【国連IPS=タリフ・ディーン】
9月27日まで3日間に亘って開催された「持続可能な開発に関するサミット」(過去最多の世界150か国以上の首脳が出席)において、前評判が高かった「持続可能な開発目標」(SDGs)が全会一致で採択された。この新開発アジェンダは、前代未聞の人類への素晴らしい貢献だと謳われている。
サミットの開会式で演説した潘基文国連事務総長は、「17の目標から成るSDGsは、あらゆる形態の貧困をなくすための『ポスト2015年開発アジェンダ』の不可欠の一部を成すものです。」と語った。
潘事務総長はまた、「『持続可能な開発のためのアジェンダ2030』の試金石は、『履行』にあります。あらゆる場所の全ての人々の行動が必要です。17の持続可能な開発目標は、私たちの指針、つまり、人類と地球にとっての『ToDoリスト』であり、成功への青写真なのです。」と語った。
しかし、今後15年かけてSDGsを実行し、貧困や飢餓、ジェンダー差別、病気の蔓延、環境の悪化をなくすことなど、グローバル社会の根本的な変革を2030年までに実現するには、実際に何が必要とされる条件だろうか?
それは政治的意思だろうか?それとも、 国内資源や政府開発援助(ODA)の上積みだろうか? 或は民間投資の拡大だろうか? それともその全てだろうか?
政府間のSDGs協議プロセスの共同議長であったケニアのマチャリア・カマウ国連大使は先月の記者会見において、「『持続可能な開発のためのアジェンダ』の実行には、毎年3.5兆ドルから5兆ドルもの巨額の費用がかかる可能性があります。」と語った。
オックスファム・インターナショナルのウィニー・ビヤニマ代表は「新たに採択された『持続可能な開発目標』は、文書の上では野心的なもので、インパクトの点で歴史的なものになる可能性があります。あらゆる国における極度の貧困や飢餓を単に減らすだけではなく根絶するという目標を掲げることで、従来の応急措置的な解決策からさらに踏み込んだものにしようとしています。」と指摘したうえで、「その中で大事なことは、最も裕福な人々が特権に居座ることを許すのではなく、社会の他の人々との関りを持つように引き戻してこられるかどうかにかかっているでしょう。」と語った。
「欧州環境ビューロー」グローバル政策・持続可能性のディレクターであるレイダ・リノート氏は、「17の目標は政策決定に際して一層の熱意と一貫性を引き出す可能性がありますが、『持続可能な経済成長』の目標がその他の目標を損なうかもしれません。」と指摘したうえで、「地球の保持能力は向上しておらず、一部の国々は、その他の国々がベーシック・ニーズを満たせるよう、資源の利用を相当程度に減らし、より平等な資源分配を実現する必要があるのは明白です。」と語った。
「(欧州で暮らす)私たちは、気候と貧しい国々の発展を犠牲にして、過剰消費を続けています。これこそが、ますます希少になっている資源を巡って紛争を拡大させる要因となっているのです。」
「欧州委員会は、『欧州2020戦略』と『欧州連合(EU)持続可能な開発戦略』を間もなく見直しSDGsの履行に関する行動計画を策定する予定であることから、EUがSDGsとそれに合わせて取り組み方を変える必要性を理解していることを示す絶好の機会を得ることになります。」とリノート氏は語った。
SDGsは現実的に今後15年で達成可能かという質問に対して、CIVICUS(シビカス/市民社会の世界的連合組織)の広報・キャンペーン責任者ズベール・セイード氏は、「SDGsはミレニアム開発目標よりも範囲がずっと広く、先進国と途上国の双方に適用されるという意味で普遍性もあります。」と指摘した。
しかし、SDGsの履行に関しては2つの問題点があるという。
セイード氏は、「各国政府に財源があるか、そしてより重要なことは、履行する意思があるかどうかという点です。」と指摘した。
「あらゆる文脈において共通しているのは、SDGsの成功は、各国の政治的意思にかかっているということです。つまり各国政府が、①これらの目標を真剣に受け取るか、②自国の開発計画の中に変化を生み出すような目標を入れ込めるかどうか、③必要な資源をそのために配分できるかどうか、④設計・実行・監視の全側面において市民と市民社会を関与させられるかにかかっているのです。」
「また、これらの目標を下支えするために、国際社会が関連指標を確定することも重要です。」
