地域アジア・太平洋│ソロモン諸島│血塗られた過去と向き合う牧歌的な島

│ソロモン諸島│血塗られた過去と向き合う牧歌的な島

【マライタ県アウキ(ソロモン諸島)IPS=キャサリン・ウィルソン】

ニューギニア東方の南太平洋国家・ソロモン諸島(人口約52.3万人)では、5年間に亘った民族紛争(エスニック・テンション:1998~2003年)で行方不明になった近親者を巡る、残された者たちの苦難が未だに続いている。今日、この多民族多文化国家で恒久平和を実現するには、行方不明者の遺体を捜索することが不可欠となっている。

「眠れません。私は真実を知りたいのです。村のあの男が酔っぱらって『皆殺しにした』と言うのを耳にします。本当のところはわかりません。しかし(行方不明になった)兄の子ども達の目を見つめていると、犯人に対する怒りが心の底から沸いてきます。私は真実を知りたいのです。」

記者はこの訴えをマライタ島のある村で耳にした。この村では民族紛争の中で7人の村人が失踪した。今日に至るまで、彼らは行方不明のままだが、村のある男が、酒に酔うと自分が犯人だと自慢するのだ。

1998年末、当時のガダルカナル州知事エゼキエル・アレブア氏の発言により、ガダルカナル島民が長く抱き続けてきた同島に多数居住するマライタ島出身者に対する不満が政治的問題へと発展し、これに後押しされるように武装組織「ガダルカナル革命軍」(のちにイサタブ自由運動と改称)が、マライタ島出身者に対して武力を用いた威嚇と排斥行動を始めた。当時ガダルカナル島に移住していたマライタ島出身者は、コミュニティーを形成して定住し、首都ホニアラの公務員をはじめとする給与所得者の多数を占め、実業界にも多く進出していたことから、地元ガダルカナル島民は、彼らに対し潜在的に反感を募らせていたのである。一方、マライタ島民及びマライタ島出身者らは、対抗措置として武装組織「マライタの鷲軍」を結成してイサタブ自由運動に対する反撃を開始した。このため、両武装勢力間の衝突は恒常化し、紛争は2003年7月にオーストラリア主導の「ソロモン諸島地域支援ミッション」が駐留を開始するまで、泥沼の様相を呈した。

2009年に設立されたソロモン諸島真実和解委員会(SITRCが収集した証言(2年間で約2290件の証言聴取と10回の公聴会を開催:IPSJ)によると、この紛争中に同じ村や部族グループの中で、対立武装勢力や敵の部族に協力する内通者がいるとの噂が飛び交ったために、多数の誘拐・失踪事件が発生したという。

マライタ平和・和解局のフランシス・カイリ次長は、今後聞き取り調査が継続されていく中で、これまで語られることがなかった事実が明らかになると確信している。

失踪者の行方が分からないままで、残された近親者が絶え間ない精神的ストレスに晒される「あいまいな喪失(ambiguous loss)」の問題は、紛争後の社会回復を著しく遅らせる要因となっている。

国家統合・和平・和解省のリューベン・リロ平和・和解担当官は、ホニアラでIPSの取材に応じ、「多くの国民の見方は、行方不明者の所在地か、或いは埋葬地が明らかにならない限り、本当の意味での和解など受け入れることはできない、というものです。」と語った。

ソロモン諸島真実和解委員会の委員長で牧師のサム・アタ氏は、「失踪者の近親者が抱えるいつ終わるとも知れない苦悩やトラウマに対応しなければなりません。さもなくば、紛争後の社会再建を目標に開始されたプロジェクトが、報復の目標になりかねません。」と語った。

今年に入って、マライタ島中部で4つの村が放火され、500人が家を失った。同島で真実和解調停人を務めるレズリー・フィロメア氏によると、癒されないトラウマのために、依然として地域で起きる小規模の対立がすぐに大規模な報復合戦へとエスカレートしてしまうのだという。

