この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=イリア・プヨサ】
カブールに向かって進攻している時、タリバンは、WhatsAppのボイスノート、TwitterやFacebookへの投稿を通して、自分たちの軍事的勝利を予想していた。タリバン反乱軍は、アフガン政府軍の兵士たちが大して戦いもせず投降しているというストーリーを、複数のメディアを駆使して作り上げた。カブール制圧の前日、タリバンが勝利に向かって前進する光景を携帯電話やドローンで撮影した映像が世界に配信された。タリバンによる電光石火のアフガニスタン制圧には、いくつかの政治的要因と軍事的要因があった。その中でも、ソーシャルメディアを使った戦争プロパガンダコンテンツが、アフガニスタン政権崩壊に役割を果たした。タリバンのソーシャルメディアを駆使したコミュニケーション戦略は、米国の「大国」イメージに楯突くタリバンの優位さという新たな物語を助長する手段となった。(原文へ 日・英)
タリバンは早くから、ソーシャルメディアを導入していた。彼らは、2009年にYouTubeチャンネルを立ち上げた。2011年からはFacebookとTwitter、2015年からはWhatsAppとTelegramを始めている。近頃では、Clubhouseのチャットルームを運営し、Twitterスペースを開催している。彼らのデジタルコミュニケーションは多言語で、英語、アラビア語、パシュトー語、ダリー語、ウルドゥー語に及び、公式アカウントと非公式アカウントのネットワークによって拡散を図っている。
ソーシャルメディアの武器化については近年多くのことがいわれており、政敵を犯罪者呼ばわりする、間接的に物理的な攻撃につながる嫌がらせをするといったことが指摘されている。しかし、本稿の関心は、武力作戦の展開を支援するためのソーシャルメディア利用を指摘することである。タリバンが2021年8月第1週にソーシャルメディアチャンネルを駆使して組織的に行ったことは、軍事情報支援作戦に近いものだった。軍事戦略学専門家ベンジャミン・ジェンセンが最近書いたように、8万人のタリバン兵は、AK47よりソーシャルメディアを使いこなすスキルのほうがはるかに高い。確かに、タリバンは地方を占領している間に作戦能力を構築し、アフガン政府軍の兵士は政権が弱いことを知っていた。それでも、今回のケースでは情報戦の能力を過小評価することはできない。
タリバンは、兵士の個人アカウントから発信された動画、音声、ソーシャルメディアの投稿を共有し武器にすることによって、それらが、準備不足の政府軍に直接影響を及ぼし、戦闘任務を放棄させた可能性がある。タリバンのメッセージ発信は、アフガン政府軍の戦闘意欲を効果的に低下させたのである。前哨基地の政府軍兵士たちは、タリバンが襲来する前からすでに恐怖に打ち負かされ、戦闘意欲を失っていたのである。彼らは、勝利を収めながらカブールを目指して進攻するタリバンに制圧された人々の姿を目にしたため、戦闘する前に投降したり、逃亡したりした。
よく知られている通り、タリバンは危険な組織に指定された後、Facebookから追放された。YouTubeの暴力犯罪組織に関するポリシーは、暴力犯罪組織が制作したコンテンツ、または暴力犯罪組織を称賛、正当化、勧誘することを目的としたコンテンツを禁止している。しかし、これらのプラットフォームから公式に追放するだけでは、タリバンがソーシャルメディアやWhatsAppでコンテンツを拡散するのを止めるには不十分であることが分かった。米国の外国資産管理局は、グローバルテロ制裁規則においてタリバンとつながりのある15の組織をリストアップしている。しかし、タリバンに参加している個人はリストに含まれておらず、したがって、テロの推定に基づいて自動的にソーシャルメディアプラットフォームから追放することはできない。そもそも、ソーシャルメディアプラットフォームは、アフガニスタンを発信元とするコンテンツをシェアした人全員を追放するべきではない。そのような広範囲にわたる措置を講じれば、自らの市民的・政治的権利を守るために団結する人々を含め、インターネット上で合法的なビジネスを行おうとしている人々全体に害を及ぼすことになる。
追放やコンテンツの調整だけでは、情報戦争を阻止するには不十分かもしれない。Twitterは、タリバンのソーシャルメディア作戦への対策として、暴力の美化およびプラットフォームの操作とスパムを禁止する規則に違反する可能性のあるコンテンツを積極的にチェックしていると表明した。にもかかわらず、Twitterはタリバン報道官のアカウントを凍結しておらず、アカウントのフォロワーは現時点で50万2千人に達している。
2021年8月、Facebookはアフガニスタンのタリバンの作戦に関連するコンテンツを綿密に監視するための特別オペレーションセンター(SOC)を設置した。Facebookは2021年前半にイスラエルとパレスチナの間で一連の衝突が起こった際にも、同様のSOCを設置したことがある。このような特別オペレーションセンターは、紛争地域における情報戦争に対処する有望な方向性かもしれない。しかし、SOCがその真価を発揮するためには、監視とコンテンツの調整以上のことをする必要がある。それは、被害を防ぐだけではなく、良い行いをするという倫理観に基づいた詳細な紛争分析もおこなうことである。
「テロリズムに対抗するためのグローバル・インターネット・フォーラム」(GIFCT)は、ソーシャルメディアプラットフォームが協働し、過激派またはテロリストと特定されたコンテンツを共有するデータベースを提供している。この種の技術的対策は、有害コンテンツのさらなる拡散とバイラル化を防ぐために役立つだろう。しかし、このようなアプローチは、企業による検閲や公共の問題に関する情報へのアクセス制限に関連する問題ももたらす。
タリバンの軍事行動に伴うソーシャルメディア戦争の利用は、新たな憂慮すべき傾向を示している。われわれはすでに、より小規模な紛争とはいえ、他にも武装主体が軍事作戦に伴ってソーシャルメディア戦争を利用するのを目撃してきた。今こそ、保護する責任に関する国連憲章の条項が適用されうる武力紛争や脆弱な国家という文脈で、ソーシャルメディア戦争に対抗する方法について議論を始めるべき時である。この問題に対処するには、ソーシャルメディアや情報戦争、武力紛争、平和構築、グローバルガバナンスなど、さまざまな分野の専門家の協働が必要である。国際機関、市民社会組織、ソーシャルメディア企業は、連携して危機対応タスクフォースを結成してもよいだろう。ソーシャルメディア戦争に対抗するには、複雑な紛争の体系的分析を実施し、影響を評価し、トレードオフを検討し、持続可能な安定と平和促進に寄与する方法を構想する必要があるだろう。
イリア・プヨサは、情報戦争および政治紛争分野を専門とする政治コミュニケーション学者であり、戸田記念国際平和研究所で「ソーシャルメディア、テクノロジーと平和構築」に関する国際研究諮問委員(TIRAC)を務めるほか、ベネズエラ中央大学のコミュニケーション研究所(ININCO)でアソシエートリサーチャーを務めている。コロンビア、エクアドル、ベネズエラ、米国の大学での勤務経験がある。ミシガン大学で博士号を取得。現在の研究テーマは、ネットワーク化された社会運動、権威主義体制下での市民抵抗、情報戦争、民主主義の崩壊である。近著は、Asymmetrical Information Warfare in the Venezuelan Contested Media Spaces。
INPS Japan
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