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|アフリカ| 海底ケーブルの損傷でインターネットが中断

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

 電話や長距離通話サービスやデジタル携帯電話ネットワークのない世界とはどんなものなのだろう。世界中の何十億という人々が、文字にすることなく親戚に電話をかけたり、ビジネスをしたり、情報を交換したりしているのだから、想像するのは難しい。

Netblocksによると、コートジボワールが最も深刻な障害に直面し、リベリア、ベナン、ガーナ、ブルキナファソが大きな影響を受けた。インターネット企業のCloudflareは、自社の監視アカウントを通じて、ガンビア、ギニア、リベリア、コートジボワール、ガーナ、ベナン、ニジェールで大規模な障害が続いていることを確認した。

午前8時までに、ナイジェリア、コートジボワール、ガーナで銀行閉鎖が報告された。

ケーブルの損傷によるネットワークの混乱は近年アフリカで発生している。しかし、「今日の混乱はもっと大きなものを示唆しており、これは最も深刻なもののひとつだ」とNetblocks社のリサーチ・ディレクター、イシク・メーテル氏は語った。

いくつかのケースでは、シャットダウンは意図的なものだった。たとえばセネガルでは、活動家グループが企画したサイレント・マーチの直前、火曜日に通信省が携帯電話会社にインターネット・アクセスを停止するよう指示した。

このデモ行進は、2月25日に予定されていた大統領選挙の突然の延期に抗議するためのものだった。先週の激しい衝突では3人が死亡し、多数の逮捕者が出た。

ナイジェリア、コートジボワール、リベリア、ガーナ、ブルキナファソ、南アフリカは、10カ国中最悪の被害を受けている。マイクロソフトは顧客に対し、ケーブルの修理が長期化する可能性があると警告した。西アフリカのデータセンターおよび接続プロバイダーであるMain Oneは、海底ケーブルシステムの断線によるインターネット停止を非難した。

比較的良好な位置にある南アフリカ

南アフリカは比較的良い位置にあるように見えるが、シエラレオネやリベリアを含むいくつかのアフリカ諸国では、実際に国に入ってくる光ファイバーケーブルは1本だけである。これらの国からのインターネット・トラフィックは、ケーブルが断線すると基本的に停止する。ナミビアとレソトも影響を受けた。

「当然ながら、これは生活、ビジネス、そして政治のあらゆる側面に大きな影響を与える」とジャハジーア氏は続けた。「衛星を経由して迂回できる通信もありますが、衛星トラフィックは世界のデジタル通信の1%程度にすぎません」。

デジタル植民地主義 “と呼ばれるものに対する疑問が浮上している。「以前は、ケーブルは公共部門と民間部門のパートナーシップの組み合わせによって資金を調達していましたが、現在ではアルファベット、メタ、ファーウェイなどの大手民間企業がケーブルインフラに資金を提供することが増えています。このことは、デジタル・インフラの管理と監視に深刻な影響を及ぼしている。」

「貧しい国々は、しばしば裕福な企業体の条件を受け入れるしかない。これはアフリカのデジタル主権にとって信じられないほど危険なことであり、もっと公に議論されるべきことである。」(原文へ

INPS Japan

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国連事務総長が映画『オッペンハイマー』は核の終末の厳しい現実を示したと警告

【国連IDN=タリフ・ディーン】

数々の賞を受賞した映画『オッペンハイマー』は、原子爆弾の開発に貢献したとされるロバート・オッペンハイマー博士の生涯を題材にしたもので、核軍縮を求める長年の運動と、世界で最も破壊的な兵器のひとつである核兵器のもたらす死と破壊に再びスポットライトを当てることとなった。

米国が1945年8月に広島・長崎に2発の原爆を投下した際、世界はこれほど甚大な人的災害を経験したことがなかった。両原爆による死者は14万人~22万6000人と推定されている。

「世界芸術科学アカデミー」理事で「グローバル安全保障研究所」所長であるジョナサン・グラノフ氏はこの映画について、今日の数千発の核兵器の持つ破壊力は我々の想像力をはるかに凌駕していると語った。

「この映画は、原爆を作る過程における個々の人間の行為に焦点を当てることで、このような装置を作ったのが人間の手であるならば、それを廃絶するのもまた人間の手によるものだということを私たちに思い起こさせてくれます。この任務を無視するのかそこに向かって努力するのかは、私たちの良心にかかっています。」と語った。

グラノフ氏の発言は、アルベルト・アインシュタイン博士からの強い警告を想起させる。「解き放たれた原子の力は、われわれ思考様式以外のすべてのものを一変させてしまった。こうして私たちは前代未聞の破滅へと突き進んでいる。」

こうしてアインシュタインは1955年、バートランド・ラッセルや他9人の著名な科学者らとともに強力な宣言を発し、人々にこう選択を迫った。「もし人々が皆その気になれば、人類の前には、幸福と知識と知恵の不断の進歩が横たわっている。それなのに争いを忘れることができないという理由で、死を選ぼうとするのか。私は一個の人間として人間に向かって訴える。『人間性』を想い出しなさい。それ以外を忘れなさい。それができれば、新しいパラダイスヘの道が開ける。さもなければ、人類の絶滅しかないだろう。」

現代の偉大な英雄の一人、ジョセフ・ロートブラット博士

映画『オッペンハイマー』は現代のヒーローであるジョセフ・ロートブラット博士を無視しているとグラノフ氏は指摘した。ロートブラット博士もアインシュタイン=ラッセル声明の署名者の一人であり、ナチスの原爆開発は不可能だと悟った時点でマンハッタン計画から降りた人物でもある。

ロートブラット博士は、同計画を主導した軍人グローブズ将軍に対してその事実を告げたが、原爆は単にナチスを抑止するためだけではなく、ソ連の力に対抗する意味合いも込めて開発が進められていることを知った。

「ロートブラット博士は、もし米国が原爆を開発・使用すれば軍拡競争の危険があると見ていました。」とグラノフ氏は語った。ロートブラット博士は、科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議を創設し、1995年にはノーベル平和賞を受賞した。

オッペンハイマー博士も同様に軍拡競争の危険は感じており、きわめて破壊的な水素爆弾の開発には反対した。代わりに、核兵器の危険性を封じ込めるために、国際レベルでの外交や法、協力を促した。

オッペンハイマー博士はこうした政治的主張によって迫害され、セキュリティクリアランスを剥奪された。「映画は、実際には原則的なことが問題になっているのに、代わりに個人間の反目をゆがんだ形で強調している。」とグラノフ氏は指摘した。

世界芸術科学アカデミー(WAAS)

最終的にオッペンハイマー、ロートブラット、ラッセル博士は1960年、世界芸術科学アカデミー(WAAS)という著名な組織の設立に尽力し、世界から核兵器の脅威をなくし、生命の破壊ではなく改善に科学をより広範に使用しうるような近代的な取り組みを導くことになった。

WAASは今日でもその遺産を保っており、「継続的な進歩」、そして究極的には人間の安全保障という約束を果たすために活動している。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月18日に安保理で行った演説で映画『オッペンハイマー』に言及した。同作は10日、ハリウッドのアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞など7部門で受賞していた。

グテーレス事務総長は「世界終末時計は誰にも聞こえるぐらいの音でカチカチと音を鳴らしています。学界から市民社会に到るまで、この核の狂気を終わらせる呼びかけがなされています。」と語った。

「ローマ教皇は、核兵器の保有は『不道徳』だと述べました。自らの将来について懸念する世界中の若者たちは、変革を要求しています。広島・長崎の被爆者は、権力に対して真実を語り、時代を超えた平和のメッセージをたゆみなく送り続けています。」そしてハリウッドでは「核による終末という厳しい現実を世界の多くの人々にまざまざと見せつけました。」とグテーレス事務総長は指摘した。

ブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー)グローバル公共政策グローバル問題大学校「軍縮・グローバル・人間の安全保障」プログラムの責任者を務めるM・V・ラマナ教授は、映画『オッペンハイマー』は「それ以前の兵器よりもはるかに大きな破壊力を持つ原爆の発明と使用によって世界がいかに変えられてしまったかを示している。」と語った。

ヒロシマ・ナガサキ

オッペンハイマー博士が広島・長崎を破壊した原爆の創造を1940年代に監督して以来、核兵器の破壊力は格段に大きくなった。

ラマナ氏は、「核兵器を人間と都市の上に運ぶ方法は、射程・精度・数のいずれの面においても進化してきました。」と指摘したうえで、「資源と権力をめぐる終わりなき競争に駆り立てられて、核兵器保有国は他国の民衆を攻撃する軍事力の一方的な使用に常日頃から関与してききました。」と語った。

