SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)カザフスタンの不朽の遺産: 核実験場から軍縮のリーダーへ

カザフスタンの不朽の遺産: 核実験場から軍縮のリーダーへ

【アスタナINPS Japan/Jibek Joly(Silk Way)TV Channel=浅霧勝浩、クンサヤ・クルメット・ラキモヴァ】

32年前のこの日(1991年8月29日)、セミパラチンスク核実験場は当時ソ連の一部を構成していたカザフスタンで大統領令が出されたことで、モスクワのソビエト連邦政府の立場に反して、永久に閉鎖された。その後ソ連から独立したカザフスタンは、当時世界第4位の核戦力の全廃とロシアへの撤去を実施し、自らの意思で核兵器国から非核兵器国となった世界で最初の国となった。

The “Humanitarian Impact of Nuclear Weapons and the Central Asian Nuclear-Weapon-Free Zone” regional conference held in Astana on Aug 29, 2023. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

それから18年後の2009年、カザフスタンの主導で国連総会はこの核実験場が閉鎖された8月29日を「核実験に反対する国際デー」とする決議案を採択した。再び核兵器が使用される脅威が現実味を帯びている現在、果たして核なき世界を実現することは可能なのだろうか?核兵器の使用や核実験がもたらす脅威について私たちは何を知っておくべきなのだろうか?ジベク・ジョリ(シルクウェイ)テレビとINPSジャパンは、カリプベク・クユコフ氏と、今年の「核実験に反対する国際デー」を記念してカザフスタンの首都アスタナで開催された「核兵器の人道的影響と中央アジア非核兵器地帯」地域会議(カザフスタン外務省、赤十字国際委員会、同国NGOの国際安全保障政策センター、核兵器廃絶国際キャンペーンと創価学会インタナショナル(SGI)が共催)の参加者を取材した。

Kazakhstan’s First Deputy Minister of Foreign Affairs Kairat Umarov delivered a opening speech. Photo credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

地域会議では、開会の挨拶でカザフスタンのカイラト・ウマロフ第一外務副大臣は、核実験に反対する規範と核実験の防止は、核兵器のない世界の実現に向けた努力を進める上で不可欠であると強調した。

また、CISPアリムジャン・アフメートフ所長、赤十字国際委員会中央アジア地域のビルジャナ・ミロシェビッチ代表、寺崎広嗣SGI平和運動総局長が開会の辞を述べた。


午前中の、核兵器使用の「人道的影響」を検証するセッションでは、冒頭、核実験被害者の第3世代であるディミトリー・べセロフ氏が登壇し、核実験が世代を超えて人々の健康に甚大な悪影響を及ぼしてきた実態や、政府の努力にも関わらず被爆者の多くが未だに救済されていない社会状況について力強く証言した。

Credit: Jibek Joly (Silk Way) TV Channel

核兵器に断固反対する

米軍が日本の広島、長崎に原子爆弾を投下してから4年後の1949年8月29日、ソビエト連邦政府が今日のカザフスタン北東部に設置したセミパラチンスク核実験場(日本の四国或いはベルギーの大きさ)で初の核爆発実験が行われ、セミパラチンスク(現在のセメイ市)の住民をはじめすべてのカザフ人の生活が一変することとなった。カザフ人が伝統的に神聖と考えている大地で、実に、地上 25回、空中86 回を含む、456回のもの核実験が40年間に亘って繰り返され、風に乗って周辺に降り注いだ放射性降下物により、推定で150万人以上のカザフ人が影響を受けたとみられている。

Karipbek Kuyukov is an armless painter from Kazakhstan, and global antinuclear weapon testing & nonproliferation activist. Photo Credit: Jibek Joly TV Channel.

しかし核実験は今日まで被害者の生活に深刻な影響を及ぼしている。母親の胎内で被爆し両手がない状態で生まれた著名な画家カリプベク・クユコフ氏も、核実験場周辺の広大な地域で放射線に晒され、遺伝子レベルで引き起こされた多くの健康被害に苦しんできたひとりだ。クユコフ氏は核実験場の閉鎖を決めた大統領令に決定的な影響を与えたネバダ・セミパラチンスク運動に初期の段階から参加したほか、作品を通して核実験の恐ろしさを伝えている。クユコフ氏が筆を口や足の指を使って描く肖像画は、いずれも核実験を生き延びた被害者だ。「核実験で亡くなった方々に思いを馳せながら、自分に課した使命を果たせるよう、祈りながら絵を描いています。」とクユコフ氏は語った。

Dmitriy Vesselov, a third-generation victim of nuclear testing made a powerful testimony at the regional conference. Photo credit: Jibek Joly TV Channel.

地域会議で被爆証言をしたディミトリー・ヴェセロフ氏は、セミパラチンスク出身の被爆3世だ。祖母は胃がんで他界している。彼は鎖骨がないのが特徴の肩鎖関節異骨症を患っており、彼の手はわずかに筋肉と靭帯でのみつながっている状態で、本格的な作業ができない。また骨と頭蓋骨の発達にも異常があり、気管支肺系の病気や関節症にもかかりやすい。「私は頸椎の非癒合症で、直立の姿勢を長く続けていると、脳や神経末端に供給している血管が圧迫され始め、水平の姿勢をとる必要があります。自分の子供たちにこの病気で苦しんでほしくありません。このため、医学が飛躍的に発展して健康な子供が生まれる保証がない限り、私は意図的に子供を作らないことにしています。」とヴェセロフ氏は語った。

Nuclear explosion at Semipalatinsk Nuclear Test Site. Photo credit: Jibek Joly TV Channel.

