SDGsGoal6(安全な水とトイレを世界中に)世界は危険な新冷戦2.0に陥りつつある

世界は危険な新冷戦2.0に陥りつつある

【ニューヨークIDN=ジョセフ・ガーソン】

ロシアによるウクライナ侵攻と、もし西側がウクライナ情勢に直接介入してきたら壊滅的な核攻撃に訴えるとウラジーミル・プーチン大統領が繰り返し脅していることは、無条件で非難されるべきであり、反対すべきことだ。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

プーチン氏はエマニュエル・マクロン大統領にウクライナ全土を奪取するつもりだと語っているが、各地で行われているデモ活動が要求しているように、即時の停戦とウクライナからの全外国軍の撤退、協議を要求しなくてはならない。

プーチン氏とロシア国民には、たしかに安全保障に関する正当な懸念がいくつもあった。つまり、北大西洋条約機構(NATO)が、欧州安全保障協力機構(OSCE)のいかなる加盟国も他国を犠牲にして自国の安全保障を強化しないことを約束したパリ憲章やNATO・ロシア基本議定書に違反したこと、米国・ドイツ・その他のNATO軍がロシアの国境に存在し、核の先制使用につながりかねないミサイル防衛網をルーマニアとポーランドに配備していることなどである。

しかし、プーチン氏の民族主義的、大国主義的野望が侵略に拍車をかけたことは明らかであり、それは正当化されるものではなかった。ロシア軍がウクライナの三方を取り囲んでいたため、プーチン氏には安全保障上の懸念の解消を確実にするための外交的な影響力があった。

また、ロシア、欧州、米国の元政府高官やアドバイザーが参加したトラック2協議では、迫りくる危機から抜け出すための外交的道筋が話し合われ、NATO拡大の凍結、ウクライナ国家を中立化・連邦化する「ミンスク2」合意の構築、中距離核戦力全廃条約の発展・更新、挑発的な軍事演習の制限、戦略的安定協議の再開、新戦略兵器削減条約(新START)延長に向けた協議などが、提案されていた。

プーチン氏への憎悪をかつて隠しもしなかった米国のマイケル・マクフォール元駐露大使ですら、ロシア政府との大きな交渉(グランド・バーゲン)、すなわち「ヘルシンキ2.0」を開始すべき時だと『フォーリン・アフェアーズ』誌で主張していた。

にもかかわらず、プーチン氏は野蛮な軍事侵攻を開始した。

スローモーションのキューバミサイル危機

米国とNATOはこの戦争を回避するためにもっと多くのことができたはずだ。ジョー・バイデン大統領とブリンケン国務長官は、フランスとドイツがウクライナのNATO加盟に反対し、NATO拡大への「新たな扉」を閉じることを求めていたのだから、15年間はNATO拡大の凍結を提案することもできたはずである。

Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.
Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.

ミンスク2合意の一部の履行をウクライナ政府に迫ることができなかった米国は、ウクライナの独立と民主主義を損なわない形でロシアの安全保障上の懸念に応えるようなウクライナの中立化・連邦化を交渉すべく同合意を利用する方向に自らを向かわせるべきであった。

今や、ウクライナとロシアの殺し合いが始まってしまった。ウクライナ各地の都市は荒廃している。少なくとも200万人のウクライナ市民が避難した。そして、世界は、新たな氷河期とも呼ばれる、危険な新冷戦2.0の時代に陥りつつある。

事故や計算違いから核戦争やサイバー戦争が起こるリスクが増し、人間の基本的なニーズや気候変動に対応する貴重な資源を新たな軍拡競争と社会の軍事化のために浪費する中で、人類はもっとも暗い時代に突入しつつある。

プーチン氏の核の脅しは極めて危険なものだ。彼はロシア経済を空洞化しつつある大規模かつ無差別的な経済制裁を非難しつつ、国家指導者と包囲された国家の下に集い戦争へと踏み出すように国民を先導している。

