この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています
【Global Outlook=王広濤(ワン・グアンタオ)】
高市早苗首相の台湾をめぐる発言を発端とする日中間の外交上の緊張は、短期的には緩和の兆しをほとんど見せていない。両国関係は「新常態」に入りつつあるのかもしれない。

2026年初頭以降、日中双方は対抗措置の応酬を重ねてきた。1月6日、中国商務部は、日本向けのデュアルユース品に対する輸出管理を強化すると発表した。2月24日には、日本の20団体・機関を輸出管理リストに追加し、さらに20団体・機関を監視リストに載せた。3月24日には、自衛隊員が刃物を持って東京の中国大使館に立ち入る事件が発生し、国際的にも大きな注目を集めた。さらに、4月10日に公表された日本の2026年版外交青書では、中国の位置づけが「最も重要な隣国の一つ」から、単に「重要な隣国」へと格下げされた。
こうした一連の否定的な応酬を、どのように理解すべきだろうか。日中両国は当初から関係改善に消極的だったのか。それとも、現在の関係悪化は主として高市氏の台湾をめぐる発言に起因するものなのか。一部には、高市氏が自民党総裁となり、その後首相に就任した時点で緊張は避けられず、北京はもともと二国間関係に高い期待を抱いていなかったと見る向きもある。しかし、この解釈はやや決めつけが過ぎるかもしれない。
たしかに、高市氏が過去に中国関連の問題をめぐって行った発言を踏まえれば、中国政府が高市氏の台頭を歓迎していなかったことは事実である。それでも北京は当初、慎重に推移を見守る姿勢を取っていた。注目すべきは、高市氏が靖国神社参拝を控え、中国に関わる人権問題でも露骨な強硬姿勢を取らなかったため、中国側もハイレベル接触の可能性を残していたことである。2025年10月31日、両国首脳は韓国で開かれたAPEC首脳会議に合わせて会談しており、当時はなお、一定の外交的安定を維持し得る余地があったことを示している。
11月7日の高市氏の台湾をめぐる発言に対し、北京が強く反発した背景には2つの要因がある。第1はタイミングである。発言は首脳会談の直後になされたもので、意図の有無にかかわらず、外交の雰囲気を損ない、さらに重要なことに、中国指導部の政治的威信を傷つけるものと受け止められた。中国外交部が「奉示」、すなわち上層部の指示を受けて日本大使を呼び出したことは、この問題が最高政治レベルに達していたことを示している。第2は発言の中身である。台湾有事が日本による集団的自衛権の行使を可能にする事態に該当し得るという高市氏の示唆は、北京が明確なレッドラインとみなす一線を越えるものだった。日本側が何らかの有事対応計画を持っているとしても、現職首相が国会の場でその可能性に公然と言及したことは、これまでなかった。
一見すると、現在の状況は、2010年の尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺での衝突事件を機に悪化した日中関係を思い起こさせる。しかし今回は、より深く、長期にわたる影響を及ぼす可能性が高い。その背景には、3つの構造的要因がある。
第1は、台湾問題が占める中心的な位置である。尖閣諸島をめぐる領有権問題について、中国は少なくとも原則として、係争の存在を認めてきた。これに対し、台湾問題はあくまで内政問題として位置づけられている。北京の視点からすれば、外部からの関与は内政干渉にほかならない。この意味で、台湾は日中関係だけでなく、中国の対外関係全般を測る重要な指標となっており、今後もそうあり続ける可能性が高い。台湾をめぐる各国の立場や行動は、その国が中国の核心的利益を尊重しているか、また過去の政治的約束を守っているかを測る試金石として、ますます重視されるようになっている。こうした文脈のなかで、高市氏は発言を撤回していないだけでなく、さまざまな場で日台協力を強調しており、政策上の柔軟性には限界があることをうかがわせる。
第2は、政治的な意思疎通のチャンネルが弱体化していることである。過去には、二国間関係が困難に直面した際、中国との太いパイプを持つ日本の有力政治家がしばしば仲介役を担ってきた。安倍晋三政権や岸田文雄政権の時代には、首相の親書を携えた特使がたびたび中国を訪れ、対話の促進に努めた。自民党の連立パートナーだった公明党の関係者も、意思疎通の維持に寄与してきた。しかし現在、そうした役割を担ってきた政治家の多くは表舞台を去っている。