「ロシアのウクライナに対する攻撃や、イスラエルのガザに対する全面的な爆撃はその最新の一例に過ぎません。」とラマナ博士は語った。

米国は、朝鮮やベトナム、カンボジア、アフガニスタン、イラクなどのはるか遠方の国々への軍事攻撃で世界を主導し、数えきれないほどの人々を殺害してきたとラマナは指摘する。

「気候変動の危機が厳しさを増し、『血と土地』の論理を振りかざす国家主義的な運動が各国で激しくなる中、軍事的な対立の危険が増しており、核兵器がいつかどこかで使用されてしまうリスクも高まっています。」

ラマナ博士は最後にこう指摘した。「核兵器を廃絶する緊急性が高まっているだけではなく、オッペンハイマー博士や、とりわけアインシュタイン博士のような人々を熱狂させた別のアイディアについて真剣に再考すべき時だと思います。すなわち、(アインシュタインの挑発的なフレーズを使わせてもらうならば)「視野の狭い国家主義という時代遅れの概念」から脱却して『ひとつの世界』へと到るという道のことです。」(原文へ

INPS Japan

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高まる水危機で紛争の危険が高まり、SDGs実現も危ぶまれる

【国連IDN=タリフ・ディーン】

中東の激動の政治と言えば、石油というたったひとつの宝の商品がもたらす不確実な富の問題に長らく集約されていた。

中東のある外交官はかつて「水を求めて乾いた砂漠を掘れば、必ずと言っていいほど石油が出てくる。」と語ったものだ。

しかし、水危機の高まりはそれを凌駕しており、途上国の数十億人の生活に影響を与えている。そして彼らの手には、残念なことに、石油も水もないのである。

3月22日に国連が発表した最新の報告書は、水をめぐる緊張が世界全体で紛争を悪化させていると警告した。

国連の水問題フォーラム「UNウォーター(国連33機関で構成)」を代表して国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が発行した『国連世界水開発報告2024年版』は、平和を維持するには各国が国際協力と国境を越えた合意を促進しなくてはならないと指摘している。

世界で30億人以上の人々が国境を越えた水資源に依存している。しかし、すべての共有水について協力協定を結んでいるのは24カ国にすぎない。

今日、22億人が依然として安全に管理された飲み水を手にすることができず、35億人が安全に管理された衛生サービスを利用できない。

17項目の持続可能な開発目標(SDGs)の中では、第6目標が「すべての人々に水と衛生へのアクセスを確保する」ことを謳っている。水資源や下水処理、生態系の持続可能な管理に焦点を当て、人々の可能性を広げる環境の重要性を謳っている。

しかし現在のところ、この第6目標を含むSDGsのどれもが順調に進んでいるようには見えない。

安全に管理された衛生を巡る状況は暗く、35億人が衛生サービスを利用できていない。都市や自治体は、加速する都市人口の増加に対応できていない。

「2030年までにすべての人が水を利用できるようにするという国連の目標は達成に程遠い。」と報告書は述べている。

国連総会(加盟193カ国)のデニス・フランシス議長は、3月22日の「世界水の日」いおける発言で、「水は生命の本質であり、水には本来国境などなく、境界線や文明を超えて自由に流れるものだ。今日ニューヨークに降る雨は、雄大なナイル川や美しいセーヌ川から流れてきたものかもしれない。私たちの生態系や水循環、ひいては私たちの世界の相互関係を鮮明に示している。」と語った。

水の過剰、不足、汚染、そのいずれであれ、水を巡る複雑に絡んだ状況は、気候変動の容赦ない影響によってさらに複雑化している。

フランシス議長は、水を巡るこうした状況が、社会的緊張や経済格差、政治的不安定の問題をさらに悪化させ、紛争と社会的不安定のリスクを高めていると指摘した。

だが、こうした過去の難題の中には、集団的な解決や協調のヒントが潜んでいる。水を巡る協力は、水が確保された平和な社会を作るうえで、単に利益をもたらすというだけではなく、不可欠なものなのである。

「気候変動の影響が増大し、人口が増加する中、最も貴重な資源の保護と保全に向けて各国内および各国間で団結することが緊急に必要とされている。」とフランシス議長は語った。

ユネスコのオードレ・アズレ事務局長は、「水資源への負荷が強くなる中、地方や地域での紛争のリスクも高まっている。ユネスコのメッセージは明確だ。すなわち、もし平和を守りたいのなら、水資源を守るだけではなく、この領域において地域と世界全体での協力を強化するために緊急に行動しなくてはならない。」と語った。

国際農業開発基金(IFAD)とUNウォーターで代表をそれぞれ務めるアルバロ・ラリオは「水は、持続可能かつ公正な形で管理されれば、平和と繁栄の源になりうる。また、文字通り農業の血液ともなり、多くの人々にとって社会経済的な原動力になる。」と語った。

ユネスコの報告書によると、2001年から2021年までの間に、干ばつによって影響を受けた人々は14億人に上る。

2022年時点で、世界人口の約半数が少なくとも一年の一部で深刻な水不足に見舞われており、4分の1は年間再生可能な淡水供給量の8割以上を使用する「極めて高い」レベルの水ストレスに直面している。

気候変動によってこうした現象の頻度と程度は強まると見られ、社会的不安定のリスクは高まっている。

他方で、オックスファムが3月21日に発表した報告書は、世界で最も影響力のある食料・農業企業のわずか28%しか水使用量を減らしておらず、水の汚染を減らす対策をしている企業はわずか23%しかいないと警告している。

「世界ベンチマーキング同盟」のデータを使用して350社を分析したオックスファムの今回の報告書は、3月22日の「世界水デー」に先立って発表された。

45年以上前に水に関する初めての大きな会議を招集した国連は、推定20億人が安全な飲み水を手にすることができず、最大30億人が年間のうち少なくとも1カ月は水不足を経験しているとしている。

分析の対象となったカルフール社やアブリル・グループをはじめとした350社は、世界の食料・農業企業の年商の半分以上を占めている。淡水利用の7割は農業向けであり、世界の産業ではこれ以上に水を使用する部門はない。工業的農業は水汚染に大きな責任を負っている。

オックスファムの分析はまた、350社中108社しか、水の少ない地域からの水利用についての情報開示をしていないと述べている。

「大企業が大量の水を汚染したり消費したりすれば、その犠牲になるのは地域社会だ。井戸は空になり、水道代は上がり、水源が汚染されて飲み水には適さなくなる。水が少なくなれば飢餓につながり、病気が増え、居住地を追われることにもなる。」とオックスファムフランス支部のセシル・ドゥフロー支部長は語った。

「企業が自らの慣行を変えるような善意に期待することはできない。政府が企業に自らの責任を取らせ、企業の利益追求に対して公共財を守らねばならない」とドゥフローは話す。

水と富は分かちがたく結びついている。富裕層は安全な飲み水を手にすることができるし、自費で高い水を買うこともできる。他方で、貧困層は、公的な上水道を利用できないことも多いし、水道代に収入の相当の部分を割かねばならない。

ペットボトル水市場の急成長は、大企業がいかに水を収奪・商品化しているか、それによっていかに不平等や汚染、害悪が加速されているかを示している。

国連によれば、巨大化するペットボトル水産業は、持続可能な開発目標の第6目標(安全な飲み水をすべての人の手に)の進展を遅らせている。

フランス当局は、2023年5月から2カ月、ボルビック地区を含んだピュイ・ド・ドーム県の干ばつ被害地域で多くの人々に水道使用制限を課している。

しかしこの制限は、多国籍企業ダノン社の子会社であるボルビック社には適用されていない。同社はこの間も、ボルビックの水ペットボトル生産のために地下水を使用し続けている。オックスファムによれば、2023年、ダノン社の利益は8億8100万ユーロに達しており、株主に12億3800万ユーロを配当している。

地球の気温上昇によって、干ばつの頻度が増し、降雨パターンや水の流出のあり方が変化することで、東アフリカや中東などの元々水資源の少ない国ではさらに水が少なくなるであろう。

人々が長い時間列に並んだり長距離を水を汲みにいったりするなど、日常的な水源へのアクセスでどれだけ苦労しているか、汚染された水を利用することでいかに健康を崩しているかを、オックスファムは長らく観察してきた。

たとえば、南スーダン・レンクにある中継キャンプでは300人以上の人々がたった一つの蛇口を共有しており、コレラなどの感染症蔓延の危険が高まっている。オックスファムは昨年、ソマリアやケニヤ北部、エチオピア南部の一部の井戸の9割が完全に枯れていると警告した。

オックスファムは各国政府に次の行動を求めている。

・水は人権と公共財の問題であると認識すること。人間への水の提供に関しては、利益追求を優先してはならないこと。

・水の汚染問題を含め、企業が人権や環境権・環境法を乱用・違反しないよう責任を取らせること。

・水の確保や公的水供給への補助、持続可能な水管理、気候変動に強い水・衛生に投資すること。水と衛生に関する国家計画・政策において、女性のリーダーシップ発揮や参加、全ての段階での意思決定を確実にすること。(原文へ

INPS Japan

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人工知能は社会への脅威

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ドン・バード】

筆者は数十年にわたり、人工知能の周辺で、また、時にはその領域内で仕事をしてきた。現在は、社会の有害な分極化を解消するための取り組みにおいて米国で最も効果を挙げている組織の一つ、ブレイバー・エンジェルズ(Braver Angels)でタスクフォースの共同議長を務めている。

現在AIを利用している、あるいは近いうちに利用しそうな多くの用途が、筆者の頭を悩ませている。実のところ、その一部に筆者は恐怖を覚えているし、読者も恐怖を覚えることを願うばかりだ! 考えて欲しい三つの事実がある。(

(1)「ディープフェイク」は、AIで生成した音声や動画である。ディープフェイクは、詐欺や政治的不正工作、あるいはポルノ制作のために使われ得る。実際にそのような例がソーシャルメディアに登場しており、「実はデサンティスが大好きだ」とヒラリー・クリントンが動画の中で語っている。「彼は、まさにこの国が必要としているタイプの人物であり、私は本気でそう言っている」。また、ある人の顔を別人の体に貼り付けるポルノビデオは、ますます広がりつつある。

(2)米国と中国はいずれも、何らかのAI制御兵器を実戦配備しようと躍起になっているようだ。これには、自律型致死兵器システム(LAWs)、すなわち、単に敵の「資産」(ドローン、線路など)を破壊するのではなく、人を殺す判断を自力で下すことができる兵器が含まれる。

(3)ChatGPTのような「大規模言語モデル(LLM)」の開発者は一般的に、それらのモデルが偏見や危険な情報を含んでいるなどの有害な文章を生成しないようにする機能を搭載している。しかし、再三再四にわたり「ガードレール」機能の抜け穴が発見されており、LLMが公開されてから数分で発見される場合もしばしばである。テロリストがそのような抜け穴を利用して、症状が1週間現れないため感染を広げる時間がたっぷりある新しい致死的病原体を開発する方法を学習することを想像して欲しい。

市民の間の信頼は民主主義社会の不可欠な要素であるが、AIはすでにそれを損ないつつある。2023年初め、有名なAI研究者であり批評家のゲイリー・マーカスは、「われわれは、もはや何を信じたら良いか全く分からない世界に極めて急速に行き着こうとしている。それは社会にとって、例えばこの10年間で、すでに問題となっている。この先はますます悪化する一方だと思う」と述べた。音声や動画のディープフェイクは、信頼が損なわれる一つの方法である。無害に見えるが、現実と人工の境界を曖昧にするものも、しかりである。

しかし、昔ながらの言い回しを使った偽情報キャンペーン、ますます極端化し分極化する見解に基づくコンテンツをしばしば提案するソーシャルメディア、いわゆる「ハルシネーション」など、他にもいくつかの脅威がある。ハルシネーションとは、完全に間違っていることをLLMが自信たっぷりに主張してくる、驚くほどよく見られる現象である。ミシェル・ウィリアムズによる「われわれはAIをどこまで野放しにするのか?(How far will we let AI go?)」という記事では、「ChatGPTが、銃は子どもたちにとって有害ではないと主張する研究をでっち上げ」、高く評価された学術雑誌に掲載された論文を引用したが、そんな雑誌は存在していないという事例を報告している。その一方で、コンピュータービジョンの進化は著しく、人間になりすますコンピューターを識別するReCAPTCHAやその他の手法を役に立たなくする恐れがある。また、自己の決定を説明することができる「説明可能なAI(Explanable AI)」は長年活発に研究が行われてきた分野であるが、今後1年や3年で説明可能性が普及すると思わないほうがいい。

AIがどのようにわれわれの脅威になるのかと聞かれた場合、専門家も一般人も、おおむね二通りのうちいずれかの反応をする。未来のAGIすなわち「汎用人工知能」は、近い将来ではないにしても、文明の存続にとって、さらには人類の存続にとってさえ深刻な脅威となるだろうというもの、あるいは、それはすでにわれわれの民主主義および/または社会にとって深刻な脅威となっているというもののいずれかである。筆者は、2番目の「AIは今日の民主主義と社会にとって脅威となっている」というグループである。われわれに何ができるだろうか?

さまざまな理由から、明白な解決策(開発の停止または凍結、認可制、ウォーターマーキングなど)のほとんどは、あまり多くの成果を挙げられそうにない。しかし、社会への脅威の一部は、ソーシャルメディアによって大幅に増幅されている。ソーシャルメディア企業はすでに、投稿が拡散する前にチェックを行っているが、別の方法でコンテンツをチェックするよう各社に要請することがかなり有益かもしれない。「AI生成された本物ではないコンテンツの害に対処する(Addressing the harms of AI-generated inauthentic content)」と題する短いながらも示唆に富んだ論文では、有名な偽情報研究者らが次のように論じている。

「言論の自由を守るという明白な課題があるだけでなく、AIに対する規制は、法令を遵守する事業者によって開発されたツールにしか効果がないだろう。しかし、AIのアルゴリズムやデータはオープンソース化されており、コンピューティング能力はますます低廉化しているため、悪意の行為者は、提案されているウォーターマーク基準のような規制枠組みに従う気は一切なく、独自の生成AIツールを開発するようになるだろう。AIによるコンテンツ生成ではなく、ソーシャルメディアプラットフォームを通した拡散を対象にした、別の規制枠組みを検討する必要がある。コンテンツに対する規制を、そのリーチに基づいて課すことも考えられる。例えば、ある主張が大勢の人の目に触れる前に、制作者に対してその事実性や来歴を証明するよう求めるといったことだ」

しかし、これらの問題を本当に解決できる技術はないだろう。ロバート・ライトは、「AIは危険になった。だから、外交政策の中心とするべきだ(AI has become dangerous. So, it should be central to foreign policy)」という記事の中で、戸田記念国際平和研究所の使命と特に関連性がある見解を表明しており、筆者もこの見解に同意する。

「ワシントンではAIの規制に関する真剣な議論がなされている。(…)AIの問題は、革新的な国内政策だけでなく、外交政策の基本的方向転換も必要である。このような変化は、ジョージ・ケナンが1947年に「フォーリン・アフェアーズ」誌に発表した、ソ連『封じ込め』政策を主張する『X論文』がもたらした変化の規模に匹敵する。しかし、今回の敵対国は中国であり、対立ではなく関与に向けた方向転換が必要である。AI革命という観点から見ると、第2次冷戦へと向かっている現在の流れを逆転させ、責任をもって技術進化を導くための国際努力に中国を引き入れることが、米国にとって極めて重要な利益となる」

AIによって増幅された偽情報は、特に危険である。なぜなら、近頃ではあまりにも多くの人が、突拍子もない極端な情報に飛びつくからだ。市民を教育し、AIが生成したコンテンツを識別できる可能性を高めることが重要であり、多少なりとも有用であるはずだ。しかし、筆者が真の解決と考えるのはただ一つである。到底受け入れ難い普通ではあり得ない極端な考え方に、激怒ではなく懐疑的な姿勢で反応するよう、十分な数の人々を説得することである。

ブレイバー・エンジェルズのような団体が何をできるかは、今後の課題である。

ドン・バード 1984年にインディアナ大学コンピュータサイエンスの博士号を取得。音楽情報検索分野の創設および音楽情報システムへの貢献で知られている。またテキスト情報検索、情報の視覚化、ユーザーエクスペリエンス・デザイン、数学教育などに学術界内外で取り組んでいる。バードは、オープンソースの楽譜作成システム「ナイチンゲール(Nightingale)」の作者である。現在は引退し音楽活動に時間を費やしているが、有害な社会の分極化を解消する取り組みを行う草の根団体「ブレイバー・エンジェルズ (https://braverangels.org)」 の活動に力を注ぎ、AIによる分極化と闘う「タスクフォース」の共同議長を務めている。

INPS Japan

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緊迫感をもって国連の開発目標達成に努力すべき

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【カトマンズIDN=シモーネ・ガリンベルティ】

「持続可能な開発に関するアジア太平洋フォーラム」(APFSD)が先ごろ、バンコクで開催された。例年通り、このフォーラムは地域諸国の政府代表による公的な発言と、主に市民社会が国連の諸機関やプログラムと組んで実施する多数の素晴らしいサイドイベントから成り立っている。

今回で11回目となるこのフォーラムは、「2030アジェンダ」の実施状況を討論する主要な場となっている。これまで、持続可能な開発目標(SDGs)に関する新しい地域進捗報告書の発表と同時期に開催されてきた。

アジア太平洋地域のSDGs進捗状況報告書は、より持続可能で、公正で、強靭な未来を実現するための同地域の取り組みが、ひどい状況であることを改めて確認した。

特に貧困に苦しむ人々の数(目標1)や、持続可能な産業、イノベーション、インフラの強化(目標9)に関しては、若干の進展があったものの、目標や指標の大多数が達成には程遠い状況にある。