40年に亘ってセミパラチンスク核実験場で爆発した核兵器の威力は、広島・長崎に投下された原爆の2500倍と推定されている。核対立により、核使用や核実験が及ぼした歴史的な悲劇を繰り返さないことと、今日の被害者への支援の重要性が、地域会議で議論された。

Mr. Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues of SGI which co-organized the regional conference with Kazakh Ministry of Foreign Affairs, CISP, ICAN and ICRC to commemorate the International Day against Nuclear Testing at Kazakh Capital on Aug 29.Photo credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.
Mr. Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues of SGI which co-organized the regional conference with Kazakh Ministry of Foreign Affairs, CISP, ICAN and ICRC to commemorate the International Day against Nuclear Testing at Kazakh Capital on Aug 29.Photo credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

この地域会議を共催した創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長は、地域会議について、「核兵器の脅威というものがかつてなく高まっている中で、改めて核兵器のない世界へどのようなプロセスを進めることができるか。5か国の代表が集まって出発点となる新たな節目だと思っています。」と語った。

また、カザフスタン外務省との協力関係について、「SGIは広島・長崎の被爆経験を持つ日本に本部を置く国際団体ですが、カザフスタンとは核問題について様々な国際会議の場での接点ができ、この数年来、NPT(核不拡散条約)やTPNW(核兵器禁止条約)の場でサイドイベントを共催したり、様々な連携が実現しました。」と説明した。

Interview with Mr Hirotsugu Terasaki, Director General of the Soka Gakkai International (SGI). Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of INPS Japan.

また、被爆者支援の経験を持つ日本として、カザフスタンが核実験の被害者に対してどのような支援が可能かという質問に対して、「広島・長崎で起こった出来事の後、日本政府や国際社会の協力がどのような形で行われたかという日本の経験は、カザフスタンにとっても参考になる基準があるかと思います。しかし、一つ一つの科学的な根拠がどうしても要請されますので、そのプロセスを丁寧に進めながら、しかし、迅速に今苦しんでいる人たちに手当を国民の支持を得ながらどのようにして合理的な判断を進めることができるか、これは大いにチャレンジすべきだと思います。カザフスタンもその方向でチャレンジを進められるものと期待しています。」と語った。そして、地域会議でも議論された、核兵器の使用・実験による被害者への援助と環境修復とそのための国際協力を定めたTPNWの第6条と第7条の規定について、現在国際社会でこれらの規定を前進せるための議論が行われており、その作業部会の中心である議長にカザフスタンが就任していることを指摘したうえで、「その意味でも、カザフスタンの自国での挑戦が、国際社会の中でもその経験が生かされながら、相乗効果をあげていく方向で進むことを、私たちは全力で支援していきたいと考えています。」と語った。

ヴェセロフ氏は、カザフスタンでは核実験の被災者に対する国の支援として、国家から特別な医療保険や給付金が支給されているが、身体障がい者として認定されるか、放射線が原因の病気で亡くなった人の家族の一人のみが対象とされているため、彼のように核実験の影響を受けた犠牲者と認定されても、身体障害者として認定されなかった人々は支援の対象にならないなど、多くの核実験の被害者が支援を必ずしも受けられていない現状を訴えた。

ヴェセロフ氏は今後について、「私の苗字『ヴェセロフ』は『楽しい』という意味を持っています。こうした問題を抱えていても、人生は続くのですから、今後も絶望することなく、前を向いて生きていきます。」と語った。また、国際社会に対して訴えたいことはという質問に対して、「私の証言が核兵器の危険性を伝える実例として、そして、小型核兵器の使用や限定的な核戦争について語る人たちへの非難を込めた警鐘として活かされることを希望します。核兵器の被害者の願いは、恐ろしい惨劇が地球上のどこであっても二度と繰り返されないことです。」とヴェセロフ氏は語った。

The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.
The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.

昨年、カシム・ジョマルト・トカエフ大統領は「核爆発はカザフの国土に深刻な被害をもたらしました。このような悲劇は二度と起こしてはならなりません。わが国は核セキュリティの原則を堅持します。」と語った。地域会議の参加者は、カザフスタンが第3回TPNW締約国会議の議長に指名されたことに注目した。今回の地域会議に参加したセミパラチンスク(セメイ)条約加盟国は、11月27日から12月1日にかけてニューヨークの国連本部で開催される第2回TPNW締約国会合に、少なくともオブザーバーとして出席すること、また早い機会にTPNWに署名・批准することを通じ、中央アジア地域を代表して核軍縮への貢献に取り組むカザフスタンを支援するよう奨励された。(英語版へ

Jibek Joly Logo.

*Jibek Joly(SilkWay) TVチャンネル(カザフスタン共和国大統領テレビ・ラジオ複合体NJSCが所有。)は、2022年9月1日にカザフ語とロシア語で放送を開始。国内ではSilkWayTVチャンネルのファミリー向けエンターテイメント版としてカザフ語に吹き替えられた世界の映画、人気シリーズ、アニメ映画のほか、シルクウェイアーカイブからのベストプロジェクトも放送している。傘下のSilkWayTVチャンネルは同国初の国営衛星テレビチャンネルで3つの人工衛星(HotbIRD 13B、Galaxy 19、Measat 3A)を通じて4大陸118カ国に放送しており、現在の総視聴者数は3億人。同チャンネルはまた、カザフスタンと中央アジアに重点を置いた最新ニュースを5か国語(カザフ語、ロシア語、英語、キルギス語、ウズベク語)で毎日放送している。今回INPS Japanが共同取材した報道ニュースは、カザフ語版ロシア語版英語版が118カ国に放送された。

8月29日のイベントに関する共同報道は、トグジャン・イェッセンベイ元カザフスタン共和国大統領テレビ・ラジオ複合体(NJSC)国際関係部長の協力により実現した。

INPS Japan/Jibek Joly(Silk Way)TV Channel

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