spot_img
地域アジア・太平洋|米国|「帝国の墓場」アフガニスタンからの撤退(ソマール・ウィジャヤダサ国際弁護士)

|米国|「帝国の墓場」アフガニスタンからの撤退(ソマール・ウィジャヤダサ国際弁護士)

【ニューヨークIDN=ソマール・ウィジャヤダサ】

米国のジョー・バイデン大統領は、「米国史上最長」となるアフガニスタンの戦争を2021年9月11日までに終結させると表明した。

「帝国が死に赴く国」と言われてきたアフガニスタンの歴史を振り返ることは、なぜ多くの帝国が同国に侵攻して失敗したかを理解する一助となるだろう。

「帝国の墓場」と呼ばれてきたアフガニスタンは、アジアと欧州を繋ぐ古代シルクロード上に位置し、インド、パキスタン、ロシアといった強国と山々に囲まれた内陸国である。

またアフガニスタンの地は、何世紀にもわたり、様々な帝国がこの地に侵攻したため、多様な文化が出会い物資やアイデアが交換され、人種と文化の坩堝であった。

紀元前328年にアレキサンダー大王がこの地を征服するまで、アフガニスタンはペルシャ帝国の支配下にあった。

またアフガニスタンの地では、紀元前305年にこの地を征服したクシャーナ朝から10世紀末まで仏教文化が栄えた。その痕跡は、今でもアフガン各地に点在する様々な仏陀像、仏塔やフレスコ画に彩られた多くの石窟寺院に見て取ることができる。(2001年、タリバンの指導者オマール師は、約1500年前に中国とインドから来訪した僧らが砂岩の断崖に彫刻した2つの大仏像【高さ55メートル、33メートル】の破壊を命じた。)

その後、1000年に亘り、フン族、トルコ人、アラブ人がこの地を侵攻し1219年にはモンゴルのチンギス・ハーンが来襲している。そしてその後も、アフガニスタンは、16世紀にムガール帝国を興したバーブルを含む、インド、ペルシャの諸王朝による支配を受けた。1747年にはアフマド・シャー・ドゥッラーニーがアフガニスタンのカンダハルを拠点に、ペルシャ、ムガール、ウズベク領に版図を拡大しアフガニスタンの基礎を作った。

19世紀になると大英帝国が1838年から42年と78年から81年にかけてアフガニスタンに2度侵攻したが植民地化することには失敗した。

By RIA Novosti archive, image #644461 / Yuriy Somov / CC-BY-SA 3.0

1979年、ソ連はアフガニスタンのバブラク・カルマル率いる共産党政権を支援するため(米国や西側諸国はこれを侵略と捉えている)軍をアフガニスタンに進めた。しかし、ソ連軍は、その後何年にも亘って欧米諸国の支援を受けたアフガンゲリラ(ムジャヘディン)による反政府ゲリラ活動に苦しめられた。

米中東研究所(本拠:ワシントンDC)によると、「1979年のソ連軍侵攻から10年間で150万人のアフガン人が殺害され数百万人が負傷した。また620万人がパキスタン、イランなど国外に逃亡し、220万人以上が国内避難民となった。」

ソ連による支援にもかかわらずアフガニスタンのマルクス主義政権は権力基盤を固めることに失敗した。1989年になると、ソ連軍が15,000人の兵士と数十億ドルを失った末に10万のソ連軍を撤退させたため、アフガニスタンは無政府状態に陥った。

1992年、ムジャヘディン各派はアフガニスタン・イスラム国の樹立を宣言したものの、まもなく内戦が全国に拡大し、1996年に首都カブールを占領したタリバンがアフガニスタン・イスラム首長国の樹立を宣言した。タリバン政権は極端な解釈によるイスラム法の適用を含む極めて厳格な統治をアフガニスタン全土に実施し、国内各地に残っていたイスラム以前の多くの文化的シンボルを破壊していった。