この驚くべき状況に対して諸政府や市民社会が緊急に対応しなくてはならないのだが、残念ながら緊迫感に欠けるのが現状だ。

振り返ってみると、「昨年9月に開催されたSDGsサミットの政治宣言でさえ、多くの人々が期待した高い期待に応える必要があった。ガバナンスの問題、すなわち、民衆と国家との間で権力がいかに行使され、共有されるかについて再検討することが喫緊の課題であることは明白だ。

さまざまな形態の政策決定が、「2030アジェンダ」が私たちの生活に直接的かつポジティブな影響と変化をもたらすであろうという話題の中心とならなければならない。

SDGsの実行を約束する

SDGsの実施を確実にするために必要なガバナンスの変化について、どのように議論を始めればよいのだろうか。

APFSDのような地域フォーラムは、取り上げられ議論される内容だけでなく、通常設計され提供される形式においても、そのような再考に貢献できるだろうか。ある意味で、持続可能な開発に関するアジア太平洋フォーラムは、ガバナンスにおける政策革新が「2030アジェンダ」の最も重要な実現要因になることを実証するプラットフォームになりうる。

このフォーラムの成り立ちとその実施を分析し、再検討に付さねばならない。主催者は、フォーラムにより参加しやすく、参加者をより包摂的にする努力を行ってきたと言って差し支えないだろう。

毎年、サイドイベントと関連イベント(この二つは明確に区別されねばならないのだが)の数は間違いなく増えてきている。ほとんどはオンラインでも参加でき、地域の利害関係者が参加しやすくなっている。

いわゆる「関連」イベントはフォーラムの公式議題とより密着したものであり、少なくとも文書の上では公式会議に直接の影響を与える。他方で、「サイド」イベントである会合やワークショップなどはより独立しており、フォーラムの公式議題とは緩いつながりしかない。

これら二つのカテゴリーのイベントをフォーラム自体とより一体的なものとすることはできないだろうか。 閣僚や高級官僚があらかじめ準備した声明を読み上げるだけの無味乾燥な公式会議を行うのみならず、これらとは別にサイドイベントや関連イベントとうまく連携することはできないだろうか。これらの「見てくれ」だけの発言に対して、何らかの「影響」を与えることはできないだろうか。

フォーラムに参加する諸国の代表が、サイドイベントだけに参加しているような利害関係者と交流・対話を持つことはできないだろうか。

サイドイベントが実質的には「内輪の議論」になってしまっている状態から脱して、公式の議論にこれら利害関係者の議論を完全に組み込むことはできないだろうか?

たとえば、「関連」イベントのカテゴリーに入っている「APFSD青年フォーラム」と「民衆フォーラム」は、フォーラム自体に完全に統合することが可能だ。現在は、これらのイベントと公式会議との間にはわずかなつながりしかない。

たとえば、「APFSD青年フォーラム」と「民衆フォーラム」の代表に公式会議での冒頭発言を認めることはできるはずだ。これだけでも歓迎すべき動きだが、まだ他にもできることはある。

たとえば、各国ごとの宣言を基礎にして「APFSD青年フォーラム」が出している主要な成果である「APFSD2024に先立つアジア太平洋地域青年の呼びかけ」が追求される必要がある。

それは大変素晴らしく、大胆な提言なのだが、単に象徴的な意味合いにおいてすら重きを置かれていない。例年呼びかけがなされているにも関わらず、誰にも気づかれないままゴミ箱行きになっている。この現状を変えるためにどうすればいいだろうか?

単純な解決策は、「APFSD青年フォーラム」と「民衆フォーラム」の代表やサイドイベントの参加者がフォーラム公式のさまざまな部会に参加し発言することを認めることだ。

第二の道は、公式日程の部会やプログラムを「主要」フォーラムへと移動することだ。フォーラムの部会は厳格になりすぎて、各国政府の高位代表の排他的な領域になってしまっていた。

代わりに、若者を含めた市民社会の関係者が政府代表と交流し意見を発表できるようにして、いわゆる「行動呼びかけ」がフォーラム自体で完全に議論され分析されるようにすればよい。

各国毎にできることはもっとあるだろう。APFSDの参加各国は、地域の国連機関と連携して、バンコクにおける主要イベントに向けた準備として国内で議論を組織することができる。

これらの協議によって、各国のフォーラムが「自発的国別報告」と接続・統合されて、各国がSDGsを実行する上での助けになることだろう。

単なるおしゃべりの場ではなく

ここで提案している変化は徐々に実行することもできるものだが、それにしても必要なのはビジョンだ。提案を現実に変換するには、明らかにAPFSDのこれまでのやり方を大幅に変更する必要がある。

地域の市民に対して、フォーラムをより包摂的で参加しやすく、意義あるものにするためには、より多くの資源と発想の転換が必要だ。アジア太平洋で保守的な発想が支配的であることを考えれば、このことの意義は大いに強調されねばならない。

各国政府はフォーラムを大きく変革させることを究極的には認めねばならない。それによってこのフォーラムは、「2030アジェンダ」を実行する各国政府の行動とコミットメントに対して政府が応答する真の基盤となることだろう。

しかし、アジア太平洋経済社会委員会(UN-ESCAP)の事務局は、完全に参加できないとしても、その招集能力を活用して、フォーラムの形式に新たな変化をもたらすためにできるのことが何かあるのではないだろうか。

これまでとは大きく異なるAPFSDはまた、若者や社会の他のメンバーが政策決定プロセスに影響を与える真の機会を持つ、より参加型のボトムアップの意思決定の実験への扉を開くだろう。

実際、フォーラムの運営のされ方には誰も満足していないだろう。現在のところそれは単なる「おしゃべりの場」に過ぎない。

他の実践に学ぶことは常に有益であるが、人類が直面している大きな難題―「2030アジェンダ」が完全履行されれば乗り越えることができる難題―の解決にはより多くの形の熟慮を必要とする。

APFSDやそれと同様の国連の地域フォーラムは、より意味があり、より踏み込んだ議論を通じて、SDGsを実現するために諸政府が行っていることを議論し分析するために、より多くのことを成すことができるだろう。

APFSDは、SDGs実行に関する市民社会のアイディアを形だけのものとして受け取るのではなく、真剣に議論する最重要のフォーラムに生まれ変わるべきなのである。(原文へ

※著者は、SDGsや若者を中心とした意思決定、より強固でより良い国連のあり方について執筆している。

INPS Japan

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国連の未来サミットに向けて変革を求める青年達が結集

【東京IPS Japan=浅霧勝浩】

Future Action Festival Poster. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Future Action Festival Poster. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

今年9月にニューヨークの国連本部で開催される「国連の未来サミット」に先立ち、核兵器廃絶と気候危機の解決に向けて若者の理解と行動を促す青年・市民団体の共同イベント「未来アクションフェス」(同実行委員会主催)が3月24日、東京の国立競技場で開催された。会場には日本各地から約7万人が参加したほか、ライブ配信を通して延べ50万人以上が視聴した。

このイベントでは、今日の国際社会が直面している複合的な危機について、会場の大型画面に映し出されたクイズ形式で共に学ぶセッションがあった。また、国連広報センターの根本かおる所長が、核兵器や気候変動問題に取り組む若者代表らとともに問題意識を深堀するトークセッション、さらには広島原爆で奇跡的に焼け残った「被爆ピアノ」による演奏や、歌やダンスを通じて平和の尊さを伝えるパフォーマンスが披露されるなど、参加者一人ひとりが、自身の問題意識を広げたり、変革の担い手として明日から行動と連帯を育む勇気と希望を持てる空間を提供していた。

Mr. Jacob Koller played “Merry Christmas, Mr. Laurence” on the A-bombed Piano which miraculously survived the atomic bombing of Hiroshima in 1945. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan
Mr. Jacob Koller played “Merry Christmas, Mr. Laurence” on the A-bombed Piano which miraculously survived the atomic bombing of Hiroshima in 1945. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan

トークセッションに参加したジェンダーの視点から核兵器の廃絶を目指す団体「GeNuine」の共同創設者である徳田悠希さんは、「今回このイベントに先立って実施された『青年意識調査』では、『若い世代の声が反映されていないと思う』という回答が80%を超えていました。ここまでくると、個人の感覚ではなく制度やシステムに問題があって、そのせいで若い世代が諦めてこういった問題から離れていってしまう現状が明らかになったと思います。」と語った。

Yuki Tokuda, co-founder of GeNuine (Left) Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Yuki Tokuda, co-founder of GeNuine (Left) Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

