【国連IPS=ハイダー・リツヴィ】
米国の核政策に関する独立の専門家らが、核兵器予算を増やす国防総省(ペンタゴン)の計画は軍縮に向けた世界の努力に深刻な悪影響を及ぼす、と警告している。
核時代平和財団のデイビッド・クリーガー会長は、米軍が核兵器維持に予算の増額を求めていることに関して、「これは明らかに核軍縮義務に直接抵触します。」と語った。
報道によれば、米軍は、今後10年間にわたって核兵器とその運搬手段を「近代化」するために、2130億ドルを承認するよう米議会に求めている。しかもこの要求額は、年間540億ドルにのぼる核兵器システムの維持費に上乗せするものである。
予算増額分のほとんどが、新型の無人機、潜水艦、大陸間弾道ミサイル、及び新世代核兵器製造のインフラに投資されると専門家は見ている。
議会は現在、来年度予算のカットを審議している。現在のところ、議員の多数とバラク・オバマ政権が新型核兵器システム開発の意義を疑っている様子はない。
オバマ大統領は、2009年1月に政権をとって以来、世界的な核軍縮の大義を謳う演説を行っているが、実際には、歴代の前任者と同じく、国内外における完全なる核兵器廃絶の時限を設定していない。
「オバマ大統領は核軍縮について口当たりのいいことは言っていますが、明らかに、核兵器の近代化に2000億ドル以上を使うことに同意しているのです。」とクリーガー氏は語った。
またクリーガー氏は、いわゆる「新型」核兵器計画には、核兵器を搭載した無人機も含まれていることを指摘した。
「これは紛れもなく長距離殺人兵器です。核兵器を搭載した無人機など間違っています。これは核のカオスへの招待状となるでしょう。」とクリーガー氏は付け加えた。クリーガー氏は、こうなると、核兵器を所有や核兵器開発計画を疑われている国々は、今後ますます頑なになるのではないかと懸念を抱いている。
米国の核兵器サークルは、10年以上にわたって、イランと北朝鮮を敵視し続けてきた。イランは核兵器開発を進めようとし、北朝鮮は核兵器保有を宣言した、という言い分である。しかし、米国自らがその膨大な核兵器をいつ廃棄する用意があるのかについては、明確なシグナルを与えてこなかった。
世界の8つの主要な軍縮団体の横断組織である「中堅国家構想」(MPI)の傘下団体である核時代平和財団は、核不拡散と完全軍縮に向けた国連主導のプロセスを加速するようロビー活動を続けている。
MPIは、「検証可能、不可逆的で、実行可能な、核兵器の法的禁止」を主唱し、国連の潘基文事務総長による核軍縮に関する五項目提案について緊急の行動を求めている。潘事務総長は、「相互に補強しあうような」枠組み合意、すなわち核兵器禁止条約の策定を呼びかけていた。
MPIのリチャード・バトラー議長は、先週IPSに送付された声明において、「核兵器廃絶を求める政府と市民の切なる願いは、実際的な行動です。核兵器が存在し続けることは、すべての人々にとっての脅威であり、受け入れがたいリスクなのです。」と述べた。
MPIは、核兵器国が自国の核兵器削減の義務を受諾した核不拡散条約(NPT)第6条の履行を支持するよう、世界の外交官らに求めてロビー活動をつづけている。
オーストラリアで長く外交官の職にあり、国連の核兵器査察官も勤めたバトラー氏は、先週、NPTでの合意履行を求めるMPIのプロジェクトの一環として、国連で各国政府にブリーフィングを行った。
バトラー氏が先週ニューヨークの国連本部で他の外交官らと軍縮行動に関する協議に備える一方で、MPIの創設者であるカナダのダグラス・ロウチ上院議員は、同じ目的での世界ツアーを開始した。
ノーベル賞にノミネートされたこともあるロウチ氏は、欧州、ロシア、中国、インドへの歴訪の前に発表した声明の中で、地雷とクラスター弾が、「その継続的使用が人間に及ぼす影響についての理解が人々の間に浸透した結果」、条約で禁止されることになった点を強調した。
さらにロウチ氏は、「いまや、同じように、核兵器の使用だけではなく、使用の威嚇、保有、拡散もまた、人間への脅威になるという認識が出てきているのです。」と語った。
一方クリーガー氏は、ロウチ氏の核軍縮・平和に対する努力を賞賛しつつ、同時に、米議会とオバマ政権が今後取るかもしれない行動の帰結について憂慮している。
「米国が世界を支配し続けようとするならば、これは大変な問題です。」とクリーガー氏は語った。クリーガー氏は、ワシントンの政策立案者たちは、米国の安全保障は軍事予算の拡大によってではなく、その大幅削減によって確保できることを認識すべきだとみている。
「核兵器(への予算を)増やすことは、米国は核軍縮に熱心でないというメッセージを世界に送ることになるのです。」とクリーガー氏は結論付けた。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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