SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)今、癒しを得るためには?

今、癒しを得るためには?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ポーラ・グリーン】

バイデン大統領は「わが国の魂を癒そう」とたびたび訴える。リンカーンは、「国の傷を癒す」ことについて書いた。現在あらわになった壊れた国の姿は、これらの言葉に新たな意味をもたらす機会を示しているだろうか? われわれは、流血を止め、症状を診断し、根本原因を治療することができるだろうか?(原文へ 

癒えるとは、元の健康状態に戻るということであり、修復し、再構築し、復旧することである。しかし、米国は大量虐殺と奴隷制という原罪を負っているため、われわれがやるべきことは、再構築というより構築であり、より健全で公平な国家を共同で創造することである。

ジェームズ・ボールドウィン(訳者注=20世紀後半に活躍した米国の黒人小説家)の言葉にヒントがある。「直面したことのすべてを変えることはできない。しかし、直面しなければ何も変えることはできない」

社会の治癒は、認識と説明責任から始まる。それが、なされた被害に対処するための最初のステップである。わが国の開拓者たちによる植民地の歴史は、アメリカ先住民をほぼ全滅させ、捕らえたアフリカ人を奴隷化することから始まった。その後の数世紀には、無節操な産業化と過剰な資本主義により、放棄された農場、工場、スラム街、困窮する住民が生まれた。これがわれわれの唯一のストーリーというわけではないが、癒しを得るために、われわれが向き合わなければならない現実である。

われわれは、このような系譜の陰の中で生きている。分断と怒りが渦巻く状況は、何ら驚くべきことではない。構造的暴力や個人的暴力による影響を見て見ぬふりをしてきた結果が、現在の狂信的行為へとつながっていることは明白である。権力、特権、将来の見通しにおける大きな格差が、われわれを分断している。黒人であれ白人であれ、都市の住民であれ地方の住民であれ、米国社会の構成員は疲弊し、失望している。破れた夢、荒れ果てた風景、そして暴力は、われわれの不健康さの症状である。

根本原因に対処するためには、富と貧困に関する現在の経済的前提を考え直す必要がある。インフラを強化し、文化間の関係を構築するために、フランクリン・ルーズベルトによる市民保全部隊の21世紀版を実施してはどうだろうか? 福祉によって傷付けられる自尊心やルサンチマンの代わりに、安全と安心を確保する何らかの保証されたベーシックインカムを導入し、すべての人の不可欠なニーズを満たしてはどうだろうか?

今こそ、先見の明のある政府が介入すべき時である。社会経済的関係に関する包括的かつ革新的な国家タスクフォースが、癒しに向けて、構造と関係性の両面から措置を講じることを想像して欲しい。経済的変化と社会的変化は一体であり、どちらか一方だけでは不十分である。われわれには、お互いに抱く非人間的な認識を和らげるだけのスキルがある。人生に前向きになれる雇用を創出する富があり、それによって不平等を減らし、尊厳を高めることができる。

メディア、教育機関、政府、民間部門が力を合わせて取り組むことで、現在の分断をもたらしている危険な断絶から、われわれを連れ戻すことができるだろう。マスメディアは、米国の人々をより深く、複雑に描くことができるのではないか。共感と包摂を構築するために、全国規模の啓蒙活動やメディアの取り組みから小規模で親密な対話まで、慎重に設計された戦略によって、米国人はお互いへの非難とステレオタイプ化から脱却し、共通の切望を見いだすことができるだろう。全国のコミュニティーリーダーや宗教的指導者の関与を得て、それぞれの影響力が及ぶ範囲の中で敵意を和らげてもらえばよい。

関連し合う個人と集団の歴史がわれわれの言動を決定し、認知、行為、投票意向を形成する。われわれの信念は、何もないところから生まれるわけではない。しかし、われわれにはある程度の柔軟性があり、人生を歩むとともに態度や言動を変えていくことができる。他者に及ぼした歴史的損害を真摯に認めることが、溝を埋めるために寄与する。

過去を認めるに当たり、政府の代表者や個人は、謝罪をし、心からの反省を示すことができる。第二次世界大戦後のドイツは、重大な加害行為に対するハイレベルでの謝罪と補償が必要であることを認識していた。ドイツ政府は、意味のある償いが伴わない反省は浅薄であることを認め、将来の損害についても監視と保護を約束し、広範囲に及ぶ補償を提供した。

米国は、現在の損害と歴史的損害の両方に対する正式な補償について国家的議論を始めるため、能力のある決意の固い指導者を必要としている。奴隷制による計り知れない損害と蔓延する不平等の過酷な被害によって、社会にあらゆる人種的、政治的分断があふれ、経済的、政治的正義の実現が待たれている。包摂的な人権の概念を持つことが、対立意識のある人種、階級、そして地域のルサンチマンを克服するために役立つだろう。

恐怖は、社会不安の背後で、音もなく燃える炎である。家族関係の変化、地位の喪失、経済状況の悪化に対する恐怖は、しばしば、家庭内や街中での破壊的な言動をもたらす。これまでの歴史では、女性のエンパワーメントや公民権といった進歩に対しては、たとえそれが穏当なものであっても、ヘイトクライムや暴力の増加という反応が見られた。あるグループにとって利益になることは、別のグループにとっては損失である、と間違って理解されている。

排除され、侮辱され、軽蔑されたと感じている人々は、寄り集まって不満を募らせ、不正だと思われる事柄を正すためには報復しかないと思うかもしれない。しかし、報復はむしろ対立を激化させ、破壊の応酬の繰り返しをもたらす。窓を叩き割り、議事堂を襲撃し、街を焼き払い、自分にはもはや失うものはないと思い込む。現在の状況をもたらした深層構造に取り組まない限り、このような事態が止むことはない。

満たすことができない物質的、精神的ニーズは、しばしば暴力を引き起こす。すべての人の経済的な安心感を高め、潜在能力を発揮させることによって、方向性を誤った憤怒と非難を激しくぶつけたいという衝動を抑えることができるだろう。わが国において変革を持続させるためには、社会の構成員全員の安心、福祉、承認といったニーズを満たす必要がある。わが国が、経済的、政治的、社会的平等という理想に沿って行動するとき、平和と正義の循環が訪れるだろう。

ポーラ・グリーンは、米国に在住。Karuna Center for Peacebuilding(カルナ平和構築センター)の創設者であり、School for International Training(スクール・フォー・インターナショナル・トレーニング大学院)の名誉教授である。現在、保守派と革新派の対話を促す米国のプロジェクトHands Across the Hills(ハンズ・アクロス・ザ・ヒルズ)を率いている。また、世界各地で、紛争下にあるコミュニティーへの取り組みを行ってきた。https://www.paulagreen.net/

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