SDGsGoal15(陸の豊かさも守ろう)ソチミルコの生態系保全に欠かせないメキシコサンショウウオ

ソチミルコの生態系保全に欠かせないメキシコサンショウウオ

近年、メキシコサンショウウオ(日本では1980年代にカップ焼きそばのCMで「ウーパールーパー」の愛称で取り上げられ一世風靡したことがある:INPSJ)は、メキシコシティの住民の間で非常に人気が高まり、地域の象徴となり、メキシコの首都南部の生態系保全に重要な役割を果たしている。

【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アラヤ・アラニス】

写真:Guillermo Ayala Alanis.

メキシコ盆地に生息するこの両生類は、体長30センチで、微笑んでいるように見える親しみやすい外見をしている。メキシコシティ南部に位置し、アステカ時代以来の伝統と景観を今も色濃く残すソチミルコ湖水地域の生態系保全にとって、地元住民と自然環境を結びつける重要なリンクとなっている。

近年、メキシコサンショウウオはメキシコシティのシンボルとして、いたるところで目にするようになった。都市アートの一部として壁画に描かれたり、50ペソ紙幣の絵柄として登場したり、大学や研究センターでも生物学的および社会的側面が研究されたりしている。ホセ・アントニオ・オカンポ・セルバンテス博士(メキシコ国立自治大学ソチミルコ校(UAM-X)生物学・養殖研究プロジェクト責任者)は、メキシコサンショウウオは、動植物の生息地であり首都メキシコシティの「肺」の役割を果たしているソチミルコ湖水地域の自然環境を保全するうえで、非常に重要な位置を占める動物となっていると語った。

壁画に描かれたメキシコサンショウウオ。写真:Guillermo Ayala Alanis.
壁画に描かれたメキシコサンショウウオ。写真:Guillermo Ayala Alanis.

「この動物を、ソチミルコの生態系を保全するシンボルとして活用し、人々がメキシコサンショウウオに対して抱く感情を利用して、『私たちがメキシコサンショウウオが好きなら、絶滅の危機から救わないといけないが、そのためにはこの種が依存する生態系全体も保全しなければない。』と訴えるべきです。この小動物は、ちょうど水生系と陸生系動物の中間に位置する種です。」と、セルバンテス博士は語った。

2017年以来、オカンポ博士はメキシコ国立自治大学ソチミルコ校クエマンコ生物・養殖研究センター(CIBAC)の責任者を務めている。このセンターは、多くの運河が点在するソチミルコ自然保護区域の中心に位置し、研究のみならず、大学生たちに対する教育にも力を入れている。また、この地域には、メキシコサンショウウオだけでなく、鳥類、げっ歯類、魚類も生息しているため、メキシコシティにとって生態学的価値の高いこの象徴的な地域の保全と社会への普及を活動の目的に掲げている。

Dr. José Antonio Ocampo Cervantes, Head of the Cuemanco Biological and Aquaculture Research Project, UAM-X. Photo credit: Guillermo Ayala Alanis.
Dr. José Antonio Ocampo Cervantes, Head of the Cuemanco Biological and Aquaculture Research Project, UAM-X. Photo credit: Guillermo Ayala Alanis.

オカンポ博士は、INPSニュースの取材に対して、「市民と自然とのつながりについて啓蒙する活動の一環として、CIBACは学校やあらゆる年齢層の社会的弱者を対象としたガイド付き訪問を企画しており、訪問者はメキシコサンショウウオとその生態に驚いています。」と語った。 「幼稚園児から大学院生まで、またホームレスの子供たちなど社会的弱者のグループも訪れています。彼らが最初に口にするのは、こんな場所があるなんて想像もできなかった、首都圏の一部とは思えない、騒音も聞こえないし、鳥のさえずりが聞こえます。」

