴的な顔立ちや位置情報、背景の細部さえも記憶され、他人の画像として再生成されるおそれがあるのだ。

The Nepali TImes.

OpenAI(ChatGPTやDALL·Eの開発元)などの企業では、ユーザーがオプトアウトしない限り、共有された画像を訓練データとして使用している。しかし、その悪用リスクは計り知れない。

生成AI画像の急速な普及により、家族や子どもたちの写真が無意識にアップロードされてしまうケースが多発している。これらの画像には、顔認識に役立つ情報だけでなく、社会的関係や文化的背景も含まれており、企業にとって貴重なデータ資源となる。

Body and Dataの計算機科学者ドヴァン・ライ氏は、「視覚的に魅力のある画像は、偽情報の拡散や文化的ステレオタイプの強化にも悪用されやすい。子どもは特に脆弱で、性的なディープフェイク画像を作るのも容易です。」と警告する。

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多くのAI画像生成プラットフォームは、アップロードされたコンテンツの取り扱いについて明確に説明していない。子どもの写真が取り込まれると、その特徴がモデルに内在化され、意図しない形で再現される可能性がある。これは、倫理的な時限爆弾だ。

ライ氏はさらにこう警告する。「子どもの顔が、広告やミーム、論争のあるコンテンツに無断で使われることもあり得ます。」

インターネット・ウォッチ財団によると、最近1か月で、3500件以上のAI生成による児童性的虐待コンテンツが暗号化フォーラムで確認された。中には、児童の顔を性的画像に合成した悪質なディープフェイクも含まれていた。ジブリ風ではなかったものの、どんな無害に見えるフィルターでも、悪用され得ることを示している。

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さらに一部のAIツールは、被害者の顔をポルノ映像に合成した児童強姦・拷問のディープフェイク動画さえ生成可能になっている。これは性的暴力を常態化させ、性的脅迫やいじめ、憎悪表現を助長する危険がある。

ネパール警察サイバー犯罪課のディーパク・ラジ・アワスティ警視は「AI画像や動画を用いた誹謗中傷、偽情報拡散、ヘイトの事案が国内で発生しており、政治家や著名人を中傷するディープフェイクの苦情も受けている。」と述べている。

保護者は、AI生成画像が子どもの安全や創造性に与える影響を懸念すべきだ。AIへの過度な依存は、絵を描くといった伝統的な創造力の低下を招くこともある。

Smart Parents Nepalのカビンドラ・ナピット氏は、「保護者は子どもにオンラインリスクを教え、常に新たな脅威に注意を払う必要があります。」と話す。

若者を守るための提言:
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  • 安全設計(Safety-by-Design):製品開発の初期段階から子どもや脆弱層の安全を組み込む設計手法を導入する(豪eSafety委員会が提唱)。
  • 同意と透明性:画像が訓練データに使われる可能性があることを明示し、簡単にオプトアウトできる仕組みを整備。
  • 強化されたモデレーション:自動検出と人間による監視を組み合わせ、児童の性的画像に関するプロンプトや生成物を即時にブロック・削除。透かしや指紋技術の導入も有効。
  • 法的保護:AIによる児童性的虐待コンテンツの作成・流通・使用を犯罪とし、国際協力による追跡と処罰を強化。
  • 多主体連携:技術企業、法執行機関、教育機関、NGOが連携し、情報共有と資源統合を図る。
  • デジタル・リテラシー教育:子どもに空想と現実の区別を教え、リスクを認識させる。被害報告のための明確で秘密保持されたチャネルも必要。
  • 保護者の支援:子どもとオープンで信頼できる関係を築き、AIの危険性を伝える。年齢に応じたフィルターや監視ツールも導入。
  • 支援サービスの整備:子どもや若者に配慮したカウンセリングや法的支援体制を提供。(原文へ

※掲載されたすべてのジブリ風画像は、著者が著作権フリーの素材を使って生成。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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帰国した出稼ぎ労働者を襲う「静かな病」―腎不全という代償

【カトマンズNepali Times=ピンキ・スリス・ラナ・ダヌーサ】

ジャナクプルの南、インド国境近くにある村・フルガマでは、人口約4,500人のほとんどすべての世帯に、海外で働く息子がいる。

ネパールの20〜35歳の男性の約40%が、主にインド、湾岸諸国、マレーシアなどに出稼ぎに出ている。過去9カ月間だけで、741,297人が海外へと渡航しており、その多くがアラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、カタール、マレーシア、クウェートに向かった。この数字には学生ビザで出国した者やインドへの渡航者は含まれていない。

彼らの多くが就くのは、「3Kジョブ(汚い・危険・きつい仕事)=英語では3Dジョブ」であり、さらにもう一つのD、すなわち「脱水(dehydrating)」のリスクもある。

湾岸諸国の灼熱の砂漠やマレーシアの高温多湿な熱帯ジャングルでの屋外労働、粗末な食事、脱水、不健康な生活習慣は、ネパール人労働者に腎不全のリスクをもたらしている。特にダヌシャ郡は、インドや他国への出稼ぎ者の割合が極めて高い地域のひとつだ。

腎臓専門医は、腎臓病を「沈黙の殺し屋」と呼ぶ。症状が現れたときにはすでに手遅れであることが多く、出稼ぎ労働者は慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全(ESRD)に特に罹りやすい。

