【IDNマドリッド=パオラ・ヴァレリ】
「アフリカ大陸は自給自足が可能であり、一世代の間にそれは実現可能である。」12月2日にタンザニアのアルシャ市で開催された東アフリカ共同体(EAC)非公式会合の会場で、各国首脳の前でこう語ったのは、ハーバード大学ケネディ校のカレスタス・ジュマ教授である。この会合のテーマは「アフリカの食糧安全保障と気候変動」であった。
事実、ジュマ教授がビル&メリンダ・ゲイツ財団の支援で完成させた新報告書「The New Harvest: Agricultural Innovation in Africa」には、数十年に亘って行われてきた原材料を輸出し食料を輸入する政策を、いかにアフリカ大陸のみならず国際社会全般にとっても有益な形で転換をはかることが可能か記されている。現在、アフリカの雇用の7割を農業関連の仕事が占めている。
国際農業開発基金(IFAD)中央・西アフリカ部長のモハメド・ベヴォグィ氏は、「従って、技術と知識に対して投資を行うことが、アフリカ経済を近代化し数百万人に食の安全保障を確保し、さらに気候変動や砂漠化、温室効果問題等に対処する上で最も効果的な方法です。」と語った。
1億9000万の人口を抱えるブラジルは僅か5年の間に食料の自給自足を成し遂げた。そして、アフリカも、技術と適切なインフラ、そしてノウハウに裏打ちされた農業政策を展開できれば、ブラジルと類似した転換を図ることが可能である。
正しい政策を適用することでどのような成果を得られるかについて考える際、アフリカで展開されたHIV/Aids対策が参考となる。つまりこのプログラムでは、患者に対する治療よりはむしろ感染防止に取り組む市民社会や教育を通じた啓発活動に資金を投入することで大きな成果をあげた。
メディアは、アフリカが抱える現実のほんの一部のみを抽出して定型概念化したイメージを報道する傾向があるため、結果的にアフリカについての誤ったイメージを広めている側面がある。例えば、標準体重に達しない子供のイメージがこれに当たるものである。実際は世界の標準体重に達しない子供の46%は南アジアに集中しているにもかかわらず、多くの人々は、こうした子供のイメージを聞くとアフリカの子供を想像してしまうのである。
従来行われてきた世界各国の対アフリカ政策やアフリカ現地の政策は、いずれもアフリカの対外依存を助長するものだったし、財政援助もアフリカ各国の経済成長を促すというよりはむしろ援助受領国側の腐敗を助長した側面があったことが明らかとなっている。
メディアが伝えるアフリカのイメージとアフリカ大陸に対する諸政策の直接的な関連性を明らかにしようとする試みは、正当性が認められにくい、むしろ大胆なものかもしれない。しかしメディアには、21世紀のアフリカ大陸の現実や、アフリカの人々が自らの未来を切り開こうと努力しているダイナミックは現実をよそに、「無力なアフリカ」のイメージを作り上げてきた責任がある。
アフリカ大陸は、依然として課題が山積しているものの、その優れた潜在能力を示す様々な兆候が顕在化してきている。
例えば過去15年間を振り返ると、栄養不良の問題や教育分野で順調な成果を上げてきている。この期間、アフリカ大陸における栄養不良人口は5%減少し、サブサハラ以南の地域における初等教育就学率は57%から76%に改善した。
ミレニアム開発目標(MDG)の観点からみると、アフリカの数カ国が大きな成果を挙げている。例えば、ガーナはMDGの第一目標である「極度の貧困と飢餓の撲滅」を既に達成している。
国連開発計画(UNDP)によると、「ルワンダは開発とMDGs達成に向けた進歩という点でユニークなケースである。1990年代、多くの国がMDGsを実施する軌道にあった一方で、ルワンダは1994年の大虐殺と内戦の傷跡から回復している段階であった。」
またUNDPは、マラウィは予防接収プログラムで大きな成功を収めており、MDGsに関しても保健、教育、女性と開発、環境、良い統治の分野で成果が期待できると報告している。
パラダイムシフト
南アフリカ政府通信情報システム局(GCIS)のテンバ・ジェームズ・マセコCEOは、今こそアフリカや全ての開発途上国に対する、メディアや意思決定者のものの見方が根本的に転換されるべき時にきていると考えている。
アフリカが依然抱えている課題は明らかであり、取り組んでいかなければならない。マセコ氏は、アフリカが変わっていくための鍵として以下の5つの分野を挙げている。①貧困、婦女子虐待、人権問題に取り組むリーダーシップの必要性、②投資や企業活動を促進する経済政策、③集団移住、頭脳流出とそれに伴う技術・知識の損失の問題に取り組む必要性、④森林破壊から、鉱物資源の乱開発、砂漠化まで多岐にわたる環境問題への取り組みの必要性、⑤腐敗問題への取り組み。
その他にも、ダイナミックなアフリカが今まさに現出しようとしている兆候がある。例えば携帯電話の急速な普及である。2003年から08年までの期間にアフリカにおける携帯電話の契約者は5400万人から3億5000万人へと550%の伸びを示した。多くのアフリカ諸国では依然としてブロードバンドへのアクセスが困難なため携帯機器が中小企業にとっても基本的なツールになったのである。
今日、アフリカ諸国は、携帯電話を使った銀行サービスや電子取引について、世界に先行している。ケニア、タンザニア、南アフリカ、ザンビアにおいては、携帯電話ネットワークのオペレーターが、銀行を仲介しない支払や送信サービスを提供している。そしてSMS(ショートメッセージサービス)を通じた支払いが農村地域で広く普及している。
アフリカは世界で2番目に大きな、そして最も人口が多い大陸である。そしてその人口のほぼ半数が15歳未満のおそらく世界で最も若く出生率が高い大陸でもある。たとえメディアが注目しなかったとしても、(メディアが描いてきた無力なイメージとは異なる)もうひとつのアフリカ、つまり自らの考えを持ち、深刻な未解決の諸問題に積極的に立ち向かっていこうとするダイナミックなアフリカが現出している。そしてこの新たなアフリカが、全世界の将来のためにも、国際社会からの支援を必要としているのである。
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
パオラ・ヴァレリ氏は国際人権団体の出版・編集部門に勤務。また、Civilización Global誌の編集委員でもある。2010年IPS年次会合に出席した。
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