ニュース視点・論点北東アジアに非核兵器地帯?(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長)

北東アジアに非核兵器地帯?(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長)

【キャンディ(スリランカ)IDN=ジャヤンタ・ダナパラ】

2015年、核兵器が米国によって史上唯一使用された広島・長崎への恐るべき原爆投下から70年を迎える。北東アジアにおける核問題の解決を緊急に模索する必要性は、アジア太平洋核不拡散・核軍縮リーダーシップ・ネットワーク(APLN)が9月に発表した「ジャカルタ宣言」の次の文章に強調されている。

「世界に1万6000発以上存在する核兵器の多くがアジア太平洋地域に集中しており、米国とロシアが世界の核備蓄の9割以上を保有しつつ大規模な戦略的プレゼンスを同地域に保っており、中国・インド・パキスタンがかなりの規模の核戦力を保持しており、国際社会に背を向けている北朝鮮が引き続き核能力を増強しつづけていることを痛烈に意識し…」

「民生原子力利用の今後予想される世界的な成長の大部分-十分かつ効果的に規制されなければ、そうしたエネルギー生産には核拡散や原子力安全、核保安のリスクが伴う-がアジア太平洋地域で起こるであろうことに、さらに留意し…」

北朝鮮の核計画をめぐる六か国協議は、中国の北朝鮮に対する忍耐力すら失われていく中、成果をほとんど生み出していない。一方、第二次世界大戦の苦い経験を巡る中国と日本、韓国の間の緊張は続いており、東シナ海南シナ海における島嶼の領有を巡る紛争が、米国が後ろに引いていることもあって、.緊張関係をさらに悪化させている。

大陸棚、海底宇宙空間といった離れた場所の非核化は別として、今日の世界には、5つの非核兵器地帯(中南米、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジア)、1つの一国非核兵器地帯(モンゴル)、1つの無居住非核兵器大陸(南極)がこれまでに法的に確立され存在している。こうした非核地帯の前例は、他の地域でもそのまま模倣可能なものではないが、国連軍縮委員会は、非核兵器地帯の将来的な提案の参考とすべくガイドラインを設けている。

北東アジア非核兵器地帯の提案にはそれ自体のメリットはあるが、このように緊張に満ちた地域において非核地帯に向けて第一歩を踏み出すのはまだかなり先の話だろう。東北アジア非核地帯化の提案は、北朝鮮の核兵器計画への解決策としても、日本や韓国が核兵器オプションを行使することを妨げる防護策としても、あらたな意義を持っている。また、中国が非核地帯条約の議定書を受け入れれば、東アジアにおける中国の核の脅威を緩和することにもつながるだろう。この提案については、学者や議員らの間で熱心に議論されており、これはおそらく、政策決定レベルにおける協議の先駆けとなるだろう。

概念的に見れば、非核兵器地帯は、核不拡散条約(NPT)に加盟した非核保有国が第7条規定に従って起こしている「アファーマティブ・アクション(差別是正措置)」だと言えるだろう。非核保有国の間には、実際にはNPT以前から核兵器への強い反対があり、非核兵器地帯の創設は核兵器なき世界に向けた構成要素となる。

たしかに、諸々の非核兵器地帯条約はその前文で、世界的な核軍縮について曖昧にしか触れていない。非核兵器地帯は、核兵器による汚染から国々や地域を保護する防疫地帯としては、採用している一連の禁止条項について一貫したものがあるわけではない。たとえば、南太平洋非核兵器地帯のためのラロトンガ条約や中央アジア非核兵器地帯のためのセミパラチンスク条約は、核保有国と防衛協定を結び、拡大核抑止を享受している国々を含んでいる。

ラロトンガ条約の場合は、核兵器を積んだ艦船が非核兵器地帯を通過し加盟国に寄港することを認めている。巧妙な起草を通じて非核兵器地帯に込められた原則や禁止条項にこうした妥協的内容をもたらすことは、条約の中心的な価値を棄損するほど禁止条項を根本的に矛盾させることとはみなされなかった。非核兵器地帯創設に関する1999年の国連軍縮委員会のガイドラインは、とりわけ次のように述べている。

国連軍縮委員会ガイドライン

 「非核兵器地帯の目的と目標を損なわないように主権を行使する非核兵器地帯の加盟国は、外国の船舶や航空機による自国の港や空港への立ち寄り、外国の航空機による自国領空の通過、(無害通航権、群島水域の通航、国際航海のために利用されている海峡の通航を完全に尊重して)外国船舶による自国領海、群島水域、あるいは、国際航海のために利用されている海峡の航海を認めるかどうかについては、自由に決定することができる。」