安価な労働力への需要が高まり、出国前の健康教育が不十分なまま出稼ぎに出ることが、移住労働をより危険なものにしている。カトマンズとダヌシャの病院および透析センターの調査によれば、出稼ぎから戻った男性の腎不全リスクは、同年代の一般のネパール人男性よりも高い傾向にある。

「この病気は特定の原因によるものではない、つまり特発性(idiopathic)です」と、国立腎臓センターのリシ・カフレ医師は説明する。「ですが、湾岸諸国に向かう出稼ぎ労働者をスクリーニングし、その3~4年後に末期腎不全を発症している実例を見れば、出稼ぎ労働が腎臓病のリスクを高めることは明らかです」

カフレ医師はさらに言う。「彼らは収入を最大化しようとして、極度の暑さのなかで長時間働き脱水状態になります。水や野菜よりも、コカ・コーラや肉を選ぶ人が多いのも一因です」

腎不全のリスクは帰国した出稼ぎ労働者において高いが、生活習慣病、糖尿病、未診断の高血圧などにより、世界的にも患者数は増加している。

現在、ネパール政府の「貧困市民基金(Bipanna Nagarik Kosh)」に登録されている腎臓病患者は28,266人。そのうち男性は17,044人、女性は11,222人である。昨年だけで、新たに9,176人が登録された。入院している腎臓病患者の多くは15歳〜65歳の年齢層に属する。

健康な人間の腎臓は、血液中の毒素や老廃物を濾過するが、腎不全患者は血液を定期的に人工透析機に通す必要がある。透析には3〜4時間かかり、腕の血管が次第に腫れてくる。

ネパール国内で慢性腎臓病(CKD)を患っている人は推定200万人、つまり全人口の約8%に相当する。糖尿病と高血圧の増加がこの病気の広がりを後押ししている。出稼ぎ労働者から政治家まで、幅広い層が腎臓疾患を抱えており、オリ首相自身も2度の腎臓移植を受けている。

週2回の透析を受けていても、食事や飲み物によって吐き気やむくみが出ることがある。透析回数を増やすには費用がかさみ、生活費補助も不十分で遅配される。

海外で働いたすべての人が腎臓病を発症するわけではない。しかし、腎臓専門医サイレンドラ・シャルマが主導する未発表の研究によれば、ネパールの腎臓病患者の4人に1人が出稼ぎ帰国者であり、繰り返される熱ストレスが主なリスク要因とされている。

ジャナクプルのマデス保健科学研究所では、103人の定期透析患者が通院しており、そのうち30人がダヌシャ、サルラヒ、シラハ、マホタリ、シンドゥリ出身の出稼ぎ帰国者である。

「病気の性質ではなく、広がり方を見れば、これはもはや“流行病”と言えるでしょう」とカフレ医師は語る。

過酷な労働がもたらした代償

HARD LABOUR: Jagdish Sah shows a picture from his time in Malaysia.
Screenshot

マレーシアで10年間働いたジャグディシュ・サーさん(35)は、妹の結婚費用を工面するために借金を背負い、それを返すべく出稼ぎに出た。家が土壁の粗末な造りであることから、結婚相手として女性に何度も断られたという。

「女性にも期待があります。裕福な家庭に嫁ぎたいと思うのは当然で、私たちのような土の家に住む家庭は敬遠されるのです」とサーさんは話す。

マレーシアの縫製工場で働くことになった彼は、24歳で渡航。毎月最高でも3万5千ルピーの収入を得るため、しばしば12時間の残業にも応じた。昼食休憩は30分のみで、トイレ休憩も限られていたため、休まず働き続けたという。

Sah at a garment factory in Malaysia where he worked, often dehydrated, and not taking toilet breaks to earn more.

2017年、一時帰国した際に視界がぼやけ、倒れるようになった。高血圧かと思っていたが、28歳で両方の腎臓が機能不全になっていると診断された。

「息子がマレーシアで貯めたお金は、すべてカトマンズでの治療費に消えました。土地まで売ったんです。」と母マントリヤ・デビさんは振り返る。

現在、ジャグディシュさんは週2回バイクでジャナクプルのマデス保健科学研究所に通い、無料の透析治療を受けている。家族は「マレーシアに行ったときの彼」と「戻ってきた彼」はまるで別人だと語る。

Sah is now gaunt and frail in this picture taken duing his biweekly dialysis at Madhesh Institute of Health Sciences in Janakpur recently.

「この病気で私の人生は終わったも同然です。誰かを巻き込みたくない。」と、結婚をあきらめた理由を語るサーさん。「透析がなければ、生きていられなかったでしょう。」

彼の両親は高齢で付き添うことができず、サーさんが働けないため、父のラム・デブさんが移動式屋台でポップコーンを売って家計を支えている。

■ 腎臓病に倒れた若者たち

ミトゥ・クマールさん(25)はサウジアラビアで電気技師として働いていたが、嘔吐が続き現地の病院で慢性腎臓病と診断され、帰国した。現在はジャナクプルの「セーブ・ライブス・ホスピタル」で透析を受けながら、「もう一度働ける健康を取り戻したい。」と話す。

ウメシュ・クマール・ヤダブさんもサウジでガードマンとして勤務し、腎臓病を患って帰国。だが村の他の出稼ぎ経験者には同じ症状がないという。「これは不運な人間がかかる病気だ。他の人がみな同じなら納得するが…」と語る。