1998年にメキシコ国立自治大学(UNAM)生物学研究所によって報告された調査によると、ソチミルコ湖には1㎢あたり6000匹のメキシコサンショウウオが生息していたが、2014年の調査では、生息地の汚染により、1㎢あたり35匹しか生息していなかった。 生態系への外来種の侵入や住宅開発などによる運河などの埋め立てを背景とした生息地の縮小により、野生の標本が少なくなっているため、飼育下でオリジナルの標本を保存することが重要となっている。

飼育下では、ピンクや白といった淡い色の品種も繁殖しているが、CIBACでは、元は黒く頭の後ろにエラがあり、常に幼生の形態を残したまま性成熟する(変態しないことから自然界のピーターパンと呼ばれる)この不思議な生物の生態を研究し保存している。

ソチミルコ(ナワトル語で「花の野の土地」)は現在のメキシコシティを構成するメキシコ盆地南部に広がる平地で、運河が非常に多いことで知られる。これらの運河は古代にメキシコ盆地に広がっていた湖の一つソチミルコ湖の名残である。この地域は、トラヒネラと呼ばれる小舟が行き交い、チナンパ(沼の上に浮かぶ農地)が浮かぶ運河網の景観や文化などアステカ以来の伝統を色濃く残す町である。写真: Guillermo Ayala Alanis.
ソチミルコ(ナワトル語で「花の野の土地」)は現在のメキシコシティを構成するメキシコ盆地南部に広がる平地で、運河が非常に多いことで知られる。これらの運河は古代にメキシコ盆地に広がっていた湖の一つソチミルコ湖の名残である。この地域は、トラヒネラと呼ばれる小舟が行き交い、チナンパ(沼の上に浮かぶ農地)が浮かぶ運河網の景観や文化などアステカ以来の伝統を色濃く残す町である。写真: Guillermo Ayala Alanis.
Axolotls at CIBAC, UAM-X. 写真:Guillermo Ayala Alanis
Axolotls at CIBAC, UAM-X. 写真:Guillermo Ayala Alanis

また、メキシコサンショウウオは、四肢だけでなく脊椎や心臓なども再生可能であることから、再生医療の研究で注目されている。部分的に再生できる生物は他にもいるが、年齢を問わず元の器官と同等の器官を再生する点でこの種は異なる特徴を示している。

2018年、『ネイチャー』誌は「メキシコサンショウウオのゲノムと主要組織形成制御因子の進化」という論文を発表し、メキシコサンショウウオには3200万塩基対のDNAがあり、これはヒトゲノムの10倍の長さであり、シダ植物の一種であるツメシプテリス・オブランセオレイトに次いで世界で2番目に長いゲノムであることが判明した。

観光地に描かれたメキシコサンショウウオ。メキシコでは2月1日がこの不思議な生物のナショナルデーに指定している。写真:Guillermo Ayala Alanis
観光地に描かれたメキシコサンショウウオ。メキシコでは2月1日がこの不思議な生物のナショナルデーに指定している。写真:Guillermo Ayala Alanis

CIBACでは、メキシコサンショウウオの研究に加えて、農薬や工業製品を使わないトマトやキュウリなどの植物や野菜の栽培研究も行っている。

さらに、メキシコ盆地固有種の保護と保全の研究も行われている。その中にはオオカバマダラやレプトフォビア・アリパといった鳥や蝶も含まれ、バタフライ・ガーデンで研究、世話、監視が行われている。

メキシコサンショウウオとソチミルコのコミュニティとのつながりは、CIBAC付近の運河をトラヒネラ(ソチミルコを象徴する伝統的な小舟)が行き交う観光エリアでも見ることができる。この地域の住民は、メキシコサンショウウオがソチミルコの生態系に不可欠な生き物であり、国際的に知られた存在であることを理解し、観光振興に絵画やトラヒネラと共にサンショウウオのイメージを取り入れている。

2018年、メキシコ上院は、生態系や国の文化的アイデンティティにおけるこの謎めいた両生類の重要性を強調する目的で、2月1日をメキシコサンショウウオのナショナルデーと宣言した。(原文へ

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This article is brought to you by INPS Japan in partnership with Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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