SDGsGoal15(陸の豊かさも守ろう)|パキスタン|100億本植樹プロジェクト:政治がいかにこの素晴らしい取り組みをぶち壊しにしたか

|パキスタン|100億本植樹プロジェクト:政治がいかにこの素晴らしい取り組みをぶち壊しにしたか

【イスラマバードLondon Post=マジッド・カーン】

「100億本の木の津波」プロジェクトは、大規模な再森林化を通じて環境劣化の問題に取り組むというパキスタンの強い意志を示している。世界的な「10億本植樹キャンペーン」(=国連環境計画がノーベル平和賞受賞者であるワンガリ・マータイ女史と連携して、2007年末までに界中で10億本の植樹を目指して始めた活動)に触発されたこの大胆な活動は、パキスタン全土に100億本の木を植樹し、失われた森を取り戻し、気候変動に対抗し、生物多様性を保つことを目的としていた。この高邁な志と当初の称賛にも関わらず、パキスタンの複雑な政治情勢のためにプロジェクトは危殆に瀕している。

「100億本の木の津波」活動は、2018年初めまでに10億本の植樹を成功させたカイバル・パクトゥンクワ州のプロジェクト「10億本の木の津波」の延長として構想されたものだ。このプロジェクトの成功と国際的な認知を受けて、パキスタン連邦政府は2018年にプロジェクトを全国に拡大することを決め、2023年までに100億本の植樹を目指した。プロジェクトは単なる環境問題への取り組みではなく、国際環境協定や持続可能な開発目標(SDGs)に対するパキスタンの広範なコミットメントにも組み込まれていた。違法伐採や過剰な農業、持続不可能な林業などの緊急の問題に対処し、荒廃した景観を再生させることを目指している。

このプロジェクトは、持続可能な実践を通じた環境再生と経済活性化に焦点を当てた複数の目標を掲げて構成された。主要な環境目標は、森林を取り戻すことでパキスタンのCO2排出を大幅に削減し、土地の劣化と砂漠化を食い止めることだった。経済面では、苗木工場、植樹、森林の育成などで多くの雇用を生み農村地帯に成長をもたらすことを目指した。これにより、大気の質を改善し、エネルギーコストを削減し、地域の生物多様性を高めることで、生態系のバランスを促進し、パキスタンの多様な生態系を維持するために重要な自然の生息地を回復することが期待された。

パキスタン各地に数億本の植樹をしたこのプロジェクトは、開始当初から著しい進展を見せた。地域社会を効果的に動員し、環境意識を高め、持続可能な土地管理の実践を促進した。このイニシアティブは、環境保護団体や政府から国際的な賞賛を受け、大規模な環境保全の先駆的モデルとして高く評価された。このような評価は、このプロジェクトの可能性を示しており、継続的な成功に希望を与えるものであった。

Image credit AFP

政府の強力なバックアップのもとに始まったにもかかわらず、プロジェクトはたちまち論争の種になってしまった。野党はプロジェクトの実施やその透明性に疑問を投げかけ、高邁な理想の背景にある真意を訝った。この政治的抗争は、地域・地方レベルでの権力の交代が頻繁に起きて、プロジェクト実施の継続性と一貫性に悪影響を及ぼした。

プロジェクトは、政治的な反対から、実務的・財政的な障害に至るさまざまな難題に直面した。政治的には、この取り組みは、環境対策というよりも単なるイメージアップ作戦の道具だとしばしば見られており、政治的腐敗や管理不行き届きの汚名を着せられている。実務的に見れば、パキスタンの多様な地域と気候条件においてこれだけ大規模な植樹を行うことは、そもそも困難を抱えている。財政的な持続性も懸念されており、不安定な経済状況と国際支援への依存という状況の中で、長期的に資金を確保する必要がある。

「100億本の木の津波」プロジェクトに対する反応は、社会の様々な領域でまちまちだった。環境活動家や地域社会は全体としてプロジェクトを支持しているが、野党からは懐疑的な見方や批判にさらされた。世論の認識を形成する上で、プロジェクトの成功を強調し、その欠点を浮き彫りにする支持と批判の両方を提供するメディアの役割は極めて重要だ。

政治的な介入によってプロジェクトの進行は妨げられてきた。方針がしばしば変わり、資源の配分が変更され、お役所仕事的な障害もある。イムラン・カーン首相が議会の不信任決議可決で権力の座を追われると、プロジェクトは大幅な後退を強いられた。歴史的に気候変動問題は、現職のシャバーズ・シャリフ首相にとってはあまり重要な問題ではないようだ。他方で、気候問題の専門家らは首相に対して、森林を回復するカーン政権時代のこのプロジェクトを継続するよう求めている。

プロジェクトの目標が政治化され、政府の優先順位に矛盾が生じたため、プロジェクトの実施に一貫性がなくなり、実効性が低下した。プロジェクトへの介入は、不安定な政治状況が環境対策にいかに大きな影響を与えるかを示しており、こうしたプロジェクトを政治的な妨害から守る強力なガバナンス構造が必要であることを印象づけた。

プロジェクトの履行が不完全なことで、環境・経済・社会に広範な悪影響があった。環境面では、植林目標を達成できなかったため、CO2吸収と生物多様性の改善という潜在的な利益に制約が課された。経済面では、プロジェクトは目標とした雇用を創出できず、農村地帯の経済開発にブレーキがかかった。社会面では、プロジェクトの困難と管理のまずさによって、一般からの信頼を失い、このような大規模な環境保全の成功にとって不可欠な政府主導の取り組みに対する熱意を減退させた。

「100億本の木の津波」プロジェクトは、このような重大な困難に直面しながらも、環境保全の一里塚となり、政治的枠組みの中で大規模な環境関連事業を統合する上での重要な教訓を提供してきた。今後の取り組みにおいては、超党派の支持を確保し、透明性を高め、市民参加をしっかりと維持することが重要になってくる。これらの戦略は、環境目標の達成に役立つだけでなく、政治的・経済的課題に対するプロジェクトの回復力を強化し、その効果を高め、長期的な持続可能性を確保することにもつながる。「100億本の木の津波」は、環境保全において何が可能かを示す道標であり、潜在的な利益と、このような野心的なプロジェクトが必然的に直面する複雑な課題を象徴している。(原文へ

※著者のマジッド・カーンはメディア学の博士で、ジャーナリスト、学者、作家である。プロパガンダ戦略、情報戦争、イメージ構築の分析を専門とする。

INPS Japan/London Post

This article is brought to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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