【国連IDN=タリフ・ディーン】
14ヶ月前のウクライナ侵攻以来、ロシアによる核の脅威がエスカレートする中、ウラジーミル・プーチン大統領は3月26日、政治・経済・軍事面でロシアと密接な関係にあるベラルーシに戦術核を配備する予定であるとの新たな警告を発した。
プーチン大統領は、この配備計画について、「米国が何十年も前から行っていることであり、同盟国に核兵器を配備する米国の慣行と何ら変わらない。」と主張した。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、この提案を支持する一方で、「核の炎をともなう第3次世界大戦が迫っている」と警告した。
核条約の専門家であり、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の初代会長であるレベッカ・ジョンソン博士は、「プーチンとルカシェンコによる核を用いた威嚇行動は危険で愚かだ。」とIDNの取材に対して語った。
ジョンソン博士は、「これは北大西洋条約機構(NATO)に挑戦するものだが、NATOがベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコと結んでいる挑発的な核共有協定を模倣しているに過ぎません。ベラルーシと核兵器を共有するという脅しが実際に実行されれば、意図的、事故、誤認の違いはあれども、この戦争で核兵器が使用される危険性が高まるだろう。」と指摘した上で、「ウクライナに対して行われている残酷な戦争を考えると、もしロシアが核兵器の一部をベラルーシに配備した場合、プーチンとルカシェンコは次に起こることに対してどう責任を取るのだろうか。」と疑問を呈した。
「プーチン大統領はこの戦争を開始した時点で、ウクライナの抵抗を過小評価したことが既に誤算でした。核抑止は既に失敗していますし、プーチン氏は既に戦争犯罪で起訴されています。彼が今やっていることは、ジェノサイド(大量殺戮)を引き起こす可能性があります。」と、ジョンソン博士は断言した。
米国科学者連盟の核情報プロジェクトのディレクターでストックホルム国際平和研究所(SIPRI)上級研究員のハンス・M・クリステンセン氏はIDNの取材に対して、「米国は1950年代から少数の欧州諸国に核兵器を配備してきたが、プーチン大統領のベラルーシへの核配備発言は新しい取り決めとなります。」と語った。
クリステンセン氏はまた、「ベラルーシは昨年までは憲法の規定により核兵器の保持を禁止していましたが、憲法を改正して核保有を可能にしました。それでも、ロシアによるベラルーシへの核配備は、『すべての核保有国は核兵器の海外配備を控えるべき…』という2月の中ロ共同声明に反することになります。」と指摘した。
プーチン大統領によるベラルーシへの核配備の提案について問われた国連のステファン・デュジャリック報道官は、3月27日、記者団に対し、「さて、私たちはこれらの報道を見ましたが、明らかに、最近見られる核兵器を巡る緊張状態全般について懸念しています。そして、このことは、すべての加盟国が核不拡散条約(NPT)の下での責任を順守する重要性を想起させるものです。」と語った。
報道官また、「現在の核リスクは驚くほど高まっており、破滅的な結果をもたらす誤算やエスカレーションにつながりかねないあらゆる行動は避けなければならなりません。また、核兵器国も非核兵器国も、NPTの約束と義務を厳格に順守しなければなりません。」と指摘した。
さらにジョンソン博士は、「軍事専門家は『戦術核兵器』などという言葉を、さも悪いものでないかのように喧伝したがります。しかし、その実態は短距離で持ち運びができる核兵器という意味です。それは、より脆弱な核爆弾を意味するのであって、危険度の低い核爆弾を意味するのではありません。NATOの基地にある戦術核と称される爆弾は、1945年に広島と長崎を破壊した原子爆弾よりもはるかに大きな爆発力を持つように設計されています。」と指摘した。