アンバル・バハドゥル・サルキさん(46)は、マレーシアのパーム油農園で働いていた。極度の高温多湿な環境下で高血圧になり、その後、両腎臓が機能不全となった。今では週2回、シンドゥリからジャナクプルまで3時間かけて通院している。

ダヌシャ出身のラム・ウドガル・マンダルさんは、20代後半から17年間サウジアラビアで運転手として働いていたが、4年前に末期腎不全と診断された。今、彼の息子がマレーシアで家計を支えている。「息子も自分と同じ道をたどるのではと心配だが、選択肢がない」と語る。

ダヌシャ出身のラリト・バランパキさん(28)は、ドバイの製錬所で夜勤と極度の暑さのなかで働いていたが、栄養失調と睡眠不足で体を壊し、腎不全となった。兄の家族と共にカトマンズで暮らしており、「金は稼いだかもしれないが、病気をもらって帰ってきただけだ」と悔しさを滲ませる。

スラジュ・タパ・マガルさん(30)はクウェートでアルミ建材の取り付けをしていた。夏は50℃以上、冬は極寒という過酷な気候の中で10時間働き、ある夜、吐血した。26歳で腎不全と診断された。透析通院費は借金に頼り、生活補助金の5,000ルピーも遅延して届かず、政府病院の薬も在庫切れが常態化している。「病気のせいで誰も雇ってくれない」と語る。

■ 公的支援と医療体制の限界

2016年、ネパール政府は貧困層向けに無料透析治療を開始。2018年には月5,000ルピーの生活補助も導入された。

理論上、国内107の病院で無料透析が受けられるはずだが、実際には腎臓専門医がいない施設も多い。政府が専門医の給与を支給しないため、透析機器のメンテナンスも行き届かない。

マデス州では、11の病院が無料透析を提供しているが、ジャナクプルの3つの病院を訪れたところ、いずれも専門医不在で、一般内科医や看護師が代わりに処置を行っていた。

「政府が適切な報酬を出さないので、腎臓専門医は私立病院にしかいません」とカフレ医師。

バグマティ州には無料透析病院が44カ所あり、8,000人以上の腎臓病患者を支えている。多くの患者が移住労働者であるため、結果として、豊かな国々の過酷な環境で腎臓を壊した人々の治療費を、ネパールの資源の乏しい医療制度が負担しているのが現状である。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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米国の拠出削減が国連職員に広がる不安とメンタルヘルスへの影響をもたらす

【国連IPS=タリフ・ディーン】

トランプ政権による国連への度重なる威嚇的な発言や、複数の国連機関からの脱退、さらには財政的な拠出削減によって、多くの職員の間に将来への不安が広がっている。その影響はメンタルヘルスにも及んでいる。

「国連の資金難は、人員削減や給与の引き下げにつながるのか?」
「昇進や昇給の凍結があるのか?」
「米国籍を持たない職員は永住権を失い、退職後に家族と共に母国に戻らなければならないのか?」

こうした疑問が職員の間で飛び交う中、国連の人道支援機関である人道問題調整事務所(OCHA)は、主に米国からの拠出削減による資金不足のため、約20%の人員削減と複数国での活動縮小を計画している。

OCHAに限らず、世界食糧計画(WFP)、国連児童基金(UNICEF)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も、米国からの支援減により、事務所の閉鎖、スタッフ削減、プログラム終了などの措置を余儀なくされている。

先週、ニューヨーク国連職員組合(UNSU)は職員に対してメモを発行し、「現在の財政状況が引き起こす重大な懸念と不透明感」を認めた上で、次のように呼びかけた。

「この不確かな時期において、メンタルヘルスとウェルビーイングの優先は不可欠です。職員組合では、今後に備えるための実践的なヒントや対処法を提供する『メンタルヘルス・セッション』を準備中です」

UNSUのナルダ・キュピドール会長のメモでは、「公平で公正な待遇を求めて、組合は今後も揺るぎなく職員の権利を守る」と誓っている。

ウィーンで開催された職員管理委員会(SMC)

4月7日から12日にかけてウィーンで開催された職員管理委員会(SMC)は、職員の福祉や勤務条件に大きな影響を与える課題に焦点を当てた。

議題の中心は以下の三点だった:

  1. 国連80(UN80)イニシアチブ
  2. 財政危機
  3. 人員削減政策

これらは密接に関連し合い、職員への影響が深刻であるため、数日にわたり集中的に協議された。

UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe
UN Secretary-General António Guterres briefs the General Assembly on the work of the organization and his priorities for 2024. | UN Photo: Eskinder Debebe

アントニオ・グテーレス事務総長は、「UN80イニシアチブ」タスクフォースに対し、以下の提案を速やかに策定するよう要請している:

  • 業務の効率化と改善策の特定
  • 加盟国から与えられた任務の実施状況の見直し
  • 国連システム全体の計画的な再編と資源の合理化

職員の精神的健康に対する懸念の高まり

国連人口基金(UNFPA)の元副事務局長で、パスファインダー・インターナショナルの元CEOを務めたプルニマ・マネ博士は、IPSの取材に次のように語った:

「米国による国連機関からの脱退や財政的削減は、加盟国にとっても、職員にとっても、非常に懸念される問題です。それは、精神的健康に影響を与え、困難な業務に最善を尽くす能力を低下させてしまいます。」

