この記事は、聖教新聞電子版が配信したもので、同社の許可を得て転載しています。
【ロンドンINPS Japan=サンニャ・ラジパル】
オーストリアのウィーンで本年4月、自律型兵器システムの規制に関する2つの重要な行事が開かれました。
一つは、国際ネットワーク「ストップ・キラーロボット(SKR)」、オランダの平和団体「PAX」,オーストリア赤十字社が、オーストリア連邦欧州・国際問題省の協力を得て開催した、市民社会フォーラム「岐路に立つ行動」(4月28日)。もう一つは、オーストリア政府が主催した国際会議「岐路に立つ人類ー自立型兵器氏システムと規制の課題」(同29日、30日)です。
SGIを代表して両会合に出席した山下勇人氏と私は、自律型兵器が引き起こす倫理的・人道的な懸念の緊急性に光を当てました。
倫理的な断絶性
市民社会フォーラムでは、緊要なテーマが取り上げられ、世界的な武器の脅威に反対するキャンペーンが成功を収めてきたことを指摘する中で、市民社会の行動の必要性が際立つものとなりました。
私は、技術開発と規制のギャップを議論するパネルに登壇しました。長きにわたる「人間性を奪う」傾向は第一に産業革命における機械として、新自由主義的な理想への移行期における資本として、そして大量消費社会の一部としての製品、さらにAI時代におけるデータとして現れていることに言及。共通の「人間の尊厳」を志向したパラダイムシフトが必要ではないかと強く語りました。
実際のところ、「生死を左右する決断を下す瞬間」だけでなく、「重要な技術の開発や知見を提供するためのデータの分析がどのように行われているか」という点においても、人間の自主性を維持することが極めて重要であると指摘したのです。
山下氏は宗教間ワークショップに参加し、「倫理的な断絶性」の概念について議論しました。池田SGI会長が提唱されたように、攻撃をする側とされる側との「断絶性」が人間性を損ない、より非人道的な戦争につながる可能性がある。だからこそ、対話を通じた地域社会に根差した平和の構築、そして人間の尊厳を守るために多国間の関係者と積極的に関わる「信仰を基盤とした団体(FBO)の重要性を訴えたのです。
市民社会と国家間の協力
続いて開催された国際会議「岐路に立つ人類」には、140超の国から1000人以上が集まりました。
オーストリアのシャレンベルク外相は会議の冒頭で、「行動を起こさずにこの瞬間をやり過ごすわけにはいかない。今こそ人による制御を確実にする国際的なルールと規範に合意すべき時である。」と述べました。
山下氏はSGIを代表して声明を発表し、人類全体の繁栄に貢献する技術の重要性を改めて訴え、国際的な規制を求めました。
期間中、参加者は自律型兵器システムによって生じる法的、倫理的、人道上、安全保障上の課題を巡って議論しました。そこでは次のテーマに重点が置かれました。
1.人による制御の重視:自律型兵器システムにAIを組み込むことは、意思決定における微妙な差異や倫理的判断を排除するという脅威をもたらす。それにより、人間による制御と説明責任が損なわれ、無差別、かつエスカレートする暴力のリスクが浮き彫りになった。
2.偏りと不安定な技術開発:AI技術の開発と訓練には、多様性の欠如、不正確なシュミレーションシナリオ、行動への傾倒など様々な偏りが存在し、現実世界でのシナリオにおいて予測不可能で不均衡な行動や決定を招くリスクがある。
3.倫理的・法的枠組み:自律型兵器技術の急速な進化と複雑化は既存の法的枠組みの進化を上回っている。一貫した規制の欠如、そして意図・実行・動機の不明確さが、自律型兵器が関与する戦争犯罪に対する説明責任をより複雑にしている。
4.入手可能性と拡散リスク:自律型兵器システムは化学兵器、生物兵器、核兵器と言った従来のグローバルな脅威とは異なり、複雑な材料や機械を必要としない。比較的安価で入手が容易なため、より広範な拡散が可能となる。この広範な入手可能性と品質のばらつきにより、この問題に対処するには、複数の利害関係者が連携した効果的な取り組みが必要となっている。
人間の生死の決定を機械に委ねない
法的規制の策定へ 生命の尊厳守る行動の連帯を
会議はオーストリア政府による議長リポートの発表をもって閉幕しました。報告書は新技術に対する人間の制御の重要性を強調し、「武力行使においては人による制御が優先されなければならない。標的の選択や生死に関する決定を機械に委ねることは、私たち全てに関わる問題である。」と記されています。この報告書は、自律型致死兵器に関する2023年の国連総会決議に沿って、自律型兵器システムに関する見解を国連事務総長に提出するよう、全ての国家及び関係者に強く求めるものです。同時に、自律型兵器システムを規制する国際的な法的枠組みを策定するために、全ての関係者と緊急に協力する強い決意を表明しています。
結論として今回の会議では、自律型兵器システムの規制において国際協力と倫理的配慮が急務であることが強調されました。
私たちは絶えず進化するテクノロジーや、ますます現実から離れた制度に直面しています。人類全体を守る上で根本的な原動力となるものは何かー。それは、化学兵器、生物兵器、さらには核兵器という世界的な脅威から人類を守るための過去の取り組みと同様に、人々の意識啓発、市民社会と国家間の協力によって成し遂げうるものなのだと、今回の会議は思い起こさせてくれました。
この「結集した行動の力を信じる」という信念こそが、人間性の否定から脱却し、「人間の尊厳」を守るための最重要の第一歩となるに違いありません。
INPS Japan/『聖教新聞8月18日付を転載」
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