SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)EUベラルーシ国境地帯の移民を取巻く状況が悪化

EUベラルーシ国境地帯の移民を取巻く状況が悪化

【ブラチスラバ IPS=エド・ホルト】

ベラルーシと欧州連合(EU)の国境における難民危機が4年目を迎えようとしている中、ベラルーシ国内における活動家への弾圧が、国外に脱出しようとして「死の地帯」から抜け出せない移民の状況を悪化させている。

難民の支援活動を行っている団体によれば、ベラルーシ当局のNGOに対する弾圧により、多くの団体が移民のための支援活動を停止したため、移民には人道的支援が限られているか、まったくない状態になっているという。

一方、ベラルーシでは国際機関が難民に何らかのサービスを提供しているが、NGOはそれが十分でないと懸念している。

「この危機が始まって以来、(国境警備隊による)難民に対する暴力は激しくなっています。以前は難民を助けようとする人がもっといましたが、刑事罰を受ける可能性があるため、今ではほぼ誰も助けていません。」と、ベラルーシから撤退を余儀なくされ、現在はポーランドで活動しているベラルーシのNGO『ヒューマン・コンスタンタ』の人権活動家、エニラ・ブロニツカヤ氏はIPSの取材に対して語った。

2021年夏にベラルーシとEUの国境で難民危機が始まって以来、人権擁護諸団体は国境の両側の警備員による難民に対する残忍な「押し戻し」について抗議の声を上げてきた。

EUによる経済制裁に対する対抗策として、ベラルーシ政府が危機を作り出していると非難する声もある。彼らによれば、ベラルーシ当局は積極的に移民を組織し、奨励し、さらには強制的に国境を越えさせようとしているが、同時に国境警備隊による同じ移民に対する暴力的で卑劣な扱いを是認している。

しかし、ポーランド、ラトビア、リトアニアのEU国境警備隊が、同じ移民たちに対して同様に暴力的で非人道的な方法を用いていること、また亡命を申請する権利が組織的に侵害されていることを問題視する声もある。

「これらの人々は、ベラルーシとポーランド双方の国境警備隊員から、数多くの暴力を受けています。 私たちは、殴打、蹴り、ライフル銃床の後頭部で殴られた後のあざ、目の周りのあざ、折れた歯、唐辛子ガスを吹きかけられた後の皮膚や目の炎症、犬に噛まれた後の歯形などを目の当たりにしてきました。」と、ベラルーシからポーランドに到着した移民を支援するポーランドのNGO、We Are Monitoring (WAM)のバルテク・ルミエンチク氏はIPSの取材に対して語った。

「私たちはまた、ポーランドで国際的な保護を求める権利があることも伝えていますが、実際には、こうした訴えは国境警備隊に無視されることが多いのです。私たちの目の前で亡命を求めているにもかかわらず、ベラルーシに押し戻される状況を何度も目撃しました。」と彼は付け加えた。

このような行為によって、人々は2つの国境の間に悲惨な状況で取り残されている。援助活動家の中には、そこを「死の地帯」と表現する者もいる。

「(EUに)何とかたどり着いた難民は、EU国境のフェンスとベラルーシ側の剃刀ワイヤー、そしてベラルーシに引き返すことを許さない国境警備隊の間の『死の地帯』について語っています。」と、ポーランドの国境なき医師団(MSF)の医療コーディネーター、ジョアンナ・ラドミルスカ氏はIPSの取材に対して語った。

「この死の地帯はベラルーシとEUの国境に沿って広がっており、その広さは数万平方キロメートルにも及びます。私の心配は、NGOも誰もこの地帯にアクセスできないことです。」とラドミルスカさんは付け加えた。

ヒューマン・コンスタンタの調査によると、危機が始まって以来、少なくとも94人が国境地帯で死亡したことが確認されているが、さらに多くの人々が命を落としたと考えられている。

国境を越えることができた人々の中には負傷し、中には重傷を負う者もいる。疲労困憊、低体温症、沼地や川の水を飲まざるを得なかったことによる胃腸障害などが一般的で、ほぼ3分の1が塹壕足になり、剃刀や有刺鉄線のフェンスで重傷を負う者も少なくない。また、医療ケアを提供する援助団体によれば、凍傷のために手足の一部を切断しなければならない者もいるという。

