【国連IPS=オリトロ・カリム】
アサド政権崩壊から11か月が経過したものの、シリアは依然として深刻な不安定に直面し、政治移行は大きく揺らいでいる。国内では避難民が急増しており、多くの難民が帰還する中で、人道支援団体は十分な支援を提供できず苦慮している。ここ数週間、国連は強制失踪や誘拐の事例を多数確認し、移行プロセスの進展に向けて、より強力な説明責任メカニズムの必要性を訴えている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した最新の地域情勢速報によれば、約700万人が国内で避難生活を続けており、一方で190万人以上の国内避難民(IDP)が帰還したとされる。このうち約半数はシリア北部のIDPキャンプを離れた帰還者である。
2024年12月8日以降、120万8802人のシリア人が周辺国からシリアへ越境帰還したことが、11月6日時点で確認されている。帰還者の大半はトルコからの帰還とみられ、この1年間で約55万人が戻った。また、36万2027人がレバノンから帰還したと報告されている。ヨルダン、イラク、エジプトなど、その他の国からの帰還者数は比較的少ない。UNHCR、国際移住機関(IOM)、レバノン国家保安局(GSO)が共同実施する帰還・再定住プログラムには、少なくとも1476人が参加している。
国内避難民・帰還者を問わず、多くの人々は住宅の破壊、雇用機会の欠如、基本サービスへのアクセス不足といった厳しい生活環境に置かれている。UNHCRは、効果的な政治移行の実現には緊急の追加資金が不可欠だと指摘する。
支援ニーズの急増に対し、人道支援は限界に達しており、活動の縮小が避けられない状況だ。さらに、厳冬期の到来が生活環境の悪化に追い打ちをかける見通しで、UNHCRは予算不足により75万人のシリア難民が冬季支援を受けられなくなる可能性があると警告している。

UNHCR外部関係局長のドミニク・ハイド氏は、「人道支援予算は限界に達しており、今年は提供できる冬季支援が大幅に減少する。」と述べた。「多くの家族が、屋根や断熱材、暖房、毛布、防寒具、薬といった基本的なものすらないまま、氷点下の寒さに耐えなければならない。」
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は、国際社会、民間部門、そしてシリア社会に対して、帰還者の尊厳ある生活を確保するために「努力を総結集させる」よう呼びかけた。「国際社会の新たな決意があれば、世界最大級の難民危機の一つであるシリアに、希望と安定、持続可能な解決策をもたらすことができる。」と強調した。
厳冬期を前に、UNHCRは冬季支援を拡大し、アレッポ、ハマ、ダラア、クネイトラ、ホムス、カミシュリ、スウェイダ、ダマスカス郊外などで、1万7000世帯以上の避難民・帰還者に毛布、ヒーター、マットレス、防寒具などの非食品物資を配布している。
「現地のチームは寒さから避難民を守るために全力を尽くしているが、時間も資金も足りません。」とハイド氏は語った。UNHCRは3500万ドルの確保を目標に、住宅修繕、シェルター断熱、毛布や暖房機器の提供、薬や温かい食事の支援などを計画している。
UNHCRはまた、帰還・再統合支援金プログラムを通じて4万5000人以上の帰還者に金銭支援を行っている。さらに今年、トルコおよびレバノンとの主要国境地点では2万4500人以上の帰還者を支援した。UNHCRとパートナー団体は、帰還者の生活状況を把握するため、家庭訪問や必要に応じた保護サービスへの紹介を続けている。
しかし、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、シリア情勢の不安定化が進んでおり、「憂慮すべき報告」が相次いでいると述べた。今年に入って少なくとも97人が誘拐されたほか、アサド政権下の半世紀にわたり10万人以上が行方不明になったままだ。
シリア失踪者独立機関(IIMP)のカルラ・キンタナ代表は、「シリアでは誰もが、“行方不明者を知っている人”を知っている」と語る。OHCHRはまた、今年7月にスウェイダで人道避難活動中に行方不明になった「ホワイト・ヘルメット」(シリア民間防衛団)ボランティア、ハムザ・アル=アマリン氏の失踪にも言及した。
OHCHRとパートナー団体は、人道支援要員の安全確保と説明責任の強化を改めて要求している。
OHCHR報道官のサミーン・アル=キーターン氏は、「国家権力を行使する武装主体も、そうでない武装主体も、国際人権法および適用される人道法に基づき、常に人道支援要員の安全を尊重・保護しなければならない。」と述べた。
さらに、「過去と現在のあらゆる人権侵害に対する説明責任と司法こそが、全てのシリア国民にとって持続的で平和かつ安全な未来を築くために不可欠である。」と強調した。(原文へ)
INPS Japan
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