世界が多くの混乱に直面している今、国連には大きな期待が寄せられているが、資金削減はその対応能力を著しく損なうと彼女は指摘する。

「その中で、職員の福祉に取り組む国連関連団体が、メンタルヘルスの重要性に注目していることは安心材料です。」とマネ博士は評価する。

また、SMC XIIIが4月上旬に開かれたこと、そこでも財政危機と人員削減が大きなテーマとして取り上げられたことにも言及し、「不透明さが状況を一層困難にしている。」と強調した。

「米国が国連を投資に値しないと見なしたままで、方針に変更がなければ、行動面での麻痺が深刻化し、職員の精神的健康や職務遂行能力に大きな代償をもたらすでしょう」とマネ博士は警鐘を鳴らす。

財政危機と米国の滞納金

2024年時点で、国連事務局には世界467拠点に35,000人以上の職員が在籍し、その国籍は190カ国以上に及ぶ。国連ファミリーは、約100の機関、基金、プログラムから構成されている。

しかし、財政危機は加盟国による分担金の未納や遅延も一因だ。2025年4月30日時点で、分担金を全額納付した加盟国は193カ国中わずか101カ国にとどまる。

国連のステファン・ドゥジャリク報道官は4月28日、「削減にもさまざまな種類があるが、最も深刻なのは人道・開発パートナーに対するものです。資金が途絶えれば、そのプログラムは即座に停止せざるを得ません。」と語った。

グテーレス事務総長も、「現在は流動性危機に直面しており、委託された資金を最大限責任ある方法で管理している。」と述べている。

米国は最大の滞納国

現在、最大の滞納国は米国であり、通常予算の22%、PKO予算の27%を負担する最大拠出国でもある。

米国が国連に滞納している金額は、通常予算で15億ドル。PKO予算や国際法廷への分担を含めると、その総額は28億ドルに上る。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

2025年の通常予算は37億1,737万9,600ドルで、2024年の36億ドルから約1,300万ドル増加している。米国に次ぐ第2の拠出国は中国で、通常予算の18.7%を負担している。

主要な拠出国は以下の通り:

  1. 米国
  2. 中国
  3. 日本
  4. ドイツ
  5. フランス
  6. 英国
  7. イタリア
  8. カナダ
  9. ブラジル
  10. ロシア

UN80イニシアチブと職員参加

UNSUは、UN80イニシアチブが職員の勤務条件に大きな変化をもたらす可能性があると指摘している。

「変化の全容はまだ不明だが、共通制度の中で起きている同様の課題に関する報道が続く中で、職員にとってストレスや不安の要因となっている」と職員組合は述べている。

UN80イニシアチブでは、職員からの意見を受け付ける「提案箱」も設置されており、5月1日までに提案の提出が求められている。

「現場で日々働いている皆さんからこそ、有効な解決策が生まれると私たちは信じています。ぜひUN80だけでなく、職員組合にも提案をお寄せください」とメモは呼びかけている。

提案は以下のメールアドレスで受け付けている:
newyorkstaffunion@un.org

UNSUは、「効率と改善」「任務の履行」「プログラムの再編成」という三つの柱における意思決定に職員が幅広く関与する重要性を、再度強調している。(原文へ)

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ケヴィン・P・クレメンツ】

ホワイトハウスで行われたドナルド・トランプ、J・D・バンス、ウォロディミル・ゼレンスキーの会談は外交的な大失敗に終わり、主役たちの本性をあらわにした。会談は首脳レベルの政治的大喧嘩となり、多くの人はそれを、ホワイトハウスが米国の政治的協力関係を大幅に変更する口実を作るための不意打ち攻撃と捉えた。このような転換は、当然視されてきた長年の伝統ある同盟関係を弱体化させ、戦後のリベラルな国際秩序の土台を揺るがしている。それは法の支配を侵害し、われわれがルールに基づく国際協調と考えていたものに異議を唱えるものである。国連の役割、より広くは多国間主義の役割に対し、大きな疑問符を突き付けている。ニュージーランドのような小さな国が依存するこのような協調関係が損なわれたことで、19世紀さながらのなりふり構わぬ力に基づくナショナリズムが再び声高に主張されるようになった。() 

Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute
Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute

特に米国民にとって、事態をさらに悪化させているのは、連邦政府の空洞化、大統領府への異常なまでの権力集中、生気のない骨抜きにされた共和党、分裂し麻痺した民主党、そして、2世紀以上にわたって米国を支えてきた法の支配とチェック・アンド・バランスの原理に対する日々の攻撃である。

それに加えて、そして恐らく米国の同盟国にとって極めて憂慮すべきことに、政権は明白な反ロシア的見解からロシアとの関係密接化へと突然大きく舵を切るとともに、伝統的な西側の友好国や同盟国と意図的に距離を置くようになった。大統領がウクライナに関連してロシア寄りのレトリックを用いたことを皮切りに、米国はウクライナのエネルギー供給網に対する支援を打ち切り、ウクライナに関する重要な国連決議においてロシア、北朝鮮、ベラルーシと手を組んだ。ロシアに対する国際的制裁にもかかわらず、トランプ大統領はロシアのG7復帰を提唱し、サウジアラビアでウクライナに関する米国・ロシア間の交渉を推進した。ホワイトハウスは数回にわたってプーチンに電話をかけたが、政府関係者はこれらの話し合いの内容を知らされていない。当初のウクライナへの軍事支援停止は、ゼレンスキーが停戦協定に署名した際に撤回されたものの、トランプが強制力を用いてロシアに味方する用意があることは明白だった。

