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カンボジア国際法廷の問題ある人選

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール

1975年から79年の間に約170万人を死に至らしめたといわれるカンボジアのポルポト派を裁くため、特別法廷が設置された。

カンボジア外からの13名の裁判官・検察官は、ニュージーランド・フランス・オーストリア・日本・ポーランド・オーストラリア・オランダ・米国・スリランカを出身とする法律家から構成されている。

また、ルワンダや旧ユーゴスラビアの国際法廷の場合とは異なり、地元カンボジアの裁判官の数が最大であるのが大きな特徴だ。

しかし、カンボジアのフンセン首相は、この国際法廷をあまり好意的に捉えていない。国連とカンボジア政府は、約10年にもわたる協議の末、ようやくこの国際法廷の設置にこぎつけたのである。

そのためかどうかはわからないが、フンセン首相は、17名のカンボジア裁判官の中に、陸軍大将でありカンボジア軍事裁判所の所長でもあるネイ・トル氏を入れてきた。この人選に対しては、カンボジア内外の人権団体から批判の声が上がっている。

特別法廷のヘレン・ジャービス広報部長によれば、裁判は2007年初めにも開始されるという。

カンボジア国際法廷をめぐる動きを伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

IPS関連ヘッドラインサマリー:
貧困という荷を負う女性

尊属殺人容認の部族集団に非難高まる

【ペシャワールIPS=アシュファク・ユスフザイ

パキスタン・ヒンドゥークシ山中のある集落で行なわれたジルガ(村の長老の寄合)において、「尊属殺人」(名誉殺人ともいう)を警察に通報した者は死刑に処するとの決定が下され、これに対して人権団体などが猛反発している。

尊属殺人は、北西辺境州(NWFP)においてイスラム教が広まる以前から現地の部族が守ってきた慣習で、姦通などの罪を犯した女性を家族が内々に処刑することを容認するものである。

パキスタン人権委員会によれば、1998年から2002年までの間に、1,339件の尊属殺が報告されている。もちろん実勢はこれよりはるかに多い。これらの事件のうち、逮捕された容疑者はわずか202名に過ぎない。

 尊属殺人の容疑者は、「キサス・ディヤット法」(qisas and diyat)という慣習法によって保護されている。これによれば、死亡した人間の法定相続人には容疑者を免罪する権限があり(309条)、また、容疑者から補償を受け取ることにより容疑者を免罪することができる(310条)。

しかし、「法定相続人」とはたいてい殺された女性の夫あるいは両親であり[すなわち、えてして実行犯そのもの:IPSJ]、尊属殺自体が家族の黙認のうちに行なわれていることが多いため、実際には容疑者のかなりの部分が許されてしまうのである。

女性の人権を守るNGO「オーラット財団」(Aurat Foundation)などは、4月30日に集会を開き、ジルガの権限に対して連邦・州・地方政府が厳しい態度をとるよう要求した。

北西辺境州議会のナイーマ・キシュワール議員(宗教政党「ジャミアート・ウレマイ・イスラム」所属)は、「名誉の名の下に女性や男性を殺すのは反イスラム的だ。この汚い伝統と私たちは闘わねばならない」と憤る。

また、アワミ国民党のザヒーラ・ハタック副党首もまた、「政府はこの慣習にストップをかけるのを怠ってきた」と批判した。

昨年、尊属殺人を禁止する法律が連邦議会に上程されたが、反イスラム的だという理由で廃案になってしまった。

パキスタンの尊属殺人をめぐる議論を紹介する。

翻訳=IPS Japan

どうしても伝えたい10大ニュース

【国連IPS=タリフ・ディーン】

毎年国連広報局(DPI)は、メディアにもっと取り上げてもらいたい世界の10大ニュースを発表する。これは貧困、平和構築、経済開発よりも政治、殺人、セックススキャンダルが優先されていると暗に示唆したものである。 

国連が15日に公表したリストは、世界のメディアがわずかしか、あるいはまったく扱うことのなかったさまざまな内容を含み、紛争が継続する地域での亡命希望者と避難民の窮状から地震の救済や戦後の復興にまで及んでいる。

