SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)ロヒンギャ難民、バングラデシュにもミャンマーにも安全な居場所はない

ロヒンギャ難民、バングラデシュにもミャンマーにも安全な居場所はない

【国連IPS=オリト・カリム】

4月4日、ミャンマー当局は、バングラデシュに滞在している約18万人のロヒンギャ難民が帰還の対象となることを確認した。だが、ドナルド・トランプ米統領によるUSAID(米国国際開発庁)支援の削減、そしてミャンマーで深刻化する人道危機の中で、帰還が本当にロヒンギャ難民にとって最善の道なのかは不透明なままである。

Location of Bangladesh
Location of Bangladesh

ラカイン州でミャンマー軍が行った一連の武力攻撃と人権侵害を受け、100万人以上のロヒンギャが民族迫害から逃れ、バングラデシュのコックスバザールに避難した。ロヒンギャはミャンマー政府により市民権を否定されており、現在、世界最大の無国籍民族とされている。コックスバザールは「世界最大の難民居住地」とも言われている。

過去1年間だけで、7万人以上のロヒンギャがバングラデシュへ逃れた。バングラデシュ政府は2018年以降、80万人以上のロヒンギャ難民の名前を帰還対象者として提出してきた。ミャンマー政府はこのうち18万人を帰還対象として認め、さらに7万人については審査中であると発表。さらに、残る55万人についても確認作業を加速するとしている。

しかしながら、2017年の軍事攻撃以降、ミャンマー国内の人道状況はさらに悪化しており、ロヒンギャにとって安全な帰還環境とは到底言えない。ミャンマー国内で続く内戦は、数千人の市民の命を脅かし続けており、政治的・経済的な混乱に加えて、地震によって打撃を受けた保健医療体制も大きく損なわれている。支援団体や政府が安全な帰還を実現することは困難な状況だ。

そもそも、帰還プロセスは、100万人のロヒンギャがバングラデシュへ逃れることとなった根本原因に対処していないという批判もある。

ロヒンギャ難民のシャフィクル・ラフマン氏はこう語る。「何年も待たされた挙げ句、確認されたのは18万人だけ。これはただの目くらましにすぎません。私たちは本当の解決策を求めています。ミャンマーは私たち全員を受け入れるべきであり、市民権と尊厳、権利を保障して帰還させるべきです。それがなければ、このプロセスに意味はありません。」

現在、バングラデシュ国内のロヒンギャ難民は、過密状態、不十分な基本サービス、暴力、気候変動、そして搾取の中で暮らしている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、バングラデシュは自然災害による被害を最も多く受けた国の第3位にランクされている。猛暑、サイクロン、洪水、大雨といった気候変動の影響はロヒンギャに特に深刻な影響を与えている。

「この難民キャンプと、それを受け入れている地域社会は、気候危機の最前線にいます。夏は灼熱で火災のリスクが高まり、モンスーンとサイクロンの季節には洪水や地滑りが家屋や命を奪います」と、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は語った。

コックスバザールの過密も治安悪化を招いている。UNHCRの推計によれば、キャンプ内の避難民の50%以上が女性と少女であり、性暴力や搾取のリスクに常にさらされている。

「夜になると暴力が増す」と、難民たちは国境なき医師団(MSF)に訴えている。あるロヒンギャ難民は「大きな物音を聞くと、ミャンマーにいたときの恐怖がよみがえります。誰かが来て、連れ去られるんじゃないか、もっと酷いことが起こるんじゃないかって。心臓がドキドキして眠れません。安全を感じたいけど、それが難しいんです。」と語った。

MSFの推定によれば、2024年には1,000人以上の若者がミャンマーで武装グループに徴用されたという。暴力の被害者たちは報復を恐れ、正義を求めたり医療を受けたりすることすらできない。

ジャムトリ・クリニックのメンタルヘルス・カウンセラーはこう語る。「多くの患者が暴力を恐れて避難所から出られません。医療施設に行けば家族が狙われるのではと不安なのです。実際に過去に起きたシェルター放火などの暴力が、その恐れの根底にあります。」

USAID
USAID

人道団体や報道機関は、トランプ政権によるUSAID(米国国際開発庁)資金の削減が、帰還支援とロヒンギャの保護体制に深刻な影響を与えていると警告している。グテーレス国連事務総長は、コックスバザールを「資金削減の最も深刻な影響が出る“震源地”」と表現し、「無制御な人道的災害になる」と語った。

国連児童基金(UNICEF)バングラデシュ代表ラナ・フラワーズ氏は、「米国の補助金削減により、ロヒンギャの子どもたち向けサービスが大幅に縮小され、命や安全、将来が危機にさらされている。」と警鐘を鳴らした。また、医療制度の弱体化によって「致死性の高い感染症の発生リスクが増加し、公衆衛生全体が脅かされる。」とも述べている。

ロヒンギャが平和的に帰還するには、彼らを追い出した根本問題に対処しなければならない。フラワーズ氏も「彼らは安全に帰国できる状況にない上に、働く法的権利もありません。」と語った。

Prime Minister of the Republic of the Union of Myanmar Min Aung Hlaing

ロヒンギャ難民の安全な帰還のためには、ミャンマーでの保護体制を強化するための資金が持続的に必要である。ロヒンギャに対する迫害の問題は、法的に解決されなければならない。とりわけ、彼らにミャンマーの市民権を付与するための法改正は、平和的かつ恒久的な帰還に向けたカギとなる。また、国際人道法違反に対する説明責任と透明性の確保も必要だ。

国連ミャンマー人権特別報告者のトム・アンドリューズ氏は次のように述べている。「ロヒンギャの苦しみに対する責任は国家のトップにある。ジェノサイドを主導したミン・アウン・フライン氏は今や非合法かつ正統性のない軍事政権の頂点に立ち、ミャンマー全土の市民に攻撃を加えている。彼は責任を問われ、法廷に立たねばならない。」

そしてこう続けた。「ロヒンギャはもはや空虚な約束にうんざりしている。彼らの子どもたちは政治的な美辞麗句や無意味な国連決議では生きていけない。世界はこの無関心という致命的な麻痺状態を終わらせねばならない。ジェノサイドの責任者に対する即時の措置、そしてロヒンギャの命と未来を救うための行動が今すぐに必要だ。」(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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