【ウランバートルIDN=ジャルガルサイハン・エンクサイハン】
非核兵器地帯は、核不拡散の目標を推進し、国家間の信頼を強化する上で非核兵器国が採りうる重要かつ実践的な地域的措置として認識されているものである。
現在、海底と南極、宇宙空間は居住人口のない非核兵器地帯とされている。また、居住地域には、ラテンアメリカ及びカリブ地域、南太平洋、東南アジア、アフリカ大陸全体、中央アジアの5カ所に非核兵器地帯がある。116の国と8400万平方キロメートルが含まれ、これは世界の人口の39%と国連加盟国の60%を占める。現在、中東非大量破壊兵器地帯の創設が議論されており、あわせて、北東アジアや北極にも非核地帯創設の非公式協議が進行中だ。これらの地域的地帯は「旧来型の非核兵器地帯」として知られ、諸国家の集団のみがこうした非核兵器地帯を設立できるという考え方に基づいている。
しかしこのことは言い換えれば、地理的位置や、政治的・法的理由から、個別の国家が旧来型の(非核兵器)地帯に加盟できないという問題がある。もしこうした国々が非核兵器地帯から除外されたまま放置されれば、国連創設時から我々が確立しようとしている「核兵器なき世界(NWFW)」に盲点やグレーゾーンを作り出し、非核兵器地帯体制のアキレス腱になりかねない。核兵器なき世界への歩みはゆっくりだが、核兵器禁止条約の発効に見られるように、少しづつ前進している。
非核兵器地帯という核のアキレス腱を守る時
非核兵器地帯が脆弱なままではどの国の利益にもならないが、維持可能なシステムは間違いなく核不拡散体制を強化することになる。結局のところ、強固な非核兵器地帯体制も、その最も脆弱な部分と同程度しか機能しない。したがって、(現在は認められていない)単一の国家による非核兵器地帯の役割と地位を認めることによって個々の国を非核兵器地帯に包摂していくことで、それらの国々の利益が守られるだけではなく、非核兵器地帯の目標を強化する政治的なツールともなる。
「ブルーバナー」[1]による最近の調査で、上記のような旧来型の非核兵器地帯が追加的に設定されたとしても、当該非核兵器地帯がカバーする一部の国や地域(例:モンゴル、ネパール、欧州の中立国やいくつかの非自治地域)が参加できないために包括的なものにはならないことが明らかになっている。その理由は、現在の非核兵器地帯が、関連する地域の国々が合意した取決めを基礎として設立されているからである。今日の相互に接続された世界では、個々の国々の役割はいずれにせよ過小評価されるべきではない。
太平洋西部など大国間の角逐が激しさを増し、個々の国々をその角逐の中での位置に応じて駒として使う傾向が強まっている今日、こうした個々の国々の利益を無視することは、戦略的安定に確実に影響することになるだろう。
他方で、一国単独による非核兵器地帯が国際法で認められ保護されていれば、非核兵器地帯設立に不可欠の要素として機能することができる。上記の調査では、中立国や、そのままでは旧来型非核兵器地帯の一部にはなれない非自治領域などを含め、20以上の国・領域があることが明かになっている。
国際法の観点からすれば、一部の非核兵器保有国を非核兵器地帯の体制から故意に除外することは、国連憲章の精神や、主権国家平等の原則、国家の主権平等の原則、万人のための平等かつ正当な安全保障、国家の個別的または集団的自衛権などに違反することになる。
国際法は、旧来型の非核兵器地帯のように、それらの国々の地位を規制し、保護する必要がある。公正を期すならば、そうした政治的あるいは法的保護を生かすのか、あるいは別の形で安全保障上の利益を図るのかは、個々の国の主権的な決定であると指摘しておかねばならない。
時間・空間・技術が重要な地政学的な要素となり、核軍拡競争が再び強まって不吉な技術的相貌を見せつつある今日、核兵器国は、宣言されている核抑止の役割を超えて、非核兵器国に対する恫喝と脅しの政治的手段として核兵器を使用すべきではない。
したがって、旧来型の非核兵器地帯に参加できない国々は、核兵器や核兵器使用支援施設を自国の領土に置くことを禁止する国内法を採択し、その見返りとして5大国から適切な安全保証を得る必要がある。ここでいう 「適切な」とは、特定の国の安全保障上の利益に対する信憑性のある脅威に対する保証を意味する。この保証は、冷戦中あるいは冷戦後の旧来型非核兵器地帯のケースがそうであったように、これらの国々に対する核兵器の不使用、あるいは使用の威嚇に関して法的拘束力があるものである必要はない。
五大国による保証は、核兵器の容認、あるいは、そのより効果的な使用のための支援施設の設置容認に向けて圧力を加えるようなものであってはならず、その国の法律に反映された地位を尊重し、その地位に反するような行為に寄与するようなものであってはならない。
これは旧来型の保証に比べれば、いくぶん温和な保障の形であろう。検証システムは、国際原子力機関(IAEA)の支援や、旧来型の非核兵器地帯を確立する際に学んだ教訓、あるいはこの分野における最新の技術的成果に基づき、相互に合意した検証メカニズムを確立することによって開発することができる。
上記で述べたことから、非核兵器地帯のあらゆる側面に関する「第二の」包括的研究が、1975年の最初の研究の際のように一部の指定された国だけでなく、すべての国の参加によってなされねばならない。
この研究はモンゴルが10年前に国連核軍縮ハイレベル会合に提案したもので、非核兵器地帯創設の半世紀に及ぶ世界の豊かな経験に加えて、変化する世界の政治的環境も考慮に入れねばならない。そうした研究は第二世代[3]の旧来型の非核兵器地帯を中東や北東アジア、あるいは北極に設立するにあたって有益であろう。
「第二の」包括的研究はまた、非核兵器地帯の概念と定義を拡大し、一国非核兵器地帯に提供される保証の内容と形式について合意することで一国非核兵器地帯を取り上げ、認識すべきである。従来型の非核兵器地帯に提供される5大国による安全保証の内容は、本来の目的を反映したものであるべきであり、核兵器使用の可能性を間接的に示唆するような留保や一方的な解釈の表明によって、本来の目的を歪めるようなものであってはならない。
また、既存の二重基準や、「核の傘」に依存した国々の役割、核保有国の地位や役割(もしあるならば)等、微妙な政治的問題やタブーにも対処すべきである。要するに、非核兵器地帯の可能性を最大限に引き出し、「核兵器なき世界」のアキレス腱を守ることが、世界の平和と安定を強化するために非核兵器国がなしうる実践的な貢献なのである。(原文へ)
【注】
[1]2005年に設立されたモンゴルのNGOで、核不拡散・軍縮という共通の目標を追求している。
[2]国連総会公式記録、第10回特別会議、Supplement 4 (A/S-10/4)。ニューヨーク、1978年。
[3]第二世代の非核兵器地帯とは、地域の非核兵器地帯がそれ自体の問題を抱えているということ、あるいは、核兵器国の戦略的な利益が絡んで地帯の設立が複雑になっている状況を指す。
INPS Japan
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