―なぜネパールのZ世代はインドネシアの抗議行動に触発されたのかー
【カトマンズNepali Times=リリ・ヤン・イン】
インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領は就任から11か月も経たないうちに厳しい選択に直面している。国民の怒りと不満に規定された大統領として記憶されるのか、それとも自国が直面する課題を認識し、国益のために行動した指導者として記憶されるのか。
過去1か月にわたりインドネシアを席巻している反政府デモは一時的な突発的反応ではなく、権力乱用や憲法規範の形骸化、基本的人権の侵害に対する長年の鬱積した不満の頂点である。

抗議者たちが求めているのは謝罪や同情ではなく、自らの尊厳と人権が尊重され保障される「まともな生活」への権利である。この「清廉で有能な政府」への切望は、いまや東ティモール、ネパール、フィリピンなど各地の抗議運動にも共鳴している。
プラボウォ政権は2045年までにインドネシアを世界第4位の経済大国に押し上げることを目標に掲げている。そのためには年8%の持続的な成長が必要とされる。しかし、人口の68%が「中所得国」の貧困ライン以下で暮らしている現状では、そうした野心は多くの市民にとって無意味である。
インドネシアは過去にも急速な経済成長を経験した。特にスハルト(1967~98年)の長期独裁政権下においてである。プラボウォの元義父でもあるスハルトの時代を知る国民は、持続的かつ包摂的な発展は「強権政治」ではなく、政治・社会改革によってこそ可能であることを理解している。
前政権を非難したり、与党や有力政党の権力を集中させて短期的安定を得ても、民主主義の強靭性を弱めるだけであり、現政権が下す決定の責任を免れることはできない。いま必要とされるのは、貧困削減、雇用創出、政府への信頼回復に直結する具体的措置である。
四つの優先課題
社会の深まる分断を癒すために、政策立案者は以下の四つの課題に緊急に取り組むべきだ。
第一に、権力分立を徹底し利益相反を排除すること。
民主主義は行政・立法・司法の三権が独立してこそ機能する。しかしインドネシアでは権力が過度に集中しており、多くの政党が家族経営的に運営され、指導者が政府や議会、企業で兼職的に影響力を行使している。この構造は不処罰文化を助長し、国民の信頼を失わせる。
大統領や閣僚、国会指導者を含む公職者が政党役職や国営企業(SOE)、民間企業のポストを同時に兼務することを禁じる明確な倫理規定が必要である。こうした兼職を廃止すれば腐敗は減少し、政策は市民のために機能し、民主主義制度の信頼性も高まるだろう。
第二に、財政の透明性を高めること。
20年間、インドネシアの税収はGDP比10~12%で停滞している。2026年度予算では12%を見込むが、2025年初頭の実績は目標を下回っており、資源収入の減少が追い打ちをかけている。
同時に歳出圧力は高まり続けている。代表的な例が「栄養給食プログラム」である。善意に基づく施策だが予算は171兆ルピア(約30億ドル)と莫大で、2026年には3倍に膨らむ見通しだ。これを全国一律で実施するのではなく、5地域で試験的に導入し予算を5兆ルピア以下に抑える方が効果的である。残りの資金は教師や医療従事者、廃棄物処理労働者の支援、あるいは低・中所得世帯に直接利益をもたらす事業に振り向けるべきだ。
さらに、300兆ルピア規模の「ダナンタラ国富ファンド」創設も不要である。公的債務がGDP比41%に達する中、新規借入は官僚機構拡大ではなく生産的投資に使うべきだ。既存のSOE改革の方が安価で迅速かつ効果的である。2018年に118あったSOEは2024年には64に減少したものの、依然として銀行から観光業まで広範な分野で市場を独占し、中小企業の成長を阻んでいる。
第三に、軍の介入を抑制し、文民統制を強化すること。
軍や警察の政治介入は民主制度を損なう。軍が依然として強大な影響力を持つインドネシアでは、文民による監督や人権規範の厳格な遵守が不可欠である。そうでなければ、ミャンマーやラテンアメリカ、アフリカの一部で見られるような不安定化に陥る危険がある。
第四に、長年棚ざらしにされてきた「資産没収法案(RUU Perampasan Aset)」を成立させること。
この法案は犯罪確定を待たずに不釣り合いな資産を国家が回収できる仕組みを導入するものだ。恣意的な没収ではなく、国民の資産を取り戻すことが目的である。2008年に初めて起草され、2012年に国会に提出されたものの、20年近く放置されてきた。
「不明確な資産」を対象とする民事手続型の資産回収制度を導入すれば、国連「腐敗防止条約」の義務を果たすことになり、政府が権力乱用に抗う市民の側に立つ意思を示すことになる。もしプラボウォが回収した資産を教育・医療・社会保障に充てれば、真に変革的な遺産を残すことができるだろう。
結論
インドネシアの指導部は、弾圧を強める道を選ぶこともできるし、民主主義を強化する道を選ぶこともできる。プラボウォの遺産は選挙での得票率ではなく、人権を尊重し、医療や教育を改善し、良質な雇用を創出したかどうかで評価される。
彼は「スハルト以来最大の抗議行動を招いた大統領」として記憶されるのか、それとも「政治的・社会的・経済的正義を実現した指導者」として讃えられるのか。選択は彼自身に委ねられている。(原文へ)
リリ・ヤン・イン:国際経済学会(IEA)事務総長、東アジア・アセアン経済研究所(ERIA)東南アジア地域主任顧問。
INPS Japan
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