INPS Japan/ IPS UN Bureau Report密航対策─ヨーロッパは方針を転換すべきだ(ミシェル・ルヴォワ国際無登録移民協力プラットフォームディレクター)

密航対策─ヨーロッパは方針を転換すべきだ(ミシェル・ルヴォワ国際無登録移民協力プラットフォームディレクター)

【ブリュッセルIPS=ミシェル・ルヴォワ

ヨーロッパが人身密航に取り組むために採るべき唯一の合理的かつ人道的な方法は、人々が安全かつ尊厳を保ってヨーロッパに到達できる正規ルートを開くことである。

ヨーロッパの密航対策は、有害で不条理だ。

European Union Flag
European Union Flag

正規の移動経路が不足しているという根本的な問題を放置し、危険な旅を余儀なくされる移民たちを取り締まる代わりに、ヨーロッパ諸国は移民本人、支援者、人権擁護者、ジャーナリスト、弁護士、一般市民をターゲットにし、さらには国境監視産業に数十億ユーロを投じている。

多くの人々が密航に頼るのは、それ以外にヨーロッパへ到達する安全な手段が存在しないからである。だが、「密航者」とされる者への取り締まり(実際には移民自身であることも多い)を強化しても、より良い選択肢が生まれるわけではない。むしろ、人々をさらに危険なルートへと追いやり、支援者を脅かすことになっている。

そして、欧州連合(EU)が新たに提案している「ファシリテーション指令(Facilitation Directive)」は、状況をさらに悪化させるおそれがある。

「連帯」の犯罪化

欧州委員会が2023年末に提案したこの指令は、2002年に導入された「ファシリテーターズ・パッケージ」の更新を意図しているとされている。しかし実際には、古い問題の再生産にすぎない。

現行案は、2023年12月にEU理事会で概ね承認されたが、「密航」の定義を拡大し、刑罰の上限を引き上げている。

欧州議会では今月からこの指令に関する審議が始まり、最終的な採決は夏に予定されており、年末にかけて委員会・理事会との最終交渉に入る見通しだ。

問題なのは、この草案が不法滞在者との連帯的行為に対する刑事罰の回避を、明確に保障していない点にある。「人道条項」が法的拘束力を持つ形で盛り込まれておらず、各国には「連帯行為を犯罪化しないよう望ましい」といった曖昧な提案しかされていない。

これにより、法的な不確実性が高まっており、欧州委員会自身が依頼した調査でもその問題点が認識されている。いくつかの加盟国では極右や反移民勢力が政権を握り、他の国でも台頭している中で、このような曖昧さは、家族、NGO、人権活動家、一般市民による人道的支援が容易に犯罪扱いされる危険性を残す。

これは想像上の話ではない。PICUMでは近年、移民支援に対する「連帯の犯罪化」が着実に増加していることを記録している。

  • 2021年1月〜2022年3月の間に少なくとも89人
  • 2022年には少なくとも102人
  • 2023年には少なくとも117人
    が刑事訴追された。

密航ルートがより危険で不規則になる中で、移民自身が仲間を助けたことを理由に訴追される例も増えている。

これらの数字は氷山の一角に過ぎない。密航に関連して起訴・有罪判決を受けた人の統計や公式データはほとんど存在せず、多くの事例は報道されず、特に移民当事者は報復を恐れて声を上げられない。

命を救った人々が犯罪者扱いされる現実

これらの事例の背後には、海上で命を救い、車に乗せ、シェルターや食料・水・衣類を提供した市民がいる。たとえばラトビアでは、ベラルーシ国境で立ち往生していた移民に食料と水を与えただけで、2人の市民が「不法入国の幇助」で起訴された。

ポーランドでは、ベラルーシ国境に取り残された人々に人道支援を行った5人が、最長5年の禁錮刑に直面している。

イタリアでは数週間前、クルド系イラン人の活動家で映画監督のマイスン・マジディ氏が、2023年に移民上陸に関与したとして人身売買の容疑で逮捕された。彼女は2年4か月の懲役を求刑され、裁判を受けるまでに300日以上も拘留された。

告発の根拠は、船内で食料と水を配ったことを「船長の補佐」と解釈した2人の乗客による証言だったが、のちに彼らは証言を撤回した。

ギリシャでは、エジプト人の漁師とその15歳の息子が密航罪で起訴された。父親が船の操縦を引き受けたのは旅費を払えなかったためだったが、父は予審拘留の末、280年の禁錮刑を宣告された。息子は父と引き離されたうえ、少年裁判所で同様の罪に問われている。

誰が利益を得ているのか?
Credit: Office of the UN High Commissioner for Refugees (UNOHCR)
Credit: Office of the UN High Commissioner for Refugees (UNOHCR)

こうした密航対策は、移民の安全を高めるどころか、むしろ状況を悪化させている。移民研究者のハイン・デ・ハース氏は「密航は移民の原因ではなく、国境管理の結果である」と述べている。

つまり、誰がこれらの政策で得をしているのか?短期的な選挙目当ての政治家だけではない。国境管理、査証、税関対策に充てられるEU予算は、2021~2027年の間に、前期比で135%増加し、28億ユーロから65億ユーロに拡大した。

この予算拡大の大部分は民間企業、とりわけ防衛産業大手(エアバス、タレス、レオナルド、インドラなど)に流れており、彼らは国境監視に経済的利害を持っている。

porCausa財団の調査によれば、スペイン政府は2014~2019年の間に南部国境管理に6億6000万ユーロを支出しており、その大半が10社の大企業に向けられ、国境監視(5億5100万ユーロ)、拘束・強制送還(9780万ユーロ)に使われた。

今、何が必要か?

EU理事会は、ファシリテーション指令の交渉段階において、移民および人道支援の犯罪化につながる余地を残した立場をすでに採用している。

欧州議会には、移民と連帯行為を刑事処罰から守る法的拘束力のある条項を導入するチャンスがまだ残されている。これが導入されなければ、どのような事態が待っているのか、欧州議員たちは十分に理解すべきだ。

指令の枠を超えて、ヨーロッパは理解すべきだ──人身密航に対処するための唯一合理的で人道的な方法は、人々が安全かつ尊厳をもってヨーロッパに到達できる正規ルートを開くことなのである。(原文へ

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