SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)|タイ|障害者でも簡単に利用できる教育へ

|タイ|障害者でも簡単に利用できる教育へ

【バンコクIDN=パッタマ・ビライラート】

質の良い教育と不平等の削減は「持続可能な開発目標」(SDGs)の一部をなしている。タイの全人口の3.3%が「障害者」とされているが、スコータイ・タマシラート放送大学(STOU)は、高等教育の領域において取り残されかねない人々に対して新たな命を吹き込む革新的な事業を行っている。

タイには推定210万人の障害者がおり、障害者エンパワーメント局によるとその4割に当たる85万5025人が労働年齢(15~59歳)であるという。

SDGs Goal NO.10
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障害者の78%が障害者IDカードをもち、政府からの支援を受けることができる。しかし、国家経済社会開発評議会によると、障害者のうち46万3000人が、働くことができるにも関わらず職業上の資格を持っていないという。

障害者エンパワーメント局の最新の報告書によると、障害者の大半は農業部門で働いており(全体の54%)、次に一般労働(23%)、官民いずれかの従業員(6%)が続く。

IDカードを持つ障害者には毎月800バーツ(21米ドル)の手当が支給され、「障害者基金」から最大12万バーツ(3158米ドル)の資金貸与を受けることができる。また、障害者エンパワーメント局のセンターで無料の職業訓練を受けることができ、技術・施設・メディア・教育支援サービスなど初等教育から高等教育レベルまで無償で受けることができる。

STOUコミュニケーション・アート学部のシラファット・イアムニルン学部長によれば、同学部は、視覚障害、聴覚障害、身体障害、精神障害、知的障害、学習障害、スペクトラム障害、重複傷害の8つの分野において教育を提供しているという。

「2020年には30人の障害者が卒業しました。現在、STOUには500人の障害者がいて、これはタイの大学では最大の数です。加えて、本大学で学んでいる間に全ての科目で『優』を取ると、奨学金を得ることができます。」とイアムニルン学部長は指摘した。

障害者は法律に従って無償教育を受けることができる。STOUのコミュニケーション・開発知識管理研究センターのセンター長、カモルラート・インタラタート博士は、「STOUは障害者の支援サービスを確立しています。」と語った。

Dr Kamolrat (left) Dr Thiraphat (right)

「学生が質の高い教育を受け卒業できるよう学習方法を提供することが、私たちの長年のモットーです。コロナ禍は、人々がよりデジタルに精通するための積極的な後押しとして登場しました。そこで、今年(2022年)、私たちはSTOUモジュールプログラムを開始しました。」とインタラタート氏はIDNの取材に対して語った。

このいわゆる「ピープル・アカデミー」プログラムは、誰もがオンラインで学習し、STOUが自分の資格や職業に最適なように調整した学位や証明書を取得することができる。」

STOUのコミュニケーション・アート学部で2022年に始まったばかりの「ピープル・アカデミー」は、「クレジットバンク」のしくみになっている点で旧来型の教育と異なっている。

「クレジットバンク」とは、学生が単位や能力を貯めておいて、それをのちにSTOUの教育制度のなかに移行できるというものだ。学生が一つのモジュールを受講すれば3単位相当とする。1単位当たり15学習時間が必要だ。

学生は、そうした「クレジット」を貯めることができるように、読み書きができることだけが履修の条件となっている。「小学校から大学院レベルまで、学生のレベルに合わせて調整することができる。『タイ職業資格研究所』や職業大学校、『タイ大規模オープンオンラインコース』(MOOC)などのネットワークとともに、学位を移行することができる(MOOCとは、ある授業を受講したい全ての学生に対して、出席制限なしにオンラインで学習コンテンツを提供するモデルのこと)。また、クレジットをSTOUに移行することもできます。」とカモルラート博士は説明した。

「私たちには大きなネットワークがあります。公的機関や民間企業とも取引をしており、『障害者のためのレデンプトール財団』も活発なネットワークの一つです。」

シラファット博士は、「ピープル・アカデミー」は、STOU教育システムの既存の遠隔学習から発展したものだと語った。「学部課程では、自習、自習付きオンラインチュートリアル、混合学習(自習、オンラインチュートリアルとオンライン演習)の3種類の学習方法があります」とし、「この学習方法はコロナ禍以前から発展してきたもので、奇しくもコロナ禍がこのしくみを一層向上させ拡大する大きな契機となった。」と指摘した。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

「私達のコースの学費は高くない。学生はどの場所からでも満足感をもって勉強することができる。個人的には、ポストコロナの時代においては学生が教室に来て講師の話を聞く必要はなくなると思っている。オンラインで学位を取ることが可能だ」とシラファット博士は語った。

彼は「ピープル・アカデミー」モデルは障害者にも適切だと述べた。「日常生活において彼らは移動に困難を抱えている。私達には電話相談センターとアプリケーション『SISA』があり、障害者でもスマホで簡単にダウンロードできる。また、オープンチャットのしくみもある。障害者たちは頭がよくICTも使いこなすから、実に多くの人たちがオンラインを利用している。私達は、彼らのデジタルコミュニケーションの能力に見合うように学位や資格証明取得のあり方を調整してきている。」

STOUは、学生は自分の将来の職業や情熱に合ったコースを選択することができる、と強調する。「これは、学生が4年間勉強のみに専念する必要がないという、教育の新しい流れでだ。」とカモルラート博士は語った。「『ピープル・アカデミー』は幸福と能力を基礎に登場してきたものだ。我々の教育は生涯を通じてつづくものであり、学生がその気になった際に学習することができる」。

STOUは、障害者がしばしば学習でつまずくことがある事実を認識している。障害者は、自らが望む時にこのプログラムで学ぶことができる。教育の機会はすぐ目の前に与えられている。現在、放送大学は、タイ職業資格研究所のようなパートナー機関と、障害者の学生に対して専門的な資格証明を提供する方法論について議論している。

Map of Thailand
Map of Thailand

高等教育・科学・研究・イノベーション省は、タイの「国家20年計画」に沿って、「全国クレジットバンクシステム」(NCBS)の導入に向けてスタートアップ企業と協力し始めている。NSCBは、すべての年齢層を対象に能力開発を支援することで生涯学習を促進することになっている。このしくみが導入されれば、学生の立場にない学習者たちもまた、さまざまなテーマやコース、職務経験から得た学習成果を、全国クレジットバンクに貯める単位に変えることができる。

学習者らは、NSCBに十分な単位を貯めたら、タイの高等教育機関に対して学位を申請することができる。政府のラチャダ・タナディレク副報道官は、今後2年以内に公立・私立の約150大学がNCBSに参加する予定だと語った。

「『ピープル・アカデミー』は、デジタル時代の最中において教育を促進することに力を入れる『国家20年計画』と連携している。教育は生涯にわたる学習となり、もし自分が何かを学ぼうと思ったら、自分のクレジットバンクに何単位残っているかを確認して、仕事をしながらでも学習を続けることができる。」とカモルラート博士は指摘した。(原文へ

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