【アルマトイINPS Japan/London Post=アッソリャ・ミルマノヴァ】
国連総会は、中央アジアおよびアフガニスタンの国々を支援するため、カザフスタンのアルマトイに国連持続可能な開発目標(SDGs)地域センターを設立する決議を採択した。このカザフスタン提案のイニシアチブは国際社会から広く支持され、152の国連加盟国が共同提案国として名を連ねた。
同センターは、SDGs達成に向けた取り組みの調整を行う国際的なプラットフォームとして機能し、知識の共有、政策対話、共同プログラムの実施を促進する。地域の課題評価、開発進捗のモニタリング、そして政府、国際機関、企業、市民社会と連携したエビデンスに基づく解決策の策定を主な任務とする。
この取り組みは、持続可能な開発の達成には地域的な協力と状況に即した対応が不可欠であるという認識の高まりを反映している。中央アジアは、気候変動、水資源管理、経済の多様化、社会の安定など、独自の環境的・経済的・社会的課題に直面している。同センターの設立により、アルマトイは国際的専門知識、技術支援、政策革新の拠点となり、各国の開発戦略をグローバルな持続可能性基準と整合させることが可能となる。
また、同センターは地域と国際社会の懸け橋となり、中央アジア諸国およびアフガニスタンのニーズを国際SDGアジェンダに反映させる。制度能力の強化、包摂的な経済成長の促進、国境を越えた協力の強化を通じ、持続可能な開発を実現可能な目標とする。
なぜこのセンターは中央アジアにとって重要か

同センターの設立は、中央アジア各国が直面する気候変動、水資源管理、経済多様化、社会的レジリエンスといった構造的課題に対処するための制度的枠組みを提供する。
特に中央アジアは、砂漠化、土壌劣化、水資源の枯渇、異常気象といった気候変動の影響を受けやすい地域である。同センターは、衛星技術や地理空間分析を活用して環境変化を監視し、気象予測や早期警報の精度向上に貢献する。さらに、地域の気候適応戦略の策定、グリーン技術の普及、持続可能な農業への転換を支援する。
水資源の枯渇と国境を越える水資源の管理は、しばしば外交的緊張の原因となる喫緊の課題である。同センターは科学的研究と政策調整の場として、各国政府が公平な水分配メカニズムを構築し、節水技術や灌漑技術を導入する支援を行う。
また、天然資源に依存する経済構造からの脱却も重要である。同センターは、グリーン経済や包摂的経済成長、持続可能な都市開発のための政策提言と支援プログラムを提供する。交通インフラや再生可能エネルギー分野の革新を促進し、長期的な経済安定に貢献する。
さらに、若年人口の割合が高い中央アジアにとって、人的資本の育成は持続可能な進展のカギを握る。同センターは教育プログラムの設計、社会保障の強化、平等な機会の推進に貢献し、持続可能な開発にあらゆる層が参画できる社会の実現を目指す。
なぜこのセンターはカザフスタンにとって重要か

このセンターのアルマトイ設置は、持続可能な開発と多国間協力におけるカザフスタンの役割を強化し、国家の戦略的利益と国際アジェンダの双方に合致する。
第一に、国連センターの誘致により、国際資金、投資、技術協力へのアクセスが飛躍的に向上する。国際開発資金の競争が激化する中、国連の支援を直接受けられる拠点は、カザフスタンの専門家や研究機関にとって大きな優位性となる。アルマトイは国際機関の地域拠点としての地位を確立し、経済活性化にも寄与する。特に、情報操作や極端な言説が拡散する時代において、非政治的かつ科学的根拠に基づく協力の場が重要である。
第二に、カザフスタンが直面する砂漠化、土地劣化、水不足といった環境・気候問題に対し、国際的専門知識の導入が持続可能な水管理戦略の強化につながる。すでに水資源省を設立しているが、地域協力と国際的支援を組み合わせることで、より包括的な対応が可能となる。
第三に、これまで断続的で非制度的だった中央アジアの地域協力を、国際基準に則った制度的枠組みに格上げできる。政治的立場が異なる中でも、国連は中立的な対話の場として広く信頼されている。
