ニュース政治が核実験禁止への努力を曇らせる

政治が核実験禁止への努力を曇らせる


【国連IPS=エリザベス・ウィットマン】

ソビエト社会主義共和国連邦は、1949年8月29日、東カザフスタンのセミパラチンスクにおいて、その後456回に亘った核実験の第一回実験を行った。セミパラチンスク核実験場は、ソビエト時代に行われた全ての核実験の3分の2以上が行われたところで、地域住民に核実験が及ぼす影響について警告がなされることはなかった。

核実験場は1991年8月29日に閉鎖されたが、この地域は今日に至るまで、40年に亘った核実験がもたらした深刻な健康・環境被害の影響に苛まれている。

セミパラチンスク核実験場閉鎖20周年と2回目となる「核実験に反対する国際デー」(8月29日)を記念して、世界の指導者と国連関係者が集い、ハイレベルワークショップ(9月1日)及び非公式総会(9月2日)において、核実験の問題が協議された。

 これらの会合では、実に幅広い見解や概念が披露されたが、そこで明らかになったと思われるコンセンサスは僅か1点のみであった。すなわち、世界の核兵器を廃絶するための努力はもとより、核実験を禁止するための努力も、各国の政治的な含みや動機によって、今後の見通しが曇らされているという事実である。

核兵器保有国は、国際関係・安全保障の分野における自国の地位と影響力を保持するために、引き続き核戦力に依存している。また、国際政治における駆け引きが、核実験が人類及び環境に深刻な危険を及ぼし、核兵器が地球を破壊する能力を備えているという事実を覆い隠している。

例えば、セミパラチンスクにおける死亡率は極端に高く、癌を引き起こす疾病の発生率は危機的なレベルである。また深刻な先天性的欠損症もこの地域では一般的で、精神遅滞を伴う症例も平均の3倍から5倍の確率で発生している。そうしたことからこの地域の平均余命は50歳に届かないのが現状である。
 
「40年に亘った核実験で汚染された地域に住み続けてきた住民が3世代を経てどのような影響を受けているか、誰も分かりません。」と、セミパラチンスク地域を管轄する東カザフスタン州のエルメク・コシャバーエフ副知事は、IPSの取材に応じて語った。

現地政府は、住民の伝統的な生計の基盤となる農業を支援する努力を続けているが、放射能によって土や水が汚染されている可能性があるため、そうした支援は困難なだけでなく危険を伴うものとなっている。

おそらく核実験がもたらす影響とともに生きることの恐ろしさを人々が身をもって理解しているからこそ、カザフスタンは核実験と核兵器の禁止を全面的に支持し、自らも核兵器を放棄したのだろう。

核不拡散条約(NPT)は、安全保障の概念が核抑止理論-核兵器を保有していれば攻撃を受けないとする理論-によって推進されていた冷戦の最中である1970年に発効した。

今日、核保有5カ国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)を含む189カ国がNPTに加盟している。インド、パキスタン、イスラエルの3か国はNPTに加盟していないが、インドとパキスタンは核兵器の保有を宣言している。一方、イスラエルは核兵器の保有を公式に認めていないが、保有していると広く考えられている。また、北朝鮮は2003年にNPTから脱退している。

包括的核実験禁止条約(CTBT)は1996年に国連総会で採択されたが、未だ発効していないことから、今回の会合ではCTBTを発効させ義務を実行に移すことの重要性が訴えられた。

ジョセフ・ダイス第65回国連総会議長は1日に開催されたハイレベルワークショップにおいて、「現在大半の国々が尊重している核実験モラトリアムは、CTBTの完全履行の代わりにはなりえないのです。」と語った。

同ワークショップの参加者たちは、特に世界の大半の国が核実験はもはや有効ではないという点に合意していることから、CTBTの実施は既に機が熟しており、世界的な核軍縮に向けた決定的ステップとなる点を指摘した。この点について、アニカ・サンボーグ包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会事務局長代理は、「むしろ核実験という選択の自由を残しておくことが各国にとって(実質的な抑止力というよりも)ステータスシンボルになってしまっているのです。」と語った。

ワークショップの参加者は、核軍縮や核実験禁止へのコミットメントを議論するうちに、しばしば交渉の焦点が核兵器そのものよりも、各国の政治権力を巡るせめぎ合いになってしまっている点を指摘した。意見発表を行った数名の参加者は、おそらく議論の焦点であるはずの兵器は象徴的な存在にすぎないため、核不拡散体制の進展を望まない国々は、進展を阻止できる点を示唆した。

核不拡散と核実験禁止協議にまつわるもう一つの問題点は、核兵器保有の是非について、誰が保有しても核兵器自体が本来的に危険な存在であるという認識よりは、むしろ保有する国が良い国か悪い国かに分類して判断してしまう先入観である。

2010年NPT運用検討会議で議長を務めたリブラン・カバクチュラン氏は、9月1日のワークショップにおいて、将来における核兵器使用者は国家よりもむしろ非国家の行動者になる可能性が高く、こうした勢力には核兵器で報復すべき所在地が存在しない事実を指摘し、「核抑止論は実際には機能しません。」と語った。

全体として、数多くの前提条件や政治的懸念が、核実験禁止や核軍縮に向けた具体的な進展や生産的な議論を妨げてきたのは明らかな事実である。

9月2日の非公式総会で、イランのEshagh Al Habib国連大使は、名指しは避けたもののイスラエルに対して、「速やかに全ての核施設を国際原子力機関(IAEA)による包括的保障措置下に置くよう」強く求めた。しかしイラン自身もIAEAの査察に協力していないとして非難に晒されている。

IAEAは原子力が平和的な目的のみに使われるよう保証する任務を担った国際機関である。

また同非公式総会で、モンゴルのEnkhtsetseg Ochir国連大使は、「人々の健康と福祉よりも軍事的・政治的配慮の方が重要なのでしょうか?」という問いを投げかけ、続いて「そんなことは決してないはずです。」と強く断言した。

しかし今のところ、核実験禁止に向けた取り組みの中で、そうした軍事的・政治的配慮が最優先されているのが現状である。こうした各国の行動指針が将来変化するかどうかは、時が経ってみないとわからない。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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