【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】
対人ケア・建設部門で労働者不足に悩むアイスランドで外国人労働者の移入が始まっているが、同時に、難民申請者に対して労働許可を与えることを政府が拒絶している。
2023年8月初め以来、少なくとも58人の難民申請者が、外国人に関する法改正を受けて、宿泊施設、食事券、医療補助などの援護をはく奪された。この法律改正についてはアルシング(アイスランド国会)で審議がなされる間、激しい抗議を受けた。
新法の創設した「自発的帰還支援・再統合制度」では、難民申請者が申請を却下された場合、もはや申請者とみなすことはできず、自発的な国外退去まで30日の猶予が与えられることになった。この場合、本国までのフライト代金はアイスランド政府が支援する。これによって難民申請者に帰国のインセンティブを与えようというわけである。アフガニスタン・イラン・イラク・ナイジェリア・ソマリア・パレスチナ・パキスタン出身者には、他国出身者よりもより高額の支援がなされることになっている。
この30日間は送還者用ホテルで過ごすことになる。30日過ぎても、自らの本国、あるいは定住権を持つ第三国に自発的帰還をしない場合、特別警察によって強制退去処分が課され、基本的なサービスが受けられなくなる。
しかし、多くの難民申請者が本国への帰還は望んでいない。場合によっては、アイスランド政府が送還先の国と引き渡し協定を結んでいないか、申請者本人が適切な書類を所持していないこともある。この場合、申請者はホームレス化するリスクがある。
法律への改正案が審議される中、グドミュンドゥール・インギ・グドブランドソン福祉相は、自治体によって提供される社会サービスに関する法律で難民申請者は支援されることになるだろうと述べた。しかし、自治体側では、難民を支援する資源や住居などは持っていないのが現状だ。
他方、アイスランドの人道支援団体「ソラリス」は、強制送還の危機にある人々の一部に住居を準備した。しかし、要請をさばき切れていないのが現状だ。
8月末、難民問題に関わる28団体が新法による緊急の事態について議論した。難民は「街頭で夜を過ごし、弱い立場の人々が政府によって貧困と飢餓に追いやられている」とこれら団体の声明は指摘している。
声明にはまた、人身売買の被害者となってイタリアから入国し、8月11日に送還者用ホテルから強制退去させられた3人のナイジェリア人女性の訴えも載せられている。アイスランドは難民申請者を送還するための協定をナイジェリアと結んでいないため、彼女らはイタリアに送還されることになった。しかし彼女らは「無理やり売春をさせられていた国に送り返すのか」と訴えている。しかし同時に「アイスランドの街頭で生きていくことなどできない。私たちが求めているのは平穏と保護なのです」とも述べている。
人権団体「移動する子どもの人権」のメンバーであるフランス人モルガン・プリエ=マヘオによると、現在、レイキャビク郊外のハフナルフィヨルドゥルにある強制送還ホテルに数家族がいるという。パレスチナ人の母親と8人の子どもたち(中には健康上の問題を抱えた子どももいる)は、スペインに縁がないにもかかわらず、アイスランドに向かう途中で経由したスペインに強制送還されることになっている。イラクからの他の2家族は、警察の手によって暴力を受けていたギリシャに強制送還される予定である。
ギリシャは難民申請者や難民を冷遇することで悪名が高い。アイスランドは子どもを同伴している難民申請者をギリシャに送還することを一時停止していた。同国の状況に鑑みてのことだが、昨年11月から送還を再開している。
プリエ=マヘオは、送還者用ホテルを「家族用倉庫」と呼んでいる。子どもたちは学校や余暇活動などに参加させてもらえず、ホテルが工業地帯内にあるために家族が利用できる地域施設も限られているからだ。
送還者用ホテルを出たのちに自発的に出国することを拒むと、あとはホームレスへの道が待っている。「車や街頭、テントなどで寝ている。家族を隠している人もいるが、見つかれば最大6年の禁錮刑が待っている」とプリエ=マヘオは語った。
しかし、「もし難民申請者が、申請却下後10カ月を生き延びることができれば、仮に身を隠していたとしても、ふたたび国際的保護を求めて難民申請することができる」と彼女は付け加えた。
他方、アイスランドの8月の失業率は2.9%だ。同国は、難民申請者を強制送還しようとするかたわら、コロナ後の予想以上の経済回復によって多くの産業部門で労働力不足が生じている。そこで、観光や飲食、建設などの部門で海外からの労働力移入が盛んになっている。
ウクライナ難民は戦争のために特別の扱いを受けている。彼らは入国から2日以内にアイスランドの社会保障番号を付与される。労働省によれば、雇用を得ることも容易だ。
昨年12月までは、ベネズエラの難民申請者も同様に自動的に難民の地位を得ていた。しかし移民局はすべての難民申請を凍結し、状況を再考することとした。4月、ベネズエラの状況は好転し、他の国の出身者と同じ扱いにしても差し支えないとの結論が出された。
「しかし、ベネズエラの状況は日々悪化している」とアイスランドに2カ月前に入国したアリ・ファーラットは話す。ファーラットは心理学者で料理人、企業経営の経験もある。彼自身は、赤十字や救世軍でボランティアをし、英語の講師も務めて忙しくしているが、「本当は仕事を見つけたい」とIDNの取材に対して語った。難民申請者として、移民局から一時労働許可を得ることはできるが、「居住地に欠くために許可をもらえない者もいる」という。
ファーラットには妻と4歳の娘がいるが、ベネズエラではたびたび身辺に危機が迫ったと話す。「国には戻れない。戻ったら1か月で殺される。」という。
ファーラットと同じように、ソマリア出身のアフメド(仮名)もアイスランドで働きたいと思っている。「多くの人がここに仕事のために来るが、支援がない」と話す。彼は、さまざまなルートを辿って、8カ月前にスペイン経由でアイスランドに入国した。アフリカ人はアイスランドでは少数派であり、彼らの扱いは他の国籍保有者に対してよくないと感じている。アフメドには国によるID番号が与えられていないため、働くことができない。
多くの難民申請者や難民は、レイキャビクの救世軍に支援を求めている。その多数がベネズエラ人であるが、中にはアフリカや中東出身者もいる。ウクライナ人もわずかながらいるが、彼らには自動的に難民の地位が与えられるため、概してより良い状況にある、と話すのは、救世軍の牧師イングヴィ・クリスティン・スキャルダルソンだ。
彼によれば、一部の難民申請者は路上生活をしているが、レイキャビクに住民登録がなく国のID番号も付与されていないため、ホームレス用の緊急住居にすら入れないという。「状況は深刻で改善の見通しがない」と彼は話す。
移民局によれば、今年の1月から7月の間の難民申請者の出身地は、ベネズエラ1208人、ウクライナ980人、パレスチナ139人、シリア59人、ソマリア57人となっている。移民・難民上訴委員会への上訴の後に難民申請が通った者は大部分がパレスチナ出身者(91人)で、拒絶された者は大部分がベネズエラ出身者(405人)だ。
スキャルダルソンの心には、いつも一つの問いがついて回る。「なぜ彼らにIDや労働許可をすぐに与え、彼らが自活し、国家の助けを得ずに生きていけるようにしないのだろうか? そうすれば、外国人労働者を移入しなくて済むはずなのに。」(原文へ)
INPS Japan
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