【黄石(中国湖北省)IDN=カリンガ・セネビラトネ】
湖北省黄石市から車で30分ほどのところに、持続可能な開発目標(SDGs)達成への道を切り開いている、草の根民主主義のモデルとなる村がある。SDGsは2015年に国連が採択したもので、中国もこれを支持している。
国連のSDGsアジェンダは、2030年までに目標を達成するための重要な要素として、官民が関与するガバナンスとパートナーシップを強調している。少なくとも2017年から実施されているこの村落開発モデルは、中国が協働ガバナンスの概念を通じて持続可能な開発への関与を強めている好例だ。
武漢大学報道通信大学校のジ・リ教授は「この戦略の成功には2つの主要因がある」と語る。教授は、黄石市の2人の役員を伴って3つの村への訪問を実現してくれた。
「一つ目は、人々が長年にわたって信頼関係を築いてきたこと。二つ目は、(社会事業から)利益を得た際にそれをメリットとみなしたということだ。だから、政府と村民との間の信頼関係の構築には時間はかかったものの、村人たちは(村の開発のための)政府の戦略に従った。」と、長年にわたって中国の開発コミュニケーション分野に携わってきたリ教授は語った。
自律
村レベルで実践されている草の根民主主義は「自主自律」だ。これは毛沢東が1949年に中華人民共和国を建国する以前から存在してきたものだと村のある役人は説明した(公的な発言をすることを認められていないため、匿名)。しかし同時に彼女は、村の開発のこのレベルでは「政府は口出ししないよう努めている。」と語った。
「村長は村民が選び、外部の人間は関与しない。」とこの村の役人は説明し「政府は村長を選ぼうとはしていない。村民に村長を選ばせようとしている。中には女性の村長もいる。」と語った。
それぞれの村には、共産主義革命以前からの伝統である色鮮やかな祖先崇拝の寺院が存在する。村人たちはここで集会を開き、指導者を選出し、村の問題を話し合う。各寺院には、このような会合のための中央の囲われた場所がある。村の役人も、開発戦略や政府資金について話し合う必要があるときは、このような場所で村人と会う。
「このような会議では、政府が資金を提供する際、村民は開発プロジェクトに参加したくない場合は拒否することができます。村民がプロジェクトに信頼を置いて参加できるようにするのが村長の役割です。」
村長になるには村民の多数の投票をえて、政府資金の配分について信頼のおける人物だと市の役人から見なされねばならない。
ボランティア集団
陽新県リウ村で31歳のリウ・ドンドン村長と会った。彼はボランティア集団で働いた経験があり、村に戻ってからは農民となり、村の商店も経営している。
「私は村を率いて、人々が経済を発展させ、貧困から抜け出し、幸福指数を向上させ、村を清潔にする手助けをしています。私はまた、村が問題や意見の相違を抱えたときに、(町の役人と)うまく交渉できるよう手助けしています」と董氏はIDNに語った。
政府からの補助金を得て、村にはブドウ園が作られた。「毎日10人がこの農場に働きに来ます。ブドウはワインづくりに使われます。」と村長は説明した。
2015年に作られたこのブドウ園は100畝(6.67ヘクタール)の広さを持つ。2017年までに収穫による収入は30万元(4万3000米ドル)を超え、現在ではワイン造りの売り上げは70万元(9万8150米ドル)を超える。
中国の草の根開発民主主義の概念は、SDGsを実現するための政府資金、草の根の同意、透明な支出の相乗効果に基づいている。
政府からの補助金を得るまで、この村では「村立協同組合」を設置せねばならなかった。機能としては会社のようなもので、経営者2名を選び、組合からの給与で村民がプロジェクトに従事していた。協同組合の代表は、村民によって選出された村のメンバーである。
村民は開発プロジェクトのために村の土地を利用する。利益は組合に入り、村民でその利益を分け合った。村は、プロジェクト開始にあたって政府から得た補助金を返還する必要はない。利益があれば、それはそのまま村に入る。「しかし、もし損失を出せば、政府は役人を送って問題の把握に努めるだろう。もし誰かが重大な過失を犯していたなら、その人物が自ら弁済しなくてはならないだろう。」とドン村長はさらに説明した。
茶プランテーションと油生産
隣村では、油茶プランテーションと油生産が主要な収入源となっていた。高収量の油茶生産は2010年に始まり、現在は2000畝(120ヘクタール)にまで広がっている。協同組合は「デフ村」の商標で茶油加工工場を運営していた。工場は11月の収穫期以降の2か月間、稼働する。
政府に加えて、38世帯が、自らの土地を抵当に入れて茶畑に投資する形で協同組合に出資している。彼らは年に1500元(210米ドル)を見返りとして手にする。
プランテーションの入口には、この事業の投資についての大きな説明板がある。黄色で囲ったリストには、労働者の名前と彼らがいくらを手にしているかが書いてあった。緑の枠内には、村民が(投資者として)いくらの収入を得ているか、青の枠内には土地所有者の名が書かれてある。
プランテーションの入り口には、この事業の投資について記した大きな掲示板がある。黄色の欄には労働者の名前とその所得が記載されている。緑色の欄には村人が(投資者として)いくら収入を得ているか、青色の欄には土地所有者の名が書かれている。きわめて透明性の高い仕組みだ。
「もし土地を借りれば、組合からの分配金は2割増しになります。私はここで働いて、組合からお金をもらっている。これが貧困から抜け出る方法です。組合は貧しい人々に働いてもらって、お金を得てもらいたいと考えています。」と、地元民のリ・ユドウさんは語った。
しかし、自宅の外で敷物を編んでいた72歳の村民リ・メンウェンさんは、自分の子に支えられていると語った。しかし、家庭用にサツマイモといくらの野菜を育てている。「敷物編みはただの趣味です。」と彼は語った。
2019年、村の組合は80万元(11万2254米ドル)の収入を得た。毎年11月の果実収穫期になると、100人近い村人が近隣から集まって、油茶とぶどうのプランテーションで働く。
観光会社
今回訪れたもう一つの村は李村で、山、水田、水路が織りなす風光明媚な場所で、地元コミュニティが観光事業を立ち上げている。夏の間、観光客はトレッキングに訪れ、自転車を借りてサイクリングを楽しんだり、古い村の家屋建築を模して新しく建てられたレストランで特別な郷土料理を味わったりしている。
IDNの取材と共に村に入った観光開発局のチェン・ヤンファンさんは、自身の役割は村の経済発展の支援にあると語った。「村の開発のための戦略を策定しています。時々は村長を訪ねて、戦略策定のための助言をもらったりしています。村長から意見をもらって、合意が得られれば、村への資金支出を監督します。」と説明した。
町の役人は村を「貧しい」と表現したが、ほとんどの村民は2階建てか3階建てのコンクリートの建物に住んでいる。30代から50代の村民のほとんどは都会に働きに出るが、村の自宅をよくするために投資をするのだという。また、村の協同企業の利益の3割は村の貧困層に配分される。村々には、政府の補助金で建てられた学校や診療所もある。
村の訪問の際、リ教授は村の古いお寺の壁に刻まれた格言を指さした。そこには、原則的に法廷に行ってはならない、と書かれてあった。村長や村人同士での話し合いの中から自分たちで解決策を見つけろ、という意味だ。問題解決に他人を関与させてはならない、という教えである。
「ここでの民主主義とは、他人に問題の解決をゆだねない、ということだ。議論し、自分たちで解決することが大事なのです。」と彼女は説明した。(原文へ)
INPS Japan
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