 「誰もが知っているとおり、武力衝突や紛争とその脅威が見出しになり、血が流れればトップ記事で、心温まる話はニュースにならない」とシャシ・タルール国連広報担当事務次長は話す。 

「長年、読者の関心を引くような側面を指摘し、読むに値し、注目に値し、面白い内容にできるように協力して、開発問題はいい記事になると訴え続けてきた」とタルール事務次長はIPSの取材に応じて語った。 

「今後も全力を尽くすつもりだが、読者や視聴者が記者にそうした開発関連記事をもっと見たいと伝えなければ(特に記事を見たときに圧倒的多数が肯定的な反応を示すなど)、メディア側にそうした内容は視聴者が興味を示す素材だと説得するのは難しい」と2004年からこの10大ニュースの発表を始めたタルール事務次長は語る。 

なぜ主流のメディアや主要な国際通信社がいまだに政治的問題ばかりに注目し、開発関連問題への注目度は低くなる一方なのか問われ、タルール事務次長は逆に記者に「これはジャーナリストと記者が答えるべき問題だ」と反論した。 

タルール事務次長が率いるDPIによると、世界が耳を傾けるべき10大ニュースには、リベリアの戦後復興、正当な亡命希望者が直面する新たな問題、コンゴ民主共和国の来るべき歴史的選挙、ネパールで継続している紛争に巻き込まれる子供たち、戦争で荒廃したソマリアの安定を脅かす干ばつの悪影響などが盛り込まれている。 

さらに世界のメディアがあまり取り上げなかったニュースとして選ばれたのは、放置された数百万の難民の窮状、南アジアで起きた地震と津波被害の救援活動の問題、法を破ったとして拘束されている驚くほど多くの子供たち、乏しい水資源をめぐる争いを防いだ協力的な解決策、コートジボワールの和平プロセスを阻む可能性のある新たな武力衝突などである。 

スリランカの元新聞記者で、以前駐米大使を務めたアーネスト・コリア氏は「先進国の(あらゆる)メディアは、読者や視聴者が大きな関心を持つという理由で、イラク、イラン、核拡散といった問題に注目する」という。 

「こうしたメディアは争いの文化に影響されている」とコリア氏はIPSの取材に応じて語り、「そのためにどんなものでも面白い戦いがニュースになり、戦いが起きる前にニュースになることもある」と語った。 

「その結果、3人の同性愛の候補者の争いということで、カリフォルニアの司教選挙の準備運動がニュースの見出しを飾る。話題の3人は皆落選という結末だったのだが」 

対照的に、途上国では読者や視聴者の主な関心は開発関連問題にあるとコリア氏は指摘する。けれども公正を期していえば、世界の主要新聞が開発関連問題を扱うときは優れた理解と内容を備えた記事になっているとコリア氏は話す。コリア氏は現在ワシントンで国際的な金融機関のコンサルタントをしている。 

これまでに、非同盟通信社連合、ジェミニニュースサービス、デプスニュースなど、途上国に焦点を当てた通信社を設立しようと国際的な努力がなされてきたがうまく進展していない。 

政治的に偏り、報道の専門知識が足りなかったのだろうか。あるいは欧米の巨大メディアに対抗するためには資金不足だったのだろうか。 

「何よりもこうした通信社は、政府の意向を受け売りする組織になるのではないかという当然の不安があった。というのも政府の資金援助を受けており、関与する政府が発するメッセージについて自由なメディアが正当な疑問を持つときに、歓迎されない自由な通信社に代わるメディアの役割を果たすと思われた」とタルール事務次長はいう。 

「もちろん政府の支援にもかかわらず嘆かわしいほどに資金不足で、ニュース市場でも彼らのニュースは信用を勝ち得ることができなかった」 

コリア氏は別の見方をする。これまでの努力はすべて、それぞれ事情は異なるが、共通の問題を抱えていたとコリア氏はいう。「途上国のメディアの協力」が得られなかったことである。 

「ジェミニとデプスニュースは通信社というより、特集記事を配信していた。ジェミニの特集は十分に専門的な商品であり、創立者のデレク・イングラムは果敢にもその路線の維持に努めたが記事を買ってくれる顧客が足りなかった」とコリア氏は言い添えた。 