タリバンはまた、テロリストに訓練を施し、隠れ家も提供した。なかでも、アルカイダ創始者のオサマ・ビンラディンを匿ったことは、とりわけ重要な点である。

その後アルカイダが訓練したゲリラは、1993年にモガディシュで米軍兵士18人を殺害したほか、同年ニューヨークの世界貿易センター爆破事件、1998年にはナイロビの米国大使館爆破(213人死亡、4500人重軽傷)、ダルエスサラームの米国大使館爆破(11人死亡、85人重軽傷)など、数多くのテロ事件を引き起こした。

オサマ・ビンラディンによる最大の攻撃は、米国内を標的にし、3000人近い人々の命と共に世界貿易センターを倒壊させたた2001年9月11日の同時多発テロで、米国はこれを契機にオサマ・ビンラディンの逮捕とアフガニスタンにおける彼のテロリストネットワークの壊滅に動き始めた。

バイデン大統領、米国史上最長の戦争に終止符を打つ

バイデン大統領がアフガニスタンにおける戦争終結日として表明した2021年9月21日は、世界貿易センター、ペンタゴン、ペンシルベニア(ユナイテッド航空93便テロ事件)を標的にアルカイダによるアメリカ同時多発テロを受けて、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)がアフガニスタンへの侵攻を開始してから20周年にあたる。

September 11 attacks in New York City: View of the World Trade Center and the Statue of Liberty./ Public Domain

バイデン大統領は、自身を含めて過去4人の大統領が米国にとって史上最長の戦争を終結させようとしてきたと指摘したうえで、アルカイダを根絶し、米国に対してこれ以上のテロ攻撃を防ぐというアフガン戦争のそもそもの目的は、2021年にオサマ・ビンラディンがパキスタンで殺害された時点で達成されていた、と主張した。

米軍の撤退はドナルド・トランプ政権が2020年2月にタリバンとの間に結んだドーハ合意の一部として合意したものだ。これによれば、2021年5月1日を米軍をアフガニスタンから完全撤退させる期限と定めていた。従って、タリバンは、もしこの期限が順守されない場合は、米国とのいかなる交渉にも応じないとしている。

アフガン戦争が最も激しかったオバマ政権時には、約10万人の米軍兵士と約45,000人の北大西洋条約機構(NATO)軍の兵士がアフガニスタンで任務に従事していた。

公式文書によると、過去20年間に約2400人の米兵と1100人のNATO軍兵士が死亡し、数万人の米兵が負傷、少なくとも50万人のアフガン人(政府軍兵士、タリバン兵士、民間人)が死傷し、数百万人のアフガン人が家を追われ、米国民の2兆ドル以上の血税がアフガニスタン戦争に費やされた。

国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、2021年1月以来、女性と子供を含む約1800人の民間人が政府軍とタリバンの戦闘に巻き込まれて死傷している。

とりわけ女性の死傷率が37%、子どもの死傷率が23%上昇している。犠牲者の大半は政府軍とタリバン間の地上戦闘、簡易爆発装置、民間人を標的とした殺人にまきこまれて死亡している。

民間人の犠牲者の大半は、タリバンを含む反政府勢力によるものだが、アフガニスタン政府軍や政府を支持する勢力による民間人殺害も今年になって多く報告されている。

バイデン大統領の方針に同意しない声もある

米軍が2002年にアフガニスタンに侵攻した際はほぼ全会一致に近い両党派の支持を得ていたが、アフガニスタンからの完全撤退を表明したバイデン大統領の決断については、共和党はもとより一部の民主党議員からも、「撤退で戦争終結というわけにはいかない。それでは敵に勝利を明け渡すようなものだ。」等の反対の声が上がっている。