5年間に亘った武力衝突は主にガダルカナル島とマライタ島の人々の生活に深刻な影響を及ぼした。紛争期を通じて、双方で最大5万人が難を逃れるため移住を余儀なくされたと見られている。ガダルカナル島では、多数のガダルカナル人が流血を逃れるため島内の他の地域への移住を余儀なくされた一方で、同島各地に長らく住んでいたマライタ島出身者推定2万人が、土地・家財を残したまま、大挙してガダルカナル島を脱出し故郷マライタ島で避難民となった。

紛争期間中、村や職場、道端で拉致された被害者の多くが、拷問され殺害された。ソロモン諸島真実和解委員会は、2010年から11年の2年間に行った証言聴収を通じて、武装勢力及び治安部隊による拷問について1413件、拉致・不法監禁について300件の情報提供を受けている。

しかし失踪者に関する公的な調査活動は行われていないことから、実際の死亡者数は、ソロモン諸島真実和解委員会の最終報告書に記載されている数字をはるかに上回るものと考えられている。

アタ委員長は、「(死亡者数については)証言をもとに200カ所の埋葬地を特定しました。しかしこれらには集団墓地も含まれていますし、証言があったものの埋葬地を特定できなかったケースや住民が調査に協力しようとしなかったケースもあります。住民は、紛争終結後も武器を隠し持っている元武装勢力のメンバーの存在を恐れており、行方不明者に関する情報提供をすれば自分たちの身に危険が及ぶのではないかと警戒して私たちに積極的に協力しようとはしないのです。」と語った。

しかし一方で、近親者の遺体を遺族に返すことは「あいまいな失踪」問題に取組むうえで欠かすことができないプロセスだという点については、双方のコミュニティーの間で幅広いコンセンサスが存在する。

「適切な埋葬がなされない限り死者の魂が安らぐことはありません。それは残された遺族も同じことです。従って、死者の魂と残された遺族双方のためにも、遺体の返還は不可欠なのです。」とマライタ平和和解局のフランシス・カイリ次長は語った。

ソロモン諸島真実和解委員会は、2011年8月、失踪者の家族からの要請に基づいて、新たにガダルカナル島で死体の発掘作業を始めた。その結果、4人の男性被害者(2人がガダルカナル出身者、残りの2人がマライタ出身者)の遺体が掘り起こされ、同年11月、首都ホニアラの教会で、遺体を近親者に引き渡す「国民葬」が5年に亘った民族紛争に関与した全ての関係勢力が参加する中、厳粛に執り行われた。

それまでアルゼンチンからの法医学者らの支援を得ながら、各地のコミュニティーを廻り、村長や目撃者らとの長く複雑で慎重さを要する交渉に従事してきたソロモン諸島真実和解委員会にとって、紛争の加害者と被害者双方が参列する中で失踪者の遺体を遺族に引き渡せた「国民葬」は、それまでの活動の集大成とも言えるものだった。

アタ委員長は、「厳しい財源状況にありますが、地域住民に受け入れられる形で失踪者の遺体発掘作業を継続し、遺族に引き渡すまでの作業をやり抜くことが、民族紛争で深く傷ついた社会を真に再建するうえで、不可欠だと確信しています。」と語った。

またアタ委員長は、「委員会ではこれまでも全ての当事者が参加する形で和解を象徴するイベントを開催してきましたが、それだけでは十分とは言えません。」と指摘したうえで、「ソロモン諸島の社会が真の意味で傷を癒し、再建に向けたプロセスを歩んでいくためには、民族紛争で被害を蒙った双方の住民一人一人の苦痛に対処していく必要性があります。」と強調した。

国家統合・和平・和解省は、「国連人間の安全保障基金」の支援を得て、近親者喪失の悲しみに対処するための取り組みを始めている。今年、200人のトラウマ・カウンセラーがマライタ島と首都ホニアラを含むガダルカナル島各地のコミュニティーで活動を開始した。

カイリ次長は、「失踪者の調査・遺体発掘作業を継続していくことで、今後少しずつ民族紛争期に失われた人的損失の実態が明らかになり、それに伴ってトラウマを抱えて苦しんでいるなお多くの人々に手を差し伸べる機会が開けていくでしょう。このような対策がなされて初めて、被害者と加害者双方のためになる真の平和構築が可能になると確信しています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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