戦争の終結を直接模索し、主要当事者に働きかけることの価値を認めることは重要だが、この戦争に真の安定した終結をもたらすためのトランプの手腕あるいは能力に対する信頼は、現在のやり方ではほとんど得られない。

特に、トランプは、外国代理人登録法に基づく外国代理人に対する主要な執行措置を廃止した。米国の選挙における外国の介入を取り締まる対策本部を解散した。司法省の制裁逃れ摘発ユニットや合衆国国際開発庁(USAID)を、最近では「ボイス・オブ・アメリカ」を閉鎖した。関税に関する常軌を逸した決定は言うまでもなく、これらの大統領令はいずれも、トランプ政権下の米国の外交政策が「アメリカ・ファースト」のみならず、トランプの極めて特異で利己的な利益追求の足かせとなる厄介な同盟の排除も基本方針としていることを示している。そしてこれまでのところ、トランプがウラジーミル・プーチンや他の独裁者に熱をあげるのを止めるものはない。

こういったこと全てが、ニュージーランドのような小規模国にとって、さらにはタスマン海を挟んだより大きな隣国にとっても、深刻な課題をもたらしている。パートナーシップで最も権力を持つメンバーが国連と民主主義の中核的価値を弱体化させている場合、もはや同盟の確実性はない。また、トランプがファイブ・アイズの解体を要求しており、ハッキングやロシア人への最高機密情報の海外漏洩を防ぐ基本的なサイバーセキュリティ対策を廃止してしまった状況で、保証されたインテリジェンス・セキュリティーはない。ウクライナ支援のために「有志連合」案が浮上しても、トランプ大統領はこれを気にかけることもなく、またウクライナ紛争の解決に向けてより公平なアプローチを取ろうという気にもなっていない。サウジアラビアがお膳立てした2国間の話し合いは、協調的な問題解決のための安全な環境を整えるというより、不利な条件を受け入れるようウクライナに圧力をかけることが目的だったようだ。

これがニュージーランドに意味するもの

では、これによってニュージーランドはどうなるのか? 政権も野党も、この不確実な状況において防衛費を増額し、和平が訪れたら多国間の平和維持作戦に参加する準備をするようプレッシャーをかけられている。筆者の感じるところでは、トランプがもたらした外交政策のカオスはニュージーランドにとって、米国が権威主義寄りの政治体制に傾きつつある現状を踏まえて、われわれが米国とどこまで密接に連携することを望むかを深く考える機会である。

筆者は、今こそニュージーランドが冷戦時代の古い米国主導の同盟から距離を置き、どの国となぜパートナーを組むべきかについて批判的に考察するチャンスであると考える。第1に、世界平和度指数(GPI)のスコアが高い同志国との関係を深めるべきだと筆者は考える。2024年のGPIランキングを見ると、アイスランド、アイルランド、オーストリア、ニュージーランド、シンガポール、スイス、ポルトガル、デンマーク、スロベニア、マレーシア、カナダが最も平和度の高い国々であり、イエメン、スーダン、南スーダン、アフガニスタン、ウクライナ、コンゴ、ロシア、シリア、イスラエル、マリが最も平和度の低い国々である。現在暴力的紛争に巻き込まれている国々より、予測可能で信頼できる確実な協調的関与の基盤を構築したいのであれば、まずは上位10カ国に働きかけるのが良いだろう。

第2に、われわれと同じ民主主義的価値観や人権と法の支配に対する信念を持つ同志国の間で世界的議論を行い、時代遅れの冷戦構造のみに依存しない国際協力と集団安全保障の新たなビジョンにおいて、われわれはどのような未来を実現したいか、軍はどのような役割を果たすかを話し合う必要がある。

現状を維持し続けることができないのは明白である。トランプ政権がいずれは心を入れ替えるだろうと信じるふりをするならば、決して事を荒立てず、あるいは王様が服を着ていないことを指摘しないならば、われわれはトランプの有害なナルシシズムを助長し続けることになる。賢明な行動の道筋は、ワシントンから流れ出るカオスと不確実性に連帯して立ち向かうことができるよう、有志・同志国の戦略的連合を結成することである。ニュージーランドは民主主義のパートナーと協力し、多国間体制を回復するとともに、全ての人の平和と安全保障を促進するルールに基づく国際秩序の尊重を改めて築くために、積極的な策を講じなければならない。

ケビン・P・クレメンツは、戸田記念国際平和研究所所長である。ニュージーランド在住。

INPS Japan

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インド、世界初の微小粒子状物質(PM)排出取引市場を先導

【ニューデリーSciDev.Net=ランジット・デブラジ】

インドで試験的に導入された、人体に有害な微小粒子状物質(PM)排出の取引市場が、産業由来の大気汚染を削減し、コスト低減にもつながったことが明らかになった。研究者らは、この仕組みを他の低・中所得国にも拡大することを目指している。

「キャップ・アンド・トレード(総量規制と排出権取引)」方式と呼ばれるこの制度の成果は、経済学専門誌『The Quarterly Journal of Economics』2024年5月号に発表された。論文では、PM2.5(粒径2.5マイクロメートル以下の粒子で肺にまで達する)の排出を、インド西部の石炭火力発電所約300カ所以上でリアルタイムに追跡しながら運用した結果が報告されている。