今年初めに、マレーシアは非同盟運動に加盟する114カ国の議長国の立場から、非同盟ニュースネットワーク(NNN)の創設に乗り出した。 

このNNNが現在の問題の解決になるのかと問われると、タルール事務次長は「解決する可能性はある。というのも情報を操作するのではなく開かれた情報交換のモデルに基づいており、各国の通信社の特派員と共にフリーのジャーナリストに投稿を解放していると理解している」と語った。 

そうであれば情報を抑圧するのではなく貴重な情報源を増やすネットワークと考えられ、「NNNの実際の活動を楽しみにしている」とタルール氏は話す。 

コリア氏は「マレーシアが始めたこのNNNは、経済的支援がしっかり確保され、通信専門機関として運営されれば十分に成功するチャンスはある」とする。 

現在途上国の多くは国連の記者団に代表をあまり派遣していない。おそらく第三世界の多くの国、あるいはその通信社には、ニューヨークに正規の特派員を常駐させる余裕がないからだ。 

この事態を改善するために国連は何ができるか問われると、タルール事務次長は「残念ながら何もない」と答えた。もし国連が途上国のジャーナリストに何か補助金のようなものを出して経済的負担を軽減しようとすれば「国連は記者団に金で影響を与えようとしていると責められても仕方ない」。 

「途上国が認定したジャーナリストが国連に来れば、できる限り便宜を図り支援して、仕事場、交通手段などに関して不利な条件を最小限に抑えて仕事に専念できるようにすることは保証できる。国連に来ている途上国のジャーナリストがその点で不満を持っているとは思わない」と言い添えた。 

コリア氏は「国連の支援を求めて問題解決を図るのははっきりいって間違った方法だ」とし、途上国の新聞などの間での協力が問題解決につながるのではないかという。 

さらに「途上国のメディアには国連で活躍するインタープレスサービス(IPS)を支援し、時間と空間を共有して協力していくという選択肢もある」と語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

スペイン、押し寄せるアフリカ移民

【マドリッドIPS=アリシア・フラーマン】

カナリア諸島の保安警察は、5月5日から8日までに、モーリタニア、モロッコからカヌーに乗ってやってきた500人強の不法移民を拘束した。4月30日にも、テネリフェ島の南2マイルの海上で、62人を乗せた浅瀬専用船「パテラス」が拿捕されている。

地元警察によると、5月6日(土)には15時間の間に259人が押しかけ、3月13日の372人、3月14日の314人に次ぐ大量拘束を記録したという。また、スペイン警察の2005年12月発表によると、密入国中に死亡した者は、1,200~1,700人という。

 カナリア諸島自治政府のスポークスマンは5月7日、同島は不法移民の圧力に曝され、無防備状態にあるとの声明を発し、スペイン政府に国境取締り強化を要請。アロンソ内務大臣は、政府は既に電子監視システムSIVEの導入を決定していると発表した。

スペイン政府は2004年12月30日に新移民法を制定。2005年2月7日から1ヶ月間で約70万人の市民権申請があったと発表している。しかし、貧困が原因の移民問題は1国または地域だけでは解決できない。

スペイン政府は、移民問題をグローバル問題と捉え、夏にモロッコのラバト市で、モロッコ/スペイン共同主催の国際会議を開催する予定である。また、6月22-24日には、リバス・ヴァシャマドリッドで、世界75各国、750NGOの代表が参加する第2回World Social Migrations Forumが開催される。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|コロンビア|妊娠中絶の部分解禁で破門された判事

【コンスタンザ・ビエイラ】

あらゆる妊娠中絶が刑罰に処されるコロンビアにおいて10日、憲法裁判所は人工妊娠中絶を一部合法化する判断を行った。ところがカトリック教会は翌11日、賛成票を投じた5人の判事に破門を言い渡した。破門は共産ゲリラも恐れる厳しい処罰。

今回の判断は強姦による妊娠や、母体に著しい危険を及ぼす場合、胎児に生存の見込みがない場合の中絶を合法化するもの。

 この件を憲法裁判所に提訴したモニカ・ロア(Monica Roa)議員は女性の世界的連携を目指す団体(Women’s Link Worldwide)のメンバー。国際条約や憲法に女性の権利を盛り込むことに一定の成功を収めてきた。今回はもう一歩踏み込み、妊婦が子宮ガン治療も受けられないような状況を改善するため、実生活に即した権利を守る判断を判事に託した。

コロンビア世論の54%も今回の決定を支持。議論の核心をカトリック教会のモラルから周産期の母体保護に移すべく、70年代中期より続いた長期間の活動が実を結んだかたち。

ロア議員はIPSへの書簡で、教会はカトリック信者の私生活に干渉する権利はあるが、憲法の判断は公的分野と指摘。憲法裁判所のロドリゴ・エスコバール(Rodrigo Escobar)副長官も、ラジオのインタビューで抗議の声を上げている。

コロンビアにおいては妊婦の30%、19歳以下では44%が違法中絶を行い妊婦死亡原因の17%となっている。妊産婦死亡率の4分の3低減を目指すミレニアム開発目標(MDGs)達成には、この問題に対処することが急務。

憲法裁判所の判断は適切な立法化を通じて実行されていくのか?妊娠中絶を禁じるカトリック教会と母体保護をめぐる問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

EUと中南米、協力それとも搾取?

【ウィーンIPS=ジュリオ・ゴドイ】

第4回EUラテンアメリカ/カリビアンサミットが、ウィーンで開催される。議題は、自由貿易、麻薬/組織犯罪/テロ対策、科学/技術/エネルギー問題が主となるが、両地域間の経済格差、ラテンアメリカ諸国間の結束の欠如などから、具体的成果は期待薄である。

ECの外交・欧州近隣政策担当コミッショナーは先月、相互理解と新たな対話/機会の創造を謳ったEUの対ラテンアメリカ/カリビアン関係強化戦略を発表したが、欧州/ラテンアメリカの非政府団体は、「国家開発援助および協力は、ラテンアメリカの資源の吸い上げ」と批判。ブラジルのLandless Rural Workers Movementのペドロ・ステディレ氏は、「15年に亘るネオリベラル自由市場政策の結果、ブラジルの天然資源、樹木、水、種子までもが多国籍資本に支配されてしまった」と語っている。

サミットに先立つ5月10日には、同じくウィーンでPermanent People’s Tribunalが、ヨーロッパの最大手30企業のラテンアメリカ/カリビアン地域における人権違反、経済/環境不正を糾弾する公聴会を開催している。冒頭、ボリビア資料情報センターのフェレイラ氏は、「英国の石油会社BPとスペイン/アルゼンチン合弁のRepsol YPFが計画しているボリビア南部チャコ盆地のパイプライン建設は、ボリビア資源の略奪」と批判した。

更に、オーストリア経済省および連邦経済会議所は、サミットに合わせEUラテンアメリカ/カリビアン・ビジネスフォーラムを開催する。同フォーラムには約300人の企業経営者が参加の予定だが、Corporate Europe Observatoryのアナリスト、アベル・エステバン氏は、「ラテンアメリカの代表は、実際には欧州企業の子会社代表で、欧州側が支配するロビイング集団の会合である。彼らは、ラテンアメリカ政府に対し、自由協定の早期締結をすでに要求しており、単にラテンアメリカにおけるビジネスチャンスを探るだけの会議である」と語っている。

INPS Japan浅霧勝浩

|メキシコ|無視されてきたマイノリティに手を差し伸べるサパティスタ

【メキシコシティIPS=ディエゴ・セバージョス】
 
メキシコの「サパティスタ民族解放軍」(EZLN)が、今年1月から、「もうひとつのキャンペーン」をうたい文句に半年の予定で全国行脚に出ている。7月2日に行なわれる大統領選挙に対抗するためだ。

サパティスタの存在意義は、社会の中で無視されてきた人々の問題を拾い上げるところにある。今回6日間の予定で首都のメキシコシティに訪れたサパティスタのマルコス副司令官は、性的マイノリティの人々が集まる集会で演説を行い、「違うものであろうとする闘いは、生命への闘いでもある」と語りかけた。集会は200名という小規模のものだったが、同性愛者・異性装者・性労働者・先住民など多様な人々が集まった。