「しかしここには『そうではないんだよ』という思いを持つ人々が7万人も集まっています。だから一緒に声を上げていけば制度だって変わるかもしれないし、変わった先に生きたい未来を選択するための席があるはずだという希望が持てます。明日から今回のイベントのことを忘れずに、できることをやっていきましょうというメッセージを伝えられたらいいなと思っています。」と語った。

このイベントでダンスパフォーマンスを披露した富永幸葵さんは、長年広島での被爆経験の「語り部」として生涯を全うした祖母の活動を身近に見てきた。「祖母は自身の被爆経験を語る際、必ず後半には、広島を離れて実際に核兵器を保有しているインドやパキスタンを訪れたり、紛争で貧困が蔓延し、地雷が埋められている地域に実際に足を運んで見に行ったエピソードなどを織り交ぜて、『今も広島で起こったことは終わっていません。あなたのできることで平和を伝えていってください。』と若い世代に呼びかけていました。」と語った。

Yuki Tominaga, third generation Hibakusha from Hiroshima, continues her grandmothers legacy while using her passion for dance as a medium to communicate about peace and Hiroshima bombing. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

「祖母の語る言葉には勝るものはないので遺志を継ぐなんてことはできないと思っていましたが、『あなたのできることで平和を伝えていったらいいんだよ。』と言ってくれて、それを契機に好きなダンスを通じて平和や広島の被爆経験のことを伝える活動に携わるようになりました。」「かつての私がそうであったように、とかく被爆証言や平和活動、平和イベントというのは、どこか暗くて悲しくて、楽しくないという印象があるかもしれませんが、私は若者が楽しく関心を持ちやすいダンスパフォーマンスを入口にして、平和と広島について語り合っていく、被爆者と若い世代の架け橋になりたい。」と富永さんは語った。

このイベントの実行委員会が、昨年11月20日から本年2月29日まで、日本在住の10代から40代の個人を対象に行った「青年意識調査」(119,925人が回答)の結果は、9割超が「社会をより良くするために貢献したい」と回答するなど、若者の声が反映されない現状を指摘しつつも、彼女たちのように、問題意識を行動へとつないでいける若者達の大きなポテンシャリティーを浮き彫りにした。また、質問には「社会について」「気候変動について」「核兵器について」「青年と社会構造、国連について」の項目が設けられていたが、8割以上が「核兵器は必要ない」と回答する一方で、「国連の必要性を感じている」との認識が示された。

A panel discussion with Kaoru Nemoto, director of the United Nations Information Center(3rd from left), and youth representatives delved into nuclear weapons and climate change. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Melissa Parke, Executive Director of ICAN. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

こうした「変革の世代」となりうる若者の大きなポテンシャルについては、国連や市民社会組織も注視しており、このイベントには、国連ユース担当のフェリペ・ポーリエ事務次長補やオーランド・ブルームユニセフ(国連児童基金)親善大使、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のメリッサ・パーク事務局長らがメッセージを寄せ、若者への期待が述べられた。

本年9月にニューヨークの国連本部で初めて開かれる「国連の未来サミット」では、世界が直面する重大な課題への協力の強化と、SDGsのさらなる推進を実現するために、国や国際的な枠組みにおける若者の意思決定への参画が議論の柱の一つであり、若者が主体的に参加し、その声で国際社会を動かしていくことが期待されている。

実行委員会では、「国連の未来サミット」における議論の促進に貢献するため、「青年意識調査」に寄せられた声を踏まえた主に4つの柱(①気候危機の打開、②核兵器なき世界の実現、③意思決定プロセスへの若者の参画、④国連改革)からなる「共同声明」を発表し、チリツィ・マルワラ国連大学学長・国連事務次長に手渡した。マルワラ事務次長は、未来サミットで「皆さんの声は持続可能な未来のために不可欠です。」と強調し、「若い皆さんこそが未来そのものなのです。平和な世界の実現に向けて共にもっと努力していきましょう。」と呼び掛けた。

Tshilisi Marwala, President of the UN University and UN Under-Secretary-General (Center) who endorsed the joint statement from the organizing committee, acknowledged the critical importance of young voices in shaping the Summit’s agenda and urged them to “be a beacon of hope and a driving force for change.Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

同イベントはアムネスティ・インターナショナル日本、創価学会インタナショナル(SGI)ユース、赤十字国際委員会(ICRC)、ピースボート、カクワカ広島、GeNuine等が協力団体として参画し、国連広報センター、平和首長会議、長崎平和推進協会等が後援。会場には協力団体や後援団体による展示ブースや記念撮影スポットが設置され、参加者が問題意識や知識を広げ、具体的な行動に踏み出す様々な入口を提供していた。(原文へ

Inter Press Service, The Nepali Times, London Post, Global Issues
Future Action Festival Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Yukie Asagiri and Kevin Lin of INPS Japan Media.

INPS Japan

This article is brought to you by INPS Japan, in collaboration with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

ロシアのウクライナに対する全面的な軍事侵攻は3年目に突入した。ウラジーミル・プーチン大統領は核兵器使用の恫喝をしている。米国の元大統領で次期大統領選での共和党候補でもあるドナルド・トランプ氏はさらに威嚇を強め、防衛予算の対GDP比2%という目標を達成できない北大西洋条約機構(NATO)加盟国に侵攻するようプーチン大統領に促しているかにすら見える。

核戦争の真の危機が迫り、長年にわたる「核のタブー」が打ち破られてしまった。全世界的な大惨事につながりかねない核紛争のリスクは大きく高まっている。現在、ロシア・米国・中国・フランス・英国・パキスタン・インド・イスラエル・北朝鮮の9カ国が核兵器を保有している。

これらの国は合計でおよそ1万3000発の核兵器を保有していると推定されており、そのうち9400発が実戦使用可能な状態にある。冷戦期の約7万発に比べれば大幅削減ではあるが、今後10年で核兵器数は増加することが見込まれ、その能力も大幅に向上することになろう。そのほとんどが、1945年8月に日本の広島に投下された核兵器よりも強力である。

その他32カ国も問題の一部である。そのうち5カ国が他国の核兵器の配備を認め、残り27カ国が核兵器使用を是認している。核兵器はたった1発でも数十万人を死に至らしめ、人間や環境に永続的かつ壊滅的な効果を与えうる。ニューヨークで1発の核兵器を爆発させただけでも58万3160人が死亡すると推定されているのである。

にもかかわらず、核による恫喝は止んでいない。ドイツの元駐米大使で安全保障の専門家であるウォルフガング・イシンジャー氏は「仮にトランプ大統領がNATOや米国の核の傘に対する疑念を表明したり、あるいは、我々の頭越しにロシアのプーチン大統領と取り決めを結んだりして、ウクライナや欧州の安全を損なうようなことになったらどうだろうか」と問う。「多くの警告があるにも関わらず、我々欧州人には『プランB』がない。」

抑止

ドイツ外務省は「NATOの核抑止は信頼性のあるものでなくてはならない。」と主張している。「国際的な規則を基にした秩序に挑戦する国々が核兵器を保有している一方でNATOは核兵器を持っていないという世界は安全ではない。ドイツ政府がF-35を調達する決定を下したのはこのためである。現在の航空機のF-35への更新はNATOによる核共有の枠組みの下で行われる。」

それぞれ290発、225発の核兵器を保有しているフランスや英国と異なり、ドイツは自前の核兵器を持たない。しかし、トルコやイタリア、ベルギー、オランダと並んで、ドイツは米国の核兵器の自国内配備を認めている。ドイツ空軍は「B61」核爆弾のおよそ15発使用の任務を割り当てられており、この爆弾は同国ラインラント-ウェストファリア州のブッヒェル空軍基地に配備されている。

ICAN
ICAN

2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメリッサ・パーク事務局長は「核保有国が核兵器と誤った抑止ドクトリンに固執し続ける限り、遅かれ早かれ核兵器は使用される可能性がある。手遅れになる前に核兵器を廃絶すべきだ」と語った。

パーク事務局長は、昨年11月27日から12月1日にかけてニューヨークの国連本部で開催された第2回核兵器禁止条約締約国会合で科学者や国際赤十字委員会、ICANが合意した宣言について指摘した。宣言は「核兵器が人間に与える帰結とリスクに関する新たな科学的知見に焦点をあて、その理解を促進し、核抑止が本来的にもつリスクと想定をこれと並べてみることによって、核抑止の基盤となっている安全保障パラダイムに挑戦することが必要だ。」と述べている。

核兵器禁止条約はとりわけ、核兵器の展開や保有、移転、貯蔵、配備を禁止している。ドイツ外務省は「こうした広範な禁止事項によって、核禁条約とNATO同盟国が負っている義務との間には衝突が生じる。核共有がいい例だ。このためにドイツも他のNATO諸国も条約に参加せずにいる。」との見解だ。

ICANはすべての核保有国に対して、緊張を緩和し、核抑止という危険なドクトリンから離脱する緊急の措置を採るべきだと訴えている。「核軍縮はロシア・ウクライナ間での交渉を通じた和平の本質的な要素のひとつだ。多国間核軍縮は、他の核保有国がロシアのような道を歩み核兵器を使用してしまうことを防ぐ唯一の方法だ。これが、戦争犯罪を犯し民間人を恐怖に陥れることへの防護壁となる。核禁条約への参加は、核抑止論を非正当化し核兵器を廃絶するための重要な一歩になる。」

強さを増す核兵器禁止条約

第2回締約国会合は、条約が力強さを増していることを示した。複数のオブザーバー国が条約に近々参加する意志を表明し、これによって、条約に署名、批准、あるいは加入した国の数は、国連の全加盟国193の半数以上に達することだろう。

A view of the 2nd meeting States Parties to the TPMW. Photo credit: ICAN | Darren Ornitz. - Photo: 2023
A view of the 2nd meeting States Parties to the TPMW. Photo credit: ICAN | Darren Ornitz.

