【ベルリン/ニューデリーIDN=ラメシュ・ジャウラ】
インドのナレンドラ・モディ首相に対して、核兵器禁止条約に加入するよう求める声が強まっている。同条約は国連総会にて2021年1月に122カ国という明確な賛成多数をもって採択され、50カ国以上の批准を経て発効した。以降、署名国の数は91に増えている。核禁条約は、核兵器の使用・保有・実験・移転を国際法によって禁じている。
モディ首相に対する呼びかけの重要性は、インドが世界の核保有9カ国の一つであるという事実による。現在、世界全体で推定1万3000発程度の核兵器が存在しており、そのほとんどが広島に77年前に投下された原子爆弾よりもはるかに強力である。
国連安全保障理事会の五大国であるロシア・米国・中国・フランス・英国がこの核兵器の大部分を保有している。だからと言って、パキスタン・インド・イスラエル・北朝鮮の核兵器もそれに劣らず危険である。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2021年の年鑑によると、165発の核兵器を保有するパキスタンに、156発のインドが続く。さらに、イスラエル90発、北朝鮮40~50発と続く。これら9カ国の核兵器保有国はいずれも核禁条約には加入していない。
元外交官として高く評価されているマニ・シャンカール・アイヤール氏は、「インドが、この恐ろしい兵器を世界からなくすという問題で、従来の先駆的な役割を再開するならば、事実上の核保有国として初めて、この非常に危険な兵器の廃絶を主張する国になるだろう。」と語った。
インディアン・エキスプレス紙への投稿で、インドの学者、ジャーナリストであり、外交政策の専門家であるC・ラジャ・モハン氏は、インドの戦略は「信頼性のある最小限抑止」という考え方を前提にしていると論じている。いったい何が「信頼」に足るものであり、何が「最小限」なのかを考える時が来た、とモハン氏は言う。
「インドは、新たな次元に入りつつある世界的な核の言説により大きな関心を払い、自らの民生用・軍事用核計画について再考すべきだ。」
ムンバイの「アジア協会インドセンター」の下部組織である「アジア協会政策研究所」の上級研究員も務めるモハン氏は、1998年の核実験後、インドの関心は世界的な経済制裁も含め、核実験遂行の決定がインドに及ぼす影響への対処に移っていった、と指摘する。
2005年7月の歴史的な米印原子力合意は、インドが署名していない核不拡散条約(NPT)体制との長年の対立にようやく終止符を打つ枠組みを生み出した。
合意の要旨は、インドの民生用核利用と軍事利用を分離することにある。米印核協定が数年後に締結されたことで、インドは、核戦力を充実させ、1974年5月の同国初の核実験以来停止してきた世界の他の国々との民生用核協力を再開する自由を得た。
インド政府内では、米国との核協定の条件を巡って、しばしば激しい政治論争があった、とモハン氏は言う。
「政府中では、インドの核開発と外交政策の自立性を犠牲にするものではないかとの意見が根強かった…。インドは米国から原子炉を一基も購入したことがないし、米国の『ジュニアパートナー』となったこともない。インドの独立した外交政策は、うまくいっているように見える。しかし皮肉なことに、インドの核の孤立が2008年に解けると、核を巡るインド国内の議論は緊急性を失っていった。」
「2022年8月の第10回NPT再検討会議が失敗に終わったことは、今日の世界の核秩序が直面している新たな課題とそのインドへの影響を明らかにしている。」と、モハン氏は付け加えた。
アイヤール氏は、インドは核禁条約を支持しなかっただけではなく、この8年間、「インドは普遍的な核軍縮を謳うことも止めてしまっていた。」と指摘する。
このことは、マハトマ・ガンジーやジャワハルラル・ネルー首相、インディラ・ガンジー首相が、核兵器の保有や使用に対して明確に反対していたのとは好対照だ。つづけて、ラジブ・ガンジー首相は1988年、22年以内、すなわち2010年までに核兵器に依存しない非暴力的な世界秩序を段階的に建設するための詳細な行動計画を国連に対して提示した。
この提案された行動計画を履行する試みがまったくなされないまま2010年の期限を迎えようとする中、2006年、インドのプラナブ・ムカルジー外相(当時)は、この行動計画の主要な目的をまとめた作業文書を国連に提出した。
「しかし、(モディ首相が率いる)インド人民党(BJP)主導の政権が2014年に成立すると、インドはこの行動計画も作業計画も捨て去ってしまったようだ。ムカルジー元外相の作業文書は、インドがその10年前に事実上の核兵器国になった後に発表されたものであり、それに先立つものではなかったことは重要だ。」とアイヤール氏は断言している。
1988年のラジブ・ガンジー首相が提唱した行動計画と作業文書に対する支持者は少なかったが、今では大量破壊兵器のない世界を追求する多数の非核保有国が登場してきている。
アイヤール氏は、「化学兵器の使用、あるいは使用の威嚇を違法化する国連条約という先例が存在する。核禁条約は化学兵器禁止条約の主要な条項の多くを取り込んでいる。もし化学兵器が国連の決定によって禁止されたのならば、核兵器に関してそうしてはいけない理由はない。」と強調する。
モディ首相がそこに向けて必要な措置を採るかどうかは未知数である。(原文へ)
INPS Japan
関連記事:
|視点|核兵器禁止条約は非核兵器世界への道を切り開く(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)