【国連IDN=タリフ・ディーン】
ウクライナでロシア軍が後退戦を強いられていることで、ウラジーミル・プーチン大統領が「戦術核兵器」を使用するのではないかとの観測が米国内で広がっている。この核兵器は1945年8月に広島・長崎に投下された米国の核兵器よりも壊滅的な威力がないかもしれない。
ウクライナ東部での戦闘における度重なる敗北を受けて、プーチン大統領は、もしわが国の領土保全が脅かされた場合、「利用できるすべての兵器システムを利用する」と警告している。
プーチン大統領は、核兵器を使用すれば世界的な非難を招き、「国際的に孤立した国家」として自国の立場をさらに危うくすることを理解している。
また、核兵器の使用により、ロシア領内に放射能が吹き流れてくるのではないかとの観測もある。
最もありえるシナリオは「戦術核兵器」の使用だが、このタイプの兵器は国際条約による規制を受けていない。
『ニューヨーク・タイムズ』紙は10月4日、匿名を条件に取材に答えた米政府筋の話として、「ウクライナ領土の一部を住めなくすると脅してウクライナの反攻を止めようとする最後の試みではないか。」と報じた。
「ストックホルム国際平和研究所」大量破壊兵器プログラム核情報プロジェクトの責任者であり、同研究所の上級研究員でもあるハンス・M・クリステンセン氏はIDNの取材に対して、「戦術核兵器は大陸間航続距離を持たず新戦略兵器削減(新START)条約の対象とならないあらゆる核兵器を指します。この用語はソ連・米国・フランス・英国が局地的な戦闘や限定的な地域的シナリオにおいて使用することを意図してこの種の核兵器を開発した冷戦期にまで遡ります。」と説明した。
「戦術核兵器は時として、核戦争のエスカレーションに歯止めをかけ、それが全面的な戦略核による殲滅にエスカレートするのを防ぐ目的を持たされていたこともあった。」
クリステンセン氏によると、現在、魚雷から地雷、爆弾、巡航ミサイル、弾道ミサイル、対空ミサイル、ミサイル防衛迎撃ミサイルに至るまで、実に多くの種類の戦術核が存在するという。
米科学者連盟(FAS)核情報プロジェクトの責任者でもあるクリステンセン氏は、ロシアは戦術核の最大の保有国であるが(最大1912発)、これに対して米国は約200発、パキスタンはおそらく数十発を保有していると語った。
すべての核兵器は致命的だが、戦術核は概して戦略核よりも爆発力を小さく調整するオプションを備えているという。
「しかし、多くの戦術核が広島型原爆の10~20倍の爆発力を持っています。爆発力は通常、破壊することを意図した標的の性質によって決められます。」とクリステンセン氏は説明した。(※核戦力に関する最新情報はこちらを参照)
米空軍に20年以上従軍した経験を持つビル・アストア中佐は10月5日の声明で、「戦術」核か「戦略」核かというのは単なる言葉遊びに過ぎないと語った。
「あらゆる核兵器は全く破滅的なものであり、全面核戦争にエスカレートしていく危険性を秘めたものだ。」とアストア中佐は語った。
もしロシアが「戦術」核兵器を使用することになれば、米国や北大西洋条約機構(NATO)も同じ方法で対抗することになるだろうと中佐は警告する。
歴史学の教授でもあり、軍事史、科学技術史、宗教史などの論文を多数発表しているアストア中佐は、「たとえ大規模な核戦争が回避できたとしても、核戦争の結果として起きる政治的な混乱によって、経済は不安定化して深刻な世界的不景気を引き起こし、場合によっては世界恐慌となるかもしれない。それがまたファシズムや権威主義の種をまくことになるだろう。」と語った。
ロシアが戦術核兵器、特に核魚雷の使用を計画しているとの報道について、事務総長のコメントはあるかと問われ、国連のステファン・ドゥジャリク報道官は10月3日、記者団に「そうした主張について詳細を知る術はない」と語った。
「私たちが非常に懸念しているのは、紛争の激化と、特に核兵器の使用です。事務総長はこの点について非常に明確にしていると思いますが、いかなる戦局においても、いかなる形であっても、この種の兵器の使用を正当化することはできないのです。」
米国の科学者らによる非営利団体「憂慮する科学者同盟」によると、当初、米国の核戦力の中で戦術核は一つの種類に過ぎなかったという。
数十種類の核兵器が開発され、数万発が製造されたが、その一部は爆発力が非常に小さく、1人の兵士によって発射が可能なものであった。
やがて、ソ連の通常戦力が拡大するにつれ、米国と同盟関係にあるNATO諸国は、核兵器を戦車や大砲の数的不利を補うための武器と考えるようになった。
「双方がさまざまな種類の核兵器を開発するにつれ、理論家の中には、あらゆるレベルで同等の戦力で敵に対抗する必要性を認識する者もいた。彼らの懸念は、もしある国が戦略核兵器しか持っていなければ、低レベルの戦術核攻撃に対する報復にその核兵器を使うことをためらうかもしれないということである。なぜならその反応は不均衡であり、全面的な核戦争につながる可能性があるからだった。」
「この欠陥のある危険なモデルによれば、米国はいわゆる『紛争/戦争の烈度に応じて想定されたエスカレーションラダー(事態エスカレートの梯子)』の全段階において相手に対抗できる幅広い種類の核兵器を必要としたのである。」
「さらに厄介なのは、「エスカレーション優位」という考え方に基づくモデルである。これは、ライバルがどんな戦いも絶望的と見て抑止するほど、あらゆるレベルで優れた能力を追求することを必要とする。この危険な理論は、核戦争に「勝利」する可能性を想定している。
しかし、米国のドナルド・レーガン大統領が1984年に宣言したように、米国・ロシア・中国・フランス・英国の5か国は最近、「核戦争に勝者はなく、したがって戦われてはならない」との原則を再確認した。
憂慮する科学者同盟によると、米国は0.3~170キロトンの爆発量を調整できる戦術核重力爆弾を200発保有している。(広島型原爆の爆発力は15キロトンだった。)
米国防総省は、イタリア・ドイツ・トルコ・ベルギー・オランダの欧州5か国に、「B61」と呼ばれるこの種の爆弾を約100発配備している。
他方、ロシアには約2000発の戦術核があり、その出力は極めて低いものから100キロトン超までさまざまである。運搬手段には航空機、艦船、地上発射システムがあり、それらの一部は通常兵器の運搬にも使える。たとえば、ロシアがウクライナに対して使用したミサイルの一部は核弾頭を運搬することもできる。(原文へ)
INPS Japan
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