サパティスタは、1994年に登場して以降、国内的にも国際的にも大きな注目を集め、彼らの拠点であるチアパス州のジャングルの中で大規模な国際集会を開いたりしていた。

しかし、2000年に現在のビセンテ・フォックス大統領が就任して以降、先住民たちの希望が一定程度聞き入れられるようになり、サパティスタへの関心は少なからず弱まった。現在、サパティスタの集会などに集まる人々の数は減っている。

ただ、メキシコの中でも最も貧しい地域であるチアパスの状況は以前とそれほど変わっていない。先住民社会の自決権と天然資源の集団的利用という、サパティスタと前エルネスト・セディージョ政権(1994~2000)との間の約束は果たされないままだ。

しかし、前出の集会に参加した大学生ディエゴ・マルチネスさんは言う。「人数が少ないように見えたってかまわないんだ。本当は私たちの仲間はたくさんいるのだから。マルコスは一人じゃないし、サパティスタは孤立してなんかいない」。

近年のサパティスタの取り組みについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 

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ディエゴ・セバージョスの記事

シンガポールとラオス、民主主義の欠如では同類

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール

シンガポールは東南アジアでもっとも裕福な国かもしれないが、その選挙制度は共産主義一党独裁の貧しい国ラオスにも匹敵する。

5月6日の投票日に向け選挙戦が開始されたシンガポール議会(定数84)の総選挙だが、野党側が定数の半分を上回る立候補者の擁立を果たし、過去の選挙戦とは異なり投票日前の与党・人民行動党(PAP)の勝利宣言を阻むに至った。残りの37議席はPAP候補が当選を果たしている。

しかし、野党側の選挙戦を阻もうとするPAPの試みはこれまでと変わりない。野党側の口を封じ、選挙前の議論を阻止しようというリー・シェンロン現政権の試みは、4月30日に実施されたラオスの国民議会選挙の実情とその精神・意図に何ら違いは見られない。

 国際的なメディア監視機関である国境なき記者団(RSF)は、表現の自由の権利に関する昨年の調査で、シンガポールを167カ国中140位、ラオスを155位にランクしている。RSFの東南アジア代表フィリップ・ラトゥール氏は「新技術の活用では先進国のシンガポールだが、サイバースペースにおける表現の自由では未だ中世だ。選挙戦ではブロガーもウェブマネジャーも特定の候補者を支援する権利が認められていない。この点ラオスやベトナム並だ」とIPSの取材に応えて語っている。

その一例は野党シンガポール民主党(SDP)とチー・スンジュアン党首である。シンガポール政府はSDPによるPAP批判を禁止、党機関紙や公衆の前での意見表明すら厳しく取り締まっている。反対意見を封じる戦略は、リー・クァンユー初代首相、ゴー・チョクトン前首相の方針を追随するものである。シンガポールに本拠を置くNGOシンク・センターのシナパン・サミドライ会長は「野党側は選挙期間中、ブログ、インターネット、ポッドキャストなど電子メディアを一切利用できない」とIPSの電話取材に答えている。

初の総選挙を迎えるシェンロン首相は、あくまでも公正な選挙制度だと主張しているが、域内民主活動家の団体Alliance for Reform and Democracy in Asiaも、昨年の「アジア民主主義指標(ADI)」でアジア16カ国中シンガポールをビルマに次いで最下位としている。「きわめて抑圧的社会」とADIで評価されているシンガポールの総選挙について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|国際女性デー|忘れられているボスニアの性的暴行被害者

【ベオグラードIPS=ヴェスナ・ペリッチ・ジモニッチ

「産んだ時、私は娘の顔など見たくもなかった。……でも翌日、その子をこの胸に抱いた時、この世でただ一つ、かけがえのない美しい存在だと思えた。そして私は、その子を手放さず、自分の手元で育てることにした。」

サラエボ出身の若手映画監督ヤスミラ・ジュバニッチの作品『グラバビツァ』で、ボシュニャク人のウエートレス、エスマは、13歳になる反抗的な娘サラを育ててきた経緯をそう語る。この作品は、ベルリン国際映画祭で最優秀作品賞にあたる金熊賞を受賞した。