「核兵器の戦術的使用というものは存在しません。核兵器を爆発させるというタブーが崩れれば、核戦争は解き放たれることになります。それは、考えるに堪えない悪夢だが、人類は今、その瀬戸際に立たされています。核兵器の使用は戦略的なものであり、住民を恐ろしい危険に晒すものです。赤十字は、都市や「戦場」(ウクライナ戦争では、プーチンの侵略に抵抗する町や村の集まりを意味するようだ)でのたった1回の核爆発による殺戮と放射能に対応できる人道支援活動は世界には存在しないことを何度も強調しています。」
「1990年代、ウクライナが自国に残されたソ連製(核)兵器を処分してNPTに加盟した判断は正しかった。また、ロシアがNATO対して核共有政策を止め、NPTと軍縮関連の諸条約を誠実に遵守するよう求めたのも正しい動きでした。ところが今のプーチン政権はこうしたロシアの政策を転換し、ロシアとウクライナ、そして欧州全体に暮らす人々を危険に晒しているのです。」
「核戦争と核兵器の使用を防ぐ唯一の方法は、すべての核兵器を廃絶することです。今日、手遅れになる前に、ロシア、NATO諸国、その他の核保有国は、国連の核兵器禁止条約(TPNW)に署名し、核戦争を防ぐための活動を始める必要があります。」とジョンソン博士は語った。
プーチン大統領がベラルーシに戦術核を配備すると発表したことについて、英国のジェームズ・カリウキ国連次席大使は3月31日、国連安全保障理事会で、ロシアの発表は「威嚇と強制を試みるまたもや無駄な試みだ。」と語った。
「ロシアの核のレトリックは無責任である。英国はベラルーシに対し、ロシアの無謀な行動を許さないよう要請します。英国は、ウクライナを支援し続けることを明確にしています。国連憲章に違反したのはロシアなのです。」
2022年1月、国連安保理の常任理事国で核兵器国である5大国の首脳は「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならない。…核兵器の使用は広範に影響を及ぼすため、核兵器が存在し続ける限り、防衛、攻撃の抑止、戦争の予防を目的とするべきであることを確認する。」との共同声明を発表した。
「しかし、この約束にもかかわらず、ロシアの違法なウクライナ侵攻が始まって以来、プーチン大統領は無責任な核のレトリックを使用しています。」「一つ明確にしておきたい。この紛争において、核使用を示唆している国は他にないし、ロシアの主権を脅かしている国もありません。他の主権国家を侵略して国連憲章に違反いるのはロシアに他ならないのです。」とカリウキ次席大使は指摘した。
「プーチン大統領による3月25日の(戦術核配備の)発表は、威嚇と強要を試みる最新の動きである。これはうまくいっておらず、今後もうまくいかないだろう。私たちは、ウクライナの自衛努力を引き続き支援します。」
「ロシアによる今回の発表に至った動機は、国連憲章51条に基づき自国を防衛するため、英国がチャレンジャー戦車とともに劣化ウラン弾をウクライナに供給しているというプーチン大統領の主張にあると聞いています。」
「しかしロシアは、劣化ウラン弾が核弾頭ではなく通常弾薬であることをよく知っているはずです。これは、ロシアが意図的に誤解を与えようとしているもう一つの事例に他なりません。」とカリウキ次席大使は語った。
「私たちは、国際社会が『核兵器の使用やその脅威に共同で反対する』という習主席の呼びかけを歓迎し、今日、中国国連大使の話にしっかりと耳を傾けています。また、核兵器は海外に配備されるべきではないという中国とロシアの共同声明にも注目しています。」
「こうした意思表示にもかかわらず、ロシアは集団安全保障を支える軍備管理体制を着実に棄損してきました。また、ロシアの中距離核戦力(INF)条約への執拗な違反は、2019年に同条約を崩壊させる結果を招きました。また今年になってロシアは、新STARTへの参加も停止しました。」
「ルカシェンコ大統領は、ロシアがベラルーシに核兵器を配備することを望んでいることを公言しています。私たちは、ロシアの無謀でエスカレートした行動を可能にすることをやめるよう、ルカシェンコ大統領に強く求めます。私たちは、ウクライナの人々への支持を堅持し、ロシアに非エスカレーションを要求します。」と、カリウキ次席大使は語った。(原文へ)
INPS Japan
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