研究共著者であり、イェール大学経済成長センターのローニー・パンデ教授によると、この制度が導入されたインドの産業都市スーラトでは、PM排出量が20~30%削減され、参加事業所はすべて環境基準を満たした。

対象となった318の発電所のうち、62カ所が無作為に選ばれ、総量規制の対象とされた。それぞれの事業所には、排出可能な微粒子の上限が割り当てられ、上限を下回った場合は、排出超過した他の事業所に排出枠を売ることができる。これにより、排出削減に経済的なインセンティブが生まれる仕組みだ。

一方、残りの発電所は従来の罰則型規制(罰金など)に基づいて運用される対照群となった。

キャップ・アンド・トレード制度は、排出全体に上限を設けたうえで、事業者同士が排出枠を売買できる市場を構築する。一方でカーボンオフセット制度は、排出削減プロジェクトへの投資を通じて自らの排出を相殺するものであり、通常は自主的な取り組みとして実施される。キャップ・アンド・トレードは政府の規制の下に運用される点で異なる。

この研究によれば、スーラトの排出取引制度に参加した発電所では、従来の罰則型規制と比べて排出削減コストが11%低下した。また、真の経済的恩恵は、大気汚染の減少による死亡率改善という形でも現れている。

汚染の影響、設備投資、死亡回避による社会的利益などを考慮した費用対効果分析では、この市場制度のコストパフォーマンスは、従来方式に比べて少なくとも25倍に達することが示された。

PM2.5による汚染はインドにおける深刻な公衆衛生問題である。スイスの大気質調査機関IQ Airが2024年3月に発表した報告によれば、PM2.5による世界で最も汚染された都市20のうち11都市がインドに存在する。

今回のグジャラート州の制度は、世界で初めてPM排出を対象とした排出取引市場であり、インドとしてもあらゆる汚染物質を対象とした初の市場制度である。同制度は、グジャラート州汚染管理委員会がシカゴ大学エネルギー政策研究所(EPIC)と共同でパイロット開発した。委員会は、一定の期間内に地域全体で許容されるPM排出量の上限を設定した。

「この研究は、政府の行政能力が限定的な状況においても、遵守型市場制度が実行可能であり、従来型の規制手法より優れる可能性があることを示しました」とパンデ氏は語る。

デリーのエネルギー・環境・水協議会(CEEW)のカールティク・ガネーサン上級研究員は、この研究の理論的根拠は有効であるとしながらも、「制度の効果が実感できるようになるには、職員の広範な研修と投資が必要」だと述べた。「この制度がインド全体で効果を示すまでには数年かかる可能性があります」とも付け加えた。

グジャラート州政府は現在、同様のPM排出取引制度を州内の別の工業都市アーメダバードに導入しており、隣接するマハーラーシュトラ州では二酸化硫黄(SO₂)を対象とした排出取引市場の開発が進められている。

本研究の共著者であるシカゴ大学のマイケル・グリーンストーン経済学教授は、「スーラトでの成功により、経済成長と環境の質のバランスを目指す他国政府からの関心が高まっている」と話す。

「現在、インド国内の他州や海外の政府とも連携し、こうした汚染取引市場のスケールアップに取り組んでいます」

一方、インド政府は、全国カーボン市場(Indian Carbon Market)に向けたオフセットメカニズムの整備を進めており、再生可能エネルギー、グリーン水素、産業エネルギー効率、埋立地のメタン回収、マングローブ植林といった分野を、カーボンクレジット創出の対象として特定している。

また、インド環境省は、アルミニウム製錬やセメント製造などの高汚染産業に対し、温室効果ガス排出原単位目標の達成を促すため、炭素クレジット取引制度の導入にも着手している。(原文へ

INPS Japan

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米国の再編計画、世銀・IMF・国連機関に影響も

【国連IPS=タリフ・ディーン

米国国務省は、自国の政策を大幅に再編する中で、国内132の事務所を廃止し、約700人の連邦職員を解雇、さらに海外の外交拠点を縮小する計画を打ち出した。

提案されている変更には、国連およびその関連機関への資金の一部打ち切り、32か国が加盟する軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)への予算削減、さらに世界銀行(WB)や国際通貨基金(IMF)を含む20の国際機関の再構築が含まれる。

こうした動きは、ちょうどワシントンDCを本拠とする世銀とIMFの年次春季会合(4月21日~26日)が開催される中で表面化した。米財務長官スコット・ベセント氏は、両機関に対して「大規模な抜本改革」が必要だと発言した。

ニューヨーク・タイムズ(4月24日付)によると、ベセント氏の発言は「トランプ政権が米国を世銀とIMFの両方から完全に脱退させるのではないかという懸念が高まる中で行われた」としている。

しかしベセント氏はサイドイベントで「脱退する意図はなく、むしろ米国の指導力を拡大したい」と述べた。

彼はIMFが気候変動、ジェンダー、社会問題に「過剰な時間と資源」を費やしていることを批判し、「これらの問題はIMFの本来の任務ではない」と語った。

一方、4月22日にはマルコ・ルビオ国務長官が、現在の国務省は「肥大化し、官僚的で、新たな大国間競争の時代における外交任務を果たせていない」と批判した。

「過去15年で国務省の規模と費用はかつてないほど膨らんだが、納税者が得たのは非効率で効果の薄い外交だった。現在の官僚制度は、アメリカの国益よりも過激な政治思想に従属している。」と彼は断じた。