同時に、日本国内では対中強硬姿勢が政治的正当性を増している。関与や対話を訴える政治家は「親中派」と見なされるリスクを負い、最近の衆議院選挙では、そうした印象が一因となって議席を失った者もいるとされる。その結果、与党連合内でも野党内でも、中国と積極的に向き合おうとする人物、あるいは政治的にそれが可能な人物は少なくなっている。
第3は、関係改善に向けた明確な契機が乏しいことである。短期的には、すぐに外交的打開につながる機会はほとんど見当たらない。今年夏に愛知・名古屋で開催されるアジア競技大会は、人的交流やスポーツ交流の場となり、草の根レベルから徐々に雰囲気を改善する可能性はある。しかし、二国間関係の実質的な進展には、最終的にハイレベルの政治的イニシアチブが不可欠であり、現時点ではその機運を欠いている。
関係改善に向けた一つの機会となり得るのが、11月に深圳で予定されているAPEC首脳会議である。2014年に北京で実現した安倍晋三首相と習近平国家主席の会談を先例に、日本は同様の首脳会談を模索する可能性がある。実現すれば、重要な転機となり得る。しかし、現在の緊張の高まりや日本国内の政治環境の変化を踏まえれば、そうした会談を実現することは、2014年よりも難しくなるかもしれない。
中国は、高市氏に台湾をめぐる発言を撤回するよう繰り返し求めてきた。日本の現在の政治状況を考えれば、撤回は見込みにくい。とはいえ、外交的な打開の余地が完全に失われたわけではない。注目すべきは、中国外交部の報道官が日本に対し、台湾に関する従来の立場を「誠実に、正確に、完全に表明する」よう繰り返し求めていることである。これは、意味のある対話を再開するための一つの前提条件を示唆している可能性がある。
それでも、双方に関係を安定させる意思があるなら、打開の機会はなお残されている。非政府間の交流チャンネルを広げることは、建設的な役割を果たし得る。感情的な言説に支配されるのではなく、国境を越えて、より均衡の取れた理性的な声が届く環境を整える必要がある。
しかし現時点では、相互認識は否定的なフィードバックの連鎖にますます左右されている。中国側では、政府が発出した渡航・留学に関する注意喚起が、日本を訪問したり日本で学んだりしようとする国民の意欲に大きな影響を及ぼしている。これは「政府主導型」の制約と呼べる。一方、日本側では、中国の否定的側面を強調するメディア報道が世論を左右し、中国との関わりをためらわせている。こうした動きは、メディア間競争の商業的論理を反映した「市場主導型」の制約と理解できる。
指導者レベルでは、東京は対話に前向きな姿勢を示し続けているものの、具体的な意思表示はなお限られている。たとえば、エマニュエル・マクロン仏大統領は以前、中国首脳をG7サミットに招待する意向を示していたが、日本はこれに懸念を表明した。最終的に、マクロン氏の訪日時にフランス政府は、中国首脳を招待しない方針を示した。しかし、日本が懸念を示すのではなく、むしろ招待を積極的に支持し、中国側も応じていれば、日中間のハイレベル接触の機会をつくり出せた可能性もある。
同様に、中国大使館で発生した自衛隊員による事件についても、高市首相と小泉進次郎防衛相は、迅速かつ実質的な対応を示さなかった。小泉氏は数日後、この事件について単に「遺憾」と述べるにとどまった。こうした抑制的な反応は、緊張緩和を意図したものだったのかもしれないが、同時に、危機を外交関係の立て直しにつなげる可能性を狭めるものでもある。

王広濤(ワン・グアンタオ)は、中国・復旦大学日本研究センターの准教授。専門は、日本の国内政治と外交政策、日中関係、東アジア国際関係である。近年の主な論文に、International Affairs誌に掲載された「Bridging the Gap between International Relations and Area Studies」(2026年)および、The Journal of Contemporary China誌に掲載された「China’s Political Discourse on the Diaoyu/Senkaku Islands」(2026年)がある。また、日本政治、安全保障問題、日中関係について、国際メディアにも論評を寄稿している。
INPS Japan
Original URL: https://toda.org/global-outlooks/china-japan-relations-in-a-new-normal-insights-from-china/
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