すべての非核兵器地帯条約は、各加盟国の主権的判断にしたがって、核兵器を積んだ航空機が上空通過したり核を積んだ艦船が国際水域を通過したりすることを認めている。バンコク条約は、排他的経済水域(EEZ)や大陸棚に関する条項を含んでいる。しかし、これが国連海洋法条約に従っているかどうかには議論の余地がある。ジョゼフ・ゴールドブラット氏は、中央アジア非核兵器地帯についてこう述べている。

「このことは、核兵器の通過が許可されることも拒否されることもあり得るということを意味している。しかし、この決定は条約の目的または目標を『損なうものであってはならない。』通過の頻度や期間は条約によって制限されていないことから、通過が持ち込みとどう異なっているのかも明確ではない。上で言及したような条項によっては、NPT第7条(地域の非核化条約を締結する諸国の権利に関する条項)で予定されたような、中央アジア非核兵器地帯における核兵器の完全なる不在は保証されていない。」

「ほんの短い時間であっても非核兵器地帯に核兵器が持ち込まれることになれば、地域非核化という念願の目標を損なうことになる。さらに、非核兵器地帯のある加盟国が核兵器の通過を認めれば、他国の安全保障に影響を与える可能性もある。」

非核兵器地帯条約の他の側面に関して言えば、オーストラリアが、NPTに加盟していないインドに対してウランを輸出すると最近決定したことは、ラロトンガ条約違反であると一般には考えられている。このように、容認された非核兵器地帯のガイドラインは、柔軟に解釈されてきたことが明らかになっている。

しかし、すべての非核兵器地帯の場合にNPTの条項が適用されることになる。なぜなら、既存の非核兵器地帯に属するすべての国がNPTの加盟国でもあるからだ。

従って、核を保有したいかなる国によって提供される拡大核抑止の適用、あるいは核の傘の下での保護も、NPTの中心的な条項のひとつである第1条違反であるとみなされなければならない。

第一に、[NPTでは]核兵器の移転や、核兵器を「直接または間接に」管理することは禁止されている。この条項は、欧州にある5つのNATO諸国(ドイツ、オランダ、ベルギー、イタリア、トルコ)に米国が核兵器を配備することで侵犯されてきたが、米国は、これらの核兵器は米国の管理下にあるため問題ないと主張している。しかし非核保有国は、米国によるこの見解をNPT運用検討会議などの場でしばしば拒絶している。いかなる非核兵器地帯も、核保有国の管理下にある場合であれ、違法な場合であれ、核兵器が実際に配備されることを認めていない。

第二に、非核保有国が核兵器を取得したり管理下に置いたりすることを「いかなる方法によっても支援、勧奨、勧誘しないこと」とする禁止条項は、オーストラリアや日本、韓国の場合のように、核保有国との二国間条約によって核兵器による防衛が合意されているとすれば、明らかに侵犯されている。

国際司法裁判所の判決

国際司法裁判所(ICJ)は、1996年7月8日の勧告的意見で、いずれも核兵器の使用あるいは使用の威嚇を含む核抑止と拡大核抑止について、明確な判断を下している。マーシャル諸島政府が9つの核保有国に対してICJに提起した訴訟は、来年取り上げられたら、1996年の勧告的意見を明確化し内容的に広げることになるかもしれない。

このように、北東アジアの非核兵器地帯には、その安全保障を脅かしている地域の複雑な問題に対する解決策として、称賛に値する数多くの理由がある。しかし、非核兵器地帯の基本原則に関して妥協すれば、事態を悪くするだけだ。過去の非核兵器地帯の協議においては例外が設定され曖昧な妥結が多くなされてきたが、それが将来の非核兵器地帯の前例として引き合いに出されることはありえないし、そうであってはならない。拡大核抑止と非核兵器地帯は相互に排他的なものであり、北朝鮮の核計画が解体された暁には、韓国と日本が長らく保護されてきた米国の核の傘は、地域と世界の安全保障の利益にかんがみて、閉じられなくてはならない。

バラク・オバマ大統領が2009年4月にプラハで行った演説と、核兵器なき世界という目標に関連してその後に起こったすべてのことは、グローバルな状況を変えてきた。ジョージ・シュルツ、ヘンリー・キッシンジャー、サム・ナン、ウィリアム・ペリーといった冷戦の闘士たちは、有名な2007年の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙への寄稿文のなかでこう述べている。「冷戦の終焉によって、ソビエト連邦とアメリカ合衆国のあいだの相互抑止という教義は時代遅れのものになった。抑止は、他の国家による脅威という文脈においては、多くの国家にとって依然として十分な考慮に価するものとされているが、このような目的のために核兵器に依存することは、ますます危険になっており、その有効性は低減する一方である。」

核抑止と拡大核抑止を葬り去るのは今だ。NPTの5つの核保有国によって保証された北東アジア非核兵器地帯の創設は、地域にとって必要な新たな安全保障の枠組みである。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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