ドイツもまた、条約締約国と同じく、核軍縮が停滞していることに懸念を持っている。オーストラリアやベルギー、ノルウェーと同様にドイツも締約国会合に[オブザーバーとして]参加した。

「ドイツ政府は、現在の安全保障環境の下でいかにして核軍縮に進展をもたらしうるかについて、核兵器禁止条約締約国との対話を続ける所存だ」とドイツ外務省は述べている。

創価学会インタナショナルの寺崎広嗣平和運動局長は、「核禁条約締約国は過去2年間、あらゆる核の恫喝に反対し核抑止という誤った考え方に抵抗する中心的な役割を果たしてきた。」と語った。

2021年の第1回会合で締約国は「明示的なものであれ暗黙のものであれ、そして状況がどのようなものであれ、あらゆる核の恫喝」に我々は反対すると明確に述べた。ニューヨークでの第2回会合では「核兵器が人間に与える帰結とリスクに関するあらたな科学的知見に焦点をあて、その理解を促進し、核抑止が本来的にもつリスクと想定をこれと並べてみることによって、核抑止の基盤となっている安全保障パラダイムに挑戦すること」に合意した。

Photo: First Meeting of the States Parties (MSP) to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons (TPNW). Credit: Seikyo Shimbun
Photo: First Meeting of the States Parties (MSP) to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons (TPNW). Credit: Seikyo Shimbun

寺崎氏はまた、「宗教団体が手を取り合って、国連や国際社会、市民社会の草の根の意識喚起活動において、一般市民の人命が奪われる事態に、一刻も早く終止符を打つための道を見出す。人間性の名において、壊滅的な非人道的な結末を回避し、人々が集い互いを理解して、苦しんでいる人々を誰も取り残さないようにし、誰もが自分らしく輝いて、多様な生を享受できる世界をつくることが必要だ。」と語った。

ICANがオランダ最大の平和団体「PAX」と共同で行った新たな調査は、核兵器製造企業からの投資引揚げが重要だと強調している。紛争によって世界的な核軍拡競争が加速し、核保有9カ国の2022年の核兵器関連支出は計829億ドルにも達している。結果として核兵器産業は、核戦争に対する世界の心配をよそに、恥も外聞もなく核兵器から利益を得ている。

ウクライナ紛争とそれに伴う核の緊張の高まりによって、核兵器製造企業の利益は急増し、保有株・債券で157億ドル増、融資と証券引受業務で571億ドル増となっている。

調査報告書は、核兵器製造に関わる24企業と実質的な金融・投資関係にある287の金融機関を特定している。

この287の投資機関のうち、核兵器禁止条約締約国に本拠を置く企業は3社しかない。うち、1事例においては、報告書では親会社の関連と記述されているものの、条約締約国外に拠点を置く子会社によるものであった。債券・株で4770億ドルが保有され、融資と証券引受で3430億ドルが[核兵器製造企業に]供与されている。(原文へ

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アーメダバードのスラム街の女性たちはどのように猛暑を撃退しているか

【アーメダバードIPS=マニパドマ・ジェナ】

シーマ・マリさんは必死だ。この気候の変化による残酷な暑さに対して、彼女には何の防御策もない。マリさんは一年中生花の花輪を作っているが、夏の収入は猛暑のためにここ8~10年で30%も激減している。

インドは毎年3月と5月に記録的な猛暑に見舞われている。インド気象局(IMD)によると、昨年(2023年)は1901年以来、同国で2番目に記録的な暑さだった。その前年(2022年)は、3月から5月にかけて全州で280日もの熱波が観測され、過去12年間で最も暑かった。IMDは、2024年3月初めには、インド全州で平年より暖かい夏が到来し、3月から5月にかけて熱波の日が増えると警告している。

「私たちが密接に協力しているアーメダバードのスラム街に暮らす女性たちは、2014年になると突然、猛暑を最大の懸念事項として挙げるようになりました。気候変動に関連した暑さ、洪水、蚊の脅威に対するニーズが、水やトイレ、レンガ造りの家といった日常的なニーズよりも急増したのです。」と、非営利団体マヒラ・ハウジング・トラスト(MHT)のシニア・プログラム・マネージャー、シラズ・ヒラニ氏は語った。

Map of India
Map of India

インド西部の都市アーメダバードでは、2022年夏の最高気温は45.8度だった。2016年、5月の1日の最高気温48℃は、同市の過去100年の記録を更新した。2010年5月は46.8℃という前代未聞の猛暑に見舞われ、2009年と2011年の5月の平均死亡者数と比較すると、1344人もの死者が出た。このため、アーメダバード市は2023年、南アジアで初の「暑さ対策計画」を策定した。

アーメダバードのスラム街に住む女性たちは、仕立物、刺繍、凧作り、お菓子作り、あるいは八百屋、野菜、花などの零細小売業を営むなど、在宅で多くの仕事をしている。彼女たちの収入と家の中での存在は、ここで共に暮らす多世代家族にとって重要である。

MHTによると、インドの都市部の雇用の18%を在宅ワーカーが占めている。

グローバル・サウスの貧しい女性たちは、設備が不十分な家で働く可能性が高いため、異常気象の矢面に立たされることが多い。

グジャラート州では168万人、13人に1人がスラムで暮らしている。アーメダバードはスラム人口で2番目に多い。2011年の国勢調査による最新の数字は、時代遅れの可能性が高い。

オドニ・チャウル(オドニとはインド人女性が上半身にまとうスカーフのこと)に住むシーマ・マリさんのように、住民は窓がなく、金属板でできた屋根と、炎天下から身を守る唯一の手段である扇風機しかないワンルーム住宅に住んでいる。小屋が密集しているため、狭い路地では換気もままならない。

Nimaben Harishbhai works at her sewing machine in her tiny 8×4-square-foot sewing room behind her home in an Ahmedabad slum. Credit: Manipadma Jena/IPS
Nimaben Harishbhai works at her sewing machine in her tiny 8×4-square-foot sewing room behind her home in an Ahmedabad slum. Credit: Manipadma Jena/IPS

屋根を白く塗るのは誰か?

SDGs Goal No. 11
SDGs Goal No. 11

「スラムの居住地で暑さ対策が実地テストされた。熱を反射する白い塗料で家の屋根を塗ることが、女性たちから満場一致で最も効果的だと選ばれたのです。」とヒラニさんは語った。日射反射塗料は、屋根の温度を下げることを目的とした断熱塗料である。

MHTが塗料購入の資金を手配したため、塗装自体は自助努力で行わなければならなかった。誰がやるのか?労働者を雇えば、500インドルピー(6.033米ドル)を請求される。このために一日分の給料を失うことを嫌った男たちは、この仕事に従事することを拒否した。

そこで「ペンキ塗りは私たちがやります」と女性たちが立ち上がった。少しの助けを借りて、彼女たちは自らを訓練し、本来は男性の仕事であるはずのペンキ塗りをこなせるようになった。高齢者や病気の隣人のトタン屋根やアスベスト屋根の塗装も行った。

「私があなたの家の屋根を洗ってペンキを塗っている間に、私たちの昼食を作ってちょうだい。」と、在宅で仕立て業を営み、このコミュニティのリーダーでもあるニマベン・ハリシュバイさん(28歳)は自信に満ちた身のこなしで語った。

ニマベンさんはMHTからデジタル室温計を新しく白い屋根を葺いた家に設置してもらい、コミュニティの女性たちにトタン屋根の家との違いを感じてもらった。「温度は明らかに3~5度低く、換気や周りに樹木があればもっと涼しくなります。」と彼女はIPSの取材に対して語った。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

ニマベンさんのように、多くの女性たちが率先して他人を鼓舞して回った。その結果、及効果は絶大だった。現在、MHTが協力している都市のスラム街には、3万2000の涼しく白い屋根がある。MHTは14,784人のスラム女性をヴィカシニ(開発をリードする女性という意味)として養成した。彼女たちは気候レジリエンスのスペシャリストでもあり、他の人々を動機付け、指導し、技術専門家から学び、都市の貧困層のための気候政策で自治体と提携している。