元医学生だったエスマは、1992年、ボスニア紛争下のサラエボで、グルバビツァ地区の自宅にいたところをセルビア人兵士に暴行され、妊娠した。だが彼女は、娘サラに対し、父親はボシュニャク人のイスラム教徒で、サラエボを守って命を落とした「シャヒード(殉教者)」だったと語ってきた。

恐るべき真実が明らかになるのは、サラが学校の遠足費用の免除を受けるため、父親の死亡証明書を必要とした時である。母娘は打ちのめされ、激しくぶつかり合う。しかし、深い苦悩のなかで、再び互いの絆を手繰り寄せていく。

だが、現実のボスニアに映画のような幸福な結末はない。ジュバニッチ監督は、ベルリンで金熊賞を受賞した際、観客に向かって「ボスニアのレイプ被害者たちの苦しみは、決して終わっていない」と語った。

集団レイプの被害者たちは、家族や友人からさえ疎まれがちである。多くは、被害の事実が知られると偏見の目で見られ、社会から孤立させられてしまう。

レイプによって生まれた子どもたちの多くは、ボスニアや隣国クロアチアの孤児院に送られ、まれに養子に出されることもある。だが、その多くは自らの親について何も知らないまま成長していく。ボスニアのトゥズラ、ゼニツァ、クロアチアのウラジーミル・ナゾル、ゴリャクの各孤児院でも、子どもたちの出自やその後の行方は追跡されていない。

ジュバニッチ監督は3月6日夜、セルビアの首都ベオグラードで開かれた地元映画祭での上映後、「今回のベオグラードでの上映が、この悪循環を断ち切る始まりになることを願っている。というのも、この物語の土台は、実質的にはこの地でつくられたものだからだ」と観客に語った。

ベオグラードの支援を受けたボスニアのセルビア人勢力は、3年に及ぶ戦争の中で、独立を目指したボスニア側、とりわけイスラム教徒女性に対して、組織的なレイプを行ったとして告発されてきた。だがセルビアでは、この問題はいまなおタブー視され、そうした出来事自体を否定する空気が根強い。

人権活動家ナターシャ・カンディッチ氏はIPSの取材に対し、「この問題は、ボスニア戦争の真実を知るためにも、率直かつ誠実に向き合わなければならない論争的な課題だ」と述べた。そのうえで、「数字を操作しても、真実の解明にはつながらない」と指摘した。

戦時下のボスニア政府が1993年にまとめた文書では、レイプ被害者の数は2万~5万人とされている。そこでは、レイプは「人間の尊厳を最も恥ずべき形で踏みにじる屈辱的な暴力であり、セルビア人の侵略政策そのもの」であると記されていた。

一方、欧州連合(EU)主導の委員会や国連(UN)の報告書など、国際機関による推計は大きく食い違っている。EUは1993年に被害者数を2万人としたのに対し、1994年の国連報告書は150人未満としている。この国連報告書の数字は、ボスニア紛争における残虐行為を否定するセルビア人民族主義者によって、しばしば引用されてきた。

旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)は、1992年にボスニア東部フォチャでイスラム教徒女性を収容した施設におけるレイプ犯罪について、ドラゴリュブ・クナラツ、ラドミル・コヴァチ、ゾラン・ヴコヴィチの3被告に対し、計60年の禁錮刑を言い渡している。

だが、年月がたつにつれ、この問題は脇へと追いやられていった。数字だけが都合よく引用され、被害者たちは忘れ去られてきたのである。

被害者たちの過酷な現実については、セアダ・ヴラニッチが著書『Breaking the Walls of Silence(沈黙の壁を破る)』で詳しく描いている。ヴラニッチは、その中で、報告されるレイプは10件に1件にすぎないとみている。

また、ボスニア中部のNGO「メディカ・ゼニツァ」は、1997年5月の調査で、レイプ被害者の1~4%が妊娠したと報告している。

サラエボの「危機にさらされた人々のための協会」の代表ファディラ・メミシェヴィッチ氏は地元メディアに対し、「女性たちは二度被害者になる。レイプされた時と、その後に忘れ去られた時だ」と語った。

