SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)2024年に注視するべき五つの紛争

2024年に注視するべき五つの紛争

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=トビアス・イデ 

平和と紛争という観点で見ると2023年は良い年ではなかった。2023年7月、ウプサラ平和紛争データプログラムは、直近の2~3年間に1945年以降のいかなる時期よりも多くの武力紛争が起こったと発表した。メキシコのカルテル絡みの争い、ロシアによるウクライナ侵攻、ミャンマーの軍事クーデター、西アフリカ諸国の国家脆弱性による苛烈な戦いなどである。さらに最近では、中東でイスラエルとパレスチナにおける大規模な武力衝突が起こっている。(

本稿では、2024年に世界が注視すべき五つの紛争を手短に取り上げたい。人命を危機にさらし、生計を損ない、従って注視に値する紛争はこれよりもっと多いことは明らかである。例えば、コロンビアで進行中の反政府活動、アフリカの数カ国(エチオピア、マリ、スーダンなど)で起きている内戦、台湾をめぐる緊張の高まりなどだが、ここでは、影響が広範囲に及ぶ可能性があり、被害を受けた人々の状況を改善するには国際社会の注目が不可欠と思われる紛争を取り上げる。ただし、そのようなリストにある程度の主観的判断も含まれることは避けようがない。

ウクライナ: ロシアによるウクライナ侵攻からほぼ2年経つが、状況は膠着状態である。ロシアは、戦争の最初の数週間で奪取した領土を大幅に超えて進攻することはできずにいる。同様に、ウクライナが2023年の反転攻勢で奪還した領土もほんのわずかである。侵攻はウクライナの主権(と選挙で選ばれた政府)、ウクライナ国民の人間の安全保障(特にロシア軍の戦争犯罪の数々を考えると)、ルールに基づく国際秩序に対する重大な攻撃である。中国が調整役を果たす可能性はあるものの、今のところ国際制裁の影響を見ると、ロシアが国際圧力に屈することはなさそうである。そのため、ウクライナに対する他の国家と国際社会(国連など)による継続的な軍事支援、経済支援、道徳的支援がいっそう重要になる。

米国: 2024年は全ての国の74%が選挙を迎える。そのうち一部では、過激主義の政党や候補者が権力を握り民主主義の原則が損なわれる可能性が非常に現実的である。米国では近年、著しい政治的分極化が見られており、前回の大統領選をジョー・バイデンが盗んだという(完全に誤りである)思い込みが広まった。その結果、政治的暴力が増加し、2021年初めの連邦議会議事堂襲撃事件へと発展した。2024年の選挙でドナルド・トランプが敗北した場合、あるいは出馬を法的に禁止された場合、同様またはよりひどい政治不安が現実のものとなる可能性がある。そのような注目度の高いイベントに加え、民主党とますます急進化している共和党との間で予算論争が長引いており、その結果、連邦支出の削減や遅延が生じ、それが(とりわけ)ウクライナへの支援や社会的セーフティネットに影響を及ぼしている。2024年の選挙で民主的選択をするかどうかは米国の国民にかかっているが、国際社会は誰であれ正当な勝者として浮上する者をしっかりと支持するべきであろう。

イスラエルとパレスチナ: 2023年10月7日のハマスによる恐ろしい襲撃を受けて、イスラエルは歴史上最も破壊的といえる軍事行動によって反応した。ハマスはイスラエルへのロケット弾攻撃を続けており、一方、西岸地区では急進的なイスラエルの入植者がパレスチナの民間人を恐怖に陥れている。どちらの紛争当事者も、外部からの多大な支援を受けている。それぞれの支援者は、彼らに対し無条件で以下の三つの措置を講じるよう促すべきである。(1)ハマスはイスラエルに対する攻撃を停止し、残りの人質全員を解放し、イスラエルが存在する権利を認めなければならない。(2)イスラエルは、軍事作戦に関連する民間人の犠牲者とインフラ破壊を削減し、ガザ地区への援助拡大を可能にする実質的な措置を講じなければならない。(3)イスラエルは、占領した西岸地区における入植拡大を停止し、現地の過激な入植者を抑制し、西岸地区を将来のパレスチナ国家の主要領土とすることを約束しなければならない。一般市民、国家、そして国連のような国際機関は、紛争の両当事者に対してこれらの措置を講じるよう圧力をかけるべきである。

災害: 2024年は、エルニーニョ現象が最大限の影響を及ぼし、記録的な高温と(世界の地域によっては)多くの場所で厳しい干ばつや破壊的な洪水が起きることが予測される。そのような災害は、抗議活動や反政府感情を誘発することが分かっている。場合によっては、武力紛争の勃発や激化に発展することさえある。例えば、災害によって国家が弱体化する、あるいは絶望した被災者を武装グループがリクルートするといったケースも考えられる。とはいえ、国際的な注目と支援がものを言うことも、研究者らによって示されている。救援物資、救助隊、資金援助(世界銀行やUNICEFなど)が入ることによって、大きな災害後の人道的苦難と政治的不安定の両方を緩和することもできる。同様に、世界の注目の的となれば、武装グループは、評判へのダメージを回避するため、人道上の緊急事態を前に攻撃を続けることをためらう場合が多い。

ミャンマー: デビッド・ブレナーとエンゼ・ハンは最近、大規模な武力紛争であっても国際的には極めて限定的な注意しか引かない場合が多いことを気付かせてくれた。そのような忘れられた紛争に目を向けなければ、これらの戦いに対処するために(激化する前に)取り得る行動について、われわれの理解が限定されてしまう。また、紛争当事者に対して、暴力を抑制し、交渉の席に着くよう促す外部の圧力も限定的となる。ミャンマーでは、そのような忘れられた紛争が起こっている。2021年初め、ミャンマー国軍は2020年11月の選挙結果を退け、政権を退陣させ、暫定軍事政権を樹立した。新政権は、クーデターに対する平和的抗議活動も既存の反政府運動も弾圧し、その過程で重大な人権侵害を働いた。2023年終盤の時点で抵抗勢力連合は国の50%以上を掌握しているが、激しい戦闘が続いており、大量の避難民と人道緊急事態をもたらしている。それにもかかわらず、この紛争は国際的議題として注目度がかなり低く、そのため、紛争当事者に行動を抑制して交渉を開始するよう促す圧力は、国家や国際機関からあまりかけられていない。

現在の世界的な動向を踏まえると、2024年は特別に平和な年とはなりそうもなく、時には見るのもつらいほどになるだろう。しかし、目をそらすことは選択肢ではない。なぜなら、世界の注目と連帯によって、少なくとも一部の残虐行為を現場で防ぐことができるからである。

トビアス・イデは、マードック大学(オーストラリア・パース)で政治・政策学講師、ブラウンシュバイク工科大学で国際関係学特任准教授を務めている。環境、気候変動、平和、紛争、安全保障が交わる分野の幅広いテーマについて、Global Environmental Change、 International Affairs、 Journal of Peace Research、 Nature Climate Change、 World Developmentなどの学術誌に論文を発表している。また、Environmental Peacebuilding Associationの理事も務めている。

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