「私があなたの家の屋根を洗ってペンキを塗っている間に、私たちの昼食を作ってちょうだい。」と、在宅で仕立て業を営み、このコミュニティのリーダーでもあるニマベン・ハリシュバイさん(28歳)は自信に満ちた身のこなしで語った。

ニマベンさんはMHTからデジタル室温計を新しく白い屋根を葺いた家に設置してもらい、コミュニティの女性たちにトタン屋根の家との違いを感じてもらった。「温度は明らかに3~5度低く、換気や周りに樹木があればもっと涼しくなります。」と彼女はIPSの取材に対して語った。

ニマベンさんのように、多くの女性たちが率先して他人を鼓舞して回った。その結果、及効果は絶大だった。現在、MHTが協力している都市のスラム街には、3万2000の涼しく白い屋根がある。MHTは14,784人のスラム女性をヴィカシニ(開発をリードする女性という意味)として養成した。彼女たちは気候レジリエンスのスペシャリストでもあり、他の人々を動機付け、指導し、技術専門家から学び、都市の貧困層のための気候政策で自治体と提携している。

A regular visitor to Odni Chawl, Niruben Badoria, field organiser with Mahila Housing Trust (2nd from right), sits chatting with the women. Credit: Manipadma Jena/IPS
A regular visitor to Odni Chawl, Niruben Badoria, field organiser with Mahila Housing Trust (2nd from right), sits chatting with the women. Credit: Manipadma Jena/IPS

女性たちが自分たちの手で問題解決に乗り出してから、もはや労働時間を失うことはなくなった。

「涼しい屋根を選ぶまで、夏の午後は耐え難い気温のため、毎日4時間の労働時間を失っていました。」と、MHTの現場オーガナイザーであるニルベン・バドリアさん(45歳)はIPSの取材に対して語った。「暑さに関連した医療費の増加は、すでに減少している収入の一部を奪っていきました。」

「アーメダバード市公社(AMC)の医師で副保健官であるテジャス・シャー医師は、アーメダバード南部の事務所でIPSの取材に応じ、「最もひどい被害を受けているのは、屋外で働く労働者、妊婦、子供、高齢者です。」と語った。

「脱水症状、皮膚感染症、あせも湿疹、尿路感染症はよくある症状です。」と、オドニ・チャウルの女性たちの大半が語った。

その日の稼ぎで大家族の食卓を支えていかなければならないスラムの女性たちにを苦しめたのは、日銭を失うことだった。

「私たち一人ひとりにとっては、どんな職業に就いていたとしても、涼しい屋根塗料を塗った後と塗る前の収入の差は相当なものです。」と35歳のシーマ・マリさんは語った。

マリさんはあぐらをかいて座り、竹籠に盛られた赤ちゃんの握りこぶしほどの大きさの、鮮やかな淡い黄色のマリーゴールドに囲まれている。それらは湿らせた茶色の麻袋で覆われている。彼女は一日中、マリーゴールドを何十本もの花輪に束ねている。夕方までには、参拝客に販売する寺院の売店に供給される。

「夏の収入は、酷暑のためにここ8~10年で30%以上も激減していました。」と、マリさんはIPSの取材に対して語った。「兄が手を貸してくれるので、原料として買う2万ルピー(241.25米ドル)分の花から、1ヶ月で1万ルピー(120.65米ドル)を稼ぐことができました。」

夏の暑さが定期的に40℃を超えるようになると、収入は7000ルピー(84.45米ドル)まで落ち込むようになり、十分な原材料を購入する能力が制限されるようになった。

「トタン屋根の一人部屋は昼前でも竈(かまど)の中にいるような状態になります。」

30分おきに麻袋に必死に水をかけ、その下に花を隠して暑さをしのいだ。昼過ぎになると、熱と水と高い湿度が重なり、太い針が刺さると花の受け皿や根元が持ちこたえられなくなり、花びらが落ちてしまうことも少なくなかった。

「白い屋根はとても役に立っています」とマリさんは言う。屋根を塗っていなかった頃に比べ、収入は15~20%増えた。夏は日が長いので、彼女は余った時間を生産性の向上に充てている。

励まされて、彼女はさらに品質に気を使けるようになった。夏は朝4時には家を出る。暗いうちにアーメダバード最大の花市場、ジャマルプール・フール・バザールに向かう。日の出までに、彼女はすでにマリーゴールドの生花を量り、代金を支払い、日差しで焦げる前に2つの大きな袋を室内に持ち込む。

婦人服を仕立てているニマベンさんは、屋根を塗装する選択をしてから、収入が倍になった日もあるという。

「午後の4時間はとても暑く、4×8フィートの小さな縫製室に座っているのがやっとでした。そんななかで急いで家事をこなせば、どうにか300ルピー(3.62米ドル)の工賃の服を1着縫うことができる状態でした。ところが、屋根を塗装したことで、午後も働けるようになったので、生産量も増えました。」と、1歳の幼児を抱えるニマベンさんは語った。「電気代も節約できました」とニマベンさんは付け加えた。ニマベンさんはベッドの上に電気代の請求書を広げ、「50%以上の節約になります。ポータブル・クーラーの使用量も減り、扇風機は昼夜稼働させる必要はなくなりましたし、また、新しく開けた窓のおかげで、電球を1日15時間も点けている必要がなくなりました。」と語った。

2年前、ニマベンさんと夫ハリシュバイさんは、暑さが厳しくなるにつれて、築50年の先祖代々の家を改築し、相互換気をすることに決めた。年老いた両親と3人の子供たちが同居している。ハリシュバイさんは1日350ルピー(4.22米ドル)の収入を得て、ステンレス製の調理器具を磨いている。

彼らは長男が人生でより良い機会を掴めるようにと、私立の英語学校に入学させた。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

「できる限りの収入が必要なのですが、暑さが収入の大部分を奪っていたのです。」とニマベンさんはIPSの取材に対して語った。「つまり、私たちにとっては『白い屋根』が『泥棒(=暑さで自分たちの収入を奪っていた)』を捕まえてくれたのです。」と付け加え、自分の機知にニヤリと笑った。

その場に座っていた他の女性たちも力強く頷き、同意した。彼女の義母(60歳)は、古い鉄の棒を家々から集める屋外労働者で、夏の暑さが増してきたと感じたのは、彼女が35歳の頃、つまり25年前の2000年頃だったという。

ヒラニ氏によれば、インドの冷房需要は2038年までに8倍に増加し、2050年にはピーク時のエネルギー需要の45%を占めるようになると予測されている。

都市スラムの女性たちが、自身と都市の気候チャンピオンになる

2017年、AMCはクールルーフ(=涼しい屋根)プログラムの策定を開始し、とりわけ都市の貧困コミュニティからの意見を求めた。MHTのスラム街を視察して白い屋根の有効性を確信した市民団体は、女性気候リーダーを暑さ対策のパートナーとして招いた。

この時すでに、MHTのビカシニさんたちは、低コストで効果的なさまざまな解決策を開発していた。 熱をこもらせる暑い屋根に対しては、モジュール式の屋根、クロス換気された部屋、竹の波板屋根や竹マットの壁を鉄のフレームに固定したような自然建材の使用、トタン屋根を冷やすために厚い匍匐茎の層の使用、サーモコールを敷き詰めた屋根などを思いついた。

「クールルーフの大規模な実施には、スラムのコミュニティの参加が不可欠である。何百万軒ものスラムの屋根を塗装する資金が市にはない。AMCのテジャス博士はIPSの取材に対し、インドの大手塗料会社は企業の社会的責任(CSR)にクールルーフィングを含める必要があると述べた。

連邦政府の経済的貧困層向け住宅プログラムでは、AMCは中国製のモザイク屋根タイルを採用している。

「AMCの暑さ対策は、主に健康リスクの軽減に重点を置いています。」とテジャス博士は語った。女性気候リーダーたちは、スラム居住区における生活保護と生活の質全般のための気候適応を含むように、政策の話を広げることに成功した。

このような女性たちのクールルーフ・イニシアチブは、インド政府のインド冷房行動計画(ICAP)と一致している。この計画では、2037年までに冷房需要を20~25%、冷蔵需要を25~30%削減することを目標としている。

「自治体公社と提携してから、私たちは大きな自信を得ることができ、役人の前で発言できるようになりました。私たちは認められています。電気メーターの設置に自治体事務所からの『異議なし証明書』が必要になったとき、私一人で自分の家だけでなく、他の人の家も設置することができました。」とニマベンさんは語った。(原文へ