ウクライナ上空に飛行禁止区域の設定を求める高まる圧力にバイデン大統領が負けることがあれば、限りなくロシア・NATO間の戦争に近づく。米軍やNATO軍の航空機がロシアの航空機を撃墜すれば、大戦、おそらくは核戦争は不可避だ。そこまで行かなくとも、戦争が戦われている中で事故や衝突、計算違いなどがあれば、考えられないような事態が起こる可能性がある。

Address by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy to the US Congress., PDM-owner

ウクライナがブダペスト覚書により、領土と主権の保全の保証と引き換えに、ソ連から継承した核兵器を放棄していたことから、既に、米国による台湾への核配備や、日本や韓国の核保有を認めるよう求める声があがっており、ウクライナがふたたび核を保有するかもしれないというウォロディミル・ゼレンスキー大統領のミュンヘン安全保障会議での不用意な威嚇につながっている。

「スローモーションのキューバミサイル危機」と米ロ双方の識者が評した事態に直面して、世界は、無視しえない核兵器と核戦争に断固とした「ノー」を唱えるとともに、停戦を要求しなくてはならない。この危機の中に、たとえかすかではあっても一筋の光明があるとすれば、この核の威嚇と危険が、核兵器廃絶が緊急に必要であることについて人類を目覚めさせつつあるということである。

残忍な戦争と核の脅威の中にあって、皮肉なこともある。プーチン氏の武力侵攻と核の脅威が恥ずべき行為であるのと同様に、その行為は、数十年、或いは数世紀に及ぶ米国の帝国主義と核の脅威を模倣したものでもある。

外国からの介入に対する緩衝地帯と勢力圏を追求するロシアの行動は、数世紀の歴史を持つ米国の「モンロー主義」の合わせ鏡だ。米国はこれによって西半球は自らの勢力圏であると主張して、非協力的な政府を繰り返し転覆させ、キューバミサイル危機に際しては核戦争開始の威嚇をかけた。

ダニエル・エルズバーグ氏らが指摘してきたように、数多くの国際危機や戦争の間、米国の歴代の大統領は繰り返し、核戦争の準備をし、敵を威嚇する核戦争の脅しをかけ、米国が攻撃を仕掛けようとしている相手を誰も支援しないようにさせてきた。

例えば、1946年のイラン危機がそうであったし、朝鮮戦争時のハリー・トルーマン大統領とドワイト・アイゼンハワー大統領、ベトナム戦争時のリンドン・ジョンソン大統領とリチャード・ニクソン大統領、湾岸戦争とイラク戦争前夜のジョージ・ブッシュ大統領とジョージ・W・ブッシュ大統領、そして、北朝鮮に対するドナルド・トランプ大統領の「炎と怒り」の威嚇がそうであった。

Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB
Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB

漫画「ポゴ(Pogo)」の作者ウォルト・ケリーが我々に教えてくれるように、この危機が教えてくれるものは「我々が目にしている敵は、実は我々自身」だということだ。被爆者は我々に「人類と核兵器は共存できない」ということを長年に亘って教えてくれている。

そして、マルコムXが述べたように、核戦争を開始するとの再三の脅しと準備を含めた米国の傲慢さと帝国主義は、結局のところ自らに跳ね返ってくる。ちょうど、ロシアのウクライナ軍事侵攻と核使用の威嚇によって我々すべてが現在脅かされているように。

戦争の熱が高まる中、誰も核戦争の引き金を強く引くことがないようにするための知恵が緊急に求められている。これまでのすべての戦争の場合と同じく、我々がこの戦争を生き延びることができるとして、それは外交的協議によって終末を迎えることになるだろう。

また、我々は、その合意によってウクライナの独立と主権を確保し、破滅的な21世紀の氷河期への勢いを止めて、共通の安全保障という1990年代の約束を復活させねばならない。

部分的核実験禁止条約や核凍結、中距離核戦力全廃条約を勝ち取った際に我々がそうしたように、幻想から抜け出して、命を守る核軍縮や新たな軍備管理協定、これらの絶滅兵器の廃絶に向けた道筋へと野蛮な諸大国を導くためにできるすべてのことをなさねばならない。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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