【スバ(フィジー)IDN=セラ・セフェティ】
国際環境運動団体「グリーンピース」の「虹の戦士」号はいま、太平洋を航海している。「世界法廷」とも呼ばれる国際司法裁判所(ICJ)が来年ハーグで開く歴史的な公聴会に向けて証拠を集めるため各地に寄港することが目的だ。
「虹の戦士」のスタッフと乗組員に、太平洋の輝くばかりに青い海を航海してきた「パシフィカ」の活動家が加わった。気候変動問題をICJに持ち込むことが目的だ。今行われている6週間の航海は7月31日にオーストラリアのケアンズを出発し、バヌアツ・ツバル・フィジーに寄港する予定だ。
現在、船はスバに停泊している。グリーンピース豪州支部の太平洋評議会メンバーであるカトリーナ・ブロック氏は、「この航海の間に私たちがやりたいことは、気候問題に関わる世界各地のリーダーらにその経験を語り共有してもらうことだ。なぜなら、気候変動に関する経験は世界各地で違っているかもしれないからだ。」と語った。
グリーンピースのこの象徴的なキャンペーン船のスタッフやボランティアたちは、各寄港地で地元の人々、とりわけ若者を歓迎し、彼らの活動内容や、気候変動によって多くの問題に直面しているこの地域の手つかずの環境を守るために、気候正義キャンペーンがなぜ重要なのかについて、キャンペーンスタッフと話をしている。
ブロック氏は、「皆が同じ闘いをしている。だから、(豪州トレス海峡の島の先住民族である)アンクル・パバイとアンクル・ポールとともにバヌアツまでやってきて、同じように政府に責任を取らせようとしているフィリピンの活動家らと合流したのだ」と話した。
自らの土地に先祖が6万5000年も住み続けてきたというアンクル・ポールは「もし我々が気候難民になったら、家や地域、文化、経験、アイデンティティのすべてを失ってしまう。」と語った。「私たちは自分たちの物語を守り、語り継ぐことはできますが、国がなくなってしまうので、国と国とのつながりはなくなってしまいます。手遅れになる前に、自分のコミュニティとすべてのオーストラリア人を守りたいからです。」と語った。
トレス海峡の先住民族グダ・マルイリガルの2人のリーダーは、気候変動から自分たちの島を守らなかったとしてオーストラリア政府を提訴したオーストラリア気候訴訟の原告である。彼らは、自分たちの政府に責任を負わせるための活動家として、他の太平洋島嶼国の人々を訓練している。
国連総会は3月29日、気候変動に関連した国連加盟国の義務についてICJに勧告的意見を求める決議を全会一致で採択した。この意見は、気候変動とその影響、とりわけ脆弱な国々(やその市民)の権利と利益に関連して諸国にいかなる法的義務があるかを明確にすることを目的としたものだ。国連総会が全会一致でICJに勧告的意見を求めるのは史上初のことだ。
決議の背後には若者たちの活動があった。南太平洋大学バヌアツ校の法学生が運動を始め、国連への提案をバヌアツ政府に提出させることに成功した。太平洋諸国が主導したこの決議は「気候変動のターニングポイント」を画し、運動を主導した太平洋の若者にとっての勝利だとして歓迎された。
ICJは国連の基本的な法的機関で、諸国間の法的紛争を解決することを任務とし、一般的な事案と勧告的意見の要請の二種類の審理を行う。
「このICJ提訴の一環として、気候変動が太平洋に与える影響についての証言を集めている。地域の人々や活動のリーダーたちに働きかけて、その経験を共有し、地域の人々を訓練することに取り組んでいます。」とブロック氏は語った。
「虹の戦士」号はその大胆な活動と恐れを知らぬ運動によって知られる。1978年以来世界の海を航海し、さまざまな環境破壊者や汚染者と闘ってきた。1985年、初代の「虹の戦士」は、おそらくはフランスの治安当局によるものと見られる爆破テロによって、ニュージーランド・オークランドの港に沈められた。船とその乗組員が、フランスが太平洋で行っていた核実験に反対する大胆不敵な活動を繰り広げていたからだ。
現在の「虹の戦士」号は、インド・チリ・南アフリカ・オーストラリア・フィジーなど各国からの乗組員を持つ最新の船舶である。今週、彼らは、停泊地の若者や子どもたちに対して(環境破壊の)経験を伝えている。太平洋各地の人々から聞いた多くの証言もまた、彼らの闘いを力づけている。
ブロック氏によれば、島から島へと移動しながら、共有された話はトラウマと喪失感に満ちていたという。「私たちはバヌアツにいたのですが、サイクロンの後、コミュニティとして頼りにしていた漢方薬や植物をたくさん失ったことがどのようなことだったのか、そのことが彼女たちにとってどのような意味を持つのか、なぜ西洋の薬局では代用できないのか、といった経験を何人かの女性が話してくれました。」
「虹の戦士」の活動家たちは、失われつつある土地や墓地を見せてもらい、インパクトを与えるだろうと思われる多くの話を集めた。フィジーに停泊している間、学生や地域の人々は、船上でガイドツアーを行ない、公海をどのように航行するかなど、彼らの活動について説明を受けた。
そうしたグループの一つが、ナブアのバシストムニ小学校の児童や先生たちだった。彼らは「虹の戦士」の活動について知り、興奮していた。気候変動や地球温暖化について学ぶことはカリキュラムの一部になっているが、「『気候問題の戦士』たちが実際にどういうものか子どもたちに見てもらうことは大事だし、子どもたちが地域社会に戻ってから行動に移ってくれればと思います。」と先生たちは語った。
フィジーの活動家であり、地元の気候正義作業部会の中心人物あるアニ・ツイサウサウ氏にとって、こうした活動に従事するのは個人的な動機からだった。「私は常日ごろから父親の島に行っているのですが、過去と今を比べてみて、その差は歴然です。」と語る。「かつては泳げた場所も今は汚染されています。そしてもちろん海水面は上昇しています。美しい砂浜や、私が若いときに経験していたものを知らないまま子どもたちに大きくなってほしくないのです。」とツイサウサウ氏は語った。
「そのためには、発想の転換を図らねばなりません。『虹の戦士』号に乗ることは最高の機会です。太平洋で何が起きているのか、そしてそれが身近で起きていることとどう関係しているのか。そういうことに耳を傾けることができるのです。」とツイサウサウ氏は語った。
「虹の戦士」号が尋ねて回っている話には、強烈なストーリーもあり、気候変動の影響が緩和されたという話もあるが、文化や土地を喪失したという話もある。ICJで勝利を得るにあたって、そうした証言が役に立つものと彼らは考えている。
バロック氏は、5年前に「虹の戦士」号で活動し始めた時、事実を積み重ねることが発想の転換を図るうえで重要だと考えていた。「しかし今は、事実も重要ではあるが、人々の心を動かし行動に導くようなストーリーが不可欠であると考えるようになりました。」と語った。
「虹の戦士」号は8月15日、スバを出港し、ツバルとバヌアツを経由してオーストラリアに戻る予定だ。(原文へ)
INPS Japan
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