「国境のEU側では国際機関や地元団体が移民を支援する活動を続けているが、ベラルーシ側ではもっと限られています。」と、移民と直接関わっている人々は語った。

2020年の再選後の大規模な抗議行動以来、独裁的なベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、反対意見に対する徹底的な弾圧を実施してきた。その結果、とりわけ市民社会で働く人々が広く訴追された。

これまで移民を支援してきたNGOを含め、多くのNGOが閉鎖を余儀なくされ、移民のためにできることをする主要な国際組織はほんの一握りとなっている。

しかし、彼らの活動がどれほど効果的であるかについては、疑問の声が上がっている。

「赤十字と協力しているICRCのような国際機関はありますが、ベラルーシ赤十字は特定の地域で食料小包を配っているだけで、定期的で安定した供給はしていません」とブロニツカヤさんは語った。

「基本的に、(移民に)必要な支援を与える人がいないのです。以前よりもさらに多くの死者が出る可能性があります。」とブロニツカヤ氏は付け加えた。

しかし、助けを得るのに苦労しているのは、国境の間で立ち往生している人々だけではない。

EUへの入国に失敗し、ベラルーシに戻ることになった者は、非正規移民として分類され、医療や手当を受けることができず、合法的に働くこともできない。

「多くの人はすぐに貧困に陥り、入国管理当局に発見されることを常に恐れて生活し、搾取されやすくなります。ミンスクや他のベラルーシの都市で、生きていくために売春を余儀なくされている移民の話を聞いたことがあります。」と、ある匿名の援助活動家はIPSの取材に対して語った。

このような窮状に直面すると、多くの移民は危険を顧みず再び越境を試みるしかないと決断する。

援助団体や世界的な人権擁護団体は、EU諸国やベラルーシ政府は、これらの移民の権利を保護する義務を守らなければならないと述べている。

「EUが物理的な壁や法的な障壁を設けたりして、国境を越えることを難しくしたり、不可能にしたりするのは、今日の状況に対する最善のアプローチではありません。また、ベラルーシが人々を立ち往生させるような状況を作り出すのもよくありません。」と、「ベラルーシにある国境なき医師団(MSF)のメディカル・オペレーション・マネージャー、ノーマル・シタリ氏はIPSの取材に対して語った。

「独立した人道支援組織や、国際機関、市民団体が、この悲惨な状況に対応するために、国境地帯に自由に立ち入ることができなければなりません。各国政府は、国際組織が医療を提供したり、その費用を負担したりする必要がないよう、これらの人々の医療へのアクセスを確保することに目を向ける必要があります。また、これらの人々の法的保護についても検討する必要があります。さらに、これらの人々が通過中に個人としての権利を主張するための空間と保護をどのように確保できるかを検討する必要があります。」と付け加えた。

危機の間、何千人もの移民を支援したMSFは、保護や法的支援のニーズが、移民の医療ニーズを上回ったと判断し、移民へのサービス提供を停止した。MSFは、医療ニーズは特定の専門知識を持つ専門組織のみが提供できると述べている。

しかし、ベラルーシとEU諸国の政治関係がひどく緊張しているため、状況がすぐに改善されるとは思えないという声もある。

「政府は何かしなければならないが、政治的な状況が事態を複雑にしています。ベラルーシでは弾圧が続いているため、EU各国政府はルカシェンコ大統領と交渉しないだろう。何か大きな変化がない限り、事態は好転しないだろう。」とブロニツカヤ氏は語った。

しかし、変化を期待する声もある。

昨年12月に誕生したポーランドの新政権は、新政権下で移民のベラルーシへの押し戻しの件数が減少したと主張し、人権保護を最優先とする新たな国境・移民政策を策定中であると述べた。また、国境での人道危機を食い止めるため、国境警備隊が特別捜索救助隊を設置する計画も進められているという。

「欧州の国として、(ポーランドは)欧州の人権法を尊重し、人々に安全なアクセスを提供すべきです。そのためにベラルーシ政権と交渉する必要はありません。」とラドミルスカ氏はIPSの取材に対して語った。

「ポーランドの新政権によって、何かが変わることを期待しています。私たちは彼らと話し合っています。変化を起こすことは可能ですし、新政権にはそれを実現するチャンスがあります。」(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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