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米国は荒廃したガザに生と死の両方をもたらす

【国連IPS=タリフ・ディーン】

バイデン政権の偽善ぶりは、荒廃したガザに食糧を投下する一方で、飢えと飢餓に苦しむパレスチナの市民を殺すためにミサイルや重砲でイスラエルを武装させ続けている政策に表れている。

ロ・カンナ下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は先週、 「(パレスチナ人への)援助と、食糧輸送車を爆撃する武器をイスラエルに与えることを、同時に行うことはできない。」と語った。

そしてニューヨーク・タイムズ紙は、 「ガザの上空から、アメリカの爆弾とアメリカの食料パレットが落下し、死と生を同時に届けている。」と報じた。

ジャダィーヤ紙の共同編集者であり、独立調査機関の紛争人道研究センター(本部カタール)で客員研究員を務めるムイン・ラバニ氏は、米国がガザ地区の包囲されたパレスチナ人住民に形ばかりの援助を行っていることには、相互に関連したいくつかの側面があると語った。

そのひとつは、空中投下や移動式桟橋の計画などは、イスラエルのガザ地区に対する中世的な包囲を含む虐殺的攻撃への米国の積極的な関与や共謀から監視の目をそらすことを意図した、いわば見せかけの演出であるということだ。

「現在の危機は、イスラエルが米国に並々ならぬ依存を抱いていること、そして米国の支援なしには、持続的な軍事作戦を実施したり、説明責任を回避したりすることができないことを示している。しかし米国は、イスラエルに対して、大量殺戮的な猛攻撃を止めることも、飢饉や疫病などの発生を明確に意図した包囲を止めることも指示しないことを方針としている。」と、ラバニ氏は語った。

ラバニ氏は、「こうした芝居じみた空中投下は、イスラエルの入植者4人を制裁することで、ヨルダン川西岸の入植地拡大というイスラエルの国策に反対するイメージを広めようとした最近の決定と同様、見せかけのものだ。」と指摘したうえで、「米国がガザ地区のパレスチナ住民に提供したパンと爆弾の比率を計算すれば、米国の意図、優先順位、嗜好についてすべてわかる。」と語った。

IPSに寄稿したアロン・ベン=ミール博士は、国際関係学の教授を退任し、最近ではニューヨーク大学のグローバル・アフェアーズ・センターで教鞭を執っている。イスラエルの安全保障上のニーズを支援する一方で、パレスチナ人への人道支援も行うという二重のアプローチは、この地域における利害のバランスを取るという米国の広範な外交努力の一環である。

しかし、米国はイスラエルの自衛権を支持することで地域の安全保障を推進する一方で、パレスチナ人の人道的ニーズを擁護し、それに基づいて行動するという努力は、バイデン大統領にジレンマをもたらす。

「バイデン政権は、ネタニヤフ首相に政策を変更させるために、直接的な手段に訴えなければならないかもしれない。」とミール博士は付け加えた。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

「11月に予定されている米国大統領選挙が、ネタニヤフ首相の戦略に一役買っていることに注目すべきだ。この秋の選挙でドナルド・トランプ候補に勝ってほしいと思っている人が世界に2人いるとすれば、1人目はトランプ氏自身、2人目はネタニヤフ首相だ。彼はバイデン大統領の再選を弱体化させるために全力を尽くすだろう。」

ネタニヤフ首相は、バイデン大統領が、何万人ものパレスチナ人が死亡しているにもかかわらず、イスラエルを揺るぎなく支持していることに反対する多くの若い有権者だけでなく、一部の議会民主党議員からも激しく批判されていることに喝采を送っている。彼は、自身の利益のためになる限り、戦争を長引かせ、再選キャンペーンに着手しているバイデンを政治的に弱体化させようとするだろう。

「バイデン大統領は、ネタニヤフ首相にアジェンダを設定させるべきではない。イスラエルの国家安全保障に対する米国のコミットメントは揺るぎないが、米政権はイスラエル国家と、根本的な意見の相違がある現在のネタニヤフ政権とを区別していることを、イスラエル国民に警告する決定的な措置を今取らなければならない。」と、国際交渉と中東研究のコースで教鞭をとったベン・ミール博士は語った。

ラバニ氏はさらに詳しく説明し、(援助物資の)空中投下についてコメントしたすべての専門家や機関は例外なく、この手段では、米国とイスラエルがガザ地区に作り出した人道的な事態に対処することは不可能であり、既に存在している陸路を通じた援助で対処できると結論付けていると述べた。

「陸路を通じた援助の再会であれば、ホワイトハウスからイスラエル政府に電話をかけるだけで済む。ワシントンはこの選択肢を追求しないという政策決定を下したのだ。」

第二に、これらの見せかけは、イスラエルのガザ地区に対する大量虐殺的な猛攻撃を正当化するためのものである。11月の一時休戦は、アントニー・ブリンケン米国務長官の言葉を借りれば、イスラエルの戦争に対する西側の支持を維持し、昨年12月初旬に戦争を再開・激化させるために必要だったのだ。

「以上のことから、パレスチナ人たちにとっては、このような空中投下はない方がよい。特に、少なくとも5人がすでに空中投下によって死亡しているのだから。」とラバニ氏は語った。

一方、ヨハネスブルグを拠点とする市民社会国際連合(CIVICUS)は、3月13日に発表した第13回年次報告書『市民社会の現状』において、「2023年にルールに基づく国際秩序を弱体化させ、人権の促進や世界で最も破壊的な戦争を解決することを難しくしているのは、強力な国々による偽善である。」と指摘し、これらの強国がいかに選択的に国際法を尊重し、同盟国を庇い、 敵国を非難しているかを詳述した。

最も露骨な例は、ロシアの侵攻に対してウクライナ防衛に駆けつけながら、イスラエルによるガザの市民への攻撃を支持した国々である。

「世界中の軍隊、反乱軍、民兵が2023年におぞましい人権侵害を行ったのは、二重基準だらけの国際システムのおかげで逃げおおせるとわかっていたからです。」と、CIVICUSのエビデンス・エンゲージメント担当のマンディープ・ティワナ最高責任者は語った。

「国連安全保障理事会を手始めに、人々を意思決定の中心に据えるグローバル・ガバナンス改革が必要です。」とティワナ氏は語った。

ガザでの死者が31,000人を超えたというガザ保健省の報告について問われたステファン・デュジャリック国連報道官は、3月13日の記者会見で、「またも悲惨な犠牲者数が明らかになった。このまま手をこまねいて事態が改善するのを傍観していないことを望む。」と語った。

「ガザの市民が苦しみから解放され、食料を手に入れ、必要な基本的サービスを受けられるようにするためだ。

「私たちが今一度求めているのは、人道的な即時停戦である。つまり、必要な人道的アクセスを確保し、必要な規模の人道支援活動を行えるようにすること、そしてガザの市民が苦しみから解放され、 食料を入手し、必要な基本的サービスを 受けられるようにすること、そして、ガザで拘束されているイスラエル人その他の人質が直ちに解放されるようにすることだ。」

一方、ガザでの人道的大惨事が続く中、バーニー・サンダース上院議員、クリス・ヴァン・ホーレン上院議員、ジェフ・バークレー上院議員、および民主党の同僚議員5名はジョー・バイデン大統領に書簡を送り、ネタニヤフ首相に対し、ガザへの人道援助アクセスを制限することをやめさせるか、イスラエルへの米軍援助を没収するか、連邦法を執行するよう求めた。

Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.
Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.

書簡の中で上院議員たちは、ネタニヤフ首相によるガザでの米国の人道的活動への干渉は、人道援助回廊法としても知られる1961年外国援助法第6201条に違反することを明らかにした。

この法律は以下のように規定している。 サンダース上院議員の事務所からのプレスリリースによると、「この章または武器輸出管理法の下で、いかなる国に対しても、その国の政府が米国人道援助の輸送または配達を直接的または間接的に禁止または制限していることが大統領に知られた場合、援助は提供されない。」

バイデン大統領に対し、上院議員たちは次のように書いた。「公的な報告やあなた自身の発言によれば、ネタニヤフ政権はこの法律に違反している。この現実を踏まえ、我々はネタニヤフ政権に対し、人道的アクセスを即座に劇的に拡大し、ガザ全域への安全な援助物資の輸送を促進しなければ、米国の現行法で規定されているように、深刻な結果を招くことを明確にするよう強く求める。米国は、米国の人道支援を妨害するいかなる国にも軍事援助を提供すべきではない。」

「連邦法は明確であり、ガザ危機の緊急性と、ネタニヤフ首相がこの問題に関する米国の懸念に対処することを繰り返し拒否していることを考えると、同首相の政策変更を確実にするために、早急な行動が必要である。」(原文へ

INPS Japan

*INPS Japanでは、ガザ紛争のように複雑な背景を持つ現在進行中の戦争を分析するにあたって、当事国を含む様々な国の記者や国際機関の専門家らによる視点を紹介しています。

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