【コロンボIDN=ヘマリ・ウィジェラスネ】
ミレニアム開発目標(MDG)の教育に関する項目を達成し、国家独立後のサクセスストーリーの一つだと考えられているスリランカの無償教育が、この人口2200万人の国を襲った経済危機のために危機に瀕している。
急激に高騰する紙価格のために、教科書やノート(生徒らはこれをメモを取ったり演習をする際に利用する)を入手することが難しくなっており、多くの貧困層には手が出ない。演習ノートの値段は、昨年は80ぺージで50ルピー(0.14米ドル)、400ページで450ルピーだったのが、今年はそれぞれ120ルピー、920ルピーとなっている。
生徒は今月、新学期のために学校に戻ってきているが、保護者たちは教材高騰への対処を迫られている。スリランカの辺鄙な村に住んでいる保護者らは、日々ギリギリの生活を迫られている中で子どもたちの教育にどうお金を配分するかに頭を悩ましている。時には、どの子を学校に通わせどの子を通わせないかという苦しい判断もせざるを得ない。
スリランカ南部の村に住む「アトゥラ」(本人の希望により仮名)はIDNの取材に対して、自身の2年生から6年生までの孫5人が学校に通うことが難しくなりつつあると語った。バス運転手をしている息子の収入は学費を賄うには十分ではない。
「学校に行く時には子どもたちにきちんとした格好をさせたい。靴が破れたまま学校に行かねばならず、泣いて帰ってくる孫もいる。一体どうしたらいいのか。 これは私の家族のみならず、スリランカのほとんどの子どもが直面している問題だ。」とアトゥラは語った。
2人の子を学校に通わせているある母親は、「学校の教材費が高騰しており、信じられない物価の高騰でただでさえ苦しい家計を直撃しています。」と語った。
「2カ月ぐらい前なら、のりは1本100ルピーぐらいで買えていました。しかし、今では300ルピーも払わなければならない。12色入りの色鉛筆は580ルピーに値上がりしました。」と彼女は言う。さらに、学校のカリキュラムで必要とされるワークブックなどが値上がりしており、あるシンハラ語のワークブックはかつて225ルピー、今は500ルピーになっている。
スリランカでは1945年に無償教育が導入された。5歳以上16歳未満の全ての子どもが無償教育を受ける権利が定められ、1950年代には大学教育にまで拡大した。1950年代半ばには、国語政策の導入によって、教育は特に貧しい農村地帯でも受けられるようになった。以前は、都市部で英語を話す家庭のみが享受できる特権だった。
スリランカの識字率は1951年の13.5%から2022年には92.6%にまで上昇した。MDGが定めた普遍的な初等教育達成の目標をスリランカが実現することを可能にした、持続可能な開発における大きなサクセスストーリーだとみなされている。
スリランカには何世紀も前から素晴らしい教育の伝統があり、欧州による植民地化以前は、寺院を基礎にした「ピリウェナ」教育の伝統が支配的だった。現在、多くの教育関係者が、経済危機の影響で識字率が急速に低下することを懸念している。
厳しい経済状況の中、地元の慈善団体は、世界中のほとんどの低所得国で蔓延している非識字の罠から農村部の家族を救うために活動を続けている。
マララセケラ財団は、スリランカの偉大な仏教学者G.Pマララセケラ博士の名を冠した社会奉仕財団で、現在は彼の孫であるアシャン・マララセケラ氏が理事長を務めている。同財団は長年にわたり、農村部の子どもたちの教育支援に力を注いできた。コロナウイルスが蔓延していた時期には、オンライン教育のためのデータ通信サービスを無償で提供した。現在は、新学期を迎えるにあたり、学校の教科書を届ける活動を実施している。
同財団のマノジ・ディヴィスラガマ事務局長は、「当財団は創設以来、教育を必要とする子どもたちの支援の最前線に立ってきた。マララセケラ財団は、プログラムを実行するための資金集はしません。私たちは、恵まれない人々を支援するという使命を果たすために、自分たちのリソースを使っています。」と語った。
この活動には、クシル・グナセケラ氏が設立し、クリケットの名選手ムッティア・ムラリタラン氏が支援する「善の財団(FG)」などの慈善団体の支援も得ている。「彼らの支援で、私たちは人々の生活を向上させる様々な活動を行うことができた。私たちの教育への取り組みは、現在の経済的混乱やコロナ禍から始まったのではなく、大津波がこの美しい島を襲い、子どもたちの精神面での健康と教育に支障をきたしたときから始まったのだ。」と、ディヴィチュラガマは語った。
このとき、財団は2005年にハンバントタ地区に子どもたちのためのリソースセンターを設立した。「津波災害で両親を失った子どもたちの生活再建に直接介入し、彼らの心の健康のためにカウンセリングを行うことができたのです。」とディヴィチュラガマは付け加えた。
その後、同財団はハンバントタ、スリアヤウェヴァ、カタラガマの3カ所にもセンターを設置した。カタラガマは南部の極めて貧しい農村である。ディヴィスラガマは、「カタラガマの子どもリソースセンターでは、教育を受け、人生を切り開いていくために支援を必要としていた約300人の子どもたちを支援することができた。英語、数学、シンハラ語、音楽を無料で教えています。スリランカ東部のタミル系やイスラム教徒の村々でも子どもを支援しています。」と指摘したうえで、「子どもたちの教育を表面だけで見ているのではなく、根本から面倒を見たいと考え、『善の財団』と組んで、妊婦に栄養食・基本食を提供する事業を立ち上げた。」と説明した。
仏教の慈善団体であるマララセケラ財団は、子どもたちの精神的な成長にも気を配っている。スリランカの南部諸州でダーマ学校(お寺の日曜学校)に通う子どもたちのための事業をいくつか立ち上げた。学生の家族に書籍や保存食を提供している。
同財団は主に村のお寺に無償のインターネット利用施設を造り、子どもたちを集めている。カタラガマでは、財団がカタラガマ・デバレの由緒ある神殿に40台のPCを設置して貧困層の子どもたちを対象にしたオンライン教育センターを立ち上げた。DP教育プラットフォームの支援を得て、600人以上の学生を支援している。
マララセケラ財団が支援している父親の一人ダヤル・カピラ・ガンヘワはIDNの取材に対して、「私は定職に就いていません。毎日2500ルピー(7米ドル)を稼ぐのがやっとです。毎日働けるわけではなく、だいたい月に10~15日程度。子どもは3人で、うち2人は学校に通っているが、物価高騰で全ての教材を買うことはできない。収入を超えてしまうからだ。」と語った。
もう一人、財団の支援を受けているのは、練習帳を受け取った子どもの母親、ナディーシャだ。「私の夫は電気技師だが、毎日の定収入がないため、夫の収入だけでは日々の生活を賄うことは無理。子どもは2人で、一人は10年生、もう一人は4年生。食費に使ってしまうと、子どもの教育で使う本代は残らない。これでどうやって子どもを学校に通わせたらいいのか。いま私たちが直面している大きな問題です。」とナディーシャは語った。
こうした経験は珍しいものでない。あらゆる社会経済的背景を持つ人々が、家計の生活費と子どもの教育費のバランスを取るのに苦労している。
ディヴィスラガマは、「スリランカの無償教育制度は危機に瀕しています。今の経済危機の中では多くの家庭の子ども達が教育を受けられなくなっています。だから私たちのような財団が支援に乗り出さなければならない状況にあるのです。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
関連記事: