【メルボルンIDN=ティム・ライト】
3月初め、核兵器がもたらす人道的影響と、核攻撃に際して国際援助機関に効果的に対処能力がないという点に関する画期的な会議が、ノルウェー政府の主催によりオスロで開催され、120か国以上の政府、赤十字、複数の国連機関が参加した。この会議から発せられたメッセージは明確で、「核兵器が再び使われないようにする唯一の方法は、速やかにそれを違法化し廃絶する」というものであった。
外交官や専門家、市民社会によるこの初めての集まりは、2010年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議で採択された最終文書から生まれた、人道主義を基盤にした核軍縮への新しいアプローチの一環であった。2010年の会議では、核兵器国であるロシア・米国・英国・中国・フランスを含む189のNPT加盟国が、「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道的帰結への深い懸念」を表明していた。
NPT加盟国は、2015年NPT運用検討会議の準備のため、2013年4月22日から5月3日までジュネーブにふたたび集う。核軍縮を前進させることに真の関心を持つ人々は、この会議を、オスロで生まれた勢いを前に進め、メキシコが今年後半か2014年初めに主催予定の「核兵器の人道的影響に関するフォローアップ会議」への支持を固める機会だとみている。また、多くの政府が、核兵器を禁止する普遍的な条約の交渉を開始するよう呼びかけを行うだろう。
人道主義という言説
とりわけノルウェー、スイス、オーストリア、南アフリカ共和国、メキシコなどの政府は、核軍縮に向けた人道主義を基盤にしたアプローチへの支持を明確にし、人間の健康、社会、環境に核兵器が及ぼす壊滅的な影響が、これらの兵器に関するあらゆる議論の中心に置かれるべきだと主張している。世界的な「赤十字・赤新月運動」や「核兵器廃絶国際キャンペーン」もまた、人道的な影響について強調しようとしてきた。
特に注目すべきなのが、オスロ会議が、68年に及ぶ核時代の歴史の中で、諸政府が純粋に人道主義的な視点から核兵器の問題に迫ろうとした初めての会議だったという点である。核軍縮や不拡散に関するこれまでの議論は、地政学や国家安全保障上の関心から論じられてきた。しかし、地雷やクラスター弾の禁止に導いたプロセスが示しているように、人道的な言説が重要な第一歩となる。つまり、新しい政治的連合が形成され、長年の行き詰まりが乗り越えられる可能性があるのだ。
軍縮外交
9つの核兵器国のうち、オスロ会議に出席したのはインドとパキスタンの2か国だけであった(北朝鮮とイスラエルは欠席)。国連安保理の5つの常任理事国(=核兵器5大国)は、事前に示し合わせたうえで会議を欠席した。人道的な影響に焦点を当てることで、核不拡散や核軍縮に対する既存の「ステップ・バイ・ステップ・アプローチ」から関心が逸らされることになる、というのがその理由であった。しかし、核兵器なき世界を実現させるための多国間条約交渉は、既に15年以上にも亘って停滞している。この交渉における最後の主要な成果は1996年の包括的核実験禁止条約であるが、依然として発効に至っていない。
今日、しばしば「唯一の多国間軍縮交渉フォーラム」とされるジュネーブ軍縮会議の交渉上の優先事項は、兵器級核分裂性物質の生産を禁止する条約である(これは核不拡散のための措置であって、核軍縮措置ではないが)。一般的に、核兵器国は自国の核兵器を削減する法的拘束力のある約束事には消極的であった。しかし、ロシアと米国は、自国の作戦配備核弾頭の数を制限することに二国間で合意している。
NPT運用検討会議は、核兵器を保有する9カ国の内の4カ国(インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮)が不参加だが、依然として、軍縮と不拡散について議論するための主要な外交フォーラムである。しかし核兵器5大国は、NPT第6条の「核軍縮義務」の履行に繋がるいかなる期限設定も、一貫して拒否してきている。核兵器5大国は、「核兵器なき世界」という考え方に賛同する姿勢を示す一方で、今後数十年にわたって核戦力を維持するという明確な意思を持って、核戦力の近代化に数百億ドル規模の予算を投じているのである。
普遍的禁止に向かって
核不拡散条約は、核兵器を持たない184か国に対して、核兵器を取得しないよう義務づけている。この意味で、NPTは核兵器の部分的禁止に資するものであり、これを地域的な非核兵器地帯が補完している。しかし、NPTは核兵器の使用を明確に禁止していないし、核兵器5大国による核保有も禁じていない。むしろ、NPTは、核軍縮に向けて誠実に交渉を行うことをすべての加盟国に義務づけているのである。
この核軍縮条項にも関わらず、核兵器5大国は、核戦力を維持し近代化することは完全に正当な行為だという見方を打ち出している。これらの国々は、核兵器なき世界の実現までには数世紀かかるとみているのだ。そこで、非核兵器国が主導する核兵器禁止条約の交渉は、この既得権に対する強力な挑戦となるだろう。つまりそれは、あらゆる国家に対して核兵器を非正当化し、軍縮プロセスを加速させる一助となるだろう。
核兵器国からの支持がなかったとしても、核兵器禁止の効果は相当なものになるはずである。例えば、英国による核搭載潜水艦の更新に対抗する根拠を与えることになる。また、米国の核兵器配備を認めている5か国(ベルギー・ドイツ・イタリア・オランダ・トルコ)に対して、これを拒否するよう求める圧力が強化されることになるだろう。そして、オーストラリアや日本のような国々に対して、拡大核抑止への参加を再考させることになるだろう。また、核兵器を製造する企業に資金を提供しないよう、世界の金融機関に促すことにも繋がるだろう。
化学兵器や生物兵器、対人地雷、クラスター弾を禁止する条約はすでに存在する。これらすべての条約は、そうした兵器の備蓄を大幅に削減するうえで大きな影響力を持った。核兵器もまた、禁止されるべき時機がすでに熟しているのだ。ノーベル賞受賞者のデズモンド・ツツ師がオスロ会議で述べたように、「核兵器は、誰がそれを保有しようとも、嫌悪すべきものであり、深刻な脅威である。どんな国籍、宗教の人間が住んでいようとも、放射能に汚染された大火で都市を焼き尽くすと脅しをかけることは、許されるものではない。」(原文へ)
翻訳=INPS Japan
※ティム・ライト氏は、核兵器廃絶国際キャンペーンの豪州代表。
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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