国務省によれば、こうした変更は今後数か月かけて段階的に実施される予定である。

ニューヨーク大学のグローバルアフェアーズセンターで国際関係学を教えていたアロン・ベン=ミール博士は、国務省や主要な国際機関への予算を50%削減するというホワイトハウスの提案は、短期的にも長期的にも重大な悪影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らす。

「確かに国際機関の定期的な見直しは、運営の効率化や不要な支出の削減には必要だ。しかし、こうした重要な組織を精査もせずに一括で予算カットするのは、視野の狭い極めて危険な行為だ」と彼は言う。

「とはいえ、これは驚くべきことではない。トランプ氏は暴走しており、それを止める“大人”がいない。こうした無謀な行動は、米国の国際的地位と国益を大きく損なうことになる。」

Stéphane Dujarric/ UN Photo/Evan Schneider
Stéphane Dujarric/ UN Photo/Evan Schneider

この提案が国連に与える影響について問われた国連報道官ステファン・ドゥジャリック氏は、4月23日の会見で「国際機関局が存続するとは聞いているが、それが我々にどう影響するかは、まだ当局とのやり取りはない。」と語った。

現在、米国は国連の通常予算に対して約15億ドルの未払いがあり、平和維持予算や国際法廷関連費用を含めると総額28億ドルにもなる。

ホワイトハウスは既に国連人権理事会、世界保健機関(WHO)、気候変動枠組条約から脱退し、ユネスコや国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)からの脱退も示唆している。
ただし、**国際原子力機関(IAEA)と国際民間航空機関(ICAO)**への資金提供は継続される見込み。

また、国務省から漏洩したメモには、「最近のミッション失敗」を理由に国連の平和維持活動への資金を全面的に打ち切るとの方針も記されているが、詳細は示されていない。

CNNの4月17日報道によれば、海外の大使館や領事館約30か所を閉鎖する計画も進行中である。内部文書では、大使館10か所、領事館17か所の閉鎖が提案されており、その多くは欧州とアフリカ、さらにアジアやカリブ地域にも及ぶ。

対象には、マルタ、ルクセンブルク、レソト、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国、南スーダンの大使館、そしてフランスに5か所、ドイツに2か所、ボスニア・ヘルツェゴビナに2か所、英国、南アフリカ、韓国にそれぞれ1か所の領事館が含まれている。

これらの任務は、近隣諸国の在外公館でカバーされる見通しだ。

国務省報道官タミー・ブルース氏は、内部文書や国務省の削減計画に関するコメントを避け、「予算計画はホワイトハウスと大統領の裁量であり、議会提出までは予断を許さない」と述べた。

「報道の多くは、どこから漏れたか分からない文書に基づいた早計または誤情報です」とブルース氏は語った。

ベン=ミール博士は、今回の米国の方針が欧州諸国との信頼関係を損ない、米国の影響力低下を招くと分析する。

「こうした撤退は、特にアフリカやアジアで中国の地政学的優位を助長することにもつながる」

また、文化交流プログラムの大幅な削減も、長期的な国際パートナーシップを築く上での大きな損失だと指摘する。

「NATO加盟国は資金の穴埋めに難色を示す可能性が高く、防衛費を巡る対立が生じ、NATOの近代化計画や危機対応能力が損なわれる恐れがある」

NATO Summit in Wales in 2014/NATO
NATO Summit in Wales in 2014/NATO

もし実際にこれらの削減が実施されれば、NATOは独自の安全保障枠組みの模索に動き出す可能性があり、大西洋を挟んだ結束が崩れ、米国の影響力は一層低下するという。

また、現地職員(在外公館スタッフの3分の2を占める)の解雇によって、感染症や紛争といった突発的事態への対応力が著しく損なわれる。

「国連およびその機関への資金削減は、即座に資金不足を招き、人道支援や医療プログラムに深刻な影響を及ぼすだろう。USAID予算の過去の削減でも同様の事態が起きた。」

WHO、UNICEF、UNRWAなどの重要機関は、予防接種、食料支援、災害救援活動の停止を余儀なくされる。

この空白を中国やロシアが埋めようと動けば、人権や気候変動に関する国際的規範が改変されかねない。

Different jurisdictions and immunities apply to civilian and military personnel, made more obscure by a lack of transparency and detail in the U.N.’s reporting of abuse cases. Photo: UN Photo/Pasqual Gorriz
Different jurisdictions and immunities apply to civilian and military personnel, made more obscure by a lack of transparency and detail in the U.N.’s reporting of abuse cases. Photo: UN Photo/Pasqual Gorriz

さらに、レバノン、南スーダン、コンゴ民主共和国、キプロス、コソボ、ハイチなどでの国連平和維持活動の撤退も現実味を帯びており、不安定化や武力衝突の再発を招く恐れがある。平和維持は歴史的に費用対効果の高い手段であり、その代替はより高コストな軍事介入を必要とする可能性がある。

「今回の提案は極めて無責任であり、長期的・短期的に深刻な影響を及ぼす。米国の危機対応能力を損ない、世界的なリーダーシップを低下させ、結果的にロシアや中国といった対抗勢力に主導権を譲ることになるだろう」

最後にベン=ミール博士は、「共和党が多数を占める米国議会がこの“非常識な削減案”を否決することを期待する。さもなければ、米国は国際的に孤立し、その地位と影響力を長期にわたり失うことになる」と強く警告した。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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「オゾンと気候の相乗効果」がインドの大気汚染に拍車

