【コンカエン(タイ)IDN=パッタマ・ビライラート】
ナリンティップさんは看護師として13年の経験を持ち、3歳と5歳の2児の母親でもある。夫は40歳で、ほとんどの時間を画面を見て過ごすユーチューバーだ。ナリンティップさんにとっては、インターネット漬けの夫の生活は心配の種で、子どもたちが夫の轍を踏むのではないかと気が気ではない。
彼女は子どもたちを携帯電話から遠ざけたかった。彼女は、携帯電話中毒の子どもは発育が遅く、長時間集中できなかったり注意散漫になる傾向があることをよく知っていた。
子供たちを屋外に連れ出し、野菜を植えたり、鶏に餌をやったり、砂や泥で遊んだり、水に飛び込んだり、庭で走り回ったりした。当初、彼女は子供たちの関心を携帯電話から自然に引き離すつもりだった。その後2017年、彼女は社会的企業であるファーム・バーンノーク・アカデミーを設立することで、その試みを実現した。
農場は、タイ北東部のコンケーン国際空港からわずか20分のところにある。子どもたちに持続可能な開発と人生にとって重要なスキルについて教える有機農場だ。
2023年の「スクリーン時間」(注:スマホやパソコン、ゲームなどの画面を眺めている時間のこと:INPSJ)の世界全体の平均は1日6時間58分であり、2013年より約50分長かった。子どもにセラピーを提供している米国の団体「クロスリバーセラピー」によると、0~2歳の子どもの半数がスマホをいじっているという。同時に、インドのビジネスデータ提供会社「デマンドセイジ」によると、タイ国民は1日平均5時間28分をスマホに費やしている。
インターネット利用と職業
IDNが2022年、タイ人のインターネット利用時間と職業の相関関係を調べたところ、公務員は1日平均11.7時間、次いで学生が8.57時間、フリーランスが7.4時間だった。
ナリンティップさんは、「6年前、自分の子どもをここに連れてきて畑を耕させました。この0.79エーカーの区画を自分たちで面倒見させたのです。子どもたちのお陰で、田んぼを耕していた自分の子ども時代のことを思い出すことができて、子どもたちにも都会で農村生活を送らせようと思ったのです。すべての活動をSNSに載せたところ、私の農場への関心が高まって、結局『バアノアク農場アカデミー』を立ち上げることになりました。」と語った。
彼女は看護師の仕事を辞め、子どもたちの健全な成長と「足るを知る経済」の推進に時間を捧げた。「 足るを知る経済」とは、タイの故プミポン国王が、あらゆるレベルでバランスのとれた安定した発展を実現するために提唱した理念である。
今日、タイの小学校では「足るを知る経済」という概念を教えている。「私たちの学校はコンケーン市内にあり、敷地も限られているため、子どもたちにタイの農業や『足るを知る経済』の哲学に沿った農業について教えるには十分なスペースがありません。ですから、私たちは生徒たちをバーナオク・アカデミーに連れて行き、国の基幹である農業体験をさせています。」とコンケーン市の小学校で教鞭をとるレウタイテップ・ブーンリトラクサ氏は語った。
農場には全部で14のステーションがあり、それぞれが自然教室として機能し、生徒や訪問者たちは家庭で応用できる新たなライフスキルを学ぶことができる。
ステーション1:ニワトリやアヒルの卵を集める。ニワトリ・アヒル・魚・ウサギ・ネズミにえさを与える。
ステーション2:光合成微生物のための有機野菜栽培
ステーション3:コンポストやミミズコンポスト(ミミズ堆肥)の製作。(リサイクル水ボトルハウスの項を参照)
ステーション4:携帯電話によって制御された菜園への自動水やり
ステーション5:土壁づくりと絵描き
ステーション6:コメ、田の耕し、コメの育苗、田作り、苗植え、コメの収穫、脱穀
ステーション7:泥すべり台、砂遊び、木登り
ステーション8:炭火焼のピザ、パパイヤサラダ、オムレツ、チャーハン、アイスクリーム作り
ステーション9:心肺蘇生法と応急手当のトレーニング、漢方学習
ステーション10:天然の藍を費用日田絞り布や旗作り
ステーション11:アート。陶器への絵付け、環境にやさしい布袋への絵付け、粘土工作
ステーション12:ハーブ石けん、アロマを利用した蚊除けスプレーづくり
ステーション13:桑の実を使用したジュース・スムージー・ジャム・ワイン造り
ステーション14:瞑想とヨガ。子どものリーダーシップ強化プログラム
農場体験をした5年生のピチャイ・ヨドチムさんはIDNの取材に対して、「1日の体験を楽しみました。土壁を作ったり泥遊びをしたりするのは初めてだったけど、楽しくて、教室で勉強するより良いと思いました。また来たいです。友達のソムサクさんは、ミミズが土壌の水はけをよくするということを学んでいました。驚いていた様子でした。」と語った。
引率教員のレウタイテップさんは、「子どもたちを連れてきたのは3回目です。ここでは伝統的なタイの農業が学べるし、子どもたちは、新しいことを学んだり、友だちと自由に遊んだりできるすべてのステーションを楽しんでいます。今日は75人の児童を連れてきましたが、楽しそうにしていて何よりです。子どもたちが将来的に追求することができる『生きるためのスキル』の種をまくというのが私たちの目的ですが、この農場はそれにぴったりなのです。」
この世代の子供たちは、ソーシャル・メディアに囲まれて生まれ、自然の中で生活した経験がほとんどないため、攻撃的になりがちです。テクノロジーと自然を調和させ、環境を保護することを教えていきたい。私が今していることは、子供時代からソフトな人間関係のスキルを学ばせることで、良きタイ市民に育てていくことなのです。」とナリンティップさんは語った。
農場が2017年に開園してから実に1万5000人が活動に参加してきた。ステーション1での卵集めは最も人気の活動だ。各ステーションでの活動は、子どもたちの年齢に応じて調整されている。
たとえば、3~5歳の子どもは泥すべり台で遊び、7~11歳の子どもは木炭ストーブで調理を行う。
農場ではさまざまなプログラムが体験できる。週末コース、5日間コース、政府関係者のための学習ツアーもある。これは、「足るを知る経済」について職員に学んでもらうことを目的としたものだ。ほとんどの活動は、子ども一人当たり100~300バーツ(3~9米ドル)の負担で行える。
ナリンティップさんは常に、農場での現場の体験が子どもたちをスマホなどから遠ざけるかどうかを基準に置いている。「もし子どもたちが5日間のコースに参加し、それぞれのステーションを組み合わせれば、列に並ぶこと、友達をいじめないこと、分かち合うことを学ぶでしょう。コースの中で、子どもたちは自分たちでルールを決める。その後、家に帰ると、礼儀正しくなり、家事を手伝うようになったと親たちは話しています。」
にもかかわらず、子どもたちをスマホなどから遠ざけてこの行動を変容させるには、親自身が自らの行動を変えて範を示さねばならない。ナリンティップさんは、「子どもたちは、親がスマホで遊んでいるのを見て、自分も楽しみたいと思う。結局のところ、子どもたちは親と一緒に遊びたいのですが、親は画面に夢中なのです。」とナリンティップさんは指摘した。(原文へ)
INPS Japan
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