2030年に向けて何が最も必要とされているかという問いに対してセイード氏は、「SDGsの成功は、政策決定者が、変化を生むような国家目標を設定してその達成のために財源を割り当て、目標設定や報告、進展状況の監視において市民を完全かつ意味ある形で関与させ、多国間のフォーラムや協議プロセスにおいて市民社会を平等なパートナーとして関与させることを通じて、これらの目標を真摯に受け止め、履行する意思を示す程度にかかっています。」と語った。
「また、各国の指導者が、SDGsの有意義な履行ができるよう、世論の支持を確保する努力も極めて重要です。」とセイード氏は付け加えた。
世界自然保護基金(WWF)のヨランダ・カカバドス会長は、「今後数か月で最も重要なことは、各国政府がこれらの目標達成のためにいかに貢献できるかを考え、それぞれの取組みについて報告できるように基準と指標を設定することです。」と語った。
カカバドス会長はまた、「人類はSDGsを成功させる見込みがあり、ようやくゴールも見えてきています。しかし、これを15年で成し遂げようとするならば、まずはランナー(=各国政府)がスタートラインに立つ必要があります。」「そのためには、それぞれの国が個別の開発計画を通じて国家指標と履行計画を策定するよう求められています。」と指摘した。
来年3月には、国連が今後、SDGsの世界的な進展状況について毎年報告できるように、各国が一連の指標に合意する予定だ。
「指標の問題は困難な課題ですが、もし各国が財政危機を解決するために団結できるのであれば、指標を生み出すことも可能でしょう。重要なのは、各国が連携していくという点と、データに関して出来るだけ透明性を確保するという点です。」とカカバドス会長は語った。
「世界資源研究所」の副所長で運営責任者のマニッシュ・バプナ氏は、「SDGsは新たに大胆な国際開発アジェンダを設定した素晴らしい業績です」と語った。
SDGsは、世界の大きな変化を反映して、すべての国に適用されているほか、その中心に環境の持続可能性という価値を据えている。
「SDGsは、地球のことを考えることなしに、極度の貧困を根絶したり、経済成長を確保したりすることはできないとの理解の上に立っています。」
「幸い、貧困削減と経済成長、環境保護が互いに関連を持ちながら進行する事例が増えてきています。例えば、人間に焦点を当てたコンパクトシティの形成、浸食された土地の再生、低炭素エネルギーへのアクセスの拡大などである。」
「もちろん、優れた開発目標を掲げるだけでは不十分です。このビジョンを現実に追求できるか否かは、政府や、民間部門・国際機関・市民社会の行動にかかっています。優れた政策を掲げ、持続的な投資を促し、進展状況を測定することで、各国はこれらの目標を達成する軌道へと私たちを導くことができるのです。」
「SDGsは、もし成功すれば、開発における大きな変化を生むことができるでしょう。今日の不均衡なアプローチから、すべての人々の利益になり、同時に地球を守ることもできるようなアプローチへと転換を図ることが可能になるでしょう。」
「アクションエイド」のアドリアーノ・カンポリーナ代表は、IPSの取材に対して、「SDGsは、貧困の原因を確定した点で一歩前進ですが、世界の仕組みを支配しているルールを変えない限り、同じプレイヤーが勝ち続けることになるだろう。」と指摘したうえで、「すべての人々にとって公正な未来と、カネだけがモノを言うのではなく、社会の格差が縮まった地球を創る必要があります。」と語った。
「世界の貧困層がこの新たな開発目標から恩恵を享受できるようにしなくてはなりません。企業による大規模な投資だけでは、貧困や不平等の削減を確実なものにはできません。各国政府はゲームのルールを変え、企業部門にあらゆる解決策を求めるのをやめなければなりません。私たちは、この新たな開発目標を今後15年で達成しようとするのなら、不平等の問題に緊急に対処しなくてはなりません。」
国連の全193加盟国から成るオープン・ワーキング・グループによって提案されたSDGsは、3年に及ぶ、透明で、すべての利害関係者と民衆の声に耳を傾けた参加型プロセスの成果である。
17のSDGsと新アジェンダの169のターゲットは、グローバルな指標を用いながらモニターされ、実施状況が検討される。グローバルな指標の枠組みは、「SDG 指標に関する機関間専門家グループ(IAEG)」によって策定され、来年3月に国連統計委員会で合意がなされる予定だ。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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