【ニューデリーSciDev.Net=ランジット・デブラジ】

インドの都市は、微小粒子状物質(PM2.5)の濃度に基づいて、世界で最も汚染された都市のひとつに数えられている。しかし、最新の研究によれば、命に関わるもうひとつの汚染物質「地表オゾン」の増加とも闘っていることが明らかになった。

学術誌『Global Transitions』に発表された研究によると、インドでは2022年に地表オゾンによる死亡者が5万人を超え、その経済的損失は約168億米ドル(同年の政府医療支出総額の約1.5倍)にのぼった。

「地表オゾンは、健康に有害なだけでなく、温室効果によって生態系や気候にも影響を及ぼす有毒ガスです」と話すのは、インド工科大学カラグプル校のジャヤナラヤナン・クッティプラト教授で、本研究の責任著者である。

オゾンは酸素の一種であり、成層圏と地表の両方に存在する。自然に形成される成層圏のオゾンは、有害な紫外線を遮る役割を果たすが、一方で地表オゾン(グラウンドレベルオゾン)は、人間活動による汚染物質の化学反応によって生成される。

たとえば、車の排気ガスに含まれる窒素酸化物が、産業活動やゴミの山から放出される揮発性有機化合物と反応することで、地表オゾンが生成される。

地表オゾンはスモッグの主成分であり、人の健康や環境に悪影響を及ぼす。

「私たちの研究では、インドの多くの地域で、世界保健機関(WHO)が推奨する70マイクログラム毎立方メートルという基準値を超えるオゾン濃度が確認されました」とクッティプラト教授はSciDev.Netに語った。

同氏によると、短期的な地表オゾンへの曝露は、心疾患、脳卒中、高血圧、呼吸器疾患による死亡リスクを高める。さらに、長期的には肺活量の低下、酸化ストレスの誘発、免疫応答の抑制、肺の炎症などを引き起こす可能性があるという。

「オゾン・気候の相乗効果」とは

気候変動、気温上昇、気象パターンの変化は、「オゾン・気候の相乗効果(ozone-climate penalty)」と呼ばれる現象を通じて、地表オゾンの濃度をさらに高める。

オゾン生成に影響する要因には、太陽放射、湿度、降水量、そしてメタン、窒素酸化物、揮発性有機化合物などの前駆物質(化学反応によって汚染物質を生成する物質)が含まれる。

クッティプラト氏によれば、地表オゾンの汚染は暑い夏季に悪化し、6月から9月のモンスーン期には雨により汚染物質が洗い流されることで軽減され、太陽放射の減少により光化学反応も抑えられるという。

また、微小粒子状物質(PM2.5)への曝露が、オゾンの健康影響を悪化させる可能性があるとクッティプラト氏は警鐘を鳴らす。「オゾンとPM2.5の複合的影響によって、呼吸器疾患の増加や死亡リスクの上昇が生じる可能性があります。」

PM2.5とは、直径2.5マイクロメートル未満の粒子で、肺を通じて血流に入り込むことができる極めて小さな粒子である。

2024年の「世界大気質報告書」によれば、PM2.5の健康負荷が最も大きい世界の20都市のうち11都市がインドにあり、デリーは「世界で最も汚染された首都」としてランク付けされた。

さらに『ランセット・プラネタリーヘルス』誌に掲載された別の研究では、インドの全人口がWHOのガイドラインを超えるPM2.5濃度の地域に居住していることが示されている。

農作物の収量への影響

地表オゾンは健康だけでなく、光合成の過程に影響を及ぼすことで農作物にも悪影響を与える。オゾンによって光合成系、二酸化炭素の固定、色素が損なわれると、炭素の取り込み能力が低下し、作物の収量が減少する。

本研究によれば、インドではオゾン汚染によるコメの収量損失が、2005年の739万トンから2020年には1146万トンへと増加し、29億2000万米ドル相当の損失が生じ、食料安全保障にも影響を与えた。

仮にオゾンの前駆物質の排出が現状維持であったとしても、気候変動の進行だけで、南アジアの高度に汚染された地域では2050年までに地表オゾン濃度が増加する可能性があるという。特に、インド・ガンジス平原といった肥沃な地域では、農作物の大きな収量損失が予想される。

政策の展望と対策

インド気象庁の元副局長であり、現在はムスーリーの国家行政学院の客員教授であるアナンド・クマール・シャルマ氏は、地表オゾンの増加は今後ますます懸念される課題だとしながらも、「現時点では他の汚染物質への対応が優先されている」と述べる。

「本研究が指摘する通り、オゾンによる年間5万人の死亡は確かに重大だが、PM2.5による年間数百万人の死亡に比べれば、差し迫った問題とは言えません」とシャルマ氏は語る。

「さらに、非常に暑いプレ・モンスーン期には、熱中症などによる死亡が注目されがちです」

一方で、シャルマ氏は、2019年に導入された「国家大気浄化計画(National Clean Air Programme)」の政策により、今後状況が改善されていくと確信している。

「地表オゾンの多くは、モンスーンの雨など自然の働きによって除去されます。報告されているオゾン濃度の上昇に対処するには、窒素酸化物、メタン、PM2.5といった前駆物質の排出を削減することが最善の策です。国家大気浄化計画では、まさにこの方向での取り組みがすでに始まっています」(原文へ

INPS Japan

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