US Capitol, west side/ By Martin Falbisoner – Own work, CC BY-SA 3.0

共和党の間では今回のバイデン大統領の決断に対する非難の声が広がっている。ミッチ・マコーネル上院少数党院内総務は、この決断を「深刻な失敗」であり、「米国のリーダーシップを放棄するものだ。」と語った。また、リンジー・グラハム上院議員は、アフガニスタンからの撤退は「大失敗の始まりだ。」と述べている。

米軍による当初のアフガン侵攻を監督したディック・チェイニー副大統領(当時)の娘で共和党のリズ・チェイニー下院議員は、アフガニスタン撤退の決断を「米国がテロリストによる脅威を根本的に理解していないか故意に無知を装っている危険な兆候であり、タリバンや(アルカイダ)に宣伝戦の勝利を明け渡し、米国の世界におけるリーダーシップを放棄するもので、敵の思うつぼの展開だ。」と述べて非難した。

民主党のジーン・シャヒーン上院議員は、「この決定は、米国のアフガニスタンの人々、とりわけ女性達に対するコミットメントを毀損するものだ。」とツィートした。

私はこれまでに執筆した多くの記事のなかで、米国が人権、自由、民主主義を口実に中東地域に対して向こう見ずな介入を行い、膨大な人的、財政的損失を招いた経緯を述べてきたが、バイデン大統領がこの壊滅的な戦争を終わらせる決意をしたことを支持したい。

未完了の任務

米国は前提条件も不測の事態に備えた方策もないままアフガニスタンを撤退するため、米軍の後ろ盾を失うアフガニスタン政府が崩壊するのは明らかだろう。首都カブールや主要都市は依然として政府の統治下にあるが、広大な農村部は気短で残忍なタリバンの支配下にある。

多くの不確定要素に満ちた難問は、はたしてタリバンとアフガニスタン政府の間で和平合意がなされるのか、それともアフガニスタン政府が崩壊してタリバンが国全体を掌握する事態になるのかという点である。

もしタリバンによる全土支配が現実のものとなれば、タリバンは再び少女の通学を禁じ、女性を虐げて家内奴隷としてのみ人間以下の存在を認めるような原始的で抑圧的な統治を復活させるだろうか。また、ベトナム戦争後にみられたように、タリバンはアメリカ人に協力したアフガン人に報復を行うだろうか。

Babur 1st Mughal Emperor/ Public Domain

いずれにせよ、米国は2001年(の米軍侵攻当時)にアフガニスタンを専制的に統治していたものと同じタリバンの指導者が支配する、分裂して荒廃したアフガニスタンから撤退しようとしている。

元国連武器査察官のスコット・リッター氏は、「つまるところ、20年に亘ったアフガニスタン戦争では、2000人を上回る米兵が犠牲になり、数兆ドルにのぼる国費が浪費され、数十万人のアフガン人が殺害された一方で、アフガニスタンの国土が荒廃した他に、なんら達成されたものはなかった。」と語った。

これはムガール帝国の創始者バーブルが遺した言葉「アフガニスタンはこれまでもこれからも決して征服されることはない。いかなる敵にも降伏することはない。」を想起させるものだ。(原文へ

※著者のソマール・ウィジャヤダサは国際弁護士。ユネスコを代表して国連総会に派遣(1985~95)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)ニューヨーク事務所長(1995~2000)を務める。

INPS Japan

関連記事:

|アフガニスタン|国連の支援で女性たちの声なき声を届ける

|新型コロナウィルス|国連事務総長のグローバル停戦の呼びかけが支持を集める

|アフガニスタン|和平に備える市民社会

最新情報

「共和国の日」レセプション

「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展

第7回世界伝統宗教指導者会議(インタビュー)

第7回世界伝統宗教指導者会議

NPT再検討会議:関連行事(核の先制不使用)

NPT再検討会議:広島県知事、カザフ大使訪問

NPT再検討会議:被爆者証言

NPT再検討会議:SGIインタビュー

2022 ICAN FORUM in Vienna

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
client-image
Kazinform

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken