【メキシコシティーIPS=エミリオ・ゴドイ】
ラテンアメリカ・カリブ海地域の国々は、同地域を世界初の非核兵器地帯とした条約の署名開放45周年を記念して開催された国際セミナー(ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止機構:OPANAL主催)において、域内における核物質使用に対する監視体制の強化や、非核兵器地帯をさらに拡大していくための方策について協議がなされた。
「核軍縮は今でも私たちの優先課題です。核兵器を保有しない国々にとって、核保有国から核兵器の使用又は威嚇を行わないという保証を法的拘束力がある形で取り付けることは当然の関心事ですから。」とブラジル外務省のベラ・マチャド政治担当事務次官はIPSの取材に対して語った。
マチャド事務次官を含む33カ国の政府代表団は、トラテロルコ条約として知られる「ラテンアメリカ及びカリブ海域核兵器禁止条約」調印45周年を記念してメキシコシティーで開催された国際会議に参加している。
トラテロルコ条約の締約国は、締約国領域内において「いかなる核兵器も、手段に関わらず実験・使用・製造・生産」さらには形式を問わず「取得・貯蔵・設置、配備」を禁止し防止することに同意している。
また45周年記念行事として、2月14日・15日の両日に記念式典と国際セミナー「ラテンアメリカとカリブ海における非核地帯の経験、2015年およびその後に向けた展望」が開催され、世界各地から国際機関や非政府組織(NGO)の代表約200人が参加した。
トラテロルコ条約(1967年にラテンアメリカの14か国が調印)により、ラテンアメリカ及びカリブ海地域をカバ―する世界初の非核兵器地帯が創設された。この新たな流れはその後4つの非核兵器地帯の創設〈1985年南太平洋非核兵器地帯条約(ラロトンガ条約)、1995年東南アジア非核兵器地帯条約(バンコク条約)、1996年アフリカ非核兵器地帯条約(ペリンダバ条約)、2006年中央アジア非核兵器地帯条約(セメイ条約)〉へと繋がり、現在では世界の5地域と114カ国が非核兵器地帯となっている。
メキシコはトラテロルコ条約(1967年2月14日調印式が行われたメキシコ外務省の所在地であるメキシコ・シティの地区名トラテロルコに由来している)の発効に中心的な役割を果たし、ラテンアメリカ地域における軍縮推進のパイオニアとしての地位を確立した。条約は1969年4月に発効した。
メキシコ、アルゼンチン、ブラジルは、核物質を発電目的などの平和利用に限定して活用している。
アルゼンチンとブラジルは、1991年に「アルゼンチン・ブラジル核物質計量管理機関(ABACC)」を設立し、両国にあったすべての原子力施設と核物質のリストを交換し、共通計量管理システムの下で査察を実施した。ABACCは、この分野における模範と考えられている。
国際セミナーでは、議題として、トラテロルコ条約への注目を喚起する必要性について、一部加盟国が依然保有している核分裂性物質の廃棄について、ラテンアメリカ・カリブ海地域を通過する原子力潜水艦や放射性廃棄物の問題について、世界的な核軍縮に向けた進展について等が議論された。
アルゼンチンから参加したイルマ・アルゲロ「グローバルセキュリティーのための不拡散財団」理事長は、IPSに取材に対して、「トラテロルコ条約にはさらに規制に関する追加条項が必要です。つまり域外の国々が核関連の技術や兵器を持ち込めないようにすることが重要なのです。」と語った。
現在とりわけ2つの出来事がラテンアメリカ・カリブ海諸国の関心をおおいに惹きつけている。すなわち、米国を筆頭に一連の国々が強硬に反対姿勢を示しているイランによる核開発計画の問題、そしてもう一つが、アルゼンチンが不服を申し立てている、英国による原子力潜水艦のマルヴィナス/フォークランド諸島(今年はフォークランド戦争30周年にあたる:IPSJ)派遣問題である。
またラテンアメリカ・カリブ海地域の非核兵器地帯は、現在構想が進められている中東における同様の計画の規範となるのではないかと考えてられている。
SGIの平和運動局の河合公明氏は、IPSの取材に対して「中東非核兵器地帯は、人々が新たな考え方や可能性を開拓し、それをもとに生きていけるよう、現実を変革させるものです。無力感や、仕方がないというあきらめに対抗するものです」とし、それゆえに、「これは、権力バランスを変えてしまうほどの大きな可能性を秘めています」と語った。
東京に本部を置くSGIは、核兵器廃絶のための首脳サミット開催を呼びかける世界的なキャンペーンを立ち上げたグループの一翼を担っている。
SGIは同サミットを、原爆投下から70周年を刻む2015年に、被爆地である広島・長崎で開催することを求めている。
CTBTO(包括的核実験禁止条約機関)準備委員会事務局長のティボル・トート氏は、ラテンアメリカ・カリブ海地域の非核兵器地帯が「中東にとって良き模範」と指摘した上で、「1960年代のラテンアメリカの状況とは異なり、ただの夢ではなく、構想が出来ているのです。」と語った。
さらにトート氏は、「近年、いくらかの進展があったものの、まだまだという観が否めません。核不拡散と軍縮の『現実的政策(リアルポリティーク)』の枠を飛び越えなければなりません。」と語った。
1996年から署名が始まったCTBTOは、発効までにあと8カ国の批准を残すのみとなっている。
中東非核兵器地帯の構想は、2011年11月、国連総会と安全保障理事会に直属する国際原子力機関(IAEA)が、(現存する5つの非核兵器地帯から学び、中東に活かす可能性を模索する)フォーラムを開催して、その実現可能性を集中的に協議した。
現在、ロシア、米国、フランス、中国、英国、イスラエル、インド、パキスタンに、2万2千発以上の核弾頭が保有されている。
NPTは1970年に発効したが、今日では、国際的な核軍縮メカニズムは麻痺しているとの見方が大勢を占めている。しかし、ラテンアメリカとカリブ海諸国は、トラテロルコ条約を出発点として次回2015年に開催予定のNPT運用検討会議に備えたい意向である。
マチャド事務次官は、「建設的な雰囲気で交渉することが重要です。中東に非核兵器地帯を実現するためには、何度も繰り返されている議論から脱却しなければなりません。」と語った。
イスラエル、インド、パキスタンはNPTに署名していない。一方、中国、イスラエル、エジプト、イラン、米国が依然としてCTBTの批准を行っていない。
トート氏は、「非核兵器地帯を運営していくには、透明性、監視、批准といった問題が重要です。」と語った。
河合氏は、未来に向けて確かなビジョンを示すためにも、核廃絶を求める世界的な運動を、より一層強力なものにしなければならないとし、「非核兵器地帯を実際に経験してどうだったのか、その体験を、とりわけ北東アジアや中東といった地域の各国政府や市民の間で共有されることを願っています。」と語った。
もうひとつの重大な事柄は、トラテロルコ条約加盟国とIAEA間の核物質の使用を監視する2国間協定の署名についてである。現在までに、十数か国が協定に署名している。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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