ボシュニャク系メディアがこの問題を本格的に取り上げ始めたのも、『グラバビツァ』がベルリン映画祭で受賞して以降のことだった。メミシェヴィッチ氏はクロアチア紙『ヴェチェルニ・リスト』の取材に対し、「この問題は今後、一気に噴き出すだろう」と述べたうえで、「私は毎日のようにレイプ被害者やその子どもたちに会っているが、子どもに真実を打ち明けた母親は一人もいない。ここで社会が役割を果たすべきだが、ボスニア社会は明らかにその準備ができていない」と語っている。

さらに同氏は、母親たちにこの問題への向き合い方を助言できる心理学者のチームも存在しないと指摘する。

「労働・社会福祉省は、こうした出自を持つ子どもが何人いるのかさえ把握していない。しかも、母親も子どもも社会的ケアの対象とは見なしていない」とメミシェヴィッチ氏は語る。「昨年、そうした子どもたちの名簿を作ろうとしたが、結局断念せざるを得なかった。」

サラエボの信頼できる情報筋によれば、国連児童基金(ユニセフ)は昨年7月、ボスニアで戦時レイプによって生まれた子どもたちに関する報告書の作成を委託した。こうした子どもたちに焦点を当てた初めての試みだったが、その報告書は理由が明らかにされないまま公表されなかった。

結局のところ、戦時中の残虐行為が広く知られるようになった後も、性暴力の被害者たちの多くは、なお深い孤立の中に置かれている。国家に見捨てられた彼女たちは、心の深い傷だけでなく、貧困にも苦しんでいる。

社会から疎外され、夫に見捨てられることも多く、安定した仕事を得られる人も少ない。悪夢、身体的損傷、精神的不調といった苦しみが今なお続いているにもかかわらず、補償を受けた人はごくわずかにとどまる。

「現実の世界には、『グラバビツァ』のようなハッピーエンドはないのです」とメミシェヴィッチ氏は語った。(原文へ)

翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

|ジンバブエ|耕すべきか、耕さざるべきか

【ヨハネスブルクIPS=モイガ・ヌドゥル】

ジンバブエ政府が強制収用した土地での農業再開を白人にも認めたことがさまざまな反響を呼んでいる。「人殺しをし、農場から追い出し、国の経済を破たんさせてから、われわれに手伝えという」と批判的な白人農民もいるが、白人が多数を占める商業農家連盟(CFU)のD.テイラー-フリーム代表は問題解決につながる可能性があると考えている。

土地問題担当のフローラ・ブカ大臣は白人を含むジンバブエ人すべてが土地を申し込むことができ、これまでに500人の白人農民から申し込みがあったことを明らかにした。NGOの「農業の公正」によると、2005年のジンバブエ国内の白人商業農家は500以下で、2000年末の4,300から大幅に減った。2000年の議会選挙で与党ジンバブエ・アフリカ国民同盟・愛国戦線(ZANU-PF)が苦戦したときに農場襲撃は始まり、土地問題を選挙に利用した政府主導の襲撃だと非難が起きた。

 土地を奪われた多くのジンバブエ農民は近隣諸国へ逃れた。ジンバブエのジョセフ・メイド農業大臣は改革政策の失敗による土地の再提供を否定しているが、「農業の公正」は没収した土地の利用はずさんで、与党高官の所有となった土地もあると報告している。

かつては南部アフリカの穀倉地帯だったジンバブエが、現在食糧不足に直面している。国連の世界食糧計画(WFP)によると1,300万の国民のうち400万人以上が食糧支援を求めている。米国が支援する「飢饉早期警戒ネットワーク」の2006年報告書は、気候に問題はないが収穫量の低下により食糧危機が続くとしている。さらにジンバブエのHIV感染率が20%となっていることも事態を悪化させている。

土地の没収がジンバブエの経済を停滞させ、燃料、主要農作物、外国為替の不足を招き、ジンバブエでは3桁のインフレが普通である。ジンバブエ共同市民社会組織のダニエル・モロケル代表は、「政府は過ちを認めようとしている」という。だが白人農民には土地を手にせず政府打倒を目指すべきという声もある。白人の手に農地が戻ってもジンバブエ経済を好転させるには時間がかかるだろう。農民たちは政府を信用していない。白人の土地の没収と貧しい黒人への分配は近隣諸国でも起きている。

ジンバブエの土地問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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