【シドニーINPS=ニーナ・バンダリ】
多様なニュージーランド社会で確固たる存在感を持つアジア系イスラム教徒に新たな光を当てる本が出版され、展示会も同時に開催されている。
「The Crescent Moon: The Asian Face of Islam in New Zealand」(仮題:三日月-ニュージーランドのアジア系イスラム教徒)は、ニュージーランドを社会経済学的、文化的に豊かにしてきたイスラム教と多様なアジア文化をより良く理解し正しい認識を深めるため、インド、マレーシア、インドネシア、フィジー出身のイスラム教徒に関して伝えている。
ニュージーランド最初のイスラム教徒は130年前、中国から人里離れた海岸に到着した南島ダンスタンの金鉱で働く5人だ。(1874年4月ニュージーランド政府調査に基づく)1950年時点で信者は150人だったが、1996年実施の調査でイスラム教徒は14,000人弱登録された。
2001年の調査では、イスラム教徒の数は先住民マオリ族の伸びが最も多く、10年で99人から708人に増えていた。2001年以来、ニュージーランドのイスラム教徒は52.6%増加し、2006年実施の最新調査ではほとんどがアジア出身の36,072人だった。アジアには世界のイスラム教徒の半分以上が居住する。現在、ニュージーランド在住イスラム教徒の人口はなだらかな伸びを示している。
今日、ニュージーランドには40カ国から来たイスラム教徒がおり、ヨーロッパ出身の3,000人とマオリ族700人がいる。
著者エイドリアン・ジャンセン氏と写真家アンス・ウェストラ氏は2年以上ニュージーランド内を旅して回り、民族も、文化も、神学的にも異なるアジア系イスラム教徒のニュージーランド人37人に正直で率直なインタビューを行い、写真を撮り、この本を製作した。中には第3、第4世代の移民もいる。ジャンセン氏は次のようにIPSに語った。
本の中で、フィジー出身のイスラム教向け肉屋、アフガニスタン政府で外務大臣を務めたオタゴ大学の政治学教授、ラグビー選手、ITの教師、芸術家、科学者等ニュージーランド社会の中核の一部となっているアジア系イスラム教徒を紹介するのが目的。しかし、幅が広すぎて全部は紹介出来ておらず、最も保守的な意見は入っていない。国で少数派の中のさらにその隅にいると感じると、公に意見を述べるのも慎重になる、とインタビュー中多くの人が語った。
50年ものキャリアを持つ著名なドキュメンタリー写真家ウェストラ氏は、ポートレートに各個人の毎日の暮らしで関わりの深い物を一緒に写そうとしたが、大切な物を隠しておきたいと言ってポーズだけ取った人も多いと言う。様々な写真からは個性が伝わってくる、と自身もオランダに生まれ、十代後半にニュージーランドに移民したウェストラ氏はIPSに語った。
9・11テロ事件の影響を受けた人も多い。事件をきっかけにイスラム教への見方が変わったと感じている人、米国を祖国と思っていたがイスラム教徒への差別の子供への影響を恐れニュージーランドに移住した人などだ。
ニュージーランドも事件の影響を免れなかった。「“互いへの関心、尊敬し合う心”を築く助けをするのが大切」と、アジア・ニュージーランドの文化財団(Culture at the Asia New Zealand Foundation)責任者、ジェニファー・キング氏は言う。「ロンドン同時爆破事件(2005年)後、ニュージーランドでも少ないが反イスラム教の動きがあったので、本と展覧会の参加者に率直な思いを述べてもらった。“生ぬるい”本にするつもりは当初からない。」
長期に渡り、移民に英語を教えてきたジャンセン氏は、「インタビューで多くの人がマスコミの事件の報道の仕方について述べており、イスラム教徒といえば自爆テロのイメージを植えつけるなど、イスラム教への偏見を生んでいるのが心配だ。そして、イスラム教の習慣と見られているものが文化的習慣でしかないこともあり、多くの人がイスラム教とその人の属する民族性を分けて理解して欲しいと願っている。少数派は孤立しがちだから気を付けなければならない。」と言う。
9・11以降、若者はイスラム教から離れる者と、以前よりはっきりイスラム教徒だと表明するようになった者に分かれるという。
キング氏はこの展示会がニュージーランドが外交関係のあるイスラム諸国でも開催されることを願っている。
多様なニュージーランド社会のアジア系イスラム教徒に新たな光を当てる本について報告する。 (原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