第四に、カザフスタンは常に多国間外交の推進役を担ってきた。このセンターの存在は、国際機関との連携、外交影響力の拡大、国際的政策対話への継続的な参画の機会を提供する。見えにくいながらも重要な政策形成において、カザフスタンが積極的な役割を果たすことを可能にする。
このセンターの設立は、トカエフ大統領の戦略的先見性の表れであり、サービス産業を中心とした経済・投資機会の創出にもつながる。
低炭素経済への移行、グリーン技術の開発、インフラ近代化、社会的包摂など、カザフスタンの国家優先課題はSDGsと深く結びついており、このセンターはその戦略的実現に寄与する。
加えて、152カ国の共同提案国を集めた外交努力も特筆すべきである。これは単なる手続きではなく、カザフスタン外務省による緻密な交渉と説得の成果であり、多国間の場で戦略的利益を推進する外交力の証左である。
ただし、国際的信頼を維持するには、人道政策、特に移民・難民問題への一貫した取り組みが求められる。周辺地域の不安定化が続く中、難民流入への備えや人道的対応が、安定した地域パートナーとしての信頼を保つカギとなる。
変化する安全保障環境:予防型アプローチへの転換が必要
移民危機は発生時よりも、政府が無準備であるときに深刻化する。アフガニスタンの不安定、気候悪化、周辺国の経済危機により、中央アジア全体で移動人口の急増が予想される。
カザフスタンは、難民統合のための枠組み一時的受け入れ、教育・雇用・医療へのアクセスを含む―を早急に整備すべきである。これがなければ、突発的な移民流入は社会不安や経済的負担、国際的信頼の低下を引き起こしかねない。移民政策は人道的義務であるだけでなく、地域リーダーシップの戦略的要素でもある。
アフガニスタンは現在、テロリズム、経済・政治不安など複合的な脅威の震源となっており、過激派の拠点化リスクも高まっている。当NGOと国連テロ対策室が実施した研究によれば、ロシアやウクライナ発の軍事プロパガンダが中心だった頃から、アフガニスタン発の過激主義的言説が中央アジアに影響を与えつつある。カザフスタンは他国に比べて被害が少ないが、これは一時的な猶予に過ぎない。
かつては閉鎖的ネットワークや対面による勧誘が主だったが、現在はSNSや暗号化通信を活用し、社会的・経済的困難を抱える若者が標的とされている。テレグラムなどを通じた過激思想への誘導例も報告されており、国家保安委員会(KNB)の努力はあるものの、自己過激化や単独犯テロを監視・防止する包括的体制はまだ整っていない。
もはや、関与者の摘発・再教育に依存する従来型の対策では不十分である。新たな支持者の獲得を防ぐ「予防」が最優先課題とならなければならない。
英国、ドイツ、オランダなどの国々では、対過激化政策は学校、メディア、市民団体、デジタルプラットフォームも巻き込んだ「社会全体の取り組み」として進められている。カザフスタンも早期発見、社会的レジリエンスの強化、教育政策との統合を図るべきである。
「安定の時代」は終わり、「予測不能な新たな安全保障環境」に移行している。カザフスタンの未来の安全は、危機が顕在化する前に「予測し、適応し、行動」できるかにかかっている。
当NGOは市民社会の安全保障への関与を強化すべく、メディアリテラシー教育や若者の批判的思考能力の育成に注力している。また、全国の約20の市民団体を結集し、「過激化・テロ防止市民団体コンソーシアム」を設立。地方専門家の育成や啓発活動を展開している。
この分野での取り組みは、人間の命に直結する課題であり、遅れは深刻な結果を招く。我々の活動は国家レジリエンス強化の一翼を担っているが、包括的な対応には国際機関や専門家、政策立案者のさらなる参画が不可欠である。
アルマトイに設置される国連SDGs地域センターのように、国境を越えた協力と知見の交換を促進する取り組みは、カザフスタンおよび地域の安定と安全保障に向けた極めて重要な一歩となる。(原文へ)
INPS Japan/London Post
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